JP3956621B2 - 方向性電磁鋼板 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に商用周波数より高い 100〜10000 Hzの周波数で使用される電源用変圧器や制御素子の鉄心材料として好適な高周波鉄損の良好な方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高周波用鉄損の優れた方向性電磁鋼板を製造する方法として、高度に発達したゴス組織からなる方向性電磁鋼板を素材として用い、60〜80%の圧下率で冷間圧延を施したのち一次再結晶焼鈍を施すことにより、ゴス組織が発達し、かつ平均粒径が1mm以下の微細結晶粒を有する板厚:0.15mm以下の製品を得る技術が、特公平7−42556 号公報において開示されている。
しかしながら、この方法は、方向性電磁鋼板製品板のフォルステライト被膜を除去し、さらに圧延、再結晶焼鈍を施すという極めてコストが高い方法であり、大量生産には適さない。
【0003】
また、インヒビタを使用せず、表面エネルギーを駆動力として板厚の薄い方向性電磁鋼板を製造する方法が、特開昭64−55339 号、特開平2−57635 号、特開平7−76732 号および特開平7−197126号各公報に開示されている。
しかしながら、表面エネルギーを使用するためには、表面酸化物の生成を抑制した状態で高温の最終仕上焼鈍を行わなければならないという問題がある。例えば、特開昭64−55339 号公報には、1180℃以上の温度で、最終仕上焼鈍の雰囲気として、真空中または不活性ガスまたは水素ガスまたは水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いる必要があることが記載されている。また、特開平2−57635 号公報では、950 〜1100℃の温度で、不活性ガス雰囲気または水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスの混合雰囲気を用い、さらにこれらを減圧することが推奨されている。さらに、特開平7−197126号公報でも、1000〜1300℃の温度で、酸素分圧が 0.5Pa以下の非酸化性雰囲気または真空中で最終仕上焼鈍を行うことが記載されている。
【0004】
上述したとおり、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得ようとすると、最終仕上焼鈍の雰囲気は不活性ガスや水素が用いられ、さらに推奨される条件として、真空とすることが求められるが、高温と真空の両立は設備的には極めて難しく、コスト高となる。また、表面エネルギーを利用した場合には、原理的には{110}面の選択のみが可能であり、圧延方向に<001>方向が揃ったゴス粒の成長が選択されるわけではない。
方向性電磁鋼板は、圧延方向に磁化容易軸<001>を揃えることによって磁気特性を向上させるものであるから、{110}面の選択のみでは原理的に良好な磁気特性は得られない。
従って、表面エネルギーを利用する方法で良好な磁気特性を得ることのできる圧延条件や焼鈍条件は極めて限られたものになり、それ故磁気特性は不安定である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の実状に鑑み開発されたもので、ゴス方位が高度に発達し、従って磁束密度が高く、また二次再結晶粒内に微細粒が適度に存在し、従って高周波域での鉄損に優れる方向性電磁鋼板を提案することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、先に、インヒビタ成分を含有しない素材において、ゴス方位結晶粒を二次再結晶により発達させる技術を提案した(特開2000−129356号公報)が、本発明は、上記の技術を、高周波変圧器に適用すべく鋭意研究を重ねた末に、開発されたものである。
【0007】
以下、本発明を成功に至らしめた実験について説明する。
