以下、本発明の無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
A.無方向性電磁鋼板
本発明の無方向性電磁鋼板は、第1実施形態および第2実施形態に大別することができる。以下、第1実施形態および第2実施形態について別々に説明する。
A−1.第1実施形態
第1実施形態の無方向性電磁鋼板は、表面の算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の中心板と、表面の算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の二枚の表層板とを、表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで得られる積層鋼板に冷間圧延を施した後、仕上げ焼鈍を施すことにより製造された無方向性電磁鋼板であって、中心板および表層板は、質量%で、Si、Al、およびMnの合計の含有量が0.1%以上7.9%以下異なり、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域が直接接合されたことを特徴とする。
第1実施形態の無方向性電磁鋼板の一例について図面を参照しながら説明する。図1(a)〜(c)は、本発明における中心板および二枚の表層板の一例を示す概略断面図である。また、図2(a)は、本発明における積層鋼板の一例を示す概略断面図である。また、図2(b)は、本発明の無方向性電磁鋼板の一例を示す概略断面図である。さらに、図3は、図2(b)のX部分の拡大図である。
図1(a)〜(c)に示されるように、表層板4Aは、表面4Asの算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。中心板2は、表面2sの算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。表層板4Bは、表面4Bsの算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。また、表層板4Aおよび表層板4BそれぞれのSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板2のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9%質量以下多くなっている。これにより、表層板4Aおよび表層板4Bそれぞれの平均結晶粒径は、中心板2よりも小さくなっている。
図2(b)に示される無方向性電磁鋼板10は、表層板4Aと、中心板2と、表層板4Bとを、図2(a)に示されるように、算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の表面が互いに接するように中心板2を表層板4Aおよび表層板4Bで挟んで積層することで得られる積層鋼板6に冷間圧延を施した後、仕上げ焼鈍を施すことにより製造されたものである。また、無方向性電磁鋼板10においては、表層板4Aおよび表層板4Bに対応する領域4A’および領域4B’それぞれの平均結晶粒径は、中心板に対応する領域2’よりも小さくなっており、領域4A’および領域4B’それぞれの抵抗率は、領域2’よりも高くなっている。また、領域4A’および領域4B’は領域2’と直接接合されている。
第1実施形態の無方向性電磁鋼板が製造される時には、中心板の表面の算術平均粗さRaおよび二枚の表層板の表面の算術平均粗さRaを2.5μm以上15μm以下に制御した上で、算術平均粗さRaを制御した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで得られる積層鋼板に冷間圧延を施す。このため、冷間圧延時には、中心板および二枚の表層板の接触面において圧延ロールによる圧下力が微視的に不均一に表層板と中心板に負荷される。これにより、中心板および二枚の表層板の接触面において局部的に応力集中が発生する結果、中心板および二枚の表層板の圧着が効果的に行われる。よって、生産性に劣り、製造コストが高い接着皮膜による積層方法を用いることなく中心板および二枚の表層板を接合することができる。
また、第1実施形態の無方向性電磁鋼板は、中心板および表層板を別々に化学組成を制御した上で圧着することにより製造可能である。このため、生産性に劣り、製造コストが高い拡散での表層の成分の調整を行うことなく、例えば、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量を中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9%質量以下多くなるように制御するだけで、無方向性電磁鋼板において表層板に対応する領域(表層)の平均結晶粒径を中心板に対応する領域(中心層)よりも小さくし、表層板に対応する領域の抵抗率を中心板に対応する領域よりも高くすることができる。よって、生産性に劣り、製造コストが高い製造方法によらず、高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損を十分に低減することができる。
さらに、生産性に劣る方法での成分の調整を行うことなく、例えば、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量を表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9%質量以下多くなるように制御するだけで、無方向性電磁鋼板において表層板に対応する領域(表層)の平均結晶粒径を中心板に対応する領域(中心層)よりも大きくして、無方向性電磁鋼板の加工性を十分に向上させることもできる。
したがって、第1実施形態によれば、高周波鉄損を十分に低減し、または加工性を十分に向上させることができる上、優れた生産性において、低コストで製造することができる。
以下、第1実施形態の無方向性電磁鋼板における各構成について説明する。
1.中心板および二枚の表層板
(1)中心板
中心板は、表面の算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。
i.表面の算術平均粗さRa
中心板の表面の算術平均粗さRaは、2.5μm以上15μm以下とする。滑らか過ぎても粗過ぎても、中心板および二枚の表層板の圧着が効果的に行われずに、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域が剥離し易くなる。また、滑らか過ぎると鉄損の低減作用が十分に得られず、粗過ぎても鉄損の低減作用が十分に得られない。同様の理由から、3.5μm以上13.5μm以下とすることが好ましく、中でも5μm以上10μm以下とすることが好ましい。
また、中心板の表面の算術平均粗さRaは、鋼板の圧延方向に垂直な断面の観察で測定する。具体的には、観察断面において、表面の板厚方向の位置座標を0.01μmの精度以上の精度で測定して、Raを求める。板厚方向の位置座標を測定する時には、表面と平行な方向に連続する2mmに亘る範囲において0.1μmピッチで測定して、合計で2000個の位置座標を測定する。これを少なくとも5箇所で実施する。そして、各箇所についての算術平均粗さRaを、各箇所で測定した合計で2000個の位置座標の絶対値を平均することにより算出する。そして、各箇所についてのRa算出値の平均値をRaとして求める。また、断面の観察には、例えば、光学顕微鏡、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いる。また、板厚方向の位置座標の測定には、例えば、画像処理等を用いる。
ii.化学組成
(i)化学組成
中心板の化学組成としては、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、例えば、一般的な無方向性電磁鋼板における母鋼板の化学組成を用いることができる。中心板の化学組成としては、質量%でSi:1.0%以上4.5%以下、Mn:0.1%以上1.5%以下、Al:tr.または0.1%以上3.0%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものが好ましい。ここで、「tr.」とは、該当する元素を意図的に含有させていないことを意味する。
以下、中心板の各成分の好ましい含有量を説明する。以下において、成分の含有量は質量%での値である。
a.Si
Si含有量は1.0%以上4.5%以下とすることが好ましい。
Siは比抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減に寄与する。このため、鉄損低減の観点から、Si含有量は1.0%以上とすることが好ましく、中でも1.5%以上、特に2.0%以上とすることが好ましい。一方、磁気特性および圧延製造性を改善し、仕上げ焼鈍温度の上昇を抑制する観点から、Si含有量は4.5%以下とすることが好ましく、中でも4.2%以下、特に4.0%以下とすることが好ましい。
b.Mn
Mn含有量は0.1%以上1.5%以下とすることが好ましい。
Mnも比抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減に寄与する。このため、鉄損低減の観点から、Mn含有量は0.1%以上とすることが好ましく、中でも0.5%以上とすることが好ましい。多過ぎると再結晶組織を微細化させ鉄損を増加させるため、1.5%以下とすることが好ましく、中でも1.0%以下とすることが好ましい。
c.Al
中心板は、Alを意図的に含有させていないものでもよいし、Alを意図的に含有させたものでもよい。
中心板がAlを含有する場合には、鉄損低減の観点から、Al含有量は0.1%以上3.0%以下とすることが好ましく、中でも0.3%以上2.4%以下、特に0.9%以上2.3%とすることが好ましい。
d.残部
中心板の残部はFeおよび不可避的不純物である。
中心板は、本発明の作用効果を損なわない範囲で、不可避的に混入する各種元素である不可避的不純物を含むものでもよい。不可避的不純物としては、C、N、Sのほか、Ti、Nb、As、Zr等が挙げられる。
C含有量は、磁気特性を改善する点から、0.003%以下とすることが好ましく、中でも0.002%以下、特に0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
N含有量は、磁気特性を改善する点から、0.003%以下とすることが好ましく、中でも0.002%以下、特に0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
S含有量は、磁気特性を改善する点から、0.003%以下とすることが好ましく、中でも0.002%以下、特に0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
Ti含有量は、磁気特性を改善する点から、0.004%以下とすることが好ましく、中でも0.003%以下とすることが好ましい。特に秀逸な磁気特性を得るためには、特に0.002%以下とすることが好ましく、0.002%以下とすることがより好ましい。
