自動車車体の前部または後部には、車両衝突時における衝突荷重を受けるためのバンパ構造が備えられている。バンパ構造には芯材としてバンパリインフォースメントが備えられる。バンパリインフォースメントは自動車車体の幅方向に長尺形状として配設されており、自動車車体の幅方向の両端部位置で自動車車体のフレーム部材にバンパ支持構造で連結されて支持される。
バンパリインフォースメントは、軽量化を図るためテーラードブランク材から製造されることがある(特開2001-180398号公報参照)。通常、車両衝突荷重の負荷のかかり方から、バンパリインフォースメントの長手方向の中央位置の部材よりその両側位置の部材の板厚を薄くして軽量化を図っている。
また、バンパリインフォースメントの強度の向上を図るため、断面形状が各種工夫されている。例えば、B字断面形状(特開2001-180398号公報参照)や、M字開断面形状(特開2013-18297号公報及び特開2007-38756号公報参照)がある。
また、バンパリインフォースメントは自動車の前部または後部に配置される意匠上の観点から、その両端部位は自動車車体方向に湾曲(ラウンド)して形成される。
さらに、バンパリインフォースメントの両端部には自動車車体のフレーム部材に連結するためのバンパ支持構造が配置される。そして、自動車前部においては、この支持構造間におけるバンパリインフォースメントの背後位置にエンジンの冷却を行うラジエータが配置される。なお、バンパ支持構造としては、通常、衝突エネルギーを吸収可能とするクラッシュボックスが配置される。このため、バンパリインフォースメントの中央部の断面幅は、ラジエータの冷却作用を良好なものとするために、必要強度を確保した上で、極力幅狭に形成されている。
一方、両端部はクラッシュボックスを配置する関係から、その取付けに必要とする、中央部に比べ広い断面幅とされる。そして中央部と両端部を繋ぐ中間部は中央部から両端部に向けて漸次拡幅する断面幅とされている。
このようにバンパリインフォースメントの断面幅は中央部は相対的に幅狭の一定幅の形状とされ、両端部は相対的に幅広の一定幅の形状とされ、中間部は中央部から両端部に向けて漸次拡幅する形状とされている。
以上の形態のバンパリインフォースメントは、冷間プレス加工或いはホットプレス工法により成形される。
上述したB型断面のバンパリインフォースメントをテーラードブランク材の冷間プレスによって成形する場合には、次のような問題がある。
先ず、冷間プレス成形する際、テーラードブランク材を構成する中央位置の部材、その両側位置の部材、それらの間の溶接部の強度がそれぞれ違うため、スプリングバック量の差が大きく、精度を出すのが困難である。
また、溶接の熱影響で軟化した溶接部周辺が、成形時に破断しやすい。その他、衝撃耐力向上のため、ブラケット等をバンパリインフォースメントに溶接して取付ける場合には、アーク溶接となるため、高コストとなる。
また、B型断面の場合には、クラッシュボックス取付け部が反衝突面となるため、クラッシュボックスのストローク量が少なく、効率的ではない。更に、冷間成形で湾曲成形する場合には、しわは低強度部に集中する。そのためしわが重なり製品不良となる。
本発明者は、断面形状としては、開き断面で強度的に見て一番効率のよいM字開断面形状としてホットプレス工法で成形することにより、上述したB型断面形状における問題の解決を図ろうとした。しかし、成形時におけるしわが発生するという問題は解決できなかった。そこで、テーラードブランク材の差厚接合線の位置に着目し、この位置がしわの発生に関係しているのではないかとの観点で鋭意研究を重ねた。その結果、テーラードブランク材の差厚接合線を中間部拡幅範囲の位置とすればしわの発生を防止ないし抑制することのできることを見出した。
