JPWO2018216320A1 - 溶融塩チタンめっき液組成物およびチタンめっき部材の製造方法 - Google Patents

溶融塩チタンめっき液組成物およびチタンめっき部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

溶融塩チタンめっき液組成物は、リチウムイオンおよびナトリウムイオンのうち少なくとも1つの第1族金属イオンと、フッ化物イオンと、チタニウムイオンと、を含有する。上記溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するカリウムイオンの含有量は5mol%以下である。

Description

本開示は、溶融塩チタンめっき液組成物およびチタンめっき部材の製造方法に関するものである。本開示は、2017年5月22日に出願した日本特許出願である特願2017−100757号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載されたすべての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
チタンめっきを行うための方法として、溶融塩中でのめっき法が検討されている。例えば特開2015−193899号公報(特許文献1)には、KF−KClにK2TiF6およびTiO2を添加しためっき浴を用いて、Fe線の表面にFeとTiとの合金膜を形成したことが記載されている。非特許文献1には、LiF−NaF−KFにK2TiF6を添加しためっき浴を用いてNiおよびFeの基材表面にチタン膜を形成する方法が記載されている。
特開2015−193899号公報
A.ROBIN et.al.,"ELECTOLYTIC COATING OF TITANIUM ONTO IRON AND NICKEL ELECTORDES IN THE MOLTEN LiF+NaF+KF EUTECTIC", Journal of Electroanal. Chem.,230(1987),pp.125−141
本開示の一態様に係る溶融塩チタンめっき液組成物は、リチウムイオンおよびナトリウムイオンのうち少なくとも1つの第1族金属イオンと、フッ化物イオンと、チタニウムイオンと、を含有する。上記溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するカリウムイオンの含有量は5mol%以下である。
本開示の一態様に係るチタンめっき部材の製造方法は、導電性の表面を有する基材を準備する工程と、上記基材を、上記溶融塩チタンめっき液組成物に浸漬する工程と、上記溶融塩チタンめっき液組成物に浸漬された上記基材がカソードとなるように通電し、上記基材の上記表面をチタンで被覆することにより、上記表面上にチタンめっき膜を形成する工程と、を含む。
図1は、チタンめっき部材の一部の一例を示す概略断面図である。 図2は、チタンめっき部材を製造するための手順を示すフローチャートである。 図3は、溶融塩チタンめっき液組成物に基材を浸漬した状態の一例を示す概略断面図である。 図4は、生理食塩水中における各電極の腐食電流密度を示すグラフである。 図5は、模擬海水中における各電極の電流密度と電位との相関関係を示すグラフである。 図6は、固体高分子型燃料電池(PEFC)の模擬電解液中における各電極の電流密度と電位との相関関係を示すグラフである。 図7は、固体高分子型燃料電池(PEFC)の模擬電解液中における各電極の電流密度と電位との相関関係を示す他のグラフである。
[本開示が解決しようとする課題]
チタンめっきにおいて表面が平滑な膜を得るためには溶融塩チタンめっき液組成物中にフッ化物イオン(F-)が存在することが重要である。フッ化物イオン源としては、フッ化カリウム(KF)が広く用いられている。KFは良好なフッ化物イオン源であるとともに、KFから生じるカリウムイオン(K+)を含有する溶融塩チタンめっき液組成物は、チタンめっきにおいて良好なめっき性を示す。
しかしながら、本発明者らの検討によると、K+を多く含むめっき浴にてチタンめっきを行なうと、カリウムの金属霧が発生し、めっき浴中にカリウム金属が発生することが見出された。さらにめっき時には、カソードとアノードとの間を、カリウム金属を通して電流が流れるため、電流効率が落ちることも見出された。
そこで、めっき時の金属霧の発生を抑制できる溶融塩チタンめっき液組成物を提供することを目的の1つとする。
[本開示の効果]
上記溶融塩チタンめっき液組成物によれば、めっき時の金属霧の発生を抑制することが可能となる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る溶融塩チタンめっき液組成物(以下、「めっき液組成物」とも呼ぶ)は、リチウムイオンおよびナトリウムイオンのうち少なくとも1つの第1族金属イオンと、フッ化物イオンと、チタニウムイオンと、を含有する。上記めっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するカリウムイオンの含有量は5mol%以下である。
