JP6604120B2 - 無方向性電磁鋼板、及びその製造方法 - Google Patents
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Description
当該特許文献3の技術は、鋼の強度を増加するために炭素原子を0.05%以上含有させるものであり、電磁鋼板の技術とは異なるものであった。
当該製造方法は、熱延もしくは鋳片において発生する柱状晶が板表面から中心層に向かって成長する際に、成長方向が<100>方向に一致する性質を利用して、熱延板や鋳片にランダムキューブ系方位を集積させ、当該ランダムキューブ型方位が集積したキューブ系結晶組織が冷延後再結晶で消失しないように低冷延率で冷間圧延および回復焼鈍を行い、元のキューブ方位を維持するものである。当該技術については、現状では設備制約によりキューブ集合組織の柱状晶を有する熱延鋼板もしくは鋳片は大量生産に適していないという課題があった。また、この技術では{111}方位はほとんど発達しない。
当該製造方法は、冷間圧延において、高冷延率において形成されたαファイバー集合組織から{411}<148>〜{100}<012>に至る系列の再結晶方位が優先的に形成される現象を利用する。高冷延率のαファイバー集合組織において{100}<011>〜{211}<011>から当該再結晶方位が形成されると解釈されている。
このような{411}<148>〜{100}<012>系列のキューブ周辺の方位を有する無方向性電磁鋼板においては、ハイグレードの高Si系の材料では、高圧下率の冷延を施すにあたり、通板の安定性に課題があった。また、冷延率を高めると{111}方位はほとんど発達しなかった。
また、特許文献8には、特定のスラブを粗圧延後、特定条件により熱間圧延の仕上げ圧延をして熱延板とし、次いで1回の冷間圧延後仕上焼鈍を施す、無方向性電磁鋼板の製造方法が記載されている。
特許文献7及び8の方法は、冷間圧延の冷延率を実質的に上昇させる効果を伴う熱延を施す特徴がある。特許文献7の手法は、熱延仕上温度極低温化により熱延集合組織に圧延集合組織を残存させ、従来よりも低い冷延率で{411}<148>〜{100}<012>系集合組織を再結晶後に形成させるものであり、特許文献8の手法は、潤滑熱延を行うことにより、熱延結晶組織における付加的せん断歪を減少させ、熱延板全厚にわたり、圧延集合組織を発達させるものである。しかしながら特許文献7及び8の手法は、熱延条件が通常条件を大きく外れており実用化されていない。
一方、無方向性電磁鋼板は、種々の用途に用いられており、鋼板を積層して形成されるモータコアなどの電磁部品は、通常、単純な直方体形状ではなく、更なる高機能化や高効率化を指向してその形状は複雑化する傾向にある。このように実用での状況を考えると、電磁鋼板の中を流れる磁束の方向は必ずしも鋼板板面に平行であるとは限らず、電磁部品形状や複数部品の配置に応じて磁束の方向が大きく変化する領域や部品の端部近くでは磁束の方向が鋼板板面に平行な方向から大きくずれることになる。このため従来の電磁鋼板では電磁部品の高効率化が十分とは言えない状況となっており、鋼板板面に傾斜した方向への磁束を考慮した材料が必要と考えられた。
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
Cr≦1.0、
Sn≦0.2、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなる無方向性電磁鋼板であって、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
鋼板を少なくとも2本のリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程(I)と、
鋼板を直径600mm以下の圧延ロールにより圧延する冷間圧延工程(II)とをこの順に有することを特徴とする。
0
本発明において「%」は、特に断りが無い限り「質量%」を表すものとする。
本発明においては、磁束密度の強度を表す単位「tesla:テスラ」を表すアルファベット大文字「T」と鋼板板厚全厚「thickness:厚み」を表すアルファベット「t」を区別して用いる。
また、本発明において、図の説明で使用する光学顕微鏡写真のL断面とは、鋼板法線方向と圧延方向を含む鋼板の断面を指している。L断面の観察は板幅全幅のうち、板幅中心線を中心として幅方向に90%以内の範囲から断面を取り観察することが好ましい。しかしながら、それ以外の鋼板端部のL断面の観察結果を本発明の特徴から排除することを意味するものではない。
本発明に係る無方向性電磁鋼板は、質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
Cr≦1.0、
Sn≦0.2、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなる無方向性電磁鋼板であって、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下であることを特徴とする。
また、φ2=0°断面におけるψ=0°である方位は本発明においては特にCファイバーと呼ぶ。以降、本明細書においてはこの呼称を用いることがある。さらに、本発明で規定する「φ2=0°断面にてψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域」を単に「Cファイバーの特定角度領域」と呼ぶことがある。
本発明者らは、無方向性電磁鋼板が、単純な長方形形状でない部材においても広く用いられている実情から、無方向性電磁鋼板の板面に平行でない方向における磁気特性の改善に、鋭意検討を進めた結果、当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、Cファイバーの特定角度領域が60°以上90°以下であり、かつ、γファイバーが適度に存在することにより、上記のような効果が得られるとの知見を得た。
本発明の無方向性電磁鋼板がこのような効果を有する作用については、未解明な部分もあるが、以下のように推測される。
