JPWO2019082766A1 - 鉛蓄電池の減液性能の判定方法、並びに、鉛蓄電池及びその充電方法 - Google Patents

鉛蓄電池の減液性能の判定方法、並びに、鉛蓄電池及びその充電方法 Download PDF

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Abstract

部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の単極電位と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位との差の絶対値の平均値が0.07V未満である、鉛蓄電池1。

Description

本開示は、鉛蓄電池の減液性能の判定方法、並びに、鉛蓄電池及びその充電方法に関する。
近年、自動車においては、大気汚染防止又は地球温暖化防止のため、様々な燃費向上対策が検討されている。燃費向上対策を施した自動車としては、例えば、エンジンの動作時間を少なくするアイドリングストップシステム車(以下、「ISS車」という。start−stop system vehicle)、エンジンの動力によるオルタネータの発電を低減する発電制御車等のマイクロハイブリッド車が検討されている。
鉛蓄電池では、回生充電等により大電流充電が繰り返される場合がある。比較的深い充放電が繰り返された場合、鉛蓄電池の高率放電性能が不充分であると、例えばアイドリングストップ後のエンジン再始動時にバッテリ電圧が低下し、再始動できなくなる。特に、近年では、氷点下で使用されるような低温地域においても対応できるように、低温高率放電性能を向上させることが重要な課題となっている。
これに対し、下記特許文献1には、負極活物質に含有させるリグニンスルホン酸塩として、共役二重結合を有するリグニンスルホン酸塩を用いることで、低温高率放電性能を向上させる技術が開示されている。
特開平9−147871号公報
ところで、鉛蓄電池において大電流充電が繰り返されると、電解液中の水の電気分解が起こることが知られている。電気分解が起こると、水が分解して生じる酸素ガス及び水素ガスが電池外に排出されるため、電解液中の水が減少する。その結果、電解液中の硫酸濃度が上昇し、電極(正極等)の腐食劣化等により容量低下が進行する。このような理由から、鉛蓄電池の電解液中の水が減少した場合、減少した分の水を補水してメンテナンスを行う必要があるが、鉛蓄電池に対しては、メンテナンスフリーの観点から電解液中の水の減少(減液)を抑制することが求められている。減液性能の評価方法としては、過充電状態における定電圧充電試験が用いられることがある。しかしながら、過充電状態の減液性能と、実使用時の部分充電状態の減液性能とでは相関がない場合がある。
本開示は、前記事情を鑑みてなされたものであり、部分充電状態の減液性能を予測可能な鉛蓄電池の減液性能の判定方法を提供することを目的とする。また、本開示は、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対して部分充電状態における電解液の減液量が乖離することを抑制可能な鉛蓄電池及びその充電方法を提供することを目的とする。
本開示の一態様は、部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の単極電位と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位との差の絶対値の平均値に基づき鉛蓄電池の減液性能を判定する、鉛蓄電池の減液性能の判定方法を提供する。
従来、過充電状態における定電圧充電試験によって実使用時の部分充電状態の減液性能を予測し難かったものの、上述の鉛蓄電池の減液性能の判定方法によれば、減液性能を予測することができる。
本開示の他の一態様は、部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の単極電位と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位との差の絶対値の平均値が0.07V未満である、鉛蓄電池を提供する。
本開示の他の一態様は、部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電する鉛蓄電池の充電方法であって、前記定電圧充電したときに得られる正極の単極電位と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位との差の絶対値の平均値が0.07V未満である、鉛蓄電池の充電方法を提供する。
従来、過充電状態における定電圧充電試験によって実使用時の部分充電状態の減液性能を予測し難かったものの、上述の鉛蓄電池及びその充電方法によれば、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対して部分充電状態における電解液の減液量が乖離することを抑制することができる。
本開示によれば、部分充電状態の減液性能を予測可能な鉛蓄電池の減液性能の判定方法を提供することができる。また、本開示によれば、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対して部分充電状態における電解液の減液量が乖離することを抑制可能な鉛蓄電池及びその充電方法を提供することができる。本開示によれば、このような鉛蓄電池を備える電動車を提供することができる。本開示によれば、上述の鉛蓄電池を備えるマイクロハイブリッド車(例えば、ISS車及び発電制御車)を提供することができる。本開示によれば、電動車への鉛蓄電池の応用を提供できる。本開示によれば、マイクロハイブリッド車への鉛蓄電池の応用を提供できる。本開示によれば、ISS車への鉛蓄電池の応用を提供できる。本開示によれば、発電制御車への鉛蓄電池の応用を提供できる。
