以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を含む組成物を基材表面に塗布および乾燥する工程の後、真空紫外光を照射して形成するガスバリア層を備えたガスバリア性フィルムの製造方法であって、前記樹脂基材とのHansenSP値距離Raが8以上14以下であり、沸点が70℃以上110℃以下である溶媒成分を前記溶剤に20質量%以上50質量%以下含むことを特徴とする、ガスバリア性フィルムの製造方法により、バリア膜にひびが入るという新たな問題を解決するとともに、生産性に優れ、高いガスバリア性能を有する位相差機能を持つガスバリア性フィルムを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
まず、本発明に係るガスバリア性フィルムの構成について図1を用いて説明し、当該ガスバリア性フィルムの各構成要素および各構成の製造方法について説明した後、本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法の実施形態について詳説する。図1は、本発明のガスバリア性フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
図1において、本発明に係るガスバリア性フィルム10は、基材0上に気相成長法または塗布法で形成された第1のバリア層1を有し、該第1のバリア層1上に気相成長法または塗布法で形成された第2のバリア層2と、その上に有機材料や無機材料などを含む保護層形成用組成物を塗布し、必要により改質処理で形成されたバリア性を有しない保護層3と、が積層された構成を有する。
また、図1では、ガスバリア層を第1のバリア層と第2のガスバリア層との2つを記載しているが、本発明に係るガスバリア性フィルムでは、1以上あればよく、2〜5層のバリア層が設けられていることが好ましい。なお、本明細書における「バリア層」は、ガスバリア層とも称し、特段の記載が無い限り「バリア層」の用語は、第1のバリア層、第2のバリア層、・・・第nのバリア層の全てを含む。
さらに、本発明に係るガスバリア性フィルムは、バリア層の密着性を向上させるまたはバリア層を保護する観点で、基材表面および/または各バリア層の間に中間層を設けてもよい。当該中間層としては、バリア層間の中間層、アンカーコート層、平滑層、またはブリードアウト防止層の少なくとも一つの層が好ましく、これら3つの層全てを直接基材に設けてもよく、これらの3つの層の積層順序は特に制限されることは無いが、基材の一方の面にブリードアウト防止層を形成し、他方の面に平滑層を形成することが好ましく、当該平滑層上に第1のバリア層を積層することがより好ましく、また、基材両面に平滑層を形成してもよく、さらには、また、基材両面にバリア層を形成させても良い。
また、本発明でいう「ガスバリア性」とは、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(水蒸気透過率)(60±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m2・24h)以下である場合にガスバリア性があると定義する。また、ガスバリア性フィルムのJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度(酸素透過率)が、1×10−3ml/m2・24h・atm以下(1atmとは、1.01325×105Paである)であると好ましい。
本発明に係る電子デバイスにおいては、本発明のガスバリア性フィルムを用いる。以下、本発明のガスバリア性フィルムの各構成要素およびその構成要素の製造方法の詳細について説明する。
〔第1のバリア層〕
本発明に係る第1のバリア層は、酸化珪素、酸窒化珪素、および窒化珪素からなる群から選択される少なくとも1種を有するものであり、ガスバリア性及び透明性の点で酸化珪素、酸窒化珪素または窒化珪素からからから選ばれる少なくとも1種を有することが好ましく、酸化珪素または酸窒化珪素からから選ばれる少なくとも1種で形成されていることがより好ましい。また、第1のバリア層は実質的にもしくは完全に無機層として形成されているのが望ましい。
当該第1のバリア層は気相成長法(金属化合物を化学蒸着法または物理蒸着法する)または塗布法で形成されている。すなわち、本発明に係るバリア層が複数存在する場合は、そのうちの少なくとも1層が湿式法で形成していればよい。このように形成された第1のバリア層の存在により、基材からの水分移行を妨げることができ、第2のバリア層を形成する際の改質処理が進行しやすくなる。また、本発明に係る第1のバリア層は、塗布法により形成することが好ましい。
本発明に係る気相成長法によりバリア層を形成する方法としては、大別して、物理気相成長法及び化学気相成長法が挙げられ、当該物理的気相成長法は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、これらの方法としては、蒸着(抵抗加熱法、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー)法、イオンプレーティング法、スパッタ法等がある。一方、当該化学気相成長法(化学蒸着法、Chemical Vapor Deposition)は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面或いは気相での化学反応により膜を堆積する方法である。また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、プラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法など公知のCVD方式等が挙げられるが、本発明においては、いずれも有利に用いることができる。特に限定されるものではないが、製膜速度や処理面積の観点から、プラズマCVD法を適用することが好ましい。化学蒸着法により(第1または第2の)バリア層を形成すると、ガスバリア性の点で有利である。
プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法により得られるガスバリア層は、原材料(原料ともいう)である金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属硫化物、金属ハロゲン化物、またこれらの混合物(金属酸窒化物、金属酸化ハロゲン化物、金属窒化炭化物など)も作り分けることができるため好ましい。
例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、珪素酸化物が生成する。また、亜鉛化合物を原料化合物として用い、分解ガスに二硫化炭素を用いれば、硫化亜鉛が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
このような原料としては、典型または遷移金属元素を有していれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール,エタノール,n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
しかし、好ましくは大気圧下0℃〜250℃の温度域で蒸気圧を有する化合物であり、さらに好ましくは0℃〜250℃の温度域に液体状態を呈する化合物である。これはプラズマ製膜室内が大気圧近傍の圧力であるために、大気圧下で気化できないとプラズマ製膜室内にガスを送り込むことが難しく、また原料化合物が液体の方が、プラズマ製膜室内に送りこむ量を精度良く管理できるためである。なおガスバリア層を製膜するプラスチックフィルムの耐熱性が270℃以下の場合は、プラスチックフィルム耐熱温度からさらに20℃以下の温度で蒸気圧を有する化合物であることが好ましい。
このような気相成長法の原料化合物である金属化合物としては、特に制限されないが、例えば、ケイ素化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、硼素化合物、錫化合物、有機金属化合物などが挙げられる。
これらのうち、ケイ素化合物として、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガス、などが挙げられる。また、上記分解ガスを、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスと混合してもよい。
金属元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで所望のバリア層を得ることができる。化学蒸着法により形成される第1のバリア層は、透過性の観点から、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫化物またはこれらの複合化合物であることが好ましい。
また、本発明に係る第1のバリア層は、塗布法によりポリシラザンが真空紫外線照射により改質処理され、ポリシラザンが酸化ケイ素または酸化窒化珪素への転化反応した層であることが好ましい。また、本明細書における「改質処理」とは、ポリシラザンが酸化ケイ素または酸化窒化珪素への転化反応を指し、具体的には本発明のガスバリア性フィルムが全体としてガスバリア性(水蒸気透過率が、1×10−3g/(m2・24h)以下)を発現するに貢献できるレベルの無機薄膜を形成する処理をいう。
本発明に係る第1のバリア層の平均厚みは、10nm〜2μmが好ましく、20nm〜1μmがより好ましい。
平均厚みがかかる範囲が、高いバリア性能の観点で好ましい。
本発明に係る塗布法により第1のバリア層を形成する方法としては、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を含む組成物を調製する工程(1)と、基材表面に前記組成物を塗布および乾燥して前記組成物層を形成する工程(2)と、前記組成物に真空紫外光を照射して第1のバリア層を形成する工程(3)と、を有することが好ましい。以下各工程について説明する。
(工程(1)について)
本発明に係る工程(1)は、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を含む組成物を調製する工程である。
本発明に係る組成物は、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を必須に含み、その他必要により金属触媒を含んでもよい。
本発明に係る組成物の組成比は、ポリシラザン100質量部に対して、溶剤10000〜250質量部と、アミン化合物0.1〜10質量とを必須に含むことが好ましく、ポリシラザン100質量部に対して、溶剤5000〜300質量部と、アミン化合物0.2〜5質量とを必須に含むことがより好ましく、ポリシラザン100質量部に対して、溶剤2000〜500質量部と、アミン化合物0.5〜2質量とを必須に含むことがさらに好ましい。また、必要により含む金属触媒は、ポリシラザン100質量部に対して、0.1〜5質量部含むことが好ましく、0.2〜2質量部含むことがより好ましい。
〈溶剤〉
本発明に係る溶剤は、第1のガスバリア層の前駆体である組成物の塗布対象である基材とのHansenSP値距離Raが8以上14以下であり、沸点が70℃以上110℃以下である溶媒成分を20質量%以上50質量%以下含む。すなわち、本発明に係る溶剤は混合溶媒であり、当該溶剤には基材とのHansenSP値距離Raが8以上14以下であり、かつ沸点が70℃以上110℃以下である溶媒成分を20質量%以上50質量%以下含むものである。
一般に、SP値とは、溶解度パラメーターをいい、親和性のパラメーターの一つとして知られており、溶媒と溶質間に作用する分子間力を仮定すると、その分子間力は凝集力の尺度となり、Hildebrandらにより提唱されたSP値(δ)は以下の式1に示される凝集エネルギー密度の平方根で定義されている。
しかし、Hildebrandの理論により導かれる溶解度パラメーターは、正則溶液理論に基づいているため、実際の溶液とはそぐわない。またこの定義からSP値は沸点が測定できる既知の溶液に限定されることが一般的ではあるが、ポリマーなどに適用する目的で現在知られているSP値の推算方法として、物性値から推算する方法と分子構造から推算する方法とがある。前者の物性値から推算する方法としては、蒸発潜熱から求める方法、Hildebrand Ruleによる方法などが挙げられる。一方、後者の分子構造から推算する方法としては、Hoyの計算方法、Hansen(ハンセン)の計算方法、Smallの計算方法などが挙げられる。本発明では、Hansen(ハンセン)の計算方法によるSP値を用いており、一般にハンセン溶解度パラメーターは、HSPやハンセンSP値距離などとも称される。
当該ハンセンSP値について簡潔に説明すると、溶解性を主に分極項(δP)、分散項(δD)、水素結合項(δH)の3次元ベクトル空間で表し、溶質と溶媒とを当該空間にプロットすると溶質に溶媒が集まりスフェアーを形成する。このスフェアーの中心を溶質のSP値、この球の半径を相互作用半径(R0)とし、半径が大きいと溶ける溶媒が多く、半径が小さいと溶ける溶媒が少ないことを示すものである。また、溶質と溶媒と関係や2種類の混合溶媒の場合は、溶解性または相溶性が高い物質同士は近い距離に存在するため、両者の溶媒の相互作用半径(R0)の差(すなわちハンセンSP値距離Ra)が小さいほど相溶性、溶解性が良好である。
