鋭意検討した結果、本願発明者らは、特定の構造によって、剛性を高めることが可能なフロントアクスルが得られることを新たに見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。
この明細書において、フロントアクスルおよびそれを構成する部材の方向について言及するときは、特に記載がない限り、フロントアクスルを使用時の向きに配置した状態における方向を意味する。たとえば、フロントアクスルの上下方向というときには、特に記載がない限り、フロントアクスルを使用時の向きに配置した状態における上下方向(重力の方向と平行な方向であり、後述する鉛直方向Vtである。)を意味する。この上下方向(鉛直方向)は車高方向と同じ方向である。フロントアクスルは端部にキングピン取付け部を備える。キングピン取付け部の形状から車高方向は特定できる。キングピンは車高方向に沿って取り付けられるからである。水平方向および前後方向についても同様に、フロントアクスルを使用時の向きに配置した状態における方向を意味する。すなわち、水平方向とは正しくは車幅方向である。車幅方向はキングピン取付け部の位置から特定できる。キングピンは車両の幅の両側に取り付けられるからである。なお、フロントアクスルの前方および後方はそれぞれ、フロントアクスルが配置される車両の前方(後述する方向Fw)および後方と同じ方向を意味する。ただし、フロントアクスルが前後で対称の形状である場合には、いずれか一方向を前方とし他方向を後方とする。前方、後方とは、車長方向である。車長方向は車高方向と車幅方向から特定できる。この明細書において、「断面」という用語は、特に説明がなくても文脈から判断される限り、フロントアクスルの長手方向(後述する「長手方向LD」)に垂直な断面を意味する。
(フロントアクスルビーム)
本実施形態のフロントアクスル(フロントアクスルビーム)は、ビーム部と、ビーム部の長手方向両端にあるキングピン取付け部と、を備える。ビーム部は、第1のフランジ部と、第1のフランジ部に対向する第2のフランジ部と、第1のフランジ部と第2のフランジ部とに立って接続するウエブ部と、を備える。ウエブ部は、ビーム部の横断面において、車高方向に対して一方向に傾く第1の傾斜部と、ビーム部の他の横断面において、車高方向に対して前記一方向とは逆の方向に傾く第2の傾斜部と、を備える。第1の傾斜部と第2の傾斜部は、長手方向に交互にあるのが望ましい。なお、ビーム部の横断面は、ビーム部の長手方向に垂直な断面を意味する。
別の観点では、本実施形態のフロントアクスルは、ビーム部と、2つのキングピン取付け部と、を含む。2つのキングピン取付け部は、各々が対応するビーム部の長手方向の両端にそれぞれ設けられる。キングピン取付け部に設けられたキングピンを収納する穴は車高方向に空いている。ビーム部は、上方に配置された第1のフランジ部と、第1のフランジ部の下方に配置された第2のフランジ部と、第1のフランジ部と第2のフランジ部とをつなぐウエブ部とを含む。以下では、ビーム部の長手方向を、「長手方向LD」と称する場合がある。
ウエブ部は、複数の第1の傾斜部と複数の第2の傾斜部とを含む傾斜変化部を含む。複数の第1の傾斜部のそれぞれは、長手方向に垂直な断面において、鉛直方向(上下方向、車高方向)に対して一方向に傾いている。複数の第2の傾斜部のそれぞれは、長手方向に垂直な断面において、鉛直方向に対して一方向とは逆の方向に傾いている。第1の傾斜部と第2の傾斜部とは、長手方向LDに沿って交互に配置されている。
従来のウエブ部は、概ね、鉛直方向に平行な板状の形状(ストレートな形状)を有する。この場合、フロントアクスルの剛性に異方性が生じる。すなわち、フロントアクスルは、車高方向の曲げには強いが、車長方向の曲げには車高方向に比べて弱い。このため、車長方向の曲げに対する剛性も改善したい。対策として、本実施形態のウエブ部は、車高方向に対して相互に逆向きに傾く第1の傾斜部と第2の傾斜部がある。これによりフロントアクスルの強度の異方性が緩和される。第1の傾斜部と第2の傾斜部とが偏って配置されると、偏って配置された箇所の剛性の異方性配分が、偏らずに配置された箇所の剛性の異方性配分と異なり、バランスが良くない。