Nb含有量は、磁気特性を改善する点から、0.003%以下とすることが好ましく、中でも0.002%以下、特に0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
As含有量は、磁気特性を改善する点から、0.003%以下とすることが好ましく、中でも0.002%以下、特に0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
Zr含有量は、磁気特性を改善する点から、0.003%以下とすることが好ましく、中でも0.002%以下、特に0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
P含有量は、磁気特性を改善する点から、0.25%以下とすることが好ましく、中でも0.15%以下とすることが好ましい。特に秀逸な磁気特性を得るためには、特に0.10%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。
不可避不純物全体の含有量は、磁気特性を改善する点から、0.1%以下とすることが好ましく、中でも0.05%以下とすることが好ましい。
(ii)化学組成の測定方法
中心板における各元素の含有量は、元素の種類に応じて、一般的な方法を用いて、一般的な測定条件により測定することができる。
Si、Mn、Al、Ti、Nb、およびZrの含有量は、例えば、ICP−MS法(誘導結合プラズマ質量分析法)を用いて測定することができる。As含有量は、例えば、AA法(フレームレス原子吸光法)により測定することができる。CおよびSの含有量は、例えば、燃焼赤外線吸収法により測定することができる。N含有量は、加熱融解−熱伝導法により測定することができる。
中心板に絶縁被膜その他の層が形成されていない場合には、中心板の一部を切子状にして秤量し、測定用試料とする。中心板に絶縁被膜その他の層が形成されている場合には、一般的な方法により予め絶縁被膜その他の層を除去した上で、中心板の一部を切子状にして秤量し、測定用試料とする。
ICP−MS法を用いる場合には、上記測定用試料を酸に溶解し、必要に応じて加熱することにより酸溶解液とする。そして、当該酸に溶解した際の残渣を、濾紙回収して別途アルカリ等に融解し、融解物を酸で抽出して溶液化する。当該溶液と当該酸溶解液とを混合し、必要に応じて希釈することにより、ICP−MS法測定用溶液とすることができる。
iii.製造方法
中心板は、例えば、上述した化学組成を有するスラブに熱間圧延を施すか、または熱間圧延および熱延板焼鈍をこの順に施し、これより得られた鋼板の表面の算術平均粗さRaを2.5μm以上15μm以下となるように制御することにより製造される。
熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではなく、一般的な条件に従って施せばよい。
また、熱延板焼鈍の各種条件は特に限定されるものではなく、一般的な条件に従って施せばよい。
上記鋼板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内となるように制御する方法としては、例えば、所定の表面粗度に加工したロールで上記鋼板を軽圧下し、その表面粗度を予め所定の値に調整するといった方法、ショットブラストによる表面粗度の制御といった方法、レーザー照射による表面粗度の制御といった方法、プラズマ照射による表面粗度の制御といった方法等が挙げられる。もちろん、第1実施形態における上記鋼板の表面の算術平均粗さRaの制御の方法は上述の方法に限定されるものではない。
iv.その他
中心板の板厚は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、0.3mm以上1.2mm以下とすることが好ましく、中でも0.5mm以上0.8mm以下とすることが好ましい。薄過ぎると冷間圧延の安定性に課題が生じるからであり、厚過ぎると積層鋼板としての鉄損低減効果が不十分となり課題が生じるからである。
また、中心板の平均結晶粒径は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、30μm以上300μm以下とすることが好ましく、中でも50μm以上200μm以下とすることが好ましい。小さ過ぎると無方向性電磁鋼板において中心板に対応する領域でのヒステリシス損が増加し鉄損が増加する課題が生じるからであり、大き過ぎると打ち抜き性などの加工性に課題が生じるからである。
中心板の平均結晶粒径は、中心板で観察される複数の結晶粒について、投影面積に対する同一面積の円の直径をそれぞれ測定し、平均した値を意味する。
なお、中心板においては、中心板を二枚の表層板で挟んで積層して冷間圧延を施す時に、特段の接着皮膜を表面に形成しておく必要がない。また、積層圧延板の接着を促進する接着皮膜のごとき物質を中心板の表面に付与する必要はない。なぜなら、積層圧延後の仕上焼鈍時に、接着を促進する接着皮膜のごとき物質が化学変化し、積層した鋼板の剥離の原因ともなりかねないからである。
また、中心板は、表面に酸化膜、特に外部酸化膜が形成されていないものが好ましく、表面に酸化膜が形成されているとしても、酸化膜、特に外部酸化膜は薄いものが好ましい。そして、酸化膜が形成されていない中心板、または表面に形成されている酸化膜が薄い中心板を積層して冷間圧延を施すためには、例えば、表面に形成されている酸化膜の一部または全部を事前に化学的または物理的方法等で除去した上で、中心板を積層圧延に供する方法等を用いることができる。
なお、中心板の表面に形成されている酸化膜を事前に化学的方法で除去した場合には、除去後の中心板の表面は湿潤となる場合が多いので、乾燥後、酸化膜が再形成されないうちに積層圧延に供することが好ましい。
また、中心板の表面に形成されている酸化膜を事前に化学的または物理的方法等で除去する場合には、酸化膜を化学的または物理的方法等で除去すると同時に、中心板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内に制御する方法を用いてもよい。これにより、製造工程を簡略化することができる。なお、中心板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内に制御する方法としては、酸化膜を化学的または物理的方法等で除去すると同時に制御する方法に限定されるものではない。
酸化膜を事前に除去する化学的方法としては、例えば、公知の酸洗技術等を用いることができる。また、酸化膜を事前に除去する物理的方法としては、例えば、硬度の高いブラシを用いたデスケーリング、圧延ロールによる軽圧下による酸化被膜の破壊等の公知の方法等を用いることができる。なお、酸化膜を事前に除去する方法は、これらの方法に限定されるものではない。
さらに、第1実施形態においては、中心板の表面に酸化膜が形成されていたとしても、中心板を積層圧延に供する前に酸化膜の一部または全部を除去する処理を必ずしも行わなくてもよい。多少の酸化膜が中心板の表面に形成されていたとしても、表層板および中心板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内に制御している場合には、積層圧延の際の局所的な接触部の応力集中により表面の酸化膜は破壊され、酸化膜の下の金属面が直接接する効果が得られるからである。
(2)二枚の表層板
二枚の表層板のそれぞれは、表面の算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。
i.表面の算術平均粗さRa
表層板の表面の算術平均粗さRaについては、測定方法も含め、上述した中心板の表面の算術平均粗さRaと同様であるため、ここでの説明を省略する。
ii.化学組成
表層板のSi含有量は、質量%で、2.5%以上とすることが好ましい。高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損をさらに低減することができるからである。
表層板の化学組成については、上述した点を除いて、測定方法も含め、上述した中心板の化学組成と同様であるため、ここでの説明を省略する。
iii.製造方法
表層板は、例えば、上述した化学組成を有するスラブに熱間圧延を施すか、または熱間圧延および熱延板焼鈍をこの順に施し、これより得られた鋼板の表面の算術平均粗さRaを2.5μm以上15μm以下となるように制御することにより製造される。
熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではなく、一般的な条件に従って施せばよい。
また、熱延板焼鈍の各種条件は特に限定されるものではなく、一般的な条件に従って施せばよい。
上記鋼板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内となるように制御する方法は、上述した中心板の製造方法における制御方法と同様であるため、ここでの説明を省略する。
iv.その他
表層板の板厚は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、0.2mm以上0.7mm以下とすることが好ましく、中でも0.3mm以上0.5mm以下とすることが好ましい。薄過ぎると表皮効果が不十分で本発明の意図する低鉄損効果が得られないからであり、厚過ぎると冷間圧延に課題が生じるからである。
また、表層板の平均結晶粒径は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、10μm以上200μm以下とすることが好ましく、中でも50μm以上150μm以下とすることが好ましい。小さ過ぎると仕上焼鈍後の鉄損が増大するからであり、大き過ぎると冷間圧延の際に冷延速度を向上できないなどの課題が生じるからである。
表層板の平均結晶粒径は、表層板で観察される複数の結晶粒について、投影面積に対する同一面積の円の直径をそれぞれ測定し、平均した値を意味する。
第1実施形態の無方向性電磁鋼板を高周波用途で使用することを想定する場合には、表層板の板厚は、積層圧延後の成品において得られる表層板に対応する領域の厚さが、無方向性電磁鋼板の材質で定まる電気抵抗率や使用周波数等から予め計算可能な表皮深さとなるように設定することが好ましい。
なお、表層板においては、中心板を二枚の表層板で挟んで積層して冷間圧延を施す時に、特段の接着皮膜を表面に形成しておく必要がない。また、積層圧延板の接着を促進する接着皮膜のごとき物質を表層板の表面に付与する必要はない。なぜなら、積層圧延後の仕上焼鈍時に、接着を促進する接着皮膜のごとき物質が化学変化し、積層した鋼板の剥離の原因ともなりかねないからである。
また、表層板は、表面に酸化膜、特に外部酸化膜が形成されていないものが好ましく、表面に酸化膜が形成されているとしても、酸化膜、特に外部酸化膜は薄いものが好ましい。そして、酸化膜が形成されていない表層板、または表面に形成されている酸化膜が薄い表層板を積層して冷間圧延を施すためには、例えば、表面に形成されている酸化膜の一部または全部を事前に化学的または物理的方法等で除去した上で、表層板を積層圧延に供する方法等を用いることができる。
