JP5716811B2 - 無方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車に搭載される駆動モータや、二輪車および家庭用コージェネレーションシステムに搭載される小型発電機など、高いエネルギー効率と小型・高出力化を同時に要求される電気機器の鉄心の素材に好適な無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
近年の地球環境問題の高まりから、電気機器においては小型、高出力、高エネルギー効率が要求され、鉄心材料である無方向性電磁鋼板には低鉄損と高磁束密度の高位両立が強く求められている。
従来、鉄損低減手段としてはSiやAlの含有量の増加、高純度化、板厚の薄肉化が採用されてきた。鉄損低減手段の中でも、高周波域での鉄損を最も効果的に低減する手段は板厚の薄肉化であり、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータに代表される低鉄損への要求の強い用途には、板厚が0.30mm以下の薄肉の無方向性電磁鋼板が使用されている。
また、高磁束密度化手段としては再結晶集合組織制御が採用されてきた。再結晶集合組織制御の基本は、板面内に磁化容易軸を含まない{111}面を減じ、板面内に磁化容易軸を含む{110}面や{100}面を増加させることであり、板面内に二方向の磁化容易軸を有する{100}<001>方位や磁化容易軸が板面内で一方向に揃った{110}<001>方位の集積度増加については、いわゆる二方向性電磁鋼板や一方向性電磁鋼板の分野のみならず、無方向性電磁鋼板の分野においても盛んに検討がなされている。
例えば、無方向性電磁鋼板において{100}<001>方位や{110}<001>方位の集積度を増加させる技術としては、次のような手法が提案されている。
特許文献1および特許文献2には特殊な熱間圧延条件により集積させた{510}<001>方位を活用して{100}<001>方位を発達させる方法が、特許文献3には熱間圧延にて{100}<001>方位に集積させる方法が、それぞれ提案されている。特許文献4にはAl:0.02質量%以下で{100}<001>方位に集積した鋼板が提案されている。また、特許文献5には、Siを低減しAlを多量に含有する鋼に対して熱延板焼鈍を施して冷間圧延前の結晶粒径を300μm以上とし、圧下率85%以上95%以下で冷間圧延を実施する一回冷延プロセスにより{100}<001>方位を発達させる技術が提案されている。
また、特許文献6には、仕上焼鈍後にスキンパス圧延し、続いて歪取焼鈍を施すことにより{110}<001>方位を発達させる技術が提案されている。
特開2000−160248号公報 特開2000−160249号公報 特開平10−226854号公報 特開2001−181803号公報 特開2004−332042号公報 特開2006−265720号公報
上述したように、無方向性電磁鋼板の再結晶集合組織制御については従来から様々な検討がなされてきた。しかしながら、上述した薄肉の無方向性電磁鋼板は、再結晶集合組織変化に起因して本質的に磁束密度が低下し易いため、従来技術による薄肉の無方向性電磁鋼板では、再結晶集合組織制御が不十分となり、低鉄損と高磁束密度とを高い次元で両立させるという要請に十分に応えてはいなかった。また、上述の先行技術文献に記載された無方向性電磁鋼板は実用的とは言い難いものであった。
すなわち、特許文献1〜特許文献3に記載された無方向性電磁鋼板は、その実施例に記載されるとおり、熱間圧延での仕上げ厚を0.8mmとするものであり、設備負荷が多大であるばかりか生産性が著しく低下する。このため、実操業に適用するのは容易ではない。
特許文献4に記載された無方向性電磁鋼板は、一方向性電磁鋼板と同様に二次再結晶焼鈍によって得られる鋼板であり、通常の無方向性電磁鋼板と比較して大幅な製造コスト増加は否めない。
特許文献5に記載された無方向性電磁鋼板は、Siを低減しAlを多量に含有するため、磁歪増加や電気抵抗不足に起因した高周波域での鉄損増加が懸念される。さらに、冷間圧延前の結晶粒径を300μm以上の粗大粒とする技術であるため、鉄損低減を目的としてSi含有量を増加させた鋼への適用は冷間圧延時の割れ発生の観点から極めて困難であり、低鉄損と高磁束密度を高位両立させるためには改善の余地がある。
特許文献6に記載された無方向性電磁鋼板は、焼鈍工程追加に伴う製造コストの上昇および寸法精度の劣化を理由にハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータの鉄心について歪取焼鈍が実施されていないという現状に鑑みると、モータの実用特性改善に寄与するためには検討の余地がある。
また、{100}<001>方位のみに強く配向した二方向性電磁鋼板は未だ実用化されておらず、{110}<001>方位のみに強く配向した一方向性電磁鋼板は無方向性電磁鋼板との素材コスト差の観点から駆動モータや小型発電機の鉄心に使用された例はない。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は本質的に磁束密度が低下し易い薄肉の無方向性電磁鋼板において、過度の生産性低下や設備負荷を伴うことなく{100}<001>方位を発達させ、高磁束密度と低鉄損を高位両立した無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、薄肉の無方向性電磁鋼板の磁束密度を高める方法について鋭意研究を行った。その結果、適量のPとSとを含有させるとともに、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せ、かつ、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正範囲に制御することにより、薄肉の無方向性電磁鋼板においても{100}<001>方位が適度に発達し、低鉄損と高磁束密度が両立されることを見出した。このような新知見に基づく本発明の要旨は以下の通りである。
