本発明のガスバリアー性フィルムは、樹脂基材上に、下地層と、これに接して形成されたガスバリアー層とを有するガスバリアー性フィルムにおいて、前記下地層及び前記ガスバリアー層が下記要件を満たすことを特徴とする。
下地層:平均組成をSiOvCw(v及びwは化学量論係数)で表したときに、1.7≦v≦2.1、0.01≦w≦0.2であり、かつ厚さが50〜200nmの範囲内である。
ガスバリアー層:平均組成をSiOxCy(x及びyは化学量論係数)で表したときに、1.6≦x≦1.9、0.15≦y≦0.40であり、かつ4≦2x+2y<4.3であり、厚さが15〜50nmの範囲内である。
この特徴は、請求項1から請求項11までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記ガスバリアー層が、さらに前記yと厚さ(nm)との積が、4〜12の範囲内であることが、ガスバリアー性と、波長450nm近傍の光吸収をバランスする観点から、好ましい。
前記下地層層は、さらにSi以外の金属Mを含有し、M/Si比が0.001〜0.05の範囲内であることが好ましい。Si以外の金属Mを添加すると、塗布乾燥時に含有するNがOに置き換わり、改質処理のエネルギーが低い条件においても、効率的に前記vとwとを上記範囲内入る組成にすることが可能となる。
また、前記ガスバリアー層上に、さらに重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層を有することが、本発明のガスバリアー性フィルムをQDシートに適用する場合において、密着性を向上する観点から、好ましい。当該密着層は効果を発現すれば薄膜でもよく、厚さが5nm以下であることが、好ましい。
本発明のガスバリアー性フィルムの製造方法は、樹脂基材上に、下地層としてポリシラザンを含有する塗布層を形成し、これに接してガスバリアー層として化学蒸着層を形成するガスバリアー性フィルムの製造方法であって、前記下地層及びガスバリアー層が下記要件を満たすことを特徴とする。
下地層:平均組成をSiOvCwで表したときに、1.7≦v≦2.1、0.01≦w≦0.2であり、かつ厚さが50nm〜200nmの範囲内である。
ガスバリアー層:平均組成をSiOxCyで表したときに、1.6≦x≦1.9、0.15≦y≦0.40であり、かつ4≦2x+2y<4.3であり、厚さが15〜50nmの範囲内である。
また、前記ガスバリアー層が、さらに前記yと厚さ(nm)との積が、4〜12の範囲内である要件を満たすことが、ガスバリアー性と輝度の良好な性能バランスを得る観点から好ましい。
前記下地層が、さらにSi以外の金属Mを含有し、M/Si比(モル比)が0.001〜0.05の範囲内であることが、塗布乾燥時に含有するNがOに置き換わり、改質処理のエネルギーが低い条件においても、効率的に前記vとwとを上記範囲内入る組成にすることが可能となるため、好ましい。
前記ガスバリアー層上に、さらに重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層を形成することが、ガスバリアーフィルムをQDシートに適用する場合にQD含有樹脂層との密着性の観点から、好ましい。
さらに、前記ガスバリアー層を形成する工程と前記密着層を形成する工程の間に、表面処理工程を加えることが、前記密着性をさらに高める観点から、好ましい。
また、前記表面処理工程が、前記ガスバリアー層を形成する工程後、当該ガスバリアー層を形成する工程に用いた装置で行われることが、生産効率の観点から好ましい態様である。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
≪本発明のガスバリアー性フィルムの概要≫
本発明のガスバリアー性フィルムは、樹脂基材上に、下地層と、これに接して形成されたガスバリアー層とを有するガスバリアー性フィルムにおいて、前記下地層及び前記ガスバリアー層が下記要件を満たすことを特徴とする。
下地層:平均組成をSiOvCw(v及びwは化学量論係数)で表したときに、1.7≦v≦2.1、0.01≦w≦0.2であり、かつ厚さが50〜200nmの範囲内である。
ガスバリアー層:平均組成をSiOxCy(x及びyは化学量論係数)で表したときに、1.6≦x≦1.9、0.15≦y≦0.40であり、かつ4≦2x+2y<4.3であり、厚さが15〜50nmの範囲内である。
本発明でいう「ガスバリアー性」とは、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(温度:60±0.5℃、相対湿度(RH):90±2%)が1×10−2g/m2・24h以下であり、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−2ml/m2・24h・atm以下であることを意味する。
また、前記下地層及びガスバリアー層の平均組成を「SiOvCw」又は「SiOxCy」と表すとは、前記層を構成する化合物、ないし当該化合物の平均組成をいう。
〈XPSによる組成分析〉
本発明に係る下地層中含有されるSiOvCwにおける組成v及びw、及び本発明に係るガスバリアー層中に含有されるSiOxCyにおける組成x及びyは、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)によって、層厚方向における元素濃度分布を測定し平均することによって求めることができる。
本発明におけるXPS分析は下記の条件で行ったものであるが、装置や測定条件が変わっても本発明の主旨に即した測定方法であれば問題なく適用できるものである。
本発明の主旨に即した測定方法とは、主に層厚方向の解像度であり、測定点1点あたりのエッチング深さ(下記のスパッタイオンとデプスプロファイルの条件に相当)は3nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましく、1nm以下であることがさらに好ましい。
以下に、本発明に適用可能なXPS分析の具体的な条件の一例を示す。
・分析装置:アルバックファイ社製QUANTERASXM
・X線源:単色化Al−Kα
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・デプスプロファイル:SiO2換算スパッタ厚さで、所定の厚さ間隔で測定を繰り返し、深さ方向のデプスプロファイルを求める。この厚さ間隔は、1nmとした(深さ方向に1nmごとのデータが得られる。)。
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理は、アルバックファイ社製のMultiPakを用いる。
図1は、本発明のガスバリアー性フィルムの構成例を示す断面図である。
図1Aは、樹脂基材1上に下地層2を形成し、その上にガスバリアー層3を積層している本発明のガスバリアー性フィルムFの最小構成を示している。
図1Bは、ガスバリアー層3の上に、さらに密着層4を形成し、その上にQD含有樹脂層5を積層したQDシートGを示す断面図である。
図1では、他の機能層は示していないが、帯電防止層、バックコート層、ブリードアウト防止層、ハードコート層等を適宜積層してもよい。さらに、樹脂基材1の両側に下地層2及びガスバリアー層3を形成した構成でもよい。
〔1〕樹脂
本発明のガスバリアー性フィルムに用いられる樹脂基材としては、プラスチックフィルムが用いられることが好ましい。用いられるプラスチックフィルムは、下地層、ガスバリアー層等を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
樹脂基材の厚さは5〜500μm程度が好ましく、更に好ましくは15〜250μmである。
その他、基材の種類、基材の製造方法等については、特開2013−226758号公報の段落「0125」〜「0136」に開示されている技術を適宜採用することができる。
〔2〕下地層
下地層は、酸化ケイ素化合物を含有する層であり、平均組成をSiOvCwで表したときに、1.7≦v≦2.1、0.01≦w≦0.2であり、かつ厚さが50〜200nmの範囲内である。
前記wは、膜強度や柔軟性の観点からは0.01以上が必要であり、透明性の観点からは0.2以下であることが必要である。
また、前記vが1.7未満である場合、Nが過剰に残存していることを示し、CVD法によるガスバリアー層形成時にアンモニアや水素のアウトガスが発生し、ガスバリアー層の膜質が劣化し、ガスバリアー性が低下する懸念がある。また、vが2.1を超える場合は、Si−OHが過剰に存在していることを示し、CVD法によるガスバリアー層形成時に水蒸気のアウトガスが発生し、ガスバリアー層の膜質が劣化し、ガスバリアー性が低下する。したがって、上層であるガスバリアー層のガスバリアー性への影響を小さくするために、上記範囲内に制御することが必要である。
さらに、下地層の厚さが50nm未満では、樹脂基材の表面凹凸の影響でガスバリアー性が大きく劣化する懸念があり、200nmを超えると下地層中に含有されるアウトガスの原因物の総量が多くなるため、vとwが上記範囲内であっても、アウトガス起因のガスバリアー性劣化が生じる懸念があるため、層厚は上記範囲内であることが必要である。