質量%で、C:0.0025%、Si:3.5 %およびMn:0.04%を含有し、かつAlを50ppm 、Nを10ppm 、その他の成分を 30ppm以下に低減し、しかもインヒビタ成分を含まない組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1250℃に加熱後、熱間圧延により 1.6mm厚の熱延板としたのち、窒素雰囲気中にて 850℃で60秒間均熱したのち、急冷した。ついで、冷間圧延により0.20mmの最終板厚としたのち、水素:50 vol%、窒素:50 vol%、露点:−30℃の雰囲気中にて 920℃で均熱10秒間の再結晶焼鈍を行った。
その後、焼鈍分離剤を適用しないサンプルおよび焼鈍分離剤としてMgOを水と混合してスラリーとして塗布したサンプルを作成し、これらのサンプルに最終仕上焼鈍を施した。この最終仕上焼鈍は、露点:−20℃の窒素雰囲気中にて常温から 850℃まで50℃/hの速度で昇温し、この温度に50時間保定したのち、さらに25℃/hの速度で種々の温度まで昇温した。
【0008】
かくして得られた製品板の鉄損W10/1000(周波数:1000Hzで 1.0Tまで励磁した時の鉄損)について調べた結果を、最終仕上焼鈍到達温度との関係を、図1に示す。
また、同図には、比較のため、同じ板厚の市販の方向性電磁鋼板および無方向性電磁鋼板の鉄損 (W10/1000)について調べた結果も併せて示す。なお、市販の方向性電磁鋼板および無方向性電磁鋼板の最終仕上焼鈍到達温度は不明なので図の右縦軸上に示した。
同図に示したように、焼鈍分離剤を適用しないサンプルでは、最終仕上焼鈍の到達温度が 850〜950 ℃の範囲で特に良好な鉄損が得られ、1000℃を超えると劣化することが判明した。
一方、焼鈍分離剤としてMgOを適用したサンプルでは、焼鈍分離剤を適用しないサンプルに比べて、最終仕上焼鈍到達温度の如何にかかわらず、1000Hzにおける鉄損は劣っており、最良でも市販の方向性電磁鋼板と同等の鉄損しか得られなかった。
【0009】
次に、焼鈍分離剤を適用しない場合に、良好な高周波鉄損が得られた理由を解明するために、上記の実験で得られた最終仕上焼鈍到達温度が 850℃である焼鈍分離剤を適用しないサンプルとMgOを適用したサンプルおよび市販の方向性電磁鋼板について、表面酸化被膜をフッ酸による化学研磨によって除去すると共に表面を平滑化して、商用周波数での鉄損W17/50 および高周波での鉄損W10/1000を測定した結果を、それぞれ比較して図2(a), (b)に示す。
同図に示したとおり、焼鈍分離剤を適用したサンプルでは、表面の酸化被膜を除去し、さらに表面を平滑化することにより、1000Hzにおける高周波鉄損が大幅に改善され、焼鈍分離剤を適用しなかったサンプルの鉄損に近い良好な値になった。また、方向性電磁鋼板についても、表面被膜の除去により若干の高周波鉄損の改善が認められた。
この点、焼鈍分離剤を適用しなかったサンプルでは、表面被膜の除去前後で、高周波鉄損の変化はほとんど認められなかった。
【0010】
図2の結果は、鋼板表面に形成される酸化被膜が高周波鉄損を大幅に劣化させるということを示唆している。また、被膜除去後の鉄損を比較すると、方向性電磁鋼板よりも、本実験のサンプルの方が鉄損が良好であった。
この実験では、両者とも表面状態は電解研磨によって鏡面化されているので、表面状態以外にも鉄損改善因子が存在することが判明した。
【0011】
そこで、次に、その因子を探るべく、良好な高周波鉄損が得られた焼鈍分離剤を適用しないサンプルについて、その結晶組織を調査した。
図3に、850 ℃で保定終了後の結晶組織について調べた結果を示す。
同図によれば、数cmもの粗大な二次再結晶粒の内部に粒径が0.15〜1.00mm程度の微細結晶粒が散在していることが分かる。
【0012】
そして、このような粒径が0.15〜1.00mmの範囲の微細結晶粒の存在頻度と高周波における鉄損との相関も大きいことが判明した。
図4に、微細粒の存在頻度と高周波鉄損 (W10/1000)の関係について調べた結果を示す。ここに、微細粒の存在頻度は、鋼板表面の3cm角の領域内での粒径(円相当径)が0.15〜1.00mmの微細結晶粒の数を計測して求めた。
同図に示したとおり、二次再結晶粒内部における微細結晶粒の存在頻度が高くなるほど、特に10個/cm2 以上の頻度で高周波鉄損(W10/1000 )が格段に向上することが新たに究明された。
【0013】
