JP3716608B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、方向性電磁鋼板の製造方法、特に、仕上焼鈍時の追加酸化を防止して、良好な磁気特性を安定して得ることのできる方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板は、変圧器の積層鉄心又は巻鉄心して使用される材料であり、二次再結晶を利用して{110}〈001〉方位の結晶粒を成長させることにより、圧延方向に優れた磁気特性を有するものである。
このような{110}〈001〉方位(いわゆるゴス方位)に高度に配向した二次再結晶を効率よく発現させるため、一般的にはインヒビターと呼ばれる析出分散相を用いて、最終仕上げ焼鈍時における一次再結晶粒の粒成長を抑制する方法が採られており、代表的なインヒビターとしてMnS 、AlN 、BN等が用いられている。かかるインヒビターが十分な粒成長抑制力を発揮するためには、その析出分散相が均一かつ適正なサイズであることが重要であり、従来は方向性電磁鋼用スラブを1400℃程度の高温に加熱してインヒビター成分を鋼中に十分固溶させた後、熱間圧延時にインヒビターを均一かつ適正なサイズに析出分散させる方法が採用されてきた。
しかし、この方法はエネルギーコストが高くつく上に、高温加熱に伴って製品板に表面欠陥が発生し易いという問題点を有していた。特に、近年では省エネルギー化が強く要請されているため、スラブ加熱温度の低温化が望まれており、これを実現するための方法が多く提案されている。
【0003】
例えば、特開昭57−207114号公報には、素材の極低炭素化により、スラブ加熱温度の低温化を達成する方法が開示されている。しかし、この方法は二次再結晶の発現が不安定であるという問題があった。この欠点を解決するため、二次再結晶の発現前に窒化処理を行うことによって、インヒビター機能を制御する方法が提案されていて、例えば特開昭62−40315号公報にはスラブ加熱温度低温化によりAlN が固溶し得なくなって析出分散状態が不適切になることを、途中工程での窒化処理により適正な状態に制御する方法が開示されている。
また、特公平8−32928号公報では、脱炭焼鈍工程における均熱前段での滞留時間をa、後段での滞留時間をbとしたとき、b≦a/3とするとともに、均熱前段での水素分圧に対する水蒸気分圧の比PH2O /PH2を0.02以下とすることにより、仕上げ焼鈍時の窒化を促進し、磁気特性を向上させる方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、仕上げ焼鈍中に窒化を促進するような脱炭焼鈍板の表面酸化層は、仕上げ焼鈍中の酸化も促進し易いことが多く、したがって上記の方法では均一なフォルステライト質絶縁被膜を形成するのに有利とはいい難い。特に、MgO をスラリー状にして塗布した後、コイル状に巻き取って仕上げ焼鈍を行う場合には、コイル内の温度分布によってMgO 水和水の放出挙動が変わり、また、コイル層間面圧の差によって層間の雰囲気流通性が変化する。このような状態で窒化や酸化を促進し易い脱炭焼鈍板の表面酸化層が生成されると、フォルステライト質絶縁被膜の形成挙動がコイル内で大きくばらつくため、最終製品の被膜外観や密着性の劣化につながり、ひいては鋼板表面近傍での二次再結晶にも悪影響を及ぼして磁気特性の劣化にもつながる。
【0005】
このため、特開平7−76736号公報には、脱炭焼鈍・窒化処理後の鋼板に焼鈍分離剤としてCl及び/又はSO3 を0.15〜0.20%含有するMgO を塗布することにより、優れたフォルステライト質絶縁被膜が得られること、仕上げ焼鈍条件として昇温速度を20℃/hr 以下とし、かつ、900 ℃以降の雰囲気を25%N2とすることにより更にフォルステライト質絶縁被膜の形成が安定化すること、MgO 中にTi、Sb、Sr、Bのうちの1種以上を0.1 〜7.5 重量部添加することにより更にフォルステライト質絶縁被膜の形成が安定化することが開示されている。
しかし、この方法をもってしても脱炭焼鈍板の表面酸化層の物性変動によるフォルステライト質絶縁被膜の劣化を防止することは難しく、特に、スラブ加熱温度低温化のためにS及びSeを低減したスラブを用いる場合には、脱炭焼鈍時の酸化挙動制御が非常に難しく、したがって被膜形成が一層不安定となる問題点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、仕上げ焼鈍時の酸化を防止して、良好な磁気特性を有する方向性けい素鋼板を工業的に安定して得る方法を提案することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、脱炭焼鈍板の物性が最終製品の磁気特性に及ぼす影響について詳細に調査した。その結果、脱炭焼鈍板表面に存在する酸化層の構成成分のなかでもSi/Mnの組成が磁気特性に強い影響を及ぼすこと、GDS(Glow Discharge Mass Spectroscopy;グロー放電質量分析法)分析により測定された脱炭焼鈍板の最表層の表面側1/4 厚みにおけるSi/Mn組成が、磁気特性と強い相関があること、及び、脱炭焼鈍工程の温度制御によって脱炭焼鈍板最表層のSi/Mn組成が制御可能であることを新規に見出し、この発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、この発明は、
