JP2020100860A - 無方向性電磁鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】Mn含有量が3.0%超の鋼板において、全周平均特性が高く、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板を提供する。【解決手段】α−γ変態系であり、化学組成が、質量%で、Si:2.0〜4.5%、Mn:3.0超〜5.0%、並びに、残部:Fe、任意元素及び不純物元素、であり、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が0〜15.0であり、かつ、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0〜200である、無方向性電磁鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。
電磁鋼板は、電機機器のコア(鉄心)の素材として利用される。電機機器は、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、及び燃料電池自動車に搭載される駆動モータや、二輪車及び家庭用コージェネレーションシステムに搭載される小型発電機等である。これらの電機機器では、高いエネルギー効率、小型化及び高出力化が要求される。そのため、電機機器のコアとして利用される電磁鋼板には、低い鉄損及び高い磁束密度が要求される。
鉄損を低くするための技術として、Si及びAl含有量の増加、鋼板の高純度化、板厚の薄手化、等の技術が採用されている。
一方、近年、モータの高効率化を目的として、電磁鋼板を打ち抜き加工した複数の鋼板部材(鋼板ブランク)を円環状に連結し、円環状に連結した複数の打ち抜き部材を積層して一体化した分割コアを用いたモータが登場している。このようなモータでは、ステータコアは、複数の分割コアで構成される。複数の分割コアは、ティース部に巻き線が施され、ステータコアの周方向に配列される。このとき、ティース部の軸は、ステータコアの径方向に延びる。このような分割コアでは、ティース部においてはステータコアの径方向(つまり、ティース部の軸方向)が磁化容易軸方向となるのが好ましく、ヨーク部においてはステータコアの周方向が磁化容易軸方向となるのが好ましい。
分割コアを用いない一体型のステータコアでは、磁化容易軸が特定の方向に集積されていない無方向性電磁鋼板が用いられる。しかしながら、分割コアで構成されるステータコアの場合、鋼板の板面内において磁化容易軸である<100>方位が特定の方向に集積した電磁鋼板を使用することが可能である。ティース部の軸方向に磁化容易軸が集積するように、分割コアを電磁鋼板から切り出せばよいからである。そのため、一方向性電磁鋼板や二方向性電磁鋼板を用いた分割コアが提案されている。
しかし、一方向性電磁鋼板や二方向性電磁鋼板は非常に高価である。
そこで、例えば、特許文献1には、一方向性電磁鋼板や二方向性電磁鋼板に代えて、分割コアに適用可能な電磁鋼板として、必要によりMn:2.5質量%以上を含有し、鋼板板面において{100}<011>結晶方位が集積した無方向性電磁鋼板が提案されている。
また、特許文献2では、α−γ変態系であり、Si:2.0質量%以上4.5質量%以下、Al:0.1質量%未満、さらに必要によりMn:2.5質量%以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、鋼板板面における{100}<011>のX線ランダム強度比が30以上200以下である無方向性電磁鋼板が提案されている。
特許文献1および2では、Mnは飽和磁束密度の低下を抑制するとともに、鋼板の変態挙動を制御して好ましい集合組織を形成するために有用な元素であり、さらに鋼板強度の確保にも有効であることが示されている。
また、特許文献3では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.05〜4.0%、Mn:3.0%以下、Al:3.5%以下、S:0.055%以下、P:0.25%以下、N:0.040%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる無方向性電磁鋼板であって、({411}<148>方位の集積強度)/({411}<011>方位の集積強度)≧4.0、かつ({411}<148>方位の集積強度)≧4.0を満たす無方向性電磁鋼板が提案されている。
特開2017−193731号公報 特開2017−145462号公報 特開2006−045613号公報
特許文献1、2に開示された電磁鋼板では、磁化容易方向である<100>が圧延方向から45°に向いており、圧延方向や幅方向に対しては、<100>方向よりも磁化容易でない<110>方向が向いているため、圧延方向や幅方向の磁気特性は優れておらず磁気異方性が大きい。そのため、例えば、一体打ち抜き型のモータコアには必ずしも適しているとは言えない。
また、特許文献3に開示された電磁鋼板は、Mn含有量が3.0%以下であり、{411}<148>集積度が4.0以上にできるため圧延方向から45°回転した方向の磁束密度B50及び圧延方向と幅方向と45°方向の平均磁束密度B50が優れているが、Mn含有量が3.0%を超える場合、{411}<148>集積度を4.0以上に高める技術が確立されておらず、圧延方向から45°回転した方向の磁束密度B50及び圧延方向と幅方向と45°方向の平均磁束密度B50が不十分である。
本発明の目的は、Mn含有量が3.0%超の鋼板において、全周平均特性(圧延方向(L)、圧延直角方向(C)、圧延45°方向(D)の特性値から(L+C+2D)/4 で計算される特性)が高く、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板を提供することである。
上記目的を達成するための本発明の要旨は次の通りである。
[1] α−γ変態系であり、化学組成が、質量%で、
Si:2.0〜4.5%、
Mn:3.0超〜5.0%、並びに、
残部:Fe、任意元素及び不純物元素、であり、
鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が0〜15.0であり、かつ、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0〜200である、無方向性電磁鋼板。
[2] 前記鋼板板面から前記板厚の1/4の深さにおける{111}<112>結晶方位のX線ランダム強度比が、7.0以下である、[1]に記載の無方向性電磁鋼板。
[3] 前記板厚が、0.10〜0.30mmである、[1]又は[2]に記載の無方向性電磁鋼板。
本発明によれば、Mn含有量が3.0%超の鋼板において、全周平均特性が高く、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板を提供することができる。
無方向性電磁鋼板の一例を示す斜視図である。 発明例における無方向性電磁鋼板の結晶方位分布関数(ODF)の一例を示す図である。
以下、本発明に係る無方向性電磁鋼板ついて詳細に説明する。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、数字等の後の「超」は、「超」の前の数字等を含まないことを意味する。
また、本明細書において、元素含有量の「%」は、「質量%」を表す。
<無方向性電磁鋼板>
本発明の一実施形態である無方向性電磁鋼板は、
α−γ変態系であり、化学組成が、質量%で、
Si:2.0〜4.5%、
Mn:3.0超〜5.0%、並びに、
残部:Fe、任意元素及び不純物元素、であり、
鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が0〜15.0であり、かつ、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0〜200である。
図1に示すとおり、電磁鋼板1の圧延軸(圧延方向)RD、法線軸(板厚方向)ND、板幅軸(幅方向)TDを定義した場合、本明細書にいう鋼板板面とは、電磁鋼板1の表面のうち、圧延軸RD及び板幅軸TDを含む表面であって、法線軸NDを法線とする表面10を意味する。ここで、圧延軸RD、法線軸ND及び板幅軸TDは互いに直交する。また、Tは板厚を示し、20は板厚の中間面(板厚/2の位置)を示している。しかたがって、「鋼板板面から板厚の1/4の深さ」とは、鉄板板面10から板厚の中間面20との中間の位置を意味する。
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の前述の化学組成は、α−γ変態系の化学組成である。ここで、「α−γ変態系の化学組成」とは、平衡状態において、A変態点を有し、A変態点未満ではミクロ組織の主相がフェライトになり、A変態点以上ではミクロ組織の主相がオーステナイトになる化学組成を意味する。
本発明の完成に先立ち、本発明者らの一部は、α−γ変態系であって、質量%でC:0.0050%以下、Si:2.00〜3.50%、Mn:2.50〜4.50%、Al:0.10%以下、残部がFe及び不純物元素からなる化学組成を有し、鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が15.0〜50.0であり、板厚中央位置で鋼板板面と平行な面において、平均結晶粒径を1.0に規格化した場合の標準偏差が0.35以下である電磁鋼板であれば、高磁束密度及び低鉄損とすることができることを知見した。
ところが、上記の電磁鋼板は、磁化容易方向である<100>が圧延方向から45°に向いており、圧延方向RDや幅方向TDに対しては、<100>方向よりも磁化容易でない<110>方向が向いているため、圧延方向RDや幅方向TDの磁気特性は十分とは言えず、磁気異方性が大きい。そのため、例えば一体打ち抜き型のモータコアとして使用する電磁鋼板とするには、改善の余地がある。
そこで、全周平均特性が高く、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板を得るべく、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、{100}<011>結晶方位の集積度を減らす代わりに{411}<148>結晶方位の集積度を高めることによって、全周平均特性が高く、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板が得られることを見出した。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成、組織、特性等について詳細に説明する。
(化学組成)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、α−γ変態系であり、化学組成が、質量%で、
Si:2.0〜4.5%、
Mn:3.0超〜5.0%、
を必須元素とし、並びに、
残部:Fe、任意元素及び不純物元素、である。
最初に、必須元素について説明する。本発明において「必須元素」とは本発明効果を得るために含有することが必須となる元素である。
Si:2.0〜4.5%
シリコン(Si)は鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。さらに、Siは、鋼板の集合組織を電磁鋼板に好ましいものとして磁束密度を向上させる。また鋼板の強度を高めるためにも含有される。これらの効果を得るために、Siの含有量は、2.0%以上とする。一方、Siの含有量が多過ぎると、鋼の磁束密度が低下し、また、冷間加工性が低下し、冷間圧延時に鋼板に割れが発生する場合がある。
したがって、Si含有量は2.0〜4.5%とする。一方、Si含有量の好ましい上限は4.0%であり、さらに好ましくは3.0%である。
Mn:3.0超〜5.0%
マンガン(Mn)は鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Mnはさらに、Ac3変態点を低下させ、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の成分系において、相変態による結晶粒の微細化を可能とする。上述のとおり、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板のSi含有量は高い。SiはAc3変態点を上昇させる元素である。そこで、本実施形態では、Mn含有量を高めることにより、Ac3点を低下させ、熱間圧延工程での相変態を可能とする。そのため、Mn含有量を3.0%超にする。一方、Mn含有量が高すぎれば、MnSが過剰に生成して、冷間加工性が低下する。
