JP6077693B1 - メタルガスケット用ステンレス鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】効率的に製造でき、強度および耐リーク性に優れたメタルガスケット用ステンレス鋼を提供する。【解決手段】0.05質量%以上0.30質量%以下のC、1.50質量%以下のSi、2.5質量%以上7.0質量%以下のMn、0.06質量%以下のP、0.005質量%以下のS、1.0質量%以上5.0質量%未満のNi、15.0質量%以上19.0質量%以下のCr、2.0質量%以下のMo、1.0質量%以上3.5質量%以下のCuおよび0.05質量%以上0.30質量%以下のNを含有し、C+N≧0.20質量%であり、残部がFeおよび不可避的不純物である。また、Md30の値が10以上30以下で、SFEの値が15以上35未満で、δcalの値が2.0以下で、オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、鋼の表面硬度が450HV以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、メタルガスケット用ステンレス鋼に関する。
図1に示すように、車両用エンジンに使用されるシリンダーヘッドガスケットやエキゾーストマニホールドガスケット等のメタルガスケット1は、接合面の気密性を維持するのに必要な諸特性を備えている必要があるとともに、燃焼ガス雰囲気下で繰り返し加えられるエンジン特有の振動応力に耐える性能を備えている必要がある。
また、メタルガスケット1には、図2に示すように、開口部2の周囲に十分な気密性を維持するための一定高さのビード(突起)3が形成されているため、その材料には、高強度および良好な加工性が要求される。なお、メタルガスケット1は、少なくとも1層にビード3が形成され、数枚が積層された構成で使用される。
そして、エンジンのシリンダーヘッドガスケットの場合、燃焼室の周囲および水孔や油孔の周囲に沿うようにビード3が形成されたメタルガスケット1に成形し、このビード3を締め付けたときに発生する高面圧によって、ガス、水および油をシールするのが一般的である。
この種のメタルガスケット用の材料としては、冷間加工により高強度を得られるSUS301に代表される加工硬化型の準安定オーステナイト系ステンレス鋼が多用されている。
また、メタルガスケット用の材料としては、例えば特許文献1ないし3に記載されているような準安定オーステナイト系ステンレス鋼において、加工誘起マルテンサイトを生成させた加工硬化型オースナイト系ステンレス鋼や、特許文献4に記載されているようなフェライトおよびマルテンサイトの複相組織を有するステンレス鋼や、特許文献5に記載されているようなMnを10質量%以上含有させてオーステナイト組織を安定化させたステンレス鋼が知られている。
特許第3347582号公報 特許第4019630号公報 特許第4785302号公報 特開2000−256802号公報 特許第4116134号公報
例えばシリンダーヘッドに使用されるメタルガスケットでは、圧縮時に高圧がかかるためガスシール性を確保するには、接触相手との高面圧(接触圧力)を必要とする。このため、メタルガスケットでは、ビード成形高さを高くするとともに、材料強度を向上させる必要がある。
そして、SUS301系では、高強度を得るためには高い冷間加工を施す必要があるため、延性および加工性の低下によるビード生成加工時のビード肩R部に肌荒れやミクロクラックが発生して、耐リーク性が低下するという問題がある。
特許文献1のステンレス鋼は、高温特性に有効なNの含有量を増加させ、N添加の弊害となるAlの含有量を規定することで、高温強度および高温酸化性を向上させている。しかしながら、この特許文献1では、Niを7〜15質量%添加するため、原料コストが上昇してしまい、効率的に製造できないという問題がある。
特許文献2のステンレス鋼は、エンジンガスケットに関するもので、調質圧延材の金属組織を規定することで、疲労強度および耐へたり性を向上させている。しがしながら、Niを6〜8質量%添加するため、原料コストが上昇してしまい、効率的に製造できないという問題がある。
