JP2018168413A - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法、並びにモータコアおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
駆動モータの小型化の需要に伴い、モータは高トルク化が必要である。そのため、無方向性電磁鋼板には、磁束密度のさらなる向上が要求されている。
また、自動車に搭載する電池容量には制限があることから、モータにおけるエネルギー損失を低くする必要がある。そのため、無方向性電磁鋼板には、さらなる低鉄損化が求められている。
このような特性に対応する無方向性電磁鋼板として、例えば、特許文献1、2に開示されるように、無方向性電磁鋼板の板面内における圧延方向および圧延直角方向の磁気特性を向上させる鋼板が提案されている。
これに対して、例えば、鋼板を硬質化または結晶粒を微細化することで、打ち抜き精度を改善する技術が特許文献3〜5に開示されている。
しかし、歪取り焼鈍は、歪を解放して鉄損を改善する効果が得られる一方で、同時に磁気特性にとって好ましくない結晶方位が発達し磁束密度が低下してしまうことがある。そのため、特に高い磁気特性が求められる場合には、歪取り焼鈍での磁束密度低下の回避が求められている。
例えば、特許文献10では、仕上げ焼鈍時の加熱速度を5℃/sec〜40℃/secとすることが有効であることが示されている。また、特許文献11では、740℃までの加熱速度を100℃/sec以上に早めることでセミプロセス用の磁気特性を改善した技術が開示されている。
C:0.0030%以下、
Si:0.01%〜3.50%、
Al:0.001%〜2.500%、
Mn:0.01%〜3.00%、
P:0.180%以下、
S:0.0030%以下、並びに
残部:Feおよび不純物を含有する化学組成を有し、
板厚1/10〜板厚1/5の中間層における{223}<252>方位の集積度が6以下である無方向性電磁鋼板。
<2> 鋼板表面から板厚1/10までの表面層における{100}<001>方位の集積度が6以上である<1>に記載の無方向性電磁鋼板。
<3> 前記表面層において、{100}<001>方位の集積度(MI001)と、{100}<011>方位の集積度(MI011)との比が、
MI001/MI011>1.0
の関係を満たす<1>または<2>に記載の無方向性電磁鋼板。
<4> 磁化力5000A/mで励磁した場合の圧延方向と圧延直角方向の平均の磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)が0.890以上である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
<5> 熱処理を実施する前の鋼板の磁束密度をBA、並びに加熱速度が100℃/hr、最高到達温度が800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で熱処理を実施した後の鋼板の磁束密度をBBとしたとき、前記BBと前記BAとの比が、BB/BA≧0.980の関係を満足する<1>〜<4>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
<6> <1>に記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の鋼板に、冷間圧延する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後の鋼板に仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と
を有し、
前記熱間圧延工程において、下記(a)および(b)の少なくとも1つの条件を満足する<1>〜<5>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(a)鋼板の表面温度Tsと板厚中心温度Tcとの差を50℃以上として仕上げ熱延を開始する
(b)(パスの前半で鋼板に付与する歪量σ1)/(パスの後半で鋼板に付与する歪量σ2)≧1.5の条件を満足するように、複数パスを連続して仕上げ圧延を行う
<7> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板を積層したモータコア。
<8> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板に、打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る工程と、
前記打ち抜き部材を積層する工程と、
を有する、モータコアの製造方法。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、表面層とは、鋼板表面から板厚1/10までの領域を示す。中間層とは、板厚1/10から板厚1/5までの領域を示す。中心層とは、板厚1/5から板厚1/2までの領域を示す。
