JP2004043905A - 耐候性鋼の防食法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】浮き錆のみ除去した錆が残存する耐候性鋼表面に、(a)湿気硬化型樹脂、(b)導電性材料、(c)腐食イオン固定化剤、及び、(d)カップリング剤を含有する素地調整剤の塗膜(A)を、乾燥塗布量0.03〜2kg/m2の範囲で形成し、次いで、防錆剤を含有した防食塗膜(B)を、乾燥膜厚30〜150μmで形成し、更に、促進耐候性試験サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢保持率が85%以上の着色上塗塗膜(C)を、乾燥膜厚20〜90μmで形成する。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、錆が残存する耐候性鋼の新規な塗装方法に関し、更に詳しくは、耐候性鋼の流れ錆(赤錆)を防止し、環境に調和した様々な着色の付与を可能にし、更に省工程で長期耐候性及び防錆性を付与する耐候性鋼の防食方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に鋼構造物は、そのコストが安いということもあって、炭素鋼を使用する場合が多い。
しかしながら、炭素鋼は、空気中の水分(降雨、湿気等)や、酸素が鋼材表面に接触して、短期間で赤錆が発生する。この赤錆発生を防止する方法としては、塗料を塗装する方法が一般的である。この方法は、塗装の塗替を極力減らすため、耐久性の良好な塗装を施すことが一般的である。
例えば、無機ジンクリッチペイント塗装→エポキシ樹脂塗料ミストコート→エポキシ樹脂塗料下塗塗装(2回)→エポキシ樹脂塗料中塗塗装→ポリウレタン樹脂塗料上塗塗装は、耐久性15年以上有する代表的な鋼材の塗装システムである。
この塗装システムは、環境と調和した色彩を付与した美観及び長期の防錆性が維持できる長所があるが、一方では、この塗装システムは膜厚が厚く、更に6回塗りが必要なので、完成までに時間とコストがかかる。そこで、最近では鋼構造物に耐食性の良い耐候性鋼を使用する場合が増加してきている。
【0003】
耐候性鋼は、一般的にP、Cu、Cr、Ni等の元素を添加した低合金鋼である。この鋼材は、屋外において十数年で、腐食に対して保護作用のある錆(以下、「保護錆」という)を形成し、以後防錆処理作業を不要とする、いわゆるメンテナンスフリーになるといった特性を有している。
この腐食に対して保護作用は、いわゆる錆をもって錆を制すものであって、この錆は、結晶水を多量に含む無定形オキシ水酸化鉄が主体であり、これが緻密で密着性の良い保護錆の形成に寄与するものと考えられている。
しかしながら、耐候性鋼の鋼材を無処理のままで使用すると、保護錆が形成されるまでの期間中に、赤錆や黄錆等の浮き錆や、流れ錆を生じてしまい、外見的に好ましくないばかりでなく、周囲環境の汚染原因にもなると云う問題点を有していた。
【0004】
また、従来例において、耐候性鋼の表面に保護錆を得るための塗装による表面処理法があるが、それでも保護錆が形成されるまでに数年間の長い期間を要し、この間に塗膜自体の白化、ふくれ、剥離といった問題点を引き起こしている。また、発生した錆を目立たなくするため色調は、さび色に統一されており、炭素鋼への塗装のように環境と調和した様々な色彩を付与する配慮が全くなされていなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
赤錆や黄錆の発生が著しくなった既設の耐候性鋼は、そのまま放置し、保護錆が形成されるまで放置するか、又は補修する場合、通常、錆を完全に落とした後、有機ジンクリッチペイント→エポキシ樹脂塗料下塗→エポキシ樹脂塗料中塗→上塗塗料と4〜5回塗装するのが一般的であり、塗装工程が多く、時間とコストがかかる問題点を有していた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、既設の浮き錆のみ除去し、赤錆や黄錆等のさびが固着し残存する耐候性鋼表面に、防錆性を長期維持し、更に、耐候性の良好な樹脂及び着色剤を含む着色上塗塗料を塗装することにより、耐候性を長期間維持し、更に任意の着色を可能にした、省工程の耐候性鋼の防食方法を完成したものである。
即ち、本発明は、浮き錆のみを除去した錆が残存する耐候性鋼表面に、(a)湿気硬化型樹脂、(b)導電性材料、(c)腐食イオン固定化剤、及び(d)カップリング剤を含有する素地調整剤の塗膜(A)を、乾燥塗布量0.03〜2kg/m2の範囲で形成し、次いで、防錆剤を含有する防食塗膜(B)を、乾燥膜厚30〜150μmで形成し、更に促進耐候性試験サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢保持率が85%以上の塗膜を形成する着色上塗塗膜(C)を、乾燥膜厚20〜90μmで形成することを特徴とする耐候性鋼の防食法に関するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いる耐候性鋼は、SPA材、SMA材と言われ、JIS G3141に規定されているものであり、既設の暴露されて数年経過し、浮き錆の発生した耐候性鋼に適用されるものである。
次に、本発明の素地調整剤について説明する。
【0008】
(a)成分について
(a)成分は、錆層内部に含浸し、錆層内部の水分や、大気中の水分により反応硬化し、錆層を強化させるとともに、後述する導電性材料や、腐食性イオン固定化剤、カップリング剤等を固着化させるための結合剤である。このような機能を有するものであれば、従来から塗料用に使用されている各種の湿気硬化型樹脂が使用可能であり、具体的には、例えば、ウレタン樹脂(ポリイソシアネートポリマー)系や、エポキシ樹脂−ケチミン硬化系、アルキルシリケート樹脂系、アルキルアルコキシシラン樹脂系等が代表的なものとして挙げられる。
特に耐水性に優れた湿気硬化型ウレタン樹脂が好ましい。湿気硬化型ウレタン樹脂としては、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる遊離イソシアネート基を有するウレタンポリマーを好適に用いることが出来る。
【0009】