C:0.02〜0.07wt%、
Si:2.0 〜4.5 wt%、
Mn:0.03〜2.5 wt%、
Al:0.005 〜0.050 wt%、
N:0.003 〜0.010 wt%、
S及びSeを単独もしくは複合で0.02wt%以下、
を含み、更に、
Sb、Sn、Cu、Cr、Ge、Biのうち1種又は2種以上を各々の成分量で0.003 〜0.3 wt%
含有し、残部は鉄及び不可避的不純物よりなる方向性電磁鋼用スラブを1280℃以下に加熱した後、熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行ってから冷間圧延によって最終板厚とした後、湿水素雰囲気中で脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍板とし、次いでこの脱炭焼鈍板にMgO を主体とする焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
脱炭焼鈍板の評価指標を、脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層の1/4 厚みまでの範囲についてGDSにより測定したSi強度/Mn強度比の積算強度Eと定め、Eが1.5 ≦E≦5.0 の範囲となる脱炭焼鈍条件の雰囲気及び焼鈍温度を求め、該脱炭焼鈍条件で脱炭焼鈍を行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
この発明においてSi強度/Mn強度比を制御する手段としては、脱炭焼鈍の雰囲気を水素分圧に対する水蒸気分圧の比PH2O /PH2が0.25〜0.70になる範囲とし、かつ、脱炭焼鈍温度を750 〜900 ℃の範囲とすることがある。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明を得るに至った実験について説明する。
C:0.04wt%、Si:3.1 wt%、Mn:0.07wt%、Al:0.015 wt%、N:0.0015wt%、Sb:0.014 wt%を含有し、S及びSeの合計が0.005 wt%の方向性電磁鋼用スラブを、1200℃に加熱した後、熱間圧延によって2.2 mmの熱延板とした。次いで、1000℃で60秒の熱延板焼鈍を行い、酸洗によって表面のスケールを除去した後、タンデム圧延機によって2パス目以降から最終パス前までの鋼板温度を200 ℃以上とした状態で圧延を行い、最終厚み0.34mmとした。この冷延板を脱脂した後、脱炭焼鈍時の均熱帯での均熱温度を700 〜950 ℃の範囲、雰囲気を水素分圧に対する水蒸気分圧の比PH2O /PH2で0.10〜0.80の範囲で種々に変化させた。次いで、MgO を主体とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を行った。この仕上げ焼鈍では、雰囲気ガスを室温から850 ℃までをN2、850 〜1150℃をN2−25%、H2−75%の混合ガスとし、500 〜1180℃までの昇温速度を25℃/hr とし、次いで、1180℃で5 hrの均熱を行った。
【0010】
かかる製造工程の際、脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層厚みの1/4 までのGDS積算強度の測定を行い、SiとMnとの強度比を求めた。また、仕上げ焼鈍時における昇温過程の850 ℃で試料を炉から引き出して、蛍光X線分析により鋼板表面にある酸化層の酸素強度と鉄強度との比(以下、「酸素強度比」という。)を評価した。これらの関係を図1に示す。なお、仕上げ焼鈍850 ℃で評価している理由は、850 ℃が再結晶開始直前の温度であるためであり、仮に900 ℃での引き出しでは再結晶の途中段階になってしまう。そこで、二次再結晶開始温度の直前の温度で評価する。
図1より、仕上げ焼鈍時の850 ℃途中引き出し時の蛍光X線による酸素強度比は、脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層厚みの1/4 までのSiとMnとの強度比が1.5 から5.0 までの範囲で最も低く、その範囲より大きくても小さくても、酸素強度比は高くなることが分かる。
【0011】
一方、別途に、仕上げ焼鈍時の850 ℃途中引き出し時の蛍光X線分析による酸素強度比と、製品板の磁気特性の一つである鉄損W 17/50 との関係を調査した。その結果を図2に示す。