本発明に係る下地層は、成膜性、クラック等の欠陥が少ないことからポリシラザンを含有する塗布液を塗布して形成される塗膜に、さらにエネルギーを印加して形成する方法(塗膜形成法)により形成されることが好ましい。
前記組成において、炭素Cは有機Si化合物やALCH等の有機金属化合物を塗布液に添加することによって塗布層中に含有される。添加量(塗布形成時の初期値)と、塗布後の改質処理(熱処理、UV処理、VUV(エキシマ)処理の処理エネルギーとで制御できる。処理エネルギーを増やすことで炭素成分は減少する方向である。
当該下地層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。また、当該下地層が2層以上の積層構造である場合、各下地層は同じ組成であってもよいし異なる組成であってもよい。
ポリシラザンとしては、パーヒドロポリシラザン、オルガノポリシラザン等が挙げられるが、残留有機物の少ないことから好ましくはパーヒドロポリシラザンであることが好ましい。
ポリシラザンとは、ケイ素−窒素結合を有するポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等の結合を有するSiO2、Si3N4、及び両方の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
具体的には、ポリシラザンは、好ましくは下記の構造を有する。
上記一般式(I)において、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、置換又は非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基又は(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ、同じであっても又は異なってもよい。ここで、アルキル基としては、炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などがある。また、アリール基としては、炭素原子数6〜30のアリール基が挙げられる。より具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基などの非縮合炭化水素基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基などの縮合多環炭化水素基が挙げられる。(トリアルコキシシリル)アルキル基としては、炭素原子数1〜8のアルコキシ基で置換されたシリル基を有する炭素原子数1〜8のアルキル基が挙げられる。より具体的には、3−(トリエトキシシリル)プロピル基、3−(トリメトキシシリル)プロピル基などが挙げられる。上記R
1〜R
3に場合によって存在する置換基は、特に制限はないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基(−OH)、メルカプト基(−SH)、シアノ基(−CN)、スルホ基(−SO
3H)、カルボキシ基(−COOH)、ニトロ基(−NO
2)などがある。なお、場合によって存在する置換基は、置換するR
1〜R
3と同じとなることはない。例えば、R
1〜R
3がアルキル基の場合には、さらにアルキル基で置換されることはない。これらのうち、好ましくは、R
1、R
2及びR
3は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、ビニル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基又は3−(トリメトキシシリルプロピル)基である。
また、上記一般式(I)において、nは、整数であり、一般式(I)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。
上記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、好ましい態様の一つは、R1、R2及びR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンである。このようなポリシラザンから形成される下地層は高い緻密性を有する。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体又は固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。
ポリシラザンは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのまま下地層形成用塗布液として使用してもよく、市販品を複数混合して使用してもよい。また、市販品を適当な溶剤で希釈して使用してもよい。ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120−10、NN120−20、NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120−20、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
その他、ポリシラザンの詳細については、従来公知である特開2013−255910号公報の段落「0024」〜「0040」、特開2013−188942号公報の段落「0037」〜「0043」、特開2013−151123号公報の段落「0014」〜「0021」、特開2013−052569号公報の段落「0033」〜「0045」、特開2013−129557号公報の段落「0062」〜「0075」、特開2013−226758号公報の段落「0037」〜「0064」等を参照して採用することができる。
ポリシラザンを用いる場合、エネルギー印加前の下地層中におけるポリシラザンの含有率としては、下地層の全質量を100質量%としたとき、100質量%でありうる。また、下地層がポリシラザン以外のものを含む場合には、下地層中におけるポリシラザンの含有率は、10〜99質量%の範囲内であることが好ましく、40〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、特に好ましくは70〜95質量%の範囲内である。
〈他の金属〉
本発明に係る下地層は、さらにSi以外の金属Mを含有し、M/Si比(モル比)が0.001〜0.05の範囲内であることが好ましい。
塗布液に、Si以外の金属Mとして、Al、B、Ti、Zrの有機金属化合物を添加すると、塗布乾燥時にポリシラザンが含有するNがOに置き換わり、塗布後の改質処理のエネルギーが低い条件においても、効率的にvとwとを上記範囲内入る組成にすることができる。
金属元素の例としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、ホウ素(B)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)等が挙げられる。
特に、Al、B、Ti及びZrが好ましく、中でもAlを含む有機金属化合物が好ましい。
本発明に適用可能なアルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムイソポロポキシド、アルミニウム−sec−ブチレート、チタンイソプロポキシド、アルミニウムトリエチレート、アルミニウムトリイソプロピレート、アルミニウムトリtert−ブチレート、アルミニウムトリn−ブチレート、アルミニウムトリsec−ブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノアルミニウム−t−ブチレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムオキシドイソプロポキシドトリマー等を挙げることができる。
具体的な市販品としては、例えば、AMD(アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート)、ASBD(アルミニウムセカンダリーブチレート)、ALCH(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、ALCH−TR(アルミニウムトリスエチルアセトアセテート)、アルミキレートM(アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、アルミキレートD(アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート)、アルミキレートA(W)(アルミニウムトリスアセチルアセトネート)(以上、川研ファインケミカル株式会社製)、プレンアクト(登録商標)AL−M(アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、味の素ファインケミカル株式会社製)等を挙げることができる。
