JP2002504688A - 癌の治療法 - Google Patents

癌の治療法

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ローレンス アンソニー シーブラ
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 化学療法剤による細胞毒性作用に対する細胞の耐性を測定する方法、またはキットを提供する。 【解決手段】 細胞またはその抽出液を含有する試料中の(a)p21の発現濃度またはp21蛋白質の量;および(b)サイクリンD1の発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量を調べる方法である。また、(a)p21の発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量を調べる手段、および(b)サイクリンD1発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量を調べる手段を包含するキットである。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌患者に対し、最も適切な治療法を選択する方法に関するものであ
る。本発明は特に、化学治療剤に対する癌細胞の耐性を測定することに関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】
今世紀後半、放射線療法および化学療法は多くの癌患者の治療に用いられてき
たが、治療に対する応答が殆ど無いか、治療初期のみ応答し、後に再発するとい
った多くの腫瘍がなお残存している。特に、女性患者の卵巣癌を白金化剤で治療
した場合、初期には、化学療法(第一に選択される薬剤として、シス−ジアミン
ジクロロ白金(CDDP)の使用を伴う場合が多い)に対して有望な兆候を示す場合 が多いが、診断5年以内に、そのうちの3分の2が再発してしまう。同様に、肺癌 患者も治療開始時には、CDDPを用いた複合化学療法に対し、良好な兆候を示すが
、長期生存者は殆どいない。CDDPに対する癌の反応の根拠となるメカニズムを充
分理解することは、どの患者がCDDPによる利益を最も被るのか、或いは、タキソ
ールの様な別の細胞毒性剤若しくは放射線療法の様な別の治療法が適切であるの
かを予測する際に役立つ。治療に対する応答メカニズムを理解することはまた、
これらのメカニズムを選択的に調節することにより、例えばCDDPの使用によるヒ
トの癌治療を改善するという可能性にもつながるものである。
【0003】 特定の癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子は、発癌に関与するのみならず、治療剤
に対する悪性腫瘍細胞の感受性にも影響することが一層明らかにされている。従
って、放射線療法および/または細胞毒性化学療法の様な現在有用な治療法に対
するヒト癌の治療応答を検討し、予測する為に、上記の遺伝子及び他の遺伝子を
用いる試みが行われている。しかしながら、現時点までの研究では、一般に治療
応答を予測する方法として、単一の腫瘍関連遺伝子の発現を調べることのみが行
われている。パブリックドメインの研究によれば、乳癌、肺癌、卵巣癌の様な通
常の癌の約50%に認められるp53腫瘍抑制遺伝子の突然変異が、細胞毒性剤また は放射線照射に対する耐性に関与していることが示唆されている。しかしながら
、多くの研究がなされているにもかかわらず、現時点では、p53遺伝子のみの突 然変異を検出することにより、患者の癌が、例えば白金化剤、またはタキサン類
(例えばタキソール)の様な新しい細胞毒性剤を用いた化学療法に応答し易いか
どうかを、許容し得る程度の確実性で予測する為に用いることができる様な良好
な臨床試験法は未だ提供されていない。
【0004】 CDDPの様な細胞毒性剤を用いた治療では、ヒトin vitro細胞系で、ヒト癌細胞
系の応答に対してのみ単一遺伝子の発現作用が研究されているが、その理由は、
これらが臨床現場におけるヒト癌の応答に適切なモデル系を提供する為である。
特にこれらは、臨床現場で通常用いられる細胞毒性剤および電離放射線に対する
感受性域を有している。従って、ヒトin vitro細胞系における知見は、癌がどの
程度治療に応答すると期待できるのかについて、臨床上有用な試験へとつながる
可能性が強い。
【0005】 細胞周期を通じた細胞の進行は、その濃度が細胞周期を通じて変動するサイク
