JPWO2019208651A1 - 非晶質金属薄帯、その加工方法、及び、積層体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
従来、これらの非晶質金属薄帯は、ほぼ機械加工せずに製造できる、トロイダル状に巻き回した巻磁心を主な適用対象としていた。近年では、巻磁心に加え、非晶質金属薄帯を積層し、回転機やリアクトル、アンテナなどの磁性部材として活用することが検討されている。
前記非晶質金属薄帯を振動させた後、または振動させながら機械加工するものである。
前記振動は、その周波数が1Hz以上500kHz以下とすることができる。
前記振動は、前記非晶質金属薄帯に1A/m以上の交流磁場を付与することで発生させることができる。
前記非晶質金属薄帯は長尺な帯状であり、前記非晶質金属薄帯を前記長尺な方向に搬送させながら機械加工することができる。
前記非晶質金属薄帯に対し、加工工具により局所的に振動を与えられた部分を機械加工することができる。
前記加工工具は、前記非晶質金属薄帯の上下面を挟持可能な、パンチャーとパンチ枠を備え、前記パンチャーとパンチ枠の少なくとも一方は、前記非晶質金属薄帯の厚さ方向で摺動可能であり、前記パンチャーとパンチ枠が、前記非晶質金属薄帯の上下面を挟持し、かつ、その少なくとも一方が前記厚さ方向に振動することで、前記非晶質金属薄帯の前記パンチャーとパンチ枠の摺動部に位置する部分で前記非晶質金属薄帯に振動を与え、前記振動により繰り返し疲労が与えられた部分を前記パンチャーにより打ち抜き加工を施す加工方法とすることができる。
前記非晶質金属薄帯は、厚さが5μm以上70μm以下とすることができる。
前記非晶質金属薄帯は、ビッカース硬さHVが500以上のものを用いることができる。
薄帯の加工面に械加工によるせん断面を有する非晶質金属薄帯であって、前記加工面において、薄帯表面のダレ面側の輪郭が波型を有する、非晶質金属薄帯。
この波型の輪郭は、平均で0.1〜20μmの周期で凹凸を有するものとすることができる。
また、前記加工面において、前記せん断面は40%以上の面積を占めるものとすることができる。
また、前記薄帯表面のダレ面側の輪郭に対し、前記せん断面におけるダレ面側の輪郭が、相関する波型を有するものとすることができる。
薄帯の加工面に機械加工によるせん断面を有する非晶質金属薄帯であって、
機械加工された前記薄帯の加工面において、破断面が50%以上の面積を占める、非晶質金属薄帯。
前記非晶質金属薄帯を振動させた後、または振動させながら機械加工するものである。
非晶質金属薄帯は、破壊靭性が極めて高い材料である。そのため、機械加工で薄帯に破壊が始まる際に、破壊クラックの先端には大きな塑性変形が起こり、その結果、非晶質金属薄帯と加工工具の間には大きな衝撃が発生する。また、非晶質金属薄帯は、前記のように硬度が極めて高いので、その衝撃により切断部位で亀裂や割れが発生しやすい。特に複雑な形状に加工する場合、曲率の小さいコーナー部等で、亀裂や割れが生じやすい。
しかし、本発明では、上記の加工方法を採用することで、その問題を抑制できることを知見した。
一般的にガラスの切断は表面にケガキ傷を入れ、ケガキ傷を起点にして、クラックを伝播させる弾性破壊を主とする加工方法を採用することが多い。ガラス全体の原子の配列が共有電子結合を主としており、ガラスはいずれの部位も硬いため、上記の加工方法を採用できる。
