JP2000178682A - 耐硫化物応力腐食割れ性に優れる油井用鋼 - Google Patents
耐硫化物応力腐食割れ性に優れる油井用鋼Info
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Abstract
油井用鋼とその安価な製造方法を提供する。 【解決手段】重量%で、C:0.2〜0.35%、Cr:0.2〜0.7
%、Mo:0.1〜0.5%、V:0.1〜0.3%を含む低合金鋼か
らなり、析出している炭化物の総量が2〜5重量%であ
り、そのうちMC型炭化物の割合が8〜40重量%の油
井用鋼で、この油井用鋼は上記の化学組成を有す鋼に、
A3変態点以上の温度からの焼入れと、650℃以上、AC1変
態点以下での焼戻しを施すだけで製造可能である。
Description
性に優れる低合金鋼に関し、より詳しくは、油井やガス
井用のケーシングやチュービングおよび掘削用のドリル
パイプの素材として用いて好適な高強度かつ高耐食性の
低合金鋼に関する。
化水素を含む原油や天然ガスの掘削、輸送、貯蔵などを
必要とする情勢になっている。特に、油井の深井戸化、
輸送効率の向上、さらには低コスト化のために、この分
野で用いられる材料については、これまで以上に高強度
化が要求されている。
80〜95ksi級の鋼管が広く用いられていたが、最
近では、110ksi級が使用されるようになり、12
5級以上の要求も高まりつつある。
いう)に優れる従来鋼としては、(a) 80〜90%以上
のマルテンサイト組織鋼、(b) 粗大な炭化物を含まない
鋼、(c) 非金属介在物の少ない清浄鋼、(d) 高温焼戻し
鋼、(e) 細粒組織鋼、(f) 高降伏比鋼、(g) 低Mn−低
P−低S鋼、(h) 不溶性窒化物を多く含む鋼、(i) Zr
添加鋼がある。
を得るための方法には種々の方法があり、その代表的な
方法としては、急速加熱法(特開昭54−117311
号公報、同61−9519号公報)や短時間焼戻し法
(特開昭58−25420号公報)などがある。
大な炭化物を含まない鋼は、「鉄と鋼、76(1990)、p.13
64」にも示されるように、粗大な炭化物がSSCの起点
となる点を考慮し、粗大な炭化物を含まない鋼として開
発された鋼である。
は、粗大な炭化物が残存したり、析出成長しないよう
に、種々の成分設計を施したCrを含む低合金鋼を用
い、焼入れ後主として短時間焼戻し処理を施すことによ
り製造可能とされている。
は、一般に、焼入れによってCの固溶したマルテンサイ
ト組織とし、その後焼戻し処理を施して微細な炭化物を
析出させる。このため、素材鋼には、通常、焼入性を高
めるためにCrを添加した低合金鋼が用いられる。
が旧オーステナイト粒界に膜状に析出するので、これを
防ぐために適量のMoを添加した低合金鋼を用い、高温
焼戻しすることも行われている。
長いと成長して粗大化するので、より短時間に焼戻しす
るために誘導加熱手段を用いることも行われている。
化しやすい傾向にあるので、炭化物の分散を図るため
に、種々の細粒化手段も採られている。
いるCrとMoを含む低合金鋼の炭化物は、M3C 型、
M7C3型およびM23C6 型として析出する。そのうちの
M23C6 型は、粗大化しやすい炭化物である。熱力学的
には、M3C型、M7C3型、M23C6型の順に安定である
ので、CrとMoを含む焼入れ焼戻し鋼では、粗大なM
23C6 型の炭化物がどうしても析出する。また、Mo量
がきわめて高い場合には、M2C 型も析出する。このM
2C 型の炭化物は、針状であり、応力集中係数が高いの
で、耐SSC性を低下させる。
り、Fe、Cr、Mo、Vなどの金属元素を意味し、M
Cを例示すれば、Fe3C 、Cr23C6 などである。
制方法としては、短時間焼戻し処理が最も効果的であ
り、このため、従来はこの短時間焼戻し処理法が主とし