一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。 一実施形態に係る鉛蓄電池の電極群を示す斜視図である。 袋状のセパレータと、袋状のセパレータに収容される電極とを示す図である。 セパレータの一例を示す図である。 セパレータと電極板の配置の一例を示す断面図である。 過充電状態の鉛蓄電池に過電圧を印加した場合の電流−電圧曲線の一例を示す図である。 部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときの単極電位及びガス発生速度の一例を示す図である。
以下、図面を適宜参照しながら、本開示の実施形態について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。比重は、温度によって変化するため、本明細書においては20℃で換算した比重と定義する。
図1は、本実施形態に係る鉛蓄電池(液式鉛蓄電池)の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係る鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備えている。電槽2及び蓋3は、例えばポリプロピレンで形成されている。蓋3には、正極端子4と、負極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とが設けられている。
電槽2の内部には、電極群7と、電極群7を正極端子4に接続する正極柱(図示せず)と、電極群7を負極端子5に接続する負極柱8と、電解液とが収容されている。電解液は、例えば、硫酸を含有している。電解液は、アルミニウムイオンを更に含有していてもよい。アルミニウムイオンを含有する電解液は、例えば、硫酸及び硫酸アルミニウムを混合することにより得ることができる。
図2は、電極群7を示す斜視図である。図2に示すように、電極群7は、正極板(正極)9と、負極板(負極)10と、正極板9及び負極板10の間に配置されたセパレータ11と、を備えている。正極板9は、正極集電体13と、正極活物質充填部14とを有しており、正極活物質が正極集電体13に充填されることにより正極活物質充填部14が形成されている。負極板10は、負極集電体15と、負極活物質充填部16とを有しており、負極活物質が負極集電体15に充填されることにより負極活物質充填部16が形成されている。本明細書では、化成後の正極板から正極集電体を除いたものを「正極活物質」と称し、化成後の負極板から負極集電体を除いたものを「負極活物質」と称する。
電極群7は、複数の正極板9と負極板10とが、セパレータ11を介して、電槽2の開口面と略平行方向に交互に積層された構造を有している。電極群7における正極板9及び負極板10の枚数は、例えば、正極板6枚に対し負極板7枚であってよい。
電極群7において、複数の正極板9の耳部9a同士は、正極側ストラップ17で集合溶接されている。同様に、複数の負極板10の耳部10a同士は、負極側ストラップ18で集合溶接されている。そして、正極側ストラップ17及び負極側ストラップ18のそれぞれが、正極柱及び負極柱8を介して正極端子4及び負極端子5に接続される。
セパレータ11は袋状に形成されており、負極板10がセパレータ11内に収容されている。図3は、袋状のセパレータ11と、セパレータ11に収容される負極板10とを示す図である。図4は、セパレータの一例を示す図である。図4の(a)は、袋状のセパレータ11の作製に用いるシート状物20を示す正面図であり、図4の(b)は、シート状物20の断面図である。図5は、セパレータ11及び電極板(正極板9及び負極板10)の断面図である。
シート状物20は、図4に示すように、平板状のベース部21と、凸状の複数のリブ22と、ミニリブ23とを備えている。ベース部21は、リブ22及びミニリブ23を支持している。リブ22は、シート状物20の幅方向における中央において、シート状物20の長手方向に延びるように複数形成されている。複数のリブ22は、シート状物20の一方面20aにおいて互いに略平行に配置されている。リブ22の高さ方向の一端はベース部21に一体化しており、リブ22の高さ方向の他端は、正極板9に接している(図5参照)。ベース部21は、リブ22の高さ方向において正極板9と対向している。シート状物20の他方面20bにはリブは配置されておらず、シート状物20の他方面20bは、負極板10と接している(図5参照)。
次に、正極板9及び負極板10の詳細について説明する。
正極活物質は、Pb成分としてPbOを含み、必要に応じて、PbO以外のPb成分(例えばPbSO)及び後述する添加剤を更に含む。正極活物質は、後述するように、正極活物質の原料を含む正極活物質ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の正極活物質を得た後に未化成の正極活物質を化成することで得ることができる。正極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば、鉛粉が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。正極活物質の原料として鉛丹(Pb)を加えてもよい。
正極活物質におけるPb成分の含有量は、正極活物質の全質量を基準として90〜100質量%であってよい。正極活物質は、Pb成分として、少なくともβ−PbOを含む。正極活物質は、α−PbOを含んでいてよく、α−PbOを含んでいなくてもよい。正極活物質の含有量は、正極板の全質量を基準として40〜60質量%であってよい。
正極集電体は、正極活物質からの電流の導電路となり、且つ、正極活物質を保持するものである。正極集電体は、例えば格子状を呈している。正極集電体の組成としては、例えば、鉛−カルシウム−錫系合金、鉛−アンチモン−ヒ素系合金等の鉛合金が挙げられる。用途に応じて適宜セレン、銀、ビスマス等を正極集電体に添加してもよい。これらの鉛合金を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより正極集電体を得ることができる。