すなわち、本発明は、質量%で、Si:1.5%以上3.5%以下、sol.Al:0.1%以上2.5%以下およびMn:0.08%以上2.5%以下を下記式(1)を満足する範囲で含有し、さらに、P:0.06%以上0.20%以下、S:0.0020%超0.006%以下、C:0.005%以下およびN:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、平均結晶粒径が60μm以上150μm以下である鋼組織を有し、板厚中央部において({100}<001>方位の集積度)>({110}<001>方位の集積度)の関係を満足する集合組織を有し、板厚が0.30mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供する。
Si+2×sol.Al−Mn≧2.0 (1)
(ここで、Si、sol.AlおよびMnは、各元素の含有量(単位:質量%)を示す。)
また本発明は、下記工程(A)〜(E)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
(A)上述の化学組成を有する熱延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域に30分間以上48時間以下保持する熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程
(B)上記熱延板焼鈍工程により得られた熱延鋼板に、冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(C)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、950℃以上1100℃以下の温度域に10秒間以上5分間以下保持する中間焼鈍を施して平均結晶粒径を80μm以上200μm以下とする中間焼鈍工程
(D)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に、55%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.30mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程
(E)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、仕上焼鈍を施して平均結晶粒径を60μm以上150μm以下とする仕上焼鈍工程
本発明においては、圧延方向と圧延直角方向の双方で低鉄損と高磁束密度を高位両立した薄肉の無方向性電磁鋼板を得ることができるという効果を奏する。また、本発明により得られる無方向性電磁鋼板は、電気機器の小型、高出力、高エネルギー効率化に極めて効果的であり、その工業的価値は極めて高い。
連続焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 連続焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 箱焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 連続焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延直角方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 連続焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延直角方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延直角方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 箱焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延または一回の冷間圧延とを組合せた場合における、圧延直角方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を示すグラフである。 連続焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合における仕上焼鈍後の再結晶集合組織を示す図である(φ=45°断面。二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径:120μm、二回目の冷間圧延の圧下率:61.4%)。 連続焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合における仕上焼鈍後の再結晶集合組織を示す図である(φ=45°断面。二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径:180μm、二回目の冷間圧延の圧下率:61.4%)。 箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合における仕上焼鈍後の再結晶集合組織を示す図である(φ=45°断面。二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径:122μm、二回目の冷間圧延の圧下率:61.4%)。 箱焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合における仕上焼鈍後の再結晶集合組織を示す図である(φ=45°断面。二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径:160μm、二回目の冷間圧延の圧下率:61.4%)。 一回の冷間圧延の場合における仕上焼鈍後の再結晶集合組織を示す図である(φ=45°断面。冷間圧延前の平均結晶粒径:177μm、冷間圧延の圧下率:86.5%)。 圧延方向の磁束密度と二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径との関係を示すグラフである。 圧延直角方向の磁束密度と二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径との関係を示すグラフである。