リンと呼ばれる蛋白質と、サイクリン結合して活性となるサイクリン依存性キナ
ーゼ(CDK)との組合せによって形成されるホロ酵素により決定される。サイク リン/CDKの複合体は、蛋白質p21 WAF1/CIP1(p21)を含むサイクリン依存性キ
ナーゼ阻害剤(CDKI)と呼ばれる蛋白質によって阻害される。
【0006】 サイクリンD1遺伝子およびB1遺伝子の蛋白質産生、並びに夫々のサイクリン依
存性キナーゼパートナーであるCDK4およびCDK1について研究されている。サイク
リンD1およびCDK4は、G1期とS-期の間(DNA合成期)の細胞周期チェックポイン トを通じて細胞の進行を制御する。サイクリンB1およびCDK1は、有糸分裂直前の
細胞周期チェックポイントを制御する。一連の16ヒト癌細胞系におけるサイクリ
ンD1蛋白質の発現は、細胞毒性剤CDDPに対する内因性耐性と関連していることが
示されている(Warenius等、1996)が、サイクリンD1蛋白質の濃度は、別の治療
法である放射線感受性とは無関係である。しかしながら、サイクリンD1とCDDP耐
性との関係はそれ自身、臨床上有用な予測試験の根拠となる程、強いものではな
い。
【0007】 したがって、ヒト癌細胞における単一癌遺伝子、癌原遺伝子または腫瘍抑制遺
伝子の突然変異状態または蛋白質産物の発現濃度を測定することが、白金化剤お
よびCDDPを含む化学療法剤を用いた治療法に臨床上の腫瘍が応答するかどうかに
ついて、信頼性の高い臨床試験の根拠を提供する指標とはならないのである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、2つ以上の癌関連遺伝子の特性を同時に測定することによって、ヒ
ト癌細胞が抗癌治療剤(白金化剤、例えばCDDP等の化学療法剤)に応答するかど
うか予測する方法を提供するものである。更に、本発明において同定された相互
に独立して発現する特定の癌遺伝子との相関関係は、従来報告されていなかった
標的を提供するものであり、癌に一層特異的な潜在的治療法となり得るものであ
る。
【0009】 特に本発明は、化学療法剤による細胞毒性作用に対する細胞の耐性を測定する
方法を提供するものである。この方法は、細胞またはその抽出物を含有する試料
中における (a)p21の発現濃度、またはp21蛋白質の量、並びに、 (b)サイクリンD1の発現濃度、または、サイクリンD1蛋白質の量 を調べる工程を包含するものである。
【0010】 工程(a)と工程(b)が実施される順序は特に制限されない。すなわち、工
程(a)の次に工程(b)を実施しても良いし、あるいは、工程(b)の次に工
程(a)を実施しても良い。
【0011】 本発明は、また、化学療法剤による細胞毒性作用に対する細胞の耐性を測定す
るキットに関し、該キットは、 (i)p21の発現濃度またはp21蛋白質の量を調べる手段;および、 (ii)サイクリンD1の発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量を調べる手段 を包含するものである。
【0012】 即ち、本発明は、好ましくは、(例えば)CDDPに対する腫瘍の耐性を調べる為
に、p21蛋白質濃度が(例えばウエスタンブロットにより)測定されている細胞 中のサイクリンD1蛋白質濃度を測定することを含んでいる。上昇しない(好まし
くは実質的に検出不可能な)p21蛋白質濃度または実質的に上昇しない(好まし くは実質的に存在しない)p21発現と、高いサイクリンD1濃度または高いサイク リンD1発現との組合せは、ヒト癌細胞において、CDDPの様な化学療法剤に対する
耐性と密接に関連するものである。
【0013】 サイクリンD1の過剰発現またはサイクリンD1蛋白質濃度の上昇は、適切な方法
、例えばウエスタンブロットによって測定することができる。濃度が上昇してい
るか、または、発現が過剰であると考えられる点は、ヒト細胞系におけるサイク
リンD1の通常濃度に関する文献の記載に従って、当業者が容易に知り得るもので
ある(Oncogene, 1993, 第8巻、2127-2133;およびOncogene、1995、第10巻、77
5-778参照)。この点は、特定の癌細胞および対象患者に応じて、本発明方法を 実施する者の判断によって決定することができる。
【0014】 同様にしてp21発現量またはp21蛋白質濃度は、上述のサイクリンD1濃度測定方
法に相当する方法を含む適切な方法によって測定することができる。具体的には
