本発明の熱可塑性組成物(又は熱可塑性エラストマー組成物)は、熱可塑性エラストマー(以下、単にTPEという場合がある。)と、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(以下、単にフルオレン化合物という場合がある。)とを含んでいる。
[熱可塑性エラストマー]
熱可塑性エラストマー(TPE)は、ソフトセグメント(軟質相、軟質ブロック又はゴム成分)と、ハードセグメント(硬質相、硬質ブロック又は樹脂成分)とを含む。
熱可塑性エラストマーとして代表的には、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、塩素系熱可塑性エラストマー、アイオノマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)などが挙げられる。
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレンなどのスチレン系重合体で形成されたハードセグメントと;ポリブタジエン、ポリイソプロピレンなどのポリジエン又はそれらの水添物などのゴム成分で形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが挙げられる。具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)などのスチレン−ジエン−スチレンブロック共重合体;スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)などの前記スチレン−ジエン−スチレンブロック共重合体の水添物;ランダムスチレン−ブタジエンゴムの水添物(HSBR)と、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂との混合物などが挙げられる。
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンで形成されたハードセグメントと;オレフィン系ゴム、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、天然ゴムなどのゴム成分で形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが挙げられる。前記オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。TPOは、ポリオレフィンと、未架橋又は部分架橋のゴム成分とを機械的に混合する単純ブレンド型TPO;各セグメントを段階的に重合して形成するインプラント化TPO(i−TPO又はReactor-produced TPO);ポリオレフィンと未架橋のゴム成分とを溶融混練し、さらに架橋剤や架橋促進剤を添加してせん断応力をかけながら架橋して形成する動的架橋型TPO(動的加硫型TPO)などであってもよい。
ポリジエン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンで形成されたハードセグメントと、アタクチック1,2−ポリブタジエンで形成されたソフトセグメントとを有するポリブタジエン系熱可塑性エラストマー(RB);結晶性トランス1,4−ポリイソプレンで形成されたハードセグメントと、非結晶性トランス1,4−ポリイソプレンで形成されたソフトセグメントとを有するポリイソプレン系熱可塑性エラストマー(TPI);ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂で形成されたハードセグメントと、天然ゴムで形成されたソフトセグメントとを有する天然ゴム系熱可塑性エラストマー(TPNR)などが挙げられる。
塩素系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、高分子量ポリ塩化ビニル(PVC)、部分架橋PVCなどの硬質なPVCで形成されたハードセグメントと、可塑化PVCなどの軟質PVCや部分架橋NBRなどのゴム成分などで形成されたソフトセグメントとを有するポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC);結晶性ポリエチレン部で形成されたハードセグメントと、塩素化ポリエチレン部などで形成されたソフトセグメントとを有する塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、脂肪族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂など、他の樹脂及び/又はゴム成分とアロイを形成してもよい。
アイオノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸などのグラフト重合などにより、分子中に導入されたカルボキシル基などで形成されたハードセグメントと、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂などで形成されたソフトセグメントとを有するイオン架橋型ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。
フッ素系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの結晶性フッ素樹脂などで形成されたハードセグメントと、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体などのフッ素ゴムなどで形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが挙げられる。
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、ポリイソシアネート(又はジイソシアネート)類や鎖延長剤(又は鎖伸長剤)などで形成されるハードセグメントと、ポリオール(長鎖ポリオール又は長鎖グリコール)類で形成されるソフトセグメントとを有しており、ポリイソシアネート類と、長鎖ポリオール類と、必要に応じて鎖延長剤とを重付加反応させてウレタン結合を形成することにより得ることができる。
ポリイソシアネート類としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などのC2−16アルカンジイソシアネートなどが挙げられる。
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。
ポリイソシアネート類は、上記ポリイソシアネート類と後述するポリオール類との反応により生成し、遊離のイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーであってもよい。
また、ポリイソシアネート類は、例えば、二量体(ダイマー又はウレットジオン)や三量体(トリマー又はイソシアヌレート)などの多量体、アダクト体、ビウレット、アロファネート、カルボジイミドなどの誘導体(又は変性体)であってもよい。
これらのポリイソシアネート類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリイソシアネート類のうち、MDIやTDIなどのかさ高いポリイソシアネートがよく利用される。
前記長鎖ポリオール類としては、通常、ポリマーポリオール類が使用される。ポリマーポリオール類としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、(メタ)アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分けん化物などが挙げられる。これらのポリマーポリオール類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリマーポリオール類のうち、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどがよく利用される。
前記ポリエステルポリオールは、例えば、ポリカルボン酸(又はジカルボン酸)成分とポリオール(短鎖ポリオール又はジオール)成分との単独又は共重合体;ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独又は共重合体;ポリカルボン酸成分及び/又はポリオール成分と、ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体などであってもよい。なお、ポリカルボン酸成分は、ポリカルボン酸と、そのエステル形成性誘導体、例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル、酸塩化物などの酸ハロゲン化物、酸無水物などを含む。
