JPWO2017099239A1 - ガスバリア性フィルムおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア性および湿熱耐性を向上させるとともに、工程適性をも向上させうる手段を提供する。【解決手段】樹脂基材の少なくとも一方の面に、互いに隣接する下地層およびガスバリア層がこの順に配置されてなるガスバリア性フィルムにおいて、前記ガスバリア層の平均組成をSiOxCy(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yを0.40<y≦0.95とし、前記ガスバリア層の厚さを5〜90nmとし、ナノインデンテーション法により測定される、前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面硬度(SH)を1.4〜3.5GPaとし、かつ、前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面粗さ(Ra)を1〜18nmとする。【選択図】なし

Description

本発明は、ガスバリア性フィルムおよびその製造方法に関する。
食品、包装材料、医薬品などの分野で、従来、樹脂基材の表面に金属酸化物などの無機化合物からなる蒸着膜や樹脂などの塗布膜を設けた、比較的簡易な水蒸気や酸素などの透過を防ぐガスバリア層(無機バリア層)を備えたガスバリア性フィルムが知られている。また、近年、液晶表示素子(LCD)、太陽電池(PV)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)、量子ドット(QD)などの電子デバイス分野においても、軽くて割れにくく、フレキシブル性を持たせることを目的として樹脂基材を用いたガスバリア性フィルムへの要望が高まっている。
従来、ガスバリア性フィルムに用いられるガスバリア層として、化学気相成膜法(CVD法:chemical vapor deposition)による、SiO組成の化合物を含有する層を樹脂基材の表面に設ける技術が検討されている。例えば特開2011−178064号公報には、樹脂基材層の表面に、アンカー層と、SiO(1.5≦x≦2.0、0≦y≦0.5)で表される組成を有するガスバリア層と、オーバーコート層とを順次形成するとともに、これら4層の屈折率が順に小さくなるように所定の値に制御し、かつ、アンカー層、ガスバリア層およびオーバーコート層の厚みをそれぞれ10〜100nmに制御する技術が提案されており、特開2011−178064号公報の実施例1では、樹脂基材層上に設けられたアンカー層の表面に、SiO1.80.05で表される厚さ60nmのガスバリア層を設け、さらに当該ガスバリア層上にオーバーコート層を設けている。特開2011−178064号公報によれば、このような構成とすることで、ガスバリア性および耐久性を向上させることができるとされている。
しかしながら、本発明者らの検討により、特開2011−178064号公報の実施例1に記載された構成のガスバリア性フィルムでは、フィルムの製造時における工程適性(耐擦傷性)が十分ではないことが判明した。すなわち、ガスバリア性フィルムの製造時には(例えばロール・トゥ・ロールで)フィルムが各工程間を搬送されるが、その際にガスバリア層の表面が損傷を受けたり、ロールに巻き取る際に巻き芯(コア)に近い側のガスバリア層が巻き締まりによって損傷を受けたりしてガスバリア性が低下することが見出されたのである。また、ガスバリア層には高いガスバリア性が求められるが、高温高湿環境下に置かれた場合にもガスバリア性が低下しにくい(湿熱耐性が高い)ことが好ましい。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、ガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア性および湿熱耐性を向上させるとともに、工程適性をも向上させうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その過程で、特開2011−178064号公報の実施例1に記載された構成のガスバリア性フィルムの工程適性が十分ではない原因を探索したところ、ガスバリア層に含まれる炭素(C)の量が少ないことが工程適性を低下させる原因となっていること、および、ガスバリア層に含まれる炭素(C)の量を増やすことでガスバリア性フィルムの工程適性を向上させうることを見出した。ただし、単にかような対処を採るのみではガスバリア性および湿熱耐性が依然として十分ではない場合があることも判明したため、さらに検討を行った。その結果、フィルムの表面硬度(SH;Surface Hardness)および表面粗さ(Ra;中心線平均粗さ)をそれぞれ所定の範囲内の値に制御することで、工程適性のさらなる向上に加えて、ガスバリア性および湿熱耐性をも向上させることができることを見出して、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.樹脂基材の少なくとも一方の面に、互いに隣接する下地層およびガスバリア層がこの順に配置されてなるガスバリア性フィルムであって、
前記ガスバリア層の平均組成をSiO(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yが0.40<y≦0.95を満たし、
前記ガスバリア層の厚さが5〜90nmであり、
ナノインデンテーション法により測定される、前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面硬度(SH)が1.4〜3.5GPaであり、
前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面粗さ(Ra)が1〜18nmである、ガスバリア性フィルム;
2.前記下地層が、SiおよびSi以外の金属Mを含有し、M/Si比(モル比)が0.001〜0.05の範囲内である、上記1に記載のガスバリア性フィルム;
3.前記ガスバリア層の厚さが10〜60nmである、上記1または2に記載のガスバリア性フィルム;
4.前記下地層の平均組成をSiO(vおよびwは化学量論係数)で表したときに、vが1.7≦v≦2.5を満たし、wが0.01≦w≦0.2を満たす、上記1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム;
5.前記ガスバリア層上に、重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層をさらに有する、上記1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム;
6.前記密着層の厚さが5nm以下である、上記5に記載のガスバリア性フィルム;
7.樹脂基材上に、ポリシラザンを含有する塗膜を形成し、前記塗膜に改質処理を施して下地層を形成する工程と、
前記下地層と接するように、気相成膜法を用いてガスバリア層を形成する工程と、
を含むガスバリア性フィルムの製造方法であって、
前記ガスバリア層の平均組成をSiO(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yが0.40<y≦0.95を満たし、
前記ガスバリア層の厚さが5〜90nmである、ガスバリア性フィルムの製造方法;
8.前記ガスバリア層を形成する工程の後、前記ガスバリア層上に、重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層を形成する工程をさらに含む、上記7に記載のガスバリア性フィルムの製造方法;
9.前記ガスバリア層を形成する工程の後、前記密着層を形成する工程の前に、前記ガスバリア層の露出表面に対して表面処理を施す工程をさらに含む、上記8に記載のガスバリア性フィルムの製造方法;
10.前記表面処理を、前記ガスバリア層の形成に用いた装置を用いて行う、上記9に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
本発明の一実施形態に係るガスバリア性フィルムの例を示す断面図である。 本発明の一実施形態に係るガスバリア性フィルムを用いたQDシートの例を示す断面図である。 本発明に係るガスバリア層の好ましい実施形態であるCVD層の形成に用いられる真空プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。 真空プラズマCVD装置の別の一例(実施例において採用した形態)を示す模式図である。
本発明の一形態は、樹脂基材の少なくとも一方の面に、互いに隣接する下地層およびガスバリア層がこの順に配置されてなるガスバリア性フィルムであって、前記ガスバリア層の平均組成をSiO(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yが0.40<y≦0.95を満たし、前記ガスバリア層の厚さが5〜90nmであり、ナノインデンテーション法により測定される、前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面硬度(SH)が1.4〜3.5GPaであり、前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面粗さ(Ra)が1〜18nmである、ガスバリア性フィルムである。本発明によれば、ガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア性および湿熱耐性を向上させるとともに、工程適性をも向上させることが可能となる。
以下、本発明とその構成要素、および本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用する。
《ガスバリア性フィルム》
本発明でいう「ガスバリア性」とは、JIS K 7129−1992B法に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(温度:38℃、相対湿度(RH):100%)が1×10−1g/m・day未満であることを意味する。
図1Aおよび図1Bは、本発明に係るガスバリア性フィルムの構成例を示す断面図である。具体的に、図1Aは、樹脂基材1上に下地層2が積層され、その上にガスバリア層3が積層されてなる本発明のガスバリア性フィルムFの最小構成を示している。また、図1Bは、図1Aに示すガスバリア層3の上に、さらに密着層4が積層され、その上にQD含有樹脂層5が積層されてなるQDシートGを示す断面図である。なお、図1Aおよび図1Bにおいて、他の機能層は図示されていないが、帯電防止層、バックコート層、ブリードアウト防止層、ハードコート層等を適宜積層してもよい。さらに、図1Aおよび図1Bでは樹脂基材1の一方の側に下地層2およびガスバリア層3が積層されているが、樹脂基材1の両側に下地層2およびガスバリア層3が積層された形態であってもよい。
〔1〕樹脂基材
本発明に係るガスバリア性フィルムに用いられる樹脂基材としては、プラスチックフィルムが好ましい。用いられるプラスチックフィルムは、下地層、ガスバリア層等を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムを構成する樹脂としては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
樹脂基材の厚さは5〜500μm程度が好ましく、より好ましくは15〜250μmである。
その他、基材の種類、基材の製造方法等については、特開2013−226758号公報の段落「0125」〜「0136」に開示されている技術を適宜採用することができる。
〔2〕下地層
