JPWO2011118469A1 - 炭素膜及び浸透気化分離方法 - Google Patents

炭素膜及び浸透気化分離方法 Download PDF

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Abstract

メチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団を有し、原子団の合計のモル含有率が、フェノール核に対して、100〜180%であるフェノール樹脂を炭化してなる炭素膜である。

Description

本発明は炭素膜及び浸透気化分離方法に関する。更に詳しくは、混合物から特定の成分を分離するために用いられる炭素膜及びそれを用いた浸透気化分離方法に関する。
従来、環境や省エネルギーの観点から、各種ガス等の混合物から特定のガス等を分離する目的や、アルコール等の各種有機溶剤の混合液や水溶液から特定の成分を分離する目的で、耐熱性及び化学的安定性に優れる炭素膜が用いられている。
このような炭素膜として、気孔率が30〜80%の多孔質体の表面にシリカゾル、アルミナゾル等のコーティング層を形成し、その表面に密着した、炭素含有率が80%以上で、細孔直径が1nm以下の多数の細孔が存在する分子ふるい炭素膜が開示されている(特許文献1参照)。また、炭素含有率が80%以上で、細孔直径0.3〜4nmの多数の細孔が存在し、かつ細孔直径0.6〜2.0nmの範囲に細孔径分布の極大値を有する分子ふるい炭素膜が開示されている(特許文献2参照)。炭素膜の強度が高く、微細孔の分布の均一性が良好で、選択透過性に優れるという観点から、これらの分子ふるい炭素膜はフェノール樹脂の熱分解により得られたガラス状炭素からなることが好ましい旨開示されている。
更に、高い分離性能を有するとともに分離性能の経時変化を少なくするために、表面、細孔内、又は表面及び細孔内の両方に、水、アルコール、エーテル、又はケトンが担持されている多孔質の炭素膜が開示されている(特許文献3参照)。このような炭素膜を形成するための前駆体として、ポリイミド樹脂、リグニン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリフルフリルアルコール、ポリフェニレンオキシド、セルロース等を用いることが開示されている。
特許第3647985号明細書 特開2000−237562号公報 国際公開第2009/150903号
特許文献3に開示された多孔質性の炭素膜は、モデル実験においては極めて分離性能が優れるものである。しかしながら、実際に工業過程において使用される、酸性の水溶液、酸性の有機溶剤、酸性の腐食性ガスの分離を行う場合には、酸の作用により炭素膜が劣化し、選択性が低下するという問題がある。
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高い選択性を有し、長期的に性能が安定しており、各種酸性のガスや液を分離する実際の工業過程においても繰り返し使用することができる炭素膜を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、メチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団の合計のモル含有率を制御したフェノール樹脂を用いることによって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、以下に示す炭素膜及び浸透気化分離方法が提供される。
[1]メチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団を有し、前記原子団の合計のモル含有率が、フェノール核に対して、100〜180%であるフェノール樹脂を炭化してなる炭素膜。
[2]前記フェノール樹脂の重量平均分子量が200〜10000である前記[1]に記載の炭素膜。
[3]表面及び/又は細孔内に、水、アルコール、エーテル、及びケトンからなる群より選択される少なくとも一種が担持されている前記[1]又は[2]に記載の炭素膜。
[4]前記フェノール樹脂を600〜900℃の温度で炭化してなる前記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の炭素膜。
