JP2001192787A - 磁気特性が良好な一方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

磁気特性が良好な一方向性電磁鋼板およびその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 低温スラブ加熱−窒化処理プロセスにおいて
高Si化を可能とし、ゴス方位集積度が高く、結晶粒径
が小さく、鉄損が良好な一方向性電磁鋼板を提供する。 【解決手段】 質量%で、Si3.0〜4.5%、M
n:0.08〜0.45%、Al:0.001〜0.0
35%、Cr:0.01〜0.25%、 Sn:0.107×Si−0.31 〜 0.121×
Si−0.32 を含有し、B8/Bsが0.95以上で、かつ、二次再
結晶粒の平均粒径が12〜25mmである一方向性電磁
鋼板。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、変圧器などの電気
機器の鉄心材料に用いられる、結晶方位(ゴス方位)が
一方向に揃った一方向性電磁鋼板の製造方法に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】一方向性電磁鋼板は、鋼板面が{11
0}面で圧延方向が〈100〉軸を有する、いわゆるゴ
ス方位(ミラー指数で{110}〈001〉方位を表
す)を持つ結晶粒から構成されており、軟磁性材料とし
て変圧器や発電機の鉄心に使用される。この鋼板は、磁
気特性として磁化特性および鉄損特性が良好でなければ
ならない。磁化特性の良否は、かけられた一定の磁場中
で鉄心内に誘起される磁束密度の高低で決まり、磁束密
度の高い製品は鉄心を小型化できる。高い磁束密度は、
鋼板結晶粒の方位を、{110}〈001〉に高度に揃
えることによって達成できる。なお、通常、磁束密度の
代表値として、800A/mの磁場の強さでの値B8が
用いられている。
【0003】鉄損は、鉄心に所定の交流磁場を与えた場
合に熱エネルギーとして消費される電力損失であり、そ
の良否に対しては、磁束密度、板厚、被膜張力、不純物
量、比抵抗、結晶粒の大きさ等が影響する。その中で
も、磁束密度が高く、比抵抗が大きいことが鉄損を小さ
くするうえで重要であり、できる限り鉄損が低い製品を
安いコストで製造する方法の開発が課題となる。
【0004】一方向性電磁鋼板は、微細析出物によるイ
ンヒビターと、冷間圧延から一次再結晶に至る集合組織
制御を利用して二次再結晶させて製造され、磁束密度の
高さは、インヒビターと集合組織に依存する。また、S
i含有量が多いほど比抵抗が大きくなるが,Si含有量
を増加させると集合組織が劣化することが問題となる。
なお、通常、鉄損は、50Hzで磁束密度1.7 Tま
で磁化したときの損失W17/50で代表される。
【0005】ところで、これまで工業化された代表的な
一方向性電磁鋼板の製造方法として、以下の四つの技術
が知られている。第一の技術は、M.F.Littma
nnにより特公昭30−3651号公報で示された、M
nSを用いた二回冷間圧延法の技術であるが、磁束密度
が高くない。B8は1.86T程度で、飽和磁束密度B
sに対する比(ゴス方位集積度)は0.92〜0.93
程度である。
【0006】第二の技術は、田口等により特公昭40−
15644号公報で示された、「AlN+MnS」を用
い最終冷間圧延率を80%以上の強圧下率とする技術で
あり、高い磁束密度は得られるが、工業生産に際して
は、製造条件の厳密なコントロールが要求される。B8
は1.93T程度で、飽和磁束密度Bsに対して0.9
5〜0.96程度(ゴス方位集積度)のものが得られ
る。
【0007】第三の技術は、今中等により特公昭51−
13469号公報で示された、「MnS(および/また
はMnSe)+Sb」を用いた二回冷間圧延法の技術で
あり、磁束密度は第二の技術より劣る。B8は1.90
T程度で、飽和磁束密度Bsに対し0.94〜0.95
程度(ゴス方位集積度)である。上記3種類の技術は、
共通して次のような問題がある。上記技術はいずれも、
インヒビターの造り混みを冷間圧延前で行っている。す
なわち、熱間圧延に先立つスラブ加熱温度を1250℃
超、実際には、1300℃以上と極めて高い温度にする
ことによって、粗大な析出物を一旦固溶させ、その後の
熱間圧延あるいは熱処理で、析出物を微細・均一に析出
させている。
【0008】ところが、スラブ加熱温度を上げること