特許文献3のステンレス鋼は、耐へたり性に優れた高温用メタルガスケットに関するものであるが、Niを7〜15質量%添加するため、原料コストが上昇してしまい、効率的に製造できないという問題がある。
特許文献4は、複相化熱処理により、フェライトおよびマルテンサイトの複相組織を有することから、硬度が400HV以下と低いため、強度の観点から耐リーク性が不足するという問題がある。
特許文献5のステンレス鋼は、オーステナイト組織を安定化するためにMnを10〜25質量%含有する。このような高Mn鋼は、製鋼や精錬の際に有害なMn酸化物の微細粒子が生成される。また、鋼中のMn含有量が高いことに起因して鋼板の表面品質が低下しやすく、焼鈍酸洗や光輝焼鈍等の製造工程において生産性が低下してしまい、効率的に製造できないという問題がある。
そこで、メタルガスケット用ステンレス鋼として、原料コストの観点からも生産性の観点からも効率的に製造でき、強度および耐リーク性に優れた材料が求められていた。
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、効率的に製造でき、強度および耐リーク性に優れたメタルガスケット用ステンレス鋼を提供することを目的とする。
請求項1に記載されたメタルガスケット用ステンレス鋼は、C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下、Mn:2.5質量%以上7.0質量%以下、P:0.06質量%以下、S:0.005質量%以下、Ni:1.0質量%以上5.0質量%未満、Cr:15.0質量%以上19.0質量%以下、Mo:2.0質量%以下、Cu:1.0質量%以上3.5質量%以下N:0.05質量%以上0.30質量%以下、V:0.02質量%以上0.20質量%以下およびCo:0.01質量%以上0.20質量%以下を含有し、C+Nが0.20質量%以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Moで示すオーステナイト安定指標であるMd30の値が10以上30以下で、SFE=2.2Ni+6Cu−1.1Cr−13Si−1.2Mn+32で示す積層欠陥エネルギー生成指標であるSFEの値が15以上35未満で、δcal=−15−44.91C−0.88Mn−2.31Ni+2.20Cr−1.08Cu−28.8Nで示す1230℃で2時間加熱した後のδフェライト生成指標であるδcalの値が2.0以下で、オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、表面硬度が450HV以上であるものである。
本発明によれば、所定の範囲に規定された合金組成において、Md30の値が10以上30以下で、SFEの値が15以上35未満で、δcalの値が2.0以下となるように成分調整されているため、効率的に製造でき、強度および耐リーク性を向上できる。
シリンダーヘッドガスケットの構成を模式的に示す平面図である。 メタルガスケットのビード部の断面構造を模式的に示す説明図である。 (a)は、耐へたり性評価試験片の表面形状を示す平面図であり、(b)は耐へたり性評価試験片の断面形状を示す断面図である。 (a)疲労特性試験片のビードを形成するビード金型の構成を概略的に示す説明図であり、(b)は疲労特性試験片の表面形状を示す平面図であり、(c)は疲労特性試験片の圧縮前の断面形状を示す断面図であり、(d)は疲労特性試験片の圧縮後の断面形状を示す断面図である。
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
メタルガスケット用ステンレス鋼は、メタルガスケットとして優れた耐久性を発現するために、耐へたり性に優れていることが前提となる。そして、耐へたり性を向上させるには、ステンレス鋼を高強度化することが有効である。
