JP2003027194A - 皮膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
皮膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法Info
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Abstract
への張力付与が効果的に発揮され、低い鉄損値を有する
皮膜特性に優れかつ磁気特性の良好な方向性電磁鋼板お
よびその製造方法を提供する。 【解決手段】 焼鈍皮膜と鋼板の混合領域における鋼板
微細粒の方位分布において、{110}<001>結晶
方位からの偏差角度が10度以内のものである割合が
0.5以下であり、グラス皮膜を有する方向性電磁鋼板
である。
Description
の他の電気機器等の鉄芯として利用される方向性電磁鋼
板およびその製造方法に関するものである。特に、脱炭
焼鈍の昇温速度および雰囲気を制御することにより、皮
膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板およびその製
造方法を提供する。
れる方向性電磁鋼板は、通常Siを2.0〜7%含有
し、製品の結晶組織を{110}〈001〉方位に高度
に集積させた鋼板である。方向性電磁鋼板の製品特性と
して、鉄損(W17/50(1.7T、50Hzの励磁条件
下での電力損失)で代表される)が低く、磁束密度(B
8(800A/mにおける磁束密度)で代表される)が
高いことが要求される。特に、最近では地球環境保全や
省エネルギーの見地から、電力損失の少ない鉄芯材料、
すなわち鉄損の低い方向性電磁鋼板が求められている。
また、製品の結晶粒組織を{110}〈001〉方位に
集積しB8を大きくすることは、励磁特性を高めること
により鉄損低減に有効である。このため、方向性電磁鋼
板の鉄損及び磁束密度向上のための技術開発が重ねられ
てきた。
の通りである。Siを2〜7%以下含有する珪素鋼スラ
ブを熱延し、1回もしくは中間焼鈍をはさむ2回の冷延
により最終板厚に仕上げる。その後、湿潤水素雰囲気中
の焼鈍(脱炭焼鈍)により、脱炭とSiO2を主体とす
るサブスケールの形成および一次再結晶を行う。続いて
MgOを主体とする焼鈍分離剤を水に懸濁してスラリー
状にして塗布、乾燥の後コイルに巻き取り、最終仕上げ
焼鈍を行う。この最終仕上げ焼鈍により、二次再結晶が
起こり鋼板の結晶粒組織が{110}〈001〉方位に
集積する。同時に鋼板表面においては、焼鈍分離剤中の
MgOとサブスケール中のSiO2が反応してフォルス
テライト(Mg2SiO4)を主体とする焼鈍皮膜が形成
される。二次再結晶のためのインヒビターとしてAlN
を用いた場合には、この焼鈍皮膜はMgAl2O4も含有
する。この焼鈍皮膜に対し、以下では、通常の呼称であ
る、グラス皮膜を用いることとする。仕上げ焼鈍後の方
向性珪素鋼板には必要に応じて絶縁コーティングが施さ
れる。
に、いわゆる磁区細分化処理があげられる。例えば、積
み鉄芯用の材料として、仕上げ焼鈍後の鋼板にレーザー
ビームを照射して局部的な微小歪を与える方法が特開昭
58−26405号公報等に開示されている。また、巻
き鉄芯用に対しては、珪素鋼板を鉄芯に加工した後の歪
取り焼鈍によっても磁区細分化効果の消失しない方法
が、特開昭62−8617号公報に開示されている。
つに、特公昭40−15644号公報に開示されている
製造方法があげられる。これは、AlNとMnSをイン
ヒビターとして機能させ、最終冷延工程における圧下率
を80%を超える強圧下とする製造方法である。この方
法によれば、最終仕上げ焼鈍時に起こる二次再結晶によ
り、{110}〈001〉方位に結晶粒の方位が集積
し、B8が1.87T以上の高磁束密度を有する方向性
電磁鋼板が得られる。この製造方法ではある程度の鉄損
低減をはかることができるが、二次再結晶粒径が10mm
程度と大きくなり、いわゆる磁区細分化処理を施さない
場合には、高い磁束密度から期待される十分に低い鉄損
値は得られていなかった。
に、二次再結晶粒組織の方位集積度を損ねることなしに
二次再結晶粒径を小さくし鉄損を下げる方法が開示され