正極板の製造工程では、例えば、正極活物質ペーストを正極集電体に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより、未化成の正極活物質を有する正極板を得る。未化成の正極活物質は、主成分として三塩基性硫酸鉛を含んでいてよい。前記正極活物質ペーストは、例えば、正極活物質の原料を含んでおり、その他の所定の添加剤等を更に含んでいてもよい。
正極活物質ペーストが含む添加剤としては、例えば、炭素材料(炭素繊維を除く)及び補強用短繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
正極活物質ペーストを作製するに際しては、正極活物質の原料として鉛粉を用いることができる。また、化成時間を短縮できる観点から、正極活物質の原料として鉛丹(Pb)を加えてもよい。この正極活物質ペーストを正極集電体(例えば正極集電体格子)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより、未化成の正極活物質を有する正極板が得られる。正極活物質ペーストにおいて、補強用短繊維の配合量は、正極活物質の原料の全質量を基準として0.005〜0.3質量%であってよい。
正極活物質は、例えば、次の方法により得ることができる。まず、鉛粉に対して、補強用短繊維等の添加剤を加えて乾式混合する。次に、前記鉛粉を含む混合物に対して、水4〜10質量%及び希硫酸(比重1.28)5〜10質量%を加えて混練して正極活物質ペーストを作製する。希硫酸(比重1.28)は、発熱を低減するために、数回に分けて徐々に添加してよい。正極活物質ペーストの作製において、急激な発熱は疎な構造の正極活物質を形成し、寿命での活物質同士の結合力が低下するため、なるべく発熱を抑えることが望ましい。
正極活物質は、正極活物質の原料を含む正極活物質ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の正極活物質を得た後に未化成の正極活物質を化成することで得ることができる。正極活物質は、例えばα−PbO及びβ−PbOを含む。
前記正極活物質ペーストを正極集電体(鋳造格子体、エキスパンド格子体等)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより、未化成の正極活物質を有する正極板を得ることができる。正極活物質ペーストにおいて、補強用短繊維の配合量は、鉛粉の全質量(鉛丹を含む場合は鉛粉及び鉛丹の合計質量)を基準として0.05〜0.3質量%であってよい。
熟成条件は、温度35〜85℃、湿度50〜98RH%の雰囲気で15〜60時間としてよい。乾燥条件は、温度45〜80℃で15〜30時間としてよい。
負極活物質は、Pb成分として少なくともPbを含み、必要に応じて、Pb以外のPb成分(例えばPbSO)及び後述する添加剤を更に含む。負極活物質は、多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)を含んでいてよい。負極活物質は、後述するように、負極活物質の原料を含む負極活物質ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の負極活物質を得た後に未化成の負極活物質を化成することで得ることができる。負極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば、鉛粉が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。
負極集電体は、負極活物質からの電流の導電路となり、且つ、負極活物質を保持するものである。負極集電体の組成は、上述した正極集電体の組成と同じであってよい。
負極板の製造工程では、例えば、負極活物質ペーストを負極集電体(例えば負極集電体格子)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより、未化成の負極活物質を有する負極板を得る。負極集電体としては、正極集電体と同じものを用いることができる。未化成の負極活物質は、主成分として三塩基性硫酸鉛を含んでいてよい。前記負極活物質ペーストは、例えば、負極活物質の原料、及び、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂を含んでおり、その他の所定の添加剤等を更に含んでいてもよい。
負極活物質ペーストは、溶媒及び硫酸を更に含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、水(例えばイオン交換水)及び有機溶媒が挙げられる。
スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂としては、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、及び、フェノール類とアミノアリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(例えば、ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
負極活物質ペーストが含む添加剤としては、例えば、硫酸バリウム、炭素材料(炭素繊維を除く)及び補強用短繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
負極活物質ペーストは、例えば、次の方法により得ることができる。まず、鉛粉に、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂と、必要に応じて添加される添加剤とを混合することにより混合物を得る。次に、この混合物に、硫酸(希硫酸等)及び溶媒(水等)を加えて混練することにより負極活物質ペーストが得られる。