図2より、蛍光X線分析による酸素強度比と鉄損W 17/50 との間には相関があり、図示した範囲では仕上げ焼鈍時の酸素強度比が高いほど磁気特性が悪いことがわかる。この理由について考えると、酸素強度比というのは、仕上げ焼鈍時の雰囲気による鋼板の追加酸化のされ易さを示していると考えられるため、酸素強度比が高い試料は、仕上げ焼鈍時の表層追加酸化によりインヒビターの抑制力が弱められたためと考えられる。
【0012】
図1及び図2の結果から、仕上げ焼鈍時の追加酸化を防止して、良好な磁気特性を有する方向性けい素鋼板を工業的に安定して得るには、仕上げ焼鈍時の850 ℃途中引き出し時の蛍光X線分析による酸素強度比が低くなるように制御すべきであり、そのためには脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層厚みの1/4 までのGDS積算強度測定によるSiとMnとの強度比を適正な範囲に制御することが肝要であることが明らかとなり、この発明を完成するに至ったのである。
かくして、この発明に従う方法によれば、スラブ加熱温度の低い製造条件においても、良好な磁気特性を有する方向性電磁鋼板を製造することが可能になる。
【0013】
次に、この発明における素材の成分組成の限定理由について説明する。
C含有量が0.07wt%を超えるとγ変態量が過剰となり、熱間圧延中のAl分布が不均一となり、特に低Al素材においては熱延板焼鈍の昇温過程で析出するAlN の分布も不均一となり磁気特性が劣化し易い。一方、C含有量が0.02wt%未満では熱間圧延中のγ変態量が過少となり、熱延組織が不均一となり易い。特に、熱延組織の不均一が甚だしい部分では、二次再結晶が不完全となり、これも磁気特性が劣化する原因となる。したがって、C含有量は0.02〜0.07wt%の範囲に限定される。
Siは、比抵抗の増加によって鉄損を低減させる成分であり、かかる作用を効果的に発揮させるためには2.0 wt%以上を含有させることが有効である。しかし、Si量が4.5 wt%を超えると加工性が劣化するので、Si含有量としては2.0 〜4.5 wt%の範囲が適正である。
MnもSiと同じく電気抵抗を高める作用があり、また、製造時の熱間加工性を向上させるためにも必要な成分である。このためにはMnは0.03wt%以上の含有が必要であるが、2.5 wt%を超えて含有した場合、γ変態を誘起して磁気特性を劣化させるのでMn含有量は0.03〜2.5 wt%の範囲とする。
【0014】
Alは、インヒビターAlN を形成するのに必要な成分であり、その含有量が0.005 wt%未満の場合、熱延板焼鈍の昇温過程で析出するAlN 量が不足する。逆に、0.050 wt%を超えるAl含有量の場合には、この発明に従う1200℃前後での低温スラブ加熱ではAlN 固溶が困難となり、AlN 微細析出が阻害される。したがって、Al含有量は0.005 〜0.050 wt%とする。
Nは、Al同様にインヒビターとしてのAlN を形成するために0.030 wt%以上含有させることが必要である。しかしながら、0.0100wt%を超えてNを含有させると製造工程の過程でガス化し、ふくれ等の欠陥を発生し易い。したがって、N含有量は0.0030〜0.0100wt%とする。
【0015】
S及びSeは、硫化物及びセレン化物を形成し、過剰な含有量ではスラブ加熱温度を高温にしなければ固溶させることが困難になるため、含有量を低減する必要がある。したがって、S及びSe含有量は、単独もしくは複合で0.02wt%以下、望ましくは0.01wt%以下とする。
【0016】
上記の成分に加えて、Sb、Sn、Cu、Cr、Ge、Biのうち1種又は2種以上を各々の成分量で0.003 〜0.3 wt%を含有させる。Sb、Sn、Ge、Biは、粒界偏析型成分であり、二次再結晶を安定化させる働きがある。これらの各々の成分量が0.003 wt%未満では、偏析量が不足し、十分な効果が得られない。一方、0.3 wt%を超えると、脱炭焼鈍での酸素量の低下もしくは脱炭量の低下等の弊害が生じ易い。また、Cu及びCrは、脱炭焼鈍板の表面酸化層を安定化させるために有効な成分であるため、含有させる場合には0.003 wt%以上とするが、Cu及びCrの含有量がそれぞれ0.3 wt%を超えると、経済的に不利であるばかりか、被膜安定性が損なわれる。したがって、Sb、Sn、Cu、Cr、Ge、Biのうち1種もしくは2種以上を各々の成分量で0.003 〜0.3 wt%を含有させることとする。
。
【0017】
上記の成分を含有する素材を、1280℃以下に加熱した後、熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行ってから冷間圧延によって最終板厚とした後、湿水素雰囲気中で脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍板とし、次いでこの脱炭焼鈍板にMgO を主体とする焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を行う。素材の加熱温度を1280℃以下とするのは、省エネルギー化を図ると共に、高温スラブ加熱に由来する製品の表面欠陥を防止するためである。