次に、高周波鉄損を改善するための製造条件の適正化に関する知見を得るために、高周波鉄損とゴス方位粒面積率との関係、さらにはゴス方位粒面積率に及ぼす冷延前の結晶粒径の影響について調査した。なお、冷延前の結晶粒径は、熱延板焼鈍条件を変更することにより、種々に変化させた。また、ゴス方位粒面積率とは、ゴス方位からのずれ角が20°以内である結晶粒の存在頻度を意味する。
すなわち、質量%で、C:0.003 %、Si:3.4 %、Mn:0.06%を含有し、かつAlを 50ppm、Nを 22ppm、その他の成分を 30ppm以下に低減し、しかもインヒビタ成分を含まない組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1200℃に加熱後、熱間圧延により 1.6mm厚の熱延板としたのち、この熱延板を窒素雰囲気中にて種々の温度、均熱時間で焼鈍したのち、急冷した。その後、最終冷延前の粒径を測定したのち、 200℃の温度での冷間圧延を行って0.20mmの最終板厚とした。
ついで水素:50 vol%、窒素:50 vol%、露点:−50℃の雰囲気中にて 930℃で均熱15秒の再結晶焼鈍を行ったのち、焼鈍分離剤を適用せずに最終仕上焼鈍を施した。この最終仕上焼鈍は、露点:−20℃の窒素雰囲気中にて常温から 875℃まで50℃/hの速度で昇温し、この温度に50時間保定する条件で行った。
かくして得られた製品板のゴス方位面積率および高周波鉄損(W10/1000 )を測定した。
【0014】
図5に、高周波鉄損(W10/1000 )とゴス方位粒面積率との関係を示す。
同図によれば、ゴス方位粒面積率が50%以上になると市販の方向性電磁鋼板を凌ぐ高周波鉄損が得られている。
また、図6に、冷延前粒径とゴス方位粒面積率の関係を示したが、冷延前粒径が 150μm 未満の場合に、50%以上のゴス方位粒面積率が確保されている。
この結果、良好な高周波鉄損を得るための好適製造条件として、最終冷延前の粒径を 150μm 未満にする必要があることが判明した。
【0015】
以上の実験結果をまとめると、インヒビタを含有しない高純度素材を用い、かつ最終仕上焼鈍時におけるフォルステライト被膜の形成を抑制して平滑な表面とし、さらに最終仕上焼鈍における到達温度を 975℃以下に抑えて、二次再結晶粒内に微細結晶粒を残存させることによって、従来の方向性電磁鋼板に比べて高周波鉄損が大幅に改善されることが知見された。
また、最終冷延前粒径を 150μm 未満にすることが、ゴス方位粒面積率を50%以上確保して良好な高周波鉄損を得る上で有効であることも併せて判明した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、Si:2.0〜8.0 %および Mn 0.005 3.0 を含み、残部は Fe および不可避的不純物の組成になり、粒径が1mm以下の微細粒を除いて測定した鋼板表面における二次再結晶平均粒径が5mm以上で、かつ二次再結晶粒の内部に粒径が0.15mm以上、1.00mm以下の微細結晶粒を10個/cm2 以上の頻度で含み、さらに{110}<001>方位からの方位差が20°以内の結晶粒の面積率が50%以上で、しかもフォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜を有しないことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【0017】
2.上記1において、鋼板が、質量%で、さらに、Ni:0.005〜1.50%、Sn:0.01〜1.50%、Sb:0.005〜0.50%、Cu:0.01〜1.50%、P:0.005〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【0020】
【作用】
本発明を完成させるに至った新知見の一点目、すなわち焼鈍分離剤を適用しないか、または焼鈍分離剤としてMgOを使用しないことでフォルステライト被膜の形成を排除することにより、高周波鉄損が改善する理由については必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように考えている。