負極活物質ペーストにおいて、硫酸バリウムを用いる場合、硫酸バリウムの配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準として0.01〜1質量%であってよい。炭素材料を用いる場合、炭素材料の配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準として、0.01〜2質量%であってよく、0.05〜1.5質量%であってよく、0.1〜1.5質量%であってよく、0.2〜1.4質量%であってよく、0.2〜1質量%であってよく、0.2〜0.5質量%であってよく、0.2〜0.3質量%であってよく、0.2〜0.25質量%であってよい。スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準として、樹脂固形分換算で、0.01〜2質量%であってよく、0.05〜1.5質量%であってよく、0.1〜1質量%であってよく、0.15〜0.5質量%であってよく、0.2〜0.4質量%であってよい。
熟成条件は、温度35〜85℃、湿度50〜98RH%の雰囲気で15〜60時間としてよい。乾燥条件は、温度45〜80℃で15〜30時間としてよい。
本実施形態に係る鉛蓄電池は、電動車に用いることができる。本実施形態に係る電動車は、本実施形態に係る鉛蓄電池を備える。本実施形態に係る鉛蓄電池は、ISS車、発電制御車等のマイクロハイブリッド車に用いることができる。本実施形態に係るマイクロハイブリッド車(例えば、ISS車及び発電制御車)は、本実施形態に係る鉛蓄電池を備える。
本実施形態に係る鉛蓄電池は、部分充電状態(中間充電状態。以下、「PSOC状態」という。PSOC:Partial State of Charge)で定電圧充電される。当該定電圧充電は、後述するように、PSOC状態における正極の単極電位と、過充電状態における正極の単極電位との差の絶対値の平均値が特定範囲を満たす工程を少なくとも1つ備える。以下、詳細について説明する。
鉛蓄電池に電圧Vを印加した場合の過電圧をη(正極)及びη(負極)であるとすると、下記式(a)及び式(b)が成り立つ(E:起電力(仮に開回路電圧とする)、I total:正極の合計電流(正極で起こる電子移動反応に由来する電流の和)、I total:負極の合計電流(負極で起こる電子移動反応に由来する電流の和))。
= η + η + E ・・・(a)
total = I total ・・・(b)
鉛蓄電池における単セルの起電力Eは2.1V程度であり、電圧Vとして2.3Vを印加した場合の過電圧は0.2Vである。この場合、式(a)は「2.3V=0.2V+2.1V」であり、「η + η = 0.2V」である。ここで、この0.2Vは、合計が0.2Vであると共に式(b)を満たすように正極及び負極に割り振られる。
鉛蓄電池では、負極で発生した電子が正極に受け取られることで電流が流れる。この場合、式(b)のとおり、電子が負極で発生する速度と、電子が正極で電子が受け取られる速度とは等しい。
PSOC状態の鉛蓄電池の充電では、活物質の充電反応に加えて、主要な副反応としてガス発生(正極:酸素発生、負極:水素発生)が起こる。I totalは、正極におけるこれらの電子移動反応(活物質の充電反応、及び、副反応)に由来する電流の和であり、I totalは、負極におけるこれらの電子移動反応(活物質の充電反応、及び、副反応)に由来する電流の和であり、式(b)は下記式(c)に変換される(I CHA:正極における活物質の充電反応に由来する電流、I O2:正極における酸素発生電流、I CHA:負極における活物質の充電反応に由来する電流、I H2:負極における水素発生電流)。
CHA + I O2 = I CHA + I H2 ・・・(c)
一方、過充電状態では、満充電状態からの充電であるため、充電される活物質が残っていない。したがって、活物質の充電反応は起こらない(I CHA=I CHA=0)ので、前記式(c)から下記式(d)が導かれる。
O2 = I H2 ・・・(d)
すなわち、過充電状態では、式(d)に示されるように、酸素発生電流と水素発生電流とが等しいのに対し、PSOC状態では、式(c)が成り立てばよく、酸素発生電流と水素発生電流とが等しくなくてよい。この場合、PSOC状態において酸素発生電流と水素発生電流とが等しくない場合の過電圧は、酸素発生電流と水素発生電流とが等しい場合の過電圧とは異なる。すなわち、PSOC状態と過充電状態とでは、互いに同じ電圧Vを印加しても異なる過電圧となり得る。そのため、過充電状態の減液性能と、実使用時のPSOC状態の減液性能とでは相関がない場合がある。
これに対し、本発明者は、過電圧と電流との関係について検討した。図6は、過充電状態の鉛蓄電池に過電圧0.2Vを印加した場合の電流−電圧曲線(I−V曲線)の一例を示す図である。図中の曲線は、近似曲線である。酸素発生電流と水素発生電流とが等しい時点(図中、符号A。以下、「条件A」という)において、正極の過電圧は0.09Vであり、負極の過電圧は−0.11Vであり、正極及び負極における電流量は0.35Aであり、酸素及び水素の発生に使われる電流の総量(以下、「総電流量」という)は0.70Aである。当該総電流量が大きいほど、ガスの発生量が増加して電解液の減液量が増加する。
ここで、PSOC状態の過電圧が過充電状態の過電圧と異なることが電解液の減液量に与える影響を考察するため、酸素発生電流及び水素発生電流の電流−電圧曲線がPSOC状態と過充電状態とで同じであると仮定し、過電圧0.2Vの正極及び負極への割り振り量が前記条件Aに対して0.05V変動した場合の総電流量(減液量の指標)について検討する。すなわち、過電圧の割り振り量が正電荷側に0.05Vずれた場合(正極:0.14V、負極:−0.06V。図中、符号B。以下、「条件B」という)、正極における酸素発生電流は1.00Aであり、負極における水素発生電流は0.14Aであり、総電流量は1.14Aである。過電圧の割り振り量が負電荷側に0.05Vずれた場合(正極:0.04V、負極:−0.16V。図中、符号C。以下、「条件C」という)、正極における酸素発生電流は0.12Aであり、負極における水素発生電流は0.86Aであり、総電流量は0.98Aである。条件B及び条件Cの総電流量は条件Aの総電流量よりも多いことから、条件B又は条件Cで充電した場合には、条件Aで充電した場合よりも、ガス発生に伴う電解液の減液量が増加する。このように、PSOC状態の過電圧が過充電状態の過電圧と異なる場合、PSOC状態の電解液の減液量が過充電状態よりも大きくなる。
