JP6669052B2 - 変圧器、変圧器用の板状鉄心及び変圧器用の板状鉄心の製造方法 - Google Patents
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Description
当該特許文献3の技術は、鋼の強度を増加するために炭素原子を0.05%以上含有させるものであり、電磁鋼板の技術とは異なる。
しかし、当該製造方法は、熱延もしくは鋳片において発生する柱状晶が板表面から中心層に向かって成長する際に、成長方向が<100>方向に一致する性質を利用して、熱延板や鋳片にランダムキューブ系方位を集積させ、当該ランダムキューブ型方位が集積したキューブ系結晶組織が冷延後再結晶で消失しないように低冷延率で冷間圧延および回復焼鈍を行い、元のキューブ方位を維持するものである。当該技術については、現状では設備制約によりキューブ集合組織の柱状晶を有する熱延鋼板もしくは鋳片は大量生産に適していないという課題があった。また、この技術では{111}方位はほとんど発達しない。
当該製造方法は、冷間圧延において、高冷延率において形成されたαファイバー集合組織から{411}<148>〜{100}<012>に至る系列の再結晶方位が優先的に形成される現象を利用する。高冷延率のαファイバー集合組織において{100}<011>〜{211}<011>から当該再結晶方位が形成されると解釈されている。
このような{411}<148>〜{100}<012>系列のキューブ周辺の方位を有する無方向性電磁鋼板においては、ハイグレードの高Si系の材料では、高圧下率の冷延を施すにあたり、通板の安定性に課題があった。また、冷延率を高めると{111}方位はほとんど発達しなかった。
また、特許文献8には、特定のスラブを粗圧延後、特定条件により熱間圧延の仕上げ圧延をして熱延板とし、次いで1回の冷間圧延後に仕上焼鈍を施す、無方向性電磁鋼板の製造方法が記載されている。
特許文献7及び8の方法は、冷間圧延の冷延率を実質的に上昇させる効果を伴う熱延を施す特徴がある。特許文献7の手法は、熱延仕上温度の極低温化により熱延集合組織に圧延集合組織を残存させ、従来よりも低い冷延率で{411}<148>〜{100}<012>系集合組織を再結晶後に形成させるものであり、特許文献8の手法は、潤滑熱延を行うことにより、熱延結晶組織における付加的せん断歪を減少させ、熱延板全厚にわたり、圧延集合組織を発達させるものである。しかしながら特許文献7及び8の手法は、熱延条件が通常条件を大きく外れており実用化されていない。
また、特許文献10には、コイルと円筒鉄心を同心円状に配置し、巻線スペースに一次巻線と二次巻線を同心円状にコイルとして巻いて設置する技術が開示されている。
更に、特許文献11には、リアクトルにおいて、磁性コアを構成する複合材料における磁性粉末の分布が不均一になることを抑制する技術が開示されている。
更にまた、特許文献12には、リアクトルにおいて、コイルを励磁した際の磁束の漏れを効果的に低減できる技術が開示されている。
また、特許文献13には、ギャップレスで組立作業性に優れるリアクトルに関する技術が開示されている。
更に、特許文献14には、筒状のコイルが、芯部、底部、円筒部からなるコアに収納されたリアクトルが開示されている。芯部、底部、円筒部からなるコアは、絶縁樹脂に磁性粉末を混合して分散させ、これらを成型することにより製造されている。
また、特許文献15には、リアクトル用コアにおいて、円柱状の内側コア、外側コア、端部コアからなり、円筒部と端部コアを嵌合する構造が開示されている。
しかし、これら特許文献9〜15に記載された技術はいずれも、集合組織に特徴を有する電磁鋼板を使用したものではなく、鉄心の磁束の流れにおける磁気抵抗を減少させることを課題としたものではない。
[1] 柱状鉄心と、
前記柱状鉄心の周囲に配置された1または2以上の筒状鉄心と、
前記柱状鉄心の長手方向端部に接続するとともに前記筒状鉄心の長手方向端部に接続し、電磁鋼板の単層体または2以上の電磁鋼板の積層体からなる板状鉄心と、
前記柱状鉄心と前記筒状鉄心との間に配置された一次コイル及び二次コイルと、を備え、
前記電磁鋼板が、質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなり、
さらに板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が2.8以下かつ1.5以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が70°以上90°以下の無方向性電磁鋼板であることを特徴とする変圧器。
[2] 前記電磁鋼板が、更に質量%で、
Cr≦1.0、Sn≦0.2の一方または両方を含有することを特徴とする[1]記載の変圧器。
[3] 前記柱状鉄心と筒状鉄心と板状鉄心から構成される変圧器の全体積Vtrfmと各板状鉄心の合計の体積Vplateの間に式(1)が成立することを特徴とする[1]または[2]に記載の変圧器。
Vplate/Vtrfm ≦ 0.4 ・・・ (1)
ただし、変圧器の全体積Vtrfmは、板状鉄心の突起などの付加物を除いた外形において、変圧器の筒方向の軸に垂直な板状鉄心の断面積と、筒状鉄心を挟む2枚の板状鉄心の互いの外側の距離を筒の軸方向距離との積算値とする。
[4] 柱状鉄心と、
前記柱状鉄心の周囲に配置された1または2以上の筒状鉄心と、
前記柱状鉄心の長手方向端部に接続するとともに前記筒状鉄心の長手方向端部に接続し、電磁鋼板の単層体または2以上の電磁鋼板の積層体からなる板状鉄心と、
前記柱状鉄心と前記筒状鉄心との間に配置された一次コイル及び二次コイルと、を備える変圧器に用いられる前記板状鉄心であって、
前記電磁鋼板が、質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなり、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が2.8以下かつ1.5以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が70°以上90°以下の無方向性電磁鋼板であることを特徴とする変圧器用の板状鉄心。
[5] 前記電磁鋼板が、更に質量%で、
Cr≦1.0、Sn≦0.2の一方または両方を含有することを特徴とする[4]記載の変圧器用の板状鉄心。