本発明者らは、薄肉の無方向性電磁鋼板の磁束密度を高める方法について鋭意研究を行った結果、適量のPとSとを含有させるとともに、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せ、かつ、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正範囲に制御することにより、薄肉の無方向性電磁鋼板においても{100}<001>方位が適度に発達し、低鉄損と高磁束密度が両立されることを見出した。以下、実験結果に基づいてその詳細を説明する。
(第1の実験)
C:0.002%、Si:2.0%、Mn:0.2%、sol.Al:0.3%、P:0.1%、S:0.0026%、N:0.0018%の化学組成を有する板厚2.0mmの熱延鋼板に、800℃もしくは950℃で10時間保持する箱焼鈍型の熱延板焼鈍、または、950℃もしくは1050℃で2分間保持する連続焼鈍型の熱延板焼鈍を施し、0.5mm〜1.0mmの中間板厚まで冷間圧延した。その後、800℃もしくは950℃で10時間保持する箱焼鈍型の中間焼鈍、または、950℃もしくは1050℃で30秒間保持する連続焼鈍型の中間焼鈍を施し、二回目の冷間圧延によって0.27mmの板厚に仕上げ(二回目の冷間圧延の圧下率:46.0%〜73.0%)、1050℃で1秒間保持する仕上焼鈍(再結晶焼鈍)を施した。
また、比較のため、各種の熱延板焼鈍後に一回の冷間圧延によって0.27mmに仕上げ(圧下率:86.5%)、同様に1050℃で1秒間保持する仕上焼鈍(再結晶焼鈍)を施した。
得られた鋼板から55mm角の単板試験片を打抜き、磁化力5000A/mにおける圧延方向および圧延直角方向の磁束密度B50を測定するとともに、板厚中央部の再結晶集合組織を調査した。図1〜図4に圧延方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を、図5〜図8に圧延直角方向の磁束密度に及ぼす最終の冷間圧延前の平均結晶粒径と最終の冷間圧延の圧下率との関係を、図9〜図13に再結晶集合組織(結晶粒方位分布関数(ODF)による解析、φ=45°断面)を、それぞれ示す。
なお、「最終の冷間圧延」および図1〜図8の軸における「最終冷延」とは、中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延を施した場合には二回目の冷間圧延を意味し、中間焼鈍を挟まない一回の冷間圧延を施した場合には当該冷間圧延を意味する。
図1〜図8における○内および□内の数値は磁束密度B50(T)を表わす。
図1〜図4に示すように、熱延板焼鈍と中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合において、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正範囲に制御することにより、圧延方向の磁束密度は、熱延板焼鈍により冷間圧延前の粒径を粗大化して一回の冷間圧延を施した場合に比して大幅に向上する。
そして、図5〜図8に示すように、熱延板焼鈍と中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合のうち、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合(図7)には、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率を適正範囲に制御することにより、圧延方向のみならず圧延直角方向の磁束密度も高い水準とすることができ、熱延板焼鈍により冷間圧延前の粒径を粗大化して一回の冷間圧延を施した場合と同等以上になることが判る。一方、その他の組合せ(図5、図6、図8)では、各条件を制御したとしても圧延直角方向の磁束密度を、熱延板焼鈍により冷間圧延前の粒径を粗大化して一回の冷間圧延を施した場合と同等以上にすることはできない。
図9〜図12に示すように、熱延板焼鈍と中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合のうち、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合において、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正化した場合(図11)には、{100}<001>方位が主方位になっていることが判る。一方、その他の組合せ(図9、図10、図12)では、{100}<001>方位よりもむしろ{110}<001>方位近傍に集積している。これらの再結晶集合組織は圧延方向および圧延直角方向の磁束密度変化と対応しており、圧延方向と圧延直角方向の双方に高い磁束密度を得るためには、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せ、かつ、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正範囲に制御することにより、{100}<001>方位を発達させることが重要であると判明したのである。
なお、図13には一回の冷間圧延によって0.27mmに仕上げた場合の再結晶集合組織を示すが、同図から明らかなように、熱延板焼鈍により冷間圧延前の粒径を粗大化して一回の冷間圧延を施した場合には、{111}方位が減少するのみであり、{100}<001>方位という所望の再結晶集合組織は得られない。
(第2の実験)
次に、Pの影響と二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径の影響とを把握するため、C:0.002%、Si:2.0%、Mn:0.2%、sol.Al:0.3%、P:0.1%、S:0.0026%、N:0.0018%の化学組成を有する板厚2.0mmの熱延鋼板と、C:0.002%、Si:2.0%、Mn:0.2%、sol.Al:0.3%、P:0.01%、S:0.0038%、N:0.0019%の化学組成を有する板厚2.0mmの熱延鋼板とに対し、均熱温度:800℃、均熱時間:10時間の箱焼鈍型の熱延板焼鈍を施し、0.5mmの中間板厚まで冷間圧延した。その後、850℃〜1050℃で20秒間保持する連続焼鈍型の中間焼鈍を施して二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径を変化させ、二回目の冷間圧延によって0.20mmに仕上げた(二回目の冷間圧延の圧下率:60.0%)。続いて、1050℃で1秒間保持する仕上焼鈍(再結晶焼鈍)を施した。