なお、表層板の表面に形成されている酸化膜を事前に化学的方法で除去した場合には、除去後の表層板の表面は湿潤となる場合が多いので、乾燥後、酸化膜が再形成されないうちに積層圧延に供することが好ましい。
また、表層板の表面に形成されている酸化膜を事前に化学的または物理的方法等で除去する場合には、酸化膜を化学的または物理的方法等で除去すると同時に、表層板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内に制御する方法を用いてもよい。これにより、製造工程を簡略化することができる。なお、表層板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内に制御する方法としては、酸化膜を化学的または物理的方法等で除去すると同時に制御する方法に限定されるものではない。
酸化膜を事前に除去する化学的方法としては、例えば、公知の酸洗技術等を用いることができる。また、酸化膜を事前に除去する物理的方法としては、例えば、硬度の高いブラシを用いたデスケーリング、圧延ロールによる軽圧下による酸化被膜の破壊等の公知の方法等を用いることができる。なお、酸化膜を事前に除去する方法は、これらの方法に限定されるものではない。
さらに、第1実施形態においては、表層板の表面に酸化膜が形成されていたとしても、表層板を積層圧延に供する前に酸化膜の一部または全部を除去する処理を必ずしも行わなくてもよい。多少の酸化膜が表層板の表面に形成されていたとしても、表層板および中心板の表面の算術平均粗さRaを上述した範囲内に制御している場合には、積層圧延の際の局所的な接触部の応力集中により表面の酸化膜は破壊され、酸化膜の下の金属面が直接接する効果が得られるからである。
(3)中心板および表層板の関係
i.化学組成の関係
中心板および表層板は、質量%で、Si、Al、およびMnの合計の含有量が0.1%以上7.9%以下異なるものである。このような中心板および表層板の化学組成の関係としては、二枚の表層板のうちの少なくとも一方の当該合計の含有量が、質量%で中心板の当該合計の含有量と0.1%以上7.9%以下異なるものであれば特に限定されるものはないが、通常は、二枚の表層板の両方の当該合計の含有量が、同じように、質量%で中心板の当該合計の含有量と0.1%以上7.9%以下異なるものである。以下において、成分の含有量は質量%での値である。
このような中心板および表層板の化学組成の関係としては、図1(a)および(c)に示される表層板4Aおよび表層板4Bのように、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多いものが好ましい。該含有量の差を0.1%以上とすることにより、中心板の化学組成および表層板の化学組成を別々に制御して、表層板の平均結晶粒径を中心板よりも小さくすることができる。このため、無方向性電磁鋼板において、表層板に対応する領域の平均結晶粒径を中心板に対応する領域よりも小さくし、表層板に対応する領域の抵抗率を中心板に対応する領域よりも高くすることができる。これにより、高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損を十分に低減することができる無方向性電磁鋼板を、優れた生産性において、低コストで製造することができるからである。なお、鉄損低減ならびに磁気特性および圧延製造性の観点から、該含有量の差は7.9%以下とする。
また、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多い化学組成の関係としては、中でも1.0%以上7.9%以下多いものが好ましく、特に2.0%以上7.9%以下多いものが好ましい。高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損をさらに低減することができるからである。
また、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多い化学組成の関係としては、表層板のSi含有量が中心板のSi含有量よりも0.1%以上3.5%以下多いものが好ましく、特に表層板のSi含有量が中心板のSi含有量よりも1.0%以上3.5%以下多いものが好ましい。該含有量の差をこれらの下限以上とすることにより、効果的に表層板の平均結晶粒径を中心板よりも小さくすることができるため、効果的に高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損を低減することができるからである。該含有量の差をこの上限以下とすることが、鉄損低減ならびに磁気特性および圧延製造性の観点から好ましいからである。さらに、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多い化学組成の関係としては、中でも表層板のSi含有量が2.5%以上であるものが好ましい。高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損をさらに低減することができるからである。
さらに、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多い化学組成の関係としては、表層板のMn含有量が中心板のMn含有量よりも0.1%以上1.4%以下多いもの、または表層板がAlを意図的に含有させたものである場合において、表層板のAl含有量が中心板のAl含有量よりも0.1%以上3.0%以下多いものが好ましい。これらの含有量の差をこれらの下限以上とすることにより、効果的に表層板の平均結晶粒径を中心板よりも小さくすることができるため、効果的に高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損を低減することができるからである。これらの含有量の差をこれらの上限以下とすることが、鉄損低減の観点から好ましいからである。
一方、上述したような中心板および表層板の化学組成の関係としては、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下少ないものでもよい。この場合には、該含有量の差を0.1%以上とすることにより、中心板の化学組成および表層板の化学組成を別々に制御して、表層板の平均結晶粒径を中心板よりも大きくすることができる。このため、無方向性電磁鋼板製造時の鋼板の加工性を向上させることができる。また、無方向性電磁鋼板において、表層板に対応する領域の平均結晶粒径を中心板に対応する領域よりも大きくして、加工性を十分に向上させることができる。これにより、加工性を十分に向上させた無方向性電磁鋼板を、優れた生産性において、低コストで製造することができる。なお、鉄損低減ならびに磁気特性および圧延製造性の観点から、該含有量の差は7.9%以下とする。
さらに、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下少ない化学組成の関係としては、表層板のSi含有量が中心板のSi含有量よりも0.1%以上3.5%以下少ないものが好ましく、特に表層板のSi含有量が中心板のSi含有量よりも1.0%以上3.5%以下少ないものが好ましい。該含有量の差をこれらの下限以上とすることにより、効果的に表層板の平均結晶粒径を中心板よりも大きくすることができるため、効果的に無方向性電磁鋼板の加工性を十分に向上させることができるからである。該含有量の差をこの上限以下とすることが、鉄損低減ならびに磁気特性および圧延製造性の観点から好ましいからである。
ii.平均結晶粒径の関係
表層板および中心板の平均結晶粒径の関係としては、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、図1(a)および(c)に示される表層板4Aおよび表層板4Bのように、表層板の平均結晶粒径が中心板よりも小さいものが好ましい。無方向性電磁鋼板において、表層板に対応する領域の抵抗率を中心板に対応する領域よりも高くすることができるからである。
なお、表層板の平均結晶粒径を中心板よりも小さくするためには、例えば、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量を、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなるように制御すればよい。
また、表層板および中心板の平均結晶粒径の関係としては、表層板の平均結晶粒径が中心板よりも大きくてもよい。これにより、無方向性電磁鋼板製造時の鋼板の加工性を向上させることができる。また、無方向性電磁鋼板において、表層板に対応する領域の平均結晶粒径が中心板に対応する領域よりも大きくなり、無方向性電磁鋼板の加工性を十分に向上させることができる。
なお、表層板の平均結晶粒径を中心板よりも大きくするためには、例えば、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量を、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなるように制御すればよい。
2.無方向性電磁鋼板
無方向性電磁鋼板は、中心板と、二枚の表層板とを、算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで得られる積層鋼板に、冷間圧延を施した後、仕上げ焼鈍を施すことにより製造された無方向性電磁鋼板であって、中心板および表層板は、質量%で、Si、Al、およびMnの合計の含有量が0.1%以上7.9%以下異なり、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域が直接接合されたものである。
第1実施形態の無方向性電磁鋼板は、それぞれ中心板および二枚の表層板を準備して、中心板の表面の算術平均粗さRaおよび二枚の表層板の表面の算術平均粗さRaを2.5μm以上15μm以下に制御した上で、算術平均粗さRaを制御した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで得られる積層鋼板に冷間圧延を施した後、仕上げ焼鈍を施すことにより製造される。このため、冷間圧延時には、中心板および二枚の表層板の接触面において圧延ロールによる圧下力が微視的に不均一に表層板と中心板に負荷されることにより、中心板および二枚の表層板の接触面において局部的に応力集中が発生する結果、中心板および二枚の表層板の圧着が効果的に行われる。この結果、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域が直接接合された無方向性電磁鋼板を提供することができる。
しかしながら、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域が直接接合された第1実施形態の無方向性電磁鋼板において、上述したような製造方法によりもたらされる特徴は、物の構造又は特性により直接特定することが不可能である。