、p21はサイクリン依存性キナーゼ阻害剤であるが、ウェスタンブロット、免疫 細胞化学、またはp21mRNAの相対量を測定する等の新規に開発された技術によっ て検出可能である。p21が有効に発現しない(すなわち、発現量が上昇しない) 、或いは、p21蛋白質が有効に検出されない(すなわち、有効に上昇していない )と考えられる時点は、ヒト癌細胞系における通常のp21蛋白質濃度に関する文 献に教示された一般的内容(Oncogene, 1995, vol. 11, 2021-2028及びOncogene,
1996, vol. 12(6), 1319-1324を参照のこと)に従って、当該技術分野の当業者 にとっては明らかである。
【0015】
【発明の構成】
添付図面を参照しながら本発明を更に詳細に説明するが、これは例示に過ぎな
い。
【0016】 上昇しない(好ましくは検出不可能な)p21蛋白質濃度と、サイクリンD1蛋白質 の高濃度発現との組合せを有するヒト癌細胞系は、CDDPに対して耐性を示す。こ
の所見は、CDDPへの応答性に関する予測試験の為の潜在的に新しいパラメーター
またはCDDPへの応答性を調節する為の新しい標的を提供することに関し、重要な
臨床上の可能性を含んでいる。
【0017】 p21蛋白質濃度と、高いサイクリンD1濃度またはサイクリンD1の過剰発現との 高い相関性はまた、薬剤開発における潜在的な標的を提供するものである。サイ
クリンD1に対する薬剤の開発が行われている。この様な薬剤は、上記p21蛋白質 濃度およびサイクリンD1の過剰発現を有する癌を治療する際に併用したときに、
一層有効であると考えられる。この様な薬剤はまた、CDDPの様な他の薬剤と組合
せて、その有効性を強化する為に使用することもできる。
【0018】 図1は、p21蛋白質濃度が検出不可能な細胞系において、サイクリンD1蛋白質濃
度とCDDPに対する相対的耐性を、D0.1値により測定すると強い関連性があること
を示している。このことは、上昇しないあるいは検出不可能なp21蛋白質濃度お よび高濃度のサイクリンD1蛋白質を示すヒト癌細胞は、CDDPの様な白金化剤に応
答するとは考えられず、放射線治療またはタキソールの様な代替の化学療法剤を
検討すべきであることを意味している。タキソールに対する感受性はp21蛋白質 濃度とサイクリンD1蛋白質過剰発現との組み合わせによって影響を受けない可能
性がある。サイクリンD1/p21試験はまた、エトポシドの様な他の細胞毒性剤に 対する耐性も検出することができる。従って、この試験は、CDDPの代わりに放射
線照射が可能な状況を教示するか、または、他の細胞毒性剤がより適切であるか
どうかを教示するものである。
【0019】 即ち、サイクリンD1蛋白質の発現とp21蛋白質発現という2重測定に基づいて、
CDDP感受性に関する臨床試験を提供し得るものである。具体的にはサイクリンD1
蛋白質は、研究環境下ではウエスタンブロットまたは免疫細胞化学法によって測
定されるが、診断目的の為には、一層安価で、且つ一層迅速な方法が好ましい。
【0020】 サイクリンD1は、周期的な(cyclical)転写制御下では比較的短命の蛋白質で
ある為、サイクリンD1のmRNA濃度はサイクリンD1蛋白質と同様の様式に従い、CD
DP耐性に対して同様に密接な関連性を示すと考えられる。これにより、腫瘍試料
からmRNAを抽出し、これを用いてサイクリンD1 mRNAの相対量(および好ましく はp21 mRNAの相対量)を測定することにより、CDDPに対する耐性に関する機能試
験を行うことが可能になる。
【0021】 オリゴヌクレオチドアレー mRNA濃度の測定は多くの方法で行うことができる。逆転写を用いてポリ‐A担 持mRNAをcDNAに容易に変換することができ、この方法は本発明を説明する実施例
の中でも記載する。逆転写酵素PCR(RTPCR)法では単一RNAの量を測定すること はできるが、精度は比較的低い。オリゴヌクレオチドアレーは比較的新しい核酸
分析方法であり、突然変異分析、ハイブリダイゼーションによる配列決定および
mRNA発現の分析が可能である。この様なアレーの構築方法(例えばA.C.Pease等 、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.91, 5022‐5026, 1994;U.MaskosおよびE.M.Souther
n、Nucleic Acids Research 21, 2269‐2270,1993;E.M.Southern等、Nucleic A
cids Research 22, 1368‐1373,1994)が開発されており、更に別の方法も検討 されている。mRNAの発現濃度を測定し、この様なRNAの突然変異を検出するアレ ーは現在開発中であり、これらは本発明で提案する診断試験の好適な実施態様を
