JP2003082441A - メタルガスケット用高強度オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

メタルガスケット用高強度オーステナイト系ステンレス鋼

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Abstract

(57)【要約】 【目的】 耐ヘタリ性に優れ、長期間にわたり気密性を
維持するメタルガスケットとして好適なオーステナイト
系ステンレス鋼を提供する。 【構成】 このオーステナイト系ステンレス鋼は、C:
0.02〜0.20%,Si:0.8〜3.0%,Mn:2.5%以下,
P:0.060%以下,S:0.020%以下,Ni:7.0〜15.0
%,Cr:13.0〜25.0%,Nb:0.80%以下,N:0.05
〜0.25%を含み、C+2N:0.20%以上でHVR=C+2N
+0.12Si+1.4Nbと定義されるHVR値が0.45以上に調
整されている。更にMo:2.0%以下,Cu:3.0%以
下,Ti:0.5%以下,Al:0.2%以下,B:0.015%
以下,REM(希土類元素):0.2%以下,Y:0.2%以
下,Ca:0.1%以下,Mg:0.10%以下の1種又は2
種以上を含むことができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、内燃機関のエンジンや
排気ガス配管等の高温雰囲気に曝されても、優れた耐ヘ
タリ性を維持するメタルガスケットとして使用されるオ
ーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【0002】
【従来技術及び問題点】昇温が予定されている雰囲気に
曝されるエンジン等には、従来からアスベスト製のガス
ケットが使用されきたが、エンジンの高性能化やノンア
スベストの法規制化に対応してメタルガスケットが使用
されるようになってきた。ガスケットは、接合面の気密
性を維持するための諸特性を備えていることが要求され
る。たとえば、排気系のエキゾストマニホルドガスケッ
トやマフラー部分のガスケットでは、エンジン特有の高
温・高圧及び高振動下で、しかも温度変化,圧力変化や
排気系での温度上昇に対応できる疲労特性やシール性を
維持するため、被加工部分の形状凍結性(耐ヘタリ性)
に優れていることが要求される。そこで、オーステナイ
ト系の中でも耐熱性や高温強度を重視してSUS310S等の
高Ni−高Cr鋼がメタルガスケット材料に使用されて
いる。
【0003】しかし、SUS310SはNiを20質量%程度
含有するオーステナイト系ステンレス鋼であり、おのず
と材料コストが高くなる。また、SUS310Sほどの高合金
では、熱間圧延や冷間圧延時に変形抵抗が大きく、製造
性に難点がある。しかも、メタルガスケットの製品厚さ
に対応したゲージコントロールを実現するために工程に
加わる制約も多くなる。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような問
題を解消すべく案出されたものであり、Ni量の低減に
より材料コストの上昇を抑制すると共に、オーステナイ
ト自体の硬さ及び高温保持中の歪み時効を積極的に利用
して高温強度を改善し、耐ヘタリ性に有効な合金設計を
採用することにより、500〜800℃の高温雰囲気に
おいても優れた耐ヘタリ性を呈し、高温用メタルガスケ
ットに適したオーステナイト系ステンレス鋼を提供する
ことを目的とする。
【0005】本発明のメタルガスケット用オーステナイ
ト系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、C:
0.02〜0.20質量%,Si:0.8〜3.0質量%,
Mn:2.5質量%以下,P:0.060質量%以下,
S:0.020質量%以下,Ni:7.0〜15.0質量
%,Cr:13.0〜25.0質量%,Nb:0.80質
量%以下,N:0.05〜0.25質量%を含み、残部が
実質的にFeの組成をもち、C+2N:0.20質量%
以上でHVR=C+2N+0.12Si+1.4Nbと定義さ
れるHVR値が0.45以上に調整されていることを特徴と
する。
【0006】このオーステナイト系ステンレス鋼は、更
にMo:2.0質量%以下,Cu:3.0質量%以下,T
