JP4259037B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁気特性および被膜特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に高磁束密度を達成するために副インヒビターを含有させた場合に懸念されるフォルステライト被膜の劣化を効果的に防止しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
変圧器や発電機の鉄心材料として使用される方向性電磁鋼板には、高磁束密度でかつ低鉄損であることが最も重要な特性として要求される。
今日まで、方向性電磁鋼板の低鉄損化を実現するために様々な手段が講じられてきたが、その中でも最終仕上げ焼鈍後の鋼板の結晶方位を、ゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位に高度に集積させることは、最も重要視されてきた開発目標の一つである。というのは、鉄結晶の磁化容易軸方向である結晶方位<001>が圧延方向に高度に集積することにより、圧延方向への磁化に要する磁化力が小さくなり、保磁力が低下する結果、ヒステリシス損ひいては鉄損が低減するからである。
【0003】
その他、方向性電磁鋼板の重要な要求特性として、磁化した際の騒音が小さいことが挙げられるが、この問題も結晶方位をゴス方位に揃えることによって大幅に改善される。
すなわち、変圧器で生じる騒音の主な原因は、鉄心素材の磁歪振動や電磁振動であることが知られているが、結晶方位のゴス方位への集積度を向上させると、磁歪振動の原因となる90°磁区の生成が抑制されると同時に、励磁電流が低下して電磁振動が抑制され、これらの結果として騒音が低減されるからである。
【0004】
このように、方向性電磁鋼板にとって、結晶方位<001>を圧延方向へ集積させることは最も重要な課題であるといえる。
ここで、結晶方位の集積度の指標としては、B8 (磁化力:800 A/m における磁束密度)が用いられる場合が多く、方向性電磁鋼板の開発はこのB8 の向上を大きな目標として推進されている。
また、鉄損の代表的な値としては、励磁磁束密度:1.7 T, 励磁周波数:50Hzの場合におけるエネルギー損失であるW17/50 が主に使用される。
【0005】
このような方向性電磁鋼板の二次再結晶粒組織は、最終仕上げ焼鈍中の二次再結晶と呼ばれる現象を通じて形成され、この二次再結晶によりゴス方位の結晶粒を優先的に巨大成長させて、所望の磁気特性を有する製品を得る。
上記したような二次再結晶粒の集積を効果的に促進させるためには、一次再結晶粒の成長を選択的に抑制するインヒビターと呼ばれる析出分散相を均一かつ適正なサイズで形成することが重要である。このインヒビターの存在により、一次再結晶粒の正常粒成長が抑制され、最終仕上げ焼鈍中に高温まで細かい一次再結晶の状態が保持されると共に、良好な方位の結晶粒の成長に対する選択性が高まるため、高磁束密度が実現されるのである。一般に、インヒビターが強力で正常粒成長抑制力が強いほど高い方位集積度が得られると考えられている。
【0006】
このようなインヒビターとしては、MnS,MnSe, Cu2-XS, Cu2-XSe, AlNおよびBN等、鋼への溶解度の小さい物質が用いられる。例えば、特公昭33−4710号公報や特公昭40−15644 号公報には、素材中にAlを含有させ、最終冷延圧下率を81〜95%の高圧下にすると共に最終冷延前の焼鈍で強力なインヒビターであるAlNを析出させる技術が開示されている。
【0007】
また、上記のインヒビター成分に加えて、Ni、Sb、P、Cr、Te、BiおよびPb等を付加的に添加することは、二次再結晶粒の方位集積度の向上に対して有効であることが知られている。
これらの付加的な副インヒビター元素は、結晶粒界上や鋼板表面に偏析することによって、主インヒビターであるMnS、MnSe、 Cu2-xS、 Cu2-xSe、AlN等と共同して正常粒成長抑制力を強化し、磁気特性を高めることが知られている。
【0008】
しかしながら、これらの副インヒビターを含有する鋼材を素材として用いた場合、最終仕上げ焼鈍中に鋼板表面に生じるフォルステライト被膜の形成が不良となり、製品の被膜外観や絶縁コーティングの密着性が劣化することが知られている。
このため、このようなフォルステライト被膜の形成不良に対しては、最終仕上げ焼鈍の際に用いる焼鈍分離剤の含水率を 0.3〜3%の範囲に調節する方法(特開平11−229036号公報)、脱炭焼鈍板の酸素目付量を 550〜850ppmの範囲に調整する方法(特開平10−152725号公報)、焼鈍分離剤に用いるMgOのIg−Loss値を0.4 〜1.5 %に調整する方法(特開平10−25516 号公報)、最終仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を適正に調整する方法(特開平9−3542号公報)など多くの改善策が提案されているものの、いずれも満足いくほどの被膜改善効果を得ることはできなかった。
すなわち、上記した従来技術を用いることによって、幾分かの被膜改善効果は期待できるものの、副インヒビターに起因した被膜の劣化を完全に防止することはできず、外観の良好な製品を製造するには至っていないのが現状である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記したような副インヒビターを含有させた場合に生じる被膜欠陥を効果的に防止することにより、外観および密着性に優れるフォルステライト被膜を有しかつ磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、副インヒビターを含有させた素材におけるフォルステライト被膜の劣化原因を調査したところ、最終仕上げ焼鈍中に表層部で副インヒビター元素の濃化が起こり、このような表層の濃化がフォルステライト被膜形成反応を妨害する結果、被膜の劣化が生じることが究明された。