【0018】
かかる製造工程中、この発明では脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層の1/4 厚みまでの範囲についてGDSにより測定したSi強度/Mn強度比の積算強度Eを、1.5 ≦E≦5.0 の範囲にする。かようにSi強度/Mn強度比の積算強度Eを1.5 ≦E≦5.0 の範囲にすることにより、仕上げ焼鈍時の追加酸化量を極力抑制して、スラブ加熱温度の低い製造条件においても、良好な磁気特性を有する方向性電磁鋼板を製造することが可能になる。Si強度/Mn強度比の積算強度Eが1.5 に満たない場合には、鋼板表面の酸化物層中における(Mn,Fe)2SiO4が過多となって、フォルステライト質被膜の前駆体であるオリビンの形成が過多あるいは不均一となって、仕上げ焼鈍時には追加酸化が進行し、被膜の点状剥離欠陥も誘発される。一方、Si強度/Mn強度比の積算強度Eが5.0 を超える場合には、鋼板表面の酸化物層中におけるSiO2が過剰となって、不均一なSiO2の生成によるサブスケールの耐追加酸化性が劣化する結果、仕上げ焼鈍時には鋼板表面が追加酸化を受ける。したがって良好な磁気特性が安定して得られない。
【0019】
なお、この発明においてSi強度/Mn強度比の積算強度Eは、脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層の1/4 厚みまでの範囲についてGDSにより測定する。このGDSは、μm オーダーの深さ方向の定性分析、定量分析をすることができ、発明者らがGDSを用いて脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層を調べた結果、表面酸化層のなかでも、特に1/4 厚みまでのSi強度/Mn強度比の積算強度が、仕上げ焼鈍時の追加酸化のされ易さに関係があることを見出したためである。
【0020】
この発明に従い、脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層の1/4 厚みまでの範囲についてGDSにより測定したSi強度/Mn強度比の積算強度Eを所定の範囲にする具体的な手段の一例としては、脱炭焼鈍の雰囲気を水素分圧に対する水蒸気分圧の比PH2O /PH2が0.25〜0.70になる範囲とし、かつ、脱炭焼鈍温度を750 〜900 ℃の範囲とすることが挙げられる。ここに、PH2O /PH2が0.25に満たないと、脱炭を十分に行うことができず、地鉄C濃度上昇により製品の磁性が時効劣化するので良くない。また、鋼板表面の酸化層中におけるSiO2が過剰になりやすい。一方、0.70を超えると、鋼板表面の酸化層厚みが増加するだけでなく、 FeOX などの外部酸化層が形成し、フォルステライト質被膜が劣化しやすい。また、脱炭焼鈍温度が750 ℃に満たないと鋼板表面の酸化、及び脱炭が進行しない。また、900 ℃を超えると鋼板表面の酸化が過剰に進行し均一性のある酸化層を得にくい。したがって、いずれも所期した積算強度に制御するのが難しい。
【0021】
【実施例】
(実施例1)
C:0.055 wt%、Si:3.03wt%、Mn:0.072 wt%、Al:0.014 wt%、N:0.0070wt%、Sb:0.014 wt%、Se:0.005 wt%、S:0.0020wt%を含有する方向性電磁鋼用スラブを、1200℃に加熱した後、熱間圧延によって2.4 mmの熱延板とした。次いで、1000℃で60秒の熱延板焼鈍を行い酸洗によって表面のスケールを除去した後、タンデム圧延機によって2パス目以後から最終パス前までの鋼板温度を210 ℃以上とした状態で圧延を行い、最終厚みを0.34mmとした。この冷延板を脱脂した後、脱炭焼鈍時の均熱温度を700 〜950 ℃、雰囲気を水素分圧に対する水蒸気分圧の比PH2O /PH2を0.10〜0.80の間で種々に変化させた。得られた脱炭焼鈍板表面の、表面から表面酸化層の厚みの1/4 までの範囲におけるGDS積算強度を測定し、Si強度とMn強度の比を求めた。次いで、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布しコイル状に巻き取り、室温〜850 ℃をN2ガス雰囲気とし、850 〜1150℃をN2−25%+H2−75%の混合ガス雰囲気とし、500 ℃から1180℃までを25℃/hr の昇温速度で昇温後、1180℃で5 hr保持する仕上げ焼鈍を施した。かくして得られた鋼板の磁気特性を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層の厚みの1/4 の範囲におけるGDS積算強度が1.5 〜5.0 の範囲にある試料No. 1〜9では、比較例に比し磁気特性の優れたものが得られていることが分かる。