なお、これらの化合物を用いる場合は、ポリシラザンを含む塗布液と不活性ガス雰囲気下で混合することが好ましい。これらの化合物が大気中の水分や酸素と反応し、激しく酸化が進むことを抑制するためである。また、これらの化合物とポリシラザンとを混合する場合は、30〜100℃に昇温し、撹拌しながら1分〜24時間保持することが好ましい。
〈下地層形成用塗布液〉
下地層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応してしまう水及び反応性基(例えば、ヒドロキシ基、又はアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶剤が好ましく、非プロトン性の有機溶剤がより好ましい。具体的には、溶剤としては、非プロトン性溶剤;例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターペン等の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類:例えば、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ−及びポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)などを挙げることができる。上記溶剤は、ケイ素化合物の溶解度や溶剤の蒸発速度等の目的に合わせて選択され、単独で使用されても又は2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
下地層形成用塗布液におけるポリシラザンの濃度は、特に制限されず、下地層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。
下地層形成用塗布液は、改質を促進するために、触媒を含有することが好ましい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N−複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ケイ素化合物を基準としたとき、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%の範囲である。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行よる過剰なシラノール形成、及び膜密度の低下、膜欠陥の増大などを避けることができる。
下地層形成用塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル若しくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネート若しくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。
〈ポリシラザンを含有する層の形成方法〉
ポリシラザンを含有する層は、上記の下地層形成用塗布液を基材上に塗布することによって形成することができる。塗布方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗布厚さは、上記の下地層の厚さに応じて適宜選択することができる。
塗布液を塗布した後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜を乾燥させることによって、塗膜中に含有される有機溶媒を除去することができる。この際、塗膜に含有される有機溶媒は、すべてを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の有機溶媒を残存させる場合であっても、好適な下地層が得られうる。なお、残存する溶媒は後に除去されうる。
塗膜の乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜200℃であることが好ましい。例えば、ガラス転位温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基材を基材として用いる場合には、乾燥温度は、熱による基材の変形等を考慮して150℃以下に設定することが好ましい。
〈エネルギーの印加〉
続いて、上記のようにして形成されたポリシラザンを含有する層に対して、エネルギーを印加し、ポリシラザンの改質処理を行い、下地層への改質を行う。
ポリシラザンを含有する層に対して、エネルギーを印加する方法としては、公知の方法を適宜選択して適用することができる。改質処理としては、具体的には、プラズマ処理、紫外線照射処理、加熱処理が挙げられる。ただし、加熱処理による改質の場合、450℃以上の高温が必要であるため、プラスチック等のフレキシブル基板においては、適応が難しい。このため、熱処理は他の改質処理と組み合わせて行うことが好ましい。
したがって、改質処理としては、プラスチック基板への適応という観点から、より低温で、転化反応が可能なプラズマ処理や紫外線照射処理による転化反応が好ましい。
以下、好ましい改質処理方法であるプラズマ処理、紫外線照射処理について説明する。
(プラズマ処理)
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、好ましくは大気圧プラズマ処理等を挙げることができる。大気圧近傍でのプラズマCVD処理を行う大気圧プラズマCVD法は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、さらには通常のCVD法の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて均質の膜が得られる。
大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガス又は長周期型周期表の第18族原子を含むガス、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
(紫外線照射処理)
改質処理の方法の一つとして、紫外線照射による処理が好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化ケイ素膜又は酸窒化ケイ素膜を形成することが可能である。
この紫外線照射により、基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO2とH2Oや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られる下地層が一層緻密になる。紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
紫外線照射処理においては、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することも可能である。
なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜375nmの紫外線を用いる。
紫外線の照射は、照射される下地層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm2、好ましくは50〜200mW/cm2になるように基材−紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
一般に、紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には、基材が変形したり、その強度が劣化したりする等、基材の特性が損なわれることになる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムの場合には、より高温での改質処理が可能である。したがって、この紫外線照射時の基材温度としては、一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機株式会社製、株式会社エム・ディ・コム製など)、UV光レーザー、等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線をポリシラザンを含有する層に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてからポリシラザンを含有する層に当てることが好ましい。
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、ポリシラザンを含有する層を表面に有する積層体を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製の紫外線焼成炉を使用することができる。また、ポリシラザンを含有する層を表面に有する積層体が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材やポリシラザンを含有する層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