また、本発明の無方向性電磁鋼板は、Cファイバーの特定角度領域が60°以上である。Cファイバーは、鋼板面内に<100>軸方向を有する方位であるため、この方位の強度を高めることが磁気特性にとって好ましいことは周知の事実である。しかし、いわゆる{100}方位の集積度を高めた電磁鋼板ではCファイバーの中でも特定のφ1の角度領域でのみ集積度が高くなることが多い。このような鋼板では、上記のようにγファイバーを制御したとしても、本発明で期待されるような効果は発現しない。
これは本願における板面に対して傾斜した方向への磁束の流れの良さを担保するγファイバー方位は、板面内の磁束の流れが特定方向に拘束されるような状況ではその効果を発揮できなくなることを示していると思われる。この理由は明確ではないが、板面に対して傾斜した方向への磁束の流れの良さは、他の方向についても拘束がなく全方向に流れが良い状況として発現するためと考えられる。
この結果、本発明の無方向性電磁鋼板は、板面に平行な磁束の流れが確保されているとともに、板面に対し傾斜した方向への磁束の流れが向上し、1枚の鋼板を部材として用いた場合のみならず、特に複数の鋼板を積層した部材において、積層方向の磁気特性を改善して部材の磁気的効率を向上させるという効果を発揮する。
以下、本発明に係る無方向性電磁鋼板の各構成についてより詳細に説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、少なくとも、Si(ケイ素)、Mn(マンガン)を含有し、更にAl(アルミニウム)、Cr(クロム)、Sn(スズ)を含有してもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、C(炭素)、N(窒素)、S(硫黄)及びその他不可避不純物を含有してもよい、残部がFe(鉄)からなる組成を有するものである。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Siの含有割合が0.1%以上3.5%以下である。Siは電気抵抗を増加する作用を有するため、鉄損低減に寄与する。本発明の無方向性電磁鋼板は、鉄損低減の点から、Siの含有割合を0.1%以上とするものであり、0.5%以上が好ましく、さらに好ましくは1.0%以上がより好ましい。鉄損をさらに改善するためには1.9%以上がより好ましい。一方、本発明の無方向性電磁鋼板は、磁気特性に優れ、圧延作業性を良好にし、仕上げの焼鈍温度の上昇を抑制する点から、Siの含有割合を3.5%以下とするものであり、3.2%以下が好ましく、2.7%以下がより好ましい。圧延作業性をさらに改善するためには2.4%以下がより好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Mnの含有割合が0.1%以上1.5%以下である。
Mnは電気抵抗を増加する作用を有するため、鉄損低減に寄与する。また、Mnはオーステナイト拡大型元素であり、仕上焼鈍時におけるγファイバーの結晶粒の成長を抑制する。
本発明の無方向性電磁鋼板においては、Cファイバーの特定角度領域を広く確保しつつ適度にγファイバーを形成する点から、Mnの含有割合は、0.1%以上1.5%以下であり、0.2%以上1.3%以下であることが好ましく、0.5%以上1.0%以下であることがより好ましい。
またMnの含有割合が、0.1%以上1.5%以下であれば、鉄損を低減し、且つ磁束密度の低下を抑制できる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Alを含有してもよい。無方向性電磁鋼板がAlを含有する場合、鉄損低減の点から、0.1%以上2.5%以下であることが好ましく、0.3%以上2.4%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.9%以上2.3であることがより好ましい。
また、オーステナイト域の縮小を抑制し、Cファイバーの特定角度領域を広く確保しつつ適度にγファイバーを形成する点から、Siの含有割合と、Alの含有割合の2倍との和(Si+2Al)が、0.1以上5.1以下であることが好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、1.0%以下の範囲でCrを含有してもよい。1.0%を超過するとその効果が飽和するからである。無方向性電磁鋼板がCrを含有する場合、磁気特性を改善し、本発明の効果を向上させる点から、中でも、0.1≦Cr≦1.0であることが好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、0.2%以下の範囲でSnを含有してもよい。0.2%を超過するとその効果が飽和するからである。無方向性電磁鋼板がSnを含有する場合、磁気特性を改善し、本発明の効果を向上させる点から、中でも、0.05≦Sn≦0.2であることが好ましく、0.05≦Sn≦0.015%であることがより好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、本発明の効果を損なわない範囲で、不可避的に混入する各種元素(不可避不純物)を含むものであってもよい。
このような元素としては、C、N、Sのほか、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、As(ヒ素)、Zr(ジルコニウム)等が挙げられる。