チタンは酸素との結合力が強いため水と反応して酸化物および水酸化物を形成しやすく、水溶液からのめっきには適していない。そのため基材上にチタンのめっき膜を形成するためには、チタニウムイオンを含む溶融塩からなる溶融塩チタンめっき液組成物のめっき浴が用いられる。
溶融塩チタンめっき液組成物から表面が平滑なチタンめっき膜を得るためには、溶融塩チタンめっき液組成物中にフッ化物イオンが存在することが重要であることが知られている。そのため溶融塩チタンめっき液組成物として、フッ化物イオンの発生源となる金属フッ化物を所定量含むものが選択される。フッ化カリウムはフッ化物イオンの発生源となる金属フッ化物として用いられる。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、フッ化カリウムを多く含むめっき液からチタンめっき膜を形成すると、その過程においてカリウムの金属霧が発生する。カリウムとチタンとの間の酸化還元電位は充分に離れているため、チタンが電析される状態においてカリウムは通常電析されない。しかしながらカリウムの金属霧は、チタンの酸化還元電位により近い酸化還元電位を有する。そのため、チタンが電析される状態においてカリウムの金属霧が同時に発生しやすい。
金属霧が発生すると、めっき浴中にカリウム金属が浮遊することとなり、めっき時には、カソードとアノードとの間を、カリウム金属を通して電流が流れるため、電流効率が落ちる。そのため、めっき浴からの金属霧の発生を抑制する必要がある。
本開示の溶融塩チタンめっき液組成物は、金属霧の発生を抑制しつつ、表面平滑性の高いチタンめっき膜を形成することができる。すなわち、本開示の溶融塩チタンめっき液組成物はフッ化物イオンを含有することから、表面平滑性の高いチタンめっき膜を形成することができる。加えて、本開示の溶融塩チタンめっき液組成物は、カリウムよりも還元電位が低い(還元されにくい)リチウムおよびナトリウムのイオンのうち少なくとも1つをカチオンとして含み、カリウムイオンの含有量が5mol%以下である。リチウムイオンおよびナトリウムイオンからは、チタンめっきを行なう条件において金属霧が発生しにくい。溶融塩チタンめっき液組成物に含まれるカリウムの量も充分に少ない。そのため、めっき時における金属霧の発生を抑制することができる。
[2]上記溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全アニオン中の上記フッ化物イオンの割合は、30mol%以上100mol%以下であってもよい。溶融塩チタンめっき液組成物がこのような割合でフッ化物イオンを含有することにより、表面平滑性に優れたチタンめっき膜を有するチタンめっき部材を製造することができる。
[3]上記溶融塩チタンめっき液組成物は、塩化物イオンをさらに含有してもよい。フッ化物イオンと共に塩化物イオンを含有することにより、融点降下により溶融塩チタンめっき液組成物の融点を降下させることができる。その結果、より低い温度でチタンめっき膜を形成することが可能となる。
[4]上記溶融塩チタンめっき液組成物において、上記塩化物イオンと上記フッ化物イオンとの合計100mol%に対する上記フッ化物イオンの量が30mol%以上50mol%以下であってもよい。このような範囲であれば、溶融塩チタンめっき液組成物の融点をより低下させることができる。その結果、さらにより低い温度でチタンめっき膜を形成することが可能となる。
[5]上記溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全カチオン100mol%に対する上記チタニウムイオンの含有量は、0.1mol%以上12mol%以下であることが好ましい。これにより表面平滑性の高いチタンめっき膜を歩留まりよく形成することができる。
[6]上記溶融塩チタンめっき液組成物は、不溶性電極の製造に用いられる。これにより、表面平滑性に優れたチタンめっき膜を有する不溶性電極を製造することができる。
[7]上記溶融塩チタンめっき液組成物は、集電体の製造に用いられる。これにより、表面平滑性に優れたチタンめっき膜を有する集電体を製造することができる。
[8]上記溶融塩チタンめっき液組成物は、生体材料の製造に用いられる。これにより、表面平滑性に優れ優れたチタンめっき膜を有する生体材料を製造することができる。このような生体材料は、耐食性にも優れることができる。
[9]本開示の一態様に係るチタンめっき部材の製造方法は、導電性の表面を有する基材を準備する工程と、上記基材を、上記溶融塩チタンめっき液組成物に浸漬する工程と、上記溶融塩チタンめっき液組成物に浸漬された上記基材がカソードとなるように通電し、上記基材の上記表面をチタンで被覆することにより、上記表面上にチタンめっき膜を形成する工程と、を含む。このようにすることで、金属霧の発生を抑制しつつ、表面平滑性の高いチタンめっき膜を有するチタンめっき部材を製造することができる。