一般的に、オーステナイト系ステンレス鋼をベースにして高強度を得るために有効な手段は、冷間圧延等の加工を付与してオーステナイト相を加工硬化させること、および、オーステナイト相の一部を硬質な加工誘起マルテンサイト相へ変態させる、いわゆる加工誘起変態塑性(TRIP)現象を利用することである。
また、メタルガスケットへの成形工程においても、加工ひずみが付与された箇所は、TRIP現象により硬化する。このようなTRIP現象の起こりやすさは、オーステナイト安定度に影響される。
しかしながら、このようなTRIP現象による硬化は、高強度化による耐へたり性の向上には有効であるものの、メタルガスケットとしての加工性(例えば曲げ性等)が低下する要因となる。
したがって、メタルガスケット用ステンレス鋼において、メタルガスケット用材料として優れた加工性を維持しつつ、良好な耐へたり性を得るには、オーステナイト安定度および加工誘起マルテンサイト量を調整することが重要である。
また、加工性の基準の1つである曲げ性は、引張試験等で評価される伸びとある程度相関がある。この伸びには、TRIP現象および加工誘起マルテンサイト相の強度に影響する固溶強化元素であるCおよびNが深く関係している。すなわち、加工性を確保するために曲げ性を向上させるには、オーステナイト安定度とC量およびN量とを適正範囲に調整する必要がある。
そして、積層欠陥エネルギーの生成指標であるSFEの値が大きいと、オーステナイト相の加工硬化を生じにくくなるため、加工誘起マルテンサイト相とオーステナイト相との硬度差が大きくなり、SFEの値が小さいと、オーステナイト相の加工硬化が生じやすくなるため、オーステナイト相の延性が低下する。
これら加工誘起マルテンサイト相とオーステナイト相との硬度差の増大、および、オーステナイト相の延性の低下のいずれも、曲げ性を低下させる要因となるため、メタルガスケット用の素材として、良好な曲げ性を確保するには、SFEの値を調整することが重要である。
本発明の一実施の形態に係るメタルガスケット用ステンレス鋼は、0.05質量%以上0.30質量%以下のC(炭素)、1.50質量%以下のSi(ケイ素)、2.5質量%以上7.0質量%以下のMn(マンガン)、0.06質量%以下のP(リン)、0.005質量%以下のS(硫黄)、1.0質量%以上5.0質量%未満のNi(ニッケル)、15.0質量%以上19.0質量%以下のCr(クロム)、2.0質量%以下のMo(モリブデン)、1.0質量%以上3.5質量%以下のCu(銅)、0.05質量%以上0.30質量%以下のN(窒素)、0.02質量%以上0.20質量%以下のV(バナジウム)、および、0.01質量%以上0.20質量%以下のCo(コバルト)を含有し、C+N≧0.20質量%であり、残部がFe(鉄)および不可避的不純物で構成される。
さらに、上記各元素の含有量の範囲において、Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Moの(1)式で示すオーステナイト安定指標であるMd30の値が10以上30以下となるように成分調整されている。
また、上記各元素の含有量の範囲において、SFE=2.2Ni+6Cu−1.1Cr−13Si−1.2Mn+32の(2)式で示す積層欠陥エネルギー生成指標であるSFEの値が15以上35未満となるように成分調整されている。
さらに、上記各元素の含有量の範囲において、δcal=−15−44.91C−0.88Mn−2.31Ni+2.20Cr−1.08Cu−28.8Nの(3)式で示す1230℃で2時間加熱した後のδフェライト生成指標であるδcalの値が2.0以下となるように成分調整されている。
そして、一実施の形態に係るメタルガスケット用ステンレス鋼は、オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、鋼の表面硬度が450HV以上である。鋼の表面硬度が450HV未満であると耐へたり性が低下するため、車両用エンジンのメタルガスケットとして使用した場合に、エンジンの振動等により、シリンダーヘッドとシリンダーブロックとの間で必要な接触圧力(シール性)が得られなくなる可能性がある。