下地層は、本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、樹脂基材とガスバリア層との間に介在する層であり、その具体的な構成について直接的には特に制限されない。ただし、本発明では、後述するガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面硬度(SH)および表面粗さ(Ra)が所定の範囲内の値であることが必須である。そして、下地層の表面状態はフィルム表面の表面状態にも影響を及ぼすことから、本発明の規定を満たすようにするためには、下地層についても、表面硬度がある程度大きく、かつ、表面粗さがある程度小さいものとする必要がある。
〈下地層の構成〉
下地層の具体的な組成について特に制限はないが、上述したような観点から、下地層は酸化ケイ素化合物(Si−O結合を有する化合物)を含有する層であることが好ましい。より具体的には、下地層の平均組成をSiO(vおよびwは化学量論係数)で表したときに、vが1.7≦v≦2.5を満たし、かつ、wが0.01≦w≦0.2を満たすことが好ましい。ここで、vが1.7以上であれば、Nの残存量が多くなり過ぎることがなく、ガスバリア層の形成時におけるアンモニアや水素のアウトガス量が低減され、ガスバリア層の劣化やこれに伴うガスバリア性の低下が防止される。また、vが2.5以下であれば、Si−OHの残存量が多くなり過ぎることがなく、ガスバリア層の形成時における水蒸気のアウトガス量が低減され、ガスバリア層の劣化やこれに伴うガスバリア性の低下が防止される。同様に、wが0.01以上であれば、下地層の膜強度および柔軟性が十分に確保され、wが0.2以下であれば、ガスバリア性フィルムの透明性が十分に確保される。
なお、下地層の平均組成(SiO)や、後述するガスバリア層の平均組成(SiO)は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)によって、層厚方向における元素濃度分布を測定し、これを平均することによって求めることができる。なお、当該手法による平均組成の具体的な手法については、後述の実施例の欄に記載の手法を採用するものとする。
下地層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。また、当該下地層が2層以上の積層構造である場合、各下地層は同じ組成であってもよいし異なる組成であってもよい。
下地層の膜厚(2層以上からなる場合には、これらの合計膜厚)について特に制限はないが、好ましくは50〜200nmである。下地層の膜厚が50nm以上であれば、樹脂基材の表面凹凸の影響を緩和することができ、ガスバリア性を向上させることが可能となる。一方、下地層の膜厚が200nm以下であれば、下地層中に含有されるアウトガスの原因物の総量が多くなり過ぎず、アウトガスに起因するガスバリア性の低下が防止される。また、本明細書において、各層の膜厚は、断面TEM観察により求めることができる。
上述したように、下地層の表面状態はガスバリア層表面の表面状態にも影響を及ぼす。したがって、下地層の表面(樹脂基材が位置するのとは反対側の表面(言い換えれば、後述するガスバリア層が形成される表面);以下、「ガスバリア層形成面」とも称する)についても、表面硬度(SH)および表面粗さ(Ra)を所定の範囲内の値に制御することが好ましい。具体的に、下地層のガスバリア層形成面の表面硬度(SH)は、好ましくは1.0〜3.0GPaであり、より好ましくは1.5〜3.0GPaである。また、下地層のガスバリア層形成面の表面粗さ(Ra)は、好ましくは1〜18nmであり、より好ましくは1〜6nmである。さらに、下地層のガスバリア層形成面の表面粗さ(Rz)は30nm未満であることが好ましい。なお、本明細書において、「表面硬度(SH)」とは、ナノインデンテーション法に従って測定される値であり、後述する実施例の欄に記載の手法によって測定される値を採用するものとする。また、「表面粗さ(Ra)」とは、中心線平均粗さ(Ra)をいい、「表面粗さ(Rz)」とは、十点平均粗さ(Rz)をいう。これらはいずれも、JIS B 0601:1994で規定される方法に準拠して、具体的には後述する実施例の欄に記載の手法によって測定される値を採用するものとする。
〈他の金属〉
下地層は、Siに加えて、Si以外の金属Mをさらに含有することが好ましい。また、この際のM/Si比(モル比)は、0.001〜0.05の範囲内であることが好ましい。
金属Mの例としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、ホウ素(B)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)等が挙げられる。なかでも、Al、B、TiおよびZrが好ましく、Alが特に好ましい。
〈下地層の形成方法〉
下地層を形成する手法について特に制限はなく、当業者であれば従来公知の知見を参照しつつ適宜その形成方法を設定することが可能である。なかでも、上述の表面状態を達成することができ、かつ、成膜性に優れ、クラック等の欠陥が少ないといった利点から、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布して形成される塗膜に、さらにエネルギーを印加して改質処理を施すことにより下地層を形成することが好ましい。
(ポリシラザン)
ポリシラザンとは、ケイ素−窒素結合を有するポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等の結合を有するSiO、Si、および両方の中間固溶体SiO等のセラミック前駆体無機ポリマーである。ポリシラザンとしては、パーヒドロポリシラザン(PHPS)、オルガノポリシラザン等が挙げられる。具体的には、ポリシラザンは、好ましくは下記の構造を有する。
上記一般式(I)において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R、RおよびRは、それぞれ、同じであってもまたは異なってもよい。ここで、アルキル基としては、炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などがある。また、アリール基としては、炭素原子数6〜30のアリール基が挙げられる。より具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基などの非縮合炭化水素基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基などの縮合多環炭化水素基が挙げられる。(トリアルコキシシリル)アルキル基としては、炭素原子数1〜8のアルコキシ基で置換されたシリル基を有する炭素原子数1〜8のアルキル基が挙げられる。より具体的には、3−(トリエトキシシリル)プロピル基、3−(トリメトキシシリル)プロピル基などが挙げられる。上記R〜Rに場合によって存在する置換基は、特に制限はないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基(−OH)、メルカプト基(−SH)、シアノ基(−CN)、スルホ基(−SOH)、カルボキシ基(−COOH)、ニトロ基(−NO)などがある。なお、場合によって存在する置換基は、置換するR〜Rと同じとなることはない。例えば、R〜Rがアルキル基の場合には、さらにアルキル基で置換されることはない。これらのうち、好ましくは、R、RおよびRは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、ビニル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基または3−(トリメトキシシリルプロピル)基である。
また、上記一般式(I)において、nは、整数であり、一般式(I)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。
上記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、好ましい態様の一つは、R、RおよびRのすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(PHPS)である。このようなポリシラザンから形成される下地層は高い緻密性を有し、残留有機物が少ないという観点から、好ましい。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6および8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体または固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。
ポリシラザンは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのまま下地層形成用塗布液として使用してもよく、市販品を複数混合して使用してもよい。また、市販品を適当な溶剤で希釈して使用してもよい。ポリシラザン溶液の市販品としては、メルク株式会社製のNN120−10、NN120−20、NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120−20、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
その他、ポリシラザンの詳細については、従来公知である特開2013−255910号公報の段落「0024」〜「0040」、特開2013−188942号公報の段落「0037」〜「0043」、特開2013−151123号公報の段落「0014」〜「0021」、特開2013−052569号公報の段落「0033」〜「0045」、特開2013−129557号公報の段落「0062」〜「0075」、特開2013−226758号公報の段落「0037」〜「0064」等を参照して採用することができる。
ポリシラザンを用いる場合、エネルギー印加前の下地層中におけるポリシラザンの含有率としては、下地層の全質量を100質量%としたとき、100質量%でありうる。また、下地層がポリシラザン以外のものを含む場合には、下地層中におけるポリシラザンの含有率は、10〜99質量%の範囲内であることが好ましく、40〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、特に好ましくは70〜95質量%の範囲内である。
(金属Mを含有する化合物)
上述したように、下地層はSiに加えてSi以外の金属Mを含むことが好ましいが、このような構成を有する下地層を形成するには、上述したポリシラザンを含む塗布液に、金属Mを含有する化合物を添加して、下地層の形成に供すればよい。
本発明に適用可能なアルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−sec−ブチレート、チタンイソプロポキシド、アルミニウムトリエチレート、アルミニウムトリイソプロピレート、アルミニウムトリtert−ブチレート、アルミニウムトリn−ブチレート、アルミニウムトリsec−ブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノアルミニウム−t−ブチレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムオキシドイソプロポキシドトリマー等が挙げられる。また、これらの化合物の具体的な市販品としては、例えば、AMD(アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート)、ASBD(アルミニウムセカンダリーブチレート)、ALCH(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、ALCH−TR(アルミニウムトリスエチルアセトアセテート)、アルミキレートM(アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、アルミキレートD(アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート)、アルミキレートA(W)(アルミニウムトリスアセチルアセトネート)(以上、川研ファインケミカル株式会社製)、プレンアクト(登録商標)AL−M(アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、味の素ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
