JP3896937B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変圧器や回転機の鉄心材料として好適な磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板の製造に際しては、インヒビターと呼ばれる析出物を使用して、最終仕上焼鈍中にゴス方位粒と呼ばれる{110}<001>方位粒を優先的に二次再結晶させることが、一般的な技術として使用されている。
例えば、インヒビターとしてAlN、MnSを使用する方法(特許文献1参照)やインヒビターとしてMnS,MnSeを使用する方法(特許文献2参照)については、すでに工業的に実用化されている。
その他、インヒビターとしてCuSeとBNを添加する技術(特許文献3参照)やTi,Zr,Vの窒化物を使用する方法(特許文献4参照)も知られている。
【0003】
これらのインヒビターを用いる方法は、安定して二次再結晶粒を発達させるのに有用な方法であるが、析出物を微細に分散させなければならないので、熱延前のスラブ加熱を1300℃以上の高温で行うことが必要とされる。
しかしながら、スラブの高温加熱は、加熱を実現する上で設備コストが嵩むだけでなく、熱延時に生成するスケール量も増大するため歩留りが低下し、また設備のメンテナンスが煩雑になる等の問題がある。
【0004】
一方、インヒビターを使用しないで方向性電磁鋼板を製造する方法も種々提案されている。これらの技術に共通していることは、表面エネルギーを駆動力として{110}面を優先的に成長させることを意図していることである。
表面エネルギーを有効に利用するためには、表面の寄与を大きくするために板厚を薄くすることが必然的に要求される。
例えば、鋼板の板厚を0.2mm 以下に抑制する技術(特許文献5参照)や板厚を0.15mm以下に制限する技術(特許文献6参照)が知られている。
しかしながら、現在使用されている方向性電磁鋼板の板厚は0.20mm以上がほとんどであるため、上記したような表面エネルギーを利用する方法で通常の方向性電磁鋼板を製造することは難しい。
【0005】
また、表面エネルギーを使用するためには、表面酸化物の生成を抑制した状態で高温の最終仕上焼鈍を行わなければならない。
例えば、1180℃以上の温度で、雰囲気として、真空中または不活性ガスまたは水素ガスまたは水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて焼鈍する方法が提案されている(特許文献5参照)。
また、 950〜1100℃の温度で、不活性ガス雰囲気または水素ガス雰囲気または水素ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で焼鈍を行い、特にかような焼鈍を減圧下で行うことを推奨している技術もある(特許文献6参照)。
その他、1000〜1300℃の温度で、酸素分圧が0.5 Pa以下の非酸化性雰囲気または真空中にて最終仕上焼鈍を行う技術も提案されている(特許文献7参照)。
【0006】
このように、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得ようとすると、最終仕上焼鈍の雰囲気は不活性ガスや水素ガスが用いられ、特に推奨される条件として真空とすることが求められるけれども、高温と真空の両立は設備的には極めて難しく、またコスト高ともなる。
【0007】
さらに、表面エネルギーを利用した場合には、原理的には{110}面の選択のみが可能なだけで、圧延方向に<001>方向が揃ったゴス粒の成長が選択されるわけではない。方向性電磁鋼板は、圧延方向に磁化容易軸<001>を揃えてこそ磁気特性が向上するので、{110}面の選択のみでは原理的に良好な磁気特性は得られない。
そのため、表面エネルギーを利用する方法で良好な磁気特性を得ることができる圧延条件や焼鈍条件は極めて限られたものとなり、その結果、得られる磁気特性は不安定とならざるを得ない。
【0008】
上記の問題を解決するものとして、インヒビター成分を使用しないで、熱延圧下率を30%以上、熱延板厚を1.5 mm以下とすることにより、二次再結晶させる技術が提案された(特許文献8参照)。
しかしながら、この技術では、ゴス方位の集積度が、従来のインヒビターを使用する方法に比較して低いという問題があった。
【0009】
また、本発明者らも、既にインヒビター成分を含有しない素材において、ゴス方位粒を二次再結晶により発達させる技術を提案した(特許文献9参照)。
しかしながら、この方法でもやはり、インヒビターを使用しないために、工業生産上磁気特性が安定しないという問題が顕在化した。
【0010】
【特許文献1】
特公昭40−15644 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特公昭51−13469 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特公昭58−42244 号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献4】
特公昭46−40855 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】
特開昭64−55339 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】
