以下、本発明の交流回転機の制御装置および電動パワーステアリングの制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における交流回転機の制御装置の全体構成を示す図である。また、図2は、本発明の実施の形態1における交流回転機として用いられる3相交流発電機の構成を説明するための図である。図1に示した交流回転機1aは、図2のように、中性点N1で接続された第1の3相巻線U1、V1、W1、および中性点N2で接続された第2の3相巻線U2、V2、W2が、電気的に接続されることなく回転機の固定子に納められている3相交流回転機である。
なお、U1巻線とU2巻線、V1巻線とV2巻線、W1巻線とW2巻線のそれぞれには、30度の位相差がある。図2では、交流回転機1aとして、第1の3相巻線と第2の3相巻線がともにY結線の場合を例示しているが、本発明は、Δ結線の場合にも適用可能である。
直流電源2aは、第1の電圧印加器3aに直流電圧Vdc1を出力し、直流電源2bは、第2の電圧印加器3bに直流電圧Vdc2を出力する。これらの直流電源2a、2bとしては、バッテリー、DC−DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等、直流電圧を出力する全ての機器が含まれる。また、直流電源2a、2bのいずれか1つを用いて、第1の電圧印加器3aおよび第2の電圧印加器3bに直流電圧を出力する構成も、本発明の範囲に含まれる。
第1の電圧印加器3aは、逆変換回路(インバータ)を用いて、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’をPWM変調し、半導体スイッチSup1、Sun1、Svp1、Svn1、Swp1、Swn1(以下の説明では、これら6つの半導体スイッチを、半導体スイッチSup1〜Swn1と表現する)をオンオフする。これにより、第1の電圧印加器3aは、直流電源2aから入力した直流電圧Vdc1を交流に電力変換して、交流回転機1aの第1の3相巻線U1、V1、W1に、交流電圧を印加する。
ここで、半導体スイッチSup1〜Swn1としては、IGBT、バイポーラトランジスタ、MOSパワートランジスタ等の半導体スイッチと、ダイオードを逆並列に接続したものを用いる。
第2の電圧印加器3bは、逆変換回路(インバータ)を用いて、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’をPWM変調し、半導体スイッチSup2、Sun2、Svp2、Svn2、Swp2、Swn2(以下の説明では、これら6つの半導体スイッチを、半導体スイッチSup2〜Swn2と表現する)をオンオフする。これにより、第2の電圧印加器3bは、直流電源2bから入力した直流電圧Vdc2を交流に電力変換して、交流回転機1aの第2の3相巻線U2、V2、W2に、交流電圧を印加する。
ここで、半導体スイッチSup2〜Swn2としては、IGBT、バイポーラトランジスタ、MOSパワートランジスタ等の半導体スイッチと、ダイオードを逆並列に接続したものを用いる。
第1の電流検出器4aは、シャント抵抗や計器用変流器(CT)等の電流センサを用いて、第1の電力変換器3aの第1の直流母線を流れる電流Idc1を検出する。図3は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチSup1〜Swn1のオンオフ状態に応じた第1の電圧ベクトルV0(1)〜V7(1)とIdc1との関係を示した図である。なお、図3に示したSup1〜Swn1は、「1」がスイッチオン、「0」がスイッチオフの状態をそれぞれ示すものとする。
第1の電流検出器4aは、図3に示した関係に基づいて、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出する。なお、第1の電流検出器4aは、Idc1より、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1のうち2相分を検出し、残りの1相は、三相電流の和が零になることを利用して、演算によって求めてもよい。
第2の電流検出器4bは、シャント抵抗や計器用変流器(CT)等の電流センサを用いて、第2の電力変換器3bの第2の直流母線を流れる電流Idc2を検出する。図4は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチSup2〜Swn2のオンオフ状態に応じた第2の電圧ベクトルV0(2)〜V7(2)とIdc2に等しい電流との関係を示した図である。なお、図4に示したSup2〜Swn2は、「1」がスイッチオン、「0」がスイッチオフの状態をそれぞれ示すものとする。
第2の電流検出器4bは、図4に示した関係に基づいて、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出する。なお、第2の電流検出器4bは、Idc2より、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2のうち2相分を検出し、残りの1相は、三相電流の和が零になることを利用して、演算によって求めてもよい。
また、図3に示した第1の電圧ベクトルにおけるかっこ内の数字(1)、および図4に示した第2の電圧ベクトルにおけるかっこ内の数字(2)は、第1の電圧ベクトルと第2の電圧ベクトルを判別するためのものであり、第1の電圧指令に基づく第1の電圧ベクトルには、(1)が付され、第2の電圧指令に基づく第2の電圧ベクトルには、(2)が付されている。
第1の検出可否判定器12aは、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて、第1の3相電流が検出可能であるか否かを判定し、第1の検出可否判定信号flag_1を出力する。
また、第2の検出可否判定器12bは、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’に基づいて、第2の3相電流が検出可能であるか否かを判定し、第2の検出可否判定信号flag_2を出力する。
続いて、制御部5aについて説明する。座標変換器6aは、第1の電流検出器4aより検出された第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を、交流回転機1aの回転位置θに基づいて回転座標上の電流に変換し、回転二軸上における第1巻線の電流Id1、Iq1を演算する。
座標変換器6bは、第2の電流検出器4bで検出された第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2を、交流回転機1aの回転位置θから30度減算した位置θ−30に基づいて回転座標上の電流に変換し、回転二軸上における第2巻線の電流Id2、Iq2を演算する。
切替器7aは、第1の検出可否判定信号flag_1に基づいて、第1の3相電流が検出可能と判定された場合には、第1巻線の電流Id1、Iq1を、それぞれ回転二軸座標上の電流Id1’、Iq1’として出力するように切り替えられる。また、切替器7aは、第1の検出可否判定信号flag_1に基づいて、第1の3相電流が検出不可能と判定された場合には、第2巻線の電流Id2、Iq2を、それぞれ回転二軸座標上の電流Id1’、Iq1’として出力するように切り替えられる。
また、切替器7aは、第2の検出可否判定信号flag_2に基づいて、第2の3相電流が検出可と判定された場合には、第2巻線の電流Id2、Iq2を、それぞれ回転二軸座標上の電流Id2’、Iq2’として出力するように切り替えられる。また、切替器7aは、第2の検出可否判定信号flag_2に基づいて、第2の3相電流が検出不可能と判定された場合には、第1巻線の電流Id1、Iq1を、それぞれ回転二軸座標上の電流Id2’、Iq2’として出力するように切り替えられる。
ここで、回転二軸座標上の電流Id1’、Iq1’、および回転二軸座標上の電流Id2’、Iq2’のそれぞれは、後述する回転二軸座標上の電圧指令Vd1、Vq1、および回転二軸座標上の電圧指令Vd1、Vq1を演算するために用いられる電流検出値に相当する。
なお、ここでは、検出不可能となった側の3相電流として、検出可能な側の巻線の3相電流そのものを用いたが、他の推定方法によって求めてもよい。
減算器8aは、交流回転機1aのd軸電流指令Id*と、切替器7aから出力された回転二軸座標上の電流Id1’との偏差dId1を演算する。また、減算器8bは、交流回転機1aのq軸電流指令Iq*と、切替器7aから出力された回転二軸座標上の電流Iq1’との偏差dIq1を演算する。
また、減算器8cは、交流回転機1aのd軸電流指令Id*と、切替器7aから出力された回転二軸座標上の電流Id2’との偏差dId2を演算する。さらに、減算器8dは、交流回転機1aのq軸電流指令Iq*と、切替器7aから出力された回転二軸座標上の電流Iq2’との偏差dIq2を演算する。
制御器9aは、P制御器やPI制御器を用いて、偏差dId1を零に制御するように、回転二軸座標上の電圧指令Vd1を演算する。また、制御器9bは、P制御器やPI制御器を用いて、偏差dIq1を零に制御するように、回転二軸座標上の電圧指令Vq1を演算する。
また、制御器9cは、P制御器やPI制御器を用いて、偏差dId2を零に制御するように、回転二軸座標上の電圧指令Vd2を演算する。さらに、制御器9dは、P制御器やPI制御器を用いて、偏差dIq2を零に制御するように、回転二軸座標上の電圧指令Vq2を演算する。
