JPWO2016140240A1 - ポリアミド樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01〜50質量部を含有し、相対粘度が2.3以上であり、Lab色空間におけるL値が20以上、a値が10以下、b値が20以下である。このポリアミド樹脂組成物は、相対粘度が2.2以下であるポリアミド樹脂組成物を固相重合することで得られる。

Description

本発明は、セルロース繊維とポリアミド樹脂からなり、高粘度でありながらも、換言すれば重合度が高くて高強度でありながらも、良好な色調を有する、ポリアミド樹脂組成物に関する。
ポリアミド樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ等の無機充填剤で強化した樹脂組成物が広く知られている。しかしこれらの無機充填剤にて構成された強化材を用いる場合は、多量に配合しないと機械的特性や耐熱性が改善しないという問題点や、比重が高いために得られる樹脂組成物の質量が大きくなるという問題点がある。
近年、樹脂材料の強化材としてセルロースを用いることが検討されている。セルロースには、樹木から得られるものや、稲、綿、ケナフ、バガス、アバカ、麻等の非木材資源から得られるものや、微生物が生産するバクテリアセルロース等がある。これらは、地球上に非常に多量に存在する。セルロースは機械的特性に優れており、これを樹脂中に含有させることにより、樹脂組成物の特性を向上させる効果が期待される。さらに、セルロースは、比重が無機充填材よりも小さいため、これを樹脂中に含有させて得られる樹脂組成物の質量が大きくなるという問題もない。
熱可塑性樹脂中にセルロースを含有させる方法としては、樹脂とセルロースとを溶融混合する方法が一般的である。しかしながら、この方法では、セルロースが凝集した状態のまま樹脂中に混合されるため、セルロースが均一に分散された樹脂組成物を得ることはできない。このため、樹脂組成物の特性を十分に向上させることができない。
樹脂中のセルロースの分散性を向上させる技術として、例えば、WO2011/126038には、平均繊維経が10μm以下のセルロース繊維の水分散液と、ポリアミド樹脂を構成するモノマーとを混合し、溶融重合することにより、セルロースが均一に分散されたポリアミド樹脂組成物が得られることが開示されている。JP2013−79334Aには、重合時に酸触媒を用いないことにより、色調が良好なポリアミド樹脂組成物が得られることが開示されている。
しかしながら、WO2011/126038に記載の方法では、溶融重合する時間が長いため、セルロースが分解して着色が生じるという問題がある。JP2013−79334Aに記載の方法では、ポリマーの重合度をより上げようとすると、長時間溶融状態を保持しなければならず、結果的に着色が生じることがあり、また、それにより溶融粘度が高くなって払い出しが困難である。
本発明は、かかる点に鑑み、高粘度でありながらも、つまり重合度が高くて高強度でありながらも、良好な色調を有し、また払い出し性が良好な、セルロースを含有したポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、相対粘度が特定の値のポリアミド樹脂組成物を、固相重合により高分子量化することで、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01〜50質量部を含有し、相対粘度が2.3以上であり、Lab色空間におけるL値が20以上、a値が10以下、b値が20以下である。
(2)上記(1)のポリアミド樹脂組成物であって、亜リン酸または次亜リン酸ナトリウムをさらに含有する。
(3)上記(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂がポリアミド6である。
(4)上記(1)から(3)までのいずれかのポリアミド樹脂組成物であって、セルロース繊維の平均繊維径が500nm以下である。
(5)上記(1)から(4)までのいずれかのポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、相対粘度が2.2以下であるポリアミド樹脂組成物を固相重合する。
本発明によれば、セルロースが均一に分散しており、高粘度つまり高強度でありながらも良好な色調を有し、払い出し性が良好な、ポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
本発明におけるポリアミド樹脂とは、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンと、ジカルボン酸とによって形成されるアミド結合を有する重合体をいう。
アミノカルボン酸としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸が挙げられる。
ラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムが挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンが挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸が挙げられる。