(結晶方位の特徴)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.0030%以下、Si:0.01%〜3.50%、Al:0.001%〜2.500%、Mn:0.01%〜3.00%、P:0.180%以下、S:0.0030%以下、並びに、残部:Feおよび不純物を含有する化学組成を有する。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上記特性を有することで、分割コア向けに、圧延方向および圧延直角方向の二つの方向の磁気特性、および打ち抜き加工精度に優れ、さらに、歪取り焼鈍を施した後であっても優れた磁気特性を有する(以下、この特性を「分割コア向け特性」と称する場合がある。)。これについて以下に説明する。
{223}<252>方位は、磁気特性にとって好ましくない{111}方位に比較的近い方位である。{223}<252>方位は、当然低減するように抑制すべき方位である。また、{223}<252>方位の集積度は、板厚の中間層で変化が大きくなる。
したがって、本実施形態の無方向性電磁鋼板では、中間層における{223}<252>方位の集積度を規定している。
{223}<252>方位の集積は、鋼板製造工程の特に熱間圧延工程での剪断変形と関連しており、熱間圧延での剪断変形は主として中間層において強く作用することによる。詳細は後述する。
また、{223}<252>方位は、単に磁気特性にとって好ましくない方位というだけでなく、分割コア向けの材料として適用することを考慮しても好ましいものではない。 本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては分割コア向けの材料として、圧延方向および圧延直角方向の二つの方向の磁気特性が良好なものを想定している。しかしながら、{223}<252>方位はこれらの二つの方向の特性向上にとって有利な方向とは言えない。このため、中間層における{223}<252>方位の集積度が6超では、分割コア向けの良好な磁気特性を得ることが困難となる。好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。中間層における{223}<252>方位の集積度の下限値は、特に限定さないが、例えば1以上が挙げられる。もちろん、中間層における{223}<252>方位の集積が回避できれば、この方位の集積度は0でも構わない。
しかしながら、本実施形態の無方向性電磁鋼板は、中間層に存在する磁気特性に好ましくない{223}<252>方位が低減されている。その結果、歪取り焼鈍により粒成長させた場合であっても、磁気特性の低下を抑制することができるものと考えられる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、上述のように粒成長において発達しやすい{223}<252>方位を抑制したため、結果として{100}方位が発達するようになる。ただし、{100}<011>方位ではなく、{100}<001>方位が発達する。これにより鋼板の圧延方向および圧延直角方向の磁気特性が向上し、分割コア用途に好ましい面内異方性を示す。
従来は、中間層での{223}<252>方位の粒成長に伴い、表面層の{100}<001>方位は蚕食されていた。これに対し、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、中間層の{223}<252>方位の集積が抑制されているため、表面層の{100}<001>方位が発達しやすくなったものと考えられる。
このため、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては、表面層における{100}<001>方位の集積度を6以上とすることがよい。好ましくは9以上、より好ましくは12以上である。なお、表面層における{100}<001>方位の集積度の上限は特に限定されないが、例えば、40以下であることが挙げられる。
この粒成長における結晶方位の選択性は、特に、低い加熱速度で追加の熱処理をした場合に顕著となり、再結晶粒の成長に伴う磁束密度の低下を抑制することができることとも関連していると考えられる。これについては、詳細は後述する。
{100}方位の面内の集合組織変化が、上記関係となることで、分割コア用途に好ましい面内異方性を有する鋼板を得ることが可能となる。好ましくはMI001/MI011が2.0以上、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは8.0以上である。
各測定用試験片について、X線回折装置により、{200}面、{110}面、{211}面の極点図を測定し、各層における結晶方位分布関数ODF(Orientation Determination Function)を作成する。この結晶方位分布関数に基づき、各層における各方位の集積度を得る。
Cは、鉄損を高める成分であり、磁気時効の原因ともなるので、Cの含有量は少ないほどよい。そのため、Cの含有量は0.0030%以下とする。C量の好ましい上限は0.0025%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。Cの含有量の下限は特に限定されないが、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはCの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