座標変換器10aは、回転二軸座標上の電圧指令Vd1、Vq1を、交流回転機1aの回転位置θに基づいて3相交流座標へ座標変換し、第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を演算する。
また、座標変換器10bは、回転二軸座標上の電圧指令Vd2、Vq2を、交流回転機1aの回転位置θから30度減算した位置θ−30に基づいて3相交流座標へ座標変換し、第2の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2を演算する。
オフセット演算器11aは、第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1に対して、下式(1)〜(3)に示すように、オフセット電圧Voffset1を加算し、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’として出力する。
Vu1’=Vu1+Voffset1 (1)
Vv1’=Vv1+Voffset1 (2)
Vw1’=Vw1+Voffset1 (3)
オフセット演算器11bは、第2の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2に対して、下式(4)〜(6)に示すように、オフセット電圧Voffset2を加算し、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’として出力する。
Vu2’=Vu2+Voffset2 (4)
Vv2’=Vv2+Voffset2 (5)
Vw2’=Vw2+Voffset2 (6)
続いて、第1の電圧指令、第2の電圧指令と、第1の検出可否判定器12aの動作について、詳細に説明する。図5は、本発明の実施の形態1において、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づく第1の電圧指令ベクトルV1*と、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’に基づく第2の電圧指令ベクトルV2*を示した説明図である。図5に示すように、第1の電圧指令ベクトルV1*および第2の電圧指令ベクトルV2*のそれぞれは、U(1)−V(1)−W(1)軸、U(2)−V(2)−W(2)軸を回転するベクトルとなる。
なお、図5に示したかっこ内の数字は、第1巻線に対応した軸と第2巻線に対応した軸を分けて示すためのものである。具体的には、(1)がついているU(1)、V(1)、W(1)は、それぞれ第1巻線のU相、V相、W相に対応した軸を示しており、(2)がついているU(2)、V(2)、W(2)は、それぞれ第2巻線のU相、V相、W相に対応した軸を示している。ここで、U(1)軸を基準とした場合の第1の電圧指令ベクトルV1*と第2の電圧指令ベクトルV2*との位相角は、ともにθvであり、位相差はない。
図6は、本発明の実施の形態1における第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1、および第2の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2の波形図である。先の図5に示したU(2)、V(2)、W(2)軸は、それぞれU(1)、V(1)、W(1)軸に対し30度位相が遅れている。従って、図6に示すように、第2の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2は、第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1に比べて30度位相が遅れる。
図6において、横軸は、U(1)軸を基準とした電圧位相角θvである。よって、第1巻線と第2巻線に30度の位相差を有する交流回転機1aに対して、第1の電圧指令と第2の電圧指令は、30度の位相差を有する。また、第1巻線と第2巻線に30+60×N(N:整数)度の位相差を有する交流回転機に対しても、同様に、第1の電圧指令と第2の電圧指令は、30+60×N度の位相差を有する。
図7は、本発明の実施の形態1における第1の電圧印加器3aに関して、電圧指令と、各相上側アーム素子がオンする割合との関係を説明するための図である。図7(a)は、図6に示した第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1であり、座標変換器10aの出力である。また、図7(b)は、オフセット演算器11aの出力である第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’であり、上式(1)〜(3)によって演算される。
なお、上式(1)〜(3)におけるオフセット電圧Voffset1は、第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1の最大値Vmax1、最小値Vmin1を用いて、下式(7)で与えている。
Voffset1=−0.5(Vmin1+Vmax1) (7)
ただし、第1の電圧印加器3aが出力できる相電圧の電圧出力範囲は、0〜母線電圧Vdc1である。従って、電圧出力範囲の幅を、第1の電圧印加器3aが出力可能なVdc1以内とすべく、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’は、−0.5Vdc1未満、0.5Vdc1超となる場合には、それぞれ−0.5Vdc1、0.5Vdc1で制限されている。
また、Voffset1として、上式(7)以外に、2相変調方式や3次高調波重畳方式として知られるような、他のオフセット電圧演算方法を用いてもよい。
図7(c)は、第1の電圧印加器3aにおける、各相上側アーム素子(Sup1、Svp1、Swp1)がオンする割合を示すオンデューティDsup1、Dsvp1、Dswp1である。これらのオンデューティDsup1、Dsvp1、Dswp1は、それぞれVu1’、Vv1’、Vw1’を用いて
Dsxp1=0.5+Vx1’/Vdc1
より求める。ただし、x=U、V、Wである。例えば、Dsup1が0.6のとき、第1の電圧印加器3aは、スイッチング周期TswにおいてSup1のオン割合0.6とする。
ここで、第1の電圧印加器3aにおいては、各相毎に、常時、上側アーム素子(Sup1、Svp1、Swp1)と下側アーム素子(Sup1、Svp1、Swp1)のいずれか一方がオンする。従って、各相上側アーム素子のオンデューティ(Dsup1、Dsvp1、Dswp1)と、下側アーム素子のオンデューティ(Dsun1、Dsvn1、Dswn1)との間には、下式(8)〜(10)の関係がある。
Dsup1+Dsun1=1 (8)
Dsvp1+Dsvn1=1 (9)
Dswp1+Dswn1=1 (10)
よって、例えば、Dsup1が0.6の場合、上式(8)より、Dsun1は0.4となる。以上より、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいた第1の電圧印加器3aにおける各スイッチング素子のオンデューティが定まる。
図8は、本発明の実施の形態1における第2の電圧印加器3bに関して、電圧指令と、各相上側アーム素子がオンする割合との関係を説明するための図である。図8(a)は、図6に示した第2の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2であり、座標変換器10bの出力である。また、図8(b)は、オフセット演算器11bの出力である第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’であり、上式(4)〜(6)によって演算される。
なお、上式(4)〜(6)におけるオフセット電圧Voffset2は、第2の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2の最大値Vmax2、最小値Vmin2を用いて、下式(11)で与えている。
Voffset2=−0.5(Vmin2+Vmax2) (11)
ただし、第2の電圧印加器3bが出力できる相電圧の電圧出力範囲は、0〜母線電圧Vdc2である。従って、電圧出力範囲の幅を、第2の電圧印加器3bが出力可能な Vdc2以内とすべく、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’は、−0.5Vdc2未満、0.5Vdc2超となる場合には、それぞれ−0.5Vdc2、0.5Vdc2で制限されている。
また、Voffset2として、上式(11)以外に、2相変調方式や3次高調波重畳方式として知られるような、他のオフセット電圧演算方法を用いてもよい。
図8(c)は、第2の電圧印加器3bにおける、各相上側アーム素子(Sup2、Svp2、Swp2)がオンする割合を示すオンデューティDsup2、Dsvp2、Dswp2である。これらのオンデューティDsup2、Dsvp2、Dswp2は、それぞれVu2’、Vv2’、Vw2’を用いて
Dsxp2=0.5+Vx2’/Vdc2
より求める。ただし、x=U、V、Wである。例えば、Dsup1が0.6のとき、第1の電圧印加器3aは、スイッチング周期TswにおいてSup1のオン割合0.6とする。
ここで、第2の電圧印加器3bにおいては、各相毎に、常時、上側アーム素子(Sup2、Svp2、Swp2)と下側アーム素子(Sun2、Svn2、Swn2)のいずれか一方がオンする。従って、各相上側アーム素子のオンデューティ(Dsup2、Dsvp2、Dswp2)と、下側アーム素子のオンデューティ(Dsun2、Dsvn2、Dswn2)との間には、下式(12)〜(14)の関係がある。
