本発明の発明者は、軸受けや送りネジ機構といった駆動機構に劣化が生じていたり、何かに衝突したりした場合、動作中の振動や音といった物理的現象を検出した波形にはインパルス波形が含まれることに着目して、駆動機構の動作中に発する波形の中からこのインパルス波形を抽出する装置及び方法を考案した。理想的なインパルス波形は、限りなく短い時間だけ発生し、且つ、広範囲な周波数帯で一定の振幅を含む波形となることが知られている。発明者は、不具合が発生している機械装置の動作中に発生する物理的現象の波形の中に、比較的短時間だけ発生し、且つ、広範囲な周波数帯で一定の振幅を含むインパルス波形が存在することを発見した。さらに、不具合を有する搬送ロボットが動作している際に、このインパルス波形を含む波形は、正常な搬送ロボットの動作時の波形に比べどの周波数帯においても振幅が大きくなることを発見した。
そこで発明者は、機械装置の一つである搬送ロボットの動作中に検出した物理的現象の波形を解析してインパルス成分の有無を検出し、インパルス成分が発生していると認められた場合には、所定の動作時間内の波形をスペクトログラム化することでインパルス成分の発生頻度を検出して、搬送ロボットの各部品の劣化の度合を評価する装置、及び方法を考案した。
以下に、本発明の実施の形態について図を参照して詳細に説明する。まず、本発明が適用される例として、円盤状の基板である半導体ウエハWを所定の場所に搬送する搬送ロボット1と、搬送ロボット1を備える半導体製造システム2について説明する。図1は半導体製造システム2の概略を示す断面図であり、図2は搬送ロボット1の概略を示す断面図、図3は半導体製造システム2を構成する装置であるEFEM4を示す斜視図である。半導体製造システム2は、前の工程からFOUP(Front-Opening Unified Pod)3と呼ばれる密閉容器の内部に収納され運搬されてきた半導体ウエハWを、大気雰囲気と真空雰囲気との中継室であるロードロック室に搬送するEFEM(Equipment Front End Module)4と、ロードロック室に搬送された半導体ウエハWを受け取って、所定の雰囲気下でその表面に各種処理を施す処理装置5とから構成されている。
EFEM4は、FOUP3を載置してその蓋を開閉するロードポート6と、FOUP3の内部に収納された半導体ウエハWを保持して所定の経路に沿って処理装置5へと搬送する搬送ロボット1とを備えている。
搬送ロボット1が配置されるEFEM4の内部空間は、四方をフレーム18とカバー18´とから成る仕切り部材で囲まれていて、天井部分にはFFU(Fun Filter Unit)23が搭載されている。FFU23は、ファンの回転によって導入してきた空気をフィルタによって清浄なクリーンエアとして濾過してEFEM4内部に供給するもので、このFFU23から供給されるクリーンエアのダウンフローよって、搬送ロボット1の動作により発生した塵埃はEFEM4の外部へと排出されることとなり、EFEM4内部は常に清浄な雰囲気に維持されている。
本実施形態で使用される搬送ロボット1は、所謂ダブルアームのスカラ型ロボットであり、この搬送ロボット1の基台9は、搬送ロボット1を水平面内で直線方向に移動させる水平走行機構7の移動子にブラケット7´を介して固定されている。水平走行機構7は、搬送ロボット1を水平面内の所定の方向に案内する不図示の一対のガイドレールと、このガイドレールに対して平行に配設された同じく不図示の送りネジ機構と、この送りネジ機構のネジ軸を回転駆動するための走行駆動モータ8とで構成されている。なお、走行駆動モータ8や送りねじ機構には駆動用の軸部材を円滑に回転させるための軸受けが備えられており、また、ガイドレールにはレール上を摺動移動するスライドブロックの摺動抵抗を低減するためのボールリテーナが備えられている。これらの軸受けやボールリテーナといった摩擦低減部材は、長期間にわたる動作により摩耗や、内部に塗布されたグリスの劣化が進行して、動作中の振動発生の原因となる。