故に、第1の傾斜部と第2の傾斜部とは車幅方向(長手方向LD)に沿って交互に配置されていることが望ましい。また、第1の傾斜部と第2の傾斜部とは隣接していることが望ましい。この構成によれば、後述するように、第1の傾斜部と第2の傾斜部との隣接した箇所で筋交い構造が形成されるため、フロントアクスルの剛性を高めることが可能である。1つの観点では、ウエブ部は、車高方向(鉛直方向)に対して傾きが変化する傾斜変化部を含む。傾斜変化部はたとえば、表面が波打つように変化している波打ち部である。なお、ウエブ部のうち傾斜変化部以外の部分は、上記した従来のウエブ部と同様のストレートな形状を有してもよい。
第1の傾斜部と第2の傾斜部とは、交互に配置されるようにつながっている。ただし、第1の傾斜部と第2の傾斜部との間には、鉛直方向に対して傾いていない部分が存在してもよい。
長手方向LDに垂直な断面において、傾斜変化部は直線状であってもよいし、直線状でなくてもよいし、直線状の部分と曲線状の部分とを含んでもよい。第1および第2の傾斜部はそれぞれ独立に、鉛直方向と平行な部分を含んでもよい。
第1の傾斜部の数と第2の傾斜部の数との合計は、5以上であってもよく、6以上(3波長以上)であってもよい。これらの数の上限について特に限定はなく、傾斜変化部の長さや求められる特性に応じて任意に決めることができる。一例では、第1の傾斜部の数と第2の傾斜部の数との合計は、50以下であってもよい。なお、傾斜変化部が、フロントアクスルの長手方向の中央に対して、左右対称である場合、第1および第2の傾斜部のいずれか一方の数は、他方の数よりも1つ多い。
傾斜変化部は、ウエブ部の少なくとも一部に形成される。傾斜変化部は、ウエブ部の長手方向の全体にわたって形成されてもよいし、ウエブ部の長手方向の一部のみに形成されてもよい。一例の傾斜変化部は、2つのバネ取り付け座の間の領域の全部または一部に形成される。この領域は長手方向に長いので、この部分に傾斜変化部を適用すると軽量化の効果が大きい。つまり一定の波長の波を考えた場合、この部分に傾斜変化部を形成することによって波の数を多くできる。また、この領域のフランジ部は形状の変化が小さいため、同一の波打ち形状を繰り返し形成することが可能である。そのため、2つのバネ取り付け座の間の領域に傾斜変化部を形成することは、型鍛造工程を含む製造方法で製造する場合に、型が抜きやすいというメリットや、型設計が容易になるというメリットなどの利点がある。他の一例の傾斜変化部は、2つのバネ取り付け座の間の領域の全部または一部に加えて、2つのバネ取り付け座の間の領域ではない領域(たとえば、バネ取り付け座とキングピン取付け部との間の領域)に形成されてもよい。
鉛直方向に対する傾斜変化部の傾きの角度に関して、当該角度の絶対値の最大値は、ウエブ部からのフランジ部の突出量とウエブ部の高さとによって限定される。鉛直方向に対する傾斜変化部の傾きの角度は、たとえば5°〜45°の範囲にあってもよい。当該角度(角度X)については、第1実施形態で説明する。
フロントアクスルに求められる主要な剛性としては、上下方向(車高方向、鉛直方向)の曲げに対する剛性、前後方向(車長方向)の曲げに対する剛性、および、ねじれに対する剛性が挙げられる。本実施形態のフロントアクスルによれば、これらの剛性を向上させることが可能である。
第1のフランジ部の上において、ウエブ部と第1のフランジ部との間の接続部(以下では「第1の接続部」と称する場合がある)は、車長方向に張り出す形状を有する。第2のフランジ部の上において、ウエブ部と第2のフランジ部との間の接続部(以下では「第2の接続部」と称する場合がある)は、車長方向に張り出す形状を有する。第1の接続部および第2の接続部の一方が、車長方向に張り出す形状を有してもよいし、第1の接続部および第2の接続部の両方が、車長方向に張り出す形状を有してもよい。
別の観点では、傾斜変化部において、ウエブ部と第1のフランジ部との間の第1の接続部、および、ウエブ部と第2のフランジ部との間の第2の接続部から選ばれる少なくとも1つの接続部は、長手方向LDに沿って波打っている波打ち形状を有してもよい。波打ち形状の例には、曲線で構成される波打ち形状(たとえば正弦波状の波打ち形状)、および、直線状の部分を含む波打ち形状(たとえば矩形波状の波打ち形状や三角波状の波打ち形状)が含まれる。