(真空紫外線照射処理:エキシマ照射処理)
本発明において、下地層の最も好ましい改質処理方法は、真空紫外線照射による処理(エキシマ照射処理)である。真空紫外線照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温(約200℃以下)で、酸化ケイ素膜の形成を行う方法である。
本発明においての放射線源は、100〜180nmの波長の光を発生させるものであれば良いが、好適には約172nmに最大放射を有するエキシマラジエータ(例えば、Xeエキシマランプ)、約185nmに輝線を有する低圧水銀蒸気ランプ、並びに230nm以下の波長成分を有する中圧及び高圧水銀蒸気ランプ、及び約222nmに最大放射を有するエキシマランプである。
紫外線照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外線は、酸素による吸収があるため紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線の照射は、可能な限り酸素濃度及び水蒸気濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、10〜20,000体積ppm(0.001〜2体積%)とすることが好ましく、50〜10,000体積ppm(0.005〜1体積%)とすることがより好ましい。また、転化プロセスの間の水蒸気濃度は、好ましくは1000〜4000体積ppmの範囲である。
真空紫外線照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外線照射工程において、ポリシラザンを含有する層が受ける塗膜面での該真空紫外線の照度は1mW/cm2〜10W/cm2であると好ましく、30〜200mW/cm2であることがより好ましく、50〜160mW/cm2であるとさらに好ましい。1mW/cm2未満では、改質効率が大きく低下する懸念があり、10W/cm2を超えると、塗膜にアブレーションを生じたり、基材にダメージを与えたりする懸念が出てくる。
塗膜面における真空紫外線の照射エネルギー量(照射量)は、10mJ/cm2〜3J/cm2であることが好ましく、50mJ/cm2〜1J/cm2であることがより好ましい。10mJ/cm2以上であれば、改質が不十分となることを避けることができる、3J/cm2以下であれば過剰改質によるクラック発生や、基材の熱変形を防ぐことができる。
また、用いられる真空紫外光は、CO、CO2及びCH4の少なくとも1種を含むガスで形成されたプラズマにより発生させてもよい。さらに、CO、CO2及びCH4の少なくとも1種を含むガス(以下、炭素含有ガスとも称する)は、炭素含有ガスを単独で使用してもよいが、希ガス又はH2を主ガスとして、炭素含有ガスを少量添加することが好ましい。プラズマの生成方式としては容量結合プラズマなどが挙げられる。
〔3〕ガスバリアー層
本発明のガスバリアー性フィルムは、上記下地層の上部に、前記下地層に接しており、真空成膜法により形成されるガスバリアー層を有する。
本発明に係るガスバリアー層は酸化ケイ素化合物を含有し、平均組成をSiOxCyで表したときに、1.6≦x≦1.9、0.15≦y≦0.40であり、かつ4≦2x+2y<4.3であり、厚さが15nm〜50nmの範囲内であることが特徴である。
また、前記ガスバリアー層が、さらにyと厚さ(nm)との積が、4〜12の範囲内であることが好ましい。
前述のとおり、前記酸素成分x及び炭素成分yの値の範囲は、ガスバリアー性と透明性の観点から最適化したときの領域であって、酸素成分xが大きくなると透明性が向上する傾向にあり、小さくしていくとガスバリアー性が向上する。また、炭素成分yが増加すると透明性が劣化する傾向にある。したがって、上記x及びyの値の範囲内であれば、ガスバリアー性と透明性のバランスがとれる。
また、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料としたCVD法によるガスバリアー層の成膜では、当該ガスバリアー層は、Si−O−Si結合か、Si−CH2−Si結合を主として有すると考えられる。すべてがSi−O−Si結合か、Si−CH2−Si結合であれば、2x+2y=4となるが、実際は、少量のSi−CH3が存在するため、4<2x+2yとなるものと考えられる。したがって、2x+2yが4.3以上となる場合は、過剰にSi−CH3が存在すると考えられ、ガスバリアー性は大きく低下する。2x+2yが4未満となる場合は、いわゆる酸素欠損状態となり、光波長450nmの光吸収が大きく増大して、QDシートに適用した場合に輝度が劣化する。
したがって、本発明に係るガスバリアー層は、上記x及びyの値の範囲内であって、かつ2x+2yで規定されるSi−CH3の含有量を制御することによって、ガスバリアー性の向上及び光波長450nm近傍の光吸収を小さくすることができる。
さらに、前記炭素成分yと厚さ(nm)との積が大きくなると、ガスバリアー性が向上し、逆に波長450nm近傍の光吸収が大きくなる方向であり、前記炭素成分yと厚さ(nm)との積が小さくなると、ガスバリアー性が劣化し、当該光吸収が小さくなる方向であり、前記yと厚さ(nm)との積が4〜12の範囲内である場合に良好な性能バランスが得られる。
ガスバリアー層の好ましい形成方法である真空成膜法としては、物理気相成膜法(PVD法:Physical Vapor Deposition)と化学気相成膜法(CVD法:chemical vapor deposition)がある。
<気相成膜法>
物理気相成膜法(PVD法)は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタ法(DCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、及びマグネトロンスパッタ法等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
化学気相成膜法(CVD法)は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基材表面又は気相での化学反応により膜を堆積する方法である。また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、真空プラズマCVD法など公知のCVD方式等が挙げられる。特に限定されるものではないが、成膜速度や処理面積、得られるガスバリアー層のフレキシビリティやガスバリアー性の観点から、真空プラズマCVD法を適用することが好ましい。
例えば、ケイ素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、ケイ素酸化物が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
前記平均組成SiOxCyにおける酸素成分x及び炭素成分yを制御するには、真空プラズマCVD法を用いることが好ましく、原料ガスの種類及び供給速度、プラズマ強度、成膜装置及び成膜速度等を制御することで達成することができる。
例えば、成膜原料と酸素の供給量とその比率、成膜時の搬送速度、成膜回数等を適宜組み合わせることにより制御することができる。
なお、以下では、好ましい成膜装置であって、真空プラズマCVD法によって薄膜を形成する、対向ローラー型のロール・to・ロール成膜装置を使用して、ガスバリアー層を製造する場合を例示して説明する。
図2は、本発明に係るガスバリアー層の好ましい形態であるCVD層の形成に用いられる真空プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
図2に示すとおり、成膜装置100は、送り出しローラー10と、搬送ローラー11〜14と、第1及び第2成膜ローラー15、16と、巻取りローラー17と、ガス供給管18と、プラズマ発生用電源19と、磁場発生装置20及び21と、真空チャンバー30と、真空ポンプ40と、制御部41と、を有する。
送り出しローラー10、搬送ローラー11〜14、第1及び第2成膜ローラー15、16及び巻取りローラー17は、真空チャンバー30に収容されている。
送り出しローラー10は、あらかじめ巻き取られた状態で設置されている基材1aを搬送ローラー11に向けて送り出す。送り出しローラー10は、紙面に対して垂直方向に延在した円筒状のローラーであり、図示しない駆動モーターにより反時計回りに回転(図2の矢印を参照)することにより、送り出しローラー10に巻回された基材1aを搬送ローラー11に向けて送り出す。
