明 細 書
シリコンゥエーハの製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、スリップ発生なしで、シリコンゥヱ一八を製造する方法に関する。
背景技術
[0002] シリコン単結晶は CZ (チヨクラルスキー法)によって引上げ成長されることによって製 造される。引上げ成長されたシリコン単結晶のインゴットはシリコンゥエーハにスライス される。半導体デバイスはシリコンゥエーハの表面にデバイス層を形成するデバイス 工程を経て作成される。
[0003] しかし、シリコン単結晶の成長の過程でグローイン(Grown-in)欠陥(結晶成長時導 入欠陥)と呼ばれる結晶欠陥が発生する。
[0004] 近年、半導体回路の高集積化、微細化の進展に伴い、シリコンゥエーハのうちデバ イスが作成される表層近くには、こうしたグローイン欠陥が存在することが許されなく なってきてレ、る。このため無欠陥結晶の製造の可能性が検討されてレ、る。
[0005] 一般にシリコン単結晶に含まれデバイスの特性を劣化させる結晶欠陥は、以下の 3 種類の欠陥である。
[0006] a) COP (Crytstal Originated Particle)などと呼ばれる、空孔が凝集して生じるボイド (空洞)欠陥。
[0007] b) OSF (酸化誘起積層欠陥, Oxidation Induced Stacking Fault )
c)格子間シリコンが凝集して生じる転位ループクラスタ (格子間シリコン型転位欠陥 、ト defect
[0008] 無欠陥のシリコン単結晶とは、上記 3種の欠陥のいずれも含まなレ、か、実質的に含 まなレ、結晶として認識なレ、しは定義されてレ、る。
[0009] 上記 3種の欠陥の発生挙動は成長条件によって以下のように変化することが知られ ている。図 1 (a)を併せ参照して説明する。図 1 (a)において横軸は、後述する成長条 件 V/G1であり、 G1を固定とすれば成長速度 Vの関数と考えられる。図 1 (a)の縦軸 は、点欠陥濃度 I (Cv— Cv, eg) - (Ci- Ci, eg) |である。ただし、 Cvはシリコン単
結晶 10中の空孔濃度で、 Cv,eqはシリコン単結晶 10中の空孔の熱平衡濃度である。 空孔が過剰に取り込まれた場合、温度の低下に伴い空孔の過飽和度(Cv/Cv,eq)が 増加し、臨界値に達したところでボイド欠陥が形成される。 Ciはシリコン単結晶 10中 の格子間シリコンの濃度で、 Ci,eqはシリコン単結晶 10中の格子間シリコンの熱平衡 濃度である。
[0010] 図 1 (a)において 100A、 100B、 100C、 100D、 100Eはシリコン単結晶 10から取 得されるシリコンゥヱーハ 100の面中心と端 (エッジ)の間における各種欠陥のサイズ と密度を概念的に示している。シリコンゥヱーハ 100の面中心と端は、シリコン単結晶 10の結晶中心と結晶端 (結晶外周)に対応している。図 1 (b)、(c)、(d)、(e)は、 10 0A、 100B、 100C、 100D、 100Eそれぞれに対応するシリコンゥヱーハ 100の面内 の概念図であり、ゥエーハ面内における各種欠陥のサイズと密度を概念的に示して いる。
[0011] i)成長速度 Vが速い場合には、図 1に 100A、 100Bに示されるように、シリコン単結 晶 10は空孔型点欠陥が過剰となり、ボイド欠陥のみが発生する。
[0012] ii)成長速度 Vを減じると、 100Cに示されるように、シリコン単結晶 10の外周付近にリ ング状に〇SF (R—OSF)が発生し、 R—OSF部の内側にボイド欠陥が存在する構 造となる。
[0013] iii)成長速度 Vを更に減じると、 100Dに示されるように、リング状の OSF (R—OSF) の半径は減少し、リング状 OSF部の外側に欠陥が存在しない領域が生じ、 R-OSF 部の内側にボイド欠陥が存在する構造となる。
[0014] iV)さらに成長速度 Vを減じると、 100Eに示すように、シリコン単結晶 10全体に転位 ループラスタが存在する構造となる。
[0015] 上述した現象が起こるのは成長速度 Vの減少に伴いシリコン単結晶 10が空孔型点 欠陥過剰な状態から格子間型点欠陥過乗 IJな状態へと変化するためであると考えられ ている。
[0016] 図 1 (a)において、ボイド欠陥が高密度に存在する領域を、 V—リッチ領域(空孔型 点欠陥優勢領域)といい、 I-リッチ領域 (格子間型点欠陥優勢領域)というものとする
[0017] 上記 3種の欠陥のうち特に a)のボイド欠陥は、微細化したデバイスで素子分離不良 などの原因となるため、その低減が特に必要とされている。
[0018] ボイド欠陥は、結晶成長時にシリコン融液から取り込まれた原子空孔(点欠陥)が、 結晶冷却中に臨界過飽和度に達することによって凝集して生じるものであり、その欠 陥検出方法によって LPD (レーザ パーティクル ディフエタト)、 COP (クリスタル ォ リジネィテイド パーティクル)、 FPD (フロー パターン ディフエタト)、 LSTD (レーザ スキヤッタリング トモグラフィ ディフエタト)などと呼ばれる。
[0019] 図 1 (a)に 100A、 100Bに示されるように、ボイド欠陥がシリコンゥエーハ全面に存 在するような V—リッチ領域となる条件で、シリコン単結晶 10を引上げ成長すると、こ のシリコン単結晶 10から取得されたシリコンゥヱーハ 100では、表面にボイド欠陥が 顕在化した COP等が存在することとなり、酸化膜耐圧特性の劣化を招き、デバイスの 特性を劣化させる。例えば、微細化したデバイスで素子分離不良を招く。このため、 上記 3種の欠陥のうち特に a)のボイド欠陥は、その低減が特に必要とされている。特 にデバイス線幅が COPサイズ近くまで微細化が進んだ現在では、 COP等の低減が 必要になっている。
[0020] もちろん、欠陥が存在しないシリコン単結晶 10を製造すればよいが、そのためのシ リコン単結晶製造には非常に精密な引上げ制御が必要であり、また生産性も劣ると レ、う欠点がある。
[0021] 一方、格子間型点欠陥がシリコンゥエーハ全面に存在するような I リッチ領域とな る条件で、シリコン単結晶 10を引上げ成長させた場合には、 COP等が殆どないため 、酸化膜耐圧特性が良好で、デバイスの特性を劣化させることはないと従来は、考え られていた。
[0022] つぎに本願発明に関連する従来技術であって、特許文献に示された従来技術に ついて説明する。
[0023] (従来技術 1)
特許文献 1 (特開平 11— 349394号公報)には、窒素をドープするとともに、 I一リツ チ領域内に収まる引上げ条件で、シリコン単結晶を引上げ成長させるという発明が記 載されている。
[0024] (従来技術 2)
特許文献 2 (特開平 10— 291892号公報)には、シリコン単結晶中に取り込まれた 酸素は、結晶強度を増加させて転位の運動を阻止し、熱処理によるゥヱーハの変形( 反り)を小さくする働きがあるということが記載されている。
[0025] (従来技術 3)