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本開示の溶融塩チタンめっき液組成物およびチタンめっき部材の製造方法の一実施の形態の詳細を以下に説明する。本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
[溶融塩チタンめっき液組成物]
本実施の形態の溶融塩チタンめっき液組成物は、リチウムイオン(Li+)およびナトリウムイオン(Na+)のうち少なくとも1つの第1族金属イオンと、フッ化物イオン(F-)と、チタニウムイオン(Tin+(nは2以上4以下の整数。以下において同じ。))と、を含有する。上記めっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するカリウムイオン(K+)の含有量が5mol%以下である。めっき液組成物は、塩化物イオン(Cl-)をさらに含有することが好ましい。
上記めっき液組成物は、例えば、フッ化リチウム(LiF)およびフッ化ナトリウム(NaF)のうち少なくとも一つと、塩化リチウム(LiCl)および塩化ナトリウム(NaCl)のうち少なくとも一つとの混合物中に、Tin+の供給源であるチタン化合物を溶解させることにより溶融塩として調製することができる。この場合においてめっき液組成物は、チタン化合物中のTin+として、価数が相違する複数種を含有することができる。
Tin+の供給源となるチタン化合物の例としては、ヘキサフルオロチタン酸(H2TiF6)、チタンフッ化カリウム(K2TiF6)、チタンフッ化アンモニウム((NH42TiF6)、チタンフッ化ソーダ(Na2TiF6)、シュウ酸チタンカリウム2水和物(K2TiO(C242・2H2O)、塩化チタン(III)(TiCl3)、塩化チタン(IV)(TiCl4)等が挙げられる。チタンフッ化カリウム(K2TiF6)およびシュウ酸チタンカリウム2水和物(K2TiO(C242・2H2O)はカリウムイオンを含むため、めっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するK+の含有量が5mol%以下となるような量で用いられるか、あるいはK+を発生させない他のチタン化合物(例えば塩化チタン(IV)など)と併用される。
溶融塩である上記めっき液組成物中においては、LiF、NaF、LiClおよびNaClはそれぞれ電離して、Li+、Na+、F-およびCl-の状態で存在している。チタン化合物も同様に電離してTin+の状態で存在している。このようにして、Li+およびNa+のうち少なくとも1つの第1族金属イオンと、F-と、Cl-と、Tin+と、を含有するめっき液組成物を溶融塩として調製することが好ましい。
本実施の形態のめっき液組成物中にLi+、Na+、F-、Cl-およびTin+が存在することは、例えば、めっき液組成物を硝酸とフッ酸との混合液に溶解させ、その溶液をICP発光分光分析(Inductively Coupled Plasma Spectrometry)またはIC分析(Ion Chromatography)で分析することにより確認することができる。ICP発光分光分析装置としては、例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のiCAP6200などを用いることができる。
上記溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全アニオン中の上記フッ化物イオンの割合は、30mol%以上100mol%以下とすることができる。溶融塩チタンめっき液組成物がこのような割合でフッ化物イオンを含有することにより、表面平滑性に優れたチタンめっき膜を有するチタンめっき部材を製造することができる。上記全アニオン中のフッ化物イオンの割合は、好ましくは、40mol%以上90mol%以下、より好ましくは45mol%以上75mol%以下である。
Cl-とF-との合計100mol%に対するF-の量は30mol%以上50mol%以下であるのが好ましい。F-に対するCl-の割合を増加させると、融点降下により一旦めっき液組成物の融点は降下した後、再び上昇する。Cl-とF-との合計100mol%に対するF-の割合が所定の範囲にある場合には融点降下効果が大きい。具体的には、Cl-とF-との合計100mol%に対するF-の量が30mol%以上50mol%以下の範囲であれば融点の降下量が大きく、より低い温度でもめっきを行なうことが容易となる。Cl-とF-との合計100mol%に対するF-の量が30mol%以上45mol%以下の範囲であれば、融点の降下量がより大きいため、より好ましい。