[6] 質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなる鋼を熱間圧延する工程と、
熱間圧延後の鋼板を少なくとも2本の表面粗度が式(2)を満たすリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程(I)と、
冷間圧延前に結晶粒の平均直径を円相当直径で50μm以上300μm以下の範囲とされた鋼板を直径600mm以下の圧延ロールにより圧延する冷間圧延工程(II)と、
仕上げ焼鈍する工程と、をこの順に有する、変圧器用の板状鉄心の製造方法。
0.7μm≦Ra≦5.0μm ・・・ (2)
[7] 前記電磁鋼板が、更に質量%で、
Cr≦1.0、Sn≦0.2の一方または両方を含有することを特徴とする[6]記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
[8] 前記冷間圧延工程(II)が、直径60mm以上120mm以下の圧延ロールを用いてリバース圧延機により圧延する工程である、[6]または[7]に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
[9] 前記冷間圧延工程(II)が、直径400mm以上600mm以下の圧延ロールを用いてタンデム圧延機により圧延する工程である、[6]または[7]に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
[10] 前記リターンロールの直径が、10mm以上300mm以下である、[6]乃至[9]のいずれか一項に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
[11] 鋼板の前記リターンロールへの入り側と出側とのなす角が135度以上180度以下である、[6]乃至[10]のいずれか一項に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
図1に、本実施形態の変圧器の一例である単相変圧器の分解斜視図を示す。図1に示す変圧器は、柱状鉄心2と、柱状鉄心2の周囲に同心環状に配置された筒状鉄心5と、柱状鉄心2及び筒状鉄心5を上下から挟むように配置された板状鉄心1と、柱状鉄心2及び筒状鉄心5の間に配置された一次コイル3及び二次コイル4と、から構成されている。
また、一般的な無方向性電磁鋼板においては、圧延方向の磁気特性が優れているので、方向性電磁鋼板と同様に、柱状鉄心2および筒状鉄心5の軸方向が無方向性電磁鋼板の圧延方向と一致させるようにするとよい。無方向性電磁鋼板としては、熱延板焼鈍を施し、冷間圧延前の結晶粒径を粗大化し、再結晶集合組織中のGOSS方位と呼ばれる{110}<001>方位が富化した無方向性電磁鋼板であることが好ましい。
(2)柱状鉄心2が短冊状の電磁鋼板を積層した積層鉄心である場合、または、電磁鋼板を巻回して筒状にした巻鉄心である場合は、柱状鉄心2の軸方向両端部に凸部を形成し、一方、板状鉄心1には凹部を形成し、これらを嵌合する。あるいは、筒状鉄心5に凹部を形成し、板状鉄心1に凸部を形成し、これらを嵌合する。板状鉄心1に凹部を設ける方法としては板状鉄心1を切削し嵌合可能な凹部を設けるか、あるいは板状鉄心1に筒状鉄心5の凸部に応じた凹部を設ける。凹部を持つ板状鉄心1は柱状鉄心2や筒状鉄心5の凸部に応じた隙間を有する板状鉄心1を分割して打ち抜き、その間隙が柱状鉄心2や筒状鉄心5の凸部に嵌合する形状として積層する。積層枚数は凸部の出っ張りに応じた枚数とする。
これにより板状鉄心1に凹部を形成し柱状鉄心2や筒状鉄心5の凸部と互いに嵌合させる。ただし、板状鉄心1を切削加工することにより残留応力が板状鉄心内に生じ磁気抵抗となるので極力残留応力が生じない加工方法を選択する必要がある。
これにより板状鉄心1に凹部を形成し柱状鉄心2を覆い凸となる絶縁材と嵌合させる。
ただし、板状鉄心1を切削加工することにより残留応力が板状鉄心1内に生じ磁気抵抗となるので極力残留応力が生じない加工方法を選択する必要がある。
(4)熱歪が極力低減できる方法で筒状鉄心5と板状鉄心1をスポット溶接など方法で溶接する。
以下の説明において「%」は、特に断りが無い限り「質量%」を表すものとする。
また、本明細書においては、磁束密度の強度を表す単位「tesla:テスラ」を表すアルファベット大文字「T」と、鋼板板厚全厚「thickness:厚み」を表すアルファベット「t」とを区別して用いる。
また、φ2=0°断面におけるψ=0°である方位は本発明においては特にCファイバーと呼ぶ。以降、本明細書においてはこの呼称を用いることがある。さらに、本発明で規定する「φ2=0°断面にてψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域」を単に「Cファイバーの特定角度領域」と呼ぶことがある。
本発明者らは、無方向性電磁鋼板が、単純な長方形形状でない部材においても広く用いられている実情から、無方向性電磁鋼板の板面に平行でない方向における磁気特性の改善に、鋭意検討を進めた結果、当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、Cファイバーの特定角度領域が70°以上90°以下であり、かつ、γファイバーが適度に存在することにより、上記のような効果が得られるとの知見を得た。
本実施形態の無方向性電磁鋼板がこのような効果を有する作用については、未解明な部分もあるが、以下のように推測される。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の各構成についてより詳細に説明する。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、少なくとも、Si(ケイ素)、Mn(マンガン)を含有し、更にAl(アルミニウム)、Cr(クロム)、Sn(スズ)を含有してもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、C(炭素)、N(窒素)、S(硫黄)及びその他不可避不純物を含有してもよい、残部がFe(鉄)からなる組成を有するものである。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、Siの含有割合が0.1%以上3.5%以下である。Siは電気抵抗を増加する作用を有するため、鉄損低減に寄与する。本実施形態の無方向性電磁鋼板は、鉄損低減の点から、Siの含有割合を0.1%以上とするものであり、0.5%以上が好ましく、さらに好ましくは1.0%以上がより好ましい。鉄損をさらに改善するためには1.9%以上がより好ましい。一方、本実施形態の無方向性電磁鋼板は、磁気特性に優れ、圧延作業性を良好にし、仕上げの焼鈍温度の上昇を抑制する点から、Siの含有割合を3.5%以下とするものであり、3.2%以下が好ましく、2.7%以下がより好ましい。圧延作業性をさらに改善するためには2.4%以下がより好ましい。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、Mnの含有割合が0.1%以上1.5%以下である。