搬送ローラー11〜14は、送り出しローラー10と略平行な回転軸を中心に回転可能に構成された円筒状のローラーである。搬送ローラー11は、基材1aに適当な張力を付与しつつ、基材1aを送り出しローラー10から成膜ローラー15に搬送するためのローラーである。搬送ローラー12、13は、成膜ローラー15で成膜された基材1bに適当な張力を付与しつつ、基材1bを成膜ローラー15から成膜ローラー16に搬送するためのローラーである。さらに、搬送ローラー14は、成膜ローラー16で成膜された基材1bに適当な張力を付与しつつ、基材1bを成膜ローラー16から巻取りローラー17に搬送するためのローラーである。
第1成膜ローラー15及び第2成膜ローラー16は、送り出しローラー10と略平行な回転軸を有し、互いに所定距離だけ離間して対向配置された成膜ローラー対である。成膜ローラー15は、基材1aを成膜し、成膜された基材1bに適当な張力を付与しつつ、基材1bを成膜ローラー16へ搬送する。成膜ローラー16は、基材1bを成膜し、成膜された基材1cに適当な張力を付与しつつ、基材1cを搬送ローラー14へ搬送する。
図2に示す例では、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16との離間距離は、点Aと点Bとを結ぶ距離である。第1及び第2成膜ローラー15、16は、導電性材料で形成された放電電極であり、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16とは、それぞれは互いに絶縁されている。なお、第1及び第2成膜ローラー15、16の材質や構成は、電極として所望の機能を達成できるように適宜選択することができる。
さらに、第1成膜ローラー15及び第2成膜ローラー16は、それぞれ独立に調温してもよい。第1成膜ローラー15及び第2成膜ローラー16の温度は、特に制限されるものではないが、例えば−30〜100℃であるが、基材1aのガラス転移温度を超えて過度に高温に設定すると、基材が熱によって変形等を生じるおそれがある。
第1及び第2成膜ローラー15、16の内部には、磁場発生装置20及び21が、各々設置されている。第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16とにはプラズマ発生用電源19により、プラズマ発生用の高周波電圧が印加される。それにより、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16との間の成膜部Sに電場が形成され、ガス供給管18から供給される成膜ガスの放電プラズマが発生する。プラズマ発生用電源19の電源周波数は任意に設定できるが、本構成の装置としては、例えば60〜100kHzであり、印加される電力は、有効成膜幅1mに対して、例えば1〜10kWである。
巻取りローラー17は、送り出しローラー10と略平行な回転軸を有し、基材1cを巻き取り、ローラー状にして収容する。巻取りローラー17は、図示しない駆動モーターにより反時計回りに回転(図2の矢印を参照)することにより、基材1cを巻き取る。
送り出しローラー10から送り出された基材1aは、送り出しローラー10と巻取りローラー17との間で、搬送ローラー11〜14、第1及び第2成膜ローラー15、16に巻き掛けられることにより適当な張力を保ちつつ、これらの各ローラーの回転により搬送される。なお、基材1a、1b、1c(以下、基材1a、1b、1cを「基材1a〜1c」とも総称する。)の搬送方向は矢印で示されている。基材1a〜1cの搬送速度(ラインスピード)(例えば、図2の点Cにおける搬送速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー30内の圧力などに応じて適宜調整されうる。搬送速度は、送り出しローラー10及び巻取りローラー17の駆動モーターの回転速度を制御部41によって制御することにより調整される。搬送速度を遅くすると、形成される領域の厚さが厚くなる。
基材の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類やチャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25〜100m/minの範囲内とすることが好ましく、0.5〜20m/minの範囲内とすることがより好ましい。ライン速度が前記範囲内であれば、樹脂基材の熱に起因する皺も発生し難く、形成されるガスバリアー層の層厚も十分に制御可能となる。
また、この成膜装置を用いる場合、基材1a〜1cの搬送方向を図2の矢印で示す方向(以下、順方向と称する)とは反対方向(以下、逆方向と称する)に設定してガスバリアー性フィルムの成膜工程を実行することもできる。具体的には、制御部41は、巻取りローラー17によって基材1cが巻き取られた状態において、送り出しローラー10及び巻取りローラー17の駆動モーターの回転方向を上述の場合とは逆方向に回転するように制御する。このように制御すると、巻取りローラー17から送り出された基材1cは、送り出しローラー10と巻取りローラー17との間で、搬送ローラー11〜14、第1及び第2成膜ローラー15、16に巻き掛けられることにより適当な張力を保ちつつ、これらの各ローラーの回転により逆方向に搬送される。
成膜装置100を用いてガスバリアー層を形成する場合は、基材1aを順方向及び逆方向に搬送して成膜部Sを往復させることにより、ガスバリアー層の形成(成膜)工程を複数回繰り返すこともできる。
ガス供給管18は、真空チャンバー30内にプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給する。ガス供給管18は、成膜部Sの上方に第1成膜ローラー15及び第2成膜ローラー16の回転軸と同じ方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から成膜部Sに成膜ガスを供給する。また、成膜装置を連結する場合(タンデム型)は、ガス供給管18から供給される成膜ガスは、成膜装置ごとに同一でもよいが、異なっていてもよい。さらに、これらのガス供給管から供給される供給ガス圧についても、同一でもよいが異なっていてもよい。
原料ガスには、ケイ素化合物を使用することができる。ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。これ以外にも、特開2008−056967号公報の段落「0075」に記載の化合物を使用することもできる。これらのケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱いやすさや得られるガスバリアー性フィルムの高いガスバリアー性などの観点から、ガスバリアー層の形成においては、HMDSOを使用することが好ましい。なお、これらのケイ素化合物は、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。また、原料ガスには、ケイ素化合物の他にモノシランが含有されてもよい。
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスが使用されてもよい。反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物などのケイ素化合物となるガスが選択される。薄膜として酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素ガス、オゾンガスを使用することができる。なお、これらの反応ガスは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
成膜ガスとしては、原料ガスを真空チャンバー30内に供給するために、さらにキャリアガスが使用されてもよい。また、成膜ガスとして、プラズマを発生させるために、さらに放電用ガスが使用されてもよい。キャリアガス及び放電ガスとしては、例えば、アルゴンなどの希ガス、及び水素や窒素が使用される。
以下、代表例として、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物:HMDSO:(CH3)6Si2O:)と、反応ガスである酸素(O2)の系について説明する。
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO、(CH3)6Si2O)と、反応ガスである酸素(O2)とを含有する成膜ガスを、プラズマCVD法により反応させて、ケイ素−酸素系の薄膜を形成する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)で示される反応が起こり、二酸化ケイ素SiO2からなる薄膜が形成される。
反応式(1):(CH3)6Si2O+12O2→6CO2+9H2O+2SiO2
このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜初期では、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対し、酸素を12モル以上含有させて完全に反応させることにより、酸素原子比率が高く、均一な組成の二酸化ケイ素膜を形成することができるが、成膜中〜後期で原料のガス流量比を理論比である完全反応の原料比以下の流量に制御して、非完全反応を遂行させ、本発明に係るSiOxCyの比率を高めることができる。