第1の接続部および第2の接続部の両方が、車長方向に張り出す形状を有する場合、第1のフランジ部と第2のフランジ部との中間の断面において、第1の傾斜部と第2の傾斜部とは直線形状であることが好ましい。
別の観点では、傾斜変化部において、第1の接続部および第2の接続部の両方が、上記の波打ち形状を有してもよい。この場合、第1の接続部の波打ち形状の位相に対して、第2の接続部の波打ち形状の位相が実質的に逆位相となっていることが好ましい。ここで、「実質的に逆位相」とは、第1の接続部の波打ち形状の位相と、第2の接続部の波打ち形状の位相とが、長手方向LDに沿って約180°(たとえば160°〜200°の範囲であり、典型的には180°)ずれていることを意味する。
車長方向に張り出す形状が、6か所以上の張り出し部を備える形状であることが好ましい。
別の観点では、上記波打ち形状は、3波長以上の波を含む形状であってもよい。波打ち形状を、3波長以上の波を含む形状とすることによって、より高い剛性を実現できる。
本実施形態のフロントアクスルでは、第1の傾斜部と第2の傾斜部が隣接することが好ましい。
別の観点では、本実施形態のフロントアクスルでは、長手方向LDに垂直な断面において鉛直方向に対する傾斜変化部の角度(後述する角度X)が、長手方向LDに沿って連続的に変化していてもよい。あるいは当該角度が、長手方向LDに沿って不連続に変化していてもよい。
長手方向LDに垂直な断面における傾斜変化部は、当該断面における傾斜変化部の中間部を中心として回転往復振動するように、長手方向LDに沿って変化してもよい。ここで、傾斜変化部の中間部とは、第1の接続部と第2の接続部との間にある部分であり、たとえば中央部(第1実施形態で説明する中心点およびその近傍)である。あるいは、長手方向LDに垂直な断面における傾斜変化部は、第1の接続部または第2の接続部を支点とする振り子のように、長手方向LDに沿って変化してもよい。フロントアクスルは強度上の観点から、フランジ部、ウエブ部、シート部(バネ取り付け座)、およびキングピン取付け部は一体ものであることが望ましい。また、同じ理由で、フロントアクスルは鍛造で製造されることが望ましい。
以下では、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下で説明する実施形態は例示であり、以下の実施形態の構成の少なくとも一部を、上述した構成に置き換えることができる。以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。以下の図はすべて模式的なものであり、実際の形状とは異なる場合があり、さらに、説明に不要な部分を省略している場合がある。
(第1実施形態)
第1実施形態では、本実施形態のフロントアクスルの一例について説明する。第1実施形態のフロントアクスル100の斜視図を、図1に模式的に示す。
図1を参照して、フロントアクスル(フロントアクスルビーム)100は、ビーム部110と、ビーム部110の長手方向LDの両端にそれぞれ設けられた2つのキングピン取付け部150とを含む。なお、図には、ビーム部110の長手方向LDおよび前方の方向Fwを示す場合がある。キングピン取付け部150には、キングピンが取り付けられる貫通孔が形成されている。通常、フロントアクスル100は、左右対称の形状を有し、且つ、全体としては概ね弓形の形状を有する。
ビーム部110は、ウエブ部120、第1のフランジ部131、および第2のフランジ部132を含む。第1のフランジ部131は上方に配置され、第2のフランジ部132は第1のフランジ部131の下方に配置されている。ウエブ部120は、第1のフランジ部131と第2のフランジ部132とをつないでいる。つまり、第1のフランジ部131は第2のフランジ部132と対向する。ウエブ部120は第2のフランジ部132上に立って、第1のフランジ部131と第2のフランジ部132とを接続する。
第1のフランジ部131および第2のフランジ部132はそれぞれ、ウエブ部120の車高方向の上端および下端から前後(車長方向)に突き出しており、通常はほぼ水平に前後に延びている。ただし、第1のフランジ部131および第2のフランジ部132はそれぞれ、水平に延びていなくてもよい。
