JP4258157B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器の鉄心などに使用して好適な磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板の製造に際しては、インヒビターと呼ばれる析出物を使用して、最終仕上焼鈍中にゴス方位粒と呼ばれる{110}<001>方位粒を優先的に二次再結晶させることが、一般的な技術として使用されている。
例えば、特公昭40−15644 号公報には、インヒビターとしてAlN,MnSを使用する方法が、また特公昭51−13469 号公報には、インヒビターとしてMnS, MnSeを使用する方法が開示され、いずれも工業的に実用化されている。
これらとは別に、CuSeとBNを添加する技術が特公昭58−42244 号公報に、またTi,Zr,V等の窒化物を使用する方法が特公昭46−40855 号公報に開示されている。
【0003】
これらのインヒビターを用いる方法は、安定して二次再結晶粒を発達させるのに有用な方法であるが、析出物を微細に分散させなければならないので、熱延前のスラブ加熱を1300℃以上の高温で行うことが必要とされる。
しかしながら、スラブの高温加熱は、設備コストが嵩むことの他、熱間圧延時に生成するスケール量も増大することから歩留りが低下し、また設備のメンテナンスが煩雑になる等の問題がある。
【0004】
これに対して、インヒビターを使用しないで方向性電磁鋼板を製造する方法が、特開昭64−55339 号、特開平2−57635 号、特開平7−76732 号および特開平7−197126号各公報に開示されている。これらの技術に共通していることは、表面エネルギーを駆動力として{110}面を優先的に成長させることを意図していることである。
表面エネルギーを有効に利用するには、表面の寄与を大きくするために板厚を薄くすることが必然的に要求される。例えば、特開昭64−55339 号公報に開示の技術では板厚が 0.2mm以下に、また特開平2−57635 号公報に開示の技術では板厚が0.15mm以下に、それぞれ制限されている。
しかしながら、現在使用されている方向性電磁鋼板の板厚は0.20mm以上がほとんどであるため、上記したような表面エネルギーを利用した方法で磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することは難しい。
【0005】
ここに、表面エネルギーを利用するためには、表面酸化物の生成を抑制した状態で高温の最終仕上焼鈍を行わなければならない。例えば、特開昭64−55339 号公報に開示の技術では、1180℃以上の温度で、しかも焼鈍雰囲気として、真空または不活性ガス、あるいは水素ガスまたは水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを使用することが記載されている。
また、特開平2−57635 号公報に開示の技術では、950 〜1100℃の温度で、不活性ガス雰囲気あるいは水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスの混合雰囲気で、しかもこれらを減圧することが推奨されている。さらに、特開平7−197126号公報に開示の技術では、1000〜1300℃の温度で酸素分圧が0.5 Pa以下の非酸化性雰囲気中または真空中で最終仕上焼鈍を行うことが記載されている。
【0006】
このように、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得ようとすると、最終仕上焼鈍の雰囲気は不活性ガスや水素が必要とされ、また推奨される条件として真空とすることが要求されるけれども、高温と真空の両立は設備的には極めて難しく、またコスト高ともなる。
【0007】
また、表面エネルギーを利用した場合には、原理的には{110}面の選択のみが可能であるにすぎず、圧延方向に<001>方向が揃ったゴス粒の成長が選択されるわけではない。
方向性電磁鋼板は、圧延方向に磁化容易軸<001>を揃えてこそ磁気特性が向上するので、{110}面の選択のみでは原理的に良好な磁気特性は得られない。そのため、表面エネルギーを利用する方法で良好な磁気特性を得ることができる圧延条件や焼鈍条件は極めて限られたものとなり、その結果、得られる磁気特性は不安定とならざるを得ない。
【0008】
さらに、表面エネルギーを利用する方法では、表面酸化層の形成を抑制して最終仕上焼鈍を行わねばならず、たとえばMgO のような焼鈍分離剤を塗布焼鈍することができないので、最終仕上焼鈍後に通常の方向性電磁鋼板と同様な酸化物被膜を形成することはできない。例えば、フォルステライト被膜は、焼鈍分離剤としてMgO を主成分として塗布した時に形成される被膜であるが、この被膜は鋼板表面に張力を与えるだけでなく、フォルステライト被膜の上にさらに塗布焼き付けるリン酸塩を主体とする絶縁張力コーティングの密着性を確保する機能を担っている。従って、フォルステライト被膜の無い場合には鉄損は大幅に劣化する。