また、本実施形態で使用される搬送ロボット1は、基台9と、基台9に対して昇降及び回転移動可能な構成の胴体10と、胴体10とともに基台9に対して昇降及び回転移動可能な構成の一対のアーム体11、12とを備えている。胴体10は、基台9に取り付けられた昇降機構24が備えるガイドレール24aの移動子にブラケット26を介して支持され、基台9に対して昇降移動する。昇降機構24は、搬送ロボット1を鉛直方向に案内するガイドレール24aと、このガイドレールに対して平行に配設された不図示の送りネジ機構と、この送りネジ機構のネジ軸を回転駆動するための昇降駆動モータ25とで構成されている。さらに胴体10は、ブラケット26に対して軸受け27を介して回転可能に取り付けられている。また胴体10の下部には、ブラケット26に固定され、基台9に対して胴体10を回転移動させる回転駆動モータ13と減速機14が備えられていて、回転駆動モータ13の作動により胴体10が鉛直方向に延在する中心軸C1を回転中心として水平面内で回転動作する。ここで、昇降機構24が備える昇降駆動モータ25や送りねじ機構、回転駆動モータ13には、駆動用の軸部材を円滑に回転させるための不図示の軸受けが備えられており、また、ガイドレール24aにはレール上を摺動移動するスライドブロックの摺動抵抗を低減するためのボールリテーナが備えられている。これらの軸受け27やボールリテーナといった摩擦低減部材は、長期間にわたる動作により摩耗や、内部に塗布されたグリスの劣化が進行して、動作中の振動発生の原因となる。
胴体10の上部には一対のアーム体11、12が左右対称に備えられていて、図面視して右側に配置されるアーム体11は、下アーム11aと上アーム11bと上フィンガ21とで構成されている。下アーム11aの一端は、胴体10に軸受けを介して回転可能に取り付けられていて、下アーム11aは、鉛直方向に延在する中心軸C2を回転中心として、胴体10に対して水平面内で回転可能な構成となっている。下アーム11aは胴体10内に配置されるアーム駆動モータ15によって回転駆動される。より詳しくは、アーム駆動モータ15は減速機16に連結されており、この減速機16から突出する出力軸17が下アーム11aの一端に固定される構造となっていて、アーム駆動モータ15の出力軸の回転は、この減速機16によって、所定の回転数に減速されて下アーム11aに伝達される。
また、下アーム11aの他端にはプーリ19bが配置されていて、このプーリ19bと上アーム11bの一端とが一体的に固定されている。プーリ19bは下アーム11aに軸受けを介して回転可能に取り付けられていて、これにより、プーリ19bと上アーム11bとは鉛直方向に延在する中心軸C3を回転中心として、下アーム11aに対して水平面内で一体的に回転することが可能になっている。また、下アーム11aの一端には胴体10と固定されたプーリ19aが配置されていて、このプーリ19aと下アーム11aの他端に配置されるプーリ19bとの間にはタイミングベルト20aが架け渡されている。
また、上アーム11bの一端の内部にはプーリ19cが配置されていて、このプーリ19cと上アームの他端に配置されるプーリ19dとの間にはタイミングベルト20bが架け渡されている。プーリ19cは下アーム11aの一端に立設された円柱状のシャフトの先端部に固定されている。さらに、上アーム11bの他端に配置されるプーリ19dは、上アーム11bの一端に立設する円柱状のシャフトに軸受けを介して回転可能に取り付けられていて、また、プーリ19dの上面には、半導体ウエハWを上面に指示する上フィンガ21を固定するための支持部21aが固定されている。なお、プーリ19aとプーリ19b、及びプーリ19dとプーリ19cは、直径比がそれぞれ2:1となるように構成されている。これにより、アーム駆動モータ15の回転が減速機16を介して下アーム11aに伝達されると、下アーム11aが鉛直方向に延在する中心軸C2を回転中心として回転駆動される。そして、この下アーム11aの回転に連動して、上アーム11bが中心軸C3を回転中心として下アーム11aの回転角度の2倍の角度であり、且つ、下アーム11aの回転方向とは逆の方向に回転することとなる。