これに対し、本発明者は、PSOC状態の充電における単極電位を過充電状態の単極電位に近づける観点から、同じ電圧(正極の単極電位と負極の単極電位との差が同一である状態)におけるPSOC状態の単極電位と過充電状態の単極電位との差を少なくすることにより、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを抑制可能であることを見出した。この場合、PSOC状態の過電圧が過充電状態の過電圧と異なることによって一方の電極の過電圧が増加して当該電極において電解液の減液量(ガス発生量)が指数関数的に増加することを抑制可能であるため、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを抑制することができる。
過電圧と単極電位とは、「過電圧=単極電位−開回路電位」を満たす。単極電位と比較して開回路電位は変動しづらいことから、単極電位に基づき過電圧を容易に調整することができる。なお、同じ電圧におけるPSOC状態の過電圧と過充電状態の過電圧との差を少なくすることにより、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを抑制しやすい。
図7は、PSOC状態の鉛蓄電池を2.40Vで定電圧充電したときの単極電位及びガス発生速度の一例を示す図である。図7の(a)は、充電時間と正極の単極電位との関係を示す。図7の(b)は、充電時間と負極の単極電位との関係を示す。図7の(c)は、充電時間とガス発生速度(酸素ガス及び水素ガスの混合ガスの発生速度)との関係を示す。図7の例では、PSOC状態の充電における正極の単極電位(図7の(a)の実線)及び負極の単極電位(図7の(b)の実線)は、電圧2.40Vにおける過充電状態の正極及び負極の単極電位(図7の(a)及び(b)の破線)と比べて正側に分極している。この場合、PSOC状態の充電における正極の単極電位と、電圧2.40Vにおける過充電状態の正極の単極電位との差を小さくすることで(この場合、PSOC状態の充電における負極の単極電位と、電圧2.40Vにおける過充電状態の負極の単極電位との差も小さくなる)、PSOC状態における電解液の減液量(ガス発生速度。図7の(c)の実線)と、過充電状態における電解液の減液量(ガス発生速度。図7の(c)の破線)との差を小さくすることができる。
本実施形態に係る鉛蓄電池では、PSOC状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の単極電位Aと、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位Bとの差の絶対値|A−B|の平均値が0.07V未満である。本実施形態に係る鉛蓄電池の充電方法は、PSOC状態の鉛蓄電池を定電圧充電する鉛蓄電池の充電方法であって、前記定電圧充電したときに得られる正極の単極電位Aと、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位Bとの差の絶対値|A−B|の平均値が0.07V未満である。すなわち、本実施形態に係る鉛蓄電池及びその充電方法では、「|A−B|の平均値<0.07V」が満たされる。このような鉛蓄電池及びその充電方法によれば、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを抑制することができる。
本実施形態に係る鉛蓄電池の減液性能の判定方法(評価方法)では、PSOC状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の単極電位Aと、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位Bとの差の絶対値|A−B|の平均値に基づき鉛蓄電池の減液性能を判定する。本実施形態に係る鉛蓄電池の減液性能の判定方法によれば、絶対値|A−B|の平均値に基づきPSOC状態の減液性能を予測(評価)できる。絶対値|A−B|の平均値は、0.07V未満であってよい。すなわち、本実施形態に係る鉛蓄電池の減液性能の判定方法では、絶対値|A−B|の平均値が0.07V未満である場合に、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを抑制可能であると判定することができる。本実施形態に係る鉛蓄電池の減液性能の判定方法は、PSOC状態の鉛蓄電池を定電圧充電する充電工程中に行ってよい。また、充電工程後に、本実施形態に係る鉛蓄電池の減液性能の判定方法に基づき鉛蓄電池の減液性能を判定する判定工程を行ってもよい。
上述の単極電位は、化成後の鉛蓄電池における単極電位である。単極電位は、例えば、水銀/硫酸第一水銀電極(参照極)に対する電位を用いることができる。鉛蓄電池が複数の単セル(単体セル)を備えている場合、正極の単極電位は、少なくとも一つの単セルの正極の単極電位を意味する。鉛蓄電池が複数の単セルを備えている場合において、上述の単極電位の差を満たす単セルを鉛蓄電池が少なくとも一つ備えていればよく、単セルの全てが上述の単極電位の差を満たしていてもよい。単セルが複数の正極(例えば正極板)を有している場合、正極の単極電位は、複数の正極の単極電位の平均値(正極群の電位)を意味する。単セルが複数の正極を有している場合、複数の正極から集電する部材(例えば、図1の正極端子4、又は、図2の正極側ストラップ17)の電位を測定することにより正極の単極電位を得ることができる。PSOC状態の充電時の正極の単極電位は、過充電状態の正極の単極電位と同一又はそれ以上であってよく、過充電状態の正極の単極電位と同一又はそれ以下であってもよい。
単極電位Aと単極電位Bとの差の絶対値|A−B|の平均値は、PSOC状態の鉛蓄電池に対する定電圧充電における正極の単極電位のそれぞれと、過充電状態の正極の単極電位との差の絶対値の平均値(PSOC状態の充電における全充電時間の平均値)である。前記平均値を得るための単極電位Aは、例えば、100ミリ秒毎の単極電位である。