は、スラブ加熱時の使用エネルギーの増大、設備損傷率
の増大等の他、材質的にはスケールロス・耳割れによる
歩留まり低下、スラブの結晶組織粗大化に起因する線状
の二次再結晶不良が発生し、特に薄手材、高Si材にお
いてこの問題は顕著になってくる。このような高温スラ
ブ加熱法の問題を解決するため、第四の技術として低温
スラブ加熱法の技術が、特開昭62−40315号公報
および特開平5−112827号公報に開示されてい
る。これは、二次再結晶に必要なインヒビターを、脱炭
焼鈍(一次再結晶)完了以降から仕上げ焼鈍における二
次再結晶発現以前までに造り込むことで、スラブ加熱温
度を普通鋼なみの1280℃以下とする技術である。イ
ンヒビターは、鋼中にNを侵入させることによって形成
する(Al,Si)Nである。析出量は、従来の高温ス
ラブ加熱法における析出量の3倍以上を確保できるの
で、インヒビターは強固で熱的安定性が高い。
【0009】鋼中にNを侵入させる手段としては、仕上
げ焼鈍昇温過程で、雰囲気ガスからのNの侵入を利用す
るか、もしくは、脱炭焼鈍の後段領域或いは脱炭焼鈍完
了後、ストリップを連続ラインで窒化焼鈍するか、であ
る。窒化源としては、NH3等を混合した焼鈍雰囲気ガ
スを用いる。このような方法によって、一方向性電磁鋼
板の抜本的なコストダウンが達成できた。
【0010】また、この方法は、熱的に安定なインヒビ
ターを用いるので、上記第二の技術と同等の高磁束密度
を得ることができる。B8は1.93T程度で、飽和磁
束密度Bsに対する比(ゴス方位集積度)は0.95〜
0.96程度である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】従来の高温スラブ加熱
法における結晶異常粒成長を防止する方法として、Si
量に応じてC量を増加して鋳造時に変態を起こさせ、そ
れによって、結晶粒を細分化する手法が採用されてき
た。この方法では、Si量を高くするほどC量も高くせ
ねばならないが、それにより、引き続く冷間圧延が困難
になったり、脱炭焼鈍工程を非常に長時間処理しなけれ
ばならなくなる。それ故、Si量を増加させて鉄損を向
上させることは困難である。
【0012】これに対して、上記低温スラブ加熱による
製造法では、高温スラブ加熱において発現する結晶異常
粒成長がほとんど起こらないので、これに起因する線状
の二次再結晶不良の問題もなく、高C化を伴わずに高S
i化を容易に行える。そこで、本発明者らは、低温スラ
ブ加熱の一回冷延法をベースに、高Si化を推進してき
た。
【0013】ところが、成分組成をはじめとする工程条
件をそのままにして、Si含有量を増加させると、磁束
密度B8が劣化し、所定の低鉄損が得られ難いという問
題に直面した。本発明者らは、この原因を鋭意調査し、
まず、Si含有量が増加すると飽和磁束密度Bsが低下
するので、ゴス二次再結晶の方位集積度を現す指標とし
て、飽和磁束密度Bsに対するB8の比率(B8/B
s;以下ゴス方位集積度と記す)が有用であり、良好な
鉄損を達成するためには、所要のゴス方位集積度を確保
することが必要であることを見い出した。
【0014】しかしながら、単にSi含有量を増加させ
た場合には、ゴス方位集積度でみても、ゴス方位集積度
が劣化しており、所定の低鉄損が得られないことが判明
した。すなわち、Si含有量の増大にともなう冶金的な
変化を一次再結晶集合組織の観点から解明し、高Si材
においても、所要のゴス方位集積度を確保するための補
償技術の開発が必要であることが判明した。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、高Si化
にともなう材質的な変化を詳細に調査することにより、
ゴス方位集積度劣化の原因を解明するとともに、低温ス
ラブ加熱−窒化法の製造プロセスにおいて、高Si化す
るための条件を検討した。まず、高Si化にともなうゴ
ス方位集積度の劣化は、一次再結晶組織中におけるゴス
方位の減少が原因であることを解明した。
【0016】また、ゴス方位の減少を補う成分組成設計
を種々検討した結果、Sn含有量の調整により一次再結
晶組織のゴス方位を効果的に増加させると、所要の二次
再結晶のゴス方位集積度の確保が可能となり、Si含有
量に応じた鉄損を達成できることを発見した。すなわ
ち、本発明の要旨とするところは、下記(1)〜(3)
に示すとおりである。 (1)質量%で、Si:3.0〜4.0%、Mn:0.