特開平2−57635 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】
特開平7−197126号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】
特開平11−61263 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献9】
特開2000−129356号公報(特許請求の範囲)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、インヒビターを含有しない素材を用いてゴス方位を二次再結晶させる技術において、各製造工程を厳密に管理することにより、高い磁気特性が安定して得られるようにした、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.08%以下,Si:2.0〜8.0 %およびMn:0.005〜0.50%を含有する組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、ついで必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで再結晶焼鈍後、焼鈍分離剤を適用しもしくは適用することなしに仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記の鋼スラブ成分中、Alを 100 ppm以下、N, S, Seをそれぞれ50 ppm以下に低減し、再結晶焼鈍前の最終冷間圧延における圧下率を82〜92%とし、再結晶焼鈍を雰囲気露点が0℃以下の雰囲気中で行い、かつ再結晶焼鈍における 600〜750 ℃間の平均昇温速度を20℃/s以上とし、再結晶焼鈍後の鋼板における粒径の変動係数を 0.4以下とすることを特徴とする、フォルステライト被膜を有しない方向性電磁鋼板の製造方法。
【0013】
2.上記1において、鋼スラブが、さらに質量%で、Ni:0.005〜1.50%, Sn:0.01〜0.50%, Sb:0.005〜0.50%, Cu:0.01〜0.50%, P:0.005〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の技術では、インヒビター成分を含まない鋼において二次再結晶を発現させることができる。
その理由については、まだ明確に解明されたわけではないが、以下のように考えている。
発明者らは、ゴス方位粒が二次再結晶する理由について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを発見し、Acta Material 45巻(1997)1285頁に報告した。
【0015】
方向性電磁鋼板の二次再結晶直前の状態である一次再結晶組織を解析し、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(%)について調査した結果を、図1に示す。同図において、結晶方位空間はオイラー角(Φ1 ,Φ,Φ2 )のΦ2 =45°断面を用いて表示しており、ゴス方位など主な方位を模式的に表示してある。
同図によれば、ゴス方位粒周囲について、方位差角が20〜45°である粒界の各方位粒に対する存在頻度は、ゴス方位が最も高いことが分かる。
【0016】
方位差角が20〜45°の粒界は、C. G. Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻(1949)368 頁)によれば、高エネルギー粒界である。この高エネルギー粒界は粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。粒界拡散は粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい、高エネルギー粒界の方が粒界拡散は速い。
二次再結晶は、インヒビターと呼ばれる析出物の拡散律速による成長に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上焼鈍中に優先的に粗大化が進行するので、優先的にピン止めがはずれて粒界移動を開始し、ゴス粒が成長する機構を示した。
【0017】
発明者らは、この研究をさらに発展させて、ゴス方位粒の二次再結晶の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度差を生じさせることにあることを見い出した。
従って、この理論に従えば、インヒビターを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、二次再結晶させることが可能となる。
【0018】
さらに、粒界の移動速度差を利用して安定した二次再結晶を可能とするためには、一次再結晶組織をできる限り均一な粒径分布に保つことが肝要である。というのは、均一な粒径分布が保たれている場合には、ゴス方位粒以外の結晶粒は粒界移動速度の小さい低エネルギー粒界の頻度が大きいため、粒成長が抑制されている状態、いわゆるTexture Inhibition効果の発揮により、粒界移動速度が大きい高エネルギー粒界の頻度が最大であるゴス方位粒の選択的粒成長としての二次再結晶が進行するからである。
これに対し、粒径分布が一様でない場合には、隣接する結晶粒同士の粒径差を駆動力とする正常粒成長が起こり、粒界移動速度差と異なる要因で成長する結晶粒が選択されるために、Texture Inhibition効果が発揮されずに、ゴス方位粒の選択的粒成長が起こらなくなる。