このような、2物質間の溶解性や相溶性の指標であるハンセンSP値距離は以下の式(1−1)で定義されている。
上記式(1−1)において、δP1は溶質の分極項、δP2は溶媒の分極項、δD1は溶質の分散項、δD1は溶媒の分散項、δH1は溶質の水素結合項、δH2は溶媒の水素結合項であり、これらの分極項(δP)、分散項(δD)、水素結合項(δH)は物質により算出される値であり、現在後述する文献1などにおいて多くの有機化合物の数値が既知とされている。
本発明者は、この式(1−1)に着目し、基材にポリシラザン含有塗布液を直接塗布して真空紫外光を照射するとバリア膜にひびが入るという新たな問題は、基材とバリア層との相溶性に関係があると考え、基材と塗布液に用いられる溶剤との関係を見出した。すなわち、基材と、塗布液に用いられる溶剤に所定量含有する溶媒成分との間のハンセンSP値距離Raが、8以上14以下であれば適度に基材を溶解することで基材とバリア層との密着性を確保できると考えられる。
より詳細には、これまで塗布法により、ガスバリア性フィルムを製造する場合、バリア層の前駆体であるポリシラザンは、ポリシラザンの溶解性、保存性の観点から多くの場合ジブチルエーテルまたはキシレン溶液に溶解されていた。しかし、基材として使用されるポリカーボネート系樹脂やシクロオレフィン系樹脂は元々クラックが入りやすい。さらに、ジブチルエーテルまたはキシレン溶液と、ポリカーボネート系樹脂やシクロオレフィン系樹脂とのSP値が近く、溶剤耐性が低いため、ポリシラザンをこれらの溶剤でそのまま塗布して、真空紫外線によるハイバリア化改質を行うと、基材が変形してバリア層だけでなく基材にもクラックが生じることになる。しかし、塗布液に使用する溶剤に、基材とのハンセンSP値距離Raが、8以上14以下であるような溶媒成分を所定量加えることで、基材とのSP値距離に差をつけることができるため、基材の持つ低い溶剤耐性をある程度軽減できることが確認された。
このようなジブチルエーテルまたはキシレン溶液と、ポリカーボネート系樹脂やシクロオレフィン系樹脂とのSP値が近い点についてより詳細に説明すると、ポリカーボネートまたはポリカーボネート共重合体ポリマー(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィン共重合体ポリマー(COC)はエーテル系溶剤および芳香族溶剤に対する耐性が低いことは一般的に知られている。これは下記に示すように、ジブチルエーテルおよびキシレンと、ポリカーボネートまたはポリカーボネート共重合体ポリマー、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィン共重合ポリマーのSP値距離(Ra)が以下のように近いためであると本発明者達は考えている。
そこで、上記式(1−1)を用いて、溶剤と基材とのハンセンSP値距離Raの関係に着目し以下の式(1−2)を導いた。
本発明に係る基材と、溶剤に含有する溶媒成分とのハンセンSP値距離は以下の式(1)により算出される。
(上記式(1−2)中、dD1は基材に使用されている樹脂の蒸発エネルギーの分散項、dP1は基材に使用されている樹脂の蒸発エネルギーの分極項、dH1は基材に使用されている樹脂の蒸発エネルギーの水素結合項、dD2は溶媒成分の蒸発エネルギーの分散項、dP2は溶媒成分の蒸発エネルギーの分極項、dH2は溶媒成分の蒸発エネルギーの水素結合項を示す)
ここで、式(1−2)における、各種パラメーターである「dD1、dP1、dH1、dD2、dP2、およびdH2」は、使用する基材の材料および使用する溶媒成分が決まれば、文献(「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS A User’s Handbook Second Edition CRC Press Taylor & Francis Groop」、以下、この文献を文献1と称する)の第345頁−第510頁)やソフト(Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP v3.1.12))に既に多くの具体的な数値が記載されている。また、当該文献1の第18頁に、これら分極項(δP)、分散項(δD)、および水素結合項(δH)は下記式(2)で示す温度依存性を有し、また当該文献の第16頁に下記式(3)で示す分極項(δP)の記載があるため、使用する基材の材料および使用する溶媒成分が決まれば容易に算出することができるものである。
本発明に係るハンセンSP値距離については、前記文献1、「Polymer Hand Book (第4版)第VII 章 Solubility Parameter Values」、「SP値 基礎・応用と計算方法(情報機構)」に多くの有機溶剤のSP値が記載されており、特に、前記文献1の第345頁−第510頁に、多くの有機溶剤やポリマー、有機物質の分極項、分散項、水素結合項が記載されており、かかる数値を式(1)に代入すれば、2物質間のハンセンSP値距離を計算することが出来る。また、文献1を本明細書では全て引用しており、当該文献は全て本発明の範囲内である。以上のことから、この文献を参照すれば、種々の有機物質のδD、δP、δHを算出することができる。
さらに、ハンセンSP値距離は、HSPソフトに液体の構造式を入力して、計算することができる。具体的には、ハンセンらによって開発されたソフトフェア(ソフト名:Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP v3.1.12))で算出できる。当該ソフトウェアで、Y−MBと呼ばれるニューラルネットワーク法を用いた推算方法に基づき、分子構造を、分子の線形表記法Smiles式、またはMOLファイルで入力すると、分子を自動的に原子団に分解し、Hansenの溶解度パラメーター値と分子体積を計算することができる。
本発明に係るポリシラザン、溶剤、アミン化合物を含む組成物を基材に塗布すると、溶剤としてジブチルエーテルまたはキシレンの単独ではハンセンSP値距離Raが近く沸点も高いため、乾燥速度が遅く、基材表面を溶解し基材変形を伴い製膜され、後述する真空紫外線を照射するポリシラザン改質処理を行うとガスバリア層さらには基材自体にもひびが入ってしまい、結果としてガスバリア性が劣化してしまうと考えている。本発明者らは、SP値距離が8〜14であり、かつ沸点が70℃〜110℃である溶媒成分を溶剤比率で20〜50質量%含有する溶剤を使用することで、適度に基材表面を溶解し基材とガスバリア層との密着性を維持しながらガスバリア層および基材自体にもひびが入らず優れたガスバリア性能が得られることを見出した。
本発明に係る基材と溶媒成分とのハンセンSP値距離Raは、8〜14であり、8.5〜13.5であることが好ましい。
ハンセンSP値距離Raが8より小さいと基材の溶解を抑制する効果が小さく、14を超えると基材とガスバリア層との密着性が低下する。
本発明に係る溶媒成分の沸点は、70℃〜110℃であり、75〜105℃であることが好ましい。沸点が70℃より低いと併用する溶剤が早く揮発してしまい、110℃を超えると乾燥速度が遅くなってしまい、いずれも基材の溶解を抑制する効果が小さくなる。
また、本発明に係る溶剤には、本発明に係る溶媒成分が20〜50質量%含有し、25〜45質量%含有することが好ましい。
当該溶媒成分の溶剤における含有量が20質量%未満であると乾燥速度が遅くなってしまい、50質量%を超えると基材の溶解を抑制する効果が小さくなりすぎて密着性が低下する。
本発明に係る溶媒成分は、基材とのハンセンSP値距離Raは、8〜14であり、かつ沸点が70℃〜110℃であれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応するアルコール系溶媒や水分を避けることが好ましい。例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用でき、好ましくは脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素であり、具体的には2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタン)、n−ヘプタン、シクロヘキサンが好ましい。
また、本発明に係る溶剤は、上述した基材とのハンセンSP値距離Raは、8〜14であり、かつ沸点が70℃〜110℃である溶媒成分と、他の溶媒との混合溶媒である。当該他の溶媒としては、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリコロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。
そのため、本発明に係る溶剤は、上記溶媒と、上記溶媒成分と、の混合溶媒であり、特に、好ましい混合溶媒としてはジブチルエーテルと2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタン)、ジブチルエーテルとn−ヘプタン、ジブチルエーテルとシクロヘキサンである。
なお、当該文献1によれば、2,2,4−トリメチルペンタン(分散項(δD)=14.1、分極項(δP)=0、水素結合項(δH)=0、モル体積=166.1)、n−ヘプタン分散項((δD)=15.3、分極項(δP)=0、水素結合項(δH)=0、モル体積=147.4)、シクロヘキサン((δD)=16.8、分極項(δP)=0、水素結合項(δH)=0.2、モル体積=108.7)である。
〈ポリシラザン〉
本発明に係るポリシラザンは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO2、Si3N4及び両方の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体無機ポリマーをいい、下記一般式(1)で表される単位を有する構造が好ましい。
上記一般式(1)において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10のアルキル基)、アルケニル基(好ましくは、炭素原子数2〜5のアルケニル基)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜10のシクロアルキル基)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜14のアリール基)、アルキルシリル基(好ましくは炭素原子数3〜16のシリル基)、アルキルアミノ基(好ましくは炭素原子数3〜32のアルキルアミノ基)またはアルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜30のアルコキシ基)を表す。
上記一般式(1)中において、R1、R2及びR3におけるアルキル基は、直鎖または分岐鎖のアルキル基のいずれも含む。炭素原子数1〜30のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基、n−ヘンエイコシル基、n−ドコシル基、n−トリコシル基、n−テトラコシル基、n−ペンタコシル基、n−ヘキサコシル基、n−ヘプタコシル基、n−オクタコシル基、n−トリアコンチル基などが挙げられる。
炭素原子数2〜5のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基などが挙げられる。
炭素原子数3〜10のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基などが挙げられる。
炭素原子数6〜14のアリール基としては、特に制限はないが、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基などの非縮合炭化水素基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基などの縮合多環炭化水素基が挙げられる。
炭素原子数3〜16のアルキルシリル基としては、具体的にはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。
炭素原子数3〜32のアルキルアミノ基としては、特に制限はないが、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、メチル−tert−ブチルアミノ基、ジオクチルアミノ基、ジデシルアミノ基、ジヘキサデシルアミノ基、ジ2−エチルヘキシルアミノ基、ジ2−ヘキシルデシルアミノ基などが挙げられる。
炭素原子数1〜30のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、ノナデシルオキシ基、エイコシルオキシ基、ヘンエイコシルオキシ基、ドコシルオキシ基、トリコシルオキシ基、テトラコシルオキシ基、ペンタコシルオキシ基、ヘキサコシルオキシ基、ヘプタコシルオキシ基、オクタコシルオキシ基、トリアコンチルオキシ基などが挙げられる。