焼鈍分離剤として一般的に適用されるMgOは、脱炭焼鈍および最終仕上焼鈍時に形成されるSiO2と高温で反応してフォルステライト (Mg2SiO4)下地被膜を鋼板表面に形成させ、リン酸塩等を主体とした張力コーティングとの密着性を確保する役割を担っている。フォルステライト被膜と地鉄との界面は俗にアンカー部と呼ばれる部分であり、酸化物が複雑な形状で地鉄と混在している。このような複雑な構造は、リン酸塩等を主体とした張力コーティングとの密着性を確保するのに効果がある一方で、地鉄表面の平滑性を著しく損なっている。
高周波域で磁化する場合、商用周波数の場合に比較して、より表面での磁化が優先して起こる表皮効果が現れる。そのため、高周波鉄損は、平滑度の高い表面であるフォルステライト被膜を有しない場合のほうが良好となるものと推察される。
【0021】
次に、最終仕上焼鈍における到達温度を 975℃以下に抑えて微細結晶粒を残存させることが、鉄損の低減に寄与する理由については必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように考えている。
すなわち、二次再結晶粒の内部の微細結晶粒の存在は、磁区を細分化して渦電流損失を低減するものと考えられる。通常のインヒビタを用いる技術では、975℃を超える高温焼鈍でインヒビタ成分(S, Se, N等)を純化しなければ低鉄損が得られないが、本発明のようにインヒビタを使用しない方法では、純化を行わなくとも二次再結晶が完了すれば低鉄損が得られるため、仕上焼鈍における到達温度を低めに抑え、微細粒を残存させる方法が有効に作用するものと考えられる。
【0022】
また、最終冷延前の粒径の粗大化を抑制することにより、ゴス方位粒面積率が高まり高周波鉄損が向上することについては、冷延前粒径を微細に保つことで、一次再結晶集合組織の{111}組織の集積度が高まり、ゴス方位二次再結晶粒の成長に有利な一次再結晶集合組織が形成されるためと考えられる。
【0023】
さらに、本発明において、インヒビタ成分を含まない鋼において二次再結晶が発現する理由は、以下のように考えている。
発明者らは、ゴス方位粒が二次再結晶する理由について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを見出し、Acta Materia1 45巻(1997)1285ページに報告した。
方向性電磁鋼板の二次再結晶直前の状態である一次再結晶組織を解析し、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(%)を調査した結果を図7に示す。図7において、結晶方位空間はオイラー角(Φ1 、Φ、Φ2 )のΦ2 =45°断面を用いて表示しており、ゴス方位など主な方位を模式的に表示してある。
【0024】
図7は、方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界の存在頻度を示したものであるが、ゴス方位が最も高い頻度を持つ。方位差角:20〜45°の粒界は、C.G.Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻 (1949) P.368 )によれば、高エネルギー粒界である。高エネルギー粒界は、粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。粒界拡散は、粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい高エネルギー粒界の方が粒界拡散が速い。
二次再結晶は、インヒビタと呼ばれる析出物の拡散律速による成長・粗大化に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上焼鈍中に優先的に粗大化が進行するので、ゴス方位となる粒の粒界が優先的にピン止めがはずれて、粒界移動を開始しゴス方位粒が成長すると考えられる。
【0025】
発明者らは、上記の研究をさらに発展させて、二次再結晶におけるゴス方位粒の優先的成長の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビタの役割は、高エネルギー粒界であるゴス方位粒の粒界と他の粒界との移動速度差を生じさせることにあることを突き止めた。