また、上記の原因による被膜の劣化を防止するためには、焼鈍分離剤中にアルカリ金属を極微量含有させること、またより一層の改善のためには焼鈍分離剤の主剤であるマグネシアの活性度分布を適正化すること、さらには脱炭焼鈍(一次再結晶焼鈍を含む。以下同じ)工程における加熱領域での雰囲気条件を調整することにより、被膜形成に有害な元素の表層部への濃化を抑制することが有効であるとの知見を得た。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0011】
すなわち、この発明の要旨構成は次のとおりである。
1.C:0.01〜0.10mass%およびSi:1.0〜5.0mass%を含み、かつ主インヒビター成分と共に、副インヒビター成分を含有し、残部は Fe および不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで焼鈍処理を含む1回または2回以上の冷間圧延で最終板厚にしたのち、脱炭焼鈍を施し、ついで焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
主インヒビターとして Al N,BN, Mn S, MnSe の少なくともいずれかを用い、 Al Nを用いる場合には、 Al : 0.01 〜 0.04mass %、N: 30 〜 120ppm を含有させ、BNを用いる場合には、B: 0.001 〜 0.015mass %、N: 30 〜 120ppm を含有させ、 Mn Sおよび/または MnSe を用いる場合には、 Mn : 0.03 〜 0.10mass %、Sと Se の合計量: 0.01 〜 0.03mass %を含有させ、
副インヒビター成分として、Ni:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、 Cr:0.02〜1.50mass%、Te:0.003〜1.50mass%、Bi:0.003〜1.50mass%およびPb:0.003〜1.50mass%のうちから選んだ少なくとも一種を含有させると共に、
上記脱炭焼鈍工程を水蒸気および H 2 を含む雰囲気中で行い、加熱領域の露点を 40 〜 70 ℃の範囲に規制した上で、雰囲気の水素−水蒸気分圧(P [H 2 O]/ P [H 2 ] )が 0.25 〜 0.70 となるように H 2 分圧を調整し、さらに
マグネシアを主剤とする焼鈍分離剤中に、アルカリ金属化合物を、マグネシア:100 重量部に対し該金属換算で 0.001〜1.5 重量部含有させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
なお、上記の脱炭焼鈍工程における加熱領域とは、脱炭焼鈍加熱時の 650 ℃から均熱温度−5℃までの領域をいう。
2.前記珪素鋼スラブが、さらに、 Cu : 0.005 〜 0.50mass %、 Mo : 0.005 〜 0.50mass %、B: 0.005 〜 0.50mass %、V: 0.005 〜 0.50mass %および Nb : 0.005 〜 0.50mass %のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする上記1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0012】
3.前記アルカリ金属化合物が、該金属換算で、リチウム化合物:0.01〜1.5 重量部、ナトリウム化合物:0.001〜1.0 重量部およびカリウム化合物:0.001〜1.5 重量部のうちから選んだ一種または二種以上で、かつこれらの合計量:0.001〜1.5 重量部であることを特徴とする上記1または2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0013】
4.前記マグネシアの粉体特性として、CaO含有量が 0.2〜1.2 mass%、ハロゲン元素含有量が合計で 0.005〜0.10mass%であり、またCAA(クエン酸活性度)20%が20〜50s、CAA40%が50〜110s、CAA60%が70〜200sであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0015】
5.前記脱炭焼鈍工程における均熱領域を2段階に分け、前段部と後段部で雰囲気および/または温度を変更することを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明に至った経緯について説明する。
C:0.06mass%、Si:3.3 mass%、Mn:0.07mass%、Se:0.02mass%、Al:0.022 mass%、N:0.0082mass%およびCu:0.15mass%を含有し、かつ副インヒビター成分としてBi:0.010 mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる珪素鋼スラブを、常法に従い処理して得られた板厚:0.23mmの冷延板に対して、加熱領域の露点を56℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2])を0.35、また均熱領域の露点を59℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2])を0.41として、 860℃、2分間の脱炭焼鈍を行った。ついで、クエン酸活性度(CAA)および微量含有物が図1, 2にa,cで示す粉体特性になるマグネシアを主剤とし、このマグネシア:100 重量部に対し、添加剤として水酸化ナトリウムを種々の割合で添加した焼鈍分離剤を、鋼板の表面に塗布した後、乾燥した。この時の塗布条件は、水和が20℃で30分、目付け量が両面で12 g/m2 とした。その後、最終仕上げ焼鈍として 800℃まで46時間かけて昇温し、 800℃で20時間保定した後、 800〜1150℃を25℃/hの平均昇温速度で昇温し、1150〜1200℃での滞留時間を20時間とする焼鈍を施した。
