明 細 書
薬剤放出制御組成物および薬剤放出性医療器具
技術分野
[0001] 本発明は、薬剤放出制御組成物などに関し、詳しくは医療器具などに薬剤放出機 能を付与する薬剤放出制御組成物およびこれを保持した薬剤放出性医療器具、特 にステントに関する。
背景技術
[0002] 近年、新薬のみならず既存の医薬が有効に効力を発揮できるように製剤および投 与の技術開発が進展している。例えば薬剤を特殊な被膜で覆うことにより、一定時間 後に薬効成分を放出させる製剤技術も登場している。薬物送達システム (DDS)の概 念に基づき、リボソームを始めとするナノスフエア、マイクロカプセルを利用した製剤 が盛んに研究されている。そうした DDSが目指す機能として、放出制御性、標的指 向性、摂取 ·投与容易性、または効果増強 '副作用低減などが挙げられる。
[0003] これまで DDSを視野に入れた薬剤徐放材料として、ポリ乳酸、乳酸/ダリコール酸 共重合体などのポリマーマトリックス材料が幅広く検討されてきた(特許文献 1および 2、非特許文献 1)。し力 ながら、これらの生分解性ポリマーに薬剤を混ぜただけで は、送達された場所において期待通りの薬剤放出速度が得られないのが常であった 。そうしたポリマーマトリックス中を薬剤が拡散移動する速度が極めて遅ぐまたはそこ 力も遊離し難いためである(非特許文献 1)。力かる問題を解決するために、ポリマー マトリックスを多孔体化したり、微粒子化することにより接触面積を多くし、薬剤の放出 量を確保、または増大させる技術が研究され、実用化の途にある。上記のポリマーマ トリックスについては、多孔化する際の孔径コントロールが極めて重要であり、かつ高 度な条件設定が求められるため、製造コストの上昇は避けられない。
[0004] 他方、医工学技術の進歩により、主として診断、治療目的のために、生体内外に何 らかの医療用の用具、デバイス、装置を取り込むか、坦め込むか、または留置するこ とにより、所期の目的を達成しょうとする手法も検討されている。医療用具、例えば力 テーテル、ステント、人工血管などに上記のポリマーマトリックス技術をそのまま応用
することは、どちらかというとこれまで否定的であった。コーティング法によってこれら の医療用具表面に多孔体を形成させることは困難であり、むしろ生体による異物認 識に基づく反応を考慮して平滑平面が求められる分野であるからである。
[0005] 生体内に適用される医療器具の一つであるステントは、心臓冠動脈閉塞症などの 治療に用いられる。すなわち血管内部に留置されるステントは、切開部分を補綴する とともに血管の収縮を防止して、動脈閉塞症患者の再狭窄の発生率を有効に減少さ せようとするものである。
[0006] これまでも冠状動脈閉塞症を始めとして、動脈血管閉塞症の治療を目的にステント の材料、形状、術法に関する種々の提案がなされている。もっとも従来の材料にあつ ては依然として再狭窄、再閉塞のリスクを完全には避け得ないため、このことがステン トを使用する血管形成術の適用の隘路となっている。よって再狭窄、再閉塞のおそ れの少なレ、ステントが医療現場から強く要望されている。
[0007] さらに抗癌剤、免疫抑制剤、抗生剤、抗凝固剤などと、種々の高分子材料とを組み 合わせた、薬剤放出型のステントが研究されてきた(非特許文献 2)。し力しながら、こ のような薬剤放出型のステントにおいては、放出される薬剤のタイミングとその放出速 度、放出の量および期間を所望するように調整することは実際問題として容易ではな い。例えばバースト的放出が留置後の初期に起きてしまい、持続的、徐放的放出が 実現できなかったり、あるいは薬剤を担持する方式に問題があって、体内に留置した ステントから脱落してしまうこともある。
[0008] 上記の抗凝血剤として、例えば抗トロンビン薬のアルガトロバンおよび抗血小板薬 の塩酸サルポダレラートが知られている。そのアルガトロバンを徐放させて抗血栓性 を付与した医療器具として、カテーテルが特許文献 3および特許文献 4に公開されて いる。これまでに、合成抗凝固剤であるアルガトロバンまたは塩酸サルポダレラートを ステントに用いて具体的にその効果を検証したものはなぐステントが抗凝固性を発 現するような該薬剤の必要放出速度は全く知られていないのが現状である。
特許文献 1 :特開平 9-151136号公報
特許文献 2:特開平 9-255590号公報
特許文献 3:特開平 6— 292711号公報
特許文献 4 :特開平 6— 292718号公報
非特許文献 1 :「高分子加工」第 45卷、第 5号、 222頁、第 6号、 270頁、 1996年 非特許文献 2: "Drug-Eluting Stent"、医学書院、 2003年
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0009] 上記の状況と問題点に鑑み、本発明者らは鋭意検討し、本発明に至った。すなわ ちある種の脂溶性低分子化合物を添加することで、薬剤の放出が加速されることを 見出し、本発明を完成させるに至ったものである。本発明は、薬剤の放出を加速させ 、かつ薬剤を長期間安定して放出し続ける組成物、およびこの組成物を適用した薬 剤放出性医療器具を提供する。
[0010] さらに本発明者らは、そうした薬剤の担持の態様もまた、放出速度および持続的な 放出期間に大きく影響するのではないかと考えて鋭意検討した。その結果、上記薬 剤を一定期間徐放させるには、該薬剤を担持する高分子材料として、薬剤と高分子 との相溶性が大きなポイントになり、非晶性高分子への担持がより望ましいことを見出 し、本発明を完成させた。
[0011] さらにステント基材を多孔体にすることにより、薬剤を担持した高分子材料をその孔 内に保持させて薬剤を一定期間徐放させることが可能であることも見出した。
[0012] 本発明は、抗凝血剤を含有する高分子材料をステントにコーティング又は多孔性ス テント基材に担持させ、該薬剤を持続的にこれを一定期間、徐放させることが可能な 薬剤徐放性ステントを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0013] 本発明の薬剤放出制御組成物は、有機溶媒に可溶かつ非水溶性の有機高分子 材料 100重量部、脂溶性低分子である放出助剤 5〜60重量部、および薬剤:!〜 70 重量部を含むことを特徴としている。
[0014] 前記有機高分子材料が生分解性もしくは生体適合性、またはその両方であること が望ましい。生分解性である材料が、好ましくは脂肪族ポリエステル、または脂肪族 ポリカーボネートである。具体的にはポリ乳酸、乳酸/ダリコール酸共重合体、ポリ力 プロラタトン、ポリヒドロキシ酪酸等である。
[0015] 前記放出助剤が、カルボン酸エステルまたはグリセリンのモノエステルもしくはジェ ステルである。好ましくはクェン酸、酒石酸またはリンゴ酸等から選ばれる有機酸のェ ステル、あるいはグリセリンのモノ酢酸エステルもしくはジ酢酸エステルである。
[0016] 前記薬剤が医薬品であり、好ましくは抗凝固剤、杭がん剤、または免疫抑制剤であ る。
[0017] 前記組成物はさらに細胞接着性物質、または医療器具表面の内皮化促進物質を 含んでもよい。
[0018] 本発明の薬剤放出性医療器具は、前記組成物を保持することを特徴とする。
[0019] 好ましくはその表面に前記組成物の層を形成している。
[0020] 前記の医療器具は、好ましくは生体に接触するか、あるいは生体内に取り込まれる 、または留置される医療器具であり、具体的にはステント、カテーテル、クリップ、臓 器代行医療用具、カプセルセンサー、または人工臓器である。
[0021] 本発明のステントは、狭窄冠動脈治療用ステントであって、その表面からアルガトロ バン (抗トロンビン薬)または塩酸サルポダレラート(抗血小板薬)またはその両方の薬 剤が徐放されることを特徴としている。
[0022] 前記薬剤の放出速度が、該ステントの留置後 21日においてアルガトロバン、塩酸 サルポダレラートともに 1 X 10— 3 μ g/mm2 'h〜l μ g/mm2' hであることが望ましい。