本発明の無方向性電磁鋼板において、Cの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下が好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板において、Nの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下がより好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板において、Sの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下がより好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板において、Tiの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.004%以下であることが好ましく、さらに0.003%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.002%以下がより好ましく、0.001%以下が特に好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板において、Nbの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下が好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板において、Asの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下が好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板において、Zrの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下が好ましい。
また、本発明の無方向性電磁鋼板において、不可避不純物全体の含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.1%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
Si、Mn、Al、Cr、Sn、Ti、Nb、Zrについては、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)により測定することができる。
Asについては、フレームレス原子吸光法により測定することができる。
C、Sについては、燃焼赤外線吸収法により測定することができる。
また、Nについては、加熱融解−熱伝導法により測定することができる。
当該無方向性電磁鋼板の一部を切子状にして秤量し、これを測定用試料とする。当該測定用試料は、測定方法に応じて以下のように処理される。なお、燃焼赤外線吸収法、及び加熱融解−熱伝導法においては、上記切子状の測定用試料をそのまま用いることができる。
(A)誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)
前記測定用試料を酸に溶解し酸溶解液とする(必要に応じて加熱してもよい)。残渣は濾紙回収して別途アルカリ等に融解し、融解物を酸で抽出して溶液化する。当該溶液と前記酸溶解液とを混合し、必要に応じて希釈することにより、ICP−MS測定用溶液とすることができる。
(B)フレームレス原子吸光法(AA法)
前記測定用試料を酸に溶解し酸溶解液とする(必要に応じて加熱してもよい)。得られた酸溶解液を必要に応じて希釈することにより、AA法測定用溶液とすることができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、γファイバーの最高強度が3以下かつ1以上であり、Cファイバーの特定角度領域が60°以上90°以下である。
本発明の無方向性電磁鋼板は、少なくとも板厚中心層においてγファイバーの最高強度が3以下かつ1以上であり、Cファイバーの特定角度領域が60°以上であればよい。なお本発明において板厚中心層とは、電磁鋼板の厚みをTとしたときに、当該電磁鋼板の表面から、0.2T〜0.8Tの深さの範囲をいう。更に、本発明の無方向性電磁鋼板は、磁気特性の点から、0.1T〜0.9Tの範囲でγファイバーの最高強度が3以下かつ1以上であり、Cファイバーの特定角度領域が60°以上であることが好ましく、鋼板表層(即ち、0.0T〜0.1Tおよび0.9T〜1.0Tも含む全領域)においてもγファイバーの最高強度が3以下かつ1以上であり、Cファイバーの特定角度領域が60°以上であることがより好ましい。
極点図は反射法のX線回折では(110)、(200)、(211)、(310)の4面の不完全極点図を測定し、これらを元にBunge表示による方位空間における方位分布関数(ODF)を計算する。
Bunge記法では、方位を表す際に、Cube方位の3つの<100>軸を鋼板の圧延方向(RD)のX軸、板面垂直方向(ND)Z軸、板幅方向(TD)Y軸の3つにあわせてから、決められた手順で回転操作を行い、その3つの回転角をもって各結晶方位の三次元方位空間の位置を決定する。
Bunge表示によるオイラー角は、φ1、φ2、ψにより構成される。
まず、結晶座標のZ軸(ND方向と一致)の周りにφ1(°)結晶を回転させる。次に、回転後の新しい結晶座標の新しい向きのX’軸周りにψ(°)回転させる。この操作の後のさらに新しい結晶座標系のZ’’軸周りにφ2(°)回転させる。
また、ψについては、2分の1に縮退することから、ψ:0〜90°とする。
すなわち本発明では、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示を使用する。
なお、Bunge表示は、「集合組織」長嶋晋一 丸善株式会社 p.1−39を参照することができる。
図5、及び図6は、「強度が2以上であるφ1の角度領域」の説明の用に供する図面である。
図5及び図6は、方位分布関数(ODF)のφ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、横軸にφ1、縦軸に強度をとったグラフである。図5の例では、φ1が5°〜50°の範囲、及び、φ1が60°〜80°の範囲で、強度が2以上となっている。この場合、当該2つの領域の合計65°の領域で強度が2以上、即ち、強度が2以上であるφ1の角度領域は65°である。また、図6の例では、φ1が0°〜10°の範囲、φ1が35°〜55°の範囲、及び、φ1が80°〜90°の範囲で、強度が2以上となっている。この場合、当該3つの領域の合計40°の領域で強度が2以上、即ち、強度が2以上であるφ1の角度領域は40°である。