得られた鋼板から55mm角の単板試験片を打抜き、磁化力5000A/mにおける圧延方向および圧延直角方向の磁束密度B50を測定した。図14に圧延方向の磁束密度と二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径との関係を、図15に圧延直角方向の磁束密度と二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径との関係を、それぞれ示す。
P含有量の低い鋼板では、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が80μm以上の領域で、冷間圧延前の粒径粗大化にともなう磁束密度増加は緩やかとなる。特に、圧延直角方向では、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が粗大化しても磁束密度はほぼ一定となる。これに対してP含有量の高い鋼板では、圧延方向および圧延直角方向の双方とも二回目の冷間圧延前の粒径粗大化にともない磁束密度は増加する。
すなわち、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合において、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正範囲に制御することによって得られる高磁束密度化効果は、適正量のPを含有させることにより顕著となり、特に二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が80μm以上の領域で一層顕著となることが明らかとなったのである。
このように、圧延方向および圧延直角方向の双方に高い磁束密度を達成し、低鉄損と高磁束密度を高位両立した薄肉の無方向性電磁鋼板とするには、適正量のPを含有させることが極めて重要であると判明した。
ここで、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が細粒(80μm未満)である場合にP含有量の差によって磁束密度に差が生じる理由は、粒界偏析傾向の強いPによる粒界近傍からの{111}方位の再結晶抑制で説明できる。一方、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が80μm以上である場合にP含有量の差によって磁束密度に差が生じることについて、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が80μm以上に粗大化した場合のPの効果、とりわけ{100}<001>方位の発達によって圧延方向と圧延直角方向の双方に高磁束密度化するという顕著な効果は本実験によって初めて明らかにされたものであり、{111}方位のみに着目した検討では得られなかった知見である。
これらの結果は以下のように考えられる。すなわち、同一の冷間圧延の圧下率であっても、熱延板焼鈍および中間焼鈍を箱焼鈍型とするか連続焼鈍型とするかによって、二回目の冷間圧延前の集合組織(すなわち、中間焼鈍後の再結晶集合組織)は変化する。したがって、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍とを選択することにより、二回目の冷間圧延前の集合組織が{100}<001>方位と{110}<001>方位の発達に有利な方位へと制御されたと考えられる。このとき、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が細粒であった場合や二回目の冷間圧延の圧下率が高い場合には、仕上焼鈍において粒界近傍から{111}方位が発達してしまう。そのため、焼鈍タイプの選択と同時に、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率を総合的に制御することが必須となる。本発明者らの検討によれば、適正量のPを含有する鋼板では再結晶初期に{110}<001>方位の発達が抑制されるとの知見を得ており、この効果によって仕上焼鈍時に{100}<001>方位と{110}<001>方位の集積度変化が生じたものと考えられる。すなわち、P含有量の適正化によって{110}<001>方位の発達が抑制され、{100}<001>方位が発達したのである。通常、冷間圧延前の平均結晶粒径が粗大な場合には、剪断帯から{110}<001>方位が発達し易くなり、圧延直角方向の磁束密度改善には不利となる。しかしながら、図14および図15に示されるように、適正量のPを含有する鋼板では、冷間圧延前の平均結晶粒径が粗大化しても、圧延方向と圧延直角方向の双方の磁束密度が増加する。この実験結果は、圧延直角方向の磁束密度改善には不利な{110}<001>方位の発達がPによって抑制され、圧延直角方向の磁束密度改善に有利な{100}<001>方位が発達するという考えを支持するものである。
本発明者らはさらに検討を進め、上記Pによる高磁束密度化の効果を安定して得るには、S含有量を適正化する必要があることを見出した。すなわち、S含有量を過度に低減すると上記Pによる高磁束密度化の効果が不安定となり、所望の磁気特性が得られない場合が生じるのである。Sは、一般に不純物として含有され、鋼中に硫化物を形成して磁気特性を劣化させることから、極力低減させることが指向されることが多いのであるが、上記Pによる高磁束密度化の効果を得るには適正量のSを含有させることが必要なのである。
ここで、S含有量を過度に低減するとPによる高磁束密度化の効果が不安定になる理由は明確でないが、S含有量を低減することによって粒成長性が著しく改善されると、仕上焼鈍時に{100}<001>方位以外の方位も発達し易くなることが影響しているものと考えられる。
以下、このような新知見に基づく本発明の無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
A.無方向性電磁鋼板