i:0.5質量%以下,Al:0.2質量%以下,B:
0.015質量%以下,REM(希土類元素):0.2質量
%以下,Y:0.2質量%以下,Ca:0.1質量%以
下,Mg:0.10質量%以下の1種又は2種以上を含
むことができる。
【0007】
【実施の形態】本発明者等は、Ni含有量を15質量%
以下に抑えたオーステナイト系ステンレス鋼の範疇で、
過酷な使用環境に耐え得る、具体的には高温雰囲気に曝
されても硬度低下が少なく、良好な耐ヘタリ性を維持す
る高温用ガスケットに適したオーステナイト系ステンレ
ス鋼板を合金設計の面から種々調査検討した。高温メタ
ルガスケットは、加熱・冷却が頻繁に繰り返される50
0℃以上の高温雰囲気で使用される。このような過酷な
雰囲気を考慮すると、ビード加工した個所を変形させた
とき、弾性変形内で当初のビード形状に復元しようとす
る力、すなわちスプリング力が重要なファクターにな
る。なかでも、振動の激しい部位に使用される高温用メ
タルガスケットでは、大きな復元力を呈することが必要
とされる。
【0008】復元力の増大には、冷間圧延等により歪を
導入し、多くの転位を組織に導入することが有効であ
る。導入された転位は転位相互の干渉によって所定の変
形が外部から加えられた際に大きな抵抗となって働き、
結果としてスプリング力を向上させる。しかし、高温用
メタルガスケットのように500℃以上の高温雰囲気に
長時間曝される用途では、スプリング性に有効な転位が
ミクロ組織的に移動し、転位密度が低下する傾向にある
(回復過程)。本発明にあっては、転位の移動を抑制す
ることにより転位回復を遅らせ、優れたスプリング性を
維持することを狙っている。転位の移動抑制は、(1)加
熱前の初期状態で転位を相互干渉させることによって動
きやすい可動転位の割合を少なくすること、(2)高温雰
囲気における転位の移動(ミクロ的に原子の運動)を抑
制すること、(3)転位が移動する場合にあっても転位の
移動を阻止する障害物を作り込んでおくことによって達
成される。
【0009】前掲(1)〜(3)の機能を付与するため、本
発明ではC,N,Si,Nb量を規制している。侵入型
原子として固溶するC,Nは、マトリックスを固溶強化
すると共に転位の導入過程を複雑化し、可動転位の割合
を減少させる。また、転位近傍に集積しやすく、転位の
移動抑制にも有効である。更に、炭窒化物として析出し
た場合には、転位の移動を阻止するピニング効果が発現
する。Siは高温雰囲気における転位の移動抑制に有効
である。原子半径の大きなNbは,それ自体の拡散が遅
くなるドラッグ効果によって高温雰囲気における転位の
移動抑制に働き、析出物を生成した場合にはピニング効
果を発現させる。転位の移動抑制に有効なC,N,S
i,Nbの影響を総合的に調査し、それぞれの寄与度を
解析した結果、C+N≧0.20質量%でHVR=C+2N
+0.12Si+1.4Nbと定義されるHVR値を0.45
以上に調整するとき、要求特性に応じた転位の移動抑制
効果が得られ、優れたスプリング性を呈するメタルガス
ケットが得られることを解明した。
【0010】以下、本発明が対象とするオーステナイト
系ステンレス鋼に含まれる合金成分,含有量等を説明す
る。 C:0.02〜0.20質量% 高温強度の向上に有効な合金成分であり、固溶強化や析
出硬化によってステンレス鋼を高強度化する。このよう
な作用は、0.02質量%以上のC含有で顕著になる。
しかし、0.20質量%を超える過剰量のCが含まれる
と、高温保持中に巨大な粒界炭化物が析出しやすくな
り、材料を脆化させる。
【0011】Si:0.8〜3.0質量% フェライト形成元素であり、オーステナイト相中で大き
な固溶強化能を呈し、高温保持中に歪み時効によって時
効硬化を促進させる。このような効果は、0.8質量%
以上のSi含有量で顕著になる。しかし、3.0質量%
を超える過剰量のSiを添加すると、高温割れが誘発さ
れ、製造上で種々のトラブルを引き起こす。 Mn:2.5質量%以下 オーステナイト形成元素であり、高価なNiの代替成分
として使用され、Niの必要量を低減できる。また、S
を固定することによって熱間加工性を改善することにも
有効である。しかし、2.5質量%を超える過剰量のM
n添加は、σ相等の金属間化合物を析出させる原因とな
り、高温強度や機械的性質を低下させる。