したがって、Mn含有量は3.0超〜5.0%とする。また、上記観点から、Mn含有量の好ましい下限は3.5である。一方、Mn含有量の好ましい上限は4.5%であり、さらに好ましくは4.0%である。
残部:Fe、任意元素および不純物元素
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の残部はFeである。ただし、磁気特性を含めた各種特性の改善を目的として、Feの一部に代えて、任意元素を含有してもよい。さらに不純物を含有することも許容される。
まず、任意元素について説明する。本発明において「任意元素」とは、適切な範囲内であれば含有しても本発明効果を消失させることはなく、本発明効果を得るという観点では含有量はゼロでも構わないが、公知または非公知を問わず他の効果を目的として含有させることでのメリットが考えられ、意図的に残存させたり、積極的に添加し得る元素を言う。
Al:0.3%以下
Al含有量が0.3%を超えれば、本実施形態の化学組成(Al以外の元素が本実施形態の範囲内である場合)において、鋼板の再結晶温度が上昇する。この場合、熱間圧延時に導入されたひずみが除去されてしまい、熱間圧延中において、オーステナイト粒が粗大化する。その結果、熱間圧延鋼板において、微細なフェライト粒が得られにくくなり、最終の製造工程終了後の電磁鋼板において、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のランダム強度比が低下する。したがって、Al含有量は0.3%以下にする。Al含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは、0.10%以下である。Al含有量は0%であってもよい。つまり、Al含有量は0〜0.30%である。
しかしながら、Al含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。したがって、工業的生産での操業を考慮した場合、Al含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
本実施形態による無方向性電磁鋼板は、さらに任意元素としてNi、Cuを含有してもよい。
Ni:1.000%以下
Niが含有される場合、NiはMnと同様に鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Niはさらに、A変態点を低下させて本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成において、相変態による結晶粒の微細化を可能とする。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、Niは高価であるため製品コストが高くなる。したがって、Ni含有量は0〜1.000%である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.100%であり、さらに好ましくは0.200%である。Ni含有量の好ましい上限は0.900%であり、さらに好ましくは0.850%である。
Cu:0.100%以下
Cuが含有される場合、CuはMnと同様に鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Cuはさらに、A変態点を低下させて本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成において、相変態による結晶粒の微細化を可能とする。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、再結晶温度が上昇してひずみの蓄積が困難となる。この場合、{100}<011>結晶方位粒を高集積化することができない。したがって、Cu含有量は0〜0.100%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.040%である。Cu含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
上述以外の任意元素としては、例えば、Cr、Ca、Mg、Sr、Ba、Nd、Pr、Cd、La、Ce、B、Sn、Sbが挙げられる。Crは鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減することに加え、耐食性を向上させる効果を有する。
Ca、Mg、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr及びCdは、特に硫化物を、Bは特に窒化物を粗大化させることで熱処理工程での結晶粒の成長性を改善し、低鉄損化に寄与する。
また、Sn、Sbは磁気特性にとって好ましい結晶方位を発達させることが知られている。上記各任意元素は公知の範囲で添加可能であるが、本発明鋼板における好ましい含有量は任意元素の合計で5%以下である。
次に、不純物元素について説明する。本発明において「不純物元素」とは、適切な範囲内であれば含有しても本発明効果を消失させることはなく、本発明効果を得るという観点では含有量はゼロでも構わないが、含有するメリットはほとんどなく、公知または非公知を問わず電磁鋼板としての製造過程または使用環境において悪影響を及ぼすため、基本的にゼロ(に近いこと)が好ましい元素を言う。なお、不純物には、電磁鋼板を工業的に製造するときに、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境等から不可避的に混入されるものおよび除去が困難な元素を含む。
C:0.010%以下
炭素(C)は不純物元素である。Cは微細な炭化物を形成する。微細な炭化物は、磁壁の移動を阻害したり、製造工程中における粒成長を阻害する。この場合、磁束密度が低下したり、鉄損が増加したりする。したがって、C含有量は0.010%以下である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の過度の低減は、製造コストを高める。したがって、工業的生産における操業を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