ポリオールとしては、ポリエーテルポリオールや、ポリオレフィンポリオール等を用いることが出来る。ポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコールやプロピレングリコール、ブタンジオールジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオールヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の水酸基を2個以上、好ましくは、2〜6個有する炭素数2〜8個のポリオールに、エチレンオキサイドや、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の、好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンオキサイドをアルカリ触媒等の存在下で付加重合して得た分子中に2〜4個の水酸基を持つポリアルキレンポリオールなどを用いることが適当である。
【0010】
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ブタジエンやイソプレンなどのジエン系化合物に、例えば、エチレンオキサイドや、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイドを付加重合して得た分子量中に2〜4個の水酸基を持つポリジエンポリオールを用いることが適当である。
ポリイソシアネートとしては、1分子中に2個以上、好ましくは、2〜3個のイソシアネート基を有する化合物が適当である。具体的には、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−フェニルメタンジフェニルジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トルイレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物、ビュレットポリイソシアネート化合物、イソシアネート環を有するポリイソシアネート化合物、アダクトポリイソシアネート化合物を挙げることが出来る。これらのポリイソシアネートは1種単独で、又は2種以上の混合物として使用できる。
【0011】
湿気硬化型ウレタン樹脂の製造方法は、特に限定されることなく、従来公知の各種方法を利用できる。
このような方法としては、具体的には、例えば、ポリオールと過剰のポリイソシアネートを重合させる方法が挙げられる。過剰のポリイソシアネートは、ポリオールの水酸基当量よりもイソシアネート当量が過剰であることを意味し、その当量関係をNCO/OHで表すことが出来る。
特に、液状で低粘度の湿気硬化型ウレタン樹脂を形成するためには、ポリオールの種類や、官能基数、分子量等を考慮するとともにNCO/OHを、例えば、2〜10、好ましくは、5〜10に調整することが好ましい。重合温度、重合時間も特に制限されないが、通常水分の影響を避けるために、窒素気流下でポリオールとイソシアネートを混合した後、例えば、50〜100℃にて3〜8時間反応させるのが適当である。反応前、反応途中及び反応終了後有機金属塩系ウレタン重合触媒や安定剤、脱水剤、重合調整剤等を適量随時添加しても良い。
【0012】
(b)成分について
(b)成分は、鋼材の表面電位を均一にし、電位の傾斜から生ずる錆を防止するとともに、塗り替え時、一般的に使用されるジンクリッチペイント膜と鋼材の通電点を確保し、ジンクリッチペイント中の亜鉛粒子の犠牲防食作用を発揮させるための導電性材料である。導電性材料としては、電気が通じれば有機材料、無機材料でも良く、また形態は液体でも固体でも良い。電気が通じるか否かの判断基準は、体積固有抵抗値を測定することで判断できる。形成された素地調整剤の皮膜の体積固有抵抗値が108Ω/cm3以下であれば良い。
具体的には、導電性の樹脂としては、π−共役二重結合を有するアセチレンや、ピロール、チオフェン、ベンゼン、あるいはこれらの置換体の(共)重合物が代表的なものとして挙げられる。特に好ましくは、ポリアニリンや、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンピレン、あるいはこれらの変性樹脂や混合物が挙げられる。これら導電性樹脂は、通常無機酸や、有機物でドープされた状態で使用するが、ドープされていなくても良い。無機質の導電性材料としては、具体的には、亜鉛や、アルミニウム、ニッケル、銀、銅、鉄等の金属、それらの合金や、フェロホスホル(りん鉄)、フェロマンガン、フェロシリコン、フェロコバルトなどの金属りん化物、金属炭素化合物、金属窒化物などの金属化合物、酸化亜鉛や、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブなどの公知の導電性を示す材料が使用できる。
【0013】
(c)成分について
(c)成分は、錆層と鉄素地との界面に存在するCl−や、SO4 2−等の腐食性イオン物質を捕集するとともに化学反応し、水不溶性の複塩を形成し、腐食性イオンを固定化し、不活性化するための腐食性イオン固定化剤である。このような固定化剤の例としては、代表的には、ハイドロカルマイトや、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
ハイドロカルマイトは、式、
3CaO・Al2O3・CaX2/m・nH2O
(式中、Xは、1価又は2価のアニオンであり、mは、アニオンの価数を表し、nは、20以下である。)で示される層状構造を持つ含水結晶性粉末である。アニオン(X)としては、NO3 −や、NO2 −、OH−、CH3COO−、CO3 2−等が代表的なものとして挙げられる。
これらアニオンは、塩素イオンや、硫酸イオン等と接触するとアニオン交換し、XであるNO3 −や、NO2 −等を遊離するとともに、腐食性イオン物質をハイドロカルマイト中に固定化し、不活性化する。また、遊離した上記アニオンは、耐候性鋼材表面に不働態皮膜を形成し、防食性を更に向上させる効果を有する。
ハイドロタルサイトは、式、
Mg4.5Al2(OH)13CO3・nH2O
(式中、nは、4以下、好ましくは、3.5である。)で示される層状構造を持つ含水結晶性粉末である。これらアニオンは、塩素イオンや、硫酸イオン等と接触するとアニオン交換し、OH−や、CO3 2−を遊離するとともに、腐食性イオン物質をハイドロタルサイト中に固定化し、不活性化する。
【0014】
(d)カップリング剤