本発明では、得られるガスバリア膜としての緻密性の観点からは、本発明に係るポリシラザンは、ただし、R1、R2及びR3の少なくとも1つは水素原子であることが好ましく、上記一般式(1)中、R1、R2、及びR3の全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。また、当該パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。
上記一般式(1)で表されるポリシラザンは、数平均分子量(Mn)で600〜2000程度(ポリスチレン換算)であることが好ましい。数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)によって測定することができる。
また、本発明に係るポリシラザンは、液体または固体のいずれでもよく、その状態は分子量により異なる。また、本発明に係るポリシラザンは、公知の合成法で製造したものを使用してもまたは市販のものを使用してもよく、現在本発明に係るポリシラザンは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
また、本発明に係る組成物において、Siと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下地である基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より(平均)膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。そのため用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
また、本発明に係るポリシラザンは、フィルム基材を損なわないように塗布するためには、パーヒドロポリシラザン以外に比較的低温でセラミック化してシリカに変性する化合物が好ましく、低温でセラミック化するポリシラザンの他の例としては、上記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有するポリシラザンに、ケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報参照)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報参照)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報参照)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報参照)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報参照)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報参照)等が挙げられる。
本発明に係るポリシラザン含有の組成物中におけるポリシラザン濃度は、目的とするバリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度であることが好ましい。
〈アミン化合物〉
本発明に係るアミン化合物は、酸化珪素化合物への変性を促進するために使用するものであり、アミン化合物としてはN,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N’,N’,−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’,−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン、1−ピペリジンエタノール、または4−ピペリジノール等が挙げられる。例えば、アミン化合物にポリシラザンを含む溶液としては、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のアクアミカ NAX120−20、NN120−20、NL120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
本発明に係るアミン化合物は、ポリシラザンを基準にして0.1〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.2〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
本発明に係る組成物におけるアミン化合物の量が上記範囲であると、反応の急激な進行による過剰なシラノール形成、および膜密度の低下、膜血管の増大などを抑制することができる。
〈金属触媒〉
本発明に係る組成物に必要により添加される金属触媒としては、Pt化合物、Pd化合物、Rh化合物などが挙げられ、具体的には、Ptアセチルアセトナート、プロピオン酸パラジウム、Rhアセチルアセトナートが挙げられる。
(工程(2)について)
本発明に係る工程(2)は、基材表面に上記工程(1)で調整した組成物を塗布および乾燥して組成物層を形成する工程(2)である。
本発明に係る基材表面に組成物を塗布する方法としては、任意の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。組成物の塗布膜を乾燥した膜である組成物層の膜厚は、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、組成物層は、乾燥後の厚みが10nm以上2μm以下の範囲であることが好ましく、20nm以上1000nm以下であることがより好ましく、40nm以上500nm以下の範囲であることがさらに好ましい。
本発明に係る基材表面に組成物を塗布した後、乾燥する方法は、熱処理により組成物の塗布膜を乾燥することが好ましい。具体的には、例えば、ヒートブロック等の発熱体に基材を接触させ熱伝導により塗膜を加熱する方法、抵抗線等による外部ヒーターにより雰囲気を加熱する方法、IRヒーターの様な赤外領域の光を用いた方法等が上げられるが特に限定はされない。また、ポリシラザンを含有する塗膜の平滑性を維持できる方法を適宜選択してよい。
加熱処理による乾燥時の塗膜の温度としては、60℃〜120℃の範囲に適宜調整することが好ましく、更に好ましくは65℃〜110℃の範囲である。60℃より低いと乾燥速度が遅くなり、基材の溶解を抑制する効果が低下する。また、120℃を超えると基材自体が変形し、ガスバリア層にひびが入りやすくなる。
また、加熱時間としては、30秒〜5分の範囲が好ましく、より好ましくは、30秒〜4分の範囲が好ましい。
本発明に係る基材は、樹脂基材が好ましく、長尺化が可能な支持体であって、後述のガスバリア性(単に「バリア性」ともいう)を有するバリア層を保持することができるものである。また、フィルム面内の位相差が短波長になるほど小さくなるという負の波長分散性を有するポリマーフィルムであることが好ましい。また、波長550nmの光に対して面内位相差(Ro)がλ/4となるように制御されたポリマーフィルムを用いることが特に好ましい。なお、本明細書において「波長550nmの光に対して面内位相差(Ro)がλ/4となる」とは、下記式によって求められるRoの値が148±10nmであることを意味する。
式中、dは基材の膜厚(nm)を表し、nxはフィルム基材の面内の最大の屈折率(遅相軸方向の屈折率ともいう)を表し、nyはフィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率を表す。また、Roは自動複屈折率計としてKOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用い、23℃、55%RHの環境下で、測定波長550nmで測定するものとする。
偏光板およびλ/4の位相差によって、発光素子内部にある界面や金属電極において生じる反射光が本発明にガスバリア性基材から出ないようにされているため、内部反射光による表示コントラストの低下を抑制することができる。
具体的には、視認側表面から入射した外光が、直線偏光板(偏光子)の透過軸を通過することによって一方向のみの直線偏光とされ、この直線偏光がλ/4位相差板を通過することで円偏光へと変換され、そして表示素子内部の界面または金属電極で反射し、再びλ/4位相差板を通過することによって直線偏光へと戻される。この際表示素子内部における反射光は、入射したときの直線偏光から位相差がλ/2ずれることから、90°異なる角度の直線偏光となる。したがって、直線偏光板(偏光子)の吸収軸によって吸収され、反射光の外部への出射が防止されるのである。なお、この目的を達成するためには、直線偏光板(偏光子)の吸収軸と、フィルム基材(λ/4位相差板)の遅相軸との角度を、45°±5°以内、特に45°±1°以内になるように配置することが好ましい。
偏光板よりも表示装置側の全ての層の合計位相差が、波長550nmの光に対して略λ/4にするためには、本発明の光学異方性を有するガスバリア性フィルム、さらに他の任意のポリマーフィルムが存在する場合は、全てのポリマーフィルムの合計位相差が、波長550nmの光に対して略λ/4であるようにすることが好ましい。
これは例えば、本発明に係る光学異方性のガスバリア性フィルムの位相差が、波長550nmの光に対してλ/4であり、他のポリマーフィルムが位相差を有さないようにすることができる。
ここで、波長550nmの光は視感度が最も高い光であることから、かような構成とすることにより、最も効果的に内部反射を抑制することができる。ただし、波長550nmの光だけでなく、可視光領域の他の波長についても、上記と同様に直線偏光板(偏光子)を除きフィルム基材を含めたすべての層の積層体の有する位相差が略λ/4(Ro=148±10nm)であることが好ましい。一般的なポリマーフィルムは、より短い波長の光に対して位相差が大きくなる正波長分散性を有するため、可視光領域全体にわたって、すべての層の合計位相差を略λ/4にすることは困難である。しかしながら、特開2000−137116号公報で開示されているような、より短い波長の光に対して位相差が小さくなる波長分散性(すなわち、逆波長分散性)を有するポリマーフィルムを用いることによって、可視光領域全体にわたって、すべての層の合計位相差を略λ/4とすることが可能である。
本発明において、直線偏光板(偏光子)としては、染料によって染色したポリマーフィルムを延伸して得られる吸収型偏光板だけでなく、複数枚の位相差フィルムをその遅相軸方向が直交するようにして交互に積層して得られる反射型偏光板を用いることもできる。ここで、このような反射型偏光板では、一方の偏光に対しては、各層の屈折率が実質的に同一であり、それによって各層間の界面における入射光の反射が起こらないようにし、かつ他方の偏光に対しては、各層の屈折率が異なっており、それによって位相差フィルムの界面において入射光が反射して戻るようにすることができる。あるいは、フィルム上に波長サイズよりも小さな幅の金属細線を連続的に配置したワイヤーグリッド偏光板を本発明における直線偏光板(偏光子)として用いることもできる。また、本発明に関して、偏光板としては、上記のような直線偏光板だけでなく、右円偏光と左円偏光とを分離する円偏光板を用いることもできる。
このような逆波長分散性を有し、λ/4位相差板としての光学特性を付与できるフィルム基材の構成材料としては、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、およびセルロースアセテートプロピオネート(CAP)等のセルロース誘導体からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。そして、これらの材料に延伸処理を施してポリマー分子を配向させてフィルム化した材料や、位相差を発現しないフィルムからなる基材上に所望の光学特性を発現するように液晶材料を配向させて硬化したフィルムがフィルム基材として用いられうる。
この中でコストや入手の容易性、ガスバリア性向上の観点からは、本発明の基材としては、ポリカーボネート(PC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)が好ましく用いられる。λ/4位相差板としての機能を有するポリカーボネート(PC)フィルムとしては、帝人化成製ピュアエースWRが挙げられ、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムとしては日本ゼオン社製ゼオノアフィルム、グンゼ社製Fフィルムが挙げられ、これらはいずれも容易に入手が可能である。
本発明に用いられる光学異方性を基材においては、ナトリウムd線(589nm)に対する屈折率は1.57〜1.62であることが好ましい。この屈折率が1.57以上であれば、複屈折が十分高い値に保持される。一方、この屈折率が1.62以下であれば、反射率が大きくなりすぎず、光透過性が十分に確保される。
また、本発明に用いられる光学異方性を有する基材は、波長450nmで測定した位相差R450の、波長550nmで測定した位相差R550に対する比率(R450/R550)が0.75〜1.1であることが好ましい。前記比率がこの範囲内にあれば、理想に近い位相差特性を得ることができる。例えば、この光学異方性を有するフィルム基材をλ/4位相差板として用いて円偏光板を作製する場合に、可視領域における理想的なλ/4位相差板の提供を実現できるとともに、波長依存性が少なくニュートラルな色相をもつ偏光板および表示装置の実現が可能となる。この効果をさらに安定的に得るためには、前記比率(R450/R550)は0.76〜0.98であることがより好ましく、0.77〜0.95であることが特に好ましい。なお、ここで言う「光学異方性を有する基材」とは、面内方向で、または面内方向および厚み方向で屈折率が異なることを意味する。