Dsup2+Dsun2=1 (12)
Dsvp2+Dsvn2=1 (13)
Dswp2+Dswn2=1 (14)
よって、例えば、Dsup2が0.6の場合、上式(12)より、Dsun2は0.4となる。以上より、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’に基づいた第2の電圧印加器3bにおける各スイッチング素子のオンデューティが定まる。
図9は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する動作説明図である。具体的には、第1の電圧印加器3aの半導体スイッチSup1、Svp1、Swp1、および第2の電圧印加器3bの半導体スイッチSup2、Svp2、Swp2のオンオフパターンと、電流検出器4a、4bにおける、スイッチング信号の周期(PWM周期)Tsw内での電流検出タイミングとの関係を示した図である。
なお、Sun1、Svn1、Swn1、およびSun2、Svn2、Swn2は、それぞれSup1、Svp1、Swp1、およびSup2、Svp2、Swp2と反転(1ならば0、0ならば1、ただしデッドタイム期間を除く)の関係にあるため、図示を省略している。
図9においては、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に関して、大きい順に第1最大相電圧Emax1、第1中間相電圧Emid1、第1最小相電圧Emin1としたとき、下式(15)〜(17)の関係があるものとする
Emax1=Vu1’ (15)
Emid1=Vv1’ (16)
Emin1=Vw1’ (17)
同様に、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’に関して、大きい順に第2最大相電圧Emax2、第2中間相電圧Emid2、第2最小相電圧Emin2としたとき、下式(18)〜(20)の関係があるものとする。
Emax2=Vu2’ (18)
Emid2=Vv2’ (19)
Emin2=Vw2’ (20)
時刻t1(n)において、Sup1、Sup2を1、かつSvp1、Swp1、Svp2、Swp2を0とし、時刻t1(n)からΔt1経過後の時刻t2(n)まで継続する。図3、図4より、時刻t1(n)〜t2(n)において、第1の電圧ベクトルは、V1(1)、第2の電圧ベクトルは、V1(2)である。電流検出器4a、4bは、時刻t1(n)〜t2(n)における、時刻ts1−1(n)にて、Idc1、Idc2を検出する。
第1の電圧印加器3aや第2の電圧印加器3bのデッドタイム時間と、第1の電流検出器がIdc1を検出する、あるいは第2の電流検出器がIdc2を検出するのに要する時間(例えば、検出波形に含まれるリンギングが収束するのに要する時間やサンプルホールドに要する時間)の和を「第1の所定値」とした場合、ずらし時間Δt1は、その「第1の所定値」以上に設定される。
図3より、時刻t1(n)〜t2(n)においては、第1の電圧ベクトルは、V1(1)であり、時刻ts1−1(n)で検出されたIdc1は、Iu1に等しい。また、図4より、時刻t1(n)〜t2(n)においては、第2の電圧ベクトルは、V1(2)であり、時刻ts1−1(n)で検出されたIdc2は、Iu2に等しい。
次に、時刻t2(n)において、Svp1、Svp2を1とし、そのスイッチングパターンを時刻t2(n)からΔt2経過後の時刻t3(n)まで継続する。図3、図4より、時刻t2(n)〜t3(n)において、第1の電圧ベクトルは、V2(1)、第2の電圧ベクトルは、V2(2)である。電流検出器4a。4bは、時刻t2(n)〜t3(n)における、時刻ts1−2(n)にて、再度、Idc1、Idc2を検出する。ずらし時間Δt2は、ずらし時間Δt1と同様に「第1の所定値」以上に設定される。
図3より、時刻t2(n)〜t3(n)においては、第1の電圧ベクトルは、V2(1)であり、時刻ts1−2(n)で検出されたIdc1は、−Iw1に等しい。また、図4より、時刻t2(n)〜t3(n)においては、第2の電圧ベクトルは、V2(2)であり、時刻ts1−2(n)で検出されたIdc2は、−Iw2に等しい。
以上より、第1巻線の電流Iu1、Iw1、第2巻線の電流Iu2、Iw2が検出できたので、三相電流の和が零なることを利用すると、第1の3相電流Iu1、Iv1(=−Iu1−Iw1)、Iw1、第2の3相電流Iu2、Iv2(=−Iu2−Iw2)、Iw2を検出できる。
そして、時刻t3(n)にて、Swp1、Swp2を1とする。Sup1〜Swp2のパルス幅(「1」を継続する時間)は、各スイッチに対応するオンデューティDsup1、Dswp2とスイッチング周期Tswとの乗算値によって定まる。
以上より、本実施の形態1では、第1最大相電圧Emax1に対応する相の上側アーム素子のスイッチ、第1中間相電圧Emid1に対応する相の上側アーム素子のスイッチ、第1最小相電圧Emin1に対応する相の上側アーム素子のスイッチの順に、第1の所定値以上に設定されたΔt1やΔt2だけ時刻をずらしてオンしている。
そして、このようなスイッチングにより、図3に示す、Idc1から、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1のうち、2相を検出できる2種類の第1の電圧ベクトルを形成し、図4に示す、Idc2から、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2のうち、2相を検出できる2種類の第2の電圧ベクトルを形成する。
しかしながら、第1中間相電圧Emid1に対応する相の電圧指令値によっては、Idc1から第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1のうち、2相を検出できる2種類の第1の電圧ベクトルを形成することができず、結果として、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出することができない場合がある。
例えば、図10は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図9とは別の動作説明図であり、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出することができない場合を例示している。
図10では、Vv1’が小さく、Dsvp1・TswがΔt2より小さくなった状態を示している。この状態では、時刻t2(n)でSvp1をオンすると、時刻t3(n)よりも前にオフしてしまい、第1の電圧ベクトルV2(1)がずらし時間Δt2の区間に渡って形成できない。
また、図11は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図9、図10とは別の動作説明図であり、図10と同様に、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出することができない場合を例示している。
図11では、Vv1’が大きく、Dsvp1・TswがTsw−Δt1より大きくなった状態を示している。この状態では、スイッチング周期Tswが終了する時刻t4(n)でSvp1をオフした場合においても、時刻t2(n)よりも前でSvp1をオンしなければ、Dsvp1・Tswに対応したパルス幅が出せない。この結果として、V1(1)がずらし時間Δt1の区間に渡って形成できない。
図12は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図10、図11とは別の動作説明図であり、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出することができない場合を例示している。第2の電圧印加器3bについても、同様に、図12に示すように、Vv2’が小さい場合、V2(2)がずらし時間Δt2の区間に渡って形成できない。
また、図13は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図12とは別の動作説明図であり、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出することができない場合を例示している。図13に示すように、Vv2’が大きい場合、V1(2)がずらし時間Δt1の区間に渡って形成できない。
この課題は、特許文献1に記載されたスイッチング周期(特許文献1における制御周期)Tswを増大させることで解決できる。ずらし時間Δt1やずらし時間Δt2を固定時間とすると、Tswを増大させることで、Tswに占めるずらし時間Δt1やずらし時間Δt2の割合が低下する。このため、先に述べた中間相電圧が小さくDsvp1が小さい場合や、中間相電圧が大きくDsvp1が大きい場合にも、電流検出が可能となる。
しかしながら、Tswを増大させると、Tswの逆数で与えられるスイッチング周波数が低下し、その周波数が可聴域に入ると、スイッチング周波数成分の騒音が増大する課題が生じる。例えば、交流回転機1aが電動パワーステアリング用モータの場合、スイッチング周波数が20kHz以上(可聴域の帯域外)に設定される。