【0009】
その他にも、インヒビター成分を使用しないで、熱延圧下率を30%以上、熱延板厚を 1.5mm以下とすることによって二次再結晶させる技術が、特開平11−61263 号公報で提案されているが、この技術で得られるゴス方位の集積度は、従来のインヒビターを使用する技術に比較すると、低いものでしかなかった。
【0010】
この点、発明者らは、上記したような、熱延前の高温スラブ加熱に付随する問題点を回避したインヒビターを使用しない製造技術であって、しかもインヒビターを使用せず、表面エネルギーを利用する方法に必然的に付随する、鋼板板厚が限定されること、二次再結晶方位の集積が劣ること、そして表面酸化被膜がないために鉄損が劣ること、という問題点をも解決した、方向性電磁鋼板の新規な製造技術を開発し、特開2000−129356号公報において提案した。
【0011】
この技術は、インヒビター成分を含有しない素材を用いて、ゴス方位結晶粒を二次再結晶により発達させる技術であり、一次再結晶後の集合組織を制御することによって二次再結晶を発現させるという思想に立脚したものである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記特開2000−129356号公報に開示した方向性電磁鋼板の製造技術の改良に係り、一次再結晶粒を適正に制御することによって、より安定して磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造しようとするものである。
【0013】
この発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、Alを100ppm未満に低減すると共に、N、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減し、残部 Fe および不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延し、熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、次いで脱炭焼鈍を行った後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上焼鈍を施す、方向性電磁鋼板の製造方法において、
熱間圧延前に行うスラブ加熱温度を1250℃以下とし、熱延板焼鈍前後のC含有量の変化を150ppm以下に抑制し、また脱炭焼鈍時の昇温過程における、600℃から750℃までの温度域での昇温速度を10℃/s以上かつ均熱温度を700〜1000℃とし、脱炭焼鈍後かつ仕上焼鈍前の状態における、一次再結晶粒の平均粒径を10μm以上60μm以下かつ粒径の変動係数を0.4以下に調整することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0014】
(2)上記(1)において、鋼スラブが、さらに、Ni:0.005 〜1.50mass%、Sn:0.01〜0.50mass%、Sb:0.005 〜0.50mass%、Cu:0.01〜1.50mass%、P:0.005 〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%のうちから選んだ少なくとも1種を含有する成分組成を有することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
この発明では、インヒビターを使用しないで二次再結晶を発現させる方法を利用する。
さて、発明者らは、ゴス方位粒が二次再結晶する理由について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを発見し、Acta Material 45巻(1997)1285頁に報告した。
【0016】
すなわち、方向性電磁鋼板の二次再結晶直前の状態である一次再結晶組織を解析し、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(mass%)について調査した結果を、図1に示す。図1において、結晶方位空間はオイラー角(Φ1 、Φ、Φ2 )のΦ2=45°断面を用いて表示しており、ゴス方位など主な方位を模式的に表示してある。
【0017】