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:1.5%以上3.5%以下、sol.Al:0.1%以上2.5%以下およびMn:0.08%以上2.5%以下を上記式(1)を満足する範囲で含有し、さらに、P:0.06%以上0.20%以下、S:0.0020%超0.006%以下、C:0.005%以下およびN:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、平均結晶粒径が60μm以上150μm以下である鋼組織を有し、板厚中央部において({100}<001>方位の集積度)>({110}<001>方位の集積度)の関係を満足する集合組織を有し、板厚が0.30mm以下であることを特徴とするものである。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板における各構成について詳細に説明する。
1.化学組成
(1)Si、Al、Mn
Si、AlおよびMnは、電気抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減のために含有させる。しかしながら、過剰に含有させると磁束密度の低下が著しくなる。さらに、Siは過剰に含有させると冷間圧延時に破断するおそれがある。また、Mnは過剰に含有させるとオーステナイト変態を生じて磁気特性の確保が困難になる。それぞれの元素の上限はこれらの観点から定め、Si含有量は3.5%以下、sol.Al含有量は2.5%以下、Mn含有量は2.5%以下とする。
Si含有量の下限は、電気抵抗を増加させて所望の鉄損レベルを確保する観点から1.5%以上とする。sol.Al含有量は、0.1%未満では微細な窒化物により鉄損が増加するとともに、中間焼鈍時の粒成長が阻害されて二回目の冷間圧延前において適正な平均結晶粒径を確保することができずに、仕上焼鈍後において磁束密度が低下する場合がある。したがって、sol.Al含有量は0.1%以上とする。Mn含有量は、0.08%未満では硫化物が微細化することにより鉄損が増加するとともに、中間焼鈍時の粒成長が阻害されて二回目の冷間圧延前において適正な平均結晶粒径を確保することができずに磁束密度が低下する場合がある。したがって、Mn含有量は0.08%以上とする。
ここで、フェライト−オーステナイト変態を有する鋼の場合、仕上焼鈍をフェライト域焼鈍とするために焼鈍温度が制約され、その結果、所望の鉄損レベルを確保することが困難となる。他方、変態を有しない鋼とするには、Siやsol.Al含有量を高める必要が生じ、上述のとおり磁束密度が低下する。本発明は、後者のように、本質的に磁束密度が低下しやすいフェライト−オーステナイト変態を有しない鋼の磁束密度を増加させることを目的としている。そこで、フェライト−オーステナイト変態に対する指標としてSi+2×sol.Al−Mnを採用し、変態を有しない鋼とするために、下記式(1)を満足させることとする。
Si+2×sol.Al−Mn≧2.0 (1)
ここで、Si、sol.AlおよびMnは、各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
(2)P
Pは、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せた場合において、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正範囲に制御することにより{100}<001>方位を発達させる本発明において極めて重要な元素である。したがって、明確な高磁束密度効果を得る観点から、P含有量は0.06%以上とする。好ましくは0.07%以上である。一方、P含有量が0.20%超では、冷間圧延時に破断を生じる可能性がある。したがって、P含有量は0.20%以下とする。
(3)S
Sは、0.006%を超えて含有するとMnSなどの硫化物が多数析出し、鉄損が著しく増加する。また、中間焼鈍時の粒成長も阻害されるため、二回目の冷間圧延前において適正な平均結晶粒径を確保することができずに磁束密度が低下する場合がある。一方、S含有量が過度に低いと、Pによる高磁束密度効果が不安定となる。これらより、S含有量は0.0020%超0.006%以下とする。
(4)C
Cは、不純物として含有され、含有量が0.005%を超えると微細な炭化物が析出して鉄損の増加が著しくなる。したがって、C含有量は0.005%以下とする。
(5)N
Nは、不純物として含有され、含有量が0.005%を超えると窒化物の増加により鉄損の増加が著しくなる。また、中間焼鈍時の粒成長も阻害されるため、二回目の冷間圧延前において適正な平均結晶粒径を確保することができず、仕上焼鈍後の磁束密度が低下する場合がある。したがって、N含有量は0.005%以下とする。
(6)残部
残部はFeおよび不純物である。不純物のうち粒成長性に悪影響を及ぼすTi、V、Nb、Zrは極力低減することが望ましく、それぞれ0.008%以下とすることが好ましい。
2.鋼組織
製品での結晶粒が過度に粗大化すると高周波鉄損が増大するとともに、板厚を貫通した結晶粒の増加により所望の再結晶集合組織への制御が不安定となる。一方、製品での結晶粒が細粒化すると周波数の低い領域にて鉄損への悪影響が顕著になる。そのため平均結晶粒径は60μm以上150μm以下とする。
平均結晶粒径は光学顕微鏡による組織観察結果をもとに求めればよく、圧延方向の板厚方向断面を例えば100倍の倍率など板厚に応じて適宜選択した倍率にて観察し、切断法によって求めればよい。
3.集合組織
{110}<001>方位の発達を抑制し、{100}<001>方位を発達させることにより、圧延方向と圧延直角方向の磁気特性を向上させる観点から、板厚中央部において({100}<001>方位の集積度)>({110}<001>方位の集積度)の関係を満足する集合組織を有するものとする。
ここで、「方位の集積度」とはランダム強度に対する比(ランダム比)を意味しており、集合組織を表示する際に通常用いられる指標である。本発明では、X線回折により測定した{110}、{200}、{211}の不完全極点図を用いて級数展開法により算出した結晶粒方位分布関数(ODF)にて、φ=45°断面で評価する。また、本発明は板厚0.30mm以下、平均結晶粒径60μm〜150μmの薄肉の無方向性電磁鋼板を前提としているため、再結晶集合組織は板厚中央部で評価すればよく、板厚中央部へは化学研磨にて鋼板の片面のみを減肉すればよい。
4.板厚