従って、この理論に従えば、インヒビタを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、ゴス方位に二次再結晶させることが可能となる。
【0026】
鋼中に存在する不純物元素は、粒界とくに高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度に差がなくなっているものと考えられる。
従って、素材の高純度化によって、上記のような不純物元素の影響を排除することにより、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、ゴス方位粒に二次再結晶させることが可能になる。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の構成用件の限定理由について述べる。
まず、本発明の電磁鋼板の成分としては、質量%でSi:2 %〜8.0 %を含有する必要がある。というのは、Siが2%に満たないと十分な鉄損改善効果が得られず、一方8%を超えると加工性が劣化するからである。
次に、 Mn については、後述するスラブ成分についての説明と同じ理由で、 0.005 3.0 質量%含有させるものとする。
また、粒径が1mm以下の微細粒を除いて測定した鋼板表面における二次再結晶平均粒径が5mm以上であることが必要である。というのは、二次再結晶粒径が5mm未満では、ゴス方位粒面積率が低下し、良好な高周波鉄損が得られないからである。
【0028】
さらに、本発明の鋼板は、二次再結晶粒の内部に粒径0.15mm以上、1.00mm以下の微細結晶粒を10個/cm2 以上の頻度で含有することが、高周波鉄損低減のために必要である。
ここに、微細粒の粒径が0.15mm未満の場合あるいは1.00mm超の場合には、磁区の細分化効果が小さく鉄損低減に寄与しないので、粒径が0.15〜1.00mmの範囲の微細結晶粒の存在頻度に着目するが、かかる微細結晶粒の存在頻度が10個/cm2に満たないと、磁区細分化効果が減少して、十分な高周波鉄損の改善が望めない。
【0029】
また、{110}<001>方位からの方位差が20°以内結晶粒の面積率いわゆるゴス方位粒面積率が50%以上、好ましくは80%以上であることも良好な高周波鉄損を得る上での必須の条件である。
というのは、ゴス方位粒面積率が50%未満では、既存の方向性電磁と同様な高周波鉄損になってしまい、本発明による電磁鋼板の優位性がなくなるからである。
【0030】
さらに、鋼板表面にはフォルステライト (Mg2SiO4)を主体とした下地被膜を有しないことが、磁気的に平滑な平面を有し、高周波鉄損を確保するための大前提である。
【0031】
次に、本発明の電磁鋼板を製造する際の素材スラブ成分の限定理由をについて説明する。なお、以下に示す成分組成の%表示は「質量%」である。
C:0.08%以下
素材段階でC量が0.08%を超えていると、脱炭焼鈍を施してもCを磁気時効が起こらない 50ppm以下まで低減することが困難になるので、C量は0.08%以下に制限しておく必要がある。特に、素材段階で 50ppm以下に低減しておくことが、再結晶焼鈍を乾燥雰囲気中で行い脱炭を省略して平滑な製品表面を得る上で望ましい。
【0032】
Mn:0.005 〜3.0 %
Mnは、熱間加工性を良好にするために必要な元素であるが、0.005 %に満たないその添加効果に乏しく、一方 3.0%を超えると磁束密度が低下するので、Mn量は0.005 〜3.0 %とする。
なお、Siは、製品板である電磁鋼板について、上述したところと同じである。
【0033】
Al:100 ppm 以下、N:50 ppm以下
Alは 100 ppm以下、またNは 50ppm以下好ましくは 30ppm以下まで低減することが、良好に二次再結晶を発現させる上で必要である。
さらに、インヒビタ形成元素であるSやSeについても 50ppm以下、好ましくは30 ppm以下に低減することが有利である。
その他、窒化物形成元素であるTi, Nb, B, Ta, V等についても、それぞれ50ppm 以下に低減することが鉄損の劣化を防ぎ、加工性を確保する上で有効である。
【0034】
以上、必須成分および抑制成分について説明したが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
