JPWO2011126050A1 - 生体組織牽引用高分子成形体、それを用いた医療用牽引部材及び医療用牽引具 - Google Patents
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Abstract
Description
(1)病変部周辺にマーキングする。
(2)生理食塩水やヒアルロン酸水溶液等の局注剤を粘膜下層に局注し、隆起させる。
(3)病変部周囲をナイフでカットする。
(4)粘膜下層を剥離する。
(5)腫瘍を回収する。
しかし、(4)の処置中に、切除している粘膜が視野を覆うことや、さらには剥離後の粘膜が再癒着することもあり、処置の長時間化の原因になる。さらには、視野を十分に確保できないことから、血管を傷つけることにより出血を引き起こすことや、筋層の穿孔を引き起こすことが懸念される。
しかしながら、磁気アンカーによる牽引では、牽引のための大型の装置が必要となることや、磁気アンカーを消化管内で移動させることにより粘膜に傷等を引き起こす原因になる等の問題がある(特許文献1参照)。
一方、病変部の粘膜とは別の粘膜部にクリップを付け、病変部粘膜に付けたクリップとバネ状の牽引具で接続することで、病変部粘膜の粘膜下層を切除する方法では、正常な粘膜部分にクリップを取り付ける必要があり、病変部以外へ傷を付けることになる。さらには、病変部と反対側の粘膜が引き寄せられ、処置野を狭める懸念もある(特許文献2〜4参照)。
さらには、内視鏡の脇に導入する粘膜切開剥離術補助具を使用した場合には、狭い消化管内に複数の管を導入する必要があり、内視鏡の操作に不具合を起こす懸念がある。また、内視鏡操作中に誤って補助具が動いてしまうことも考えられ、牽引操作に支障を引き起こす恐れがある。さらには、内視鏡と同じ方向にしか補助具を動かすことができないため、粘膜を開放する方向が限られてしまい、内視鏡手術中に内視鏡の移動軸と異なる方向に動かすことができない(特許文献5参照)。
すなわち、本発明は、内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りである高分子成形体、該高分子成形体を有する医療用牽引部材及び医療用牽引具を提供するものである。
しかしながら、弾性を有する高分子成形体は、必ずしも十分な弾性を有する物質からなる必要はなく、多孔質状や、中空状等の形状によって弾性構造を有していてもよい。さらには、表面部分や内部の局所的に前記弾性物質や弾性構造を配置することで、弾性体とすることもできる。
25%圧縮硬さは次のようにして測定した。すなわち、得られたフィブロイン多孔質体を純水中に1日静置し完全に吸水させた後、その硬さを圧縮試験機で測定した。圧縮試験機は、(株)島津製作所製EZ Testを、ロードセルは10Nと50Nのものを、ロードプレートは直径8mmのものを使用した。多孔質体を1mm/minの速度で初期厚さの25%圧縮し、その時かかっている荷重(N)を読み取り25%圧縮硬さとした。
40%圧縮残留ひずみは次のようにして測定した。すなわち、得られたフィブロイン多孔質体(厚さ10mm、縦30mm×横60mm)を純水中に1日間静置し完全に吸水させた後、圧縮試験器で40%圧縮後、復元する厚みから測定した。圧縮試験機は、(株)島津製作所製EZ Testを、圧縮治具は直径8mmの円形のものを使用した。多孔質体を1mm/minの速度で初期厚さの40%圧縮後5分間維持し、圧縮状態を開放し、空気中、もしくは純水中で5分間静置し、多孔質体の厚み(D)を測定した。このときの厚みの変化から、次の式に従って圧縮残留ひずみを計算した。
圧縮残留ひずみ(%)=(10−D)×100/10
なお、多孔質体の吸水率は、次のように測定できる。多孔質体を30×30×18mmに成形し、測定試料とする。十分に乾燥した多孔質体の乾燥重量を測定する(Wa)。この多孔質体を潰れないように超純水中に浸漬して、全体に吸水させ、重さを測定する(Wb)。これらの値から多孔質体の吸水率を次式に従って算出する。
吸水率(%)=(Wb−Wa)×100/Wa
なお、保水率は次のように測定した。高分子多孔質体を60×30×20mmに成形し、測定試料とする。純水中に十分浸漬した多孔質体の重さを測定する(Wc)。これを再度純水中に十分浸漬し、表面を純水で濡らしたガラス製の平板(松浪ガラス製MSAコートマイクロスライドガラス、76×52mm)を45度傾けて設置し、