[5]2種以上の成分を含む供給液を前記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の炭素膜に接触させ、前記炭素膜を透過した気体を冷却し、特定の成分を含む透過液として分離する浸透気化分離方法。
[6]酸性成分を含む前記供給液を前記炭素膜に接触させ、前記炭素膜を透過した気体を冷却し、特定の成分を含む透過液として分離する前記[5]に記載の浸透気化分離方法。
[7]前記酸性成分が、塩酸、硫酸、又は硝酸である前記[6]に記載の浸透気化分離方法。
[8]前記酸性成分の含有割合が、前記供給液の全量に対して、0.001〜0.2%である前記[6]又は前記[7]に記載の浸透気化分離方法。
本発明の炭素膜は、高い選択性を有し、長期的に性能が安定しており、各種酸性のガスや液を分離する実際の工業過程でも繰り返し使用することができるという効果を奏するものである。
また、本発明の浸透気化分離方法によれば、混合物から特定の成分を高い選択性で分離することができるという効果を奏する。
以下、本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に含まれることが理解されるべきである。
I.炭素膜:
本発明の炭素膜は、メチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団(以下、単に「原子団」ともいう)の合計のモル含有率が、フェノール核に対して、100〜180%であるフェノール樹脂を炭化してなるものである。このようなフェノール樹脂を炭化した炭素膜は、従来の炭素膜に比べて結晶構造がより安定的なものとなる。従って、耐酸性が向上すると考えられる。
フェノール樹脂を炭化してなる炭素膜は従来公知のものである。しかし、本発明の炭素膜は、原子団の合計のモル含有率が所定の範囲内にあるフェノール樹脂を炭化してなるものである。そのため、熱処理後の炭素膜前駆体が嵩高い構造となり、ナノ細孔が多い炭素膜が得られることになる。それゆえ、透過量が多いことに加えて、耐酸性が向上する。その結果、本発明の炭素膜は高い選択性を有し、長期的に性能が安定しており、各種酸性のガスや液を分離する実際の工業過程でも繰り返し使用することができる。
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、フェノールとアルデヒドを縮重合させた熱硬化性樹脂の1つである。本発明の炭素膜に使用されるフェノール樹脂は、原子団の合計のモル含有率が、フェノール核に対して、100〜180%であるものである。なお、原子団は、いずれかのフェノール母核の炭素原子と結合している。
フェノール樹脂のメチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団の合計のモル含有率は、フェノール核に対して、100〜180%であり、110〜150%であることが好ましく、110〜130%であることが更に好ましい。原子団の合計のモル含有率がこのような範囲にあることで、熱処理後の炭素膜前駆体が嵩高い構造となり、ナノ細孔が多い炭素膜が得られることになる。それゆえ、透過量が多いことに加えて、耐酸性が向上すると考えられる。
フェノール樹脂のメチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団の合計のモル含有率は、「熱硬化性樹脂」、Vol.14 No.4(1993),p8−12に記載の方法に従って算出することができる。
具体的には次のようにして算出する。先ず、フェノール樹脂をピリジン/無水酢酸にてアセチル化して得られた試料のH−NMRスペクトルを測定する。次に、測定結果を下記式に代入して、フェノール樹脂のフェノール核の数、メチレン結合の数、ジメチレンエーテル結合の数、メチロール基の数、及びヒドロキシメトキシメチル基の数を算出する。
(フェノール核の数)=S/3−S/2
(メチレン結合の数)=S/2
(ジメチレンエーテル結合の数)=S/4
(メチロール基の数)=S/2−S/2
(ヒドロキシメトキシメチル基の数)=S/2
なお、各式中、Sは、δ値が1.80〜2.50ppmのピーク面積(ArOCH、ArCHOCH、ArCHOCHOCHに帰属)を示す。Sは、δ値が3.00〜4.10ppmのピーク面積(PhCHPhに帰属)を示す。Sは、δ値が4.10〜4.65ppmのピーク面積(ArCHOCHArに帰属)を示す。Sは、δ値が4.65〜5.07ppmのピーク面積(PhCHOAc、PhCHOCHOAcに帰属)を示す。Sは、δ値が5.07〜5.40ppmのピーク面積(PhCHOCHOAcに帰属)を示す。