て用いられてきたことは前述した通りである。しかし、
この短時間焼戻し処理法は、誘導加熱設備の設置が必須
であり、過大な設備投資を必要とする。
熱処理を2回以上施したり、焼入れ温度を低くしたりす
る必要がある。その結果、熱処理コストが高くなるだけ
でなく、合金元素の固溶量が少なくなるために、合金元
素の添加量を増やす必要があって材料コストが上昇す
る。
るので、マルテンサイト組織を確保するためには高速冷
却が必須になり、特別な冷却装置の設置が必要となって
過大な設備投資を必要とする。
粗大な炭化物を含まない、耐SSC性に優れた油井用
鋼、具体的には降伏応力(YS)が110ksi(75
8MPa)以上で、かつ規格最小降伏応力(SMYS)
の85%の応力付加時にNACE TM0177浴中で
SSCを生じない油井用鋼と、この油井用鋼を、合金元
素の増量は勿論、誘導加熱設備や特別な冷却装置を用い
ることなく、簡単な熱処理を施すだけで得ることが可能
な製造方法を提供することにある。
(1)の耐硫化物応力腐食割れ性に優れる油井用鋼と、
下記(2)のその製造方法にある。
%、Cr:0.2〜0.7%、Mo:0.1〜0.5
%、V:0.1〜0.3%を含む低合金鋼からなり、析
出している炭化物の総量が2〜5重量%であり、そのう
ちMC型炭化物の割合が8〜40重量%である耐硫化物
応力腐食割れ性に優れる油井用鋼。
%、Cr:0.2〜0.7%、Mo:0.1〜0.5
%、V:0.1〜0.3%を含む低合金鋼を、A3 変態
点以上で焼入れした後、650℃以上、AC1変態点以下
で焼戻す上記(1)に記載の耐硫化物応力腐食割れ性に
優れる油井用鋼の製造方法。
成させた。すなわち、本発明者らは、炭化物には、前述
したM3C 型、M7C3型、M23C6 型およびM2C 型の
他にMC型があり、このMC型炭化物は、これらの炭化
物のうち最も微細で粗大化しにくいことである。
S)の85%の付加応力時におけるNACE TM01
77浴中での耐SSC性は確保できないが、例えば、文
献「Metallurgical Transactions A, 16A,May 1985, p.
935”Sulfide Stress Crackingof High Stregth Moifie
d Cr-Mo Steels”」にも示されるように、耐SSC性の
改善には0.1%程度のV添加が有効なこと、に注目し
た。
性に及ぼす影響を詳細に調査した結果、次のことを知見
した。
って耐SSC性が低下する。これは、次の理由によるも
のと考えられる。
炭化物に比べ、単位体積当たりではマトリックスとの界
面積が広くなり、水素のトラップ量が増加して耐SSC
性が低下するものと考えられる。実際、MC型の炭化物
量が上記の範囲を外れる耐SSC性の劣る鋼の吸蔵水素
濃度は、MC型の炭化物量が上記の範囲内の鋼よりも高
いことが確認された。
場合に耐SSC性が低下する理由も上記と同様と考えら
る。
制限した上で、総炭化物中に占めるMC型炭化物の割合
を8〜40重量%にすれば、耐SSC性が飛躍的に向上
し、規格最小降伏応力(SMYS)の85%の付加応力
時におけるNACE TM0177浴中での耐SSC性
が確保される。
0.2〜0.35%、Cr:0.2〜0.7%、Mo:
0.1〜0.5%およびV:0.1〜0.3%を必須成
分として含む化学組成を有する鋼を用いる必要がある。
これは、次の理由による。
物は、それだけ吸蔵水素濃度の増加を招いて耐SSC性
を低下させるが、CとCrの含有量がそれぞれ上記の上
限値を超えると、炭化物の総量が上記の上限値の5%を
超え、Vの含有量が上記の上限値を超えると、MC型炭
化物の割合が上記の上限値の40%を超えるようにな
る。
るが、CrやMoも含まれ、特に、MoはVとともに共
存しやすく、Mo含有量が上記の上限値0.5%を超え