単極電位の差は、正極活物質及び負極活物質の量の比率、種々の添加剤の種類及び量等を調整することにより調整することができる。例えば、単極電位Aが単極電位Bと比べてより正側に分極している場合、正極の充電受け入れ性を負極に対して相対的に上げることにより、単極電位の差を低減することができる。具体的には、負極活物質に対する正極活物質の量の割合を増加させること、負極におけるスルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の配合量を減らすこと、負極における炭素材料の配合量を減らすこと等により、単極電位の差を低減することができる。正極活物質の量の下限は、単極電位の差を低減しやすい観点から、負極活物質100質量部に対して、120質量部以上、130質量部以上、140質量部以上、又は、150質量部以上であってよい。正極活物質の量の上限は、優れた電池性能(サイクル特性、放電特性、充電受け入れ性等)を得る観点から、負極活物質100質量部に対して、300質量部以下、250質量部以下、又は、200質量部以下であってよい。
定電圧充電は、複数の電圧で行われてよい。すなわち、定電圧充電は、互いに異なる電圧の複数の充電工程を備えていてよく、少なくとも、第1の電圧の第1の充電工程と、第2の電圧の第2の充電工程と、をこの順に備えていてよい。この場合、少なくとも一つの充電工程において上述の単極電位の差が満たされていればよく、全ての充電工程において上述の単極電位の差が満たされていてよい。定電圧充電は、上述の第1の充電工程及び第2の充電工程の後に他の充電工程(例えば第3の充電工程)を備えていてよい。例えば、第3の充電工程は、第1の電圧及び第2の電圧とは異なる第3の電圧の充電工程であってよく、第1の電圧と同じ電圧の充電工程であってよい。第3の充電工程の電圧が第1の電圧と同じ場合、少なくとも第1の充電工程において上述の単極電位の差が満たされていればよい。各充電工程は連続して行われることに限られず、各充電工程の間に他の工程(定電流充電工程、放電工程、休止工程等)が行われてもよい。
定電圧充電が複数の電圧で行われる場合、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを更に抑制する観点から、複数又は全ての充電工程における単極電位の差の絶対値の平均値が0.07V未満であることが好ましい。すなわち、定電圧充電が上述の第1の充電工程及び第2の充電工程を備えている場合、充電工程の全体(第1の充電工程及び第2の充電工程)における単極電位の差の絶対値の平均値が0.07V未満であることが好ましい。
単極電位の差の絶対値の平均値は、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを更に抑制する観点から、0.06V以下、0.05V以下、0.04V以下、0.03V以下、0.02V以下、0.01V以下、又は、0Vであってよい。定電圧充電が複数の電圧で行われる場合、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを更に抑制する観点から、複数又は全ての充電工程における単極電位の差の絶対値の平均値がこれらの範囲を満たすことが好ましい。
定電圧充電の条件は、特に限定されない。定電圧充電の電圧(単セルに対する電圧)は、例えば2.15〜2.80Vであってよい。定電圧充電時の温度は、例えば5〜80℃であってよい。定電圧充電は、例えば、ドイツ自動車工業会(VDA:Verband der Automobilindustrie)が定める14.4V電池の蓄電池規格に基づき、単セルに対して電圧2.40V、60℃で行うことができる。定電圧充電の時間(一の電圧を維持する時間)は、例えば1秒間〜21日間であってよい。
定電圧充電を開始する際のPSOC状態及びその調整手順は、特に限定されない。例えば、満充電状態を100%として、充電状態は90%以上であってよい。
過充電状態の正極の単極電位は、例えば、過充電状態で定電圧充電したときの単極電位であり、一定の電位を有する。この場合の電圧は、PSOC状態における定電圧充電の電圧と同一の電圧を用いる。過充電状態の正極の単極電位は、PSOC状態の正極の単極電位と同一温度における単極電位である。
過充電状態及びPSOC状態における電解液の減液量(減液量の大きさ)は、例えば、負極における、炭素材料、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂等の配合量を調整することによって調整することができる。炭素材料の表面では、Pb成分に比べて水素発生が進行しやすい傾向がある。そのため、炭素材料の配合量を低減することで、水素発生に伴う電解液の減液量を低減することができる。また、炭素材料に加えて、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂を負極が含有していると、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂が炭素材料に吸着して水素の発生を抑制し、水素発生に伴う電解液の減液量を低減することができる。このような観点から、負極が炭素材料を含有する場合、負極は、炭素材料、及び、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂を含有してよい。