非晶質金属薄帯は、金属ガラスとも呼ばれるように、ガラスと同様、原子の配列がランダムである。但し、一般のガラスと異なり、主に遷移金属どうし(例えばFe-Fe間)の結合形態は金属結合であるが、半金属(メタロイド元素)を含む結合では共有電子結合となり、薄帯の原子レベルで場所によって硬さが異なる。また、金属(合金)内では、フリーボリュームと呼ばれる原子が存在した空間(結晶相における格子欠陥)が多く存在し、これらのフリーボリュームを介して、原子が移動できるため、大きな塑性変形を許容する。他方、薄帯の表面は、フリーボリュームが存在せず、非常に硬いという特徴を有する。そのため、非晶質金属薄帯は、ガラスと同様の加工方法を適用することは難しく、せん断変形によって機械加工する必要があると推察される。
そこで、本発明者は、非晶質金属薄帯を振動させた後、または振動させながら機械加工する加工方法を着想した。ここで、非晶質金属薄帯を振動させながら機械加工する、とは、加工工具を振動させながら非晶質金属薄帯を機械加工するものも含む。
(1)非晶質金属薄帯を振動させることで、非晶質金属薄帯の脆性を高めることができる。そのため、振動後に機械加工することで、振動させないものに対して加工性を向上できる。
(2)非晶質金属薄帯を振動させることで、非晶質金属薄帯の脆性を高めることができる。そのため、加工工具を振動させながら機械加工する、つまり、非晶質金属薄帯を振動させながら機械加工することで、振動させないものに対して加工性を向上できる。
(3)非晶質金属薄帯を振動させながら機械加工することで、非晶質金属薄帯と加工工具とが当接した際に相対的に振動するので、非晶質金属薄帯の硬い表面が研磨されるのと同様の状態で機械加工され始め、高精度の加工が可能である。なお、その後は、機械加工によって、薄帯の内部がせん断変形される
本発明のように振動を利用する場合、切断刃は、刃先部分がミクロ的にはのこぎり状になっていることが知られており、このような切断刃と非晶質金属薄帯が相対的に振動すると、被加工物と切断刃を相対的に長い距離を移動させなくても、非加工物の表面に切欠を発生させることができる。
本発明の実施形態において、前記非晶質金属薄帯は1ppm以上の飽和磁歪を有するものであり、前記振動は、前記非晶質金属薄帯の磁歪による振動とすることができる。
また、この加工方法の特徴は、非晶質金属薄帯を複数方向に振動させる点である。本実施形態では、磁歪により非晶質金属薄帯を振動させるので、磁場を印加する方向では圧縮・膨張による振動が発生し、かつ、磁場を印加する方向の垂直方向においては膨張・圧縮による振動が同時に発生する。つまり、加工工具と非晶質金属薄帯がどのような方向に接触したとしても、単一方向の振動よりも、安定して両者が相対的に摺動する状態となるので、亀裂や割れの抑制効果を得られやすい。
非晶質金属薄帯の多くは、工業的生産性の観点から、ロール急冷によって作製されることが多い。ロール急冷とは、高熱伝導の金属製(例えばCu合金)のロールに溶融状態の液体金属をたらし、密着させ、急速に凝固させる方法である。1×105〜1×107℃/s程度の極めて高い冷却速度が得られることから、ロール急冷は非晶質金属薄帯の鋳造方法として広く適用されている。
しかし、極めて短時間で溶湯を凝固するため、部分的な冷却速度の不均一性を反映して、薄帯の表面は凹凸が生じやすい。これらの薄帯を積層して同時に打抜こうとする場合、その内の1枚の薄帯表面の凸部は、対向する薄帯表面に接しやすく面内方向に滑りが生じにくいので、加工工具の刃の形状に沿って加工されやすくなるが、一方で凹部は滑りが生じやすいので、加工工具からの応力が分散し、加工工具の刃の形状に沿って加工されにくい。
特に非晶質金属薄帯は、硬度が高いので、機械加工の際に、加工工具との相対速度を速くする必要があるが、非晶質金属薄帯は引きちぎられるように破壊されるため、切断線上から外れた欠陥が生じる。