次いで、上記式から算出した値を下記式に代入することで、フェノール樹脂のメチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団の合計のモル含有率を算出することができる。
モル含有率(%)=(M+M+M)/M
フェノール樹脂の重量平均分子量は200〜10000であることが好ましく、3000〜10000であることが更に好ましく、4000〜10000であることが特に好ましい。重量平均分子量がこのような範囲にあることで、選択性の高い膜が得られる。重量平均分子量が10000超であると、熱処理時や炭化時の膜の収縮によって欠陥が生じ易く、選択性が低下する場合がある。重量平均分子量が200未満であると、均一な厚さの炭素膜を形成できない場合がある。
重量平均分子量は従来公知の方法に従って測定することができる。但し、本発明においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算の値として測定した値である。
このようなフェノール樹脂としては特に限定されるものではなく、市販品を使用することができる。例えば、商品名「ベルパールS899」、「ベルパールS890」、「ベルパールS870」(以上、エア・ウォーター社製)、商品名「スミライトレジン53056」(住友ベークライト社製)、商品名「レヂトップPSK2320」、商品名「マリリンHF」(以上、群栄化学社製)等がある。
(炭素膜)
本発明の炭素膜は、表面及び/又は細孔内に、水、アルコール、エーテル、及びケトンからなる群より選択される少なくとも一種(以下、「担持成分」ともいう)が担持された炭素膜であることが好ましい。担持成分を担持させることにより、選択性を向上させることができる。これは、担持成分が細孔内に吸着或いは付加反応等により担持されることで、細孔を狭め(即ち、細孔内で立体障害となり)、これにより分子径の大きな成分、特に直線状や平面状の成分が細孔内を通り難くするためであると考えられる。これらの担持成分の中でも、水、アセトン、直鎖状のアルコール又は直鎖状のエーテルであることが好ましく、水、アセトン、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
担持成分の分子量は100以下であることが好ましく、30〜100であることが更に好ましく、40〜100であることが特に好ましい。分子量が100超であると、細孔を閉塞して分離対象成分の透過量が低下する場合がある。一方、30未満であると、細孔を狭めるという効果を損なう場合がある。
炭素膜において、膜の質量に対する担持成分の質量が100〜5000ppmであることが好ましい。100ppm未満であると、選択性向上の効果が低下する場合がある。一方、5000ppm超であると、細孔を閉塞して分離対象成分の透過量が低下する場合がある。
炭素膜の平均細孔径は、0.2〜1.0nmであることが好ましい。平均細孔径が0.2nm未満であると、担持成分が細孔を閉塞して分離対象成分の透過量が低下する場合がある。一方、1.0nm超であると、担持成分を担持させた場合の選択性向上の効果が低下する場合がある。なお、炭素膜の平均細孔径はガス吸着法を用いて測定した値である。
炭素膜の厚さは、0.01〜10μmであることが好ましく、0.01〜0.5μmであることが更に好ましい。厚さが0.01μmより薄いと、選択性が低下したり、強度が低下したりする場合がある。一方、10μmより厚いと、分離対象成分の透過性が低下する場合がある。なお、炭素膜の厚さは電子顕微鏡を用いて測定した値である。
(炭素膜の製造方法)
炭素膜の製造方法について工程毎に説明する。なお、炭素膜は、多孔質基材の表面に形成してもよい。また、多孔質基材を用いずに、中空糸膜を製膜する等の方法により単独の膜として形成してもよい。但し、炭素膜の強度、耐久性を向上させる観点から、多孔質基材の表面に形成することが好ましい。
多孔質基材としては特に限定されないが、セラミックス多孔質体を用いることが好ましい。セラミックスの多孔質基材の具体的な材質としては、アルミナ、シリカ、コージェライト等を挙げることができる。