ている。この方法は、一次再結晶のための焼鈍(通常は
脱炭焼鈍)において、140℃/秒以上の昇温速度で6
75℃以上の温度に加熱し、続いて脱炭処理し、さらに
通常の最終仕上焼鈍により二次再結晶を起こさせるもの
である。一次再結晶焼鈍の昇温速度を上昇することによ
り、二次再結晶粒径が小さくなる。
焼鈍の昇温速度を大きくしただけでは、低い鉄損は得ら
れない。高い方位集積度や小さな二次再結晶粒径という
冶金学的鉄損低減効果を実際に発揮させるためには、鋼
板に引っ張り応力を付与する必要がある。最終仕上焼鈍
で生成するフォルステライトを主体とするグラス皮膜は
鋼板に比較して熱膨張係数が小さいため、鋼板に引っ張
り応力を与え、鉄損低減に大きく貢献する。したがっ
て、良好なグラス皮膜を形成させる必要がある。
鈍で生成するサブスケールの性質を変えてしまい、グラ
ス皮膜の形成が損なわれ、皮膜による鋼板への張力付与
効果が不十分になり、二次再結晶粒径の低減による鉄損
改善効果は減退する。
低減に必要なばかりではなく、トランス製造工程におい
ても重要である。特に巻きトランスの場合、製造工程に
おいて方向性電磁鋼板に曲げ加工が加えられ、その際に
グラス皮膜が剥離することがある。したがって、グラス
皮膜には優れた皮膜密着性が要求される。一次再結晶焼
鈍ないし脱炭焼鈍の昇温速度の変更は、グラス皮膜の密
着性を悪化させる。
に、グラス/鋼板界面において、グラス皮膜が部分的に
鋼板部に食い込んだような形態とし、結果的にグラスと
鋼板が共存する領域を作り出すことによってグラス皮膜
の密着性を向上させる効果がある。しかしながら、この
ような構造とした場合、グラス/鋼板共存領域におい
て、鋼板に凹凸が生じることになり、そのような領域に
おけるグラス/鋼板境界において誘発される磁荷によっ
て不規則な磁区が鋼板部に形成され、鉄損特性を悪化さ
せる場合がある。
性電磁鋼板に比較して皮膜特性(皮膜密着性)と磁気特
性(鉄損特性)のいずれにおいても優れた方向性電磁鋼
板およびその製造方法を提供するものである。
(皮膜密着性)と磁気特性(鉄損特性)が優れた方向性
電磁鋼板を得るために、様々な電磁鋼板を製作し、皮膜
と鋼板部の界面における構造を調査解析を行い、さら
に、皮膜密着性と鉄損特性も調査した。これらの電磁鋼
板を作る際には以下の点に注意して行った。即ち、脱炭
焼鈍の昇温過程の昇温速度と雰囲気、脱炭焼鈍の均熱過
程の雰囲気を種々変えた後に最終仕上焼鈍を行って製作
した。その結果以下の特徴を見出した。
界面において、皮膜が鋼板部分に部分的に2μm〜5μ
mの深さで食い込んでおり、皮膜と鋼板の共存する領域
が存在しており、この領域において鋼板の結晶粒は1μ
m以下〜5μmの微細な結晶粒となっている。さらにこ
れら、皮膜密着性が良好なもののうち、鉄損特性に劣る
ものについては、この皮膜、鋼板共存部分における鋼板
の結晶方位分布は、二次再結晶によって生成される{1
10}〈001〉方位、あるいはそれから10度以内の
方位偏差を持った結晶粒の占める割合が非常に多く、鉄
損特性も良好なものは、結晶方位分布は、二次再結晶に
よって生成される{110}〈001〉方位、あるいは
それから10度以内の方位偏差を持った結晶粒の占める
割合が少なく、一次再結晶時の結晶方位分布の特徴を持
った結晶方位粒の占める割合が多い。
つ鉄損特性に優れたグラス皮膜及び鋼板を得る為には、
好ましくは、脱炭焼鈍工程の昇温段階の少なくとも60
0℃以上の温度域を95℃/s以上の昇温速度で800
℃以上に加熱し、かつこの温度域の雰囲気を以下の
(a)もしくは(b)のいずれかとし、(a)体積分率で
10-6〜10-1の酸素を含有する不活性ガス、(b)雰
囲気の構成成分をH2OとH2もしくはH2Oと不活性ガ
スもしくはH2OとH2と不活性ガスとし、かつ、H2O
分圧が8×10-5〜5×10-1、一方、脱炭焼鈍の均熱
時における雰囲気の構成成分をH2とH2Oもしくは
H2、H2Oと不活性ガスとしかつH2O分圧のH2分圧に
対する比PH2O/PH2を0.05〜0.75とするこ
とが必要である。また、脱炭焼鈍時の雰囲気を制御する
ために流すガスの流量の総和を、その雰囲気下で脱炭焼
鈍される電磁鋼板表面積で割ることで得られる、単位面