上記構成により、アーム駆動モータ15の作動により上下アーム11a、11bが各中心軸C2、C3を回転中心にしてそれぞれ反対方向に回転して、アーム体11は、上フィンガ21を所定の方向に向けた状態で伸縮動作することが可能になり、上フィンガ21上に支持する半導体ウエハWを所定の位置まで搬送することが出来る。なお、搬送ロボット1が備えるもう一つのアーム体12の構成は、上下フィンガ21、22の構成以外はアーム体11のものと同様のものであり、アーム体11を構成する上下アーム11a、11bと、アーム体12を構成する上下アーム12a、12bとは左右対称の構成であり、且つ、同様の動作原理で動作するため、ここではアーム体12についての説明は省略する。
上下フィンガ21、22は、アーム体11、12の伸縮動作により図2の紙面の手前側と裏面側にそれぞれ独立して進退移動する。ここで、上フィンガ21と下フィンガ22とは、互いの衝突をさけるために、上下方向に所定の間隔を空けて配置される。また、上フィンガ21の支持部21aと下フィンガ22の支持部22aとは半導体ウエハWを真空の吸着力によって支持する部材であり、上下フィンガ21、22は、各支持部21a、22aが上面視して同一の位置に配置されるように構成されている。さらに、上フィンガ21を構成する上リスト部21bは、進退移動する際に下フィンガ22の支持部22aが支持する半導体ウエハWとの衝突を避けるために、略U字型の形状をしている。また、下フィンガ22を構成する下リスト部22bは、支持部22aの下方に配置され、且つ、上フィンガ21に干渉しないように配置されている。
上述したように、各プーリ19a、19b、19c、19dは、それぞれ上下アーム11a、11b、もしくは各シャフトに対して回転可能な構成となっている。ここで、各プーリ19a、19b、19c、19dを回転可能とするために、各プーリと上下アーム11a、11b、もしくは各シャフトとの間には、軸受けが配置されている。また、搬送ロボット1に配置される各軸受けは、上下アーム11a、11bに起因するラジアル荷重やスラスト荷重、軸のモーメント荷重を支持する強度を有するクロスローラ軸受けやラジアル軸受けが使用されている。これら軸受けも長期の使用により劣化したり破損したりすることで、交換が必要になる。さらに、各モータ8、13、15、15´や減速機14、16、16´の内部にも軸受けが使用されていて、これらの劣化や破損による交換も必要となる。こういった軸受けの劣化には、破損する前に振動や異音といった兆候が表れることが多い。さらに、長期間の使用により、各部品を固定しているネジの緩みや部品の劣化により振動や異音が発生する場合もある。本発明の波形解析装置30であればこういった振動や異音といった物理的現象を解析して劣化した箇所を修理することで、搬送ロボット1の故障によるトラブルを予防することが出来る。
次に、本発明の波形解析方法と波形解析装置30について説明する。図5は本発明の一実施形態である波形解析装置30の構成を示すブロック図である。波形解析装置30は、不図示の電源供給部と、センサ28から送信される信号を増幅する信号増幅部29と、この増幅された信号を解析する信号解析部31と、インパルス抽出部32と、データ編集部33とで構成され、さらに記憶部34、表示部35、入力部36と接続可能な構成となっている。本発明で使用されるセンサ28は、振動や音、電磁波といった検査対象が動作することにより発生する物理的現象を検出して電気信号として送信できるものであればよい。なお、本実施形態の波形解析装置30と接続されている振動センサ28、28´は、被検出物に固定され、その被検出物の動作により発生する加速度を検出する加速度計を備えている。また、振動センサ28は水平走行機構7に固定され、振動センサ28´は搬送ロボット1の上リスト部21bに固定されている。図4を参照。振動センサ28、28´は搬送ロボット1と水平走行機構7の動作に伴って発生する加速度を検出するもので、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸方向のうちの所定の2つの軸についての加速度を検出する。なお、本実施形態の振動センサ28、28´は、X方向とZ方向の加速度を検出するように設置されている。