その上に一番広い面(60×30mm面)を下にして長尺方向を上下になるように載せ、10分間静置する。その後、多孔質体の重さを測定する(Wd)。
保水率(%)=100−(Wc−Wd)×100/(Wc)
本発明で好適に用いられるシルク多孔質体は、シルクフィブロイン及び必要に応じて、多孔質体化促進効果を有する添加剤を含有していてもよい。
例えば、シルクフィブロインは水への溶解性が低いため、高濃度の臭化リチウム水溶液にシルクフィブロインを溶解後、透析による脱塩を行って得る方法が好適に挙げられる。また、水溶液中のシルクフィブロインの濃度調整の方法としては、風乾による濃縮を経る手法が簡便で好ましい。
添加剤の配合量は、添加剤を配合したシルクフィブロイン水溶液中で0.01〜18質量%であることが好ましい。この範囲内であると、内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りである本発明の高分子成形体として、十分な強度を持った多孔質体を効率的に製造することができる。以上の観点から、添加剤の配合量は0.1〜5質量%であることがより好ましい。また、同様の理由から、添加剤の配合量は、シルクフィブロイン100質量部に対して、1〜500質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましく、10〜30質量部であることがさらに好ましい。
同様の観点で、酸性アミノ酸の中でもモノアミノジカルボン酸がより好ましく、アスパラギン酸及びグルタミン酸が特に好ましく、オキシアミノ酸の中でもヒドロキシプロリンがより好ましい。
なお、アミノ酸には、L型とD型の光学異性体があるが、本発明においては、L型とD型を用いた場合に、得られる多孔質体に違いが見られないため、どちらのアミノ酸を用いても良い。
これらのうち、得られるシルク多孔質体の強度の点から、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−ヒドロキシプロリンが好ましい。
これらのうち、得られるシルク多孔質体の強度、及び添加剤の生体への安全性の点から、乳酸、コハク酸、及び酢酸が特に好ましい。
ここで、添加剤の配合量は上述のとおりであり、凍結温度としては、添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液が凍結する温度であれば特に制限されないが、−1〜−40℃程度が好ましく、−5〜−40℃程度がより好ましく、−10〜−30℃がさらに好ましい。
凍結時間としては、添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液が十分に凍結し、かつ凍結状態を一定時間保持できるよう、2時間以上であることが好ましく、4時間以上であることがさらに好ましい。
凍結の方法としては、添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液を一気に凍結温度まで下げて凍結してもよいが、凍結の前に添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液を一旦、4〜―9℃程度、好ましくは0〜―5℃程度で30分以上保持して反応容器内を均一にしてから、凍結温度まで下げて凍結した方が均一な構造のシルク多孔質体を得る上で好ましい。さらに、この保持する温度を−1〜―9℃程度、好ましくは−1℃〜−5℃程度にした場合には、シルクフィブロイン水溶液が、凍結の前に過冷却状態となる温度(過冷却温度)になり、より均一な構造のシルク多孔質体を得ることができる。また、この過冷却温度に保持する時間を調整すること、過冷却温度から凍結温度に下げるまでの温度勾配を調整すること等により、さらに均一な構造のシルク多孔質体をえることができるほか、多孔質体の構造や強度をある程度制御することが可能である。
また、シルク多孔質体製造後に、水分濃度を調整する方法としては、例えば、シルク多孔質体を乾燥して水分を蒸発させる方法が挙げられる。乾燥の方法としては、自然乾燥、凍結乾燥、加熱乾燥などが挙げられるが、乾燥時の収縮が抑えられるという観点からは、凍結乾燥が好ましい。