めっき液組成物中のTin+の含有量は特に限定されず、めっき条件に応じて適宜設定される。しかしながら、Tin+の含有量が多すぎると不要な沈殿物が形成され電流効率の低下が大きくなる。一方、少なすぎるとチタンめっき膜が充分に形成されない。そのため、Tin+の含有量は、めっき液組成物中の全カチオン100mol%に対して20mol%以下であることが好ましく、12mol%以下であることがより好ましい。Tin+の含有量は、めっき液組成物中の全カチオン100mol%に対して、好ましくは0.1mol%以上であり、より好ましくは0.5mol%以上である。すなわち、溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全カチオン100mol%に対する上記チタニウムイオンの含有量は、0.1mol%以上12mol%以下であることが好ましい。
[チタンめっき部材の製造方法]
次に、図1〜図3を参照して、本実施の形態におけるチタンめっき部材の製造方法について説明する。図1は、チタンめっき部材の一部の一例を示す概略断面図である。図2は、チタンめっき部材を製造するための手順を示すフローチャートである。図3は溶融塩チタンめっき液組成物に基材を浸漬した状態の一例を示す概略断面図である。
図1を参照して、チタンめっき部材1は、基材10と、基材10の表面に形成されたチタンめっき膜20(以下、単に「めっき膜20」ともいう)とからなる。めっき膜20はチタンからなる膜である。図2および図3を参照して、チタンめっき部材1は、図2に示すS10〜S40のステップを経て製造される。本実施の形態に係るチタンめっき部材1の製造方法は、導電性の表面を有する基材10を準備する工程(S10)と、基材10を、めっき液組成物50に浸漬する工程(S20)と、めっき液組成物50に浸漬された基材10がカソードとなるように通電し、基材10の表面をチタンで被覆することにより、上記表面上にチタンめっき膜20を形成する工程(S30)と、を含む。さらに、チタンめっき部材1の製造方法は、めっき膜20の表面を洗浄する工程(S40)を含むことが好ましい。なお、本実施の形態のチタンめっき部材1の製造方法には、S10、S20、S30およびS40以外の工程が含まれていてもよい。以下、これらの各工程について説明する。
まず導電性の表面を有する基材10を準備する(S10)。基材10を構成する材料は導電性の表面を有する材料である限り特に限定されない。基材10としては、例えば鉄またはニッケル製の基材、あるいはそれらの合金製の基材、鉄またはニッケル、あるいはそれらの合金の層を表面に有する多層基材などが挙げられる。
基材10の形状は特に限定されない。例えば基材10としては、板状、柱状、パイプ状、網目状などの種々の形状を有する基材10を採用することができる。
次に上記基材10を、めっき液組成物50に浸漬する(S20)。めっき液組成物50としては、上述のようにして調製しためっき液組成物を用いる。
図3を参照して、本実施の形態において、上記めっき液組成物50は、リチウムイオン(Li+)およびナトリウムイオン(Na+)のうち少なくとも1つの第1族金属イオンと、フッ化物イオン(F-)と、チタニウムイオン(Tin+)と、塩化物イオン(Cl-)とを含有する。さらに、めっき液組成物50に含まれる全イオン成分100mol%に対するカリウムイオン(K+)の含有量が5mol%以下となるように上記めっき液組成物50は調製される。
本実施の形態において、上記めっき液組成物50は、溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全アニオン中のフッ化物イオンの割合が30mol%以上100mol%以下となるように調製されることが好ましい。さらにCl-とF-との合計100mol%に対するF-の量が30mol%以上50mol%以下となるようにめっき液組成物50が調製されることが好ましい。めっき液組成物50中に含まれる全カチオン100mol%に対するTin+の含有量は、0.1mol%以上12mol%以下となるようにめっき液組成物50が調製されることが好ましい。
次にめっき液組成物50に浸漬された基材10がカソードとなるように通電し、基材10の表面をチタンで被覆することにより、上記表面上にチタンめっき膜20を形成する(S30)。めっき膜20を形成する工程は、基材10をめっき液組成物50に浸漬した状態で、めっき液組成物50中に浸漬されたアノード30、およびカソードとしての基材10との間に電圧を印加して通電し、めっき液組成物50の電解を行なうことによって実施される。これにより、カソードである基材10の表面においてチタニウムイオンがチタンに還元され、基材10の表面がチタンで被覆されることにより、基材10の表面上にめっき膜20が形成される。