【0017】
図3に、最終仕上げ焼鈍後の被膜密着性および磁束密度について調べた結果を、焼鈍分離剤中のNa濃度との関係で示す。
なお、図中のNa量は、マグネシア不純物中のNaと添加した水酸化ナトリウム中のNaのトータル量を重量部換算したものである。また、被膜密着性は、リン酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とする絶縁コーティングを被覆した後、5mm間隔の種々の直径の丸棒に試験片を巻き付け、被膜が剥離しない最小径により評価した。
図3から明らかなように、Naを 0.005〜1.0 重量部含有させることによって、磁気特性および被膜密着性とも良好な値が得られた。
【0018】
上記のような結果が得られた理由は、まだ明確に解明されたわけではないが、発明者らは以下のように考えている。
この発明の副インヒビターは、結晶粒の粒界や表面に優先的に濃化し、焼鈍中の粒界の移動度を低下させることによって、二次再結晶温度を上昇させ磁束密度を向上させる働きがある。ただし、最終仕上げ焼鈍時にはマグネシアの水和水により露点が上昇し、高酸化性雰囲気で焼鈍されるために、鋼板表層では副インヒビターは酸化されてしまうが、この酸化物が液相を形成して脱炭焼鈍時に生成した内部酸化膜中のSi02を地鉄−被膜界面に凝集させ、これにより地鉄−被膜間の凹凸がなくなることにより、被膜が剥落し、被膜不良となる。従って、二次再結晶が終了した後は、このような元素は系外に放出させ、被膜への悪影響を防ぐ必要がある。
【0019】
この発明によれば、焼鈍分離剤中にアルカリ金属を極く微量添加することにより被膜改善効果は顕著に増大する。これらのアルカリ金属は、従来は被膜に対して有害であるとされており、例えば特公昭54−14566 号公報に見られるように、これらの金属元素は可及的に低減させることが必要とされていた。さもないと、脱炭焼鈍時に形成された内部酸化膜中のSi02が最終仕上げ焼鈍中に鋼板表面に浮上して、被膜欠陥や部分的な被膜剥離が起こり易くなる弊害が認められていた。
しかしながら、この発明のような副インヒビターを用いる場合は、アルカリ金属を微量に存在させることによって、これらが鋼板表面へのSi02の濃化を促進させると共に、この濃化したSi02がバリアとなって雰囲気中の酸素分の影響が受けにくくし、その結果副インヒビター添加による被膜への悪影響が回避されるものと考えられる。
【0020】
また、この時、マグネシアの活性度分布を広く調整することにより、さらに被膜の改善効果がもたらされる。これは、活性度分布が広いことにより、高活性部がアルカリ金属によりエッチングされる結果、より反応性が高まり、被膜形成が促進すると共に、低活性部が水和量を下げて最終仕上げ焼鈍中の追加酸化を抑制するためと考えられる。
【0021】
なお、特開昭49−29305 号公報には、Liを含む化合物を添加することにより、珪酸マグネシウムおよびLiを含む酸化膜を形成させる方法が開示されているが、この発明のような副インヒビターを含む鋼板に単純にこの技術を適用しても必ずしも良好な被膜特性および磁気特性は得られなかった。というのは、特開昭49−29305 号公報に開示の方法では、Li添加量が多かったり、Li化合物として有機化合物塩、ホウ酸塩等の有害元素も同時に導入したりするために、MgO−Si02−LiO2系の被膜が形成されるが、これは通常のMgO−Si02系の被膜よりも安定性が低下するため、副インヒビターの表層への移動により被膜が損傷を受けるからである。
この点、この発明では、被膜形成を促進させるために極く微量のアルカリ金属を含有させるだけなので、アルカリ金属成分をほとんど含まないMgO−Si02系の被膜が形成され、このMgO−Si02系被膜は化学的に安定であり、副インヒビター成分による損傷を受けにくいために、良好な被膜が維持できるものと考えられる。
【0022】
また、特開昭50−37632 号公報には、マグネシア−シリカを主成分とする焼鈍分離剤中にホウ素化合物とアルカリ金属化合物を含有させる技術が、特開昭55−164025号公報には、非水和酸化マグネシウムにB化合物とアルカリ金属化合物を含有させる技術がそれぞれ開示されているが、これらの方法を用いてもやはり、副インヒビターとして被膜形成を阻害する元素を含む鋼板では、被膜改善効果を十分に発揮させることはできなかった。というのは、特開昭50−37632 号公報の方法では、不定形のマグネシア−シリカ錯体が形成され、これが副インヒビター成分による損傷を受けるためであり、また特開昭55−164025号公報の方法では、酸化マグネシウムを非水和として反応性を低下させているために被膜形成反応が最終仕上げ焼鈍の低温域で進みにくく、副インヒビターによる被膜形成抑制効果が補いきれないためと考えられる。
【0023】
これに対し、この発明では、被膜形成に有害な副インヒビターを用いても、従来どおりのマグネシアを用いて、ホウ素化合物添加による脆弱な被膜を形成させることなく、通常のフォルステライトを主体とする被膜を良好に形成させることができるのである。
【0024】
次に、焼鈍分離剤中にアルカリ金属を添加することによって、脱炭焼鈍により形成される内部酸化膜が最終仕上げ焼鈍中に変質して被膜改善に寄与すると考えられることから、この内部酸化膜を焼鈍分離剤条件に合わせて調節することによって磁気特性や被膜特性がさらに改善すると考えられるので、これについても検討を行った。
以下、検討内容について説明する。
【0025】