これは、人間の可聴域が20Hz〜20kHzであり、20kHz以上(可聴域の帯域外)に設定することで、スイッチング周波数成分の音が人間の耳には聞えないからである。しかしながら、ずらし時間Δt1やずらし時間Δt2を確保するためにスイッチング周波数を20kHzより低下させると、スイッチング周波数成分の音が人間の耳に聞こえてしまい、結果として騒音となってしまう。
また、スイッチング周期を増大させずに、先の図10〜図13に示したような方法を採用した場合には、別の課題も存在する。図10において、Δt2区間でのIdc1の検出を断念したとしても、Svp1のオフタイミングは、t2(n)〜t3(n)間であり、Idc2を検出するタイミングであるts1−2(n)との間隔が接近する。このため、Svp1をオフとするスイッチングによって、Idc2に検出ノイズが発生して、Δt2区間でIdc2を正しく検出できないおそれがある。
また、図11において、Δt1区間でのIdc1の検出を断念したとしても、Svp1のオンタイミングは、t1(n)〜t2(n)間であり、Idc2を検出するタイミングであるts1−1(n)との間隔が接近する。このため、Svp1をオンとするスイッチングによって、Idc2に検出ノイズが発生して、Δt1区間でIdc2を正しく検出できないおそれがある。
また、図12において、Δt2区間でのIdc2の検出を断念したとしても、Svp2のオフタイミングは、t2(n)〜t3(n)間であり、Idc1を検出するタイミングであるts1−2(n)との間隔が接近する。このため、Svp2をオフとするスイッチングによって、Idc1に検出ノイズが発生して、Δt2区間でIdc1を正しく検出できないおそれがある。
さらに、図13において、Δt1区間でのIdc2の検出を断念したとしても、Svp2のオンタイミングは、t1(n)〜t2(n)間であり、Idc1を検出するタイミングであるts1−1(n)との間隔が接近する。このため、Svp2をオンとするスイッチングによって、Idc1に検出ノイズが発生して、Δt1区間でIdc1を正しく検出できないおそれがある。
また、これらの課題に対応すべく、第1中間相電圧Emid1がずらし時間Δt1やΔt2を確保できる範囲になるように、第1の電圧指令の振幅を制限してしまうと、交流回転機1aに印加される電圧が制限され、交流回転機1aにより、高い出力が発生できないといった別の課題が生じる。
そこで、本発明では、第1中間相電圧Emid1の大きさによってはIdc1の検出ができないことについては許容するとしても、Idc2については精度よく検出するとともに、第2中間相電圧Emid2の大きさによってはIdc2の検出ができないことについては許容するとしても、Idc1については精度よく検出することを技術的特徴としている。
そのための半導体スイッチSup1〜Swn1、Sup2〜Swn2のオンオフパターンを、以下に説明する。なお、図12および図13の課題は、図10および図11の課題と同様のものであるから、以下では、図10および図11の課題を解消するための方法について、具体的に説明する。
図14は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する動作説明図であり、先の図10における課題を解決するための動作を示している。具体的には、この図14では、先の図10に対して、Svp1のオンタイミングを、t2(n)からt5(n)にシフトしたものである。
t5(n)は、第1最小相電圧がオンするタイミングt3(n)の前後で「第2の所定値」以内に設定される。ここで、「第2の所定値」とは、「第1の所定値」より小さい値であり、母線電流検出タイミングであるts1−2(n)と第1最小相がオンするタイミングt3(n)との間隔よりも小さい値である。なお、t3(n)とt5(n)を一致させるように、すなわち、第1中間相電圧と第1最小相電圧を同時にオンするように、設定してもよい。
先の図10のように、第1の中間相電圧のオン時間がΔt2以下に対応する値となってしまう場合には、図14のように、第1中間相電圧のオン時間を、第1最小相電圧のオン時間と第2の所定値以内となるように接近させる。これにより、図14の構成は、ts1−2(n)近傍での第1の電圧印加器3aのスイッチングが生じなくなり、先の図10に比べ、ts1−2(n)でのIdc2を精度よく検出できる。
図15は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する動作説明図であり、先の図11における課題を解決するための動作を示している。具体的には、この図15では、先の図11に対して、Svp1のオンタイミングを、t2(n)からt6(n)にシフトしたものである。
t6(n)は、第1最大相電圧がオンするタイミングt1(n)の前後で「第2の所定値」以内に設定される。なお、t1(n)とt6(n)を一致させる、すなわち、第1中間相電圧と第1最大相電圧を同時にオンするように設定してもよい。
先の図11のように、第1中間相電圧のオン時間がΔt2以下に対応する値となってしまう場合には、図15のように、第1中間相電圧のオン時間を、第1最大相電圧のオン時間と第2の所定値以内となるように接近させる。これにより、図15の構成は、ts1−1(n)近傍で第1の電圧印加器3aのスイッチングが生じなくなり、先の図11に比べ、ts1−1(n)でのIdc2を精度よく検出できる。
図16は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図9とは別の動作説明図である。
図16においても、先の図9と同様に、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’において、大きい順に第1最大相電圧Emax1、第1中間相電圧Emid1、第1最小相電圧Emin1としたとき、上式(15)〜(17)の関係があるものとし、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’において、大きい順に第2最大相電圧Emax2、第2中間相電圧Emid2、第2最小相電圧Emin2としたとき、上式(18)〜(20)の関係があるものとする。
時刻t1(n)において、Sup1、Sup2、Svp1、Svp2を1、かつSwp1、Swp2を0とし、時刻t1(n)からΔt1経過後の時刻t2(n)まで継続する。図3、図4より、時刻t1(n)〜t2(n)において、第1の電圧ベクトルは、V2(1)、第2の電圧ベクトルは、V2(2)である。電流検出器4a、4bは、時刻t1(n)〜t2(n)における、時刻ts1−1(n)にて、Idc1、Idc2を検出する。
図3より、時刻t1(n)〜t2(n)においては、第1の電圧ベクトルは、V2(1)であり、時刻ts1−1(n)で検出されたIdc1は、−Iw1に等しい。また、図4より、時刻t1(n)〜t2(n)においては、第2の電圧ベクトルは、V2(2)であり、時刻ts1−1(n)で検出されたIdc2は、−Iw2に等しい。
次に、時刻t2(n)において、Svp1、Svp2を0とし、そのスイッチングパターンを時刻t2(n)からΔt2経過後の時刻t3(n)まで継続する。図3、図4より、時刻t2(n)〜t3(n)において、第1の電圧ベクトルは、V1(1)、第2の電圧ベクトルは、V1(2)である。電流検出器4a。4bは、時刻t2(n)〜t3(n)における、時刻ts1−2(n)にて、再度、Idc1、Idc2を検出する。
図3より、時刻t2(n)〜t3(n)においては、第1の電圧ベクトルは、V1(1)であり、時刻ts1−2(n)で検出されたIdc1は、Iu1に等しい。また、図4より、時刻t2(n)〜t3(n)においては、第2の電圧ベクトルは、V1(2)であり、時刻ts1−2(n)で検出されたIdc2は、Iu2に等しい。
以上より、第1巻線の電流Iu1、Iw1、第2巻線の電流Iu2、Iw2が検出できたので、三相電流の和が零なることを利用すると、第1の3相電流Iu1、Iv1(=−Iu1−Iw1)、Iw1、第2の3相電流Iu2、Iv2(=−Iu2−Iw2)、Iw2を検出できる。
そして、時刻t3(n)にて、Sup1、Sup2を1とする。Sup1〜Swp2が「0」を継続する時間は、1から各スイッチに対応するオンデューティDsup1、Dswp2を減算した値とスイッチング周期Tswとの乗算値によって定まる。
以上より、本実施の形態1の別の例では、第1最小相電圧Emim1に対応する相の上側アーム素子のスイッチ、第1中間相電圧Emid1に対応する相の上側アーム素子のスイッチ、第1最大相電圧Emax1に対応する相の上側アーム素子のスイッチの順に、第1の所定値以上に設定されたΔt1やΔt2だけ時刻をずらしてオフしている。
そして、このようなスイッチングにより、図3に示す、Idc1から、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1のうち、2相を検出できる2種類の第1の電圧ベクトルを形成し、図4に示す、Idc2から、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2のうち、2相を検出できる2種類の第2の電圧ベクトルを形成する。
しかしながら、図9で示した動作説明例と同様に、図16に示す動作説明例においても、第1中間相電圧Emid1に対応する相の電圧指令値によっては、Idc1から第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1のうち、2相を検出できる2種類の第1の電圧ベクトルを形成することができず、結果として、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出することができない場合がある。