本実施形態に係る鉛蓄電池の減液性能の判定方法では、PSOC状態の減液性能を予測しやすい観点から、PSOC状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の過電圧と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の過電圧との差の絶対値の平均値に基づき鉛蓄電池の減液性能を判定してよい。本実施形態に係る鉛蓄電池では、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを抑制しやすい観点から、PSOC状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の過電圧と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の過電圧との差の絶対値の平均値が0.07V未満であってよい。本実施形態に係る鉛蓄電池の充電方法は、同一の電圧における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することを抑制しやすい観点から、PSOC状態の鉛蓄電池を定電圧充電する鉛蓄電池の充電方法であって、前記定電圧充電したときに得られる正極の過電圧と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の過電圧との差の絶対値の平均値が0.07V未満であってよい。
以下、実施例により本開示を具体的に説明する。但し、本開示は下記の実施例のみに限定されるものではない。
<鉛蓄電池の作製>
(実施例1)
[正極集電体の作製]
正極集電体として、板状の鉛−カルシウム−錫合金(鉛含有量:0.05質量%、カルシウム含有量:0.5質量%)に切れ目を入れ、この切れ目を拡開するように引き伸ばして作製したエキスパンド格子体を用意した。正極集電体では、幅が145mmであり、高さが110mmであり、厚さが0.9mmであった。
[未化成の正極板の作製]
ボールミル法によって作製した鉛粉に、補強用短繊維(アクリル繊維)0.07質量%と、硫酸ナトリウム0.01質量%とを加えた後に乾式混合した。アクリル繊維及び硫酸ナトリウムそれぞれの配合量は、鉛粉の全質量を基準とした配合量である。次に、前記鉛粉を含む混合物に対して、水10質量%と、希硫酸(比重1.28)9質量%とを加えた後に混練して正極活物質ペーストを作製した(水及び希硫酸それぞれの配合量は、鉛粉の全質量を基準とした配合量である)。正極活物質ペーストの作製に際しては、急激な温度上昇を避けるため、希硫酸の添加は段階的に行った。続いて、作製した正極活物質ペーストを、上記で得られた正極集電体に充填し、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。これにより、正極集電体に未化成の正極活物質が充填された未化成の正極板を得た。未化成の正極板では、充填部幅が145mmであり、充填部高さが110mmであり、厚さが1.5mmであった。
[負極集電体の作製]
負極集電体として、板状の鉛−カルシウム−錫合金(鉛含有量:0.05質量%、カルシウム含有量:0.5質量%)に切れ目を入れ、この切れ目を拡開するように引き伸ばして作製したエキスパンド格子体を用意した。負極集電体では、幅が145mmであり、高さが110mmであり、厚さが0.8mmであった。
[未化成の負極板の作製]
ボールミル法によって作製した鉛粉に、補強用短繊維(アクリル繊維)0.1質量%と、アセチレンブラック0.2質量%と、硫酸バリウム1.0質量%とを加えた後に乾式混合した。上記配合量は、鉛粉の全質量を基準とした配合量である。次に、リグニンスルホン酸塩(商品名:バニレックスN、日本製紙株式会社製)0.2質量%(樹脂固形分換算、鉛粉の全質量を基準とした配合量である)と、水10質量%(鉛粉の全質量を基準とした配合量である)とを加えた後に混練した。続いて、鉛粉の全質量を基準として希硫酸(比重1.280)9.5質量%を少量ずつ添加しながら混練して、負極活物質ペーストを作製した。続いて、作製した負極活物質ペーストを、上記で得られた負極集電体に充填し、温度50℃、湿度98%の雰囲気で20時間熟成した。これにより、負極集電体に未化成の負極活物質が充填された未化成の負極板を得た。未化成の負極板では、充填部幅が145mmであり、充填部高さが110mmであり、厚さが1.3mmであった。
[セパレータの準備]
一方面に複数の凸状のリブと、当該リブを支持するベース部と、を有するシート状物を、リブが形成されている面が外側になるように袋状に加工してなるセパレータ(袋状のセパレータ)を用意した(図3及び図4参照)。セパレータでは、総厚さが0.8mm、ベース部の厚さTが0.2mmであり、リブの高さHが0.6mmであり、リブの上底幅Bが0.4mmであり、リブの下底幅Aが0.8mmであった。
[電池の組み立て]
得られた袋状のセパレータに未化成の負極板を収容した。次に、未化成の正極板6枚と、袋状のセパレータに収容された未化成の負極板7枚とを、セパレータのリブが未化成の正極板に接するようにして交互に積層した。上述の電極板の作製では、負極板7枚における負極活物質の総量100質量部に対して正極板6枚における正極活物質の総量を150質量部に調整した。次に、未化成の正極板の集電部及び未化成の負極板の集電部を極性毎に正極側ストラップ及び負極側ストラップに集合溶接して極板群を得た。極板群厚さは3.36cmであった。
セル室を1つ有する電槽を用意した。電槽のセル室に極板群を挿入した後、電槽に蓋を熱溶着した。その後、液口栓を開栓し、蓋に設けられた注液口からセルに希硫酸(電解液)を注液した。次いで、周囲温度40℃、電流25Aで20時間通電することにより電槽化成を行い、単セルの鉛蓄電池(JISD5301規定のD23サイズの単セルに相当)を作製した。化成後の電解液の比重は1.29に調整した。化成後の正極におけるPb成分の含有量(正極活物質の全質量基準)は99.9質量%であり、化成後の負極におけるPb成分の含有量(負極活物質の全質量基準)は98.4質量%であった。
(実施例2)
正極活物質の総量を減らし、負極板7枚における負極活物質の総量100質量部に対して正極板6枚における正極活物質の総量を118質量部に調整したこと、及び、未化成の負極板の作製においてアセチレンブラックの使用量を0.05質量%に変更したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
(実施例3)
正極活物質の総量を減らし、負極板7枚における負極活物質の総量100質量部に対して正極板6枚における正極活物質の総量を118質量部に調整したこと、及び、未化成の負極板の作製においてリグニンスルホン酸塩の使用量を0.3質量%に変更したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