まず、中心板および二枚の表層板のそれぞれの表面の算術平均粗さRaは、上述した範囲内のいずれかの値であればよく、一意的な値ではない。また、中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで得られる積層鋼板に施す冷間圧延の方法、条件、および圧下率は、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域が直接接合された無方向性電磁鋼板を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。さらに、中心板および表層板は、化学組成が異なる場合にはその硬度も異なるものとなる。したがって、例えば、上述したような製造方法によりもたらされる特徴を直接特定し得るかとも思われる物の構造又は特性(例えば、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域の境界面の算術平均粗さ等)は、中心板および表層板の表面の算術平均粗さRa、冷間圧延の方法、条件、および圧下率、ならびに中心板および表層板の硬度の組み合せ次第で、いかようなものにもなり得る。そして、上述したような製造方法によりもたらされる特徴を、物の構造又は特性上、明確に直接特性する表現も存在しない。したがって、第1実施形態の無方向性電磁鋼板において上述したような製造方法によりもたらされる特徴は、物の構造又は特性により直接特定することが不可能である。
なお、本発明の無方向性電磁鋼板においては、圧延方向断面の金属組織観察または成分分布観察により、結晶粒径(結晶粒の投影面積に対する同一面積の円の直径)が不連続に変化している位置、または成分分布が不連続に変化している位置を見出し、これらの位置をもって、中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面を定めることが可能である。そして、後述するように、当該境界面のカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さRaAVE(μm)が所定の関係を満たすことを特定することにより、本発明の無方向性電磁鋼板の好ましい物の構造を特定することができる。
(1)算術平均粗さRaAVEおよび最小の平均結晶粒径dMINの関係
無方向性電磁鋼板においては、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域の二つの境界面のカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さRaAVE(μm)と、中心板および二枚の表層板に対応する三つの領域の平均結晶粒径のうちの最小の平均結晶粒径dMIN(μm)とが、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たすことが好ましい。
中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面は、例えば、平均結晶粒径や化学組成等が相違する二つの領域の境界面として判別されるものである。なお、境界面の判別は、光学顕微鏡、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)等を用いて鋼板の断面を観察することにより行われる。また、電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE−EPMA)により、一定領域の元素分布マッピングを行うことでも上記境界面の特定は行われる。さらにこれらの装置による測定結果を画像処理して境界面の判別を行ってもよい。
なお、本発明で行う中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面の判別の方法は、以上の例に限定されるものではない。
また、算術平均粗さRaAVEは、上述した二つの境界面それぞれについて求めたカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さを平均したものである。各境界面のカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さは、鋼板の圧延方向に垂直な断面の観察で測定する。具体的には、観察断面において、各境界面の板厚方向の位置座標を0.01μmの精度以上の精度で測定して、当該算術平均粗さを求める。板厚方向の位置座標を測定する時には、表面と平行な方向に連続する2mmに亘る範囲において0.1μmピッチで測定して、合計で2000個の位置座標を測定する。これを少なくとも5箇所で実施する。そして、各箇所についてのカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さを、各箇所で測定した合計で2000個の位置座標の絶対値を平均することにより算出する。そして、各箇所についての当該算術平均粗さの算出値の平均値を、各境界面のカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さとして求める。また、断面の観察には、例えば、光学顕微鏡、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE−EPMA)等を用いる。また、板厚方向の位置座標の測定には、例えば、画像処理等を用いる。
また、無方向性電磁鋼板における各領域の平均結晶粒径は、無方向性電磁鋼板における各領域で観察される複数の結晶粒について、投影面積に対する同一面積の円の直径をそれぞれ測定し、平均した値を意味する。
図2(b)および図3に示される無方向性電磁鋼板10においては、中心板2に対応する領域2’ならびに表層板4Aおよび4Bに対応する領域4A’および4B’の二つの境界面10bのカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さRaAVE(μm)と、中心板2に対応する領域2’の平均結晶粒径d2、表層板4Aに対応する領域4A’の平均結晶粒径d4A、および表層板4Bに対応する領域4B’の平均結晶粒径d4Bのうちの最小の平均結晶粒径d4A(dMIN)(μm)とが、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たしている。
図2(b)および図3に示される無方向性電磁鋼板10のように、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たす場合には、高周波鉄損の低減作用が得られる。このような作用が得られるのは、この場合において、中心板および二枚の表層板に対応する三つの領域のうちの平均結晶粒径が最小である領域の結晶粒内に形成される磁壁の移動が、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域の二つの境界面の作用によって抑制される結果、高周波励磁下で急速に鉄損に占める割合が増加する渦電流損の増加が抑制されるからであると推察される。
算術平均粗さRaAVEと最小の平均結晶粒径dMINとは、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たすものであれば特に限定されないが、上記式を満たす範囲において、RaAVEは2.5μm以上9μm以下の範囲内であるものが好ましく、中でも3.5μm以上7.5μm以下の範囲内であるものが好ましい。下限は鉄損値低減の観点から好ましい範囲が定まり、上限は、本発明の効果であるRaAVEを適切にすることで高周波の磁壁移動速度を制御し、高周波励磁で鉄損に占める割合が増加する異常渦電流損を低減する本発明の効果をより発揮させるために好ましい範囲として定まるからである。
無方向性電磁鋼板においては、図2(b)および図3に示される無方向性電磁鋼板10のように、表層板に対応する領域の平均結晶粒径が最小の平均結晶粒径dMINであることが好ましい。表層板に対応する領域の抵抗率を中心板に対応する領域よりも高くすることができるので、高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損を十分に低減することができるからである。
また、中心板に対応する領域の平均結晶粒径が最小の平均結晶粒径dMINでもよい。無方向性電磁鋼板製造時の鋼板の加工性が向上する。
(2)その他
無方向性電磁鋼板において、中心板に対応する領域の化学組成については、上述した中心板の化学組成と同様であるため、ここでの説明を省略する。また、表層板に対応する領域の化学組成については、上述した表層板の化学組成と同様であるため、ここでの説明を省略する。さらに、中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の化学組成の関係については、上述した「1.中心板および二枚の表層板 (3)中心板および表層板の関係 i.化学組成の関係」の項目に記載された中心板および表層板の化学組成の関係と同様であり、当該項目に記載された中心板の化学組成および表層板の化学組成はそれぞれ中心板に対応する領域の化学組成および表層板に対応する領域の化学組成に対応する。このため、このような中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の化学組成の関係については、ここでの説明を省略する。
無方向性電磁鋼板において、中心板に対応する領域の厚さは、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、0.05mm以上0.50mm以下とすることが好ましく、中でも0.1mm以上0.35mm以下とすることが好ましい。薄過ぎると表皮効果が十分に得られず鉄損低減が不十分であるからであり、厚過ぎると同じく表皮効果が十分に得られず鉄損低減が不十分であるからである。
また、一枚の表層板に対応する領域の厚さは、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、0.05mm以上0.3mm以下とすることが好ましく、中でも0.07mm以上0.2mm以下とすることが好ましい。薄過ぎると表皮効果が十分得られず鉄損低減が不十分であるからであり、厚過ぎると冷間圧延の際に圧延速度を向上できないなどの冷延性課題が生じたり成品の加工性に課題が生じるからである。
また、中心板に対応する領域の平均結晶粒径は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、30μm以上200μm以下とすることが好ましく、中でも50μm以上200μm以下とすることが好ましい。小さ過ぎると鉄損が増大するからであり、大き過ぎると成品の加工性に課題が生じるからである。
また、表層板に対応する領域の平均結晶粒径は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、30μm以上200μm以下とすることが好ましく、中でも40μm以上150μm以下とすることが好ましい。小さ過ぎると鉄損が増大するからであり、大き過ぎると冷間圧延の速度を向上できないなどの課題が生じたり、成品の加工性に課題が生じるからである。