08〜0.45%、Al:0.001〜0.035%、
Cr:0.01〜0.25%、および、Snを、 0.107×Si(%)−0.31≦Sn(%)≦0.
121×Si(%)−0.32 を満たす量含有する電磁鋼であって、B8/Bsが0.
95以上で、かつ、二次再結晶粒の平均粒径が12〜2
5mmであることを特徴とする磁気特性が良好な一方向
性電磁鋼板。 (2)質量%で、Si:3.0〜4.0%、Mn:0.
08〜0.45%、S、Se:単独又は複合で0.01
5%以下、酸可溶性Al:0.020〜0.035%、
N:0.0035〜0.012%、Cr:0.01〜
0.25%、Sn:0.01〜0.16%、および、
C:0.02〜0.10%を含有し、かつ、Sn(%)
とSi(%)が、 0.107×Si(%)−0.31≦Sn(%)≦0.
121×Si(%)−0.32 を満たし、残部Fe及び不可避的不純物からなる電磁鋼
スラブを、1280℃以下の温度に加熱した後熱間圧延
し、次いで、熱延板焼鈍を行い、圧下率が80%以上の
一回冷間圧延、または、中間焼鈍を介挿する最終圧下率
が80%以上の二回以上の冷間圧延により最終板厚の鋼
板とし、次いで、この鋼板に、脱炭焼鈍、窒化処理、仕
上げ焼鈍を施すことを特徴とする磁気特性が良好な一方
向性電磁鋼板の製造方法。 (3)前記熱延板焼鈍または最終冷間圧延前の中間焼鈍
において、均熱温度をT(K)、均熱時間をt(秒)と
するとき、該tを、 logt≧5803.2/T−2.8741 の範囲に制御することを特徴とする上記(2)記載の磁
気特性が良好な一方向性電磁鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】まず、本発明を実験結果に基づき
説明する。質量%で、Mn:0.1%、S:0.007
%、Cr:0.12%、酸可溶性Al:0.029%、
N:0.0083%、および、P:0.030%をベー
ス成分含有量とし、Cを0.021〜0.095%、S
iを2.85〜3.74%の範囲で変更し、Snを0.
005〜0.16%の範囲で変更した電磁鋼スラブを、
1150℃で60分間加熱した後に熱間圧延し、2.3
mmの熱延板とした。そして、この熱延板に、「112
0℃×30秒+900℃×120秒」の焼鈍を施し、そ
の後、急冷却した。
【0018】前記熱延焼鈍板を酸洗し、次いで、0.2
2mm厚の鋼板に冷間圧延した。この鋼板に、焼鈍温度
を変更して脱炭焼鈍を施すことにより、鋼板における一
次再結晶粒の平均粒径をほぼ23μmに調整した。この
後、窒化焼鈍を750℃×30秒で、水素、窒素、アン
モニアの混合ガス中で行い、鋼板の窒素量をほぼ220
ppmに調整した。次いで、この鋼板にMgOとTiO
2 を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃まで
10℃/hrの昇温速度で加熱し、その後、1200℃
で20時間の仕上げ焼鈍を施した。
【0019】この仕上げ焼鈍板から余剰の焼鈍分離剤を
除去して歪取り焼鈍した後、張力コーティング処理を行
い、鉄損を測定した。磁束密度は、皮膜張力と界面性状
の影響を取り除くため、酸液中で絶縁皮膜等を除去する
処理を行った後に測定した。また、磁束密度について
は、Si含有量が増えると飽和磁束が低下し、磁束密度
B8ではゴス二次再結晶の先鋭度を反映できないので、
B8/Bsの規格値でゴス方位集積度を評価した。X線
回折による結晶方位測定により、B8/Bsの妥当性を
確認した。
【0020】図1に、熱延板焼鈍板の結晶粒径とゴス方
位集積度の関係を示す。B8/Bs≧0.96の高い二
次再結晶先鋭度を得るためには、Si含有量に応じてS
n含有量を高める必要があることが判明した。これが本
発明における第1の特徴である。ここで、図中のB8/
Bs≧0.96の材料において、鉄損はSi含有量の増
大にともない低下しており、高Si化の効果を発揮でき
ることを確認した。鉄損改善代は0.1%のSi含有量
あたりW17/50で約0.015W/kgであった。
【0021】次に、Si含有量に応じてSn含有量を高
めることにより、所要の二次再結晶ゴス方位集積度を確