本発明におけるポリアミド樹脂は、より具体的には、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ポリアミド6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))が挙げられる。これらは、共重合体や混合物であってもよい。なかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、およびこれらの共重合体や混合物が好ましい。
本発明におけるセルロース繊維としては、木材、稲、綿、ケナフ、バガス、アバカ、麻等に由来するものが挙げられる。その他に、バクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等の生物由来のものも挙げられる。また、再生セルロース、セルロース誘導体等も挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維を含有することによって、機械的強度を向上することができる。機械的強度を十分に向上させるには、セルロース繊維を凝集させることなく、樹脂中に均一に分散させることが好ましい。セルロース繊維は、ポリアミド樹脂と接するセルロース繊維表面の水酸基が多いほど分散しやすいため、全体としての表面積が大きいことが好ましい。このため、セルロース繊維は、できるだけ微細化されたものが好ましい。
本発明の樹脂組成物を得るために用いられるセルロース繊維は、その平均繊維径が10μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。平均繊維径が10μmを超える場合、セルロース繊維の表面積が少なくなって、セルロースの分散性が低下することがある。一方、平均繊維径の下限は、セルロース繊維の生産性を考慮すると4nmであることが好ましい。溶融重合後や、樹脂組成物を成形体とした後の、セルロース繊維の平均繊維径は、用いたセルロース繊維の平均繊維径よりも小さくなる傾向がある。なぜなら、溶融重合や成形により剪断力が掛ってセルロース繊維が砕化されるためである。
平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維は、セルロース繊維を裂いてミクロフィブリル化することによって得ることができる。ミクロフィブリル化する手段としては、ボールミル、石臼粉砕機、高圧ホモジナイザー、ミキサー等の、各種粉砕装置を挙げることができる。ミクロフィブリル化したセルロース繊維の水分散液の市販品としては、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」が挙げられる。
平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維として、バクテリアが産出するバクテリアセルロースを挙げることもできる。バクテリアセルロースとしては、例えば、アセトバクター属の酢酸菌を生産菌として産出されたものが挙げられる。植物のセルロースは、セルロースの分子鎖が収束したもので、非常に細いミクロフィブリルが束になって形成されている。これに対し、酢酸菌により産出されたセルロースは、もともと幅20〜50nmのリボン状であり、植物のセルロースと比較すると極めて細い網目状を形成する。バクテリアセルロースは、バクテリアが前記セルロースとともに酢酸を産出するため、酢酸と併存することがある。その場合は、溶媒を水に置換することが好ましい。
平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維として、微細化セルロースを挙げることができる。微細化セルロースは、例えば、N−オキシル化合物と共酸化剤と臭化アルカリ金属とを含む水溶液中で、セルロース繊維を酸化させた後、水洗、解繊をおこなうことにより、製造することができる。N−オキシル化合物としては、2,2,6,6−Tetramethylpiperidine−1−oxyl radical等が挙げられる。共酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。
セルロース繊維の酸化反応は、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性の化合物を添加してpHを10付近としてから、pHの変化が見られなくなるまでおこなう。反応温度は、常温が好ましい。反応後、系内に残存するN−オキシル化合物や共酸化剤や臭化アルカリ金属を除去することが好ましい。水洗方法としては、ろ過や遠心分離による方法が挙げられる。解繊方法としては、上記のミクロフィブリル化する際の装置として例示された各種粉砕装置による方法が挙げられる。
セルロース繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。アスペクト比が10以上であることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度がより向上する。