さらに、本発明に用いられる光学異方性を有する基材の光弾性係数は40×10−12Pa−1以下であることが好ましい。光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であれば、当該フィルム基材を位相差フィルムとして直線偏光板(偏光子)に貼り合わせて表示装置に搭載したときに、貼り合わせ時の応力により、視認環境やバックライトの熱で位相差フィルムに部分的応力がかかり、不均一な位相差変化が生じ、著しい画像品質の低下が起きるという問題が生じる。かような観点から、本発明に係る基材は、光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であることが好ましく、35×10−12Pa−1以下であることがさらに好ましい。
本発明に係る基材の平均厚さは5〜500μm程度が好ましく、さらに好ましくは25〜250μmである。
また、本発明に係る基材は透明であることが好ましい。かような形態によれば、基材上に形成するガスバリア性ユニットも透明なものとすることにより、透明なガスバリア性フィルムを得ることが可能となる。その結果、有機EL素子等の透明基板の作製に用いることも可能となる。なお、ここでいう「基材が透明である」とは、可視光(400〜700nm)の光透過率が80%以上であることを意味する。
また、本発明に用いられる基材には、バリア層を形成する前に、その表面にコロナ処理を施してもよい。
(工程(3)について)
本発明に係る工程(3)は、上記工程(2)で形成した組成物層に真空紫外光を照射してバリア層を形成する工程である。すなわち、当該工程(3)によりポリシラザンの少なくとも一部が酸窒化珪素へと改質される。そのため、本発明に係る第1のバリア層において、組成物層に真空紫外光を照射してバリア層を形成することは、当該組成物中ポリシラザンが、酸化ケイ素または酸化窒化珪素への転化反応することをいい、これにより、ガスバリア性を発現することができる。また、酸化ケイ素または酸化窒化珪素への転化反応は、樹脂基材への適応という観点からより低温で、転化反応が可能な紫外線を使うものである。
ここで、真空紫外光照射工程でポリシラザンを含む塗膜が改質され、SiOxNyの特定組成となる推定メカニズムを、パーヒドロポリシラザンを例にとって説明する。
パーヒドロポリシラザンは「−(SiH2−NH)n−」の組成で示すことができる。改質後の組成をSiOxNyで示す場合、x>0となるためには外部の酸素源が必要であるが、これは、(i)ポリシラザン塗布液に含まれる酸素や水分、(ii)塗布乾燥過程の雰囲気中から塗膜に取り込まれる酸素や水分、(iii)真空紫外光照射工程での雰囲気中から塗膜に取り込まれる酸素や水分、オゾン、一重項酸素、(iv)真空紫外光照射工程で印加される熱等により基材側からアウトガスとして塗膜中に移動してくる酸素や水分、(v)真空紫外光照射工程が非酸化性雰囲気で行われる場合には、その非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気へと移動した際に、その雰囲気から塗膜に取り込まれる酸素や水分などが酸素源となる。
一方、yについては、Siの酸化より窒化が進行する条件は非常に特殊であると考えられるため、基本的には1が上限である。
また、Si、O、Nの結合手の関係から、基本的にはx、y、は2x+3y≦4の範囲にある。酸化が完全に進んだy=0の状態においては、塗膜中にシラノール基を含有するようになり、2<x<2.5の範囲となる場合もある。
真空紫外光照射工程でパーヒドロポリシラザンから酸窒化珪素、さらには酸化珪素が生じると推定される反応機構について、以下に説明する。
(1)脱水素、それに伴うSi−N結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi−H結合やN−H結合は真空紫外光照射による励起等で比較的容易に切断され、不活性雰囲気下ではSi−Nとして再結合すると考えられるSiの未結合手が形成される場合もある)。すなわち、酸化することなくSiNy組成として硬化する。この場合はポリマー主鎖の切断は生じない。Si−H結合やN−H結合の切断は触媒の存在や、加熱によって促進される。切断されたHはH2として膜外に放出される。
(2)加水分解・脱水縮合によるSi−O−Si結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi−N結合は水により加水分解され、ポリマー主鎖が切断されてSi−OHを形成する。二つのSi−OHが脱水縮合してSi−O−Si結合を形成して硬化する。これは大気中でも生じる反応であるが、不活性雰囲気下での真空紫外光照射中では、照射の熱によって基材からアウトガスとして生じる水蒸気が主な水分源となると考えられる。水分が過剰となると脱水縮合しきれないSi−OHが残存し、SiO2.1〜SiO2.3の組成で示されるガスバリア性の低い硬化膜となる。
(3)一重項酸素による直接酸化、Si−O−Si結合の形成
真空紫外光照射中、雰囲気下に適当量の酸素が存在すると、酸化力の非常に強い一重項酸素が形成される。パーヒドロポリシラザン中のHやNはOと置き換わってSi−O−Si結合を形成して硬化する。ポリマー主鎖の切断により結合の組み換えを生じる場合もあると考えられる。
(4)真空紫外光照射・励起によるSi−N結合切断を伴う酸化
真空紫外光のエネルギーはパーヒドロポリシラザン中のSi−Nの結合エネルギーよりも高いため、Si−N結合は切断され、周囲に酸素、オゾン、水等の酸素源が存在すると酸化されてSi−O−Si結合やSi−O−N結合が生じると考えられる。ポリマー主鎖の切断により結合の組み換えを生じる場合もあると考えられる。
ポリシラザンを含有する層に真空紫外光照射を施した層の酸窒化珪素の組成の調整は、上述の(1)〜(4)の酸化機構を適宜組み合わせて酸化状態を制御することで行うことができる。なお、本発明の範囲は、上記メカニズムによって限定されない。
したがって、本発明における真空紫外光照射工程において、組成物層が受ける真空紫外線の照度は、少なくとも1回につき1mW/cm2〜10W/cm2であることが好ましく、30mW/cm2〜200mW/cm2であることがより好ましく、50mW/cm2〜160mW/cm2のであることがさらに好ましい。
照射強度が1mW/cm2未満だと転化効率が大きく低下する懸念があり、照射強度を10W/cm2より高くすると、塗膜にアブレーションを生じたり、基材にダメージを与えたりする懸念が出てくる。
本発明に係る真空紫外光の照射エネルギー量は、10〜10000mJ/cm2であることが好ましく、100〜8000mJ/cm2であることがより好ましく、200〜6000mJ/cm2であることがより好ましく、500〜5000mJ/cm2であることがさらにより好ましい。(ML1〜7.3000mJ/cm2)10mJ/cm2未満では、転化反応が不十分であり、10000mJ/cm2超えると過剰転化反応によるクラック発生や、基材の熱変形の懸念が出てくる。
本発明に係る工程(3)における真空紫外線は、200nm以下の波長成分を有する真空紫外線を照射する改質処理により第1のバリア層を形成することが好ましい。
本発明に係る真空紫外光源としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機(株)製)、UV光レーザー、等が挙げられるが、なかでも希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。
なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは200〜400nmの紫外線を用いる。また紫外線の照射は、照射される第1のバリア層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
また、反応(酸化反応、転化処理、改質処理ともいう)を促進させるために真空紫外線の照射と同時に組成物層を加熱処理をしてもよい。加熱処理の方法は上記で塗膜を乾燥して組成物層を形成した熱処理と同様の方法が採用される。
本発明に係る真空紫外光照射の雰囲気において、組成物層が、好ましくは40〜120℃の温度で、5秒〜10分間紫外線を照射することが好ましい。
〔第2のバリア層〕
本発明に係る第2のバリア層は、好ましくは第1のバリア層上に形成される。
本発明に係る第2のバリア層は、酸化珪素、酸窒化珪素、および窒化珪素からなる群から選択される少なくとも1種を有するものであり、ガスバリア性及び透明性の点で酸化珪素、酸窒化珪素または窒化珪素からからから選ばれる少なくとも2種を有することが好ましく、酸化珪素または酸窒化珪素からから選ばれる少なくとも1種で形成されていることがより好ましい。また、第2のバリア層は実質的にもしくは完全に無機層として形成されているのが望ましい。
第1のバリア層上に気相成長法(金属化合物を化学蒸着法または物理蒸着法する)または塗布法で形成されるものである。すなわち、本発明に係るバリア層が複数存在する場合は、そのうちの少なくとも1層が塗布法で形成していればよく、第1のバリア層を塗布法で形成した場合は、第1のバリア層上に気相成長法(金属化合物を化学蒸着法または物理蒸着法する)または塗布法を採用することができるが、本発明においては、第2のバリア層は、塗布法により形成することが好ましい。上記第1のバリア層上に第2のバリア層を気相成長法または塗布法により形成する場合、上述の「第1のバリア層」の欄に記載した方法および条件を援用することができるためここでは省略する。
本発明においては、第1のバリア層および第2のバリア層は、塗布法により形成することがより好ましい。
また、本発明に係る第2のバリア層の平均厚みは、10nm〜2μmが好ましく、20nm〜1μmがより好ましい。
平均厚みがかかる範囲である、高いバリア性能の観点で好ましい。
本発明に係る塗布法により第2のバリア層を形成する方法としては、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を含む組成物を調製する工程(4)と、第1のバリア層上に前記組成物を塗布および乾燥して前記組成物層を形成する工程(5)と、前記組成物に真空紫外光を照射して第2のバリア層を形成する工程(6)と、を有することが好ましい。以下各工程について説明する。
(工程(1)について)
本発明に係る工程(4)は、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を含む組成物を調製する工程であり、必要により金属触媒を加えてもよい。
すなわち、本発明に係る工程(4)は、上記工程(1)と同一の方法であり、かつ工程(1)において使用できる各成分(溶剤、ポリシラザン、アミン化合物、および金属触媒)範囲およびその組成比の範囲と、工程(4)において使用できる各成分(溶剤、ポリシラザン、アミン化合物、および金属触媒)範囲およびその組成比の範囲とは同一である。そのため、ここでは、本発明に係る工程(4)に用いられる溶剤(混合溶媒のsp距離特性も含む)、ポリシラザン、アミン化合物および金属触媒やその組成比範囲は上記工程(1)と援用して省略する。
また、工程(1)で得られた組成物と、工程(4)で得られた組成物とは同じものでも、異なるものでもよい。
(工程(5)について)
本発明に係る工程(5)は、第1のバリア層上に上記工程(4)で調整した組成物を塗布および乾燥して組成物層を形成する工程である。
すなわち、本発明に係る工程(5)は、第1のバリア層上に上記工程(4)で調整した組成物を塗布する以外は、上記工程(2)と同一であるため、ここでは、本発明に係る工程(5)を援用して省略する。
(工程(6)について)
本発明に係る工程(6)は、上記工程(5)で第1のバリア層上に形成した組成物層に真空紫外光を照射してバリア層を形成する工程である。すなわち、当該工程(6)によりポリシラザンの少なくとも一部が酸窒化珪素へと改質される。
そのため、本発明に係る工程(6)は、第1のバリア層上に形成した組成物層に真空紫外光を照射する以外は、上記工程(3)と同一であるため、ここでは、本発明に係る工程(5)を援用して省略する。
(第2のバリア層の表面粗さ:平滑性)
本発明に係る第2のバリア層の真空紫外線照射処理側の表面の表面粗さ(Ra)は、10nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1nm以下である。表面粗さが上記で規定する範囲にあることで、電子デバイス用の樹脂基材として使用する際に、凹凸が少ない平滑な膜面により光透過効率の向上と、電極間リーク電流の低減によりエネルギー変換効率が向上するので好ましい。本発明に係るバリア層の表面粗さ(Ra)は以下の方法で測定することができる。