C:0.07mass%、Si:3.3 mass%、Mn:0.07mass%、Se:0.02mass%、Al:0.024 mass%、N:0.0078mass%およびCu:0.14mass%を含有し、かつ副インヒビター元素としてTe:0.010 mass%およびMo:0.035 mass%含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる珪素鋼スラブを、常法に従い処理して得られた板厚:0.23mmの冷延板に対して、加熱、均熱領域の露点および雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2])を種々に変更して 860℃、2分間の脱炭焼鈍を行った。ついで、図1,2にaで示す粉体特性になるマグネシアを主剤とし、かかるマグネシアをそのまま、またはこのマグネシア:100 重量部に対し、添加剤として硫酸リチウムを 0.5重量部(Li換算)添加した焼鈍分離剤をそれぞれ、鋼板の表面に塗布したのち、乾燥した。この時の塗布条件は、水和が20℃で30分、目付け量が両面で12 g/m2 とした。その後、最終仕上げ焼鈍として、800 ℃までを46時間かけて昇温し、 800℃に20時間保定したのち、 800〜1150℃を25℃/hの平均昇温速度で昇温し、1150〜1200℃での滞留時間を20時間とする焼鈍を施した。
表1に、最終仕上げ焼鈍後の被膜密着性および磁束密度について調べた結果を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
同表から明らかなように、Liを 0.5重量部添加すると共に、脱炭焼鈍の加熱領域の露点を40〜70℃とし、また雰囲気の水素−水蒸気分圧(P[H2O]/P[H2])を0.25〜0.70とした時に被膜形成は最も促進され、良好な被膜が得られた。
また、加熱領域の水素−水蒸気分圧が0.25〜0.70の好適範囲であっても、露点が40〜70℃の範囲に満たないと、被膜の改善効果はさほど認められないという特徴的な傾向が認められた。
【0028】
上記のような結果が得られた理由は、必ずしも明らかではないが、発明者らは次のように考えている。
酸化被膜が形成され始めるのは、脱炭焼鈍時の加熱領域においてである。従来の考え方では、雰囲気の酸化性として水素−水蒸気分圧(P[H2O]/P[H2])により内部酸化膜の形成状態が変化するとされており、これを高めることにより初期被膜が緻密化され、良好な被膜が得られることが知られていた。
しかしながら、この雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2])は、平衡状態での酸化物生成挙動にとっての支配的因子ではあるものの、被膜形成のような非平衡状態では雰囲気酸化性以外に水蒸気の量そのものが被膜形成に影響を強く及ぼすと考えられる。つまり、雰囲気の水素−水蒸気分圧とは別に、雰囲気の露点そのものを制御することにより初期酸化の性状が決定されると考えられるのである。
【0029】
ここで、鋼板に被膜形成を阻害するような副インヒビターを添加した場合、この副インヒビター成分の影響により、Si02が地鉄−被膜界面に濃化して粗雑な被膜が形成され易くなる。これを防ぐために、焼鈍分離剤中にアルカリ金属を微量添加するが、この効果をさらに大きく発揮させるためには脱炭焼鈍時に緻密な酸化膜を形成させる必要があり、そのために初期酸化被膜をできるだけ緻密に形成させることが有効で、その手段として雰囲気の露点を高めることが効果的なのである。
【0030】
なお、鋼板に被膜形成を阻害するような副インヒビターが存在しない場合は、被膜形成が容易に起こるために露点そのものの影響はさほど生じない。
これに対し、この発明のように副インヒビターが存在する場合には、単に加熱領域の雰囲気酸化性のみを制御するのみでなく、露点そのものをも制御して、これを高めなければならないのである。そして、このようにして良好な酸化被膜が形成された場合に、焼鈍分離剤中にアルカリ金属化合物を微量含有させることにより、一層優れた被膜が得られるのである。
【0031】
次に、この発明の方向性電磁鋼板の成分組成や製造方法に関して、この発明の効果を得るための要件とその範囲および作用について述べる。
まず、素材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.01〜0.10mass%
Cは、変態を利用して熱延組織を改善するのに有用な元素であるだけでなく、ゴス方位結晶粒の発生に有用な元素であり、かかる目的を達成するためには少なくとも0.01mass%の含有を必要とするが、0.10mass%を超えると脱炭焼鈍において脱炭不良を起こすので、Cは0.01〜0.10mass%の範囲に限定した。
【0032】
Si:1.0 〜5.0 mass%
Siは、電気抵抗を高めて鉄損を低減させると共に、鉄のα相を安定化させて高温の熱処理を可能とするために必要な元素であり、少なくとも 1.0mass%の含有を必要とするが、5.0 mass%を超えると冷延が困難となるので、Cは 1.0〜5.0mass%の範囲に限定した。
【0033】
上記したC, Siの他に、主インヒビター形成成分を添加する。かかる主インヒビターとしては、AlN,BN,MnS,MnSe がよく知られているが、これらのいずれを用いてもよく、またこれらを二種以上複合して用いてもよい。
主インヒビターとして、MnSおよび/またはMnSeを用いる場合には、Mn:0.03〜0.10mass%、SとSeの合計量:0.01〜0.03mass%とする。一方、AlNを主インヒビターとして用いる場合には、Al:0.01〜0.04mass%、N:30〜120ppm、BNを主インヒビターとして用いる場合には、B:0.001〜0.015 mass%、N:30〜120ppm とする。いずれの場合も、含有量が下限に満たないとインヒビターとしての効果に乏しく、一方上限を超えると二次再結晶が不安定となる。
【0034】
また、これらの主インヒビター形成成分の他に、副インヒビター成分として、Ni:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005 〜0.50mass%、P:0.005 〜0.50mass%、Cr:0.02〜1.50mass%、Te:0.003 〜1.50mass%、Bi:0.003 〜1.50mass%およびPb:0.003 〜1.50mass%のうちから選んだ少なくとも一種を含有させる必要がある。