Mnは電気抵抗を増加する作用を有するため、鉄損低減に寄与する。また、Mnはオーステナイト拡大型元素であり、仕上焼鈍時におけるγファイバーの結晶粒の成長を抑制する。
本実施形態の無方向性電磁鋼板においては、Cファイバーの特定角度領域を広く確保しつつ適度にγファイバーを形成する点から、Mnの含有割合は、0.1%以上1.5%以下であり、0.2%以上1.3%以下であることが好ましく、0.5%以上1.0%以下であることがより好ましい。
またMnの含有割合が、0.1%以上1.5%以下であれば、鉄損を低減し、且つ磁束密度の低下を抑制できる。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、Alを含有してもよい。無方向性電磁鋼板がAlを含有する場合、鉄損低減の点から、0.1%以上2.5%以下であることが好ましく、0.3%以上2.4%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.9%以上2.3であることがより好ましい。
また、オーステナイト域の縮小を抑制し、Cファイバーの特定角度領域を広く確保しつつ適度にγファイバーを形成する点から、Siの含有割合と、Alの含有割合の2倍との和(Si+2Al)が、0.1%以上5.1%以下であることが好ましい。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、本発明の効果を損なわない範囲で、不可避的に混入する各種元素(不可避不純物)を含むものであってもよい。
このような元素としては、C、N、Sのほか、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、As(ヒ素)、Zr(ジルコニウム)、P(リン)等が挙げられる。
Nの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下がより好ましい。
Sの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下がより好ましい。
Nbの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下が好ましい。
Asの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下が好ましい。
Zrの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.003%以下であり、さらに0.002%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.001%以下が好ましい。
Pの含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.25%以下であり、さらに0.15%以下がより好ましい。さらに秀逸な磁気特性を得るためには0.10%以下が好ましい。
また、不可避不純物全体の含有割合は、磁気特性に優れる点から、0.1%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、1.0%以下の範囲でCrを含有してもよい。1.0%を超過するとその効果が飽和するからである。無方向性電磁鋼板がCrを含有する場合、磁気特性を改善し、本発明の効果を向上させる点から、中でも、0.1≦Cr≦1.0であることが好ましい。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、0.2%以下の範囲でSnを含有してもよい。0.2%を超過するとその効果が飽和するからである。無方向性電磁鋼板がSnを含有する場合、磁気特性を改善し、本発明の効果を向上させる点から、中でも、質量%で、0.05≦Sn≦0.2であることが好ましく、0.05≦Sn≦0.015であることがより好ましい。
Si、Mn、Al、Cr、Sn、Ti、Nb、Zrについては、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)により測定することができる。また、Asについては、フレームレス原子吸光法により測定することができる。更に、C、Sについては、燃焼赤外線吸収法により測定することができる。また、Nについては、加熱融解−熱伝導法により測定することができる。
当該無方向性電磁鋼板の一部を切子状にして秤量し、これを測定用試料とする。当該測定用試料は、測定方法に応じて以下のように処理される。なお、燃焼赤外線吸収法、及び加熱融解−熱伝導法においては、上記切子状の測定用試料をそのまま用いることができる。
前記測定用試料を酸に溶解し酸溶解液とする(必要に応じて加熱してもよい)。残渣は濾紙回収して別途アルカリ等に融解し、融解物を酸で抽出して溶液化する。当該溶液と前記酸溶解液とを混合し、必要に応じて希釈することにより、ICP−MS測定用溶液とすることができる。
前記測定用試料を酸に溶解し酸溶解液とする(必要に応じて加熱してもよい)。得られた酸溶解液を必要に応じて希釈することにより、AA法測定用溶液とすることができる。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、γファイバーの最高強度が2.8以下かつ1.5以上であり、Cファイバーの特定角度領域が70°以上90°以下である。
極点図は反射法のX線回折では(110)、(200)、(211)、(310)の4面の不完全極点図を測定し、これらを元にBunge表示による方位空間における方位分布関数(ODF)を計算する。