提供するものである。
【0022】 免疫細胞化学 本発明の別の実施態様では、共焦点レーザー蛍光顕微鏡観察を用いた免疫細胞
化学によってサイクリンD1蛋白質濃度およびp21蛋白質濃度を測定することがで きる。好ましくは、PCT/US91/09217、PCT/NL/00081およびPCT/US95/01886
に記載された走査システムが用いられる。更に顕微鏡システムでは、複数の蛍光
染料を分析できることが望ましい。実施態様として好ましいのは、サイクリンD1
に対する抗体(sc‐6281, Santa Cruz Biotechnology, CA)を1番目の染料で標 識し、p21に対する抗体を2番目の染料で標識し、そして3番目のDNA結合染料を用
いて異数性細胞を選択することである。ATが豊富なDNAに結合するHoechst33258 染料、またはGCが豊富なDNAに結合するクロモマイシンA3の様なDNA結合染料が適
切である。診断試験は下記工程を包含する。
【0023】 ・患者から腫瘍の生検材料を取出す。 ・必要に応じて上記材料を微細切断し、腫瘍部から正常組織を分離する。 ・下記工程に従って顕微鏡検査用の生検材料を調製する。 ・サイクリンD1に対する上記蛍光標識抗体プローブで生検材料を標識する。 必要に応じて生検材料は、p21に対する抗体プローブおよびDNA結合染料 で標識する。 ・標識された細胞を非結合の標識プローブから分離する。 ・走査共焦点顕微鏡に標識された生検材料を載せ、下記細胞を計数する。 ・サイクリンD1を過剰発現するか濃度上昇を示す、即ち、サイクリンD1 に対する抗体の少なくとも閾値量で標識される。 ・必要に応じて、p21を発現しない若しくは過剰発現しないか、またはp21 の上昇濃度を示す、即ち、p21に対する抗体の閾値量未満で標識される。 或いは上記した通り、p21の発現はmRNAまたはゲノムDNAの分析によっ て測定される。 ・必要に応じて、DNA結合蛍光染料からの蛍光強度により検出される染色 体増幅を示す。
【0024】 蛍光活性化細胞分類 診断試験の別の実施態様は、蛍光活性化細胞分類(FACS)を利用したものであ
る。FACS機器は、蛍光マーカーで標識される細胞に依存した様式で懸濁液中の細
胞を分離する。典型的なFACS装置を以下に記載する。単一のファイル内を移動す
る懸濁液中の細胞は振動ノズルを通過すると、単細胞を含有するか、若しくは全
く含有しない液滴を形成する。この液滴は、レーザー光を通過する。レーザーに
より液滴中の個々の細胞各々から生じた蛍光を測定する。検出器の後方では、懸
濁液中の細胞流は静電気カラー部を通過すると、液滴の表面が荷電する。細胞を
担持した液滴には、正電荷または負電荷が与えられる。液滴中に特定の閾値を超
える強度の蛍光を示す細胞が含まれている場合には、この液滴は、一方の極性の
電荷を獲得する。未標識の細胞は逆の極性の電荷を獲得する。次に、荷電した液
滴が電場により偏向し、その表面電荷に応じて個別の容器内に輸送された液滴を
計数したとき、液滴中に1個より多い細胞を含有するときは、個々の細胞よりも 多くの光を散乱するが、これは容易に検出される為、これらは未荷電のままで第
3の廃棄用容器に入る。マルチチャンネル蛍光検出装置は、複数の異なる蛍光標 識による標識に基づいて細胞を分離できる様に構築されている。これらは複数の
レーザーを有しており、これが異なる周波数の蛍光を励起することができる結果
、検出器は異なる発光周波数を検出し得る。本試験には、3標識系が適切である 。共焦点蛍光顕微鏡用に用いた上記と同様の標識プローブが適切である。診断試
験は下記工程を包含する。
【0025】 ・患者から腫瘍の生検材料を取出す工程。 ・必要に応じて上記材料を微細切断し、腫瘍部から正常組織を分離する工程。 ・細胞内接着を破壊して単細胞の懸濁液を生成する工程。 ・サイクリンD1に対する上記蛍光標識抗体プローブで懸濁細胞を標識する工 程。必要に応じて生検材料は、p21に対する抗体プローブおよびDNA結合染 料で標識する。 ・標識された細胞を非結合の標識プローブから分離する工程。 ・FACS装置に標識された細胞懸濁液を載せ、下記細胞を計数する工程。 ・サイクリンD1を過剰発現するか濃度上昇を示す、即ち、閾値の 「正常」発現を超えて抗サイクリンD1抗体で標識される。 ・必要に応じて、p21を発現しない若しくは過剰発現しないか、または p21の上昇濃度を示す、即ち、p21に対する抗体の閾値量未満で標識される。 ・必要に応じて、DNA結合蛍光染料からの蛍光強度により検出される染色 体増幅を示す。