また、上述したように、下地層の平均組成をSiOで表したとき、vが1.7≦v≦2.5を満たし、かつ、wが0.01≦w≦0.2を満たすことが好ましいが、下地層に含まれる炭素(C)は、ポリシラザンや金属Mを含有する化合物に含まれる炭素原子をその由来とする。よって、下地層に含まれる炭素(C)の量(w)を上記の範囲に制御する方法としては、例えば、塗布液中へのポリシラザンや金属Mを含有する化合物の添加量、塗布後の改質処理(熱処理、UV処理、VUV(エキシマ)処理)の処理エネルギーなどを調節する方法が挙げられる。ここで、添加量を増やせばC量も増加するが、処理エネルギーを増やすとC量は低下する。また、金属Mを含有する化合物を塗布液に添加して、塗布法により下地層を形成すると、塗布乾燥時にポリシラザンに含まれるNがOに置き換わり、塗布後の改質処理のエネルギーが低い条件においても、効率的にvおよびwを上記範囲内の値に制御することができるという利点もある。
なお、金属Mを含有する化合物を用いる場合には、塗布液中でポリシラザンと不活性ガス雰囲気下で混合することが好ましい。これは、金属Mを含有する化合物が大気中の水分や酸素と反応して激しく酸化が進むことを抑制するためである。また、当該化合物とポリシラザンとを混合する場合は、30〜100℃に昇温し、撹拌しながら1分〜24時間保持することが好ましい。
(溶剤)
下地層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応してしまう水および反応性基(例えば、ヒドロキシ基、またはアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶剤が好ましく、非プロトン性の有機溶剤がより好ましい。具体的には、溶剤としては、非プロトン性溶剤;例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターペン等の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類:例えば、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ−およびポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)などが挙げられる。上記溶剤は、ポリシラザンおよび金属Mを含有する化合物の溶解度や溶剤の蒸発速度等の目的に合わせて選択され、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
下地層形成用塗布液におけるポリシラザンの濃度は、特に制限されず、下地層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。
下地層形成用塗布液は、塗膜の改質を促進するために、触媒を含有することが好ましい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N−複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ケイ素化合物を基準としたとき、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%の範囲である。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行よる過剰なシラノール形成、および膜密度の低下、膜欠陥の増大などを避けることができる。
下地層形成用塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル若しくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネートまたはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。具体的には、国際公開第2013/077255号に記載の、Si−O結合を有し、且つSiと直接結合した有機基を有する化合物A(有機基を有するシロキサン化合物またはシルセスキオキサン化合物)が好ましく用いられうる。この化合物Aは、Si−H基またはSi−OH基といった反応性基を有することで、ポリシラザンがVUV光照射により改質されてなるマトリクスと結合して局所的に有機基を導入しつつ一体化しうる。そして、当該化合物Aの分子量を90〜1200に制御することにより、下地層中で有機基が導入される領域がナノサイズで均一に分散した状態に形成され、良好なガスバリア性の発揮に貢献することができる。また、国際公開第2015/041207号に記載の、下記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物もまた、好ましく用いられうる。
一般式(1)において、R11はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、およびアルキルシリル基からなる群から選択される基である。これらの基は、1またはそれ以上の、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、およびアルキルシリル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。これらのR11は、ポリシロキサンの側鎖を形成するものであるが、不要な反応を防ぐために反応性の高い置換基を含まないことが好ましい。このため、アルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がもっとも好ましい。式中のR11は、それぞれ異なった基であってもよいが、すべてがアルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
また、R11は本発明の効果を損なわない範囲で、すなわち微量の反応性基を含んでもよい。具体的には、すべてのR11に含まれるアミノ基、およびアルコキシ基の総数が、R11の総数の5%以下、好ましくは3%以下であれば本発明の効果を発現させることができる。一方で、R11が水酸基、カルボキシル基などを含むと、膜中に水和性の高い水酸基が残存してしまうため、ガスバリア性能の向上に繋がりにくくなる。このため、R11が水酸基またはカルボキシル基を含まないことが好ましい。
12は、ポリシロキサン主鎖の末端にあるケイ素原子に結合する末端基である。この末端基部分がポリシラザンと結合し、ポリシラザン中の窒素原子を安定化させ、高いガスバリア性能の実現に貢献しうる。そして、ポリシロキサンとポリシラザンとの反応を適切に進行させるために、R12は特定のものであることが必要である。
典型的には、R12は、炭素数1〜8の炭化水素基である。また、そのような炭化水素基に含まれる炭素の一部が窒素に置換されていてもよい。窒素置換された炭化水素基として、−R13−N−R14 が挙げられる。ここで、R13は炭素数1〜5の炭化水素基であり、R14はそれぞれ独立に水素または炭素数1〜3の炭化水素基である。R12は、前記した通り反応性が適切なものが選択されるが、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、またはN−エチルアミノ−2−メチルプロピル基からなる群から選択される基であることが好ましい。なお、R12は、式(1)であらわされるポリシロキサンに複数含まれるが、それらは同一であっても異なっていてもよい。
なお、上記ポリシロキサン化合物の分子量は特に限定されないが、例えばポリスチレン換算重量平均分子量が500〜100000の範囲にあるものが好ましく、1000〜50000の範囲にあるものがより好ましい。
(塗布方法)
ポリシラザンを含有する層は、上記の下地層形成用塗布液を基材上に塗布することによって形成することができる。塗布方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。なお、塗布液の塗布厚さ(塗膜の厚さ)は、上記の下地層の厚さに応じて適宜選択することができる。
塗布液を塗布した後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜を乾燥させることによって、塗膜中に含有される有機溶媒を除去することができる。この際、塗膜に含有される有機溶媒は、すべてを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の有機溶媒を残存させる場合であっても、好適な下地層が得られうる。なお、残存する溶媒は後に除去されうる。
塗膜の乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜200℃であることが好ましい。例えば、ガラス転移温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基材を樹脂基材として用いる場合、乾燥温度は、熱による基材の変形等を考慮して150℃以下に設定することが好ましい。
(エネルギーの印加)
続いて、上記のようにして形成されたポリシラザンを含有する塗膜に対して、エネルギーの印加等の改質処理を施すことにより、下地層を形成する。
ポリシラザンを含有する塗膜に改質処理を施す(エネルギーを印加する)方法としては、公知の方法を適宜選択して適用することができる。改質処理としては、具体的には、プラズマ処理、紫外線照射処理、加熱処理が挙げられる。ただし、加熱処理による改質の場合、450℃以上の高温が必要であるため、プラスチック等のフレキシブル基板においては、適応が難しい。このため、熱処理は他の改質処理と組み合わせて行うことが好ましい。
したがって、改質処理としては、プラスチック基板への適応という観点から、より低温で、転化反応が可能なプラズマ処理や紫外線照射処理による転化反応が好ましい。
以下、好ましい改質処理方法であるプラズマ処理、紫外線照射処理について説明する。
(プラズマ処理)
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、好ましくは大気圧プラズマ処理等を挙げることができる。大気圧近傍でのプラズマCVD処理を行う大気圧プラズマCVD法は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、さらには通常のCVD法の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて均質の膜が得られる。
大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガスまたは長周期型周期表の第18族原子を含むガス、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
(紫外線照射処理)
改質処理の方法の一つとして、紫外線照射による処理が好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性とを有する酸化ケイ素膜または酸窒化ケイ素膜を形成することが可能である。
この紫外線照射により、基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するOとHOや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られる下地層が一層緻密になる。紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