Bunge記法では、方位を表す際に、Cube方位の3つの<100>軸を鋼板の圧延方向(RD)のX軸、板面垂直方向(ND)Z軸、板幅方向(TD)Y軸の3つにあわせてから、決められた手順で回転操作を行い、その3つの回転角をもって各結晶方位の三次元方位空間の位置を決定する。
Bunge表示によるオイラー角は、φ1、φ2、ψにより構成される。
まず、結晶座標のZ軸(ND方向と一致)の周りにφ1(°)結晶を回転させる。次に、回転後の新しい結晶座標の新しい向きのX’軸周りにψ(°)回転させる。この操作の後のさらに新しい結晶座標系のZ’’軸周りにφ2(°)回転させる。
また、ψについては、2分の1に縮退することから、ψ:0〜90°とする。
すなわち本発明では、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示を使用する。
なお、Bunge表示は、「集合組織」長嶋晋一 丸善株式会社 p.1−39を参照することができる。
図8及び図9は、「強度が2以上であるφ1の角度領域」の説明の用に供する図面である。
図8及び図9は、方位分布関数(ODF)のφ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、横軸にφ1、縦軸に強度をとったグラフである。図8の例では、φ1が0°〜10°の範囲、及び、φ1が20°〜85°の範囲で、強度が2以上となっている。この場合、当該2つの領域の合計75°の領域で強度が2以上、即ち、強度が2以上であるφ1の角度領域は75°である。この場合は本発明の範囲内となる。また、図9の例では、φ1が0°〜15°の範囲およびφ1が85°〜90°の範囲で、強度が2以上となっている。この場合、当該2つの領域の合計20°の領域で強度が2以上、即ち、強度が2以上であるφ1の角度領域は20°である。この場合は本発明の範囲外となる。
また、同時に、Cファイバーの特定角度領域が70°以上90°以下であればよく、磁気特性の点から、75°以上であることが好ましい。また、磁気特性の点から、Cファイバーの特定角度領域を強度が2.5以上と規定した場合にもその領域が70°以上であることがより好ましく、強度を3.0以上と規定してもその領域が70°以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、鋼板を少なくとも2本の表面粗度Raが一定の範囲に制御されたリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程(I)と、鋼板を直径600mm以下の圧延ロールにより圧延する冷間圧延工程(II)とをこの順に有する。
すなわち、リターンロールの表面粗度Raを意図的に制御することはなく、その必要もなかった。
その機構については、発明者は鋭意調査中であるが、曲戻しロールの表面粗度Raを適切な値に制御することにより、冷間圧延前の鋼板に導入される格子欠陥や転移の存在状態および曲戻し時の集合組織に変化が生じ、結果として、無方向性電磁鋼板の成品の集合組織に変化が発生し、本発明における板状鉄心に適切な集合組織が得られたのではないかと推察している。
リターンロールの表面粗度Raの値が0.7μm未満であると、発明者らが意図した、鋼板がリターンロールによる曲戻しを受ける際の鋼板内の中立点の曲戻しロール側への移動が不十分となり、本発明の板状鉄心の集合組織制御効果が得られず、結果として、本発明が意図する板状鉄心を使用した変圧器の効率などの特性が改善されないため、リターンロールの表面粗度Raは0.7μm以上と定める。
リターンロールの表面粗度Raが5.0μmを超えると、本発明の板状鉄心に対する集合組織制御効果と、その効果に基づく板状鉄心を使用する変圧器の効率などの特性改善も飽和するのでリターンロールの表面粗度Raは5.0μm以下に定める。
なお、リターンロールの表面粗度Raを5.0μm以下に定める有益性は、表面の加工工賃のコスト削減ならびに、リターンロールの表面粗度が使用開始当初から大きく変動することなく、長寿命とする効果もあり、ひいては製造コストの低減にもつながる副次的メリットがある。
本実施形態の製造方法においては、途中で一度でも本実施形態規定内の工程(I)の直後に工程(II)が実施されていれば、磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を得ることができる。
工程(I)は、鋼板を少なくとも2本の表面粗度Raが一定の範囲に制御されたリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程である。当該工程(I)により冷間圧延前の鋼板内に通常の冷間圧延とは異なる形態の転移および転移の相互作用により形成された新規な転移の堆積および格子欠陥が形成され、Cファイバーが適度に存在した鋼板を得ることができる。
工程(II)は、鋼板を600mm以下の圧延ロールで圧延する冷間圧延工程である。前述の工程(I)で導入された、通常の冷間圧延とは異なる形態の転位および転位の相互作用により形成された新規な転位の堆積および格子欠陥に、さらに圧延歪を加えることで複雑な転位および格子欠陥構造が形成されるため、最終的な仕上焼鈍を経た後に、γファイバーが適度に存在した鋼板を得ることができる。
さらに、直径200mm以下の圧延ロールにより圧延することにより、転位および格子欠陥構造がより特殊なものとなり、発明効果を顕著に得ることができる。
タンデム圧延においてこのような結果が得られる原因については発明者らは調査中であるが、歪速度の違いが転位構造に影響を与えた結果、再結晶集合組織に影響を与えることが一因ではないかと推察している。
例をあげれば、熱水中に圧延前のコイルを浸漬し、70℃以上80℃以下の温度で圧延を行ってもよい。
また、圧延前のコイルを誘導加熱その他の方法により加熱し、100℃以上400℃以下の温度で温間圧延を行ってもよい。
本実施形態の無方向性電磁鋼板の製造方法は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の工程を有していてもよい。他の工程としては、例えば、鋼板を準備する工程(III)や、仕上焼鈍工程(IV)等が挙げられる。
