本発明は、建築、造船、橋梁、建設機械、海洋構造物、自動車などに用いられる繰り返し荷重を受ける構造用の金属製部材であって、疲労き裂の発生が問題となる溶接継手を対象にして、その疲労特性を効率よく改善することのできる、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置及び溶接継手の疲労特性改善方法、ならびに疲労特性が改善された溶接継手の製作方法に関するものである。
船舶や橋梁、海洋構造物など鋼構造物、さらに自動車などは、多くの鋼部材を溶接接合して構成されており、各種の溶接方法によって、溶接継手が形成される。そして、溶接部の表面側の鋼部材(母材)と溶接金属との境界部に、溶接止端部が形成される。この溶接止端部近傍は、溶接時に高温状態の溶接金属部が周辺の母材部に拘束された状態で冷却されることに起因して引張残留応力が存在し易い部位であり、さらには、構造物として用いられるときには部材への外力により応力が集中し易い部位である。このため、構造物の溶接継手部に繰り返し荷重が作用すると、溶接止端部から疲労き裂が発生し致命的なき裂や割れに進展する可能性を有しており、溶接止端部の残留応力問題および応力集中し易い形状の問題は、鋼構造物の疲労特性を向上させる上での妨げとなっている。
このような溶接部に発生する疲労き裂は、構造物全体の信頼性に重大な影響を及ぼすため、従来から疲労特性を向上させる種々の手法が試みられてきた。
例えば、社団法人日本道路協会、「鋼橋の疲労」、丸善株式会社、1997年5月、および、P. J. Haagensen and S J. Maddox、IIW Recommendations on Post Weld Improvement of Steel and Aluminum Structures、XIII−1815−00、Revised 16 February 2004、では、(a)機械的な方法(グラインディング)により溶接部を平滑にする方法、或いは(b)TIG溶接により溶接部に化粧溶接(ドレッシング)を施す方法などにより応力集中を低減する手法が開示されている。
また、溶接部にピーニングを施して、疲労き裂が発生する部位に圧縮応力を導入し、あわせて応力集中を低減する方法も提案されている。打撃処理としては、(c)ショットピーニング、(d)ハンマーピーニングなどのほか、近年(e)超音波衝撃処理(例えば、特開2006−167724号公報、特開2006−175512号公報、米国特許第6,171,415号公報、参照)などが挙げられる。
上記の(a)〜(e)などの疲労特性改善処理によれば、溶接止端部の耐疲労き裂発生特性を向上させ得ることが知られており、特に、(e)の超音波衝撃処理は比較的短時間の処理で大きな改善効果が得られることから、産業界の期待は大きい。しかし、この超音波衝撃処理は、人手で処理することを前提に開発されてきたため、鋼橋やクレーンなど長い距離を連続して処理する必要のある構造物や組み立て作業の自動化が進んでいる工場などでは、採用が困難な場合があった。
また、自動処理のためにロボットに超音波衝撃処理装置を組み込む場合、溶接ビードの止端部のラインは通常溶接線方向に不規則にゆがんでいるため正確に止端部に処理を行うためには、止端部の位置検出機能やゆがみに合わせて走行可能とする機構など高度な自動制御が必要であり、費用の面から実用化が困難な場合があった。
そこで、本発明は、上記課題を有利に解決して、自動制御というような複雑な機構を用いることなく処理位置の自律追尾を可能とする、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置及び溶接継手の疲労特性改善方法、ならびに疲労特性が改善された溶接継手の製作方法を提供することを目的とするものである。
本発明は、被処理材である溶接継手と打撃処理装置とが溶接方向に相対移動する機構と前記(d)や(e)などの打撃処理機構を有利に組み合わせることによって上記課題を解決しようとするものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、該打撃処理装置1には、
前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、該支持押圧機構部5を搭載し、打撃処理機構部2を基台12に載置された被処理材7の溶接止端部9に沿って溶接線方向に移動させる移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記被処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を調整する角度調整機構10が配設され、さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置。
(2)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、該打撃処理装置1には、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、支持押圧機構部5が配設される装置基部11と、被処理材7を搭載し、被処理材7の溶接止端部9が打撃処理機構部2に沿うように、溶接線方向に移動する移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記披処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を調整する角度調整機構10が配設され
さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と装置基部11との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置。
(3)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、溶接方向と直角な方向への動きに自由度を持たせつつ、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動させてハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善方法であって、溶接継手の溶接止端部の所望とする曲率半径に基づいて打撃ピンの曲率半径を選定し、前記打撃ピン3が金属材料73と溶接金属8の両方に接した状態で溶接止端部9へ対向する場合に、前記溶接継手の溶接線と直交する断面内において、溶接止端91から打撃ピン3と金属材料73との接点31までを結ぶ直線Aと、溶接止端91から打撃ピン3と溶接金属8との接点32までを結ぶ直線Bとを想定し、これら2つの直線AおよびBがなす角度を溶接止端部開き角度φとするとき、溶接継手の溶接線方向に溶接止端部開き角度φを測定し、その最小値と最大値が90°以上160°以下である溶接継手に対して、前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、前記溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2である中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcと同じとなるように設定して、打撃ピンを溶接止端部に対向させ、ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を少なくとも1回施すことを特徴とする溶接継手の疲労特性改善方法。
ただし、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の中心線C(以下、溶接止端部開き角度φの中心線Cともいう)とは、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値、すなわち平均角度の二等分線を意味するものとする。
(4)(3)に記載のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す前に、前記打撃ピンの中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、前記溶接止端部開き角度φの最小値及び最大値の平均値の1/2である中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcより大きくなるように設定して、予備のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を少なくとも1回施すことを特徴とする(3)に記載の溶接継手の疲労特性改善方法。
(5)前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理において、金属材料表面に対して前記溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2である中心線Cに対して前記打撃ピン3の中心線Dがなす角度を許容変動角度θとするとき、前記溶接止端部の開き角度φの最小値と最大値が90°以上140°未満の場合は、前記許容変動角度を±20°以内、前記溶接止端部の開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下の場合は、許容変動角度を±10°以内として、前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを設定することを特徴とする(3)または(4)に記載の溶接継手の疲労特性改善方法。
但し、許容変動角度θは、溶接継手の溶接方向と直交する断面内において、中心線Cに対して、溶接金属側に傾く場合を+(プラス)、金属材料表面側に傾く場合を−(マイナス)とする。
(6)前記予備のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理において、金属材料表面に対して前記溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2である中心線Cに対して前記打撃ピン3の中心線Dがなす角度を偏差角度θ’とするとき、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が90°以上140°未満である場合は偏差角度θ’を0°超〜20°、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下である場合は許容変動角度θ’を0°超〜10°として、前記予備のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理における前記打撃ピンの中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを設定することを特徴とする(4)または(5)に記載の溶接継手の疲労特性改善方法。
但し、偏差角度θ’は、溶接継手の溶接方向と直交する断面内において、中心線Cに対する溶接金属側への傾き角度とする。
(7)金属材料を溶接して溶接継手を製作し、ついでこの溶接継手の溶接止端部に、(3)〜(6)のいずれかに記載の方法によりハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施すことを特徴とする疲労特性が改善された溶接継手の製作方法。
本発明によれば、簡易な移動機構と遊動機構と支持押圧機構と打撃処理装置を有利に組み合わせて用いるため、速やかにかつ正確にしかも合理的に溶接継手の疲労特性を向上させることができ、前述のような技術課題や経済的課題の問題点を有利に解決することができる。例えば、本発明の装置をロボット等による自動移動処理装置として使用する場合には、単純に溶接ビードの大まかな方向を指示するのみでよい。溶接止端のゆがみを検出し、これに追従するようにするための機能が不要となり、極めて簡易なシステムで処理システムを構築することが可能となり、経済的にも極めて有効である。また、人手により溶接継手に打撃処理を行う場合は、頻繁に休憩を取る必要のある負荷の大きい作業であるが、本発明を用いれば、打撃処理中は処理の進行を監視する業務のみでよく、処理効率を高めることが期待できる。このように、本発明によれば、疲労き裂発生防止効果と溶接継手の製作工期の短縮、さらには設備の簡略化による経済効果との両方が期待できる。
図1は、本発明の装置の一実施例を模式的に示す斜視図であり、打撃処理機構部を移動させることで、被処理材との相対移動を行わせる場合を示す。
図2は、本発明の装置の他の実施例を模式的に示す斜視図であり、被処理材を移動させることで、打撃処理機構部との相対移動を行わせる場合を示す。
図3は、本発明で定義する溶接止端部開き角度φと打撃ピン3の溶接止端部9への対向方向の許容変動角度θを示す溶接止端部の溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図4(a)は、溶接止端部の開き角φが90°より小さい場合に打撃処理による溶接止端部にき裂状形状が形成される過程を模式的に説明する図であり、処理前の状態を示す。
図4(b)は、溶接止端部の開き角φが90°より小さい場合に打撃処理による溶接止端部にき裂状形状が形成される過程を模式的に説明する図であり、処理後の状態を示す。
図5(a)は、本発明に好適な打撃ピンの先端形状を模式的に示す図であり、P≦2Rの場合を示す。
図5(b)は、本発明に好適な打撃ピンの先端形状を模式的に示す図であり、P>2Rの場合を示す。
図6(a)は、本発明の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を変えて打撃処理を行う場合を示すもので、予備の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を示す溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図6(b)は、本発明の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を変えて打撃処理を行う場合を示すもので、予備の打撃処理の後の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を示す溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図7(a)は、本発明を適用する溶接継手の一実施例であるT字溶接継手の溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図7(b)は、本発明を適用する溶接継手の一実施例であるT字溶接継手の平面の模式図である。