CおよびNは、オーステナイト生成元素であり、これらの元素の含有量が少なすぎるとδフェライト相の生成量が増大し、熱間加工性が低下する。また、CおよびNは、加工誘起マルテンサイト相を固溶強化するために有用な元素である。そして、Cの含有量およびNの含有量をいずれも、0.05質量%以上にすることが、顕著な延性向上作用を安定して得るために重要である。一方、CおよびNを、0.30質量%を超えて過剰に含有させると、鋼が過度に硬質化し加工性を阻害する要因となる可能性がある。
また、加工誘起マルテンサイト相の生成の際、TRIPによる十分な延性を発現させるためには、C+N(CおよびNの合計含有量)を0.20質量%以上とする必要がある。
したがって、Cの含有量およびNの含有量は、いずれも0.05質量%以上0.30質量%以下とし、C+Nを0.20質量%以上とする。
なお、C+Nが0.40質量%を超えると、硬質化による加工性を阻害する可能性がある。そのため、C+Nを0.40質量%以下にすることが好ましく、Cの含有量およびNの含有量をいずれも0.05質量%以上0.15質量%以下とし、C+Nを0.20質量%以上0.30質量%以下とするとより好ましい。
Siは、製鋼での脱酸に有用な元素であるとともに、固溶強化に寄与する元素であるが、1.50質量%を超えて過剰に含有させると、鋼が硬質化し加工性を損なう要因となる。また、Siはフェライト生成元素であるため、過剰添加は高温域でのδフェライト相の多量生成を招き、熱間加工性を阻害する。したがって、Siの含有量は、1.50質量%以下とする。
Mnは、Niに比べて安価で、Niの作用を代替できる有用なオーステナイト形成元素であり、その作用を活用するためには、2.5質量%以上含有させる必要がある。一方、Mnを、7.0質量%を超えて過剰に含有させると、製鋼工程における環境保全の問題が生じやすくなるとともに、表面性状に起因する生産性の低下を引き起こす要因となるとともに、MnS等の介在物生成に起因する加工性の低下や耐食性の低下を引き起こす要因となる。したがって、Mnの含有量は、2.5質量%以上7.0質量%以下とする。
PおよびSは、不可避的不純物として混入するが、その含有量は低いほど好ましい。そして、加工性およびその他の材料特性や、製造性への悪影響を考慮して、Pの含有量を0.06質量%以下とし、Sの含有量を0.005質量%以下とする。
Niは、オーステナイト系ステンレス鋼に必須の元素である。C,N,Mnの上記範囲で良好な熱間加工性を得るには、例えば1200℃の加熱温度でγ単相となるようにNiを含有させる必要があり、その下限は1.0質量%である。また、原料コスト低減の観点からNiの含有量を極力低く抑えるように成分設計を行っている。したがって、Niの含有量は、1.0質量%以上5.0質量%未満とし、好ましくは4.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下である。
Crは、ステンレス鋼の耐食性を担保する不動態皮膜の形成に必須の元素であり、15.0質量%以上含有させることで、耐食性を十分に確保できる。一方、Crは、フェライト生成元素であるため、過度に含有させると熱延前加熱温度が(γ+δ)2相域となり、加熱後もδフェライトの多量生成を招き、熱間加工性を損なう要因となる。この一実施の形態では、オーステナイト生成元素の含有量の調整により19.0質量%まで含有させることができる。したがって、Crの含有量は、15.0質量%以上19.0質量%以下とする。
Moは、耐食性の向上に有用な元素であるとともに、固溶強化に寄与する元素であるが、2.0質量%を超えて過剰に含有させると、熱間加工性を損なう要因となる。したがって、Moの含有量は、2.0質量%以下とする。
Cuは、オーステナイト生成元素であることから、Cuの含有量の増加に応じてNi含有量の設定自由度が拡大し、Niを抑制した成分設計が容易になる。また、加工誘起マルテンサイト相の生成に起因する加工硬化が抑制されるとともに、SFEの値を高める上で有効な元素でもある。これらの作用を有効に得るためには、Cuを1.0質量%以上含有させる必要がある。一方、Cuを、3.5質量%を超えて多量に含有させると、熱間加工性を阻害する可能性がある。したがって、Cuの含有量は、1.0質量%以上3.5質量%以下とする。