めっき液組成物50の電解は、アノード30と基材10との間に流れる電流の基材10上での電流密度の絶対値が1mA/cm2以上500mA/cm2以下となるように行なうことが好ましく、電流密度の絶対値が1mA/cm2以上300mA/cm2以下となるように行なうことがより好ましい。アノード30と基材10との間に流れる電流の電流密度の絶対値が1mA/cm2以上となるようにめっき液組成物50の電解を行なった場合には、基材10の表面上におけるめっき膜20の形成をより短時間で行なうことができる。アノード30と基材10との間に流れる電流の電流密度の絶対値を500mA/cm2以下、特に300mA/cm2以下となるようにめっき液組成物50の電解を行なった場合には、より表面の平滑性が高いめっき膜20を形成することができる。
最後に、めっき膜20の表面を洗浄する(S40)。上述のように形成されためっき膜20の表面にはめっき液組成物50に含まれる成分が残留している。そのため、洗浄剤でめっき膜20の表面を洗浄することにより、めっき膜20の表面の残留成分を除去することができる。上記洗浄剤としては、水を用いてもよい。すなわち、めっき膜20が形成された基材10を水洗してもよい。さらに、難水溶性物質などの水洗のみでは除去が難しい物質を除去するために、水に代えて、または水と組み合わせて、めっき液組成物50に含まれる成分との相溶性が高い水溶性の塩を含む洗浄剤などの水以外の他の洗浄剤で洗浄してもよい。このようにして、基材10の表面がめっき膜20で被覆されたチタンめっき部材1が製造される。
[チタンめっき部材]
このようにして製造されたチタンめっき部材1は、高硬度を有し、表面平滑性が高く、かつ耐腐食性、耐摩耗性に優れた保護膜を有する部材として種々の分野において使用することができる。
上記製造方法により製造されるチタンめっき部材1のめっき膜20の平均厚さRに対する表面平均粗さRaの割合((Ra/R)×100(%))は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、充分に表面平滑性が高いめっき膜20を有するチタンめっき部材1を提供することができる。
めっき膜20の表面平均粗さRaは、SEM(Scanning Electron Microscope)による断面観察、または表面粗さ計を用いて測定することができる。めっき膜20の平均厚さRはSEMによる断面観察によって求めることができる。ここで、めっき膜20の表面平均粗さRaは、JIS B 0601(2001)に規定された算術平均粗さRaを意味している。めっき膜20の平均厚さRは、例えばSEM像の任意の10点におけるめっき膜20の厚みの算術平均とすることができる。
上述した溶融塩チタンめっき液組成物は、不溶性電極の製造に用いられることが好ましい。このような不溶性電極製造用の溶融塩チタンめっき液組成物により、表面平滑性に優れたチタンめっき膜を有する不溶性電極を製造することができる。
上記不溶性電極は、水素製造用であることが好ましい。不溶性電極が水素製造用である場合、抵抗の低い水素製造用不溶性電極として提供することができる。これにより純度の高い水素を製造することが可能になる。
上述した溶融塩チタンめっき液組成物は、集電体の製造に用いられることが好ましい。このような集電体製造用の溶融塩チタンめっき液組成物により、表面平滑性に優れたチタンめっき膜を有する集電体を製造することができる。
上記集電体は、燃料電池用であることが好ましい。集電体が燃料電池用である場合、良好な電気伝導性を備えた燃料電池用集電体として提供することができる。特に集電体が燃料電池用である場合、固体高分子型燃料電池用であることがより好ましい。
上述した溶融塩チタンめっき液組成物は、生体材料の製造に用いられることが好ましい。このような生体材料製造用の溶融塩チタンめっき液組成物により、表面平滑性に優れたチタンめっき膜を有する生体材料を製造することができる。この生体材料は、耐食性にも優れる。
生体材料の用途は、脊柱固定器具、骨折固定材、人工関節、人工弁、血管内ステント、義歯床、人工歯根および歯列矯正用ワイヤからなる群より選ばれることが好ましい。
[まとめ]
このように、本実施の形態に係る溶融塩チタンめっき液組成物50によれば、めっき時の金属霧の発生を抑制することが可能となる。さらに本実施の形態に係るチタンめっき部材1の製造方法によれば、表面平滑性の高いめっき膜20を有するチタンめっき部材1を製造することができる。
上記実施の形態においては、塩化物イオン(Cl-)を含有する溶融塩チタンめっき液組成物50について説明したが、Cl-を含まずに溶融塩チタンめっき液組成物50を調製することもできる。Cl-を含まない場合には、代わりに他のアニオンを含むように溶融塩チタンめっき液組成物50を調製することができる。この場合、上記他のアニオンは、めっき温度においても安定で、かつめっき後に除去が困難な塩などの残留物を形成しないように選定することが望ましい。