ると、Moの共存量が極端に多いMC型炭化物となり、
このMC型炭化物が他の炭化物に比べれば微細ではある
が粗大であることが判明し、たとえその量が上記の範囲
内の8〜40%であっても、水素をトラップする界面積
が増加して吸蔵水素濃度の増加を招き、要求される耐S
SC性が確保できなるためである。
戻軟化抵抗を高める目的で高Mo化が進めれてきたが、
V添加鋼においては逆で、低Mo化した方が耐SSC性
が向上するという、全く予想外の結果が得られることを
意味している。
の割合は、上記の化学組成を有する鋼に、A3 変態点以
上で焼入れし、次いで650℃以上で焼戻すという、極
めて単純な焼入れ焼戻し熱処理を施せば確保されること
も判明した。
造方法について詳細に説明する。なお、以下において、
「%」は「重量%」を意味する。
し鋼においては、析出強化に欠かすことができないが、
その総量が2%未満であると、YSが110ksi以上
の強度を確保することが困難になる。逆に、その総量が
5%を超えると、水素をトラップする界面積が増加し、
吸蔵水素濃度の増大を招いて耐SSC性が低下する。こ
のため、炭化物の総量は、2〜5%と定めた。望ましい
範囲は、2.5〜4%である。
合:MC型炭化物は、炭化物の粗大化を防ぎ、耐SSC
性の改善に効果がある。しかし、総炭化物量中に占める
MC型炭化物の割合が8%未満では、その効果に乏し
い。逆に、その割合が40%を超えると、微細なだけに
水素をトラップする界面積が増加し、吸蔵水素濃度の増
大を招いて耐SSC性が低下する。このため、総炭化物
量中に占めるMC型炭化物の割合は、8〜40%と定め
た。望ましい範囲は、10〜35%である。
占めるMC型炭化物の割合は、それぞれ次に述べる方法
によって求められる値である。
量W1 の試験片を、電解液(10%アセチルアセトン−
1%塩化テトラメチルアンモニウム−残部メタノール)
中に浸漬して電流密度20mA/cm2 の条件で電気分
解し、濾過径0.2μmのフィルターで濾過して得られ
た抽出残さ(炭化物)の重量W2 を求め、この重量W2
を試験片の重量W1 で除して求める。
残さ(炭化物)を粉砕した試料を対象にX線回折を行
い、M3C 型炭化物の回折線強度に対するMC型炭化物
の回折線強度の比から全炭化物中のMC型炭化物の重量
割合を求める。その際、透過型電子顕微鏡で炭化物を直
接観察するとともに、EDXでMC型とM3C 型の主た
る構成元素の重量を求めてこれを検量線(標準試料)と
する。
な元素である。しかし、その含有量が0.2%未満で
は、焼入性が不足して所望の強度(YS≧110ks
i)が得られない。逆に、その含有量が0.35%を超
えると、炭化物の総量増加に伴ってトラップされる水素
が増加する結果、耐SSC性が低下する。このため、C
含有量は、0.2〜0.35%とした。望ましい範囲
は、0.2〜0.3%である。
させるとともに耐SSC性を向上させる元素である。し
かし、その含有量が0.2%未満では、焼入性が不足し
て所望の強度(YS≧110ksi)が得られない。逆
に、その含有量が0.7%を超えると、炭化物の総量が
増加し、これに伴ってトラップされる水素が増加する上
に、M23C6 型の粗大な炭化物が析出して、耐SSC性
が低下する。また、硫化水素を含む環境においては、腐
食速度の増加とそれに伴う吸蔵水素濃度の増加を招く。
このため、Cr含有量は、0.2〜0.7%とした。望
ましい範囲は、0.3〜0.6%である。
上させて高強度を得るとともに、焼戻軟化抵抗を高めて
耐SSC性を向上させる元素である。しかし、その含有
量が0.1%未満であると、上記の効果が得られない。
逆に、その含有量が0.5%を超えると、MC型炭化物
の粗大化を招いて水素のトラップ量を増加させるだけで
なく、M23C6 型の粗大な炭化物が析出して、耐SSC
性が低下する。このため、Mo含有量は、0.1〜0.
