JP2004043856A - 低降伏比型鋼管 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%を含む鋼であり、そのミクロ組織がフェライトおよびパーライト、あるいはフェライトおよびセメンタイトからなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%、Nb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%を含む鋼であり、そのミクロ組織がフェライトおよびベイナイト、あるいはフェライト、マルテンサイトおよびベイナイト、あるいはフェライトおよびマルテンサイトからなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低降伏比型鋼管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築物の耐震性を高めるためには、降伏比の低い鋼材を構造部材として使用することが有効であることが近年明らかにされてきた。従って、建築用鋼管についても、低降伏比型の鋼管が要求される。降伏比が低いほど、外力により建築用鋼管が降伏しても破断には至り難く、それ故、その構造物が破壊に至らないと考えられるからである。
【0003】
一方、溶接鋼管は、製管時の曲げや拡管、さらには絞りなどの冷間加工の影響を受けるため、得られた溶接鋼管は、母材である鋼板ほどの低降伏比のものが得られない場合が多い。従って、低降伏比型の鋼管を得るためには、製管前の鋼板における降伏比を十分に低下させる必要がある。
【0004】
特開平10−17980号公報においては、低降伏比型溶接鋼管を製造するに際し、必須成分として1〜3%のCrを含有する鋼を素材鋼として用い、その組織を従来の知見通りに軟質のフェライト相と硬質のベイナイトあるいはマルテンサイト相を含む複合組織とする発明が開示されている。
【0005】
特開2000−54061公報においては、鋼材に含有されるCを0.03%以下、好ましくは0.015%以下とし、Nbを固溶の状態で存在させ、更に鋼材のミクロ組織を適正に制御することによって、常温で降伏比が低く、かつ高温での強度特性に優れる鋼材及び鋼管が得られると記載されている。
【0006】
特開2000−239972公報においては、鋼材に含有されるCを0.02%以下、好ましくは0.015%以下とし、Nb及びSnを多く添加することにより、常温での降伏比が低く、かつ高温での強度特性に優れる鋼材及び鋼管が得られると記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記特開平10−17980号公報に記載の発明は、ベイナイト相あるいはマルテンサイト相の硬質相を生成させて低降伏比と高強度を同時に得るために、1%以上のCrを必須成分としている。Cr合金は高価であり、これでは低価格の低降伏比型鋼管を提供することができない。また、Crは溶接時に酸化物を生成しやすく、そのCr酸化物が溶接衝合部に残存した場合、溶接部品質を劣化させることになる。
【0008】
上記特開2000−54061公報及び特開2000−239972公報に記載の発明は、Cの上限を0.03%または0.02%以下、好ましくは0.015%以下に抑え、それによって常温での固溶Cを低減させて低降伏比を達成している。しかし、このようにCを低減したのでは、常温引張試験において高い引張強さを得ることは困難である。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決し、低降伏比型鋼管を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、そのミクロ組織が、フェライトに加えて、さらにパーライトとセメンタイトの1種以上からなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。
(2)ミクロ組織が球状化パーライトあるいは球状化セメンタイトを含有していることを特徴とする上記(1)に記載の低降伏比型鋼管。
(3)平均パーライト結晶粒径あるいはセメンタイトの平均粒径が20μm以下であることを特徴とする上記(2)に記載の低降伏比型鋼管。
(4)質量%で、Nb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%の1種以上を含むことを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の低降伏比型鋼管。