[0023] また、前記ステントを構成する金属表面にコーティングされた高分子材料中に、ある レ、は多孔性ステント基材中に、徐放される前記薬剤が担持されてレ、ることを特徴とし ている。
[0024] 前記ステントの表面にコーティングされる高分子材料が非晶性であることが望ましい
[0025] 前記ステントの表面にコーティングされる高分子材料が、好ましくは非晶性の生分 解性高分子材料である。
[0026] 好ましい前記高分子材料は、生分解性であるポリ乳酸または乳酸 'グリコール酸共 重合体である。
[0027] 前記高分子材料が、担持する薬剤の放出を促進する助剤をさらに含有することが 望ましい。
[0028] 前記の薬剤の放出を促進する助剤力 好ましくは酒石酸エステルまたはリンゴ酸ェ ステル、あるいはグリセリンのモノエステルもしくはジエステルである。
[0029] 前記ステントを構成する金属表面が多孔体であり、徐放される前記薬剤が多孔体 中に担持されていてもよレ、。その孔径は、好ましくは 0.01nm〜300nmである。
発明の効果
[0030] 本発明の薬剤放出制御組成物では脂溶性低分子の放出助剤が含まれるために、 含有薬剤の体内での放出が加速される。該組成物を保持する医療器具は、所定の 体内部位もしくは体表面部位に送達される力 \または留置されると、その薬剤が放出 される力 S、そのタイミングとその放出速度、放出の量および期間を調整することができ る薬剤放出性医療器具である。適用の対象となる薬剤、医療器具は特に限定されな レ、。したがって本発明の薬剤放出制御組成物は、種々の医療器具に薬剤放出機能 を付与することができる。
[0031] 本発明の薬剤放出型ステントは、アルガトロバン、塩酸サルポダレラートを担持する 非晶性高分子材料とこれらの合成抗凝固薬剤との相溶性が良好であるために、血管 内に留置されたステントから、該薬剤のバースト的放出が起きにくぐしたがって該薬 剤が所望の放出速度でかつ持続的に放出される。
[0032] 抗凝固薬剤の放出を促進する放出助剤を添加することにより、該薬剤の放出速度 が高ぐステントの留置当初から、抗凝固薬剤が薬効を示すのに充分な量が放出さ れる。したがって本発明の薬剤放出型ステントは、ステント構造と抗凝固薬剤の両作 用により動脈の再狭窄、再閉塞を有効に防止できるステントとなっている。
[0033] また、多孔性ステント基材の孔径を制御することにより該薬剤が所望の放出速度で かつ持続的に放出される。
〔発明の具体的説明〕
本明細書において、「医療器具」とは、「医療用具」を含み、医療分野で使用される 幅広レ、意味での器具を意味する。
[0034] 「徐放性」とは、製剤技術上、薬効成分を徐々に放出する性質であり、製剤設計に おいて薬物の初期バーストを防止し、薬効を長期間持続させるように意図される。ま た「生分解性」とは、生体内で比較的速やかに異化代謝されて分解し、消失する特質
をいう。また「生体適合性」とは、生体に親和性があり、生体により異物と認識されて排 除反応を招来しにくい、生体非活性の傾向をいう。
[0035] 本明細書でいう「担持」とは、高分子マトリクス又は多孔体中に、薬剤を分子分散あ るいはナノメートルからサブミクロンオーダーの凝集塊を形成して分散させることをい う。なお、本明細書で抗凝固薬剤は、抗凝固剤、抗凝血剤としても表現している。
[0036] 薬剤放出制御組成物
本発明の薬剤放出制御組成物は、
有機溶媒に可溶かつ非水溶性の有機高分子材料 100重量部、脂溶性低分子であ る放出助剤 5〜60重量部、および薬剤 1〜70重量部を含むことを特徴としている。
[0037] ここで、「薬剤放出制御」とは、薬剤が体内の所定部位で放出されるタイミングとそ の速度、放出の量および持続期間などの調整を意味しており、必ずしも徐放性であ るとは限らない。
[0038] 以下、本組成物に含有される各成分について説明する。
•有機高分子材料
生体内の所定場所に留置され、 目的部位に送達される薬剤を担持する担体として 、有機溶媒に可溶かつ非水溶性の有機高分子材料が使用される。
[0039] 上記材料が、後述のように生体の内外で使用されることを考慮すれば、そうした有 機高分子材料が、生体安全性の観点から生分解性もしくは生体適合性、またはその 両方であることが望ましい。
[0040] 力かる要求に適う高分子材料として、特に生理活性を持たず、生体内分解性のポリ マーがとりわけ好ましレ、。生分解性のポリマーとして、ヒドロキシカルボン酸ホモポリマ 一、ヒドロキシカルボン酸コポリマーまたはこれらの混合物などが例示される。ポリヒド ロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸コポリマーの具体例として、ポリ乳酸、ポリダリ コール酸、乳酸—グリコール酸共重合体、ボリラクチド、ポリ(ラクチド-グリコライド)、 ポリ(エチレングリコール-ラタチド)、ポリ(グリコール酸-力プロラタトン)、乳酸 -ェチレ ングリコール共重合体、ポリ力プロラタトン、ポリ(ラクチド -力プロラタトン)、ポリヒドロキ シブチレート、ポリヒドロキシイソブチレート、ポリバレロラタトン、ポリ γ—ヒドロキシ吉 草酸、ポリ(ヒドロキシブチレ一トーヒドロキシバレレート)、ポリイソブチルシアノアクリレ
ート、ポリアルキルシアノアクリレート、ポリエチレンスクシネートなどが挙げられる。他 にキチン、キトサン、ゼラチン、セルロース -アセテート-テレフタレートなどでもよレ、。
[0041] この中で特に本発明の材料としてより好ましいポリマーには、脂肪族ポリエステル( 例えばポリヒドロキシ脂肪酸エステル)、脂肪族ポリカーボネート(例えばポリアルキレ ンカーボネート)、あるいはポリ力プロラタトンなどがある。さらに具体的には乳酸/ダリ コール酸共重合体、ポリ乳酸、ポリダリコール酸、ポリリンゴ酸およびそれらの共重合 体、乳酸—力プロラタトン共重合体、ポリヒドロキシ酪酸である。これらの重合物は、単 独重合体でもよぐまたは共重合体でもよぐあるいはそれらの混合物でもよぐまた はその塩であってもよい。本発明に使用される生体適合性の高分子重合体または生 体内分解性の高分子重合体は、入手が容易であるか、一般的な合成法により容易 に合成できるものである。
[0042] 上記のポリ乳酸をはじめ、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートは、芳香族 系有機溶媒 (ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、またはハロゲン系有機溶媒 (塩化メ チレン、クロ口ホルム、四塩化炭素、 1,1,2-トリクロロェタンなど)に溶解可能であり、非 水溶性のポリマーである。薬剤がこれらの溶媒に溶解する場合にはそのまま使用で きる。実際、多くの薬剤が脂溶性であり、有機溶媒可溶である。これに対して、塩を構 成する薬剤、例えば塩酸サルポダレラート、フサン、アルガトロバンなどを用いる場合 には上記有機溶媒には溶解しない。このため代替溶媒として、へキサフルォロイソプ ロパノール、トリフルォロエタノールなどのフッ素系アルコールなどの有機溶媒を使用 すればよい。
•放出助剤
薬物送達システムにおいて、基剤である高分子材料にタエン酸トリブチル、グリセリ ンまたは長鎖脂肪酸エステルを添加することで、ある種の薬剤の徐放速度が増大す ることが知られている(タエン酸トリブチル、グリセリン添加: Journal of Biomedical Mate rials Research, vol.13, 497-507 (1979),長鎖脂肪酸エステル添加: Journal of Contro lied Release vol.58, 133—141, (1999))。
[0043] 上記有機高分子材料であるポリ乳酸、乳酸/ダリコール酸共重合体などのポリマー に薬剤を混ぜただけでは、送達された場所において期待通りの薬剤放出速度が得ら
れない。本発明は、ある種の脂溶性低分子化合物を添加することで、溶媒が揮散し て固化した組成物から薬剤の放出が加速されるという発見に基づいている。本発明 の組成物では、そのような薬剤放出を加速する助剤が、担体としての有機高分子材 料および薬剤とともに一緒に加えられて、その効果を奏する。すなわち本発明の薬剤 放出制御組成物は、薬剤が単なる徐放性ではな 体内の所定部位で放出されるタ イミングとその放出速度、放出の量および持続期間などの調整を可能とするものであ る。