保できるメカニズムを調査するため、一次再結晶集合組
織を調査した。図1で処理した中間工程サンプルである
脱炭焼鈍板の1/5tにおいて、インバース面強度を測
定した。図2と図3に、一次再結晶の(110)面強度
と(111)面強度に及ぼすSi量とSn量の影響を示
す。Si量の増加に伴い(110)が減少し(111)
が増加することが判る。
【0022】また、Sn量を増加させると逆に(11
0)が増加し(111)が減少することが判る。すなわ
ち、高Si化にともなう集合組織の変化を、Sn量増加
が補う形で作用したものと推定される。一次再結晶集合
組織が、二次再結晶ゴス方位集積度に及ぼすメカニズム
は現在のところ明らかでないが、次のように考えられ
る。
【0023】二次再結晶ゴス方位集積度は、前記したよ
うに、インヒビター強度と一次再結晶集合組織に依存す
ると考えられる。そして、本発明においては、主に一次
再結晶集合組織の影響が大きいものと考える。一般に、
一次再結晶については、二次再結晶核としてのゴス方位
と、ゴス核と対応方位関係にある{111}<211>
方位を考えればよい。また、ゴス方位は冷間圧延で結晶
粒内に形成される変形帯を生成サイトし、結晶粒内に変
形帯が多く形成されるとゴス核が多くなると考えられて
いる。一方、{111}<211>は、冷間圧延前の結
晶粒界近傍を再結晶生成サイトとし、結晶粒界近傍での
変形が多いと{111}<211>は増加すると考えら
れる。
【0024】一般に、Siは鉄の固溶強化元素であるこ
とが知られており、Si量の増加にともない結晶粒内の
強度が高まり、相対的に結晶粒界の強度は低下すると考
えられる。したがって、鋼板組織においては、変形帯の
形成が抑制され、結晶粒界近傍での変形が促進されるの
で、ゴス量が減少し、{111}<211>が増加する
ものと推定される。
【0025】一方、Snは結晶粒界等への偏析元素とし
て知られており、Sn添加により相対的に結晶粒界強度
が高まるものと考えられる。したがって、Sn量を増加
させると結晶粒界近傍の変形が抑制され、相対的に結晶
粒内の変形帯の形成が促進されるため、ゴス量が増加し
{111}<211>が減少するものと推定される。
【0026】二次再結晶ゴス方位の集積度を高めるため
には、二次再結晶核と対応方位の量的なバランスが重要
であると考えられる。したがって、Si量を単独で増加
させた場合には、対応方位に対し二次再結晶核が不足
し、二次再結晶ゴス方位の集積度が劣化する。そこで、
Sn量を増加させることにより二次再結晶核の減少を補
い、二次再結晶核と対応方位をバランスさせ、二次再結
晶におけるゴス方位集積度を高めることが可能になるも
のと推定される。
【0027】以上の考察から、一次再結晶集合組織に対
するSnの効果を引き出すには、冷間圧延前の結晶粒界
にSnが十分に偏析していることが重要であると考えら
れる。そして、Snの偏析においては、焼鈍による拡散
が重要であると考え、熱延板焼鈍の条件を検討した。次
に、熱延板に係る焼鈍条件ついて検討した結果を述べ
る。
【0028】図1の実験に用いた、3.48%Siおよ
び0.081%Snの材料を用いて、熱延板焼鈍の均熱
時間を30秒、60秒、および、150秒とし、焼鈍温
度を700〜1200℃に変更した。その他の工程条件
は、図1の実験と同一条件とした。B8/Bsに対する
時間t(秒)と温度T(K)の影響を図4に示す。図か
らB8/Bs≧0.96を得るためには、該時間tを、 logt(秒)≧5803.2/T(K)−2.874
1 の範囲内にすることが重要であることが判る。これが、
本発明における第2の特徴である。
【0029】上記式は、αFe中のSnの拡散定数から
計算した、熱延焼鈍板の結晶粒半径の約20μmをSn
が拡散する温度と時間の関係にほぼ一致している。すな
わち、上記式の条件を満たせば、Snが結晶粒界に充分
拡散し偏析が可能と考えられる。そして、前述した、S
nの一次再結晶集合組織への効果が発揮され、良好な二
次再結晶ゴス方位集積度が得られるものと推定される。
【0030】次に、上記特徴を有する発明を適用して得
た製品において、その二次再結晶組織を特徴づけるパラ