P:0.050%以下
リン(P)は不純物元素である。Pは、偏析して鋼の加工性を低下させる。したがって、P含有量は0.050%以下であることが好ましい。P含有量のより好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。工業的生産における操業を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
S:0.0050%以下
硫黄(S)は不純物元素である。Sは、MnS等の硫化物を形成する。硫化物は、磁壁移動を妨げ、磁気特性を低下させる。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成(S以外の元素が本実施形態の範囲内である場合)において、S含有量が0.0050%を超えれば、生成した硫化物により、磁気特性が低下する。つまり、磁束密度が低下し、鉄損が高まる。したがって、S含有量は0.0050%以下であることが好ましい。S含有量のより好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。工業的生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
N:0.0025%以下
窒素(N)は不純物元素である。Nは微細な窒化物を形成する。微細な窒化物は、磁壁の移動を阻害する。そのため、磁束密度が低下し、鉄損が高まる。したがって、N含有量は0.0025%以下であることが好ましい。N含有量のより好ましい下限は0.0020%であり、さらに好ましくは0.0010%である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。したがって、工業的生産を考慮すれば、N含有量の好ましい下限は0.0001%である。
上述以外の不純物元素としては、例えば、O、Ti、V、W、Nb、Zr、Moが挙げられる。これらの元素はいずれも、粒成長を抑制する場合がある。上記各元素の好ましい含有量はいずれも、0.05%以下である。
なお、本実施形態の無方向性電磁鋼板の化学組成は、JIS G 1258(2014)に準拠したICP発光分光分析方法で測定することができる。具体的には、電磁鋼板の板幅中央部から、切子状のサンプルを採取し、秤量する。採取したサンプルを酸に溶解して酸溶解液とする。さらに、残渣を濾紙にて回収して、別途アルカリに融解する。融解物を酸で抽出して溶液にする。この溶液を上述の酸溶解液と混合して測定溶液とする。測定溶液を用いて、JIS G 1258(2014)に準拠した誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)により測定することができる。
(集合組織)
本実施形態による無方向性電磁鋼板は、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が0〜15.0であり、かつ、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0〜200である。これにより、圧延軸RDに対して45°傾斜した方向において、十分な磁束密度が得られる。
−{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比−
鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比とは、X線回折測定において、特定方位への集積を持たない標準試料(ランダム試料)の{100}<011>結晶方位のX線回折強度に対する、測定された電磁鋼板サンプルの{100}<011>結晶方位のX線回折強度の比である。つまり、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比は次式で示される。
X線ランダム強度比=(測定された電磁鋼板サンプルの{100}<011>結晶方位のX線回折強度)/標準試料の{100}<011>結晶方位のX線回折強度
鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比は、次の方法で測定できる。X線回折法によって測定されるα−Fe相の{200}、{110}、{310}、{211}の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function:ODF)から求める。X線回折法による測定は、電磁鋼板の板厚/4厚で行う。このとき、測定面は滑らかになるよう化学研磨等で仕上げる。
鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が15.0以下であれば、全周平均特性に優れ、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板が得られる。かかる観点から、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比の好ましい上限は12.0であり、さらに好ましくは8.0である。下限は、2.0以上が好ましい。
−{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比−
鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比とは、X線回折測定において、特定方位への集積を持たない標準試料(ランダム試料)の{411}<148>結晶方位のX線回折強度に対する、測定された電磁鋼板サンプルの{411}<148>結晶方位のX線回折強度の比である。つまり、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比は次式で示される。
X線ランダム強度比=(測定された電磁鋼板サンプルの{411}<148>結晶方位のX線回折強度)/標準試料の{411}<148>結晶方位のX線回折強度
鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0以上であれば、{100}<011>との組合せで全周平均特性に優れ、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板が得られる。一方、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が200超であれば、磁気異方性が大きくなり全周平均特性が劣化する。
かかる観点から、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比の好ましい下限は8.0であり、さらに好ましくは15.0である。一方、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比の好ましい上限は150であり、さらに好ましくは100である。
−{111}<112>結晶方位のX線ランダム強度比−
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、鋼板板面から板厚1/4の深さにおける{111}<112>結晶方位のX線ランダム強度比が7.0以下であることが好ましい。鋼板板面から板厚1/4の深さにおける{111}<112>結晶方位のX線ランダム強度比が7.0以下であれば、磁気特性が良好となる。かかる観点から、{111}<112>結晶方位のX線ランダム強度比上限は4.0であることがより好ましく、2.0であることがさらに好ましい。
なお、鋼板板面から板厚1/4の深さにおける{111}<112>結晶方位のX線ランダム強度比は次式で表される。
X線ランダム強度比=(測定された電磁鋼板サンプルの{111}<112>結晶方位のX線回折強度)/標準試料の{111}<112>結晶方位のX線回折強度
(板厚)
本実施形態による無方向性電磁鋼板の板厚は特に限定されない。本実施形態による無方向性電磁鋼板の好ましい板厚は、0.10〜0.30mmである。通常、板厚が薄くなれば、鉄損は低くなるものの、磁束密度が低くなる。本実施形態による無方向性電磁鋼板の板厚が0.10mm以上であれば、鉄損がより低く、かつ、磁束密度がより高くなる。一方、板厚が0.30mm以下であれば、低い鉄損を維持できる。したがって、本実施形態による無方向性電磁鋼板の好ましい板厚は、0.10〜0.30mmである。板厚の好ましい下限は0.15mmである。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、板厚が0.30mmと厚くても、高い磁束密度及び低い鉄損が得られる。
(用途)
上述の本実施形態による無方向性電磁鋼板は、磁気特性(高磁束密度及び低鉄損)が求められる用途に広く適用可能である。本実施形態による無方向性電磁鋼板の用途は、例えば、次のとおりである。
(A)電機機器に用いられるサーボモータ、ステッピングモータ、コンプレッサー
(B)電気ビークル、ハイブリッドビークルに用いられる駆動モータ。ここで、ビークルとは、自動車、自動二輪車、鉄道等を含む。
(C)発電機
(D)種々の用途の鉄心、チョークコイル、リアクトル
(E)電流センサー、等
本実施形態による無方向性電磁鋼板は、上記用途以外の用途にも適用可能である。本実施形態による無方向性電磁鋼板は特に、分割コアとしての利用に好適であり、さらに、1000Hz以上の高周波数域に適用される、電気ビークル又はハイブリッドビークルの駆動モータの分割コア等に好適である。
<無方向性電磁鋼板の製造方法>
本実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法の一例について説明する。本実施形態による無方向性電磁鋼板は、例えば、前述の化学組成を有するスラブを加熱して粗熱延し、続いて仕上げ熱延して熱延板とする熱間圧延工程と、前記熱延板を1パス目の冷延温度が80〜300℃となるように冷延して冷延板とする冷間圧延工程と、前記冷延板を焼鈍する仕上げ焼鈍工程とを経て製造することができる。
また、必要に応じて、熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に、熱延板を焼鈍する熱延板焼鈍工程、あるいは、熱延板を冷却する冷却工程を行ってもよいし、冷間圧延を複数回行う場合に冷間圧延工程途中の鋼板(冷延板)を焼鈍する中間焼鈍工程などを行ってもよい。
以下、各工程について説明する。なお、スラブの化学組成は、前述した無方向性電磁鋼板の化学組成と同様であるため、ここでの説明は省略する。
(熱間圧延工程)
まず、上述の化学組成を有するスラブを1000〜1200℃に加熱する。具体的には、スラブを加熱炉又は均熱炉に装入して、炉内にて加熱する。加熱炉又は均熱炉での上記加熱温度での保持時間は、例えば、30〜200分である。
スラブは周知の方法で製造される。例えば、転炉又は電気炉等で溶鋼を製造する。製造された溶鋼に対して脱ガス設備等で二次精錬して、上記化学組成を有する溶鋼とする。溶鋼を用いて連続鋳造法又は造塊法によりスラブを鋳造する。鋳造されたスラブを分塊圧延してもよい。
加熱されたスラブに対して、複数回パスの圧延を実施し、鋼板(熱延板)を製造する。すなわち、加熱したスラブを粗圧延し、続いて仕上げ圧延を行えばよい。ここで、「パス」とは、一対のワークロールを有する1つの圧延スタンドを鋼板が通過して圧下を受けることを意味する。熱間圧延は、例えば、一列に並んだ複数の圧延スタンド(各圧延スタンドは一対のワークロールを有する)を含むタンデム圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよいし、一対のワークロールを有するリバース圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよい。生産性の観点から、タンデム圧延機を用いて複数回の圧延パスを実施するのが好ましい。
熱間圧延工程における仕上げ圧延温度FTはAc3変態点を超える温度とすることが好ましい。
ここで、仕上げ圧延温度FTとは、熱間圧延工程において、最終パスの圧下を行う圧延スタンド出側での鋼板の表面温度(℃)を意味する。仕上げ圧延温度FTは、例えば、最終パスの圧下を行う圧延スタンド出側に設置された測温計により、測温可能である。なお、仕上げ圧延温度FT(℃)は、例えば、鋼板全長を圧延方向に10等分して10区分とした場合において、先端の1区分と、後端の1区分とを除いた部分の測温結果の平均値を意味する。