特許文献 3 (特開 2002— 226295号公報)には、シリコン単結晶中に多くの酸素が 取り込まれることによって、スリップに対する耐性が期待できるということが記載されて いる。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0026] しかし、後述するように、本発明者が実験を行ったところ、 I一リッチ領域に入る引上 げ成長条件でシリコン単結晶を引き上げ成長させたところ、シリコン単結晶の肩部か ら直胴部のトップ部までの部位で、格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発生する という現象を、新たに発見するに至った。
[0027] そして、本発明者は、そのスリップ発生のメカニズムをはじめて解明するに至り、スリ ップを防止するための手段をはじめて見いだすに至った。
[0028] 本発明は、このように I一リッチ領域に入る引上げ成長条件でシリコン単結晶を引き 上げ成長させるに際して、シリコン単結晶の肩部から直胴部のトップ部までの部位で
、格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発生しないようにすることを解決課題とする ものである。
[0029] なお、上記従来技術 1、 2、 3のいずれにも、 I リッチ領域に入る引上げ成長条件 でシリコン単結晶を引き上げ成長させるに際して、シリコン単結晶の肩部から直胴部 のトップ部までの部位で、格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発生しないように するという本発明の新規な解決課題は、開示されていない。
課題を解決するための手段
[0030] 第 1発明は、
石英るつぼに収容されたシリコン融液に種結晶を着液させ、その後シリコン単結晶 を引上げ成長させ、引上げ成長されたシリコン単結晶からシリコンゥエーハを取得す
るようにしたシリコンゥエーハの製造方法において、
I リッチ領域 (格子間型点欠陥優勢領域)に入る条件でシリコン単結晶を引上げ 成長させるに際して、
シリコン単結晶の肩部から直胴部のトップ部までの部位の酸素濃度を、格子間型点 欠陥を起点にしてスリップが発生しない所定濃度以上とする条件で、シリコン単結晶 を引き上げること
を特徴とする。
[0031] 第 2発明は、第 1発明において、
シリコン単結晶の肩部から直胴部のトップ部までの部位の酸素濃度を、 9. 0 X 1017 atomsん m3以上とする条件で、シリコン単結晶を引き上げること
を特徴とする。
[0032] 第 3発明は、第 1発明または第 2発明において、
石英るつぼの回転数を調整することによって、シリコン単結晶の肩部から直胴部の トップ部までの部位の酸素濃度が制御されること
を特徴とする。
[0033] 第 4発明は、第 1発明または第 2発明において、
シリコン融液に対して磁場を印加するとともに、石英るつぼの回転数を調整すること によって、シリコン単結晶の肩部から直胴部のトップ部までの部位の酸素濃度が制御 されること
を特徴とする。
[0034] 第 5発明は、
石英るつぼに収容されたシリコン融液に種結晶を着液させ、その後シリコン単結晶 を引上げ成長させ、引上げ成長されたシリコン単結晶からシリコンゥエーハを取得す るようにしたシリコンゥエー八の製造方法において、
I リッチ領域 (格子間型点欠陥優勢領域)に入る条件でシリコン単結晶を引上げ 成長させるに際して、
シリコン単結晶を肩部から直胴部のトップ部まで形成する過程における結晶中心部 の熱応力値を、シリコン単結晶の肩部から直胴部のトップ部までの部位で格子間型
点欠陥を起点にしてスリップが発生しない熱応力値以下とする条件で、シリコン単結 晶を引き上げること
を特徴とする。
[0035] 第 6発明は、第 5発明において、
シリコン融液に種結晶を着液させてからシリコン単結晶の肩部を形成し始めるまで の時間を、 40時間以内とする条件で、シリコン単結晶を引き上げること
を特徴とする。
[0036] 第 7発明は、第 5発明または第 6発明において、
種結晶の着液後に付け直しなしでシリコン単結晶を引き上げること
を特徴とする。
[0037] 第 8発明は、
石英るつぼに収容されたシリコン融液に種結晶を着液させ、その後シリコン単結晶 を引上げ成長させ、引上げ成長されたシリコン単結晶からシリコンゥエーハを取得す るようにしたシリコンゥエーハの製造方法において、
I リッチ領域 (格子間型点欠陥優勢領域)に入る条件でシリコン単結晶を引上げ 成長させるに際して、
シリコン単結晶の肩部から直胴部のトップ部までの部位の酸素濃度を、格子間型点 欠陥を起点にしてスリップが発生しない所定濃度以上とし、かつシリコン単結晶を肩 部から直胴部のトップ部まで形成する過程における結晶中心部の熱応力値を、シリコ ン単結晶の肩部から直胴部のトップ部までの部位で格子間型点欠陥を起点にしてス リップが発生しない熱応力値以下とする条件で、シリコン単結晶を引き上げること を特徴とする。
[0038] 図 14は、本発明のスリップ発生有無のメカニズムを示している。
[0039] すなわち、シリコン単結晶 10で転位ループクラスタが発生している箇所に(101)、 熱応力力かかっても(102)、酸素濃度 Oiが高ければ(9. 0 X 1017atoms/cm3 以上 であれば; 103)、結晶強度が強いため(104)、スリップは発生しない(105)。これに 対して、シリコン単結晶 10で転位ループクラスタが発生している箇所に(101)、熱応 力力かかると(102)、酸素濃度 Oiが低ければ(9. 0 X 1017atoms/cm3 よりも小さけ
れば; 106)、結晶強度が弱いため(107)、スリップが発生する(108)。
[0040] そこで、本発明では、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲でスリップを 発生させないために、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部まで の部位の酸素濃度 Oiを、格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発生しなレ、所定濃 度以上とする条件で、具体的には、 9. 0 X 1017atoms/cm3以上とする条件で、シリコ ン単結晶 10を引き上げれることを特徴とする(第 1発明、第 2発明)。
[0041] また、本発明では、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲でスリップを発 生させないためには、シリコン単結晶 10を肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部まで 形成する過程における結晶中心部の熱応力値を、シリコン単結晶 10の肩部 10Aか ら直胴部 10Bのトップ部までの部位で格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発生し ない熱応力値以下とする条件で、シリコン単結晶を引き上げることを特徴とする(第 5 発明)。