(実施例4)
正極活物質の総量を減らし、負極板7枚における負極活物質の総量100質量部に対して正極板6枚における正極活物質の総量を118質量部に調整したこと、及び、未化成の負極板の作製においてリグニンスルホン酸塩の使用量を0.4質量%に変更したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
(実施例5)
正極活物質の総量を増やし、負極板7枚における負極活物質の総量100質量部に対して正極板6枚における正極活物質の総量を300質量部に調整したこと、未化成の負極板の作製においてリグニンスルホン酸塩の使用量を0.05質量%に変更すると共にアセチレンブラックの使用量を0.3質量%に変更したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
(比較例1)
正極活物質の総量を減らし、負極板7枚における負極活物質の総量100質量部に対して正極板6枚における正極活物質の総量を118質量部に調整したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
(比較例2)
未化成の負極板の作製においてリグニンスルホン酸塩の使用量を0.05質量%に変更したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
(比較例3)
未化成の負極板の作製においてアセチレンブラックの使用量を0.4質量%に変更したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
(比較例4)
正極活物質の総量を増やし、負極板7枚における負極活物質の総量100質量部に対して正極板6枚における正極活物質の総量を300質量部に調整したこと以外は実施例1と同様に鉛蓄電池を作製した。
<減液性能の評価>
雰囲気温度(気槽の温度)60℃において、鉛蓄電池に対して2.40Vで24時間定電圧の過充電を行った後、正極の単極電位(以下、「正極電位」という。過充電状態における正極電位は一定)を測定した。正極電位は、正極端子と参照極との電位差を測定することで求めた。参照極としては水銀/硫酸第一水銀電極を用いた。
また、電池から発生する酸素ガス及び水素ガスの流量を次の手順で測定した。まず、発生したガスが漏れないように電池にチューブを接続した。次に、酸素ガス及び水素ガスを捕集し、互いに直列に接続された水素濃度計(HPS−100、AMS社製)、ガス流量計(F−100D、DP−FLOW、Bronkhorst製)及び酸素濃度計(GMH3695/GGO370、Greisinger製)に酸素ガス及び水素ガスを導入して混合ガスの流量、酸素濃度及び水素濃度を測定した。そして、混合ガスの流量に各ガスの濃度(酸素濃度又は水素濃度)を乗じることで酸素ガス及び水素ガスの流量を求めた。これらの流量に基づき、過充電状態の減液量として、水の電気分解による減液速度を求めた。
続いて、雰囲気温度(気槽の温度)60℃において、前記過充電後の鉛蓄電池の電池容量の10%を放電して充電状態(State of charge)を90%の状態に調整した。次に、12時間静置した後、2.40Vで1時間定電圧充電した。この1時間の定電圧充電の際、上述の過充電状態と同様の方法で100ミリ秒毎の正極電位を測定した。また、上述の過充電状態と同様の方法で、電池から発生する酸素ガス及び水素ガスの流量を測定した。これらの流量に基づき、PSOC状態の減液量として、水の電気分解による減液速度を求めた。
次に、過電圧状態の正極電位と、PSOC状態の1時間の定電圧充電時の100ミリ秒毎の正極電位との差の絶対値を算出した後、当該絶対値の平均値を求めた。過充電状態及びPSOC状態における単極電位(正極電位)、単極電位の差(単極電位の差の絶対値の平均値)、並びに、減液速度(減液性能)を表1に示す。減液性能は、過充電状態の比較例1の測定結果を100として相対評価した。減液速度が小さいほど、減液性能に優れる。
実施例では、PSOC状態の鉛蓄電池を電圧2.40Vで定電圧充電したときに得られる正極の単極電位Aと、電圧2.40Vにおける過充電状態の正極の単極電位Bとの差の絶対値|A−B|の平均値が小さいことにより、同一の電圧(電圧:2.40V)における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離することが抑制されている。一方、比較例では、単極電位の差の絶対値|A−B|の平均値が大きいことにより、同一の電圧(電圧:2.40V)における対比において過充電状態における電解液の減液量に対してPSOC状態における電解液の減液量が乖離している。
1…鉛蓄電池、9…正極板(正極)、10…負極板(負極)。

Claims (4)

  1. 部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の単極電位と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位との差の絶対値の平均値に基づき鉛蓄電池の減液性能を判定する、鉛蓄電池の減液性能の判定方法。
  2. 前記平均値が0.07V未満である、請求項1に記載の判定方法。
  3. 部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電したときに得られる正極の単極電位と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位との差の絶対値の平均値が0.07V未満である、鉛蓄電池。
  4. 部分充電状態の鉛蓄電池を定電圧充電する鉛蓄電池の充電方法であって、
    前記定電圧充電したときに得られる正極の単極電位と、前記定電圧充電の電圧と同一の電圧における過充電状態の前記正極の単極電位との差の絶対値の平均値が0.07V未満である、鉛蓄電池の充電方法。
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