これらの元素はいずれも、一次再結晶粒の粒界に優先的に濃化し、焼鈍中の粒界の移動度を低下させることによって二次再結晶開始温度を上昇させ、磁束密度を向上させる作用がある。またこれらは、MnS,MnSe, Cu2-XS, Cu2-XSe, AlNおよびBNのような析出分散型の主インヒビターと同時に鋼中に存在させることにより、磁気特性の向上により有効に作用する。
ここに、上記した各元素の含有量が、それぞれ下限に満たないと、上記の粒界への濃化による正常粒成長抑制効果が発揮されず、一方上限を超えて添加するとこの発明の技術をもってしても被膜外観の劣化を防止できないため、適正範囲として上記の範囲に限定した。また、これらは、単独使用、複合使用のいずれもが可能である。
【0035】
さらに、上述したインヒビター元素の他にも、さらに磁気特性や被膜特性を改善するために種々の元素を添加することができる。
かような元素としては、Cu、Mo、B、VおよびNb等がある。これらはいずれも、0.005 mass%を下回ると上記の改善効果が小さく、一方 0.5mass%を超えて添加するとかえって製品の磁気特性および被膜被膜の劣化が生じるため、いずれも 0.005〜0.50mass%の範囲で含有させることが好ましい。
【0036】
次に、この発明の製造方法について述べる。
上記の好適成分組成に調整された珪素鋼スラブは、インヒビター成分の固溶のため1350℃以上の高温に加熱される。しかしながら、窒化等により後工程でインヒビターを補強する場合は、この加熱温度を1280℃以下とすることができる。
その後、熱間圧延したのち、焼鈍処理と冷間圧延を組み合わせて最終板厚とし、脱炭焼鈍ついで最終仕上げ焼鈍を施したのち、絶縁張力コーティングを焼き付けて製品とする。
【0037】
ここに、最終板厚とする方法としては、
1)熱間圧延後、ノルマ焼鈍を施したのち、中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延で最終板厚とする方法、
2)熱間圧延後、ノルマ焼鈍を施したのち、1回の冷間圧延で最終板厚とする方法、
3)熱間圧延後、ノルマ焼鈍を施さずに、中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延で最終板厚とする方法
があるが、この発明ではこれらいずれの工程を採ることも可能である。
また、ノルマ焼鈍や中間焼鈍で焼鈍雰囲気を酸化性にして、表層を弱脱炭する処理を施したり、焼鈍の冷却過程を急冷として鋼中の固溶Cを増加させる処理や、これに引き続き鋼中に微細炭化物を析出させるための低温保持処理を行うことは、製品の磁気特性を向上させる上で有効である。
さらに、冷間圧延を 100〜300 ℃の温間で行ったり、パス間での時効処理を施すことも磁気特性を向上させるのに有利に作用する。
またさらに、磁区細分化のために、鋼板の圧延方向とほぼ直交する向きに線状の溝を複数本設けることは、鉄損のさらなる向上を図る上で有用である。
【0038】
また、脱炭・一次再結晶焼鈍後、二次再結晶開始までの間に鋼中に300ppm以下の範囲でNを含ませる窒化処理を施す技術も、公知のように抑制力補強のために有効であり、この発明と組み合わせることで被膜特性と磁気特性の優れた製品を製造することが可能である。
【0039】
脱炭焼鈍は、水蒸気およびH2を含む雰囲気で行う。この時、加熱領域の露点と雰囲気の水素−水蒸気分圧(P[H2O]/P[H2])をそれぞれ個別に管理して、露点を40〜70℃、雰囲気の水素−水蒸気分圧(P[H2O]/P[H2])を0.25〜0.70とすることにより、焼鈍分離剤中へのアルカリ金属添加と併せて、磁気特性および被膜特性がより効果的に改善される。
露点や雰囲気の水素−水蒸気分圧が、上記の下限に満たないと初期酸化膜が粗雑となり、その後の均熱領域でこれがさらに助長される結果、良好な酸化被膜が得られず、焼鈍分離剤中にアルカリ金属化合物を微量添加しても被膜改善効果は限定される。一方、これらの値が上限を超えると、酸化鉄を主体とする過酸化な被膜が形成され、かえって被膜が粗雑となり、やはり焼鈍分離剤中にアルカリ金属化合物を微量添加しても被膜改善効果は限定されたものとなる。
【0040】
脱炭焼鈍のその他の条件については次のとおりである。
均熱領域の温度は 750〜900 ℃程度とすることが望ましい。というのは、 900℃を超えると一次再結晶粒の粒成長が進行しすぎて二次再結晶不良となり、一方 750℃未満では逆に一次再結晶粒の粒成長が進まずに二次再結晶粒方位が不安定となる原因になるからである。
昇温速度は室温から 700℃までは5〜80℃/s程度とすることが好ましい。というのは、5℃/sより低いと脱炭が加熱領域で進行しすぎて望ましい集合組織が得られず、一方80℃/sより速いと初期酸化が不安定となり良好な被膜形成が行われなくなるからである。
均熱時間は20〜240 s程度とすることが好ましい。というのは、20s未満では脱炭不良となり、一方 240sを超えると一次再結晶粒成長が進行していずれも磁気特性劣化の要因となるからである。
均熱領域の雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2])は 0.3〜0.85とすることが好ましい。というのは、0.3 未満では脱炭不良となり磁気特性が劣化し、一方0.85を超えるとFeOを主体とする過酸化な膜が形成され、被膜が劣化するからである。
露点は40〜80℃程度とすることが好ましい。というのは、40℃未満では脱炭不良となり、一方80℃を超えると被膜不良となるからである。
なお、均熱領域の露点と雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2])を個別に管理することは、加熱領域の場合ほど大きい影響はないが、効果は認められるため、これを行うことも可能である。
【0041】
また、より一層の被膜改善効果をもたらすために脱炭焼鈍の均熱領域を2段階に分け、前段に比べ後段をより低露点としたり、高温にすることにより、内部酸化膜表層を緻密化して良好な被膜を得る方法があるが、この発明においてもこの方法を用いることにより、被膜の改善効果を一層高めることができる。