多孔質基材の平均細孔径は0.01〜10μmであり、かつ気孔率は30〜70%であることが好ましい。多孔質基材の平均細孔径が0.01μmより小さいと、圧力損失が高くなる場合がある。一方、10μmより大きいと、多孔質基材の強度が低下する場合がある。また、多孔質基材の気孔率が30%より小さいと、分離対象成分の透過性が低下する場合がある。一方、70%より大きいと、多孔質基材の強度が低下することがある。
なお、「平均細孔径」は、水銀圧入法を用いて測定した値である。また、「気孔率」は、アルキメデス法により測定した値である。
また、多孔質基材の形状は特に限定されず、炭素膜の使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、円板状、多角形板状等の板状;柱状体の内部に複数の貫通孔を形成したレンコン形状(以下、「モノリス形状」という)、ハニカム形状、円筒、角筒等の筒状;円柱、角柱等の柱状等がある。容積、重量に対する膜面積比率が大きいことから、特にモノリス形状やハニカム形状であることが望ましい。また、多孔質基材の大きさは特に限定されず、支持体として必要な強度を満たすとともに、分離対象成分の透過性を損なわない範囲で、目的に合わせて適宜選択することができる。
多孔質基材の表面に、炭素膜を形成する方法は以下の通りである。先ず、スピンコート法、ディップ法等によりフェノール樹脂の前駆体溶液を多孔質基材の表面に塗布する。次いで、多孔質基材の表面にフェノール樹脂を塗布したものを、90〜300℃、0.5〜60時間の条件で熱処理し、炭素膜前駆体を得る。炭素膜前駆体の厚さは、0.01〜10μmであることが好ましく、0.01〜0.5μmであることが更に好ましい。
なお、多孔質基材の表面に炭素膜を形成する場合は、フェノール樹脂の前駆体溶液は、フェノール樹脂を溶媒に完全に溶解させることなく、懸濁させた状態のものを使用することが好ましい。これは、フェノール樹脂の前駆体溶液は粘性が低いので、多孔質基材の表面に堆積させて染み込みを防止し、均一に成膜するためである。
次に、所定の条件で熱処理することにより炭素膜前駆体を炭化して炭素膜を得る。炭素膜前駆体を熱処理するときの雰囲気は、非酸化性雰囲気であることが好ましい。非酸化性雰囲気とは、炭素膜前駆体が熱処理時の温度範囲で加熱されても酸化されない雰囲気をいい、具体的には、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や真空状態等の雰囲気をいう。
また、炭素膜前駆体を熱処理するときの温度は、600〜1200℃であることが好ましく、600〜900℃であることが更に好ましく、650〜800℃であることが特に好ましい。600℃より低いと、炭化が不十分となるため細孔が形成されず、分離性能が発現しない場合がある。一方、1200℃より高いと、強度が低下したり、膜が緻密化し過ぎて分離性能が低下したりする場合がある。
また、炭素膜を、多孔質基材を用いずに、中空糸膜やフィルムを作製する等の方法により単独の膜として形成する方法は以下の通りである。先ず、炭素膜の原料であるフェノール樹脂の前駆体溶液を調製し、紡糸用ノズルから中空糸状に押し出し、凝固溶媒に浸漬して凝固させる等の方法で中空糸膜を形成する。その後、所定の条件で熱処理することにより炭化して炭素膜を得る。
このようにして得られた炭素膜に、担持成分を担持させる処理(以下、「担持処理」ともいう)を行うことが好ましい。この処理は、担持成分を透過させるか、或いは、炭素膜を担持成分に浸漬することで行うことができる。担持処理により、炭素膜の細孔内に、担持成分を担持させることができ、各種混合ガスや混合液を分離する際、所望の成分の選択性を向上させることができる。また、得られた炭素膜を保管する時、及び炭素膜を分離対象成分の分離に使用する時に、保管雰囲気中の水分や、分離対象成分等が、細孔内に吸着して細孔を閉塞することを防止することができる。そのため、高い透過性能を安定して維持することができる。