ポリアミド樹脂組成物におけるセルロース繊維の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01〜50質量部であることが必要であり、0.05〜30質量部であることが好ましく、0.1〜20質量部であることがより好ましく、0.1〜10質量部であることがさらに好ましい。セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.01質量部未満である場合は、機械的強度を向上する効果がない。一方、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部を超える場合は、セルロース繊維を樹脂組成物中に含有させることが困難であったり、得られた樹脂組成物に着色が生じたりする場合がある。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、相対粘度が2.2以下であるポリアミド樹脂組成物を固相重合に供することにより、製造することができる。
固相重合に供するポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液とを混合し、必要に応じて触媒を添加して、溶融重合をおこなう方法が挙げられる。
溶融重合に供されるセルロース繊維の水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で撹拌することにより得ることができる。固形分量は0.01〜50質量%であることが好ましい。
ポリアミド樹脂を構成するモノマーとセルロース繊維の水分散液との混合液は、ミキサー等で撹拌された均一な分散液であることが好ましい。溶融重合は、この混合液を加熱して150〜270℃まで昇温させて、撹拌することにより、おこなうことができる。このとき、徐々に水蒸気を排出することにより、セルロース繊維の水分散液中の水分を排出することができる。溶融重合は、相対粘度が2.2以下で終了することが必要である。溶融重合後の相対粘度が2.2を超える場合、着色が生じる危険性が高い。一方、溶融重合後の相対粘度の下限は、1.3であることが好ましい。溶融重合後の相対粘度が1.3未満の場合、溶融重合後の取り扱いが困難となったり、実用上必要な重合度に達するまでの時間が長くなり、それによりセルロースが分解して、得られる樹脂組成物の粘度を高くすることができなくなったりする場合がある。
溶融重合の終了により得られたポリアミド樹脂組成物は、払い出した後、切断してペレットとすることが好ましい。ペレットは、ハンドリングの観点や下記の精練の際の効率の観点から、直径2〜5mm、長さ3〜6mmであることが好ましく、直径3〜4mm、長さ4〜5mmであることがより好ましい。
溶融重合したポリマーは、未反応のモノマーやオリゴマーを除去するため、90〜100℃の水に浸漬して、精練することが好ましい。
固相重合は、溶融重合後のポリマー、または必要に応じて精練した後のポリマーを、不活性ガス流通下または減圧下で、ポリアミド樹脂組成物の融点未満の温度で30分以上加熱することにより、おこなうことが好ましく、1時間以上加熱することにより、おこなうことがより好ましい。加熱温度が、(ポリアミド樹脂組成物の融点−75℃)未満の場合、固相重合の反応速度が遅くなることがある。一方、加熱温度がポリアミド樹脂組成物の融点付近では、ポリマーが融着したり、着色が生じたりする場合がある。
重合に際しては、重合効率を高めるため、重合触媒を用いてもよい。重合触媒は、溶融重合前、溶融重合中、精練前、精練中、固相重合前、固相重合中いずれの工程で添加してもよい。なかでも、溶融重合前に添加することが好ましい。重合触媒としては、ポリアミドの溶融重合に通常用いられるものであれば特に限定されない。中でも、リン系化合物が好ましく、亜リン酸または次亜リン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。亜リン酸または次亜リン酸ナトリウムを用いることにより、固相重合時の重合効率が大きく向上する。このため、重合触媒を用いない場合と比較して、短時間で重合度を高くすることができる。
上記の製造方法では、セルロース繊維を水分散液のまま溶融重合に供するため、セルロース繊維同士が凝集することがない。その結果、セルロース繊維が良好に分散したポリアミド樹脂組成物を得ることができる。また、樹脂組成物の融点以下の低い温度で固相重合をおこなうため、溶融重合時の粘度上昇に伴う操業性の低下や着色の発生を抑制することができる。
上述した製造方法により、得られるポリアミド樹脂組成物の相対粘度を2.3以上とすることができ、好ましくは、2.5以上とすることができる。また、得られるポリアミド樹脂組成物の色彩に関し、Lab色空間におけるL値を20以上、a値を10以下、b値を20以下とすることができ、好ましくは、L値を30以上、a値を7以下、b値を20以下とすることができ、より好ましくは、L値を40以上、a値を5以下、b値を20以下とすることができる。L値が20未満であると、ほぼ黒色の色味になり、a値が10より大きいと赤みがかった色味になり、b値が20より大きいと黄みがかった色味になる。
ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径は、500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがいっそう好ましい。ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径が500nm以下であることは、樹脂組成物中においてセルロース繊維が凝集することなく均一に分散されていることを意味する。これによって、曲げ強度や曲げ弾性率等の機械的特性に優れた樹脂組成物が得られる。またセルロース繊維の含有量が比較的少量であっても、機械的特性が向上したポリアミド樹脂組成物が得られる。このようにセルロース繊維が均一に分散されているポリアミド樹脂組成物は、上述のようにポリアミド樹脂を構成するモノマーとセルロース繊維の水分散液との均一な混合分散液を溶融重合することによって得られる。
ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃剤、難燃剤、相溶化剤等が含有されていてもよい。
ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポリアミド樹脂以外の他の重合体が含有されていてもよい。他の重合体としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形することにより、成形体とすることができる。射出成形に用いる射出成形機としては、特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化され、その後に成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物の融点以上であることが好ましく、(融点+100℃)未満であることが好ましい。射出成形に供されるポリアミド樹脂組成物は、十分に乾燥していることが好ましい。水分率が高いポリアミド樹脂組成物では、射出成形機のシリンダー内で発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。このため、射出成形に供されるポリアミド樹脂組成物の水分率は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、良好な色調を有しつつ、高粘度であることにより優れた機械的強度を有する。このため、本発明のポリアミド樹脂組成物は、自動車用途、電気電子機器用途、農業・水産用途、医療用機器用途、雑貨等に好適に供することができる。
自動車用途としては、例えば、バンパー等のボディ、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、ランプリフレクター、ブラッシホルダー、フュエルポンプモジュール部品、デストリビューター、シートリードバルブ、ワイパーモーターギア、スピードメーターフレーム、ソレノイドイグニッションコイル、オルタネーター、スイッチ、センサー部品、タイロットエンドスタビライザー、ECUケーブル、排ガスコントロールバルブ、コネクター、排気ブレーキの電磁弁、エンジンバルブ、ラジエータファン、スタータ、インジェクタ、エンジン周りのパネル、エンジンカバー、モーターカバーが挙げられる。
電気電子機器用途としては、例えば、パソコン、携帯電話、音楽プレーヤー、カーナビゲーション、SMTコネクター、ICカードコネクター、光ファイバーコネクター、マイクロスイッチ、コンデンサー、チップキャリア、コイル封止、トランジスター封止、ICソケット、スイッチ、リレー部品、キャパシターハウジング、サーミスタ、各種コイルボビン、FDDメインシャーシ、テープコーダーヘッドマウント、ステッピングモーター、軸受、シェーバ刃台、液晶プロジェクションTVのランプハウジング、電子レンジ部品、電磁調理器のコイルベース、ドライヤーノズル、スチームドライヤー部品、スチームアイロン部品、DVDピックアップベース、整流子基台、回路基板、IC、液晶冶具、フードカッター、DATシリンダーベース、コピー機用ギア、プリンタ定着ユニット部品、液晶パネル導光板、通信機器(アンテナ)、半導体用封止材料、パワーモジュール、ヒューズホルダー、ウォーターポンプインペラー、半導体製造装置のパイプ、ゲーム機用コネクター、エアコン用ドレインパン、生ごみ処理機内容器、掃除機モーターファンガイド、電子レンジ用ローラーステイ・リング、キャップスタンモーター軸受、街路灯、水中ポンプ、モーターインシュレータ、モーターブラシホルダー、ブレーカー部品、パソコン筐体、携帯電話筐体、OA機器筐体部品、ガスメーターが挙げられる。
農業、水産用途としては、例えば、コンテナー、栽培容器、浮きが挙げられる。
医療用機器用途としては、例えば、注射器、点滴容器が挙げられる。
雑貨としては、例えば、皿、コップ、スプーン、植木鉢、クーラーボックス、団扇、玩具、ボールペン、定規、クリップ、ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤、給湯機器ポンプケーシング、インペラー、ジョイント、バルブ、水栓器具が挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、Tダイ押出、インフレーション成形等の公知の製膜方法により、フィルムやシートに成形することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなるフィルムやシートは、例えば、フィルムコンデンサ、FPD用離形フィルム、車載モーター絶縁フィルムとして用いることができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、化学発泡剤を用いた手法や、超臨界ガスや不活性ガスを用いた手法により、発泡体に成形することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる発泡体は、電気・電子機器分野や、自動車分野に用いることができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、溶融紡糸法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング法、メルトブロー法等の公知の紡糸方法により、各種繊維や各種不織布に成形することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる繊維や不織布は、電気集塵用バグフィルター、モーター結束糸、被服用心材、乾式不織布、フエルトとして用いることができる。
