明細書
樹脂組成物
技術分野
本発明は、 ポリフヱニレンスルフィ ド (以下、 PP Sという) とフッ素樹脂を 含有する樹脂組成物に関し、 詳しくは射出成形法によって得られる立体形状を有 する成形品の寸法精度が著しく改善される樹脂組成物に関する。
背景技術
P P Sは、 耐熱性、 耐溶剤性、 電気特性、 機械的強度、 寸法安定性、 難燃性等 が優れた樹脂として知られており、 その用途には電気 ·電子機器部品材料や自動 車部品材料、 化学機器部品材料、 その他の機能部品材料などがある。
これらの大部分の用途において、 射出成形法によって成形された部品が用いら れている。 しかし、 要求される特性は細分化され、 例えば従来金属を切削加工な どで加工していた部品のうちには特に高い寸法精度が要求されるものがあるが、
P P Sによる代替が困難であった。
その理由は、 PPSは重合度が低いためガラス繊維、 炭素繊維などの繊維補強 剤や無機充填剤などと複合化してエンジニアリングブラスチックとして通用する 特性を有するが、 射出成形した場合に繊維補強材の配向方向によって成形品の寸 法が異なる現象が生じ所定の寸法精度を得がたいためである。
また、 配向方向性の問題が生じない無機充填材、 例えばガラスビース、 酸化亜 鉛、 炭酸カルシウムなどを PP Sに配合した場合、 射出成形時の充填材の配向の 問題は解消されるが、 成形ショッ ト間のバラツキが大きく、 要求される寸法精度 を満足させえない。
例えば、 立体形状を有する成形品の高い寸法精度を得るため、 PP Sと特定の シラン処理されたシリカ粉末を含む組成物を光ファイバ用コネクタフヱルールに 成形する提案 (特開平 6— 299072) や、 テトラフルォロエチレン (以下、 TF Eという) / /ペルフルォロ (アルキルビュルエーテル) (以下、 PAVEと いう) 共重合体 (以下、 PFAという) に対して PPSを 0. 5〜5重量%配合 した組成物を回転成形法によりライニングする提案 (特開平 5— 1 12690)
があるが、 本発明の組成物とは組成割合が異なる。
特定量の P P s、 フッ素樹脂、 球状充填材、 繊維充填材からなる,組成物により シリンダビス卜ンをィンサート成形して油中寸法安定性、 耐摩耗性が向上した成 形品を得る提案 (特開平 3— 74681 ) 、 P PS、 ポリフッ化ビユリデン (以 下、 PV d Fという) 、 及び TFEの単独重合体又は共重合体を有する組成物か ら成形品を得る提案 (特開平 5— 29520) 、 P P Sと融点が 320°C以下の フッ素樹脂とアミノアルコキシシランとを含む組成物において、 P P Sとフッ素 樹脂の相互の分散性を改善し、 その成形品の機械的強度を改善する提案 (特開平 8 - 53592) もあるが、 高い寸法精度の成形品が得られるかについては記載 されてない。
発明の開示
本発明の目的は、 射出成形により高い寸法精度を有する立体形状の成形品が得 られる、 P P S、 フッ素樹脂、 さらには充填材などを含む樹脂組成物を提供する ことにある。
本発明者は鋭意検討した結果、 P P Sよりも高い凝固温度を有するフッ素樹脂 の特定量を P P sに配合することにより、 上記目的を達成できることを見出し、 本発明に至った。
すなわち、 本発明は、 下記 (a) と下記 (b) とを、 (a) と (b) との合量 中に (a) 50〜99. 5重量%、 (b) 0. 5〜50重量%の割合で含有する 樹脂組成物を提供する。
さらに、 下記 (c) を合量で、 (a) と (b) との合量 1 00重量部に対して 0重量部超 250重量部以下の割合で含有する上記樹脂組成物を提供する。
(a) ポリフエ二レンスルフィ ド。
(b) 330°C窒素雰囲気下で溶融後 1 0°CZ分の冷却速度で冷却した場合の 凝固温度 (Tmc) が 237°C以上であるフッ素樹脂。