本実施形態の非晶質金属薄帯の加工方法では、薄帯が振動した状態で機械加工されるので、両者が相対的かつ積極的に動くことにより、加工工具が当接する部位から細かい切欠が発生し、そこを起点としてせん断変形を進行させていくことができる。そのため、薄帯の凹部がある箇所も、周囲の拘束が強い箇所の拘束力により固定され、切断が容易になる。
周波数の下限値は、10Hzが好ましく、100Hzがより好ましく、1kHzがより好ましい。周波数の上限値は、400kHz好ましく、300kHzがより好ましく、80kHzがより好ましく、60kHzがより好ましく、40kHzがより好ましい。
交流磁場の下限値は、10A/mが好ましく、30A/mがより好ましく、70A/mがより好ましく、100A/mがより好ましく、130A/mがより好ましい。
搬送中の薄帯は破断しやすいことが知られている。外部からの応力で薄帯を振動させる場合、搬送中の薄帯は、応力を付与する場所を中心にさらに破断しやすくなることが懸念される。一方、磁歪で振動させる場合は、磁束が非晶質金属薄帯の面内方向で流れ、局部的な内部応力を発生させにくいので、外部から応力をかけて振動させる場合よりも、搬送中の薄帯が切れることを抑制できる。
つまり、別の発明として、金属薄帯、又は、加工に用いる加工工具の少なくとも一方に振動を付与しながら機械加工する、金属薄帯の加工方法であって、
前記金属薄帯は1ppm以上の飽和磁歪を有するものであり、前記振動は、前記金属薄帯の磁歪による振動とすることで、本発明と同様の効果を持つ金属薄帯の加工方法を提供できる。
本実施形態の非晶質金属薄帯は、薄帯の加工面に機械加工によるせん断面を有する非晶質金属薄帯であって、前記加工面において、薄帯表面のダレ面側の輪郭が波型である。なお、加工面とは打ち抜き加工や切断加工では、打ち抜きされた面(側面)や切断された面(切断面)に相当する。
具体的には、波型の輪郭は、平均で0.1〜20μmの周期で凹凸を有するものとすることができる。このように、凹凸が0.1〜20μmの周期で存在する理由は、以下のことが推定される。この磁歪振動法では、磁場の極性を数十kHzの周期で入れ替えている。つまり、プラスの磁化状態とマイナスの磁化状態が高周波数で入れ替わっていることになる。磁化状態では磁歪も大きくなり、磁化がゼロの状態では磁歪もゼロとなる。この高速の磁化反転は磁壁移動によって起きており、磁壁上は、磁歪が最も小さい箇所となる。高速の磁化反転に追随できるように、磁区幅(磁壁と磁壁の間隔であり、磁壁移動距離の約2倍)が0.2〜40μmとなる。上面から刃で押さえつけられた状態で、周囲と体積がことなる磁壁が移動することにより、あたかも、刃がのこぎり状に動いた状態になっていると予想している。凹凸の平均の周期の測定方法は、隣接する凹部の最深部の間隔を、少なくとも5箇所測定し、その間隔の平均値を測定するものである。なお、凹凸は、凹部と凸部の薄帯の厚さ方向の高さで0.3μm以上の差があるものを一つの凹凸とする。
また、本実施形態の非晶質金属薄帯は、加工面において、せん断面が40%以上の面積を占めることがある。せん断面は50%以上、更には60%以上、更には65%以上の面積を占めることがある。なお、加工面におけるせん断面が占める面積の数値は、次の測定方法で算出できる。まず、加工面の任意の複数個所において、薄帯の厚さT(T1,T2,・・・Tn)と、せん断面の幅W(w1,w2,・・・wn)と、を測定する。その後、T1からTnの総和Tsumと、w1からw2の総和Wsumから、wsum/Tsum×100(%)を算出する。本実施形態においては、加工面の幅450μmの範囲において任意の測定箇所を5箇所として、上記数値を算出した。