表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡)、例えば、Digital Instruments社製DI3100で、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が数十μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する粗さである。
〔中間層〕
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、上記バリア層以外適宜その他の層(中間層)を、基材表面/またはバリア層間に形成してもよい。例えば、基材表面へのハイブリッド層等の密着性を向上する目的でアンカーコート層(易接着層)が形成されうる。用いられうるアンカーコート剤としては特に制限されないが、単分子レベル〜ナノレベルの薄膜を形成し、層界面で分子結合を形成することによって高い接着性を得る観点から、シランカップリング剤を用いることが好ましい。また、バリア層を保護する目的でバリア層間の中間層が形成されうる。この他には、樹脂等からなる応力緩和層、基材の表面を平滑化するための平滑層、基材等からのブリードアウトを防止するためのブリードアウト防止層などが設けられうる。さらに、ガスバリア層のカールバランス調整やデバイス作製プロセス耐性、ハンドリング適性等を改良する目的で、基材にバックコート層が設けられてもよい。なお、上記基材に中間層が設けられる場合には、通常、ガスバリア層は中間層上に配置される。以下、本発明に係る各種の中間層について説明する。
(バリア層間の中間層)
本発明において、各バリア層の間にバリア層間の中間層を形成する方法として、ポリシロキサン改質層を形成する方法を適用することができる。この方法は、ポリシロキサンを含有した塗布液を湿式塗布法によりバリア層上に塗布して乾燥した後、その乾燥した塗膜に真空紫外線を照射することによってポリシロキサン改質層を形成し、このポリシロキサン改質層がバリア層間の中間層としての機能を発揮するものである。
また、当該バリア層間の中間層を形成するために用いる中間層形成用塗布液は、(A)ポリシロキサン及び(B)有機溶媒を含有することがさらに好ましい。
本発明に係るバリア層間の中間層の形成に適用可能なポリシロキサンとしては、特に制限はないが、下記一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサンが、特に好ましい。
はじめに、(A)ポリシロキサンとして、一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサンを用いる系について説明する。
上記一般式(a)において、R3〜R8は、各々同一又は異なる炭素数1〜8の有機基を表す。R3〜R8は、アルコキシ基及び水酸基のいずれかを含む。mは1以上である。
R3〜R8で表される炭素数1〜8の有機基としては、例えば、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基、ビニル基、フェニル基、γ−メタクリルオキシプロピル基等の(メタ)アクリル酸エステル基、γ−グリシドキシプロピル基等のエポキシ含有アルキル基、γ−メルカプトプロピル基等のメルカプト含有アルキル基、γ−アミノプロピル基等のアミノアルキル基、γ−イソシアネートプロピル基等のイソシアネート含有アルキル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の脂環状アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等の直鎖状若しくは分岐状アルコキシ基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基等のアシル基等が挙げられる。
更に、本発明に係る一般式(a)においては、mが1以上で、かつ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜20,000であるオルガノポリシロキサンが特に好ましい。該オルガノポリシロキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量が、1000以上であれば、形成する保護層に亀裂が生じ難く、水蒸気バリア性を維持することができ、20,000以下であれば、形成される保護層の硬化が充分となり、そのため得られる保護層として十分な硬度が得られる。
本発明に適用可能な(B)有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、非プロトン系溶媒等が挙げられる。
ここで、アルコール系溶媒としては、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、iso−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、tert−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどが好ましい。
ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−iso−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−iso−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノン、フェンチョンなどのほか、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、3,5−オクタンジオン、2,4−ノナンジオン、3,5−ノナンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ヘプタンジオンなどのβ−ジケトン類などが挙げられる。これらのケトン系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
アミド系溶媒としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルモルホリン、N−アセチルピペリジン、N−アセチルピロリジンなどが挙げられる。これらアミド系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
エステル系溶媒としては、ジエチルカーボネート、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸iso−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸iso−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルなどが挙げられる。これらエステル系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
非プロトン系溶媒としては、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N,N′,N′−テトラエチルスルファミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルモルホロン、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、N−メチルイミダゾール、N−メチル−4−ピペリドン、N−メチル−2−ピペリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルテトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノンなどを挙げることができる。以上の有機溶媒は、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
(B)有機溶媒としては、上記の有機溶媒のなかではアルコール系溶媒が好ましい。
また、バリア層間の中間層形成用塗布液の塗布方法としては、スピンコート、ディッピング、ローラーブレード、スプレー法などが挙げられる。
バリア層間の中間層形成用塗布液により形成するバリア層間の中間層の厚み(改質処理後)としては、100nm〜10μmの範囲が好ましい。バリア層間の中間層の膜厚が100nm以上であれば、高湿下でのバリア性を確保することができ、10μm以下であれば、バリア層間の中間層形成時に安定した塗布性を得ることができ、かつ高い光線透過性を実現できる。
また、本発明に係るバリア層間の中間層は、膜密度が通常0.35〜1.2g/cm3、好ましくは0.4〜1.1g/cm3、さらに好ましくは0.5〜1.0g/cm3である。膜密度が0.35g/cm3以上であれば、十分な塗膜の機械的強度を得ることができる。
本発明に係るバリア層間の中間層は、ポリシロキサンを含有した塗布液を湿式塗布法によりバリア層上に塗布して乾燥した後、その乾燥した塗膜に真空紫外線を照射することによって形成される。
本発明に係るバリア層間の中間層の形成に用いる真空紫外光としては、前述の第1のバリア層の形成で説明したのと同様の真空紫外光照射処理を適用することができる。その場合、本発明に係るポリシロキサン層を改質してバリア層間の中間層を形成する際の真空紫外光の積算光量としては、500mJ/cm2以上、10,000mJ/cm2以下であることが好ましい。真空紫外光の積算光量が500mJ/cm2以上であれば十分なバリア性能を得ることができ、10,000mJ/cm2以下であれば、基材に変形を与えることなく平滑性の高いバリア層間の中間層を形成することができる。
また、本発明に係るバリア層間の中間層は、前処理として真空紫外光を照射前において加熱温度が50℃以上、200℃以下の加熱工程を経て形成されることが好ましい。加熱温度が50℃以上であれば十分なバリア性を得ることができ、200℃以下であれば、基材に変形を与えることなく平滑性の高いバリア層間の中間層を形成することができる。
該加熱工程で用いる加熱方法としては、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することができ、加熱雰囲気としては、大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下などで行うことができる。
なお、本発明に係るバリア層間の中間層は、バリア層を覆い、バリアフィルムにおける(ガス)バリア層が損傷することを防ぐ機能を有しているが、バリアフィルムの製造過程で(ガス)バリア層が損傷することを防ぐこともできる。
例えば、バリア層の形成工程に際して製膜した改質前のポリシラザン塗膜上にポリシロキサン塗膜を製膜し、ポリシラザン塗膜とポリシロキサン塗膜とに対して同時に真空紫外光を照射した後、100℃以上250℃以下の加熱処理を施すことで、バリア層と中間層とを同時に形成してもよい。また、真空紫外光照射処理が施されたポリシラザン塗膜上にポリシロキサン塗膜を成膜し、ポリシロキサン塗膜に真空紫外光照射処理を施した後、100℃以上250℃以下の加熱工程を施して、バリア層と中間層を形成してもよい。
このように、ポリシラザン塗膜(バリア層)を中間層(ポリシロキサン塗膜)で覆った状態で、100℃以上の加熱処理を施す場合には、加熱処理による熱応力によってバリア層に微小なひび割れが発生することを防ぐことができ、バリア層の水蒸気バリア性を安定させることができる。
(アンカーコート層)
本発明に係る基材表面には、第1のバリア層との密着性の向上を目的として、中間層としてアンカーコート層を形成しても良い。このアンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、及びアルキルチタネート等を、1または2種以上併せて使用することができる。この中でも特にエポキシ樹脂が好ましい。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。
(平滑層)
さらに、本発明に係る基材表面には、中間層として平滑層を設けても良い。特に表面が、JIS K 5600−5−4で規定する鉛筆硬度がH以上であることが好ましい。また、中間層の表面粗さがJIS B 0601:2001で規定される最大断面高さRt(p)で10nm<Rt(p)<30nmとなる様な平滑層を設けることが好ましい。
平滑層の膜厚は制限されないが、基材表面の凹凸を覆って平滑な表面を形成しかつフレキシビリティを確保するには、平滑層の膜厚は0.1μm〜10μmが好ましく、0.5μm〜6μmが更に好ましい範囲である。
特に、本発明の様に塗布法による第1のバリア層上にポリシラザンの塗布膜を改質して第2のバリア層を形成する場合、第2のバリア層は、第1のバリア層の欠陥補修や表面の平滑化と言うメリットを持つ反面、塗布膜から高いガスバリア性を持つ高密度無機膜への改質過程で収縮を伴うことにより、第1のバリア層がその応力を受ける事で欠陥が発生してしまうことがあり、本発明の構成を十分生かしきれない場合があるというデメリットも存在する。
本発明者らが鋭意検討した結果、第1のバリア層下部の層が表面最大高低差Rtが10nm<Rt<30nmとなる様な平滑層を設けることで、第2のバリア層形成時の収縮応力を第1のバリア層へ集中する事を防ぎ、本発明の構成の効果を最も発揮できることが分かった。