メータを解析した。図1で用いた二次再結晶マクロ板に
ついて、二次再結晶の平均粒径を測定した。二次再結晶
粒径は、Si量の増大にともない大きくなり、Sn量の
増大にともない小さくなる傾向にある。この傾向は、前
述した一次再結晶集合組織のゴス(110)の量に対す
る傾向と一致しており、二次再結晶核の量が変化したた
めと推定される。
【0031】そこで、高いB8/Bsを得るための適性
な二次再結晶粒径が存在するのではないかと考え、二次
再結晶粒径とB8/Bsの関係を整理した。その結果を
図5に示す。図から判るように、B8/Bs≧0.96
を得るための二次再結晶平均粒径は14〜21μmの範
囲であり、本発明は、製品の二次再結晶粒径でも特徴づ
けられることを発見した。これが、SiとSnの含有量
を含めた本発明における第3の特徴である。
【0032】レーザー処理などの磁区細分化をしない場
合、結晶粒径が小さいほうが鉄損改善に有利であり、本
発明は、製品のB8/Bsと結晶粒径の観点から、低鉄
損材として特徴づけられる。次に、本発明の成分組成に
係る限定理由について説明する。Siは、製品の比抵抗
を効果的に上げ低鉄損を得るための重要な元素であり、
狙うべき鉄損に応じて含有量が決定される.Si含有量
が3.0%未満になると低鉄損の製品が得難く、一方、
4.0%を超えて多くなり過ぎると、材料の冷延性に問
題を生ずる。
【0033】本発明における第1の特徴であるSn含有
量(Sn(%))は、図1の説明で詳細に述べたとお
り、その範囲を、Si含有量(Si(%))との関係
で、 0.107×Si(%)−0.31≦Sn(%)≦0.
121×Si(%)−0.32 の範囲にする。
【0034】なお、Snは、積極的に添加しない場合、
トランプエレメントとして0.01%程度混入するが、
これ以下では磁気特性改善の効果を発揮しない。一方、
多量に添加すると、結晶粒径への偏析以外に表面への偏
析が顕著となり、脱炭性や一次皮膜形成に重要な酸化性
を抑制してしまうので、好ましくなく、その上限を0.
16%とする。
【0035】Cは、組識制御のためスラブの段階で0.
02〜0.10%程度含有されるが、後の脱炭焼鈍工程
で除去される。製品においてCが残留していると、時効
により磁気特性が劣化するので、製品中のC含有量は少
ないほど好ましく、通常は、脱炭焼鈍において100p
pm以下まで除去される。スラブの段階で、C含有量が
0.02%未満になると、二次再結晶が不安定になり、
二次再結晶した場合でもゴス方位集積度(B8/Bs)
が0.94以下と低いものとなる。一方、C含有量が
0.10%を超えると、二次再結晶は安定するが、やは
りゴス方位集積度が劣化するとともに、脱炭焼鈍時間も
長くなり、生産性を損なう。
【0036】また、従来知見どおりγ相率を調整するた
め、製鋼工程においてSi量に応じてC量を調整するこ
とは本発明の特徴を損なうものでない。本発明の出発材
料(電磁鋼スラブ)の成分系における特徴の一つは、
S、Seを単独又は複合で0.015%以下、好ましく
は、0.0070%以下含有する点にある。SおよびS
eは周知のごとく、それぞれ、MnSおよびMnSeを
形成し、粒成長を抑制する作用を有する。本発明におい
ては、二次再結晶粒を発現させるに必要なインヒビター
を脱炭焼鈍以降で造り込むことを特徴としており、冷間
圧延以前で微細な析出物が分散することは、一次再結晶
粒径を調整して高磁束密度低鉄損を得る本発明において
は、好ましくない。
【0037】したがって、Sおよび/またはSeの含有
量は0.015%以下とする。また、Sおよび/または
Seの含有量を少なくすることは、熱間圧延時の耳割れ
の低減にも効果が大きい。Mnは、MnSまたはMnS
eの形成元素であり、インヒビター効果の無害化のため
にMnはできるだけ多いほうが好ましい。その含有量が
少な過ぎると、1250℃以下の低温スラブ加熱であっ
ても、MnSまたはMnSeが一部分溶解し、一次再結
晶粒径が不安定となり磁気特性の変動をもたらす。一
方、多過ぎると過剰な変態組織が影響し、高い磁束密度
を持つ製品を得難くなる。適正なMnの含有量は、0.