すなわち、熱延板組織を改善して高周波鉄損を向上させる目的で、Niを添加することができる。しかしながら、添加量が 0.005%未満では高周波鉄損の向上が小さく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定になり高周波鉄損が劣化するので、Ni添加量は 0.005〜1.50%とすることが好ましい。
また、電気抵抗を増加させて高周波鉄損を向上させる目的で、Sn:0.01〜1.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜1.50%、P:0.005 〜0.50%およびCr:0.01〜1.5 %等を単独または複合して添加することができる。しかしながら、それぞれの添加量が下限に満たないと高周波鉄損の向上効果が小さく、一方上限を超えると二次再結晶粒の発達が抑制され高周波鉄損が劣化するので、いずれも上記の範囲で添加する必要がある。
【0035】
次に、本発明鋼板の製造方法について説明する。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼から、通常、造塊法や連続鋳造法を用いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。
【0036】
ついで、熱延板焼鈍を施す。熱延板焼鈍温度は、再結晶が進行する 800℃以上とするのが有利であるが、{110}<001>方位からの方位差が20°以内結晶粒の面積率を50%以上確保して、高周波鉄損を向上させるためには、最終冷延前の粒径を 150μm 未満、好ましくは 120μm 以下とすることが、現行の方向性電磁鋼板のレベルを超える高周波鉄損を得る上で有効である。
ここに、最終冷延前粒径を 150μm 未満とするためには、熱延板焼鈍あるいは中間焼鈍の温度を1000℃以下とすることが好適である。
【0037】
上記の熱延板焼鈍後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施したのち、再結晶焼鈍を行い、Cを磁気時効の起こらない 50ppm以下、好ましくは30ppm 以下に低減する。
なお、この冷間圧延に際しては、圧延温度を 100〜250 ℃に上昇させて行うこと、および冷間圧延途中で 100〜250 ℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことが、ゴス組織を発達させる点で有効である。
【0038】
最終冷延後の再結晶焼鈍では、再結晶焼鈍後の粒径を30〜80μm の範囲に制御する必要がある。というのは、再結晶焼鈍後の粒径が30μm に満たないと、ゴス方位からずれた方位を持つ二次再結晶粒が発生して、高周波鉄損が劣化し、一方再結晶焼鈍後の粒径が80μm を超えると二次再結晶が起こらなくなるため、やはり高周波鉄損が劣化するからである。ここに、再結晶焼鈍後の粒径を30〜80μmに制御するためには、再結晶焼鈍は 850〜975 ℃の温度範囲の短時間均熱処理を連続焼鈍で行うことが経済的に有利である。
なお、最終冷間圧延後あるいは再結晶焼鈍後に浸珪法によってSi量を増加させる技術を併用してもよい。
【0039】
その後、必要に応じて焼鈍分離剤を適用するが、その際にはシリカと反応してフォルステライトを形成するMgOは使用しないことが、本発明において肝要な点である。
そのためには、焼鈍分離剤を適用しないことが最も望ましいが、焼鈍分離剤を適用する場合には、コロイド状シリカ、アルミナ粉末およびBN粉末など、シリカと反応しない物質を用いる。
【0040】
ついで、最終仕上焼鈍を施すことにより二次再結晶組織を発達させる。この最終仕上焼鈍は二次再結晶発現のために 800℃以上で行う必要があるが、 800℃までの加熱速度は、磁気特性に大きな影響を与えないので任意の条件でよい。一方、最高到達温度は 975℃以下とすることが、二次再結晶粒内部に粒径が0.15mm以上、1.00mm以下の微細結晶粒を散在させることによって、高周波鉄損を改善する上で必要である。
【0041】