また、本発明のシルク多孔質体中の細孔の大きさ(細孔直径)は、10〜300μm程度であり、シルクフィブロインと添加剤の混合比や、上記ように凍結する際の冷却プロセスの条件を調整することである程度制御でき、用途に応じて決定される。
本発明に用いられる連結部材の形状としては、糸状の細長い形状の物が好適に使用できる。例えば、高分子成形体を手術用縫合糸であるシルク糸やナイロン等の連結部材で連結することが好ましい。
上述の第1の連結部材、第2及び第3の連結部材は、互いに同質の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。また、第1〜第3の連結部材は、一本のシルク糸等の共通部材で連結されていてもよいし、それぞれが独立に連結部材を形成していてもよい。
また、本発明の医療用牽引部材は、2つ以上の高分子成形体を有していてもよく、通常、図13〜24に示されるように、高分子成形体11間を第3の連結部材22により連結して使用する。図13及び図14は、それぞれ高分子成形体11を2つ及び3つ有する場合の態様を示す図であり、さらに、図15〜24は、高分子成形体11を4つ有する場合の態様を示すものである。図13〜24に示される第3の連結部材22は、第1の連結部材と兼用する「第1及び第3の連結部材」として用いてもよいし、第2の連結部材と兼用する「第2及び第3の連結部材」して用いてもよいし、三者を兼用する「第1、第2及び第3の連結部材」として用いることもできる。
例えば、図32に示すように、フィブロイン多孔質体からなる球状の高分子成形体11の中心に、縫合糸からなる連結部材22を通し、止め部21としてワッシャー24と結び目を配置して、高分子成形体11の脱落を防止し、その上部には、連結部位23を2個配置することができる。
高分子成形体には、連結部材22を通すために、貫通口を設けることができる。貫通口は、円筒形が好ましいが、連結部材22を通すことができる形状であればよい。円筒形は、高分子成形体に貫通口を作製するだけでも使用することができるが、円筒形の筒25を配置することができる。筒25を配置することで、連結部材22による高分子成形体の破損を防止することができる。筒25の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、ナイロン等のプラスチックス、チタン、ステンレス等の金属、絹糸、絹フィブロイン、絹セリシン、プルラン、ゼラチン、キトサン、デンプン、セルロース、アルギン酸等の生体由来材料が挙げられる。
例えば、図33に示すように、フィブロイン多孔質体からなる球状の高分子成形体11の中心に、筒25を通し、高分子成形体の破損を防止することができる。
また、本発明における連結部材22は、脱落防止機構とループ状の形状部分及びフック状の形状部分の両方を有していてもよい。
ここで、把持部材とは、生体組織を把持する機能がある部材であれば特に限定はなく、例えば、鉗子やクリップ等が挙げられる。把持部材を構成する素材は、鉄やチタン、ステンレス、銅等の金属や、プラスチックス等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
上述の圧縮・固定や、水溶性の筒の製造に用いられる水溶性の物質としては、人体に無害であって、多孔質体の形状を保持し得る程度の強度を有するものであれば得に限定されないが、例えば、アルギン酸、プルラン、デンプン、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、キチン、キトサン、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
例えば、図34に示すように、フィブロイン多孔質体からなる球状の高分子成形体11を、チューブ26中に圧縮して配置する。消化管内でこのチューブ26から高分子成形体11を取り出して、水を注水することで牽引部材として使用することができる。
他の鉗子口の直径より小さな直径にする方法としては、多孔質体からなるシート状の高分子成形体で、吸水性高分子等の吸水により体積膨張する物質を包むこともできる。吸水性高分子を内包するシート状の高分子成形体を筒状にして、内視鏡の鉗子口より消化管内部に導入し、粘膜端に把持した後に、水を吸水させることで、体積を膨張させることができる。シート両端を閉じることで、球状に膨らみ、重りとして機能させることができる。吸水性高分子としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等の合成高分子や、ポリグルタミン酸等のポリアミン、ポリアルギン酸、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース等の多糖類等を使用することができる。