上記溶融塩チタンめっき液組成物は、Cl-とF-との合計100mol%に対するF-の量が30mol%以上50mol%以下で、かつ、めっき液組成物50中に含まれる全カチオン100mol%に対するTin+の含有量が0.1mol%以上12mol%以下となるようにめっき液組成物50が調製されることが好ましい。但し、これらの量の制限は必須ではなく、必要とされるめっき温度およびめっき性を考慮して適宜設定することができる。
以下において、実施例を参照して上記実施の形態をより具体的に説明する。本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。表1において、実験No.1は、本開示の溶融塩チタンめっき液組成物の範囲内である実施例のめっき液組成物を用いた例である。実験No.2〜No.4は、本開示の溶融塩チタンめっき液組成物の範囲外である比較例のめっき液組成物を用いた例である。
≪実施例1≫
[溶融塩チタンめっき液組成物の調製およびチタンめっき部材の作製]
表1に示すめっき液組成物の主剤に対し、チタン源として、K2TiF6粉末およびTiCl4ガスのいずれか一方または両方を、主剤100molに対して合計2molの割合で溶解させることによって、実験No.1〜No.4の溶融塩チタンめっき液組成物を調製した。さらに、上述したチタンめっき部材の製造方法におけるS10〜S40の工程(図2参照)を経ることにより、実験No.1〜No.4の溶融塩チタンめっき液組成物を用いて、基材(ニッケル製、厚み0.1mm、5mm×25mm角)の表面にチタンめっきを行なった。これにより実験No.1〜No.4のチタンめっき部材を作製した。次いで、実験No.1〜No.4のチタンめっき部材に対し、それぞれめっき性を評価した。さらに実験No.1〜No.4においてチタンめっきを行なう過程における金属霧の発生の有無を目視により確認した。結果を表1に示す。めっき性の評価は、具体的にはめっき面において変色、めっき未着などが発生することにより、めっき異常部となった割合を面積比(%)を用いて評価した。これを表1において、めっき性の優劣として「良好」、「普通」、「やや不良」、「不良」という用語を用いて分類した。「良好」は、上記異常部が5%未満であることを意味し、「普通」は、上記異常部が5%以上20%未満であることを意味し、「やや不良」は、上記異常部が20%以上50%未満であることを意味し、「不良」は、上記異常部が50%以上であることを意味する。表1中、金属霧の発生の有無において「少量発生」とは、水洗時に白煙が確認されたことを意味し、「発生」とは白煙と火花とが確認されたことを意味する。
Figure 2018216320
表1に示すように、実験No.1においては、めっき性が良好で金属霧の発生も確認されなかった。このように、溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するK+の含有量が5mol%以下である溶融塩チタンめっき液組成物を用いてチタンめっきを行なうことによりカリウムの金属霧の発生を抑制できた。K+の含有量が少なく、代わりにLi+を主要なカチオン種として含む溶融塩チタンめっき液組成物であっても、めっき性は良好であった。
これに対し、実験No.2においては、めっき性が悪く、金属霧が少量発生することが確認された。実験No.3および実験No.4においては、めっき性は良好であったが、金属霧の発生が確認された。このように、溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するK+の含有量が5mol%超の溶融塩チタンめっき液組成物においては、カリウムの金属霧が発生した。
≪実施例2≫
[溶融塩チタンめっき液組成物の調製およびチタンめっき部材の作製]
表2〜4に示すめっき液組成物の主剤に対し、チタン源として、K2TiF6粉末およびTiCl4ガスのいずれか一方または両方を、主剤100molに対して表2〜4に示す割合で溶解させることによって、実験No.5〜No.16の溶融塩チタンめっき液組成物を調製した。
実験No.5の溶融塩チタンめっき液組成物は、溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するK+の含有量が5mol%超であるので、比較例である。実験No.6〜No.16の溶融塩チタンめっき液組成物は、溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するK+の含有量が5mol%以下であるので、実施例である。