なお、実際のプラズマCVD装置のチャンバー内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスである酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる。例えば、CVD法により完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある。そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサン及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子がガスバリアー層中に取り込まれ、所望したガスバリアー層を形成することが可能となって、得られるガスバリアーフィルムに優れたガスバリアー性及び屈曲耐性を発揮させることが可能となる。なお、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子がガスバリアー層中に過剰に取り込まれることになる。
磁場発生装置20、21は、第1成膜ローラー15と第2成膜ローラー16との間の成膜部Sに磁場を形成する部材である。これらの磁場発生装置20、21は、第1及び第2成膜ローラー15、16の回転に追随せず、所定位置に格納されている。
真空チャンバー30は、送り出しローラー10、搬送ローラー11〜14、第1及び第2成膜ローラー15、16、及び巻取りローラー17を密封して減圧された状態を維持する。真空チャンバー30内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類などに応じて適宜調整することができる。成膜部Sの圧力は、0.1〜50Paであることが好ましい。
真空ポンプ40は、制御部41に通信可能に接続されており、制御部41の指令に従って真空チャンバー30内の圧力を適宜調整する。
制御部41は、成膜装置100の各構成要素を制御する。制御部41は、送り出しローラー10及び巻取りローラー17の駆動モーターに接続されており、これらの駆動モーターの回転数を制御することにより、基材1aの搬送速度を調整する。また、駆動モーターの回転方向を制御することにより、基材1aの搬送方向を変更する。また、制御部41は、図示しない成膜ガスの供給機構と通信可能に接続されており、成膜ガスの各々の成分ガスの供給量を制御する。また、制御部41は、プラズマ発生用電源19と通信可能に接続されており、プラズマ発生用電源19の出力電圧及び出力周波数を制御する。さらに、制御部41は、真空ポンプ40に通信可能に接続されており、真空チャンバー30内を所定の減圧雰囲気に維持するように真空ポンプ40を制御する。
制御部41は、CPU(Central Processing Unit)、HDD(Hard Disk Drive)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)を備える。HDDには、成膜装置100の各構成要素を制御して、ガスバリアー性フィルムの製造方法を実現する手順を記述したソフトウェアプログラムが格納されている。そして、成膜装置100の電源が投入されると、上記ソフトウェアプログラムが上記RAMにロードされ上記CPUによって逐次的に実行される。また、上記ROMには、上記CPUが上記ソフトウェアプログラムを実行する際に使用する各種データ及びパラメーターが記憶されている。
該ガスバリアー層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。該ガスバリアー層が2層以上の積層構造である場合、各ガスバリアー層は同じ組成であってもよいし異なる組成であってもよい。また、積層構造の場合は、図2で示した成膜装置を連結したタンデム型の成膜装置を用いることも好ましい。
ガスバリアー層の厚さは、前述のとおり15〜50nmの範囲内である。この範囲であれば、生産性とガスバリアー性との両立という利点が得られる。ガスバリアー層の厚さは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)観察により測定することができる。
〔4〕密着層
本発明のガスバリアー性フィルムのガスバリアー層上には、後述するQD含有樹脂層との密着性を高めるための密着層を設けることが好ましい。
密着層としては、重合性基を有する有機ケイ素化合物を含有する密着層を形成することが好ましく、前記密着層の厚さが、5nm以下であることが好ましい。
重合性基を有する有機ケイ素化合物は、特に限定されるものではないが、シランカップリング剤であることが好ましく、例えば、ハロゲン含有シランカップリング剤(2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシランなど)、エポキシ基含有シランカップリング剤[2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランなど]、アミノ基含有シランカップリング剤(2−アミノエチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−[N−(2−アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピル メチルジメトキシシランなど)、メルカプト基含有シランカップリング剤(2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなど)、ビニル基含有シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなど)、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤(2−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2−メタクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、2−アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなど)などを挙げることができる。
これらの中では、(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤((メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤)が好ましい。
(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤としては、1,3−ビス(アクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−アクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−メタクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、アクリロイルオキシメチルメチルトリシラザン、メタクリロイルオキシメチルメチルトリシラザン、アクリロイルオキシメチルメチルテトラシラザン、メタクリロイルオキシメチルメチルテトラシラザン、アクリロイルオキシメチルメチルポリシラザン、メタクリロイルオキシメチルメチルポリシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルトリシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルトリシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルテトラシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルテトラシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルポリシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルポリシラザン、アクリロイルオキシメチルポリシラザン、メタクリロイルオキシメチルポリシラザン、3−アクリロイルオキシプロピルポリシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルポリシラザンが好ましく、更に、化合物の合成・同定が容易であるといった観点から、1,3−ビス(アクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−アクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(γ−メタクリロイルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンが特に好ましい。