本発明の一態様に係る方法は、自動車車体の前部または後部に車体の幅方向に向けて配設される長尺形状のバンパリインフォースメントの製造法であって、板厚の異なる中央位置の部材とその両側位置の部材を接合して平板形状のテーラードブランク材を形成し、このテーラードブランク材をホットプレス工法により加圧成形して長尺形状でM字開断面のバンパリインフォースメントを形成し、中央部幅狭範囲と、この中央部幅狭範囲よりも幅広の両端部幅広範囲と、中央部幅狭範囲から両端部幅広範囲に向けて漸次拡幅する中間部拡幅範囲とを形成すると共に、長尺形状の両端部位を中央部位に対して断面の開口側に湾曲形成し、このホットプレス工法時において中央位置の部材と両側位置の部材の間の差厚接合線が前記中間部拡幅範囲内の位置となるように成形される。
これにより、実施形態によっては、中央位置の部材、その両側位置の部材、テーラードブランク材の溶接部のそれぞれの強度差が小さく、スプリングバック量がほぼ等しくなるため、精度の良い製品を得ることができると共に成形時の溶接部周辺での破断も防止できる。
また、実施形態によっては、低強度部がなくなるため、しわの集中を抑制できる。このように低強度部にしわが集中しないため、しわの発生を防止ないし抑制することができる。また、湾曲形成の起点部及び拡幅形成の起点部に、通常のプレス成形と同様に、大きなしわが発生しようとするが、差厚接合線が稜線となり、しわを分断して、中央位置の部材とその両側位置の部材に分散し、しわの発生を防止ないし抑制することができる。
ひとつの実施形態として、一定幅の前記両端部幅広範囲と自動車車体との間にはクラッシュボックスを取付けるのが好ましい。これによりバンパリインフォースメントに作用する衝突衝撃荷重のエネルギーはクラッシュボックスによっても吸収される。
別の実施形態として、前記中央位置の部材の板厚はその両側位置の部材の板厚より厚くするのが好ましい。これにより、中央位置の部材の強度を両側位置の部材の強度より高い強度とすることができて、衝突荷重を確実に受けることができる。
また別の実施形態として、前記中央位置の部材の材質と前記両側位置の部材の材質は同じ材質とするのが好ましい。これによりバンパリインフォースメントの構成部材の材質が一種類となり、その調達が容易となる。
また別の実施形態として、前記M字開断面形状の開口部にはフランジを形成し、このフランジには強度補強部材としてのブラケットを溶接により取付けるのが好ましい。この場合、フランジに取付けられるブラケットによりバンパリインフォースメントの耐力向上を図ることができる。また、この場合のブラケットの溶接はスポット溶接とすることができて、低コストとすることができる。
実施形態によっては、ホットプレス成形時に発生するしわの発生を防止ないし抑制することができる。すなわち、テーラードブランク材における差厚接合線の位置をバンパリインフォースメントの中間部拡幅範囲の位置とすることにより、ホットプレス成形時に発生しようとするしわは差厚接合線が稜線となり、しわを分断して、しわの発生を防止ないし抑制する。
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
先ず、図1は自動車におけるバンパ構造10の配置位置を示す。バンパ構造10は、通常、自動車車体12の前部と後部に自動車車体12に対して幅方向に配置される。図1において、自動車車体12の前方を矢印Fで示し、後方を矢印Rで示した。バンパ構造10は、バンパリインフォースメント14と、バンパ被覆部材16と、バンパ支持構造18とから成っている。バンパリインフォースメント14はバンパ構造10の強度上の芯材として配設される。バンパ被覆部材16はバンパリインフォースメント14の前面を被覆するように配設される。バンパ被覆部材16はバンパ構造10の最外面に配設され、見栄えを考慮した構成とされている。通常、意匠の成形に適する樹脂製で形成される。
バンパ支持構造18はバンパリインフォースメント14の長手方向(自動車車体12で見て幅方向)の両端部の位置で自動車車体12のフレーム部材(不図示)とバンパリインフォースメント14との間に配設されている。そして、このバンパ支持構造18によりバンパリインフォースメント14で受ける衝突荷重を自動車車体12に伝え、自動車車体12で支持する。バンパ支持構造18は好ましい実施形態ではクラッシュボックスと称される衝突エネルギーを吸収することができる構成部材で形成する。