また、本実施形態の非晶質金属薄帯は、加工面において薄帯表面のダレ面側の輪郭に対し、せん断面におけるダレ面側の輪郭が、相関する波型を有することがある。相関する波型とは、凹凸の周期(隣接する凹部の最深部の間隔)の変動が、両者の輪郭において、同様に現れるものを指す。このように、両者の波型の輪郭に相関が存在する理由は、以下のことが推定される。上述したように、この周期性の起源は、磁壁間の距離に依存していると考えらえる。ここで見られる磁歪は線磁歪であり、磁壁近傍の周囲と異なる磁歪状態の領域が、鉛直方向に広がっており、ダレと破面が形成された箇所、すなわち、刃の直下では、同様の周期的体積変動を繰り返していたため、両者の輪郭は酷似すると考えらえる。
この実施形態によれば、脆性を高めた部分を機械加工するので、加工性を向上でき、亀裂や割れの抑制効果を得られやすい。
前記パンチャーとパンチ枠の少なくとも一方は、前記非晶質金属薄帯の厚さ方向で摺動可能であり、
前記パンチャーとパンチ枠が、非晶質金属薄帯の上下面を挟持し、かつ、少なくとも一方が前記厚さ方向に振動することで、非晶質金属薄帯の前記パンチャーとパンチ枠の摺動部に位置する部分で非晶質金属薄帯に振動を与え、振動により繰り返し疲労が与えられた部分を前記パンチャーにより打ち抜き加工を施す工程を採用できる。
本実施形態の非晶質金属薄帯は、薄帯の加工面に機械加工によるせん断面を有する非晶質金属薄帯であって、機械加工された薄帯の加工面において、破断面が50%以上の面積を占める。破断面は60%以上、さらには65%の面積を占めることがある。
なお、加工面における破断面が占める面積の数値は、次の測定方法で算出できる。まず、加工面の任意の複数個所において、薄帯の厚さT(T1,T2,・・・Tn)と、破断面の幅W(W1,W2,・・・Wn)と、を測定する。その後、T1からTnの総和Tsumと、W1からW2の総和Wsumから、Wsum/Tsum×100(%)を算出する。本実施形態においては、加工面の幅450μmの範囲において任意の測定箇所を5箇所として、上記数値を算出した。
非晶質金属薄帯の製造手段は特に限定されない。
一例を挙げれば、ロール冷却により製造されたFeを主成分とするものを用いることができる。なお主成分とは、含有量が最も多い成分のことである。
Si量およびB量がこの範囲を外れると、ロール冷却で製造する際にアモルファス合金とすることが難しくなったり、量産性が低下したりしやすい。添加物あるいは不可避的不純物として、Mn、S、C、Al等、Fe、SiおよびB以外の元素を含んでいてもよい。非晶質金属薄帯は上述の組成を有していることが好ましく、結晶構造を持たないアモルファス(非晶質)であり、軟磁性体であることが好ましい。なお、Si量は、3原子%以上10原子%以下が好ましい。また、B量は、10原子%以上15原子%以下が好ましい。また、Fe量は、高い飽和磁束密度Bsを得るために、78原子%以上、さらには79.5原子%以上、さらには80原子%以上、さらには81原子%以上とすることが好ましい。なお非晶質金属薄帯は、不可避不純物を含むことができるが、Fe、SiおよびBの合計の割合は、95質量%以上であることが好ましく、さらには98質量%以上であることがより好ましい。尚、非晶質金属薄帯は非晶質合金薄帯と称されることもあり、アモルファス合金リボンや軟磁性アモルファス合金リボン等と称されることもある。
上記組成の非晶質金属薄帯は、飽和磁歪が5ppm以上、かつ、ビッカース硬さHVが700以上である。