[0044] 薬剤放出制御組成物に使用される、低分子の脂溶性放出助剤としては、薬剤放出 効果および安全性の観点から選択するのがよい。安全性に関して、助剤自体は生体 毒性が低ぐかつ生体内でほとんど代謝されるか、全く蓄積されず、かつ代謝される こともなく体外に排泄される物質が望ましい。これらの要請に適う化合物として、脂肪 族カルボン酸エステル、あるいは分子内に水酸基を有するエステル化合物が挙げら れる。例えば分子内に水酸基を有する脂肪族カルボン酸エステル、あるいはグリセリ ンなどの多価アルコールをベースとしたエステルが好適である。具体的には、酢酸、 プロピオン酸などの炭素数が 2〜6までのカルボン酸エステルなどであり、特にクェン 酸、酒石酸またはリンゴ酸から選ばれる有機酸のエステル、あるいはグリセリンなどの 多価アルコールのジエステル、モノエステルが望ましレ、。
[0045] これらのエステル類のアルキル鎖長として、炭素数が 1〜: 12、好ましくは 1〜6のもの 力 S好ましい。中でも、メチル基、ェチル基、プロピル基、ブチル基などが入手の容易さ 、薬剤および上記有機高分子材料との相溶性の点で好適である。
[0046] 好適な放出助剤として、例えば酒石酸ジメチル、酒石酸ジェチル、酒石酸ジプロピ ノレ、酒石酸モノメチル、酒石酸モノェチル、酒石酸モノプロピルなどの酒石酸のジェ ステル類または酒石酸ハーフエステル類;リンゴ酸ジメチル、リンゴ酸ジェチル、リン ゴ酸ジプロピル、リンゴ酸モノメチル、リンゴ酸モノエチル、リンゴ酸モノプロピルなど のリンゴ酸モノエステル類またはリンゴ酸ジエステル類;クェン酸ジメチル、タエン酸ジ ェチノレ、タエン酸ジプロピノレ、クェン酸モノメチノレ、クェン酸モノェチノレ、クェン酸モノ プロピル、クェン酸モノブチルなどのタエン酸ジエステル類またはクェン酸モノエステ ル類;あるいはグリセリンの部分酢酸エステル(例えばモノァセチン、ジァセチンなど)
などが挙げられる。
[0047] 放出助剤の添加量として、上記有機高分子材料 100重量部に対して、放出助剤が 5〜60重量部、より好ましくは 10〜40重量部である。前記の範囲内にあると、組成物 の物性および重合体の機械的強度を維持しつつ、薬剤の放出速度等を制御するこ とができる。例えば医療器具にコーティングした場合に、コーティング層の剥離などの 問題を生じることなぐ薬剤を適度な速度で放出することができる。
•薬剤
本発明の薬剤放出制御組成物に含有され、放出制御の対象となる薬剤成分は、医 薬品および医薬部外品を始めとする薬物が一般的であるが、薬剤は、その用途、 目 的に応じて、医薬品のほか、化粧品、農薬などであってもよい。
[0048] 対象となる薬剤として特に制限はなぐ上記有機高分子材料を溶解する有機溶媒 に溶解するものであれば特に限定されるものではなレ、。したがって、 目的とする治療 効果、薬効により適宜選択されるものであり、適切な任意の生理活性薬物を、本発明 の対象とすることができる。また 1種の薬物に限らず、複数の薬物を共存させる形で 使用することもできる。例えば、胃潰瘍、結核、感冒などの治療において採用される 2 剤、 3剤あるいは 4剤併用療法では、複数の薬剤を同時に使用して、組み合わせによ る相乗効果、相補的作用を確保している。
[0049] 薬物を具体的に例示すると、抗凝血剤(例えば合成抗凝固剤、抗血小板薬、抗トロ ンビン薬)、止血剤、血管新生抑制剤、血管補強剤、血管再狭窄を防止する抗増殖 薬剤、抗血栓症薬剤または擦傷治療薬剤などが挙げられる。
[0050] さらに杭がん剤、免疫抑制剤、解熱鎮痛剤、抗炎症剤、鎮咳去痰剤、抗潰瘍剤、 鎮静剤、筋弛緩剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、抗結核剤、抗不整脈剤、血管拡張剤 、強心剤、抗アレルギー剤、降圧利尿剤、糖尿病治療剤、ホルモン剤、生理活性ぺ プチド類、麻薬拮抗剤、骨吸収抑制剤、抗リウマチ剤、避妊剤、利肝剤、健胃消化剤 、整腸剤、ビタミン剤、ワクチン剤、便秘治療剤、痔治療剤、各種酵素製剤、抗原虫 剤、インターフェロン誘起物質、駆虫剤、外皮用殺菌消毒剤、寄生性皮膚疾患剤、 造影剤などが挙げられる。
さらに具体的に適用可能な薬物を列挙すると以下のとおりとなるが、本発明はこれ
らの例示に限定されるものではない。なお、薬物はそれ自体のほか、塩または誘導 体の形であってもよい。
[0051] 抗凝血剤としてへパリンナトリウム、クェン酸ナトリウムなどが挙げられる。また低分 子の合成抗凝固剤として、抗トロンビン薬であるアルガトロバン、抗血小板薬である塩 酸サルポダレラートは、血液適合性を発現する。さらに血管新生抑制剤としてフマギ リン、フマギロール誘導体、新生抑制ステロイドなど力 止血剤としてトロンビン、トロン ボプラスチン、ァセトメナフトン、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、トラネキサム酸、 ε アミノカプロン酸、アドレノクロムモノアミノグァ二ジンメタンスルホン酸塩、カルバゾ クロムスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
[0052] 抗腫瘍剤として、メソトレキサート、ァクチノマイシン D、マイトマイシン C、塩酸ブレオ マイシン、塩酸ダウノルビシン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンタリチン、アドリアマイシ ン、ネオカルチノスタチン、フルォロウラシル、シトシンァラビノシド、クレスチン、ピシ バニール、レンチナン、べスタチン、レバミゾール、アジメキソン、グリチルリチン、シス プラスチン、パクリタキセルなどが挙げられる。
[0053] 免疫抑制剤として、ラパマイシン、シクロスポリン、タクロリムス、メソトレキサート、ァザ チォプリン、シクロホスフアミド、副腎皮質ステロイド(例えばデキサメタゾンなど)、ミゾ リビンなどが挙げられる。
[0054] 抗生物質として、塩酸テトラサイクリン、塩酸ォキシテトラサイクリン、塩酸ドキシサイ クリン、ロリテトラサイクリン、ストレプトマイシン、ノバビォキシン、ネオマイシン、エリス ロマイシン、コリスチン、リンコマイシン、サリノマイシン、ニゲリシン、力ナノイシン、キト サマイシン、タイ口シン、フラルタドン、バンコマイシン、スピラマイシン、リストセチン、 ソィマシン、アミカシン、フラジオマイシン、シソマイシン、ゲンタマイシン、カネンドマイ シン、塩酸ジべカシン、リビドマイシン、トブラマイシン、アンピシリン、ァモキシシリン、 チカルシリン、ピぺラシリン、セファロリジン、セファロチン、セフスロジン、セフォチアム 、セフメノキシム、セフメタゾール、セファゾリン、セフォタキシム、セフオペラゾン、セフ チゾキシム、モキソラクタム、フルファゼシン、ァズスレオナム、チェナマイシン、エトロ ニダゾール、クラリスロマイシンなどが挙げられる。
[0055] 解熱鎮痛消炎剤として、サリチル酸ナトリウム、スルピリン、ジクロフエナックナトリウム
、フルフエナム酸ナトリウム、インドメタシンナトリウム、塩酸モルヒネ、塩酸ペチジン、 ォキシモルフアン、酒石酸レボルファノールなどが挙げられる。
[0056] 鎮咳去痰剤として、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸ノス力ピン、リン 酸コディン、リン酸ジヒドロコディン、塩酸クロフヱジァノール、塩酸ァロクラマイド、塩 酸ピコペリダミン、クロペラスチン、塩酸イソプロテレノール、塩酸プロトキロール、硫酸 サルブタモール、硫酸テレブタリンなどが挙げられる。
[0057] 抗潰瘍剤として、塩酸ヒスチジン、メトクロブラミドなど力 鎮静剤として、プロクロノレ ペラジン、塩酸クロルプロマジン、トリフロペラジン、硫酸アト口ピン、臭化メチルスコポ ラミンなどが、筋弛緩剤として、臭化パンクロ二ゥム、塩化ッボクラリン、メタンスルホン 酸プリジノールなど力 抗うつ剤として、イミプラミン、クロミプラミン、ノキシプチリン、硫 酸フェネルジンなど力 S、抗てんかん剤として、塩酸クロルジァゼポキシド、ァセタゾラミ ドナトリウム、フエニトインナトリウム、エトサクシミドなどが挙げられる。