【0019】
しかしながら、工業生産の観点からは、工程条件を常に一定に制御することは極めて難しく、焼鈍温度等に若干のばらつきが発生する。インヒビターを含まない成分系においては、例えば再結晶焼鈍後の粒径は再結晶温度の変動に非常に敏感なため、ここで生じる粒径差がTexture Inhibition効果を抑制し、最終磁気特性にまで影響を与えることが問題であった。
【0020】
そこで、発明者らは、かかる問題の解決すべく鋭意研究を重ねた結果、最終冷間圧延の圧下率を規定し、かつ再結晶焼鈍の昇温速度および雰囲気を調整することにより、インヒビター成分を含まずあるいは低減した電磁鋼板において、その磁気特性を安定に発現させることに成功した。
【0021】
以下、本発明を由来するに至った実験について説明する。なお、以後、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
実験1
C:27 ppm, Si:3.32%およびMn:0.074 %を含み、かつAl, N、S, Seを極力低減し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、1120℃に加熱し、熱間圧延により 1.5〜3.5mm 厚の熱延板としたのち、950 ℃で60秒の熱延板焼鈍後、冷間圧延により0.20〜0.50mm厚の冷延板に仕上げた。この時、熱延板の厚さが異なるので、冷間圧延における圧下率は66.7〜94.3%の範囲となった。ついで、 600〜750 ℃間の平均昇温速度を種々に変化させ、均熱条件が 900℃で10秒間、雰囲気露点:−40℃の再結晶焼鈍を施したのち、コロイダルシリカを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、 900℃で50時間保定する仕上焼鈍を施した。
ついで、冷却後、残余の焼鈍分離剤を除去してから、アクリル系樹脂および酢酸エチルを主体とする有機コーティング液を塗布し、焼付け乾燥した。
上記の実験で得られた再結晶焼鈍板の粒径分布を調査し、最終製品板の磁気特性との関連について調査した。
その結果を図2に示す。
【0022】
なお、粒径分布は、粒径の変動係数(平均値で規格化した分布の標準偏差)として示した。再結晶粒径の測定方法は、鋼板の圧延方向に垂直な面を切り出し、ナイタール液でエッチングした後に光学顕微鏡で観察し、視野内の粒を画像処理により楕円形近似法で楕円に近似し、その長軸と短軸の平均をその粒の粒径とした。その際のサンプルは、作成した再結晶板の幅方向における両端部と中央部から採取し、観察箇所は板厚全厚とした。観察した粒の個数は、両端部と中央部の合計で少なくとも2000個以上となるようにサンプルを採取した。また、磁気特性はB8 で標記しているが、これは鋼板に 800 A/mの磁化力を付加した場合に得られる磁束密度の値であり、値が大きいほど磁気特性が良好であることを示す。
【0023】
図2から明らかなように、上記した粒径の変動係数が小さいほど磁気特性が改善され、特にこの変動係数を0.4 以下とすることによって良好な磁気特性が得られることが判明した。
【0024】
次に、再結晶焼鈍板の粒径の変動係数と最終冷間圧延における圧下率および再結晶焼鈍における 600〜750 ℃間の平均昇温速度との関係について調べた結果を、図3に示す。
同図に示したとおり、最終冷間圧延の圧下率を82〜92%とし、かつ再結晶焼鈍における 600〜750 ℃間の平均昇温速度を20℃/s以上とした場合に粒径の変動係数が低くなることが明らかとなった。
特に好ましくは、最終冷延圧下率:87〜90%、 600〜750 ℃間の平均昇温速度:30〜60℃/sの範囲である。
【0025】
再結晶粒径の変動係数が小さいということは、再結晶粒が均一な粒径分布であることを意味している。ここて、最終冷間圧延の圧下率および再結晶焼鈍の 600〜750 ℃間の平均昇温速度を規定することで均一な粒径分布が得られる理由は明らかではないが、次のとおりと考えられる。
すなわち、最終冷間圧延の圧下率を高くすることで、冷間圧延時に生成する再結晶核が均一かつ緻密に分布するものと推定される。この点、再結晶核が不均一に分布すると、再結晶の際に粗に分布した領域の再結晶粒は大きくなる一方、密に分布した領域では再結晶粒が小さくなり、再結晶粒の分布が全体としては不均一になる。ただし、圧下率が92%を超えると再結晶核の方位が変化し、最終磁気特性を劣化させると考えられる。
また、再結晶焼鈍において 600〜750 ℃付近は鋼板の再結晶が開始する温度範囲である。再結晶粒はその方位によって再結晶するのが早い粒と遅い粒が存在することが知られている。再結晶焼鈍の昇温速度が遅い場合には、{111}方位を有するような再結晶するのが早い粒が早期の段階から粒成長し、再結晶が遅い粒との粒径の差異が大きくなるため、粒径の不均一性が際立つものと考えられる。
【0026】
一次再結晶粒の粒径分布を管理する方法として、インヒビターを用いる場合については特公平8−32929 号公報に示されているが、これと比較してインヒビターを用いずTexture Inhibition効果を用いる本発明においては、特に粒径分布の均一性が重要となるため、粒径の変動係数の上限はより厳しくなる。このような厳しい整粒性を有する一次再結晶組織の実現は、最終冷間圧延の圧下率を規定し、かつ再結晶焼鈍時の昇温速度を高速化することにより可能となるのである。
【0027】