【0026】 ヒト癌におけるサイクリンD1発現の調節 現在、サイクリンD1を阻害する薬剤を開発する為に多くの試みがなされている
。この分子は、G1/Sチェックポイントの「開始」部分を通じて正常な細胞の進行 を制御する際、重要な機能を果たしている為、この様な阻害剤は極めて非選択的
であり、正常細胞に対する毒性が極めて強いと考えられる。本明細書では、上昇
したサイクリンD1濃度および検出不可能なp21濃度を有するヒト癌細胞において 、CDDPに対する耐性とタキサン類に対する感受性の特異的な関連性について記載
しているが、このことは、新規な治療剤へと導く明確な標的を提供するものであ
り、更に、多くの(だが全てではない)癌を治癒した実績のある薬剤であるタキ
サン類と併用できる可能性もある。この方法は、既にある程度機能している治療
剤と共に使用を開始することができ、遺伝子標的設定の様な技術を用いて既存の
治療剤の薬効を増強させるという概念に基づいている。
【0027】 検出不可能な、または上昇しないp21濃度を有する患者の場合は、サイクリンD
1濃度を低下させることにより白金化剤に対する応答性を高めることが可能であ る。サイクリンD1阻害剤は非選択的に毒性を示すと考えられるが、タキサン類の
様な薬剤と組合せて低用量で投与したときは、その組合せは、特にサイクリンD1
を過剰に発現している細胞に対し、単独の場合と比較して、一層効果的に腫瘍に
作用すると考えられる。
【0028】 実施例1 クローン原性細胞生存性試験により測定したときに、細胞毒性剤に対し、一定
範囲の内因性感受性を示す種々の組織学的起源からなるヒトin vitro細胞系は、
化学療法に対する臨床的腫瘍の応答の適切なモデルを提供することが知られてい
る。特にこれらの細胞系は、臨床現場で通常適用される細胞毒性剤および電離放
射線に対し、ある程度の感受性を示す。この様なヒトin vitro癌細胞系は、現在
では、化学療法における腫瘍の臨床応答に関する該当モデルとして広く認識され
ている。細胞毒性剤に対する内因性感受性は、ある範囲のヒト癌細胞系をクロー
ン原性試験に付すことによって測定される。従って、標的遺伝子の発現を測定す
ること、および/またはその突然変異状態を判定することにより、並びに広範な
ヒトin vitro細胞系において、これらのパラメーターを、細胞毒性剤に対する細
胞系の感受性に相関づけることにより、その発現および/または突然変異状態が
細胞毒性剤に対する内因性感受性に関連する遺伝子を同定することが可能である
。この方法では、CDDPに対する臨床的応答に関連する遺伝子を同定している。従
って、本発明に到達するに至ったヒトin vitro細胞系における上記発見は、癌が
治療に充分応答すると期待できるかについて、有用な臨床試験に組込まれ得る可
能性が極めて高い。以下、CDDPを投与した後、種々の組織の広範なヒトin vitro
細胞系クローン原性細胞の生存性を測定すべく実施した研究について記載する。
【0029】 材料および方法 細胞系およびクローン原性細胞生存率試験 本分析に用いたヒトin vitro細胞系の生育特性クローン原生試験法は、Wareni
us ら、1994に記載されている。細胞系とその組織学的分類を表1に示す。これ らは全て充分成熟しており、多くは数年間in vitroで生育させたものである。細
胞系は寄贈されたものか、当研究室が購入したものである。受領後全て5代継代 培養し、液体窒素のバッチ保存用に充分な細胞とした。この期間中、抗生物質を
含有しない培地中で、少なくとも1回継代することにより汚染を防止し、全ての 系についてマイコプラズマ試験を実施した。クローン原性試験は、細胞を所定の
一次液体窒素バッチから取出し、充分な成熟細胞が得られるまで3〜6代継代培養
した。これらの細胞から得られた追加のバッチは、液体窒素中に凍結した。RT11
2及びH322は、RPMI1640及びMGHU-1で生育させ、Ham's F12培地で生育させたが、
それ以外の細胞は通常、DMEM培地中に維持した。全ての系に、10%加熱不活性化
ウシ胎児血清(HIFCS)を添加した。
【0030】
【表1】
【0031】 CDDP感受性を調べる為に、102〜105個の細胞を6穴プレート中10%FCS添加Ham'
s F12培地3mlに接種し、5%CO2雰囲気下、3℃で8時間インキュベートした。次に
、CDDPの1mg/ml保存溶液(遮光保存)より希釈液0.02〜2.0μg/mlを調製し、適 切な希釈液1mlを各プレートに添加して最終容を4mlとした。次に、このプレート