Siは含有量が増えると、磁束密度が低下し、かつ硬度の上昇を招いて、打ち抜き加工性を劣化させる。また、無方向性電磁鋼板の製造工程そのものにおいても、冷延等の作業性の低下が生じ、及びコスト高となる。そのため、Siの含有量の上限は3.50%以下とする。Si量の好ましい上限は3.20%以下、より好ましい上限は3.00%以下である。一方、Siは、鋼板の電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させ、鉄損を低減する作用を有する。そのため、Si量の下限は0.01%以上とする。Si量の好ましい下限は0.10%以上、より好ましい下限は0.50%以上、さらには1.00%以上とすることがよい。
Alは、鉱石や耐火物から不可避的に含有され、また脱酸にも使用される。これを考慮して下限を0.001%以上とする。また、Alは、Siと同様に、電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させることにより、鉄損を低減する作用のある成分である。そのため、Alは0.200%以上含有させてもよい。一方、Alの含有量が増加すると、飽和磁束密度が低下して磁束密度の低下を招くため、Al量の上限は2.500%以下とする。好ましくは2.000%以下である。
Mnは電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させるとともに、結晶粒成長に有害なMnS等の微細硫化物の析出を抑制する。これらの目的のためにMnを0.01%以上含有させる。Mn量の好ましい下限は0.15%以上である。しかし、Mnの含有量が増加すると、焼鈍時の結晶粒成長性が低下し、鉄損が増大する。そのため、Mnの含有量の上限は3.0%以下とする。Mn量の好ましい上限は2.50%以下、より好ましくは2.00%以下である。
Pは磁束密度を低下させることなく強度を高める作用がある。しかし、Pが過剰に含有すると鋼の靱性を損ない、鋼板に破断が生じやすくなる。そのため、P量の上限は0.180%とする。鋼板の破断を抑制する点では、P量は少ないほうがよい。P量の好ましい上限は0.150%以下、より好ましくは0.120%以下、さらに好ましくは0.080%以下である。P量の下限は特に限定しないが、製造コストも考慮すると0.001%以上となる。
Sは、MnS等の硫化物の微細析出により、仕上げ焼鈍時等における再結晶および結晶粒成長を阻害するので、0.0030%以下とする。S含有量の好ましい上限は0.0020%以下、より好ましくは0.0015%以下である。Sの含有量の下限は特に限定されないが、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはSの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
鋼板の残部は、Feおよび不純物元素である。ここで、不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。
無方向性電磁鋼板の絶縁皮膜等を除去する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
まず、絶縁皮膜等を有する無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、硫酸水溶液(H2SO4:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で3分間、浸漬する。その後、硝酸水溶液(HNO3:10質量%+H2O:90質量%)によって、常温(25℃)で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。これにより、後述の絶縁皮膜が除去された鋼板を得ることができる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、分割コア用として圧延方向および圧延直角方向の二つの方向に優れた磁気特性を有する点で、磁化力5000A/mで励磁した場合の、圧延方向とその直角方向の平均の磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)が0.890以上であることがよい。好ましくは0.900以上、より好ましくは0.905以上、さらに好ましくは0.910以上である。上限は特に限定されないが、1に近いほどよく、例えば、0.980以下が挙げられる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、前述の通り、中間層{223}<252>方位の集積度を通常の鋼板よりも低くしている。これにより、無方向性電磁鋼板の打ち抜き加工精度にも好ましい特性を発揮している。この理由は明確ではないが、以下のように考えている。
{111}方位に近い{223}方位は加工硬化が大きいため、打ち抜きの際に、塑性変形領域が破断面から鋼材内部側に広がり、鋼材が引き伸ばされて変形した領域が大きくなる。このため、{223}方位の集積度が高い鋼板は加工精度が低下しやすいと考えられる。したがって、打ち抜き精度を高めるためには、{223}<225>方位の集積度を低減することが有効に働くと考えられる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、特に、低い加熱速度で追加の熱処理(歪取り焼鈍)をした場合であっても、再結晶粒の成長の際に生じていた磁束密度の低下を抑制することができるものである。