次に、本発明において、素材であるスラブの成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.08%以下
C量が0.08%を超えると、脱炭処理を行っても磁気時効の起こらない50 ppm以下まで低減することが困難になるので、Cは0.08%以下に制限した。好ましくは0.025 %以下である。
Si:2.0 〜8.0 %
Siは、鋼の電気抵抗を高めて鉄損の低減に有効に寄与するが、含有量が 2.0%に満たないと十分な鉄損低減効果が得られず、一方 8.0%を超えると加工性が著しく劣化して冷間圧延が困難になるので、Si量は 2.0〜8.0 %の範囲に限定した。
Mn:0.005 〜0.50%
Mnは、熱間加工性を良好にするために有用な元素であるが、含有量が 0.005%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.50%を超えると磁束密度の低下を招くので、Mn量は 0.005〜0.50%の範囲とする。
【0028】
Al:100 ppm 以下、N, S, Se:それぞれ 50ppm以下
インヒビター形成元素であるAlは 100 ppm以下、またN, S, Seについてもそれぞれ 50ppm以下、好ましくは 30ppm以下に低減することが、良好に二次再結晶させる上で不可欠である。かかる成分は、極力低減することが磁気特性の観点からは望ましいが、低減するためにコスト高となる場合があるので、かかる問題を生じない上記の範囲内での残存を許容するものとした。
その他、窒化物形成元素であるTi, Nb, B, TaおよびV等についても、それぞれ 50ppm以下に低減することが鉄損の劣化を防止し、良好な加工性を確保する上で有効である。
【0029】
以上、基本成分および抑制成分について説明したが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.005 〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、P:0.005 〜0.50%、Cr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも一種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が 0.005%未満では磁気特性の向上量が小さく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Ni量は 0.005〜1.50%とした。
また、Sn,Sb,Cu, P, Crはそれぞれ、鉄損の向上に有用な元素であるが、いずれも上記範囲の下限値に満たないと鉄損の向上効果が小さく、一方上限量を超えると二次再結晶粒の発達が阻害されるので、それぞれSn:0.01〜0.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜0.50%,P:0.005 〜0.50%,Cr:0.01〜1.50%の範囲で含有させる。
【0030】
次に、本発明の製造工程について説明する。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉、電気炉などを用いる公知の方法で精錬し、必要があれば真空処理などを施したのち、通常の造塊法や連続鋳造法を用いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。
熱間圧延前のスラブ加熱温度は、従来必須であったインヒビターを固溶させるための高温焼鈍を必要としないことから、1250℃以下の低温とすることがコストの面で望ましい。
【0031】
ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は 800〜1100℃の範囲が好適である。というのは、熱延板焼鈍温度が 800℃未満では熱延でのバンド組織が残留し、整粒の一次再結晶組織を実現することが困難になる結果、二次再結晶の発達が阻害され、一方熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎるため、整粒の一次再結晶組織を実現する上で極めて不利だからである。
【0032】
熱延板焼鈍後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施したのち、再結晶焼鈍を行う。最終冷間圧延における圧下率は、前述した理由により82〜92%の範囲に限定される。
上記の冷間圧延において、圧延温度を 100〜250 ℃に上昇させて圧延を行うことや、冷間圧延の途中で 100〜250 ℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことは、ゴス組織を発達させる上で有効である。
【0033】
ついで、再結晶焼鈍を施すが、この再結晶焼鈍においては、前述した理由により、 600〜750 ℃間の平均昇温速度を20℃/s以上とすることが不可欠である。
さらに、この再結晶焼鈍の雰囲気は露点:0℃以下の低酸化性もしくは非酸化性雰囲気とし、鋼板表面の酸化物を極力低減することが良好な加工性を得るために不可欠である。というのは、鋼板表面に酸化物が形成されると、それに伴って表層付近の再結晶粒の粒成長が阻害され、表層とそれ以外とで粒径に差異が生じるからである。
なお、上記の再結晶焼鈍後、浸珪法によってにSi量を増加させる技術を併用してもよい。
【0034】