信号増幅部29は、振動センサ28、28´から送信される信号を増幅して信号解析部31に送信する。信号解析部31は、信号増幅部29から送信された信号を受信して、その信号をデジタル信号に変換して、さらに、フィルタ回路によって信号のノイズ成分を除去した後、横軸を時間、縦軸を加速度とするグラフにして、表示部35に送信する。図7、図8を参照。さらに、ノイズ成分を除去した信号を逐次高速フーリエ変換して、周波数スペクトルデータを生成し、生成された周波数スペクトルデータは表示部35とインパルス抽出部32に送信される。図9、図10を参照。また、これらのデータは所定のタイミングで記憶部34へも送信されて保存される。なお、本実施形態では、波形解析装置30の内部に信号増幅部29やA/Dコンバータを備えるように構成されているが、これに限定されることはなく、振動センサ28、28´の内部に信号増幅部29やA/Dコンバータを備えるように構成してもよい。振動センサ28、28´に信号増幅部29やA/Dコンバータを備えることにより、波形解析装置30の構成を簡略化することが可能になる。また、振動センサ28から送信される信号が増幅処理されたものとなり、振動センサ28から波形解析装置30まで信号を伝達するケーブル内に侵入するノイズによる悪影響を低く抑えることが出来る。
インパルス抽出部32は、信号解析部31で生成したスペクトルデータから、故障や衝突に起因するインパルス成分の周波数データを絶対値に変換した後、そのインパルス成分の周波数帯における総量を算出する。データ編集部33は、インパルス抽出部32によって算出されたインパルス成分の総和を、周波数を横軸に、インパルス成分の発生時間を縦軸にしたスペクトログラムに編集して、表示部35に表示する。図9、図10を参照。本実施形態のデータ編集部33によって編集されたスペクトログラムは、インパルス成分の強度が画面の明度によって表現されていて、明度が高い部分ほどインパルス成分の強度が高く、明度が低い部分ほどインパルス成分の強度が低いことを表している。なお、インパルス成分の強度を画面の明度で表現する以外にも、例えば発生密度に対応して色彩の彩度を変えて表現するように構成してもよい。
記憶部34は、センサから送信されたデータや、信号解析部31やインパルス抽出部32が算出したデータや、データ編集部33が生成したスペクトログラムを記憶する。表示部35は、信号解析部31が生成するスペクトルデータやデータ編集部33が生成するスペクトログラムを表示するモニターであり、作業者はこの表示部35に表示される波形を見てスペクトログラムを生成する範囲を指定したり、生成されたスペクトログラムを確認したりする。なお、本実施形態の表示部35では、スペクトログラムにおけるインパルス成分の強度は画面の明度によって表現されるように構成されていて、インパルス成分の強度が画面上のドットの明るさによって表示される。
入力部36は、キーボードやマウス、トラックボールといった入力手段であって、作業者が波形解析装置30に指令を送信するために使用される。なお、記憶部34や表示部35、入力部36は波形解析装置30の本体に備えるようにしても良いし、本体と分離して備えるようにしても良い。また、インパルス抽出部32で算出されるインパルスのデータから、異常が発生しているか否かの判定を行う判定部39を備えても良い。判定部39は、記憶部34に記憶された閾値を基準にして、編集したデータの中でインパルス成分がしきい値を超えて発生した場合には、表示部35に警告を表示して作業者に修理作業を促す。なお、しきい値は、正常な状態の機械装置が発する物理的現象に含まれるインパルス成分の強度と、異常が発生している機械装置が発するインパルス成分の強度とを比較して決定されるのが望ましい。
次に、本発明の波形解析装置30が行う信号の処理手順について説明する。図6は本発明の波形解析装置30が行う波形解析処理の流れを示す図である。ここで、波形解析装置30は搬送ロボット1が半導体ウエハWをFOUP3から中継室であるロードロック室へと搬送する際の、搬送ロボット1の動作により発生する振動を解析する。なお、搬送ロボット1の各駆動部の動作スピードは、搬送ロボット1が行う通常の搬送動作のスピードであり、振動検出のために特別なスピード設定をする必要は無い。