(c) 有機強化材、 無機強化材及び充填材からなる群から選ばれる 1種以上。 発明を実施するための最良の形態
本発明で用いられる P P S (a) は、 実質的に式 1で表される構造の繰り返し
単位からなる重合体であり、 この繰り返し単位を 70モル%以上、 好ましくは 9 0モル%以上含むランダム共重合体又はプロック共重合体である。 この繰り返し 単位が 70モル%未満では本発明の目的を達する組成物は得にくい。
£<2> - S 式 ( 1
式 1で表される構造の繰り返し単位以外の共重合単位は、 P P S (a) 中に 3 0モル%未満、 好ましくは 10モル%未満の割合で存在し、 重合体の結晶化度を 低下させない範囲で下記の構造で表されるァリーレンスルフィ ド構造の単位を含 有してもよい。
[輪 +
(Rはアルキル基、 ニトロ基、 フヱニル基、 アルコキシ基、 カルボン酸基、 又 はカルボン酸金属塩基を示す。 )
PP S (a) は、 公知の種々の重合方法により得られる。 硫化ナトリウムと p ージクロルベンゼンを N—メチルピロリ ドン、 ジメチルァセ卜アミ ドなどのアミ ド系溶媒ゃスルホランなどのスルホン系溶媒中で反応させる方法が好適である。 この際に重合度を調節するために酢酸ナトリウム、 酢酸リチウムなどのアル力リ
金属カルボン酸塩を添加することは好ましい。
PP S (a) は重合終了後に洗浄したものを使用できるが、 さらに、 例えば塩 酸、 酢酸などの酸を含む水溶液又は水 -有機溶剤混合液で処理したものや、 塩化 アンモニゥムなどの塩溶液で処理したものでも使用できる。 P PS (a) のメル 卜インデックスは、 シリンダ温度 300°C、 5 k g荷重、 オリフィスの径 2. 0 95mm, 長さ 8 mmの条件で測定し、 好ましくは 0. 1〜500、 特に好まし くは 1〜300である。 メルトインデックスが 0. 1未満では射出成形時の流動 性が劣り、 500超では成形品の機械的強度が低く、 工業部品に適さない。
フッ素樹脂 ( b ) は、 330 °C窒素雰囲気下で溶融後 1 0 °CZ分の冷却速度で 冷却した場合の凝固温度 (Tmc) が 237°C以上であるフッ素樹脂である。
具体的には、 P FA、 T F EZへキサフルォロプロピレン (以下、 HFPとい う) 共重合体 (以下、 FEPという) が挙げられる。
P FAは、 その重合成分の PAVEのアルキル基の炭素数が 1〜6であり、 P A V Eに基づく重合単位が 1〜5モル%であるものが好ましく、 市販されている 。 PAVEとして、 ペルフル才ロ (プロピルビニルエーテル) 、 ペルフルォロ ( ェチルビ二ルェ一テル) 、 ペルフルォロ (メチルビニルエーテル) が好ましく、 特にペルフルォロ (プロピルビュルエーテル) が好ましい。 P F Aはこれらの 2 種以上に基づく重合単位を含んでいてもよい。
F E Pは、 H F Pに基づく重合単位が 1〜20モル%であるものが好ましく、 市販されている。
また、 P FA、 FEP以外のフッ素樹脂 (b) として、 PAVEZHFP/T F E共重合体、 PAVEと HFP以外の重合成分 Z ( P A V E及び/又は H F P ) ZTFE共重合体などを用いてもよい。 これらの共重合体中の PAVEに基づ く重合単位が 0〜5モル%、 H F Pに基づく重合単位が 0〜20モル%であり、 PAVEと HF Pに基づく重合単位の合計が 1 ~ 20モル%のものが好適である 。 具体的には、 例えば、 ペルフルォロ (プロピルビュルエーテル) に基づく重合 単位を 0. 5モル%、 H F Pに基づく重合単位を 7. 0モル%含む共重合体が用 いられる。
これらのフッ素樹脂 (b) のメルトインデックスは特に限定されないが、 33 0°C、 5 k g荷重、 オリフィスの径 2. 095mm, 長さ 8 mmの条件で測定し 0. 1以上のものが容易に分散するため好ましい。 メル卜インデックスの測定条 件は ASTM D 1238に規定されたいる。