図8は、本発明を適用する溶接継手の他の実施例である突合せ溶接継手の溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図9は、実施例1の打撃処理における溶接止部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図10は、実施例1の打撃処理における溶接止端部開き角度φの中心線の角度Vcと打撃ピンの中心線の角度Vdとの差と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図11は、実施例2の打撃処理における溶接止端部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図12は、実施例2の打撃処理における溶接止端部開き角度φの中心線の角度Vcと打撃ピンの中心線の角度Vdとの差と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図13は、実施例3の打撃処理における溶接止端部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図14は、実施例3の打撃処理における溶接止端部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す他の例の図である。
図15は、実施例3の打撃処理における溶接止端部開き角度φの中心線の角度Vcと打撃ピンの中心線の角度Vdとの差と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明においてはハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を、単に、「処理」又は「打撃処理」と呼ぶこともある。
本発明を適用する溶接継手の溶接止端部の形状について説明する図7(a)は、本発明を適用する溶接継手の一例であるT字溶接継手の溶接方向と直交する断面の模式図である。主板(鋼板)71の上面にリブ板(鋼板)72をリブ板71の両側から隅肉溶接しており、鋼板面より外側に凸状の溶接ビード(溶接金属)8がリブ板の両側に形成され、溶接止端部92〜95が形成されている。なお、図7(b)は、このT字溶接継手の平面の模式図である。
また、図8は本発明を適用する溶接継手の他の例である突合せ溶接継手の溶接方向に直交する断面の模式図である。二つの鋼板73、73を突き合わせて配置し、突き合せ溶接したもので、鋼板面より外側に凸状の溶接ビード(溶接金属)8が形成され、溶接止端部96〜99が形成されている。
本発明において、金属材料面(鋼板)に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手とは、上述のように、溶接ビードが金属材料面よりも突出している状態をいうものであって、溶接ビードが金属材料面と同じ又はこれより低い場合を除くものである。すなわち、溶接ビードが少なくとも外に凸の状態でないと、金属材料表面と溶接ビードによる溶接止端部のV形の溝が形成されず、打撃ピンを溶接方向と直角な方向への自由度を持たせつつ、溶接止端部に押し付けながら溶接線方向に移動させて、ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す本発明の方法において、打撃ピンが溶接止端部に沿ってガイドされ難くなるためである。
図1及び、第2図に本発明の装置の概略図を示す。本発明は、溶接継手の溶接後に溶接止端部9(92〜95,96〜99)にハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2を簡易な移動機構6、遊動機構4、支持押圧機構5と組み合わせて疲労き裂発生阻止性能の高い溶接部を有する溶接継手を効率よく作製する装置1に関するものであり、また、その装置を用いた溶接継手の疲労特性改善方法に関するものである。
(1)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1は、金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、図1に示すように、該打撃処理装置1には、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、該支持押圧機構部5を搭載し、打撃処理機構部2を基台12に載置された被処理材7の溶接止端部9に沿って溶接線方向に移動させる移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記披処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を調整する角度調整機構10が配設され、さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5の内部、前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする。
また、(2)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1は、金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、図2に示すように、該打撃処理装置1には、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、支持押圧機構部5が配設される装置基部11と、被処理材7を搭載し、被処理材7の溶接止端部9が打撃処理機構部2に沿うように、溶接線方向に移動する移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記披処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を調整する角度調整機構10が配設され、さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5の内部、前記支持押圧機構部5と装置基部11との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする。
(1)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1と、(2)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1とは、後述する打撃処理機構部2と被処理材である溶接継手7の溶接止端部9とを溶接線方向に相対的に移動させる移動機構部6の配置或は構成が異なっているが、その他の点においては、ほぼ共通する。
すなわち、本発明に係る溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1の移動機構として、次のような大きく分けて2つのタイプが考えられる。一つは、(1)に記載したもので、図1に示すように、被処理材である溶接継手7を基台12に載置、固定し、遊動機構部4を介して打撃処理機構部2を取り付けた支持押圧機構5を、移動機構部6を構成する電動台車61とガイドレール62を備えた移動機構部6の電動台車61に搭載し、溶接止端部に沿って移動させるようにしたタイプである。もう一つは、(2)に記載したもので、図2に示すように、移動機構部6は被処理材7の移動のみを行い、遊動機構部4を介して打撃処理機構部2を取り付けた支持押圧機構5は装置基部11に固定して処理を行うようにしたタイプである。この場合、移動機構部6としては、被処理材7である溶接継手を搭載し、その溶接止端部を打撃処理機構部2の打撃ピンに沿うように溶接方向に移動可能とするものであればよく、台車13などを備えることができる。いずれのタイプを選択するかは、処理対象や処理環境(屋外構造物の処理、工場内での処理等)によって、適宜選択するのが望ましい。
上述のように、(1)、(2)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1は、移動機構部6の構成、配置などが異なるほかは、他の構成、機能についてはほぼ共通するので、以下では、共通する部分を説明し、重複する説明を省略する。
まず、本発明の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4について説明する。図3は、溶接止端部の溶接線方向と直交する断面の模式図である。本発明では、金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部9に打撃ピン3を押し付けながら、より詳しくは、図3に示すように、打撃ピン3を、接点31で金属材料73と、また、接点32で溶接止端部の溶接金属8とに当接するようにして押し付けながら、溶接線方向に相対的に移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す。
その際、溶接線方向に垂直な断面で、打撃処理機構部2の打撃ピン3は、打撃処理部の溶接線方向への相対移動に伴い押し付け位置が逸れて金属材料73または溶接金属8の片方のみと当接(片当たり)するようになることがある。
本発明の装置の遊動機構部4は、支持押圧機構5による処理機構部2、打撃ピン3を経た押圧力、および打撃ピン3が片当たりした金属材料73または溶接金属8からの反力を受けながら、打撃処理機構部2の打撃ピン3の先端を溶接止端部方向に自律的に移動させるようにするものである。その結果、打撃処理機構部2に対して特別な位置制御を行うことなく合理的に溶接止端部9に打撃処理を施すことができる。
すなわち、遊動機構部は、溶接止端部のビード形状の溶接線方向と直角な方向へ位置の変化による金属材料73または溶接金属8からの打撃処理機構部2への反力に対して、支持押圧機構部5を変位可能とすることによって衝撃を緩和しつつ打撃ピンをできるだけ溶接止端部に押しつけるようにする機能を有するものである。
遊動機構部4の具体的な遊動機構としては、構造の簡便さや部品の調達のしやすさなどから、たとえば、図1に示すように、打撃処理機構部2を支持する軸42を、移動機構部6に取付けられた支持押圧機構5のアームの先端部に設けたローラーベアリングタイプの軸受け41で移動機構部6の移動方向と直交する方向に回動自在に支持するようにした回転タイプのほか、図2に示すように、打撃処理機構部2を支持する軸42を、装置基部11に取付けられた支持押圧機構5のアームの先端部において移動機構部6の移動方向と直交する方向の面43内で移動自在に支持するようにしたリニアスライドタイプも好ましい。なお、遊動機構部4の配設場所は、上記の作用、効果を発揮する場所であればよく、(1)に記載の装置の場合は、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていればよい。
また、(2)に記載の装置の場合は、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と装置基部11との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていればよい。
本発明の装置における支持押圧機構部5は、打撃処理機構部2での打撃処理が適切に行われるように、ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理の打撃処理機構に応じてこれを支持し、適正な荷重で打撃処理機構2の打撃ピンを被処理材の溶接止端部に押圧できることが必要である。なお、装置の保護などの面から打撃ピン3からの反動を吸収する機構を更に付加することが望ましい。
また、本発明の装置には、打撃処理機構部2の打撃ピンの中心軸(中心線)が被処理材である溶接継手の金属材料面に対して所定の角度をなすように打撃ピンの中心軸(中心線)の角度を調整する角度調整機構10が設けられている。これは、例えば、図1、図2に示すように、支持押圧機構部5の途中、あるいは支持押圧機構部5と移動機構部6との間に、継手を少なくとも打撃処理方向、例えば溶接線方向、と直交する面内において回動自在に設け、油圧装置などにより回動させることによって調整可能とすることにより達成できる。
なお、角度調整機構としては、例えば、図1に示すように、載置台12を基盤床面に対して、傾斜角度を有するものとし、その上に被処理材としての溶接継手を載置するようにし、油圧装置などにより載置台の傾斜角度を調整するようにしても良い。
本発明の装置における打撃処理機構部2としては、ハンマーピーニング処理装置又は超音波衝撃処理装置が採用される。ハンマーピーニング処理装置又は超音波衝撃処理装置そのものは、例えば特開2006−167724号公報、特開2006−175512号公報、米国特許第6,171,415号公報等に開示されているとおり公知であり、それらを用いた打撃処理による溶接止端部9の疲労特性改善効果などについても公知であることから、その詳細についての説明は割愛する。なお、打撃処理時の反動が比較的少ないことや衝撃処理の出力が高いことなどから、ハンマーピーニング処理より超音波衝撃処理装置の方が好ましい。
次に、(3)〜(6)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善方法は、金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、溶接方向と直角な方向への動きに自由度を持たせつつ、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動させてハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す溶接継手の疲労特性改善方法である。すなわち、好適には(1)又は(2)に記載の打撃処理装置を用いて、溶接継手の溶接止端部にハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す溶接継手の疲労特性改善方法である。
