JP3711248B2 - 鉄損特性の優れた溶接鉄芯 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接により固着されたモータやトランス等に用いる鉄芯に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、省エネルギーの観点から各種電気機器の効率向上が求められている。電機機器の効率は各種要因に影響されるが、モータやトランスの鉄芯で発生する損失である鉄損は比較的大きな比重を占めており、従って最近ではより鉄損の少ない電磁鋼板が使用される場合が増加している。
【0003】
このような電磁鋼板を用いて、モータやトランス等の積層鉄芯を製造する方法としては、鋼板を打抜き、所定枚数を単位鉄芯として積層し、ボルト締め、カシメ、溶接を用いて固着するのが一般的である。このように固着された積層鉄芯は、巻線コイルの組立て工程を経て、最終的にモータやトランスの一部品として組み込まれる。
ところが、溶接により固着した積層鉄芯の鉄損特性を電磁鋼板自体のそれと比較した場合、積層鉄芯の鉄損特性は劣っており、鋼板自体の鉄損特性を活かされていないのが現状である。
【0004】
鉄芯の溶接方法については、これまでに様々述べられている。例えば特開平11−186059号公報が挙げられる。該公報には磁束の流れにくい鉄芯の外周側を溶接することを狙いとして、溶接位置と数を規定して鉄損向上を図る技術が開示されている。
しかし、外周側に溶接を実施したとしても、溶接前の鉄損特性と比べた場合、大幅に劣化している場合もあり、問題であった。さらに、特開平11−186059号公報に記載の比較例と発明例を比較すると、溶接数が異なり、実際に同じ溶接個数で内周側溶接と外周側溶接を行った場合、その効果が明確に得られないという問題もあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これまで述べてきたように、溶接した鉄芯は、溶接前の鉄芯自体が有する鉄損特性と比べて大きな劣化があった。
本発明は、溶接箇所や溶接個数に関係無く、溶接ビード形状やビード品質を規定することによって、溶接前の鉄損特性と比べた場合、極めて僅かな劣化に抑えることを可能とする、鉄損特性の優れた溶接鉄芯を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の特徴とするところは、以下の通りである。
(1)電磁鋼板を所定の形状に調整後、積層、または巻いて成形し、溶接により固定された鉄芯において、溶接部から1mm離れた部分の、巻鉄芯の巻き方向、または積トランスのヨーク部、レグ部それぞれの長手方向、またはモータコアのコアバック部の円周方向、またはモータコアのティース部の半径方向の残留応力が−200MPa (−は圧縮応力、+は引張応力)以上で、溶接ビ−ド幅を0.1 mm 以上5 mm 以下、溶込み深さを0.001 mm 以上1.0 mm 以下とし、溶接ビードを溶接ビード幅の(最大値−最小値)が0.1 mm 以上の波形状とすることを特徴とする鉄損特性の優れた溶接鉄芯。
(2)溶接ビード中に、鉄芯材料以外のワイヤー及びハンダからの物質を50質量%以上含有していることを特徴とする前記(1)に記載の鉄損特性の優れた溶接鉄芯。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、いわゆる電磁鋼板を所定の形状に調整後、積層、または巻いて成形し、溶接により固定される鉄芯について、種々の研究を鋭意重ねた結果、鉄損特性の優れた溶接鉄芯を製造することに成功した。
【0008】
本発明者は先ず溶接後の鉄芯の残留応力について着眼した。そこで、溶接後の鉄芯の各部分の残留応力と鉄損との関係について調査したところ、図1に示すような鉄芯の方向での残留応力と鉄損特性に非常に相関があることを見出した。
例えば図1において、(a)は巻き鉄芯の巻き方向、(b)はEIコア(積層鉄芯)のヨーク部、レグ部のそれぞれ長手方向、(c)はモータコアのコアバック部の円周方向またはモータコアのティース部の半径方向を示し、これらの方向での残留応力が溶接されたコアの鉄損特性と非常に相関があることを見出した。なお、残留応力の測定方法としては、X線を用いて、ψにおける回折ピーク位置2θを放物線ピークトップ法により求め、さらに2θ−Sin2 ψ線図の勾配を最小自乗法で導出して、ヤング率、ポアソン比値を用いて、残留応力を算出した。