上記組成の非晶質金属薄帯は、飽和磁歪が5ppm以上、かつ、ビッカース硬さHVが700以上である。
ナノ結晶化した合金は、その少なくとも50体積%、さらには80体積%が、最大寸法で測定した粒径の平均が100nm以下の微細な結晶粒で占められる。また、合金のうちで微細結晶粒以外の部分は主にアモルファスである。微細結晶粒の割合は実質的に100体積%とすることもできる。
例えば、装置は、図1、図2、図3に記載のものを用いることができる。但し、本発明に用いることができる装置はこれらに限定されない。
図1の装置は、非晶質金属薄帯1と、非晶質金属薄帯1に磁束が流れるように巻いたコイル2と、非晶質金属薄帯1を機械加工することが可能な加工工具6を備える。コイル2は、アンプ4により増幅された、交流電源3から流れる交流電流が流される。
図1の実施形態においては、長尺の非晶質金属薄帯1が、少なくとも外周側が柔軟性を有する円環状のボビン5に周方向に巻かれている。加工工具6は、切断刃である。加工工具6は、ボビン5の径方向に移動可能であり、ボビン側に移動させた際、切断刃の先端が、ボビン5の周面に巻かれた非晶質金属薄帯1に当接可能である。また、ボビン5の外周側の柔軟性を有する材質に食い込んでボビンの外周面より内径側にまで移動できるように、構成されている。
図2の装置は、図1と同様に、非晶質金属薄帯1と、非晶質金属薄帯1に磁束が流れるように巻いたコイル2と、非晶質金属薄帯1を機械加工することが可能な加工工具を備える。
図2の実施形態においては、加工工具は、図中6aが打ち抜き用のパンチャー、6bが打ち抜き用のパンチ枠である。長尺の非晶質金属薄帯1の一部は、加工工具6a,6bで打ち抜き可能な位置に配置される。図においては、長尺の非晶質金属薄帯1は、巻き出しロール7から巻きだされて加工工具6a,6bに搬送されている。加工工具6a,6bは、搬送された非晶質金属薄帯1に打ち抜き加工を行う。これにより、非晶質金属薄帯1を連続的に搬送させながらの機械加工が可能である。
図中、コイル2は、その軸方向が非晶質金属薄帯1の長尺方向と平行になるように形成される。
交流電源3とアンプ4は、図1と同じ構成であり、説明を省略する。
図3の装置は、非晶質金属薄帯1と、非晶質金属薄帯1を機械加工することが可能な加工工具を備える。加工工具は、非晶質金属薄帯の上下面をそれぞれ挟持可能な、パンチャー8a,8bとパンチ枠9a、9bを備える。
巻き出しロール7と非晶質金属薄帯1は、図2と同じ構成であり、説明を省略する。
図1に記載の装置により、非晶質金属薄帯に機械加工を施した。具体的には、次の条件で行った。
非晶質金属薄帯は、25mm幅にスリットされたものを用いた。
非晶質金属薄帯として、FeとSiとBを100原子%として、Fe:82原子%、Si:4原子%、B:14原子%の組成のものを用いた。なお、Cu、Mn等の不可避不純物は、0.5質量%以下である。
この非晶質金属薄帯は、厚さが20μmであり、飽和磁歪が27ppmであり、ビッカース硬さHVが800である。
この組成の非晶質金属薄帯は、軟磁性材料として高透磁率を有することも知られており、交流磁場に磁化が追随しやすく、磁化過程を介して、磁性体そのものを振動させることが可能である。
ボビン5は紙管を用いた。紙管は外周側が柔軟性を有するため、切断刃の先端を外径部よりも内周側に食い込ませることができる。ボビンの外径は100mmである。
このボビンの周方向に前記のスリットした非晶質金属薄帯1を2周分巻きつけた。巻きつけた非晶質金属薄帯1の磁路長は約0.314mである。