本発明の方法では、被処理材である溶接継手の溶接止端部ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す際に、打撃処理機構部2に、例えば遊動機構部などにより、溶接継手の溶接方向と直角な方向への動きの自由度を持たせている。これは、上記(1)、(2)の装置において説明したように、打撃ピン3のピン先端が、打撃処理時の振動によって、溶接継手との接触面からの反力の止端方向に向く成分と打撃処理装置の押し付け方向の力との合成力により、溶接止端部9に形成されたV形の溝の谷側に自律的に移動できるようにするためである。
本発明の方法においては、まず、溶接継手の溶接止端部について所望とする溶接止端部の曲率半径を決定し、これに基づいて打撃処理に使用する打撃ピンの先端の曲率半径を設定する必要がある。これは、溶接止端部が滑らかな凹状を得られるような曲率半径とすればよいが、その曲率半径は、疲労特性の改善の観点から、溶接止端部の形状、溶接止端部への応力集中度合いなどを勘案して選定し、設定する。通常、1〜10mmとするのが好ましい。次にこの曲率半径に基づいて、打撃処理に使用する打撃ピンの先端の曲率半径を設定する。溶接止端部の凹状は、打撃処理に使用される打撃ピンの曲率半径がほぼ転写されて形成されるので、打撃ピンの曲率半径は、上記所望の溶接止端部の曲率半径と同じ1〜10mmとすることが好ましいが、これに限るものではない。つまり、打撃部の塑性流動により圧縮残留応力を付与することが目的であるため、ピンの形状の多少の違いは導入される圧縮応力の大きさに特に大きな影響を及ぼさない。なお、打撃ピンの先端形状(曲率半径Rと直径Pの関係)については後述する。
このようにして設定した先端の曲率半径を有する打撃ピンと溶接止端部との関係を溶接線方向に直角な断面で図3に示す。図3は、金属材料(鋼板)73を突き合わせ溶接した溶接継手の溶接止端部の溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図3に示すように、打撃ピン3が金属材料73と溶接金属8の両方に接した状態で溶接止端部9(91)へ対向する場合に、溶接方向に直角な面内で、溶接止端9(91)と打撃ピン3と金属材料73との接点31とを結ぶ直線Aと、溶接止端91と打撃ピン3と溶接金属8との接点32とを結ぶ直線Bとを想定し、これら2つの直線AおよびBがなす角度を溶接止端部開き角度φとする。溶接継手の溶接線方向の複数位置について溶接止端部開き角度φを測定し、得られた複数位置の溶接止端部開き角度φに基づいて溶接止端部の開き角度φの最大値及び最小値を求め、この溶接止端部開き角度φの最小値が90°以上最大値が160°以下である溶接継手に対して、前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、前記溶接止端部開き角度φの最大値と最小値の平均値の中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcと同じとなるように設定して、打撃ピンを溶接止端部に対向させ、少なくとも1回のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施すものである。
ただし、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の中心線Cとは、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の二等分線(すなわち平均角度の1/2)を意味するものとする。
このように、本発明の(3)に記載の方法では、前記2つの直線AおよびBがなす溶接止端部開き角度φの最小値が90°以上、最大値が160°以下である溶接継手の止端部に対して打撃処理を行う。打撃処理の対象とする溶接止端部の開き角度φを上記の範囲に限定する理由は、以下のとおりである。
図4(a)、図4(b)は、溶接止端部開き角φが90°より小さい場合に、打撃処理により溶接止端部にき裂状形状が形成される過程を模式的に説明する図である。すなわち、この角度φが90°より小さい場合には、処理対象である溶接止端91と打撃ピン3とが離れてしまうため(図4(a))、打撃処理により、その間の材料、すなわち、接点31から溶接止端91までの金属材料73と、接点32から溶接止端9(91)までの溶接金属8とが互いに接するまで塑性変形を受け、その結果として、溶接止端部にき裂状の形状100を形成してしまう可能性が高く(図4(b))、疲労特性の向上が得られないことがあるためである。また、この角度φが160°超では、処理対象である溶接止端部から打撃ピン3の先端がすべって、離脱してしまう可能性が高まり、十分な打撃処理ができない場合があるからである。
このように、本発明の方法においては、溶接止端部開き角度φを測定することが必要である。これは、例えば、二次元レーザ変位計を用いることによって溶接線に沿う複数の位置で溶接線に直角な方向の溶接止端部の断面形状を得ることができ、得られた断面形状と上記で設定した使用する打撃ピンの曲率半径との関係から、図3で説明したような定義に沿って溶接止端部開き角度φを測定することができる。
上述のように、本発明において打撃処理を施す溶接継手は、溶接止端部開き角度φの最小値90°以上、最大値160°以下とするものであるが、この最小値、最大値は、溶接継手の溶接線方向のビード状況、止端部の状況などを目視観察し、最小値、あるいは最大値となる可能性のある部位を推定し、その部位について上記の方法で溶接止端部開き角度φを測定することによって求めることができる。
本発明の方法では、溶接方向に直角な面内において、処理対象である溶接継手7の溶接ビードの溶接線方向の溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2の角度である中心線Cが金属材料73の表面に対してなす角度Vcに対して、前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料73の表面に対してなす角度Vdを所定の関係に設定してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す。これは、打撃ピン3からの押し付け力と打撃ピン3の溶接継手の溶接止端部との接触面からの反力が釣り合い易くするためである。
この打撃処理では、設定した打撃ピンの対向方向においては、打撃処理機構2に対して特別な位置制御を行わなくても打撃ピン3が常に被処理材の溶接止端の方向に自律的に移動するため、打撃処理中の打撃ピン3が溶接止端部から逸れてしまうことを防止することができる。
次に、(4)に記載の発明は、(3)に記載の発明において、前記打撃ピンの中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、前記溶接止端部開き角度φの最小値及び最大値の平均値の中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcより大きくなるように設定して、予備のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を少なくとも1回施し(以下、予備の処理、または予備の打撃処理とも記す)、次いで、当該予備の処理を施した溶接止端部に対して、(3)に記載したように、前記打撃ピンの中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、上記予備の処理を施す前の前記溶接止端部開き角度φの最小値及び最大値の平均値の中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcと同じになるように設定して、再度、ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を少なくとも1回施す(以下、本来の処理、または本来の打撃処理とも記す)ものである。
本発明の方法においては、上述の(3)のように、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が90°以上160度以下°である溶接継手に対して少なくとも1回以上の打撃処理を行うものであるが、更に、本来の処理を安定させかつ効率的にするために、(3)の打撃処理(本来の処理)を行う前に上述の(4)の予備の打撃処理を施すことが好ましい。
すなわち、溶接ビードの金属材料面からの立ち上がりが大きい場合や、手棒での溶接や溶接技術者の技量が低い場合など溶接止端の開き角度φの変動幅が大きい場合や変動の周期が短い場合、ビード止端部の波打ちが激しい場合などがあり、処理中に打撃ピンが溶接金属に引っ掛かり、打撃ピンに大きな負荷がかかり、処理装置を停止させる必要が生じることがある。(4)の予備の処理を施すことによりこれらの問題を回避することができる。また、この(4)の予備処理は前記の打撃ピンが引っ掛かりやすい溶接条件ではなくても、よりスムーズな本来の処理を行う上で有効な処理である。
図6(a)、図6(b)は、本発明の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を変えて打撃処理を行う場合を説明する溶接止端部の溶接方向と直交する断面の模式図である。
図6(a)は、予備の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を、図6(b)は、図6(a)で処理した箇所に本来の打撃処理(すなわち(3)の打撃処理)を施す際の打撃ピンの金属材料表面に対する角度をそれぞれ示している。
溶接止端部に予備の打撃処理を施す際には、図6(a)に示すように、打撃ピンを打撃ピンの中心線Dが金属材料73の表面に対してなす角度Vdを、溶接止端部開き角度φの最小値、最大値の平均値の1/2である中心線Cが金属材料73の表面に対してなす角度Vcよりも大きくなるように設定して打撃処理を施す。この予備の打撃処理においては、打撃ピンの中心線の角度Vdを、溶接止端部開き角度φの中心線Cの角度Vcよりも大きくなるように(Vd>Vc)設定するので、溶接ビードの止端部の金属材料からの立ち上がりが大きい場合や、溶接止端の波うちが大きい場合でも、打撃ピンの中心線Dの角度Vdが、溶接止端部開き角度φの中心線Cの角度Vcと同じとなるように(Vd=Vc)設定される場合と比べて、溶接金属側から打撃ピンに与えられる反力が緩和され、処理中に打撃ピンが溶接金属に引っ掛かったり、打撃ピンへの大きな負荷により装置を停止させる必要がない。この予備の打撃処理によって、溶接ビードの止端部の金属材料からの立ち上がりが小さくなり、また、溶接止端部の波うちを緩和することができるので、引き続いて同じ溶接止端部へ打撃処理を施す際には、溶接金属側から打撃ピンに与えられる反力を減らすことができ、溶接金属部との摩擦を小さくし、ピンが滑らかに溶接止端部をなぞりやすくすることができる。
次いで、上述の予備の打撃処理を施した後の溶接止端部に、図6(b)に示すように、打撃ピンを打撃ピンの中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdが前記予備の処理を施す前の前記溶接止端部開き角度φの平均値の中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcと同じとなるように設定して、再び、ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理、すなわち上記(3)の処理(本来の処理)を施す。この打撃処理においては、予備の打撃処理によってできた溝がピンの移動方向のガイドとなるため溶接金属側からの反力の影響を受けにくくなり、打撃処理をより円滑に遂行することができる。
すなわち、(4)に記載の予備の打撃処理を行う方法は、溶接ビードの止端部の金属材料からの立ち上がりが大きい場合や溶接止端の波うちが大きい場合に有効な方法であり、同じ溶接止端に複数回の打撃処理を行うことを考慮したものである。つまり、溶接ビードの止端部の金属材料からの立ち上がりが大きい場合には、溶接止端部開き角度φが小さくなったり溶接止端の波うちが大きい場合に処理中に打撃ピンが溶接金属に引っかかりやすく、処理中に打撃ピンに大きな負荷がかかり、処理装置を停止させる必要が生じることがあるため、これを回避することができる。
なお、上述の予備の打撃処理は、溶接止端部が上述のような形状である場合に特に有利であるが、これに限定されるものではなく、通常の溶接止端部の形状の場合においても(4)の予備の打撃処理を行うことにより、(3)の打撃処理を円滑に行う観点から、さらに円滑に打撃処理を行うことができる。
なお、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の差が30°超というような止端部の形状では、一般的に溶接ビードの止端部の金属材料からの立ち上がりが大きくなる場合や、溶接止端部開き角度φが小さくなったりして、溶接止端部の波うちが大きい場合が多く、従って、打撃処理中に打撃ピンが溶接金属に引っかかりやすく、処理中に打撃ピンに大きな負荷がかかり、処理装置を停止させる必要が生じることがある。したがって、これを回避するために、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の差が30°超の場合は、予備の打撃処理を施すことが好ましい。
(5)に記載の発明は、(3)に記載の発明の打撃処理において、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の中心線Cに対して前記打撃ピン3の中心線Dのなす角度を許容変動角度θとするとき、好ましくは、前記溶接止端部の開き角度φの最小値と最大値が90°以上140°未満の場合は、許容変動角度を±20°以内、前記溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下の場合は、許容変動角度を±10°以内として前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを設定するものである。