まず、作業者が振動センサ28、28´を所定の場所に設置する。次に、半導体製造システム2を操作して、搬送ロボット1に所望の搬送動作を行う指令を送信する。振動センサ28、28´は、搬送ロボット1が搬送動作を行っている際の各駆動機構から発生した振動の検出を開始する(ステップS101)。前述したように、本実施形態の波形解析装置30と接続される振動センサ28、28´は、それぞれ水平走行機構7と搬送ロボット1の上リスト部21bに固定されている。図4を参照。
振動センサ28、28´によって検出された振動は電気信号に変換され、変換された電気信号は信号増幅部29によって増幅された後、信号解析部31へと送信される。そして、電気信号は信号解析部31によってA/Dコンバータによりデジタル信号に変換され、信号のノイズ成分が除去される(ステップS102)。また、ノイズ成分が除去された信号は横軸を時間軸、縦軸を加速度とする振動スペクトルとして表示部35に表示される(ステップ103)。また、算出されたデータは記憶部34に送信されて記録される。
次に信号解析部31は、ノイズ成分が除去された時系列の振動データのうち、所定の振幅の上限を超えたものは上限値に丸めて、次に、振幅値から下限値を減算した後、振動データを逐次高速フーリエ変換(FFT)して周波数スペクトルデータを生成する(ステップS104)。なお、この振幅値から下限値を減算する作業を行うことで、例えば、搬送ロボット1が配置されるEFEM4に備えられたFFU等の搬送ロボット1以外の機器の作動に伴うバックグラウンド振動が当該振動データから除去される。また、信号解析部31は、高速フーリエ変換された振動データを表示部35に表示して、記憶部34に保存する(ステップS105)。
次に、作業者は表示部35に表示された高速フーリエ変換後の周波数スペクトルデータから、任意の周波数帯の範囲を指定する(ステップS106)。範囲が指定されると、インパルス抽出部32はこの指定された範囲の周波数スペクトルデータから各周波数データを絶対値に変換した後、そのインパルス成分の周波数帯における総量を算出する(ステップS107)。この、高速フーリエ変換したデータに対して、所定の周波数帯における各周波数データの振幅値の総和を算出することで、インパルス成分を抽出することが出来る。ここで、表示される波形の中で突出している部分がインパルス成分の強度を表していて、この突出部分が大きいほど、駆動機構の不具合による動作中の振動が大きいことを示している。図7(b)、図8(b)を参照。
インパルス抽出部32で算出されたインパルスデータは、データ編集部33に送られる。データ編集部33は、受信したデータを周波数、時間、インパルスの強度の3つの要素で表現する可視化データに編集して表示部35に表示する(ステップS108)。また、編集された可視化データは記憶部34に保存される。なお、本実施形態のデータ編集部33は、インパルス抽出部32から送信されたインパルスデータをスペクトログラムデータに編集して表示する。インパルス波形は広い周波数帯に分散して存在している。そこで、これら広い周波数帯に分散した成分を、横軸を周波数、縦軸を時間、インパルス強度を明度で表示するスペクトログラムデータとして表示することで、作業者は表示部35を見ることで不具合の有無を認識することが出来る。図9、図10を参照。なお、本実施形態のデータ編集部33はインパルスデータをスペクトログラムに編集しているが、スペクトログラムデータに限定することは無い。例えば、バブルチャートや等高線グラフ、ウォーターフォールグラフといった周波数、時間、スペクトル強度の3つの要素を表示できるものであればよい。
次に、振動センサ28、28´が検出した振動のスペクトルデータと、データ編集部33が生成したスペクトログラムについて説明する。図7は、上リスト部21bに設置した振動センサ28´が検出した振動波形であり、図8は、水平走行機構7上に設置した振動センサ28が検出した振動波形である。どちらも、縦軸を加速度(G)とし、横軸を時間(ms)としている。また、どちらの図も(a)は正常な状態での動作時の波形であり、(b)は水平走行機構7の軸受けに不具合が発生している状態での動作時のグラフである。これらのスペクトルデータは、搬送ロボット1の動作中の全データのうち、約0.5秒間の波形を表示している。また、各グラフには2本の折れ線が表示されているが、これは、振動センサ28、28´が検出したX軸方向の振動とZ軸方向の振動を表している。