ポリアミド樹脂組成物の物性は、以下の方法により測定した。
(1)相対粘度
ポリアミド樹脂組成物を、96%硫酸に、セルロースを除去後のポリアミドの濃度が1g/dLになるように溶解し、ウベローベ型粘度計を用いて、25℃で測定した。
(2)溶融重合物の払い出し性
溶融重合物を窒素圧0.7MPaで押出し、投入したモノマーから計算される理論収量に対して、収量が80%以上の場合「良好」と判断し、収量が80%未満の場合「不良」と判断した。
(3)色調(L値、a値、b値)
ポリアミド樹脂組成物のペレットを日本電色社製の分光色差計SE−6000の付属品であるペレット測定用セル(直径35mm×高さ15mm)に充填し、分光色差計SE−6000を用いて反射を測定した。光源はC−2光源とした。
(4)曲げ強度、曲げ弾性率
ポリアミド樹脂組成物を十分に乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製、IS−80G型)を用い、ASTM規格の1/8インチ3点曲げ試験片用金型を用いて成形をおこない、長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3.2mm(1/8インチ)の試験片を作製した。
得られた試験片を用いて、ASTM D790に準拠して、曲げ強度および曲げ弾性率の測定をおこなった。雰囲気温度は23℃とし、変形速度は1mm/分とした。
(5)セルロース繊維の平均繊維径
溶融重合に供するセルロース繊維については、必要に応じて凍結乾燥をおこない、電界放射型走査型電子顕微鏡(日立製作所社製S−4000)を用いて観察をおこなった。
ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維については、凍結ウルトラミクロトームを用いて厚さ100nmの切片を採取し、OsO4(四酸化オスミウム)で切片染色をおこない、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM−1230)を用いて観察をおこなった。
得られた電子顕微鏡画像から、長手方向に対する垂直方向の長さを測定し、最大のものを繊維径とした。同様にして10本のセルロース繊維(単繊維)について繊維径を測定し、10本の平均値を算出したものを、平均繊維径とした。
繊維径が大きいものについては、セルロース繊維そのもの、または、ポリアミド樹脂組成物のペレットをミクロトームを用いて厚さ10μmの切片を切り出したものについて、実体顕微鏡(OLYMPUS SZ−40)を用いて観察をおこない、電子顕微鏡画像を用いた場合と同様にして、平均繊維径を求めた。
実施例1
[セルロース繊維の水分散液の調整]
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を用いた。この水分散液に精製水を加えてミキサーで撹拌することで、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
[溶融重合]
得られたセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε−カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合した。この混合分散液を撹拌し、0.7MPaの圧力に制圧しながら、4時間かけて240℃に昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃にて0.5時間溶融重合をおこなった。
溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。
[精練、固相重合]
得られたペレットを95℃の熱水で12時間処理することで精練をおこない、その後に100℃で12時間乾燥させた。
乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合に供した。
実施例2〜8、比較例2
[溶融重合]
実施例1と比べて、セルロース繊維の含有量、重合触媒の使用の有無と使用時にはその種類および含有量、反応時間を、表1に記載のとおりに変更した。それ以外は実施例1と同様に溶融重合をおこなった。
溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。
[精練、固相重合]
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、精練、固相重合をおこなった。
実施例9
[セルロース繊維の水分散液の調整]