なお、鋼板を積層して使用する場合には、鉄損を改善するために、鋼板表面に絶縁コーティングを施すことが有効である。良好な打抜き性を確保するために樹脂を含有する有機系コーティングが望ましいが、溶接性を重視する場合には無機系コーティングを適用する。
【0042】
【実施例】
実施例1
C:0.002 %,Si:3.5 %,Mn:0.05%およびSb:0.02%を含有し、かつAlを40 ppm,Nを9ppm ,その他の成分を20ppm 以下に低減した組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1100℃, 20分のスラブ加熱後、熱間圧延により 2.6mm厚の熱延板としたのち、1000℃, 60秒間均熱の熱延板焼鈍を施した。その後、常温による1回目の冷間圧延にて1.60mmの中間板厚としたのち、850 ℃, 10秒間均熱の中間焼鈍を行った。中間焼鈍後の最終冷延前粒径は70μm であった。
ついで、途中板厚:0.90mmの時に 200℃で5時間の時効処理を挟んで常温による2回目の冷間圧延により0.20mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:75 vol%、窒素:25 vol%の雰囲気中にて、表1に示す条件で再結晶焼鈍を行った。再結晶焼鈍後の結晶粒径を測定したのち、焼鈍分離剤を適用せずに、露点:−50℃、窒素:25 vol%、水素:75 vol%の混合雰囲気中にて 800℃までを50℃/hr の速度で昇温し、 800℃以上を10℃/hの速度で 830℃まで昇温し、この温度に50時間保持する条件で最終仕上焼鈍を行った。
その後、重クロム酸アルミニウム、エマルジョン樹脂およびエチレングリコールを混合したコーティング液を塗布し 300℃で焼き付けて製品とした。
【0043】
かくして得られた製品板について、1mm以下の微細粒を除いて鋼板表面における二次再結晶平均粒径を測定した。
また、二次再結晶粒の内部における粒径:0.15mm以上、1.00mm以下の微細結晶粒の存在頻度を、鋼板表面の3cm角の領域内での微細結晶粒の数を計測して求めた。
さらに、製品板の結晶方位をX線回折法を用いて30×280 mmの範囲について測定し、{110}<001>方位からのずれ角が20°以内である結晶粒の頻度(ゴス方位粒面積率)を測定した。
またさらに、400 Hzおよび1000Hzの周波数での高周波鉄損(周波数:400 Hz,1000Hz)を測定した。
得られた結果を表1に併記する。
なお、表1には、比較のため、同じ板厚:0.20mmの方向性電磁鋼板および無方向性電磁鋼板について、同様な調査を行った結果も併せて示す。
【0044】
【表1】
Figure 0003956621
【0045】
同表に示したとおり、本発明の要件を満足する発明例はいずれも、従来の方向性電磁鋼板よりも優れた高周波鉄損が得られている。
【0046】
実施例2
C:0.003 %,Si:3.6 %およびMn:0.12%を含有し、かつAlを 30ppm、Nを10 ppmに低減した組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1200℃, 20分のスラブ加熱後、熱間圧延により 2.2mmの熱延板としたのち、 900℃,30秒間均熱の条件で熱延板焼鈍を行ったのち、常温における1回目の冷間圧延で0.30mmに仕上げた。ついで、表2で示す条件で中間焼鈍を行ったのち、常温にて2回目の冷間圧延を施して0.10mmの最終板厚に仕上げた。
ついで、水素:75 vol%、窒素:25 vol%、露点:−50℃の雰囲気中にて 900℃, 10秒間均熱の再結晶焼鈍を行った。再結晶焼鈍後の粒径を測定したのち、コロイド状シリカを焼鈍分離剤として塗布してから、常温から 900℃まで30℃/hの速度で 900℃まで昇温し、この温度に50時間保持する最終仕上焼鈍を行った。
その後、重クロム酸アルミニウム、エマルジョン樹脂およびエチレングリコールを混合したコーティング液を塗布し 300℃で焼き付けて製品とした。
【0047】
かくして得られた製品板について、実施例1と同様にして、二次再結晶粒径、微細結晶粒の存在頻度ゴス方位粒面積率および各周波数での高周波鉄損を測定した。
得られた結果を表2に併記する。
なお、表2には、比較のため、同じ板厚:0.10mmの 6.5%Si組成になる無方向性電磁鋼板について、同様な調査を行った結果も併せて示す。