また、表層板に対応する領域の平均結晶粒径は、図2(b)および図3に示される表層板に対応する領域4A'のように、中心板に対応する領域よりも小さいことが好ましい。表層板に対応する領域の抵抗率を中心板に対応する領域よりも高くすることができるからである。
また、表層板に対応する領域の平均結晶粒径は、中心板に対応する領域よりも大きくてもよい。無方向性電磁鋼板の加工性を十分に向上させることができる。
さらに、無方向性電磁鋼板の板厚は、0.1mm以上0.65mm以下とすることが好ましく、中でも0.15mm以上0.35mm以下とすることが好ましい。薄過ぎると占積率が低下するからであり、厚過ぎると鉄損が増大するからである。
3.その他
積層鋼板については、後述する「B.無方向性電磁鋼板の製造方法」の項目に記載された積層鋼板と同様であるため、ここでの説明を省略する。
また、冷間圧延の条件については、後述する「B.無方向性電磁鋼板の製造方法」の項目に記載された冷間圧延の条件と同様であるため、ここでの説明を省略する。
また、仕上げ焼鈍の条件については、後述する「B.無方向性電磁鋼板の製造方法」の項目に記載された仕上げ焼鈍の条件と同様であるため、ここでの説明を省略する。
さらに、第1実施形態の無方向性電磁鋼板は、後述する「B.無方向性電磁鋼板の製造方法」の項目に記載された製造方法により製造されるものである。
A−2.第2実施形態
第2実施形態の無方向性電磁鋼板は、中心層および中心層を挟む二つの表層が直接接合された無方向性電磁鋼板であって、中心層および二つの表層の二つの境界面のカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さRaAVE(μm)と、中心層および二つの表層の平均結晶粒径のうちの最小の平均結晶粒径dMIN(μm)とが、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たし、中心層および表層は、質量%で、Si、Al、およびMnの合計の含有量が0.1%以上7.9%以下異なることを特徴とする。
第2実施形態の無方向性電磁鋼板の一例について上述した図2(b)および図3を参照しながら説明する。図2(b)および図3に示される無方向性電磁鋼板は、第1実施形態の無方向性電磁鋼板の一例および第2実施形態の無方向性電磁鋼板の一例の両方に該当するものである。
図2(b)および図3に示される無方向性電磁鋼板10においては、中心層2’(中心板2に対応する領域2’)ならびに中心層2’を挟む表層4A’(表層板4Aに対応する領域4A’)および表層4B’(表層板4Bに対応する領域4B’)が直接接合されている。また、表層4A’および表層4B’それぞれのSi、Al、およびMnの合計の含有量が、質量%で、中心層2’のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっている。これにより、表層4A’および表層4B’それぞれの平均結晶粒径は、中心層2’よりも小さくなっており、表層4A’および表層4B’それぞれの抵抗率は、中心層2’よりも高くなっている。さらに、中心層2’ならびに表層4A’および表層4B’の二つの境界面10bのカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さRaAVE(μm)と、中心層2’の平均結晶粒径d2、表層4A’の平均結晶粒径d4A、および表層4B’の平均結晶粒径d4Bのうちの最小の平均結晶粒径d4A(dMIN)(μm)とが、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たしている。
図2(b)および図3に示される無方向性電磁鋼板10のように、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たす場合には、高周波鉄損の低減作用が得られる。このような作用が得られるのは、この場合において、中心層および二つの表層のうちの平均結晶粒径が最小である領域の結晶粒内に形成される磁壁の移動が、中心層および二つの表層の二つの境界面の作用によって抑制される結果、高周波励磁下で急速に鉄損に占める割合が増加する渦電流損の増加が抑制されるからであると推察される。
また、第2実施形態の無方向性電磁鋼板においては、例えば、表層のSi、Al、およびMnの合計の含有量を中心層のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9質量%以下多くなるように制御するだけで、表層の平均結晶粒径を中心層よりも小さくし、表層の抵抗率を中心層よりも高くすることができる。よって、高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損を十分に低減することができる。
さらに、例えば、中心層のSi、Al、およびMnの合計の含有量を表層のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9質量%以下多くなるように制御するだけで、表層の平均結晶粒径を中心層よりも大きくして、無方向性電磁鋼板の加工性を十分に向上させることもできる。
したがって、第2実施形態によれば、高周波鉄損を十分に低減し、または加工性を十分に向上させることができる。
以下、第2実施形態の無方向性電磁鋼板における各構成について説明する。
1.中心層および二つの表層
(1)中心層
中心層の化学組成については、上述した第1実施形態における中心板の化学組成と同様であるため、ここでの説明を省略する。
中心層の厚さおよび平均結晶粒径については、上述した「A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (2)その他」の項目に記載された中心板に対応する領域の厚さおよび平均結晶粒径と同様であるため、ここでの説明を省略する。
(2)二つの表層
表層の化学組成については、上述した第1実施形態における表層板の化学組成と同様であるため、ここでの説明を省略する。
表層の厚さおよび平均結晶粒径については、上述した「A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (2)その他」の項目に記載された表層板に対応する領域の厚さおよび平均結晶粒径と同様であるため、ここでの説明を省略する。
(3)中心層および表層の関係
中心層および表層は、質量%で、Si、Al、およびMnの合計の含有量が0.1%以上7.9%以下異なるものである。このような中心層および表層の化学組成の関係については、上述した「A−1.第1実施形態 1.中心板および二枚の表層板 (3)中心板および表層板の関係 i.化学組成の関係」の項目に記載された中心板および表層板の化学組成の関係と同様であり、当該項目に記載された中心板の化学組成および表層板の化学組成はそれぞれ中心層の化学組成および表層の化学組成に対応する。このため、このような中心層および表層の化学組成の関係については、ここでの説明を省略する。
2.無方向性電磁鋼板
無方向性電磁鋼板においては、中心層および二つの表層の二つの境界面のカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さRaAVE(μm)と、中心層および二つの表層の平均結晶粒径のうちの最小の平均結晶粒径dMIN(μm)とが、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たし、中心層および表層は、質量%で、Si、Al、およびMnの合計の含有量が0.1%以上7.9%以下異なる。
中心層および表層の境界面の判別の方法については、上述した「A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (1)算術平均粗さRaAVEおよび最小の平均結晶粒径dMINの関係」の項目に記載された中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面の判別の方法と同様であるため、ここでの説明を省略する。
また、算術平均粗さRaAVEを求める方法については、上述した「A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (1)算術平均粗さRaAVEおよび最小の平均結晶粒径dMINの関係」の項目に記載された算術平均粗さRaAVを求める方法と同様であるため、ここでの説明を省略する。
また、無方向性電磁鋼板における各層の平均結晶粒径を求める方法については、上述した「A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (1)算術平均粗さRaAVEおよび最小の平均結晶粒径dMINの関係」の項目に記載された各領域の平均結晶粒径を求める方法と同様であるため、ここでの説明を省略する。
また、算術平均粗さRaAVEについては、上述した「A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (1)算術平均粗さRaAVEおよび最小の平均結晶粒径dMINの関係」の項目に記載された算術平均粗さRaAVEと同様であるため、ここでの説明を省略する。
無方向性電磁鋼板においては、図2(b)および図3に示される無方向性電磁鋼板10のように、表層の平均結晶粒径が最小の平均結晶粒径dMINであることが好ましい。表層の抵抗率を中心層よりも高くすることができるので、高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損を十分に低減することができるからである。
なお、表層の平均結晶粒径を最小の平均結晶粒径dMINにするためには、例えば、表層のSi、Al、およびMnの合計の含有量を、中心層のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなるように制御すればよい。
また、中心層の平均結晶粒径が最小の平均結晶粒径dMINでもよい。無方向性電磁鋼板製造時の鋼板の加工性が向上する。
なお、中心層の平均結晶粒径を最小の平均結晶粒径dMINにするためには、例えば、中心層のSi、Al、およびMnの合計の含有量を、表層のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなるように制御すればよい。
さらに、無方向性電磁鋼板の板厚については、上述した「A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (2)その他」の項目に記載された無方向性電磁鋼板の板厚と同様であるため、ここでの説明を省略する。
3.製造方法
第2実施形態の無方向性電磁鋼板の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、後述する「B.無方向性電磁鋼板の製造方法」の項目に記載された製造方法等が挙げられる。第2実施形態の無方向性電磁鋼板は、該項目に記載された製造方法以外の製造方法により製造されるものでもよい。
なお、第2実施形態の無方向性電磁鋼板が、後述する「B.無方向性電磁鋼板の製造方法」の項目に記載された製造方法により製造されたものである場合には、第2実施形態の無方向性電磁鋼板は、上述した第1実施形態の無方向性電磁鋼板に該当し、第2実施形態の無方向性電磁鋼板における中心層および二つの表層は、上述した第1実施形態における中心板に対応する領域および表層板に対応する二つの領域にそれぞれ該当する。