ここで実験No.7およびNo.15の溶融塩チタンめっき液組成物は、塩化物イオンを含まない実施例である。実験No.8、No.10〜No.12およびNo.16の溶融塩チタンめっき液組成物は、塩化物イオンとフッ化物イオンとの合計100mol%に対するフッ化物イオンの量が30mol%以上50mol%以下の実施例である。但し、実験No.12の溶融塩チタンめっき液組成物は、溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全カチオン100mol%に対するチタニウムイオンの含有量が12mol%超である。実験No.16の溶融塩チタンめっき液組成物は、溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全カチオン100mol%に対するチタニウムイオンの含有量が0.1mol%未満である。
次に、実験No.5〜No.16の溶融塩チタンめっき液組成物を用いて、上述したチタンめっき部材の製造方法のS10〜S40の工程(図2参照)を経ることにより、基材(ニッケル製、厚み0.1mm、5mm×25mm角)の表面にチタンめっきを行なった。これにより実験No.5〜No.16のチタンめっき部材を作製した。さらに、実験No.5〜No.16のチタンめっき部材に対し、実施例1と同じ評価法によりめっき性を評価した。実験No.5〜No.16において、チタンめっきを行なう過程における金属霧の発生の有無についても実施例1と同じ評価法により確認した。結果を表2〜表4に示す。
ここで、実験No.5〜No.16の溶融塩チタンめっき液組成物と実験No.5〜No.16のチタンめっき部材との対応関係は以下のとおりである。すなわち実験No.5の溶融塩チタンめっき液組成物を用いて作製したチタンめっき部材が、実験No.5のチタンめっき部材に対応する。以降、同様に実験No.“X”の溶融塩チタンめっき液組成物を用いて作製したチタンめっき部材が、実験No.“X”のチタンめっき部材に対応する(Xは任意の数字を意味する)。
Figure 2018216320
Figure 2018216320
Figure 2018216320
表2〜4に示すように、溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するK+の含有量が5mol%超となる実験No.5の溶融塩チタンめっき液組成物においては、カリウムの金属霧が発生した。これに対し、全イオン成分100mol%に対するK+の含有量が5mol%以下である実験No.6〜No.16の溶融塩チタンめっき液組成物は、カリウムの金属霧が発生しないことが確認された。
このように、本実施の形態に係る溶融塩チタンめっき液組成物50およびチタンめっき部材1の製造方法によれば、めっき時の金属霧の発生を抑制することが可能となる。
≪実施例3≫
[生理食塩水に対する耐食性]
後述するTiめっき品について、生理食塩水に対する耐食性を以下の手順で評価した。
(試験体の作製)
実験No.8の溶融塩チタンめっき液組成物を用い、上述したチタンめっき部材の製造方法のS10〜S40の工程(図2参照)を経ることにより、ニッケル製の多孔体基材(3cm×5cm×1mmt、気孔率は96%、平均気孔径は300μm、以下では「ニッケル多孔体」と記す。)の表面にチタンめっきを行なった。これにより実施例の試験体となるTiめっき品を準備した。
これに対し、比較例の試験体として、Niの多孔体(商品名:「セルメット(登録商標)」、住友電気工業株式会社製)およびTiの金属板(株式会社ニラコ製)をそれぞれ準備した。
(耐食性試験)
以下の条件によりサイクリックボルタンメトリーを行なった。結果を図4に示す。図4中、実施例の試験体ならびに比較例の試験体(Niの多孔体およびTiの金属板)を、それぞれ「Tiめっき品」、「Ni」および「Ti」と表記した。
<サイクリックボルタンメトリーの条件>
電解液 :0.9質量%の塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)
作用極 :実施例の試験体または比較例の試験体(Tiめっき品、NiまたはTi)
参照極 :Ag/AgCl電極
対極 :Niの金属板
走査速度:10mV/sec
液温 :25℃。
図4の結果から、実施例であるTiめっき品は、比較例であるNiの多孔体と比較して、腐食電流密度が低く抑えられており、生理食塩水の環境に安定であることが示された。この結果から、実施例であるTiめっき品は、生体材料として適していることが分かった。さらに実施例であるTiめっき品は、比較例であるTiの金属板と比較し、腐食電流密度が低く抑えられていた。この結果から、金属板ではなく金属多孔体の構造を採用することで生理食塩水の環境に対する安定性がさらに向上することが示された。
≪実施例4≫
[海水を模擬した食塩水に対する耐食性]
後述するTiめっき品について、海水を模擬した食塩水に対する耐食性を以下の手順で評価した。
(試験体の作製)
実施例の試験体として、実施例3で用いたTiめっき品と同じ方法により作製したTiめっき品を準備した。比較例の試験体として、Tiの金属板(株式会社ニラコ製)を準備した。
(耐食性試験)