(5)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%、Nb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、そのミクロ組織がフェライトおよびベイナイトからなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。
(6)ベイナイト含有率が1〜15%であることを特徴とする上記(5)に記載の低降伏比型鋼管。
(7)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%、Nb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、そのミクロ組織がフェライト、マルテンサイトおよびベイナイト、あるいはフェライトおよびマルテンサイトからなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。
(8)ベイナイト含有率が1〜15%およびあるいはマルテンサイト含有率が1〜15%であることを特徴とする上記(7)に記載の低降伏比型鋼管。
(9)質量%で、Ti:0.005〜0.1%、B:0.0001〜0.005%の1種または2種を含有することを特徴とする上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の低降伏比型鋼管。
(10)質量%で、V:0.01〜0.5%、Cu:0.01〜1%、Ni:0.01〜1%、Cr:0.01〜1%、Mo:0.01〜1%の1種もしくは2種以上を含むことを特徴とする上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の低降伏比型鋼管。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明全体に共通する特徴は、鋼のミクロ組織がフェライトを含む組織からなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることである。Hall−Petchの法則により、降伏応力は結晶粒径の(−1/2)乗に比例するため、結晶粒径が小さいほど降伏応力が大きくなり、降伏比が高くなる。逆に結晶粒径が大きいほど降伏応力が低くなり、降伏比が小さくなる。本発明はこの点に着目し、ミクロ組織に含まれるフェライトの平均フェライト結晶粒径が20μm以上になると降伏応力が低下し、その結果として造管後の鋼管においても低降伏比が得られることを明らかにした。平均フェライト粒径は好ましくは30μm以上、さらに好ましくは40μm以上である。
【0012】
平均フェライト粒径をはじめとする結晶粒径の測定方法は、JIS G 0552付属書1に記載されている方法に従い、フェライト平均結晶粒径を測定する。また、マルテンサイトおよびベイナイトの場合は、旧オーステナイト結晶粒径を測定するが、これはJIS G 0551付属書3の方法に従うこととするとよい。
【0013】
ミクロ組織におけるフェライト含有率は70%〜98%であると好ましい。フェライト含有率が70%未満ではフェライト粒径を大きくしても降伏応力を十分に低下させることができないので低降伏比が得られず、逆にフェライト含有率が98%を超えると鋼の引張強度が低下し、同様に低降伏比が得られないからである。フェライト含有率は75%〜95%であるとより好ましい。
【0014】
従来の低降伏比型鋼管を製造するための鋼板の熱間圧延においては、γ領域加熱後、γ領域から2相領域低温側で圧延されていた。そのため、平均フェライト粒径を20μm以上とすることができなかった。本発明においては、γ領域加熱後、γ領域から2相領域高温側で圧延を終了させ、結晶粒の微細化を抑制し、その結果として平均フェライト粒径が20μm以上の鋼を製造することを可能にした。熱間圧延終了後、Ar1点+50℃までの冷却速度を10℃/sec以下とすることで、フェライトの平均結晶粒径を20μm以上とすることができる。
【0015】
本発明は、ミクロ組織が、フェライトに加えて、さらにパーライトとセメンタイトの1種以上からなる第1の発明、ミクロ組織がフェライトおよびベイナイトからなる第2の発明、ミクロ組織がフェライト、マルテンサイトおよびベイナイト、あるいはフェライトおよびマルテンサイトからなる第3の発明からなる。以下、各発明毎にその詳細を説明する。
【0016】
第1の発明について説明する。
第1の発明は、ミクロ組織が、フェライトに加えて、さらにパーライトとセメンタイトの1種以上からなる。フェライトを必須含有組織とし、さらにパーライトとセメンタイトの1種以上からなる組織という意味である。このような組織とした結果として、引張強度500〜600MPaの低降伏比型鋼管を製造することができる。
【0017】
第1の発明の成分限定理由について説明する。