[0058] 糖尿病治療剤として、塩酸フェンフオルミン、グリミジンナトリウム、ダリピザイドなどが 、抗結核剤としてパラアミノサリチル酸ナトリウム、エタンプトール、イソ二アジド力 不 整脈治療剤として塩酸プロプラノール、塩酸アルプレノロール、塩酸ブフヱトロール、 塩酸ォキスプレノロールなど力 血管拡張剤として塩酸ジルチアゼム、塩酸ォキシフ エドリン、塩酸トラゾリン、へキソベンジン、硫酸ノくメタンなど力 強心剤としてアミノフィ リン、テオフィロール、塩酸ェチレフリン、トランスバイオキソカンファーなどが挙げられ る。抗アレルギー剤として、マレイン酸クロルフエ二ラミン、塩酸メトキシフエナミン、塩 酸ジフェンヒドラミン、塩酸トリペレナミン、塩酸メトジラジン、塩酸クレミゾール、塩酸メ トキシフエナミン、塩酸ジフエ二ルピラリンなど力 降圧利尿剤としてペントリ二ゥム、へ キサメトニゥムブ口ミド、塩酸メカミルァミン、塩酸ェカラジン、塩酸クロ二ジンなどが挙 げられる。
[0059] ホルモン剤として、リン酸ナトリウムプレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロン、デキサメ タゾン硫酸ナトリウム、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、酢酸へキセストロール、リン酸へキ セストロール、メチマゾールなどが挙げられる。
[0060] 麻薬拮抗剤として塩酸ナロルフイン、塩酸ナロキソン、酒石酸レバロルフアンなどが 、骨吸収抑制剤として (ィォゥ含有アルキル)アミノメチレンビスホスホン酸などが挙げ
られる。
[0061] 生理活性ペプチド類として、オリゴペプチド、ポリペプチドレ、ずれでもよく生理活性 があれば特に限定されない。分子量約 200〜80,000のものが好ましい。具体例として 、黄体形成ホルモン放出ホルモンまたはその誘導体、インスリン、ソマトスタチンまた はその誘導体、成長ホルモン、プロラタチン、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホ ルモン、メラノサイト刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン、バソプレシン、ォキシトシン、 カノレシトニン、グノレ力ゴン、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、パンクレオザイミ ン、アンジォテンシン、エンケフアリン、タンパク質合成刺激ペプチド、ヒト絨毛性ゴナ ドトロピン、ヒト胎盤ラタトーゲン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、インターフ エロン各型、インターロイキン、エンドルフィン、キヨウトルフィン、タフトシン、サイモポィ ェチン、サイモシン、サイモスチムリン、胸腺因子、腫瘍壊死因子、コロニー誘発因子 、神経成長因子、サブスタンス P、カリクレイン、モチリン、ダイノルフィン、ボンべシン、 セルレイン、ブラジキニン、ァスパラギナーゼ、ゥロキナーゼ、塩化リゾチーム、ポリミキ シン B,コリスチン、グラミシジン、バシトラシン、エリスロポエチン、血小板由来増殖因 子、成長ホルモン放出因子、上皮成長因子などが挙げられる。
[0062] 造影剤として、ヨウド系 X線造影剤 (ィォジキサノール、ィォパミドール、ィオトロラン など)、 MRI造影剤(ガドリニウム化合物)、超音波造影剤(Echovist、 Levovistなど)、 近赤外蛍光造影剤 (インドシァニン系化合物)などが挙げられる。
[0063] 医療用薬物の他に、各種の化粧品(クリーム、乳液、パック、マスカラ、養毛剤、美 白剤など)、農薬 (抗菌剤、除草剤、殺虫剤など。具体例は、特開平 7-330629号公報 に示されている。)、オーキシン、植物ホルモン、昆虫ホルモンなどの薬物であっても よい。
[0064] 薬剤の放出速度の設定は、血中または組織中の薬効発現最低濃度に基づくため に薬剤別に検討されるべきであり、同様に放出期間をどの程度に設定するかについ ても、患者個人の情報および病態、治療の目的、処置内容などを考慮する必要があ る。したがって薬剤の添加量は、一義的に決めることはできないが、通常は薬効とコ ストとのバランスを考慮して上記有機高分子材料 100重量部に対して、 1〜150重量部 、好ましくは 1〜70重量部、より好ましくは 5〜70重量部、特に好ましくは 10〜60重量
部の範囲内で添加することが望ましい。前記の範囲内であると、薬剤の溶解性や副 作用などの懸念を最小限にしつつ、薬効を最大に発現させることが可能になるので 望ましい。
'他の添加物
本発明の薬剤放出制御組成物は、上記の有機高分子材料、薬剤および放出助剤 を含み、下記の医療器具に適用される組成物である。本組成物には、さらに必要に 応じて細胞接着性物質、または医療器具表面の内皮化促進物質を含めてもよい。
[0065] 細胞接着性物質として、コラーゲン、フイブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど が例示される。
[0066] 内皮化促進物質とは、下記の医療器具、特に血管系に使用される後述のステント に適用される場合に、その表面に内皮細胞を留置処置後の比較的早い段階で遊走 、定着、増殖させることを促進させる物質である。このような内皮化促進物質として、 細胞接着性のオリゴペプチドなどが例示される。
[0067] 血管内膜の最内層を覆う内皮細胞は、血管内壁を被覆する役割だけでなぐ抗血 栓、修復などの血管'血流の恒常性維持、血管新生、各種因子および調節物質の産 生分泌など多様な機能を発揮する。血管内皮細胞は、血管内壁の損傷に対する治 癒過程のみならず、いわゆる血管新生にも関わり、いずれも損傷部位へのタンパク質 、マクロファージなどの生体成分の移行、遊走、定着が生起し、次いで平滑筋細胞、 内皮細胞の遊走、定着、増殖が起こる過程を経る。
[0068] このような内皮細胞の挙動に注目すれば再狭窄、再閉塞の主因である、ステントに 対する生体の異物認識能からの回避には、処置後の比較的早い段階でステント表 面に血管内皮細胞を遊走、定着、増殖させることも考慮に値する。ステント表面に定 着した内皮細胞は、増殖してステントを単層で被覆する。そうした内皮化が起これば 、いわば血管内壁と擬似的な状態がステントに迅速に形成され、そのステントは生体 の異物認識作用の対象となりにくくなり、免疫 ·異物排除機能が作動しなくなると考え られる。すなわち、炎症反応につながる単球、マクロファージのステント留置部位への 遊走も惹起されにくい。ステント表面の内皮化を促す目的のためには、内皮化促進 物質を上記組成物に含有させることも望ましい。
[0069] さらに、必要に応じて製剤技術上、一般的に用いられる結合剤、可溶化剤、乳化剤 、安定化剤などを含有させてもよい。製剤上使用される補助剤、添加剤の選択とその 含有量は、上記有機高分子材料および薬剤、本組成物を適用する医療器具によつ て適宜決定される。
薬剤放出件医療器具
医工学技術の進歩により、主として診断、治療目的のために、生体内外に何らかの 医療用の用具、デバイス、装置を取り込むか、坦め込むか、または留置することにより 、所期の目的を達成しょうとする手法が検討されている。本発明の薬剤放出性医療 器具は、そうした技術に関連するものであり、上記組成物を保持して生体に接触する 、あるいは生体内に取り込まれるか、または留置される医療器具である。上記組成 物を保持する薬剤放出性医療器具は、特に限定されない。上記組成物を適用する 器具の対象は、医療分野で使用される医療用器具が一般に該当するが、実際は医 療現場での必要性に応えたものとなる。
[0070] ここでレ、う医療器具にはいわゆる「医療用具」も含まれる。具体例を挙げると、体外 一体内連結に使用される、各種カテーテル、点滴セット、完全に体内で使用される、 ステント、クリップ、ステープラ、止血材、縫合糸、骨折固定材、ペースメーカー、臓器 代行医療用具 (人工血管、人工気管、人工弁、眼内レンズ、人工骨、人工関節など) 、人工臓器 (人工皮膚、人工乳房、人工肺、人工心臓など)など、体表付近で使用さ れる創傷被覆材、コンタ外レンズ、インレー、人工歯根、歯冠、義歯床、修復用コン ポジットレジン、歯科用 GTR材などである。さらには、バイオセンサー(例えば、カプ セル型センサーとしてカプセル内視鏡)、坦め込み型放射線線源なども含まれる。
