JP4385960B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
現行使用されている方向性電磁鋼板の板厚は0.20mm以上がほとんどであるので、通常の製品を、上記したような表面エネルギーを使用する方法で得ることは困難である。
上述したとおり、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得るためには、最終仕上焼鈍の雰囲気としては不活性ガスや水素が用いられ、さらに推奨される条件としては真空とすることが求められるが、高温と真空の両立は設備的には困難でありコスト高となる。
すなわち、スラブにインヒビターを含有させずに二次再結晶を生じさせ、かつ二次再結晶粒のゴス方位への先鋭性を高める技術について、鋭意研究を進めた結果、主に不純物の含有量を抑制することにより、スラブにインヒビターを含有させなくても、安定して二次再結晶を発現させ得ることを見出すに至った。
この技術によれば、インヒビター成分を必要としないことから、インヒビター成分の固溶を意図した高温スラブ加熱は不要となり、スラブ加熱温度の低下が実現される。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、インヒビターを含有させずに二次再結晶を生じさせて方向性電磁鋼板とする場合に、安定して二次再結晶を発現させることにより、ばらつきのない優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を有利に製造することができる方法を提案することを目的とする。
従来の1300℃程度以上の高温加熱と、本発明における1250℃以下のスラブ低温加熱における大きな相違点として、加熱後の相が、従来のスラブ高温加熱ではα単相になるのに対し、本発明におけるスラブ低温加熱ではα相とγ相の2相共存状態となることが挙げられる。
そして、本発明では、インヒビターを含有しないため、熱間圧延板の結晶粒の粗大化を防止するためには、γ相の働きが極めて重要になると考えられる。
そこで、発明者らは、この不均一性がどの程度であるのかを次の実験で調査した。
その結果、複数の小さな50μm程度の黒色部の集団からなる直径:2mm程度の領域が複数観察された。ここで、小さな50μm程度の黒色部は、カーバイトであり、これらカーバイトを含む直径:2mm程度の領域は、均熱時においてγ相であった領域と考えられる。すなわち、均熱終了時には、直径が2mm程度のγ相が、α相中に存在したと考えられ、γ相に起因する不均一性は2mm程度の長さで存在すると考えられる。
なお、拡散係数Dは、改訂4版金属データブック(丸善株式会社,2004年)の前指数項と活性化エネルギーを用いて計算した。
すなわち、発明者らは、特に主要成分であるSiが、上記のような濃度分配の不完全な非平衡状態にあって、しかもその程度がスラブ内で不均一となっている状態にあるものと推測した。
以下に 、実験の詳細について述べる。
その後、MgOにTiO2を5mass%添加した焼鈍分離剤を、鋼板の両面に、片面の塗布量を8g/m2として塗布し、最終仕上焼鈍として、N2ガス中で850℃に48時間保持した後、900℃まで5℃/hの速度で昇温し、雰囲気ガスをN2ガスからH2ガスに変更し、25℃/hの速度で1150℃まで昇温し、1190℃で8時間保持したのち、600℃までH2ガス中で降温し、600℃からはArガス中で降温した。
ついで、未反応の焼鈍分離剤を除去したのち、固形分比率で50mass%のコロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウム溶液を張力コーティング液として塗布したのち、840℃で30秒間焼き付けて製品板とした。
同図から明らかなように、850℃から1100℃間の平均速度を450℃/h以下とした場合には磁気特性が良好で、またばらつきが小さい。特に熱間圧延に先立ち、幅圧下を施した場合には、さらに磁気特性は良好で、ばらつきも小さいことが判明した。
本発明は、インヒビターを含有していないので、圧下によりインヒビターの析出状態が影響したとは考えられない。従って、結晶粒あるいはγ相の状態が幅圧下により変化したと考えられる。また、昇温速度を遅くして、幅圧下を施した場合に特に磁気特性が改善されたことから、γ相の状態が変化したものと考えられる。
すなわち、幅圧下とそれに続く水平圧下によりスラブ中の固溶元素の拡散が速くなり、Si等の元素がα相とγ相で十分に分配されるのが促進され、その結果安定性が増したものと考えられる。ここで、スラブの圧下が水平圧下だけで変形の方向が同じ場合には、この効果は十分には現れないものと推測される。
本発明は、上記した知見に基づき、完成されたものである。
(1)C:0.020〜0.080mass%、Si:2.0〜8.0mass%、Mn:0.005〜3.0mass%を含み、sol.Alを0.0120mass%未満、S, Seをそれぞれ0.0040mass%未満、Nを0.0060mass%未満に低減し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるスラブを、スラブ加熱後、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、脱炭焼鈍し、その後焼鈍分離剤を適用して最終仕上焼鈍を施すことによって方向性電磁鋼板を製造するに際し、
上記スラブ加熱において、スラブの表面温度が850〜1100℃間の昇温速度を 100〜450℃/hとして1100℃まで加熱し、ついで1100〜1250℃の間で10〜120分間の均熱処理を施し、均熱直後α相とγ相の2相からなるスラブを炉から抽出して、熱間圧延を開始することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