なお、 これらのフッ素樹脂 (b) は懸濁重合、 乳化重合、 溶液重合などの従来 公知の各種重合方法により製造できる。
本発明の組成物の PPS (a) とフッ素樹脂 (b) の配合割合 (a) / (b) は、 重量比で 50 50〜99. 5/0. 5である。 特に、 T O/S O S SZ 5 (重量比) が好ましい。 P P Sの重量比が 50Z50未満では、 フッ素樹脂が 明確に島を形成できなくなり、 99. 5/0. 5超ではフッ樹脂の量が少なくな り、 本発明の効果が期待できない。 組成物のマトリックスにおいて海の部分が P P Sであり、 島の部分がフッ素樹脂で形成することが好ましい。
本発明の組成物から得られる成形品が高い寸法精度を有するという効果は、 P P S (a) が凝固する前にフッ素樹脂が凝固する場合に生じやすい。 この効果の 発生機構について、 ( 1 ) PPS (a) にフッ素樹脂 (b) を配合したことによ り溶融した組成物が金型のゲート通過時に射出圧力の圧力損失が低減する。 この 理由として、 フッ素樹脂が内部潤滑剤として作用するためと考えられる。 その結 果金型内の組成物に射出圧力が有効に伝わる。 図 1に金型の断面図の概略を示す 。 1はスプル、 2はランナー、 3はピンゲート、 4は成形品である。
(2) ゲートシールする前、 すなわち保圧力が金型内の組成物に有効に作用す る状態で、 フッ素樹脂 (b) が固化し、 ゲートシールした後に P P S (a) が固 化する。 この 2段階の固化工程を経て、 ゲートシールした後の体積収縮量が低減 する。 以上の作用により、 金型転写性及び成形ショッ ト間のバラツキが抑制され 、 本発明の効果が発生したと推測される。
具体的には、 本発明の組成物を実施例で示すようにシリンダ温度 330°C、 金 型温度 1 50°Cで射出成形して得られる成形品は、 図 2に示す成形品 A部、 B部 の寸法差、 1 00ショッ ト成形したときの B部の最大寸法と最小寸法の差が従来 よりも約 1ノ1 0となる優れた寸法精度を有する。 図 2は成形品の断面図であり
寸法形状を示す。 図 2中の寸法の単位は mmであり、 D 1は直径 25. 0、 D 2 は直径 19. 0、 D 3は直径 35. 0、 D 4は直径 24. 6、 D 5は直径 22. 8、 D 6は直径 19. 6、 L 1は 35. 0、 L 2は 20. 0、 L3は 5. 4、 L 4は 3. 0、 L 5は 8. 0、 L6は 2. 0である。
また、 本発明の組成物は (a) と (b) 以外に (c) 有機強化材、 無機強化材 又は充填材を含有するが、 (a) と (b) の合計 100重量部に対して (c) 有 機強化材、 無機強化材又は充填材を 250重量部以下を含有してもよい。 (a) 成分が 250重量部超では射出成形ができにくレ、。 また、 (c) 成分を含まなく ても射出成形ができる。
(c) 成分の具体例として、 熱硬化性樹脂粉末の有機充填材、 フ ライ ト、 マ イカ、 シリカ、 タルク、 アルミナ、 カオリン、 硫酸カルシウム、 炭酸カルシウム 、 黒鉛、 酸化チタン、 酸化亜鉛、 力一ボンブラックなどの無機充填材、 ガラス繊 維、 力一ボン繊維、 チタン酸カリウムやホウ酸アルミニウムなどゥイス力の無機 強化材、 ポリイミ ド繊維などの有機強化材が挙げられる。 これらの (c) 成分は そのまま用いてもよいが、 配合前にシランカップリング剤などで表面処理したも のを用いることが好ましい。
その他必要に応じて滑剤、 安定剤、 顔料なども添加してもよい。
本発明の樹脂組成物の調整は、 多数の計量フィーダを使って押出機のホッパー に投入するか、 又はタンブラや Vミキサ、 ヘンシヱルミキサなどで予備混合のう え、 同方向又は異方向の二軸押出混練機で二一ディング機能付きのスクリユーを 選択し、 溶融混練してペレツ 卜化する方法が用いられる。