(d)成分は、錆層への濡れ性や含浸性を向上させ、また、その上に塗装する着色上塗塗料との密着性を向上させるためのものである。具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、等のシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジドデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタンカップリング剤、その他アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤などが代表的なものとして挙げられる。
【0015】
本発明の素地調整剤の塗膜を形成するための組成物は、以上説明した(a)成分〜(d)成分を必須成分として含み、更に必要に応じて、活性水素を含まない炭化水素系や、エステル系、ケトン系等の各種塗料用有機溶剤、消泡剤や、分散剤、脱水剤等の各種添加剤を含有する。各成分の配合割合は、(a)成分である湿気硬化型樹脂100質量部に対し、(b)成分である導電性材料は、例えば、1〜50質量部、好ましくは、5〜30質量部、(c)成分である腐食性イオン固定化剤は、例えば、1〜95質量部、好ましくは、5〜30質量部、(d)成分であるカップリング剤は、例えば、0.1〜10質量部、好ましくは、1〜5質量部であり、(b)成分と(c)成分の合計が5〜100質量部、好ましくは、15〜70質量部であることが適当である。
素地調整剤の塗膜(A)を形成するための組成物に、任意に含有される有機溶剤の量は、素地調整剤の塗膜(A)形成組成物の固形分が、例えば、20〜80質量%、好ましくは、30〜70質量%程度が適当である。
また、各種添加剤は、素地調整剤の塗膜(A)を形成する組成物の固形分中、例えば、0.1〜10質量%、好ましくは、1〜5質量%配合するのが適当である。
【0016】
なお、(b)成分が前記範囲より少ないと、素材の表面電位均一化が十分に発揮できず、逆に多すぎると、相対的に(a)成分の量が少なくなり、錆層の強化(凝集力)が不十分となりやすい。また、(c)成分の量が前記範囲より少ないと、腐食性イオン物質の捕集、固定化が不十分となり、逆に多すぎると、相対的に(a)成分の量が少なくなり、錆層の強化が不十分となりやすい。また、(d)成分の量が、前記範囲より少ないと、錆層への漏れ性や、含浸性、その上に塗装する塗料との密着性が不十分となり、逆に多すぎても前記効果の向上は認められず、経済的にも不利である。
【0017】
本発明の素地調整剤の塗膜(A)を形成するための組成物は、錆を有する耐候性鋼の浮き錆等の脆弱個所をワイヤーブラシや、スコッチブライト(スリーエム社製)等で、また、層状錆や、コブ錆等の発生した腐食の著しい個所は、動力研磨工具や、手研磨工具にて除去する。但し、固着化した錆は除去する必要はない。このようにして前処理した鋼材表面に、本発明の素地調整剤の塗膜(A)を形成するための組成物を、刷毛や、ローラー、スプレー等の手段で、乾燥塗布量(固形分換算)0.03〜2kg/m2、好ましくは、0.05〜1.50kg/m2程度塗布し、乾燥させる。乾燥は、自然乾燥でもよく、強制的に乾燥してもよい。このように素地調整剤の塗膜(A)を耐候性鋼表面に形成すると、長期間フクレや剥離しにくい塗膜が得られ、そのため耐候性鋼は、長期防食性の優れたものとなる。
【0018】
次に、本発明の防食塗膜(B)について説明する。
防食塗膜(B)は、樹脂、防錆剤及び必要に応じて配合されるシランカップリング剤や、溶媒、更には、分散剤、抗菌剤、ハジキ防止剤などの各種添加剤を含有する防食塗料から形成される。防食塗料の形態は、溶剤系、水系、無溶剤系を問わない。防食塗料で使用される樹脂は、密着性が良く、また腐食原因となる水や酸素を透過しにくい樹脂を使用することが必要である。
このような樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂や、変性エポキシ樹脂、タールエポキシ樹脂、塩化ゴム系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルシリコン樹脂、エポキシシリコン樹脂、及び、これら樹脂に硬化剤を併用したものが挙げられる。
【0019】
塗料を構成する防錆剤は、有機系及び無機系のどちらでも良い。有機系防錆剤の具体例としては、鋼材表面を不働態化し、電位を均一にする作用のある導電性ポリアニリン、塗膜と鋼材の付着性を強固にする2−ベンゾチアゾコハク酸やジフェニルチオカルバゾン、N,N−ジフェニルエチレンジアミン、S−ジフェニルカルバジド、フェノシアゾリン、1,5−ジフェニル−3−チオカルボヒドラジド、1,4−ジフェニル−3−チオセミカルバジド、チオカルボアニライド、チオベンズアニライド、チオアセトアニライド、2−メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾセレナゾール、2−メルカプトベンゾキサゾール、5−メルカプト−3−フェニルチアジアゾール−2−チオン、2−(o−ヒドロキシフェノール)ベンゾチアゾール、2,2’−ジチオビズ−(ベンゾチアゾール)、ジメチルヒダントイン、ピロール−2−カルボキシアルデヒド、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアゾール、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−メルカプトチアゾリン、2−アミノチアゾール、3,5−ジメチルピラゾール、ヒスチジン、1,10−フェナントロリン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等が代表的なものとして挙げられ、これらは一種もしくは二種以上の混合物として用いることができる。
【0020】
これら有機系防錆剤の添加量は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、例えば、0.5〜40質量部、好ましくは、2〜10質量部添加することが適当である。0.5質量部未満では、防錆効果が少なくなる傾向にあり、一方、40質量部より多く添加しても、添加した量に対応するほどの効果の向上は実質的にない。