なお、以後に説明する実施形態は、自動車車体12の前部に配設されるバンパリインフォースメント14の場合を例にして説明する。しかしながら、バンパリインフォースメントは自動車車体の後部に配設してもよい。
ひとつの実施形態として、バンパ構造10は、上述した配置構成であることにより、自動車の正面衝突によりバンパ構造10の中央部位置に作用する衝突荷重を次のようにして受けられる。
先ず、バンパ被覆部材16で受けて、これをバンパリインフォースメント14で支える。そして、バンパリインフォースメント14に作用した荷重は、バンパリインフォースメント14の両端部に配設されたバンパ支持構造18としてのクラッシュボックスを介して自動車車体12により受けられる。この際、クラッシュボックス18が衝突エネルギーを吸収する。
図2から図5はひとつの実施形態としての製造法により作られるバンパリインフォースメント14の構成を示す。図2は前方の上方から見た斜視図、図3は前方から見て右半分を示す正面図、図4は図2及び図3のIV―IV線断面図、図5は図2及び図3のV―V線断面図を示す。図2に示されるようにバンパリインフォースメント14は長尺形状とされている。バンパリインフォースメント14は3つの部材が接合されて形成されている。すなわち、3分割されて形成されている。
図2に示すX1範囲の中央位置の部材14Aと、X2範囲で示す両側位置の部材14Bがレーザ溶接により接合されて形成されている。中央位置の部材14Aと両側位置の部材14Bは板厚が異なっており、中央位置の部材14Aの板厚に比べ両側位置の部材14Bの板厚は薄くされている。好ましい実施形態では、中央位置の部材14Aの板厚は2.0mm、両側位置の部材14Bの板厚は1.6mmとされており、0.4mmの板厚差とする。このように、好ましい実施形態のバンパリインフォースメント14はいわゆるテーラードブランク材を用いて製造される。なお、テーラードブランク材に由来するバンパリインフォースメント14の差厚接合線は、図2及び図3に符号Sで示されている。
好ましい実施形態では、中央位置の部材14Aと両側位置の部材14Bとは同材質とし、通常は鋼板製とする。なお、アルミ等、他の材質でも良い。また、溶接接合が可能であれば異材質の組合わせでも良い。
好ましい実施形態のバンパリインフォースメント14の断面形状は、基本的にはM字開断面形状である。これは開き断面形状で強度的に一番効率が良いことによる。M字開断面形状の断面幅は長手方向で異なっている。
図2にY1範囲で示す中央部は相対的に狭い一定幅で形成されている。この範囲Y1を中央部幅狭範囲とする。Y3範囲で示す両端部は相対的に広い一定幅で形成されている。この範囲Y3を両端部幅広範囲とする。
Y1範囲とY3範囲の中間部はY1範囲の断面幅からY3範囲の断面幅に漸次拡幅する形状として形成されている。この範囲Y2を中間部拡幅範囲とする。
図4はY1範囲の中央位置の部材14Aの幅狭の断面形状を示す。図5はY3範囲の両側位置の部材14Bの幅広の断面形状を示す。Y2範囲の断面形状はY1範囲の幅狭の断面形状からY3範囲の幅広の断面形状に漸次拡幅する変化形状とされている。
図4に示すY1範囲の中央位置の部材14Aの断面形状は、後述する図5に示すY3範囲の両側位置の部材14Bの断面形状に比べ、断面幅W1が狭く、断面高さH1が高く形成されている。これは中央位置の部材14Aの背後位置にはエンジンの冷却を行うラジエータが配置されており、ラジエータへの空気流を多く供給可能とするためである。かかる要請により断面幅W1は強度確保との関係で可能な限り幅狭く形成される。