紫外線照射処理においては、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することも可能である。
なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜375nmの紫外線を用いる。
紫外線の照射は、照射される下地層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm、好ましくは50〜200mW/cmになるように基材−紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
一般に、紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチック基材等の場合には、基材が変形したり、その強度が劣化したりする等、基材の特性が損なわれることになる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムの場合には、より高温での改質処理が可能である。したがって、この紫外線照射時の基材温度としては、一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機株式会社製、株式会社エム・ディ・コム製など)、UV光レーザー等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線をポリシラザンを含有する塗膜に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてからポリシラザンを含有する層に当てることが好ましい。
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適用可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、ポリシラザンを含有する塗膜を表面に有する積層体を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製の紫外線焼成炉を使用することができる。また、ポリシラザンを含有する塗膜を表面に有する積層体が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材やポリシラザンを含有する層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
(真空紫外線照射処理:エキシマ照射処理)
本発明において、下地層の最も好ましい改質処理方法は、真空紫外線照射による処理(エキシマ照射処理)である。真空紫外線照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温(約200℃以下)で、酸化ケイ素膜の形成を行う方法である。
本発明における放射線源は、100〜180nmの波長の光を発生させるものが好ましいが、より好適には約172nmに最大放射を有するエキシマラジエータ(例えば、Xeエキシマランプ)、約185nmに輝線を有する低圧水銀蒸気ランプ、並びに230nm以下の波長成分を有する中圧および高圧水銀蒸気ランプ、および約222nmに最大放射を有するエキシマランプである。
紫外線照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外線は、酸素による吸収があるため紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線の照射は、可能な限り酸素濃度および水蒸気濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、10〜20,000体積ppm(0.001〜2体積%)とすることが好ましく、50〜10,000体積ppm(0.005〜1体積%)とすることがより好ましい。また、転化プロセスの間の水蒸気濃度は、好ましくは1000〜4000体積ppmの範囲である。
真空紫外線照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外線照射工程において、ポリシラザンを含有する層が受ける塗膜面での該真空紫外線の照度は1〜10W/cmであると好ましく、30〜200mW/cmであることがより好ましく、50〜160mW/cmであるとさらに好ましい。1mW/cm以上であれば、改質効率の低下が防止され、10W/cm以下であれば、塗膜におけるアブレーションの発生や、基材へのダメージを防止することができる。
塗膜面における真空紫外線の照射エネルギー量(照射量)は、10mJ/cm〜3J/cmであることが好ましく、50mJ/cm〜1J/cmであることがより好ましい。10mJ/cm以上であれば、改質が不十分となることを避けることができる、3J/cm以下であれば過剰改質によるクラック発生や、基材の熱変形を防ぐことができる。
また、用いられる真空紫外光は、CO、COおよびCHの少なくとも1種を含むガス(以下、「炭素含有ガス」とも称する)で形成されたプラズマにより発生させてもよい。さらに、CO、COおよびCHの少なくとも1種を含むガスとしては、炭素含有ガスを単独で使用してもよいが、希ガスまたはHを主ガスとして、炭素含有ガスを少量添加することが好ましい。プラズマの生成方式としては容量結合プラズマなどが挙げられる。
〔3〕ガスバリア層
本発明のガスバリア性フィルムは、上述した下地層に隣接するように、当該下地層の樹脂基材とは反対側の面に配置されている層である。
〈ガスバリア層の構成〉
本発明において、ガスバリア層は、その平均組成をSiO(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yが0.40<y≦0.95を満たす点に特徴の1つがある。
本発明者らの検討によれば、特開2011−178064号公報の実施例1に記載された構成のガスバリア性フィルムでは、フィルムの製造時における工程適性(耐擦傷性)が十分ではないことが判明した。そして、本発明者らは、鋭意検討の過程で、特開2011−178064号公報の実施例1に記載された構成のガスバリア性フィルムの工程適性が十分ではない原因を探索したところ、ガスバリア層に含まれる炭素(C)の量が少ないことが工程適性を低下させる原因となっていること、および、ガスバリア層に含まれる炭素(C)の量を増やすことでガスバリア性フィルムの工程適性を向上させうることを見出した。このような観点から、上記yの値の下限値は0.40超に設定されているのである。なお、炭素(C)の量を増加させる(具体的には、yの値を0.40超とする)ことで工程適性が向上するメカニズムは完全には明らかではないが、ガスバリア層に含まれる炭素(C)の量が多くなることで、ガスバリア層の柔軟性が向上してガスバリア層の表面に傷が付きにくくなり、耐擦傷性が影響する工程適性の向上がもたらされるものと推測している。一方、yが0.95以下であれば、ガスバリア性フィルムの透明性が十分に確保されるため、好ましい。一方、xの値(ガスバリア層の平均組成における酸素(O)の量)について特に制限はないが、xは1.4≦x≦1.9を満たすことが好ましい。xが1.4以上であれば、ガスバリア性フィルムの透明性が十分に確保されるため、好ましい。一方、xが1.9以下であれば、ガスバリア性が十分に確保されるため、好ましい。
ガスバリア層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。また、当該ガスバリア層が2層以上の積層構造である場合、各ガスバリア層は同じ組成であってもよいし異なる組成であってもよい。なお、ガスバリア層が2層以上の積層構造である場合には、最も樹脂基材側に位置するガスバリア層が、上述した下地層と隣接していればよい。
本発明において、ガスバリア層の膜厚(2層以上からなる場合には、これらの合計膜厚)は、5〜90nmである。ガスバリア層の膜厚が5nm未満であると、十分なガスバリア性を得ることができない。一方、ガスバリア層の膜厚が90nmを超えると、ガスバリア性フィルムを高温高湿環境(湿熱環境)下に置いた際の耐久性(湿熱耐性)が低下してしまう。これは、湿熱環境での保管時における樹脂基材の変形に、膜厚の大きいガスバリア層は追従することができず、当該ガスバリア層にクラックが発生することによるものと考えられる。なお、ガスバリア層の膜厚は、より好ましくは10〜60nmである。
上述したように、本発明者らの検討によれば、ガスバリア層の平均組成における炭素(C)の量を増やすことで、ガスバリア性フィルムの工程適性を向上させることが可能となることが見出された。しかしながら、単にかような対処を採るのみでは、ガスバリア性フィルムのガスバリア性および湿熱耐性が依然として十分ではない場合があることも判明した。このため、本発明者らがさらに検討を行った結果、ガスバリア層表面の表面硬度(SH)および表面粗さ(Ra)をそれぞれ所定の範囲内の値に制御することで、工程適性のさらなる向上に加えて、ガスバリア性および湿熱耐性をも向上させることができることが判明した。
すなわち、本発明では、下地層に対してガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面硬度(SH)は、1.4〜3.5GPaであることが必須であり、好ましくは2.4〜3.5GPaである。この表面硬度(SH)の値が1.4GPa未満であると、十分なガスバリア性および湿熱耐性を確保することができない。一方、この表面硬度(SH)の値が3.5GPaを超えると、表面の脆性が高くなり過ぎ、ロールに巻き取った際の巻き締まりによる損傷を受けやすくなるため、好ましくない。また、本発明では、下地層に対してガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面粗さ(Ra)が1〜18nmであることが必須であり、好ましくは1〜7nmである。この表面粗さ(Ra)の値が1nm未満であると、性能の向上が見られなくなる。一方、この表面粗さ(Ra)の値が18nmを超えると、十分なガスバリア性および湿熱耐性を確保することができない。さらに、下地層に対してガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面粗さ(Rz)は35nm未満であることが好ましい。
なお、下地層に対してガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面硬度(SH)および表面粗さ(Ra)を上述した範囲内の値に制御する手法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、下地層の欄において上述したように、下地層の表面(ガスバリア層形成面)における表面硬度(SH)および表面粗さ(Ra)を所定の範囲内の値に調節するという方法が挙げられる。また、同一の下地層を用いると仮定した場合には、ガスバリア層の平均組成における酸素(O)の量を増やすことによって、フィルム表面における表面硬度(SH)を大きくすることができる。同様に、ガスバリア層の膜厚を増加させることによって、フィルム表面における表面粗さ(Ra)を小さくすることができる。
〈ガスバリア層の形成方法〉
ガスバリア層を形成する方法について特に制限はなく、当業者であれば従来公知の知見を参照しつつ適宜その形成方法を設定することが可能である。なかでも、上述したフィルムの表面状態を達成することができ、かつ、ガスバリア層の平均組成における炭素(C)の量の制御が容易であるといった利点から、気相成膜法によってガスバリア層を形成することが好ましい。気相成膜法としては、物理気相成膜法(PVD法:Physical Vapor Deposition)および化学気相成膜法(CVD法:chemical vapor deposition)がある。