08〜0.45%である。
【0038】Alは、Nと結合してAlNを形成する
が、本発明においては、後工程、すなわち、一次再結晶
完了後に鋼を窒化することにより、(Al,Si)Nを
形成せしめることを必須としているから、フリーのAl
が一定量以上必要である。そのため、酸可溶性Alとし
て、0.020〜0.035%添加する。このAlは、
脱炭焼鈍時の酸化や、仕上げ焼鈍時の純化などにより、
製品では若干減少する。
【0039】Nは、スラブ段階で0.0035〜0.0
12%にする必要がある。N含有量が0.012%を超
えると、ブリスターと呼ばれる鋼板表面の脹れが発生す
るし、また、一次再結晶組織の調整が困難になる。N含
有量の下限は0.0035%がよい。N含有量が0.0
035%未満になると、二次再結晶粒を発達させるのが
困難になる。
【0040】なお、Nは、後述の窒化処理による分と併
せてインヒビターとして機能した後、仕上げ焼鈍におけ
る純化おいて除去される。Nもまた時効を起こすため製
品では少ない程よく、通常は、50ppm以下に抑制さ
れる。Crは、本発明の特徴であるSnの表面偏析によ
る脱炭性や酸化性の抑制を緩和させる作用があるので、
その添加を必須とする。Cr含有量の下限は、トランプ
エレメントとして含有する0.01%とし、これ以上を
意図的に添加するものとする。一方、Crを多量に添加
すると酸化過多となり、逆に、皮膜形成を阻害する。添
加コストの負荷も勘案し、上限を0.25%とする。
【0041】この他、微量のP、Cu、Sb、Ni、B
i、V、Nb、B等を含むことは本発明の特徴を損なう
ものではない。次に、本発明の製造プロセスについて説
明する。電磁鋼スラブは、転炉或いは電気炉等の溶解炉
で鋼を溶製し、必要に応じて真空脱ガス処理をし、次い
で、連続鋳造によって、または、造塊後分塊圧延するこ
とによって得られる。その後、熱間圧延に先立つスラブ
加熱がなされる。
【0042】本発明の製造プロセスにおいては、スラブ
加熱温度は1280℃以下の低い温度で行い、加熱エネ
ルギーの消費量を少なくするとともに、鋼中のAlNを
完全に固溶させずに不完全固溶状態とする。また、当然
のことながら、高Mn、低S(Se)の成分設計のため
に、固溶温度が高いMnS(Se)も不完全固溶状態で
ある。スラブ加熱後は、直ちに通常の方法により粗熱延
と仕上熱延を行い、板厚2〜3mm厚の熱延板とする。
【0043】良好な磁気特性の製品を得るためには、S
nの結晶粒界偏析の観点から、最終冷間圧延前の焼鈍が
必須である。すなわち、一回冷間圧延を採用する場合は
熱延板焼鈍の条件、また、二回以上の冷間圧延を採用す
る場合は中間焼鈍の条件を特定する必要がある。焼鈍条
件は図3の説明で詳細に述べたとおり、均熱時間t
(秒)と均熱温度T(K)とするとき、該tを、 logt(秒)≧5803.2/T(K)−2.874
1 の範囲内に制御することが重要である。上式は、Fe中
におけるSnの拡散距離に関する式であるので、「11
20℃×30秒+900℃×120秒」のような二段サ
イクルの場合、それぞれ左項と右項の均熱に従って計算
した結果の累計で判断する必要がある。一次再結晶集合
組織の制御のため焼鈍を行った後に、急冷却等の公知技
術を実施しても本発明の特徴を阻害するものでない。
【0044】続いて、冷間圧延以降の工程条件について
説明する。本発明は、熱延板焼鈍を行い、次いで、圧下
率が80%以上の一回冷間圧延、または、圧下率の調整
のため中間焼鈍を介挿する最終圧下率が80%以上の二
回以上の冷間圧延により最終板厚とする、強圧下最終冷
間圧延を前提とする。冷間圧延は通常の方法で行う。高
い磁束密度を得るために圧下率を微調整したり、パス間
で時効処理をすることは好ましい。
【0045】最終板厚に冷間圧延された鋼板に、脱炭焼