その後、必要に応じて焼鈍分離剤を適用するが、その際にはフォルステライト被膜を形成するMgOは使用せず、シリカやアルミナ等を用いる。また、塗布を行う際も水分を持ち込まず酸化物生成を抑制する観点から、静電塗布を行うことが有効である。その他、耐熱無機材料シート(シリカ、アルミナ、マイカ)を用いてもよい。
【0035】
ついで、二次再結晶を発現させるために仕上焼鈍を施す。この仕上焼鈍は、二次再結晶を発現させるために 800℃以上の温度で行う必要があり、また二次再結晶を完了させるためには30時間以上保持することが望ましい。好ましくは、850〜950 ℃の範囲で、この温度範囲に保持することにより、好適に仕上焼鈍を終了させることが可能である。
【0036】
上記の二次再結晶焼鈍後、必要に応じて湿潤雰囲気による連続焼鈍を行うことによって容易に脱炭することができる。
また、仕上焼鈍における二次再結晶終了後、焼鈍温度が 900℃以上になった時点で、必要に応じて水素雰囲気を導入して脱炭を進行させることもでき、かくして素材中のCが多い場合でもC量を50 ppm以下まで低減することができる。
【0037】
上記の仕上焼鈍後には、平坦化焼鈍を施して形状を矯正することが、鉄損低減のために有効である。
また、鋼板を積層して使用する場合には、鉄損を改善するために、平坦化焼鈍後、鋼板表面に絶縁コーティングを施すことが有効である。この際、良好な打抜き性を確保するためには樹脂を含有する有機系コーティングが望ましいが、溶接性を重視する場合には無機系コーティングを適用することが望ましい。
【0038】
本発明の電磁鋼板は、フォルステライト被膜のような硬質の酸化被膜をほとんど有しないため、良好な打抜性が確保される。
従って、分割用モータコアやEIコア等の打ち抜き加工を施す材料に好適である。
【0039】
【実施例】
実施例1
表1に示す成分組成になる連鋳スラブを、1100℃で20分の加熱後、熱間圧延により板厚:2.8 mmの熱延板に仕上げた。ついで、 900℃で30秒の熱延板焼鈍後、冷間圧延により板厚:0.35mm(圧下率:87.5%)の冷延板に仕上げたのち、950℃で10秒、雰囲気露点:−45℃の雰囲気中で再結晶焼鈍を施した。この時の 600〜750 ℃間の平均昇温速度は40℃/sとした。
再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を表1に併記する。
なお、変動係数を求めるための粒径測定方法は、鋼板の圧延方向に垂直な面を切り出して、ナイタール液でエッチング後に光学顕微鏡で観察し、視野内の粒を画像処理により楕円近似法で楕円に近似し、その長軸と短軸の平均をその粒の粒径とした。なお、その際のサンプルは、作成した再結晶板の幅方向における両端部と中央部から採取し、板厚全厚について観察した。観察した粒の個数は、両端部と中央部の合計で2500〜3000個であった。
【0040】
その後、コロイダルシリカを主成分とした焼鈍分離剤を塗布したのち、窒素雰囲気中にて 900℃, 75時間の仕上焼鈍を施した。ついで、焼鈍分離剤を除去後、窒素雰囲気中にて 850℃, 15秒の平坦化焼鈍を施したのち、鋼板にアクリル系樹脂および酢酸エチルを主体とする有機コーティング液を塗布し、焼付けて製品板とした。
かくして得られた製品板のW17/50 (磁束密度:1.7 T、周波数:50Hzにおける鉄損)およびB8 (磁化力:800 A/m での磁束密度)について調べた結果を表1に併記する。
【0041】
【表1】
【0042】
同表から明らかなように、本発明に従い、成分組成を調整すると共に、再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を 0.4以下に制御した場合には、とりわけ良好な磁気特性を得ることができた。
【0043】
実施例2
C:0.0021%, Si:3.31%, Mn:0.06%, sol.Al:32 ppm, N:0.0027%, S:16 ppmおよびSb:0.032 %を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼Iと、C:0.032 %, Si:3.30%, Mn:0.07%, sol.Al:13 ppm, N:12ppm , S:16 ppm, Sn:0.010 %およびNi:0.12%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼Jの各連鋳スラブを、1050℃に加熱した後、熱間圧延により表2に示すような種々の板厚とし、 925℃で60秒の熱延板焼鈍後、冷間圧延により表2に示すような種々の圧下率で最終板厚に仕上げた。ついで、925℃で10秒、雰囲気露点:−43℃の雰囲気中で再結晶焼鈍を施した。この時の 600〜750 ℃間の平均昇温速度は25℃/sとした。
再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を表2に併記する。
【0044】
ついで、焼鈍分離剤を塗布することなしに、N2雰囲気中にて 880℃, 75時間の仕上焼鈍を施した。その後、(25%H2+75%N2)雰囲気中にて 870℃, 15秒の平坦化焼鈍を施したのち、鋼板にアクリル系樹脂および酢酸エチルを主体とする有機コーティング液を塗布し、焼付けて製品板とした。
かくして得られた製品板のW17/50 およびB8 について調べた結果を表2に併記する。
【0045】
【表2】
【0046】