例えば、図17は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図16とは別の動作説明図であり、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出することができない場合を例示している。
図17では、Vv1’が小さく、Dsvp1・TswがΔt1より小さくった状態を示している。この状態では、時刻t1(n)でSvp1をオンすると、時刻t2(n)よりも前にオフしてしまい、第1の電圧ベクトルV2(1)がずらし時間Δt1の区間に渡って形成できず、Δt1区間でIdc1を検出できない。
さらに、Svp1のオフタイミングは、t1(n)〜t2(n)間であり、Idc2を検出するタイミングであるts1−1(n)との間隔が接近する。このため、Svp1をオフとするスイッチングによって、Idc2に検出ノイズが発生してΔt2区間でIdc2を正しく検出できないおそれがある。
また、図18は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図16、図17とは別の動作説明図であり、先の図17と同様に、第1の3相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出することができない場合を例示している。
図17では、Vv1’が大きく、Svp1のオフ時間である(1−Dsvp1)・TswがΔt2より小さくなった状態を示している。この状態では、図12と同様に、時刻t2(n)でSvp1をオフすると、時刻t3(n)よりも前でオンしてしまい、結果として、第1のベクトルV1(1)がずらし時間Δt2の区間に渡って形成できず、Δt2区間でIdc1を検出できない。
さらに、Svp1のオンタイミングは、t2(n)〜t3(n)間であり、Idc2を検出するタイミングであるts1−2(n)との間隔が接近する。このため、Svp1をオンとするスイッチングによって、Idc2に検出ノイズが発生してΔt2区間でIdc2を正しく検出できないおそれがある。
図19は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図17、図18とは別の動作説明図であり、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出することができない場合を例示している。第2の電圧印加器3bについても、同様に、図19に示すように、Vv2’が小さい場合、V2(2)がずらし時間Δt1の区間に渡って形成できず、Δt1区間でIdc2を検出できない。
さらに、Svp2のオフタイミングは、t1(n)〜t2(n)間であり、Idc1を検出するタイミングであるts1−1(n)との間隔が接近する。このため、Svp2をオフとするスイッチングによって、Idc1に検出ノイズが発生してΔt1区間でIdc1を正しく検出できないおそれがある。
また、図20は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する、図19とは別の動作説明図であり、第2の3相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出することができない場合を例示している。図20に示すように、Vv2’が大きい場合、V1(2)がずらし時間Δt2の区間に渡って形成できず、Δt2区間でIdc2を検出できない。
さらに、Svp2のオンタイミングは、t2(n)〜t3(n)間であり、Idc1を検出するタイミングであるts1−2(n)との間隔が接近する。このため、Svp2をオンとするスイッチングによって、Idc1に検出ノイズが発生してΔt2区間でIdc1を正しく検出できないおそれがある。
図21は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する動作説明図であり、先の図17における課題を解決するための動作を示している。具体的には、この図21では、先の図17に対して、Svp1のオフタイミングを、t7(n)にシフトしたものである。
t7(n)は、第1最小相電圧がオフするタイミングt4(n)の前後で「第2の所定値」以内に設定される。このように、第1中間相電圧のオフ時間を、第1最小相電圧のオフ時間と第2の所定値以内となるように接近させる。これにより、図21の構成は、ts1−1(n)近傍での第1の電圧印加器3aのスイッチングが生じなくなり、先の図17に比べ、ts1−1(n)でのIdc2を精度よく検出できる。
図22は、本発明の実施の形態1における半導体スイッチのオンオフパターン、および電流検出器4a、4bにおける電流検出タイミングに関する動作説明図であり、先の図18における課題を解決するための動作を示している。具体的には、この図22では、先の図18に対して、Svp1のオフタイミングを、t8(n)にシフトしたものである。
t8(n)は、第1最大相電圧がオンするタイミングt3(n)の前後で「第2の所定値」以内に設定される。このように、第1中間相電圧のオフ時間を、第1最大相電圧のオフ時間と第2の所定値以内となるように接近させる。これにより、図22の構成は、ts1−2(n)近傍で第1の電圧印加器3aのスイッチングが生じなくなり、先の図18に比べ、ts1−2(n)でのIdc2を精度よく検出できる。
なお、上述したように、図14、図15、図21、図22では、第1中間相電圧Emid1がずらし時間Δt1やΔt2を確保できない場合に、ts1−1(n)、ts1−2(n)において、Idc2を精度よく検出できる手法について述べた。しかしながら、本発明でのスイッチングパターンを適用することで、第2中間相電圧Emid2がずらし時間Δt1やΔt2を確保できない場合に、ts1−1(n)、ts1−2(n)において、Idc2の代わりに、Idc1を精度よく検出できることは言うまでもない。
続いて、第1の検出可否判定器12aおよび第2の検出可否判定器12bについて説明する。図23は、本発明の実施の形態1における第1の検出可否判定器12aおよび第2の検出可否判定器12bの機能に関する説明図である。
具体的には、第1の電流可否判定器12aは、第1中間相電圧Emid1に対応する相の電圧指令値が第3の所定値Vs3以下、かつ第4の所定値Vs4以上の範囲か否かを判別し、第1の電流検出器4aが第1の3相電流を検出可能か判別する。同様に、第2の電流可否判定器12bは、第2中間相電圧Emid2に対応する相の電圧指令値が第3の所定値Vs3以下、かつ第4の所定値Vs4以上の範囲か否かを判別し、第2の電流検出器4bが第2の3相電流を検出可能か判別する。
ここで、第1の中間相電圧Emid1や第2の中間相電圧Emid2が第3の所定値Vs3と等しければ、中間相電圧における上側アーム素子のTswにおけるオン時間が、Tsw−Δt1に等しいことを意味している。従って、第3の所定値Vs3は、ずらし時間Δt1を確保できる上限値に相当する。
一方、第1の中間相電圧Emid1や第2の中間相電圧Emid2が第4の所定値Vs4と等しければ、中間相電圧における上側アーム素子のTswにおけるオン時間が、Δt2を確保できることを意味している。従って、第4の所定値Vs4は、ずらし時間Δt2を確保できる下限値である。
図23(a)は、図7(b)に示した第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’を点線、第1中間相電圧Emid1を実線、第3の所定値Vs3および第4の所定値Vs4を一点鎖線で示す。ここでは、
Vs3=0.4Vdc1
Vs4=−0.4Vdc1
に設定する。
図23(b)は、第1の検出可否判定器12aの出力である。第1の検出可否判定器12aは、第1中間相電圧Emid1が第3の所定値Vs3以下、かつ第4の所定値Vs4以上の範囲内か範囲外かを判別することで、第1の3相電流が検出可能か否かを判別する。そして、第1の検出可否判定器12aは、第1中間相電圧Emid1が、第3の所定値Vs3以下、かつ第4の所定値Vs4以上の範囲内であれば1、範囲外であれば0となる第1の検出可否判定信号flag_1を出力する。
図23(c)は、図8(b)に示した第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’を点線、第2中間相電圧Emid2を実線、第3の所定値Vs3および第4の所定値Vs4を一点鎖線で示す。
図23(d)は、第2の検出可否判定器12bの出力である。第2の検出可否判定器12bは、第2中間相電圧Emid2が第3の所定値Vs3以下、かつ第4の所定値Vs4以上の範囲内か範囲外かを判別することで、第2の3相電流が検出可能か否かを判別し、第3の所定値Vs3以下、かつ第4の所定値Vs4以上の範囲内であれば1、範囲外であれば0となる第2の検出可否判定信号flag_2を出力する。
第1の検出可否判定信号flag_1に着目すると、電圧位相角θvで60×x(x:0、1、2、3、4、5、6)度近傍で0となる。第2の検出可否判定信号flag_2に着目すると、電圧位相角θvで30+60×x(x:0、1、2、3、4、5)度近傍で0となる。
よって、第1の検出可否判定信号flag_1と第2の検出可否判定信号flag_2とでは、0となる電圧位相角θvが互いに30度ずれており、flag_1が0のとき、flag_2は1であり、逆に、flag_2が0のとき、flag_1は1である。よって、flag_1とflag_2が同時に0になることはなく、少なくとも一方は、1であることがわかる。
