JP5414015B2 - 多孔質炭素膜およびその製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、この方法では、ミクロ孔領域の多孔質炭素材料は得られるものの、メソ孔領域のものは合成することができず、また、高価な多孔質鋳型剤を用いなければならず、また、最終的にはかかる鋳型剤の除去プロセスが必要であるため、その合成プロセスが複雑となるといった難点があった。
しかし、この特許文献で実質的に開示されているのは、界面活性剤と熱硬化樹脂前駆体の混合物を基板上に塗布した膜を焼成することにより得られたものであって、その構造は、当該特許文献の写真や図面などから明らかなように、六方構造配置を採る多孔質炭素材料であった。
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉基板と平行に設けられた膜であって、当該膜の最上端表面に開口部をもつ立方構造配置のメソ孔を有することを特徴とする多孔質炭素膜。
〈2〉基板が多孔質基板であることを特徴とする〈1〉に記載の多孔質炭素膜。
〈3〉多孔質基板の細孔内部に膜が形成されていることを特徴とする〈2〉に記載の多孔質炭素膜。
〈4〉基板上に設けた熱硬化性樹脂前駆体と界面活性剤とから形成される構造規則性を有する液状構造物に、気相状態の架橋剤を接触させて、硬化反応を行い、ついで得られる硬化体を炭素化することを特徴とする〈1〉から〈3〉のいずれかに記載の多孔質炭素膜の製造方法。
〈5〉熱硬化性樹脂前駆体がフェノール類であり、架橋剤がアルデヒド類であることを特徴とする〈4〉に記載の多孔質炭素膜の製造方法。
(2)本発明の製造方法は、界面活性剤と樹脂前駆体であるフェノール類の混合物を基材表面に塗布することで液体構造体を形成し、これにホルムアルデヒドなどの架橋剤を気相で接触させて架橋反応を行う構成としたことから、液膜中にホルムアルデヒドが効率よく浸透し、所望の構造配置を与える熱硬化性樹脂膜を得ることができ、また、界面活性剤とフェノール樹脂の溶解度に制限されることなく、幅広い濃度範囲で、従来法では調製することが不可能であった原料組成で反応を進行させることが可能となった結果、最表面に開いた三次元的立方構造配置のメソ孔を持つ炭素膜を製造することができる。
(3)また、本手法では、フェノール類が未反応の(ホルムアルデヒド類を含まない)状態で界面活性剤と混合して使用されるため、塗布前にフェノール類とホルムアルデヒド類の反応を開始させる前記特許文献5に記載の方法に比較して塗布溶液の粘度を低く調整できるため、平膜に限らず様々な形状の基材に対しても、規則性炭素膜の合成が可能となり、例えば、曲率の高い基材やガラスフィルター、セラミックスフィルターの内表面(細孔内部)にも炭素膜を形成することができる。
(4)このため、より高機能なVOC(揮発性有機蒸気)回収用の分離膜や、バイオエタノールの濃縮に用いられる新規なパーベーポレーション膜としても利用可能な多孔質基板の細孔表面を均一な厚さの炭素膜で被覆したコンポジット材料が容易に得られるといった多くの利点を有する。
本発明の多孔質炭素膜の模式構造を図1aに示す。本発明の多孔質炭素膜は少なくともこの最上端の表面にメソ孔が開口部をもって規則的に配列されている。ここでメソ孔とは細孔径が2〜50nmのものをいう。
このメソ孔の細孔径は電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などに測定される。なお、後記の実施例5のような多孔質内部に設けられた多孔質炭素膜のメソ孔の細孔径は、たとえば蒸気とヘリウムの混合ガスを、含まれる蒸気の濃度を変えて膜に供給した際のヘリウムガスの膜透過流束の測定膜透過流束測定装置によって求められる測定される。
また、メソ孔の規則性とは、鋳型剤となる界面活性剤の自己組織化による構造を鋳型として、メソ孔が周期性(特定方向に、ある一定の間隔)をもって形成されていることを意味し、この規則性は、たとえば、前述の電子顕微鏡や原子間力顕微鏡で観察する以外にX線回折装置によって測定・確認することができる。
本発明の多孔質炭素膜は、前記したように、少なくとも基板と平行な膜の最表面にメソ孔が開口部をもって規則的に配列されていることを特徴としているが、その内部に周期的に配列し、3次元的に繋がったメソ孔が形成されているものが好ましい。もっとも好ましいものは、図1aに示されるキュービック構造(三次元立方配置構造)のものである。
このようなキュービック構造の多孔質炭素膜は、最上端の表面に開口部をもち、炭素膜のメソ孔は、3次元的に繋がった構造持つ特性を利用して、電極材料や触媒担体、吸着分離材、センサーなどなどの材料として好適に使用することができる。