さらに、平滑層の無機成分が高い方が、第1のバリア層と基材の密着性の観点及び平滑層の硬度アップの観点で好ましく、平滑層全体の組成比率で10質量%以上とすることが好ましく、20質量%以上が更に好ましい。平滑層は有機樹脂バインダー(感光性樹脂)と無機粒子の混合の様な有機無機ハイブリッド組成でも良いし、ゾルゲル法等で形成可能な無機層であっても良い。
平滑層は、また、突起等が存在する透明樹脂フィルム基材の粗面を平坦化し、あるいは、透明樹脂フィルム基材に存在する突起により、透明の第1のバリア層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。このような平滑層は、基本的には熱硬化性樹脂や感光性樹脂を硬化させて形成される。
平滑層の形成方法は、特に制限はないが、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
平滑層の形成では、上述の感光性樹脂に、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。また、平滑層の積層位置に関係なく、いずれの平滑層においても、成膜性向上及び膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
前記のように、平滑層の平滑性は、JIS B 0601で規定される表面粗さで表現される値で、最大断面高さRt(p)が、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。10nmよりも小さい場合には、後述のケイ素化合物を塗布する段階で、ワイヤーバー、ワイヤレスバー等の塗布方式で、平滑層表面に塗工手段が接触する場合に、塗布性が損なわれる場合がある。また、30nmよりも大きい場合には、ケイ素化合物を塗布した後の、凹凸を平滑化することが難しくなる場合がある。
表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡)で、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が数十μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する粗さである。具体的には、一回の測定範囲は80μm×80μmとし、測定箇所を変えて三回の測定を行う。
本発明において、平滑層の厚みとしては、0.1〜10μm、好ましくは1〜6μmであることが望ましい。1μm以上にすることにより、平滑層を有するフィルムとしての平滑性を十分なものにし、表面硬度も向上させやすくなり、10μm以下にすることにより、平滑フィルムの光学特性のバランスを調整し易くなると共に、平滑層を透明高分子フィルムの一方の面にのみ設けた場合における平滑フィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
(ブリードアウト防止層)
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、中間層としてブリードアウト防止層を設けることができる。ブリードアウト防止層は、平滑層を有するフィルムを加熱した際に、フィルム基材中から未反応のオリゴマー等が表面へ移行して、接触する面を汚染する現象を抑制する目的で、平滑層を有する基材の反対面に設けられる。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば、基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
また、改質処理を行う際、大きな膜収縮を伴うため、その横方向の変形を抑制しひび割れを防止することが好ましい。そのためには、表面硬度、若しくは弾性率が高い、所謂ハードコート層を設けることができるが、上記のブリードアウト防止層がハードコート層の役割を兼ねることができる。
当該ブリードアウト防止層に、ハードコート剤として含ませることが可能な、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物としては、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する多価不飽和有機化合物、あるいは分子中に1個の重合性不飽和基を有する単価不飽和有機化合物等を挙げることができる。
その他の添加剤として、マット剤を含有してもよい。マット剤としては、平均粒子径が0.1〜5μm程度の無機粒子が好ましい。このような無機粒子としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等の1種または2種以上を併せて使用することができる。
また、ブリードアウト防止層には、ハードコート剤及びマット剤の他の成分として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、光重合開始剤等を含有させてもよい。特に熱硬化性樹脂を含有させることが好ましい。
以上のようなブリードアウト防止層は、ハードコート剤、マット剤、及び必要に応じて他の成分を配合して、適宜必要に応じて用いる希釈溶剤によって塗布液として調製し、塗布液を基材フィルム表面に従来公知の塗布方法によって塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることにより形成することができる。
なお、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等から発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、または走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
本発明におけるブリードアウト防止層の平均膜厚としては、フィルムとしての耐熱性を向上させ、フィルムの光学特性のバランスを調整を容易にし、かつガスバリア性フィルムのカールを調製する観点から、1〜10μm、好ましくは2〜7μmであることが好ましい。
〔保護層〕
本発明に係るガスバリア性フィルム10は、必要に応じて、バリア層上に、保護層3を有してもよい。当該保護層は、オーバーコート層とも称され、バリア層を水分等から保護し、ガスバリア性を維持する機能を有しても良い。
本発明に係る保護層としては、有機モノマー、オリゴマー、ポリマー等の有機樹脂、有機基を有するシロキサンやシルセスキオキサンのモノマー、オリゴマー、ポリマー等を用いた有機無機複合樹脂層を好ましく用いることができる。これらの有機樹脂もしくは有機無機複合樹脂は重合性基や架橋性基を有することが好ましく、これらの有機樹脂もしくは有機無機複合樹脂を含有し、必要に応じて重合開始剤や架橋剤等を含有する有機樹脂組成物塗布液から塗布形成した層に、光照射処理や熱処理を加えて硬化させることが好ましい。ここで「架橋性基」とは、光照射処理や熱処理で起こる化学反応によりバインダーポリマーを架橋することができる基のことである。具体的な重合性基や架橋性基を有する有機樹脂または有機無機複合樹脂は特にその化学構造は限定されないが、例えば、付加重合し得る官能基としてエチレン性不飽和基、エポキシ基/オキセタニル基等の環状エーテル基が挙げられる。また光照射によりラジカルになり得る官能基であってもよく、そのような架橋性基としては、例えば、チオール基、ハロゲン原子、オニウム塩構造等が挙げられる。中でも、エチレン性不飽和基が好ましく、特開2007−17948号公報の段落0130〜0139に記載された官能基が含まれる。
本発明に係る保護層は必要に応じて無機材料を含有してもよい。無機材料を含有させると一般的に保護層の弾性率が増加する。したがって、無機材料の含有比率を適宜調整することにより保護層の弾性率を所望の値に調整することができる。
当該無機材料としては、数平均粒径が1〜200nmの無機微粒子が好ましく、数平均粒径が3〜100nmの無機微粒子がより好ましい。無機微粒子としては、透明性の観点より金属酸化物が好ましい。
保護層には、いわゆるカップリング剤を単独でもしくは他素材と混合して用いることができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等、特に制限はないが、塗布液の安定性の観点からシランカップリング剤が好ましい。
また、本発明に係る保護層は、前記有機樹脂(組成物)や無機材料、及び必要に応じて他の成分を配合して、適宜必要に応じて用いる希釈溶剤によって塗布液として調製し、当該塗布液を基材表面に従来公知の塗布方法によって塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることにより形成することが好ましい。なお、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する。または走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
また、前記保護層は上述のエキシマランプによる照射で硬化させることもできる。ガスバリア層と保護層とを同一ラインで塗布形成する場合には、オーバーコート層の硬化もエキシマランプによる照射で行うことが好ましい。
さらに、本発明に係る保護層として、上記中間層のポリシロキサン改質層を形成する方法を適用してもよい。
〔ガスバリア性フィルム〕
本発明に係るガスバリア性フィルムは、基材、第1のバリア層、第2のバリア層、および保護層が順次積層していることが好ましく、また当該保護層はガスバリア性を有しないことが好ましい。
本発明に係るガスバリア性フィルムは、光学異方性を有するフィルム基材(位相差フィルム)、特に円偏光板に用いられるλ/4位相差板であるフィルム基材に、当該フィルム基材の側から、無機物を含む第1のバリア層と、ポリシラザンを塗布して形成される塗膜を改質処理して得られる第2のバリア層とを含むガスバリア性ユニットを有するものである。また、基材の両面に、上述したガスバリア性ユニットを有する構成であってもよい。
本発明のガスバリア性フィルムを用いた場合の利点として、例えば本発明のガスバリア性フィルムをOLEDディスプレイの表示側基板として用いることで、部材の複合化による大幅な薄膜化が達成可能である。最も単純な構成を考えた場合、現在のOLEDディスプレイの素子よりも表示側の構成は、表示側ガラス基板/粘着層/λ/4板/粘着層/偏光板である。これに対し、本発明のガスバリア性フィルムを用いることで、本発明のガスバリア性フィルム/粘着層/偏光板とすることができ、この部分の厚みとしては3割程度にまで削減することが可能である。さらに、上述したように本発明のガスバリア性フィルムはガラスのように割れず、軽量化が進むことで、特にモバイル機器に搭載される表示装置に適用される際の大きな利点となりうる。
本発明に係るガスバリア性フィルムの平均厚みは、5〜500μmが好ましく、25〜250μmがより好ましい。なお、本明細書では、第1のバリア層、第2のバリア層、および保護層が順次積層した積層体(基材を含まない)を「ガスバリア層ユニット」と称する。
本発明においては、基材の両面に、ガスバリア層ユニットを配置させた構成であってもよい。この場合も、基材の両面に形成されるガスバリア層ユニット(第1のバリア層、第2のバリア層、および保護層)は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。両面にガスバリア性ユニットが形成されることにより、高温高湿の過酷な条件下での基材フィルム自身の吸脱湿による寸法変化が抑制され、ガスバリア性ユニットへのストレスが軽減し、デバイスの耐久性が向上する。また、耐熱性樹脂を基材に用いる場合、表裏側両面にガスバリア性ユニットを設ける効果が大きいため、好ましい。すなわち、ポリイミドやポリエーテルイミドに代表される耐熱性樹脂は非結晶性のため、結晶性のPETやPENと比較して吸水率は大きな値となり、湿度による基材の寸法変化がより大きくなってしまう。基材の表裏側両面にガスバリア性ユニットを設けることで、高温及び高湿の両方での基材の寸法変化を抑制できる。
特に、フレキシブルディスプレイ用途として用いる場合、アレイ作製工程でプロセス温度が200℃を超える場合があり、高耐熱基材を用いることが好ましい。さらには、高耐熱基材に加えて、本発明に係るガスバリア性フィルムは、必要により、基材と第1のバリア層との間および/または各バリア層の間(例えば、第1のバリア層と第2のバリア層との間)に中間層(バリア層間の中間層、アンカーコート層、平滑層、および/またはブリードアウト防止層)を設けてもよい。
〔ガスバリア性フィルムの好ましい製造方法〕
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法は、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を含む組成物を調製する工程と、基材上に前記組成物を塗布および乾燥して前記組成物層を形成する工程と、前記組成物に真空紫外光を照射してバリア層を形成する工程と、を有し、前記溶剤は、前記基材とのHansenSP値距離Raが8以上14以下であり、沸点が70℃以上110℃以下である溶媒成分を20質量%以上50質量%以下含む混合溶媒である。