積当り雰囲気流量については、 0.01Nm3/min・m2〜
1 Nm3/min・m2 とすることを特徴とする。単位面積当り
雰囲気流量が0.01Nm3/min・m2 未満であると皮膜密
着性が低下し、また、1Nm3/min・m2を超えると原単位
が悪化するのでその上限は1Nm3/min・m2とする。
り、その要旨とするところは以下の通りである。 (1)質量%で、C:0.005%以下、Si:2.0
〜7.0%を含み、残部がFe及び不可避的不純物から
なる鋼板の、表面にMg、Si、Alを主とする酸化物
からなる焼鈍皮膜を有し、皮膜と鋼板の境界より3μm
以内の鋼板部分、あるいは、皮膜と鋼板結晶粒の混在領
域における鋼板結晶粒の結晶方位分布が、Goss方位から
の偏差角度が10度以内の結晶方位粒の存在割合が0.5
以下であることを特徴とする、皮膜特性と磁気特性の優
れた方向性電磁鋼板。 (2)磁区細分化処理を施すことを特徴とする、(1)
記載の皮膜特性と磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。 (3)皮膜特性と磁気特性に優れた電磁鋼板を製造する
方法において、脱炭焼鈍工程の昇温段階の少なくとも6
00℃以上の温度域を95℃/s以上の昇温速度で80
0℃以上に加熱し、かつ、この温度域の雰囲気が体積分
率で10-6〜10 -1の酸素を含有する不活性ガスで構成
され、脱炭焼鈍の均熱時における雰囲気の構成成分をH
2とH2OもしくはH2、H2Oと不活性ガスとし、かつ、
H2O分圧のH2分圧に対する比PH2O/PH2を0.0
5〜0.75とし、また、単位面積当り雰囲気流量を、
0.01Nm3/min・m2 から1Nm3/min・m2の範囲とするこ
とを特徴とする皮膜特性と磁気特性に優れた電磁鋼板を
製造する方法。 (4)皮膜特性と磁気特性に優れた電磁鋼板を製造する
方法において、脱炭焼鈍工程の昇温段階の少なくとも6
00℃以上の温度域を95℃/s以上の昇温速度で80
0℃以上に加熱し、かつこの温度域の雰囲気が雰囲気の
構成成分をH2OとH2もしくはH2Oと不活性ガスもし
くはH2OとH2と不活性ガスとし、かつH 2O分圧が8
×10-5〜5×10-1であり、また、脱炭焼鈍の均熱時
における雰囲気の構成成分をH2とH2OもしくはH2、
H2Oと不活性ガスとしかつH2O分圧のH2分圧に対す
る比PH2O/PH2を0.05〜0.75とし、また、
単位面積当り雰囲気流量については、0.01Nm3/min
・m2 から1Nm3/min・m2の範囲とすることを特徴とする
皮膜特性と磁気特性に優れた電磁鋼板を製造する方法。
する。
られた鋼板の板厚とグラス皮膜の密着性との相関を示
す。皮膜の密着性は20mm径の曲率で曲げた場合の皮膜
剥離が発生しない割合(%)で評価している。すなわ
ち、同一条件で製造された130前後の製品コイルから
各コイルにつき6枚程度試験片を採取し、皮膜剥離が生
じた頻度を示している。本発明、すなわち黒四角印は、
すべての板厚において従来製品の黒丸印に比較して密着
性が向上している。
依存性を示す。本発明、すなわち、黒四角印は、すべて
の板厚において従来製品の黒丸印に比較して鉄損値が減
少している。
及び鋼板の界面を観察し、皮膜が根を張るように鋼板部
分に5μm〜10μmの深さで食い込み、結果的に鋼板
と皮膜が共存している領域ができていることが分かっ
た。このような領域が形成されることは、皮膜密着性を
向上させる効果を持つ。しかしながら、このような領域
の存在は、磁場印加時に鋼板表面部分に生成される磁区
構造を乱し、結果的に鉄損特性に悪影響を与えてしまう
ことが懸念される。そこで、この界面部分の結晶方位分
布を調査した。結晶方位分布を測定する場合、ラウエ法
等、X線回折を利用した方法やRHEED法やLEED法等電子
線の回折を利用した方法等があるが、いずれも、界面に
おける数μmの幅の領域における結晶方位分布を測定す
るには空間分解能の点で困難がある。1μm以下の径に
収束させた電子線を試料に照射し、後方散乱された電子
線によって形成される菊池パターンによって電子線照射
部の結晶方位を測定し、照射する電子線をスキャンする