ポリカルボン酸成分としては、ジカルボン酸成分であることが多く、ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;テトラヒドロ(無水)フタル酸、(無水)ヘット酸などの脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらのポリカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリカルボン酸のうち、脂肪族ジカルボン酸成分がよく利用される。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などのC4−20アルカンジカルボン酸が挙げられる。好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、以下段階的に、C4−16アルカンジカルボン酸、C4−12アルカンジカルボン酸、C4−8アルカンジカルボン酸であり、なかでも、アジピン酸などのC5−7アルカンジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
ポリオール(又は短鎖ポリオール)成分としては、ジオール(又は短鎖ジオール)成分がよく利用され、ジオール成分としては、例えば、脂肪族ジオール成分、脂環族ジオール成分、芳香族ジオール成分、これらのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネート又はハロアルカノール)付加体などが挙げられる。
脂肪族ジオール成分としては、例えば、アルカンジオール、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−22アルカンジオールなどが挙げられる。
脂環族ジオール成分としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジオールなどのシクロアルカンジオール類、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロアルカンジアルカノール類、後述する芳香族ジオールの水添物などが挙げられる。後述する芳香族ジオールの水添物としては、例えば、水添ビスフェノールAなどの水添ビスフェノール類などが挙げられる。
芳香族ジオール成分としては、例えば、キシリレングリコールなどの芳香脂肪族ジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、ビフェノールなどが挙げられる。
上述のジオール成分のアルキレンオキシド付加体としては、例えば、エチレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド(アルキレンカーボネート又はハロアルカノール)の付加体などが挙げられる。
これらのポリオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオールのうち、脂肪族ジオール成分がよく利用され、具体的には、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−16アルカンジオールなどが挙げられる。好ましい脂肪族ジオール成分としては、以下段階的に、直鎖状又は分岐鎖状C2−12アルカンジオール、直鎖状又は分岐鎖状C2−8アルカンジオールであり、直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルカンジオールが挙げられる。これらの脂肪族ジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
ラクトン成分としては、例えば、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、エナントラクトンなどのC3−18ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトン成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのラクトン成分のうち、バレロラクトン、カプロラクトンなどのC4−12ラクトン、なかでもC4−8ラクトン、特に、ε−カプロラクトンなどのC5−7ラクトンがよく利用される。
なお、ラクトン成分を開環重合する場合、慣用の開始剤を用いてもよい。ラクトン成分に対する開始剤としては、例えば、水、アルキレンオキシドの単独又は共重合体、低分子量ポリオール、アミノ基を有する化合物などが挙げられる。アルキレンオキシドの単独又は共重合体としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコールなどのアルカンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールAなどが挙げられる。アミノ基を有する化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミンなどのジアミン化合物などが挙げられる。これらの開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
ポリエステルポリオールとして代表的には、脂肪族ポリエステルポリオール、なかでも、脂肪族ポリエステルジオールがよく利用される。脂肪族ポリエステルジオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との単独又は共重合体;ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独又は共重合体;脂肪族ジカルボン酸成分及び/又は脂肪族ジオールとラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体などの脂肪族ポリエステルジオールが挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との単独又は共重合体(又はポリアルキレンアルカノエート)としては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリジエチレングリコールアジペート、これらの共重合体などの両末端に水酸基を有するポリ(モノ乃至ペンタC2−12アルキレン−C4−12アルカノエート)及びその共重合体などが挙げられる。これらのポリアルキレンアルカノエートは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましいポリアルキレンアルカノエートとしては、ポリ(モノ乃至テトラC2−10アルキレン−C4−10アルカノエート)が挙げられ、さらに好ましくはポリ(モノ乃至トリC2−8アルキレン−C4−8アルカノエート)、特に、ポリ(モノ又はジC2−6アルキレン−C5−7アルカノエート)、及びその共重合体が挙げられる。なお、共重合体である場合、脂肪族ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール成分で形成される構成単位を主要な構成単位として含んでいればよく、他の成分、例えば、前記脂環族ジオール成分、前記芳香族ジオール成分、及びこれらのアルキレンオキシド付加体、並びに前記脂環族ジカルボン酸成分、前記芳香族ジカルボン酸成分などと共重合して変性されていてもよい。共重合体における脂肪族ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール成分に由来する構成単位の割合は、共重合体の構成単位全体に対して、例えば、30モル%程度以上の範囲から選択してもよく、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に90モル%以上である。
ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独又は共重合体(ポリラクトン又はポリヒドロキシアルカノエート)としては、例えば、ポリβ−プロピオラクトン、ポリγ−ブチロラクトン、ポリδ−バレロラクトン、ポリβ−メチル−δ−バレロラクトン、ポリε−カプロラクトン、これらの共重合体などの両末端に水酸基を有するポリC3−12ラクトン(又はポリC3−12ヒドロキシアルカノエート)及びその共重合体などが挙げられる。これらのポリラクトンは単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましいポリラクトンとしては、ポリC4−10ラクトン、さらに好ましくはポリC4−8ラクトン、特に、ポリε−カプロラクトンなどのポリC5−7ラクトンが挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸成分及び/又は脂肪族ジオールとラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体としては、例えば、C4−12アルカンジカルボン酸成分、及び/又は、直鎖状もしくは分岐鎖状C2−12アルカンジオール成分と、C4−12ラクトン成分との共重合体などが挙げられる。これらの共重合体は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましい共重合体としては、C4−8アルカンジカルボン酸成分、及び/又は、直鎖状もしくは分岐鎖状C2−8アルカンジオール成分と、C4−8ラクトン成分との共重合体、さらに好ましくはアジピン酸などのC5−7アルカンジカルボン酸成分、及び/又は、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの直鎖状もしくは分岐鎖状C2−6アルカンジオール成分と、ε−カプロラクトンなどのC5−7ラクトン成分との共重合体が挙げられる。