工程(III)は、本実施形態の無方向性電磁鋼板の製造方法に用いられる鋼板を準備する工程である。当該鋼板を準備する方法は、特に限定されないが、通常、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板と同様の組成を有する鋼塊乃至鋼片を熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍することにより得られる。
連続焼鈍の場合、本実施形態では、焼鈍温度が800℃未満では短時間の連続焼鈍で熱延板焼鈍の効果が得られないので800℃以上で行う。焼鈍温度が1050℃超では、表面に形成される酸化層が厚くなり酸洗性が低下するとともに、加熱に要する熱エネルギーが増大し不経済となるとともに、熱延板焼鈍の効果が飽和するので本実施形態では連続焼鈍の場合、1050℃以下が好ましい。
連速焼鈍の場合、保定時間が5秒未満ではその効果が不足し、3分超ではその効果が飽和するとともに焼鈍に要する熱エネルギーが増大し不経済となるので5秒以上3分以下が好ましい。
箱焼鈍の場合、焼鈍温度が750℃未満では熱延板焼鈍の効果が十分に得られないので本実施形態では750℃以上が好ましい。焼鈍温度が1050℃超では加熱に必要なエネルギーが増大するとともに、炉の寿命が短くなりコスト上昇を招き、熱延板焼鈍の効果も飽和するので1050℃以下が好ましい。
箱焼鈍の場合、保定時間が5分未満ではその効果が不足し、3時間超ではその効果が飽和するとともに焼鈍に要する熱エネルギーが増大し不経済となるので5分以上3時間以下が好ましい。
仕上焼鈍工程は、例えば、最高温度を700度以上に設定し、最高温度での保持時間を30秒以下として焼鈍を行う方法などが挙げられる。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、例えば図1に示すような変圧器において、板状鉄心1の素材として使用することで変圧器の特性を格段に向上させることができる点に技術的特徴がある。変圧器の板状鉄心1は、板面に対し傾斜した方向への磁気特性が求められる部材であり、板状鉄心1を電磁鋼板または積層した電磁鋼板で形成する場合、電磁鋼板については、板面に対し傾斜した方向への磁気特性が求められることとなる。
この際、変圧器の特性は巻線と鉄心から構成される磁気回路により決まるので、変圧器の全体積よりも変圧器の筒状鉄心5および柱状鉄心2と板状鉄心1の体積の関係を定める方が適切にみえる。
しかしながら、本発明の構造の変圧器では、変圧器の全体積が決まると、変圧器の定格送電容量(W数)から筒状鉄心5および柱状鉄心2の容積と板状鉄心1の容積はおのずと決まる。よって、本発明では、筒状変圧器の外形の体積と板状鉄心の容積を用いた。
発明者らが調査した範囲では式(1)の値には小さいほど変圧器の効率などの特性は優れていたので、下限は特に設けない。
そこで、本発明では、変圧器の全体積Vtrfmについては、以下のような原則に従って計算することとする。
また、鉄心内部に絶縁のために絶縁油を格納する空隙や乾式の空隙を設けたことにより、板状鉄心1もしくは筒状鉄心5の寸法が変化した際でも、あくまでも先述の原則に従って計算した板状鉄心の断面積と軸方向距離を積算して本発明の変圧器全体積Vtrfmとする。
また、各相の一次コイルと二次コイルの組は、同心円状に存在する円環状の間隙のいずれかにその次数に対して本発明の変圧器は限定されるものではない。また、一次コイルと二次コイルの配置は同心円状であることが磁束の流れを円滑にするので好ましいが、円筒軸方向に重ねて配置してもよい。
なお、以下の実施例における柱状鉄心および筒状鉄心は、板状鉄心と同一成分の鋼を用い、そのL方向特性が優れるように製造工程を施し同一板厚の無方向性電磁鋼板を得てこれを使用した。すなわち、熱延、必要に応じ熱延板焼鈍、冷間圧延、焼鈍を施した無方向性電磁鋼板を使用した。製造された無方向性電磁鋼板は、L方向の磁気特性が優れていることを確認し、そのL方向が柱状鉄心および筒状鉄心の軸方向に一致させた。
(本発明1−1:無方向性電磁鋼板1−1の製造)
(1)Si:0.3%、Mn:0.2%、Al:0.2%を含有するスラブを、加熱炉に装入して、1000℃〜1300℃で加熱し、熱間圧延することにより、厚みが2.5mmの鋼板を得た。
(2)上記で得られた鋼板を、半径90mmのリターンロール1組に順次巻きつけて鋼板の曲げ伸ばしを行った。なお、リターンロールへの入り側と出側とのなす角は150度とした。リターンロールの表面粗度Raは2.4μmとした。
(3)次いで得られた鋼板を酸洗後、圧延ロール径100mmのリバース冷延機で5パス均等圧下し、厚みが0.5mmの鋼板を得た。各パスの圧延率は27.5%である。また、冷間圧延前の鋼板の平均結晶粒径は85μmであった。
(4)750℃で20秒間仕上焼鈍を行い、無方向性電磁鋼板1−1を得た。
上記本発明1−1において、(2)の工程を行わなかった以外は、本発明1−1と同様にして、比較無方向性電磁鋼板を得た。
<金属組成観察>
本発明1−1の(3)の工程のあと、(4)の工程の前に、鋼板の一部を切り出して、観察断面に圧延方向と鋼板垂直方向が含まれ、鋼板板幅方向に垂直なL断面を研磨し、ナイタールエッチング後、光学顕微鏡観察を行った。比較例1−1の鋼板についても同様にして、光学顕微鏡観察を行った。結果を図4及び図5に示す。なお、図4及び図5においては、写真の上下方向が板面垂直方向、水平方向が圧延方向である。
本発明1−1及び比較例1−1の無方向性電磁鋼板を反射法によるX線回折により(110)、(200)、(211)、(310)の4面の不完全極点図を測定し、これらを元にBunge記法による方位空間における方位分布関数(ODF)を測定した。結果を図6及び7に示す。なお、図6及び図7は、圧延方向と板幅方向を含む鋼板面と平行な0.5tの中心層の断面試料を表面から検索して採取し、エッチングにより研削歪を除去して鏡面仕上げとしてX線回折測定に供し、その反射X線回折像をもとに方位分布関数(ODF)を計算した結果を示している。これをもとにCファイバーの特定角度領域とγファイバーの最高強度を算出した。
本発明1−1及び比較例1−1の無方向性電磁鋼板の一部をそれぞれサンプルとして切り出し、750℃で2時間、歪取焼鈍を行った後、JIS C2550に記載のエプスタイン試験法に基づいて、磁気測定を行った。結果を表1に示す。
板状鉄心に本発明1−1の無方向性電磁鋼板と比較例1−1の無方向性電磁鋼板を積層して使用し、柱状鉄心及び筒状鉄心は先に説明した通りの鉄心を用いた。