追加の熱処理を実施する前の鋼板の磁束密度をBA、並びに加熱速度が100℃/hr、最高到達温度が800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で熱処理を実施した後の鋼板の磁束密度をBBとしたとき、BBとBAとの比が、BB/BA≧0.980(好ましくはBB/BA≧0.985、より好ましくはBB/BA≧0.990)の関係を満足することができる。
なお、BB/BAの上限は特に定めないが、追加熱処理により特性劣化がない(つまり、BB/BA=1.00)ことは、目標とする基準でもある。ただし、本実施形態の無方向性電磁鋼板において、結晶方位を板厚方向の変化を考慮して好ましく制御しているため、磁気特性にとって好ましい方位が優先的に成長し、BB/BAが1.00を超えることもある。
ここで、追加の熱処理を実施する前および後の磁束密度BAおよびBBの測定方法は、前述のB50と同じである。
上記では粒成長における結晶方位の好ましい選択の効果を80μm前後での方位変化により説明したが、この効果は、例えば、仕上げ焼鈍において(急速加熱焼鈍において)、80μm超、例えば100μmまたはそれ以上とした鋼板においても、そこからのさらなる粒成長、例えば200μmまたはそれ以上とする際の好ましい方位選択性が失われるものではない。
一方、例えば、仕上げ焼鈍において(急速加熱焼鈍において)、粒径が20μm未満、例えば未再結晶組織が残存したような鋼板を、そこからの再結晶の進行および粒成長、例えば50μm程度まで成長させる場合についても、好ましい方位選択性が失われるものではない。
上記絶縁皮膜の厚みは、特に限定されないが、片面当たりの膜厚として0.05μm〜2μmであることが好ましい。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、前述のように、熱延での仕上げ圧延の温度条件およびパススケジュールを特定の条件で制御することで得られる。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の好ましい製造方法の一例としては、下記の方法が挙げられる。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の好ましい製造方法の一例について説明する。
そして、熱間圧延工程において下記(a)および(b)のうちの少なくとも1つの条件を満足する。
(a)鋼板の表面温度Tsと板厚中心温度Tcとの差を50℃以上として仕上げ熱延を開始する
(b)(パスの前半で鋼板に付与する歪量σ1)/(パスの後半で鋼板に付与する歪量σ2)≧1.5の条件を満足するように、複数パスを連続して仕上げ圧延を行う
熱延前のスラブの加熱温度は特に限定されるものではないが、コスト等の観点から1000℃〜1300℃とすることがよい。
仕上げ熱延の温度条件およびパススケジュールの少なくとも一方の条件は、熱延後、さらに冷間圧延を施し、仕上げ焼鈍により再結晶させた鋼板の中間層における{223}<252>方位の集積度を抑制するために有効な制御因子となり得る。
ここで、本明細書中において、「表面温度Ts」とは、接触式の温度計あるいは放射温度計によって測定した温度を意味する。また、本明細書中において、「板厚中心温度Tc」とは、通常公知の差分法による熱伝導解析により求めた温度を意味する。
一般的に、温度が高くなると鋼板は軟質になるため、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法のように鋼板の表面温度を板厚中心温度よりも相対的に高くした状態で圧延すれば、表層および中間層は、鋼板の中心層よりも変形しやすくなると考えられる。このため、中間層での剪断変形が抑制され、本来出現すべき{223}<252>方位の核発生が抑制されたと考えられる。
なお、鋼板の温度を中間層の温度との差でなく表面温度との差で規定しているのは、測定上の容易さを考慮してのものである。
ここで、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法において、「パスの前半で鋼板に付与する歪量σ1」とは、nを1以上の自然数とし、パスの総数が、偶数の場合を2n、奇数の場合を2n+1としたとき、1パス目の入り側から、nパスの出側までに鋼板に付与される真歪を意味する。
同様に「パスの後半で鋼板に付与する歪量σ2」とは、nを1以上の自然数とし、パスの総数が偶数2nの場合はn+1パス目の入り側から、最終パス(2n)の出側までに鋼板に付与される真歪を意味する。また、パスの総数が奇数2n+1の場合は、n+2パス目の入り側から、最終パス(2n+1)の出側までに鋼板に付与される真歪を意味する。
つまり、仕上げ圧延のパスの総数が4である場合、パスの前半で鋼板に付与する歪量σ1とは、1パス目の入り側から、2パスの出側までに鋼板に付与される真歪であり、パスの後半で鋼板に付与する歪量とは、3パス目の入り側から、4パスの出側までに鋼板に付与される真歪を表す。
同様に、仕上げ圧延のパスの総数が7である場合、パスの前半で鋼板に付与する歪量σ2とは、1パス目の入り側から、3パスの出側までに鋼板に付与される真歪であり、パスの後半で鋼板に付与する歪量とは、5パス目の入り側から、7パスの出側までに鋼板に付与される真歪を表す。