すなわち、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下と大きい場合には、打撃ピン3の中心線Dが開き角φの中心線Cから大きく外れると処理面(金属材料表面)からの反力の溶接止端部方向に向く成分が小さくなり、溶接止端部にできるV形の溝から打撃ピンが外れやすくなる。従って、安定的な処理を行うためには、打撃ピン3の中心線Dが、溶接止端部の開き角度φの中心線Cからずれるは小さくすること、すなわち、打撃ピン3の中心線Dの溶接止端部開き角度φの中心線Cに対するずれは±10°以内となるように設定することが好ましいからである。
また、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が90°以上140°未満の場合は、上記の溶接止端部開き角度φの最小値と最大が140°以上160°以下の場合と比較して、打撃ピン3のピン先が処理面からの反力の溶接止端方向に向く成分が大きく、溶接止端部に形成されたV形の溝の中央部に常に安定的に位置できるようになるため、打撃ピンの中心線Dの溶接止端部開き角度φの中心線Cからのずれは±20°以内まで許容できる。
なお、許容変動角度θおよび後述する偏差角度θ’のプラスマイナス(±)は、図3及び後述の図6(a)、図6(b)に示すように、溶接方向に直交する断面内において、前記溶接止端部開き角度φの中心線Cに対して金属材料73の表面側へ傾く場合を+(プラス)、溶接金属8側へ傾く場合を−(マイナス)とする。
このように、(5)に記載の発明によれば、打撃ピンの中心線の設定角度Vdに所定の許容変動角度θをもたせることにより、(3)の発明の方法に比べて打撃ピンの設定角度の範囲が広がり、処理作業の効率を増すことができるとともに、安定した処理作業を実行することが可能となる。
次に、(6)に記載の本発明は、(4)に記載の発明の予備の打撃処理において、金属材料表面に対して前記溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の中心線Cに対して前記打撃ピン3の中心線Dがなす角度を偏差角度θ’とするとき、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が90°以上140°未満である場合は偏差角度θ’を0°超〜20°、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下である場合は偏差角度θ’を0°超〜10°として、前記予備のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理における前記打撃ピンの中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを設定するものである。
すなわち、上述の(4)に記載の方法の予備の打撃処理では、打撃ピンの中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdは、前記溶接止端部開き角度φの最小値と最小値の平均値の1/2である中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcよりも大きくなるように(Vd>Vc)設定されればよいが、打撃ピンの中心線Dが、上記溶接止端部開き角度φの中心線Cから大きく離れると、溶接止端部に形成されるV形の谷側に自律的に移動するのが困難となり易い。
すなわち、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下と大きい場合には、打撃ピン3の中心線Dが上記溶接止端部開き角度φの中心線Cから大きく外れると処理面からの反力の溶接止端部方向に向く成分が小さくなり、溶接止端部にできるV形の溝から打撃ピンが外れやすくなる。従って、(6)の方法では、安定的な処理を行うためには、上記溶接止端部の開き角度φの中心線Cからのずれを小さくすること、すなわち、好ましくは、打撃ピン3の中心線Dは、偏差角度θ’を0°超〜10°の範囲として、金属材料表面とのなす角度Vdを設定するものである。
なお、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が90°以上140°未満の場合は、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下の場合と比較して、打撃ピン3のピン先が処理面からの反力の溶接止端方向に向く成分が大きく、溶接止端部に形成されたV形の溝の中央部に常に安定的に位置できるようになるため、打撃ピンの中心線Dの許容変動角度θ’は、0°超〜20°まで許容できる。
なお、偏差角度θ’は、溶接継手の溶接方向と直交する断面内において、溶接止端部開き角度φの中心線Cに対して、溶接金属8側に傾く場合を+(プラス)、金属材料73の表面側に傾く場合を−(マイナス)とする。
このように、(6)の方法によれば、予備の打撃処理において、打撃ピンの中心線の設定角度Vdに、溶接止端部の開き角度φの中心線に対する偏差角度θ’の範囲が設けられるので、上記(4)の発明における予備の打撃処理作業を効率的かつ安定して実行することができる。
次に、(7)に記載の本発明は、金属材料を溶接して溶接継手を製作し、ついでこの溶接継手の溶接止端部に、(3)〜(6)のいずれか1項に記載の方法によりハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す疲労特性が改善された溶接継手の製作方法であり、上述のように、溶接継手の溶接止端部に、(3)〜(6)のいずれか1項に記載の方法を用いてハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施すことにより、溶接止端部の形状をなめらかな曲率を持った凹形状とすると共に、溶接により生じていた溶接止端部近傍の残留引張り応力を緩和し、あるいはこの部位に圧縮応力を付与することができ、疲労特性が改善された溶接継手をきわめて効率的に製造することができる。
なお、上述の打撃処理は、それぞれの処理を一回のみに限ることなく、必要に応じて、同様の処理条件、或は処理条件を変えて、複数回処理しても良いことは言うまでもない。例えば、溶接止端部に所望の止端部形状或は圧縮残留応力を付与するために、打撃処理装置の能力や被処理材の材質などに応じて、上述の打撃処理を複数回繰り返して施すことも好ましい。
次に、打撃ピン3の先端形状について説明する。本発明において使用する打撃ピンの先端形状は上述の観点から曲率半径を選定すればよく、その他の点については特に限定するものではないが、以下のようにすることも好ましい。
図5(a)、図5(b)は、打撃ピンの先端形状の例を示す図である。打撃ピン3は、その直径をPとし、先端曲率半径をRとするとき、P≦2Rの場合には図5(a)に示すように、先端曲率部34と、ピン側面部33と先端曲率部34との境界部35を打撃ピンの軸を含む断面内での曲率半径が0.5mm以上、R未満の曲面とその両側で曲率が連続的に変化して隣り合う面を滑らかに接続する遷移領域とで構成する面取り部とを有する先端部36とすることが望ましい。
また、P>2Rの場合または打撃ピン3の大きさに対して被処理材7の溶接ビード8の形状が複雑で細部の処理が必要な場合には、図5(b)に示すように、ピン側面部33と先端部36の間に頂角が90°以下の円錐部37を有し、該円錐部37と前記先端曲率部34との境界部35を、打撃ピン3の軸を含む断面内での曲率半径が0.5mm以上、R未満の曲面とその両側で曲率が連続的に変化して隣り合う面を接続する遷移領域とで構成する面取り部とすることが望ましい。
これはピンの径が大きすぎる場合には被処理材7である溶接継手7にピン先端以外の部分が触れてしまい、打撃ピン3の溶接止端部9に沿う動きを阻害し処理効率が低下することや、打撃ピン3の径が小さく細過ぎる場合には、打撃ピン3が必要以上に被処理材7に突き刺さり、ピンの滑らかな動きを阻害することが多いためである。なお、被処理材7の形状や材質に応じて打撃処理が適切に行われるよう打撃ピン3の形状や打撃処理機構の出力を適宜調節しても良い。
また、打撃ピン3の本数は複数でも適用できる。なお、その場合は、それぞれのピンが溶接止端部9に自律的に移動できるよう独立して構成することが望ましい。
本発明においては、打撃処理方法としては、ハンマーピーニング処理方法と超音波衝撃処理方法のいずれも採用することができるが、処理効率や取り扱いのし易さから、超音波衝撃処理方法の方が望ましい。また、本発明の方法を溶接鋼構造物に適用する場合には、打撃ピン3として、先端曲率半径Rが2〜5mm程度であって、直径Pが3〜6mm程度の打撃ピン3が用いられるのが一般であり、この程度のものを用いるのが適切である。
また、打撃処理の程度については溶接止端部9の谷の線が目視により確認できなくなる程度の溝を形成させることが望ましいが、一般的にはこれ以下であっても疲労特性の向上効果が期待できる。
(実施例1)
図1に示すように、移動機構6としてレールガイド62に沿って一方向に移動する電動台車61に取り付けた支持押圧機構5のアームの先端部に、遊動機構部4としてローラーベアリングタイプの軸受け41によって電動台車61の移動方向と直交する方向に回動自由に動くように支持された軸部42を取り付けた。さらにこの遊動機構部の軸42に打撃ピン3を備えた超音波衝撃処理装置からなる打撃処理機構部2を取り付け、本発明の疲労特性改善打撃処理装置1を作製した。なお、角度調整機構10として、支持押圧機構5のアームの中間に継手を設け、電動台車61の移動方向、すなわち溶接線方向、と直交する面内においてアームを回動自在とし、アーム先端の打撃ピンの軸の溶接線方向と直交する断面内における角度を調整できるようにした。なお、この実施例では角度を調整できるものとして、電動台車61の移動方向に直交する面内において傾斜角度を有する載置台を設けており、上記の継手と合わせて角度調整を行った。また、電動台車61には、超音波衝撃処理の反力を考慮して、約150kgの錘を取り付けた。 処理対象の溶接継手7は、主板(鋼板)71の主面にリブ板(鋼板)72の端面を突き合わせ、CO2半自動アーク溶接の隅肉溶接によりT字溶接をすることにより製作した溶接長が1800mmのT字溶接試験体(図7(a)、図7(b)参照。)として準備した。
この試験体を、図1に示すように、溶接ビードの溶接止端部の溶接線方向の位置が打撃処理装置の打撃ピンの移動方向の位置とほぼ同じになるように、基台12の被処理材搭載面に固定し、前記本発明の疲労特性改善打撃処理装置1を用い、T字溶接試験体の溶接止端部9(92〜95)に打撃処理を施した。T字溶接継手に使用した金属材料(鋼板)は、板厚20mmのJIS G 3106に準拠したSM490Bである。T字溶接試験体の溶接条件は、溶接材料としてJIS Z 3312に準拠したYGW11を用い、溶接入熱1.9×104J/cmの隅肉アーク溶接とした。
なお、T字溶接試験体の製作において、T字溶接の4カ所の溶接止端92〜95の形状を種々の試験条件とするために、溶接時の鋼板の配置角度を調節して、溶接ビード8の溶接止端部開き角度φが異なる試験水準のものとなるようにした。
次に、溶接線に沿って二次元レーザ変位計を用いて、溶接止端部の溶接線に直交する断面形状を測定し、この測定した断面形状と使用する上記打撃ピンの曲率半径との関係から、前述の定義に沿って溶接止端部の開き角度φを測定した。なお、測定位置は、4つの溶接止端部92〜95のそれぞれについて、溶接線の長さ方向に50mm間隔とし、35ヵ所とした。
上記測定した各溶接止端部92〜95について溶接止端部開き角度φの全長における最小値、最大値を求めた。また、金属材料表面に対する溶接止端部開き角度φの最小値、最大値の平均値の1/2の角度である中心線C(平均値の中心線)の角度Vcをそれぞれ求めた。
各溶接止端部開き角度φの最小値min、最大値max、およびその平均値の1/2である中心線Cの角度Vcは、それぞれ、止端部92(min:72.4°、max:99.4°,Vc:42.9°)、止端部93(min:90.1°、max:109.8°,Vc:50.0°)、止端部94(min:100.3°、max:119.9°,Vc:55.1°)、止端部95(min:120.2°、max:138.5°,Vc:64.7°)であった。
試験体の各溶接線を溶接線の方向と直角方向にa)〜c)の3区分とし、各区分ごとに打撃ピンの中心線Dが試験体の金属材料(鋼板)表面に対してなす角度Vdを、a)35°、b)55°、c)75°と変えて各止端部92〜95に打撃処理を行い、打撃処理の状況、打撃処理後の溶接止端部の状況を観察した。なお、打撃処理には、振動周波数27kHz、出力約1000Wの超音波衝撃処理装置を用いた。打撃ピン3の形状は直径を5mm、先端曲率半径を3mmのものを使用し、一本のみ装着した。なお、処理対象であるT字溶接試験体への超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2の押し付け荷重は、打撃処理機構部2の自重となるように装置を保持することにより約5kg(約50N)とし、処理速度は200mm/minとした。
打撃処理の結果を図9、図10に示す。なお、図9において、横軸は、各止端92〜95での溶接線方向の位置を示し、縦軸は、溶接止端部開き角度φを示す。図10は、打ち残しの発生割合と、溶接止端部開き角度φおよびVdとVcの角度の差の関係を示しており、図中の両矢印の範囲は処理した部分の溶接止端部開き角度φを示し、数値は、当該開き角度の範囲における打ち残しの割合を示している。
図9に示すように、溶接止端部開き角度φは、それぞれの溶接止端92〜95で溶接線方向に連続的に変化しており、約72°〜139°の間でばらついていた。 図9中に示した黒のプロットは、打撃処理において打ち残しがあった部分であり、溶接止端部開き角度φが90°より小さい角度の部位では、Vdの角度のかかわらず、集中してみられた。このことから、本発明で処理対象とする溶接継手の止端部開き角度φの最小値は90°とする必要がある。なお、打撃処理の打ち残しとは、溶接止端の線が目視で確認できる程度に残っている状態を指している。
すなわち、止端部92(min:72.4°、max:99.4°,Vc:42.9°)では、Vdが35°(=Vc−7.9°)および55°(=Vc+12.1°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかった。しかしながら、Vdが75°(=Vc+32.1°)、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。