をCDDP存在下、暗所で5%CO2雰囲気下、37℃で14日間インキュベートした。次に
培地を除き、細胞を70%エタノール中に固定し、10%ギムザ染色し、コロニー数
が100よりも大きい細胞を計数した。6穴プレート1枚を各希釈度につき使用した 。全ての試験で得られたデータポイントを合わせた。各細胞系につき、6ポイン ト/投与用量/試験を有する3つの個別のクローン原性試験が最低限必要であっ た。CDDP細胞生存率は、適切な回帰曲線で補間し、10%クローン原性細胞生存濃
度(D0.1)で測定した。
【0032】 サイクリンD1のウエスタンブロット 各ゲル上に対にして載せた各細胞系の溶解物を用いて、2つの独立したウエス タンブロットを行った。細胞系の各々のウエスタンブロットにつき、細胞溶解物
の調製は標準的条件で行った。即ち、107個の細胞を162cm2の組織培養フラスコ (Costar Ltd., High Wycombe, Bucks)中、前集密的(pre-conflunet)ではあ るがなお指数的に生育していることがフローサイトメトリーで確認されるまで生
育させた。次に、細胞をトリプシン処理により回収し、完全培地+10%FCS中に再
懸濁し、連続遠心分離で3回洗浄した後、血清無添加PBS中に再懸濁した。次に、
1-3×108の生存細胞を遠心分離によりペレット化し、溶解緩衝液1ミリリットル
当たり3×107個の細胞となる様に再懸濁した(保存溶液:10% SDS 10mL、0.5M
Tris pH6.8, グリセロール10mL, 2重蒸留水62mL。保存溶液10mLに10mMロイペプ チン100mL+100mM PMSF 10mLを添加する)。蛋白質の推定を行い、溶解液の最終 濃度を、100μL当たり総細胞蛋白質300μgとなる様に調節した。サイクリンD1蛋
白質を測定する為に、レーンウエル当たり溶解液緩衝液50μl中総細胞蛋白質150
μgを7.5%Laemmli分離ゲルに添加し、16℃で16時間、60vおよび500mA定電流で 電気泳動を行った。ブロットを、半乾燥ブロット装置(Biorad, Richmond, CA)を
用いて22℃で16時間、ニトロセルロースに移しかえた後、哺乳類サイクリン(G12
4-259.5,Pharmingen)に対するマウスIgG1モノクローナル抗体と共にインキュベ ートし、次に1/1000のウサギ抗マウスコンジュゲート抗体(Dako, UK)と共にイン
キュベートしてから、暗所下にて室温で1時間、ニトロブルーテトラゾリウムお よび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート(Sigma,Poole,Dorset,UK)( ジメチルホルムアミド中50mg/mL)を含有するアルカリホスファターゼ緩衝液で発
色させた。発色化を2重蒸留水で停止させた後、ブロットを乾燥平板化した。サ イクリンは明確なバンドとして明瞭に分離され、このうちサイクリンD1は最も低
い移動度を示した。
【0033】 サイクリンD1遺伝子の蛋白質産物の定量は、タングステン光による島津製走査
光学密度計で光学密度を測定することにより行い、総細胞蛋白質150μg当たりの
OD単位で表した。様々な量の総細胞蛋白質を適用して得られた滴定曲線により、
光学密度(OD)の直線関係は、細胞系を通じてサイクリンD1蛋白質に対して見出さ
れた範囲に渡って得られることが、従来より知られている(Warenius等,1994,Bro
wning 1997)。様々なサイクリンD1蛋白質の濃度を細胞系間で比較する為に、全 ての系の平均OD値を計算し、個々の細胞系各々におけるサイクリンD1蛋白質に対
する相対的OD値を平均OD値で規格化し、任意値5.0を掛けた。
【0034】 細胞系のp21濃度を測定する為に、上述した方法と実質的に同じ方法に従って 、ウエスタンブロットを実施した。
【0035】 上記細胞系において、サイクリンD1濃度、p21濃度とCDDP感受性との関連性を 調べた。p21蛋白質が検出不可能な細胞において、サイクリンD1蛋白質濃度とCDD
Pに対する耐性との間に有用な相関関係が認められた。
【0036】 この様にp21蛋白質が検出不可能な細胞系では、サイクリンD1濃度が高い程、 細胞がCDDPに対して耐性である可能性は高い(図1)。この様な相関関係は、p21蛋
白質濃度が上昇した細胞系では見られない(図2)。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、p21蛋白質が実質的に検出不可能な細胞系において、サイクリンD1蛋 白質量とCDDPに対する相対的耐性との関係を示すものである。