ことによって試料面の結晶方位分布を測定する電子線後
方散乱法が、現状では、このような目的には適してい
る。従って、この方法を用いて、試料断面における皮
膜、鋼板共存部分の鋼板の結晶方位分布を測定した。こ
のような部分を測定するに際して、グラス皮膜を1μm
径のダイアモンド砥粒で軽く研磨して皮膜の上部のみを
薄く剥いで、部分的に皮膜が残り、鋼板表面が部分的に
露出した状態にして鋼板表面上部から行った。測定にお
いては、1mm四方の領域を20μmステップでスキャン
し、観察場所を変え、同様な測定を行い、それを繰り返
し、観察場所による影響を平準化した。また、皮膜を剥
がさずに、断面を研磨して、断面部分での観察も行っ
た。断面観察においては、鋼板表面に沿った測定領域の
長さを600μm以上とり、鋼板厚み方向に10μmと
り、0.2μmステップでスキャンして測定した。測定す
る断面の長さは、その試料の特徴を抽出できるほどに統
計的に充分な長さである必要があるが、600μm以上
とすることが好ましい。測定された結晶方位のうち、信
頼性の低いものについては、測定結果を棄却し、信頼性
の高いもののみ解析対象とした。ここで、信頼性とは、
信頼性指数あるいはコンフィデンスインデックス等と呼
ばれるパラメタで判定する。信頼性指数は、菊地パター
ンを認識して結晶方位を判定する際のアルゴリズムによ
って算出されるものであり、1以下の数値で表され、数
値が大きいほど判定結果の信頼性が高い。通常、この値
が0.1以上であれば信頼できると考えられている。本解
析においては、信頼性指数が0.2以上の結果を解析対象
とした。
部などの鋼板内部においては、二次再結晶によって{1
10}〈001〉結晶方位が発達しているが、各点にお
いて測定された結晶方位が一次再結晶方位か二次再結晶
方位か判別するために、{110}〈001〉結晶方位
からの結晶方位の偏差角度を求めた。これは、測定結晶
方位行列に{110}〈001〉結晶方位行列の逆行列
を右からかけることによって得られるが、この際、{1
10}〈001〉方位と等価な対称性を持つ24個の結
晶方位行列についても逆行列を求め、測定結晶方位に対
する結晶方位偏差角度を求める。このようにして得るこ
とができる24個の方位偏差角度のうち最小のものを、
{110}〈001〉結晶方位に対する結晶方位偏差角
度とする。
2に示す。これは、前述のように、鋼板表面を薄く研磨
し、皮膜を一部取り除き、鋼板表面上部より1mm四方の
領域を20μmステップでスキャンし、測定した場合の
結果である。ここで、皮膜を研磨にて取り除く際に、研
磨された皮膜厚さを制御しつつ研磨する必要があるが、
通常の研磨では著しく困難である。好ましくは、半導体
製造に用いられる化学機械研磨の手法を用いるのがよ
い。図2(a)は、本発明になる材料、図2(b)は、従来材
料についてのものである。これらの図より、これらの材
料間の特徴的な差異が明瞭に示される。即ち、本発明の
材料においては、{110}〈001〉結晶方位からの
偏差角度が10度未満の測定点が少なく、従来材料にお
いては、ほとんどが偏差角度が10度未満の領域に入っ
ているということである。この特徴をより明瞭とするた
めにその累積頻度を、図3に示す。図3(a)及び図3
(b)は、各々、図2(a)及び図2(b)に対応した累
積頻度曲線である。本発明になる材料においては、偏差
角度10度未満のものが30%であり、従来材料におい
ては80%となっている。これは、本発明になる材料と
従来材料の特徴の差異を明瞭に示すものである。以下、
{110}〈001〉結晶方位からの偏差角が10度未
満の方位を二次再結晶方位、10度以上の方位を一次再
結晶方位ということとする。以上より、従来材において
は、皮膜直下において一次再結晶方位はほとんど残存し
ていないが、本発明材においては、皮膜直下において
は、かなりの量の一次再結晶方位の残存が見られること
が分る。
プの代表的なものを図4に示す。本測定においては、被
測定断面において、鋼板表面平行方向に800μm、鋼
板厚み方向に7μmの領域を0.2μmステップでスキャ
ンして測定した。図4に示す結晶方位マップは、そのよ
うにして得られた結晶方位マップの一部を拡大して表示
したものである。図4(a)が、本発明になる材料につい