【0048】
【表2】
Figure 0003956621
【0049】
同表に示したとおり、本発明の要件を満足する発明例はいずれも、従来の 6.5%Si無方向性電磁鋼板よりも優れた高周波鉄損が得られている。
【0050】
実施例3
表3に示す成分組成になる鋼スラブを、1160℃に加熱後、熱間圧延により 1.6mm厚の熱延板とし、ついで 850℃, 均熱30秒の条件で熱延板焼鈍を行ったのち、冷間圧延により0.23mmの最終板厚に仕上げた。この時、最終冷延前の粒径は40〜60μm であった。
ついで、水素:50 vol%、窒素:50 vol%、露点:−30℃の雰囲気中にて 950℃で均熱10秒の再結晶焼鈍を施した。再結晶焼鈍後の粒径を測定したのち、焼鈍分離剤を適用せずに、 850℃まで10℃/hの速度で昇温し、この温度に75時間保持する最終仕上焼鈍を露点が−40℃の窒素雰囲気中で行った。
その後、リン酸アルミニウム、重クロム酸カリウムおよびホウ酸を混合したコーティング液を塗布し 300℃で焼き付けて製品とした。
【0051】
かくして得られた製品板について、実施例1と同様にして、二次再結晶粒径、微細結晶粒の存在頻度ゴス方位粒面積率および周波数:1000Hzでの高周波鉄損を測定した。
得られた結果を表4に示す。
なお、同表には、比較のため、同じ板厚:0.23mmの方向性電磁鋼板について、同様な調査を行った結果も併せて示す。
【0052】
【表3】
Figure 0003956621
【0053】
【表4】
Figure 0003956621
【0054】
表4に示したとおり、本発明の要件を満足する発明例はいずれも、従来の方向性電磁鋼板よりも優れた高周波鉄損が得られている。
【0055】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、インヒビタを含有しない高純度成分の素材を用いて、高周波鉄損に優れた方向性電磁鋼板を安定して得ることができる。
また、この発明では、素材中にインヒビター成分を含有しないので、スラブの高温加熱や脱炭焼鈍、高温純化焼鈍などを施す必要がないので、低コストにて大量生産可能であるという大きな利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 仕上焼鈍到達温度と高周波鉄損(W10/1000 )との関係を示したグラフである。
【図2】 表面酸化被膜の除去前、除去後における鉄損の変化を示したグラフである。
【図3】 最終仕上焼鈍後の電磁鋼板の現象組織を示した写真である。
【図4】 二次再結晶粒内の微細粒個数と高周波鉄損(W10/1000 )との関係を示したグラフである。
【図5】 高周波鉄損(W10/1000 )とゴス方位粒面積率との関係を示したグラフである。
【図6】 最終冷延前の粒径とゴス方位粒面積率との関係を示したグラフである。
【図7】 方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界の存在頻度を示した図である。

Claims (2)

  1. 質量%で、Si:2.0〜8.0 %および Mn 0.005 3.0 を含み、残部は Fe および不可避的不純物の組成になり、粒径が1mm以下の微細粒を除いて測定した鋼板表面における二次再結晶平均粒径が5mm以上で、かつ二次再結晶粒の内部に粒径が0.15mm以上、1.00mm以下の微細結晶粒を10個/cm2 以上の頻度で含み、さらに{110}<001>方位からの方位差が20°以内の結晶粒の面積率が50%以上で、しかもフォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜を有しないことを特徴とする方向性電磁鋼板。
  2. 請求項1において、鋼板が、質量%で、さらに、Ni:0.005〜1.50%、Sn:0.01〜1.50%、Sb:0.005〜0.50%、Cu:0.01〜1.50%、P:0.005〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板。
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