JP6476979B2 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献1および特許文献2には特殊な熱間圧延条件により集積させた{510}<001>方位を活用して{100}<001>方位を発達させる方法が、特許文献3には熱間圧延にて{100}<001>方位に集積させる方法が、それぞれ提案されている。特許文献4にはAl:0.02質量%以下で{100}<001>方位に集積した鋼板が提案されている。
以上は比較的特殊な条件によって再結晶集合組織を制御する例であるが、その他、特許文献5にはPを含有する無方向性電磁鋼板において{100}<001>方位を発達させる方法が提案されている。また、特許文献6にはSn、Sbを単独もしくは複合で含有させた鋼を熱延板焼鈍により結晶粒径を300〜2000μmとして磁束密度を向上する技術が提案されている。板厚薄手化による高周波用無方向性電磁鋼板としては、特許文献7にSn、Sbの少なくとも一方を含有し、板厚が0.1〜0.3mmの無方向性電磁鋼板が提案されている。
Si+2×Al−Mn≧2.0 (1)
(ここで、Si、AlおよびMnは、各元素の含有量(単位:質量%)を示す。)
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:1.7%以上3.5%以下、Al:0.1%以上2.0%以下およびMn:0.08%以上1.5%未満を上記式(1)を満足する範囲で含有し、さらに、P:0.03%超0.15%以下、Sn:0.15%以下、C:0.005%以下、S:0.0040%以下、N:0.005%以下およびMo:0.002%以上0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、仕上焼鈍後の板厚1/4位置にて、φ2=0°断面のφ1=20°、Φ=15°の強度が5以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を特徴とするものである。
(1)Si、Al、Mn
Si、AlおよびMnは、電気抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減のために含有させる。しかしながら、過剰に含有させると磁束密度の低下が著しくなる。さらに、Siは過剰に含有させると後述するMoの効果をもってしても冷間圧延時に破断するおそれがある。また、Mnは過剰に含有させるとオーステナイト変態を生じて磁気特性の確保が困難になる。それぞれの元素の上限はこれらの観点から定め、Si含有量は3.5%以下、Al含有量は2.0%以下、Mn含有量は1.5%未満とする。
Si含有量の下限は、電気抵抗を増加させて所望の鉄損レベルを確保する観点から1.7%以上とする。Al含有量は、0.1%未満では微細な窒化物により磁壁の移動が阻害されるとともに、粒成長が阻害されて磁気特性が劣化する場合がある。したがって、Al含有量は0.1%以上とする。Mn含有量は、0.08%未満では硫化物が微細化することにより磁壁の移動が阻害されるとともに、粒成長が阻害されて磁気特性が劣化する場合がある。したがって、Mn含有量は0.08%以上とする。
Si+2×Al−Mn≧2.0 (1)
ここで、Si、AlおよびMnは、各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
Pは、磁気特性、とりわけ磁束密度を向上させる効果を有しており、本発明において極めて重要な元素である。明確な高磁束密度化効果を得る観点から、P含有量は0.03%超とする。一方、P含有量が0.15%超では、後述するMoの効果をもってしても冷間圧延時に破断を生じる可能性がある。したがって、P含有量は0.15%以下とする。
Cは、不純物として含有され、含有量が0.005%を超えると微細な炭化物が析出して磁気特性が劣化する。したがって、C含有量は0.005%以下とする。
Sは、多量に含有すると硫化物が多数析出し磁気特性が劣化する。そのため上限値を0.004%とする。好ましくは0.002%以下がよい。
Nは、不純物として含有され、多量に含有すると窒化物の増加により磁気特性が劣化する。そのため上限値を0.005%とする。
Moは、PおよびP,Snを複合的に含有させた場合における冷間圧延性の低下、すなわち冷間圧延時の割れ発生を抑制する効果を有する。しかしながら、0.2%以上含有させると高磁束密度化効果が小さくなる。また、析出物を形成して磁気特性に悪影響を及ぼす場合もある。Mo含有量の範囲はこれらの観点から定まり、0.002%以上0.2%とする。好ましい上限は0.1%である。
SnはPと複合的に含有させることにより磁束密度を向上させる効果を有する。但し、過度に含有させると粒成長性が低下するおそれがある。熱延板焼鈍を箱焼鈍型で実施する場合、Sn含有量の増大に起因する熱延板焼鈍時の粒成長性低下が顕著であるが、本発明の好ましい熱延板焼鈍条件ではその影響は小さく、Sn含有量はより多くまで許容される。この観点から、含有量は0.15%以下とする。含有量の下限は磁束密度を向上させる観点から定まり、0.03%以上、好ましくは0.04%以上である。
残部はFeおよび不純物である。不純物のうち粒成長性に悪影響を及ぼすTi、V、Nb、Zrは極力低減することが望ましく、それぞれ0.01%以下が好ましい。また、硫化物の形態制御による磁気特性改善を目的としてCa、Mg、REMからなる群から選択される少なくとも1種を含有させてもよい。ここでREMとは、原子番号57〜71の15元素、ならびに、ScおよびYの2元素の合計17元素をさす。これらの元素を含有させる場合には、各元素の含有量はCa:0.03%以下、Mg:0.02%以下、REM:0.1%以下が好ましい。上記効果を確実に得るためには、各元素の含有量をCa:0.0001%以上、Mg:0.0001%以上、REM:0.0001%以上とすることが好ましい。また、本発明では冷間圧延性の向上が重要であるため、圧延母材の表面性状を変化させるCuについては、0.15%以下が好ましい。