てのもの、図4(b)が従来の材料についてのものであ
る。また、図5〜図8は、断面において測定した図4の
結晶方位マップと同様に、被膜と鋼板の境界より板厚方
向に7μmまでを、板厚xが1μm厚ごとの範囲のそれ
ぞれにおいて2505点ずつ測定し、測定点における結
晶方位のGoss方位からの偏差角度δΘG が10度(°)
以下の点と、10度(°)超の点の存在頻度を示したも
のである。
おいては、境界より板厚方向に3μm以下では、Goss方
位からの偏差角度が10度以下となる点が50%以下存
在するのに対し、従来材では、図7〜図8から判るよう
に、境界より板厚方向に1μmを超えると、ほとんどが
Goss方位からの偏差角度が10度以下となっている。な
お、図4〜図8において、(1)(黒色部)は、Goss方
位から10度以上の偏差角度を持つ結晶方位の領域、
(2)(灰色部)は、Goss方位に近い方位を持つ二次再
結晶領域、(3)(白色部)は、測定できなかった点あ
るいは信頼性の低い点を示す。本発明になる材料につい
ては、皮膜直下に、二次再結晶方位以外の方位、即ち、
一次再結晶方位の結晶粒が存在し、従来材料については
それが見られず、図2及び図3から得られる知見と一致
した知見を得る。しかしながら、一次再結晶方位は、図
4に明らかなように、数μm程度の広がりをもった結晶
粒として遍在しているため、観察領域の長さが数十μm
程度だと観察されない可能性が高い。従って、観察領域
の長さは、100μm以上である必要があるが、600
μm以上であることが好ましい。前述のように800μ
mの長さに渡って断面観察した結果を解析して得られ
た、二次再結晶方位の存在比率の、鋼板深さ方向の累積
比率分布F(z)を図9に示す。ここでzは、皮膜鋼板界面
近傍から測った鋼板深さ方向の距離である。また、z=0
となる面、即ち皮膜鋼板界面を定義する必要があるが、
本測定においては、皮膜表面部まで含む断面で電子線を
スキャンして得られた電子線後方散乱データで、高い信
頼性で鉄の方位が同定された測定点のうち、最も皮膜表
面に近い測定点における深さ方向の座標を皮膜鋼板境
界、即ちz=0とした。図9(a)は、本発明になる電磁鋼板
についてであり、図9(b)は、従来材についてのもので
ある。ここで、F(z)は、次式より求めた。
下である測定点の数であり、分子のN2は、そのうち二次
再結晶方位を示す測定点の数である。ここで、測定点
は、信頼性指数が高いもののみを対象とする。信頼性指
数は、0.1以上であることが好ましい。これを図9に図
示する。図9(a)は、本発明になる材料についてのもの
であり、図9(b)は、従来の材料についてのものであ
る。これらの図は、図2〜図8に見られた傾向を顕著
に、かつ定量的に表していることが分る。即ち、本発明
になる材料においては、鋼材表面から5μm程度の範囲
の中に一次再結晶方位粒が非常に高い比率で存在する領
域がある。また、従来材料においては、そのような領域
が存在しない。従来材料の場合、表層において、ほぼす
べてが二次再結晶方位である。これらの図より、本材料
の特徴は、グラス皮膜・鋼板の共存領域を含む3μm以
内の領域において、二次再結晶方位の存在比率が50%
以下と表すことができる。
は顕著であることが分る。即ち、本発明になる鋼板にお
いては、皮膜、鋼板共存領域における鋼板の結晶方位
は、{110}〈001〉結晶方位より10度以上の偏
差角度を持ったものが大部分であるのに対して、従来品
の場合は、10度以下の角度偏差をもったものが大部分
である。これは、皮膜、鋼板共存領域における二次再結
晶の進行程度が異なることを示す。
熱時に昇温速度を大きくし、雰囲気を制御して脱炭時の
鋼板の酸化過程を制御することによって形成される酸化
皮膜が重要な役割を持っている。このような酸化皮膜
は、雰囲気ガスから供給される酸素が関与する鋼材表面
の酸化、還元反応と、鋼材内部の酸化物の酸素あるいは
鋼中残留酸素が関与する酸化、還元反応のバランスによ
って形成される。本発明材においては、鋼材内部の酸化
物の酸素あるいは鋼中残留酸素が主に関与した鋼材表面
直下での酸化反応により、酸化皮膜が形成される。
局所的なばらつきを反映し、局所的に凹凸を持った形状