なお、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤の市販品としては、KBM−5103、KBM−502、KBM−503、KBE−502、KBE−503、KR−513(信越化学工業社製)などが挙げられる。これらの(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
本発明で用いられるシランカップリング剤は、下記に示される化合物が好ましく用いられるが、当該シランカップリング剤の合成方法は、特開2009−67778号公報を参照することができる。
(式中、RはCH2=CHCOOCH2を表す。)
密着層の形成は、重合性組成物を塗布して形成することができ、例えば上記(メタ)アクリロイル基含有化合物を適当な溶媒に溶解させた溶液をガスバリアー層の表面に塗布し、乾燥させる方法が例示される。この際、上記溶液に適当な光重合開始剤を添加しておき、上記溶液を塗布し、乾燥させて得られた塗膜に、光照射処理を施して(メタ)アクリロイル基含有化合物の一部を重合させて重合性ポリマーとしてもよい。
塗布組成物を塗布する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
また、気相成膜法によって成膜することもでき、気相成膜法は公知の方法で用いることができる。気相成膜法としては、特に制限されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法等の物理気相成長(PVD)法、プラズマCVD法、ALD(Atomic Layer Deposition)法などの化学気相成長(CVD)法が挙げられる。中でも、プラズマCVD法が好ましい。
前記密着層の厚さは、密着効果を発現すればよく、薄膜化の観点からは5nm以下であることが好ましい。密着層の厚さは透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)によって測定することができる。
また、前記ガスバリアー層を形成する工程と前記密着層を形成する工程の間に、表面処理工程を加えることが好ましく、さらに前記表面処理工程が、前記ガスバリアー層を形成する工程後、当該ガスバリアー層を形成する工程に用いた装置で行われることが生産性の観点から、好ましい。
表面処理工程は、公知の方法を適用することができ、コロナ処理、プラズマ処理、スパッタ処理及びフレーム処理等を採用することができるが、中でも酸素プラズマ処理であると、樹脂基材やガスバリアー層へのダメージを小さくでき、かつ当該ガスバリアー層の形成に用いた装置で連続して行うことができるため、生産上も好ましい。
〔5〕QD含有樹脂層
以下、QD含有樹脂層の主要な構成要素である量子ドット(QD)及び樹脂等について説明する。
〈量子ドット〉
一般に、ナノメートルサイズの半導体物質で量子閉じ込め(quantum confinement)効果を示す半導体ナノ粒子は、「量子ドット」とも称されている。このような量子ドットは、半導体原子が数百個から数千個集まった10数nm程度以内の小さな塊であるが、励起源から光を吸収してエネルギー励起状態に達すると、量子ドットのエネルギーバンドギャップに相当するエネルギーを放出する。
したがって、量子ドットは、量子サイズ効果によりユニークな光学特性を有することが知られている。具体的には、(1)粒子のサイズを制御することにより、様々な波長、色を発光させることができる、(2)吸収帯が広く、単一波長の励起光で様々なサイズの微粒子を発光させることができる、(3)蛍光スペクトルが良好な対称形である、(4)有機色素に比べて耐久性、耐退色性に優れる、といった特徴を有する。
QD含有樹脂層が含有する量子ドットは公知のものであってもよく、当業者に既知の任意の方法を使用して生成することができる。例えば、好適なQD及び好適なQDを形成するための方法には、米国特許第6225198号明細書、米国特許出願公開第2002/0066401号明細書、米国特許第6207229号明細書、同第6322901号明細書、同第6949206号明細書、同第7572393号明細書、同第7267865号明細書、同第7374807号明細書、米国特許出願第11/299299号、及び米国特許第6861155号明細書に記載のものが挙げられる。
QDは、任意の好適な材料、好適には無機材料及びより好適には無機導体又は半導体材料から生成される。好適な半導体材料には、II−VI族、III−V族、IV−VI族及びIV族の半導体を含む、任意の種類の半導体が含まれる。
好適な半導体材料には、Si、Ge、Sn、Se、Te、B、C(ダイアモンドを含む。)、P、BN、BP、BAs、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdSeZn、CdTe、HgS、HgSe、HgTe、BeS、BeSe、BeTe、MgS、MgSe、GeS、GeSe、GeTe、SnS、SnSe、SnTe、PbO、PbS、PbSe、PbTe、CuF、CuCl、CuBr、CuI、Si3N4、Ge3N4、Al2O3、(Al、Ga、In)2(S、Se、Te)3、Al2CO、及び二つ以上のこのような半導体の適切な組合せが含まれるが、これらに限定されない。
本発明においては、次のようなコア/シェル型の量子ドット、例えば、CdSe/ZnS、InP/ZnS、PbSe/PbS、CdSe/CdS、CdTe/CdS、CdTe/ZnS等も好ましく使用できる。
〈樹脂〉
QD含有樹脂層には、量子ドットを保持するバインダーとして樹脂を用いることができる。例えば、ポリカーボネート系、ポリアリレート系、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む。)系、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、セロファン系、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、エチレンビニルアルコール系、シンジオタクティックポリスチレン系、ノルボルネン系、ポリメチルペンテン系、ポリエーテルケトン系、ポリエーテルケトンイミド系、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ナイロン系、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂等を挙げることができる。
QD含有樹脂層は、厚さが50〜200μmの範囲内であることが好ましい。
なお、QD含有樹脂層における量子ドットの含有量は、使用する化合物によって最適量は異なるが、一般的には15〜60体積%の範囲内であることが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
実施例1
<ガスバリアー性フィルムの製造>
〔樹脂基材〕
両面に易接着層を形成した厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)(UH13)を用いた。下地層、ガスバリアー層の形成は、高屈折率の易接着層側とした。
〔下地層の形成〕
下地層の形成は、下記に示すような塗布液を塗布し塗膜を形成した後、真空紫外線照射による改質を行って形成した。
塗布液は、以下のように調製した。
塗布液1:パーヒドロポリシラザンを20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、NN120−20)と、アミン触媒(N,N,N′,N′−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン(TMDAH))を含むパーヒドロポリシラザン20質量%のジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、NAX120−20)とを、4:1(質量比)の割合で混合し、さらに乾燥膜厚調整のためジブチルエーテルで適宜希釈し、塗布液を調製した。
塗布液2:上記塗布液1を調製する際に固形分比率として、ポリシラザン100質量部に対して10質量部となるように2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンを添加し、室温(25℃)で6時間撹拌して塗布液を調製した。
塗布液3:上記塗布液1を調製する際にポリシラザンにAl/Si比が0.01となるようにアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(ALCH)を添加し、室温(25℃)で6時間撹拌して塗布液を調製した。
塗布液4:上記塗布液1を調製する際にポリシラザンにAl/Si比が0.03となるようにアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(ALCH)を添加し、室温(25℃)で6時間撹拌して塗布液を調製した。