例えば、図35に示すように、シート状のフィブロイン多孔質体を筒状に丸めた高分子成形体11の内部に吸水性高分子27の粉末を配置し、上下を縫合糸等で縛り、連結部位23と止め部21を配置する。これを消化管内に導入後、注水することでフィブロイン多孔質体を通して、内部の吸水性高分子に吸水させて、膨張することで牽引部材として使用することができる。
図27は、本発明の医療用牽引部材をESDでの使用形態を示す模式図である。ESDの処置において、病変部51周辺をマーキング後、局注剤を注入することで病変部51を隆起させて、病変部51周囲を粘膜52のみカットする。その後、粘膜下層54をナイフでカットすることで病変部51を剥離していく。ここで、一部病変部51を剥離させた後に、剥離部分に鉗子31を取り付ける。その鉗子31に本発明の医療用牽引部材の連結部材23を固定する。重力によって医療用牽引部材が病変部51を引きはがす方向に、本発明の医療用牽引部材を任意の位置に配置することができる。もしくは、患者の体位を変えることで、本発明の医療用牽引部材を任意の位置に配置することができる(図28参照)。病変部51周囲の粘膜52のカットを開始する前に、剥離する部分に鉗子31及び本発明の医療用牽引部材を取り付けてもよい。
本発明の医療用牽引部材の使用により、病変部51下部の粘膜下層54が、病変部51に視野を妨げられることなく観察することができるようになる。さらに、粘膜下層54の切断が進むと、病変部51は医療用牽引部材に牽引される形で捲られていく。この様に、本発明の医療用牽引部材を用いることで、病変部51に処置野を遮られることなく、安全且つ迅速に処置を行うことができる。
以下、製造例1〜8に、本発明の高分子成形体に用いられる多孔質体の製造例を示す。
シルクフィブロイン水溶液は、フィブロイン粉末(KBセーレン社製、商品名:「SlikpowderIM」)を9M臭化リチウム水溶液に溶解し、遠心分離で不溶物を除去したのち、超純水に対して透析を繰り返すことによって得た。得られたシルクフィブロイン水溶液を透析チューブ中で風乾し濃縮した。この濃縮液に乳酸水溶液を添加し、シルクフィブロイン濃度が5質量%、乳酸濃度が2質量%であるシルクフィブロイン溶液を調製した。
このシルクフィブロイン溶液をアルミ板で作製した型(内側サイズ;80mm×40mm×4mm)に流し込み、低温恒温槽(EYELA社製NCB−3300)に入れて凍結保存した。
凍結は、予め低温恒温槽を−5℃に冷却しておいて低温恒温槽中にシルクフィブロイン溶液を入れた型を投入して2時間保持し、その後、冷却速度3℃/hで槽内が−20℃になるまで5時間かけて冷却した後、−20℃で5時間保持した。凍結した試料を自然解凍で室温に戻してから、型から取り出し、超純水に浸漬し、超純水を1日2回、3日間交換することによって、使用した乳酸を除去した。
得られたシルクフィブロイン多孔質体の力学的特性として、前述の方法により、25%圧縮硬さを測定した。この圧縮硬さを表1に示す。なお、測定結果は、作製した多孔質体の任意の5箇所、及び異なる日に作製した多孔質体の任意の5箇所、計10箇所について測定を行った平均値(±標準偏差)を示している。
また、同様に作製したシルク多孔質体(60mm×30mm×20mm)から40%圧縮残留ひずみ用サンプル(厚さ10mm、縦30mm×横60mm)を切り出し、40%圧縮残留ひずみを測定した。その結果を表2に示す。
また、同様に作製したシルク多孔質体(60mm×30mm×20mm)の保水率を測定した。その結果を第2表に示す。さらに、該シルク多孔質体の吸水率を測定したところ、1300%であった。
製造例1において、乳酸をエタノールに代えたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した保水率を第2表に示す。
製造例1において、乳酸をコハク酸に代えたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した保水率を第2表に示す。