B.無方向性電磁鋼板の製造方法
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した「A.無方向性電磁鋼板 A−1.第1実施形態」の項目に記載された無方向性電磁鋼板の製造方法であって、上述した中心板と、上述した二枚の表層板とを、上述した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで積層鋼板を得る積層工程と、積層鋼板に冷間圧延を施す冷間圧延工程と、冷間圧延後の積層鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、を有することを特徴とする。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法の一例について図面を参照しながら説明する。図1(a)〜(c)は、本発明における中心板および二枚の表層板の一例を示す概略断面図である。また、図2(a)および(b)は、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法の一例を示す概略断面図である。さらに、図3は、図2(b)のX部分の拡大図である。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法の一例においては、まず、図1(a)〜(c)に示される表層板4A、中心板2、および表層板4Bを準備する。表層板4Aは、表面4Asの算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。中心板2は、表面2sの算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。表層板4Bは、表面4Bsの算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の鋼板である。また、表層板4Aおよび表層板4BそれぞれのSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板2のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9質量%以下多くなっている。これにより、表層板4Aおよび表層板4Bそれぞれの平均結晶粒径は、中心板2よりも小さくなっている。
次に、図2(a)に示されるように、表層板4Aと、中心板2と、表層板4Bとを、算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の表面が互いに接するように中心板2を表層板4Aおよび表層板4Bで挟んで積層することで積層鋼板6を得る。
次に、図2(b)に示されるように、積層鋼板6に冷間圧延を施した後、仕上げ焼鈍を施す。これにより、無方向性電磁鋼板10を製造する。無方向性電磁鋼板10においては、表層板4Aおよび表層板4Bに対応する領域4A’および領域4B’それぞれのSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板に対応する領域2’のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9質量%以下多くなっていることで、領域4A’および領域4B’それぞれの平均結晶粒径は、領域2’よりも小さくなっており、領域4A’および領域4B’それぞれの抵抗率は、領域2’よりも高くなっている。また、領域4A’および領域4B’は領域2’と直接接合されている。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法においては、中心板の表面の算術平均粗さRaおよび二枚の表層板の表面の算術平均粗さRaを2.5μm以上15μm以下に制御した上で、算術平均粗さRaを制御した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで得られる積層鋼板に冷間圧延を施す。このため、冷間圧延時には、中心板および二枚の表層板の接触面において圧延ロールによる圧下力が微視的に不均一に表層板と中心板に負荷される。これにより、中心板および二枚の表層板の接触面において局部的に応力集中が発生する結果、中心板および二枚の表層板の圧着が効果的に行われる。よって、生産性に劣り、製造コストが高い接着皮膜による積層方法を用いることなく中心板および二枚の表層板を接合することができる。
また、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法においては、中心板および表層板を別々に化学組成を制御した上で圧着することにより無方向性電磁鋼板を製造することができる。このため、生産性に劣り、製造コストが高い拡散での表層の成分の調整を行うことなく、例えば、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量を中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9質量%以下多くなるように制御するだけで、無方向性電磁鋼板において表層板に対応する領域(表層)の平均結晶粒径を中心板に対応する領域(中心層)よりも小さくし、表層板に対応する領域の抵抗率を中心板に対応する領域よりも高くすることができる。よって、高周波励磁下における表皮効果を利用して高周波鉄損をさらに低減することができる。
さらに、生産性に劣る方法での成分の調整を行うことなく、例えば、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量を表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1質量%以上7.9質量%以下多くなるように制御するだけで、無方向性電磁鋼板において表層板に対応する領域(表層)の平均結晶粒径を中心板に対応する領域(中心層)よりも大きくして、無方向性電磁鋼板の加工性を十分に向上させることもできる。
したがって、本発明によれば、高周波鉄損を十分に低減し、または加工性を十分に向上させることができる上、優れた生産性において、低コストで製造することができる。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
1.積層工程
積層工程においては、表面の算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の中心板と、表面の算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の二枚の表層板とを、算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで積層鋼板を得る。
中心板および二枚の表層板については、上述した「A.無方向性電磁鋼板 A−1.第1実施形態 1.中心板および二枚の表層板」の項目に記載された中心板および二枚の表層板と同様であるため、ここでの説明を省略する。
中心板と二枚の表層板とを積層する方法としては、算術平均粗さRaが2.5μm以上15μm以下の表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、圧延前に2つの表層板コイルと1つの中心板のコイルを3つのペイオフリールで巻き出し、これを圧延機にて圧延する直前にピンチロールで積層して張力を加えながら圧延機に噛みこませ積層圧延を行う方法等が挙げられる。
また、中心板と二枚の表層板とを積層する方法としては、圧延前に中心板と表層板を三層に重ねて予めコイル状に巻取り、これを巻きほどいて圧延に供する方法を用いてもよい。この方法では、コイルに巻き取る際に張力を制御することで、本発明では積層する鋼板に特段の接着層を付与せずともコイル状に巻き取ることが可能である。さらに、この方法では、中心板および二枚の表層板をコイル状に巻き取る際に、5%以上10%以下の軽い圧下を付与して巻き取ることにより、安定して中心板および二枚の表層板をコイル状に巻き取ることが可能となる。この軽圧下は必ずしも必須ではないが巻取り性を向上させる。
そして、以上のような中心板と二枚の表層板とを積層する方法等では、積層圧延における表層板と中心板の密着性を向上させるために、鋼板温度を事前に加熱して積層圧延を行うか、もしくは圧延ロールを用いて通電加熱を行い鋼板温度を上昇させて積層圧延を行う方法、または積層圧延前に鋼板表面の酸化物などを除去して鋼板表面の清浄度を向上させてから積層圧延を行う方法を用いてもよい。
また、以上のような中心板と二枚の表層板とを積層する方法等では、積層の際に、鋼板に微細な振動を付与してもよい。これにより、積層性を向上できる。例をあげれば、可聴周波数以上の高周波の超音波振動を付与しながら鋼板を積層する方法等が例示できる。騒音の課題と積層装置の寿命の課題が解決できるのであれば、より周波数の低い振動を付与しながら積層を行うか、あるいは積層圧延自体を振動を付与しながら行うことでも積層性を向上できる。振動の付与は、安全性を確保しながら先述のピンチロールで行うか、圧延装置そのもので行ってもよい。また、安全性向上のために、これらとは別に振動を付与しながら積層する専用の装置を用いてもよい。
また、以上のような中心板と二枚の表層板とを積層する方法等では、積層前に、積層により互いに接する表層板と中心板の表面の算術平均粗さRaの差を予め制御する方法を用いてもよい。この方法により、積層圧延後の表層板と中心板の接着性を制御することが可能である。この方法としては大別して二通りの方法があり、具体的には表面の算術平均粗さRaの差を予め7μm以上とする方法、あるいは5μm以内とする方法のどちらの方法でも接着性を向上できる。表面の算術平均粗さRaの差を予め7μm以上にする場合と、表面の算術平均粗さRaの差を予め5μm以内にする場合の両方で接着性を向上させるメカニズムについては未だ明確ではないが、本発明者らは、表面の算術平均粗さRaの差を予め7μm以上にする場合は、表面粗度の差により金属接触部分の圧力が上昇することが原因であり、表面の算術平均粗さRaの差を予め5μm以内にする場合は、金属接触部分の接触箇所が接触圧力を低下させない程度において増加することが原因ではないかと推察している。これらの原因については発明者らは鋭意調査中である。本発明の積層方法は、もちろん以上に例示した方法に限定されるものではない。
2.冷間圧延工程
冷間圧延工程においては、積層鋼板に冷間圧延を施す。
冷間圧延工程としては、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、一回の冷間圧延を施すものでもよいし、中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を施すものでもよい。