ビーム部110の上面(第1のフランジ部131の上面)には、2つのバネ取り付け座111が形成されている。バネ取り付け座111にはバネが配置され、バネの上には車体(エンジンを含む)が取り付けられる。
ウエブ部120は、傾斜変化部121を含む。傾斜変化部121の傾きは、傾斜変化部121が波打つように長手方向LDに沿って変化している。図1に示す一例では、傾斜変化部121は、2つのバネ取り付け座111の間に形成されている。しかし、傾斜変化部121は、必要に応じて他の部分にも形成されてもよい(他の実施形態においても同様である)。
傾斜変化部121の一部の斜視図を、図2に模式的に示す。理解を容易にするため、図2の斜視図では、第1のフランジ部131の輪郭を点線で示す。さらに、フロントアクスル100を前方から見たときの正面図を、図3に模式的に示す。なお、図3では、傾斜変化部121の部分をハッチングで示す。
図2において、ウエブ部120と第1のフランジ部131との間の接続部を第1の接続部120aとし、ウエブ部120と第2のフランジ部132との間の接続部を第2の接続部120bとする。第1実施形態で説明する一例では、第1の接続部120aおよび第2の接続部120bの両方が、長手方向LDに沿って波打っている波打ち形状を有する。つまり、第1のフランジ部131の上において、第1の接続部120aは、車長方向に張り出す形状を有する。第2のフランジ部132の上において、第2の接続部120bは、車長方向に張り出す形状を有する。
傾斜変化部121は、複数の第1の傾斜部121aと複数の第2の傾斜部121bとを含む。第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとは、長手方向LDに沿って交互に配置されている。
第1の接続部120aにおける傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を、図4Aに模式的に示す。傾斜変化部121の上下方向の中間点における、傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を、図4Bに模式的に示す。第2の接続部120bにおける傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を、図4Cに模式的に示す。
図4A〜図4Cの線VA−VA、線VB−VB、および線VC−VCにおける断面(長手方向LDに垂直な断面)をそれぞれ、図5A、図5B、および図5Cに模式的に示す。図5Aに示す断面は、第1の傾斜部121aにおける断面である。図5Cに示す断面は、第2の傾斜部121bにおける断面である。なお、図5A、図5B、および図5Cに示す断面図では、ハッチングを省略する。長手方向LDに垂直な断面を表示する以下の図においても、ハッチングを省略する場合がある。
長手方向LDにおける位置を横軸とし、前後方向における位置を縦軸としたときに、第1の接続部120aにおける傾斜変化部121は、図4Aに示される波打ち形状を有する。同様に、第2の接続部120bにおける傾斜変化部121は、図4Cに示される波打ち形状を有する。
図5Aに示すように、複数の第1の傾斜部121aのそれぞれは、長手方向LDに垂直な断面において、鉛直方向(上下方向)Vtに対して一方向に傾いている。一方、図5Cに示すように、複数の第2の傾斜部121bのそれぞれは、長手方向LDに垂直な断面において、鉛直方向Vtに対して前記一方向とは逆の方向に傾いている。
第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとは長手方向LDに沿って交互に配置されている。すなわち、それらの傾斜部は、筋交い構造(トラス構造的要素)を形成している。図5Aにおける断面と図5Cにおける断面とを重ね合わせた図を、図6に模式的に示す。図6に示すように、第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとは、筋交い構造を形成している。そのため、傾斜変化部121を含むフロントアクスル100は、高い剛性を実現することが可能である。