図24は、本発明の実施の形態1における第1の検出可否判定器12aの一連動作を示したフローチャートである。ステップS1000aにおいて、第1の検出可否判定器12aは、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて、第1中間相電圧Emid1を演算する。
ステップS1000bにおいて、第1の検出可否判定器12aは、第1中間相電圧Emid1が第3の所定値Vs3以下であるか否かを判定し、「YES」であれば、ステップS1000cへ進み、「NO」であれば、ステップS1000eへ進む。
ステップS1000cに進んだ場合には、第1の検出可否判定器12aは、第1中間相電圧Emid1が第4の所定値Vs4以上であるか否かを判定し、「YES」であれば、ステップS1000dへ進み、「NO」であれば、ステップS1000eへ進む。
ステップS1000dに進んだ場合には、第1の検出可否判定器12aは、第1の検出可否判定信号flag_1に1を代入する。一方、ステップS1000eに進んだ場合には、第1の検出可否判定器12aは、第1の検出可否判定信号flag_1に0を代入する。
図25は、本発明の実施の形態1における第2の検出可否判定器12bの一連動作を示したフローチャートである。ステップS2000aにおいて、第2の検出可否判定器12bは、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’に基づいて、第2中間相電圧Emid2を演算する。
ステップS2000bにおいて、第2の検出可否判定器12bは、第2中間相電圧Emid2が第3の所定値Vs3以下であるか否かを判定し、「YES」であれば、ステップS2000cへ進み、「NO」であれば、ステップS2000eへ進む。
ステップS2000cにおいて、第2の検出可否判定器12bは、第2中間相電圧Emid2が第4の所定値Vs4以上であるか否かを判定し、「YES」であれば、ステップS2000dへ進み、「NO」であれば、ステップS2000eへ進む。
ステップS2000dに進んだ場合には、第2の検出可否判定器12bは、第2の検出可否判定信号flag_2に1を代入する。一方、ステップS2000eに進んだ場合には、第2の検出可否判定器12bは、第2の検出可否判定信号flag_2に0を代入する。
続いて、切替器7aの動作について、図26を用いて説明する。図26は、本発明の実施の形態1における切替器7aの一連動作を示したフローチャートである。切替器7aによる切替動作は、ステップS3100aにおける第1の検出可否判定信号flag_1が1と等しいか否かの判定結果、およびステップS3100bにおける第2の検出可否判定信号flag_2が1と等しいか否かの判定結果により、ステップS3100c、3100d、3100eに場合分けされる。
flag_1が1に等しく、かつflag_2が1に等しい場合には、ステップS3100cに進み、Id1’、Iq1’として、第1巻線の電流Id1、Iq1を選択し、Id2’、Iq2’として、第2巻線の電流Id2、Iq2を選択し、出力する。
flag_1が1に等しく、かつflag_2が1と等しくない場合には、ステップS3100dに進み、Id1’、Iq1’として、第1巻線の電流Id1、Iq1を選択し、Id2’、Iq2’としても、第1巻線の電流Id1、Iq1を選択し、出力する。
flag_1が1に等しくない場合には、flag_2の値にかかわらず、ステップS3100eに進み、Id1’、Iq1’として、第2巻線の電流Id2、Iq2を選択し、Id2’、Iq2’としても、第2巻線の電流Id2、Iq2を選択し、出力する。
なお、上述した実施の形態1においては、第1の電圧印加器3aにより第1の3相巻線に第1の所定値以上のオン間隔(Δt1、Δt2)で電圧を印加する例について説明した。しかしながら、第1の所定値以上のオフ間隔で電圧を印加する場合にも、本発明が有用であることは言うまでもない。
また、上述した実施の形態1においては、図15で示したように、第1中間相電圧が第1の所定値よりも大きい場合に、第1中間相電圧を第1最大相電圧と第2の所定値以内のタイミングでオンするように変更する例について説明した。しかしながら、第1中間相電圧に加えて、第1最小相電圧も第1最大相電圧と第2の所定値以内のタイミングでオンするように変更してもよい。
この場合、第1の3相巻線に印加される電圧は、3相全てが第2の所定値以内でオンすることになる。よって、本発明は、電流検出が不可と判断された第1の3相巻線あるいは第2の3相巻線に対して、その少なくとも2相に関して、オンまたはオフ間隔を第2の所定値以内と設定することで効果を得ることができる。
以上のように、実施の形態1によれば、特許文献1のようにスイッチング周期Tswを長くすることなく、また、第1中間相電圧がずらし時間を確保できる範囲になるように、第1の電圧指令の振幅を制限する必要もなく、電流検出タイミングにおける電圧印加器のスイッチングを回避できる。この結果、交流回転機1aの低騒音を維持した状態で、高出力化が可能となる効果を得ることができる。
実施の形態2.
本実施の形態2における交流回転機の制御装置は、第1の検出可否判定器12cにおける演算処理が、先の実施の形態1における第1の検出可否判定器12aと異なっている。そこで、本実施の形態2における第1の検出可否判定器12cの演算処理を中心に、以下に説明する。
図27は、本発明の実施の形態2における第1の検出可否判定器12cの一連動作を示したフローチャートである。ステップS4000aにおいて、第1の検出可否判定器12cは、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて、第1最大相電圧Emax1、第1中間相電圧Emid1、第1最小相電圧Emin1を演算する。
ステップS4000bにおいて、第1の検出可否判定器12cは、第1最大相電圧と第1中間相電圧との差(Emax1−Emid1)が、第5の所定値Vs5以上であるか否かを判定し、「YES」であれば、ステップS4000cへ進み、「NO」であれば、ステップS4000eへ進む。
ステップS4000cに進んだ場合には、第1の検出可否判定器12cは、第1中間相電圧と第1最小相電圧との差(Emid1−Emin1)が、第5の所定値Vs5以上であるか否かを判定し、「YES」であれば、ステップS4000dへ進み、「NO」であれば、ステップS4000eへ進む。
ステップS4000dに進んだ場合には、第1の検出可否判定器12cは、第1の検出可否判定信号flag_1に1を代入する。一方、ステップS4000eに進んだ場合には、第1の検出可否判定器12cは、第1の検出可否判定信号flag_1に0を代入する。
ここで、第5の所定値Vs5は、ずらし時間Δt1またはずらし時間Δt2と、スイッチング周期Tsw(50μs)との比に基づいて決めればよい。例えば、ずらし時間Δt1=Δt2=5μs、スイッチング周期Tswとすると、第5の所定値Vs5は、Δt1/Tsw・Vdc=0.1Vdcとなる。
図28は、本発明の実施の形態2における第5の所定値Vs5を0.1Vdcに設定した場合の、先の図27の各ステップに対応する波形を示した図である。図28(a)は、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’の波形である。図28(b)は、ステップS4000aに対応する第1最大相電圧Emax1、第1中間相電圧Emid1、第1最小相電圧Emin1の各波形である。
図28(c)は、ステップS4000bに対応する第1最大相電圧と第1中間相電圧との差Emax1−Emid1、およびステップS4000cに対応する第1中間相電圧と第1最小相電圧との差Emid1−Emin1の各波形である。さらに、図28(d)は、ステップS4000dおよびステップS4000eに対応する第1の検出可否判定信号flag_1の波形である。
本実施の形態2に示すように、第1最大相電圧と第1中間相電圧との差、第1中間相電圧と第1最小相電圧との差、を演算し、それらの値が第5の所定値未満となった場合に、第1の3相電流を検出不可と判定することによっても、先の実施の形態1と同等の効果を得ることができる。
また、本実施の形態2では、オフセット演算器11aの出力である第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて、第1の検出可否判定器12cが第1の3相電流の検出可否を判定した。しかしながら、オフセット演算器11aの入力である第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’の代わりに代入して演算しても、Emax1−Emid1やEmid1−Emin1の演算結果は同じとなる。
従って、第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を、第1の検出可否判定器12cに入力する構成としても、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて演算する場合と同等の効果が得られる。
なお、本実施の形態2では、第1の検出可否検出器12cの演算について述べた。これに対して、第2の検出可否判定器12bについては、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’を用いて、第1の検出可否判定器12cと同様に、先の図27の演算を実施することで、第2の検出可否判定信号flag_2が得られることは言うまでもない。
実施の形態3.