この場合における、焼鈍前段の条件は前述したとおりであるが、後段は前段よりも温度を高める場合には前段よりも10〜100 ℃高くする。というのは、10℃より低いと効果がなく、一方 100℃より高いと一次再結晶が進行しすぎるからである。また、前段に比べて後段をより低露点にする場合には、雰囲気の酸化性(P[H2O]/P[H2])を 0.3以下とする。というのは、これより大きいと効果がないからである。特に後段を前段よりも高温にし、さらに低露点にすると一層効果が高まる。
なお、いずれの場合にも、後段の均熱時間は5〜60sとする。5s未満では効果がなく、一方60sを超えると一次粒成長が進みすぎて二次再結晶不良となるからである。
【0042】
上記のようにして脱炭焼鈍を施したのち、焼鈍分離剤を塗布する。ここに、焼鈍分離剤は、マグネシアを主剤とする。そして、かかるマグネシア中にアルカリ金属化合物を微量含有させることが、この発明の最も重要な要件の一つである。
アルカリ金属の添加量については、リチウム化合物であればマグネシア:100重量部に対してLi換算で0.01〜1.5 重量部、ナトリウム化合物であればNa換算で 0.005〜1重量部、カリウム化合物であればK換算で 0.001〜0.5 重量部が好適であり、合計量は 0.001〜1.5 重量部とする必要がある。また、これらは単独添加でも複合添加でもいずれでもかまわない。
これらのアルカリ金属を上記の範囲で微量添加することにより、緻密なフォルステライトを主体とする被膜が形成される。しかしながら、添加量が上記した下限値に満たないと少なすぎて十分な効果が得られず、一方上限値を超えるとこれらの金属を含む被膜が最終仕上げ焼鈍途中で形成され、副インヒビター成分によりこの被膜が損傷を受ける結果、点状の被膜欠陥や被膜密着性の低下などの被膜不良が生じる。さらに、磁気特性についても最終仕上げ焼鈍途中で粗雑な被膜となる結果、鋼板が雰囲気の影響を受けやすくなり、副インヒビター添加による磁性改善効果は失われる。従って、アルカリ金属の添加量は 0.001〜1.5 重量部の範囲に限定した。
【0043】
焼鈍分離剤に用いるマグネシアの粉体特性については、CaO含有量が 0.2〜1.2 mass%、ハロゲン元素含有量が合計で 0.005〜0.10mass%、またCAA(クエン酸活性度)20%が20〜50s、CAA40%が50〜110 s、CAA60%が70〜200sの特性を有するものがとりわけ有利に適合する。ここで、CAAの測定法は、特公昭57−45472 号公報に記載の方法とした。
CaO含有量が0.2 mass%に満たないと過酸化な被膜が形成され、一方1.2 mass%を超えると被膜形成量が低下して、いずれも被膜不良となる。
また、ハロゲン含有量が0.005 mass%未満では反応性が低下し、一方0.10mass%を超えると被膜−地鉄界面に溶融物が生成して、被膜が剥離し易くなる。
【0044】
活性度分布を上記の範囲に制御することは、副インヒビターを含有した成分で、焼鈍分離剤にアルカリ金属を含有させ、被膜改善効果を十分に発現させるためには重要な要件である。活性度分布を上記の範囲に広げることにより、水和が過剰になることを防ぎつつ、高い反応性を維持することができる。
この点、CAA20%、40%の値が下限値よりも低いと、水と懸濁してスラリーとしたときの水和が進行しすぎて仕上げ焼鈍中に水蒸気が発生して被膜を損傷させる。一方、CAA20%、40%の値が上限値より高いと、アルカリ金属の存在下においても反応性が低下して、被膜形成が十分に行われない。また、CAA60%の値が上限値より高いと、焼結が進行しすぎた粗大なMgO粒子がコイルに塗布されることにより、押し疵や点状被膜欠陥のような外観不良が発生し、一方CAA60%の値が下限値より低いと、水和が進行しすぎて上述のとおり被膜不良となる。
【0045】
また、焼鈍分離剤中に、上記したアルカリ金属以外の添加剤を含有させることも可能である。これは、公知の条件でよく、Mg,Ca,Sr,Ti,Mn,Fe,Cu,Sn,Sb,Zn,Si,Al等の化合物が用いられる。添加量としてはマグネシア:100 重量部に対して 0.5〜15重量部程度が好適である。その他、焼鈍分離剤の塗布量や水和量は従来どおり、5〜15g/m2(両面)、 0.5〜5%程度でよい。
【0046】
このような焼鈍分離剤を塗布してから、公知の方法で最終仕上げ焼鈍を施したのち、必要に応じて張力付与コーティングや絶縁コーティングを鋼板表面に焼き付け、ついで平坦化焼鈍を施して製品とする。
また、磁区細分化による鉄損低減を目的として、平坦化焼鈍後の鋼板にプラズマジェットやレーザー照射を線状に施したり、突起ロールによる線状に凹みを設ける処理や最終冷延後にエッチングなどにより圧延方向とほぼ直行する溝を形成させる処理を施すこともできる。
さらに、最終仕上げ焼鈍後、ゾルゲル法、TiN蒸着など公知の方法で張力被膜を形成させる技術を組み合わせることも鉄損低減のために有効である。
【0047】
【実施例】
実施例1
C:0.06mass%、Si:3.25mass%、Mn:0.07mass%、P:0.003 mass%、S:0.003 mass%、Al:0.023mass%、Se:0.020 mass%、Cu:0.05mass%およびN:0.0082mass%を含有し、かつ副インヒビターとしてNi:0.020 mass%およびSb:0.040 mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる珪素鋼スラブを、ガス加熱炉に装入して1230℃まで加熱し、60分保定後、誘導加熱により1400℃、30分間の加熱を施したのち、熱間圧延により 2.5mm厚の熱延板とした。ついで、1000℃,1分の熱延板焼鈍後、酸洗し、一次冷間圧延により厚さ:1.6mmとしたのち、1000℃、1分間の中間焼鈍を施してから、酸洗後、最高到達温度:220 ℃の二次冷間圧延によって0.23mmの最終板厚とした。