【0024】
(実施例2)
C:0.060 wt%、Si:3.15wt%、Mn:0.081 wt%、Al:0.017 wt%、N:0.0060wt%、Sb:0.017 wt%、Se:0.006 wt%、S:0.0018wt%を含有する方向性電磁鋼用スラブを、1200℃に加熱した後、熱間圧延によって2.6 mmの熱延板とした。次いで、1000℃で50秒の熱延板焼鈍を行い酸洗によって表面のスケールを除去した後、タンデム圧延機によって2パス目以後から最終パス前までの鋼板温度を210 ℃以上とした状態で圧延を行い、最終厚みを0.34mmとした。この冷延板を脱脂した後、脱炭焼鈍時の均熱温度を700 〜950 ℃、雰囲気を水素分圧に対する水蒸気分圧の比PH2O /PH2を0.10〜0.80の間で種々に変化させた。得られた脱炭焼鈍板表面の、表面から表面酸化層の厚みの1/4 までの範囲におけるGDS積算強度を測定し、Si強度とMn強度の比を求めた。次いで、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布しコイル状に巻き取り、室温〜850 ℃をN2ガス雰囲気とし、850 〜1150℃をN2−25%+H2−75%の混合ガス雰囲気とし、500 ℃から1180℃までを25℃/hr の昇温速度で昇温後、1180℃で5 hr保持する仕上げ焼鈍を施した。かくして得られた鋼板について、実施例1と同様の調査を行った。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
脱炭焼鈍時の均熱におけるPH2O /PH2を0.25〜0.70としたうえで、均熱後段の温度を750 〜900 ℃とした場合には、脱炭焼鈍板表面の表面から表面酸化層の厚みの1/4 の範囲におけるGDS積算強度が1.5 〜5.0 の範囲にある試料No. 1〜12では、比較例に比し磁気特性の優れたものが得られていることが分かる。
【0027】
【発明の効果】
この発明によれば、MnS 及びMnSeインヒビターを用いた場合には普通鋼並のスラブ加熱温度では固溶不十分となる問題を回避するためにS及びSeを低減させた方向性けい素鋼用スラブを用い、低温スラブ加熱によって方向性電磁鋼板を製造する場合において懸念された仕上げ焼鈍途中での追加酸化による二次再結晶不良を、脱炭焼鈍板最表層のSi/Mn組成を特定範囲に制御することにより、良好な磁気特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層厚みの1/4 までのGDS積算強度によるSi/Mn強度比と、仕上げ焼鈍時における昇温過程の850 ℃で炉から引き出した試料の蛍光X線分析による酸素強度/鉄強度比との関係を示す図である。
【図2】仕上げ焼鈍時の850 ℃途中引き出し時の蛍光X線分析による酸素強度比と、製品板の磁気特性の一つである鉄損W 17/50 との関係を示す図である。
Claims (2)
- C:0.02〜0.07wt%、
Si:2.0 〜4.5 wt%、
Mn:0.03〜2.5 wt%、
Al:0.005 〜0.050 wt%、
N:0.003 〜0.010 wt%、
S及びSeを単独もしくは複合で0.02wt%以下、
を含み、更に、
Sb、Sn、Cu、Cr、Ge、Biのうち1種又は2種以上を各々の成分量で0.003 〜0.3 wt%
含有し、残部は鉄及び不可避的不純物よりなる方向性電磁鋼用スラブを1280℃以下に加熱した後、熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行ってから冷間圧延によって最終板厚とした後、湿水素雰囲気中で脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍板とし、次いでこの脱炭焼鈍板にMgO を主体とする焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
脱炭焼鈍板の評価指標を、脱炭焼鈍板の表面から表面酸化層の1/4 厚みまでの範囲についてGDSにより測定したSi強度/Mn強度比の積算強度Eと定め、Eが1.5 ≦E≦5.0 の範囲となる脱炭焼鈍条件の雰囲気及び焼鈍温度を求め、該脱炭焼鈍条件で脱炭焼鈍を行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 脱炭焼鈍の雰囲気を水素分圧に対する水蒸気分圧の比PH2O /PH2が0.25〜0.70になる範囲とし、かつ、脱炭焼鈍温度を750 〜900 ℃の範囲として、Si強度/Mn強度比を制御することを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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