また、同時に、Cファイバーの特定角度領域が60°以上90°以下であればよく、磁気特性の点から、75°以上であることが好ましい。また、磁気特性の点から、Cファイバーの特定角度領域を強度が2.5以上と規定した場合にもその領域が60°以上であることがより好ましく、強度を3.0以上と規定してもその領域が60°以上であることがさらに好ましい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、方位分布関数が上記の範囲を満たすため、板面内に加えて板面に対して傾斜した方向への磁束の流れが向上する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、電気機器に用いられるサーボモータ、ステッピングモータ、電気機器のコンプレッサー、産業用途に使用されるモータ、電気自動車、ハイブリッドカー、電車の駆動モータ、様々な用途で使用される発電機や鉄心、チョークコイル、リアクトル、電流センサー等、無方向性電磁鋼板が用いられている従来公知の用途にいずれも好適に適用でき、板面に対し傾斜した方向への磁気特性が求められる用途(例えば、積層して使用する用途等)により好適に用いることができる。
その他、接着皮膜を塗布して積層するなど、公知の無方向性電磁鋼板の使用方法のいずれに供することも本発明は制限するものではない。
表面皮膜に関しては、従来公知のいずれの成分や塗布技術を適用することも、本発明の範囲を制限するものではない。
本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、前記本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
鋼板を少なくとも2本のリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程(I)と、
鋼板を直径600mm以下の圧延ロールにより圧延する冷間圧延工程(II)とをこの順に有することを特徴とする。
本発明の製造方法においては、途中で一度でも本発明規定内の工程(I)の直後に工程(II)が実施されていれば、磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を得ることができる。
以下、このような本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について、順に詳細に説明する。
工程(I)は、鋼板を少なくとも2本のリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程である。当該工程(I)により冷間圧延前の鋼板内に通常の冷間圧延とは異なる形態の転移および転移の相互作用により形成された新規な転移の堆積および格子欠陥が形成され、Cファイバーが適度に存在した鋼板を得ることができる。
工程(II)は、鋼板を600mm以下の圧延ロールで圧延する冷間圧延工程である。前述の工程(I)で導入された、通常の冷間圧延とは異なる形態の転位および転位の相互作用により形成された新規な転位の堆積および格子欠陥に、さらに圧延歪を加えることで複雑な転位および格子欠陥構造が形成されるため、最終的な仕上焼鈍を経た後に、γファイバーが適度に存在した鋼板を得ることができる。
さらに、直径200mm以下の圧延ロールにより圧延することにより、転位および格子欠陥構造がより特殊なものとなり、発明効果を顕著に得ることができる。
上限は、工業的な製造の困難さを回避するためと、冷延率が高くなるとその直前に導入した工程(I)による特殊な転位構造の影響が小さくなり、特許文献6のような既存の高冷延率材と同様に、Cファイバー中の特定方位のみの強度が高く、γファイバーが発達しない集合組織が形成されてしまうため、47%以下とすることが好ましく、より好ましくは28〜43%、さらに好ましくは24〜39%である。
なお、一般的な熱延鋼板を原板として、最終的に一般的な板厚と磁気特性を有する電磁鋼板を得るにはトータルの圧延率は63〜94%であることが好ましく、より好ましくは70%〜92%であり、さらに好ましくは72〜89%である。工程(I)と工程(II)を複数回行う場合には、得られた電磁鋼板の圧延率が、熱延鋼板を基準にして、上記範囲内であることが好ましい。
中でも、鋼板の通板方向を一定方向とする、タンデム圧延では通板速度を安定させることが可能となるため特に板厚中心層でのφ2=0°断面におけるψ=0°かつφ1において強度が2以上の範囲が60°以上の方位の範囲の角度を増やすことができ、{100}方位を富化すると同時に、本発明の特徴である{111}面強度であるγファイバーを同時に発達させることが容易となる。
タンデム圧延においてこのような結果が得られる原因については発明者らは調査中であるが、歪速度の違いが転位構造に影響を与えた結果、再結晶集合組織に影響を与えることが一因ではないかと推察している。
例をあげれば、熱水中に圧延前のコイルを浸漬し、70℃以上80℃以下の温度で圧延を行ってもよい。
また、圧延前のコイルを誘導加熱その他の公知の方法により加熱し、100℃以上400℃以下の温度で温間圧延を行ってもよい。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の工程を有していてもよい。他の工程としては、例えば、鋼板を準備する工程(III)や、仕上焼鈍工程(IV)等が挙げられる。
工程(III)は、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法に用いられる鋼板を準備する工程である。
当該鋼板を準備する方法は、特に限定されないが、通常、前記本発明に係る無方向性電磁鋼板と同様の組成を有する鋼塊乃至鋼片を熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍することにより得られる。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法においては、板面に対し傾斜した方向への磁束の流れが向上し、磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を効率よく得られる点から、冷間圧延工程直前の鋼板の結晶粒の平均直径が、円相当直径で50μm以上300μm以下であることが好ましい。そのため、本工程は、結晶粒の平均粒径が、円相当直径で50μm以上である鋼板を準備する工程(III’)であることが好ましい。