無機系防錆剤としては、例えば、アルミニウム粉末や、亜鉛粉末の他、リン酸アルミニウムや、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料が挙げられ、これらは一種もしくは二種以上の混合物が用いられる。但し、クロム系、鉛系防錆顔料は毒性の観点から好ましくない。
【0021】
これら無機系防錆剤は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、例えば、1〜80質量部、好ましくは、5〜60質量部添加するのが良い。1質量部未満では、防錆性が不充分となり易く、一方、80質量部超える場合、塗料安定性が悪くなる傾向にある。なお、有機系防錆剤と無機系防錆剤を併用しても良い。
本発明においては、防食塗膜(B)を形成する組成物は、樹脂−防錆剤−耐候性鋼素材を複合化し、密着性を向上させるためにシランカップリング剤を配合するのが好ましい。該シランカップリング剤の具体例を挙げると、γ−クロロプロピルトリメトキシシランや、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン等が代表的なものとして挙げられる。
【0022】
シランカップリング剤は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、例えば、0.1〜20質量部、好ましくは、1〜5質量部添加することが適当である。0.1質量部未満の場合、複合化の効果は小さく、一方、20質量部を超えると、塗料安定性が低下する傾向にある。防食塗膜(B)の膜厚は、30〜150μm、好ましくは、35〜120μmが適当である。なお、30μm未満であると、防食性が不充分であり、一方、150μm超えると、垂直面に塗装した場合、塗料がタレやすく、また乾燥が遅くなりやすい等の不具合が生じる。
防食塗膜(B)は、上記厚みを有する限り、複数層で形成してもよい。
【0023】
次に、着色上塗塗膜及び、それを形成するための着色上塗塗料について説明する。
着色上塗塗料は、樹脂、着色剤、必要に応じて配合される防錆顔料、シランカップリング剤、溶媒、分散剤、紫外線吸収剤、抗菌剤などの各種添加剤を含有することができる。着色上塗塗料の形態は、溶剤系や、水系、無溶剤を問わない。着色上塗塗料に含まれる結合剤としての樹脂は、耐候性の良好な樹脂を使用することが適切である。即ち、樹脂は、促進耐候性試験サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢保持率が85%以上、好ましくは、90%以上維持する塗膜を形成する樹脂であることが必要である。光沢保持率が、85%未満であると、塗膜に白化、フクレ、剥離等が生じ易くなるので好ましくない。
耐候性の良い樹脂としては、例えば、有機樹脂や、有機無機複合樹脂、無機樹脂等を好適に挙げることができる。
【0024】
有機樹脂の具体例は、塩化ゴム樹脂や、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、及びこれら樹脂に硬化剤を併用したものであり、好ましくは、湿気硬化型ウレタン樹脂、フッ素樹脂である。
有機無機複合樹脂の例としては、加水分解性シリル基を有する有機樹脂と、
一般式、
R1 nSi(OR2)4−n
〔式中、R1は、炭素数1〜8の有機基であり、R2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、1又は2である。〕で示されるオルガノシラン又はその部分加水分解物とから構成されるものを挙げることができる。
加水分解性シリル基を有する有機樹脂の例としては、例えば、加水分解性シリル基を有するフッ素樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0025】
フッ素樹脂や、エポキシ樹脂、アクリル樹脂に加水分解性シリル基を導入するオルガノシランとしては、一般式、
R1 nSi(OR2)4−n
〔式中、R1は、炭素数1〜8の有機基であり、R2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、1又は2である。〕で示されるオルガノシランである。
上記式において、R1としての有機基としては、例えば、アルキル基や、シクロアルキル基、アリール基、ビニル基等が挙げられる。
ここで、アルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基は、炭素数が、1〜4個のものである。
【0026】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基や、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が好適に挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
上記各官能基は、任意に置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子や臭素原子、フッ素原子等)や、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、脂環式基等が挙げられる。
R2としてのアルキル基としては、直鎖でも分岐したものでもよい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、好ましいアルキル基は、炭素数が1〜2個のものである。
【0027】
上記式で示されるオルガノシランの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシランや、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジプロポキシシランなどが挙げられるが、好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランである。
【0028】
着色上塗塗料に使用される有機無機複合樹脂は、上記の加水分解性シリル基を有するフッ素樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等と、以下の式、
R1 nSi(OR2)4−n
〔式中、R1は、炭素数1〜8の有機基であり、R2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、1又は2である。〕
で示されるオルガノシラン/又はその部分加水分解縮合物とから構成される。