止端部93(min:90.1°、max:109.8°,Vc:50.0°)では、Vdが35°(=Vc−15.0°)および55°(=Vc+5.0°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかった。しかしながら、Vdが75°(=Vc+25.0°)、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。
止端部94(min:100.3°、max:119.9°,Vc:55.1°)では、Vdが55°(=Vc+0.1°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかったが、Vdが35°(=Vc−20.1°)の場合、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。ここで、Vd:75°(=Vc+19.9°)でも打ち残し生じたのは、Vdの設定の基礎としたVcが溶接止端部開き角φの最小値と最大値の平均で評価しているため、個々の位置では止端部開き角度φが変動によりφ/2とVcとの差が大きくなるためVdとφ/2の差も大きくなることがあるためと考えられる。
止端部95(min:120.2°、max:138.5°,Vc:64.7°)では、Vdが55°(=Vc−9.7°)および75°(=Vc+10.3°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかったが、Vdが35°(=Vc−29.7°)の場合、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。
なお、同じVdの角度で複数回、もしくは遅い速度で処理をすれば、技術の性質上、打ち残し箇所はより減少することはいうまでもでもない。
図10から判るように、止端部開き角度が90°未満の箇所については、Vdをいかなる角度としても打ち残しを排除することが困難である。従って、本発明で処理対象とする溶接継手の止端部開き角度φの最小値は90°とするものである。また、このように、止端部開き角度φが90〜140°未満の場合は、VcとVdの差が±20°の範囲内であれば、打ち残しが少なく打撃処理が行えることが判る。すなわち、溶接線と直交する断面内において、金属材料表面に対して打撃ピンの中心線Dが成す角度Vdを、止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値1/2である中心線Cがなす角度Vc、または、Vc±20°の範囲に設定することにより、打ち残しが少なくかつ、効率的に打撃処理を施すことができる。
次に、上記のように、溶接線を溶接線の方向と直角方向にa)〜c)の3つに区分して打撃処理を施した溶接継手7(T字溶接試験体)を、図7(b)に示すように、上記の区分と同様に、溶接線方向と直角方向に三分割するように切断し(切断位置E)、T字疲労試験体を作製した。この3つの試験体を用いて曲げによる疲労試験を行った。疲労試験条件は、応力比0.1とし応力振幅を変化させて行った。また、打撃処理を行っていない点を除いて同様にして製作したT字溶接試験体についても同様の疲労試験を行った。これらの疲労試験の結果を比較したところ、本発明を適用して打撃処理を施したT字溶接試験体(溶接継手)では、打撃処理を施さない溶接ままのT字溶接試験体のa)約3.3倍、b)3.3倍及びc)約2.8倍の疲労寿命が得られた。なお、打ち残し箇所のない区分b)の試験体は、他に比べて疲労寿命が優れていることが判る。また、疲労き裂は試験時の応力の高い止端部92、93から発生することになるため,a)の止端部94、95の打ち残しついてはa)の試験結果には悪影響を及び差なかったと考えられる。
また、本発明の打撃処理を施した試験体について疲労試験後の疲労き裂の発生点を確認したところ、溶接止端92側の打ち残し部分からき裂が発生していることが判った。打ち残しが多い止端部は溶接止端部開き角度φが90°未満である位置であることが判った。このことからも、本発明の処理方法を施す場合、溶接止端部の開き角度φの平均値を90°以上とすることが必要であることが確認された。
打ち残しを打撃処理後の目視点検等によって発見することが困難な場合が多いと考えられるが、本発明の範囲内での処理によれば、目視検査などの管理によらずとも、効率的に安定した疲労性能向上効果を得られることが判る。
(実施例2)
図2に示すように、装置基部11に、押圧装置51、支持アーム52からなる支持押圧機構部5を配置し、さらに、この支持アーム52の先端に、リニアスライドタイプの遊動機構43及び軸42からなる遊動機構部4を介して、打撃処理機構部2の打撃ピンの先端が下向きになるように取り付けた。処理対象の溶接継手7を移動機構6に相当する台車13に載置し、この打撃処理機構部2が遊動機構部4により遊動する方向と直交する方向であって、打撃ピン3が処理対象の溶接継手7の突合せ溶接部の溶接止端に倣って溶接線方向に相対移動するようにした。なお、角度調整機構10として、支持押圧機構5のアームの中間に継手を設け、台車13の移動方向、すなわち溶接線方向、と直交する面内においてアームを回動自在とし、アーム先端の打撃ピンの軸の溶接線方向と直交する断面内における角度を調整できるようにした。
処理対象の溶接継手7は、図2および、図8に示すように、2つの鋼板73,73の長手方向の端面を突き合せ、CO2半自動アーク溶接により作製した溶接長が1800mmの突合せ溶接試験体であり、前記本発明の疲労特性改善打撃処理装置1を用いて、試験体の溶接止端部9(96,97)を打撃処理した。突合せ溶接試験体に使用した金属材料(鋼板)は、板厚20mmのJIS G 3106に準拠したSM570であり、溶接材料としてJIS Z 3313に準拠したYFW−C60FRを用い、溶接入熱1.9×104J/cmとする溶接条件のCO2半自動アーク溶接によって作製した。突合せ溶接試験体の左右の2箇所の溶接止端96、97の形状を種々の試験条件とするために、溶接時の金属材料(鋼板)の突き合せ角度を調節し、溶接ビード8の溶接止端部開き角度φが異なる試験水準のものとなるようにした。
次に、溶接線に沿って二次元レーザ変位計を用いて、溶接止端部の溶接線に直交する断面形状を測定し、この測定した断面形状と使用する上記打撃ピンの曲率半径との関係から、前述の定義に沿って溶接止端部の開き角度φを測定した。なお、測定位置は、2つの溶接止端部96、97のそれぞれについて、溶接線の長さ方向に50mm間隔とし、35ヵ所とした。
上記測定した各溶接止端部96、97のそれぞれについての溶接止端部開き角度φの全長における最小値、最大値を求めた。また、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2の角度である中心線C(平均値の中心線)の角度Vcを求めた。
各溶接止端部開き角度φの最小値min、最大値max、およびその平均値の中心線Cの角度Vcは、それぞれ、止端部96(min:130.4°、max:154.1°、Vc:71.1°)、止端部97(min:140.3、max:167.5°,Vc:76.9°)であり、実施例1に比べて大きい角度であった。
試験体の各溶接線を溶接線の方向と直角方向にd)〜f)の3区分とし、各区分ごとに打撃ピンの中心線Dが試験体の金属材料(鋼板)表面に対してなす角度Vdを、d)70°、e)80°、f)89°と変えて各止端部96〜97に打撃処理を行い、打撃処理の状況、打撃処理後の溶接止端部の状況を観察した。なお、打撃処理には、インパクトエネルギーが約3Jのハンマーピーニング装置を用いた。打撃ピン3は直径を5mm、先端曲率半径を3mmのものを使用し、一本のみ装着した。なお、処理対象の突合せ溶接試験体へのハンマーピーニング処理を施す打撃処理機構部2の押し付け荷重は、打撃処理機構部2の位置を打撃処理装置が暴れないよう変位制御で調整し、溶接継手へ約3.5kg(約35N)がかかるようにし、処理速度は200mm/minとした。なお、上記試験体の溶接止端部98、99についても、溶接止端部96,97と同様にして溶接止端部開き角度φの最小値、最大値、およびこの最小値、最大値の平均値の1/2である中心線の金属材料表面に対する角度Vcを求め、打撃ピンの中心線の角度VdをVcとして打撃処理を施したが、これらの溶接止端部についての詳細な解析は省略した。
打撃処理の結果を図11、図12に示す。なお、図11において、横軸は、各止端96、97での溶接線方向の位置を示し、縦軸は、溶接止端部開き角度φを示す。また、図12は、打ち残しの発生割合と、溶接止端部開き角度φおよびVdとVcの角度の差の関係を示しており、図中の両矢印の範囲は処理した部分の溶接止端部開き角度φを示し、数値は、当該開き角度の範囲における打ち残しの割合を示している。
図11中に示した黒のプロットは打撃ピン3が溶接止端から滑ってずれ溶接止端部に処理がなされなかった部分であり、溶接止端部開き角度φが160°より大きい角度の部位に集中してみられた。このことから、本発明で処理対象とする溶接継手の止端部開き角度φの最大値は160°とする必要がある。この場合の打撃処理の打ち残しとは、実施例1と同様、溶接止端の線が目視で確認できる程度に残っている状態を指している。
止端部96(min:130.4°、max:154.1°、Vc:71.1°)では、Vdが70°(=Vc−1.1°)および80°(=Vc+8.9°)では、φが160°以下の部位では打ち残しは生じなかった。しかしながら、Vdが89°(=Vc+17.9°)、すなわち、Vdが(Vc±10°)を外れる場合は、上記部位にも打ち残しが発生した。
止端部97(min:140.3、max:167.5°,Vc:76.9°)では、Vdが70°(=Vc−6.9°)および80°(=Vc+3.1°)では、φが160°以下の部位では打ち残しはなかった。しかしながら、Vdが89°(=Vc+12.1°)、すなわちVdが(Vc±10°)を外れる場合は、上記部位でも打ち残しが発生した。
図12から判るように、止端部開き角度φが160°超の箇所については、Vdをいかなる角度として打ち残しを排除することが困難である。従って、本発明で処理対象とする溶接継手の止端部開き角度φの最大値は160°とするものである。
また、このように、止端部開き角度φが140°以上〜160°の場合は、VcとVdの差が±10°以内であれば、打ち残しなく打撃処理が行えることが判る。すなわち、溶接線と直交する断面内において、金属材料表面に対して打撃ピンの中心線Dが成す角度Vdを、止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2である中心線Cがなす角度Vcまたは、Vc±10°の範囲に設定することにより、打ち残しを少なくかつ、効率的に打撃処理を施すことができる。
次に、上記のように、溶接線を溶接線の方向と直角方向にd)〜f)の3つに区分して打撃処理を施した溶接継手7(突合せ溶接試験体)を実施例1と同様に上記の区分に対応させ、溶接方向と直角方向に三分割するように切断し、疲労試験体を作製し、この3つの試験体を用いて曲げによる疲労試験を行った。疲労試験条件は、応力比0.1とし応力振幅を変化させて行った。
なお、この実施例における曲げによる疲労試験は、上記試験体の溶接止端部96,97側の溶接部から離れた位置を治具により支持し、溶接止端部98,99側の溶接金属の中央部に繰返し荷重を加え、溶接止端部96,97側に繰返しの引張り負荷がかかるようにして行った。
また、打撃処理を行っていない点を除いて同様にして製作した突合せ溶接試験体(溶接まま突合せ試験体)について同様の疲労試験を行った。これらの疲労試験の結果比較したところ、本発明を適用して打撃処理を施した突合せ溶接試験体では、溶接ままの突合せ溶接試験体のd)約2.5倍、e)約2.5倍及びf)約1.5倍の疲労寿命がそれぞれ得られた。
次に、本発明の打撃処理を施した試験体について疲労試験後の疲労き裂の発生点を確認したところ、溶接止端97側の打ち残し部分からき裂が発生していることが判った。打ち残しが多い止端部は溶接止端部開き角度が160°を超えている位置、および溶接止端部開き角度が160°以下でもVcとVdの角度の差が10°を超える位置であることが図12から判る。
このようなことから、本発明の処理方法を施す場合、溶接止端部の開き角度φの平均値を160°以下とし、VcとVdの角度の差は10°以下とすることが好ましいことが確認された。
すなわち、打ち残しを打撃処理後に目視点検等によって発見することが困難な場合が多いと考えられ、従って安定した疲労性能向上効果を得られる本発明の範囲内での処理は極めて有効であることが判る。
(実施例3)
第3の実施例では、実施例1で示した図7(a)、図7(b)と同様の寸法形状のT字溶接試験体において、溶接止端部の性状を変えた試験体を作製し、実施例1で示した図1に示す疲労特性改善処理装置1を用いて、この溶接試験体に対して溶接継手の疲労特性を改善するための処理を行った。実施例3は、溶接止端部に対して、複数回の予備の打撃処理と本来の打撃処理を施すものである。
溶接試験体として、主板である鋼板71の主面にリブ鋼板72の端面を突き合わせた溶接(T字溶接)をすることにより、溶接長が1800mmの溶接継手を形成した。なお、溶接試験体に使用した金属材料(鋼板)は、板厚20mmのJIS G 3106に準拠したSM490Bである。また、溶接材料には、JIS Z 3211に準拠した低水素系の溶接棒D4316を用い、溶接条件は、溶接入熱1.7×104J/cmの手溶接による被覆アーク溶接とした。 そして、この溶接試験体を基台12上に固定した後、溶接ビードの止端部にピン3を押し付けて溶接線方向に移動させながら超音波衝撃処理を施した。
なお、この超音波衝撃処理の振動周波数は27kHz、出力は約1000Wとした。
打撃ピン3の形状は、図5(a)に示すタイプ(P≦2R)であり、直径が3mm、先端部の曲率半径が3mmのものを使用した。また、処理対象であるT字溶接試験体への超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2の押し付け荷重は、打撃処理機構部2の自重となるように装置を保持することにより約5kg(約50N)とし、処理速度は150mm/minとした。なお、疲労特性改善処理装置1の移動機構6の電動台車61のガイドには剛体に取り付けたレール62を用い、超音波衝撃処理の反力により打撃処理装置が大きくぶれないようにした。