[0071] 本発明の薬剤放出性医療器具は、本発明の薬剤放出制御組成物を保持しており 、これによりその薬剤が体内の所定部位において放出される。すなわち薬剤放出性 医療器具が、所定の体内部位もしくは体表面部位に取り込まれる力、または留置され ると、保持されていた薬剤が放出されるが、そのタイミングと放出速度、放出の量およ び期間が調整されている。保持の形態は、医療器具の種類、用途などにより変化す るが、例えば塗布、スプレーを含むコーティング、孔内への内包、抱合、結合、接着、 固着、本組成物を担持する薬物送出用のフィルム、テープなどを卷きつけるなど、様
々な適用形態が可能であって特に制限されない。最も簡便な方法は、医療器具の表 面に上記組成物の層を形成させるものであり、その表面が機能性表面に変化するた め、幅広く適用できる。
[0072] 本発明の薬剤放出制御組成物を目的の医療器具に保持させる方法として、該組成 物溶液に医療器具を浸漬後、溶媒を除去するか、該溶液を医療器具表面にスプレ 一した後に溶媒を除去するか、あるいは該溶液を医療器具に塗布した後に溶媒を除 去するなどして、医療器具の表面に薬剤放出制御組成物を層状に接着、固着させる 。このようなコーティングを医療器具に施す場合、コーティング層の厚みとして 1〜数 1 000nm、好ましくは数 10〜数 lOOnmの範囲にあることが望ましぐ薄い方がコート層 の剥がれは少ない傾向にある。またコーティングでなぐ本発明の組成物を単体で医 療器具に坦め込むような場合には、その厚みは特に問題ではなぐさらにシート状、 球状、棒状など任意の形状を選択することも可能である。
[0073] 本発明の薬剤放出性医療器具としては、医療器具によって適用の形態が異なるた めに一概に示せなレ、が、代表的な例として、ステントを含む外科領域またはインレー を含む歯科治療への適用が挙げられる。特に好ましいのは、ステント、カテーテル、ク リップ、カプセルセンサー、臓器代行医療用具、または人工臓器である。
発明を実施するための最良の形態
[0074] 本発明の薬剤放出制御組成物を特に好適に適用される医療用具としてステントが 挙げられる。よって以下において、本発明が具体的に適用される局面として、ステント に対する薬剤徐放性の付与およびそうしたステントを扱う。
[0075] 心筋梗塞の主要因である心臓冠動脈閉塞症などの治療法として、血管形成術法が 多数実施されている。この方法は、主にバルーン拡張による血管流路の確保やレー ザ一切除による血管形成術によるものであり、良好な治療成績が多数報告されてい る。一方、処置後の血管の再狭窄、再閉塞が 40〜50%の高率で発生することも報 告されており、本術法の問題点であった。
[0076] 再狭窄、再閉塞という物理的な問題に対して、薬剤投与、再度のバルーン力テーテ ル挿入と拡張、またはレーザー処置などが試みられているが、いずれも根本的な解 決策であるとは言い難ぐ患者に大きな苦痛、負担を強いるものであった。そこで血
管内部に留置するステントが使用される。ステントは切開部分を補綴するとともに血管 の収縮を防止して、動脈閉塞症患者の再狭窄の発生率を有効に減少させようとする ものである。
[0077] 血管用ステントは、金属材料または高分子材料力 なる管状の小部材医療器具で ある。これを用いた代表的な閉塞血管の典型的な処置法は次のようである。血管内 腔に挿入したバルーンカテーテルを経由して血管閉塞部内に血管用ステントを留置 する。次いで、バルーンを膨張させることにより非可逆的に該ステントの径を拡大させ る力、あるいは動脈血管内に留置後、磁気誘導方式加熱などの何らかの方法により ステントを自己拡張させて血管の開通性を確保する。このようにして良好な血流を長 期にわたり維持しょうとするものである。
[0078] これまでも冠状動脈閉塞症を始めとして、動脈血管閉塞症の治療を目的にステント の材料、形状、術法に関する種々の提案がなされている。し力しながら、従来の材料 にあっては依然として再狭窄、再閉塞のリスクを完全には避け得ないため、このこと力 S ステントを使用する血管形成術の適用の隘路となっている。よって再狭窄、再閉塞の おそれの少なレ、ステントが医療現場力 強く要望されている。上記薬剤放出性医療 器具の好ましい態様としてステントに応用される場合、薬剤は合成抗凝固剤、杭がん 剤、免疫抑制剤などが使用される。ステントに薬剤放出機能、とりわけ薬剤徐放性を 付与するには、例えば(1)薬剤を含有する組成物をステント表面に適用する(コーテ イング、坦め込みなど)方法、(2)放出もしくは徐放される薬剤、必要であればさらに 放出助剤などを担持する担体を、ステント表面にコーティングする方法のいずれでも よい。 (1)の態様では、有機高分子材料および薬剤を含有する上記薬剤放出制御 組成物が好ましく利用される。また(2)の方法では、ステント表面を覆う高分子材料に 徐放させる薬剤などを担持させてレ、る。
[0079] 具体的な合成抗凝固剤として、塩酸サルポダレラート、アルガトロバンなどが好適で ある。そうした薬剤を含む組成物が、ステントの表面に被膜層としてコーティングされ る。このような薬剤放出性ステントの表面から、血中あるいは血管壁中に該薬剤が所 望の放出速度でかつ持続的に放出される。本発明の組成物は薬剤の放出速度が高 いために、ステントの留置当初から、抗凝固剤が薬効を示すのに充分な量が放出さ
れる。
[0080] ステントが上記の特徴を有する限り、どのような構造、形態、材質、サイズまたは態 様であってもよぐ本発明の様々な適用、応用は当業者にとり容易なことである。した 力 Sつて上記ステントは、脈管(血管、リンパ管、胆管、尿管、気管など)の再狭窄、再 閉塞の防止を目的とするあらゆる局面に適用され得る。
[0081] 本発明のステントは、その表面からアルガトロバン(抗トロンビン薬)または塩酸サル ポグレラート(抗血小板薬)またはその両方の薬剤が徐放されることを特徴としている 。好ましくは、該ステントを構成する金属表面にコーティングされた高分子材料中また は多孔性ステント基材に、徐放される前記薬剤が担持されている。本発明のステント は狭窄冠動脈治療用に好ましく用いられる。
ステント
本発明のステントの材質、構造については、以下に述べる表面処理を施すことを除 けば、事実上いかなる設計のステントでもよい。このことは、各種ステントの特徴およ び機能を保持しつつ、さらに本発明により上記の再狭窄、再閉塞の発生を未然に防 止できることを意味する。
[0082] ステントは血管内に挿入の前後で形状の変化しなレ、もの、あるいはバルーン拡張 型、 自己拡張型、およびその組み合わせであってもよい。本発明に係るステントは、 そのデザインを行レ、うる物理的な性状を有してレ、る材料であれば、レ、かなる材料も好 適に使用しうる。具体的には、金属材料としては従来から使用されているステンレス、 コバルト/クロム合金、タンタノレ、チタン、タングステン、白金、コバルトおよびこれらの 合金などを例示できる。
[0083] 金属以外の素材を使用する場合、後述するように本発明の目的に合うように、その 素材が抗凝固薬剤を担持できるものが好ましい。力かる要求に適う高分子材料として 、 PET (ポリエチレンテレフタレート)、 PBT (ポリブチレンテレフタレート)、ポリカーボ ネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリスチレンなどを例示できる 。生分解性高分子として、ポリ乳酸、ポリダリコール酸、ポリリンゴ酸およびそれらの共 重合体、ポリ力プロラタトンなどのポリヒドロキシエステル系を例示しうる。
[0084] 本発明のステントとして、特に金属の素材が好ましいが、その形状としては、固体成