【0009】
上記の理由として、以下のことが考えられる。
鉄芯を溶接した場合、熱影響部の形成と共に、溶接部周辺に熱膨張収縮の影響を受けて、鉄芯には何らかの応力が生じる。これらの応力が溶接後も残留して、かつ図1に示す矢印の方向に圧縮応力が生じた場合、磁気弾性エネルギーとの相互作用で鉄損が劣化する。
【0010】
さらに本発明者らは、上記の残留応力の低減策として、電磁鋼板を所定の形状に調整後、積層、または巻いて成形し、溶接により固定される鉄芯において、溶接ビ−ド形状、品質を制御することによって、鉄損特性が向上することも見出した。
鉄芯を溶接した場合、熱影響部の形成と共に、溶接部周辺に熱膨張収縮の影響を受けて、鉄芯には何らかの応力が生じる。これらの応力が、溶接後も残留して、かつ図1(a)(b)(c)に示す矢印の方向に圧縮応力が生じた場合、磁気弾性エネルギーとの相互作用で鉄損が劣化する。
したがって、溶接ビード形状を特定することや、できるだけ鉄芯材料自体の溶込み量を抑えることが残留応力を生じさせないことにつながり、しいては鉄損特性が向上すると考えられる。
【0011】
次に本発明である溶接鉄芯の詳細を説明する。
本発明に用いる電磁鋼板としては一般の無方向性電磁鋼板、方向性電磁鋼板の何れでも構わない。但し、本発明で得られる鉄損低減効果は、特に板厚0.35mm未満の鋼板において大きな効果が得られる。
【0012】
上記の電磁鋼板を所定の形状に調整後、積層、または巻いて成形し、溶接により固定される鉄芯において、溶接部から1mm離れた部分の、図1に示すような巻鉄芯の巻き方向、積トランスのヨーク部、レグ部それぞれの長手方向、モータコアのコアバック部の円周方向、モータコアのティース部の半径方向における残留応力が−200MPa(−は圧縮応力、+は引張応力)以上することにより、鉄損特性の優れた溶接鉄芯が得られる。残留応力が−200Mpa 未満では、大きな鉄損劣化がみられるので制限した。
【0013】
また、本発明で実施する溶接方法は特に限定は無い。例えばスポット溶接、TIG溶接、レーザ溶接が挙げられる。
上記の溶接方法において、溶接ビード幅を0.1mm以上5mm以下、溶込み深さを0.001mm以上1.0mm以下とする必要がある。溶接ビード幅を0.1mm未満の場合、積層間の溶接強度が保持されないので、問題である。また5mm超となると溶接入熱量が多くなり、鉄損が劣化すると共に経済的にも問題であるので、5mm以下に限定した。また溶込み深さが0.001mm未満の場合、積層間の溶接強度が保持されない。しかし1.0mm超となると溶接入熱量が多くなり、鉄損が劣化すると共に経済的にも問題であるので、0.001〜1.0mmに限定した。
【0014】
さらに、溶接ビードを図2((a)従来例、(b)本発明例)に示すような波形状とすることは、総合溶接入熱量の低減と積層間強度の確保ができるため、優れた鉄損特性を得る有効な手段である。本発明の効果が得られる波形状としては、ビード幅の(最大値−最小値)が0.1mm以上とするのが好ましい。上記のようなビード形状を得る方法としては、例えば高周波溶接する方法がある。
【0015】
また、溶接ビード中に50質量%以上の鉄芯材料以外のワイヤー及びハンダ等の物質を含有させることによっても、優れた鉄損特性を得る有効な手段である。ここで質量率が50%以上とは、ワイヤー及びハンダ中のNi,Snなどの特定元素の質量%が、溶接ビード中に50%以上が含有されていることを言う。50%未満の場合、鉄芯材料の方の溶込み量が多くなるため、鉄損特性が大幅に劣化するので限定した。含有させるワイヤー及びハンダ等の物質としては、例えばフラックス入りワイヤーがある。
【0016】
【実施例】
(実施例1)