[0042] また、本発明では、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲でスリップを発 生させないために、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの 部位の酸素濃度〇iを、格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発生しない所定濃度 以上とする条件で、かつ、シリコン単結晶 10を肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部ま で形成する過程における結晶中心部の熱応力値を、シリコン単結晶 10の肩部 10A 力 直月同部 10Bのトップ部までの部位で格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発 生しない熱応力値以下とする条件で、シリコン単結晶 10を引き上げることを特徴とす る(第 8発明)。
[0043] 酸素濃度 Oiを制御する具体的手段は、以下のとおりである。
[0044] すなわち、図 12に示すように、石英るつぼ 3の回転数 C/Rを調整することで、シリコ ン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの部位の酸素濃度 Oiを制御 することができる(第 3発明)。
[0045] また、シリコン融液 5に対して磁場を印加するとともに、石英るつぼ 3の回転数を調 整することによって、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの 部位の酸素濃度〇iを制御することができる(第 4発明)。
[0046] 熱応力値を制御する具体的手段は、以下のとおりである。
[0047] 図 16に示すように、付け直し時間力 ¾ΟΗを超えると、シリコン単結晶 10の肩部 10A 力 直月同部 10Bのトップ部までの部位でスリップが発生することがわかる。
[0048] 図 18に示すように、付け直し時間が長くなると、熱応力値が大きくなり、スリップが発 生しやすくなる。
[0049] そこで、本発明は、スリップ発生を防止するためには、付け直し時間を、 40時間以 内とする条件で、シリコン単結晶 10を引き上げることを特徴とする(第 6発明)。また、 スリップ発生を防止するためには、種結晶 14の着液後に付け直しなしでシリコン単結 晶 10を引き上げることを特徴とする (第 7発明)。
発明を実施するための最良の形態
[0050] 以下図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[0051] 図 2は、実施形態に用いられるシリコン単結晶製造装置の構成の一例を側面から みた図である。
[0052] 同図 2に示すように、実施形態の単結晶引上げ装置 1は、単結晶引上げ用容器とし ての CZ炉(チャンバ) 2を備えてレ、る。
[0053] CZ炉 2内には、多結晶シリコンの原料を溶融して融液 5として収容する石英るつぼ
3が設けられている。石英るつぼ 3は、その外側が黒鉛るつぼ 11によって覆われてい る。石英るつぼ 3の外側にあって側方には、石英るつぼ 3内の多結晶シリコン原料を 加熱して溶融する主ヒータ 9が設けられている。石英るつぼ 3の底部には、石英るつ ぼ底面を補助的に加熱して、石英るつぼ 3の底部の融液 5の固化を防止する補助ヒ ータ(ボトムヒータ) 19が設けられている。主ヒータ 9、補助ヒータ 19はそれらの出力( パワー; kW)は独立して制御され、融液 5に対する加熱量が独立して調整される。た とえば、融液 5の温度が検出され、検出温度をフィードバック量とし融液 5の温度が目 標温度になるように、主ヒータ 9、補助ヒータ 19の各出力が制御される。
[0054] 主ヒータ 9と CZ炉 2の内壁との間には、保温筒 13が設けられている。
[0055] 石英るつぼ 3の上方には引上げ機構 4が設けられている。引上げ機構 4は、引上げ 軸 4aと引上げ軸 4aの先端のシードチャック 4cを含む。シードチャック 4cによって種結 晶 14が把持される。
[0056] 石英るつぼ 3内で多結晶シリコン(Si)が加熱され溶融される。融液 5の温度が安定
化すると、引上げ機構 4が動作し融液 5からシリコン単結晶 10 (シリコン単結晶)が引 き上げられる。すなわち引上げ軸 4aが降下され引上げ軸 4aの先端のシードチャック 4cに把持された種結晶 14が融液 5に着液される。種結晶 14を融液 5になじませた後 引上げ軸 4aが上昇する。シードチャック 4cに把持された種結晶 14が上昇するに応じ てシリコン単結晶 10が成長する。
[0057] 引上げの際、石英るつぼ 3は回転軸 110によって回転速度 C/Rで回転する。また引 上げ機構 4の引上げ軸 4aは回転軸 110と逆方向にあるいは同方向に回転速度 S/R で回転する。
[0058] 回転軸 110は鉛直方向に駆動することができ、石英るつぼ 3を上下動させ任意のる つぼ位置 C/Pに移動させることができる。
[0059] CZ炉 2内と外気を遮断することで炉 2内は真空(たとえば 20TOIT程度)に維持され る。すなわち CZ炉 2には不活性ガスとしてのアルゴンガス 7が供給され、 CZ炉 2の排 気口からポンプによって排気される。これにより炉 2内は所定の圧力に減圧される。
[0060] 単結晶引上げのプロセス(1バッチ)の間で、 CZ炉 2内には種々の蒸発物が発生す る。そこで CZ炉 2にアルゴンガス 7を供給して CZ炉 2外に蒸発物とともに排気して CZ 炉 2内力 蒸発物を除去しクリーンにしている。アルゴンガス 7の供給流量は 1バッチ 中の各工程ごとに設定する。
[0061] シリコン単結晶 10の引上げに伴レ、融液 5が減少する。融液 5の減少に伴レヽ融液 5と 石英るつぼ 3との接触面積が変化し石英るつぼ 3からの酸素溶解量が変化する。この 変化が、引き上げられるシリコン単結晶 10中の酸素濃度分布に影響を与える。
[0062] 石英るつぼ 3の上方にあって、シリコン単結晶 10の周囲には、略逆円錐台形状の 熱遮蔽板 8 (ガス整流筒)が設けられている。熱遮蔽板 8は、保温筒 13に支持されて いる。熱遮蔽板 8は、 CZ炉 2内に上方より供給されるキャリアガスとしてのアルゴンガ ス 7を、融液表面 5aの中央に導き、さらに融液表面 5aを通過させて融液表面 5aの周 縁部に導く。そして、アルゴンガス 7は、融液 5から蒸発したガスとともに、 CZ炉 2の下 部に設けた排気口から排出される。このため液面上のガス流速を安定化することがで き、融液 5から蒸発する酸素を安定な状態に保つことができる。
[0063] また熱遮蔽板 8は、種結晶 14および種結晶 14により成長されるシリコン単結晶 10