図1は、方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における、方位差角20〜45°である粒界の存在頻度を示したものであるが、ゴス方位が最も高い頻度を持つことがわかる。ここに、方位差角20〜45°の粒界は、C .G .Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻(1949)368 頁)によれば、高エネルギー粒界である。この高エネルギー粒界は、粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。 粒界拡散は、粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい高エネルギー粒界のほうが粒界拡散が速い。
【0018】
二次再結晶は、インヒビターと呼ばれる析出物の拡散律速による成長・粗大化に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上焼鈍中に優先的に粗大化が進行するので、ゴス方位となる粒の粒界が優先的にピン止めがはずれて粒界移動を開始し、ゴス方位粒が成長すると考えられる。
【0019】
発明者らは、上記の研究をさらに発展させて、二次再結晶におけるゴス方位粒の優先的成長の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界であるゴス方位粒の粒界と他の粒界との移動速度差を生じさせることにあることを見出した。
従って、この理論に従えば、インヒビターを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、ゴス方位に二次再結晶させることが可能となる。
【0020】
さて、鋼中に存在する不純物元素は、粒界とくに高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界との移動速度に差がなくなっているものと考えられる。
よって、素材を高純度化し、上記のような不純物元素の影響を排除することにより、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、ゴス方位粒に二次再結晶させることが可能になる。
【0021】
さらに、粒界の移動速度差を利用して安定した二次再結晶を可能とするためには、一次再結晶組織をできる限り均一な粒径分布に保つことが肝要である。なぜなら、均一な粒径分布が保たれている場合には、ゴス方位粒以外の結晶粒は粒界移動速度の小さい低エネルギー粒界の頻度が高いために、粒成長が抑制されている状態、すなわちTexture Inhibitionが効果的に発揮され、粒界移動速度が大きい高エネルギー粒界の頻度が最大である、ゴス方位粒の選択的粒成長が促進されて、ゴス方位への二次再結晶が実現するからである。
【0022】
これに対して、粒径分布が一様でない場合には、隣接する結晶粒同士の粒径差を駆動力とする正常粒成長が起こるため、すなわち粒界の移動速度差とは異なる要因で成長可能となる結晶粒が選択されるために、上記したTexture Inhibitionの効果が発揮されずに、ゴス方位粒の選択的粒成長が起こらなくなる。この一次再結晶粒の粒径分布が一様でなくなる原因として、インヒビター成分による粒界移動の局所的な抑制が考えられる。
【0023】
ところが、工業的生産では、インヒビター成分を完全に除去することは困難なので、実際はこれら成分が不可避的に含有されてしまい、さらには熱延時の加熱温度が高い場合、加熱時に固溶した微量不純物としてのインヒビター形成成分が熱延中に不均一に微細析出する。その結果、不均一に分布した析出物により、粒界移動が局所的に抑制されて粒径分布も極めて不均一になり、上記したとおりゴス方位への二次再結晶粒の発達が阻害される。従って、インヒビター形成成分をほぼ皆無な状態にすることが理想的であるが、実用上は、インヒビター形成成分を低減しつつ、熱延時の加熱温度を圧延可能な範囲でできる限り低めに抑えること、具体的には、スラブ加熱温度を1250℃以下にして、不可避的に含まれてしまう微量のインヒビター形成成分の微細析出を回避して無害化するために有効である。
【0024】
さらに、発明者らは、上記のインヒビターを使用しないで二次再結晶を発現させる技術を基本として、さらなる磁気特性の向上を実現する方途について鋭意究明したところ、熱延板焼鈍前後のCの変化量を150ppm以下とし、脱炭焼鈍における600 ℃から750 ℃までの温度域での昇温速度を10℃/s以上にすることにより、仕上焼鈍後の磁気特性が安定化することを新たに見出した。
【0025】