まず、本発明において、スラブの成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.020〜0.080mass%
C量が、0.080mass%を超えると、脱炭焼鈍時に磁気時効の起こらない0.0050mass%未満まで低減するのが困難になるので、C量は0.080mass%以下に限定される。一方、スラブ加熱後、α相とγ相の2相共存状態とするためには、Cは0.020mass%以上必要である。
Siは、鋼板の比抵抗を高め、鉄損を低減するのに有効な成分であるが、含有量が8.0mass%を超えると冷延性が損なわれ、一方2.0mass%未満では比抵抗が低下するだけでなく、最終仕上焼鈍中にα→γ変態によって結晶方位のランダム化を生じ、十分な鉄損低減効果が得られない。このためSi量は2.0〜8.0mass%の範囲とする。
Mnは、熱間加工性を良好にするために必要な元素であるが、含有量が0.005mass%未満ではその添加効果に乏しく、一方3.0mass%を超えると磁束密度が低下するので、Mn量は 0.005〜3.0mass%の範囲とする。
Alは、過剰に存在すると二次再結晶が困難となる。特にsol.Alが0.0120mass%以上になると二次再結晶が生じ難くなり、磁気特性が劣化するため、sol.Alは0.0120mass%未満に抑制する必要がある。
SおよびSeはそれぞれ、0.0040mass%以上で存在すると、二次再結晶が困難となる。これは、スラブ加熱により粗大化したMnS,MnSeが一次再結晶組織を不均一にするためである。従って、SおよびSeの含有量は、それぞれ0.0040mass%未満に抑制する必要がある。
Nも、SやSeと同様、過剰に存在すると、二次再結晶が困難となる。特にNが0.0060mass%以上では、二次再結晶が生じ難くなり、磁気特性が劣化するので、0.0060mass%未満に抑制する必要がある。
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる上で有用な元素である。しかしながら、含有量が0.01mass%未満では磁気特性の向上量が小さく、一方1.50mass%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Niは0.01〜1.50mass%の範囲で含有させることが好ましい。
Cuは、最終仕上焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して、磁気特性を向上させる有用元素である。そのためには、0.01mass%以上含有させることが望ましい。一方、Cuを0.50mass%を超えて含有されると、熱間圧延性が劣化するため、Cuは0.50mass%を上限として含有させることが望ましい。
Snは、最終仕上焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して、磁気特性を向上させる有用元素である。そのためには、0.005mass%以上含有させることが望ましい。一方、Snが0.50mass%を超えて含有されると、冷間圧延性が劣化するため、Snは0.50mass%を上限として含有させることが望ましい。
Sbは、最終仕上焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して、磁気特性を向上させる有用元素である。そのためには、0.005mass%以上含有させることが望ましい。一方、Sbが0.50mass%を超えて含有されると、冷間圧延性が劣化するため、Sbは0.50mass%を上限として含有させることが望ましい。
Pは、フォルステライト被膜の形成を安定化させる働きがあり、そのためには0.005mass%以上含有させることが望ましい。一方、Pが0.50mass%を超えて含有されると、冷間圧延性が劣化するので、Pは0.50mass%を上限として含有させることが望ましい。
Crは、フォルステライト被膜の形成を安定化させる働きがあり、そのためには0.01mass%以上含有させることが望ましい。一方、Crが1.50mass%を超えて含有されると、二次再結晶が困難となり、磁気特性が劣化するので、Crは1.50mass%を上限として含有させることが望ましい。
上記の好適成分組成範囲に調整したスラブを、通常の造塊法、連続鋳造法で製造する。また、100 mm以下の厚さの薄鋳片を直接鋳造法で製造してもよい。
すなわち、本発明では、スラブ加熱時の850℃から1100℃までの間の昇温速度を100℃/h以上、450℃/h以下とすることが肝要である。昇温速度を450℃/h以下としたのは、スラブをより熱力学的平衡状態に近づけ、安定な状態にし、製品板の磁気特性を良好とするためである。昇温速度の下限は、特性上は特に規定する必要はないが、100℃/h 未満だと加熱する時間が長くなり、工業的生産には不利であるので、下限を100℃/hとした。より好ましい昇温速度は200〜400℃/hの範囲である。
ここで、昇温速度は平均速度を指す。すなわち、スラブの表面温度が850℃に達した時刻をT850、1100℃に達した時刻をT1100とした場合、昇温速度は250℃÷(T1100−T850)で算出することとする。
また、スラブ加熱は、ガス燃焼炉または電気式加熱炉、あるいはこれら両方を用いてもよい。
ここに、幅圧下を行うべき好適温度は1100℃以上、好適圧下率は5〜15%である。
最終仕上焼鈍後は、平坦化焼鈍により形状を矯正する。