を、石英るつぼ 3、融液 5、主ヒータ 9などの高温部で発生する輻射熱から、断熱、遮 蔽する。また熱遮蔽板 8は、シリコン単結晶 10に、炉内で発生した不純物(たとえば シリコン酸化物)等が付着して、単結晶育成を阻害することを防止する。熱遮蔽板 8の 下端と融液表面 5aとのギャップ 90の大きさは、回転軸 110を上昇下降させ、石英る つぼ 3の上下方向位置を変化させることで調整することができる。また熱遮蔽板 8を昇 降装置により上下方向に移動させてギャップ 90を調整してもよい。
[0064] ギャップ 90、引上げ軸 4aの引上げ速度 Vを調整することによって、後述するように V /G1 (V:成長速度、 G1 :シリコン単結晶 10の融点近傍(融点〜 1350° C)での軸方 向温度勾配)を制御することができる。
[0065] また引上げ中に、るつぼ回転数 C/R、引上げ軸回転数 S/R、アルゴンガス流量、 炉内圧等を調整することによって、シリコン単結晶 10中の酸素濃度(atoms/cm3)を 制卸すること力 Sできる。
[0066] CZ炉 2のトップ部 2Α (以下トップチャンバという)には、司見窓 20が設けられている。
司見窓 20を通して、シリコン単結晶 10の成長の様子を観察することができる。
[0067] 図 2の装置によって製造されたシリコン単結晶 10のインゴットは切断装置によって 切断されて、シリコンゥエーハ 100が採取される。
[0068] 本実施形態では、 Ρ型のシリコン単結晶 10を引上げ成長される場合を想定する。こ のために、石英るつぼ 3内には、ボロン Β等のドーパントが予め投入される。ドーパン トの投入量を調整することによって、シリコン単結晶 10中のドーパント濃度が制御さ れ、所望の抵抗率の Ρ型のシリコン単結晶 10を引上げ成長させることができる。また、 本実施形態では、直径 300mmのシリコン単結晶 10を引上げ成長させる場合を想定 する。すなわち、種結晶 14の融液 5への着液後、肩部を形成した後、直径 300mm の直月同部が形成される。
[0069] また、本実施形態では、磁場印加引上げ法によってシリコン単結晶 10が引き上げ られる場合を想定する。すなわち、石英るつぼ 3内の融液 5に対して、たとえば水平 磁場 (横磁場)を印加するこによって、石英つるぼ 3内での融液 5の対流の発生が抑 制され、安定した結晶成長が行われる。なお、水平磁場の代わりにカスプ磁場を印 加してもよい。
[0070] まず、本件発明の知見について説明する。
[0071] 図 3は、成長速度 Vによって、シリコン単結晶 10中に発生する転位を模式的に示し たものである。
[0072] 成長速度 Vを速くして、図 1 (a)に示す V—リッチ領域 (空孔型点欠陥優勢領域)で シリコン単結晶 10を引上げ成長させると、図 3 (b)に示すように、シリコン単結晶 10中 に、ボイド欠陥(COP)が高密度で発生する。これに対して、図 1 (a)に示す I—リッチ 領域 (格子間型点欠陥優勢領域)でシリコン単結晶 10を引上げ成長させると、図 3 (a )に示すように、シリコン単結晶 10中に、格子間点欠陥(転位ループクラスタ)が高密 度で発生する。
[0073] 本発明者らは、シリコン単結晶 10の肩部から直胴部のトップ部までの部位でスリツ プが発生する現象を発見した。
[0074] まず、そのスリップと欠陥密度の関係について調べた。
[0075] 図 4 (a)は、シリコン単結晶 10の肩部 10A、直胴部 10B、テール部 10Cを模式的に 示している。
[0076] シリコン単結晶 10の肩部 10Aの一部 S1を縦割り試料として、 Cuデコレーション法 により X線評価した。
[0077] 図 5は、 X線評価結果を示している。
[0078] 図 5 (a)はスリップが発生した試料の写真を示し、図 5 (c)は図 5 (a)のスリップ発生 部位を拡大して示している。図 5 (b)はスリップが発生しな力 た試料の写真を示し、 図 5 (d)は同様の部位を拡大して示している。
[0079] これら図 5から、スリップが発生するシリコン単結晶 10は、肩部 10Aにおいて、転位 の密度が大きいということがわかる。
[0080] 図 4 (b)は、図 4 (a)と同様にシリコン単結晶 10の肩部 10A、直胴部 10B、テール部 10Cを模式的に示している。
[0081] シリコン単結晶 10の直胴部 10Bのトップ部 S2を試料として、 Cuデコレーション法に より X線評価した。なお、肩部 10Aと直月同部 10Bとの境界位置を本明細書では「直胴 Omm」という。トップ部 S2は、直胴 Omm付近の部位のことである。
[0082] 図 6は、 X線評価結果を示している。
[0083] 図 6 (a)はスリップが発生した試料の写真を示している。図 6 (b)はスリップが発生し な力 た試料の写真を示してレ、る。
[0084] これら図 6からも、図 5と同様に、スリップが発生するシリコン単結晶 10は、直胴部 1
0Bのトップ部におレ、て、転位の密度が大きいとレ、うことがわかる。
[0085] つぎにシミュレーションを行レ、、シリコン単結晶 10を引き上げるときの結晶各部の熱 応力と結晶中心部の温度とスリップとの関係につレ、て検討した。
[0086] 図 7は、シリコン単結晶 10を引上げ成長させる過程において、結晶中心部の温度 分布と結晶各部での熱応力の分布を示している。 07 (a) , (b)、 (c)、(d)、(e)、 (f) の順にシリコン単結晶 10の引き上げ高さが大きくなる。このシミュレーションの結果、 図 7 (c)に示す引上げ高さになったとき、シリコン単結晶 10でスリップが位置 Aで発生 した。
[0087] 図 8は、図 7に対応させて引上げ高さ S/Pと温度と応力との関係を示す。
[0088] 図 8において Bは、転位ループクラスタが形成される温度領域(980° C〜1000° C) を示す。同図 8から明らかなように、温度が転位ループクラスタが形成される温度領域 内に入ったときであって、応力値が最も強くなるときにスリップが発生したと考えられる 。また、スリップが発生する位置は、肩部 1 OAから直胴部 10Bのトップ部までを引き上 げる過程で結晶中心部に存在する応力集中箇所であると考えられる。
[0089] 図 9は、結晶中心部を境に左右で、肩形状、結晶引上げ速度 S/L等の条件を異な らせたときの熱応力値の分布を、対比して示している。図 9の結晶中心部を境に左側 のシリコン単結晶 10と右側のシリコン単結晶 10とでは、肩形状等の弓 1上げ条件が異 なっている。図 9の左側のシリコン単結晶 10と、右側のシリコン単結晶 10を対比する と、両者は、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までを引き上げる過程で、結晶中心 部に、熱応力値が高い応力集中箇所が存在しているのがわかる。ただし、左側のシリ コン単結晶 10と右側のシリコン単結晶 10とでは、引上げ条件の相違によって、結晶 中心部の応力集中箇所の高さが異なっている。