Vは、加工硬化能を高める作用を有しており、耐へたり性を向上させる効果がある。この効果を得るためにはVを0.02質量%以上含有させる必要がある。一方、Vを、0.20質量%を超えて含有させると、熱間加工性の低下につながる可能性がある。したがって、Vの含有量は、0.02質量%以上0.20質量%以下とする。
Coは、耐食性および耐へたり性を向上させる効果があり、この効果を得るためには、0.01質量%以上含有させる必要がある。一方、Coを、0.20質量%を超えて含有させると、強度の低下により耐へたり性が低下する可能性がある。したがって、Coの含有量は、0.01質量%以上0.20質量%以下とし、より好ましくは、0.01質量%以上0.10質量%以下である。
ここで、(1)式で表されるオーステナイト安定度指標であるMd30は、その値が大きいほど、オーステナイト相から加工誘起マルテンサイト相への変態が起こりやすく、軽度の冷延ひずみの付与で高強度が得られるとともに、優れた延性を確保することができる。また、成形工程においても、曲げ部など加工ひずみが付与された部分はTRIP現象によりさらに高強度化して、優れた耐へたり性を発現しやすい。このような効果はMd30の値が10以上の場合に顕著に現れる。一方、Md30の値が30を超えると、曲げ加工を施した部分における加工誘起マルテンサイト生成量が多くなり過ぎるため、割れが誘発され曲げ性が劣化する可能性がある。したがって、表面強度が450HV以上でかつ良好な延性を安定して確保するために、オーステナイト安定度指標であるMd30の値は、10以上30以下とする。
また、(2)式で表される積層欠陥エネルギー指標であるSFEは、その値が大きい場合、具体的にはSFEの値が35以上である場合に、オーステナイト相の加工硬化が小さくなり、加工時に生じた加工誘起マルテンサイト相とオーステナイト相との硬度差により、亀裂が生じやすくなる。一方、SFEの値が15未満の場合は、オーステナイト相の加工硬化が過大となり、延性が低下してしまう可能性がある。したがって、硬度差による亀裂の発生および延性低下を防止するために、積層欠陥エネルギー指標であるSFEの値は、15以上35未満とする。
さらに、(3)式で表されるδcalは、連続鋳造後に1230℃で2時間の加熱処理を施した後の鋳片(特に鋳片の中央部)におけるδフェライト量を示している。Mnの含有量およびCuの含有量をいずれも増加させると、熱間圧延前の加熱においてCu−Mn相が析出し、その後の熱間圧延で割れが発生する可能性がある。Cu−Mn相はδフェライト相と相関があり、δcalの値が2.0を超えて大きくなると、多量のCu−Mn相の析出により熱間圧延の際に2枚割れが発生しやすくなる。またδフェライト相は、機械特性および疲労特性の低下にも影響する。したがって、メタルガスケット用の素材として良好な熱間加工性、機械特性および疲労特性を確保するために、1230℃で2時間加熱した後のδフェライト生成指標であるδcalの値は、2.0以下とする。
上記一実施の形態に係るメタルガスケット用ステンレス鋼は、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼板の製造プロセスにより製造可能である。
具体的には、上述のように成分調整された鋼を製鋼設備により溶製し鋳片とした後、熱間圧延により熱延鋼板とする。なお、熱間圧延前の鋳片加熱温度は、1100℃以上1350℃以下の範囲であればよい。
熱延鋼板には、中間焼鈍を施した後、冷間圧延により板厚を減少させ、仕上焼鈍を施す。なお、中間焼鈍および仕上焼鈍の後には、酸洗を行う。また、必要に応じて冷間圧延途中に中間焼鈍を施してもよい。
熱間圧延以降の中間焼鈍および仕上焼鈍は、900℃以上1100℃以下の範囲で行うことが好ましい。
また、仕上焼鈍後は目標硬さに応じた調質圧延が施され、例えば板厚0.1mm以上3.0mm以下の調質圧延鋼板とすることができる。さらに、調質圧延後には、必要に応じて、形状矯正が実施される。