上記条件で、非晶質金属薄帯1を磁歪振動させ、その状態を維持したまま、切断刃6に10kgf(腕で軽く押すぐらい100N)の加重をかけて、その先端を非晶質金属薄帯1の表面に押し当てた。
また、比較として、磁歪振動させない以外は、本実施形態1と同様にして機械加工を行った。
図7及び図8は、用いた非晶質金属薄帯の軟磁性を示すB−H曲線であり、図8は図7の横軸を一部拡大したものである。図7に示すように、この非晶質金属薄帯は、800A/mでの磁束密度が、飽和磁束密度に近いB=1.5Tである。また、図8に示すように、130A/mにおける磁束密度は、B=1.1Tとなることが伺え、この磁束密度は、飽和磁束密度の約73.3%である。この非晶質金属薄帯の飽和磁歪は27ppmであるため、130A/mの交流磁場を非晶質金属薄帯に印加した場合、27ppm×73.3%で計算される、19.8ppmの磁歪で磁歪振動させることになる。
同様に、70A/mの交流磁場を非晶質金属薄帯に印加した場合を計算すると、16ppmの磁歪で磁歪振動させることになる。
なお、機械加工の合格率は、図5に示すような、切断跡12から亀裂や割れが発生していないものを合格、図6に示すような、切断跡12から亀裂10や割れ11が発生したものは不合格とした。機械加工の実験回数は10回とした。
対して、非晶質金属薄帯を磁歪振動させながら機械加工したNo.1−7の実施形態は、外周側の合格率はすべて60%以上、内周側の合格率は全て80%以上であり、比較例の合格率よりも全ての実施形態で合格率が向上した。
特に、磁歪振動の周波数が10〜60kHzのNo.1−4の実施形態では、外周側の合格率はすべて80%以上に向上した。さらには、周波数が10〜40kHzのNo.1−3の実施形態では、外周側の合格率はすべて90%以上に向上した。さらには、周波数が20〜40kHzのNo.2,3の実施形態では、内周側の合格率はどちらも100%に向上した。
図11は、図10の模式図である。図中、Bはせん断面である。B2は切断刃の移動方向に線状の加工痕が観察できるせん断面であり、B1はそれが観察できなかったせん断面である。また、Aはダレ面であり、Cは破断面であり、Dはバリ面である。
本実施形態の非晶質金属薄帯は、薄帯の加工面に機械加工によるせん断面を有する非晶質金属薄帯であって、前記加工面において、薄帯表面のダレ面側の輪郭が波型を有する。
波型の輪郭は、平均で5.2μmの周期で形成されている。
さらに、加工面において、せん断面は70.4%を占めている。
また、本実施形態の非晶質金属薄帯は、図10の写真の全幅45μmにおいて、薄帯表面のダレ面側の輪郭に対し、前記せん断面におけるダレ面側の輪郭が、相関する波型を有する。
図14は、図13の模式図である。図中、Bはせん断面である。また、Aはダレ面であり、Cは破断面であり、Dはバリ面である。
この比較用の非晶質金属薄帯は、本実施形態のものと異なり、薄帯表面のダレ面側の輪郭が平坦であり、波型ではなかった。また、せん断面におけるダレ面側の輪郭が、薄帯表面のダレ面側の輪郭と、相関する形状ではなかった。
また、せん断面の占める割合は27.2%であり、非常に少ないものである。
実施例2では、印加する交流磁場の強さを変え、それによる機械加工の合格率を調べた。
図1に記載の装置により、非晶質金属薄帯に機械加工を施した。磁歪振動の周波数は30kHzとした。また、コイルで発生する交流磁場の最大値が30A/m、70A/m、100A/m、130A/mとなるように、コイルに交流電流を流した。この場合、非晶質金属薄帯は12ppm、16ppm、18ppm、19.8ppmの磁歪で磁歪振動する。
それ以外は、実施形態1と同様の条件で合格率を調べた。