このように、本発明によれば、下地層をポリシラザン含有塗膜の改質によって形成し、ガスバリア層を気相成膜法によって製造することが好ましい。すなわち、本発明の他の形態によれば、樹脂基材上に、ポリシラザンを含有する塗膜を形成し、前記塗膜に改質処理を施して下地層を形成する工程と、前記下地層と接するように、気相成膜法を用いてガスバリア層を形成する工程とを含むガスバリア性フィルムの製造方法であって、前記ガスバリア層の平均組成をSiO(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yが0.40<y≦0.95を満たし、前記ガスバリア層の厚さが5〜90nmである、ガスバリア性フィルムの製造方法もまた、提供される。以下、ガスバリア層を形成する好ましい手法である気相成膜法について、説明する。
(気相成膜法)
物理気相成膜法(PVD法)は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタ法(DCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、およびマグネトロンスパッタ法等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
化学気相成膜法(CVD法)は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基材表面または気相での化学反応により膜を堆積する方法である。また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、真空プラズマCVD法など公知のCVD方式等が挙げられる。特に限定されるものではないが、成膜速度や処理面積、得られるガスバリア層の柔軟性やガスバリア性の観点から、真空プラズマCVD法を適用することが好ましい。
例えば、ケイ素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、ケイ素酸化物が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
上述したガスバリア層の平均組成(SiO)における酸素(O)の量(x)および炭素(C)の量(y)を制御するには、真空プラズマCVD法を用いることが好ましく、原料ガスの種類および供給速度、プラズマ強度、成膜装置および成膜速度等を制御することで所望の組成を達成することができる。例えば、成膜原料と酸素の供給量とその比率、成膜時の搬送速度、成膜回数等を適宜組み合わせることにより、所望の組成を制御することができる。
なお、以下では、好ましい成膜装置であって、真空プラズマCVD法によって薄膜を形成する、対向ローラー型のロール・トゥ・ロール成膜装置を使用して、ガスバリア層を製造する場合を例示して説明する。
図2は、本発明に係るガスバリア層の好ましい形態であるCVD層の形成に用いられる真空プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
図2に示すとおり、成膜装置100は、送り出しローラー10と、搬送ローラー11〜14と、第1および第2成膜ローラー15、16と、巻取りローラー17と、ガス供給管18と、プラズマ発生用電源19と、磁場発生装置20および21と、真空チャンバー30と、真空ポンプ40と、制御部41と、を有する。
送り出しローラー10、搬送ローラー11〜14、第1および第2成膜ローラー15、16および巻取りローラー17は、真空チャンバー30に収容されている。
送り出しローラー10は、あらかじめ巻き取られた状態で設置されている基材1aを搬送ローラー11に向けて送り出す。送り出しローラー10は、紙面に対して垂直方向に延在した円筒状のローラーであり、図示しない駆動モーターにより反時計回りに回転(図2の矢印を参照)することにより、送り出しローラー10に巻回された基材1aを搬送ローラー11に向けて送り出す。
搬送ローラー11〜14は、送り出しローラー10と略平行な回転軸を中心に回転可能に構成された円筒状のローラーである。搬送ローラー11は、基材1aに適当な張力を付与しつつ、基材1aを送り出しローラー10から成膜ローラー15に搬送するためのローラーである。搬送ローラー12、13は、成膜ローラー15で成膜された基材1bに適当な張力を付与しつつ、基材1bを成膜ローラー15から成膜ローラー16に搬送するためのローラーである。さらに、搬送ローラー14は、成膜ローラー16で成膜された基材1bに適当な張力を付与しつつ、基材1bを成膜ローラー16から巻取りローラー17に搬送するためのローラーである。
第1成膜ローラー15および第2成膜ローラー16は、送り出しローラー10と略平行な回転軸を有し、互いに所定距離だけ離間して対向配置された成膜ローラー対である。成膜ローラー15は、基材1aを成膜し、成膜された基材1bに適当な張力を付与しつつ、基材1bを成膜ローラー16へ搬送する。成膜ローラー16は、基材1bを成膜し、成膜された基材1cに適当な張力を付与しつつ、基材1cを搬送ローラー14へ搬送する。
図2に示す例では、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16との離間距離は、点Aと点Bとを結ぶ距離である。第1および第2成膜ローラー15、16は、導電性材料で形成された放電電極であり、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16とは、それぞれは互いに絶縁されている。なお、第1および第2成膜ローラー15、16の材質や構成は、電極として所望の機能を達成できるように適宜選択することができる。
さらに、第1成膜ローラー15および第2成膜ローラー16は、それぞれ独立に調温してもよい。第1成膜ローラー15および第2成膜ローラー16の温度は、特に制限されるものではないが、例えば−30〜100℃であるが、基材1aのガラス転移温度を超えて過度に高温に設定すると、基材が熱によって変形等を生じるおそれがある。
第1および第2成膜ローラー15、16の内部には、磁場発生装置20および21が、各々設置されている。第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16とにはプラズマ発生用電源19により、プラズマ発生用の高周波電圧が印加される。それにより、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16との間の成膜部Sに電場が形成され、ガス供給管18から供給される成膜ガスの放電プラズマが発生する。プラズマ発生用電源19の電源周波数は任意に設定できるが、本構成の装置としては、例えば60〜100kHzであり、印加される電力は、有効成膜幅1mに対して、例えば1〜10kWである。
巻取りローラー17は、送り出しローラー10と略平行な回転軸を有し、基材1cを巻き取り、ローラー状にして収容する。巻取りローラー17は、図示しない駆動モーターにより反時計回りに回転(図2の矢印を参照)することにより、基材1cを巻き取る。
送り出しローラー10から送り出された基材1aは、送り出しローラー10と巻取りローラー17との間で、搬送ローラー11〜14、第1および第2成膜ローラー15、16に巻き掛けられることにより適当な張力を保ちつつ、これらの各ローラーの回転により搬送される。なお、基材1a、1b、1c(以下、基材1a、1b、1cを「基材1a〜1c」とも総称する。)の搬送方向は矢印で示されている。基材1a〜1cの搬送速度(ラインスピード)(例えば、図2の点Cにおける搬送速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー30内の圧力などに応じて適宜調整されうる。搬送速度は、送り出しローラー10及び巻取りローラー17の駆動モーターの回転速度を制御部41によって制御することにより調整される。搬送速度を遅くすると、形成される領域の厚さが厚くなる。
基材の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類やチャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25〜100m/minの範囲内とすることが好ましく、0.5〜60m/minの範囲内とすることがより好ましい。ライン速度が前記範囲内であれば、樹脂基材の熱に起因する皺も発生し難く、形成されるガスバリア層の層厚も十分に制御可能となる。
また、この成膜装置を用いる場合、基材1a〜1cの搬送方向を図2の矢印で示す方向(以下、順方向と称する)とは反対方向(以下、逆方向と称する)に設定してガスバリア性フィルムの成膜工程を実行することもできる。具体的には、制御部41は、巻取りローラー17によって基材1cが巻き取られた状態において、送り出しローラー10および巻取りローラー17の駆動モーターの回転方向を上述の場合とは逆方向に回転するように制御する。このように制御すると、巻取りローラー17から送り出された基材1cは、送り出しローラー10と巻取りローラー17との間で、搬送ローラー11〜14、第1および第2成膜ローラー15、16に巻き掛けられることにより適当な張力を保ちつつ、これらの各ローラーの回転により逆方向に搬送される。
成膜装置100を用いてガスバリア層を形成する場合は、基材1aを順方向および逆方向に搬送して成膜部Sを往復させることにより、ガスバリア層の形成(成膜)工程を複数回繰り返すこともできる。
ガス供給管18は、真空チャンバー30内にプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給する。ガス供給管18は、成膜部Sの上方に第1成膜ローラー15および第2成膜ローラー16の回転軸と同じ方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から成膜部Sに成膜ガスを供給する。また、成膜装置を連結する場合(タンデム型)は、ガス供給管18から供給される成膜ガスは、成膜装置ごとに同一でもよいが、異なっていてもよい。さらに、これらのガス供給管から供給される供給ガス圧についても、同一でもよいが異なっていてもよい。
原料ガスには、ケイ素化合物を使用することができる。ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。これ以外にも、特開2008−056967号公報の段落「0075」に記載の化合物を使用することもできる。なお、これらのケイ素化合物は、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。また、原料ガスには、ケイ素化合物の他にモノシランが含有されてもよい。
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスが使用されてもよい。反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物などのケイ素化合物となるガスが選択される。薄膜として酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素ガス、オゾンガスを使用することができる。なお、これらの反応ガスは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
成膜ガスとしては、原料ガスを真空チャンバー30内に供給するために、さらにキャリアガスが使用されてもよい。また、成膜ガスとして、プラズマを発生させるために、さらに放電用ガスが使用されてもよい。キャリアガスおよび放電ガスとしては、例えば、アルゴンなどの希ガス、および水素や窒素が使用される。
以下、代表例として、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物:HMDSO:(CHSiO:)と、反応ガスである酸素(O)の系について説明する。