本実施の形態3における交流回転機の制御装置は、第1の検出可否判定器12dにおける演算処理が、先の実施の形態1における第1の検出可否判定器12aと異なっている。そこで、本実施の形態3における第1の検出可否判定器12dの演算処理を中心に、以下に説明する。
本実施の形態3における第1の検出可否検出器12dは、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて、下式(21)により、電圧位相角θvを演算し、電圧位相角θvの領域に応じて、第1の3相電流の検出可否を判定する。
先の実施の形態1においては、電圧位相角θvが60×x(x:0、1、2、3、4、5、6)度近傍で、第1の3相電流の検出ができないことを示した。そこで、第1の検出可否判定器12dは、第1の電圧指令に基づく演算によって得たθvが、60×x−α以上、60×x+α以下(ただし、α:マージン)の範囲内にある場合には、検出不可と判定し、flag_1として0を出力し、範囲外にある場合には、検出可と判定し、flag_1として1を出力する。
ここで、マージンαは、ずらし時間Δt1、Δt2や第1の電圧指令の最大値等によって決定するが、30度以内の大きさである。
本実施の形態3に示すように、第1の電圧指令の電圧位相角に応じて、第1の3相電流の検出判定の可否を判定することによっても、先の実施の形態1と同等の効果を得ることができる。
なお、先の実施の形態1においては、電圧位相角θvで30+60×x(x:0、1、2、3、4、5)度近傍で、第2の3相電流の検出ができないことを示した。そこで、第2の検出可否器12dは、第1の電圧指令に基づく演算によって得たθvが、30+60×x−α以上、30+60×x+α(α:マージン)以下の範囲内にある場合には、検出不可と判定し、flag_2として0を出力し、範囲外にある場合には、検出可と判定し、flag_2として1を出力する構成とすることもできる。
また、本実施の形態3では、オフセット演算器11aの出力である第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて、第1の検出可否判定器12dが第1の3相電流の検出可否を判定した。しかしながら、オフセット演算器11aの入力である第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’の代わりに代入して演算しても、上式(21)の演算結果は同じとなる。
従って、第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を、第1の検出可否判定器12dに入力する構成としても、第1の電圧指令Vu1’、Vv1’、Vw1’に基づいて演算する場合と同等の効果が得られる。
その他、回転二軸の電圧指令Vd1、Vq1に基づいて電圧位相角θvを求める方式など、電圧指令に基づいて電圧位相角θvを求めた上で、電圧位相角θvに基づいて第1の3相電流の検出可否や第2の3相電流の検出可否を判定する方法は、すべて本発明に含まれる。
また、第1の検出可否判定器12dは、第1の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1の代わりに、第2の電圧指令Vu2’、Vv2’、Vw2’を用いて、下式(22)に従って電圧位相角θvを求めることも可能である。
その他、第1の電圧指令Vu2、Vv2、Vw2や回転二軸の電圧指令Vd2、Vq2を用いても、電圧位相角θvを演算することが可能であることは言うまでもない。
また、上式(21)、および上式(22)の両方の演算を行い、その平均値を用いて第1の3相電流の検出可否や第2の3相電流の検出可否を判定することで、電圧位相角θvに含まれるノイズ成分が抑制される効果を得ることができる。
実施の形態4.
図29は、本発明の実施の形態4における交流発電機の制御装置の全体構成を示す図である。本実施の形態4の構成は、先の実施の形態1の構成と比較すると、制御部5aの代わりに、制御部5bを用いている点が異なっている。そこで、制御部5bについて、制御部5aからの変更点を中心に、以下に説明する。
加算器801aは、回転二軸上の電流Id1’と回転二軸上の電流Id2’との加算値(Id1’+Id2’)を出力する。
加算器801bは、回転二軸上の電流Iq1’と回転二軸上の電流Iq2’との加算値(Iq1’+Iq2’)を出力する。
減算器802aは、回転二軸上の電流Id1’を回転二軸上の電流Iq2’で減算した値(Id1’−Id2’)を出力する。
減算器802bは、回転二軸上の電流Iq1’を回転二軸上の電流Iq2’で減算した値(Iq1’−Iq2’)を出力する。
乗算器803aは、加算器801aから出力された加算値(Id1’+Id2’)をK1倍し、和電流Id_sumとして出力する。ここで、K1は、0.5である。
乗算器803bは、加算器801bから出力された加算値(Iq1’+Iq2’)をK1倍し、和電流Iq_sumを出力する。ここで、K1は、0.5である。
乗算器804aは、減算器802aから出力された減算値(Id1’−Id2’)をK2倍し、差電流delta_Idを出力する。ここで、K2は、0.5である。
乗算器804bは、減算器802bから出力された減算値(Iq1’−Iq2’)をK2倍し、差電流delta_Iqを出力する。ここで、K2は、0.5である。
減算器805aは、交流回転機1aのd軸電流指令Id*と和電流Id_sumとの偏差dId_sumを演算する。
減算器805bは、交流回転機1aのq軸電流指令Iq*と和電流Iq_sumとの偏差dIq_sumを演算する。
制御器806aは、P制御器やPI制御器などを用いて、それら制御器の比例ゲインKpd_sumと偏差dId_sumの乗算値に基づいて、偏差dId_sumを零に制御するように、和電圧Vd_sumを出力する。
制御器806bは、P制御器やPI制御器などを用いて、それら制御器の比例ゲインKpq_sumと偏差dIq_sumの乗算値に基づいて、偏差dIq_sumを零に制御するように、和電圧Vd_sumを出力する。
制御器806cは、P制御器やPI制御器などを用いて、それら制御器の比例ゲインKpd_deltaと偏差delta_dIdの乗算値に基づいて、差電流delta_Idを零に制御するように、差電圧delta_Vdを出力する。
制御器806dは、P制御器やPI制御器などを用いて、それら制御器の比例ゲインKpq_deltaと偏差delta_dIqの乗算値に基づいて、差電流delta_Iqを零に制御するように、差電圧delta_Vqを出力する。
加算器807aは、和電圧Vd_sumと差電圧delta_Vdとを加算した値を第1の電圧指令Vd1として出力する。
加算器807bは、和電圧Vq_sumと差電圧delta_Vqとを加算した値を第1の電圧指令Vq1として出力する。
減算器808aは、和電圧Vd_sumを差電圧delta_Vdで減算した値を第2の電圧指令Vd2として出力する。
減算器808aは、和電圧Vq_sumを差電圧delta_Vqで減算した値を第2の電圧指令Vq2として出力する。
続いて、本実施の形態4における制御部5bの動作を詳細に説明する。第1の検出可否判定信号flag_1、第2の検出可否判定信号flag_2がともに1である場合(すなわち、第1の3相電流、第2の3相電流がともに検出可能と判定された場合)には、回転二軸上の電流Id1’、Iq1’は、第1巻線の電流Id1、Iq1に等しく、回転二軸上の電流Id2’、Iq2’は、第2巻線の電流Id2、Iq2に等しい。
よって、和電流Id_sum、Iq_sum、および差電流delta_Id、delta_Iqは、それぞれ下式(23)〜(26)のようになる。
Id_sum=K1×(Id1’+Id2’)
=K1×(Id1+Id2) (23)
Iq_sum=K1×(Iq1’+Iq2’)
=K1×(Iq1+Iq2) (24)
delta_Id=K2×(Id1’−Id2’)
=K2×(Id1−Id2) (25) delta_Iq=K2×(Iq1’−Iq2’)
=K2×(Iq1−Iq2) (26)
つまり、和電流は、第1の電流検出器4aによって検出された第1の3相電流と、第2の電流検出器4bによって検出された第2の3相電流との和で表され、差電流は、第1の電流検出器4aによって検出された第1の3相電流と、第2の電流検出器4bによって検出された第2の3相電流との差で表される。
和電流Id_sum、Iq_sumと、和電流ゲインに基づいて、和電圧Vd_sum、Vq_sumが演算され、差電流delta_Id、delta_Iqと、差電流ゲインに基づいて、差電圧delta_Vd、delta_Vqが演算される。さらに、加算器807a、807bおよび減算器808a、808bによって、第1の電圧指令Vd1、Vq1、および第2の電圧指令Vd2、Vq2が演算される。