板厚薄手材の磁束密度を向上する観点から、{111}面の低減のみならず{100}面あるいはそれに近い方位を発達させることが重要である。本発明の無方向性電磁鋼板では、磁束密度を向上させる方位として結晶方位分布関数(ODF)におけるφ2=0°断面のφ1=20°、Φ=15°の方位の発達が特徴であり、磁束密度を向上させる観点から、その強度(ランダム強度比)を5以上とする。好ましくは6以上である。ODFはX線回折法によって得られた極点図から解析されるものであり、{110}、{200}、{211}および{310}極点図を用いればよい。極点図を測定する位置は板厚の1/4位置とする。当該の方位が発達する理由は明確でないが、冷間圧延前の粒界に偏析したP,Snによって粒界での変形拘束力が変化することで不均一変形が助長された結果、仕上げ焼鈍の際に発達するものと推察される。
板厚薄手化により鉄損が減少するとともに、本発明の効果により冷延圧下率が高く磁束密度が下がりやすい板厚薄手材であっても磁束密度が高まる。そのため、低鉄損と高磁束密度を両立する観点から、板厚は0.10〜0.25mmが好ましい。
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した鋼組成を備える鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に焼鈍を施す熱延板焼鈍工程と、上記熱延板焼鈍工程により得られた鋼板に冷間圧延を施す冷間圧延工程と、上記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程とを有する無方向性電磁鋼板の製造方法において、熱延板焼鈍を950℃以上1050℃以下で10秒以上3分以下保持し、冷間圧延での合計圧下率を88%以上96%以下とし、仕上げ焼鈍を950℃以上1050℃以下で10秒間以上120秒間以下施すことを特徴とするものである。
本発明における熱間圧延工程は、上述した鋼組成を備える鋼塊または鋼片(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施す工程である。なお、鋼塊または鋼片の鋼組成については、上述した「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
本発明においては、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を行う。熱延板焼鈍工程を行うことにより、磁気特性が向上するからである。熱延板焼鈍は、950℃以上1050℃以下で10秒間以上3分間以下保持する連続焼鈍にて実施する。熱延板焼鈍温度が上述の範囲を超えると設備への負荷が大きくなり、熱延板焼鈍時間が上述の範囲を超えると生産性の劣化を招く。熱延板焼鈍温度および熱延板焼鈍時間が上述の範囲を下回ると磁気特性向上の効果が小さい。熱延板焼鈍工程では、950℃以上1050℃以下で10秒以上3分以下保持した後に、800℃以上920℃以下で10秒以上2分以下保持することが好ましい。これにより磁束密度向上の効果が高まるからである。この理由は明確でないが、冷却中に当該温度域へ保持することでP、Snの粒界への偏析が進行し、引き続く冷間圧延、仕上げ焼鈍後に好ましい集合組織が発達すると推察される。これらを一連の焼鈍として実施することで、生産性を損なうことなく、薄手材の磁束密度を向上させることができる。偏析を進行させる観点からは箱焼鈍型の熱延板焼鈍が有利であるが、生産性に劣る。さらに、冷間圧延性向上のために含有させたMoが長時間保持する箱焼鈍型熱延板焼鈍中に析出物を形成し、冷間圧延性向上の効果が減少するばかりか磁気特性の劣化を引き起こす。本発明では、連続焼鈍型の熱延板焼鈍が箱焼鈍型の熱延板焼鈍と比較してPの粒界偏析の進行が軽微なことに起因すると推察される磁束密度向上効果の差を、PとSnを複合的に含有させることによって改善しており、この複合効果の発現には粒界のみならず粒内に固溶したP、Snも重要である。Moによる冷間圧延性向上の効果を享受しつつ、かつP,Snによる複合的な磁束密度向上の効果を得るため、上述の二段階の熱延板焼鈍を実施することが好ましい。
本発明における冷間圧延工程は、上記熱延板焼鈍工程により得られた鋼板に中間焼鈍をはさむことなく一回の冷間圧延を施す工程である。本工程において、合計圧下率を88%以上96%以下とし、鋼板を所定の板厚に仕上げる。好ましくは90%以上である。上記条件で圧延を実施することで、本発明の条件を備えた鋼板では仕上げ焼鈍後に磁気特性向上に好ましい前述の集合組織が効果的に発達する。
本発明における仕上げ焼鈍工程では、上述した冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板を950℃以上1050℃以下で10秒間以上120秒間以下の焼鈍を施す。仕上焼鈍における焼鈍温度(以下、「仕上焼鈍温度」ともいう。)が950℃未満であったり、仕上焼鈍における焼鈍時間(以下、「仕上焼鈍時間」ともいう。)が10秒間未満であったりすると、所望の鉄損の確保が困難な場合があるからである。また、仕上焼鈍温度が1050℃を超えると設備への負荷が大きくなり、仕上焼鈍時間が120秒間を超えると生産性の劣化を招くからである。