冷間圧延前の鋼板の結晶粒の平均円相当直径が小さすぎると、鋼板に導入される転位や格子欠陥の形態が本発明で得られるものと異なり、工程(I)と(II)の相乗効果が損なわれやすくなる傾向がある。この結果として、再結晶方位において{111}方位であるγファイバーが主方位となり、{100}方位の発達が抑制され、従来の無方向性電磁鋼板生産プロセスにより得られた磁気特性は変わらないものとなる。そのため、本発明においては、冷間圧延工程直前の鋼板の結晶粒の平均直径が、円相当直径で50μm以上であることが好ましい。
一方、300μm超であると、リターンロールでの通板時の安定性が損なわれるので、本発明においては、冷間圧延工程直前の鋼板の結晶粒の平均直径が、円相当直径で300μm以下であることが好ましい。
連続焼鈍の場合、本発明では、焼鈍温度が800℃未満では短時間の連続焼鈍で熱延板焼鈍の効果が得られないので800℃以上で行う。焼鈍温度が1050℃超では、表面に形成される酸化層が厚くなり酸洗性が低下するとともに、加熱に要する熱エネルギーが増大し不経済となるとともに、熱延板焼鈍の効果が飽和するので本発明では連続焼鈍の場合、1050℃以下が好ましい。
連速焼鈍の場合、保定時間が5秒未満ではその効果が不足し、3分超ではその効果が飽和するとともに焼鈍に要する熱エネルギーが増大し不経済となるので5秒以上3分以下が好ましい。
本発明では熱延板焼鈍を箱焼鈍により750℃以上1050℃以下で焼鈍温度に到達後5分以上3時間以内の保定を行った後、降温してもよい。
箱焼鈍の場合、焼鈍温度が750℃未満では熱延板焼鈍の効果が十分に得られないので本発明では750℃以上が好ましい。焼鈍温度が1050℃超では加熱に必要なエネルギーが増大するとともに、炉の寿命が短くなりコスト上昇を招き、熱延板焼鈍の効果も飽和するので1050℃以下が好ましい。
箱焼鈍の場合、保定時間が5分未満ではその効果が不足し、3時間超ではその効果が飽和するとともに焼鈍に要する熱エネルギーが増大し不経済となるので5分以上3時間以下が好ましい。
仕上焼鈍工程は、従来公知の仕上焼鈍工程を適宜選択して用いることができる。例えば、最高温度を700度以上に設定し、最高温度での保持時間を30秒以下として焼鈍を行う方法などが挙げられる。
(本発明1−1:無方向性電磁鋼板1−1の製造)
(1)Si:0.3%、Mn:0.2%、Al:0.2%を含有するスラブを、加熱炉に装入して、1000℃〜1300℃で加熱し、熱間圧延することにより、厚みが2.5mmの鋼板を得た。
(2)上記で得られた鋼板を、半径90mmのリターンロール1組に順次巻きつけて鋼板の曲げ伸ばしを行った。なお、リターンロールへの入り側と出側とのなす角は150度とした。
(3)次いで得られた鋼板を酸洗後、圧延ロール径100mmのリバース冷延機で5パス均等圧下し、厚みが0.5mmの鋼板を得た。各パスの圧延率は27.5%である。
(4)750℃で20秒間仕上焼鈍を行い、無方向性電磁鋼板1−1を得た。
上記本発明1−1において、(2)の工程を行わなかった以外は、本発明1−1と同様にして、比較無方向性電磁鋼板を得た。
<金属組成観察>
本発明1−1の(3)の工程のあと、(4)の工程の前に、鋼板の一部を切り出して、観察断面に圧延方向と鋼板垂直方向が含まれ、鋼板板幅方向に垂直なL断面を研磨し、ナイタールエッチング後、光学顕微鏡観察を行った。比較例1−1の鋼板についても同様にして、光学顕微鏡観察を行った。結果を図1及び図2に示す。なお、図1及び図2においては、写真の上下方向が板面垂直方向、水平方向が圧延方向である。
本発明1−1及び比較例1−1の無方向性電磁鋼板を反射法によるX線回折により(110)、(200)、(211)、(310)の4面の不完全極点図を測定し、これらを元にBunge記法による方位空間における方位分布関数(ODF)を測定した。結果を図3及び4に示す。なお、図3及び図4は、圧延方向と板幅方向を含む鋼板面と平行な0.5tの中心層の断面試料を表面から検索して採取し、エッチングにより研削歪を除去して鏡面仕上げとしてX線回折測定に供し、その反射X線回折像をもとに方位分布関数(ODF)を計算した結果を示している。
本発明1−1及び比較例1−1の無方向性電磁鋼板の一部をそれぞれサンプルとして切り出し、750℃で2時間、歪取焼鈍を行った後、JIS C2550に記載のエプスタイン試験法に基づいて、磁気測定を行った。結果を表1に示す。
その結果を表2に示す。
これは、モータのステータとロータの間に板面内とは異なるわたり磁束が生じるため、積層した無方向性電磁鋼板においても、積層鋼板間にわたり磁束が生じ、この磁気抵抗が少なかったことで、モータの効率が板面方向以外の方向での磁気特性も優れる本発明の無方向性電磁鋼板ではモータの効率が向上したと考えられる。
(本発明2−1:無方向性電磁鋼板2−1の製造)
(1)Si:2.1%、Mn:0.5%、Al:0.5%を含有するスラブを、加熱炉に装入して、1050℃で加熱し、熱間圧延することにより、厚みが2.3mmの鋼板を得た。
(2)上記で得られた鋼板を、半径120mmのリターンロール2組に順次巻きつけて鋼板の曲げ伸ばしを行った。なお、リターンロールへの入り側と出側とのなす角は145度とした。
(3)次いで得られた鋼板を酸洗後、圧延ロール径450mmのタンデム冷延機で5パス均等圧下し、厚みが0.5mmの鋼板を得た。各パスの圧延率は27.526.3%である。
(4)900℃で30秒間仕上焼鈍を行い、無方向性電磁鋼板2−1を得た。
本発明2−1において、(2)の工程を行わなかった以外は、本発明2−1と同様にして、比較無方向性電磁鋼板を得た。
磁束の流れの複雑さが異なる3種類のモータにおける本発明の適用効果の違いを調査するために以下の試験を行った。