その際、本発明1−1の無方向性電磁鋼板を板状鉄心に使用した変圧器において、変圧器全体積のVtrfmに対する板状鉄心合計体積Vplateの割合を5水準設定した。同様に、比較例1−1の無方向性電磁鋼板を板状鉄心に使用した変圧器においても比を5水準設定し、変圧器の効率に対する影響を調査した。
そして、容量0.1kVA、一次電圧200V、二次電圧100Vとし、負荷率0%における効率を比較した。その結果を表2に示す。
これに対し、比較例1−1の無方向性電磁鋼板を板状鉄心に使用した場合は、変圧器の全体積Vtrfmに対する板状鉄心合計体積Vplateの比であるVplate/Vtrfmの値が変化しても変圧器の効率にほとんど変化がみられず、効率自体も本発明1−1には及ばない。
(本発明2−1:無方向性電磁鋼板2−1の製造)
(1)Si:2.1%、Mn:0.5%、Al:0.5%を含有するスラブを、加熱炉に装入して、1050℃で加熱し、熱間圧延することにより、厚みが2.3mmの鋼板を得た。
(2)上記で得られた鋼板を、半径120mm、表面粗度Raが2.0μmのリターンロール2組に順次巻きつけて鋼板の曲げ伸ばしを行った。なお、リターンロールへの入り側と出側とのなす角は145度とした。
(3)次いで得られた鋼板を酸洗後、圧延ロール径450mmのタンデム冷延機で5パス均等圧下し、厚みが0.5mmの鋼板を得た。各パスの圧延率は26.3%である。また、冷間圧延前の鋼板の平均結晶粒径は65μmであった。
(4)900℃で30秒間仕上焼鈍を行い、無方向性電磁鋼板2−1を得た。
本発明2−1において、(2)の工程を行わなかった以外は、本発明2−1と同様にして、比較無方向性電磁鋼板を得た。
容量および相数が異なる3種類の円筒型変圧器における本発明の適用効果の違いを調査するために以下の試験を行った。容量および電流の相数が異なることにより、円筒型変圧器の板状鉄心に流れ込む磁束の複雑さが変化する。
そこで、本発明2−1及び比較例2−1の無方向性電磁鋼板を使用して、2種類の変圧器として図1〜3に示す容量1kVAの単相変圧器と三相変圧器を作成し、また、これらとは別にACリアクトルを作成した。その際、変圧器作成にあたっては、いずれも本発明で規定するVplate/Vtrfm=0.07とした。
変圧器は負荷率0%での効率を測定し、リアクトルは周波数50Hzの100V電源電圧に重畳する高調波の低減率を比較した。
表4にその結果を示す。
一方、円筒型ACリアクトルの場合も、本発明の集合組織を有する無方向性電磁鋼板を使用したほうが高調波の低減率が高いことがわかる。
なお、高調波の低減率は、それぞれの50Hzの基本波形に占める電流波形に占める高調波の比率の改善率を測定した。
三相変圧器は、鉄心内の磁束の流れが単相変圧器よりも複雑になる。このため、本発明2−1の無方向性電磁鋼板を使用することにより、効率改善代がより向上したと考えられる。
本発明の無方向性電磁鋼板は板面内以外の磁束の流れが改善されているので、これを複雑な磁束の流れが存在する板状鉄心に用いることで、単相変圧器と三相変圧器の効率改善の比較により、その効果がより発揮されることが本実施例により明らかとなった。
このように、磁束の流れが複雑な板状鉄心に本発明の無方向性電磁鋼板を使用することにより、効率向上の効果が高まることが明らかとなった。
また、リアクトルに使用した場合には、電源に重畳する高調波を低減する効果がより高いことが判明した。
以下、実施例3〜8について、まず共通する製造方法について説明し、次いで各結果を説明する。
下表5に示される組成を有する鋼種A〜Dスラブをそれぞれ準備した。
前記鋼種A〜Dのスラブをそれぞれスラブ加熱炉にて保定し、上記表5に記載の各仕上焼鈍条件にて仕上焼鈍を行い、その後、後述する表6〜表12に示された熱延巻取温度(CT/℃)で各熱延板板厚(mm)に仕上げた。なお、必要に応じ、表6〜表12に記載の温度で60秒の熱延板焼鈍(AP/℃)を熱延板に施した。熱延板焼鈍(AP)を施す際に熱延仕上温度を上昇させたのは、熱延板焼鈍における熱延板の結晶組織の成長を促進する効果があるからである。
第1:仕上熱延−リターンロールによる曲げ伸ばしおよび圧延−仕上焼鈍−磁気測定
第2:仕上熱延−熱延板焼鈍(AP)−リターンロールによる曲げ戻しおよび圧延−仕上焼鈍−磁気測定
以下に、個別の実施例について述べる。
下記表6に従い、前記鋼種A〜Dをそれぞれ選択し、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表6の鋼No.3−1〜3−20の無方向性電磁鋼板を製造した。表6の「熱延板の熱履歴」において、CTは熱延巻取温度(℃)を示し、APは熱延板焼鈍温度(℃)を示し、CT、APの後に続く数字はそれぞれの温度(℃)である。表7〜表12についても同様である。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器を作成しそれぞれ特性を測定した。変圧器作成にあたっては、いずれも本発明で規定するVplate/Vtrfm=0.10とした。表6に記載の鋼板を板状鉄心に用いた以外の詳細は実施例1と同様にした。
以下、先述のように、単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器を変圧器A、変圧器B、変圧器Cと必要に応じ呼称する。
表6より、工程(I)と工程(II)のロール径の適切な組合せの場合に優れた磁気特性と変圧器の効率が得られていることがわかる。
表6より、円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器の効率向上には、工程(II)のロール径は600mm以下が好ましいことがわかる。さらに好ましくは、工程(II)のロール径が120mm以上550mm以下であることがわかる。
下記表7に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表7の鋼No.4−1〜4−10の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、タンデム圧延、すなわち一方向圧延にて行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器を作成しそれぞれの無負荷損における効率を測定した。変圧器作成にあたっては、いずれも本発明で規定するVplate/Vtrfm=0.25とした。表7に記載の鋼板を板状鉄心に用いた以外の詳細は実施例1と同様にした。