すなわち、一次再結晶粒の粒径分布が一様でなくなる原因としては、上記した以外にも、脱炭焼鈍の際の粒成長速度の不均一になることが考えられる。これは、各々の結晶粒の歪が不均一であることに起因し、歪の大きな粒ほど粒成長が阻害されやすく、歪の小さな粒が速く成長してしまうためである。ところが、熱延板焼鈍前後のCの変化量を150ppm以下とし、脱炭焼鈍における600 ℃から750 ℃までの温度域での昇温速度を10℃/s以上にすると、脱炭焼鈍後の観察の結果、粒径がほぼ等しく整っていることがわかった。これは、歪の違いによらず各々の粒が、ほぼ同時に成長するためと考えられる。
【0026】
ここに、熱間圧延前に行うスラブ加熱温度を1250℃以下とし、熱延板焼鈍前後のCの変化量を150ppm以下とし、脱炭焼鈍における600 ℃から750 ℃までの温度域での昇温速度を10℃/s以上にすることによって、一次再結晶粒の粒径分布が均一化することが、新規に知見されたのである。
【0027】
このようにして一次再結晶粒の粒径を均一化することにより、Texture Inhibition効果、すなわちゴス方位粒以外の結晶粒は粒界移動速度の小さい低エネルギー粒界の頻度が多いために粒成長が抑制されている状態、が発揮され、粒界移動速度が大きい高エネルギー粒界の頻度が最大であるゴス方位粒の選択的粒成長としての二次再結晶が実現される。
【0028】
また、上記Texture Inhibition効果を発揮されるためには、一次再結晶粒の粒径を10μm以上60μm以下かつ粒径の変動係数を0.4 以下に均一化するのが必要であることもわかった。すなわち、後述する実施例におけるデータに基づいて、一次再結晶粒の平均粒径と製品板の磁気特性(磁束密度B8 )との関係について整理した結果を図2に、そして一次再結晶粒の粒径の変動係数と製品板の磁気特性(磁束密度B8 )との関係について整理した結果を図3に、それぞれ示す。これらの図に示した結果から、一次再結晶粒の粒径を10μm以上60μm以下かつ粒径の変動係数を0.4 以下に調整することによって、磁気特性の更なる向上が可能であることがわかる。
【0029】
なお、一次再結晶粒の粒径分布は、脱炭焼鈍が終了した段階で組織観察用サンプルを採取し、電子線後方散乱図形(Electron Back Scattering diffraction Pattern:以下、EBSPという)により、試料断面を測定することにより求めた。このEBSPは、0.1 μm以下の空間分解能で結晶方位を測定でき、一点の測定に1秒程度しか要さず、結晶粒径よりも十分小さいピッチで試料断面上を自動測定することができる能力を有する。一次再結晶粒の粒径分布の測定は、このEBSPにより結晶方位を連続的に観察し、方位が変化するところを粒界とみなしてマッピングし、結晶粒径(円相当直径)の平均値と変動係数(平均値で規格化した分布の標準偏差)を求めた。
【0030】
一次再結晶粒の粒径分布を管理する方法は、インヒビターを用いる場合においては特公平8−32929 号公報に示されているが、これと比較してインヒビターを用いず高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度差を用いる、この発明においては、特に粒径分布の均一化が重要となるため、粒径の変動係数の上限はより厳しく0.4 以下となる。このような、より厳しい規制の下に整粒した一次再結晶組織の実現は、スラブ加熱温度の低温化と脱炭焼鈍の昇温速度の高速化および、脱炭焼鈍の均熱温度の適正化で可能となる。
【0031】
ちなみに、インヒビターを用いる方法においては、インヒビター強化のためにスラブの高温加熱あるいは上記の特公平8−32929 号公報などに示されている、脱炭焼鈍後の浸窒処理や浸硫処理が必要であるが、この発明においてはこれらのプロセスは必要としない。
【0032】
次に、この発明において、素材であるスラブの成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.08mass%以下
C量が0.08mass%を超えると、磁気時効の起こらない 50ppm以下まで低減することが困難になるため、Cは0.08mass%以下に制限した。
【0033】
Si:2.0 〜8.0 mass%
Siは、鋼の電気抵抗を増大し鉄損を低減するのに有用な元素であるため、2.0mass%以上含有させる。しかしながら、含有量が 8.0mass%を超えると加工性が著しく低下して冷間圧延が困難となる。そこで、Si量は 2.0〜8.0 mass%の範囲に限定した。
【0034】
Mn:0.005 〜3.0 mass%
Mnは、熱間加工性を改善するために有用な元素であるが、含有量が 0.005mass%未満ではその添加効果に乏しく、一方 3.0mass%を超えると磁束密度の低下を招くことから、Mn量は 0.005〜3.0 mass%の範囲とする。
【0035】
Al:100 ppm 未満、N、SおよびSeはそれぞれ 50ppm以下