これらの脂肪族ポリエステルジオールは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの脂肪族ポリエステルジオールのうち、ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独又は共重合体(ポリラクトン又はポリヒドロキシアルカノエート)が好ましい。
前記ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキシドを開環して単独又は共重合させた反応生成物などであってもよい。開環反応には慣用の開始剤を用いてもよく、開始剤としては、前記ラクトン成分に対する開始剤として例示した開始剤と同様の開始剤などが挙げられる。アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフランなどのC2−6アルキレンオキシド、好ましくはC2−4アルキレンオキシドが挙げられる。
ポリエーテルポリオールとして代表的には、アルキレンオキシドの単独又は共重合体(ポリアルキレングリコール)、ビスフェノール類又はその水添物のアルキレンオキシド付加体などが挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、テトラヒドロフラン−エチレンオキシド共重合体などのC2−6アルキレンオキシドの単独又は共重合体(又はポリC2−6アルキレングリコール)などが挙げられる。ビスフェノール類又はその水添物のアルキレンオキシド付加体としては、例えば、ビスフェノールA又は水添ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加体などが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエーテルポリオールのうち、アルキレンオキシドの単独又は共重合体である場合が多く、なかでも、C2−4アルキレンオキシドの単独又は共重合体、特に、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコールなどのC3−4アルキレンオキシドの単独又は共重合体がよく利用される。
前記ポリエーテルエステルポリオールとしては、例えば、前記ポリカルボン酸(又はジカルボン酸)又はそのエステル形成性誘導体と、前記ポリエーテルポリオールとの重合物であるポリエーテルエステルポリオールなどが挙げられる。
前記ポリカーボネートポリオールは、例えば、ポリオール(又はジオール)成分とホスゲンとを反応させる方法や、ポリオール成分とカーボネート成分とを反応させるエステル交換法などにより調製される。前記カーボネート成分としては、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジ(アルキル又はアリール)カーボネート、エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートなどが挙げられる。また、ポリオール成分としては、ジオール成分がよく利用され、ジオール成分としては、例えば、前記ポリエステルポリオールの項に例示したポリオール成分(脂肪族ジオール成分、脂環族ジオール成分、芳香族ジオール成分、及びこれらのアルキレンオキシド付加体)などが挙げられる。これらのポリオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
ポリカーボネートポリオールとして、代表的には、ポリヘキサメチレンカーボネートポリオールなどの脂肪族ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらのポリカーボネートポリオールは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
これらのポリマーポリオール類のうち、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールがよく利用され、なかでも、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールがさらに好ましく、なかでも、ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独又は共重合体(ポリラクトン又はポリヒドロキシアルカノエート)が好ましい。
鎖延長剤(鎖伸長剤)としては、慣用の鎖延長剤を使用でき、例えば、ポリオール類、ポリアミン類などが挙げられる。ポリオール類としては、例えば、アルカンジオール、シクロアルカンジオール、芳香族ジオールなどのジオール類、トリメチロールプロパン(TMP)、グリセリン、ソルビトールなどの3以上の水酸基を有するポリオール類などが挙げられる。前記アルカンジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのC2−6アルカンジオールなどが挙げられ、シクロアルカンジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、芳香族ジオールとしては、例えば、ヒドロキノンジエチロールエーテル(BHEB)などのジヒドロキシアレーン類、1,4−ジメチロールベンゼンなどのジメチロールアレーン類、ビスフェノールAなどのビスフェノール類及びこれらのC2−4アルキレンオキシド付加体などが挙げられる。
ポリアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MOCA)などの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
これらの鎖延長剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの鎖延長剤のうち、ポリオール類、なかでも、1,4−ブタンジオール、ヒドロキノンジエチロールエーテル(BHEB)などのジオール類、特に、1,4−ブタンジオールがよく利用される。
このようなポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。TPUとしては、ポリエステルポリオールをソフトセグメントに含むポリエステル型TPU、ポリエーテルポリオールをソフトセグメントに含むポリエーテル型TPU、ポリカーボネートポリオールをソフトセグメントに含むポリカーボネート型TPUなどがよく利用され、ポリエステル型TPU、なかでも、ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独又は共重合体(ポリラクトン又はポリヒドロキシアルカノエート)をソフトセグメントに含むポリエステル型TPUが好ましい。
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、芳香族結晶性ポリエステル、液晶分子などで形成されるハードセグメントと、ガラス転移温度の低いポリエーテル又はポリエステルなどで形成されるソフトセグメントとを有している。また、TPEEは、ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(又はTEEE)、ポリエステル・ポリエステル型TPEE、液晶性TPEEに大別できる。
ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(又はTEEE)は、ハードセグメントとしての芳香族結晶性ポリエステルと、ソフトセグメントとしてのポリエーテルとを含んでいる。
芳香族結晶性ポリエステルとしては、通常、ポリアルキレンアリレートがよく用いられる。ポリアルキレンアリレートを形成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのC2−6アルキレングリコールなどが挙げられる。ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体などのC6−12アレーン−ジカルボン酸成分などが挙げられる。これらのジオール成分及び/又はジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
ポリアルキレンアリレートとして代表的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2−6アルキレンC8−16アリレートなどが挙げられる。これらのポリアルキレンアリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリアルキレンアリレートのうち、ポリC2−5アルキレンC8−14アリレート、なかでも、PBTなどのポリC2−4アルキレンC8−12アリレートがよく利用される。