(パスの前半で鋼板に付与する歪量σ1)/(パスの後半で鋼板に付与する歪量σ2)≧1.5とすることには二つの側面がある。一つはパス前半での歪量を相対的に大きくするという側面である。もう一つはパス後半での歪量を相対的に小さくするという側面である。
パス前半での歪量を相対的に大きくするという観点では、仕上げ圧延の前半で付与する歪量が多い場合に、中間層での{223}<252>方位の抑制効果が大きく働くことによると考えられる。特に、パス前半では、板厚が厚く、板厚方向の温度差を維持しやすい。そのため、前述のTs−Tcの値が大きく、仕上げ圧延の前半で付与する歪量が多い場合に、中間層での{223}<252>方位の抑制効果がより大きく働くことによると考えられる。
一方、パス後半での歪量を相対的に小さくするという観点では、板厚が薄く、板厚方向の温度差を維持しにくい、仕上げ圧延の後半で付与する歪量は、中間層での{223}<252>方位の制御のためにあえて活用する利点が小さいということになる。
次に、熱延後の鋼板に冷延を施す。冷延の圧下率は特に限定されない。一般的な条件として、冷延は、熱延後の鋼板に対して、冷延工程における合計圧下率(冷延の全圧下率)で80%以上(好ましくは85%以上)となるように施すことがよい。特に薄手の電磁鋼板とするのであれば、全圧下率は90%以上とすることができる。冷延の全圧下率の上限は、圧延機の能力や板厚精度など製造管理を考慮すれば、95%以下であることが好ましい。
次に、冷延後の鋼板に仕上げ焼鈍を施す。仕上げ焼鈍工程における加熱条件は、特に限定されない。
仕上げ焼鈍の均熱温度は、仕上げ焼鈍ままで十分に低い鉄損とする場合には、800℃〜1200℃の範囲とすることがよい。均熱の下限温度は、再結晶温度以上の温度であればよいが、800℃以上とすることで、十分な粒成長を起し、鉄損を低下させることができる。この観点では、好ましくは850℃以上である。
また、最終的に歪取り焼鈍などの徐加熱による追加熱処理を行って結晶粒を成長させるのであれば、追加熱処理後の鉄損は低くできるので、仕上げ焼鈍の均熱温度を粒成長の観点では十分とは言えない800℃未満としていても問題はない。この場合は、追加熱処理により磁束密度が劣位となることを回避する効果が顕著に発揮される。この場合、一部に未再結晶組織が残存していても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特徴的な結晶方位を有することが可能であり、下限温度としては、例えば、640℃以上が挙げられる。仕上げ焼鈍温度を低くして、微細な結晶組織または一部未再結晶組織とした鋼板は、強度が高いので、高強度無方向性電磁鋼板としても有用である。
一方、均熱温度の上限は、焼鈍炉の負荷を考慮し1200℃以下とすることがよく、好ましくは1050℃である。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板をモータコアとして適用した場合について説明する。
本実施形態に係るモータコアは、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を積層した形態が挙げられる。具体的には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を打ち抜いて、打ち抜き部材(鋼板ブランク)を作成し、この打ち抜き部材を積層一体化したモータコアが挙げられる。例えば、本実施形態に係るモータコアは、一例として、図1に示すモータコアが挙げられる。
本実施形態に係るモータコアの製造方法は、特に限定されず、通常工業的に採用されている製造方法によって製造すればよい。
以下、本実施形態に係るモータコアの好ましい製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係るモータコアの好ましい製造方法の一例は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板に、打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る打ち抜き工程と、打ち抜き部材を積層する積層工程と、を有する。
まず、本実施形態の無方向性電磁鋼板を、目的に応じて、ティース部とヨーク部とを有する所定の形状に打ち抜き、積層枚数等に応じて、所定の枚数の打ち抜き部材を作製する。無方向性電磁鋼板を打ち抜いて、打ち抜き部材を作成する方法は特に限定されず、従来公知のいずれの方法を採用してもよい。
なお、打ち抜き部材は、所定の形状に打ち抜かれるときに、打ち抜き部材を積層して固定するための凹凸部を形成してもよい。
打ち抜き工程で作成した打ち抜き部材を積層することによりモータコアが得られる。具体的には、ティース部とヨーク部とを有する所定の形状の分割コア用の打ち抜き部材を、所定枚数組み合わせて円環状に連結させ、これを積層する。
なお、積層した打ち抜き部材を固定する方法は、特に限定されず、従来公知のいずれの方法を採用してもよい。例えば、打ち抜き部材に、公知の接着剤を塗布して接着剤層を形成し、接着剤層を介して固定してもよい。また、かしめ加工を適用して、各々の打ち抜き部材に形成された凹凸部を機械的に相互に嵌め合わして固定してもよい。
この熱処理を行うことで、モータコアは、不要な歪が解放され、低鉄損化が図られ得る。そして、本実施形態のモータコアは、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を用いているため、熱処理後においても、高磁束密度が維持され、優れたモータコアが得られる。