で形成される。その後フォルステライト皮膜形成時に、
局所的な凹凸は成長し、鋼板内部に1〜5μm程度食い
込んだような形状となる。従って、鋼板の表面は、この
ような皮膜によって三次元的に包まれたような形態とな
る。
板部分は、複雑な方向性を持った応力を受け、皮膜によ
って包まれた領域での二次再結晶粒成長は、著しく阻害
されることになり、一次再結晶方位が残存することにな
る。このような複雑な方向性を持った応力は局所的であ
り、皮膜直下から離れると急激に減衰し、方向のそろっ
た一軸性の応力となり、鋼板内部においては、二次再結
晶を阻害するようなことはない。このようにして本発明
材における特徴的な皮膜直下の結晶方位分布が形成され
ることになる。
再結晶進行程度の相違は、鉄損特性に対して大きな影響
を与える。それは、皮膜と鋼板の境界部分に凹凸がある
場合、見かけ上の磁荷が誘起されやすくなる。その誘起
された磁化によって鋼板内部に磁気的な擾乱が与えら
れ、鉄損が劣化するのである。本発明材は、従来材よ
り、皮膜の鋼板部への食い込みが深いため、このよう
な、凹凸形状による鉄損の劣化は、深刻な影響をもたら
すことが懸念された。
接する鋼板部分を、上記の手法により一次再結晶粒とす
ることにより鉄損の劣化を無くし、鉄損の向上が達成さ
れた。
ように、皮膜凹凸部と鋼板の界面に外部から磁場を印加
すると、見かけ上の磁荷が誘起されるが、この磁荷は、
鋼板部に形成される磁区構造を乱す。この乱れによって
鉄損が増加するため、このような磁荷は、小さいほうが
鉄損の劣化は少ない。ところで、電磁鋼板に外部磁場を
印加した場合、電磁鋼板には、磁化が発生するが、この
磁化は、皮膜内部と鋼板内部において大きさが異なる。
従って皮膜凹凸部と鋼板の界面において磁化は、不連続
となる。このような不連続は、界面に磁荷が形成される
ことによって補償される。従って界面における磁化の変
化、即ち、その不連続性が大きいほど、そこに誘起され
る磁荷は大きくなる。ここで、皮膜内部の磁化は、それ
ほど大きくなく、真空中に磁場を与えた場合に誘起され
る磁化の大きさ程度である。従って、鋼板部の磁化の大
きさによって、界面に誘起される磁荷が決まってくる。
ところで、方向性電磁鋼板においては、鋼板に発生する
磁化を大きくしてエネルギー伝達効率をよくするため
に、その〈100〉結晶軸方向に外部磁場を印加する。
即ち、二次再結晶方位における〈100〉軸方向に外部
磁場を印加する。これは、Feの磁気異方性、即ち、〈1
00〉結晶軸方向に大きな磁化を発生しやすい性質に基
づくものである。従って、印加磁場方向が〈100〉結
晶軸方向から離れるほど発生する磁化は小さくなる。即
ち、皮膜凹凸部と鋼板部の界面において誘起される磁荷
を小さくするためには、その鋼板部における結晶方位を
二次再結晶方位から離れた結晶方位、即ち一次再結晶方
位のままとすることにより達成される。本発明材におい
て、このような結晶方位分布となっていることは、すで
に見たとおりである。従来材においては、皮膜部の凹凸
は小さいものの、それに接する鋼板部の結晶方位がほぼ
二次再結晶方位となっているので、その界面に誘起され
る磁荷がかなり大きくなり、磁区構造が大きく乱れるた
めに本発明材に比較して鉄損特性に劣ることとなるので
ある。
共存領域における鋼板部の透磁率をμとし、磁束密度ベ
クトル、磁場ベクトルを各々、列ベクトルB、Hとすれ
ば、次式(2)のように書ける。
なり、真の磁荷は存在せず、磁束密度ベクトルの発散
は、ゼロであり、以下の式が成立する。
算子である。∇は、列ベクトル微分演算子であり、次式
(3)のような列ベクトルとして書ける。
行列の右肩の添字Tは、各々の行と列を入れ替えた行ベ
クトル或いは転置行列を表す。また、ここで、透磁率μ
は、テンソル量であり、3行3列の行列として表される
ことを考慮して、式(1)、及び式(3)を式(2)に代入して
演算すると、形式的に、次式(5)のように書ける。
要素の和をとる演算子である。
ルHの発散を含む項であり、見かけ上誘起される磁荷を
表していると理解できる。このような見かけ上の誘起磁
荷をρindと表せば、式(5)は、次式(6)のように書き直
すことができる。
勾配と磁場ベクトルの内積と理解することができる。透