製造例1において、乳酸を酢酸に代えたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した40%圧縮残留ひずみ及び保水率を第2表に示す。
製造例1において、乳酸をL−アスパラギン酸に代えて、その添加量を1質量%としたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
製造例1において、乳酸をL−グルタミン酸に代えて、その添加量を1質量%としたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した保水率を第2表に示す。
製造例1において、乳酸をL−ヒドロキシプロリンに代えて、その添加量を1質量%としたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を図7に示す。
市販のコラーゲンシート(コグニス社製「ポリモイストマスク」)を用い、該コラーゲンシートを10枚重ねて、製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。
市販のポリウレタンスポンジ(住友スリーエム社製)を用い、測定用サンプル(60mm×30mm×20mm)を切り出し、保水率を測定した。その結果を第2表に示す。
アルミ板で作製した型のサイズを130mm×80mm×12mm(内側サイズ)としたこと以外、製造例1と同様にして、シルク多孔質体を製造した。
本発明の高分子成形体の安全性に関する非臨床試験の一環として、皮膚一次刺激性試験及び皮膚感作性試験を行った。なお、本試験は、「申請資料の信頼性の基準」(薬事法施行規則第43号)を基準として、「医療用具の製造(輸入)承認申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」(2003年2月13日付医薬審発第0213001号)と、「生物学的安全性試験の基本的考え方に関する参考資料について」(2003年3月19日付医療機器審査No.36)に従い行った。
製造例8により製造されたシルク多孔質体を5mm×5mm×5mmのサイズに切り出して試験片とした。
製造例1と同様にして、シルク多孔質体を製造した。シルク多孔質体を含水後に凍結し、マシンニングセンタ(オークマ社製)を用いて、直径1.8mmの球状に切削し、高分子成形体とした。これを圧縮して、内径3mmのチューブに導入し、1%ポリグルタミン酸(日本ポリグル社製)水溶液をチューブ内に導入し、乾燥させた。乾燥後、チューブを取り除き、圧縮・固定品を得た。圧縮・固定品に注水することで、元の大きさの高分子成形体を得た。
アルミ板で作製した型のサイズを130mm×80mm×12mm(内側サイズ)としたこと以外、製造例1と同様にして、シルク多孔質体を製造した。このシルク多孔質体をシート状に1mm厚でスライスした。このシートを5cm角にカットし、中心部分にポリグルタミン酸架橋物の粉末(日本ポリグル社製)を0.2gを配置した。このシートをナイロン製の縫合糸(2−0号)(日腸工業社製)を中心に筒状に巻き、上下を縫合糸で結び、牽引部材(直径2〜3mm)とした。
牽引部材を取り出し、注水することで、直径約1.5cmに膨潤した。
製造例8により製造されたシルク多孔質体の生理食塩液抽出液及びゴマ油液抽出物をウサギに塗布し、局所皮膚刺激性の有無について検討した。具体的には、製造例8により製造されたシルク多孔質体から切り出された上記試験片に生理食塩液又はゴマ抽を加え、オートクレーブ内で120℃、1時間の条件で抽出し、各試験液とした。また、抽出溶媒(生理食塩液又はゴマ油液)のみを同様な条件で処理し、対象液とした。投与は、1溶媒あたり雄ウサギ6匹を用い、1匹につき、試験液及び対象液をそれぞれ背部の無傷皮膚、擦過傷皮膚に0.5mLずつ投与した。
生理食塩液抽出による試験液では、6例中3例で投与後1時間からごく軽度または軽微な紅斑が認められた。この紅斑は対象液である生理食塩液でもみられ、対象液と同等であった。なお、一次刺激性指数は0.3であり、「無視できる程度の刺激性」と判断された。
ゴマ油液による抽出液では、6例中4例で投与後1時間からごく軽度な紅斑が認められた。この紅斑は対象液であるゴマ油液でもみられ、対象液と同等であった。なお、一次刺激性指数は0.1であり、「無視できる程度の刺激性」と判断された。