ここで使用されるオルガノシランとしては、単独でもよく、又は2種以上の混合物として使用してもよい。
オルガノシランの縮合物としては、ポリスチレン換算重量平均分子量が、例えば、300〜5000、好ましくは、500〜4200のものが適当である。このような縮合物を使用することにより、貯蔵安定性がよく、密着性の良い塗膜が得られる。
【0029】
このような縮合物の具体例としては、市販品として東レ・ダウコーニング社製のSR2402や、DC3037、DC3074;信越化学工業社製のKR−211や、KR−212、KR−213、KR−214、KR−216、KR−218;東芝シリコーン社製のTSR−145や、TSR−160、TSR−165、YR−3187等が挙げられる。
加水分解性シリル基を有するフッ素樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等と、オルガノシラン又はその部分加水分解縮合物とは、加水分解縮合反応によって反応し、塗膜を形成する。この反応においては、上記有機無機複合樹脂の2成分の混合物を、水、必要に応じて触媒の存在下で、40〜80℃、好ましくは、45〜65℃で、2〜10時間撹拌しながら反応させる方法が適当であるが、この方法に限定されるものではない。
【0030】
上記反応に使用される触媒としては、例えば、トリメトキシボランや、トリエトキシボラン等のトリアルコキシボラン;トリ−n−ブトキシエチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシジ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物;ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン等のチタンキレート化合物;モノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム等のアルミニウムキレート化合物などの有機金属化合物が挙げられる。
【0031】
なお、加水分解縮合反応物は、その反応で生成するアルコール分により、又はそのアルコール分と必要に応じて添加される後記有機溶媒とにより、溶液状態のメルカプト基を持つポリオルガノシロキサン樹脂溶液を合成することができる。
本発明の着色上塗塗料に使用される無機樹脂としては、一般式、
R1 nSi(OR2)4−n
〔式中、R1は、炭素数1〜8の有機基であり、R2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、1又は2である。〕で示されるアルキルシリケートの加水分解縮合物が好適に挙げられる。
【0032】
前記一般式中のR1としての有機基としては、例えば、アルキル基や、シクロアルキル基、アリール基、ビニル基等が挙げられる。
ここで、アルキル基としては、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基は、炭素数が1〜4個のものである。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基や、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が好適に挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0033】
上記各官能基は、任意に置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子や、臭素原子、フッ素原子等)や、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、グリシジル基、脂環式基等が挙げられる。
また、一般式中のR2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基などが挙げられる。
また、nは0又は1である。
このようなアルキルシリケートの具体例としては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトラ−i−プロピルシリケート、テトラ−n−ブチルシリケートなどのnが0の場合のアルキルシリケート;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシランなどのnが1の場合のアルキルシリケート等が挙げられる。
【0034】
アルキルシリケートの部分加水分解縮合物は、塗装作業性等の観点から縮合度30以下、好ましくは、10以下のものが好ましい。
なお、オルガノシランの加水分解を促進させ、シロキサン結合で硬化させるために使用する硬化触媒の具体例として、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジマレエート、ジオクチルスズマレエート、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物;リン酸、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノデシルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジデシルホスフェートなどのリン酸又はリン酸エステル;ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタニウムなどの有機チタネート化合物;トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物;テトラブチルジルコネート、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトライソブチルジルコネート、ブトキシトリス(アセチルアセトナート)ジルコニウムなどの有機ジルコニウム化合物等が代表的なものとして挙げられる。
【0035】
着色上塗塗料に任意に配合される防錆顔料としては、無公害防錆顔料が挙げられる。このような無公害防錆顔料としては、例えば、リン酸アルミニウムや、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料が挙げられる。これらの防錆顔料は、一種もしくは二種以上の混合物で使用することができる。但し、クロム系、鉛系防錆顔料は毒性の観点から好ましくない。