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO、(CHSiO)と、反応ガスである酸素(O)とを含有する成膜ガスを、プラズマCVD法により反応させて、ケイ素−酸素系の薄膜を形成する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)で示される反応が起こり、二酸化ケイ素SiOからなる薄膜が形成される。
反応式(1):(CHSiO+12O→6CO+9HO+2SiO
このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜初期では、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対し、酸素を12モル以上含有させて完全に反応させることにより、酸素原子比率が高く、均一な組成の二酸化ケイ素膜を形成することができるが、成膜中〜後期で原料のガス流量比を理論比である完全反応の原料比以下の流量に制御して、非完全反応を遂行させ、本発明に係るSiOの比率を高めることができる。
なお、実際のプラズマCVD装置のチャンバー内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスである酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる。例えば、CVD法により完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある。そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサンおよび酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子がガスバリア層中に取り込まれ、所望したガスバリア層を形成することが可能となって、得られるガスバリア性フィルムに優れたガスバリア性および屈曲耐性を発揮させることが可能となる。なお、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子がガスバリア層中に過剰に取り込まれることになる。
磁場発生装置20、21は、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16との間の成膜部Sに磁場を形成する部材である。これらの磁場発生装置20、21は、第1および第2成膜ローラー15、16の回転に追随せず、所定位置に格納されている。
真空チャンバー30は、送り出しローラー10、搬送ローラー11〜14、第1および第2成膜ローラー15、16、および巻取りローラー17を密封して減圧された状態を維持する。真空チャンバー30内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類などに応じて適宜調整することができる。成膜部Sの圧力は、0.1〜50Paであることが好ましい。
真空ポンプ40は、制御部41に通信可能に接続されており、制御部41の指令に従って真空チャンバー30内の圧力を適宜調整する。
制御部41は、成膜装置100の各構成要素を制御する。制御部41は、送り出しローラー10および巻取りローラー17の駆動モーターに接続されており、これらの駆動モーターの回転数を制御することにより、基材1aの搬送速度を調整する。また、駆動モーターの回転方向を制御することにより、基材1aの搬送方向を変更する。また、制御部41は、図示しない成膜ガスの供給機構と通信可能に接続されており、成膜ガスの各々の成分ガスの供給量を制御する。また、制御部41は、プラズマ発生用電源19と通信可能に接続されており、プラズマ発生用電源19の出力電圧および出力周波数を制御する。さらに、制御部41は、真空ポンプ40に通信可能に接続されており、真空チャンバー30内を所定の減圧雰囲気に維持するように真空ポンプ40を制御する。
制御部41は、CPU(Central Processing Unit)、HDD(Hard Disk Drive)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)を備える。HDDには、成膜装置100の各構成要素を制御して、ガスバリア性フィルムの製造方法を実現する手順を記述したソフトウェアプログラムが格納されている。そして、成膜装置100の電源が投入されると、上記ソフトウェアプログラムが上記RAMにロードされ上記CPUによって逐次的に実行される。また、上記ROMには、上記CPUが上記ソフトウェアプログラムを実行する際に使用する各種データおよびパラメーターが記憶されている。
〔4〕密着層
本発明のガスバリア性フィルムが後述するQD含有樹脂層と積層されて用いられる場合、当該ガスバリア層上には、上記QD含有樹脂層との密着性を高めるための密着層を設けることが好ましい。言い換えれば、上記形態に係る製造方法は、ガスバリア層を形成する工程の後、前記ガスバリア層上に、重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層を形成する工程をさらに含むことが好ましい。
密着層としては、重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層を形成することが好ましく、前記密着層の厚さは5nm以下であることが好ましい。
重合性基を有する有機ケイ素化合物は、特に限定されるものではないが、シランカップリング剤であることが好ましく、例えば、ハロゲン含有シランカップリング剤(2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシランなど)、エポキシ基含有シランカップリング剤[2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランなど]、アミノ基含有シランカップリング剤(2−アミノエチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−[N−(2−アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシランなど)、メルカプト基含有シランカップリング剤(2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなど)、ビニル基含有シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなど)、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤(2−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2−メタクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、2−アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなど)などを挙げることができる。
これらの中では、(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤((メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤)が好ましい。
(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤としては、1,3−ビス(アクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−アクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−メタクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、アクリロイルオキシメチルメチルトリシラザン、メタクリロイルオキシメチルメチルトリシラザン、アクリロイルオキシメチルメチルテトラシラザン、メタクリロイルオキシメチルメチルテトラシラザン、アクリロイルオキシメチルメチルポリシラザン、メタクリロイルオキシメチルメチルポリシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルトリシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルトリシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルテトラシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルテトラシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルポリシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルポリシラザン、アクリロイルオキシメチルポリシラザン、メタクリロイルオキシメチルポリシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルポリシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルポリシラザンが好ましく、さらに、化合物の合成・同定が容易であるといった観点から、1,3−ビス(アクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−アクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−メタクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンが特に好ましい。
なお、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤の市販品としては、KBM−5103、KBM−502、KBM−503、KBE−502、KBE−503、KR−513(信越化学工業社製)などが挙げられる。これらの(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
本発明で用いられるシランカップリング剤は、下記に示される化合物が好ましく用いられるが、当該シランカップリング剤の合成方法は、特開2009−67778号公報を参照することができる。
(式中、RはCH=CHCOOCHを表す。)
密着層の形成は、重合性組成物を塗布して形成することができ、例えば上記(メタ)アクリロイル基含有化合物を適当な溶媒に溶解させた溶液をガスバリア層の表面に塗布し、乾燥させる方法が例示される。この際、上記溶液に適当な光重合開始剤を添加しておき、上記溶液を塗布し、乾燥させて得られた塗膜に、光照射処理を施して(メタ)アクリロイル基含有化合物の一部を重合させて重合性ポリマーとしてもよい。
塗布組成物を塗布する方法としては、任意の適切な方法が採用されうる。具体的には例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
また、密着層を気相成膜法によって成膜することもでき、気相成膜法は公知の方法で用いることができる。気相成膜法としては、特に制限されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法等の物理気相成長(PVD)法、プラズマCVD法、ALD(Atomic Layer Deposition)法などの化学気相成長(CVD)法が挙げられる。なかでも、プラズマCVD法が好ましい。
密着層の膜厚は、密着効果を発現すればよく、薄膜化の観点からは5nm以下であることが好ましい。
また、前記ガスバリア層を形成する工程の後、前記密着層を形成する工程の前に、前記ガスバリア層の露出表面に対して表面処理を施す工程をさらに含むことが好ましく、さらに前記表面処理を、前記ガスバリア層の形成に用いた装置を用いて行うことが、生産性の観点からは好ましい。