【0012】P:0.060質量%以下 固溶強化能の大きな合金成分であるが、靭性に悪影響を
及ぼすことを考慮し、通常許容されている0.060質
量%にP含有量の上限を設定した。 S:0.020質量%以下 熱間圧延段階で耳割れ発生の原因となる硫化物を生成さ
せる有害元素であることから、S含有量は低いほど好ま
しい。しかし、B添加によってS含有量の許容範囲も拡
大するので、0.020質量%をS含有量の上限に設定
した。
【0013】Ni:7.0〜15.0質量% 安定なオーステナイト組織を確保するために必須の合金
成分であり、Niの最適含有量は鋼材に含まれるCr,
Si,Mo等のフェライト形成元素量に依存する。しか
し、7.0質量%未満のNi含有量ではオーステナイト
相の安定化が困難になる。他方、15.0質量%を越え
るNi含有量では、鋼材コストが上昇して経済的に不利
となる。 Cr:13.0〜25.0質量% 耐食性・耐酸化性に必要な合金成分であり、過酷な高温
腐食雰囲気に曝されるメタルガスケット用途を考慮する
と少なくとも13.0質量%のCr量が必要である。し
かし、25.0質量%を超える過剰量のCrが含まれる
と、δフェライトが形成され、安定したオーステナイト
相が維持できなくなる。
【0014】Nb:0.80質量%以下 メタルガスケットが曝される高温雰囲気下で析出物を形
成し、或いはオーステナイトマトリックスに固溶するこ
とにより、硬度を上昇させ、耐ヘタリ性を改善する。し
かし、0.80質量%を超える過剰量のNb含有は、高
温強度向上に起因して熱間加工性を低下させる。 N:0.05〜0.25質量% オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度を上昇させる
と共に、マルテンサイト相の硬化に有効な合金成分であ
り、0.05質量%以上でNの添加効果が顕著になる。
しかし、0.25質量%を超える過剰量のNが含まれる
と、鋳造時にブローホールが発生しやすくなる。
【0015】Mo:2.0質量%以下 必要に応じて添加される合金成分であり、耐食性の向上
に有効であると共に、高温保持中に炭窒化物となって微
細に分散し高温強度を上昇させる。時効処理時にあって
は、析出物の形成によって強度を向上させる。そのた
め、メタルガスケットが過酷な高温雰囲気に曝されて
も、Mo添加により強度の低下が防止される。しかし、
2.0質量%を超えるMoの過剰添加は、高温域でのδ
フェライト生成を促進させる。
【0016】Cu:3.0質量%以下 必要に応じて添加される合金成分であり、メタルガスケ
ットが使用される雰囲気の温度上昇に伴ってCu系析出
物を生成させ、高温強度,耐ヘタリ性を改善する。しか
し、3.0質量%を超えるCuの過剰添加は、熱間加工
性を低下させ、割れ発生の原因となる。 Ti:0.5質量%以下 必要に応じて添加される合金成分であり、硬度上昇,耐
ヘタリ性の改善に有効な析出物を高温雰囲気で形成す
る。しかし、0.5質量%を超えるTiの過剰添加は、
表面疵を発生させる原因となる。
【0017】Al:0.2質量%以下 必要に応じて添加される合金成分であり、製鋼時に脱酸
剤として添加されると共に、鋼板をガスケット形状に打
抜く際に打抜き性に悪影響を及ぼすA2系介在物を激減
させる効果を奏する。このような効果は0.2質量%の
Al含有量で飽和し、それ以上Alを増量しても却って
表面欠陥の増加を招く。 B:0.015質量%以下 必要に応じて添加される合金成分であり、高温強度上昇
に有効な炭窒化物の微細析出を促進させ、熱間圧延温度
域においてはS等の粒界偏析を抑制しエッジクラックの
発生を防止する作用を呈する。しかし、0.015質量
%を超える過剰量のBを添加すると、低融点硼化物が生
成しやすく、却って熱間加工性が劣化する。
【0018】REM(希土類元素):0.2質量%以下,
Y:0.2質量%以下 Ca:0.1質量%以下,Mg:0.10質量%以下 必要に応じて添加される合金成分であり、何れも熱間加
工性を改善し、耐酸化性の向上にも有効である。熱間加
工性,耐酸化性に及ぼす効果は何れも添加量の増加に応
じて顕著になるが、REM,Yでは0.20質量%、Ca,
Mgでは0.10質量%で飽和する。
【0019】
【実施例】表1に示す組成のステンレス鋼を真空溶解炉
で溶製し、鍛造,熱延,焼鈍,冷延工程を経て板厚0.