また、不純物元素であるAlは 100 ppm未満、N, SおよびSeについても 50ppm以下、好ましくは 30ppm以下に低減することが、良好に二次再結晶させる上で不可欠である。
【0036】
その他、窒化物形成元素であるTi, Nb, B, Ta, V等についても、それぞれ 50ppm以下に低減することが鉄損の劣化を防止し、良好な加工性を確保する上で有効である。
【0037】
以上、必須成分および抑制成分について説明したが、この発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.005 〜1.50%mass%、Sn:0.01〜0.50mass%、Sb:0.005 〜0.50mass%、Cu:0.01〜1.50mass%、P:0.005 〜0.50mass%、Cr:0.01〜1.50mass%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が0.005 mass%未満では磁気特性の向上量が小さく、一方1.50mass%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Ni量は 0.005〜1.50mass%とした。
【0038】
また、Sn,Sb,Cu, P, Crはそれぞれ、鉄損の向上に有用な元素であるが、いずれも上記範囲の下限値に満たないと鉄損の向上効果が小さく、一方上限量を超えると二次再結晶粒の発達が阻害されるので、それぞれSn:0.01〜0.50mass%,Sb:0.005 〜0.50mass%,Cu:0.01〜1.50mass%,P:0.005 〜0.50mass%,Cr:0.01〜1.5 mass%の範囲で含有させる必要がある。
【0039】
次に、この発明の製造工程について説明する。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉、電気炉などを用いる公知の方法で精錬し、必要があれば真空処理などを施したのち、通常の造塊法や連続鋳造法を用いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱間圧延に供してもよい。
【0040】
熱間圧延前のスラブ加熱温度は1250℃以下に抑えることが肝要である。すなわち、スラブ加熱温度が1250℃をこえると、熱間圧延時にスケールが多量に生成してしまう他、不可避的に混入するインヒビター形成成分が強化され、一次再結晶組織の均一な整粒化を阻害してしまうため、スラブ加熱温度は1250℃以下とする。
【0041】
次いで、熱延板焼鈍を施す。すなわち、ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は 800〜1100℃の範囲が好適である。というのは、熱延板焼鈍温度が 800℃未満では熱間圧延でのバンド組織が残留し、整粒の一次再結晶組織を実現することが困難になり、二次再結晶の発達が阻害され、一方熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、不可避的に混入するインヒビター形成成分が固溶し冷却時に不均一に再析出するために、整粒一次再結晶組繊を実現することが困難となり、やはり二次再結晶の発達が阻害されるからである。さらに、熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎることも、整粒の一次再結晶組織を実現する上で極めて不利である。
【0042】
ここで、熱延板焼鈍前後のC含有量の変化を150ppm以下に抑制する必要がある。すなわち、C含有量の変化が150ppmをこえると、一次再結晶粒のばらつきが大きくなり、その変動係数を0.4 以下にすることが難しくなる。
なお、熱延板焼鈍前後のC含有量の変化を150ppm以下に抑制するには、熱延板焼鈍時の雰囲気酸化性を低く、望ましくはPH2O/PH2≦0.4 とする手段が適している。
【0043】
上記熱延板焼鈍後、必要に応じて中間焼鈍を挟む1回以上の冷間圧延を施したのち、脱炭焼鈍を行い、Cを磁気時効の起こらない50ppm 以下、好ましくは30ppm 以下に低減する。
【0044】
なお、冷間圧延に際しては、圧延温度を100 〜250 ℃に上昇させて行うこと、および冷間圧延途中で100 〜250 ℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことが、ゴス組織を発達させる点で有効である。
【0045】
また、最終冷延後の脱炭焼鈍は、湿潤雰囲気を使用して 700〜1000℃の温度範囲で行い、一次再結晶の平均粒径が10μm 以上60μm 以下となるよう適宜調整する。その際、脱炭焼純時の昇温過程において400 ℃から700 ℃までの温度域での平均昇温速度を10℃/s以上とする必要がある。すなわち、平均昇温速度が10℃/sより低くなると、必要十分な一次再結晶組織の整粒化が得難くなる。