傾斜変化部121の板厚は、位置によらずにほぼ一定であってもよいし、位置によって異なってもよい。
なお、図4A〜図4Cには、傾斜変化部121の一部として、接続部120aおよび120bにおける波打ち形状が2.5波長の波を含む範囲を示した。第1の傾斜部121aにおける波打ち形状の振幅の一例(振幅Am1)、および、第2の傾斜部121bにおける波打ち形状の振幅の一例(振幅Am2)を、それぞれ図4Aに示す。それらの振幅は、第1の接続部120aと第2の接続部120bとにおいて同じであってもよいし異なってもよく、また、長手方向LDの位置によって変化してもよいし変化しなくてもよい。
図4Aおよび図4Cに示すように、傾斜変化部121は、波打ち形状を有する。この波打ち形状によって、波打ち形状ではない従来のストレートな形状よりも断面2次モーメントが増加して剛性が向上することが、材料力学の観点から言える。
図4Aに示される波の位相と図4Cに示される波の位相とは、第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとが長手方向LDに沿って交互に配置されるようにずれる。図4A〜図4Cに示した一例では、図4Cに示される波の位相は、図4Aに示される波の位相の逆であり、具体的には180°ずれている。
図示した一例では、図4Bにおける傾斜変化部121は、波打ち形状を有さない。つまり、第1のフランジ部131と第2のフランジ部132との中間の水平断面において、第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとは直線形状である。しかし、傾斜変化部121の上下方向の中間点において傾斜変化部121が波打ち形状を有してもよい(たとえば、後述する図11B参照)。
図5Aに示すように、長手方向LDに垂直な断面において、第1の傾斜部121aの前方側の表面は、斜め上方の方向Dufを向くように傾いており、その後方側の表面は、斜め下方に向くように傾いている。一方、図5Cに示すように、長手方向LDに垂直な断面において、第2の傾斜部121bの前方側の表面は、斜め下方の方向Ddfを向くように傾いており、その後方側の表面は、斜め上方を向くように傾いている。
ここで、図5A〜図5Cに示すように、長手方向LDに垂直な断面において、傾斜変化部121と鉛直方向(上下方向)Vtとがなす角度を角度Xとする。より具体的には、点120acと点120bcとを結ぶ線と、鉛直方向Vtとがなす角度を、傾斜変化部121と鉛直方向Vtとがなす角度Xとする。図5A〜図5Cに示すように、点120acは、長手方向LDに垂直な断面において、第1の接続部120aの、前後方向Hfbにおける中央に位置する。また、点120bcは、長手方向LDに垂直な断面において、第2の接続部120bの、前後方向Hfbにおける中央に位置する。
さらに、前方の方向Fwを右手に見たとき(図5A〜図5Cの状態)に、反時計回りに回る角度をプラスの角度とし、時計回りに回る角度をマイナスの角度とする。その場合、図5Aに示す第1の傾斜部121aの角度Xはプラスとなる。一方、図5Cに示す第2の傾斜部121bの角度Xはマイナスとなる。角度Xは、長手方向LDに沿ってプラスとマイナスとに交互に変化する。好ましい一例では、角度Xは、連続的に変化する。そのような角度Xの変化の一例を、図7に示す。図7に示すように、第1の傾斜部121aにおいて角度Xはプラスとなり、第2の傾斜部121bにおいて角度Xはマイナスとなる。角度Xは、長手方向LDの位置の変化にともなって連続的に変化している。この場合、第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bが隣接する。図7には、3.5波長の波を示す。
図7では、角度Xの絶対値の最大値が、すべての第1の傾斜部121aおよび第2の傾斜部121bで同じである一例について示した。しかし、角度Xの絶対値の最大値は、それらの各部分で異なってもよい。なお、角度Xの絶対値の最大値は、波打ち形状の振幅に関係する。
図5A〜図5Cには、中心点121ctを示す。中心点121ctは、傾斜変化部121の上下方向の中間点を通る水平断面において、傾斜変化部121の前後方向の中心に位置する点である。