なお、T字溶接試験体の製作において、T字溶接の2カ所の止端部92’、93’の性状を変えるため、溶接時の鋼板の配置角度を調節して、溶接ビード8の溶接止端部開き角度φが異なる試験水準のものとなるようにした。
次に、溶接線に沿って二次元レーザ変位計を用いて、溶接止端部92’、93’の溶接線に直交する断面形状を測定し、この測定した断面形状と使用する上記打撃ピンの曲率半径との関係から、前述の定義に沿って溶接止端部の開き角度φを測定した。なお、測定位置は、2つの溶接止端部92’、93’のそれぞれについて、溶接線の長さ方向に50mm間隔とし、35ヵ所とした。
上記測定した各溶接止端部92’、93’について溶接止端部開き角度φの全長における最小値、最大値を求めた。また、溶接止端部開き角度φの平均値の1/2である中心線Cの角度Vcを求めた。
各溶接止端部開き角度φの最小値min、最大値max、およびその平均値の1/2である中心線Cの角度Vcは、それぞれ、止端部92’(min:90.1°、max:119.3°,Vc:52.4°)、止端部93’(min:120.4°、max:158.4°,Vc:69.7°)であった。
溶接試験体は被覆アーク溶接棒による溶接(手溶接)としたため、半自動アーク溶接による実施例1、2の場合に比べて止端部形状が悪いものであった。つまり、止端部の開き角度が急に大きく変わる部位があり、開き角度の測定位置以外での開き角度φの最大と最小の差は測定結果より大きな値となる部位もみられた上に、ビードの幅が一定ではなく、止端部の波うちが相対的に大きいものであった。
すなわち、実施例1,2では、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値との差は30°未満であり、止端部形状はなめらかで一様であったため、開き角度の測定位置以外の箇所で測定したとしても、この差は同程度であったが、実施例3では測定結果上は、止端部93’の止端部開き角度φの最小値と最大値との差は30°以下となっているものの、測定位置以外での止端部開き角度φやビード幅は数mmピッチで大きく変化し、φの最小値と最大値との差は明らかに30°を超えていた。また、止端部92’も測定結果以上の角度差がみられた。
このため、実施例3で示した試験体と同様に作製した試験体で初めから本来処理を行った予備実験では、止端部開き角度φの急変部やφが小さくかつビード幅が狭くなった溶接止端部で打撃ピンの引っ掛かりが多く発生し、連続的に処理を完了することができなかった。そこで、実施例3では、溶接止端部に対して、予備の打撃処理を施したものである。すなわち、溶接試験体の上記溶接止端部に対して、一端から他端まで一方向に予備の打撃処理を施した後、同じ止端部に対してこれと逆方向に本来の打撃処理を行った。
試験体の各溶接線を溶接線の方向と直角方向に、止端部92’では、g)〜i)、止端部93’では、j)〜l)のそれぞれ3区分とし、表1に示すように区分ごとに予備の打撃処理における打撃ピンの中心線Dが試験体の金属材料(鋼板)表面に対してなす角度Vdを変え、本来の処理における打撃ピンの角度Vdは、実施例1,2で確認した打ち残しの生じない範囲、すなわち、止端部92’についてはVc(すなわち、Vc±20°の範囲)、止端部93’についてはVc(すなわち、Vc±10°の範囲)として打撃処理を施した。
各止端部について、打撃処理の状況、再処理後の溶接止端部の状況を観察した。
その結果を図13、図14、図15に示す。なお、図13は止端部92’、図14は止端部93’の場合を示すものであり、横軸は、各止端92’.93’の溶接線方向の位置を示し、縦軸は、各止端部92’、93’の溶接止端部開き角度φを示す。すなわち、図13は、溶接止端部開き角度φが90〜120°以下の範囲における例、図14は、溶接止端部開き角度φが120°超〜160°までの範囲における例を示している。また、図15は、打ち残しの発生割合と、溶接止端部開き角度φおよび予備の打撃処理でのVdとVcの角度の差の関係を示しており、図中の両矢印の範囲は処理した部分の溶接止端部開き角度φを示し、数値は、当該開き角度の範囲における打ち残しの割合を示している。
すなわち、図13に示す止端部92’ (min:90.1°、max:119.3°,Vc:52.4°)のように、止端部開き角度φの最小値及び最大値が90°〜120°の場合は、予備の打撃処理において、Vd:62.5°(Vc<vd≦(Vc+20°)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=52.4°(すなわち、Vc±20°の範囲)の角度で処理した場合(区分h)では、打ち残しのないものが得られた。
しかしながら、予備の打撃処理において、Vd:50°(≦Vc)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=52.4°の角度で処理した場合(区分g)では、予備の処理で引っかかり生じて、本来の処理でのガイドとなる溝が円滑に形成されず、本来の処理を施した後も打ち残しを生じた。また、予備の処理で、Vd:75°(>(Vc+20°))の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=52.4°の角度で処理した場合(区分i)では、予備の処理で引っ掛かりは生じなかったが、溶接金属側への打撃力が不十分であったため、打撃位置が溶接止端からぶれることがあり、溶接止端部に沿って連続して滑らかな本来の処理でのガイドとなる溝が形成されず、本来の処理において打撃ピンの引っかかりが生じ、打ち残しが見られた。
また、図14に示す止端部93’(min:120.4°、max:158.4°,Vc:69.7°)のように、止端部開き角度φの最小値及び最大値が120°超〜160°の場合は、予備の打撃処理において、Vd:80°(Vc<Vd≦(Vc+10°))の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=69.7°の角度で処理した場合(区分k)では、打ち残しのないものが得られた。しかしながら、予備の打撃処理を、Vd:70°((Vd<Vc(=69.7°)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=69.7°の角度で処理した場合(区分j)では、予備の打撃処理において引っ掛かりが生じたため、再度の処理後において打ち残しが生じた。また、予備の打撃処理を、Vd:89°((Vc+10)<Vd)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=69.7°の角度で処理した場合(区分l)では、十分なガイドとなる溝が形成されず、本来の打撃処理において引っ掛かりが生じ、打ち残しが生じた。
以上から、手棒による溶接などで止端形状が悪く、波うちが相対的に大きい場合は、実施例1、2で得られた処理条件によって処理しても、打撃ピンの引っ掛かりが生じて処理できないことが多く、また、処理ができても打ち残しが存在する。従って、打撃ピンの引っ掛かりやずれを生じることなく、円滑に打撃処理を行い、打ち残しを少なくするためには、予備の打撃処理を行うことが好ましいことがわかる。
なお、図14で止端部93’の部分は局所的なφは120.4〜158.4°であり、φ/2は60.2〜79.2°となっており、Vd=80°に対して、Vc−Vdが−20°以内であり、この領域では引っかかりや打ち残しがなく処理できた。
一方、Vd=89°に対しては、Vc−Vdが−28.8〜−9.8°であり、局所的にみると問題なく処理ができた部位はVc−Vdが−9.8°であった一点のみであり、他はVc−Vdが−20°以下でも本来の処理での引っかかりや打ち残しがみられた。
このことからVc=70°に対応する止端部開き角φが140°でVc−Vdの偏差角度θ’が大きく変化するものと考えられる。そこで、φが140°未満ではVc−Vdを−20°以内、140°以上ではVc−Vdを−10°以内とした。
以上のことから、手棒による溶接などで、止端部形状が悪く、波うちが相対的に大きい場合の対策、または、予想外の止端部形状の急変により打撃ピンが引っ掛かり処理が停止することがないように予防対策として、以下のように処理を行うことが好ましい。
図15から判るように、溶接止端部開き角度の最小値、最大値が90〜140°未満の範囲にある場合は、打撃ピンの中心線が金属材料表面に対してなす角度Vdを、溶接止端部開き角度の最小値、最大値の平均値の1/2である中心線が金属材料表面に対してなす角度Vcよりも大きく、(Vc+20°)以下の角度、すなわち、偏差角度θ’を0°超〜20°として、予備の打撃処理を行い、次いで、実施例1,2と同様に、VdをVc±20°として本来の処理を行い、また、溶接止端部開き角度φの最小値、最大値が140°以上〜160°以下の場合は、VdをVcよりも大きく、(Vc+10°)以下の角度、すなわち、偏差角度θ’を0°超〜10°として、予備の打撃処理を行い、次いで、実施例1,2と同様に、VdをVc±10°として本来の処理を行う。
本発明によれば、簡易な移動機構と遊動機構と支持押圧機構と打撃処理装置を有利に組み合わせて用いることにより、速やかにかつ正確にしかも合理的に溶接継手の疲労特性を向上させることができることから、前述のような技術課題や経済的課題の問題点を有利に解決することができる。例えば、ロボット等による自動移動装置を用いる場合には、単純に溶接ビードの大まかな方向を指示するのみであり、溶接止端のゆがみを検出・追従する機能が不要となるなど、極めて簡易なシステムで処理システムを構築することが可能となり、経済的にも極めて有効である。また、人手により溶接継手の打撃処理を行う場合は、頻繁に休憩を取る必要のある作業であるが、本発明を用いれば、打撃処理中は処理の進行を監視する業務のみとなるため、処理効率が高まることが期待できる。このように、本発明によれば、疲労き裂発生防止効果と溶接部作製工期の短縮さらには設備の軽減による経済効果の両方が期待できる。
(1)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、該打撃処理装置1には、
前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、該支持押圧機構部5を搭載し、打撃処理機構部2を基台12に載置された被処理材7の溶接止端部9に沿って溶接線方向に移動させる移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記被処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を45°以上80°以下に調整する角度調整機構10が配設され、さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置。
(2)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、該打撃処理装置1には、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、支持押圧機構部5が配設される装置基部11と、被処理材7を搭載し、被処理材7の溶接止端部9が打撃処理機構部2に沿うように、溶接線方向に移動する移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記披処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を45°以上80°以下に調整する角度調整機構10が配設され
さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と装置基部11との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置。
(3)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、溶接方向と直角な方向への動きに自由度を持たせつつ、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動させてハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善方法であって、溶接継手の溶接止端部の所望とする曲率半径に基づいて打撃ピンの曲率半径を選定し、前記打撃ピン3が金属材料73と溶接金属8の両方に接した状態で溶接止端部9へ対向する場合に、前記溶接継手の溶接線と直交する断面内において、溶接止端91から打撃ピン3と金属材料73との接点31までを結ぶ直線Aと、溶接止端91から打撃ピン3と溶接金属8との接点32までを結ぶ直線Bとを想定し、これら2つの直線AおよびBがなす角度を溶接止端部開き角度φとするとき、溶接継手の溶接線方向に溶接止端部開き角度φを測定し、その最小値と最大値が90°以上160°以下である溶接継手に対して、前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、前記溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2である中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcと同じとなるように設定して、打撃ピンを溶接止端部に対向させ、溶接方向と直角な方向への動きに自由度を持たせつつ、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を少なくとも1回施すことを特徴とする溶接継手の疲労特性改善方法。
図1は、本発明の装置の一実施例を模式的に示す斜視図であり、打撃処理機構部を移動させることで、被処理材との相対移動を行わせる場合を示す。
図2は、本発明の装置の他の実施例を模式的に示す斜視図であり、被処理材を移動させることで、打撃処理機構部との相対移動を行わせる場合を示す。
図3は、本発明で定義する溶接止端部開き角度φと打撃ピン3の溶接止端部9への対向方向の許容変動角度θを示す溶接止端部の溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図4(a)は、溶接止端部の開き角φが90°より小さい場合に打撃処理による溶接止端部にき裂状形状が形成される過程を模式的に説明する図であり、処理前の状態を示す。