さらに、鉄損改善のためには、鋼板表面に張力を付与する絶縁コーティングを施すことが有効である。
C:0.05mass%、Si:3.5mass%、Mn:0.06mass%、sol.Al:0.0040mass%、N:0.0040mass%、S:0.0020mass%およびSe:0.0002mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる厚さ:220mm、幅:1200mmのスラブを、連続鋳造法により製造した。
これらのスラブを、表1に示す条件で、ガス燃焼炉で加熱した後、一部のスラブについては1120℃で幅圧下を実施した。その後、粗圧延により厚さ:45mmのシートバーとし、引き続き仕上圧延を行って2.3mm厚の熱延板とし、コイルに巻き取った。
ついで、これらすべての熱延板に1000℃、30秒間の焼鈍を施し、35℃/sの速度で急冷した後、酸洗し、その後冷間圧延により0.28mm厚に仕上げた。
ついで、脱脂処理後、露点:60℃、水素濃度:50vol%、窒素濃度:50vol%の雰囲気中にて、840℃, 2分間の脱炭焼鈍を施した。
上記の最終仕上焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去したのち、固形分比率で50mass%のコロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウム溶液を張力コーティング液として塗布し、840℃で30秒間焼き付けて、製品板とした。なお、製品板は、各条件で約10tonのコイルを2個製造した。
各条件で6点測定した磁束密度B8の最大値、最小値および平均値を表1に示す。
表2示す成分を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる厚さ:210mm、幅:1300mmのスラブを、連続鋳造法により製造した。
これらのスラブをガス燃焼炉で、スラブ表面温度が500℃から850℃まで平均速度:500℃/hで昇温し、850℃から1100℃まで平均速度:200℃/hで昇温したのち、1100℃から1250℃の範囲で60分間の均熱処理を施した。なお、この均熱処理において時間的に平均した温度は1200℃であった。
ついで、1150℃で幅圧下を実施した後、粗圧延により厚さ:40mmのシートバーとし、引き続き仕上げ圧延により2.1mm厚の熱延板としたのち、コイルに巻き取った。
その後、これらすべての熱延板に1030℃、30秒間の焼鈍を施したのち、40℃/sの速度で急冷し、酸洗後、冷間圧延により0.30mm厚に仕上げた。
その後、MgOにTiO2を3mass%添加した焼鈍分離剤を、鋼板の両面に、片面の塗布量を7g/m2として塗布したのち、最終仕上焼鈍として、N2ガス中で870℃に40時間保持後、900℃まで5℃/hの速度で昇温し、雰囲気ガスをN2ガスからH2ガスに変更し、20℃/hの速度で1180℃まで昇温し、引き続き1180℃で8時間保持した後、600℃までH2ガス中で降温し、600℃からはArガス中で降温する、焼鈍処理を施した。
上記の最終仕上焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去したのち、固形分比率で50mass%のコロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウム溶液を張力コーティング液として塗布し、840℃で30秒間焼き付けて、製品板とした。なお、製品板は、各条件で約10tonのコイルを2個製造した。
各条件で6点測定した磁束密度B8の最大値、最小値および平均値を表2に示す。
Claims (3)
- C:0.020〜0.080mass%、Si:2.0〜8.0mass%、Mn:0.005〜3.0mass%を含み、sol.Alを0.0120mass%未満、S, Seをそれぞれ0.0040mass%未満、Nを0.0060mass%未満に低減し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるスラブを、スラブ加熱後、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、脱炭焼鈍し、その後焼鈍分離剤を適用して最終仕上焼鈍を施すことによって方向性電磁鋼板を製造するに際し、
上記スラブ加熱において、スラブの表面温度が850〜1100℃間の昇温速度を 100〜450℃/hとして1100℃まで加熱し、ついで1100〜1250℃の間で10〜120分間の均熱処理を施し、均熱直後α相とγ相の2相からなるスラブを炉から抽出して、熱間圧延を開始することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 前記炉からスラブを抽出した後、スラブの表面温度が1000℃以上の温度域で圧下率:5%以上の幅圧下を施してから、熱間圧延における水平圧下を開始することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記スラブが、さらに、Ni:0.01〜1.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、Sn:0.005〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、P:0.005〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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