5〜0.2mmのステンレス鋼帯を製造した。
【0020】
【0021】各ステンレス鋼帯から150mm×150
の正方形試験片を切り出し、試験片の中央に内径75m
mの円形開口を形成し、開口周辺に幅2.5mm,高さ
0.25mm,突起部2Rのビードをプレス成形するこ
とによりメタルガスケット(図1)を作製した。次い
で、ビード部を含んで200mm角に切り出し、ビード
部がフラットになるように治具で押え、700℃に48
時間保持した後、室温まで徐冷した。徐冷後の試験片に
ついて、室温での素材硬度及び残存ビード高さを測定し
た。なお、残存ビード高さの測定には焦点顕微鏡を使用
し、3点の平均値として算出した。
【0022】表2の測定結果にみられるように、鋼種N
o.1〜7(本発明例)では700℃×48時間加熱後に
室温での残存ビード高さが0.210mm以上であり、
メタルガスケットに要求される耐ヘタリ性を備えてい
た。他方、比較鋼No.8〜13(比較例)では、何れも
残存ビード高さが0.200mm未満であり、メタルガ
スケットとしての性能上に問題があった。残存ビード高
さが低い理由には、次のような原因が考えられる。比較
鋼No.8はSi量が不足し、比較鋼No.11,12はHV
R値,C+2Nが低すぎるため、耐ヘタリ性が十分でな
い。比較鋼No.9は、過剰量のCを含んでいることから
加熱保持中に炭化物が過剰析出してビード部に割れが発
生した。比較鋼No.10は、過剰なCr含有のためδフ
ェライト生成に起因する割れが発生した。比較鋼No.1
3は、Ni量が不足するためオーステナイト単相組織を
維持できず、マルテンサイトの生成によって高温保持中
で著しく軟化し、ヘタリ量が多くなった。
【0023】この対比から明らかなように、Ni量を低
減したオーステナイト系ステンレス鋼であっても、HV
R値、C+2Nの適正管理により、形状凍結性に優れ、
長期間にわたって気密性を維持するメタルガスケットが
得られることが確認された。
【0024】
【0025】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明のオース
テナイト系ステンレス鋼は、Ni量を低減した成分系に
おいてC+2Nが0.20質量%以上でHVR値が0.4
5以上となる成分設計を採用することにより、メタルガ
スケットに要求される500〜800℃の高温環境での
耐ヘタリ性に優れている。また、このオーステナイト系
ステンレス鋼をエギゾストマニホルド,インテックマニ
ホルド等の低温用メタルガスケットとして自動車用エン
ジンに組み込むと、周辺機器の寿命やエンジン自体の性
能が向上する。また、エンジン用ガスケットの他に、自
動車排ガス部品,自動車排気管の振動遮断用継手に使用
されるボールジョイント部に組み込まれる弾性ガスケッ
トにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 圧縮疲労試験,ヘタリ試験に用いたビード付
き試験片

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.02〜0.20質量%,Si:
    0.8〜3.0質量%,Mn:2.5質量%以下,P:0.
    060質量%以下,S:0.020質量%以下,Ni:
    7.0〜15.0質量%,Cr:13.0〜25.0質量
    %,Nb:0.80質量%以下,N:0.05〜0.25
    質量%を含み、残部が実質的にFeの組成をもち、C+
    2N:0.20質量%以上でHVR=C+2N+0.12Si
    +1.4Nbと定義されるHVR値が0.45以上に調整さ
    れていることを特徴とするメタルガスケット用オーステ
    ナイト系ステンレス鋼。
  2. 【請求項2】 更にMo:2.0質量%以下,Cu:3.
    0質量%以下,Ti:0.5質量%以下,Al:0.2質
    量%以下,B:0.015質量%以下,REM(希土類元
    素):0.2質量%以下,Y:0.2質量%以下,Ca:
    0.1質量%以下,Mg:0.10質量%以下の1種又は
    2種以上を含む請求項1記載のメタルガスケット用オー
    ステナイト系ステンレス鋼。
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