Cは、基地中に固溶あるいは炭化物として析出し、鋼の強度を増加させる元素であり、また、セメンタイト、パーライトの第2相として析出し、熱延鋼板を鋼管に冷間成形する場合、降伏応力あるいは耐力の上昇を少なくするとともに引張強度と一様伸びを向上させるため、低降伏比化に寄与する。第2相として析出したセメンタイト等による低降伏比化効果を得るためには、Cは0.01%以上、好ましくは0.04%以上の含有を必要とするが、0.20%を超えて含有すると低降伏比効果および溶接性が劣化する。このため、Cは0.01〜0.20%の範囲に限定する。
【0018】
Siは脱酸材として作用するとともに、基地中に固溶し鋼の強度を増加させる。この効果は、0.05%以上の含有で認められるが、1.0%を超えると低降伏比効果を劣化させる。このため、Siは0.05〜1.0%の範囲に限定する。
【0019】
Mnは鋼の強度を増加させる元素であり、第2相であるセメンタイトあるいはパーライトの析出を促進させる。この効果は、0.1%以上の含有で認められるが、2.0%を超える含有は低降伏比効果を劣化させる。このため、Mnは0.1〜2.0%の範囲に限定する。尚、低降伏比化効果および強度の観点から、Mnは0.3〜1.5%の範囲が好ましい。
【0020】
Alは脱酸材として使われるが、その量は結晶粒径や機械的性質に大きな影響を及ぼす。0.001%未満では脱酸として不十分で、0.05%超ではAl系の鋼中酸化物が増加し、靭性を劣化させるので、0.001%〜0.05%の範囲に限定する。
【0021】
第1の発明のようにミクロ組織を、フェライトに加えて、さらにパーライトとセメンタイトの1種以上からなる組織とするためには、γ領域加熱後、γ領域からγ−α2相領域高温側で圧延を終了させた後、Ar1点+50℃までを10℃/sec以下の冷却速度で冷却し、引き続きAr1点+50℃以下を3℃/sec以上の冷却速度で冷却することにより製造することができる。
【0022】
第1の発明はさらに、ミクロ組織が球状化パーライトあるいは球状化セメンタイトを含有していると好ましい。これら組織を含有していると、鋼板を鋼管に成形するに際して降伏比の上昇を抑えることができるからである。また、球状化パーライトあるいは球状化セメンタイトは、一様伸びを向上させる効果もある。
【0023】
球状化しているか否かの判断は、圧延方向に平行な断面において、第2相の縦横のアスペクト比が2以下の場合を球状化と定義して判断を行うことができる。
【0024】
パーライトあるいはセメンタイトを球状化するためには、鋼素材を1150℃±50℃に加熱した後、熱間圧延をAr1以上の温度で完了し、歪(転位)が導入された10mm厚程度の帯鋼とした後、引き続き3〜30℃/secの温度範囲で700℃以下まで冷却して巻き取りを行い、その間に粒界上あるいは転位上にセメンタイトあるいはパーライトを析出させることにより行うことができる。
【0025】
第1の発明はさらに、平均パーライト結晶粒径あるいはセメンタイトの平均粒径が20μm以下であると好ましい。これにより、鋼板を鋼管に成形するに際して降伏比の上昇を抑えることができるからである。
【0026】
平均パーライト粒径等を20μm以下にするためには、熱間圧延終了後のAr1点+50℃以下の冷却速度を3℃/sec以上とする。
【0027】
第1の発明において、さらにNb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%の1種以上を含むと好ましい。Nbは生地中に固溶あるいは炭窒化物として析出し、強度を高める元素であり、最低0.01%が必要である。しかし0.5%を超えて過剰添加しても効果が飽和し、十分な強化効果が得られないので、0.01%〜0.5%の範囲に限定する。Nは生地中に固溶あるいは窒化物として存在する。強度に寄与する窒化物を生成するためには0.001%以上が必要であるが、0.01%を超えて添加すると粗大な窒化物を生成しやすくなり、靭性を低下させる。このため、Nは0.001〜0.01%の範囲に限定する。
【0028】
第2の発明について説明する。
第2の発明は、ミクロ組織がフェライトおよびベイナイトからなる。このような組織とした結果として、引張強度600〜700MPa程度の低降伏比型鋼管を製造することができる。
【0029】
第2の発明の成分限定理由について説明する。
Cは、基地中に固溶あるいは炭化物として析出し、鋼の強度を増加させる元素である。0.03%未満では圧肉材で強度が不足するため0.03%以上が必要であり、好ましくは0.05%以上の含有を必要とするが、0.20%を超えて含有すると溶接性が劣化する。このため、Cは0.03〜0.20%の範囲に限定する。
【0030】
Siは脱酸材として作用するとともに、基地中に固溶し鋼の強度を増加させる。この効果は、0.05%以上の含有で認められるが、1.0%を超えると鋼材の靭性を劣化させる。このため、Siは0.05〜1.0%の範囲に限定する。