本発明は、本質的に磁束密度の低下し易い薄肉の無方向性電磁鋼板を再結晶集合組織制御によって高磁束密度化し、以て低鉄損と高磁束密度の高位両立を達成することを前提としている。そのため板厚は0.30mm以下とする。高周波鉄損をさらに低減する観点からは0.27mm以下とすることが好ましく、0.25mm以下とすることがさらに好ましい。板厚の下限は特に規定しないが、過度の薄肉化は平坦度劣化による極端な占積率低下や鉄心の生産性低下を招く場合があるので、0.15mm以上とすることが好ましい。
(製造方法)
本発明の無方向性電磁鋼板は、後述する無方向性電磁鋼板の製造方法により製造することが好適である。
B.無方向性電磁鋼板の製造方法
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、下記工程(A)〜(E)を有することを特徴とする。
(A)上述の化学組成を有する熱延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域に30分間以上48時間以下保持する熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程
(B)上記熱延板焼鈍工程により得られた熱延鋼板に、冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(C)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、950℃以上1100℃以下の温度域に10秒間以上5分間以下保持する中間焼鈍を施して平均結晶粒径を80μm以上200μm以下とする中間焼鈍工程
(D)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に、55%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.30mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程
(E)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、仕上焼鈍を施して平均結晶粒径を60μm以上150μm以下とする仕上焼鈍工程
以下、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
1.熱延板焼鈍工程
熱延板焼鈍工程においては、上述の化学組成を有する熱延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域に30分間以上48時間以下保持する熱延板焼鈍を施す。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延とを組合せるとともに、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを適正範囲に制御することにより、{100}<001>方位の発達を促すことを骨子としている。このため、熱延板焼鈍は箱焼鈍とし、750℃以上950℃以下の温度域に30分間以上48時間以下保持するものとする。
熱延板焼鈍における焼鈍温度(以下、「熱延板焼鈍温度」ともいう。)が750℃未満であったり、熱延板焼鈍における焼鈍時間(以下、「熱延板焼鈍時間」ともいう。)が30分間未満であったりすると、{100}<001>方位の発達を促すことができない場合がある。また、熱延板焼鈍温度が950℃を超えると設備への負荷が大きくなり、熱延板焼鈍時間が48時間を超えると生産性の劣化を招く。熱延板焼鈍温度は、750℃以上850℃以下とすることが好ましい。
熱延板焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
2.第1冷間圧延工程
第1冷間圧延工程においては、上記熱延板焼鈍工程により得られた熱延鋼板に、冷間圧延を施す。
熱延板焼鈍後は一回目の冷間圧延にて中間板厚まで仕上げる。中間板厚は、二回目の冷間圧延にて製品板厚まで仕上げる際に後述の適正圧下率を確保する観点から決定すればよく、0.3mm以上1.2mm以下とすることが好ましい。中間板厚が厚い場合、熱容量増加に起因して後述の中間焼鈍後において適正な平均結晶粒径(二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径)を確保することが困難となる場合があることから、中間板厚は0.3mm以上0.7mm以下とすることがさらに好ましい。
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、熱延鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
熱延鋼板は、通常、熱間圧延の際に鋼板表面に生成したスケールを酸洗により除去してから冷間圧延に供される。熱延板焼鈍前あるいは熱延板焼鈍後のいずれかにおいて酸洗すればよい。
3.中間焼鈍工程
中間焼鈍工程においては、上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、950℃以上1100℃以下の温度域に10秒間以上5分間以下保持する中間焼鈍を施して平均結晶粒径を80μm以上200μm以下とする。
上述した理由により、中間焼鈍は連続焼鈍とし、950℃以上1100℃以下の温度域に10秒間以上5分間以下保持することにより行う。中間焼鈍における焼鈍温度(以下「中間焼鈍温度」ともいう。)が950℃未満であったり、中間焼鈍における焼鈍時間(以下「中間焼鈍時間」ともいう。)が10秒間未満であったりすると、平均結晶粒径を80μmとすることが困難な場合がある。また、中間焼鈍温度が1100℃を超えると設備への負荷が大きくなり、中間焼鈍時間が5分間を超えると生産性の劣化を招く。中間焼鈍温度は、950℃以上1050℃以下とすることが好ましい。
中間焼鈍により二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径を80μm以上200μm以下とする。二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が80μm未満では、仕上焼鈍において{111}方位が発達し易く、所望の集合組織が得られない。また、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径が200μm超では、二回目の冷間圧延時に割れが発生する場合がある。なお、平均結晶粒径は上述の方法で求めればよい。