長手方向LDに垂直な断面における傾斜変化部121は、第1の接続部120aと第2の接続部120bとの間の部分を中心として回転を含む往復振動(以下では「回転往復振動」と称する場合がある)するように、長手方向LDに沿って変化している。なお、図示した一例では中心点121ctを中心に回転往復振動する一例を示したが、回転往復振動の中心は中心点121ctからずれていてもよい。
図5Aの中心点121ctよりもわずかに前方の方向Fwにずれた点を通り、且つ、鉛直方向Vtおよび長手方向LDに平行な断面の一部を、図8に模式的に示す(ハッチングは省略する)。図8に示される断面は、図4A〜図4Cの線VIII−VIIIにおける断面に相当する。図8に示すように、第1の傾斜部121aは、第2のフランジ部132を底面とするアーチ部を形成している。このアーチ部は、後方から見たときに半ドーム状の形状を有する。一方、第2の傾斜部121bは、第1のフランジ部131を底面とするアーチ部を形成している。このアーチ部は、前方から見たときに半ドーム状の形状を有する。図8に示すように、フロントアクスル100では、向きが異なるこれらのアーチ形状が多数配置されている。それに対し、一般的なフロントアクスルのウエブ部は平板状であり、アーチ形状を含まない。そのため、本実施形態のフロントアクスルは、一般的なフロントアクスルに対して、高い剛性を実現することが可能である。
なお、図5A〜図5Cの模式図ではフランジ部の勾配について表示を省略した。ただし、一般的な型鍛造で製造されるフロントアクスルのフランジ部は、型抜きのための勾配(型抜き方向に対する傾き)を有する(他の実施形態でも同様である)。そのような勾配を、図9に示す。図9を参照して、第1のフランジ部131の表面は、水平方向HDに対して傾いており、抜き勾配Yが存在する。同様に、第2のフランジ部132の表面は、水平方向HDから傾いており、抜き勾配Yが存在する。なお、抜き勾配Yは、フランジ部の位置によって異なってもよい。いずれにしても、一般的な型鍛造工程を含む一般的な製造方法によって製造されるフランジ部は、型抜きが可能な形状を有する。
さらに、図5A〜図5Cの模式図ではフランジ部の角部は丸められていない。ただし、一般的にはフランジ部の角部は丸められた形状(R形状)を有する。また、フランジ部とウエブ部との境界のコーナー部(図5Aのコーナー部Crn)は、一般的には丸められた形状を有する(他の実施形態においても同様である)。
(第2実施形態)
第1実施形態では、第1の接続部120aおよび第2の接続部120bの両方が波打ち形状を有する一例について説明した。しかし、それら接続部の一方のみが波打ち形状を有してもよい。そのようなフロントアクスル100の傾斜変化部121の一例について、一部の斜視図を図10に示す。さらに、水平方向の断面図の一部を図11A〜図11Cに示す。
図11Aは、第1の接続部120aにおける傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を模式的に示す。図11Bは、傾斜変化部121の上下方向の中間点における傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を模式的に示す。図11Cは、第2の接続部120bにおける傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を模式的に示す。
図11A〜図11Cの線XIIA−XIIA、線XIIB−XIIB、および線XIIC−XIICにおける断面(長手方向LDに垂直な断面)をそれぞれ、図12A、図12B、および図12Cに模式的に示す。なお、傾斜変化部121以外の部分は第1実施形態で説明したフロントアクスル100と同様であるため、重複する説明は省略する。
図10〜図12Cに示した傾斜変化部121は、2つの接続部120aおよび120bのうち、第2の接続部120bのみが波打ち形状を有する。第1の接続部120aは、直線状である。図11Bを参照して、第1のフランジ部131と第2のフランジ部132との中間点におけるウエブ部120の水平方向の断面も波打ち形状を有する。ただし、その振幅は、第2の接続部120bの波打ち形状の振幅の約半分である。