【0031】
Mnは鋼の強度を増加させる元素であり、この効果は、0.1%以上の含有で認められ、好ましくは0.3%以上であるが、2.0%を超える含有は中心偏析による靭性劣化を招く。このため、Mnは0.1〜2.0%の範囲に限定する。尚、強度および靭性の観点から、Mnは0.3〜1.5%の範囲が好ましい。
【0032】
Alは脱酸材として使われるが、その量は結晶粒径や機械的性質に大きな影響を及ぼす。0.001%未満では脱酸として不十分で、0.05%超ではAl系の鋼中酸化物が増加し、靭性を劣化させるので、0.001%〜0.05%の範囲に限定する。
【0033】
Nbは生地中に固溶あるいは炭窒化物として析出し、強度を高める元素であり、最低 0.01%が必要である。しかし 0.5%を超えて過剰添加しても効果が飽和し、十分な強化効果が得られないので、0.01%〜0.5%の範囲に限定する。
【0034】
Nは生地中に固溶あるいは窒化物として存在する。強度に寄与する窒化物を生成するためには0.001%以上が必要であるが、0.01%を超えて添加すると粗大な窒化物を生成しやすくなり、靭性を低下させる。このため、Nは0.001〜0.01%の範囲に限定する。
【0035】
第2の発明のようにベイナイトを含むミクロ組織とするためには、鋼素材を1150℃±100℃に加熱した後、熱間圧延にて10mm厚程度の帯鋼とした後、Ar1点+50℃までを10℃/sec.以下の冷却速度で冷却し、フェライト変態をさせた後、引き続きAr1点+50℃以下の温度領域を5℃/sec.以上の冷却速度で冷却してベイナイトを生成させ、600℃以下で巻き取りを行うことにより製造することができる。
【0036】
第2の発明はさらに、ベイナイト含有率が1〜15%であると好ましい。フェライトとベイナイトの混合組織において、ベイナイト含有率が1〜15%の時、鋼管成形時のYR上昇率が小さく、1%未満では効果がなく、15%を超えて含有しても効果は飽和するからである。このため、ベイナイト含有率を1〜15%の範囲に限定した。
【0037】
ベイナイト含有率を1〜15%とするためには、Ar1点+50℃までの冷却速度およびAr1点+50℃以下の冷却速度を前述の通り行う。この条件を外れると、ベイナイト含有率の上昇、あるいは多量のパーライトの含有が生じる。
【0038】
尚、フェライトとベイナイトの混合組織の中に、鋼管成形時のYR上昇率を小さくする効果を損なわない範囲で、微量のパーライトあるいはセメンタイトが含まれてもよい。
【0039】
また、第2の発明において、平均ベイナイト結晶粒径が1〜20μmであると好ましい。これにより、鋼管成形時のYR上昇率を小さくすることができるからである。
【0040】
第3の発明について説明する。
第3の発明は、ミクロ組織がフェライト、マルテンサイトおよびベイナイト、あるいはフェライトおよびマルテンサイトからなる。このような組織とした結果として、引張強度700〜800MPaの低降伏比型鋼管を製造することができる。
【0041】
第3の発明の成分限定理由について説明する。
Cは、基地中に固溶あるいは炭化物として析出し強度を確保するとともに、ベイナイトおよびマルテンサイトの硬質相を生成させて、低降伏比を得るために必要な元素である。0.03%未満ではベイナイトおよびマルテンサイトの硬質相が生成されず、低降伏比を得られない。このため0.03%以上が必要であり、好ましくは0.05%以上の含有を必要とするが、0.20%を超えて含有すると溶接性および靭性が劣化する。このため、Cは0.03〜0.20%の範囲に限定する。
【0042】
Siは脱酸材として作用するとともに、基地中に固溶し鋼の強度を増加させる。この効果は、0.05%以上の含有で認められるが、1.0%を超えると鋼材の靭性を劣化させる。このため、Siは0.05〜1.0%の範囲に限定する。
【0043】
Mnは鋼の強度を増加させる元素であり、この効果は、0.1%以上の含有で認められ、好ましくは0.3%以上であるが、2.0%を超える含有は中心偏析による靭性劣化を招く。このため、Mnは0.1〜2.0%の範囲に限定する。尚、強度および靭性の観点から、Mnは0.3〜1.5%の範囲が好ましい。
【0044】
Alは脱酸材として使われるが、その量は結晶粒径や機械的性質に大きな影響を及ぼす。0.001%未満では脱酸として不十分で、0.05%超ではAl系の鋼中酸化物が増加し、靭性を劣化させるので、0.001%〜0.05%の範囲に限定する。
【0045】
Nbは生地中に固溶あるいは炭窒化物として析出し、強度を高める元素であり、最低0.01%が必要である。しかし0.5%を超えて過剰添加しても効果が飽和し、十分な強化効果が得られないので、0.01%〜0.5%の範囲に限定する。