冷間圧延条件としては、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、冷間圧延の開始から終了まで鋼板の温度を300℃以上450℃以下に保って冷間圧延を施すか、または圧延ロールを用いた通電加熱により鋼板の温度を上昇させて300℃以上450℃以下の温度まで到達させることが好ましい。高周波鉄損を効果的に低減することができるからである。保持温度または到達温度が300℃未満である場合には、高周波鉄損を効果的に低減することができず、保持温度または到達温度が450℃を超える場合には、積層鋼板表面に酸化層が形成されることにより、鉄損が増加する。
算術平均粗さRaを上述した範囲内に制御した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで得られる積層鋼板に冷間圧延を施すことで、中心板および二枚の表層板の接触面において局部的に発生する応力集中が、300℃以上の保持温度または到達温度で解放されるので、中心板および二枚の表層板の圧着がさらに効果的に行われると推察される。そして、これにより、無方向性電磁鋼板において、中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域の二つの境界面が、中心板および二枚の表層板に対応する三つの領域のうちの平均結晶粒径が最小である領域の結晶粒内に形成される磁壁の移動を効果的に抑制しうる状態になると推察される。この結果、高周波鉄損の低減作用が顕著に得られると推察される。
なお、本発明者らは、このように高周波鉄損の低減作用が顕著に得られる他の原因についても鋭意研究中である。
冷間圧延では、上述した「A.無方向性電磁鋼板 A−1.第1実施形態 2.無方向性電磁鋼板 (2)その他」の項目に記載した理由から、鋼板の板厚を0.1mm以上0.65mm以下とすることが好ましく、中でも0.15mm以上0.35mm以下とすることが好ましい。
冷間圧延の圧下率は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、50%以上97%以下とすることが好ましく、中でも60%以上88%以下とすることが好ましい。圧下率が小さ過ぎると、仕上げ焼鈍後に適切な磁気特性を達成することが困難となるからである。また、圧下率が大き過ぎると、成品の集合組織を適切に制御出来ず鉄損が増加するからである。
3.仕上げ焼鈍工程
仕上げ焼鈍工程においては、冷間圧延後の積層鋼板に仕上げ焼鈍を施す。
仕上げ焼鈍条件としては、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、700℃以上1100℃以下の温度域に0.1秒間以上120秒間以下保持することが好ましく、中でも750℃以上1050℃以下の温度域に10秒間以上60秒間以下保持することが好ましい。焼鈍時の酸化を防止して鉄損増大を防ぐとともに結晶粒を制御して鉄損を低減する目的からである。
4.その他の工程
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記仕上げ焼鈍工程後に、上記仕上げ焼鈍工程により得られた鋼板表面にコーティング液を塗布し、焼き付けることによって、絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程を有していてもよい。絶縁被膜形成条件およびコーティング液は、通常通りでよい。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様の作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。なお、実施例の条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一例であり、本発明は実施例の条件に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
ここで、実施例および比較例において評価に用いる各種の特性について説明する。
鋼板表面の算術平均粗さRa(μm)ならびに中心板に対応する領域および二枚の表層板に対応する領域の二つの境界面のカットオフ値250μmとした場合の算術平均粗さRaAVE(μm)としては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面を観察し、画像処理を用いて板厚方向の位置座標を測定して、上述した方法により求めたものを用いる。
無方向性電磁鋼板における中心板および二枚の表層板に対応する三つの領域の平均結晶粒径(μm)、ならびに単一の鋼板の平均結晶粒径(μm)としては、各領域または単一の鋼板で観察される複数の結晶粒について、投影面積に対する同一面積の円の直径をそれぞれ測定して平均した値を用いる。
無方向性電磁鋼板の鉄損としては、エプスタイン試料に切断し、インバータ励磁時に生じる鉄損を用いる。具体的には、磁束密度1.5T、周波数50Hzで磁化した際の鉄損W15/50(W/kg)、および磁束密度1.0T、周波数400Hzで磁化した際の鉄損W10/400(W/kg)を用いる。
(実施例1)
まず、下記表1に示される鋼種1の化学組成を有し、表面の算術平均粗さRaが6.0μmである板厚1.2mmの中心板を準備した。また、下記表1に示される鋼種2の化学組成を有し、表面の算術平均粗さRaが6.0μmである板厚0.3mmの表層板を二枚準備した。
なお、このように準備した中心板および二枚の表層板においては、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっている。
なお、上記中心板は、上記鋼種1の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。また、上記表層板は、上記鋼種2の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。
次に、準備した中心板と二枚の表層板とを、上述した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで積層鋼板を得た。
次に、積層鋼板に、板厚0.3mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:83.3%)。次に、冷間圧延後の積層鋼板に900℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.1の無方向性電磁鋼板を得た。
続いて、下記表1に示される鋼種1の化学組成を有し、板厚1.8mmの単一の鋼板を準備した。準備した鋼板に、板厚0.3mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:83.3%)。次に、冷間圧延後の鋼板に900℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.2の無方向性電磁鋼板を得た。
鋼板No.1について、RaAVE(μm)、中心板および二枚の表層板(第1の表層板および第2の表層板)に対応する三つの領域の平均結晶粒径、ならびにそれらのうちの最小の平均結晶粒径dMIN(μm)およびdMIN/20(μm)を求めた。また、鋼板No.2について、平均結晶粒径d(μm)およびd/20(μm)を求めた。鋼板No.1および2について、基底周波数5KHzにおける鉄損W15/50(W/kg)および鉄損W10/400(W/kg)を求めた。これらを下記表2に示す。
上記表2に示されるように、鋼板No.1では、鋼板No.2と比較して、W15/50およびW10/400が低減した。また、W10/400の低減割合はW15/50よりも大きかった。
なお、鋼板No.1について、電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE−EPMA)を使用して、圧延方向と板面方向に垂直な方向を含む断面において、中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面を判別した上で、中心板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量および表層板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量を測定したところ、表層板に対応する領域の当該合計の含有量が、中心板に対応する領域の当該合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっていた。
(実施例2)
まず、上記鋼種1の化学組成を有し、板厚が1.2mmであり、表面の算術平均粗さRaが下記表3に示される値となる鋼板No.3〜30の中心板を準備した。また、上記鋼種2の化学組成を有し、板厚が0.3mmであり、表面の算術平均粗さRaが下記表3に示される値となる鋼板No.3〜30の表層板を二枚準備した。
なお、このように準備した中心板および二枚の表層板においては、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっている。
なお、上記中心板は、上記鋼種1の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。また、上記表層板は、上記鋼種2の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。
次に、鋼板Noが同一である中心板と二枚の表層板とを、上述した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで、鋼板No.3〜30の積層鋼板を得た。
次に、鋼板No.3〜30の積層鋼板に、板厚0.3mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:83.3%)。次に、冷間圧延後の鋼板No.3〜23の積層鋼板に900℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.3〜23の無方向性電磁鋼板を得た。また、冷間圧延後の鋼板No.24〜30の積層鋼板に780℃で15秒間保持する仕上げ焼鈍を施し、これにより鋼板No.24〜30の無方向性電磁鋼板を得た。
続いて、上記鋼種1の化学組成を有し、板厚1.8mmの単一の鋼板を準備した。準備した鋼板に、板厚0.3mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:83.3%)。次に、冷間圧延後の鋼板に900℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.31の無方向性電磁鋼板を得た。
鋼板No.3〜30について、RaAVE(μm)、中心板および二枚の表層板(第1の表層板および第2の表層板)に対応する三つの領域の平均結晶粒径、ならびにそれらのうちの最小の平均結晶粒径dMIN(μm)およびdMIN/20(μm)を求めた。また、鋼板No.31について、平均結晶粒径d(μm)およびd/20(μm)を求めた。鋼板No.3〜31について、基底周波数5KHzにおける鉄損W15/50(W/kg)および鉄損W10/400(W/kg)を求めた。これらを下記表3に示す。