第2実施形態のフロントアクスル100においても、傾斜変化部121は、複数の第1の傾斜部121aと複数の第2の傾斜部121bとを含む。第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとは、長手方向LDに沿って交互に配置されている。図12Aに示すように、第1の傾斜部121aは、長手方向LDに垂直な断面において、鉛直方向(上下方向)Vtに対して一方向に傾いている。一方、図12Cに示すように、第2の傾斜部は、長手方向LDに垂直な断面において、鉛直方向Vtに対して前記一方向とは逆の方向に傾いている。その結果、傾斜変化部121の傾きは、長手方向LDに沿って変化している。具体的には、傾斜変化部121の傾きは、第1の接続部120aを支点とする振り子のように、長手方向LDに沿って変化している。なお、図示した一例とは異なり、第2の接続部120bを支点とする振り子(倒立振り子)のように、長手方向LDに沿って傾斜変化部121の傾きが変化してもよい。その場合、傾斜変化部121は、図10の傾斜変化部121の上下を反転させた形状を有する。あるいは、図10を180°回転させ、第1のフランジ部131を第2のフランジ部とし第2のフランジ部132を第1のフランジ部としてもよい。
第2実施形態のフロントアクスル100においても、角度Xは、図7に示すように、長手方向LDに沿ってプラスとマイナスとに交互に変化する。
第2実施形態のフロントアクスル100においても、第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとは筋交い構造を構成する。さらに、傾斜変化部121には、第1フランジ部131を底面とする上下方向アーチ形状と、第2フランジ部132を底面とする上下方向アーチ形状とが交互に配置されていると見なすことができる。また、長手方向の波打ち形状にも長手方向アーチ形状が連続していると見なせる。そのため、第2実施形態のフロントアクスル100でも、高い剛性を実現することが可能である。
(第3実施形態)
上記実施形態では、傾斜変化部121の断面(長手方向LDに垂直な断面)が、直線状である場合(すなわち、傾きが断面で一定である場合)について説明した。しかし、傾斜変化部121の断面は、直線状でなくてもよい。そのようなフロントアクスル100の傾斜変化部121の一例について、水平方向の断面図を図13A〜図13Cに示す。
図13Aは、第1の接続部120aにおける傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を模式的に示す。図13Bは、傾斜変化部121の上下方向の中間点における傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を模式的に示す。図13Cは、第2の接続部120bにおける傾斜変化部121の水平方向の断面の一部を模式的に示す。これらの断面は、図4A〜図4Cに示した断面と同様であるため、重複する説明を省略する。
図13A〜図13Cの線XIVA−XIVA、線XIVB−XIVB、および線XIVC−XIVCにおける断面(長手方向LDに垂直な断面)をそれぞれ、図14A、図14B、および図14Cに模式的に示す。なお、傾斜変化部121以外の部分は第1実施形態で説明したフロントアクスル100と同様であるため、重複する説明は省略する。
図13A〜図14Cに示した傾斜変化部121は、2つの接続部120aおよび120bの両方が、波打ち形状を有する。上述した実施形態のフロントアクスルと同様に、傾斜変化部121は、複数の第1の傾斜部121aと複数の第2の傾斜部121bとを含み、それらは長手方向LDに沿って交互に配置されている。すなわち、傾斜変化部121の傾きは、その表面が波打つように長手方向LDに沿って変化している。
図14Aおよび図14Cに示すように、第3実施形態のフロントアクスル100の第1および第2の傾斜部121aおよび121bの断面は、直線状ではなく曲線状の部分を含む。この場合でも、第1の傾斜部121aは、長手方向LDに垂直な断面において、鉛直方向(上下方向)Vtに対して一方向に傾いている。一方、第2の傾斜部121bは、長手方向LDに垂直な断面において、鉛直方向Vtに対して前記一方向とは逆の方向に傾いている。