[0090] つぎに結晶中心部の応力集中箇所が異なることによって、スリップ発生位置が異な ることを検証した。
[0091] 図 10は肩形状が異なるシリコン単結晶 10の試料を対比して示している。
[0092] 図 10は直胴 Ommの位置で、 X線評価した結果を示している。図 10 (a)に示す試料 では、シリコン単結晶 10の径方向の外側にスリップが確認された。図 10 (b)に示す別 の試料では、シリコン単結晶 10の径方向のほぼ中心位置でスリップが確認された。
[0093] 図 11は同じく肩形状が異なるシリコン単結晶 10の試料を対比して示している。図 1 1は、 X線評価した結果を模式的に示している。図 11 (a)に示す試料では、シリコン 単結晶 10の直胴 0mmから 150mmだけ高い位置を起点としてスリップが発生してい ることが確認された。図 11 (b)に示す別の試料では、シリコン単結晶 10の直胴 Omm 力 20mmだけ高い位置を起点としてスリップが発生していることが確認された。
[0094] このように肩形状の相違によって、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までを引き 上げる過程における結晶中心部の応力集中箇所が異なり、それによつてスリップは、 肩部 10Aから直月同部 10Bのトップ部までの範囲で、様々な箇所で発生することが確 認された。
[0095] シリコン単結晶 10中の酸素濃度は、前述した特許文献 2、 3に示すように、結晶の 強度に影響を及ぼすことがわかっている。そこで、上述したように、肩部 10Aから直 胴部 10Bのトップ部までの範囲でスリップが発生していることから、この範囲における シリコン単結晶 10中の酸素濃度がどのようにスリップに影響を及ぼしているかを確か めるために実験を行った。
[0096] 図 12、図 13は実験結果を示す。本実施例では、酸素濃度〇i (atomsん m3)を制御 する手段として、るつぼ回転数 C/Rを調整する手段を用いた。
[0097] その他の条件は、以下の通りである。すなわち、石英るつぼ 3内の融液 5に対して は、水平磁場 (横磁場)を印加した。融液 5に水平磁場を印加しながらるつぼ回転数 C/Rを調整すると、酸素濃度 Oi (atoms/cm3)の制御性が良い。
[0098] 石英るつぼ 3内には、ボロン Bを予め投入して、所望の抵抗率の P型のシリコン単結 晶 10を引上げ成長させた。なお、以下の実施例においては、ボロン Bの代わりに、リ ン 、砒素 As、ゲルマニウム Ge、インジウム In等の同様に結晶硬化効果のあるドーパ ントを使用してもよレ、。また、直径 300mmのシリコン単結晶 10を引上げ成長させた。
[0099] また、後述する比較例 L4の場合を除いて、 I一リッチ領域に入る条件でシリコン単結 晶 10を引上げ成長させた。すなわち、総合伝熱解析 FEMAGを用いて、
V/Glが、
V/GK O. 15mm2/° Cmin
となる条件で引き上げた。引上げ軸 4aの引上げ速度 Vは、 0. 3mm/minに調整し、 熱遮蔽板 8の下端と融液表面 5aとのギャップ 90は、 30mmに調整した。
[0100] また、後述する比較例 L5の場合を除いて、石英るつぼ 3内に原料多結晶シリコンを
250kgチャージしてシリコン単結晶 10を引上げ成長させた。
[0101] 図 12は、シリコン単結晶 10の軸方向位置と、るつぼ回転数 C/Rとの関係を示す。
[0102] 図 13は、図 12に対応させて、シリコン単結晶 10の軸方向位置とシリコン単結晶 10 中の酸素濃度〇i (atomsん m3)との関係を示している。図 13 (a)は、肩部 1 OAに対応 する図であり、横軸は、肩長さ(mm)である。図 13 (b)は直胴部 10Bに対応する図で あり、横軸は、直胴長さ(mm)であり、図中左端がシリコン単結晶 10の直胴 Ommの 位置に相当する。
[0103] 図 12に示すように、 L1は、肩部 10Aから直月同部 10Bのトップ部までの各位置にお けるるつぼ回転数 C/Rを Xi"pmに調整した場合の特性を示し、 L2は、肩部 10Aから 直胴部 10Bのトップ部までの各位置におけるるつぼ回転数 C/Rを 3Xrpmにした場 合の特性を示し、 L3は、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの各位置における るつぼ回転数 C/Rを 4Xrpmにした場合の特性を示している。なお、るつぼ回転数 C/ Rの値を 4Xrpmよりも大きく設定すると、シリコン単結晶 10が成長の途中で崩れるお それがある。
[0104] 図 12に示す各特性 Ll、 L2、 L3でるつぼ回転数 C/Rを調整したときの酸素濃度〇i を、図 13 (a)にそれぞれ示す。また、図 12に示す各特性 Ll、 L2、 L3でるつぼ回転数 C/Rを調整したときの酸素濃度〇iの変化を、図 13 (b)にそれぞれ示す。
[0105] 図 13 (a)において、 L4は、 V—リッチ領域に入る条件でシリコン単結晶 10を引上げ 成長させた場合の特性を比較例として示す。また、図 13 (b)において、 L5は、石英る つぼ 3内に原料多結晶シリコンを 300kgチャージしてシリコン単結晶 10を引上げ成 長させた場合の特性を比較例として示す。 L5は、るつぼ回転数 C/Rを 3Xrpmに調 整した場合の特性である。
[0106] 実験の結果、るつぼ回転数 C/Rを Xrpmに調整した L1の特性を持つシリコン単結
晶 10では、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲で、スリップが発生するこ とが確認された。これに対して、るつぼ回転数 C/Rを 3Xi"pmに調整した L2の特性、 4 Xi"pmに調整した L3の特性を持つシリコン単結晶 10では、肩部 10Aから直胴部 10B のトップ部までの範囲で、スリップの発生は確認されなかった。図 13からわかるように 、るつぼ回転数 C/Rを Xrpmに調整した L1の特性を持つシリコン単結晶 10の直胴 0 mmでの酸素濃度 Oiは、 9 X 1017 (atoms/cm3)よりも低レ、。これに対して、るつぼ回 転数 C/Rを 3Χι·ρπιに調整した L2の特性、 4Xrpmに調整した L3の特性を持つシリコ ン単結晶 10の直胴 0mmでの酸素濃度〇iは、 9 X 1017 (atoms/cm3)以上である。
[0107] なお、比較例 L4、 L5についても、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲 で、スリップの発生は確認されなかった。比較例 L4、 L5のシリコン単結晶 10の直胴 0 mmでの酸素濃度 Oiは、 9 X 1017 (atoms/cm3)以上である。