0.30mm厚の無方向性電磁鋼板を、外径120mmφ、内径80mmφに打抜いて、積層後、外周部を120°間隔でTIG溶接した。TIG溶接は、電流と速度の変更により、様々な幅、溶込み深さの直線ビード形状を形成した。その後巻線を施し、磁気測定に供した。また、溶接部から1mm離れた部分の円周方向の残留応力を測定した。測定方法としては、X線を用いて、ψにおける回折ピーク位置2θを放物線ピークトップ法により求め、さらに2θ−Sin2 ψ線図の勾配を最小自乗法で導出して、ヤング率、ポアソン比値を用いて、残留応力を算出した。なおTIG溶接前のW15/50 は2.45W/kg であった。結果を表1に示す。
【0017】
【0018】
表1よりわかるように、溶接ビード幅を0.1mm以上5mm以下、溶込み深さを0.001mm以上1.0mm以下とすることにより、圧縮残留応力が減少して、量溶接前の鉄損特性に極めて近い鉄損特性が優れていることがわかる。
【0019】
(実施例2)
0.23mm厚の方向性電磁鋼板を60mm幅、300mm長に打抜き後、積層後、外周部角をレーザ溶接した。レーザ溶接は、電流と速度の変更により様々な幅、溶込み深さの直線ビード形状を形成した。その後巻線を施し磁気測定に供した。なお溶接前のW17/50 は0.82W/kg であった。結果を表2に示す。
【0020】
【0021】
表2よりわかるように、溶接ビード幅を0.1mm以上5mm以下、溶込み深さを0.001mm以上1.0mm以下とすることによって、鉄損特性が向上していることがわかる。
【0022】
(実施例3)
0.20mm厚の無方向性電磁鋼板を外径120mmφ、内径80mmφのリング形状に打抜き、積層後、外周部を120°間隔でTIG溶接した。TIG溶接は、溶接周波数を100Hzにして、様々な幅で、溶込み深さが0.1mmの波状ビードを形成した。そして一次巻線、二次巻線を施して磁気測定に供した。溶接前のW10/400は10.8W/kgであった。結果を表3に示す。
【0023】
【0024】
表3よりわかるように、溶接ビードの形状を波状にすることによって、さらに鉄損得性が向上していることがわかる。
【0025】
(実施例4)
Niを含まない0.25mm厚の無方向性電磁鋼板を外径60mmφ、内径35mmφ、コアバック幅6mm、ティース幅3mm、スロット数20のモータコア形状に打抜き、カシメを実施後、特定質量%Niを含むフラックス入りワイヤーを供給しながら、外周部を120°間隔でレーザ溶接を行った。その後、ティースに巻線を施して回転鉄損測定に供した。なお溶接前のW10/400 は12.5W/kg であった。また、溶接ビードのNi成分を化学分析して、上記特定質量%Niに対する比率を計算して、フラックス入りワイヤーが溶込んだ割合を導出した。このときの結果を表4に示す。
【0026】
【0027】
表4よりわかるように、フラックス入りワイヤーが50%以上溶込むことで、鉄芯材料への熱影響が低下し、鉄損特性が優れていることがわかる。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、鉄損特性の優れた溶接鉄芯を提供するものであり、その工業的効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)巻き鉄芯、(b)モータコア、(c)トランスEIコア等における残留応力を測定する方向(矢印)を示す図。
【図2】電磁鋼板積層方向から見た溶接ビード形状の模式図を示し、(a)は従来例、(b)は本発明例である。図中の斜線部が溶接ビードを表す。
Claims (2)
- 電磁鋼板を所定の形状に調整後、積層、または巻いて成形し、溶接により固定された鉄芯において、溶接部から1mm離れた部分の、巻鉄芯の巻き方向、または積トランスのヨーク部、レグ部それぞれの長手方向、またはモータコアのコアバック部の円周方向、またはモータコアのティース部の半径方向の残留応力が−200MPa (−は圧縮応力、+は引張応力)以上で、溶接ビ−ド幅を0.1 mm 以上5 mm 以下、溶込み深さを0.001 mm 以上1.0 mm 以下とし、溶接ビードを溶接ビード幅の(最大値−最小値)が0.1 mm 以上の波形状とすることを特徴とする鉄損特性の優れた溶接鉄芯。
- 溶接ビード中に、鉄芯材料以外のワイヤー及びハンダからの物質を50質量%以上含有していることを特徴とする請求項1記載の鉄損特性の優れた溶接鉄芯。
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