形物として筒状、ジャバラ状、屈曲箇所を有する構造、メッシュ状、ワイヤ一状であつ てもよく、基本的には血管内留置後の強度、血管壁に対する物理的損傷性に関し問 題の生じなレ、ものであれば種々の形状のものが使用できる。 本発明のステント表面からはアルガトロバン(抗トロンビン薬)および塩酸サルポダレ ラート (抗血小板薬)のうちの少なくとも 1つの薬剤が徐放される。その実現のために、 アルガトロバンまたは塩酸サルポダレラートまたはその両方の合成抗凝固薬剤力;、該 ステントを構成する金属表面にコーティングされた高分子材料中に担持される。
[0085] 血液凝固を抑制する薬剤の一つとして、本発明で使用される抗トロンビン薬のアル ガトロバンは、次式に示す化学構造を有するアルギニン誘導体系合成抗トロンビン薬 である。アルガトロバンの三本足構造が、トロンビンの活性部位と立体的に結合するこ とにより、トロンビンの主作用、すなわちフイブリンの生成作用、ファクタ一 XIIIの活性 化によるフイブリンの安定化作用、血小板凝集作用をいずれも強力に阻害して、抗ト ロンビン作用を発揮する。このようにトロンビンに直接作用するために、へパリンよりも 抗凝血作用に個人差がなぐ確実であり、作用発現も迅速である。また、天然阻止物 質がなぐ分子量も小さいことから、フイブリン結合トロンビンにも作用でき、確実に血 栓の成長を阻止することができる。さらにへパリンでは予防できない高ズリ応力下に 形成される白色血栓にも対応し、これを抑制できる。
[0086] [化 1]
本発明で使用されるもう一つの血液凝固抑制薬剤である、塩酸サルポダレラートは 、血小板活性化を抑制する働きをもち、その作用機序は以下のように考えられている
差簪 ぇ 紙(規則 26)
[0088] 血管内皮障害部位に粘着凝集した活性化血小板が放出するセロトニン (5— HT) は、種々の薬理作用を有しており、血小板膜上および血管平滑筋細胞膜上の 5— H Tレセプターを介して、障害部位における血小板の凝集を増強し、また障害部位の
2
血管を収縮させるとともに、さらに血管平滑筋を増殖させ、末梢循環不全をもたらす。 アンプラーグは、 5 -HTレセプターを選択的にブロックすることで、血小板凝集、とり
2
わけセロトニンにより増強される血小板凝集の抑制作用、血管収縮抑制作用を発現 する。このため塩酸サルポダレラートは、慢性動脈閉塞症モデルをはじめ、種々の血 栓モデルに対して有効性を示す。
[0089] [化 2]
OCOCH2CH2COOH
[0090] これら 2つの薬剤は、特に初期血栓形成の抑制に極めて有効であり、抗凝固療法と して経口投与剤、あるいは静脈への投与が広く臨床応用されている。一方、ステント の留置直後からの数ケ月内の短期間において、留置部位での血栓形成による冠動 脈の閉塞予防は、大きな課題である。したがって本発明のステントを血管などに処置 した場合、これらの抗凝固薬剤をステントから徐放させることで血栓形成による閉塞を 予防することができる。その結果、ステント留置部位での血管などの再狭窄、再閉塞 を有効に抑制することができると期待される。
[0091] アルガトロバンを徐放させる抗血栓性を付与した医療器具としては、前述のように力 テーテルが特開平 6— 292711号公報および特開平 6— 292718号公報に公開されて レ、る。前者には熱可塑性高分子材料にアルガトロバンを溶融混鍊してカテーテルチ ュ一ブに成型することが記載されており、後者にはカテーテルチューブを、アルガトロ バンを溶解した有機溶媒に浸漬することで該チューブ内にアルガトロバンを浸透させ る方法が開示されている。それらの技術において、カテーテル基材であることから機
差替 え 用 紙 (MIU26)
械的強度、成形性に優れた材料が基本であり、使用し得る材料として、セグメントィ匕 ナイロン、セグメントィ匕ポリウレタン、セグメント化ポリエステルなどの結晶性熱可塑性 エラストマ一が好ましレ、材料として提案されてレ、る。
-ステントにおける薬剤の担持
本発明の薬剤放出型ステントは上記の抗血液凝固薬剤を担持しており、所定の血 管内部に留置されると担持されていた薬剤が、ある一定の期間にわたり放出される。 その薬剤を含有する上記ポリマーのステント上への担持方法については、様々な適 用形態が可能であり、特に制限はないが、放出のタイミングと放出速度、放出の量お よび期間が調整できるような担持形態が望まれる。例えばステントを構成する金属表 面上にレーザーアブレーシヨンまたはプラズマエッチングなどによって微細孔を設け 、ここに薬剤を封じ込める方法、ステントを多孔質金属または多孔質無機材料により 形成し、その多孔質部に薬剤を封じ込める方法、ステントを形成する金属表面に、そ の薬剤を含有する高分子層を形成する方法、ステントそのものを薬剤含有高分子で 作製する方法、薬剤を担持する薬物送出用のフィルム、テープなどを卷きつける方 法などが挙げられる。中でも金属ステント表面に該薬剤を含有する高分子の層を形 成する方法は簡便な方法である。この方法は現行のステント技術が利用でき、ステン ト表面がそのまま機能性表面に変化するために幅広く適用できるので好ましい。 前記ステントを構成する金属表面が多孔体である場合、徐放される前記薬剤を高 分子中に分散させてから該多孔体の孔部分に担持させる。多孔性ステント基材の孔 径を制御し、薬剤を担持した高分子材料をその孔中に保持させることにより、該薬剤 を所望の放出速度でかつ持続的に放出させることが可能である。前記多孔性ステン ト基材における好ましい孔径が 0.01nm〜300nm、好ましくは 0.1nm〜100nmである ステントのコーティングに使用される担持用高分子材料
本発明者らは、上記抗凝固薬剤を一定期間徐放させるには、該薬剤を担持する高 分子材料として薬剤と高分子との相溶性が大きなポイントになり、特に非晶性高分子 への担持がより望ましいことを見出した。さらにガラス転移点が体温である 37°C以下 である材料が好適である。ガラス転移点が 37°C以下の材料であれば血管内に留置し
た時に、該高分子はガラス転移点以上となり主鎖の分子運動性が増し、薬剤放出を 促進する。結晶性高分子を用いた場合には、高分子結晶相と薬剤相が明瞭に相分 離を起こし、薬剤が表面へ偏析する現象が起こることがある。このために薬剤が一挙 に放出される、いわゆるバースト的放出が起きて、その後放出が大幅に低下すること となる。
[0093] 一方、本発明に用いられる抗凝固薬剤は、その化学構造式から示されるように塩基 性基またはイオン性基を有しているので親水性を有するものの、親油性が比較的高 ぐ水への溶解性はかなり低ぐむしろアルコールに対する溶解度が高レ、。したがつ て極端に疎水性の高レ、ポリオレフインなどの高分子材料とは相溶性が低ぐそれらの 材料に対しては結晶性高分子材料と同様に、相分離によるバースト的放出とそれ以 降の溶出速度の極端な低下が予測される。例えば (メタ)アタリレート系の高分子材料 においては、そのエステル残基としては、炭素数が 4以下、すなわちメチルエステル、 ェチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルであること、あるいは親水性を発 現できる水酸基、アルコキシル基、エチレンォキシドエーテル基(_ (CH CH 0) -)を 有するアルキルエステルであることが望ましレ、。
[0094] このため本発明におけるコーティング用の高分子材料として、好ましい非晶性高分 子材料には、ポリブチルメタタリレート、ポリェチルメタタリレート、ポリプロピルメタクリレ ート、ポリヒロドキシェチルメタタリレートなどのポリアルキルメタタリレート、ポリ(ヒロドキ シアルキル)メタタリレートおよびそれらの共重合体;ポリブチルアタリレート、ポリェチ ノレアタリレート、ポリプロピルアタリレート、メトキシェチルアタリレートなどのポリアルキ ルアタリレートおよびその共重合体;ポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネ ートなどの脂肪族ポリカーボネートおよびその共重合体;ポリ酢酸ビュル、ポリビュル ピロリドン、部分鹼化ポリビュルアルコール、ポリビュルエーテルなどのポリビニルイ匕 合物およびその共重合体;乳酸、グリコール酸を一成分とする生分解性高分子、 DL -ポリ乳酸、 DL -乳酸—グリコール酸共重合体などが挙げられるが、これらに限定され るものではない。