図4(b)は、溶接止端部の開き角φが90°より小さい場合に打撃処理による溶接止端部にき裂状形状が形成される過程を模式的に説明する図であり、処理後の状態を示す。
図5(a)は、本発明に好適な打撃ピンの先端形状を模式的に示す図であり、P≦2Rの場合を示す。
図5(b)は、本発明に好適な打撃ピンの先端形状を模式的に示す図であり、P>2Rの場合を示す。
図6(a)は、本発明の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を変えて打撃処理を行う場合を示すもので、予備の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を示す溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図6(b)は、本発明の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を変えて打撃処理を行う場合を示すもので、予備の打撃処理の後の打撃処理における打撃ピンの金属材料表面に対する角度を示す溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図7(a)は、本発明を適用する溶接継手の一実施例であるT字溶接継手の溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図7(b)は、本発明を適用する溶接継手の一実施例であるT字溶接継手の平面の模式図である。
図8は、本発明を適用する溶接継手の他の実施例である突合せ溶接継手の溶接線方向と直交する断面の模式図である。
図9は、実施例1の打撃処理における溶接止端部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図10は、実施例1の打撃処理における溶接止端部開き角度φの中心線の角度Vcと打撃ピンの中心線の角度Vdとの差と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図11は、実施例2の打撃処理における溶接止端部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図12は、実施例2の打撃処理における溶接止端部開き角度φの中心線の角度Vcと打撃ピンの中心線の角度Vdとの差と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図13は、実施例3の打撃処理における溶接止端部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図14は、実施例3の打撃処理における溶接止端部開き角度φの溶接線方向の位置と打ち残し部分の分布との関係を示す他の例の図である。
図15は、実施例3の打撃処理における溶接止端部開き角度φの中心線の角度Vcと打撃ピンの中心線の角度Vdとの差と打ち残し部分の分布との関係を示す図である。
図1及び、図2に本発明の装置の概略図を示す。本発明は、溶接継手の溶接後に溶接止端部9(92〜95,96〜99)にハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2を簡易な移動機構6、遊動機構4、支持押圧機構5と組み合わせて疲労き裂発生阻止性能の高い溶接部を有する溶接継手を効率よく作製する装置1に関するものであり、また、その装置を用いた溶接継手の疲労特性改善方法に関するものである。
(1)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1は、金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、図1に示すように、該打撃処理装置1には、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、該支持押圧機構部5を搭載し、打撃処理機構部2を基台12に載置された被処理材7の溶接止端部9に沿って溶接線方向に移動させる移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記被処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を45°以上80°以下に調整する角度調整機構10が配設され、さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5の内部、前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする。
また、(2)に記載の本発明の溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置1は、金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、図2に示すように、該打撃処理装置1には、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、支持押圧機構部5が配設される装置基部11と、被処理材7を搭載し、被処理材7の溶接止端部9が打撃処理機構部2に沿うように、溶接線方向に移動する移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記披処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を45°以上80°以下に調整する角度調整機構10が配設され、さらに、前記打撃処理機構部2の溶接方向と直角な方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5の内部、前記支持押圧機構部5と装置基部11との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする。
また、本発明の装置には、打撃処理機構部2の打撃ピンの中心軸(中心線)が被処理材である溶接継手の金属材料面に対して所定の角度をなすように打撃ピンの中心軸(中心線)の角度を45°以上80°以下に調整する角度調整機構10が設けられている。これは、例えば、図1、図2に示すように、支持押圧機構部5の途中、あるいは支持押圧機構部5と移動機構部6との間に、継手を少なくとも打撃処理方向、例えば溶接線方向、と直交する面内において回動自在に設け、油圧装置などにより回動させることによって調整可能とすることにより達成できる。
図3に示すように、打撃ピン3が金属材料73と溶接金属8の両方に接した状態で溶接止端部9(91)へ対向する場合に、溶接方向に直角な面内で、溶接止端9(91)と打撃ピン3と金属材料73との接点31とを結ぶ直線Aと、溶接止端91と打撃ピン3と溶接金属8との接点32とを結ぶ直線Bとを想定し、これら2つの直線AおよびBがなす角度を溶接止端部開き角度φとする。溶接継手の溶接線方向の複数位置について溶接止端部開き角度φを測定し、得られた複数位置の溶接止端部開き角度φに基づいて溶接止端部の開き角度φの最大値及び最小値を求め、この溶接止端部開き角度φの最小値が90°以上最大値が160°以下である溶接継手に対して、前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、前記溶接止端部開き角度φの最大値と最小値の平均値の中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcと同じとなるように設定して、打撃ピンを溶接止端部に対向させ、溶接方向と直角な方向への動きに自由度を持たせつつ、少なくとも1回のハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施すものである。
このように、本発明の(3)に記載の方法では、前記2つの直線AおよびBがなす溶接止端部開き角度φの最小値が90°以上、最大値が160°以下である溶接継手の溶接止端部に対して打撃処理を行う。打撃処理の対象とする溶接止端部の開き角度φを上記の範囲に限定する理由は、以下のとおりである。
本発明の方法においては、上述の(3)のように、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が90°以上160°以下である溶接継手に対して少なくとも1回以上の打撃処理を行うものであるが、更に、本来の処理を安定させかつ効率的にするために、(3)の打撃処理(本来の処理)を行う前に上述の(4)の予備の打撃処理を施すことが好ましい。
すなわち、(4)に記載の予備の打撃処理を行う方法は、溶接ビードの溶接止端部の金属材料からの立ち上がりが大きい場合や溶接止端の波うちが大きい場合に有効な方法であり、同じ溶接止端部に複数回の打撃処理を行うことを考慮したものである。つまり、溶接ビードの止端部の金属材料からの立ち上がりが大きい場合には、溶接止端部開き角度φが小さくなったり溶接止端の波うちが大きい場合に処理中に打撃ピンが溶接金属に引っかかりやすく、処理中に打撃ピンに大きな負荷がかかり、処理装置を停止させる必要が生じることがあるため、これを回避することができる。
すなわち、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値が140°以上160°以下と大きい場合には、打撃ピン3の中心線Dが開き角φの中心線Cから大きく外れると処理面(金属材料表面)からの反力の溶接止端方向に向く成分が小さくなり、溶接止端部にできるV形の溝から打撃ピンが外れやすくなる。従って、安定的な処理を行うためには、打撃ピン3の中心線Dが、溶接止端部の開き角度φの中心線Cからのずれは小さくすること、すなわち、打撃ピン3の中心線Dの溶接止端部開き角度φの中心線Cに対するずれは±10°以内となるように設定することが好ましいからである。
なお、T字溶接試験体の製作において、T字溶接の4カ所の溶接止端部92〜95の形状を種々の試験条件とするために、溶接時の鋼板の配置角度を調節して、溶接ビード8の溶接止端部開き角度φが異なる試験水準のものとなるようにした。
各溶接止端部開き角度φの最小値min、最大値max、およびその平均値の1/2である中心線Cの角度Vcは、それぞれ、溶接止端部92(min:72.4°、max:99.4°,Vc:42.9°)、溶接止端部93(min:90.1°、max:109.8°,Vc:50.0°)、溶接止端部94(min:100.3°、max:119.9°,Vc:55.1°)、溶接止端部95(min:120.2°、max:138.5°,Vc:64.7°)であった。
試験体の各溶接線を溶接線の方向と直角方向にa)〜c)の3区分とし、各区分ごとに打撃ピンの中心線Dが試験体の金属材料(鋼板)表面に対してなす角度Vdを、a)35°、b)55°、c)75°と変えて各溶接止端部92〜95に打撃処理を行い、打撃処理の状況、打撃処理後の溶接止端部の状況を観察した。なお、打撃処理には、振動周波数27kHz、出力約1000Wの超音波衝撃処理装置を用いた。打撃ピン3の形状は直径を5mm、先端曲率半径を3mmのものを使用し、一本のみ装着した。なお、処理対象であるT字溶接試験体への超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2の押し付け荷重は、打撃処理機構部2の自重となるように装置を保持することにより約5kg(約50N)とし、処理速度は200mm/minとした。
打撃処理の結果を図9、図10に示す。なお、図9において、横軸は、各溶接止端部92〜95での溶接線方向の位置を示し、縦軸は、溶接止端部開き角度φを示す。図10は、打ち残しの発生割合と、溶接止端部開き角度φおよびVdとVcの角度の差の関係を示しており、図中の両矢印の範囲は処理した部分の溶接止端部開き角度φを示し、数値は、当該開き角度の範囲における打ち残しの割合を示している。
図9に示すように、溶接止端部開き角度φは、それぞれの溶接止端部92〜95で溶接線方向に連続的に変化しており、約72°〜139°の間でばらついていた。図9中に示した黒のプロットは、打撃処理において打ち残しがあった部分であり、溶接止端部開き角度φが90°より小さい角度の部位では、Vdの角度のかかわらず、集中してみられた。このことから、本発明で処理対象とする溶接継手の溶接止端部開き角度φの最小値は90°とする必要がある。なお、打撃処理の打ち残しとは、溶接止端の線が目視で確認できる程度に残っている状態を指している。
すなわち、溶接止端部92(min:72.4°、max:99.4°,Vc:42.9°)では、Vdが35°(=Vc−7.9°)および55°(=Vc+12.1°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかった。しかしながら、Vdが75°(=Vc+32.1°)、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。
溶接止端部93(min:90.1°、max:109.8°,Vc:50.0°)では、Vdが35°(=Vc−15.0°)および55°(=Vc+5.0°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかった。しかしながら、Vdが75°(=Vc+25.0°)、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。
溶接止端部94(min:100.3°、max:119.9°,Vc:55.1°)では、Vdが55°(=Vc+0.1°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかったが、Vdが35°(=Vc−20.1°)の場合、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。ここで、Vd:75°(=Vc+19.9°)でも打ち残し生じたのは、Vdの設定の基礎としたVcが溶接止端部開き角φの最小値と最大値の平均で評価しているため、個々の位置では溶接止端部開き角度φが変動によりφ/2とVcとの差が大きくなるためVdとφ/2の差も大きくなることがあるためと考えられる。