炭素膜に担持成分を透過させる条件としては、透過流束を0.01〜10kg/m・hとし、温度を0〜200℃とし、透過時間と1秒〜5時間とすることが好ましく、透過流束を0.1〜1kg/m・hとし、温度を20〜100℃とし、透過時間を10秒〜1時間とすることが更に好ましい。透過流束が0.01kg/m・hより小さいと、処理時間が長くなる場合がある。一方、10kg/m・hより大きいと、担持成分が大量に必要になる場合がある。また、温度が0℃より低いと、所望の透過流束が得られない場合がある。一方、200℃より高いと、担持成分が引火する等の危険性が高くなる。透過時間が1秒より短いと、担持成分が炭素膜の細孔内に吸着し難くなる場合がある。一方、5時間より長いと、不必要に時間をかけることになる場合がある。
担持成分を透過させる処理は、1〜10回繰り返して行うことが好ましい。回数が10回より多いと、不必要に多くの操作をすることになる場合がある。
また、炭素膜を担持成分に浸漬するときの条件としては、温度を50〜100℃とし、浸漬時間を1分〜24時間とすることが好ましい。温度が50℃より低いと、担持成分が担持され難い場合がある。一方、100℃より高いと、担持成分が引火する等の危険性が高くなる場合がある。浸漬時間が1分より短いと、担持成分が炭素膜の細孔内に吸着し難くなる場合がある。一方、24時間より長いと、不必要に時間をかけることになる場合がある。
炭素膜を担持成分に浸漬する処理は、1〜10回繰り返して行うことが好ましい。回数が10回より多いと、不必要に多くの操作をすることになる場合がある。
炭素膜の細孔内に担持成分を吸着させた後、加熱することでより強固に担持成分を結合させる。加熱の温度は、50〜200℃である。50℃より低いと、担持成分が炭素膜に結合し難い場合がある。また、200℃より高い高温条件は必要ない。
炭素膜の細孔内に、担持成分を担持させるときには、担持量が飽和に達し、それ以上担持されない状態にすることが好ましい。これにより、炭素膜を保管又は使用するときに、保管雰囲気中の水分等が、細孔内に吸着して細孔を閉塞することを防止することができる。そのため、高い分離性能を安定して維持することができる。
II.浸透気化分離方法
浸透気化分離方法とは、液体と膜を接触させ、膜を通して液体を気化させて、膜を透過した気体を冷却し、特定の成分を含む透過液として分離する膜分離方法をいう。本発明の浸透気化分離方法は、2種以上の成分を含む供給液を「I.炭素膜」に記載の炭素膜に接触させ、炭素膜を透過した気体を冷却し、特定の成分を含む透過液として分離する方法である。炭素膜が高い選択性を有し、かつ長期的に性能が安定しており、各種酸性のガスや液を分離する工業過程においても繰り返し使用することができるので、本発明の浸透気化分離方法は、2種以上の成分を含む供給液から特定の分離成分を高い選択性で分離することができる。
特に、供給液に酸性成分が含まれていても、炭素膜が耐酸性に優れ、劣化し難いので、従来の炭素膜を用いた場合より高い選択性で分離することができる。この高い選択性は、酸性成分として、一般に強酸に分類される塩酸、硫酸、硝酸の場合に特に顕著となる。
酸性成分の含有割合は、供給液の全量に対して、0.001〜0.2%であることが好ましい。酸性成分の含有割合がこの範囲内にあることで、各種酸性のガスや液を分離する実際の工業過程においても繰り返し使用することができる本発明の炭素膜の効果を最も効果的に発揮できる。即ち、酸性成分の含有割合が0.001%未満であると、従来の炭素膜を用いても、実際の工業過程で繰り返し使用することができる場合がある。一方、0.2%超であると、従来の炭素膜を用いた場合の大幅な低下程ではないが、分離性能が若干低下する場合がある。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法を以下に示す。
[原子団の合計のモル含有率(%)]:先ず、フェノール樹脂をピリジン/無水酢酸にてアセチル化して得られた試料のH−NMRスペクトルを測定し、下記式に代入して、フェノール樹脂のフェノール核の数、メチレン結合の数、ジメチレンエーテル結合の数、メチロール基の数、及びヒドロキシメトキシメチル基の数を算出した。
(フェノール核の数)=S/3−S/2
(メチレン結合の数)=S/2
(ジメチレンエーテル結合の数)=S/4
(メチロール基の数)=S/2−S/2
(ヒドロキシメトキシメチル基の数)=S/2
なお、各式中、Sは、δ値が1.80〜2.50ppmのピーク面積(ArOCH、ArCHOCH、ArCHOCHOCHに帰属)を示す。Sは、δ値が3.00〜4.10ppmのピーク面積(PhCHPhに帰属)を示す。Sは、δ値が4.10〜4.65ppmのピーク面積(ArCHOCHArに帰属)を示す。Sは、δ値が4.65〜5.07ppmのピーク面積(PhCHOAc、PhCHOCHOAcに帰属)を示す。Sは、δ値が5.07〜5.40ppmのピーク面積(PhCHOCHOAcに帰属)を示す。