【0036】
着色上塗塗料に配合される防錆顔料は、前記防錆塗膜に含まれる防錆剤粒子の溶出速度を調整し、それにより、屋外暴露に対して、長期防錆性を向上させるため配合するものである。その配合量は、無機樹脂100質量部に対して、例えば、1〜80質量部、好ましくは、5〜60質量部添加するのが適当である。1質量部未満では、防錆性が不充分で、一方、80質量部越える場合、塗料安定性が悪くなる傾向にある。
着色上塗塗料に配合される、要望に合致した着色を施すための着色顔料としては、具体的には、二酸化チタンや、酸化亜鉛等の白色顔料、カーボンブラック、黒鉛等の黒色顔料、モリブデートオレンジ、パーマネントカーミン、キナクリドンレッド等の赤色顔料、キノフタレンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー等の緑、青顔料等の、通常塗料用に使用されている各色の顔料が代表的なものとして挙げられる。更に、体質顔料を併用してもよい。着色顔料は、その種類によっても異なるが、樹脂100質量部に対して、例えば、0.1〜70質量部、好ましくは、0.8〜50質量部添加するのが適当である。
【0037】
着色上塗塗料に任意に配合されるシランカップリング剤としては、例えば、γ−クロロプロピルトリメトキシシランや、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン等が代表的なものとして挙げられる。
【0038】
シランカップリング剤は、着色上塗塗料塗膜と素材の密着性を向上させるため配合するものであり、その配合量は、樹脂100質量部に対して、例えば、0〜20質量部、好ましくは、1〜5質量部添加するのが望ましい。なお、配合量が20質量部越えると、塗料安定性が低下する傾向にある。
着色上塗塗料は、乾燥膜厚20〜90μm、好ましくは、30〜80μmで塗装することが適当である。20μm未満であると、隠蔽性や耐候性が不充分となる。一方、90μm越えると、発泡や硬化不良が生じやすくなり、また垂直面に塗装した場合、塗料がたれる等の不具合が生じる。
着色上塗塗料は、促進耐候性試験サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢保持率が85%以上の塗膜を形成する。ここでいう促進耐候性試験サンシャインウェザーメーターは、JIS K5400で規定されるサンシャインカーボンアーク灯式の、実際の屋外暴露と相関のある促進耐候性試験機であり、光沢保持率とは、JIS K5400で規定される60度鏡面光沢度から下記の式で計算された、光沢の残存の程度をいう。
光沢保持率=(サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢)×100/初期光沢 (%)
【0039】
本発明の方法を実施する場合には、例えば、浮き錆のみを除去した鋼材表面に、素地調整剤の塗膜(A)を形成する組成物を、例えば、刷毛や、ローラー、スプレー等の手段で、塗布量(固形分換算)0.03〜2kg/m2程度塗布し、乾燥させる。このように素地調整剤の塗膜を耐候性鋼表面に形成すると、屋外暴露に対して長期間フクレや剥離しにくい塗膜を提供し、そのため鋼材は、長期防食性の優れたものとなる。
次に、防食塗膜(B)を形成するための防食塗料を、例えば、刷毛や、ローラー、スプレー等の手段で、乾燥膜厚が30〜150μmとなるように塗装し、自然乾燥又は80℃以下の温度で強制的に乾燥する。次いで、着色上塗塗料を、刷毛、スプレー、ローラー等の手段で乾燥膜厚が20〜90μmとなるように塗装し、自然乾燥もしくは100℃以下の温度で強制乾燥させる。
【0040】
【実施例】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、更に詳細に説明する。
なお、実施例中、「部」、「%」は、質量基準で示す。
(イ)素地調整剤の塗膜を形成するための組成物の調製
以下の表1に示す成分を混合分散し、素地調整剤の塗膜を形成するための組成物を調製し、密閉容器に貯蔵した。
【0041】
【表1】素地調整剤の塗膜を形成するための組成物
【0042】
(ロ)有機樹脂の合成
【0043】
合成例1
還流冷却器及び撹拌器を備えた反応器に、フッ素樹脂(ダイキン工業社製商品名ゼッフルGK550、固形分60%)190gを仕込み、撹拌しながら、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン42gと、ジブチルスズジラウレート0.05gとを加え、40℃で4時間撹拌し、固形分67%の加水分解性シリル基を有するフッ素樹脂(v)を合成した。
【0044】
合成例2
還流冷却器及び撹拌器を備えた反応器に、キシレン55部、及びイソブタノール40部を加え混合した後、撹拌しながら85℃に加熱した。次にイソブチルメタクリレート50部、2−エチルヘキシルメタクリレート35部、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン15部及びアゾビスイソバレロニトリル1.5部の混合溶液を85℃で3時間かけて滴下し、その後90℃に昇温し、2時間維持して反応を終了させた。固形分50%の加水分解性シリル基を有するアクリル樹脂(vi)を合成した。
(ハ)無機樹脂の合成
【0045】
合成例3
還流冷却器及び撹拌器を備えた反応器に、下記シリコーン中間体を添加し、60℃で3時間撹拌して、アルコキシシリケート加水分解物(vii)(ポリスチレン換算質量平均分子量Mn:1500)を得た。
信越シリコン社製 KBM13 45.0部
信越シリコン社製 KBM103 25.0部
東芝ダウコーニング社製 SH6018 25.0部
【0046】
合成例4
還流冷却器及び撹拌器を備えた反応器に、下記シリコーン中間体を添加し、60℃で3時間撹拌して、アルコキシシリケート加水分解物(viii)(質量平均分子量Mn:1800)を得た。
信越シリコン社製 KBM14 13.5部
信越シリコン社製 KBM103 11.5部
東芝ダウコーニング社製 SR2402 75.0部
【0047】
実施例1