仕上げ圧延温度FTをAc3変態点超とした場合、熱間圧延における鋼板の組織はオーステナイト単相である。本実施形態における鋼板の化学組成において、Mn含有量は3.0%超であり、非常に高い。そのため、熱間圧延中において粒界の移動が極めて遅い。その結果、熱間圧延中において、ひずみが蓄積された加工オーステナイトが回復、再結晶することなく、維持される。したがって、熱間圧延の最終パスの圧延が完了した鋼板の組織においても、ひずみが蓄積された加工オーステナイトが維持されている。
(冷却工程)
熱間圧延工程後、冷間圧延工程を行うが、熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に熱延板を冷却する冷却工程を行うことが好ましい。冷却工程では、鋼板温度がAc3点超の熱延板を、200℃/s以上の冷却速度で3秒以内に600℃以下に冷却することが好ましい。熱間圧延工程の最終パスの圧延が完了した後のAc3点超の熱延板を上記のように冷却することで加工オーステナイトがフェライトに変態する。このとき、均質微細なミクロ組織が全厚で得られる。
なお、鋼板温度は、鋼板の表面温度(℃)を意味する。
電磁鋼板の熱間圧延設備ラインでは、熱間圧延機の下流に、冷却装置及び搬送ライン(例えば搬送ローラ)が配置されている。
熱間圧延機の最終パスを実施する圧延スタンドの出側には、鋼板の表面温度を測定する測温計が配置されている。また、圧延スタンドの下流に配置された搬送ローラにも、複数の測温計が搬送ラインに沿って配列されている。
冷却装置は、最終パスを実施する圧延スタンドの下流に配置されている。冷却装置の入側や搬送ラインには、測温計が配置されている。冷却装置は、例えば、周知の水冷装置であってもよいし、周知の強制空冷装置であってもよい。好ましくは、冷却装置は水冷装置である。水冷装置の冷却液は、水であってもよいし、水と空気の混合流体であってもよい。
熱間圧延工程において熱間圧延機によって圧延されたAc3点超の熱延板を、冷却工程として熱間圧延機の下流に配置された冷却装置によって、200℃/s以上の冷却速度で3秒以内に600℃以下に冷却されるように行う。
ここで、鋼板温度は、熱間圧延設備ラインにそれぞれ配置されている測温計により、熱間圧延工程における最終パスの圧延後の鋼板温度、並びに、最終パスの圧延から3秒後の鋼板温度を測定することができる。
冷却工程においてAc3点超の熱延板が200℃/s以上の冷却速度で3秒以内に600℃以下に冷却された後の冷却は特に限定されず、例えば、搬送ラインに搬送されながら大気中で放冷すればよい。
(熱延板焼鈍工程)
本実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法では、熱間圧延工程後、冷間圧延工程前に、焼鈍工程(一般的に熱延板焼鈍工程と呼ばれる)を実施してもよいが、熱延板焼鈍工程は行わないことが好ましい。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成は、上述のとおり、Mn含有量が高い。そのため、従前の電磁鋼板で実施されている熱延板焼鈍を実施すれば、Mnが粒界に偏析して、熱間圧延工程後の鋼板(熱延鋼板)の加工性が著しく低下する。したがって、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造する場合、熱間圧延工程終了後、熱延板焼鈍工程を省略して(つまり、熱延板焼鈍を実施することなく)、冷却工程、冷間圧延工程を順次実施することが好ましい。
なお、ここでいう焼鈍処理は、例えば、昇温温度がAc1変態点以下であって、300℃以上の熱処理を意味する。
(冷間圧延工程)
熱間圧延工程により製造された鋼板に対して、例えば、焼鈍工程は実施せず、冷却工程として上述の条件で冷却した後、冷間圧延工程を実施する。
冷間圧延は、例えば、一列に並んだ複数の圧延スタンド(各圧延スタンドは一対のワークロールを有する)を含むタンデム圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよい。また、一対のワークロールを有するゼンジミア圧延機等によるリバース圧延を実施して、1回パス又は複数回パスの圧延を実施してもよい。生産性の観点から、タンデム圧延機を用いて複数回パスの圧延を実施するのが好ましい。
冷間圧延工程では、複数回パスによって圧延を実施する場合、冷間圧延途中で焼鈍処理(中間焼鈍)を実施してもよいが、磁気特性の異方性が小さい無方向性電磁鋼板を得る観点から、中間焼鈍を実施せずに冷間圧延を実施することが好ましい。例えば、リバース圧延を実施して、複数回のパスにて冷間圧延を実施する場合、冷間圧延のパスとパスとの間に焼鈍処理を挟まずに複数回パスの冷間圧延を実施する。なお、リバース式の圧延機を用いて、1回のパスのみで冷間圧延を実施してもよい。また、タンデム式の圧延機を用いた冷間圧延を実施する場合、複数回のパス(各圧延スタンドでのパス)で連続して冷間圧延を実施する。
なお、中間焼鈍を行う場合は、例えば、中間焼鈍温度T1は500℃〜Ac1変態点未満とすることが好ましい。
冷間圧延工程における圧下率(冷延率)RRは、88%以上とすることが好ましい。
ここで、冷延率RRは、次のとおり定義される。
冷延率RR(%)=(1−冷間圧延工程での最終パスの冷間圧延後の鋼板の板厚/冷間圧延工程での1パス目の冷間圧延前の鋼板の板厚)×100
冷延率が88%以上となるように冷間圧延を行うことで、{411}<148>の再結晶集合組織が得られ易くなる。
また、複数回のパスで冷間圧延を行う場合、冷間圧延工程における1パス目の冷延温度が80〜300℃となるように冷間圧延を行うことが好ましい。
ここで、1パス目の冷延温度は、圧延機入側での鋼板幅中央温度を意味し、放射温度計などによって測温することができる。
1パス目の冷延温度を80℃以上とすれば、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比を4.0〜200にすることができる。一方、1パス目の冷延温度を300℃以下とすれば、表面性状の劣化もなく製造できる。かかる観点から、冷間圧延工程における1パス目の冷延温度は、80〜200℃とすることがより好ましく、100〜170℃とすることがさらに好ましい。