ここで、基板上に設けた熱硬化性樹脂前駆体と界面活性剤とから形成される構造規則性を有する液状構造物とは、図2の上段中央に示されるように、当該樹脂前駆体に界面活性剤ミセルが内包された液膜を意味する。
前記した特許文献5に記載の方法では、界面活性剤と熱硬化性樹脂前駆体および架橋剤との3者混合物を同時に基板に塗布することから、界面活性剤の濃度が制限されるため、六方構造配置となってしまい、本発明のような3次元立方構造配置を採ることができない。
これに対して、本発明方法では、界面活性剤と熱硬化性樹脂前駆体との混合物を基材表面に塗布することで液状構造物(液膜)を形成させた後、架橋剤を気相で接触させる手法を採用したことから、液膜中に架橋剤が効率よく浸透し、所望の構造配置を与える熱硬化性樹脂膜を形成することが可能となる。また、本手法では、界面活性剤と樹脂前駆体の溶解度に制限されること無く、幅広い濃度範囲で合成することができるため、従来法では調製することが不可能であった原料組成で反応を進行させることが可能となった結果、最表面に開いた三次元的立方構造配置のメソ孔を持つ炭素膜を製造することができる。
また、本手法では、樹脂前駆体が架橋剤の非在下で界面活性剤と混合されるため、塗布前にフェノール類とホルムアルデヒド類の反応を開始させる特許文献5に比較して塗布溶液の粘度が低く、平膜に限らず様々な形状の基材に対しても、規則性炭素膜を合成することが出来る。例えば、曲率の高い基材やガラスフィルター、セラミックスフィルターの内表面(細孔内部)にも炭素膜を形成することが可能となる。
熱硬化性樹脂前駆体と界面活性剤との使用割合は、モル比で、1:0.01〜0.025である。
熱硬化性樹脂前駆体、界面活性剤、水、エタノールの使用割合に特に制限はないが、1:0.005〜0.05:0〜120:60〜110で、好ましくは1:0.01〜0.02:0〜70:60〜80である。
この場合、架橋剤は、使用する熱硬化性前駆体の種類によって適宜選定すればよい。たとえば、フェノール類であれば、ホルムアルデヒドのようなアルデヒド類を用いればよい。架橋剤を気相で供給するため、熱硬化性樹脂前駆体と架橋剤の使用割合は、限定されない。
また、この場合、架橋反応あるいはこれに続く硬化反応を促進するために、水酸化ナトリウムと言った無機、有機塩基や、炭酸ナトリウムを含む無機、有機塩、塩酸などの無機、有機酸でもよい。この中でも、水酸化ナトリウムなどの無機塩基触媒を使用することが好ましい。
架橋剤を前記液状構造物に接触させる温度は、架橋剤の種類等を考慮し適宜定めればよいが、通常20℃〜100℃である。また供給時間も特に制限されないが、30分〜6時間である。
以下の操作において、シリコン基板は、予め、アンモニア水と過酸化水素水で加熱洗浄し、440℃で4時間加熱することで、表面を洗浄し、空冷後したものを使用した。また、水酸化ナトリウム水溶液としては、pHが13.2となるよう希釈したものを使用した。
界面活性剤(両親媒性ブロックコポリマー:BASF社F127)1gとレゾルシノール0.5g、水酸化ナトリウム水溶液5g、エタノール15.9gをビーカーにとり、約12時間室温で攪拌して図2に示される塗布溶液を調製した。原料のモル比は、レゾルシノール:エタノール:水:F127=1:76:61:0.017となる。この塗布溶液は最終的に赤色を帯びる。この溶液をディップコーティングによりシリコン基板に塗布した。
次に、ホルムアルデヒド溶液を入れた容器と、溶液をコーティングしたシリコン基板をシャーレ(反応器)の中に入れ、蓋をし、50℃のオーブン内で4時間静置し、気化したホルムアルデヒドをシリコン基板上の液膜に蒸着・浸透させた(図2)。その結果、レゾルシノールとホルムアルデヒドが液膜中で脱水縮合して架橋することで、規則構造を有する樹脂が形成された。
上記で得たその表面に規則構造を有する樹脂が設けられたシリコン基板を取り出し、空気中で70℃のオーブンの中で12時間置き樹脂を硬化させた。その後、不活性雰囲気下、400℃で4時間加熱し、鋳型剤である界面活性剤(F127)を熱分解させて取り除いた。得られた炭素材料の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した(図3)。図3の表面像では、表面にメソ孔開口部を有することが確認でき、その細孔径は約9.2nmであった。また、そのメソ孔は規則的に配列していることが分かる。その配列は、図3右上においては、縦方向と左上から右下方向と2方向に対して直線的に細孔が配列している。これらは、立方構造配置の(1,1,1)面を有している。