5%とした。望ましい範囲は、0.2〜0.4%であ
る。
素である。Vは、焼戻し時に微細なSSCの起点となり
にくいMC型炭化物として優先的に析出する。その結
果、Cを固定するので、SSCの起点となりやすいM23
C6 型炭化物の析出を防止する。しかし、その含有量が
0.1%未満では、上記の効果が得られない。一方、そ
の含有量が0.3%を超えると、MC型炭化物の量が多
くなりすぎて、トラップされる水素が増加して、耐SS
C性が低下する。このため、Vの含有量は、0.1〜
0.3%とした。望ましい範囲は、0.15〜0.25
%である。
分を必須成分と含む低合金鋼であればよく、他の成分に
ついては特に制限されない。しかし、工業的に製造する
うえでは、下記の成分を含むものであることが好まし
い。
述するAlやMnなどの他の脱酸剤を用いない場合に
は、0.05%以上含有させるのがよい。また、Siに
は、脱酸作用の他に焼戻軟化抵抗を高めて耐SSC性を
向上させる作用もあり、その効果は0.1%以上で顕著
になる。しかし、0.5%を超えて含有させると、靭性
が低下する。このため、添加する場合のSi含有量は、
0.5%以下とするのよい。好ましい上限は、0.3%
である。
の脱酸剤を用いない場合、熱間加工性を向上させる場合
などには、少なくとも0.05%以上含有させるのがよ
い。しかし、1.0%を超えて含有させると靭性が低下
する。このため、添加する場合のMn含有量は、1.0
%以下とするのがよい。好ましい上限は、0.5%であ
る。
の脱酸剤を用いない場合には、少なくとも0.005%
以上含有させるのがよい。しかし、0.1%を超えて含
有させると介在物が多くなって靱性が低下する。また、
油井管には、その管端に接続用のねじ切り加工が施され
ることが多いが、Alが多いとねじ切り部に介在物起因
の欠陥が発生しやすくなる。このため、添加する場合の
Al含有量は、0.1%以下とするのがよい。好ましい
上限は、0.05%である。
sol.Al(酸可溶Al)のことである。
加すれば、結晶粒を細粒化し、結晶粒界における粗大な
炭化物の析出を抑制する作用があり、その効果は0.0
05%以上の含有量で得られる。しかし、その効果は
0.1%で飽和し、これ以上含有させると靱性が低下す
る。このため、添加する場合のNb含有量は、0.1%
以下とするのがよい。好ましい上限は、0.05%であ
る。
加すれば、鋼中に不純物として存在するNをTiNとし
て固定するので、焼入性向上の目的で添加される場合の
後述するBがBNになるのを防ぎ、焼入性の向上に有効
な固溶状態でBを存在させる作用がある。また、NをT
iNとして固定する以上のTiには、焼入れ時は固溶状
態で存在し、焼戻し時に炭化物などの化合物として微細
に析出して焼戻軟化抵抗を高める作用があり、これらの
効果は0.005%以上の含有量で顕著になる。しか
し、0.05%を超えて含有させると、靱性が低下す
る。このため、添加する場合のTi含有量は、0.05
%以下とするのがよい。好ましい上限は、0.03%で
ある。
たように、添加すれば、焼入性を向上さる作用があり、
特に厚肉材の焼入性を改善するのに有効であり、0.0
001%以上の含有量でその効果が顕著になる。しか
し、0.005%を超えて含有させると、靱性が低下す
る。このため、添加する場合のB含有量は、0.005
%以下とするのがよい。好ましい上限は、0.002%
である。
加すれば、上記のTiと同様に、鋼中に不純物として存
在するNを窒化物として固定し、Bの焼入性向上効果を
十分に発揮させる作用があり、0.01%以上の含有量
でその効果が顕著になる。しかし、0.1%を超えて含
有させると、介在物が増加して靱性が低下する。このた
め、添加する場合のZr含有量は、0.1%以下とする