次いで、上記式から算出した値を下記式に代入することで、フェノール樹脂の原子団の合計のモル含有率を算出した。
モル含有率(%)=(M+M+M)/M
[重量平均分子量]:市販品に表示された平均分子量である。
[分離係数α]:分離係数は、下記式に各濃度を代入することで算出した。
分離係数α=((透過液の水濃度)/(透過液のエタノール濃度))/((供給液の水濃度)/(供給液のエタノール濃度))
[α/αin]:算出した初期の分離係数αinと酸処理後の分離係数αの値から算出した。この値が1に近い又はそれ以上である場合、より耐酸性に優れるといえる。なお、0.80未満の場合を「不良」と評価し、0.80〜0.90の場合を「良」と評価し、0.90超の場合を「優」と評価した。
[透過流束(Flux)(kg/mh)]:浸透気化分離試験において多孔質基材側面からの透過液を液体窒素トラップで捕集し、捕集した透過液量の質量をサンプリング時間と膜面積で割ることで透過流束を算出した。
(実施例1〜21及び比較例1〜8)
平均粒径50μmのアルミナ粒子を用いた平均細孔径12μmのモノリス形状の多孔質基材上に平均粒径3μmのアルミナ粒子を含むスラリーを用いてろ過製膜法により堆積した後、焼成し、厚み200μm、平均細孔径0.6μmの第一表面緻密層を形成した。この第一表面緻密層の上に、更に平均粒径0.3μmのチタニア粒子を含むスラリーを用いてろ過製膜法により堆積した後、焼成して厚み30μm、平均細孔径0.1μmの第二表面緻密層を形成した。この多孔質基材全体の気孔率は50%であった。
この多孔質基材上に、表1に記載の炭素膜の各種前駆体溶液をディップ法により塗布した。次いで、大気雰囲気下、200〜350℃で熱処理した後、窒素雰囲気下、表1に記載の炭化温度で炭化して炭素膜を得た。得られた炭素膜を表2に記載の各種処理条件で処理した。得られたそれぞれの炭素膜の初期分離性能と、表2に記載の各種酸性条件で処理した後の分離性能を、水−エタノール浸透気化分離法(試験条件:水/EtOH=10/90(質量比)、供給液温度70℃、透過側圧力6.7kPa)により評価した。
Figure 2011118469
Figure 2011118469
なお、実施例1〜21及び比較例1〜8で用いた炭素膜の各種前駆体溶液の種類と、各種処理条件及び各種酸性条件を以下に示す。
(前駆体溶液)
A=フェノール樹脂、商品名「ベルパールS899」(エア・ウォーター社製、重量平均分子量=4000)
B=フェノール樹脂、商品名「スミライトレジン53056」(住友ベークライト社製、重量平均分子量=200)
C=フェノール樹脂、商品名「レヂトップPSK2320」(群栄化学社製、重量平均分子量=1500)
D=フェノール樹脂、商品名「マリリンHF」(群栄化学社製、重量平均分子量=3000)
E=フェノール樹脂、商品名「ベルパールS890」(エア・ウォーター社製、重量平均分子量=10000)
F=フェノール樹脂、商品名「ベルパールS870」(エア・ウォーター社製、重量平均分子量=>10000)
G=ポリアクリロニトリル樹脂、商品名「タフチックA−20」(東洋紡社製)
H=ポリフルフリルアルコール
I=ポリイミド樹脂、商品名「U−ワニスA」(宇部興産社製)
J=フェノール樹脂、商品名「ベルパールS830」(エア・ウォーター社製、重量平均分子量=>10000)
K=フェノール樹脂、商品名「メチロール化合物26DMPC」(旭有機材工業社製、重量平均分子量=168)
(処理条件)
X1:水とエタノールの50%/50%混合液に80℃で3時間浸漬後、80℃で100時間加熱。
X2:水とアセトンの50%/50%混合液に50℃で3時間浸漬後、80℃で100時間加熱。
X3:水に80℃で3時間浸漬後、80℃で100時間加熱。
(酸性条件)
Y1:10%硫酸水溶液に80℃で40時間浸漬。
Y2:10%塩酸水溶液に80℃で40時間浸漬。
Y3:10%硝酸水溶液に80℃で40時間浸漬。
Y4:70%酢酸水溶液に80℃で40時間浸漬。
Y5:浸透気化分離の供給液(水/EtOH=10%/90%)に硫酸を0.1%添加し40時間試験実施。