これにより、組成物の溶剤は、基材とのHansenSP値距離Raが8以上14以下であり、沸点が70℃以上110℃以下である溶媒成分を含んでいるため、組成物層を乾燥する際にその乾燥速度を促進させ、また基材やバリア層に含まれるポリシラザンなどと適度なSP値距離であるため、基材や隣接するバリア層と適度に相溶性を有するため密着性も確保できると考えられる。
前記ガスバリア性フィルムの製造方法における、基材上に前記組成物を塗布するとは、基材上であればよく、組成物と基材とを直接接触させる必要はないため、図1で示すように、バリア層を複数設ける場合は、全てのバリア層の形成を当該製造方法で行う必要がなく、少なくとも1層のバリア層を前記製造方法により形成してガスバリア性フィルムを製造すれば足りる。しかし、バリア層を複数設ける場合は、最も基材側に形成される第1のバリア層を当該製造方法で行うことが好ましく、全てのバリア層の形成を当該製造方法で行うことが特に好ましい。
当該最も基材側に形成される第1のバリア層を本発明の製造方法で行ってガスバリア性フィルムを製造する方法の形態は、前述の工程(1)、工程(2)、および工程(3)を行えばよく、全てのバリア層の形成を本発明の製造方法で行ってガスバリア性フィルムを製造する方法の形態は、前記工程(1)、工程(2)、および工程(3)で第1のバリア層を形成した後、前記工程(4)〜(6)を必要により反復して行えばよい。また、上述した中間層や保護層を形成する場合は、適宜前記工程(1)〜(6)において中間層や保護層を形成すればよい。
そのため、例えば、図1に記載の本発明に係るガスバリア性フィルムを製造する方法の好ましい形態は、溶剤、ポリシラザンおよびアミン化合物を含む組成物を調製する工程(1)と、基材表面に前記組成物を塗布および乾燥して前記組成物層を形成する工程(2)と、前記組成物に真空紫外光を照射して第1のバリア層を形成する工程(3)と、を有し、前記第1のバリア層上に塗布法または気相蒸着法により第2のバリア層を形成するものである。
〔ガスバリア性フィルムの特性値の測定方法〕
本発明のガスバリア性フィルムの各特性値は、下記の方法に従って測定することができる。
(膜密度の測定)
X線反射率測定装置:理学電気製薄膜構造評価装置ATX−G
X線源ターゲット:銅(1.2kW)
測定:4結晶モノクロメータを用いてX線反射率曲線を測定し、密度分布プロファイルのモデルを作成、フィッティングを行い、膜厚方向の密度分布を算出することができる。
(水蒸気透過率(WVTR)の測定)
前述のJIS K 7129(1992年)に記載のB法に従って水蒸気透過率を測定するには、種々の方法が提案されている。例えば、カップ法、乾湿センサー法(Lassy法)、赤外線センサー法(mocon法)が代表として挙げられるが、ガスバリア性が向上するに伴って、これらの方法では測定限界に達する場合があり、以下に示す方法も提案されている。
(上記以外の水蒸気透過率測定方法)
1.Ca法
ガスバリア性フィルムに金属Caを蒸着し、該フィルムを透過した水分で金属Caが腐食される現象を利用する方法。腐食面積とそこに到達する時間から水蒸気透過率を算出する。
2.(株)MORESCOの提案する方法(平成21年12月8日NewsRelease) 大気圧下の試料空間と超高真空中の質量分析計の間で水蒸気の冷却トラップを介して受け渡す方法。
3.HTO法(米General Atomics社) 三重水素を用いて水蒸気透過率を算出する方法。
4.A−Star(シンガポール)の提案する方法(国際公開第2005/95924号) 水蒸気または酸素により電気抵抗が変化する材料(例えば、Ca、Mg)をセンサーに用いて、電気抵抗変化とそれに内在する1/f揺らぎ成分から水蒸気透過率を算出する方法。
本発明のガスバリア性フィルムにおいて、水蒸気透過率の測定方法は特に限定するところではないが、本発明においては水蒸気透過率測定方法として、下記Ca法による測定を行った。
(本発明で用いたCa法(WVTR))
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
水蒸気バリア性評価用セルの作製
ガスバリア性フィルム試料のバリア層面に、真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置JEE−400)を用い、透明導電膜を付ける前のガスバリア性フィルム試料の蒸着させたい部分(12mm×12mmを9箇所)以外をマスクし、金属カルシウムを蒸着させた。その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムをもう一つの金属蒸着源から蒸着させた。アルミニウム封止後、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下で、厚み0.2mmの石英ガラスに封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介してアルミニウム封止側と対面させ、紫外線を照射することで、評価用セルを作製した。また、屈曲前後のガスバリア性の変化を確認するために、上記屈曲の処理を行わなかったガスバリア性フィルムについても同様に、水蒸気バリア性評価用セルを作製した。
得られた両面を封止した試料を60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005−283561号公報に記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。
なお、ガスバリア性フィルム面以外からの水蒸気の透過がないことを確認するために、比較試料としてガスバリア性フィルム試料の代わりに、厚み0.2mmの石英ガラス板を用いて金属カルシウムを蒸着した試料を、同様な60℃、90%RHの高温高湿下保存を行い、1000時間経過後でも金属カルシウム腐食が発生しないことを確認した。
本発明のガスバリア性フィルムの水蒸気透過率は、低いほど好ましいが、例えば、0.001〜0.00001g/m2・24hであることが好ましく、0.0001〜0.00001g/m2・24hであることがより好ましい。
(酸素透過率の測定)
温度23℃、湿度0%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名、“オキシトラン”(登録商標)(“OXTRAN”2/20))を使用して、JIS K7126(1987年)に記載のB法(等圧法)に基づいて測定する。また、2枚の試験片について測定を各々1回行い、2つの測定値の平均値を酸素透過率の値とする。
本発明のガスバリア性フィルムの酸素透過率は、低いほど好ましいが、例えば、0.001g/m2・24h・atm未満(検出限界以下)であることがより好ましい。
〔ガスバリア性フィルムの包装形態〕
本発明のガスバリア性フィルムは、連続生産しロール形態に巻き取ることができる(いわゆるロール・トゥ・ロール生産)。その際、ガスバリア層を形成した面に保護シートを貼合して巻き取ることが好ましい。特に、本発明のガスバリア性フィルムを有機薄膜デバイスの封止材として用いる場合、表面に付着したゴミ(例えば、パーティクル)が原因で欠陥となる場合が多く、クリーン度の高い場所で保護シートを貼合してゴミの付着を防止することは非常に有効である。併せて、巻取り時に入るガスバリア層表面への傷の防止に有効である。
保護シートとしては、特に限定するものではないが、膜厚100μm程度の樹脂基板に弱粘着性の接着層を付与した構成の一般的な「保護シート」、「剥離シート」を用いることができる。
〔ガスバリア性フィルムの用途〕
本発明のガスバリア性フィルムは、主に電子デバイス等のパッケージ」、または有機EL素子や太陽電池、液晶等のプラスチック基板といったディスプレイ材料に用いられるガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムを用いた各種デバイス用樹脂基材、および各種デバイス素子に適用することができる。
本発明に係るガスバリア性フィルムは、種々の封使用材料、フィルムとしても好ましく適用することができる。以下、本発明に係るガスバリア性フィルムを具備する電子デバイスの一例として、有機発光素子に関する用途について以下詳説する。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
実施例1
《ガスバリア性フィルム1−1の作製》
〔基材の作製〕
λ/4位相差を持つポリマーフィルムとしてポリカーボネート樹脂からなる帝人化成社製ピュアエースWR−S(膜厚50μm)を用いた。
〔第1のバリア層の形成〕
「ポリシラザンを含む組成物の調製」
無触媒のパーヒドロポリシラザンを20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN120−20)と、アミン触媒としてN,N,N’,N’,−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサンを1質量%およびパーヒドロポリシラザンを19質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NAX120−20)と、を4:1の質量比率で混合し、さらにブチルエーテルと2,2,4−トリメチルペンタンの溶剤質量比が65:35となるように塗布液の固形分が5質量%になるように調整した。さらに設定膜厚に応じて溶剤添加量を適宜調整することにより本発明に係る組成物(塗布液1)を調製した。
「第1のバリア層における組成物層の形成」
上記基板上に、組成物(塗布液1)をスピンコーターにより乾燥後の平均膜厚が250nmとなる条件で塗布した。乾燥条件は、80℃で2分とした。
「真空紫外線照射処理」
上記の様にして第1のバリア層における組成物層の形成を形成した後、下記の方法に従って、5000mJ/cm2の真空紫外線照射処理を施して第1のバリア層を形成した。
(真空紫外線照射処理とその条件)
真空紫外線照射は、図2に断面模式図で示した装置を用いて行った。図2において、11は装置チャンバーであり、ガス供給口(図示せず)から内部に窒素と酸素とを適量供給し、ガス排出口(図示せず)から排気することで、チャンバー内部から実質的に水蒸気を除去し、酸素濃度を所定の濃度に維持することができる。12は172nmの真空紫外線を照射する二重管構造を有するXeエキシマランプ、13は外部電極を兼ねるエキシマランプのホルダーである。14は試料ステージである。試料ステージ14は、移動手段(図示せず)により装置チャンバー11内を水平に所定の速度で往復移動することができる。また、試料ステージ14は加熱手段(図示せず)により、所定の温度に維持することができる。15はポリシラザン化合物塗布層が形成された試料である。試料ステージが水平移動する際、試料の塗布層表面と、エキシマランプ管面との最短距離が3mmとなるように試料ステージの高さが調整されている。16は遮光板であり、Xeエキシマランプ12のエージング中に試料の塗布層に真空紫外光が照射されないようにしている。真空紫外線照射工程で試料塗布層表面に照射されるエネルギーは、浜松ホトニクス社製の紫外線積算光量計:C8026/H8025UV POWER METERを用い、172nmのセンサヘッドを用いて測定した。測定に際しては、Xeエキシマランプ管面とセンサヘッドの測定面との最短距離が、3mmとなるようにセンサヘッドを試料ステージ14中央に設置し、かつ、装置チャンバー11内の雰囲気が、真空紫外線照射工程と同一の酸素濃度となるように窒素と酸素とを供給し、試料ステージ14を0.5m/minの速度で移動させて測定を行った。測定に先立ち、Xeエキシマランプ12の照度を安定させるため、Xeエキシマランプ点灯後に10分間のエージング時間を設け、その後試料ステージを移動させて測定を開始した。10分間のエージング後、照射距離3mm、酸素濃度を0.1%とし、最大照度は130mW/cm2で、積算照射エネルギーは5000mJ/cm2とした。また、試料ステージ14の温度は60℃とし、試料ステージ14の移動速度Vは10mm/minとして改質処理を施した。なお、真空紫外線照射に際しては、上述の通り、照射エネルギー測定時と同様に10分間のエージング後に行った。
〔第2のバリア層の形成〕
「ポリシラザンを含む組成物の調製」
無触媒のパーヒドロポリシラザンを20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN120−20)と、アミン触媒としてN,N,N’,N’,−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサンを1質量%およびパーヒドロポリシラザンを19質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NAX120−20)と、を4:1の質量比率で混合し、さらにブチルエーテルと2,2,4−トリメチルペンタンの溶剤質量比が65:35となるように塗布液の固形分が5質量%になるように調整した。さらに設定膜厚に応じて溶剤添加量を適宜調整することにより本発明に係る組成物(塗布液1)を調製した。
「第2のバリア層における組成物層の形成」
上記第1のバリア層上に、組成物(塗布液1)をスピンコーターにより乾燥後の平均膜厚が100nmとなる条件で塗布した。乾燥条件は、80℃で2分とした。
「真空紫外線照射処理」
上記の様にして第2のバリア層における組成物層の形成を形成した後、上記の第1のバリア層の方法に従って、2000mJ/cm2の真空紫外線照射処理を施して第1のバリア層上に第2のバリア層を形成した。