ここで、交流回転機1aの第1の3相巻線U1、V1、W1と、第2の3相巻線U2、V2、W2は、電気的に接続されていないが、磁気的に互いに結合されている。従って、第2の3相巻線には、第1の3相電流の微分値と、第1巻線と第2巻線間の相互インダクタンスとの積に比例する電圧が発生する。一方、第1の3相巻線には、第2の3相電流の微分値と、第1巻線と第2巻線間の相互インダクタンスとの積に比例する電圧が発生する。すなわち、第1巻線と第2巻線は、磁気的に干渉している。
これに対し、本実施の形態4においては、和電流、差電流に基づいて、第1の電圧指令Vd1、Vq1、および第2の電圧指令Vd2、Vq2が演算されている。この結果、第1の3相電流と第2の3相電流がともに検出可能な場合には、第1巻線の電圧指令Vd1、Vq1は、第1の電流検出器4aによって検出された第1の3相電流に加えて、第2の電流検出器4bによって検出された第2の3相電流も考慮して演算される。
°同様に、第2の電圧指令Vd2、Vq2は、第2の電流検出器4bによって検出された第2の3相電流に加えて、第1の電流検出器4aによって検出された第1の3相電流も考慮して演算される。従って、本実施の形態4の構成を備えることで、第1巻線と第2巻線の磁気的な干渉に対して、より安定な制御系を構築できる。
次に、第1の検出可否判定信号flag_1が0、かつ第2の検出可否判定信号flag_2が1である場合(すなわち、第1の3相電流が検出不可能、かつ第2の3相電流が検出可能と判定された場合)には、先の図26で示したように、回転二軸上の電流Id1’、Iq1’は、第1巻線の電流Id1、Iq1に等しく、回転二軸上の電流Id2’、Iq2’も第2巻線の電流Id2、Iq2に等しい。
よって、和電流Id_sum、Iq_sum、および差電流delta_Id、delta_Iqは、それぞれ下式(27)〜(30)のようになる。
Id_sum=K1×(Id1’+Id2’)
=K1×(2×Id2) (27)
Iq_sum=K1×(Iq1’+Iq2’)
=K1×(2×Iq2) (28)
delta_Id=K2×(Id1’−Id2’)=0 (29)
delta_Iq=K2×(Iq1’−Iq2’)=0 (30)
上式(27)〜(30)より、和電流は、第2の電流検出器4bによって検出された第2の3相電流で表され、差電流は、0となる。よって、第1の電圧指令Vd1、Vq1、第2の電圧指令Vd2、Vq2は、第2の3相電流と和電流ゲインに基づいて演算される。
次に、第1の検出可否判定信号flag_1が1、かつ第2の検出可否判定信号flag_2が0である場合(すなわち、第1の3相電流が検出可能、かつ第2の3相電流が検出不可能と判定された場合)には、先の図26で示したように、回転二軸上の電流Id1’、Iq1’は、第1巻線の電流Id1、Iq1に等しく、また回転二軸上の電流Id2’、Iq2’も、第1巻線の電流Id1、Iq1に等しい。
よって、和電流Id_sum、Iq_sum、および差電流delta_Id、delta_Iqは、それぞれ下式(31)〜(34)のようになる。
Id_sum=K1×(Id1’+Id2’)
=K1×(2×Id1) (31)
Iq_sum=K1×(Iq1’+Iq2’)
=K1×(2×Iq1) (32)
delta_Id=K2×(Id1’−Id2’)=0 (33)
delta_Iq=K2×(Iq1’−Iq2’)=0 (34)
上式(31)〜(34)より、和電流は、第1の電流検出器4aによって検出された第1の3相電流で表され、差電流は、0となる。よって、第1の電圧指令Vd1、Vq1、第2の電圧指令Vd2、Vq2は、第1の3相電流と和電流ゲインに基づいて演算される。
ここで、第1の検出可否判定器12aがflag_1として0を出力した場合には、上式(29)、(30)より、また、第2の検出可否判定器12bがflag_2として0を出力した場合には上式(33)、(34)より、差電流は、0に設定される。このため、差電流に差電圧ゲインを乗算した差電圧も、零となる。
そこで、差電圧delta_Vd、delta_Vqを0に設定し、差電流から差電圧を演算するまでの減算器802a、802b、乗算器804a、804b、制御器806c、806dを省略してもよい。
また、ここでは、検出不可となった側の3相電流として、検出可能な側の巻線の3相電流そのものを用いたが、他の推定方法によって求めてもよい。
また、差電流ゲインKpd_delta、Kpq_deltaを第1の電圧指令、第2の電圧指令、和電圧、または交流回転機1aの回転速度の少なくとも1つに基づいて変動させることによって、第1の検出可否判定信号flag_1、第2の検出可否判定信号flag_2の0から1、または1から0への切替時における差電流delta_Id、delta_Iqの脈動による差電圧delta_Vd、delta_Vqへの脈動を低減させることができる。
図30は、本発明の実施の形態4において、差電流ゲインを、第1の電圧指令に基づいて変動させる状態を示した図である。図30では、差電流ゲインKpd_delta、Kpq_deltaを、第1の電圧指令の振幅V1に応じて変動させる場合を例示している。第1の電圧指令の振幅V1が、閾値Vsa1以下の場合には、差電流ゲインKpd_delta、Kpq_deltaを、それぞれKpd_delta1、Kpq_delta1として一定値としている。
一方、第1の電圧指令の振幅V1が、閾値Vsa1超の場合には、差電流ゲインKpd_delta、Kpq_deltaを、それぞれ直線上に低減させている。閾値Vsa1および直線の傾きは、発生する脈動レベルに応じて決定すればよい。ここで、第1の電圧指令の振幅V1は、下式(35)によって求めればよい。
また、上式(35)の平方根の演算によって、制御部5bを演算するCPUの演算負荷が大きくなる場合には、図30の横軸を、振幅の2乗に設定することもできる。また、図30の横軸を、下式(36)で与えられる第2の電圧指令の振幅V2や、下式(37)で与えられる和電圧の振幅V_sumを用いる、あるいはV1、V2、V_sumを組み合わせて用いてもよい。
和電流ゲインKpd_sum、Kpq_sumを第1の電圧指令、第2の電圧指令、和電圧の少なくとも1つに基づいて変動させることによって、第1の検出可否判定信号flag_1、第2の検出可否判定信号flag_2の切替時における和電流Id_sum、delta_sumの脈動による和電圧Vd_sum、Vq_sumへの脈動を低減させることができる。
図31は、本発明の実施の形態4において、和電流ゲインを、第1の電圧指令に基づいて変動させる状態を示した図である。図31では、和電流ゲインKpd_sum、Kpq_sumを、第1の電圧指令の振幅V1に応じて変動させる場合を例示している。第1の電圧指令の振幅V1が、閾値Vsa1以下の場合には、和電流ゲインKpd_sum、Kpq_sumを、それぞれKpd_sum1、Kpq_sum1として一定値としている。
一方、第1の電圧指令の振幅V1が、閾値Vsa1超の場合には、和電流ゲインKpd_sum、Kpq_sumを、それぞれ直線上に低減させている。閾値Vsa1および直線の傾きは、発生する脈動レベルに応じて決定すればよい。
また、図31の横軸を、上式(36)で与えられる第2の電圧指令の振幅V2や式(37)で与えられる和電圧の振幅V_sum、またはV1、V2、V_sumを組み合わせたものを用いてもよい。また、第1の電圧指令、第2の電圧指令、和電圧の振幅に限らず、実効値に応じて切り替えてもよい。
また、図30、図31の横軸を、交流回転機1aの回転速度に設定し、速度に関する所定の閾値以下では、和電流ゲインや差電流ゲインを一定とし、所定の閾値超では、和電流ゲインや差電流ゲインを速度に応じて下げるように構成してもよく、同様の効果を得られる。
また、交流回転機の制御装置を備えた電動パワーステアリングの制御に対して、実施の形態1〜4で述べた交流回転機の制御装置を適用することが可能である。電動パワーステアリング装置では、ステアリング系の操舵トルクを補助するトルクを、交流回転機が発生するように、第1の電圧指令および第2の電圧指令を演算する制御部が必要である。
そして、このような電動パワーステアリング装置の制御部として、本発明による交流回転機の制御装置を適用することで、スイッチング周期Tswを維持した状態で、振幅の高い第1の電圧指令および第2の電圧指令を演算することが可能となる。この結果、スイッチング周期の逆数で与えられるスイッチング周波数を可聴域から外し、静音性を維持した状態で、同一体積比で、より高出力なステアリング系を構築することが可能となる。換言すると、同一出力比を得るために、装置をより小型化することが可能となり、搭載性の良いステアリング系が実現できる効果を得ることができる。