上記一実施の形態によれば、Md30の値が10以上30以下となるように成分調整することにより、オーステナイト相から加工誘起マルテンサイト相へ変態しやすくTRIP現象を起きやすくできるため、高強度化できるとともに、曲げ性の低下を抑制して加工性の低下を防止できる。
また、SFEの値が15以上35未満となるように成分調整することにより、オーステナイト相の過剰な加工硬化による延性の低下を抑制できるとともに、オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との硬度差による亀裂の発生を抑制でき、加工性の低下を防止できる。
δcalの値が2.0以下となるように成分調整することにより、Cu−Mn層の析出を抑制して熱間圧延の際の割れの発生を抑制して熱間加工性の低下を防止できるとともに、δフェライト相による機械的特性および疲労特性の低下を防止できる。
C+Nを0.20質量%以上にすることにより、TRIPにより延性を発現させて曲げ性を向上でき、加工性を向上できる。
したがって、上記合金組成の範囲において、Md30の値が10以上30以下で、SFEの値が15以上35未満で、δcalの値が2.0以下で、C+Nが0.20質量%以上となるように成分調整することにより、Niの含有量を5.0質量%未満にして原料コストの上昇を抑えることができるともに、Mnの多量添加で表面品質が低下することによる生産性の低下を防止でき、効率的に製造できるとともに、メタルガスケット用材料として良好な耐久性および耐へたり性を確保できるように強度を向上でき、加工性を向上させて耐リーク性を向上できる。
そして、本発明に係るメタルガスケット用ステンレス鋼は、例えばSUS301およびSUS304等の300系ステンレス鋼と同等以上のばね性、耐久性および耐食性を備え、メタルガスケット用材料として、優れた耐へたり性、曲げ性、疲労特性および耐食性を備えている。
以下、本実施例および比較例について説明する。
まず、表1に示す組成のステンレス鋼を溶製した。表1において、a1〜a8が本発明で規定する化学成分を有する発明対象鋼(本実施例)で、b1〜b5が比較鋼(比較例)で、c1およびc2はそれぞれ従来鋼(比較例)のSUS301およびSUS304である。なお、b1はMd30の値およびSFEの値が本発明で規定する範囲外であり、b2はSFEの値が本発明で規定する範囲外であり、b3およびb4はMd30が本発明で規定する範囲外であり、b5はC+Nおよびδcalの値が本発明で規定する範囲外である。
Figure 0006077693
各鋼いずれも100kgの鋼塊を得た後に、抽出温度1230℃で熱間圧延することにより板厚3mmの熱延鋼帯を製造した。
この熱延鋼帯に1080℃で均熱1分の焼鈍を施した後、冷間圧延および焼鈍を繰り返すことにより、硬さが450±3HV5、板厚が0.50±0.003mmの調質圧延鋼帯を得た。
また、調質圧延後の硬さが450HV5となる調質圧延率をそれぞれの鋼についてあらかじめ調べておき、その調質圧延率をもとに仕上焼鈍時の板厚を設定して、その板厚まで冷間圧延を行った後に1080℃で均熱1分の仕上焼鈍を実施した。
さらに、仕上焼鈍後に板厚0.2mmまで調質圧延を行った。この調質圧延は、鋼板の温度が70℃となるよう加温した上で7〜10パス行った。
このように製造した板厚0.2mmの調質圧延材を用いて、耐へたり性および疲労特性の調査を行った。
耐へたり性を評価する試験は、図3(a)および図3(b)に示すガスケットを模擬した耐へたり性試験片11を用いて行った。なお、図3(a)は耐へたり性試験片11の表面形状を示し、図3(b)は耐へたり性評価試験の板厚方向に平行な断面形状を片側のみ示す。
耐へたり性試験片11は、φ50mmの円形試験片の中央にφ32mmの円形の開口部12を打ち抜いて形成した後、開口部12の周囲に開口部12に沿ってビード13をプレス成型により形成した。ビード13は、幅3mm、高さ0.5mmのビードをプレス成型により形成した。