Maximization Test法により、製造例1により製造されたシルク多孔質体のメタノール抽出液について、雄性モルモット10匹を用いて、モルモット皮膚に対する感作性の有無を検討した。
皮膚感作性試験前に、適切な抽出溶媒を決めるために、アセトンとメタノールを用いて抽出率を算出した。その結果、アセトンよりもメタノールの方が高い抽出率を示したために、皮膚感作性試験に用いる抽出溶媒をメタノールとした。
製造例8により製造されたシルク多孔質体から切り出された上記試験片に、メタノール10mLを加え、室温で恒温浸とう培養機を用いて抽出した。抽出は24時間以上行った。対照群として、オリーブ油で感作する陰性対照群、及び1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンで感作する陽性対照群を設けた。各対照群の動物数はそれぞれ5匹とした。
試験液投与群及び陰性対照群とも、抽出液の6.25、12.5、25、50、100%液並びにアセトンで惹起した結果、惹起後24、48及び72時間のいずれの観察時期においても皮膚反応は見られなかった。
一方、陽性対照群では、0.1%1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンの惹起により、5例全例で惹起後、24,48及び72時間後に明らかな陽性反応が認められた。
この試験結果から、製造例8により製造されたシルク多孔質体には、皮膚感作性を示す物質は存在しないと判断された。
このように、製造例8により製造されたシルク多孔質体は、「無視できる程度の皮膚刺激性」と「皮膚感作性を示す物質は存在しない」ことにより、安全性が高く内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りである本発明の高分子成形体として好適に使用できることが確認された。
製造例1において、アルミ板のサイズを、内側サイズ;40mm×40mm×20mmに変更したこと以外は製造例1同様にして、シルクフィブロイン多孔質体を作製した。この多孔質体を用いて、一辺が1.5cmの立方体を切り出し、はさみで球形に成形し、本発明の高分子成形体を得た。
次に、840デニールのシルク糸(生糸)を4本束ねた連結部材で、縫い針により2つの球状高分子成形体を貫通させることで連結した。各高分子成形体の間に結び目(止め部)を作製し、縫合糸を切断した場合に、一方の高分子成形体のみが外れるようにした。さらに、縫合糸の一端を直径約1cmのループ状に結び結合部位とし、本発明の医療用牽引部材を得た。
該医療用牽引部材を用い、生体ブタを被検体として胃内のESD手術に適用した(図31参照)。図31は、生豚胃内でのESD手術を示す写真である。中央の丸い塊2つが本発明のシルク多孔質体であり、上部粘膜に取り付けられている。以下、図27を参照しながら、詳細に説明する。
このとき、図27に示すように、腫瘍粘膜の一端から連結部材が垂れ下がったような形態になった。内視鏡先端から生理食塩水を高分子成形体にかけて、吸水させることで重さを調製した。その後、順次粘膜下層をナイフで剥離していくが、連結部材がその都度粘膜を牽引し、切除部位が視野を覆わなかった。病変部位の粘膜下層を全て剥離した後、牽引部材とクリップで連結された切除病変を内視鏡下に把持し、口から取り出すことで手術が完了した。手術時間は、約7分であった。今回の手術では用いなかったが、切除病変が5cm、10cmと大きい場合には、切除病変の回収用に、回収用のネットやスネア、3脚などの回収用部材を用いてもよい。
実施例1と同様な大きさの粘膜を、従来の牽引部材を使用する以外は実施例1同様に、生体ブタへESD手術を行った。粘膜が視野を遮ることが多く、視野の確保に時間を要した。手術時間は約30分であった。
その為、本発明の高分子成形体、医療用牽引部材及び医療用牽引具を粘膜切開剥離術補助具として用いることで、従来では適用不可能であった平坦な腫瘍も切除可能になるなどESD不可能症例の低減に貢献でき、また、処置視野の確保、施行時間の短縮、一括切除率の向上等によって、従来法では5%程度発生している穿孔等の合併症発生率も限りなく0%に近づくことが予想される。
21 止め部(脱落防止機構)
22 連結部材
23 連結部位
24 ワッシャー
25 筒