表1に示す化学組成のスラブを、厚みが40mmになるように粗熱延を施す。その後、表1に示す温度で仕上げ熱延を施す。また、仕上げ熱延は、圧延パスの前半で鋼板に付与する歪量σ1」/「後半で鋼板に付与する歪量σ2」(「前半歪量σ1/後半歪量σ2」と表記)、および表面温度Tsと板厚中心温度Tcとの差(Ts−Tcと表記)が表1に示す値となるように行う。仕上げ熱延後の鋼板に、表1に示す合計圧下率(合計冷延率と表記)で冷延する。仕上げ熱延の板厚は、表1の合計冷延率による冷延後の鋼板の板厚が、すべて0.35mmとなるように調整する。冷延後の鋼板に、表1に示す均熱温度で仕上げ焼鈍を施して(均熱の保持時間はいずれも30secである。)、鋼板を得る。
また、圧延方向と圧延直角方向の平均の磁束密度B50、磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)、及び鉄損(W10/400)について測定する。さらに、既述の方法に従って、平均結晶粒径(粒径)について測定する。
また、得られた鋼板のうち、仕上げ焼鈍の均熱温度を比較低温とした材料について、加熱速度が100℃/hr、最高到達温度800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で、歪取り焼鈍を施し、低加熱速度での追加熱処理による磁束密度(BB/BA)の変化を評価する。その結果を表2に示す。
また、圧延方向(0°)と圧延直角方向(90°)の平均の鉄損は、圧延方向と圧延直角方向の平均の磁束密度B50を測定した方向と同じ方向を測定したときの平均値であり、最大磁束密度1.0T、周波数400Hzの条件下での鉄損(W10/400)として測定する。
なお、表中、BBはSRA後の磁束密度を、BAはSRA前の磁束密度を、それぞれ表す。
Claims (8)
- 質量%で、
C:0.0030%以下、
Si:0.01%〜3.50%、
Al:0.001%〜2.500%、
Mn:0.01%〜3.00%、
P:0.180%以下、
S:0.0030%以下、並びに
残部:Feおよび不純物を含有する化学組成を有し、
板厚1/10〜板厚1/5の中間層における{223}<252>方位の集積度が6以下である無方向性電磁鋼板。 - 鋼板表面から板厚1/10までの表面層における{100}<001>方位の集積度が6以上である請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
- 前記表面層において、{100}<001>方位の集積度(MI001)と、{100}<011>方位の集積度(MI011)との比が、
MI001/MI011>1.0
の関係を満たす請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。 - 磁化力5000A/mで励磁した場合の圧延方向と圧延直角方向の平均の磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)が0.890以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
- 熱処理を実施する前の鋼板の磁束密度をBA、並びに加熱速度が100℃/hr、最高到達温度が800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で熱処理を実施した後の鋼板の磁束密度をBBとしたとき、前記BBと前記BAとの比が、BB/BA≧0.980の関係を満足する請求項1〜4のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
- 請求項1に記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の鋼板に、冷間圧延する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後の鋼板に仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と
を有し、
前記熱間圧延工程において、下記(a)および(b)の少なくとも1つの条件を満足する請求項1〜5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(a)鋼板の表面温度Tsと板厚中心温度Tcとの差を50℃以上として仕上げ熱延を開始する
(b)(パスの前半で鋼板に付与する歪量σ1)/(パスの後半で鋼板に付与する歪量σ2)≧1.5の条件を満足するように、複数パスを連続して仕上げ圧延を行う - 請求項1〜5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板を積層したモータコア。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板に、打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る工程と、
前記打ち抜き部材を積層する工程と、
を有する、モータコアの製造方法。
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