また、1パス目の冷延率RR1は30%以上とすることが好ましい。ここで、1パス目の冷延率RR1は、次のとおり定義される。
冷延率RR1(%)=(1−冷間圧延工程での1パス目の冷間圧延後の鋼板の板厚/冷間圧延工程での1パス目の冷間圧延前の鋼板の板厚)×100
1パス目の冷延率RR1が30%以上となるように冷間圧延を行うことで、{111}<112>結晶方位の発達を抑制することができる。
また、冷間圧延工程では、全周平均特性に優れ、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板を得る観点から、冷延板の鋼板板面から板厚の1/4の深さにおけるX線ランダム強度比が下記の関係を満たすことが好ましい。
(200)面強度>(211)面強度
すなわち、冷延板の鋼板板面から板厚の1/4の深さにおけるX線ランダム強度比が、(200)面強度が(211)面強度よりも大きくなるように冷間圧延を行なえば、{111}<112>結晶方位の発達を抑制することができる。
(仕上げ焼鈍工程)
冷間圧延工程後の鋼板(冷延板)に対して、仕上げ焼鈍を実施する。
仕上げ焼鈍工程では、α単相域で焼鈍することが好ましい。
−仕上げ焼鈍温度T2−
仕上げ焼鈍温度T2は、例えば700〜900℃とする。
仕上げ焼鈍温度T2が700℃以上であれば、再結晶組織となり、900℃以下であれば、{411}<148>結晶方位が発達する。かかる観点から、仕上げ焼鈍温度T2は好ましくは750〜850℃である。
ここで、仕上げ焼鈍温度T2(℃)は、焼鈍炉の抽出口近傍での板温(鋼板表面の温度)とする。焼鈍炉の炉温は、焼鈍炉抽出口に配置された測温計により測定することができる。
なお、仕上げ焼鈍工程における仕上げ焼鈍温度T2までの昇温速度は、当業者に周知の昇温速度であればよく、仕上げ焼鈍温度T2での保持時間Δt2も当業者に周知の時間であればよい。
仕上げ焼鈍工程時の雰囲気は特に限定されない。仕上げ焼鈍工程時の雰囲気には、例えば、20%Hを含有し、残部がNからなる雰囲気ガス(乾燥)を用いる。仕上げ焼鈍後の鋼板の冷却速度は特に限定されない。冷却速度は、例えば、5〜20℃/秒である。
−保持時間Δt2−
仕上げ焼鈍工程での仕上げ焼鈍温度T2での好ましい保持時間Δt2は10〜120秒である。保持時間Δt2が10秒以上であれば平坦度の良い鋼帯が製造でき、120秒以下であれば生産性を阻害することはない。
かかる観点から、保持時間Δt2のさらに好ましい下限は12秒であり、さらに好ましくは15秒である。保持時間Δt2のさらに好ましい上限は100秒であり、さらに好ましくは90秒である。
ここで、保持時間Δt2(秒)は、鋼板温度が仕上げ焼鈍温度となってからの保持時間を意味する。
−昇温速度TR2−
仕上げ焼鈍工程での仕上げ焼鈍温度T2までの好ましい昇温速度TR2は0.1〜10.0℃/秒未満とする。昇温速度TR2が0.1〜10.0℃/秒であれば、所定の結晶方位制御が得やすくなる。
昇温速度TR2は、次の方法により求める。上記化学組成を有し、上記熱間圧延工程から冷間圧延工程まで実施して得られた鋼板に熱電対を取り付けて、サンプル鋼板とする。熱電対を取り付けたサンプル鋼板に対して昇温を実施して、昇温を開始してから仕上げ焼鈍温度T2に到達するまでの時間を測定する。測定された時間に基づいて、昇温速度TR2を求める。
以上の製造工程により、前述した化学組成を有し、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が0〜15.0であり、かつ、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0〜200である無方向性電磁鋼板を製造することができる。本実施形態の無方向性電磁鋼板は、一体打ち抜き型のモータコアに利用するのに十分な高い磁束密度と、800Hzの高周波数域における鉄損の低減が可能である。
(その他の工程)
なお、本実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記製造工程に限定されず、さらに他の工程を施してもよい。
例えば、熱間圧延工程後であって、冷間圧延工程前に、ショットブラスト工程及び/又は酸洗工程を実施してもよい。ショットブラスト工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対してショットブラストを実施して、熱間圧延工程後の鋼板の表面に形成されているスケールを破壊して除去する。酸洗工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して酸洗処理を実施する。酸洗処理は、例えば、塩酸水溶液を酸洗浴として利用する。酸洗により鋼板の表面に形成されているスケールが除去される。熱間圧延工程後であって、冷間圧延工程前に、ショットブラスト工程を実施して、次いで、酸洗工程を実施してもよい。また、熱間圧延工程後であって冷間圧延工程前に、酸洗工程を実施して、ショットブラスト工程を実施しなくてもよい。また、熱間圧延工程後であって冷間圧延工程前に、ショットブラスト工程を実施して、酸洗処理を実施しなくてもよい。
本実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法はさらに、仕上げ焼鈍工程後にコーティング工程を実施してもよい。コーティング工程では、仕上げ焼鈍工程後の鋼板の表面に、絶縁コーティングを施す。
絶縁コーティングの種類は特に限定されない。絶縁コーティングは有機成分であってもよいし、無機成分であってもよい、絶縁コーティングは、有機成分と無機成分とを含有してもよい。無機成分は、例えば、重クロム酸−ホウ酸系、リン酸系、シリカ系等である。有機成分は、例えば、一般的なアクリル系、アクリルスチレン系、アクリルシリコン系、シリコン系、ポリエステル系、エポキシ系、フッ素系の樹脂である。塗装性を考慮した場合、好ましい樹脂は、エマルジョンタイプの樹脂である。加熱及び/又は加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施してもよい。接着能を有する絶縁コーティングは、例えば、アクリル系、フエノール系、エポキシ系、メラミン系の樹脂である。