のがよい。好ましい上限は、0.03%である。
れば、前述のMoと同様に、焼入性を高めて強度の向上
に寄与するとともに、焼戻軟化抵抗を高めて耐SSC性
を向上させる作用があり、これらの効果は0.1%以上
の含有量で顕著になる。しかし、その効果は1.0%で
飽和し、これ以上含有させるとコストが上昇するだけで
ある。このため、添加する場合のW含有量は、1.0%
以下とするのがよい。好ましい上限は、0.5%であ
る。
加すれば、鋼中に不純物として存在するSと反応して硫
化物を形成して介在物の形状を改善し、耐SSC性を向
上させる作用があり、0.0001%以上の含有量でそ
の効果が顕著になる。しかし、0.01%を超えて含有
させると、靱性および耐SSC性が低下するだけでな
く、鋼表面に欠陥が多発しやすくなる。このため、添加
する場合のCa含有量は、0.01%以下とするのがよ
い。好ましい上限は、0.003%である。
量によってその度合いが異なり、脱酸が十分でない場合
には、かえって耐SSC性が低下するので、その含有量
はS含有量と脱酸の程度に応じて調整することが肝要で
ある。
その含有量が0.025%を超えると、結晶粒界に偏析
して耐SSC性を低下させる。このため、その含有量
は、0.025%以下とするのがよい。なお、Pの含有
量は、低ければ低いほど好ましいが、過度の低減はコス
トの上昇を招く。Pは、0.01%程度含んでも実用上
差し支えない。
避的に存在するが、その含有量が0.01%を超える
と、結晶粒界に偏析するとともに、硫化物系の介在物を
生成して耐SSC性を低下させる。このため、その含有
量は、0.01%以下とするのがよい。なお、Sの含有
量は、上記のPと同様に、低ければ低いほど好ましい
が、過度の低減はコストの上昇を招く。Sは、0.00
2%程度含んでも実用上差し支えない。
不可避的に存在するが、その含有量が0.01%を超え
ると、靱性および焼入性が低下する。このため、その含
有量は、0.01以下とするのがよい。なお、Nの含有
量は低ければ低いほど好ましい。 O(酸素):Oは、上記のP、S、Nと同様に、鋼中に
不可避的に存在するが、その含有量が0.01%を超え
ると、靱性が低下する。このため、その含有量は0.0
1%以下とするのがよい。なお、Oの含有量も低ければ
低いほど好ましい。
用鋼は、上記に記載した化学組成を有する低合金鋼を常
法にしたがって溶製し、得られた素材鋼に所定の熱間圧
延加工(例えば、マンネスマン−マンドレルミル方式に
よる熱間継目製管加工)を施して所定の製品形状(例え
ば、継目無鋼管)に仕上げた後、焼入れ焼戻し処理を施
すことで製造することができる。
入れ焼戻し処理を施すのは、次の理由による。すなわ
ち、本発明で規定する化学組成を有する鋼は、一旦、焼
入れしてマルテンサイト組織とし、その上で焼戻さない
と、MC型炭化物が十分に析出せず、粗大な炭化物が残
存して所望の耐SSC性が確保できないからである。
上限温度は特に制限されない。しかし、焼入れ温度が9
50℃を超えると結晶粒度が粗大になりすぎて靭性が著
しく低下する。このため、その上限温度は950℃とす
るのが好ましい。
で施す必要がある。これは、焼戻し温度が650℃未満
であると、MC型炭化物の析出が十分でなく、粒界にフ
ィルム状のセメンタイトが残存することがあり、耐SS
C性が低下するためである。また、焼戻し温度がAC1変
態点を超えると、オーステナイト相が析出し、所望の強
度が確保できなくなるためである。
熱間圧延後、950℃以上の温度で直接焼入れ処理を施
してもよい。しかし、この場合には、直接焼入後に長時
間放置すると置き割れが発生する場合があるので、これ
を防ぐために600℃以下の温度で焼きなまし処理を施
すのが好ましい。