磁率テンソルの勾配は、皮膜と鋼板の境界のように、透
磁率が不連続的に変化するところで大きな値をとる。式
(6)は、そのような、媒質の不連続点において、磁場
Hの連続性を補償するために、見かけ上の磁荷が誘起さ
れることを表していると理解することができる。さら
に、そのような磁荷は、勾配と磁場Hとの内積に比例す
るため、透磁率勾配が磁場Hに平行方向の時に大きくな
ることが分る。以上より、皮膜が鋼板に食い込んだ形態
における側面上にこのような磁荷が誘起され易いと理解
できる。このようにして誘起された見かけ上の磁荷によ
って鋼板表面において逆磁区などが発生し、磁場が時間
的に変化するような場合、渦電流などに起因する磁気的
エネルギ損失を起こすこととなり、鉄損特性を劣化させ
ることとなる。また、このような擾乱は、磁区という広
がりを持った構造を介して生じるため、鋼板表面の限ら
れた領域に発生した磁区変化の影響は、広がりを持って
内部に浸透し、結果的に大きな擾乱となる。
って決まる量である。しかし、方向性電磁鋼の場合、磁
場Hの方向が、〈100〉結晶軸方向に平行となるよう
に使われ、かつ電磁鋼は、磁気異方性を持つため、透磁
率テンソルμは、結晶粒の結晶方位によって大きく変わ
る。ここで、試料圧延方向をx軸、法線方向をz軸とす
る。また、電磁鋼は立方晶であるが、立方晶の3個の互
いに垂直な結晶軸、〈100〉、〈010〉、〈00
1〉が各々、x軸、y軸、z軸に平行になるように結晶
を配置した場合の透磁率テンソルをμ0で定義する。鉄
の磁気異方性に起因して、μ0は、大きな値の対角要素
を持ち、その非対角要素は小さい値をとる。また、試料
内のある領域において結晶方位が、結晶方位行列Gで表
される場合、そこでの透磁率テンソルμは、次式(7)で
表される。
次式(8)が得られる。
結晶方位行列の勾配として表されることが分る。電磁鋼
板における状況を考慮し、磁場Hは、圧延方向、即ちx
方向に平行であることを考えると、二次再結晶方位であ
る{110}〈001〉方位、あるいは、それと同等な
結晶対称性をもつ方位においては大きな透磁率となり、
それ以外の方位の結晶粒においては、小さくなる。従っ
て、二次再結晶結晶方位以外の方位の結晶粒の場合、式
(6)及び式(8)に示される、結晶方位変化によって生
じる透磁率勾配は小さくなり、見かけ上の誘起磁荷を低
下させ、結果的に磁気的な擾乱が小さくなり、鉄損特性
の向上につながることになる。
大きい領域、即ち、結晶粒界において磁荷が誘起される
場合もあることを示している。このような効果は、一次
再結晶粒と二次再結晶粒が接する結晶粒界において著し
いと考えることができる。従って、本発明になる電磁鋼
板においては、皮膜、鋼板共存領域に存在する一次粒と
二次再結晶粒との境界にも無視できない量の、見かけ上
の磁荷が誘起される可能性があり、皮膜と鋼板の境界に
誘起される磁荷と合わせて、磁気的な多重極子場が形成
され、磁区構造に変化を与え、鉄損の低下につながって
いることを示唆するものである。以上、皮膜・鋼板界面
に遍在する一次再結晶方位粒による鉄損特性に与える効
果について述べたが、重要なのは、皮膜と鋼板が接する
境界において、鋼板部が一次再結晶方位であったほう
が、二次再結晶方位であった場合より境界において誘起
される見かけ上の磁荷が小さいため、鋼板内部の二次再
結晶方位部分に与える磁気的な擾乱が小さいということ
である。特に、皮膜と鋼板の界面法線方向が磁場と平行
に近いほど、この効果は顕著となる。
位の集積度が高ければ高いほど磁気特性、鉄損特性とも
に良好となる。しかしながら、皮膜・鋼板界面を凹凸に
することによって密着性を確保する場合、この凹凸界面
により発生する磁気的擾乱のために鉄損特性が劣化す
る。
あるように、一次再結晶方位を皮膜鋼板界面部に残すこ
とは有効に作用する。
粒の存在比があまりに多いと、鋼板全体として磁化が飽
和しにくくなり、B8の低下をもたらすこととなり、磁気
特性上好ましくない。このような一次再結晶粒残存領域
は、皮膜、鋼板共存部或いは、皮膜直下部に数μmの深
さの範囲において、空間的にランダムに分布しているこ
とが重要である。
0.077%C、0.08%Mn、0.01%P、0.