表面処理工程は、公知の方法を適用することができ、コロナ処理、プラズマ処理、スパッタ処理およびフレーム処理等を採用することができる。なかでも酸素プラズマ処理であると、樹脂基材やガスバリア層へのダメージを小さくでき、かつ当該ガスバリア層の形成に用いた装置で連続して行うことができるため、生産上も好ましい。
〔5〕QD含有樹脂層
以下、QD含有樹脂層の主要な構成要素である量子ドット(QD)および樹脂等について説明する。
〈量子ドット〉
一般に、ナノメートルサイズの半導体物質で量子閉じ込め(quantum confinement)効果を示す半導体ナノ粒子は、「量子ドット」とも称されている。このような量子ドットは、半導体原子が数百個から数千個集まった10数nm程度以内の小さな塊であるが、励起源から光を吸収してエネルギー励起状態に達すると、量子ドットのエネルギーバンドギャップに相当するエネルギーを放出する。
したがって、量子ドットは、量子サイズ効果によりユニークな光学特性を有することが知られている。具体的には、(1)粒子のサイズを制御することにより、様々な波長、色を発光させることができる、(2)吸収帯が広く、単一波長の励起光で様々なサイズの微粒子を発光させることができる、(3)蛍光スペクトルが良好な対称形である、(4)有機色素に比べて耐久性、耐退色性に優れる、といった特徴を有する。
QD含有樹脂層が含有する量子ドットは公知のものであってもよく、当業者に既知の任意の方法を使用して生成することができる。例えば、好適なQDおよび好適なQDを形成するための方法には、米国特許第6225198号明細書、米国特許出願公開第2002/0066401号明細書、米国特許第6207229号明細書、同第6322901号明細書、同第6949206号明細書、同第7572393号明細書、同第7267865号明細書、同第7374807号明細書、米国特許出願第11/299299号、および米国特許第6861155号明細書に記載のものが挙げられる。
QDは、任意の好適な材料、好適には無機材料およびより好適には無機導体または半導体材料から生成される。好適な半導体材料には、II−VI族、III−V族、IV−VI族およびIV族の半導体を含む、任意の種類の半導体が含まれる。
好適な半導体材料には、Si、Ge、Sn、Se、Te、B、C(ダイアモンドを含む。)、P、BN、BP、BAs、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdSeZn、CdTe、HgS、HgSe、HgTe、BeS、BeSe、BeTe、MgS、MgSe、GeS、GeSe、GeTe、SnS、SnSe、SnTe、PbO、PbS、PbSe、PbTe、CuF、CuCl、CuBr、CuI、Si、Ge、Al、(Al、Ga、In)(S、Se、Te)、AlCO、および二つ以上のこのような半導体の適切な組合せが含まれるが、これらに限定されない。
本発明においては、次のようなコア/シェル型の量子ドット、例えば、CdSe/ZnS、InP/ZnS、PbSe/PbS、CdSe/CdS、CdTe/CdS、CdTe/ZnS等も好ましく使用できる。
〈樹脂〉
QD含有樹脂層には、量子ドットを保持するバインダーとして樹脂を用いることができる。例えば、ポリカーボネート系、ポリアリレート系、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む。)系、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、セロファン系、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、エチレンビニルアルコール系、シンジオタクティックポリスチレン系、ノルボルネン系、ポリメチルペンテン系、ポリエーテルケトン系、ポリエーテルケトンイミド系、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ナイロン系、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂等を挙げることができる。
QD含有樹脂層は、厚さが50〜200μmの範囲内であることが好ましい。
なお、QD含有樹脂層における量子ドットの含有量は、使用する化合物によって最適量は異なるが、一般的には15〜60体積%の範囲内であることが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
《ガスバリア性フィルムの作製》
<樹脂基材>
両面に易接着層を形成した厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)(U403)を、樹脂基材として用いた。そして、この樹脂基材の片面に、以下の各層を形成した。
<ガスバリア性フィルム1の作製>
〔クリアハードコート(CHC)層の形成〕
以下の手法により、クリアハードコート層を樹脂基材上に形成した。すなわち、JSR株式会社製、UV硬化型樹脂オプスター(登録商標)Z7527を、乾燥後の膜厚が3μm(3000nm)になるように樹脂基材に塗布した後、80℃で乾燥した。その後、空気下、高圧水銀ランプを用いて照射エネルギー量0.5J/cmの条件で硬化を行った。このようにして、クリアハードコート層を形成した。
〔ガスバリア層の形成〕
以下の真空プラズマCVD法により、上記クリアハードコート層上に膜厚5nmのガスバリア層を成膜して、ガスバリア性フィルム1を作製した。なお、ガスバリア層の膜厚は、断面TEM観察で求めた値である。
図2に記載の対向する成膜ロールからなる成膜部を有する装置を2台つなげたタイプ(図3:第1成膜部、第2成膜部を有するタンデム型CVD成膜装置。図中の符号において「’」のついた符号は、それぞれ図2の各部位と同一である。))のロール・トゥ・ロール型CVD成膜装置を用いた。有効成膜幅を1000mmとし、成膜条件として、搬送速度、第1成膜部、第2成膜部それぞれの原料ガスの種類および供給量、酸素ガスの供給量、印加電力、圧力、成膜回数を以下の通り調整した。その他の条件として、電源周波数は84kHz、成膜ロールの温度はすべて10℃とした:
搬送速度:50m/分
原料ガス(種類、供給量):HMDSO、75sccm
酸素供給量:530sccm
印加電力:4kW
圧力:1.5Pa
成膜回数:1回。
<ガスバリア性フィルム2の作製>
クリアハードコート層に代えて、以下の手法により下地層を形成したこと、および、ガスバリア層を形成する際の真空プラズマCVD法における各条件を下記の表1に示すように変更したこと以外は、上述した「ガスバリア性フィルム1の作製」と同様の手法により、ガスバリア性フィルム2を作製した。
〔下地層の形成〕
まず、以下の塗布液1を調製した。
塗布液1:パーヒドロポリシラザンを20質量%含むジブチルエーテル溶液(メルク株式会社製、NN120−20)と、アミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン(TMDAH))を含むパーヒドロポリシラザン20質量%のジブチルエーテル溶液(メルク株式会社製、NAX120−20)とを、3:1(質量比)の割合で混合し、さらに乾燥膜厚調整のためジブチルエーテルで適宜希釈し、塗布液を調製した。
下地層の形成は、樹脂基材上に上記塗布液1を塗布して塗膜を形成した後、真空紫外線照射による改質を行って形成した。具体的には、上記で調製した塗布液1を、上記樹脂基材上に、乾燥後の厚さが60nmとなるようにダイコート法で塗布し、大気中、80℃(露点5℃)にて2分間乾燥した。次いで、乾燥して得られた塗膜に対して、窒素雰囲下、波長172nmのXeエキシマランプを用い、照射エネルギー0.8J/cmで、真空紫外線照射処理(改質処理)を施すことにより、下地層を形成した。なお、改質処理に用いた装置および条件は以下の通りである:
〈改質処理の装置および条件〉
装置:特開2012−116101号公報に記載のロール・トゥ・ロール方式の塗布、乾燥、改質をインラインで行うことのできる装置
試料とランプ管面の距離:10mm
改質ゾーンの雰囲気温度:80℃
照射装置内の酸素濃度:0.1体積%。
<ガスバリア性フィルム3の作製>
ガスバリア層を形成する際の真空プラズマCVD法における各条件を下記の表1に示すように変更したこと以外は、上述した「ガスバリア性フィルム2の作製」と同様の手法により、ガスバリア性フィルム3を作製した。
<ガスバリア性フィルム4の作製>
まず、以下の塗布液2を調製した。
塗布液2:ポリシロキサンオリゴマー:X−40−9225(信越化学工業社製)と有機アルミニウム系硬化剤:DX−9740(信越化学工業社製)とを、95:5(質量比)の割合で混合して、塗布液を調製した。
下地層を形成する際、塗布液1に代えて、上記のようにして調製した塗布液2を用い、下地層の膜厚が下記の表1に示す値となるように当該塗布液の塗布量を調整し、かつ、塗膜の乾燥温度および改質処理時の照射エネルギーを下記の表1に示す値に変更した。また、ガスバリア層を形成する際の真空プラズマCVD法における各条件およびガスバリア層の膜厚を下記の表1に示すように変更した。これらの点以外は、上述した「ガスバリア性フィルム3の作製」と同様の手法により、ガスバリア性フィルム4を作製した。
<ガスバリア性フィルム5の作製>
まず、以下の塗布液3を調製した。
塗布液3:上記塗布液1を調製する際にポリシラザンにAl/Si比(モル比)が0.01となるようにアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(ALCH)を添加し、室温(25℃)で6時間撹拌して塗布液を調製した。
下地層を形成する際、塗布液1に代えて、上記のようにして調製した塗布液3を用い、下地層の膜厚が下記の表1に示す値となるように当該塗布液の塗布量を調整し、かつ、塗膜の乾燥温度および改質処理時の照射エネルギーを下記の表1に示す値に変更した。これらの点以外は、上述した「ガスバリア性フィルム4の作製」と同様の手法により、ガスバリア性フィルム5を作製した。
<ガスバリア性フィルム6の作製>
ガスバリア層の露出表面に、以下の手法により密着層を形成したこと以外は、上述した「ガスバリア性フィルム5の作製」と同様の手法により、ガスバリア性フィルム6を作製した。
(表面親水化処理:真空プラズマCVD装置を用いた酸素プラズマ処理)
ガスバリア層の形成に用いた真空プラズマCVD装置を用い、ガスバリア層を形成した後に、続けて、ロール・トゥ・ロール方式で酸素プラズマ処理を行った。この際、第1成膜部のみを用い、搬送速度を40m/分とし、原料ガスは供給せず、酸素ガス供給量を2000sccm、真空度を2Pa、印加電力を3kWとした。
(密着層の形成:アクリロイル基含有シランカップリング剤)
アクリロイル基含有シランカップリング剤であるKBM−5103(信越化学工業社製)をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)で固形分濃度1%まで希釈して、密着層形成用塗布液を調製した。次いで、この密着層形成用塗布液を、乾燥膜厚が理論値として15nmとなるように上記ガスバリア層の露出表面にバーコーターで塗布した後、乾燥条件として80℃で1分間の乾燥を行って密着層を形成した。密着層の乾燥膜厚をTEM観察により測定したが、厚さは特定できず、5nm以下であることが推察された。なお、TEM観察に用いた条件は以下のとおりである。
(TEM観察の条件)
装置:JEOL製 JEM−2010F
加速電圧:200kV
前処理:FIB加工による薄片処理。
<ガスバリア性フィルム7〜13の作製>
下地層の乾燥後の膜厚および改質処理時の照射エネルギーを下記の表1に示すように変更した。また、ガスバリア層を形成する際の真空プラズマCVD法における各条件およびガスバリア層の膜厚を下記の表1に示すように変更した。これらの点以外は、上述した「ガスバリア性フィルム5の作製」と同様の手法により、ガスバリア性フィルム7〜13を作製した。
<ガスバリア性フィルム14の作製>