ポリエーテルは、通常、ジオール成分として、ハードセグメントを形成するジオール成分及びジカルボン酸成分とともに共重合されることにより、TEEEに導入される。このようなポリエーテル(又はソフトセグメントを形成するジオール成分)としては、例えば、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)の項に記載のポリエーテルポリオールと同様のポリエーテルなどが挙げられる。代表的なポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのC2−6アルキレンオキシドの単独又は共重合体(又はポリC2−6アルキレングリコール)などが挙げられる。これらのポリエーテルは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエーテルのうち、C2−4アルキレンオキシドの単独又は共重合体であることが多く、なかでも、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのC3−4アルキレンオキシドの単独又は共重合体がよく利用される。
ポリエステル・ポリエステル型TPEEは、ハードセグメントとしての芳香族結晶性ポリエステルと、ソフトセグメントとしてのポリエステルとを含んでいる。芳香族結晶性ポリエステルとしては、前記ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(又はTEEE)の項に例示のポリアルキレンアリレートと好ましい態様を含めて同様である。
ソフトセグメントとしてのポリエステルとしては、必ずしも両末端に水酸基を有していなくてもよい点を除いて、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)の項に記載のポリエステルポリオールと同様のポリエステルが挙げられ、なかでも、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との単独又は共重合体;ラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独又は共重合体;脂肪族ジカルボン酸成分及び/又は脂肪族ジオールとラクトン成分(又は対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体などの脂肪族ポリエステルジオールとして例示したポリエステルと好ましい態様を含めて同様の脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。これらのポリエステルは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
液晶性TPEEは、ハードセグメントとしての液晶分子と、ソフトセグメントとしてのポリエステルとを含んでいる。液晶分子としては、低分子液晶性化合物、例えば、ジヒドロキシーパラクォーターフェニル(DHQ)などのジヒドロキシ−環集合アレーン化合物などが挙げられる。これらの液晶分子は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。ソフトセグメントを形成するポリエステルは、ポリエステル・ポリエステル型TPEEの項に記載のポリエステルと同様であり、通常、脂肪族ポリエステルである。これらのポリエステルは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
これらのTPEEは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのTPEEのうち、ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(又はTEEE)が好ましい。
ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、ポリアミドで形成されるハードセグメントと、ガラス転移温度の低いポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートなどで形成されるソフトセグメントとを有している。TPAは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族ポリアミドなどが挙げられる。これらのポリアミドは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリアミドのうち、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などがよく利用される。
ソフトセグメントは、通常、ハードセグメントのポリアミドとエステル結合を介して連結している。そのため、ソフトセグメントを形成するポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートとしては、通常、長鎖ポリオール(又は長鎖ジオール)成分が用いられる。このような長鎖ポリオール(長鎖ジオール)成分としては、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)の項に記載のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールと好ましい態様を含めて同様の長鎖ポリオール成分などが挙げられる。これらの長鎖ポリオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
なお、これらの熱可塑性エラストマーは、官能基などの導入により変性されていてもよい。また、熱可塑性エラストマーは、必ずしも線状構造でなくてもよく、部分的に架橋されていてもよい。熱可塑性エラストマーの形態としては、その種類に応じて、例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ゴム成分と樹脂との混合物、イオン架橋型高分子などであってもよい。ブロック共重合体である場合、トリブロック構造、マルチブロック構造、ラジアルブロック(星形)構造などの種々のブロック構造を有していてもよい。
熱可塑性エラストマーのハードセグメントの分子量(又は重量平均分子量)としては、例えば、50〜1000程度の範囲から選択してもよい。
熱可塑性エラストマーにおいて、ハードセグメントとソフトセグメントとの質量割合は、通常、前者/後者=10/90〜90/10程度であってもよい。
熱可塑性エラストマーの数平均分子量Mnは、GPCにおいて、ポリスチレン換算で、例えば、10000を超えて1000000以下であってもよい。
これらの熱可塑性エラストマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの熱可塑性エラストマーのうち、フッ素系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)などのエンジニアリングプラスチック(エンプラ)系熱可塑性エラストマー、なかでも、TPU、TPEE、TPAから選択された少なくとも1種を含むのが好ましい。TPU、TPEE及びTPAは、重付加又は重縮合やエステル交換などにより得られ、マルチブロック構造を有するためか、溶融流動性をより有効に向上できる場合が多い。これらのエンプラ系熱可塑性エラストマーのうち、TPU、TPEEが好ましく、機械的特性や熱的特性などの物性の低下を抑制しつつ(又は前記物性を向上しつつ)、溶融流動性をより一層顕著に向上できる点から、TPUが特に好ましい。
[フルオレン化合物]
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーに9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(フルオレン化合物)を組み合わせるためか、機械的特性や熱的特性などの物性を損なうことなく(又は向上しつつ)、溶融流動性を著しく改善できる。
このような特性を発現するフルオレン化合物は、反応性基又は官能基を有していない化合物、例えば、9,9−ビスフェニルフルオレンなどの9,9−ビスアリールフルオレンなどであってもよいが、通常、反応性基又は官能基を有している。
反応性基又は官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、N−置換アミノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、グリシジルオキシ基などのエポキシ基含有基などが挙げられる。フルオレン化合物は、これらの反応性基を、単独で又は2種以上組み合わせて有していてもよい。
反応性基又は官能基は、9,9−ビスアリールフルオレンに直接的に結合していてもよく、(ポリ)オキシアルキレン基などの適当な連結基を介して結合していてもよい。具体的なフルオレン化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物などが挙げられる。
[式中、環Z1及びZ2はそれぞれ独立して芳香族炭化水素環を示し、R1、R2a及びR2bはそれぞれ独立して置換基を示し、X1及びX2はそれぞれ独立して基−[(OA)n−Y](式中、Yはヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、Aはそれぞれ独立してアルキレン基を示し、nは0以上の整数を示す。)又はアミノ基を示し、k0〜8の整数を示し、m1及びm2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、p1及びp2はそれぞれ独立して1以上の整数を示す]。