[0095] 上記非晶性高分子は結晶性高分子と異なり、有機溶媒への溶解性に優れ、ステン トへのコーティングに当り、多くの有機溶媒が使用の対象となり、技術的利便性も増し
ている。
ίϋ 吝' I
既に述べたように DDSマトリックスを形成する高分子材料に放出を促進する放出助 剤(すなわち「放出助剤」)を加えると薬剤の徐放速度が増大することはステントにお いても例外ではない。したがって、本発明のステントにおいて、上記薬剤を適用する に当り、前述の高分子材料と組み合わせる場合、所望の薬剤放出速度が得られない ときには、放出助剤を用いることで、 目的とする放出速度を得ることができる。特にそ の高分子材料が、体温より高いガラス転移点を有する高分子材料に対し有効であり、 ポリ乳酸、乳酸ーグリコール酸共重合体などの生分解性高分子材料である場合には 、放出助剤を添加するとガラス転移点が低下し効果的である。その助剤として基本的 には脂溶性であるが、ある程度水溶性を示す低分子物質が望ましい。その理由は高 分子と薬剤両者に対する相溶性の問題である。親水性に乏しい長鎖脂肪族エステ ルなどでは該薬剤との相溶性に乏しく好ましくなレ、。また、グリセリンのような水溶性か つ、親油性の極めて低い低分子化合物は、高分子材料および該薬剤との相溶性が 低くやはり望ましくない。本発明における好適な放出助剤として、クェン酸、酒石酸ま たはリンゴ酸から選ばれる有機酸のエステル、あるいはグリセリンのジエステル、モノ エステル (例えばモノァセチン、ジァセチンなど)が挙げられる力 その具体例は上記 で例示したエステルである。
これらの添加剤は、単独で使用することも、あるいは 2種以上を組み合わせて使用 することも可能である。添加量は薬剤放出速度に応じて、適宜設定すればよいが、高 分子材料の重量の概ね 5〜60wt%、好ましくは 10〜60wt%の範囲内にあることが望 ましい。この範囲内にあると良好な添加効果が得られるとともに、コート層は十分な機 械的強度を示し、かつステント表面からコート層が脱落するおそれが小さい。
薬剤含有コート層
ステント表面に薬剤を含有するポリマー層、すなわち薬剤を含有する上記高分子の 層を形成する方法は、薬剤、高分子材料、必要であれば放出助剤などを含むその他 の添加剤を、それらが溶解する共通の溶媒に溶解して得られた溶液をステント表面 に塗布する塗布方法、該溶液にステントを浸漬したのちに引き上げて乾燥する浸漬
の方法、該溶液をステント表面に噴霧してステント上にコートするスプレーコートなど がある。このうち適切にコーティングできる方法は浸漬法であり、この方法によればス テントの内面、外面のいずれにもコーティングを簡便に施しうる。特に血液接触面で あるステント内面のコーティング処理を適切に行えば、抗血栓性の付与、動脈血管の 再閉塞の低減に関し充分な性能が得られる場合が多い。
[0097] 形成されるコート層の厚みは、 0·05 μ πι〜30 μ πιの間にあることが望ましレ、。この範 圏内にあると、十分な薬剤量が担持されるので、 目標とする期間の薬剤放出が確保 され、また心臓の拍動に伴うステントの変形に対して良好な追従性を示し、コート層が ひび割れたり、剥がれ落ちるおそれが小さい。
•薬剤担持量
本発明のステントにおける薬剤担持量は、薬剤の放出速度と放出の持続が望まれ る期間によって決定される。バースト的な短時間の大量放出は、薬剤の短期間の枯 渴に帰結するため、これを回避することが必須のこととなる。放出持続期間は、初期 血栓形成の予防観点から、数週間〜数ケ月間の徐放継続が望ましい。したがって薬 剤の放出速度は、該ステントの留置後 3週間(21日)経過の時点で、アルガトロバン、 塩酸サルポダレラートいずれの薬剤においてもその溶出速度力 I X 10— 3 μ g/mm2 'h〜 1 μ g/mm2' hであることが望ましレ、。より好ましくは、 1 X 10— 3 /i g/mm2 'h〜0.5 μ g/mm2- hである。この範囲内にあると、長期間にわたり抗凝固活性が持続されるので望ましい
[0098] 薬剤の放出速度の上限は毒性量を越えなければ特に限定されるものではないが、 ステント上への薬剤担持量には限界があり、数百 z gが最大量と考えられること、また 最低 40日程度は放出が継続されることが望まれることを併せて考慮すると、実質的に は 1 μ g/mm2 'h程度が最大速度と考えられる。例えば、アルガトロバンのカテーテル 力もの溶出速度については約 1.0 X 10— 4〜1.0 X 10— 1 μ g/cm2 '分、好ましくは 2.5 X 10_4 〜7.0 X 10— 3 x gん m2 '分とされている(人工臓器、 14(2)、 p679〜682 (1985) )。アルガ トロバン、塩酸サルポダレラートの臨床上の血中における有効薬効濃度の知見と上 記知見を合わせ考えると、本発明においてもアルガトロバンおよび塩酸サルポグレラ 一トの溶出速度は、前記文献「人工臓器」に記載された範囲にあることが妥当と考え
られる。しかしながら、前記公表資料は短期留置が前提のカテーテルに対する放出 速度であり、本発明のステントの場合は永久的な留置であることから、留置直後から 最低 3週間程度にわたり、血栓の形成を予防することが必須である。この期間を過ぎ れば内皮細胞の再生などが進み、血栓形成のリスクは大きく低減する。したがって留 置直後の放出速度に加え、留置後 3週間程度経過した時点での放出速度の維持が きわめて重要である。
実施例
[0099] 以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発 明の限定を意図するものではない。実施例中で用レ、る材料、使用量、濃度、処理時 間、処理温度などの数値的条件、処理方法などはこの発明の範囲内の好適例にす ぎない。
[実施例:!〜 3、比較例:!〜 3]
表 1に示すようにポリ乳酸および乳酸 Zグリコール酸共重合体 90mg、放出助剤とし てクェン酸トリェチル 10mg、および抗血小板薬の塩酸サルポダレラート 10mgを、へキ サフルォロイソプロパノール lmLに溶解し、直径 41mmのガラスシャーレ上に流涎し、 風乾して薬剤担持体を得た。これを pH7.4のリン酸緩衝液 lOOmL中に浸漬し、緩衝 液を定期的に採取して、塩酸サルポダレラートの特性吸収帯である 270雇の吸光度( Abs)を測定することで、該薬剤の溶出量の追跡を行った。溶出開始から 3週間後の 吸光度を表 1に示す。
[0100] 比較例:!〜 3として、放出助剤を添加しないこと以外は、実施例と同じ条件で同様な 溶出実験を行った。
[0101] [表 1] ポリマー 放出助剤 放出量 (乳酸 /"ダリコール酸モル比) ( lOmg) (Abs) 実施例 1 100/0 あり 0. 173 比較例 1 100/0 なし 0. 013 実施例 2 85/ 15 あり 0. 120 比較例 2 85/ 15 なし 0. 027 実施例 3 50/50 あり 0. 067 比較例 3 50/50 なし 0. 002
[0102] [実施例 4〜6、比較例 4]
乳酸 Zグリコール酸(50/50)共重合体 90mg、放出助剤として、酒石酸ジアルキル 10 mg、および抗血小板薬の塩酸サルポダレラート 10mgを、へキサフルォロイソプロパノ ール lmLに溶解し、直径 41mmのガラスシャーレ上に流涎し、風乾して薬剤担持体を 得た。これを pH7.4のリン酸緩衝液 lOOmL中に浸漬し、緩衝液を定期的に採取して、 塩酸サルポダレラートの特性吸収帯である 270nmの吸光度を測定することで、該薬剤 の溶出量の追跡を行った。溶出開始から 3週間後の吸光度を表 2に示す。
[0103] [表 2]
[0104] [実施例 7〜: 10、比較例 5、 6]
表 3に示すようにポリ乳酸および乳酸 Zグリコール酸共重合体 90mg、放出助剤とし て、酒石酸ジェチルまたはクェン酸トリェチル 10mg、および抗トロンビン薬のアルガト ロバン 10mgを、へキサフルォロイソプロパノール lmLに溶解し、直径 41mmのガラスシ ヤーレ上に流涎し、風乾して薬剤担持体を得た。これを pH7.4のリン酸緩衝液 lOOmL 中に浸漬し、緩衝液を定期的に採取して、アルガトロバンの特性吸収帯である 330nm の吸光度を測定することで、該薬剤の溶出量の追跡を行った。溶出開始から 3週間 後の吸光度を表 3に示す。