03%S、0.03%Al、0.09%N、0.08%
Cu、0.08%Snを含む溶鋼を鋳造し、スラブ加熱
後に熱間圧延を行い、2.3mm厚の熱延板を得た。続い
て1100℃で3分間焼鈍を行い、酸洗の後、冷間圧延
して0.22mm厚とした。なお、冷間圧延中に220℃
で5分の焼鈍を施した。
イルAおよびBに対しては通常の脱炭焼鈍を施した(従
来法)。コイルC〜Kについては、通電加熱による脱炭
焼鈍の急速加熱処理を施した。昇温速度や昇温帯、均熱
帯の雰囲気設定条件は表1に示すとおりである。
4時間、水素雰囲気中で最終仕上げ焼鈍を行った後、コ
ロイダルシリカと燐酸塩を主体とする絶縁皮膜を形成
し、製品とした。
発明条件を満足するコイルC〜Fは、皮膜特性と磁気特
性に優れた方向性電磁鋼板となっている。特に、最も好
ましい条件を満たすC〜Dでは、より優れた皮膜特性、
磁気特性を示している。また、雰囲気条件は、本発明条
件を満たすが、単位面積当たりの総流量が本発明条件を
満たさないコイルGにおいては、従来材と同程度の特性
となる。
B,C,F、Iにつき、更に、磁区細分化処理を行っ
た。すなわち、歯形ロールを用いて、通板方向に対して
直角方向(C方向)とのなす角が12°の方向に、5mm
間隔で深さ15μm、幅90μmの溝を形成した。各コ
イルの鉄損特性を表2に示したように極めて低い鉄損値
を与えている。
気特性の極めて良好な方向性電磁鋼板を提供でき、かつ
上記方向性電磁鋼板を製造するための方法を提供するこ
とができる。
密着性および鉄損との相関を示す図。 (a)板厚と皮膜密着性との相関を示す図。 (b)板厚と鉄損の相関を示す図。
0}〈001〉結晶方位からの偏差角度分布を示す図。 (a)本発明材 (b)従来材
0}〈001〉結晶方位からの偏差角度の累積頻度を示
す図。 (a)本発明材 (b)従来材
界面近傍の結晶方位マップ。 (a)本発明材 (b)従来材
方位分布を示す図。
方位分布を示す図。
位分布を示す図。
位分布を示す図。
二次再結晶の累積比率を表わす図。 (a)本発明材 (b)従来材
Claims (4)
- 【請求項1】 質量%で、 C:0.005%以下、 Si:2.0〜7.0% を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板の
表面にMg、Si、Alを主とする酸化物からなる焼鈍
皮膜を有し、皮膜と鋼板の境界より3μm以内の鋼板部
分、あるいは、皮膜と鋼板結晶粒の混在領域における鋼
板結晶粒の結晶方位分布が、Goss方位からの偏差角度が
10度以内の結晶方位粒の存在割合が50%以下である
ことを特徴とする、皮膜特性と磁気特性に優れた方向性
電磁鋼板。 - 【請求項2】 磁区細分化処理を施されたことを特徴と
する、請求項1記載の皮膜特性と磁気特性に優れた方向
性電磁鋼板。 - 【請求項3】 皮膜特性と磁気特性に優れた電磁鋼板を
製造する方法において、脱炭焼鈍工程の昇温段階の少な
くとも600℃以上の温度域を95℃/s以上の昇温速
度で800℃以上に加熱し、かつ、この温度域の雰囲気
が体積分率で10-6〜10-1の酸素を含有する不活性ガ
スで構成され、脱炭焼鈍の均熱時における雰囲気の構成
成分をH2とH2OもしくはH2、H2Oと不活性ガスと
し、かつ、H2O分圧のH2分圧に対する比PH2O/P
H2を0.05〜0.75とし、また、単位面積当り雰
囲気流量を、 0.01Nm3/min・m2 から1Nm3/min・m2
の範囲とすることを特徴とする皮膜特性と磁気特性に優
れた電磁鋼板を製造する方法。 - 【請求項4】 皮膜特性と磁気特性に優れた電磁鋼板を
製造する方法において、脱炭焼鈍工程の昇温段階の少な
くとも600℃以上の温度域を95℃/s以上の昇温速
度で800℃以上に加熱し、かつ、この温度域の雰囲気
が雰囲気の構成成分をH2OとH2もしくはH2Oと不活
性ガスもしくはH2OとH2と不活性ガスとし、かつ、H
2O分圧が8×10-5〜5×10-1であり、また、脱炭
焼鈍の均熱時における雰囲気の構成成分をH2とH2Oも
しくはH2、H2Oと不活性ガスとし、かつ、H2O分圧
のH2分圧に対する比PH2O/PH2を0.05〜0.
75とし、また、単位面積当り雰囲気流量を、 0.0
1Nm3/min・m2 から1Nm3/min・m2の範囲とすることを特
徴とする皮膜特性と磁気特性に優れた電磁鋼板を製造す
る方法。
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