ついで、加熱領域の露点:58℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2]):0.40の条件で 850℃まで加熱し、引き続き均熱領域の露点:59℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2]):0.45の条件で 850℃, 100 秒間の均熱を行う脱炭焼鈍を施した後、焼鈍分離剤を鋼板両面当たり:14g/m2塗布してから、コイルに巻き取った。この時、焼鈍分離剤の主剤としては、前掲図1,2にa〜fで示す粉体特性になる種々のマグネシアを用い、また添加剤として炭酸リチウムを、マグネシア:100 重量部に対して0または 0.1重量部、酸化チタンを4重量部(いずれも金属換算)含有させた。その後、800 ℃までを46時間かけて昇温し、この温度に20時間保定したのち、 800〜1150℃を25℃/hの平均昇温速度で昇温し、1150〜1200℃の滞留時間を20時間とする最終仕上げ焼鈍を施した。ついで、未反応の焼鈍分離剤を水洗により除去したのち、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁張力コーティングを塗布し、平坦化焼鈍の後、製品板とした。
【0048】
かくして得られた製品板から、圧延方向の長さ:500mm 、圧延直角方向の長さ:500mm の試片を採取し、SST(単板磁気試験器)による磁気測定を行った。また、被膜外観および被膜密着性の測定を行った。
【0049】
【表2】
【0050】
同表に示したとおり、この発明に従い、焼鈍分離剤としてマグネシア中に適正量の炭酸リチウムを添加した場合には、被膜外観および被膜密着性に優れるだけでなく、磁気特性にも優れた製品板を得ることができた。
【0051】
実施例2
C:0.07mass%、Si:3.31mass%、Mn:0.07mass%、P:0.002 mass%、S:0.002 mass%、Al:0.025 mass%、Cu:0.10mass%およびN:0.0082mass%を含有し、かつ副インヒビターとしてCr:0.06mass%およびPb:0.010 mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる珪素鋼スラブを、ガス加熱炉で1200℃、60分加熱し、ついで誘導加熱炉で1380℃、30分間の加熱を施したのち、熱間圧延により2.2 mm厚の熱延板とした。ついで、 950℃, 1分の熱延板焼鈍後、酸洗し、一次冷間圧延により厚さ:1.5 mmとしたのち、1050℃、1分間の中間焼鈍を施してから、酸洗後、最高板温:210 ℃の二次冷間圧延により0.23mmの最終板厚とした。次に、レジストエッチングにより、圧延方向との角度:75°、圧延方向における間隔:3.5 mm、深さ:12μm 、幅:70μm の線状溝を形成した後、加熱領域の露点:59℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2]):0.44の条件で 850℃まで加熱し、ついで均熱領域前段の露点:59℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2]):0.46の条件で 850℃, 100 秒間の処理後、引き続き均熱領域後段について雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2]):0.15の条件で 880℃, 20秒間処理する脱炭焼鈍を施した。また、比較のため、後段の保定焼鈍を行わない条件で脱炭焼鈍を施した。ついで、焼鈍分離剤として、図1, 2にcで示す粉体特性になるマグネシアを主剤とし、かかるマグネシアをそのまま、またはこのマグネシア:100 重量部に対し、添加剤としてリン酸ナトリウムをNa換算で0.05重量部添加したものを鋼板の表面に塗布した後、乾燥した。この時の塗布条件は、水和が20℃で30分、目付け量が両面で14g/m2とした。その後、700 ℃まで40時間かけて昇温したのち、 700〜1150℃間を25℃/hの平均昇温速度で昇温し、1150〜1200℃の滞留時間を20時間とする最終仕上げ焼鈍を施した。ついで、未反応の分離剤を水洗により除去した後、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁張力コーティングを塗布し、平坦化焼鈍の後、製品とした。
【0052】
かくして得られた製品板から、圧延方向の長さ:500mm 、圧延直角方向の長さ:500mm の試片を採取し、SST(単板磁気試験器)による磁気測定を行った。また、被膜外観および被膜密着性の測定を行った。
得られた結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
同表に示したとおり、この発明に従い、焼鈍分離剤としてマグネシア中に適正量のリン酸ナトリウムを添加した場合には、被膜外観および被膜密着性に優れるだけでなく、磁気特性にも優れた製品板が得られている。
特に、脱炭焼鈍の後段を高温・低露点とすることにより、一層優れた被膜外観・密着性および磁気特性を得ることができた。
【0055】
実施例3