【図2】 図2は、p21蛋白質が上昇した細胞系における上記関係を示すものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (31)優先権主張番号 9812151.0 (32)優先日 平成10年6月5日(1998.6.5) (33)優先権主張国 イギリス(GB) (31)優先権主張番号 9814545.1 (32)優先日 平成10年7月3日(1998.7.3) (33)優先権主張国 イギリス(GB) (31)優先権主張番号 9903035.5 (32)優先日 平成11年2月10日(1999.2.10) (33)優先権主張国 イギリス(GB) (81)指定国 EP(AT,BE,CH,CY, DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,I T,LU,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GW,ML, MR,NE,SN,TD,TG),AP(GH,GM,K E,LS,MW,SD,SZ,UG,ZW),EA(AM ,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM) ,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG, BR,BY,CA,CH,CN,CU,CZ,DE,D K,EE,ES,FI,GB,GE,GH,GM,HR ,HU,ID,IL,IS,JP,KE,KG,KP, KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,L V,MD,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ ,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI, SK,SL,TJ,TM,TR,TT,UA,UG,U S,UZ,VN,YU,ZW Fターム(参考) 2G045 AA40 BB20 BB24 BB60 CB01 CB02 DA12 DA13 DA14 DA36 DA80 FA16 FA37 FB01 FB02 FB03 FB07 FB12 GC22 GC30 JA20

Claims (31)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 化学療法剤による細胞毒性作用に対する細胞の耐性を測定す
    る方法であって、該方法は、細胞またはその抽出液を含有する試料中、 (a)p21の発現濃度またはp21蛋白質の量;および (b)サイクリンD1の発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量 を調べる測定方法。
  2. 【請求項2】 上記試料は試験対象物から抽出されるものである請求項1に
    記載の方法。
  3. 【請求項3】 上記化学療法剤は白金化剤である請求項1または2に記載の
    方法。
  4. 【請求項4】 上記白金化剤はCDDPである請求項3に記載の方法。
  5. 【請求項5】 上記のサイクリンD1蛋白質の量を調べる工程は、サイクリン
    D1 mRNAの量を測定することを包含するものである請求項1〜4のいずれかに記 載の方法。
  6. 【請求項6】 上記のサイクリンD1 mRNAの量を測定する工程は、試料を、 サイクリンD1 mRNAのプローブと接触させることを包含するものである請求項5 に記載の方法。
  7. 【請求項7】 ウェスタンブロットによって試験を実施するものである請求
    項1〜4のいずれかに記載の方法。
  8. 【請求項8】 上記試験は、試料を、サイクリンD1蛋白質に対する標識抗体
    と接触させる工程を包含するものである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  9. 【請求項9】 上記サイクリンD1蛋白質に対する抗体は、14841C(クローン
    番号 G-124-259.5、Pharmingen USA)である請求項8に記載の方法。
  10. 【請求項10】 少なくとも1つの抗体は蛍光標識で標識されている請求項 8または9に記載の方法。