クリアハードコート層に代えて、スパッタ法により膜厚150nmの酸化ケイ素(SiO)膜を成膜したこと以外は、上述した「ガスバリア性フィルム1の作製」と同様の手法により、ガスバリア性フィルム14を作製した。なお、スパッタ法による成膜の際、ターゲットとしては多結晶シリコンを用い、ロール・トゥ・ロール成膜装置を用いて成膜を行った。
《ガスバリア性フィルムの物性の測定》
<下地層およびガスバリア層の組成分布(平均組成)>
以上のようにして形成した下地層およびガスバリア層の厚さ方向の組成分布を、下記のXPS(光電子分光法)分析を用いた測定により求めた。
(XPS分析条件)
・装置:アルバックファイ製QUANTERASXM
・X線源:単色化Al−Kα
・測定領域:Si2p、C1s、N1s、O1s
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・デプスプロファイル:1分間スパッタ後、測定を繰り返し、深さ方向のデプスプロファイルを求める。この厚さ間隔は、1nmとした(深さ方向に1nmごとのデータが得られる。)。
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理には、アルバックファイ社製のMultiPakを用いた。
なお、ガスバリア層の組成分布は、クリアハードコート層または下地層と積層した試料で組成分布を測定し、膜厚方向の組成分布の平均値(平均組成)として求めた。また、下地層とガスバリア層との境界は、下地層のみで組成分布を測定したデータと比較することで、判断した。このようにして得られた下地層の平均組成をSiOで表したときのvおよびwの値、並びに、ガスバリア層の平均組成をSiOで表したときのyの値を、下記の表1に示す。
<ガスバリア層の露出表面の表面硬度(SH)>
ガスバリア層の露出表面(ガスバリア性フィルム6では密着層の露出表面)の表面硬度(SH)については、ナノインデンテーション法に従って測定した。具体的には、走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製SPI3800N)およびHysitoron社製Triboscopeを用いて測定した。なお、使用圧子としてはcube corner tip(90°)を用いた。測定結果を下記の表1に示す。
<ガスバリア層の露出表面の表面粗さ(Ra)>
ガスバリア層の露出表面(ガスバリア性フィルム6では密着層の露出表面)の表面粗さ(Ra)については、Veeco社製のwykoNT9300非接触三次元微小表面形状測定システムを用いて測定した。ここで「表面粗さ(Ra)」とは、非接触3次元表面形状測定装置で、200μm×200μmの範囲を複数箇所(5箇所以上)測定した際の平均の表面粗さ(中心線平均粗さ)を表す。測定結果を下記の表1に示す。なお、下地層を形成後に同様の手法により下地層表面(ガスバリア層形成面)の表面粗さ(Rz;十点平均粗さ)を測定したところ、本発明に係るガスバリア性フィルム3〜12のいずれも、30nm未満の値を示した。また、ガスバリア層の露出表面(ガスバリア性フィルム6では密着層の露出表面)のRzについても、本発明に係るガスバリア性フィルム3〜12は35nm未満の値を示した。
《ガスバリア性フィルムの性能評価》
<ガスバリア性(水蒸気透過度)>
ガスバリア性は、モコン法(JIS K 7129−1992B法)に準拠して行い、モコン社製水蒸気透過率測定装置アクアトランを用いて、38℃、100%RHの条件で測定した。そして、得られた水蒸気透過度の測定結果から、以下の基準に従ってランク付けを行い、ランク3以上を合格とした。評価結果を下記の表2に示す:
ランク5:1×10−2g/m・day未満
ランク4:1×10−2g/m・day以上、5×10−2g/m・day未満
ランク3:5×10−2g/m・day以上、1×10−1g/m・day未満
ランク2:1×10−1g/m・day以上、5×10−1g/m・day未満
ランク1:5×10−1g/m・day以上。
<湿熱耐性>
ガスバリア性フィルム試料を60℃、90%RHの環境に100時間保管した後に、上述した「ガスバリア性(水蒸気透過度)」と同様の手法により、保管後の水蒸気透過度を測定した。そして、保管後の水蒸気透過度が保管前と比較して何倍に増加しているかを湿熱劣化度(=保管後の水蒸気透過度/保管前の水蒸気透過度)として算出し、以下の基準に従ってランク付けを行った(ランク3以上を合格とした)。評価結果を下記の表2に示す:
ランク5:湿熱劣化度が2倍未満
ランク4:湿熱劣化度が2倍以上、5倍未満
ランク3:湿熱劣化度が5倍以上、10倍未満
ランク2:湿熱劣化度が10倍以上、50倍未満
ランク1:湿熱劣化度が50倍以上。
<工程適性(耐擦傷性)>
半径15mmの円筒形ステンレス部材を用意し、ガスバリア性フィルム試料のガスバリア層を形成した面をこの円筒部材に接するように180度巻きつけ、ガスバリア性フィルムの幅1cmあたりに10gの張力をかけて秒速2cmの速度で擦り処理を行った。この擦り処理を往復10回繰り返した。そして、擦り処理後の水蒸気透過度が擦り処理前と比較して何倍に増加しているかを擦傷劣化度(=擦り処理後の水蒸気透過度/擦り処理前の水蒸気透過度)として算出し、以下の基準に従ってランク付けを行った(ランク3以上を合格とした)。評価結果を下記の表2に示す:
ランク5:擦傷劣化度が2倍未満
ランク4:擦傷劣化度が2倍以上、5倍未満
ランク3:擦傷劣化度が5倍以上、10倍未満
ランク2:擦傷劣化度が10倍以上、50倍未満
ランク1:擦傷劣化度が50倍以上。
表2に示す結果から、本発明によれば、ガスバリア性および湿熱耐性に優れ、かつ、工程適性についても向上したガスバリア性フィルムおよびその製造方法が提供されうることが示された。なお、ガスバリア層の表面に密着層が配置されたガスバリア性フィルム6は、密着層が配置されていないガスバリア性フィルム5と比較して、より優れた工程適性を示した。
一方、ガスバリア層表面の表面硬度(SH)が小さいガスバリア性フィルム1では、全ての評価項目において劣る結果となった。ここで、ガスバリア層表面の小さい表面硬度は、主として下地層の表面硬度が小さいことを反映しており、このように下地層の表面硬度が小さい(つまり、下地層が柔らかい)ことで、ガスバリア層を成膜する際のプラズマによって下地層がダメージを受け、ガスバリア性の低下がもたらされているものと推測される。
また、ガスバリア層に含まれる炭素(C)の量が少ない(y値が小さい)ガスバリア性フィルム2は、初期のガスバリア性および湿熱耐性については一定の性能を示したが、工程適性に劣る結果となった。これは、炭素(C)の量が少ないことでガスバリア層の剛直性が増す結果、耐擦傷性の低下がもたらされたものと考えられる。
同様に、ガスバリア層表面の表面粗さ(Ra)が大きいガスバリア性フィルム14についても、全ての評価項目において劣る結果となった。ガスバリア層表面の大きい表面粗さ(Ra)もまた、主として下地層の表面粗さが大きいこと(スパッタ法により形成されたことに起因する)を反映しており、このように下地層の表面粗さが大きいことで、その上にガスバリア層を成膜しても膜として十分に結合・追従することができず、ガスバリア性の低下がもたらされているものと推測される。
さらに、ガスバリア層の膜厚が100nmと厚いガスバリア性フィルム13は、初期のガスバリア性および工程適性については一定の性能を示したが、湿熱耐性に劣る結果となった。これは、湿熱環境での保管時における樹脂基材の変形に、膜厚の大きいガスバリア層は追従することができず、当該ガスバリア層にクラックが発生したことによるものと考えられる。
本出願は、2015年12月11日に出願された日本特許出願番号2015−242459号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。
F ガスバリア性フィルム
1、1a 樹脂基材
2 下地層
3 ガスバリア層
G QDシート
4 密着層
5 QD含有樹脂層
S 成膜空間
1b、1c、1d、1e 成膜された基材
10 送り出しローラー
11、12、13、14 搬送ローラー
15 第1成膜ローラー
16 第2成膜ローラー
17 巻取りローラー
18 ガス供給管
19 プラズマ発生用電源
20、21 磁場発生装置
30 真空チャンバー
40 真空ポンプ
41 制御部
100 成膜装置
101 成膜装置(タンデム型)

Claims (10)

  1. 樹脂基材の少なくとも一方の面に、互いに隣接する下地層およびガスバリア層がこの順に配置されてなるガスバリア性フィルムであって、
    前記ガスバリア層の平均組成をSiO(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yが0.40<y≦0.95を満たし、
    前記ガスバリア層の厚さが5〜90nmであり、
    ナノインデンテーション法により測定される、前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面硬度(SH)が1.4〜3.5GPaであり、
    前記下地層に対して前記ガスバリア層が配置された側のフィルム表面における表面粗さ(Ra)が1〜18nmである、ガスバリア性フィルム。
  2. 前記下地層が、SiおよびSi以外の金属Mを含有し、M/Si比(モル比)が0.001〜0.05の範囲内である、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
  3. 前記ガスバリア層の厚さが10〜60nmである、請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
  4. 前記下地層の平均組成をSiO(vおよびwは化学量論係数)で表したときに、vが1.7≦v≦2.5を満たし、wが0.01≦w≦0.2を満たす、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
  5. 前記ガスバリア層上に、重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層をさらに有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
  6. 前記密着層の厚さが5nm以下である、請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
  7. 樹脂基材上に、ポリシラザンを含有する塗膜を形成し、前記塗膜に改質処理を施して下地層を形成する工程と、
    前記下地層と接するように、気相成膜法を用いてガスバリア層を形成する工程と、
    を含むガスバリア性フィルムの製造方法であって、
    前記ガスバリア層の平均組成をSiO(xおよびyは化学量論係数)で表したときに、yが0.40<y≦0.95を満たし、
    前記ガスバリア層の厚さが5〜90nmである、ガスバリア性フィルムの製造方法。
  8. 前記ガスバリア層を形成する工程の後、前記ガスバリア層上に、重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層を形成する工程をさらに含む、請求項7に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
  9. 前記ガスバリア層を形成する工程の後、前記密着層を形成する工程の前に、前記ガスバリア層の露出表面に対して表面処理を施す工程をさらに含む、請求項8に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
  10. 前記表面処理を、前記ガスバリア層の形成に用いた装置を用いて行う、請求項9に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
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