鈍を施す。脱炭焼鈍は、脱炭を行う他に、一次再結晶組
織の調整及び被膜形成に必要な酸化層を生成させる役割
がある。これは、通常、800〜900℃の温度域で、
湿水素、窒素ガス中で行う。一次再結晶粒径は15〜3
0μmが好ましい。次に、窒化処理を行う。窒化処理の
条件は、ストリップ窒化、仕上げ焼鈍中の窒化等に係る
公知の条件とする。ストリップ窒化の場合、焼鈍温度を
650〜850℃とすることが、窒化にとって有利であ
る。良好な二次再結晶粒を安定して発達させるには、窒
素量は120ppm以上、好ましくは、150ppm以
上が必要である。
【0046】この後、公知の方法で、MgOとTiO2
を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1100℃以上の
温度で仕上げ焼鈍を行う。仕上げ焼鈍の条件は公知の条
件でよく、ゴス方位集積度を高めるために、雰囲気を調
整したり、加熱速度を遅くすることは有効である。本発
明で得られる製品においては、前述のSi、Mn、A
l、CrおよびSnの成分が重要である。特に、Siと
Snの量的関係に特徴がある。NとSは、仕上げ焼鈍中
に純化されるので必須成分から除外した。また、Alも
仕上げ焼鈍中に少なくなるが、AlNをインヒビターと
して使用するので、下限を0.001%とする。
【0047】また、二次再結晶組織の特徴として、ゴス
方位集積度の簡易指標としてのB8/Bsが0.95以
上、好ましくは0.96以上であること、および、二次
再結晶平均粒径が12〜25mm、好ましくは14〜2
1mmであることが重要である。粒径は、結晶粒径の個
数を数えて平均面積から円相当粒径に換算する方法、画
像解析処理装置等を用いる方法により測定できる。
【0048】仕上げ焼鈍後のコイルには、形状矯正焼鈍
や絶縁コーティングを施すが、必要に応じて、レーザ
ー、プラズマ、機械的方法、エッチング、その他の手法
によって磁区細分化処理を施すことも可能である。
【0049】
【実施例】(実施例1)質量%で、Mn:0.1%、
S:0.007%、Cr:0.12%、酸可溶性Al:
0.029%、N:0.0083%、および、P:0.
030%をベース成分含有量とし、Cを0.021〜
0.095%、Siを2.85〜3.74%の範囲で変
更し、Snを0.005〜0.16%の範囲で変更した
電磁鋼スラブを、1150℃で60分間加熱した後に熱
間圧延し、2.3mm厚の熱延板とした。
【0050】この熱延板に対し、「1120℃×30秒
+900℃×120秒」の焼鈍を施した後、急冷却し
た。この熱延焼鈍板を酸洗し、0.22mm厚の鋼板に
冷間圧延した。この鋼板を、焼鈍温度を変更して脱炭焼
鈍することにより、一次再結晶粒の粒径を23μmに調
整した。この後、窒化焼鈍を750℃×30秒、水素、
窒素、アンモニアの混合ガス中で行い、鋼板の窒素量を
ほぼ220ppmに調整した。次いで、MgOとTiO
2 を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃まで
10℃/hrで加熱し、その後、1200℃で20時間
の仕上げ焼鈍を行った。
【0051】この仕上げ焼鈍板から余剰の焼鈍分離剤を
除去して歪取り焼鈍した後、コロイダルシリカとリン酸
アルミニウムを主成分とする張力コーティング処理を行
い、鉄損を測定した。磁束密度(B8とBs)は、皮膜
張力と界面性状の影響を取り除くため酸液中で絶縁皮膜
等を除去する処理の後に測定した。また、同じ試料から
画像処理によって二次再結晶平均粒径を測定した。
【0052】測定結果を表1に示す。また、図1に熱延
板焼鈍板の結晶粒径とゴス方位集積度の関係を示す。S
i含有量から計算されるSn含有量が 0.107×Si(%)−0.31≦Sn(%)≦0.