0.5質量%グルコース、0.5質量%ポリペプトン、0.5質量%酵母エキス、0.1質量%硫酸マグネシウム7水和物からなる組成の培地50mLを、200mL容三角フラスコに分注し、オートクレーブで120℃、20分間蒸気滅菌した。これに試験管斜面寒天培地で生育させたGluconacetobacter xylinus (NBRC 16670)を1白金耳接種し、30℃で7日間静置培養した。7日後、培養液の上層に白色のゲル膜状のバクテリアセルロースが生成した。
得られたバクテリアセルロースをミキサーで破砕後、水で浸漬、洗浄を繰り返すことにより、水置換をおこない、セルロース繊維の含有量が4.1質量%の水分散液を調製した。セルロース繊維の平均繊維径は60nmであった。
[溶融重合]
実施例1と比べて、得られたセルロース繊維の水分散液24.4質量部と、ε−カプロラクタム100質量部を用いた点を相違させた。それ以外は実施例1と同様にして溶融重合をおこない、ペレットを作製した。
[精練、固相重合]
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、精練、固相重合をおこなった。
実施例10
[セルロース繊維の水分散液の調整]
セルロース(定性ろ紙No.1)2gを、0.025gの2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルと、0.25gの臭化ナトリウムとを溶解した水100mLに分散させた。その後、共酸化剤としての13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が4.3mmoLとなるように加えた。pHスタットでpHが10.5になるように水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHが変化しなくなるところで反応を停止した。内容物を遠心分離法により水で4回洗浄し、家庭用ミキサーで30分間解繊をおこない、セルロース繊維の含有量が1.6質量%の水分散液を調製した。得られたセルロース繊維の平均繊維径は10nmであった。
[溶融重合]
得られたセルロース繊維の水分散液95質量部と、ε−カプロラクタム150質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで撹拌し、混合した。この混合分散液を撹拌し、0.7MPaの圧力に制圧しながら、6時間かけて240℃に昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃にて0.5時間溶融重合をおこなった。上記のε−カプロラクタムの仕込量(150質量部)を100質量部に換算したときの各成分の換算仕込量は、表1に記載のとおりであった。
溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。
[精練、固相重合]
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、精練、固相重合をおこなった。
比較例1
[溶融重合]
溶融重合のための混合分散液におけるセルロース繊維の含有量を、ε−カプロラクタム100質量部に対して60質量部になるように調整した。この混合分散液を用い、実施例1に比べて反応時間を1.5時間に変更するように設定した。それ以外は実施例1と同様として、溶融重合を行おうとしたが、セルロース繊維の含有量が本発明で規定する範囲よりも多かったため、セルロースが分離して、セルロースを含有した重合物を得ることができなかった。
比較例3〜6
[溶融重合]
実施例1と比べて、セルロース繊維の含有量、重合触媒の使用の有無と使用時にはその種類および含有量、反応時間を、表1に記載のとおりに変更した。それ以外は実施例1と同様して、溶融重合をおこなった。
溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。
[精練]
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、精練をおこなった。
比較例7
[セルロース繊維の水分散液の調整]
セルロース(定性ろ紙No.1)2gを、0.025gの2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルと、0.25gの臭化ナトリウムとを溶解した水100mLに分散させた。その後、共酸化剤としての13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が4.3mmoLとなるように加えた。pHスタットでpHが10.5になるように水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHが変化しなくなるところで反応を停止した。内容物を遠心分離法により水で4回洗浄し、家庭用ミキサーで30分間解繊をおこない、セルロース繊維の含有量が1.6質量%の水分散液を調製した。得られたセルロース繊維の平均繊維径は10nmであった。
[溶融重合]
得られたセルロース繊維の水分散液95質量部と、ε−カプロラクタム150質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで撹拌し、混合した。さらに重合触媒として亜リン酸を0.3質量部添加後、この混合分散液を撹拌し、0.7MPaの圧力に制圧しながら、6時間かけて240℃に昇温した。そののち大気圧まで放圧し、240℃にて1.0時間溶融重合をおこなった。上記のε−カプロラクタムの仕込量(150質量部)を100質量部に換算したときの各成分の換算仕込量は、表1に記載のとおりであった。
溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。
[精練]
得られたペレットを、95℃の熱水で12時間処理し、精練をおこない、乾燥させた。
実施例1〜10、比較例1〜7の溶融重合条件、溶融重合物の特性値、溶融重合物の払い出し性、固相重合条件、固相重合物の特性値を表1に示す。
Figure 2016140240
実施例1〜10のポリアミド樹脂組成物は、いずれも、相対粘度が2.3以上であって、L値が20以上、a値が10以下、b値が20以下であった。
実施例1と実施例5、6の対比より、重合触媒として、亜リン酸または次亜リン酸ナトリウムを用いることにより、同時間固相重合した場合の固相重合後の相対粘度が高くなることがわかる。
比較例2のポリアミド樹脂組成物は、固相重合に用いるポリアミド樹脂組成物の相対粘度が本発明で規定する好ましい範囲よりも高かったため、a値が10を超えており、b値が20を超えていた。
比較例3のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維を用いなかったため、曲げ強度が低かった。
比較例4〜7のポリアミド樹脂組成物は、いずれも溶融重合にのみにより重合度を上げたため、払い出し性が悪く、さらにb値が20を超えていた。なかでも比較例6のポリアミド樹脂組成物は、溶融重合で可能な上限の粘度のものである。これ以上重合時間を延長してもセルロースが分解され、粘度は上昇しなかった。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01〜50質量部を含有し、前記ポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の相対粘度が2.3以上であり、Lab色空間におけるL値が20以上、a値が10以下、b値が20以下である。
(5)上記(1)から(4)までのいずれかのポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、ポリアミド樹脂の相対粘度が2.2以下であるポリアミド樹脂組成物を固相重合する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂の相対粘度が2.2以下であるポリアミド樹脂組成物を固相重合に供することにより、製造することができる。
上述した製造方法により、得られるポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の相対粘度を2.3以上とすることができ、好ましくは、2.5以上とすることができる。また、得られるポリアミド樹脂組成物の色彩に関し、Lab色空間におけるL値を20以上、a値を10以下、b値を20以下とすることができ、好ましくは、L値を30以上、a値を7以下、b値を20以下とすることができ、より好ましくは、L値を40以上、a値を5以下、b値を20以下とすることができる。L値が20未満であると、ほぼ黒色の色味になり、a値が10より大きいと赤みがかった色味になり、b値が20より大きいと黄みがかった色味になる。
(1)相対粘度
ポリアミド樹脂組成物を、96%硫酸に、セルロースを除去後のポリアミドの濃度が1g/dLになるように溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて、25℃で測定した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01〜50質量部を含有し、前記ポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の相対粘度が2.3以上であり、前記ポリアミド樹脂組成物はLab色空間におけるL値が20以上、a値が10以下、b値が20以下である。
Figure 2016140240

Claims (5)

  1. ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01〜50質量部を含有し、相対粘度が2.3以上であり、Lab色空間におけるL値が20以上、a値が10以下、b値が20以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
  2. 亜リン酸または次亜リン酸ナトリウムをさらに含有することを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. ポリアミド樹脂がポリアミド6であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. セルロース繊維の平均繊維径が500nm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. 請求項1から4までのいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を製造するに際し、相対粘度が2.2以下であるポリアミド樹脂組成物を固相重合することを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
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