【0046】
Nは生地中に固溶あるいは窒化物として存在する。強度に寄与する窒化物を生成するためには0.001%以上が必要であるが、0.01%を超えて添加すると粗大な窒化物を生成しやすくなり、靭性を低下させる。このため、Nは0.001〜0.01%の範囲に限定する。
【0047】
第3の発明のようにミクロ組織をフェライト、マルテンサイトおよびベイナイト、あるいはフェライトおよびマルテンサイトとするためには、鋼素材を1150℃±100℃に加熱した後、熱間圧延にてAr3点以上で仕上圧延を終了し10mm厚の帯鋼とした後、Ar1点+50℃までを10℃/sec.以下の冷却速度で冷却し、フェライト変態をさせた後、引き続きAr1点+50℃以下の温度領域を10℃/sec.以上の冷却速度で600℃以下まで、好ましくは500℃以下、更に好ましくは450℃以下まで冷却してベイナイトおよびあるいはマルテンサイトを生成させ、巻き取りを行うこととするとよい。
【0048】
第3の発明は、ベイナイト含有率が1〜15%およびあるいはマルテンサイト含有率が1〜15%であると好ましい。フェライトとベイナイトおよびあるいはマルテンサイトの混合組織において、ベイナイト含有率が1〜15%の時およびあるいはマルテンサイト含有率が1〜15%の時、鋼管成形時のYR上昇率が小さく、1%未満では効果がなく、それぞれ15%を超えて含有しても効果は飽和するからである。このため、ベイナイト含有率およびあるいはマルテンサイト含有率をそれぞれ1〜15%の範囲に限定した。
【0049】
ベイナイト含有率等を1〜15%とするためには、Ar1点+50℃までの冷却速度およびAr1点+50℃以下の冷却速度を前述の通り行う。この条件を外れると、ベイナイトあるいはマルテンサイト含有率の上昇、あるいは多量のパーライトの含有が生じる。
【0050】
以下、第1〜第3の発明に共通する、好ましい付加成分の限定理由について説明する。
【0051】
Tiは溶接性を改善させる効果を有する元素であり、この効果は0.005%以上の含有で認められるが、0.1%を超えて添加するとTi系の炭窒化物の増加による加工性の劣化や強度の不必要な上昇を招く。このため、Tiは0.005〜0.1%の範囲に限定する。
【0052】
Bは粒界強化およびM23(C,B)6などとして析出強化をもたらし、強度を向上させる。0.0001%未満では効果が小さく、0.005%超では効果が飽和するとともに粗大なB含有相を生じさせる傾向があり、また脆化が起こりやすくなるため、0.0001%〜0.005%の範囲に限定する。
【0053】
Vは析出強化元素として強度を高める。0.01%未満では効果が不十分であり、0.5%超では炭窒化物の粗大化を招くだけではなく、降伏強度の上昇量が大きくなるので、0.01%〜0.5%の範囲に限定する。
【0054】
Cuは強度を高める元素であるが、0.01%未満では効果が小さく、1%を超えて添加すると降伏強度の上昇量が大きくなるので、0.01%〜0.5%の範囲に限定する。
【0055】
Niは強度を高め、靭性の改善にも有効な元素である。0.01%未満では靱性改善の効果が小さく、1%を超えて添加すると降伏強度の上昇量が大きくなるので、0.01%〜1%の範囲に限定する。
【0056】
Crは析出強化元素として強度を高める。0.01%未満では効果が不十分であり、1%超では炭窒化物の粗大化を招くだけではなく、降伏強度の上昇量が大きくなるので、0.01%〜1%の範囲に限定する。
【0057】
Moは固溶強化をもたらすと同時に強度を向上させる。0.01%未満では効果が小さく、1%を超えて添加すると降伏強度の上昇量が大きくなるので、0.01%〜1%の範囲に限定した。
【0058】
本発明鋼は熱延鋼板を冷間成形して製造された鋼管のみならず、厚板および薄板の形で提供することも可能である。また、この発明鋼の冷間加工の例として電縫溶接鋼管が挙げられるが、発明の効果は、低歪造管方法により低降伏比化効果が顕著になる。
【0059】
【実施例】
(実施例1)
実施例1は第1の発明に関するものである。
【0060】
表1に示す成分の鋼を連続鋳造スラブとし、このスラブを熱間圧延によって板厚10mmの鋼板とした。熱間圧延条件は、スラブを1150℃に加熱した後、熱間圧延を900℃(Ar1+170℃)の温度で完了して歪(転位)を導入した後、引き続き5〜15℃/secの温度範囲で700℃以下まで冷却して巻き取りを行った。
【0061】
鋼板のミクロ組織を表2に示す。鋼板の引張特性について、圧延ままの無加工材の引張特性、および5%予歪材の引張特性を評価した。5%予歪材は、この鋼板を例えば直径200mmの鋼管とするための冷間加工に相当する。予歪は、引張試験片を引張試験機にて引張り、歪が5%に達した時点で引張を中止するという方法によって付与した。評価した引張特性は、YS(降伏強度)、TS(引張強度)およびYR(降伏比)である。評価結果を表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