前記式(1)において、環Z1及びZ2で表される芳香族炭化水素環(又はアレーン環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環、多環式芳香族炭化水素環などが挙げられる。多環式芳香族炭化水素環としては、例えば、縮合多環式芳香族炭化水素環、環集合多環式芳香族炭化水素環などが挙げられる。
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、例えば、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環などのC10−14縮合多環式アレーン環が挙げられる。
環集合多環式アレーン環としては、例えば、ビフェニル環などのビ又はテルC6−10アレーン環などが挙げられる。好ましい環集合多環式アレーン環としては、ビフェニル環などのビC6−10アレーン環が挙げられる。
なお、環Z1及びZ2はそれぞれ独立して、同一又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であることが多い。好ましい環Z1及びZ2は、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6−12アレーン環であり、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環などのC6−10アレーン環であり、特に、ベンゼン環が好ましい。環Z1及びZ2の種類は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
置換基R1としては、熱可塑性エラストマーに対する非反応性置換基、例えば、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、アルキル基、アリール基などの炭化水素基、アルキルカルボニル基などのアシル基などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、アルキル基としては、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルキル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基などのC6−10アリール基などが挙げられる。
アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキルカルボニル基などが挙げられる。
これらのうち、R1は、特に、アルキル基などである場合が多い。好ましいアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基、なかでも、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基が挙げられる。
置換基R1の置換数kは、0〜6程度の整数であってもよく、好ましい範囲は、以下段階的に、0〜4の整数、0〜3の整数、0〜2の整数であり、さらに好ましくは0又は1であり、特に0である。
なお、フルオレン骨格を形成する2つの異なるベンゼン環に置換した基R1の種類はそれぞれ独立して、互いに同一又は異なっていてもよい。また、同一のベンゼン環に置換する複数の基R1の種類は互いに同一又は異なっていてもよい。基R1の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2及び7位などが挙げられる。
置換基R2a及びR2bとしては、通常、熱可塑性エラストマーに対する非反応性置換基などが挙げられ、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基(又は基R)、基−OR、基−SR(式中、Rは前記炭化水素基を示す。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、モノ又はジアルキルアミノ基、モノ又はビス(アルキルカルボニル)アミノ基などの置換アミノ基などが挙げられる。
炭化水素基Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基が挙げられる。
炭化水素基Rで表されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基などが挙げられる。
炭化水素基Rで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−10アリール基などが挙げられる。
炭化水素基Rで表されるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基などが挙げられる。
基−ORとしては、例えば、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられ、具体的には、前記炭化水素基Rとして例示のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基にそれぞれ対応する基−ORなどが挙げられる。
基−SRとしては、例えば、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基などが挙げられ、具体的には、前記炭化水素基Rとして例示のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基にそれぞれ対応する基−SRなどが挙げられる。
アシル基としては、例えば、アセチル基などのC1−6アシル基などが挙げられる。
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基などが挙げられる。
置換アミノ基のうち、モノ又はジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのモノ又はジC1−4アルキルアミノ基などが挙げられる。また、モノ又はビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのモノ又はビス(C1−4アルキル−カルボニル)アミノ基などが挙げられる。
好ましい置換基R2a及びR2bとしては、炭化水素基、C1−4アルコキシ基などのアルコキシ基が挙げられる。好ましい炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基などのアルキル基、C5−8シクロアルキル基などのシクロアルキル基、C6−10アリール基などのアリール基、C6−8アリール−C1−2アルキル基などのアラルキル基などが挙げられる。さらに好ましい基R2としては、アルキル基、アリール基であり、なかでも、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基、フェニル基などのC6−10アリール基が好ましい。なお、基R2aがアリール基であるとき、基R2aは、環Z1とともに、前記環集合炭化水素環を形成してもよく、基R2bがアリール基であるとき、基R2bは、環Z2とともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
基R2a及びR2bの置換数m1及びm2は、それぞれ独立して、環Z1及びZ2の種類に応じて選択でき、例えば、それぞれ、0〜8程度の整数の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0〜6の整数、0〜4の整数、0〜3の整数であり、さらに好ましくは0〜2であり、なかでも、0又は1、特に0が好ましい。なお、置換数m1及びm2は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。
なお、基R2a及びR2bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。また、置換数m1が2以上である場合、2以上の基R2aの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、置換数m2が2以上である場合、2以上のR2bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。
好ましい基X1及びX2としては、基[−(OA)n−Y]が挙げられ、基[−(OA)n−Y]において、好ましい基Yとしては、ヒドロキシル基が挙げられる。
基Aで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルキレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基Aとしては、直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基が挙げられ、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−3アルキレン基が挙げられ、特にエチレン基が好ましい。