本発明においては、上記仕上げ焼鈍工程後に絶縁コーティングを施すコーティング工程を行うことが好ましい。絶縁コーティングの種類は特に限定されるものではなく、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁コーティングを施せばよい。無機成分としては重クロム酸−ホウ酸系、リン酸系、シリカ系などが使用でき、有機成分としては一般的なアクリル系、アクリルスチレン系、アクリルシリコン系、シリコン系、ポリエステル系、エポキシ系、フッ素系の樹脂が使用できる。塗装性を考慮するとエマルジョンタイプの樹脂がよい。また、加熱・加圧することにより接着能を発揮するコーティングを施してもよい。接着能を有するコーティングとしては、アクリル系、フエノール系、エポキシ系、メラミン系などがよい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
[実施例1]
下記表1に示す化学成分の鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚2.0mmに仕上げた。その後、1000℃で40秒間保持した後に800℃で60秒保持する連続焼鈍型の熱延板焼鈍を施し、冷間圧延にて板厚0.15mmに仕上げた。その後、1000℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。得られた無方向性電磁鋼板を55mm角の単板試験片に打ち抜き、単板磁気測定器にて磁束密度B50と鉄損W10/800(800Hzにて1.0Tに磁化した場合の鉄損)を測定するとともに、板厚1/4位置にてX線回折法により{110}、{200}、{211}および{310}極点図を測定し、ODFからφ2=0°断面のφ1=20°、Φ=15°の集積度(強度)を評価した。結果を表1に示す。下線は本発明で規定する範囲外を示す。
これらに対して、本発明で限定する条件を満足する鋼番号11〜16および鋼番号17〜22は磁気特性向上に好ましい集合組織が発達しており、同等のSi、Mn、Al含有量を有する鋼番号10と比較して鉄損、磁束密度とも優れていた。鋼番11〜16および鋼番号17〜22を比較すると、Sn含有量が好ましい範囲の鋼番号17〜22の方が磁束密度に優れていた。
表1の鋼番号10と19の熱延板(板厚2.0mm)に対し、(A)1000℃で40秒間保持する熱延板焼鈍、(B)1000℃で40秒間保持した後に800℃で60秒保持する連続焼鈍型の熱延板焼鈍、(C)900℃で40秒間保持する熱延板焼鈍、(D)950℃で5秒保持する熱延板焼鈍のいずれかを施し、冷間圧延にて板厚0.15〜0.30mmに仕上げた。その後、1000℃で30秒間保持する仕上げ焼鈍を施した。試験番号2-15については900℃で10秒保持する仕上げ焼鈍、試験番号2-16については950℃で5秒保持する仕上げ焼鈍を施した。得られた無方向性電磁鋼板を55mm角の単板試験片に打ち抜き、単板磁気測定器にて磁束密度B50と鉄損W10/800(800Hzにて1.0Tに磁化した場合の鉄損)を測定するとともに、板厚1/4位置にてX線回折法により{110}、{200}、{211}および{310}極点図を測定し、ODFからφ2=0°断面のφ1=20°、Φ=15°の集積度を評価した。結果を表2に示す。
Claims (5)
- 質量%で、Si:1.7%以上3.5%以下、Al:0.1%以上2.0%以下およびMn:0.08%以上1.5%未満を下記式(1)を満足する範囲で含有し、さらに、P:0.03%超0.15%以下、Sn:0.03%以上0.15%以下、C:0.005%以下、S:0.0040%以下、N:0.005%以下およびMo:0.002%以上0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、板厚1/4位置にて、結晶方位分布関数におけるφ2=0°断面のφ1=20°、Φ=15°の強度が5以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
Si+2×Al−Mn≧2.0 (1)
(ここで、Si、AlおよびMnは、各元素の含有量(単位:質量%)を示す。) - 板厚が0.10〜0.25mmであることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
- 請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
請求項1に記載した鋼組成を備える鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に焼鈍を施す熱延板焼鈍工程と、前記熱延板焼鈍工程により得られた鋼板に冷間圧延を施す冷間圧延工程と、前記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程とを有する無方向性電磁鋼板の製造方法において、熱延板焼鈍を950℃以上1050℃以下で10秒以上3分以下保持し、冷間圧延での合計圧下率を88%以上96%以下とし、仕上げ焼鈍を950℃以上1050℃以下で10秒以上120秒以下施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。 - 熱延板焼鈍を950℃以上1050℃以下で10秒以上3分以下保持した後に、800℃以上920℃以下で10秒以上2分以下保持する連続焼鈍で実施することを特徴とする請求項3に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 冷間圧延での仕上げ板厚を0.10〜0.25mmとすることを特徴とする請求項4に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
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