[0105] 比較例 5、 6として、放出助剤を添加しないこと以外は、実施例と同じ条件で同様な 溶出実験を行った。
[0106] [表 3]
ポリマー (90mg) 放出助剤 ( l Omg) 放出量 (乳酸/ダリコール酸モル比) (Abs) 実施例 Ί 100/0 酒石酸ジェチル 0. 310 実施例 8 100/0 クェン酸トリェチル 0. 092 比較例 5 100/0 なし 0. 056 実施例 9 50/50 酒石酸ジェチル 0. 200 実施例 10 50/50 クェン酸トリエチル 0. 052 比較例 6 50/50 なし 0. 034
[0107] [実施例 11〜16、比較例 7、 8]
表 4に示すようにポリ乳酸および乳酸/ダリコール酸共重合体 90mg、放出助剤とし て、酒石酸ジェチル 10〜30mg、および抗トロンビン薬のアルガトロバン lOmgを、へキ サフルォロイソプロパノール lmLに溶解し、直径 18mmの SUS316Lシャーレ上に流 涎し、風乾して薬剤担持体を得た。これを pH7.4のリン酸緩衝液 50mL中に浸漬し、 緩衝液を定期的に採取して、アルガトロバンの特性吸収帯である 330nmの吸光度を 測定することで、該薬剤の溶出量の追跡を行った。溶出開始から 7日後の吸光度を 表 4に示す。
[0108] 比較例 7、 8として、放出助剤を添加しないこと以外は、実施例と同じ条件で同様な 溶出実験を行った。
[0109] [表 4]
[実施例 17〜19]
表 5に示すようにポリ乳酸 90mg、放出助剤として、酒石酸ジェチル 30mg、ならびに
抗トロンビン薬のアルガトロバンを表 5に示す量、枰取し、へキサフルォロイソプロパノ ール lmLに溶解し、該溶液 600 μ Lを直径 18mmの SUS316Lシャーレ上に流涎し、 風乾して薬剤担持体を得た。これを PH7.4のリン酸緩衝液 50mL中に浸漬し、緩衝液 を定期的に採取して、アルガトロバンの特性吸収帯である 330nmの吸光度を測定す ることで、該薬剤の溶出量の追跡を行った。溶出開始から 2週間後の吸光度を表 5に 示す。
[表 5]
[0112] [実施例 20、 21]
ポリ乳酸 90mg、放出助剤として酒石酸ジメチルまたはリンゴ酸ジェチル 30mg、およ び抗トロンビン薬のアルガトロバン 30mgをへキサフルォロイソプロパノール lmLに溶 解し、該溶液 600 μ Lを直径 18mmの SUS316L製のシャーレ上に流涎し、風乾して 薬剤担持体を得た。これを pH7.4のリン酸緩衝液 50mL、 pH7.4中に浸漬し、緩衝液 を定期的に採取して、アルガトロバンの特性吸収帯である 330nmの吸光度を測定す ることで、該薬剤の溶出量の追跡を行った。溶出開始力 2週間後の吸光度を表 6に 示す。
[実施例 22、 23]
ポリ乳酸 90mg、放出助剤としてグリセリンのモノ酢酸エステルであるモノァセチン 20 mg、あるいはグリセリンのジ酢酸エステルであるジァセチン 20mg、および抗トロンビン 薬のアルガトロバン 20mgをトリフルォロエタノール lmUこ溶解し、該溶液 600 μ Lを直 径 18mmの SUS316L製のシャーレ上に流涎し、風乾して薬剤担持体を得た。これを
pH7.4のリン酸緩衝液 50mL、 pH7.4中に浸漬し、緩衝液を定期的に採取して、アル ガトロバンの特性吸収帯である 330nmの吸光度を測定することで、該薬剤の溶出量の 追跡を行った。溶出開始から 3週間後の吸光度を表 7に示す。
[0116] 以下の実施例における放出速度は以下のように定義される。薬剤担持体を 21日間 連続的に PH7.4のリン酸緩衝液(PBS)に 37°Cのもとで浸漬し、この間の PBSの吸光度 変化を観測する。 20日目の吸光度と 21日目の吸光度の差から、この 24時間における 薬剤溶出量を求め、これを 24時間および、担持体の表面積で除して得られる値を放 出速度とする(単位: μ g/(h' mm2))。ステントの表面積は、ステントを顕微鏡観察する ことで、その厚みと形状展開図を求め、これをもとに面積を求めることができる。
[実施例 24〜33]
アルガトロバンまたは塩酸サルポダレラート 15mg、表 8に示す非晶性ポリマー 50mg をメタノール 0.6mLに溶解し、直径 16mmの SUS製シャーレにキャストし、風乾'真空乾 燥することで薬剤担持体を得た。担持体を pH7.4のリン酸バッファー 50mL中に浸漬し 、緩衝液を定期的にサンプリングし、アルガトロバンについては特性吸収帯である、 3 30nmの吸光度、塩酸サルポダレラートについては 270nmの吸光度を測定することで 溶出量を測定し、放出速度を求めた。その結果を表 8に示す。
[0117] [表 8]
実施 放出速度
ポリマー 薬剤
例 (10"V g/mm2 -b) 4 ァノレガトロバン 8. 9
Po l yMEA
25 塩酸サルポダレラート 1 1. 5
26 アルガトロバン 16. 8
Poly醒 A
27 塩酸サルポダレラート 28. 2
28 ァノレガト ロノ ン 3. 1
Po ly EVE
29 塩酸サルポグレラート 2. 9
30 ァノレガト ロバン 20. 2
Po ly (MEA/HEMA)
31 塩酸サルポグレラート 24. 6
32 アルガトロバン 15. 9
PolyDnPAAra
33 塩酸サルポグレラート 18. 1
Po lyMEA : ホ。リ(2—メトキシェチルアクレレート) Po l yHEMA : ホ5リ(2—ヒ卜"口キシシェチルメタクレレート) Po l y EVE : ホ。リエチルヒ "二/レエ一テル Po ly (MEA/HEMA) : 2—メトキシェチルアクレレート /2_ヒト"口キシシ ェチルメタクリレ ト共重合体 Pol yDnPAAm:ホ。リ (N, — n -フ。ロピルアタリルァミド)
[0118] [比較例 9〜14]
実施例 24に示す非晶性ポリマーの代わりに結晶性のポリ力プロラタトン、ポリヒドロキ シ酪酸、ポリ力プロラタタムを用いた他は実施例 24と同様にしてアルガトロバン、塩酸 サルポダレラートの放出速度を求めた結果を表 9に示す。
[0119] [表 9]
[0120] [実施例 34〜40、比較例 15〜17]
表 10に示す非晶性を示す(DL)ポリ乳酸、および (DL)乳酸/ダリコール酸共重合体 5 Omgに放出助剤 15mg、アルガトロバン、あるいは塩酸サルポダレラート 15mgをへキサ フルォロイソプロパノール 0.5mLに溶解し、直径 16mmの SUSシャーレ上に流涎、風乾 '真空乾燥することで薬剤担持体を得た。これを ρΗ7·4のリン酸バッファー 50mL中に
浸漬し、緩衝液を定期的にサンプリングし、アルガトロバンについては特性吸収帯で ある、 330nmでの吸光度、塩酸サルポダレラートについては 270nmでの吸光度を測定 することで溶出量を測定し、放出速度を求めた。比較例として、結晶性のポリ(L)乳 酸、および (L)乳酸 ·グリコール酸共重合体 (50:50)を用いた以外は実施例 34〜40と 同じ条件で同様な溶出実験を行つた。これらの実施例および比較例の結果を表 10に 示す。
[表 10]
[実施例 41]
(ステント留置試験)
アルガトロバン 24mg、塩酸サルポダレラート 24mg、酒石酸ジェチル 24mg、(DL)乳酸 /ダリコール酸共重合体(50: 50) 80mgをへキサフルォロイソパノール 10mLに溶解し てコーティング液を作製した。このコーティング液に Co-Cr合金製冠状動脈用ステント (直径 1.55 φ、長さ 17.4mm)を浸漬し、ディップコーティング法により、ステント表面に 0 .6mgのコーティングをおこなった。コーティングしたステント 3本とコーティングをおこな つていないベアメタルステント 3本を 12ヶ月齢のミニブタ 3頭の冠動脈に各々 1本づっ 留置し、 1力月後に屠殺してステントの開存状態を評価した。薬剤をコーティングした ステントはコーティングしないステント(ベアメタルステント)に比べ 3頭とも開存状態が よ アルガトロバンおよび塩酸サルポダレラートにより狭窄抑制効果が認められた。