表7より、本発明で定める工程(I)でのリターンロールへの入り側と出側のなす角度(単位:度、deg.、もしくは「°」)が135度以上180度以下において優れた磁気特性と、より高い変圧器効率が得られていることがわかる。さらに好ましくは、145度以上165度以下であることが磁気特性と円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器の効率よりわかる。
下記表8に従い前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表8の鋼No.5−1〜5−10の無方向性電磁鋼板を製造した。
圧延は、タンデム圧延、すなわち一方向圧延にて行った。鋼種Bは工程(I)のロール径は50mm、鋼種Dは工程(II)のロール径は100mmで行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器を作成しそれぞれの無負荷損における効率を測定した。変圧器作成にあたっては、いずれも本発明で規定するVplate/Vtrfm=0.20とした。表8に記載の鋼板を板状鉄心に用いた以外の詳細は実施例1と同様にした。
結果を表8に示す。本発明の効果は円筒形鉄心の変圧器A、変圧器B、変圧器Cの順に板状鉄心内の磁束の流れの板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、変圧器Aの効率<変圧器Bの効率<変圧器Cの効率の順に改善されていることがわかる。
さらに、磁気特性及び円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器の効率は、最初の工程(I)とそれに続く工程(II)に供する鋼板の円相当平均結晶粒径の範囲が、70μm以上かつ250μm以下においてより好ましいことが表8よりわかる。
また、円相当直径が300μm超の鋼板は、工程(I)の通板時に鋼板がロールに巻きつく際に破断し、磁気測定可能かつ板状鉄心製造可能な成品が得られなかった。
このため、本発明で規定したように、最初の工程(I)もしくは工程(II)の直前の鋼板の結晶粒の平均円相当直径は50μm以上300μm以下である必要がある。さらに好ましくは、70μm以上250μm以下である。
下記表9に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、タンデム圧延で表9の鋼No.6−1〜6−10、リバース圧延で表10の鋼No.6−11〜6−20の無方向性電磁鋼板を製造した。
タンデム圧延は圧下率均等の4パスで最終板厚に仕上げた。リバース圧延は圧下率均等の5パスで最終板厚に仕上げた。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、円筒形の容量1kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器を作成しそれぞれの無負荷損における効率を測定した。変圧器作成にあたっては、いずれも本発明で規定するVplate/Vtrfm=0.08とした。表9に記載の鋼板を板状鉄心に用いた以外の詳細は実施例1と同様にした。
タンデム圧延を行った結果を表9に、リバース圧延を行った結果を表10に示す。
本発明の効果は円筒形鉄心の変圧器A、変圧器B、変圧器Cの順に板状鉄心内の磁束の流れの板面方向以外の成分が増え、より複雑になるので、変圧器Aの効率<変圧器Bの効率<変圧器Cの効率の順に改善されていることがわかる。
表9および表10より、曲戻しロールの表面粗度Raが0.7μm以上5.0μm以下の場合に優れた磁気特性と本発明の板状鉄心を使用する変圧器の効率が優れていることがわかる。
また、曲戻しロールの表面粗度Raが5μm超であると、圧延された無方向性電磁鋼板において焼鈍時に微細な再結晶粒が形成され、磁束密度、鉄損とも劣るのみならず、積層した場合の占積率が低下し、本発明の板状鉄心を使用する変圧器の効率も90%以下の低い値にとどまった。
以上より、曲戻しロールの表面粗度Raの値は本発明では0.7μm以上5.0μm以下に規定するが、0.7μm以上3.5μm以下がより好ましく、0.7μm以上2.5μm以下がさらに好ましい範囲である。
下記表11に従い、前記無方向性電磁鋼板の製造方法において述べた方法により、表11の鋼No.7−1〜7−7の無方向性電磁鋼板を製造した。表11に記載の鋼板を板状鉄心に用いた以外の詳細は実施例1と同様にした。
圧延はロール径を変化させたリバース圧延機を用いて行った。
得られた無方向性電磁鋼板をそれぞれ用いて、円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器を作成しそれぞれの無負荷損における効率を測定した。変圧器作成にあたっては、いずれも本発明で規定するVplate/Vtrfm=0.10とした。
表11より、ロール径60mm以上600mm以下において優れた磁気特性と、高い変圧器効率が得られていることがわかる。鋼No.7−6では、圧延ロール径が600mm超であるので、磁気特性、変圧器効率とも劣っている。
また、リバース圧延機の場合、ロール径が60mm以上120mm以下の鋼No.7−1、鋼No.7−2、鋼No.7−3において無負荷における変圧器効率が変圧器A、変圧器B、変圧器Cともに93%以上の優れた値を示している。
本発明の範囲内であるが、リバース圧延機のロール径が200mmである鋼No.7−5の場合は無負荷における変圧器効率が変圧器A、変圧器B、変圧器Cともに92%台に低下する。リバース圧延機のロール径が600mmである鋼No.7−6では変圧器A、変圧器B、変圧器Cともに効率が90%台にさらに低下する。
以上より、表11より、リバース圧延の場合、工程(II)のロール径が小さいほど円筒形の容量5kVAの単相複巻変圧器、三相変圧器、三相3巻線変圧器の特性がすぐれていることがわかる。
鋼種Bを使用し、これを1100℃のスラブ加熱により熱延板とした。表12に示す工程条件の組み合わせにより、表12に示すエプスタイン磁気特性を有する鋼板を製造した。そしてこの鋼板を用いて1kVAの単相変圧器を製造した。変圧器Dは額縁型の鉄心に片方に一次巻線、もう片方に二次巻線を施し、一般的な変圧器とした。