以下に実施例 (例 1、 2、 8、 9) 、 比較例 (例 3〜7、 10-1 3) を挙げ て、 本発明をより具体的に説明するが、 本発明はこれらに限定されない。
[凝固温度の測定]
熱分析システム S S C 5200 (セイコー電子工業社製) を用い、 試料を窒素 雰囲気下で常温から 330°Cまで 1 0°C/分で昇温し 330°Cで 5分保持した後 、 33 (TCから 1 00 °Cまで 10 °CZ分で降温して測定した。
[使用原材料】
P P S ;東レ社製、 M - 2 100 (凝固温度 237°C) 。
PTFE ;旭硝子社製、 フルオン PTFE L— 1 50 J (凝固温度なし) 。 P F A ;旭硝子社製、 ァフロン P F A P- 61 (凝固温度 271で) 。 F EP ;旭硝子社製、 ァフロン FEP (凝固温度 241 ) 。
ETFE ;旭硝子社製、 ァフロン CO P C 88 AX (凝固温度 230°C) 。 低融点 ETF E (以下、 LM— ETFEという) ;旭硝子社製、 ァフロン LM 740 (凝固温度 206°C) 。
PVdF ; ダイキン社製、 ネオフロン VP 800 (凝固温度 1 50°C) 。 ガラス繊維;旭ファイバ一グラス社製、 03MAFT 562。
球状シリ力 ;電気化学工業社製、 F B— 35。
炭酸カルシウム ; 日東粉化工業社製、 NS 200。
なお、 ガラス繊維、 球状シリカ、 炭酸カルシウムを配合前にシランカップリン グ剤などで表面処理を行っていない。
[例 1〜6]
2力所のニーディング部を有するスクリユーがセッ 卜された同方向二軸押出混 練機の第一フィ一ダのホッパに P P Sと充填材を、 第二フィーダのホッパにフッ 素樹脂を表 1に示す重量比で投入し、 シリンダ温度 320°C、 スクリュー回転数 l O O r pmとし、 ベントから真空ポンプで吸引しながら原材料を混練し、 吐出 されたストランドを徐冷後べレタイザで 3 m m長さに切断して組成物を作成した 電動タイプの型締め 30トンの成形機のシリンダ温度を 330 に設定した。 図 1に示す 3点のピンボイントゲ一卜で注入され、 つば付き円筒スリーブ形状が 彫り込まれた金型を熱媒にて 1 50°Cに加温し、 作成した組成物を射出速度 80 mm/秒、 S O O k gZcm2 の条件で射出成形して成形品を得た。
得られた成形品について、 レーザースキャンマイクロメータ (ミツトヨ社製) で、 図 2の A、 Bの箇所の外径を測定した。 A部、 B部の寸法差 (wm) (以下 、 AZB寸法差という) 、 1 00ショッ ト成形品の B部の最大寸法と最小寸法の 差 (wm) (以下、 B寸法差という) を表 1に示す。
[表 1 ]
[例 7〜1 2 ]
表 2に示す重量比で、 例 1〜 6で用いた混練機の第一フィ一ダのホッパに P P Sと充填材を、 第二フィーダのホツバにフッ素樹脂を投入し、 さらにガラス繊維 をサイ ドフィ一ド方式で押出機へ投入して、 例 1〜6と同様に混練し組成物を作 成し、 その後成形して成形品を得た。 その成形品について測定した外径の結果を 表 2に示す。
[表 2] 組成 例 8 例 9 例 10 例 11 例 12 例 13
P P S 90 90 90 90 90 90 フッ素樹脂 P T F E 10
P F A 10
F E P 10
E T F E 10 LM- ET F E 10 P V d F 10 充填剤 炭酸カルシウム 40 40 40 40 40 40 ガラス繊維 60 60 60 60 60 60
AZB寸法差 10 82 43 50 70 B寸法差 8 68 25 19 33
産業上の利用可能性
本発明の樹脂組成物は、 これを射出成形して得られる立体形状を有する成形品 の寸法精度がきわめて高く、 自動車や家電 ·電子分野の構造材料や各種部品の用 途に有用である。