C:0.06mass%、Si:3.28mass%、Mn:0.07mass%、S:0.003 mass%、B:0.008 mass%、Se:0.020 mass%およびN:0.0082mass%を含有し.かつ副インヒビターとしてBi:0.022 mass%およびP:0.08mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる珪素鋼スラブを、誘導加熱により1410℃、30分間加熱したのち、熱間圧延により2.2 mm厚の熱延板とした。ついで、1050℃, l分の熱延板焼鈍後、酸洗し、最高板温:200 ℃の冷間圧延を施して厚さ:0.27mmの最終板厚としたのち、加熱領域の露点:55℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2]):0.37の条件で 830℃まで加熱し、ついで均熱領域の露点:59℃、雰囲気酸化性(P[H2O]/P[H2]):0.46の条件で 830℃, 100 秒間の均熱を行う脱炭焼鈍を施した。その後、焼鈍分離剤の主剤として、不純物としてのNa含有量が0.003 mass%、CaO含有量が0.4 mass%、ハロゲン元素含有量が0.025 mass%で、CAA20%が28s、CAA40%が62s、CAA60%が89sのマグネシアを用い、このマグネシアに種々の助剤を添加して、水和:20℃, 30分、目付け量(両面):14g/m2で塗布した。ついで、800 ℃までを46時間かけて昇温し、800 ℃で20時間保定したのち、 800〜1150℃を25℃/hの平均昇温速度で昇温し、1150〜1200℃の滞留時間を20時間とする最終仕上げ焼鈍を施した。ついで、未反応の焼鈍分離剤を水洗により除去したのち、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁張力コーティングを塗布し、平坦化焼鈍の後、製品とした。
【0056】
かくして得られた製品板から、圧延方向の長さ:500mm 、圧延直角方向の長さ:500mm の試片を採取し、SST(単板磁気試験器)による磁気測定を行った。また、被膜外観および被膜密着性の測定を行った。
得られた結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
同表に示したとおり、この発明に従い、マグネシア中に適正量のアルカリ金属化合物を添加した焼鈍分離剤を用いた場合には、被膜外観および被膜密着性に優れるだけでなく、磁気特性にも優れた製品板を得ることができた。
【0059】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、鋼中に副インヒビター成分を含有する場合であっても、被膜特性に優れ、かつ磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 マグネシアの活性度分布を示す図である。
【図2】 マグネシア中の微量不純物含有量を示す図である。
【図3】 最終仕上げ焼鈍後の被膜密着性および磁束密度と焼鈍分離剤中のNa濃度との関係で示す図である。
Claims (5)
- C:0.01〜0.10mass%およびSi:1.0〜5.0mass%を含み、かつ主インヒビター成分と共に、副インヒビター成分を含有し、残部は Fe および不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで焼鈍処理を含む1回または2回以上の冷間圧延で最終板厚にしたのち、脱炭焼鈍を施し、ついで焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
主インヒビターとして Al N,BN, Mn S, MnSe の少なくともいずれかを用い、 Al Nを用いる場合には、 Al : 0.01 〜 0.04mass %、N: 30 〜 120ppm を含有させ、BNを用いる場合には、B: 0.001 〜 0.015mass %、N: 30 〜 120ppm を含有させ、 Mn Sおよび/または MnSe を用いる場合には、 Mn : 0.03 〜 0.10mass %、Sと Se の合計量: 0.01 〜 0.03mass %を含有させ、
副インヒビター成分として、Ni:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、 Cr:0.02〜1.50mass%、Te:0.003〜1.50mass%、Bi:0.003〜1.50mass%およびPb:0.003〜1.50mass%のうちから選んだ少なくとも一種を含有させると共に、
上記脱炭焼鈍工程を水蒸気および H 2 を含む雰囲気中で行い、加熱領域の露点を 40 〜 70 ℃の範囲に規制した上で、雰囲気の水素−水蒸気分圧(P [H 2 O]/ P [H 2 ] )が 0.25 〜 0.70 となるように H 2 分圧を調整し、さらに
マグネシアを主剤とする焼鈍分離剤中に、アルカリ金属化合物を、マグネシア:100 重量部に対し該金属換算で 0.001〜1.5 重量部含有させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 前記珪素鋼スラブが、さらに、 Cu : 0.005 〜 0.50mass %、 Mo : 0.005 〜 0.50mass %、B: 0.005 〜 0.50mass %、V: 0.005 〜 0.50mass %および Nb : 0.005 〜 0.50mass %のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記アルカリ金属化合物が、該金属換算で、リチウム化合物:0.01〜1.5 重量部、ナトリウム化合物:0.001〜1.0 重量部およびカリウム化合物:0.001〜1.5 重量部のうちから選んだ一種または二種以上で、かつこれらの合計量:0.001〜1.5 重量部であることを特徴とする請求項1または2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記マグネシアの粉体特性として、CaO含有量が 0.2〜1.2 mass%、ハロゲン元素含有量が合計で 0.005〜0.10mass%であり、またCAA(クエン酸活性度)20%が20〜50s、CAA40%が50〜110s、CAA60%が70〜200sであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記脱炭焼鈍工程における均熱領域を2段階に分け、前段部と後段部で雰囲気および/または温度を変更することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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