金鋼を、150kg真空溶解炉を用いて溶製した。その
際、鋼No. A〜D、E〜H、IとJ、KとL、MとNお
よびOとPは、同じ溶湯を分湯した後、Vをはじめとす
る各成分の含有量を調整することにより、表1に示す化
学組成を有する鋼とした。
0mm、幅80mm、長さ250mmの板材に成形した
後、表2に示す種々の条件で焼入れ焼戻し処理を施し、
いずれの板厚材もYSが110ksi以上になるように
調整した。なお、一部の板材には、比較のために、10
50℃の焼きならし(ノルマ)処理と、上記の直接焼入
れ処理と焼きなまし処理を施した後に本発明で規定する
条件の焼入れ焼戻し処理を施し、YSが110ksi以
上になるように調整した。
物の総量と、総炭化物量中に占めるMC型炭化物の割合
を、それぞれ前述した方法によって調べた。
心部から、長手方向が圧延方向(L方向)で、平行部の
寸法が、外径6.35m、長さ25.4mmのNACE
TM0177 Method A に規定される丸棒
引張試験片を採取し、SSC試験に供した。
77 Method Aに規定される方法にしたがって
行った。すなわち、1気圧の硫化水素が飽和した25℃
の0.5%酢酸+5%食塩水溶液中での定荷重試験であ
り、負荷応力は各板材のYSの85%、試験時間は72
0時間とした。
発生しなかったものを耐SSC性が良好「○」、発生し
たものを耐SSC性が不芳「×」として評価し、その結
果を、炭化物の総量と、総炭化物量中に占めるMC型炭
化物の割合と併せて、表2に示した。
例の試番2、3、6,7、9、11、14、16および
21〜24は、素材鋼の化学組成、炭化物の総量および
総炭化物量中に占めるMC型炭化物の割合がいずれも本
発明の範囲内であり、耐SSC性が良好であった。
鋼のV含有量が少なく、MC型炭化物の割合が本発明で
規定する範囲の下限値を外れるために、耐SSC性が不
芳であった。また、試番4と8は、逆にV含有量が多す
ぎ、MC型炭化物の割合が本発明で規定する範囲の上限
値を外れるために、耐SSC性が不芳であった。
物の総量が本発明で規定する範囲の上限値を外れるため
に、耐SSC性が不芳であった。試番12は、Crが高
く、MC型炭化物の割合が本発明で規定する範囲の下限
値を外れるために、耐SSC性が不芳であった。試番1
5は、Moが高く、MC型炭化物の割合が本発明で規定
する範囲の下限値を外れるために、耐SSC性が不芳で
あった。
れ焼戻しでなく、ノルマであり、MC型炭化物の割合が
本発明で規定する範囲の下限値を外れるために、耐SS
C性が不芳であった。また更に、試番19と20は、焼
入れ温度が低く、焼入れ時におけるMC型炭化物の固溶
が不十分で、焼戻しによりMC型炭化物が多く析出しす
ぎたために、耐SSC性が不芳であった。
性に優れた油井用鋼を提供することができる。また、こ
の油井用鋼は、所定の化学組成を有する鋼に焼入れ焼戻
し処理を施すだけで得られるので、安価に製造すること
ができる。
Claims (2)
- 【請求項1】重量%で、C:0.2〜0.35%、C
r:0.2〜0.7%、Mo:0.1〜0.5%、V:
0.1〜0.3%を含む低合金鋼からなり、析出してい
る炭化物の総量が2〜5重量%であり、そのうちMC型
炭化物の割合が8〜40重量%であることを特徴とする
耐硫化物応力腐食割れ性に優れる油井用鋼。 - 【請求項2】重量%で、C:0.2〜0.35%、C
r:0.2〜0.7%、Mo:0.1〜0.5%、V:
0.1〜0.3%を含む低合金鋼を、A3 変態点以上で
焼入れした後、650℃以上、AC1変態点以下で焼戻す
ことを特徴とする請求項1に記載の耐硫化物応力腐食割
れ性に優れる油井用鋼の製造方法。
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