121×Si(%)−0.32 の範囲において、B8/Bs≧0.96の高い二次再結
晶ゴス方位集積度が得られている。
【0053】一方、二次再結晶粒径とB8/Bsの関係
を整理した結果を、図5に示す。B8/Bs≧0.96
を得るための二次再結晶平均粒径は12〜25mm、好
ましくは、14〜21mmの範囲である。
【0054】
【表1】
【0055】(実施例2)実施例1の実験で用いた、
3.48%Siおよび0.081%Snの材料を用い
て、熱延板焼鈍における均熱時間を、30秒、60秒お
よび150秒とし、焼鈍温度を700〜1200℃に変
更した。その他の工程条件は実施例1の実験と同一条件
とした。磁気特性の測定結果を表2に、B8/Bsに対
する時間t(秒)と温度T(K)の影響を図4に示す。
t(秒)とT(K)の関係が logt(秒)≧5803.2/T(K)−2.874
1 を満たせば、B8/Bs≧0.96の高い二次再結晶ゴ
ス方位集積度が得られていることが判る。
【0056】
【表2】
【0057】
【発明の効果】本発明により、コストメリットが高い低
温スラブ加熱−窒化処理を前提とするプロセスにおい
て、高Si化が可能となり、ゴス方位集積度が高く、二
次再結晶粒径が小さく、鉄損が良好な一方向性電磁鋼板
を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】SiおよびSn含有量と二次再結晶ゴス方位集
積度(B8/Bs)の関係を示す図である。
【図2】SiおよびSn含有量と一次再結晶の(11
0)面強度の関係を示す図である。
【図3】SiおよびSn含有量と一次再結晶の(11
1)面強度の関係を示す図である。
【図4】熱延板焼鈍の均熱温度T(K)および時間t
(秒)と二次再結晶ゴス方位集積度(B8/Bs)の関
係を示す図である。
【図5】各Si含有量における二次再結晶平均粒径とゴ
ス方位集積度(B8/Bs)の関係を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 山本 紀宏 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1−1 新日 本製鐵株式会社八幡製鐵所内 (72)発明者 岡田 慎吾 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1−1 新日 本製鐵株式会社八幡製鐵所内 Fターム(参考) 4K033 AA02 CA02 CA07 CA09 FA01 FA12 HA02 HA04 JA04 NA02 5E041 AA02 AA19 CA02 HB05 HB11 NN01 NN06 NN17 NN18

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、Si:3.0〜4.0%、M
    n:0.08〜0.45%、Al:0.001〜0.0
    35%、Cr:0.01〜0.25%、および、Sn
    を、 0.107×Si(%)−0.31≦Sn(%)≦0.
    121×Si(%)−0.32 を満たす量含有する電磁鋼であって、B8/Bsが0.
    95以上で、かつ、二次再結晶粒の平均粒径が12〜2
    5mmであることを特徴とする磁気特性が良好な一方向
    性電磁鋼板。
  2. 【請求項2】 質量%で、Si:3.0〜4.0%、M
    n:0.08〜0.45%、S、Se:単独又は複合で
    0.015%以下、酸可溶性Al:0.020〜0.0
    35%、N:0.0035〜0.012%、Cr:0.
    01〜0.25%、Sn:0.01〜0.16%、およ
    び、C:0.02〜0.10%を含有し、かつ、Sn
    (%)とSi(%)が、 0.107×Si(%)−0.31≦Sn(%)≦0.
    121×Si(%)−0.32 を満たし、残部Fe及び不可避的不純物からなる電磁鋼
    スラブを、1280℃以下の温度に加熱した後熱間圧延
    し、次いで、熱延板焼鈍を行い、圧下率が80%以上の
    一回冷間圧延、または、中間焼鈍を介挿する最終圧下率
    が80%以上の二回以上の冷間圧延により最終板厚の鋼
    板とし、次いで、この鋼板に、脱炭焼鈍、窒化処理、仕
    上げ焼鈍を施すことを特徴とする磁気特性が良好な一方
    向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 【請求項3】 前記熱延板焼鈍または最終冷間圧延前の
    中間焼鈍において、均熱温度をT(K)、均熱時間をt
    (秒)とするとき、該tを、 logt≧5803.2/T−2.8741 の範囲に制御することを特徴とする請求項2記載の磁気
    特性が良好な一方向性電磁鋼板の製造方法。
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