そこで、本発明2−1及び比較例2−1の無方向性電磁鋼板を使用して、ラジアルギャップの通常の定格出力50kWの三相交流誘導モータ、定格出力50kWの永久磁石式アキシャルギャップ同期モータおよび定格出力50kWの永久磁石式ラジアルギャップ同期モータをそれぞれ作成し、2500rpmでの効率を測定した。
表4にその結果を示す。
永久磁石式ラジアルギャップ同期モータはラジアルギャップモータのロータ内に永久磁石を埋め込んだ構造が特徴である。永久磁石自身が磁石の磁化方向には磁束を通しやすいが、回転するロータ内で変化する磁束に対してがフラックスバリア(磁束の流れを妨げる物質)となるため、モータ内の磁束の流れは三相交流誘導モータよりも複雑になる。このため、本発明2−1の無方向性電磁鋼板を使用することにより効率が大幅に向上したと考えられる。
永久磁石式アキシャルギャップ同期モータは扁平な形状をしており、設置場所の狭い箇所での活躍が期待されるモータである。
当該モータは二つの円盤状の永久磁石ロータと励磁コイルが向かいあって設置される構造である。このため、永久磁石と積層鋼板の板面垂直方向に磁束が渡る必要がある。よって、三相交流誘導モータや永久磁石式ラジアルギャップ同期モータよりも、モータ内のステータおよびロータの間の磁束の流れは、はるかに複雑となっている。
本発明の無方向性電磁鋼板は板面内以外の磁束の流れが改善されているので、複雑な磁束の流れを有するモータにおいてその効果がより発揮されることが本実施例により明らかとなった。
このため、本発明による板面方向以外の磁束の流れが改善した永久磁石式アキシャルギャップ同期モータにおいて特に効率向上が顕著であったと推察される。
このように、本発明の無方向性電磁鋼板を使用することにより、モータ内の磁束の流れが複雑なモータにおいて、より効率向上の効果が高まることが明らかとなった。
以下、実施例3〜10について、まず共通する製造方法について説明し、次いで各結果を説明する。
下表5に示される組成を有する鋼種A〜Eスラブをそれぞれ準備した。
前記鋼種A〜Eのスラブをそれぞれスラブ加熱炉にて保定し、上記表5に記載の各仕上焼鈍条件にて仕上焼鈍を行い、その後、後述する表6〜表13に示された熱延巻取温度(CT/℃)で各熱延板板厚(mm)に仕上げた。なお、必要に応じ、表6〜表13に記載の温度で60秒の熱延板焼鈍(CT/℃)を熱延板に施した。熱延板焼鈍(AP)を施す際に熱延仕上温度を上昇させたのは、熱延板焼鈍における熱延板の結晶組織の成長を促進する効果があるからである。
第1:
仕上熱延−リターンロールによる曲げ伸ばしおよび圧延−仕上焼鈍−磁気測定
第2:
仕上熱延−熱延板焼鈍(AP)−リターンロールによる曲げ伸ばしおよび圧延−仕上焼鈍−磁気測定
無方向性電磁鋼板を同一形状の一体打ち抜きにより単板のステータとロータを打ち抜き、積層してステータコアとロータコアを作成し、積層枚数の異なる3種類の三相交流誘導モータを作成した。
また、積層枚数を変えることで、モータの出力を変化させることが可能であり、3種類の定格出力の異なるモータを作成した。ただし、積層枚数を変化させただけであるので、3種類のモータに用いたステータ及びロータの打ち抜き形状はいずれも同じである。
これにより、定格出力100kWのモータA、定格出力75kWのモータB、定格出力50kWのモータCを作成した。
モータの胴長はモータAが最も長く、次にモータBが長く、最も胴長が短いのがモータCである。
また、積層枚数を増やすと、ステータコアおよびロータコアの軸方向の長さが増加する。モータの出力はステータコアとロータコアの間にわたる磁束の数が増えるほど増加するので、積層枚数が多いとステータコアとロータコアの間の軸方向長さが増えるのでわたり磁束増加によりモータの出力が増加する。
以下に、個別の実施例について述べる。
下記表6に従い、前記鋼種A〜Eをそれぞれ選択し、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表6の鋼No.3−1〜3−25の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、工程(I)および工程(II)のロール径を変えてタンデム圧延、すなわち一方向圧延にて行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。
結果を表6に示す。本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表6より、工程(I)と工程(II)のロール径の適切な組合せの場合に優れた磁気特性とモータ特性が得られていることがわかる。
表6より、モータA、モータB、モータCの効率向上には、工程(II)のロール径は600mm以下が好ましいことがわかる。さらに好ましくは、工程(II)のロール径が120mm以上550mm以下であることがわかる。
工程(I)を省略すると、本発明の効果が得られないことがわかる。表6より、工程(I)のロール径は10mm以上300mm以下が好ましいことがわかる。さらに好ましくは、50mm以上180mm以下であることがわかる。
下記表7に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表7の鋼No.4−1〜4−10の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、タンデム圧延、すなわち一方向圧延にて行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。
結果を表7に示す。本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表7より、本発明で定める工程(I)でのリターンロールへの入り側と出側のなす角度(単位:度、deg.、もしくは°)が135度以上180度以下において優れた磁気特性と、より高いモータ効率が得られていることがわかる。さらに好ましくは、145度以上165度以下であることが磁気特性とモータA、モータB、モータCの効率よりわかる。