26 チューブ
27 吸水性高分子
28 糸
31 把持部材
51 病変部
52 粘膜
54 粘膜下層
61 内視鏡
62 先端アタッチメント
71 第2の連結部材
Claims (27)
- 内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りである高分子成形体。
- 多孔質体からなる請求項1の高分子成形体。
- 弾性を有する請求項1又は2に記載の高分子成形体。
- 25%圧縮硬さが0.01〜50Nである請求項3に記載の高分子成形体。
- 85〜100%の保水率を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子成形体。
- 球状、回転楕円体状、角丸四角形の回転体、多面体、円柱状又は円錐状である請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子成形体。
- シルクフィブロインを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子成形体。
- 前記多孔質体が、シルクフィブロインを含有する請求項2〜7のいずれか1項に記載の高分子成形体。
- 前記多孔質体が、シルクフィブロイン水溶液を凍結し、ついで融解することにより製造された多孔質体である請求項2〜8のいずれか1項に記載の高分子成形体。
- 前記多孔質体が、添加剤を添加したシルクフィブロイン溶液を凍結し、ついで融解することにより製造された多孔質体である請求項2〜9のいずれか1項に記載の高分子成形体。
- 前記多孔質体が、シルクフィブロイン及び添加剤を含有する請求項2〜9のいずれか1項に記載の高分子成形体。
- 前記添加剤が、有機溶剤、アミノ酸及び脂肪族カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10又は11に記載の高分子成形体。
- 前記添加剤が、エタノール、酢酸、乳酸、コハク酸、アスパラギン酸、グルタミン酸及びヒドロキシプロリンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10又は11に記載の高分子成形体。
- 前記多孔質体を圧縮し、水溶性物質で固定してなる請求項2〜13のいずれかに記載の高分子成形体。
- 前記多孔質体が、水溶性又は不溶性の筒に圧縮して内包されてなる請求項2〜14のいずれかに記載の高分子成形体。
- 前記多孔質体を筒状とし、その筒内に吸水性高分子を内包してなる請求項2〜14のいずれかに記載の高分子成形体。
- 請求項1〜16のいずれか1項に記載の高分子成形体を有する医療用牽引部材。
- 前記高分子成形体と生体組織とを直接又は間接的に連結するための第1の連結部材を少なくとも1つ有する請求項17に記載の医療用牽引部材。
- 前記高分子成形体と内視鏡とを直接又は間接的に連結するための第2の連結部材を少なくとも1つ有する請求項17又は18に記載の医療用牽引部材。
- 前記高分子成形体を2つ以上備え、該複数の高分子成形体が第3の連結部材により連結された請求項17〜19のいずれか1項に記載の医療用牽引部材。
- 前記第1〜第3の連結部材の少なくともいずれかが糸状である請求項18〜20のいずれか1項に記載の医療用牽引部材。
- 前記第1〜第3の連結部材の少なくともいずれかが前記高分子成形体を脱落させない脱落防止機構を少なくとも1つ有する請求項18〜21のいずれか1項に記載の医療用牽引部材。
- 前記第1及び/又は第2の連結部材の一端がループ状又はフック状の形状部分を有する請求項18〜22のいずれか1項に記載の医療用牽引部材。
- 前記第1〜第3の連結部材の少なくともいずれかが内視鏡観察下で切断可能である請求項18〜23のいずれか1項に記載の医療用牽引部材。
- 前記複数の高分子成形体の間で、前記第3の連結部材を切断することで任意の重さに調節可能な請求項20〜24のいずれか1項に記載の医療用牽引部材。
- 請求項18〜25のいずれか1項に記載の医療用牽引部材と生体組織を把持する把持部材とを有する医療用牽引具。
- 前記医療用牽引部材と前記把持部材とを、前記第1の連結部材により連結してなる請求項26に記載の医療用牽引具。
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