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物や脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(i)を0.1kg/m2となるよう塗装し、乾燥して、素地調整剤の塗膜を形成し、その上に、下記組成の防食塗料を乾燥膜厚が70μmになるよう塗装し、乾燥後、更にフッ素樹脂上塗塗料を乾燥膜厚が50μmになるよう一回塗装し、乾燥した後、裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性などの評価結果を以下の表2に示す。
【0048】
「防食塗料」
〔主剤成分〕
エポキシ樹脂溶液 注 6) 200.0部
亜鉛粉末 29.6部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 6.4部
メチルエチルケトン 26.0部
注6)エポキシ当量450のビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形分50%
【0049】
〔硬化剤成分〕
ポリアミドアミン樹脂溶液 注 7) 101.6部
キシレン 172.4部
注7)アミン価75mgKOH/g、固形分65%
「着色上塗塗料」
〔主剤成分〕
フッ素樹脂溶液 注 8) 154.0部
二酸化チタン 55.4部
キシレン 61.6部
注8)樹脂の水酸基価45mgKOH/g、数平均分子量7000、
固形分65%
〔硬化剤成分〕
ヘキサメチレンジイソシアネート 17.6部
酢酸ブチル 53.6部
【0050】
実施例2
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物や脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(i)を0.1kg/m2となるよう塗装し、乾燥して、素地調整剤の塗膜を形成し、その上に、下記組成を有する防食塗料を乾燥膜厚が70μmになるよう塗装し、乾燥し、次いで、下記の着色上塗塗料を乾燥膜厚が50μmになるよう一回塗装し、乾燥した後、裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性などの評価結果を以下の表2に示す。
【0051】
「防食塗料」
〔主剤成分〕
エポキシ樹脂溶液 注 9) 200.0部
亜鉛粉末 41.5部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 6.4部
メチルエチルケトン 26.0部
注9)エポキシ当量250のビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形分50%
〔硬化剤成分〕
ポリアミドアミン樹脂溶液 注 10) 101.6部
キシレン 172.4部
注10)アミン価75mgKOH/g、固形分65%
【0052】
「着色上塗塗料」
〔主剤成分〕
アクリル樹脂溶液 注 11) 154.0部
キナクリドンレッド 30.8部
キシレン 43.1部
注11)樹脂の水酸基価80mgKOH/g、数平均分子量12000、
固形分65%
〔硬化剤成分〕
ヘキサメチレンジイソシアネート 27.7部
酢酸ブチル 75.8部
【0053】
実施例3
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物、脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(ii)を0.1kg/m2となるよう塗装し、乾燥して、素地調整剤の塗膜を形成し、その上に、下記組成の防食塗料を乾燥膜厚が70μmになるよう塗装し、乾燥し、次いで、合成例1で作製した加水分解性シリル基を有するフッ素樹脂(v)及び合成例3で作製したアルコキシシリケート加水分解物(vii)を含有し、かつ下記組成を有する着色上塗塗料を乾燥膜厚が50μmになるよう一回塗装し、乾燥した後、裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性などの評価結果を以下の表2に示す。
【0054】
「防食塗料」
キシレン樹脂 注 12) 100.0部
芳香族ポリイソシアネート 注 13) 310.0部
亜リン酸亜鉛 210.0部
脱水剤 注 14) 16.0部
キシレン 43.1部
注12)三菱瓦斯化学工業(株)社製商品名:ニカノール3L(キシレン/ホルムアルデヒド樹脂)
注13)住友バイエルウレタン(株)社製商品名:スミジュールE21−1
注14)住友バイエルウレタン(株)社製商品名:アディティブT1
(トシルイソシアネート)
「着色上塗塗料」
加水分解性シリル基を有するフッ素樹脂(v) 130.0部
アルコキシシリケート加水分解物(vii) 40.0部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 2.5部
キナクリドンレッド 32.3部
【0055】
実施例4
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物、脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(ii)を0.1kg/m2となるよう塗装し、乾燥して、素地調整剤の塗膜を形成し、その上に、下記組成の防食塗料を乾燥膜厚が70μmになるよう塗装し、乾燥し、次いで、合成例2で作製した加水分解性シリル基を有するアクリル樹脂(vi)及び合成例3で作製したアルコキシシリケート加水分解物(vii)を含有し、かつ下記組成の着色上塗塗料を乾燥膜厚が50μmになるよう一回塗装し、乾燥した後、裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性などの評価結果を以下の表2に示す。
【0056】
「防食塗料」
キシレン樹脂 注 15) 100.0部
芳香族ポリイソシアネート 注 16) 310.0部
亜リン酸亜鉛 210.0部
脱水剤 注 17) 16.0部
キシレン 43.1部
注15)三菱瓦斯化学工業(株)社製商品名:ニカノール3L(キシレン/ホルムアルデヒド樹脂)
注16)住友バイエルウレタン(株)社製商品名:スミジュールE21−1
注17)住友バイエルウレタン(株)社製商品名:アディティブT1
(トシルイソシアネート)
「着色上塗塗料」
加水分解性シリル基を有するアクリル樹脂(vi) 125.0部
アルコキシシリケート加水分解物(vii) 30.0部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 1.8部