下記表8に従い前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表8の鋼No.5−1〜5−10の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、タンデム圧延、すなわち一方向圧延にて行った。鋼種Bは工程(I)のロール径は50mm、鋼種Dは工程(II)のロール径は100mmで行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。
結果を表8に示す。本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表8より、最初の工程(I)とそれに続く工程(II)に供する鋼板の円相当平均結晶粒径が50μm以上300μmにおいて、優れた磁気特性と高いモータ効率が得られていることがわかる。
さらに、磁気特性及びモータA、モータB、モータCの効率は、最初の工程(I)とそれに続く工程(II)に供する鋼板の円相当平均結晶粒径の範囲が、70μm以上かつ250μm以下においてより好ましいことが表8よりわかる。
また、円相当直径が300μm超の鋼板は、工程(I)の通板時に鋼板がロールに巻きつく際に破断し、磁気測定可能かつモータ製造可能な成品が得られなかった。
このため、本発明で規定したように、最初の工程(I)もしくは工程(II)の直前の鋼板の結晶粒の平均円相当直径は50μm以上300μm以下である必要がある。さらに好ましくは、70μm以上250μm以下である。
下記表9に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表9の鋼No.6−1〜6−12の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、タンデム圧延、すなわち一方向圧延で行った。
本実施例では、最初の工程(I)もしくは工程(II)の直前の鋼板の結晶粒の平均円相当直径(μm)を本発明の規定範囲である50μm以上300μm以下である100μmおよび200μmに予め調整した。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。
結果を表9に示す。本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表9より、工程(I)を予め施さずに工程(II)を施した場合は、本発明が規定した集合組織の条件を満たさず、優れた磁気特性が得られず、モータの効率が80%を下回っており、すぐれた効率のモータを得ることができないことがわかる。
この現象は、この実施例で検討した誘導モータ以外の三相交流で駆動する定格出力100kWの永久磁石式同期モータ等でも同じ結果が得られたことを発明者らは確認している。すなわち、工程(I)と工程(II)を本発明が既定する適切な条件で施した場合は、当該モータの定格出力での効率は97%以上に達したが、本発明の規定を満たさない無方向性電磁鋼板を使用した比較例の同じ構造のモータでは同じ定格出力での効率は90%未満にとどまった。
表9中の鋼No.6−4、鋼No.6−5は圧延率が共に83.3%で同一であるが、鋼No.6−4は1回目の圧延と2回目の圧延の圧下率が共に40.8%で均等であるのに対し、鋼No.6−5は1回目の圧延の圧下率が30.0%、2回目の圧延の圧下率が72.2%であり、前段の圧延率が低く、後段強圧下である。
鋼No.6−10と鋼No.6−11は圧下率が共に75.0%であるが、鋼No.6−10は1回目の圧延と2回目の圧延の圧下率が共に50%で均等であるのに対し、鋼No.6−11は1回目の圧延の圧下率が35.0%、2回目の圧延の圧下率が61.5%であり、前段の圧延率が低く、後段強圧下である。
磁束密度B50、鉄損W15/50と、これらにより作成されたモータA、モータB、モータCの定格出力における効率を鋼No.6−4と鋼No.6−5および、鋼No.6−10と鋼No.6−11との間においてそれぞれ比較すると、前段の圧下率が低く後段強圧下の鋼No.6−5と鋼No.6−11のほうが磁束密度B50が高く、鉄損W15/50は低く、磁気特性が良好であり、これらにより作成されたモータA、モータB、モータCの効率がより高いことがわかる。
発明者らは、この点に関して、2回の圧下の前に施されるリターンロールの曲げ及び曲げ戻しの際の鋼板の板厚が、1回目のパスにおいては同じであるが、1回目のパスの圧延率が低かったため、2回目のパスにおいて鋼板がより厚手であり、本発明のリターンロールによる転位形成効果がさらに発揮されたことが原因であると考えている。
下記表10に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表10の鋼No.7−1〜7−10の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、工程(I)、工程(II)のロール径を変えながら、タンデム圧延、すなわち一方向圧延で行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。
結果を表10に示す。本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表10より、工程(I)を実施しない場合、および、工程(I)もしくは工程(II)の圧延ロール径が本発明で定める範囲を逸脱する場合に、本発明が規定する集合組織が得られず、磁気特性が劣り、モータの定格出力も劣ることがわかる。
下記表11に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表11の鋼No.8−1〜8−7の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、リバース圧延で行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。 結果を表11に示す。
最初の工程(I)を施さなかった鋼No.8−1では磁気特性、モータ効率とも優れたものが得られなかった。