オキシアルキレン基(OA)の数(又は付加モル数)nは、0以上の整数、例えば、0〜20程度の整数の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0〜15、0〜12、0〜10、0〜8、0〜7、0〜6、0〜5、0〜4、0〜3、0〜2の整数である。また、付加モル数nは1以上であることが多く、付加モル数nの好ましい範囲としては、以下段階的に、1〜12、1〜10、1〜8、1〜7、1〜6、1〜5、1〜4、1〜3、1〜2の整数であり、さらに好ましくは1である。また、付加モル数nは、前記式(1)で表される化合物の分子集合体における平均値(又は平均付加モル数)であってもよく、その好ましい範囲としては上記整数の範囲と同様である。付加モル数nが大きすぎると、機械的特性や熱的特性が低下するおそれがある。
なお、前記式(1)で表される化合物において、X1及びX2は互いに同一又は異なっていてもよい。すなわち、2以上の基[−(OA)n−Y]における基Yの種類、アルキレン基Aの種類及び付加モル数nは、互いに同一又は異なっていてもよい。通常、それぞれの基[−(OA)n−Y]における基Y及びアルキレン基Aの種類は同一であることが多い。また、nが2以上である場合、基[−(OA)n−Y]を形成する2以上のアルキレン基Aの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であることが多い。
基X1及びX2の置換数p1及びp2は、それぞれ独立して、例えば、1〜6程度の整数から選択してもよく、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは1又は2、特に1である。置換数p1及びp2は互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
前記式(1)において、基X1及びX2の置換位置は特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、基X1及びX2は、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、2〜6位のいずれの位置であってもよく、通常、フェニル基の2位、3位及び/又は4位に置換し、好ましくは4位に置換している。
また、基X1及びX2は、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、フルオレンの9位に結合した環とは別の環に置換することが多い。例えば、環Z1及びZ2がナフタレン環である場合、フルオレンの9位がナフタレン環の1位又は2位に(1−ナフチル又は2−ナフチルの関係で)結合し、基X1及びX2がナフタレン環の5位又は6位などに置換する場合が多く、なかでも、1,5位又は2,6位の位置関係、特に、2,6位の位置関係で置換するのが好ましい。また、基X1及びX2は、環Z1及びZ2が環集合多環式炭化水素環である場合、フルオレンの9位に結合した環と同じ環に置換することが多い。例えば、環Z1及びZ2がビフェニル環である場合、フルオレンの9位がビフェニル環の3位に結合することが多く、かつ基X1及びX2はビフェニル環の6位に置換するのが好ましい。
前記式(1)で表される具体的なフルオレン化合物としては、(a) 9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類;前記化合物(a)のアルキレンオキシド付加体、すなわち、(b) 9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類;及びこれらの化合物(a)及び(b)において、末端のヒドロキシル基を、メルカプト基、グリシジルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基に置換した化合物などが挙げられる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「(ポリ)アルコキシ」は、アルコキシ基及びポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
(a) 9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、(a1) 9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、(a2) 9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類などが挙げられる。
(a1) 9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,5−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
(a2) 9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、前記(a1)9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基をナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(5−ヒドロキシ−1−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
(b) 9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類は、前記化合物(a)のヒドロキシル基1モル当たりに、アルキレンオキシド(又は対応するアルキレンカーボネートもしくはハロアルカノール)が、例えば、1〜20モル程度、好ましくは1〜10モル、さらに好ましくは1〜5モル付加した付加体が挙げられる。また、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシドなどが挙げられる。化合物(b)として具体的には、例えば、(b1) 9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類、(b2) 9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類などが挙げられる。
(b1) 9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類には、例えば、(b1-1) 9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類、前記化合物(b1-1)に対応して、ヒドロキシル基1モルに対するアルキレンオキシドの付加モル数nが2以上である化合物、すなわち、(b1-2) 9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類などが挙げられる。
(b1-1) 9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
(b1-2) 9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類としては、前記化合物(b-1)として例示した化合物に対応して、ヒドロキシル基1モルに対するアルキレンオキシドの付加モル数nが2以上の化合物などが挙げられ、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジ乃至デカアルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。より具体的には、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジ乃至デカC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
(b2) 9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記化合物(b1)に対応して、環Zのベンゼン環をナフタレン環に置換した化合物、例えば、(b2-1) 9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類、(b2-2) 9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類などが挙げられる。
(b2-1) 9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[5−(2−ヒドロキシエトキシ)−1−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