キナクリドンレッド 32.3部
【0057】
実施例5
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物、脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(iii)を0.1kg/m2となるよう塗装し、乾燥して、素地調整剤の塗膜を形成し、その上に、下記組成の防食塗料を乾燥膜厚が70μmになるよう塗装し、乾燥し、次いで、合成例3で作製したアルコキシシリケート加水分解物(vii)を含有し、かつ下記組成の着色上塗塗料を乾燥膜厚が50μmになるよう一回塗装し、乾燥した後、裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性などの評価結果を以下の表2に示す。
【0058】
「防食塗料」
〔主剤成分〕
エポキシ樹脂溶液 注 18) 200.0部
アルミニウムペースト 注 19) 35.6部
ミネラルスピリット 200.0部
注18)エポキシ当量210のビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形分100%
注19)含有するアルミニウム粒子の平均粒径12μm、固形分75%
〔硬化剤成分〕
ポリアミドアミン樹脂溶液 注 20) 102.8部
キシレン 69.6部
注20)アミン価255mgKOH/g、固形分76%
「着色上塗塗料」
アルコキシシリケート加水分解物(vii) 125.0部
キノフタレンイエロー 32.0部
【0059】
実施例6
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物、脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(iii)を0.1kg/m2となるよう塗装し、乾燥して、素地調整剤の塗膜を形成し、その上に、下記組成の防食塗料を乾燥膜厚が70μmになるよう塗装し、乾燥し、次いで、合成例4で作製したアルコキシシリケート加水分解物(viii)を含有し、かつ下記組成の着色上塗塗料を乾燥膜厚が50μmになるよう一回塗装し、乾燥した後、裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性などの評価結果を表2に示す。
【0060】
「防食塗料」
〔主剤成分〕
エポキシ樹脂溶液 注 21) 200.0部
アルミニウムペースト 注 22) 35.6部
ミネラルスピリット 200.0部
注21)エポキシ当量210のビスフェノールA型エポキシ樹脂、
固形分100%
注22)含有するアルミニウム粒子の平均粒径12μm、固形分75%
〔硬化剤成分〕
ポリアミドアミン樹脂溶液 注 23) 102.8部
キシレン 69.6部
注23)アミン価255mgKOH/g、固形分76%
「着色上塗塗料」
アルコキシシリケート加水分解物(viii) 125.0部
二酸化チタン 32.0部
【0061】
比較例1
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物、脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、全く塗装しないで、耐候性及び防食性を評価した。その結果を以下の表2に示す。
【0062】
比較例2
実施例1において、素地調整剤及び防食塗料を塗装しないで、着色フッ素樹脂系上塗塗料のみを塗装し、その塗装鋼の耐候性及び防食性を評価した。その結果を以下の表2に示す。
【0063】
比較例3
5年間無処理で屋外暴露し、浮き錆を有する3×100×300(mm)のJIS G3141に規定された耐候性鋼(SMA400)表面の付着物、脆弱錆のみをスコッチブライト除去し、表1に示す素地調整剤(iv)を0.1kg/m2となるよう塗装し、乾燥した後、防食塗料及び着色上塗塗料を塗装しないで裏面及び側面をエポキシ樹脂塗料でシールし、7日間自然乾燥させた。
その塗装鋼の耐候性及び防食性を評価した結果を以下の表2に示す。
【0064】
比較例4
実施例1において、素地調整剤を塗装した後、防食塗料を塗装しないで、着色上塗塗料を塗装し、その塗装鋼の耐候性及び防食性を評価した結果を以下の表2に示す。
【0065】
【表2】塗装鋼の耐候性及び防食性、付着性の評価結果
【0066】
注24)サンシャインウェザーメーター300時間後の光沢保持率(%)
注25)屋外暴露2年
注26)複合サイクル試験1200サイクル後の防食性評価
注27)複合サイクル試験1200サイクル後の2mm碁盤目試験
表2からも明らかな通り、本発明の実施例においては、塗装鋼に対して、任意の色に着色でき、また塗装鋼に、優れた耐候性及び防食性を付与することができる。一方、無塗装の比較例1、素地調整剤の塗膜を形成していない比較例2、素地調整剤の塗膜のみの比較例3、及び防食塗料のみ塗装しない比較例4では、いずれも赤錆が発生した。
【0067】
【発明の効果】
本発明の方法により、防錆性及び耐候性を長期間保持し、更に任意の着色を可能にした、省工程の耐候性鋼の防食方法が提供される。
Claims (5)
- 浮き錆のみ除去した錆が残存する耐候性鋼表面に、(a)湿気硬化型樹脂、(b)導電性材料、(c)腐食イオン固定化剤、及び(d)カップリング剤を含有する素地調整剤の塗膜(A)を、乾燥塗布量0.03〜2kg/m2の範囲で形成し、次いで、防錆剤を含有した防食塗膜(B)を、乾燥膜厚30〜150μmで形成し、更に、促進耐候性試験サンシャインウェザーメーター照射300時間後の光沢保持率が85%以上の着色上塗塗膜(C)を、乾燥膜厚20〜90μmで形成することを特徴とする耐候性鋼の防食法。
- 前記素地調整剤のうち、(a)成分100質量部に対して、(b)成分を1〜50質量部、(c)成分を1〜95質量部、及び(d)成分を0.1〜10質量部含有し、かつ(b)成分と(c)成分の合計が、5〜100質量部である請求項1記載の防食法。
- 前記素地調整剤の(a)成分が、湿気硬化型ウレタン樹脂である請求項1記載の防食法。
- 前記素地調整剤の(c)成分が、ハイドロカルマイト及び/又はハイドロタルサイトである請求項1又は請求項2記載の防食法。
- 前記着色上塗塗料が、シランカップリング剤を含有する請求項1又は請求項2記載の防食法。
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