本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表11より、最初の工程(I)もしくは工程(II)の直前の鋼板の結晶粒の平均円相当直径が50μm以上300μm以下、さらに好ましくは70μm以上250μm以下の場合により優れた磁気特性と高いモータ効率が得られることがわかる。
鋼板の平均円相当直径が300μm超である鋼No.8−5の場合、工程(I)通板時に鋼板が破断したため、成品が得られず、磁気特性およびモータ効率の評価ができなかった。
このため、本発明で規定したように、最初の工程(I)もしくは工程(II)の直前の鋼板の結晶粒の平均円相当直径は50μm以上300μm以下であることが好ましい。
下記表12に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表12の鋼No.9−1〜9−7の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延はロール径を変化させたリバース圧延機を用いて行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。
結果を表12に示す。本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表12より、ロール径60mm以上600mm以下において優れた磁気特性と、高いモータ効率が得られていることがわかる。鋼No.9−6では、圧延ロール径が600mm超であるので、磁気特性、モータ効率とも劣っている。
また、リバース圧延機の場合、ロール径が60mm以上120mm以下の鋼No.9−1、鋼No.9−2、鋼No.9−3において定格出力におけるモータ効率がモータAは85%以上、モータBは87%、モータCは88%以上の優れた値を示している。本発明の範囲内であるが、リバース圧延機のロール径が120mm超600mm以下である鋼No.9−5、鋼No.9−6の場合は定格出力におけるモータ効率がモータAでは82%台、モータBでは84%台、モータCでは85%台にとどまる。
この結果から、リバース圧延機の場合は、ロール径が60mm以上120mm以下であることが、磁気特性とモータ効率の両面からより好ましい範囲である。
以上より、表12より、リバース圧延の場合、工程(II)のロール径が小さいほどモータA、モータB、モータCの特性がすぐれていることがわかる。
下記表13に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表13の鋼No.10−1〜10−7の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、熱延鋼板もしくは熱延後に熱延板焼鈍を施した鋼板に工程(I)を施した後、ロール径70mmのタンデム圧延機により一定方向に通板することにより行った。
モータA、モータB、モータCを作成しそれぞれの定格出力における効率を測定した。
結果を表13に示す。本発明の効果はステータコアおよびロータコアの積厚が少なくなり、モータ内の磁束の流れは板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、モータAの効率<モータBの効率<モータCの効率の順に改善されていることがわかる。
表13より、最初の工程(I)もしくは工程(II)の直前の鋼板の結晶粒の平均円相当直径が50μm以上300μm以下の場合に優れた磁気特性が得られ、さらに70μm以上250μmの場合により好ましい高いモータ効率が得られていることがわかる。
さらに、特筆すべきは、表13より、今回の圧延のように、工程(II)のロール径が120mm以下のロール径において、一方向圧延を施した場合には、モータA、モータB、モータCの何れも定格出力において、他の実施例では得られなかった効率90%以上の極めて優れた値を示していることがわかる。
Claims (7)
- 質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
Cr≦1.0、
Sn≦0.2、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなる無方向性電磁鋼板であって、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。 - 請求項1に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
鋼板を少なくとも2本のリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程(I)と、
鋼板を直径600mm以下の圧延ロールにより圧延する冷間圧延工程(II)とをこの順に有する、無方向性電磁鋼板の製造方法。 - 前記冷間圧延工程(II)が、直径60mm以上120mm以下の圧延ロールを用いてリバース圧延機により圧延する工程である、請求項2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記冷間圧延工程(II)が、直径400mm以上600mm以下の圧延ロールを用いてタンデム圧延機により圧延する工程である、請求項2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記冷間圧延工程直前の鋼板の結晶粒の平均直径が、円相当直径で50μm以上300μm以下である、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記リターンロールの直径が、10mm以上300mm以下である、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 鋼板の前記リターンロールへの入り側と出側とのなす角が135度以上180度以下である、請求項2乃至6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
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