(b2-2) 9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジ乃至デカアルコキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。より具体的には、9,9−ビス{6−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]−2−ナフチル}フルオレン、9,9−ビス{6−[2−(2−ヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]−2−ナフチル}フルオレン、9,9−ビス{5−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]−1−ナフチル}フルオレン、9,9−ビス{5−[2−(2−ヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]−1−ナフチル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジ乃至デカC2−4アルコキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
前記式(1)で表される好ましい化合物として代表的には、基X1及びX2がそれぞれ基[−(OA1)n1−Y]及び[−(OA2)n2−Y]であり、基Yがヒドロキシル基である下記式(1A)で表される化合物が挙げられる。
(式中、Z1、Z2、R1、k、R2a、R2b、m1、m2、p1及びp2は好ましい態様を含めて前記式(1)と同じであり、A1及びA2はそれぞれ独立して好ましい態様を含めて前記式(1)のAと同じであり、n1及びn2はそれぞれ独立して好ましい態様を含めて前記式(1)のnと同じである)。
A1及びA2は互いに異なっていてもよいが、通常同一である。
n1≧2、又はn1≧1かつp1≧2の場合、2以上のA1は互いに異なっていてもよいが、通常同一である。n2≧2、又はn2≧1かつp2≧2の場合、2以上のA2は互いに異なっていてもよいが、通常同一である。
n1及びn2は互いに同一又は異なっていてもよい。
これらのフルオレン化合物のうち、前記式(1A)において、基[−(OA1)n1−OH]及び[−(OA2)n2−OH]をそれぞれ「X1」及び「X2」で表すと、kが0、置換数p1及びp2がともに1である下記表1に示す化合物が好ましい。なお、表1中、「m1、m2」は、m1とm2との合計数ではなくそれぞれの値を示し、「n1、n2」は、n1とn2との合計数ではなくそれぞれの値を示す。
上記表1のn1及びn2はそれぞれ平均値であってもよく、n1及びn2がともに2〜10である化合物において、通常、n1及びn2はともに2〜8、好ましくは2〜7、さらに好ましくは2〜5である。
フルオレン化合物は、フェノール性ヒドロキシル基よりもアルコール性ヒドロキシル基を有するのが好ましいようである。
これらのフルオレン化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、フルオレン化合物は、市販品を用いてもよく、慣用の方法、例えば、フルオレノン類とフェノール類又はヒドロキシ(ポリ)アルコキシアレーン類とを、酸触媒及び3−メルカプトプロピオン酸などの助触媒の存在下で反応させる方法などにより合成してもよい。
なお、前記フルオレン化合物は、結晶又は非晶形態であってもよく、いずれの場合にも耐熱性が高い。結晶形態のフルオレン化合物の融点は、例えば、80〜240℃、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは110〜180℃である。また、非晶形態のフルオレン化合物のガラス転移温度は、例えば、50〜120℃、好ましくは60〜110℃、さらに好ましくは70〜100℃である。本明細書及び特許請求の範囲において、融点及びガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により測定できる。
また、フルオレン化合物は、熱分解温度も高く、前記式(1)又は(1A)で表されるフルオレン化合物、代表的にはn1及びn2がともに0〜2程度の化合物の熱分解温度は、例えば、300〜420℃、好ましくは320〜400℃である。本明細書及び特許請求の範囲において、熱分解温度は、熱重量分析(TGA)により測定できる。前記式(1)又は(1A)において、nが0又はn1及びn2がともに0の場合に比べて、nが1以上の整数又はn1及びn2がともに1以上の整数である化合物の熱分解温度は高いようである。また、環Z1及びZ2がともにベンゼン環である場合に比べて、多環式芳香族炭化水素環、例えば、ビフェニル環などの環集合多環式芳香族炭化水素環、ナフタレン環などの縮合多環式芳香族炭化水素環である化合物の熱分解温度はさらに高くなる。このように、フルオレン化合物は、高温でも分解することなく、組成物の溶融流動性を改善できる。
これらのフルオレン化合物のうち、(b1) 9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類が好ましく、さらに好ましくは(b1-1) 9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類であり、なかでも、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンが好ましく、特に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンが好ましい。
フルオレン化合物の割合は、熱可塑性エラストマー及びフルオレン化合物の総量100質量部に対して、例えば、0.01〜70質量部程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.1〜50質量部、0.3〜30質量部、0.5〜20質量部、0.8〜15質量部、1〜12質量部、2〜10質量部であり、さらに好ましくは2〜8質量部、なかでも、3〜7質量部、特に、4〜6質量部である。また、フルオレン化合物の割合は、熱可塑性エラストマー及びフルオレン化合物の総量100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部程度である場合が多く、好ましくは0.5〜7.5質量部、より好ましくは1〜5質量部、さらに好ましくは1〜3質量部である。
フルオレン化合物の割合が多すぎると、引張強さ、曲げ強さなどの機械的特性や、荷重たわみ温度などの熱的特性などが大きく低下するおそれがある。なお、フルオレン化合物の割合が少なすぎると、溶融流動性をあまり向上できないおそれがあるものの、本発明では、フルオレン化合物の量が比較的少量であっても、溶融流動性を有効に向上できる。
[熱可塑性組成物及び成形体]
本発明の熱可塑性組成物(又はエラストマー組成物)は、優れた機械的特性と溶融流動性とを両立できる。そのため、本発明は、熱可塑性エラストマーに、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を添加して、機械的特性や熱的特性などの物性を損なうことなく溶融流動性を改善する方法も包含する。また、熱可塑性組成物は、必ずしも必要ではないが、さらに、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などのオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂などのハロゲン含有ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル樹脂;ポリスチレン(PS)、スチレン系共重合体、例えば、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)など、ゴム成分含有スチレン系樹脂(又はゴムグラフトスチレン系共重合体)、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂[例えば、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル−(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)−スチレン共重合体(AES樹脂)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステルなどのポリエステル樹脂;ビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂などのポリカーボネート樹脂(PC);脂肪族ポリアミド樹脂、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66など、芳香族ポリアミド樹脂(又はアラミド樹脂)、例えば、ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)などのポリアミド樹脂(PA);ポリアセタール樹脂(POM);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE);ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS);ポリスルホン樹脂(PSF)(ポリエーテルスルホン(PES)などを含む);ポリエーテルケトン樹脂(PEK)(ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を含む);ポリイミド樹脂(ポリエーテルイミド(PEI)、液晶性ポリマー(LCP)を含む)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