【0046】
ここで、一次再結晶組織の整粒化の条件としては、平均粒径が10μm以上60μm以下、かつ粒径の変動係数が0.4 以下となっていることが必要である。すなわち、平均粒径が60μmをこえると、粒界エネルギーが低下するため粒界移動の駆動力が弱まり、最終仕上焼鈍時の二次再結晶が起こり難くなる。一方、一次再結晶組織の平均粒径が10μmを下回るか粒径の変動係数が0.4 をこえると、二次再結晶過程における高エネルギー粒界の選択的な移動に支障を来し、ゴス方位から方位のずれた結晶粒も成長してしまう。
【0047】
また、脱炭焼鈍後に浸珪法によってSi量を増加させる技術を併用してもよい。
その後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を適用して、最終仕上焼鈍を施すことにより二次再結晶組織を発達させるとともにフォルステライト被膜を形成させる。
【0048】
さらに、最終仕上焼鈍は、二次再結晶発現のために800 ℃以上で行う必要があるが、800 ℃までの加熱速度は、磁気特性に大きな影響を与えないので任意の条件でよい。 最終仕上焼鈍は、二次再結晶発現のために 800℃以上で行う必要があるが、800 ℃までの加熱速度は磁気特性に大きな影響を与えないので任意の条件でよい。
【0049】
その後、平坦化焼鈍を施して形状を矯正する。
次いで、上記の平坦化焼鈍後、鉄損の改善を目的として、鋼板表面に張力を付与する絶縁コーティングを施すことが有利である。
さらに、公知の磁区細分化技術を適用できることはいうまでもない。
【0050】
【実施例】
実施例1
C:0.04mass%、Si:3.3 mass%、Mn:0.06mass%、Al:0.005 mass%、S:0.002 mass%、Sb:0.02mass%、N:0.004 mass%およびCr:0.05 mass%を含み、残部は実質的にFeよりなる珪素鋼スラブを、900 ℃、1100℃、1250℃および1300℃の各温度で40分間加熱後、熱間圧延して2.2mm の板厚にし、窒素100vol%およびPH2O/PH2:0.30の雰囲気下で1000℃、30秒間での熱延板焼鈍を施し、その際、該熱延板焼鈍前後のC量の変化が102ppmであることを確認した。その後、タンデム圧延機により200 ℃で温間圧延し、0.30mmの最終板厚に仕上げた。 次いで、H2:50 vol%+ N2:50 vol%、露点50℃での脱炭焼鈍を、600 ℃から750 ℃までの平均昇温速度15℃/sで850 ℃まで加熱し、850 ℃で100 sの均熱処理を行った。この段階で粒径分布評価用試料を採取し、一次再結晶組織の平均粒径と変動係数とを、上述のEBSP観察により求めた。その後、鋼板に、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布、乾燥し、次いでコイル状に巻き取り、最終仕上焼鈍として900 ℃から1150℃を20℃/hで昇温させ、引き続きH2 中にて1200℃で9時間の純化焼鈍を施した。 その後、平坦化焼鈍、そして絶縁コーティングを施した。
【0051】
かくして得られた製品板における、交流で最大磁化力800 A/mにおける最大磁束密度B8 を測定した結果について、製造条件および粒径分布を示す表1に併記する。 同表からわかるとおり、スラブ低温加熱によって、一次再結晶組織の整粒化と磁気特性の向上とをはかることができる。
【0052】
【表1】
Figure 0004258157
【0053】
実施例2
上記の実施例1において、1200℃で加熱したスラブを用いて、熱間圧延と熱延板焼鈍を施し、熱延板焼鈍の前後のC量の変化が102ppmであることを確認したのち、タンデム圧延機により200 ℃で温間圧延し、0.30mmの最終板厚に仕上げた。次いで、H2:50 vol%+ N2:50 vol%、露点50℃での脱炭焼鈍を、600 ℃から750 ℃までの平均昇温速度を、1℃/s、5℃/s、10℃/s、15℃/sおよび50℃/sの種々の速度で850 ℃まで加熱し、850 ℃で100 sの均熱処理を行った。この段階で粒径分布評価用試料を採取し、一次再結晶組織の平均粒径と変動係数とを、上述のEBSP観察により求めた。その後の工程は、実施例1と同様に行い、得られた製品板について実施例1と同様に磁気特性を評価した。
【0054】
表2に、製造条件、粒径分布および磁気特性を示す。同表から、脱炭焼純における昇温速度の高速化によって、一次再結晶組織の整粒化と磁気特性の向上とを実現できることがわかる。
【0055】
【表2】
Figure 0004258157
【0056】
実施例3