中間焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
4.第2冷間圧延工程
第2冷間圧延工程においては、上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に、55%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.30mm以下の板厚とする。
二回目の冷間圧延における圧下率は、仕上焼鈍後において所望の再結晶集合組織を確保する観点から55%以上75%以下とする。好ましくは55%以上70%以下である。
また、上述の「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載した理由により、二回目の冷間圧延後の板厚は0.30mm以下とする。
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
5.仕上焼鈍工程
仕上焼鈍工程においては、上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、仕上焼鈍を施して平均結晶粒径を60μm以上150μm以下とする。
上述の「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載した理由により、仕上焼鈍後の平均結晶粒径を60μm以上150μm以下とする。
仕上焼鈍は900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上120秒間以下保持することにより行うことが好ましい。仕上焼鈍における焼鈍温度(以下、「仕上焼鈍温度」ともいう。)が900℃未満であったり、仕上焼鈍における焼鈍時間(以下、「仕上焼鈍時間」ともいう。)が1秒間未満であったりすると、平均結晶粒径を60μm以上とすることが困難な場合があるからである。また、仕上焼鈍温度が1150℃を超えると設備への負荷が大きくなり、仕上焼鈍時間が120秒間を超えると生産性の劣化を招くからである。仕上焼鈍温度は、950℃以上1100℃以下とすることがさらに好ましい。
仕上焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
6.その他の工程
(コーティング工程)
上記仕上焼鈍工程後に、無方向性電磁鋼板には必要に応じて絶縁コーティングを施してもよい。絶縁コーティングの種類は特に限定されるものではなく、有機成分のみ、無機成分のみあるいは有機無機複合物からなる絶縁被膜を施せばよい。無機成分としては重クロム酸−ホウ酸系、リン酸系、シリカ系などが使用でき、有機成分としては一般的なアクリル系、アクリルスチレン系、アクリルシリコン系、シリコン系、ポリエステル系、エポキシ系、フッ素系の樹脂が使用できる。塗装性を考慮するとエマルジョンタイプの樹脂がよい。また、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施してもよい。接着能を有するコーティングとしては、アクリル系、フエノール系、エポキシ系、メラミン系などがよい。
(熱間圧延工程)
上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板は、上述の化学組成を有する鋼塊または鋼片(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施すことにより得ることができる。
上述の化学組成を有する鋼スラブは、上述した化学組成を有する鋼を連続鋳造法あるいは鋼塊を分塊圧延するなど一般的な方法により製造され、加熱炉に装入して熱間圧延に供される。この際、スラブ加熱温度が高い場合には加熱炉に装入しないで熱間圧延を行ってもよい。スラブ加熱温度は特に制限されるものではないが、コストおよび熱間圧延性の観点から1000℃以上1300℃以下とすることが好ましい。熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではないが、仕上温度は700℃以上950℃以下、巻取温度は750℃以下が好ましい。熱間圧延の仕上げ厚は生産性の観点から1.6mm以上2.8mm以下が好ましい。仕上げ厚が1.6mm未満では熱間圧延および酸洗の能率が著しく劣化するが、本発明ではそのような薄肉への熱間圧延は施さずともよい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
下記表1に示す化学成分の鋼を溶製し、2.1mmの仕上げ厚に熱間圧延後、均熱温度:800℃、均熱時間:12時間の箱焼鈍型の熱延板焼鈍を施し、0.70mmの中間板厚まで冷間圧延した。その後、1000℃で20秒間保持する連続焼鈍型の中間焼鈍を施し、二回目の冷間圧延にて板厚:0.27mmに仕上げ(圧下率:61.4%)、1000℃で10秒間保持する仕上焼鈍を施した。
得られた無方向性電磁鋼板について、圧延方向(L方向)および圧延直角方向(C方向)の磁束密度B50と鉄損W10/400(400Hzにて1.0Tに磁化した場合の鉄損)を測定するとともに、再結晶集合組織と平均結晶粒径を調査した。再結晶集合組織は、化学研磨にて板厚中央部まで減肉した後にX線回折にて{110}、{200}、{211}の不完全極点図を測定し、得られた極点図を用いて級数展開法により算出した結晶粒方位分布関数(ODF)のφ=45°断面で評価した。結果を表1に示す。