図7と図8のいずれも、正常な状態の波形(a)と比べて、異常発生時の波形(b)ではインパルス成分を有する突出した波形が多く出現している。また、図8(b)のグラフは、図7(b)のグラフに比べて短い周期での鋭角な波形が多く含まれている。これは、両振動センサ28、28´の振動発生源からの離間距離の違いと、振動源から検出点までの間の構造物の振動伝達率の違いによるものである。また、いずれも(a)に比べて(b)の方が振幅の大きい振動を検出していることが分かる。しかしながら、装置ごとの個体差やFFU23や処理装置5の駆動機構が発生する振動が伝達している場合もあるので、こういった振動波形を単純に比較する方法では、正確な異常の検出を行うことは大変難しいものとなる。しかしながら、以下に説明するように、本発明のアルゴリズムによって振動波形の中に含まれるインパルス成分を抽出して表示することで、作業者は容易に異常の発生を認識することが可能になる。
次に、本発明のアルゴリズムのうち、インパルスデータを可視化する編集方法について説明する。図9、図10は、搬送ロボット1の動作中の振動データを高速フーリエ変換した後、各周波数の振幅値の総和を算出してスペクトログラムにしたものである。図9は、図7に示した振動のデータを高速フーリエ変換した後スペクトログラム化したものであり、図10は、図8に示した振動のデータを高速フーリエ変換した後スペクトログラム化したものである。また、どちらの図においても(a)は正常な状態での動作時のデータであり、(b)は軸受けに不具合が発生している状態での動作時のデータである。各図は、横軸を振動データの周波数とし、縦軸を時間として、その周波数帯の振動の発生した時間の合計が表示されるものであり、画面上で明度が高くなるほど振動の発生頻度が高いことを示している。また、(a)(b)ともに2段構成の図になっているが、これは、振動センサ28、28´の各検出方向に関する値を個別に表示しているためである。
図9、図10ともに、正常な状態のデータ(a)では1kHzまでの比較的低い周波数を有する振動が発生していて、1kHzを超える周波数のインパルス成分はほとんど発生していないことが確認出来る。それに対して、不具合発生時のデータ(b)では、1kHZまでの比較的低い周波数を有するインパルス成分が発生しているものの、1kHZを超える周波数の全域にわたって振動が発生していることが確認出来る。前述したように、インパルス成分は周波数帯の全域にわたって発生する特徴を有しているので、図9(b)、図10(b)のスペクトログラムを見れば、駆動機構に不具合が発生していることが把握出来る。このように、解析した周波数帯の全域において振動の発生頻度が高くなるほど、各駆動機構が備える部品で故障が発生している可能性が高いことが予測できる。
上記実施形態では、搬送ロボット1が動作中に発生する振動を検出して、その検出データを上述したアルゴリズムに沿って解析することで異常の有無を予測する方法を説明したが、本発明はこれに限定されることは無い。振動以外にも、例えば、搬送ロボット1が動作中に発する音を検出して、その検出データを上述した手順に沿って解析することで異常の有無を予測することが出来る。要するに、動作中に発生する物理的現象のうち、波形データとして検出できるものであればどのような物理的現象であっても解析可能である。さらに本発明の信号波形解析装置は、機械装置の異常の有無を予測する目的以外にも適用することが可能である。
次に、本発明の波形解析装置に関する第二の実施形態について説明する。近年、ビデオカメラ37が備えられている半導体製造システム2が増えてきている。本実施形態で使用されるビデオカメラ37はEFEM4の内部清浄空間に配置されていて、搬送ロボット1やその他の機械装置の動作を常時撮影して、その画像を録画データとしてハードディスクやメモリーといった不図示の記録装置に記録している。また、搬送ロボット1の駆動源であるモータ8、13、15には各モータを制御する不図示のドライバが接続されていて、機械装置が他の構造物との衝突や過剰な負荷が掛かった際にはドライバが異常として検知して、搬送ロボット1を緊急停止させてトラブルの拡大を防止している。そして、作業者は、搬送ロボット1がトラブルで非常停止した際には、記録された画像を再生して異常発生箇所を特定することで、修復作業を効率良く進めることが出来る。