[0108] なお、本実施例では、シリコン融液 5に対して水平磁場を印加するとともに、石英る つぼ 3の回転数を調整することによって、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 1 0Bのトップ部までの部位の酸素濃度 Oiを制御している力 S、水平磁場を印加すること なぐ石英るつぼ 3の回転数 C/Rを調整することで、シリコン単結晶 10の肩部 10Aか ら直胴部 10Bのトップ部までの部位の酸素濃度 Oiを制御してもよい。
[0109] また、本実施例では、酸素濃度 Oiは、石英るつぼ 3の回転数 C/Rを調整することに よって、制御している力 引上げ軸回転数 S/R、アルゴンガス流量、炉内圧等を調整 することによって、シリコン単結晶 10中の酸素濃度 Oiを制御してもよい。この場合も、 酸素濃度 Oiの制御性を高めるために、シリコン融液 5に対して水平磁場を印加する 技術を組み合わせてもよレヽ。
[0110] 以上のシミュレーション、実験結果からわかるように、肩部 10Aから直胴部 10Bのト ップ部までの範囲で、スリップの発生するシリコン単結晶 10の特徴は、以下のとおり であった。
[0111] a) 1_リッチ領域に入る条件でシリコン単結晶 10を引き上げた場合のみ、スリップが 発生する。
[0112] b)スリップが発生するシリコン単結晶 10は、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部まで の範囲で、酸素濃度〇iが、 9. 0 X 1017atoms/cm3よりも低い。
[0113] c)スリップが発生するシリコン単結晶 10は、肩部 10Aから直月同部 10Bのトップ部まで を引き上げる過程において結晶中心部での熱応力値が高い。
[0114] これら a)、 b)、 c)から、スリップ発生有無のメカニズムは、図 14であると推定される。
[0115] すなわち、シリコン単結晶 10で転位ループクラスタが発生している箇所に(101)、 熱応力力かかっても(102)、酸素濃度 Oiが高ければ(9. 0 X 1017atoms/cm3 以上 であれば; 103)、結晶強度が強いため(104)、スリップは発生しない(105)。これに 対して、シリコン単結晶 10で転位ループクラスタが発生している箇所に(101)、熱応 力力かかると(102)、酸素濃度 Oiが低ければ(9. 0 X 1017atoms/cm3 よりも小さけ れば; 106)、結晶強度が弱いため(107)、スリップが発生する(108)。
[0116] ところで、酸素濃度〇iを高めることで結晶強度を上げるということを考えると、酸素濃 度 Oiをコントロールできるのは、肩部 10Aの終盤以降となる。肩部 10Aの終盤とは、 肩部 10Aの設定長が 220mmの場合、 200mm以降の部位のことである。
[0117] 以上のことより、
1)肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲でスリップを発生させないために は、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの部位の酸素濃度 Oiを、 9. 0 X 1017atomsん m3以上とする条件で、シリコン単結晶 10を引き上げれば よいということがわかった。
[0118] 2)また、肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲でスリップを発生させないた めには、シリコン単結晶 10を肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部まで形成する過程 における結晶中心部の熱応力値を、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10B のトップ部までの部位で格子間型点欠陥を起点にしてスリップが発生しない熱応力 値以下 (例えば、 7. IMPa以下)とする条件で、シリコン単結晶を引き上げればよい ことがわかった。
[0119] 3)肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの範囲でスリップを発生させないために は、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの部位の酸素濃度 Oiを、 9. 0 X 1017atomsん m3以上とする条件で、かつ、シリコン単結晶 10を肩部 10 Aから直胴部 10Bのトップ部まで形成する過程における結晶中心部の熱応力値を、 シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのトップ部までの部位で格子間型点欠
陥を起点にしてスリップが発生しない熱応力値以下(例えば、 7. IMPa以下)とする 条件で、シリコン単結晶 10を引き上げればよいことがわ力 た。
[0120] つぎに、上記 1)、 2)、 3)の具体的手段について説明する。
[0121] まず、酸素濃度〇iを制御する具体的手段は、前述したように、るつぼ回転数 C/R、 引上げ軸回転数 S/R、アルゴンガス流量、炉内圧、融液 5に対する水平磁場等を調 整する手段などである。
[0122] 以下、熱応力値を制御する具体的手段について説明する。
[0123] (付け直し時間)
図 15は、単結晶引上げ装置 1の各号機、引上げられるインゴットを特定するナンパ 一(# 1、 # 2· · ·)と、シリコン単結晶 10の付け直しの有無との関係を示したグラフであ る。
[0124] ここで、付け直しとは、シリコン単結晶 10を引き上げる過程でインゴットが崩れた場 合に、再度、種結晶 14を融液 5に着液させて肩を抜き取り引き上げる処理のことであ る。
[0125] 図 15において、矢印で示すナンバーのインゴットで、シリコン単結晶 10の肩部 10A 力 直月同部 10Bのトップ部までの部位でスリップの発生が確認された。スリップ発生が 確認されたナンバーのインゴットは全て、付け直しを行つたインゴットあつた。
[0126] このように、付け直しを行うとスリップが発生しやすいことがわかる。
[0127] そこで、付け直しとスリップ発生との関係について実験、シミュレーションを行った。
[0128] 図 16は、単結晶引上げ装置 1の各号機、引上げられるインゴットを特定するナンパ 一( # 1、 # 2· · ·)と、シリコン単結晶 10の付け直し時間(H)との関係を示したグラフで ある。
[0129] ここで、付け直し時間の定義を、図 21を用レ、て説明する。付け直し時間とは、最初 に肩を広げだした (肩部 10Aを形成し始めた)時刻から、最終的に製品となるシリコン 単結晶 10の肩部 10Aを形成し始める時刻までの時間のことである。
[0130] 図 21 (a)は、肩部 10Aを形成し始めて、単結晶 10の崩れが発生しない場合で、付 け直し時間が 0となる。これに対して、図 21 (b)は、シリコン単結晶 10の崩れが 2回発 生し 2回付け直しを行い 3回目の着液によって最終的な製品が得られる場合の例で
あり(なお、状況によって回数は変わる)、最初に、肩部 10Aを形成し始めた時刻から 、最終的に製品となるシリコン単結晶 10の肩部 1 OAを形成し始める時刻までの時間 、つまり 2回の付け直し (なお、状況によって回数は変わる)によってロスした時間が付 け直し時間となる。