耐へたり性は、耐へたり性試験片11を用いて、25kNで圧縮、口開き量10μmまで復元する圧縮復元動作を最大10サイクルまで繰り返し、ビードの残存高さおよび割れの有無で評価した。
なお、このような試験方法によれば、実際のばね形状に成形加工し、セッチングと呼ばれる工程を経て実使用された際の耐へたり性をシミュレートすることが可能であり、試験後の平均ビード高さが高いほど耐へたり性に優れると評価される。
疲労特性を評価する試験は、図4(b)に示す疲労特性試験片15を用いた。この疲労特性試験片15は、長手方向がL方向の短冊状試料を採取し、図4(a)に示すビード金型14を用いて初期ビード17をプレス成型して形成した。
なお、疲労特性試験片15は、図4(c)に示すように、幅が3mmで高さが0.4mmである初期ビード17を形成した。この初期ビード17に、メタルガスケットの初期締め相当の圧縮を加えて、図4(d)に示すように、残存ビード高さが0.1mmとなるビード18とした。
このような疲労特性試験片15を用いて模擬ビード部(ビード18)に両振り応力を付与する疲労試験を行い、繰り返し数10サイクルにおける疲労限界応力(疲れ限度:N/mm)を求めた。
そして、疲労限界応力が300N/mm以上であるものは、ビードプレス成形部を有するメタルガスケットにおいて優れた疲労特性を有すると評価できる。
本実施例および比較例に関する機械的特性、耐へたり性評価試験および疲労特性評価試験の結果を表2に示す。
なお、表2における比較例c1およびc2の調質圧延率を示すHは、JIS G 4313「ばね用ステンレス鋼帯」で定められた調質記号である。
Figure 0006077693
本実施例は、従来鋼のSUS301およびSUS304(比較例であるc1およびc2)と同等以上の耐へたり性および疲労特性を有することが確認された。
また、本実施例はいずれも、残ビード高さが0.111mm以上で割れも確認されず、疲労限界応力が500N/mm以上であり、優れた耐へたり性および疲労特性を有していた。
一方、各比較鋼(比較例であるb1〜b5)は、残ビード高さは0.081〜0.093mmで本実施例より低く、割れの発生率は本実施例に比べて高く、疲労限界応力も460N/mm以下で本実施例より低かった。すなわち、比較例はいずれも本実施例に比べて耐へたり性および疲労特性に劣っていた。
したがって、本発明で規定した組成に調整することにより、調質圧延により高強度化した鋼において、メタルガスケット用材料として優れた耐へたり性と疲労特性とを両立できることが確認された。

Claims (1)

  1. C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下、Mn:2.5質量%以上7.0質量%以下、P:0.06質量%以下、S:0.005質量%以下、Ni:1.0質量%以上5.0質量%未満、Cr:15.0質量%以上19.0質量%以下、Mo:2.0質量%以下、Cu:1.0質量%以上3.5質量%以下N:0.05質量%以上0.30質量%以下、V:0.02質量%以上0.20質量%以下およびCo:0.01質量%以上0.20質量%以下を含有し、C+Nが0.20質量%以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Moで示すオーステナイト安定指標であるMd30の値が10以上30以下で、
    SFE=2.2Ni+6Cu−1.1Cr−13Si−1.2Mn+32で示す積層欠陥エネルギー生成指標であるSFEの値が15以上35未満で、
    δcal=−15−44.91C−0.88Mn−2.31Ni+2.20Cr−1.08Cu−28.8Nで示す1230℃で2時間加熱した後のδフェライト生成指標であるδcalの値が2.0以下で、
    オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、
    表面硬度が450HV以上である
    ことを特徴とするメタルガスケット用ステンレス鋼。
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