しかしながら、この動画データはデータ量が大きく記録装置の容量も限られているので、古い動画データは、順次新しく撮影した動画データに上書きされて消去される。また、ドライバが異常として検知するのは比較的大きな衝撃が発生する場合であり、例えば被搬送物であるウエハWと搬送先であるFOUP3の壁とが擦れた程度の比較的小さな衝撃の場合には、ドライバが異常として検知しないことがある。その結果、FOUP3と接触したウエハWには、接触した際に発生した塵埃が表面に付着して、その塵埃が付着した部分には回路パターンが形成されず、不良品となってしまうのである。
さらに、機械装置に備えられたビデオカメラ37で撮影した画像のデータは順次新しい画像データに上書きされていくので、異常が発生した時の画像データは、不良品が発覚した時には既に新しい画像データに上書きされているといったことも少なくない。そのため、検査の段階で不良品発生の異常が発覚したとしても、不良の原因を突き止めることは極めて困難な状態になってしまうのである。そこで、本発明の信号波形解析装置を使用して、こういった微小な衝突等の異常を即座に検知することは、製品の品質管理と歩留まりの向上という面から大きな効果を発揮することが出来る。
本実施形態では、搬送ロボット1の動作によって発生する音を検出するマイクロフォン38をEFEM4の内部に固定して、搬送ロボット1が動作している間は、搬送ロボット1の動作によって生じる音を常時検出するようにする。そして、波形解析装置30が音の信号の中からインパルス成分を検出したら、ビデオカメラ37の制御プログラムに異常発生信号を送信して、表示部35に異常が発生したことを通知するように波形解析装置30の制御プログラムを構成する。また、ビデオカメラ37の制御プログラムを、波形解析装置30から異常発生信号を受信した場合、その前後数分間に記録された画像データを上書きすることなく保存しておく様にプログラムを構成する。上記構成とすることで、ウエハWの接触や衝突といった品質を大きく低下させる可能性のある異常が発生した際に、作業者は即座に異常が発生したことを把握出来る。さらに、保存された画像データを確認することで、どういった異常が発生したかも把握することが可能になり、短時間でトラブルを解消することが可能になる。
図11は搬送ロボット1が動作中に発生する音を検出するマイクロフォン38をEFEM4の内部に固定して、搬送ロボット1の動作中に発生する物理的現象である音を検出して、高速フーリエ変換した音声スペクトルである。より詳しくは、図11(a)は正常にウエハWを搬送している状態のEFEM4の内部の音を解析したものであり、図11(b)は搬送ロボット1がウエハWをFOUP3の内部に搬送する際に、FOUP3の側壁とウエハWとが接触した際のEFEM4の内部の音を解析したものである。また、図12は図11(b)に表した衝突が発生した際の音響スペクトルを、本発明の信号波形解析方法でスペクトログラム化したものである。
図11の(a)と(b)を比較すると、略同様の波形に見えるが、(a)に比べて(b)の方が約10dBほど高い値で推移している。これは、インパルス波の特徴である、全ての周波数成分を同じだけ含むことに起因するものであり、ウエハWとFOUP3とが接触した際に発生したものをマイクロフォン38が検出することで発見できたものである。また、図12には、あらゆる周波数帯に存在するインパルス成分が明確に表示されている。このことから、ウエハWとFOUP3の接触という非常に微小な音を検出して解析することで、接触に起因するインパルス波の存在が認識出来るので、このインパルス波の存在をトリガーにして、異常発生アラームの送信と、ビデオカメラ37の画像データの保存を行うことが出来る。なお、本実施形態では、搬送ロボット1の動作音を検出するためにマイクロフォン38を用いたが、これ以外に、音響センサで動作音を検出してもよい。さらに、搬送ロボット1の上下フィンガ21、22に振動センサ28、28´を取付け、動作音の代わりに、振動を検出する構成としてもよい。