(真空紫外線照射処理とその条件)
照射エネルギーを2000mJ/cm2にした以外、上記の第1のバリア層の形成における真空紫外線照射の条件と同一の条件で第2のバリア層を形成した。
〔保護層の形成〕
〈保護層形成用塗布液の調製〉
JSR株式会社製の「グラスカHPC7003」と「グラスカHPC404H」とを10:1の割合で混合した。次いで、この混合液をブタノールで2倍に希釈し、更に、その混合液にブチルセロソルブを5.0%添加して、保護層形成用塗布液を調製した。この保護層形成用塗布液の固形分量は、10%である。
「ポリシロキサン層の形成」
上記の第2のバリア層上に、上記ポリシロキサン化合物を含有する保護層形成用塗布液をスピンコーターにより塗布してポリシロキサン層を形成した。乾燥条件は、120℃で20分とした。
〈ポリシロキサン層の改質処理:真空紫外線照射処理〉
上記の様にしてポリシロキサン層を形成した後、上記第1のバリア層の形成で、第1のバリア層の改質処理で用いたのと同様の構成からなる真空紫外線照射装置を用い、真空紫外線の積算光量を1500mJ/cm2に変更した以外は同様にして、保護層を形成した。
《ガスバリア性フィルム1−2〜1−9および1−12、1−13の作製》
基材および組成物(塗布液)の溶剤および混合比率を、表1に示した基材および組成物(塗布液)の溶剤および混合比率に変更した以外はガスバリア性フィルム試料1−1の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム1−2〜1−9および1−12、1−13の作製を作製した。
《ガスバリア性フィルム1−10、および1−11の作製》
基材および組成物(塗布液)の溶剤および混合比率を、表1に示した基材および組成物(塗布液)の溶剤および混合比率に変更し、ポリシラザンを含む組成物(塗布液)をスピンコータで塗布後、真空紫外線照射処理を行わずに、特開平9−174782号公報に記載の通り、130℃で2分間処理し、さらに100℃で1時間、よりさらに80℃、80%RHの高温高湿雰囲気で1時間処理して第1のバリア層および第2のバリア層をそれぞれ形成した。また保護層の形成は、ガスバリア性フィルム1−1の試料と同様にしてガスバリア性フィルム1−10および1−11の作製を行った。
《水蒸気バリア性の評価》
上記作製したガスバリア性フィルム1−1〜1−13の試料で屈曲処理有無のサンプルを作製し、以下の方法で水蒸気透過率を測定した。なお、屈曲処理は、50mmφの曲率でガスバリア面内側と外側とで各100回、合計200回の屈曲処理を行った。
〈水蒸気バリア性評価に使用する装置〉
蒸着装置:日本電子(株)製 真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
〈水蒸気バリア性評価に用いる原材料〉
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(平均φ:3〜5mm、粒状)
〔水蒸気バリア性評価用試料の作製〕
上記真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、上記作製した各バリア性フィルムのバリア層を形成した面側に、マスクを通して12mm×12mmのサイズで金属カルシウムを蒸着させた。この際、蒸着膜厚は80nmとなるようにした。
その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムを蒸着させて仮封止をした。次いで、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下に移して、アルミニウム蒸着面に封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス社製)を介して厚み0.2mmの石英ガラスを張り合わせ、紫外線を照射して樹脂を硬化接着させて本封止することで、各水蒸気バリア性評価用試料を作製した。
〔水蒸気バリア性の測定〕
得られた各水蒸気バリア性評価用試料を60℃で、90%RHの高温高湿環境下で保存し、保存時間に対して金属カルシウムが腐食していく様子を観察した。観察は、保存時間6時間までは1時間ごとに、それ以降24時間までは3時間ごとに、それ以降48時間までは6時間ごとに、それ以降は12時間ごとに行い、12mm×12mmの金属カルシウム蒸着面積に対する金属カルシウムが腐食した面積を%表示で算出した。金属カルシウムが腐食した面積が1%となった時間を観察結果から直線で内挿して求め、金属カルシウム蒸着面積と、面積1%分の金属カルシウムを腐食させる水蒸気量と、それに要した時間との関係からそれぞれのガスバリア性フィルムの水蒸気透過率(WVTR)を算出した。結果を下記の表2に示す。
上記表2に示すように、本発明の製造方法で得られたガスバリア性フィルムは非常に高いバリア性を有していることが確認される。また屈曲処理を行っても水蒸気バリア性は劣化しないことが確認される。
実施例2
《有機EL素子の作製》
実施例1で作製した各ガスバリア性フィルム(1−1〜1−13)を封止フィルムとして用いて、下記の方法に従って、電子デバイスの一例として、図3に示すような有機EL素子を作製した。
〈有機EL素子の作製〉
(第1電極層の形成)
上記ガスバリア性フィルム21の試料1−1〜1−13のそれぞれの保護層上に、厚さ150nmのITO(インジウムチンオキシド)をスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、第1電極層22を形成した。なお、パターンは発光面積が50mm平方になるようなパターンとした。
(正孔輸送層の形成)
第1電極層が形成された各ガスバリア性フィルム21の当該第1電極層22の上に、以下に示す正孔輸送層形成用塗布液を、25℃50%RHの環境下において押出し塗布機で塗布した後、下記の条件で乾燥し正孔輸送層23形成した。正孔輸送層形成用塗布液は乾燥後の厚みが50nmになるように塗布した。
正孔輸送層形成用塗布液を塗布する前に、試料の洗浄表面改質処理を、波長184.9nmの低圧水銀ランプを使用し、照射強度15mW/cm2、距離10mmで実施した。帯電除去処理は、微弱X線による除電器を使用し行った。
(正孔輸送層形成用塗布液の調製)
ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製 Bytron P AI 4083)を純水で65%、メタノール5%で希釈した溶液を正孔輸送層形成用塗布液として調製した。
(乾燥および加熱処理条件)
正孔輸送層形成用塗布液を塗布した後、成膜面に向け高さ100mm、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度100℃で溶媒を除去した後、引き続き、加熱処理装置を用い温度150℃で裏面伝熱方式の熱処理を行い、正孔輸送層23を形成した。
(発光層24の形成)
引き続き、正孔輸送層23が形成された各ガスバリア性フィルムの正孔輸送層23上に、以下に示す白色発光層形成用塗布液を押出し塗布機で塗布した後、乾燥し発光層24を形成した。また、白色発光層形成用塗布液は乾燥後の厚みが40nmになるように塗布した。
(白色発光層形成用塗布液の調製)
ホスト材のH−Aを1.0gと、ドーパント材D−Aを100mg、ドーパント材D−Bを0.2mg、ドーパント材D−Cを0.2mg、100gのトルエンに溶解し白色発光層形成用塗布液として調製した。
(塗布条件)
塗布工程を、窒素ガス濃度99%以上の雰囲気で、塗布温度を25℃とし、塗布速度1m/minで行った。
(乾燥および加熱処理条件)
白色発光層形成用塗布液を塗布した後、成膜面に向け高さ100mm、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度60℃で溶媒を除去した後、引き続き、温度130℃で加熱処理を行い、発光層24を形成した。
(電子輸送層25の形成)
引き続き、発光層24が形成された各ガスバリア性フィルムの発光層24上に、以下に示す電子輸送層形成用塗布液を押出し塗布機で塗布した後、乾燥し電子輸送層25を形成した。電子輸送層形成用塗布液は乾燥後の厚みが30nmになるように塗布した。
(塗布条件)
塗布工程を、窒素ガス濃度99%以上の雰囲気で、電子輸送層形成用塗布液の塗布温度を25℃とし、塗布速度1m/minで行った。
(電子輸送層形成用塗布液の調製)
電子輸送層はE−Aを2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール中に溶解し0.5質量%溶液とし電子輸送層形成用塗布液とした。
(乾燥および加熱処理条件)
電子輸送層形成用塗布液を塗布した後、成膜面に向け高さ100mm、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度60℃で溶媒を除去した後、引き続き、加熱処理部で、温度200℃で加熱処理を行い、電子輸送層25を形成した。
(電子注入層26の形成)
引き続き、電子輸送層25が形成された各ガスバリア性フィルムの電子輸送層25上に、電子注入層26を形成した。
まず、基板を減圧チャンバーに投入し、5×10−4Paまで減圧した。あらかじめ、真空チャンバーにタンタル製蒸着ボートに用意しておいたフッ化セシウムを加熱し、厚さ3nmの電子注入層26を形成した。
(第2電極層27の形成)
引き続き、電子注入層26が形成された各ガスバリア性フィルムの電子注入層26上に、第1電極層の上に取り出し電極になる部分を除き、5×10−4Paの真空下にて第2電極層の形成材料としてアルミニウムを使用し、取り出し電極を有するように蒸着法にて、発光面積が50mm平方になるようにマスクパターンを成膜し、厚さ100nmの第2電極層27を形成した。
(裁断)
第2電極層27まで形成した各試料を、再び窒素雰囲気に移動し、規定の大きさに、紫外線レーザーを用いて裁断し、有機EL素子を作製した。
(電極リード接続)
作製した有機EL素子に、ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製の異方性導電フィルムDP3232S9を用いて、フレキシブルプリント基板(ベースフィルム:ポリイミド12.5μm、圧延銅箔18μm、カバーレイ:ポリイミド12.5μm、表面処理NiAuメッキ)を接続した。
圧着条件:温度170℃(別途熱伝対を用いて測定したACF温度140℃)、圧力2MPa、10秒で圧着を行った。
(封止)
電極リード(フレキシブルプリント基板)を接続した有機EL素子に対して、市販のロールラミネート装置を用いて封止部材を接着し、有機EL素子の試料1〜13を作製した。なお、封止部材としては、30μm厚のアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製)に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(12μm厚)をドライラミネーション用の接着剤(2液反応型のウレタン系接着剤)を用いてラミネートした(接着剤層の厚み1.5μm)ものを用意した。この際、封止部材の接着には、熱硬化性接着剤をディスペンサを使用してアルミニウム箔の接着面(つや面)に沿って厚み20μmで均一に塗布し接着剤層28を形成した。また、熱硬化接着剤としては以下のエポキシ系接着剤を用いた。
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)
ジシアンジアミド(DICY)
エポキシアダクト系硬化促進剤
その後、封止基板を、取り出し電極および電極リードの接合部を覆うようにして密着・配置して、圧着ロールを用いて圧着条件、圧着ロール温度120℃、圧力0.5MPa、装置速度0.3m/minで密着封止した。
《有機EL素子の評価》
上記で作製した有機EL素子の試料1〜13について、下記の方法に従って、耐久性の評価を行った。
〈耐久性の評価〉
(加速劣化処理)
上記で作製した有機EL素子の各試料を、60℃、90%RHの環境下で400時間の加速劣化処理を施した後、加速劣化処理を施していない有機EL素子と共に、下記の黒点に関する評価を行った。
(黒点の評価)
加速劣化処理を施した有機EL素子の試料および加速劣化処理を施していない有機EL素子に対し、それぞれ1mA/cm2の電流を印加し、24時間連続発光させた後、100倍のマイクロスコープ(株式会社モリテックス製MS−804、レンズMP−ZE25−200)でパネルの一部分を拡大し、撮影を行った。撮影画像を2mm四方に切り抜き、黒点の発生面積比率を求め、下式に従って素子劣化耐性率を算出し、下記の基準に従って耐久性を評価した。評価ランクが、◎、○であれば、実用上好ましい特性であると判定した。
◎:素子劣化耐性率が、90%以上である
○:素子劣化耐性率が、60%以上、90%未満である
△:素子劣化耐性率が、20%以上、60%未満である
×:素子劣化耐性率が、20%未満である。
以上により得られた結果を、下記の表2に示す。
上記表3に示したように、本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムは、有機EL素子の封止フィルムとして用いることが可能な、非常に高いバリア性を有してることが確認された。