なお、コーティング工程は任意の工程である。したがって、仕上げ焼鈍工程後にコーティング工程を実施しなくてもよい。
なお、本実施形態による無方向性電磁鋼板は、上述の製造方法に限定されない。前述した化学組成を有し、鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が0〜15.0となり、かつ、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0〜200である無方向性電磁鋼板を製造することができれば、上記製造方法に限定されない。
以上、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板について説明したが、本発明は、上記に限定されるものではない。上記は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例を例示して、本実施形態の具体例を説明する。なお、本実施形態は、以降に説明する実施例に限定されない。
[無方向性電磁鋼板の製造]
表1の化学組成を有する溶鋼を製造した。
表1中の空白部分は、その元素の含有量が不純物レベルであったことを示す。なお、各鋼種におけるN、S、Pは不純物として含まれている。また、鋼種B6以外のCは不純物として含まれており、鋼種A7のAlは不純物として含まれている。
溶鋼を用いて製造したスラブを加熱炉に装入し、1180℃に加熱した。
熱間圧延工程として、加熱後のスラブを粗熱間圧延し、続いて仕上げ圧延して、板厚1.6〜3.5mmの熱延鋼板を製造した。
仕上げ圧延後、1パス目の冷延温度が60〜300℃となるように冷延して冷延板とした。
次いで、冷延板を焼鈍する仕上げ焼鈍を行った。
各工程における条件を後述の表2に示す。
以上の製造工程を経て、表2に示す各試験番号の無方向性電磁鋼板を製造した。なお、製造された無方向性電磁鋼板に対して、前述のICP−MS法により化学組成を分析した。その結果、各鋼種の化学組成は、表1に示す値と同じであった。
[評価試験]
各試験番号の電磁鋼板に対して、次の評価試験を実施した。
(集合組織の測定)
−X線ランダム強度測定−
各試験番号の鋼板からサンプルを採取し、1/4厚面を鏡面研磨した。X線回折法によって測定されるα−Fe相の{200}、{110}、{310}、{211}の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function:ODF)から求める。
得られたODFから、{100}<011>結晶方位、{411}<148>結晶方位、及び{111}<112>結晶方位のそれぞれのX線ランダム強度比を求めた。
図2は、発明例における無方向性電磁鋼板の結晶方位分布関数(ODF)の一例を示している。{411}<148>結晶方位が強く表れている。
−冷延板の(200)面強度及び(211)面強度−
冷間圧延工程後の鋼板(冷延板)からサンプルを採取し、以下の手順により、(200)面強度及び(211)面強度を求めた。
各試験番号の冷延板からサンプルを採取し、表面を鏡面研磨した。X線回折法によって(200)、(211)面強度(=ランダム強度比)を得た。
(磁気特性の測定)
−全周平均特性−
各試験番号の電磁鋼板から、打ち抜き加工により、55mm×55mmの単板試験片を作製し、下記の方法により、鉄損および磁束密度についての全周平均特性を測定した。
圧延方向に平行な辺を有する55mm角単板試験片と圧延方向と45°の辺を有する55mm角単板試験片をそれぞれ4枚作製し、縦型ダブルヨークの単板磁気測定試験枠を用いて、各方向の鉄損W10800(800Hz、1.0Tでの鉄損)およびB50(5000A/mでの磁束密度)を測定した。有効磁路長はヨークの内寸(例えば、45mmとした)とする。圧延方向の特性値(L)、圧延直角方向の特性値(C)、圧延45°方向の特性値(D)により、次式で計算し、全周平均特性とした。
全周平均特性=(L+C+2D)/4)
鉄損W10800の全周平均特性は、45.0W/kg以下であれば、合格とした。磁束密度B50の全周平均特性は、1.60T以上であれば合格とした。
−磁気異方性−
50に関し、上記L、CおよびDの最大値をBmax、上記L、CおよびDの最小値をBminとして、
磁気異方性=(Bmax−Bmin)/(B50の全周平均)
により磁気異方性を求める。
磁気異方性は、1.10以下であれば合格とした。
[評価結果]
各試験番号の電磁鋼板について製造条件及び評価結果を表2に示す。
表2に示す評価結果から、発明例の電磁鋼板は全周平均特性及び磁気異方性がいずれも合格レベルであり、全周平均特性が高く、かつ磁気異方性が小さい無方向性電磁鋼板が得られた。
一方、比較例の電磁鋼板は、全周平均特性又は磁気異方性の少なくとも一方が合格とならず、全周平均特性及び磁気異方性が両立した無方向性電磁鋼板とはならなかった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
1 無方向性電磁鋼板
10 鋼板板面
20 板厚の中間面
T 板厚

Claims (3)

  1. α−γ変態系であり、化学組成が、質量%で、
    Si:2.0〜4.5%、
    Mn:3.0超〜5.0%、並びに、
    残部:Fe、任意元素及び不純物元素、であり、
    鋼板板面から板厚の1/4の深さにおける{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が0〜15.0であり、かつ、{411}<148>結晶方位のX線ランダム強度比が4.0〜200である、無方向性電磁鋼板。
  2. 前記鋼板板面から前記板厚の1/4の深さにおける{111}<112>結晶方位のX線ランダム強度比が、7.0以下である、請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
  3. 前記板厚が、0.10〜0.30mmである、請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
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