これに対し、変圧器E、変圧器Fは本発明の特徴であるVplate/Vtrfmの値を変更して、図1に示した筒型変圧器を2種類作成した。表12に記載の鋼板を板状鉄心に用いた以外の詳細は実施例1と同様にした。
プロセスと、変圧器効率の関係を表12に示した。
鋼No.12−4から鋼No.12−12においては、エプスタイン測定による磁気特性に差が見られないことが特徴である。
鋼No.12−4〜鋼No.12−6は従来の製造法による無方向性電磁鋼板電磁鋼板である。これらにおいては、一般型の変圧器における特性が本発明の筒状変圧器よりも効率が優れており、本発明が意図する変圧器の特性向上効果が得られていないことがわかる。また、本発明の特徴である変圧器全体の容積に対する板鉄心の容積比Vplate/Vtrfmの値が小さくなると、変圧器の効率は低下している。
鋼No.12−7〜鋼No.12−9は本発明のごとく工程(I)において繰り返し曲げを施しているが、そのロール表面の粗度が0.05μmと小さい鏡面ロールを使用している。これらにおいては、本発明で規定した集合組織の要件を満たしていないが、一般型変圧器よりも筒状変圧器において効率が優れる。しかしながら、本発明で説明したとは反して、Vplate/Vtrfmの値が小さくなると、効率が逆に低下している。
鋼No.12−10から鋼No.12−12は冷間圧延前の工程(I)の際に、表面粗度が2.4μmの繰り返し曲げロールを用いることにより、本発明の集合組織制御効果をより一層促進させたものである。これらの鋼では、一般型変圧器よりも効率が2.7%以上の著しい向上を示すだけでなく、Vplate/Vtrfmの値が小さくなると、効率が改善し、96.2%にまで到達する著しい改善効果を示していることがわかる。
Claims (11)
- 柱状鉄心と、
前記柱状鉄心の周囲に配置された1または2以上の筒状鉄心と、
前記柱状鉄心の長手方向端部に接続するとともに前記筒状鉄心の長手方向端部に接続し、電磁鋼板の単層体または2以上の電磁鋼板の積層体からなる板状鉄心と、
前記柱状鉄心と前記筒状鉄心との間に配置された一次コイル及び二次コイルと、を備え、
前記電磁鋼板が、質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなり、
さらに板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が2.8以下かつ1.5以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が70°以上90°以下の無方向性電磁鋼板であることを特徴とする変圧器。 - 前記電磁鋼板が、更に質量%で、
Cr≦1.0、Sn≦0.2の一方または両方を含有することを特徴とする請求項1記載の変圧器。 - 前記柱状鉄心と筒状鉄心と板状鉄心から構成される変圧器の全体積Vtrfmと各板状鉄心の合計の体積Vplateの間に式(1)が成立することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変圧器。
Vplate/Vtrfm ≦ 0.4 ・・・ (1)
ただし、変圧器の全体積Vtrfmは、板状鉄心の突起などの付加物を除いた外形において、変圧器の筒方向の軸に垂直な板状鉄心の断面積と、筒状鉄心を挟む2枚の板状鉄心の互いの外側の距離を筒の軸方向距離との積算値とする。 - 柱状鉄心と、
前記柱状鉄心の周囲に配置された1または2以上の筒状鉄心と、
前記柱状鉄心の長手方向端部に接続するとともに前記筒状鉄心の長手方向端部に接続し、電磁鋼板の単層体または2以上の電磁鋼板の積層体からなる板状鉄心と、
前記柱状鉄心と前記筒状鉄心との間に配置された一次コイル及び二次コイルと、を備える変圧器に用いられる前記板状鉄心であって、
前記電磁鋼板が、質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなり、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が2.8以下かつ1.5以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が70°以上90°以下の無方向性電磁鋼板であることを特徴とする変圧器用の板状鉄心。 - 前記電磁鋼板が、更に質量%で、
Cr≦1.0、Sn≦0.2の一方または両方を含有することを特徴とする請求項4記載の変圧器用の板状鉄心。 - 質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなる鋼を熱間圧延する工程と、
熱間圧延後の鋼板を少なくとも2本の表面粗度Raの値が式(2)を満たすリターンロールにより、曲げ−曲げ戻しする工程(I)と、
冷間圧延前に結晶粒の平均直径を円相当直径で50μm以上300μm以下の範囲とされた鋼板を直径600mm以下の圧延ロールにより圧延する冷間圧延工程(II)と、
仕上げ焼鈍する工程と、をこの順に有する、変圧器用の板状鉄心の製造方法。
0.7μm≦Ra≦5.0μm ・・・ (2) - 前記鋼が、更に質量%で、
Cr≦1.0、Sn≦0.2の一方または両方を含有することを特徴とする請求項6記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。 - 前記冷間圧延工程(II)が、直径60mm以上120mm以下の圧延ロールを用いてリバース圧延機により圧延する工程である、請求項6または請求項7に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
- 前記冷間圧延工程(II)が、直径400mm以上600mm以下の圧延ロールを用いてタンデム圧延機により圧延する工程である、請求項6または請求項7に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
- 前記リターンロールの直径が、10mm以上300mm以下である、請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
- 鋼板の前記リターンロールへの入り側と出側とのなす角が135度以上180度以下である、請求項6乃至請求項10のいずれか一項に記載の変圧器用の板状鉄心の製造方法。
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