400℃で熱処理して鋳型剤を除去した上記の炭素材料を更に不活性雰囲気下800℃で2時間炭化した。この炭素材料を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した(図4)。図4の表面像では、表面に開口部を有するメソ細孔が規則的に配列していることが確認できた。炭素膜表面におけるメソ細孔の規則的配列は、図の縦方向(イ)と左下から右上方向(ロ)に見られた。表面像を画像解析した結果、このメソ細孔の大きさは5〜10nm程度であり、また隣り合うメソ細孔同士の間隔(メソ細孔間の中心間距離)は(イ)方向では15nm、(ロ)方向では13nmであった。また図4の破断面では、膜表面(破断面像の左上領域)に対して平行にメソ細孔が等間隔(層間隔は15nm)で7層積層していることを確認した。破断面像からは、破断面に対して平行に横方向(図4の左下から右上方向)に並んだメソ細孔、破断面に対して開口している(破断面にほぼ垂直な方向に延びた)メソ細孔、さらに破断面に対して平行に縦方向(図の縦方向)に並んだメソ細孔の3通りの規則的配列が存在しており、本発明で得られた炭素膜の内部に立方構造配置をとるメソ細孔が形成されていることがわかった。
実施例1において、ホルムアルデヒドの気相化を60℃で行った以外は実施例1と同様にして多孔質炭素膜を得た。得られた多孔質炭素膜の表面をAFMで観察した(図5)。図5に示すAFMの表面像は、図3に示した実施例1の表面像とほぼ同様な構造を持っていることが分かった。また細孔径も実施例1の場合とほぼ同じく約9.7nmであった。
実施例1において、ホルムアルデヒドの気相化を40℃で行った以外は実施例1と同様にして多孔質炭素膜を得た。得られた多孔質炭素膜の表面をAFMで観察した(図6)。図6に示すAFMの表面像は、図3に示した実施例1の表面像とほぼ同様な構造を持っていることが分かった。また細孔径も実施例1の場合とほぼ同じく約9.3nmであった。
実施例1において、レゾルシノール0.5gの代わりにフロログルシノール0.75gを用い、水酸化ナトリウム水溶液を使用しなかった以外は実施例1と同様にして多孔質炭素膜を得た。得られた多孔質炭素膜の表面をAFMで観察した(図7)。図7の表面像では、表面に約10.2nmのメソ孔が開口部をもっていることが確認できた。図3と比べて、図全体を通して一定方向に直線的に配列してはいないが、小さなスケール(約100nm四方)で見ると、実施例1などと同じく立方構造配置の(1,1,1)面の配置を取り、規則的に配列していることが分かった。
実施例4において、基板を円盤フィルター状の多孔質アルミナ基材(600nmの細孔;マクロ孔:細孔直径50nm以上)に代え、かつホルムアルデヒドの気相化を60℃で行った以外は実施例4と同様にして多孔質炭素膜を得た。
アルミナ基材内部のマクロ孔表面に出来た炭化物の細孔径を膜透過流束測定装置で測定した。サンプルをヘリウムガス中で200℃に加熱し前処理を行った後、ヘキサン濃度水蒸気の相対湿度を飽和濃度の0.1-98%の範囲で調節したヘキサン/ヘリウム混合ガスを流してヘリウムガスの膜透過流束を測定し、異なるヘキサン濃度における相対湿度に対するヘリウムガスの膜透過流束(図8)を求めた。図8に示すようにヘキサン濃度相対湿度が飽和濃度の10-15%の領域で膜透過流束がステップ状に減少しており、この領域で細孔内へのヘキサン水蒸気の毛管凝縮が急激に起こっていることがわかった。また、このことは、均一な大きさのメソ孔が形成されていることを示す。
Claims (5)
- 基板と平行に設けられた膜であって、当該膜の最上端表面に開口部をもつ立方構造配置のメソ孔を有することを特徴とする多孔質炭素膜。
- 基板が多孔質基板であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭素膜。
- 多孔質基板の細孔内部に膜が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の多孔質炭素膜。
- 基板上に設けた熱硬化性樹脂前駆体と界面活性剤とから形成される構造規則性を有する液状構造物に、気相状態の架橋剤を接触させて、硬化反応を行い、ついで得られる硬化体を炭素化することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多孔質炭素膜の製造方法。
- 熱硬化性樹脂前駆体がフェノール類であり、架橋剤がアルデヒド類であることを特徴とする請求項4に記載の多孔質炭素膜の製造方法。
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