第3実施形態のフロントアクスル100においても、第1の傾斜部121aと第2の傾斜部121bとは筋交い構造を構成していると見なすことができる。さらに、傾斜変化部121には、第1フランジ部131を底面とするアーチ形状(半ドーム形状)と、第2フランジ部132を底面とするアーチ形状(半ドーム形状)とが交互に配置されている。半ドーム形状は軽量化および剛性の向上に有効であるため、第3実施形態のフロントアクスル100でも、高い剛性を実現することが可能である。
なお、上記の一例では、第1の接続部120aおよび第2の接続部120bの両方が波打ち形状を有する場合について説明した。しかし、いずれか一方のみが波打ち形状を有してもよい。たとえば、第2実施形態で説明したフロントアクスル100において、傾斜変化部121の断面(長手方向LDに垂直な断面)が曲線状の部分を含んでもよい。そのような場合でも半ドーム形状が形成されるので、軽量化および高い剛性を実現することが可能である。
なお、波打ち形状は、上記実施形態において図示した形状に限定されない。たとえば、波打ち形状は、図15Aに示すように、半円を連結したような形状であってもよい。あるいは波打ち形状は、図15Bに示すように、矩形波状であってもよい。あるいは波打ち形状は、図15Cに示すように、三角波状であってもよい。これらの波打ち形状は、上記実施形態のいずれかの波打ち形状に置き換えることができる。これらの波打ち形状を用いる場合でも、上述した構造(筋交い構造、アーチ形状、半ドーム形状)が実現される。そのため、これらの波打ち形状を用いる場合でも、上述した効果が得られる。
本発明者らが行ったシミュレーションの結果より、波打ち形状は3波長以上の波を含むことが好ましい。つまり、接続部120aおよび/または120bが有する、車長方向に張り出す形状が、6か所以上の張り出し部を備える形状であることが好ましい。
(フロントアクスルの製造方法の一例)
本実施形態のフロントアクスルの製造方法に特に限定はなく、公知の技術を用いて製造できる。たとえば、本実施形態のフロントアクスルは、熱間鍛造工程を含む製造方法で製造してもよい。フロントアクスルの製造方法の一例について、以下に説明する。なお、本実施形態のフロントアクスルの製造方法に限定はなく、以下で説明する方法以外の方法で製造してもよい。
まず、材料となるビレットを準備する。次に、ビレットを、型鍛造に適した形状を有する予備成形品に加工する(予備成形工程)。予備成形工程には、ビレットを絞る工程や、曲げ打ち工程が含まれてもよい。次に、予備成形品を型鍛造して、フロントアクスルの形状を有する鍛造品を成形する(型鍛造工程)。この型鍛造工程において、ウエブ部に波打ち形状が付与される。これらの予備成形工程および型鍛造工程は、熱間で行われる。このようにしてフロントアクスルの形状を有する鍛造品が得られる。得られた鍛造品は、必要に応じて様々な工程に供されてもよい。それらの工程の例には、バリ抜き工程、整形工程、曲がり取り工程、熱処理工程、表面処理工程、穴あけ工程、塗装工程などが含まれる。
本実施形態のフロントアクスルを製造する際の型鍛造工程の一例について説明する。プレス型の型打ち方向SDと、型鍛造された後のビーム部110(傾斜変化部121を含む)の断面とを図16に示す。図16に示すビーム部110は、第2実施形態で説明したフロントアクスル100のビーム部110である。
型鍛造によってフロントアクスルの大まかな形状を形成する場合、通常、フロントアクスルの前後方向となる側から型を押し当てて鍛造を行う。このとき、型抜きの際に逆勾配となる部分は、型鍛造による成形ができない。そのため、ウエブ部は、型鍛造する際に逆勾配となる形状を含まないことが好ましい。すなわち、ウエブ部は、ウエブ部を前方および後方から見たときに死角となる部分を含まないことが好ましい。第1〜第3実施形態で説明した傾斜変化部121は、型鍛造する際に逆勾配となる形状を含まない。そのため、第1〜第3実施形態で説明したフロントアクスル100の傾斜変化部121は、型設計において波打ち形状を型に反映しさえすれば、一般的な型鍛造工程を用いて容易に形成できる。すなわち、本実施形態のフロントアクスルは、一般的な製造方法によって容易に製造することが可能である。