本発明例No.A〜Gは、鋼成分が本発明範囲内にあり、平均フェライト結晶粒径はいずれも20μm以上となった。5%予歪材の降伏比(YR)は71〜89%であった。No.B、D、Gのパーライトあるいはセメンタイトが球状化しているものは、5%予歪後のYRが他の例のものより小さくなっている。
【0065】
比較例No.H〜Oは、いずれかの成分が本発明範囲を外れている。平均フェライト結晶粒径は、No.J、L、M、Oについては20μm未満であった。このため、5%予歪負荷後にYSが上昇したために、YRが高くなった例である。セメンタイトまたはパーライトについては、球状化したものはなく、No.H〜K、M、Nについては好ましい範囲である20μm以下に入っていなかった。熱間圧延終了後のAr1+50℃以下の冷却速度が3℃/sec未満であったため、第二相のパーライトまたはセメンタイトが大きくなった例である。また5%予歪材の降伏比(YR)は91〜98%であった。第二相であるセメンタイトあるいはパーライトの粒径が大きいために、5%予歪負荷時に変形の抵抗となり、YSが上昇し、YRが高くなった例である。
【0066】
(実施例2)
実施例2は第2の発明に関するものである。
【0067】
表3に示す成分の鋼を連続鋳造スラブとし、このスラブを熱間圧延によって板厚10mmの鋼板とした。熱間圧延条件は、スラブを1150℃に加熱した後、熱間圧延を900℃(Ar1+170℃)の温度で完了し、780℃(Ar1+50℃)までを5℃/secの冷却速度で冷却してフェライト変態をさせ、引き続き780℃(Ar1+50℃)以下の温度領域を20℃/secの冷却速度で冷却してベイナイトを生成させ、500〜600℃で巻き取った。
【0068】
鋼板のミクロ組織を表4に示す。鋼板の引張特性について、圧延ままの無加工材の引張特性、および5%予歪材の引張特性を評価した。5%予歪材は、この鋼板を例えば直径200mmの鋼管とするための冷間加工に相当する。予歪み付与方法、引張試験内容については実施例1と同様である。評価結果を表4に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
本発明例No.A〜Fは、鋼成分が本発明範囲内にあり、組織構成はいずれもフェライトとベイナイト組織であり、平均フェライト結晶粒径は20μm以上であり、ベイナイト含有率は好ましい範囲である15%以下となっていた。5%予歪材の降伏比(YR)は71〜79%であった。ベイナイト含有率の高いものは、5%予歪負荷後のYSおよびTSは共に高くなるが、YSの上昇率がTSと比較して小さいため、YRはベイナイト含有率の低いものより低くなっている。
【0072】
比較例No.H〜Oは、いずれかの成分が本発明範囲を外れている。結晶組織は、No.H、J、L、Oがフェライトとパーライト組織であった。Ar1点+50℃以下の冷却速度が5℃/sec未満であったため、パーライトが生成した。平均フェライト結晶粒径は、No.H、L、Oについては20μm未満であった。熱間圧延終了後、Ar1点+50℃までの冷却速度が10℃/sec超であったため平均フェライト結晶粒径が小さくなった。フェライトとベイナイト組織となっているものについては、いずれもベイナイト含有率が好ましい範囲である15%を超えていた。熱間圧延終了後の冷却において、Ar1点+50℃よりも高い温度から冷却を開始したために、フェライト変態が進行せず、ベイナイト含有率が高くなった。5%予歪材の降伏比(YR)は90〜96%であった。ベイナイト含有率の高いものは、低いものよりYSおよびTSが高い。
【0073】
(実施例3)
実施例3は第3の発明に関するものである。
【0074】
表5に示す成分の鋼を連続鋳造スラブとし、このスラブを熱間圧延によって板厚10mmの鋼板とした。熱間圧延条件は、スラブを1150℃に加熱した後、熱間圧延を900℃(Ar3+170℃)の温度で完了し、780℃(Ar1+50℃)までを5℃/secの冷却速度で冷却してフェライト変態をさせ、引き続き780℃(Ar1+50℃)以下の温度領域を30℃/secの冷却速度で冷却してベイナイトおよびあるいはマルテンサイトを生成させ、400〜500℃で巻き取った。
【0075】
鋼板のミクロ組織を表6に示す。鋼板の引張特性について、圧延ままの無加工材の引張特性、およびt/D=5%相当の冷間ひずみを付与した後の引張特性を評価した。t/D=5%相当の冷間ひずみとは、この鋼板をt/D=5%の鋼管とするための冷間加工に相当する。予歪み付与方法は、引張試験片を引張試験機にて引張り、歪が5%に達した時点で引張を中止する方法である。引張試験内容については実施例1と同様である。評価結果を表6に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