電解液として海水を模擬した3.3質量%の食塩水を使用したこと以外、上述した[生理食塩水に対する耐食性]の欄に示した条件と同じ条件により、サイクリックボルタンメトリーを行った。結果を図5に示す。図5中、実施例の試験体および比較例の試験体を、それぞれ「Tiめっき品」および「Ti市販品」と表記した。
図5の結果から、実施例であるTiめっき品は、比較例であるTi市販品と比較し、電流密度が低く抑えられており、海水に対し高い耐食性を示すことが判明した。これにより実施例であるTiめっき品は、食塩電解用の不溶性電極(陽極)として有望であることが分かった。
≪実施例5≫
[固体高分子型燃料電池への適性評価]
後述するTiめっき品について、固体高分子型燃料電池への適性を以下の手順で評価した。
(試験体の作製)
実施例の試験体として、実施例3で用いたTiめっき品と同じ方法により作製したTiめっき品を準備した。比較例の試験体として、Niの多孔体(商品名:「セルメット(登録商標)」、住友電気工業株式会社製)およびTiの金属板(株式会社ニラコ製)をそれぞれ準備した。
(適正評価)
電解液として10質量%の硫酸ナトリウム水溶液(硫酸を加えてpH=3に調整した)(PEFC模擬電解液)を使用したこと以外、上述した[生理食塩水に対する耐食性]の欄に示した条件と同じ条件により、サイクリックボルタンメトリーを行った。結果を図6および図7に示す。図6および図7中、実施例の試験体、ならびに比較例の試験体(Niの多孔体およびTiの金属板)を、それぞれ「Tiめっき品」、「Ni比較用」および「Ti比較用」と表記した。なお図6において、「Tiめっき品」および「Ti比較用」における各電極の電流密度と電位との相関関係のプロットが重複して現れたため、図7において縦軸(電流密度)を拡大することにより、「Tiめっき品」および「Ti比較用」における上記相関関係のプロットが区別可能に現れるようにした。
図6および図7の結果から、実施例であるTiめっき品は、比較例であるNi比較用と比較し、電流密度が低く抑えられており、固体高分子型燃料電池で使用する集電体材料として有望であることが分かった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 チタンめっき部材、10 基材、20 めっき膜、30 アノード、40 容器、50 めっき液組成物。

Claims (9)

  1. 溶融塩チタンめっき液組成物であって、
    リチウムイオンおよびナトリウムイオンのうち少なくとも1つの第1族金属イオンと、
    フッ化物イオンと、
    チタニウムイオンと、を含有し、
    前記溶融塩チタンめっき液組成物に含まれる全イオン成分100mol%に対するカリウムイオンの含有量が5mol%以下である、溶融塩チタンめっき液組成物。
  2. 前記溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全アニオン中の前記フッ化物イオンの割合は、30mol%以上100mol%以下である、請求項1に記載の溶融塩チタンめっき液組成物。
  3. 塩化物イオンをさらに含有する、請求項1または請求項2に記載の溶融塩チタンめっき液組成物。
  4. 前記塩化物イオンと前記フッ化物イオンとの合計100mol%に対する前記フッ化物イオンの量が30mol%以上50mol%以下である、請求項3に記載の溶融塩チタンめっき液組成物。
  5. 前記溶融塩チタンめっき液組成物中に含まれる全カチオン100mol%に対する前記チタニウムイオンの含有量は、0.1mol%以上12mol%以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶融塩チタンめっき液組成物。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の溶融塩チタンめっき液組成物は、不溶性電極の製造に用いられる、溶融塩チタンめっき液組成物。
  7. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の溶融塩チタンめっき液組成物は、集電体の製造に用いられる、溶融塩チタンめっき液組成物。
  8. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の溶融塩チタンめっき液組成物は、生体材料の製造に用いられる、溶融塩チタンめっき液組成物。
  9. 導電性の表面を有する基材を準備する工程と、
    前記基材を、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の溶融塩チタンめっき液組成物に浸漬する工程と、
    前記溶融塩チタンめっき液組成物に浸漬された前記基材がカソードとなるように通電し、前記基材の前記表面をチタンで被覆することにより、前記表面上にチタンめっき膜を形成する工程と、を含むチタンめっき部材の製造方法。
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