  11. 【請求項11】 異数性細胞を標識する為に、更に、上記試料をDNA結合染 料と接触させるものである請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
  12. 【請求項12】 上記DNA結合染料は、Hoechst 33258またはクロモマイシン
    A3染料である請求項11に記載の方法。
  13. 【請求項13】 上記試料は細胞の試料である請求項1〜12のいずれかに
    記載の方法。
  14. 【請求項14】 細胞計数を行うことにより試験を実施するものである請求
    項13に記載の方法。
  15. 【請求項15】 マルチパラメーターフローサイトメトリーを用いて細胞計
    数を行うものである請求項14に記載の方法。
  16. 【請求項16】 走査型共焦点顕微鏡検査を用いて細胞計数を行うものであ
    る請求項14に記載の方法。
  17. 【請求項17】 蛍光活性化細胞分類法を用いて細胞計数を行うものである
    請求項14に記載の方法。
  18. 【請求項18】 上記細胞計数を行う前に、細胞の試料を微細切断すること
    によって正常組織と腫瘍組織を分けるものである請求項14〜17のいずれかに
    記載の方法。
  19. 【請求項19】 上記細胞計数を行う前に、試料中の細胞内接着を破壊して
    単細胞の懸濁液を生成するものである請求項14〜18のいずれかに記載の方法
  20. 【請求項20】 癌治療用薬剤を選択する方法であって、 該方法は、p21を発現しないか、若しくはp21発現が上昇しない細胞、および/
    またはp21蛋白質濃度が実質的に検出不可能な、若しくは上昇しない細胞から取 出された試料中の (a)サイクリンD1の発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量を調べる工程、並
    びに (b)サイクリンD1が過剰に発現するとき、および/またはサイクリンD1蛋白質
    が高濃度で存在するときは、白金化剤以外の薬剤による治療を選択し、 (c)サイクリンD1が過剰に発現しないとき、および/またはサイクリンD1蛋白
    質が実質的に高濃度で存在しないときは、白金化剤を含む化学療法剤による治療
    を選択する工程 を包含する選択方法。
  21. 【請求項21】 上記化学療法剤を工程(b)に従って選択し、且つ、上記
    白金化剤以外の薬剤は電離放射線またはタキサンである請求項20に記載の方法
  22. 【請求項22】 上記化学療法剤を工程(c)に従って選択し、且つ、白金
    化剤を含む薬剤はCDDPを含む薬剤である請求項20に記載の方法。
  23. 【請求項23】 化学療法剤による細胞毒性作用に対する細胞の耐性を測定
    するキットであって、該キットは、 (i)p21の発現濃度またはp21蛋白質の量を調べる手段、および (ii)サイクリンD1の発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量を調べる手段 を包含するキット。
  24. 【請求項24】 上記のサイクリンD1蛋白質の量を調べる手段は、サイクリ
    ンD1 mRNAのプローブを含むものである請求項23に記載のキット。
  25. 【請求項25】 上記のサイクリンD1蛋白質の量を調べる手段は、サイクリ
    ンD1蛋白質に対する標識抗体を含むものである請求項23に記載のキット。
  26. 【請求項26】 上記のサイクリンD1蛋白質に対する抗体は、14841C(クロ
    ーン番号G-124-259.5, Pharmingen USA)である請求項25に記載のキット。
  27. 【請求項27】 少なくとも1つの抗体は蛍光標識で標識されている請求項 25または26に記載のキット。
  28. 【請求項28】 異数性細胞を標識する為に、更にDNA結合染料を含有する 請求項23〜27のいずれかに記載のキット。
  29. 【請求項29】 上記DNA結合染料は、Hoechst 33258またはクロモマイシン
    A3染料である請求項28に記載のキット。
  30. 【請求項30】 化学療法剤による細胞毒性作用に対する細胞の耐性を測定
    する為に、p21の発現濃度またはp21蛋白質の量を調べる手段を用いる方法。
  31. 【請求項31】 化学療法剤による細胞毒性作用に対する細胞の耐性を測定
    する為に、サイクリンD1の発現濃度またはサイクリンD1蛋白質の量を調べる手段
    を用いる方法。
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