Y6:浸透気化分離の供給液(水/EtOH=10%/90%)に硫酸を0.001%添加し40時間試験実施。
Y7:浸透気化分離の供給液(水/EtOH=10%/90%)に硫酸を0.2%添加し40時間試験実施。
Y8:浸透気化分離の供給液(水/EtOH=10%/90%)に硫酸を0.3%添加し40時間試験実施。
比較例1〜6からわかるように、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフルフリルアルコール樹脂から調製した前駆体溶液を用いた炭素膜では、いずれも酸に浸漬、或いは供給液へ硫酸を添加したことにより選択性が大幅に低下した。また、比較例7及び8からわかるように、フェノール樹脂から調製した前駆体溶液を用いた炭素膜であっても、原子団のモル含有率が本発明の範囲内(100〜180%)にない場合、供給液へ硫酸を添加したことにより選択性が大幅に低下した。
一方、実施例1〜21からわかるように、各種フェノール樹脂から調製した前駆体溶液を用いた炭素膜では、酸に浸漬、或いは供給液へ硫酸を添加したことによる選択性の大幅な低下はなかった。
担持成分を担持させずに、分離対象成分を含む供給液に硫酸を添加して分離試験を行なった実施例13は、初期の選択性が低く、酸浸漬後に選択性が若干低下したが、比較例1〜8のような大幅な選択性の低下はなかった。特に、実施例21の結果と比較すると、フェノール樹脂の重量平均分子量が200〜10000であると、担持処理を行わなくても、より耐酸性に優れる炭素膜が得られることがわかる。
また、原子団の合計のモル含有率が、フェノール核に対して、110%である前駆体溶液A、E(実施例4、16)、150%である前駆体溶液D(実施例15)を用いた場合、原子団の合計のモル含有率が180%である前駆体溶液B(実施例9)、160%である前駆体溶液C(実施例10)を用いた場合に比べて高い透過量が得られた。また、重量平均分子量が10000超である前駆体溶液F(実施例17)を用いた場合、初期の選択性が低かった。
また、浸透気化分離の供給液(水/EtOH=10%/90%)に対する硫酸の含有割合を検討したところ、0.01〜0.2%である場合、分離性能に変化は見られなかった(実施例14、18、19)。一方、含有割合が0.3%(0.2%超)の場合(実施例20)、比較例1〜8のような大幅な選択性の低下はなかったが、選択性が若干低下した。
本発明の炭素膜は、複数の物質(気体、液体)の混合物から特定の物質(ガス、液体)を選択的に分離するためのフィルタ等に用いることができる。特に、混合物に酸性成分が含まれていても選択性に低下がないので繰り返し使用することができる。そのため、工業過程での利用が期待される。

Claims (8)

  1. メチレン結合、ジメチレンエーテル結合、及びメチロール基からなる群より選択される少なくとも1種の原子団を有し、
    前記原子団の合計のモル含有率が、フェノール核に対して、100〜180%であるフェノール樹脂を炭化してなる炭素膜。
  2. 前記フェノール樹脂の重量平均分子量が200〜10000である請求項1に記載の炭素膜。
  3. 表面及び/又は細孔内に、
    水、アルコール、エーテル、及びケトンからなる群より選択される少なくとも一種が担持されている請求項1又は2に記載の炭素膜。
  4. 前記フェノール樹脂を600〜900℃の温度で炭化してなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素膜。
  5. 2種以上の成分を含む供給液を請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素膜に接触させ、前記炭素膜を透過した気体を冷却し、特定の成分を含む透過液として分離する浸透気化分離方法。
  6. 酸性成分を含む前記供給液を前記炭素膜に接触させ、前記炭素膜を透過した気体を冷却し、特定の成分を含む透過液として分離する請求項5に記載の浸透気化分離方法。
  7. 前記酸性成分が、塩酸、硫酸、又は硝酸である請求項6に記載の浸透気化分離方法。
  8. 前記酸性成分の含有割合が、前記供給液の全量に対して、0.001〜0.2%である請求項6又は7に記載の浸透気化分離方法。
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