上記の実施例1において、1200℃で加熱したスラブを用いて、熱間圧延と熱延板焼鈍を施し、熱延板焼鈍の前後のC量の変化が102ppmであることを確認したのち、タンデム圧延機により200 ℃で温間圧延し、0.30mmの最終板厚に仕上げた。次いで、H2:50 vol%+ N2:50 vol%、露点50℃での脱炭焼鈍を、600 ℃から750 ℃までの平均昇温速度を15℃/sとし、均熱温度を 700〜1050℃の範囲で変化させて加熱し、それぞれの温度で100 sの均熱処理を行った。ただし、均熱温度700 ℃のものは、 600〜700 ℃の平均昇温速度を15℃/sとした。この段階で粒径分布評価用試料を採取し、一次再結晶組織の平均粒径と変動係数とを、上述のEBSP観察により求めた。その後の工程は、実施例1と同様に行い、得られた製品板について実施例1と同様に磁気特性を評価した。
【0057】
表3に、製造条件、粒径分布および磁気特性を示す。同表から、脱炭焼純における均熱温度の適正化によって、一次再結晶組織の適正化と磁気特性の向上とを実現できることがわかる。
【0058】
【表3】
Figure 0004258157
【0059】
実施例4
上記の実施例1において、1200℃で加熱したスラブを用いて、熱間圧延と熱延板焼鈍を施し、表4の条件の通り、熱延板焼鈍での雰囲気酸化性を変化させ、熱延板焼鈍の前後のC量の変化を77ppm 、 102ppm 、140ppmおよび165ppmに調整した鋼板を用いて、その後の脱炭焼鈍までの工程は、実施例1と同様に行い、この段階で粒径分布評価用試料を採取し、一次再結晶組織の平均粒径と変動係数とを、上述のEBSP観察により求めた。その後の工程も、実施例1と同様に行い、得られた製品板について実施例1と同様に磁気特性を評価した。
【0060】
表4に、製造条件、粒径分布および磁気特性を示す。同表から、熱延板焼鈍の前後のC量を適正化することによって、一次再結晶組織の整粒化と磁気特性の向上とを実現できることがわかる。
【0061】
【表4】
Figure 0004258157
【0062】
【発明の効果】
この発明によれば、インヒビターを含有しない高純度成分の素材を用いて、スラブ加熱温度の低温化と脱炭焼鈍の昇温速度の高速化することにより、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を、より安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における粒界方位差角が20〜45°である粒界の存在頻度を示した図である。
【図2】 一次再結晶粒の平均粒径と製品板の磁気特性との関係を示すグラフである。
【図3】 一次再結晶粒の粒径の変動係数と製品板の磁気特性との関係を示すグラフである。

Claims (2)

  1. C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、Alを100ppm未満に低減すると共に、N、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減し、残部 Fe および不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延し、熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、次いで脱炭焼鈍を行った後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上焼鈍を施す、方向性電磁鋼板の製造方法において、
    熱間圧延前に行うスラブ加熱温度を1250℃以下とし、熱延板焼鈍前後のC含有量の変化を150ppm以下に抑制し、また脱炭焼鈍時の昇温過程における、600℃から750℃までの温度域での昇温速度を10℃/s以上かつ均熱温度を700〜1000℃とし、脱炭焼鈍後かつ仕上焼鈍前の状態における、一次再結晶粒の平均粒径を10μm以上60μm以下かつ粒径の変動係数を0.4以下に調整することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 請求項1において、鋼スラブが、さらに、Ni:0.005 〜1.50mass%、Sn:0.01〜0.50mass%、Sb:0.005 〜0.50mass%、Cu:0.01〜1.50mass%、P:0.005 〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%のうちから選んだ少なくとも1種を含有する成分組成を有することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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