本発明例No.A〜Fは、鋼成分が本発明範囲内にあり、組織構成はいずれもフェライトとマルテンサイト組織、あるいはフェライト、ベイナイトとマルテンサイト組織であり、平均フェライト結晶粒径は20μm以上であり、ベイナイト含有率・マルテンサイト含有率は好ましい範囲である15%以下となっていた。t/D=5%相当材の降伏比(YR)は83〜86%であった。
【0079】
比較例No.H〜Oは、いずれかの成分が本発明範囲を外れている。組織は、No.Hはフェライト組織、No.Oはフェライトとパーライト組織であった。Ar1点+50℃以下の冷却速度が5℃/sec未満であったため、No.Oはパーライトが生成し、No.Hは前記に加えC含有量が0.005%と少ないため、フェライト単相となった。平均フェライト結晶粒径は、No.K、M、M以外のものは20μm未満であった。熱間圧延終了後、Ar1点+50℃までの冷却速度が10℃/sec超であったため、平均フェライト結晶粒径が小さくなった。マルテンサイトやベイナイトを含む組織となっているものについては、いずれもベイナイト含有率およびマルテンサイト含有率が好ましい範囲である15%を超えていた。熱間圧延終了後の冷却において、Ar1点+50℃よりも高い温度から冷却を開始したために、フェライト変態が進行せず、ベイナイトあるいはマルテンサイトの含有率が高くなった。t/D=5%相当材の降伏比(YR)は93〜95%であった。
【0080】
【発明の効果】
本発明により、Cr含有量を抑えて低価格化および溶接部品質を劣化させるCr酸化物の生成を抑えるとともに、C含有量上限を高めて常温引張強さを高めることのできる、低降伏比型鋼管を得ることができる。
Claims (10)
- 質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、そのミクロ組織が、フェライトに加えて、さらにパーライトとセメンタイトの1種以上からなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。
- ミクロ組織が球状化パーライトあるいは球状化セメンタイトを含有していることを特徴とする請求項1に記載の低降伏比型鋼管。
- 平均パーライト結晶粒径あるいはセメンタイトの平均粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の低降伏比型鋼管。
- 質量%で、Nb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%の1種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の低降伏比型鋼管。
- 質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%、Nb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、そのミクロ組織がフェライトおよびベイナイトからなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。
- ベイナイト含有率が1〜15%であることを特徴とする請求項5に記載の低降伏比型鋼管。
- 質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.001〜0.05%、Nb:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、そのミクロ組織がフェライト、マルテンサイトおよびベイナイト、あるいはフェライトおよびマルテンサイトからなり、平均フェライト結晶粒径が20μm以上であることを特徴とする低降伏比型鋼管。
- ベイナイト含有率が1〜15%およびあるいはマルテンサイト含有率が1〜15%であることを特徴とする請求項7に記載の低降伏比型鋼管。
- 質量%で、Ti:0.005〜0.1%、B:0.0001〜0.005%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の低降伏比型鋼管。
- 質量%で、V:0.01〜0.5%、Cu:0.01〜1%、Ni:0.01〜1%、Cr:0.01〜1%、Mo:0.01〜1%の1種もしくは2種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の低降伏比型鋼管。
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