[0131] 図 16において、矢印で示すナンバーのインゴットで、シリコン単結晶 10の肩部 10A 力 直月同部 10Bのトップ部までの部位でスリップの発生が確認された。同図 16から、 付け直し時間が 40Hを超えると、シリコン単結晶 10の肩部 10Aから直胴部 10Bのト ップ部までの部位でスリップが発生することがわ力、る。
[0132] つぎに、付け直しを行レ、、付け直し時間が長くなることが、何故スリップ発生に結び つくかについて検証した。
[0133] 付け直しを行レ、、付け直し時間が長くなり、引上げロス時間が長くなると、以下のよう な現象が生じる。
[0134] d) CZ炉 2のトップチャンバ 2Tの内側に、アモルファスの付着が多くなる。
[0135] e)付け直し後に、シリコン単結晶 10を転位なしで引き上げるために、肩部 10Aを抜き 取る処理が行われる。この結果、るつぼ位置 C/Pが高くなる。
[0136] f)石英るつぼ 3の断面で観察される気泡の数が多くなり、気泡が膨張してサイズも大 きくなる。また、気泡の数増加、気泡膨張に応じて、石英るつぼ 3の肉厚も厚くなる。
[0137] g)上述したるつぼ位置 C/Pや石英るつぼ 3の変化によって、ギャップ 90の実際の値 と設定値との間にずれが生じる。
[0138] つぎの、上述した d)〜g)の変化が起きると、シリコン単結晶 10の結晶中心部にか 力る熱応力がどのように変化するかについてシミュレーションを行った。
[0139] 図 17はシミュレーション結果をまとめた表である。
[0140] 図 17に示すように、状況基準、状況 1、状況 2、状況 3、状況 4の各状況毎に、引上 げロス時間、肩抜き取りの有無、るつぼ位置 C/P、トップチャンバ 2T内側の汚れ、石 英るつぼ肉厚 (気泡数、膨張)、ギャップ 90を変化させて、肩部 10Aから直胴部 10B のトップ部までを引き上げる過程における結晶中心部 (応力集中箇所)の熱応力値( Mpa)を求めた。
[0141] 図 17力、らゎカるように、弓 I上げロス時間とトップチャンバ 2T内側の汚れとの間には
相関があり、引上げロス時間が長くなると、トップチャンバ 2T内側の汚れが多くなる。 そして、引上げロス時間が長くなり、トップチャンバ 2T内側の汚れが多くなると、結晶 中心部の熱応力値が高くなる。
[0142] 状況基準、状況 1の場合には、引上げロス時間が短ぐそのためトップチャンバ 2T 内側の汚れが少なくなり、結晶中心部の熱応力値が小さくなる(7. 07Mpa、 7. 14M pa)。これに対して、状況 2、状況 3、状況 4の場合には、引上げロス時間が長ぐその ためトップチャンバ 2T内側の汚れが多くなり、結晶中心部の熱応力値が大きくなる(7 . 78Mpa、 7. 79Mpa、 7. 9Mpa)。
[0143] 図 18は、図 17のシミュレーション結果から、トップチャンバ 2T内側の汚れと結晶中 心部の熱応力値とスリップとの因果関係を推定する図である。図 18 (a)は、トップチヤ ンバ 2T内側の汚れが少ない場合を示し、図 18 (b)は、トップチャンバ 2T内側の汚れ が多い場合を示している。
[0144] 図 18 (a)に示すように、付け直しがなくストレートでシリコン単結晶 10が引き上げら れる場合には、再溶解によって発生するアモルファスが無レ、など炉内環境の変化は なぐトップチャンバ 2T内側の汚れが少なくなる。また、付け直しがあっても、引上げ ロス時間が短い場合には、炉内環境の変化が小さぐトップチャンバ 2T内側の汚れ が少なくなる。このようにトップチャンバ 2T内側に付着する汚れが少ないと、トツプチ ヤンバ 2T内側からの輻射熱が大きくなり、シリコン単結晶 10からの放熱が小さくなる 。このためシリコン単結晶 10は徐冷され、結晶中心部と結晶外側との温度差 Δ丁が 小さくなる。これにより結晶中心部の熱応力が小さくなる。結晶中心部の熱応力が小 さくなるため、スリップは発生しない。
[0145] これに対して、図 18 (b)に示すように、付け直しがあり引上げロス時間が長い場合 には、再溶解によって発生するアモルファスが多くなるなど炉内環境は悪化するとと もに、時間に比例してトップチャンバ 2T内側への汚れが多くなる。このようにトツプチ ヤンバ 2T内側に付着する汚れが多いと、トップチャンバ 2T内側からの輻射熱が小さ くなり、シリコン単結晶 10からの放熱が大きくなる。このためシリコン単結晶 10は急冷 され、結晶中心部と結晶外側との温度差 Δ Τが大きくなる。これにより結晶中心部の 熱応力が大きくなる。結晶中心部の熱応力が大きくなるため、スリップが発生する。
[0146] 以上のように、スリップ発生を防止するためには、付け直し時間を、 40時間以内と する条件で、シリコン単結晶 10を引き上げればよいということがわかる。また、スリップ 発生を防止するためには、望ましくは、種結晶 14の着液後に付け直しなしでシリコン 単結晶 10を引き上げればよいということがわかる。
[0147] 上述した図 18からわかることは、シリコン単結晶 10に与えられる輻射熱の大きさに よって、スリップが発生したりしな力、つたりするということである。このことから、シリコン 単結晶 10に与えられる輻射熱の大きさを変化しに《し安定させて、スリップを発生し に《する実施も可能である。たとえば単結晶引上げ装置 1には、 CZ炉 2の上方から アルゴンガス 7を流下させて融液 5に向けて導くパージチューブを設けたものがある。 この場合、パージチューブは、シリコン単結晶 10に与えられる輻射熱を安定させてシ リコン単結晶 10の冷却速度を安定させるものとして機能する。これによりスリップ発生 を防止すること力できる。
[0148] (ギャップ)
また、図 17からわかるように、熱遮蔽板 8の下端と融液表面 5aとのギャップ 90と結 晶中心部の熱応力値との間にも、ある程度の相関がみられた。
[0149] 状況基準、状況 1、状況 2、状況 3の場合には、ギャップ 90が広く(40mm)、結晶中 、咅の熱応力 ί直力 目対的に/ Jヽさレヽ(7. 07Mpa、 7. 14Mpa、 7. 78Mpa、 7. 79M pa)。これに対して、状況 4の場合には、ギャップ 90が狭く(35mm)、結晶中心部の 熱応力値が相対的に大きくなる(7. 9Mpa)。
[0150] 図 19は、図 17のシミュレーション結果から、ギャップ 90と結晶中心部の熱応力値と スリップとの因果関係を推定する図である。
[0151] 図 19において、 8Aは、熱遮蔽板 8が融液表面 5aに近い場所に位置しギャップ 90 が狭くなつている状態を示し、 8Bは、熱遮蔽板 8が融液表面 5aから遠い場所に位置 しギャップ 90が広くなつている状態を示している。
[0152] ギャップ 90が狭くなつてレ、る状態 8Aでは、融液表面 5aからの輻射熱が熱遮蔽板 8 で遮断されてシリコン単結晶 10が冷えやすくなる。このため結晶中心部と結晶外側と の温度差 Δ Τが大きくなる。これにより結晶中心部の熱応力が大きくなる。結晶中心 部の熱応力が大きくなるため、スリップが発生する。