この交流磁場の強さの範囲においては、非晶質金属薄帯を磁歪振動させながら機械加工したNo.1−4の実施形態は、外周側の合格率はすべて60%以上、内周側の合格率は全て70%以上であり、表1のNo.8の比較例の合格率よりも全ての実施形態で合格率が向上した。
なお、この交流磁場の強さの範囲においては、磁場強度が大きくなるほど、機械加工の合格率が高くなる傾向があった。
図1に記載の装置により、非晶質金属薄帯に機械加工を施した。
ボビン5は実施形態1と同じものを用いた。このボビンの周方向に前記のスリットした非晶質金属薄帯1を4周分巻きつけた。
交流電源3から30kHzの交流電流をアンプ4に送り、アンプ4で電流を増幅し、コイル(14ターン)で発生する交流磁場の最大値が180A/mとなるように、コイル2に交流電流を流した。この場合、非晶質金属薄帯は24ppmの磁歪で磁歪振動する。
それ以外は、実施形態1と同様の条件で機械加工の合格率を調べた。
その結果、4層とも、亀裂や割れの発生が無い状態で切断できた。
また、比較として、コイル2に交流電流を流さず、磁歪振動させない状態で機械加工の合格率を調べたが、上記実施形態よりも、非晶質金属薄帯への切断刃6の入りが悪く、4層とも割れ又は亀裂が広範囲にわたり入った。交流磁場を発生させた場合の合格率が90%、磁場がない場合の合格率は0%であった。
実施例4では、上記した実施形態の非晶質金属薄帯の加工方法(非晶質金属薄帯に対し、加工工具により局所的に振動を与え、前記振動による繰り返し疲労が与えられた部分を機械加工する加工方法)により、機械加工された非晶質金属薄帯を得た。
ロール冷却により、合金組成が、原子%でFe81.5Si4B14.5の、アモルファス金属薄帯を製造した。アモルファス金属薄帯は、厚みが22.7μmのものを用意した。薄帯の厚さは、密度と重量および寸法(長さ×幅)より算出した。また、薄帯の幅は、80mmであった。
打抜き装置として、図3に示すものを用いた。
打抜き金型として、パンチャー8a,8bとパンチ枠9a、9bともに、超硬材(富士ダイス社製フジロイVF−12材)を用いた。パンチは、先端が長方形の柱状であり、その寸法は5×15mmで、角部がアール処理(R部0.3mm)されている。ダイは、パンチが挿入される加工孔が形成されている。また、パンチャー8a,8bとパンチ枠9a、9bが非晶質金属薄帯1をそれぞれ挟持し、かつ、パンチャー8a,8bが厚さ方向に振動する。パンチャー8a,8bの振動は、超音波発生装置による、超音波振動とした。また、パンチャー8a,8bとパンチ枠9a、9は、非晶質金属薄帯の厚さ方向で摺動可能となっている。
パンチ枠9a、9bとパンチャー8a,8bで、1枚のアモルファス金属薄帯を挟持した。この状態において、パンチャー8a,8bを超音波振動させ、パンチ枠とパンチャーの摺動部で、アモルファス金属薄帯に振動による繰り返し疲労を与えた。その後、パンチャー8a,8bを超音波振動させたまま、加重1400Nの条件でパンチャー8a,8bを稼動し、打抜き加工を行った。この非晶質金属薄帯を振動させながら機械加工する加工方法により、薄帯の側面部が機械加工された非晶質金属薄帯を得た。
この非晶質金属薄帯は、機械加工された薄帯の加工面(側面部)において、破断面が73.4%の面積を占めていた。
図17は、得られた非晶質金属薄帯における加工面(側面部)の写真である。図18は図17の模式図である。一般的に言われるように、打ち抜き加工による断面は、ダレ面A(斜線部)、せん断面B(縦線部)、破断面C(白色部)、バリD(グレー部)が形成されている。