なお、図4に示すM字開断面形状の構成要素は、大枠としては前面部14aと、上面部14bと、下面部14cとからなっている。前面部14aはいわゆる車両衝突時の当たり面となっており、強度確保の観点から中央部を後方に凹ませた凹部形状14dとしている。上面部14b及び下面部14cの後方の開口端にはフランジ14eが上下方向に延設形成されている。
図5に示す両側位置の部材14Bの断面形状は、前述した図4に示す中央位置の部材14Aの断面形状に比べ、断面幅W2が広く、断面高さH2が低く形成されている。すなわち、断面幅W2は断面幅W1に対して拡幅形成されている。拡幅形成は断面幅W1から徐々に拡幅し、断面幅W2で一定幅とされている。これは両側位置の部材14Bは前述した中央位置の部材14Aに比べ衝突時における耐強度を必要としないこと、及び、クラッシュボックス18の取付け面積を確保するためである。
また、好ましい実施形態では、両側位置を中央位置に比べ後方に向けて湾曲形成することで、バンパ構造の見栄えを向上させる。なお、好ましい実施形態においては、断面幅の拡幅形成と湾曲形成は、Y1範囲とY2範囲の境界位置を起点位置としてY2範囲及びY3範囲に向けて行われている。なお、好ましい実施形態においては、テーラードブランク材における差厚接合線SがY2範囲の中間部拡幅範囲の位置とされていることに特徴がある。これにより後述するホットプレス工法においてフランジ14eにしわが発生するのを防止ないし抑制することができる。
図2及び図5に示される両端部には、取付け位置が仮想線で示されるようにバンパ支持構造18としてのクラッシュボックスが取付けられる。この位置にクラッシュボックス18を配置することは、図5に示すようにクラッシュボックス18をM字開断面形状の開口部内に配置することになる。このため、クラッシュボックス18のエネルギー吸収ストロークを長く取ることができて、効率的である。しかしながら、バンパ支持構造18は必ずしもクラッシュボックスである必要はない。他の要請から両端部の断面幅を広く形成する場合には、広く適用することができる。
次に、上述したバンパリインフォースメント14の製造法を、図6により説明する。先ず、素材の準備工程で、バンパリインフォースメント14を構成する中央位置の部材14Aの素材と、その両側位置の部材14Bの素材を用意する。各素材は予め所定の大きさとされている。すなわち、後工程のホットプレス工法で成形した際に、差厚接合線Sが中間部拡幅範囲Y2の位置となるように形成する。
次に、テーラードブランク工程で、予め準備した中央位置の部材14Aの平板素材と、その両側位置の部材14Bの平板素材とを、レーザ溶接して接合する。これによりバンパリインフォースメント14を成形するための所定形状の平板材とされる。なお、溶接はプラズマ溶接でも良い。
次に、ホットプレス工程で、上記の所定形状の平板材を熱間成形するに適した所定温度とした上で、上型22と下型24によりホットプレスして、図2に示す製品形状に成形する。なお、このホットプレス工程のプレス断面図はバンパリインフォースメント14の断面幅方向として図示されており、他の工程のバンパリインフォースメント14を長手方向で示した図とは異なっている。
図7は上述したホットプレス工法によりバンパリインフォースメント14を成形した際に、フランジ14eに生じたしわの発生状態を示す。上述の実施形態のホットプレス工法によれば、低強度部がなくなるため、冷間プレス成形による従来技術のように低強度部にしわの発生が集中することはなくなる。
また、湾曲形成部及び中間部拡幅範囲Y2に発生しようとするしわは、図7で示すように差厚接合線Sが稜線となって、しわを分断して、中央部X1と両端部X2に分散させるため、しわの発生を防止ないし抑制することができる。
なお、上述した実施形態におけるバンパリインフォースメント14の耐力の向上を図るため、フランジ14eに補強板等のブラケットを取付けることも可能である。このときの溶接接合はスポット溶接とすることができ、低コストとすることができる。
以上、本発明の特定の実施形態について説明したが、当業者は本発明の目的や趣旨から逸脱しない範囲で各種の変形や置換が可能である。