上記表3に示されるように、中心板のRaおよび表層板のRaが2.5μm以上15μm以下である鋼板では、中心板のRaまたは表層板のRaが2.5μm未満または15μm超である鋼板および鋼板No.31と比較して、W10/400が低減した。さらに、中心板のRaおよび表層板のRaが2.5μm以上15μm以下である鋼板の中でも、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たす鋼板では、W10/400が顕著に低減した。
なお、鋼板No.3〜30について、電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE−EPMA)を使用して、圧延方向と板面方向に垂直な方向を含む断面において、中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面を判別した上で、中心板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量および表層板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量を測定したところ、表層板に対応する領域の当該合計の含有量が、中心板に対応する領域の当該合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっていた。
さらに、表層板と中心板の圧着が確実に行われたかどうかを評価するために、積層鋼板である鋼板No.3〜No.30および積層を行わない鋼板No.31において、直径20mmの円板を仕上焼鈍板から10万回打ち抜き、打ち抜いた円板の剥離発生率(%)を調査した。打ち抜き試験における剥離発生率を上記表3にあわせて示す。
上記表3に示されるように、中心板のRaおよび表層板のRaが本発明の範囲を満たす積層鋼板および積層を行わない鋼板No.31では剥離は生じなかった。一方、中心板のRaおよび表層板のRaのいずれかもしくは両方が本発明の範囲を満たさない積層鋼板では、いずれも打ち抜き試験を行った円板において剥離が生じた。また、上記表3では読み取ることができないが、剥離は、打ち抜き回数が増えるに従い増加する傾向があった。この理由は、打ち抜き金型の摩耗に伴うクリアランスの最適値からの乖離拡大が原因と推察される。これにより、本発明では金型の摩耗に伴うクリアランスの変化が生じても打ち抜き後の剥離が小さいことも示された。
(実施例3)
まず、下記表4に示される鋼種3の化学組成を有し、板厚1.2mmであり、表面の算術平均粗さRaが13.5μmである鋼板No.32〜38の中心板を準備した。また、下記表4に示される鋼種4の化学組成を有し、板厚0.6mmであり、表面の算術平均粗さRaが14.3μmである鋼板No.32〜38の表層板を二枚準備した。
なお、このように準備した中心板および二枚の表層板においては、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっている。
なお、上記中心板は、上記鋼種3の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。また、上記表層板は、上記鋼種4の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。
次に、鋼板Noが同一である中心板と二枚の表層板とを、上述した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで、鋼板No.32〜38の積層鋼板を得た。
次に、鋼板No.32〜38の積層鋼板に、板厚0.3mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:87.5%)。この際には、各積層鋼板ごとに、圧延ロールを用いた通電加熱により鋼板の温度を上昇させて下記表5に示される圧延温度まで到達させた。
次に、冷間圧延後の鋼板No.32〜38の積層鋼板に950℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.32〜38の無方向性電磁鋼板を得た。
続いて、上記鋼種3の化学組成を有し、板厚が2.4mmであり、表面の算術平均粗さRaが0.3μmである鋼板No.39〜45の単一の鋼板を準備した。準備した鋼板No.39〜45の鋼板に、板厚0.3mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:87.5%)。この際には、各鋼板ごとに、圧延ロールを用いた通電加熱により鋼板の温度を上昇させて下記表5に示される圧延温度まで到達させた。次に、冷間圧延後の鋼板No.39〜45の鋼板に950℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.39〜45の無方向性電磁鋼板を得た。
鋼板No.32〜38について、RaAVE(μm)、中心板および二枚の表層板(第1の表層板および第2の表層板)に対応する三つの領域の平均結晶粒径、ならびにそれらのうちの最小の平均結晶粒径dMIN(μm)およびdMIN/20(μm)を求めた。また、鋼板No.39〜45について、平均結晶粒径d(μm)およびd/20(μm)を求めた。鋼板No.32〜45について、基底周波数10KHzにおける鉄損W15/50(W/kg)および鉄損W10/400(W/kg)を求めた。これらを下記表5に示す。
上記表5に示されるように、中心板のRaおよび表層板のRaが2.5μm以上15μm以下であり、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たす鋼板No.32〜38のいずれもが、単一の板から製造した鋼板No.39〜45のうちの圧延温度が同一の鋼板と比較して、W15/50およびW10/400が低減した。また、W10/400の低減割合はW15/50よりも大きかった。さらに、鋼板No.32〜38の中でも、圧延温度が300℃以上450℃以下である鋼板No.34〜36において、W10/400が顕著に低減している。なお、圧延温度が450℃を超えた鋼板において、W15/50およびW10/400が顕著に増加している。
なお、鋼板No.32〜38について、電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE−EPMA)を使用して、圧延方向と板面方向に垂直な方向を含む断面において、中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面を判別した上で、中心板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量および表層板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量を測定したところ、表層板に対応する領域の当該合計の含有量が、中心板に対応する領域の当該合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっていた。
(実施例4)
まず、下記表6に示される鋼種5の化学組成を有し、板厚が1.2mmであり、表面の算術平均粗さRaが下記表7に示される値となる鋼板No.46〜52の中心板を準備した。また、下記表6に示される鋼種6の化学組成を有し、板厚が0.4mmであり、表面の算術平均粗さRaが下記表7に示される値となる鋼板No.46〜52の表層板を二枚準備した。
なお、このように準備した中心板および二枚の表層板においては、表層板のSi、Al、およびMnの合計の含有量が、中心板のSi、Al、およびMnの合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっている。
なお、上記中心板は、上記鋼種5の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。また、上記表層板は、上記鋼種6の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施した上で、所定の表面粗度に加工したロールで鋼板を軽圧下することにより、その表面の算術平均粗さRaを制御することにより得る。
次に、鋼板Noが同一である中心板と二枚の表層板とを、上述した表面が互いに接するように中心板を二枚の表層板で挟んで積層することで、鋼板No.46〜52の積層鋼板を得た。
次に、鋼板No.46〜52の積層鋼板に、板厚0.35mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:82.5%)。次に、冷間圧延後の鋼板No.46〜52の積層鋼板に950℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.46〜52の無方向性電磁鋼板を得た。
続いて、上記鋼種5の化学組成を有し、板厚が2.0mmであり、表面の算術平均粗さRaがそれぞれ7.0μm、13.0μmである鋼板No.53および鋼板No.54の単一の鋼板を準備した。準備した鋼板No.53および鋼板No.54の鋼板に、板厚0.35mmまで冷間圧延を施した(冷圧率:82.5%)。次に、冷間圧延後の鋼板No.53および鋼板No.54の鋼板に850℃で120秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。これにより、鋼板No.53および鋼板No.54の無方向性電磁鋼板を得た。
鋼板No.46〜52について、RaAVE(μm)、中心板および二枚の表層板(第1の表層板および第2の表層板)に対応する三つの領域の平均結晶粒径、ならびにそれらのうちの最小の平均結晶粒径dMIN(μm)およびdMIN/20(μm)を求めた。また、鋼板No.53および鋼板No.54について、平均結晶粒径d(μm)およびd/20(μm)を求めた。鋼板No.46〜54について、基底周波数10KHzにおける鉄損W15/50(W/kg)および鉄損W10/400(W/kg)を求めた。これらを下記表7に示す。
上記表7に示されるように、中心板のRaおよび表層板のRaが2.5μm以上15μm以下である鋼板No.46〜52のいずれもが、単一の板から製造した鋼板No.53および鋼板No.54よりもW15/50およびW10/400が低減した。鋼板No.46〜52の中でも、dMIN/20≦RaAVE≦dMINを満たす鋼板No.50〜52はさらにすぐれた鉄損特性がW15/50およびW10/400において得られた。
なお、鋼板No.46〜52について、電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE−EPMA)を使用して、圧延方向と板面方向に垂直な方向を含む断面において、中心板に対応する領域および表層板に対応する領域の境界面を判別した上で、中心板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量および表層板に対応する領域のSi、Al、およびMnの合計の含有量を測定したところ、表層板に対応する領域の当該合計の含有量が、中心板に対応する領域の当該合計の含有量よりも0.1%以上7.9%以下多くなっていた。