[0153] これに対して、ギャップ 90が広くなつている状態 8Bでは、融液表面 5aからの輻射 熱が熱遮蔽板 8で遮断されに《なるためシリコン単結晶 10が冷えに《なる。このた め結晶中心部と結晶外側との温度差 ΔΤが小さくなる。これにより結晶中心部の熱応 力が小さくなる。結晶中心部の熱応力が小さくなるため、スリップが発生しに《なる。
[0154] 以上のように、スリップ発生を防止するためには、熱遮蔽板 8の下端と融液表面 5aと のギャップ 90を広くする条件で、シリコン単結晶 10を引き上げればよいということがわ かる。
[0155] スリップ発生有無のメカニズムをまとめると、図 20のとおりとなる。
[0156] 図 20 (a)に示すように、付け直しがあると(201)、引上げロス時間が長くなり(202) 、再溶解によって発生するアモルファスが多くなるなど炉内環境は悪化するとともに、 時間に比例してトップチャンバ 2T内側への汚れが多くなる。トップチャンバ 2T内側に 付着する汚れが多くなると、トップチャンバ 2T内側からの輻射熱が小さくなり、シリコ ン単結晶 10からの放熱が大きくなる(203)。このためシリコン単結晶 10は急冷され(
204)、結晶中心部と結晶外側との温度差が大きくなる。これにより結晶中心部の熱 応力が大きくなる(205)。そして、シリコン単結晶 10が I—リッチ領域に入る条件で引 き上げられ転位ループクラスタが発生している箇所に(207)、高い熱応力力 Sかかり(
205)、さらに酸素濃度〇iが低い(9. 0 X 1017atomsん m3 よりも小さい; 206)という 条件が加わると、結晶強度が弱いため、スリップが発生する(207)。
[0157] これに対して、図 20 (b)に示すように、付け直しがあっても(301)、引上げロス時間 が短い(付け直し時間で 40H以内)場合には(302)、炉内環境の変化が小さぐトツ プチャンバ 2T内側の汚れが少なくなる。トップチャンバ 2T内側に付着する汚れが少 ないと、トップチャンバ 2T内側からの輻射熱が大きくなり、シリコン単結晶 10からの放 熱が小さくなる(303)。このためシリコン単結晶 10は徐冷され(304)、結晶中心部と 結晶外側との温度差が小さくなる。これにより結晶中心部の熱応力が小さくなる(305 )。そして、シリコン単結晶 10が I—リッチ領域に入る条件で引き上げられ転位ループ クラスタが発生している箇所に(307)、熱応力がかかってもその熱応力が低ければ( 305)、酸素濃度 Oiが低く(9. 0 X 1017atomsん m3 よりも小さい; 306)、結晶強度 が弱くなつてレ、たとしても、スリップは発生しなレヽ(308)。
[0158] また、図 20 (c)に示すように、付け直しがなくストレートでシリコン単結晶 10が引き上 げられる場合には、再溶解によって発生するアモルファスが無いなど炉内環境の変 ィ匕はなく、トップチャンバ 2T内側の汚れが少なくなる(401)。トップチャンバ 2T内側 に付着する汚れが少ないと、トップチャンバ 2T内側からの輻射熱が大きくなり、シリコ ン単結晶 10からの放熱が小さくなる。このためシリコン単結晶 10は徐冷され、結晶中 心部と結晶外側との温度差が小さくなる。これにより結晶中心部の熱応力が小さくな る(402)。そして、シリコン単結晶 10が I—リッチ領域に入る条件で引き上げられ転位 ループクラスタが発生している箇所に (404)、熱応力力 Sかかってもその熱応力が低 ければ(402)、酸素濃度 Oiが低く(9. 0 X 1017atomsん m3 よりも小さい; 403)、結 晶強度が弱くなつてレ、たとしても、スリップは発生しなレヽ(405)。
図面の簡単な説明
[0159] [図 1]図 1 (a)〜(e)は、シリコン単結晶の欠陥種と点欠陥の濃度の関係を示す図であ る。
[図 2]図 2は、実施形態の単結晶引上げ装置の構成を示す図である。
[図 3]図 3 (a)、 (b)は、成長速度によって、シリコン単結晶中に発生する転位を模式 的に示した図である。
[図 4]図 4 (a)、 (b)は、シリコン単結晶の肩部、直胴部、テール部を模式的に示した 図である。
[図 5]図 5は、 X線評価結果を示した図で、図 5 (a)はスリップが発生した試料の写真を 示し、図 5 (c)は図 5 (a)のスリップ発生部位を拡大して示し、図 5 (b)はスリップが発 生しな力、つた試料の写真を示し、図 5 (d)は同様の部位を拡大して示した図である。
[図 6]図 6は、 X線評価結果を示した図で、図 6 (a)はスリップが発生した試料の写真を 示し、図 6 (b)はスリップが発生しなかった試料の写真を示した図である。
[図 7]図 7 (a)、 (b)、 (c)、 (d)、(e)、 (f)は、シリコン単結晶 10を引上げ成長させる過 程にぉレ、て、結晶中心部の温度分布と結晶各部での熱応力の分布を示した図であ る。
[図 8]図 8は、図 7に対応させて引上げ高さと温度と応力との関係を示した図である。
[図 9]図 9は、結晶中心部を境に左右で、肩形状、結晶引上げ速度等の条件を異なら
せたときの熱応力値の分布を、対比して示した図である。
園 10]図 10 (a)、 (b)は、肩形状が異なるシリコン単結晶の試料を対比して示した図 である。
園 11]図 11 (a)、 (b)は、肩形状が異なるシリコン単結晶の試料を対比して示した図 である。
園 12]図 12は、シリコン単結晶の軸方向位置と、るつぼ回転数との関係を示した図で ある。
[図 13]図 13 (a)、 (b)は、図 12に対応させて、シリコン単結晶の軸方向位置とシリコン 単結晶中の酸素濃度〇i (atomsん m3)との関係を示した図である。
[図 14]図 14は、スリップ発生有無のメカニズムを示す図である。
園 15]図 15は、単結晶引上げ装置の各号機、引上げられるインゴットを特定するナン バーと、シリコン単結晶の付け直しの有無との関係を示したグラフである。
[図 16]図 16は、単結晶引上げ装置の各号機、引上げられるインゴットを特定するナン バーと、シリコン単結晶の付け直し時間との関係を示したグラフである。
[図 17]図 17はシミュレーション結果をまとめた表である。
[図 18]図 18 (a)、 (b)は、図 17のシミュレーション結果から、トップチャンバ内側の汚 れと結晶中心部の熱応力値とスリップとの因果関係を推定する図である。
[図 19]図 19は、図 17のシミュレーション結果から、ギャップと結晶中心部の熱応力値 とスリップとの因果関係を推定する図である。
[図 20]図 20 (a)、 (b)、 (c)は、スリップ発生有無のメカニズムを示した図である。 園 21]図 21 (a)、 (b)は、付け直し時間を説明するために用いた図である。
符号の説明
1 単結晶引上げ装置 2 CZ炉 2T トップチャンバ 10 シリコン単結晶 10A 肩部 10B 直胴部