同表から明らかなように、最終冷間圧延における圧下率を適正に調整して、再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を 0.4以下に制御することにより、良好な磁気特性を得ることができた。
【0047】
実施例3
実施例2で用いたIの成分を有する連鋳スラブを、1200℃に加熱したのち、熱間圧延により 3.0mm厚の熱延板とし、 875℃で40秒の熱延板焼鈍後、冷間圧延により0.30mmの最終板厚に仕上げた(圧下率:90.0%)。ついで、 875℃で 100秒、雰囲気露点:−25℃の雰囲気中にて再結晶焼鈍を施した。この時、 600〜750℃間の平均昇温速度を表3に示すように種々に変化させた。
再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を表3に併記する。
【0048】
ついで、焼鈍分離剤を塗布することなしに、N2雰囲気中にて 900℃, 100 時間の仕上焼鈍を施した。その後、(25%H2+75%N2)雰囲気中にて 870℃, 15秒の平坦化焼鈍を施したのち、、鋼板にアクリル系樹脂および重クロム酸塩を主体とする有機−無機コーティング液を塗布し、焼付けて製品板とした。
かくして得られた製品板のW17/50 およびB8 について調べた結果を表3に併記する。
【0049】
【表3】
【0050】
同表から明らかなように、再結晶焼鈍における 600〜750 ℃間の平均昇温速度を20℃/s以上として、再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を 0.4以下に制御することにより、良好な磁気特性を得ることができた。
【0051】
実施例4
表1記載の鋼Aの成分を有する連鋳スラブを、1050℃に加熱したのち、熱間圧延により 1.8mm厚の熱延板とし、 875℃で40秒の熱延板焼鈍後、冷間圧延により0.30mmの最終板厚に仕上げた(圧下率:83.3%)。ついで、 820℃で100 秒の再結晶焼鈍を施した。この際、露点を表4 に示すように種々に変化させた。また、600 〜750 ℃間の平均昇温速度は80℃/sとした。
再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を表4に併記する。
【0052】
ついで、SiO2を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、N2雰囲気中にて 900℃に50時間保定後、H2雰囲気中にて1100℃で5時間保定する仕上焼鈍を施した。その後、N2雰囲気にて 820℃で30秒の平坦化焼鈍を施したのち、鋼板にアクリル系樹脂および重クロム酸塩を主体とする有機−無機コーティング液を塗布し、焼付けて製品板とした。
かくして得られた製品板のW17/50 およびB8 について調べた結果を表4に併記する。
【0053】
【表4】
【0054】
同表から明らかなように、再結晶焼鈍を雰囲気露点が0℃以下の低酸化性または非酸化性雰囲気中で行い、再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を 0.4以下に制御することにより、良好な磁気特性を得ることができた。
【0055】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、インヒビター成分を有しない素材を用いて方向性電磁鋼板を製造する場合に、コイル全長および全幅にわたり、高い磁気特性を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜450 である粒界の全体に対する割合(%)を示す。
【図2】 再結晶焼鈍後の粒径の変動係数と磁気特性の関係を示した図である。
【図3】 最終冷間圧延の圧下率と再結晶焼鈍の 600〜750 ℃間の平均昇温速度を変化させた場合における再結晶焼鈍後の粒径の変動係数を示した図である。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.08%以下,Si:2.0〜8.0 %およびMn:0.005〜0.50%を含有する組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、ついで必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで再結晶焼鈍後、焼鈍分離剤を適用しもしくは適用することなしに仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記の鋼スラブ成分中、Alを 100 ppm以下、N, S, Seをそれぞれ50 ppm以下に低減し、再結晶焼鈍前の最終冷間圧延における圧下率を82〜92%とし、再結晶焼鈍を雰囲気露点が0℃以下の雰囲気中で行い、かつ再結晶焼鈍における 600〜750 ℃間の平均昇温速度を20℃/s以上とし、再結晶焼鈍後の鋼板における粒径の変動係数を 0.4以下とすることを特徴とする、フォルステライト被膜を有しない方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1において、鋼スラブが、さらに質量%で、Ni:0.005〜1.50%, Sn:0.01〜0.50%, Sb:0.005〜0.50%, Cu:0.01〜0.50%, P:0.005〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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