塗布液5:ポリシロキサンオリゴマー:X−40−9225(信越化学工業社製)と有機アルミニウム系硬化剤:DX−9740(信越化学工業社製)とを、95:5(質量比)の割合で混合しし、塗布液を調製した。
得られた塗布液を、上記樹脂基材上に、乾燥後の厚さが下記表1に示すような厚さとなるようにダイコート法で塗布し、大気中で下記表1に示す温度(露点5℃)で2分間乾燥した。次いで、乾燥して得られた塗膜に対して、窒素雰囲気下において波長172nmのXeエキシマランプを用い、下記表1に示す条件で、真空紫外線照射処理(改質処理)を施して下地層を形成した。また、表1に示すような上記塗布液を用いない下地層も形成した。
ポリシラザンを含有する層は、下記の条件により改質処理した。
〈改質処理装置〉
(株)エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200
波長:172nm
ランプ封入ガス:Xe
〈改質処理条件〉
エキシマ光強度 :130mW/cm2(172nm)
試料と光源の距離 :2mm
ステージ加熱温度 :80℃(成膜条件U8においては120℃)
照射装置内の酸素濃度:0.3体積%
エキシマ光照射時のステージ搬送速度:10mm/秒
エキシマ光照射時のステージ搬送回数:3往復
〔ガスバリアー層の形成〕
上記下地層上に、ガスバリアー層を真空プラズマCVD法により成膜した。
図2に記載の対向する成膜ロールからなる成膜部を有する装置を2台つなげたタイプ(図3:第1成膜部、第2成膜部を有するタンデム型CVD成膜装置。図中の符号において「´」のついた符号は、それぞれ図2の各部位と同一である。))のロール・to・ロール型CVD成膜装置を用いた。有効成膜幅を1000mmとし、成膜条件は、搬送速度、第1成膜部、第2成膜部それぞれの原料ガス(HMDSO)の供給量、酸素ガスの供給量、真空度、印加電力で調整した。成膜回数(装置のパス数)は1パスとした。その他の条件として、電源周波数は84kHz、成膜ロールの温度はすべて10℃とした。膜厚は断面TEM観察で求めた。
成膜条件を表2に示す。
上記の下地層とガスバリアー層の積層の組み合わせによって、表3に示すようなガスバリアー性フィルム1〜19を作製した。
以上の下地層、及びガスバリアー層の厚さ方向の組成分布は、下記のXPS(光電子分光法)分析を用いた方法で測定して求めた。
(XPS分析条件)
・装置:アルバックファイ製QUANTERASXM
・X線源:単色化Al−Kα
・測定領域:Si2p、C1s、N1s、O1s
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・デプスプロファイル:1分間スパッタ後、測定を繰り返す
※SiO2換算のエッチングレートで厚さ約2.8nmに相当
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理は、アルバックファイ社製のMultiPakを用いた。
下地層は、下地層のみで組成分布を測定し、膜厚方向の組成分布の平均値を求めた。ガスバリアー層は、下地層と積層した試料で組成分布を測定し、膜厚方向の組成分布の平均値を求めた。下地層とガスバリアー層との境界は、下地層のみで組成分布を測定したデータと比較することで、判断した。これらの結果を表3に示した。
《評価方法》
<ガスバリアー性>
ガスバリアー性は、モコン法(JISK7129−1992B法)に準拠して行い、モコン社製水蒸気透過率測定装置アクアトランを用いて、38℃、100%RHの条件で測定した。結果を表3に示した。
<光学特性:450nmの光吸収率>
コニカミノルタ社製分光測色計CM−3500dを用い、450nmにおける光透過率(%)と光反射率(%)とを測定した。この際、測定は、ガスバリアー性フィルムのガスバリアー層を形成した側から、基材裏面側への透過率とした。光吸収率は、100−(透過率(%)+反射率(%)として求めた。測定は、試料の面内位置違い5点で行い平均値を求め、表3に示した。
本発明の構成のガスバリアー性フィルム4、5、7、8、10〜12、14、15、18は、比較例に対して光波長450nm近傍の光吸収率が小さく、ガスバリアー性に優れていることが分かる。
実施例2
実施例1で作製したガスバリアー性フィルムを用いて、下記手順にて、QDシートを作製した。
<密着層の形成>
表4に示すガスバリアー性フィルム試料のガスバリアー層上に、下記のように密着層を形成した。
(表面親水化処理1:酸素プラズマ処理)
シート状に切り出した試料に対し、大気圧プラズマ装置(株式会社ウェル製)を用いて処理を行った。放電ガスとして窒素ガスを導入し、酸素濃度を1体積%に制御し、周波数5kHz、及び印加電力5kVの条件で、無機バリアー層の露出表面の表面親水化処理(酸素プラズマ処理)を行った。
(表面親水化処理2:CVD装置を用いた酸素プラズマ処理)
ガスバリアー層形成に用いたCVD装置を用い、ガスバリアー層を形成した後に、続けて、ロール・to・ロール方式で酸素プラズマ処理を行った。第1成膜部のみを用い、搬送速度を40m/min、原料ガスは供給せず、酸素ガス供給量2000sccm、真空度2Pa、印加電力3kWとした。
(接着層の形成:アクリロイル基含有シランカップリング剤)
アクリロイル基含有シランカップリング剤であるKBM−5103(信越化学工業社製)をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)で固形分濃度1%まで希釈して、接着層形成用塗布液を調製した。次いで、この接着層形成用塗布液を、乾燥膜厚が理論値として15nmとなるように上記ガスバリアー層の露出表面にバーコーターで塗布した後、乾燥条件として80℃で1分間の乾燥を行って接着層を形成した。接着層の乾燥膜厚をTEM観察により測定したが、厚さは特定できず、5nm以下であることが推察された。TEM観察に用いた条件は以下のとおりである。
(TEM観察の条件)
装置:JEOL製 JEM−2010F
加速電圧:200kV
前処理:FIB加工による薄片処理。
<接着層形成後のガスバリアー性>
同様に、モコン社製水蒸気透過率測定装置、アクアトランを用い、38℃、100%RHの条件で測定した。結果を表4に示した。接着層形成によるガスバリアー性の変化はなかった。
<QDシートの作製>
〔QDシート1〜20の作製〕
多官能アクリレート化合物であるペンタエリスリトールジアクリレートに、上記樹脂量100%に対して3%の重合開始剤(BASFジャパン社製、イルガキュア184)を添加して、樹脂Aを調製した。
一方、特表2013−505347号公報に記載の方法に従い、赤色と緑色に発光する半導体ナノ粒子(CdSe/ZnS)をそれぞれ合成した。当該半導体ナノ粒子を赤色成分、緑色成分がそれぞれ0.75mg、4.12mgになるようにトルエン溶媒に分散させた。この分散液に、上記で調製した樹脂Aを添加し、半導体ナノ粒子の含有量が1%(対固形分)となる、アクリル樹脂含有発光層形成用塗布液を調製した。
上記で調製したアクリル樹脂含有発光層形成用塗布液を、上記で作製したガスバリアー性フィルムのそれぞれの接着層上に塗布し、量子ドット(QD)含有塗膜を形成した。次いで、同じガスバリアー性フィルムの接着層側が量子ドット(QD)含有塗膜に接するように配置し(2枚のガスバリアー性フィルムで量子ドット(QD)含有塗膜を挟んだ)、800mW/cm2、300mJ/cm2の条件で高圧水銀ランプにより紫外線照射処理を施すことにより量子ドット(QD)含有塗膜を硬化させて、ガスバリアー性フィルム1〜19のそれぞれに対応する、アクリル樹脂含有発光層(QD含有樹脂層)を有するQDシート1〜19を作製した。なお、アクリル樹脂含有発光層(QD含有樹脂層)の膜厚は100μmとした。
なお、QDシート20は、密着層の形成時に表面親水化処理2を行った。
≪QDシートの評価≫
<QDシートの剥離強度>
上記で作製したQDシート1〜20について、各サンプルにおける剥離強度を測定した。なお、サンプルは各QDシートを縦1インチ×横20cmの大きさにカットし、SHIMPO社製剥離試験機FGPX−0.5を用いて、縦方向の剥離強度を測定した。測定は、QDシートを作製した直後と、高温高湿条件(60℃・90%RH)下に500時間静置した後に行った。結果を下記の表4に示す。なお、1インチは2.54cmである。
<QDシートの輝度>
上記で作製したQDシートについて、輝度を測定した。輝度の測定は、発光波長450nmの青色LED上に評価サンプルを置き、高さを10cmに固定した分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタ社製)を用いて輝度(L*)を測定することにより行った。輝度は、QDシート1の輝度を100とし、相対値を表4に示した。
本発明の構成のガスバリアー性フィルム4、5、7、8、10〜12、14、15、18を用いたQDシートは、作製直後及び高温高湿後の剥離強度に優れることから、基材〜下地層間、下地層〜ガスバリアー層間及びガスバリアー層〜QD含有樹脂層間の全層の層間接着性に優れ、かつ光波長450nm近傍の光吸収が小さいことからQDシートの輝度に優れることが分かる。