No.a1−1は、Si含有量が本発明で限定する下限値を外れているばかりか上記式(1)を満たさずフェライト−オーステナイト変態を有しているために製品の組織も微細になり、磁束密度、鉄損とも劣っていた。No.a1−2は、Si含有量が本発明で限定する上限値を外れているため冷間圧延時に破断した。No.a1−3は、Mn含有量が本発明で限定する下限値を外れているため粒成長性が劣化し、磁束密度、鉄損とも劣っていた。No.a1−4は、Mn含有量が本発明で限定する上限値を外れているばかりか上記式(1)を満たさずフェライト−オーステナイト変態を有しているために磁束密度、鉄損とも劣っていた。No.a1−5はsol.Al含有量が本発明で限定する下限値を外れているばかりか上記式(1)を満たさずフェライト−オーステナイト変態を有しているため、磁束密度、鉄損とも劣っていた。No.a1−6は、sol.Al含有量が本発明で限定する上限値を外れているため磁束密度が低かった。No.a1−7は、S含有量が本発明で限定する上限値を外れているため粒成長性が劣化し、磁束密度、鉄損とも劣っていた。No.a1−8は、N含有量が本発明で限定する上限値を外れているため粒成長性が劣化し、磁束密度、鉄損とも劣っていた。No.a1−9は、P含有量が本発明で限定する上限値を外れているため冷間圧延時に破断した。No.a1−10〜21は、P含有量が本発明で限定する下限値を外れているため磁束密度が劣っていた。No.a1−22は、S含有量が本発明で限定する下限値を外れているため、圧延直角方向の磁束密度が劣っていた。また、製品段階での平均結晶粒径が粗大であるため鉄損が増大した。
これに対して、No.b1−1〜12は、本発明で限定する条件を満足しており、高い磁束密度と低鉄損を両立した無方向性電磁鋼板が得られた。No.a1−10〜21とNo.b1−1〜12の比較により、P含有量の適正化により高磁束密度化する効果は無方向性電磁鋼板の基本成分であるSi、sol.Al、Mn含有量によらず発揮されることがわかった。
[実施例2]
C:0.002%、Si:2.5%、Mn:0.2%、sol.Al:1.0%、P:0.08%、S:0.0024%、N:0.002%を含有する鋼を熱間圧延により2.0mmに仕上げ、No.2−1〜25、26、29は800℃で10時間保持する箱焼鈍型の熱延板焼鈍を、No.2−27、28、30は1000℃で2分間保持する連続焼鈍型の熱延板焼鈍を施した。その後、No.2−1〜25は種々の中間板厚まで冷間圧延した後、850℃〜1050℃で20秒間保持する連続焼鈍型の中間焼鈍を施し、二回目の冷間圧延によって0.20mmに仕上げた。No.2−26〜28は0.50mmの中間板厚まで冷間圧延した後、No.2−26、27は箱焼鈍型の、No.2−28は連続焼鈍型の中間焼鈍をそれぞれ施し、二回目の冷間圧延によって0.20mmに仕上げた。No.2−29、30は、熱延板焼鈍後に一回の冷間圧延で0.20mmに仕上げた。これらの鋼板に対し1050℃で5秒間保持する仕上焼鈍を施した。
得られた無方向性電磁鋼板について、磁気特性、再結晶集合組織、平均結晶粒径を調査した。再結晶集合組織の調査方法は実施例1と同様である。結果を表2に示す。
なお、表2における「最終冷延」とは、中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延を施した場合には二回目の冷間圧延を意味し、中間焼鈍を挟まない一回の冷間圧延を施した場合には当該冷間圧延を意味する。
箱焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍との組合せ(No.2−26)、連続焼鈍型の熱延板焼鈍と箱焼鈍型の中間焼鈍との組合せ(No.2−27)、連続焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍との組合せ(No.2−28)では、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率とを本発明の適正範囲に制御しても圧延直角方向の磁束密度改善効果は得られなかった。また、一回の冷間圧延を行ったもの(No.2−29、30)では、十分な鉄損、磁束密度は得られなかった。
これに対して、箱焼鈍型の熱延板焼鈍と連続焼鈍型の中間焼鈍との組合せ(No.2−1〜25)の中で、二回目の冷間圧延前の平均結晶粒径と二回目の冷間圧延の圧下率を本発明の適正範囲とした場合(No.2−9、10、14、15、19、20)には、圧延方向と圧延直角方向の双方に高い磁束密度が得られ、両方向で低鉄損と高磁束密度を高位両立した無方向性電磁鋼板を得られた。

Claims (1)

  1. 下記工程(A)〜(E)を有し、
    板厚中央部において({100}<001>方位の集積度)>({110}<001>方位の集積度)の関係を満足する集合組織を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法:
    (A)質量%で、Si:1.5%以上3.5%以下、sol.Al:0.1%以上2.5%以下およびMn:0.08%以上2.5%以下を下記式(1)を満足する範囲で含有し、さらに、P:0.06%以上0.20%以下、S:0.0020%超0.006%以下、C:0.005%以下およびN:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する熱延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域に30分間以上48時間以下保持する熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程;
    (B)前記熱延板焼鈍工程により得られた熱延鋼板に、冷間圧延を施す第1冷間圧延工程;
    (C)前記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、950℃以上1100℃以下の温度域に10秒間以上5分間以下保持する中間焼鈍を施して平均結晶粒径を80μm以上200μm以下とする中間焼鈍工程;
    (D)前記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に、55%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.30mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程;および
    (E)前記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、仕上焼鈍を施して平均結晶粒径を60μm以上150μm以下とする仕上焼鈍工程。
    Si+2×sol.Al−Mn≧2.0 (1)
    (ここで、Si、sol.AlおよびMnは、各元素の含有量(単位:質量%)を示す。)
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