また、必要に応じて、熱可塑性エラストマーは、前記他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイを形成してもよい。また、ポリマーアロイは相溶化剤を含んでいてもよい。
なお、熱可塑性組成物は、必要に応じて、各種添加剤、例えば、粉粒状又は繊維状の充填剤(補強剤又は強化剤)、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、滑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、核剤、結晶化促進剤などを含んでいてもよい。安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
熱可塑性組成物は、熱可塑性エラストマーと、フルオレン化合物と、必要に応じて他の成分(熱可塑性樹脂や添加剤など)とを、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合することにより調製できる。そのため、熱可塑性組成物は、ペレットなどの形態であってもよい。
本発明の熱可塑性組成物の特性は、熱可塑性エラストマー及びフルオレン化合物の種類や割合によっても異なるが、高い溶融流動性を有している。そのため、ISO 1133に準じて測定したメルトフローレート(MFR)又はメルトフローインデックス(MFI)は、温度200℃、試験荷重2.16kgfの測定条件において、例えば、10g/10分以上の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、15g/10分以上、20g/10分以上、25g/10分以上、30g/10分以上、35g/10分以上である。また、MFRは、前記測定条件において、10〜200g/10分程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、15〜150g/10分、20〜100g/10分、25〜80g/10分、27〜60g/10分、30〜50g/10分、35〜45g/10分である。
また、熱可塑性組成物のメルトフローレート(MFR)又はメルトフローインデックス(MFI)は、フルオレン化合物を含まない状態の組成物におけるMFRに対して、例えば、2〜30倍程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、3〜25倍、5〜23倍、8〜20倍、10〜19倍であり、さらに好ましくは11〜18倍であり、なかでも、12〜17倍であり、特に、14〜16倍である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、前記フルオレン化合物を含まない状態の組成物とは、フルオレン化合物に代えて、熱可塑性組成物中の熱可塑性エラストマーを、フルオレン化合物と同じ質量割合で(又は同じ質量分)添加した組成物を意味する。また、MFRは、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
また、本発明の熱可塑性組成物は、低分子化合物であるフルオレン化合物を含むにもかかわらず、物性、例えば、機械的特性及び/又は熱的特性、特に、機械的特性及び熱的特性の双方を大きく低下させることなく溶融流動性を改善できる。
そのため、熱可塑性組成物又はその成形体の機械的特性は、フルオレン化合物を含まない状態の組成物における機械的特性に対して、例えば、0.8〜2倍程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.85〜1.5倍、0.9〜1.2倍、0.92〜1.15倍であり、さらに好ましくは0.95〜1.1倍であり、なかでも、1〜1.05倍であるのが好ましい。なお、前記機械的特性としては、例えば、引張強さ、引張弾性率などの引張特性、曲げ強さ、曲げ弾性率などの曲げ特性などが挙げられ、なかでも、100%引張強度(又は100%ひずみ引張応力)、300%引張強度(又は300%ひずみ引張応力)、引張降伏強さ(又は引張降伏応力)、曲げ強さ、及び曲げ弾性率から選択された少なくとも1種の機械的特性であることが多い。また、これらの引張特性や曲げ特性は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
また、熱可塑性組成物又はその成形体の熱的特性(又は耐熱性)は、フルオレン化合物を含まない状態の組成物における熱的特性に対して、例えば、0.7〜2倍程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.75〜1.5倍、0.8〜1.3倍、0.85〜1.2倍、0.9〜1.15倍であり、さらに好ましくは0.95〜1.1倍であり、なかでも、1〜1.05倍であるのが好ましい。なお、前記熱的特性としては、例えば、荷重たわみ温度などが挙げられる。また、荷重たわみ温度は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
また、本発明は、前記熱可塑性組成物で形成された成形体も包含する。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、線状(又は糸状)などの一次元的構造体、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造体、ブロック状、棒状、中空状(管状又はチューブ状)などの三次元的構造体などであってもよい。
成形体は、例えば、圧縮成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法、カレンダ加工、発泡成形法などの慣用の成形法を利用して製造することができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、各種評価方法及び使用した原料を下記に示す。
(MFR)
JIS K 7210に準じて、保持時間を5分とし、下記条件で測定した。
温度200℃、試験荷重2.16kgf。
(引張特性)
JIS K 7161に準じて、試験速度50mm/分で測定した。
(曲げ特性)
JIS K 7171に準じて、支点間距離64mm、試験速度2mm/分で測定した。
(荷重たわみ温度)
JIS K 7191に準じて、フラットワイズ、曲げ応力0.45MPa(B法)、支点間距離64mm、昇温速度120℃/hrで測定した。
(原料)
熱可塑性エラストマー
熱可塑性ウレタンエラストマー(TPU):日本ミラクトラン(株)製「ミラクトラン E590P」
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(TEEE):東レ・デュポン(株)製「ハイトレル 5557」
フルオレン化合物
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン:大阪ガスケミカル(株)製「BPEF」。
(実施例1〜2)
TPUとBPEFとを下記表2に示す割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(日本プラコン(株)製「MAX30」、L/D:42、スクリュー径:30mm)を用いて、温度190〜220℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量20kg/時の条件でBPEF含有TPUを混練して、ペレット状の熱可塑性組成物を調製した。得られた熱可塑性組成物を用いて、射出成形により、各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を表2に示す。
(比較例1)
BPEFを添加することなく、TPUのみを用いて、実施例1と同様の方法により、ペレット状のTPU及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を表2に示す。
表2から明らかなように、実施例では、低分子化合物であるBPEFを含むにも拘らず、100%引張強度及び荷重たわみ温度を向上させ、MFRを約11〜15倍程度も向上できた。
(実施例3〜5)
TEEEとBPEFとを下記表3に示す割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(日本プラコン(株)製「MAX30」、L/D:42、スクリュー径:30mm)を用いて、温度210〜230℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量20kg/時の条件で、BPEF含有TEEEを混練して、ペレット状の熱可塑性組成物を調製した。得られた熱可塑性組成物を用いて、射出成形により、各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を表3に示す。
(比較例2)
BPEFを添加することなく、TEEEのみを用いて、実施例3と同様の方法により、ペレット状のTEEE及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を表3に示す。
表3から明らかなように、実施例では、低分子化合物であるBPEFを含むにも拘らず、機械的特性を大きく低下させることなく、MFRを約3〜21倍程度も向上できた。