しかしながら、この比較用の非晶質金属薄帯は、本実施形態のものと異なり、薄帯表面のダレ面側の輪郭が平坦であり、波型ではなかった。また、加工面において、破断面の占める割合は70%未満(46.2%)であり、非常に少ないものである。なお、加工面において、せん断面の占める割合は48.0%であった。
また、上記実施形態において、アモルファス金属薄帯に振動による繰り返し疲労を与えた後、パンチャー8a,8bの超音波振動を止めて打抜き加工を行う、つまり、非晶質金属薄帯を振動させた後に機械加工する、加工方法を適用することもできる。
Claims (16)
- 非晶質金属薄帯の加工方法であって、
前記非晶質金属薄帯を振動させた後、または振動させながら機械加工する、非晶質金属薄帯の加工方法。 - 前記非晶質金属薄帯は1ppm以上の飽和磁歪を有するものであり、前記振動は、前記非晶質金属薄帯の磁歪による振動である、請求項1に記載の非晶質金属薄帯の加工方法。
- 前記振動は、その周波数が1Hz以上500kHz以下である、請求項1または請求項2に記載の非晶質金属薄帯の加工方法。
- 前記振動は、前記非晶質金属薄帯に1A/m以上の交流磁場を付与することで発生させる、請求項2または3に記載の非晶質金属薄帯の加工方法。
- 前記非晶質金属薄帯に対し、加工工具により局所的に振動を与えられた部分を機械加工する、請求項1に記載の非晶質金属薄帯の加工方法。
- 前記加工工具は、前記非晶質金属薄帯の上下面を挟持可能な、パンチャーとパンチ枠を備え、
前記パンチャーとパンチ枠の少なくとも一方は、前記非晶質金属薄帯の厚さ方向で摺動可能であり、
前記パンチャーとパンチ枠が、前記非晶質金属薄帯の上下面を挟持し、かつ、その少なくとも一方が前記厚さ方向に振動することで、前記非晶質金属薄帯の前記パンチャーとパンチ枠の摺動部に位置する部分で前記非晶質金属薄帯に振動を与え、前記振動により繰り返し疲労が与えられた部分を前記パンチャーにより打ち抜き加工を施す、請求項5に記載の非晶質金属薄帯の加工方法。 - 前記非晶質金属薄帯は長尺な帯状であり、
前記非晶質金属薄帯を前記長尺な方向に搬送させながら機械加工する、請求項1乃至6のいずれかに記載の非晶質金属薄帯の加工方法。 - 前記非晶質金属薄帯は、ロール冷却により製造されたFeを主成分とするものである、請求項1乃至7のいずれかに記載の非晶質金属薄帯の加工方法。
- 前記非晶質金属薄帯は、厚さが5μm以上70μm以下である、請求項1乃至8のいずれかに記載の非晶質金属薄帯の加工方法。
- 前記非晶質金属薄帯は、ビッカース硬さHVが500以上である、請求項1乃至9のいずれかに記載の非晶質金属薄帯の加工方法。
- 請求項1乃至10のいずれかに記載の非晶質金属薄帯の加工方法により加工された非晶質金属薄帯を積層する、積層体の製造方法。
- 薄帯の加工面に機械加工によるせん断面を有する非晶質金属薄帯であって、前記加工面において、薄帯表面のダレ面側の輪郭が波型を有する、非晶質金属薄帯。
- 前記波型の輪郭は、平均で0.1〜20μmの周期で凹凸を有する、請求項12に記載の非晶質金属薄帯。
- 前記加工面において、前記せん断面は40%以上の面積を占める、請求項12又は13に記載の非晶質金属薄帯。
- 前記薄帯表面のダレ面側の輪郭に対し、前記せん断面におけるダレ面側の輪郭が、相関する波型を有する、請求項12乃至14のいずれかに記載の非晶質金属薄帯。
- 薄帯の加工面に機械加工によるせん断面を有する非晶質金属薄帯であって、
機械加工された前記薄帯の加工面において、破断面が50%以上の面積を占める、非晶質金属薄帯。
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