溶接止端部95(min:120.2°、max:138.5°,Vc:64.7°)では、Vdが55°(=Vc−9.7°)および75°(=Vc+10.3°)では、φが90°以上の部位では打ち残しはなかったが、Vdが35°(=Vc−29.7°)の場合、すなわち、Vdが(Vc±20°)を外れると上記部位でも打ち残しが生じた。
図10から判るように、溶接止端部開き角度が90°未満の箇所については、Vdをいかなる角度としても打ち残しを排除することが困難である。従って、本発明で処理対象とする溶接継手の溶接止端部開き角度φの最小値は90°とするものである。また、このように、溶接止端部開き角度φが90〜140°未満の場合は、VcとVdの差が±20°の範囲内であれば、打ち残しが少なく打撃処理が行えることが判る。すなわち、溶接線と直交する断面内において、金属材料表面に対して打撃ピンの中心線Dが成す角度Vdを、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値1/2である中心線Cがなす角度Vc、または、Vc±20°の範囲に設定することにより、打ち残しが少なくかつ、効率的に打撃処理を施すことができる。
次に、上記のように、溶接線を溶接線の方向と直角方向にa)〜c)の3つに区分して打撃処理を施した溶接継手7(T字溶接試験体)を、図7(b)に示すように、上記の区分と同様に、溶接線方向と直角方向に三分割するように切断し(切断位置E)、T字疲労試験体を作製した。この3つの試験体を用いて曲げによる疲労試験を行った。疲労試験条件は、応力比0.1とし応力振幅を変化させて行った。また、打撃処理を行っていない点を除いて同様にして製作したT字溶接試験体についても同様の疲労試験を行った。これらの疲労試験の結果を比較したところ、本発明を適用して打撃処理を施したT字溶接試験体(溶接継手)では、打撃処理を施さない溶接ままのT字溶接試験体のa)約3.3倍、b)3.3倍及びc)約2.8倍の疲労寿命が得られた。なお、打ち残し箇所のない区分b)の試験体は、他に比べて疲労寿命が優れていることが判る。また、疲労き裂は試験時の応力の高い溶接止端部92、93から発生することになるため,a)の溶接止端部94、95の打ち残しについてはa)の試験結果には悪影響を及ぼさなかったと考えられる。
また、本発明の打撃処理を施した試験体について疲労試験後の疲労き裂の発生点を確認したところ、溶接止端部92側の打ち残し部分からき裂が発生していることが判った。打ち残しが多い溶接止端部は溶接止端部開き角度φが90°未満である位置であることが判った。このことからも、本発明の処理方法を施す場合、溶接止端部の開き角度φの平均値を90°以上とすることが必要であることが確認された。
処理対象の溶接継手7は、図2および、図8に示すように、2つの鋼板73,73の長手方向の端面を突き合せ、CO2半自動アーク溶接により作製した溶接長が1800mmの突合せ溶接試験体であり、前記本発明の疲労特性改善打撃処理装置1を用いて、試験体の溶接止端部9(96,97)を打撃処理した。突合せ溶接試験体に使用した金属材料(鋼板)は、板厚20mmのJIS G 3106に準拠したSM570であり、溶接材料としてJIS Z 3313に準拠したYFW−C60FRを用い、溶接入熱1.9×104J/cmとする溶接条件のCO2半自動アーク溶接によって作製した。突合せ溶接試験体の左右の2箇所の溶接止端部96、97の形状を種々の試験条件とするために、溶接時の金属材料(鋼板)の突き合せ角度を調節し、溶接ビード8の溶接止端部開き角度φが異なる試験水準のものとなるようにした。
各溶接止端部開き角度φの最小値min、最大値max、およびその平均値の中心線Cの角度Vcは、それぞれ、溶接止端部96(min:130.4°、max:154.1°、Vc:71.1°)、溶接止端部97(min:140.3、max:167.5°,Vc:76.9°)であり、実施例1に比べて大きい角度であった。
試験体の各溶接線を溶接線の方向と直角方向にd)〜f)の3区分とし、各区分ごとに打撃ピンの中心線Dが試験体の金属材料(鋼板)表面に対してなす角度Vdを、d)70°、e)80°、f)89°と変えて各溶接止端部96〜97に打撃処理を行い、打撃処理の状況、打撃処理後の溶接止端部の状況を観察した。なお、打撃処理には、インパクトエネルギーが約3Jのハンマーピーニング装置を用いた。打撃ピン3は直径を5mm、先端曲率半径を3mmのものを使用し、一本のみ装着した。なお、処理対象の突合せ溶接試験体へのハンマーピーニング処理を施す打撃処理機構部2の押し付け荷重は、打撃処理機構部2の位置を打撃処理装置が暴れないよう変位制御で調整し、溶接継手へ約3.5kg(約35N)がかかるようにし、処理速度は200mm/minとした。なお、上記試験体の溶接止端部98、99についても、溶接止端部96,97と同様にして溶接止端部開き角度φの最小値、最大値、およびこの最小値、最大値の平均値の1/2である中心線の金属材料表面に対する角度Vcを求め、打撃ピンの中心線の角度VdをVcとして打撃処理を施したが、これらの溶接止端部についての詳細な解析は省略した。
打撃処理の結果を図11、図12に示す。なお、図11において、横軸は、各溶接止端部96、97での溶接線方向の位置を示し、縦軸は、溶接止端部開き角度φを示す。また、図12は、打ち残しの発生割合と、溶接止端部開き角度φおよびVdとVcの角度の差の関係を示しており、図中の両矢印の範囲は処理した部分の溶接止端部開き角度φを示し、数値は、当該開き角度の範囲における打ち残しの割合を示している。
図11中に示した黒のプロットは打撃ピン3が溶接止端部から滑ってずれ溶接止端部に処理がなされなかった部分であり、溶接止端部開き角度φが160°より大きい角度の部位に集中してみられた。このことから、本発明で処理対象とする溶接継手の溶接止端部開き角度φの最大値は160°とする必要がある。この場合の打撃処理の打ち残しとは、実施例1と同様、溶接止端の線が目視で確認できる程度に残っている状態を指している。
溶接止端部96(min:130.4°、max:154.1°、Vc:71.1°)では、Vdが70°(=Vc−1.1°)および80°(=Vc+8.9°)では、φが160°以下の部位では打ち残しは生じなかった。しかしながら、Vdが89°(=Vc+17.9°)、すなわち、Vdが(Vc±10°)を外れる場合は、上記部位にも打ち残しが発生した。
溶接止端部97(min:140.3、max:167.5°,Vc:76.9°)では、Vdが70°(=Vc−6.9°)および80°(=Vc+3.1°)では、φが160°以下の部位では打ち残しはなかった。しかしながら、Vdが89°(=Vc+12.1°)、すなわちVdが(Vc±10°)を外れる場合は、上記部位でも打ち残しが発生した。
図12から判るように、溶接止端部開き角度φが160°超の箇所については、Vdをいかなる角度として打ち残しを排除することが困難である。従って、本発明で処理対象とする溶接継手の溶接止端部開き角度φの最大値は160°とするものである。
また、このように、溶接止端部開き角度φが140°以上〜160°の場合は、VcとVdの差が±10°以内であれば、打ち残しなく打撃処理が行えることが判る。すなわち、溶接線と直交する断面内において、金属材料表面に対して打撃ピンの中心線Dが成す角度Vdを、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2である中心線Cがなす角度Vcまたは、Vc±10°の範囲に設定することにより、打ち残しを少なくかつ、効率的に打撃処理を施すことができる。
次に、本発明の打撃処理を施した試験体について疲労試験後の疲労き裂の発生点を確認したところ、溶接止端部97側の打ち残し部分からき裂が発生していることが判った。打ち残しが多い溶接止端部は溶接止端部開き角度が160°を超えている位置、および溶接止端部開き角度が160°以下でもVcとVdの角度の差が10°を超える位置であることが図12から判る。
溶接試験体として、主板である鋼板71の主面にリブ鋼板72の端面を突き合わせた溶接(T字溶接)をすることにより、溶接長が1800mmの溶接継手を形成した。なお、溶接試験体に使用した金属材料(鋼板)は、板厚20mmのJIS G 3106に準拠したSM490Bである。また、溶接材料には、JIS Z 3211に準拠した低水素系の溶接棒D4316を用い、溶接条件は、溶接入熱1.7×104J/cmの手溶接による被覆アーク溶接とした。 そして、この溶接試験体を基台12上に固定した後、溶接ビードの溶接止端部にピン3を押し付けて溶接線方向に移動させながら超音波衝撃処理を施した。
各溶接止端部開き角度φの最小値min、最大値max、およびその平均値の1/2である中心線Cの角度Vcは、それぞれ、溶接止端部92’(min:90.1°、max:119.3°,Vc:52.4°)、溶接止端部93’(min:120.4°、max:158.4°,Vc:69.7°)であった。
溶接試験体は被覆アーク溶接棒による溶接(手溶接)としたため、半自動アーク溶接による実施例1、2の場合に比べて溶接止端部の形状が悪いものであった。つまり、溶接止端部の開き角度が急に大きく変わる部位があり、開き角度の測定位置以外での開き角度φの最大と最小の差は測定結果より大きな値となる部位もみられた上に、ビードの幅が一定ではなく、溶接止端部の波うちが相対的に大きいものであった。
すなわち、実施例1,2では、溶接止端部開き角度φの最小値と最大値との差は30°未満であり、溶接止端部の形状はなめらかで一様であったため、開き角度の測定位置以外の箇所で測定したとしても、この差は同程度であったが、実施例3では測定結果上は、溶接止端部93’の溶接止端部開き角度φの最小値と最大値との差は30°以下となっているものの、測定位置以外での溶接止端部開き角度φやビード幅は数mmピッチで大きく変化し、φの最小値と最大値との差は明らかに30°を超えていた。また、溶接止端部92’も測定結果以上の角度差がみられた。
このため、実施例3で示した試験体と同様に作製した試験体で初めから本来処理を行った予備実験では、溶接止端部開き角度φの急変部やφが小さくかつビード幅が狭くなった溶接止端部で打撃ピンの引っ掛かりが多く発生し、連続的に処理を完了することができなかった。そこで、実施例3では、溶接止端部に対して、予備の打撃処理を施したものである。すなわち、溶接試験体の上記溶接止端部に対して、一端から他端まで一方向に予備の打撃処理を施した後、同じ溶接止端部に対してこれと逆方向に本来の打撃処理を行った。
試験体の各溶接線を溶接線の方向と直角方向に、溶接止端部92’では、g)〜i)、溶接止端部93’では、j)〜l)のそれぞれ3区分とし、表1に示すように区分ごとに予備の打撃処理における打撃ピンの中心線Dが試験体の金属材料(鋼板)表面に対してなす角度Vdを変え、本来の処理における打撃ピンの角度Vdは、実施例1,2で確認した打ち残しの生じない範囲、すなわち、溶接止端部92’についてはVc(すなわち、Vc±20°の範囲)、溶接止端部93’についてはVc(すなわち、Vc±10°の範囲)として打撃処理を施した。
各溶接止端部について、打撃処理の状況、再処理後の溶接止端部の状況を観察した。
その結果を図13、図14、図15に示す。なお、図13は溶接止端部92’、図14は溶接止端部93’の場合を示すものであり、横軸は、各溶接止端部92’.93’の溶接線方向の位置を示し、縦軸は、各溶接止端部92’、93’の溶接止端部開き角度φを示す。すなわち、図13は、溶接止端部開き角度φが90〜120°以下の範囲における例、図14は、溶接止端部開き角度φが120°超〜160°までの範囲における例を示している。また、図15は、打ち残しの発生割合と、溶接止端部開き角度φおよび予備の打撃処理でのVdとVcの角度の差の関係を示しており、図中の両矢印の範囲は処理した部分の溶接止端部開き角度φを示し、数値は、当該開き角度の範囲における打ち残しの割合を示している。
すなわち、図13に示す溶接止端部92’(min:90.1°、max:119.3°,Vc:52.4°)のように、溶接止端部開き角度φの最小値及び最大値が90°〜120°の場合は、予備の打撃処理において、Vd:62.5°(Vc<vd≦(Vc+20°)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=52.4°(すなわち、Vc±20°の範囲)の角度で処理した場合(区分h)では、打ち残しのないものが得られた。
しかしながら、予備の打撃処理において、Vd:50°(≦Vc)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=52.4°の角度で処理した場合(区分g)では、予備の処理で引っかかり生じて、本来の処理でのガイドとなる溝が円滑に形成されず、本来の処理を施した後も打ち残しを生じた。また、予備の処理で、Vd:75°(>(Vc+20°))の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=52.4°の角度で処理した場合(区分i)では、予備の処理で引っ掛かりは生じなかったが、溶接金属側への打撃力が不十分であったため、打撃位置が溶接止端部からぶれることがあり、溶接止端部に沿って連続して滑らかな本来の処理でのガイドとなる溝が形成されず、本来の処理において打撃ピンの引っかかりが生じ、打ち残しが見られた。
また、図14に示す溶接止端部93’(min:120.4°、max:158.4°,Vc:69.7°)のように、溶接止端部開き角度φの最小値及び最大値が120°超〜160°の場合は、予備の打撃処理において、Vd:80°(Vc<Vd≦(Vc+10°))の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=69.7°の角度で処理した場合(区分k)では、打ち残しのないものが得られた。しかしながら、予備の打撃処理を、Vd:70°((Vd<Vc(=69.7°)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=69.7°の角度で処理した場合(区分j)では、予備の打撃処理において引っ掛かりが生じたため、再度の処理後において打ち残しが生じた。また、予備の打撃処理を、Vd:89°((Vc+10)<Vd)の角度で処理し、本来の打撃処理において、Vd=Vc=69.7°の角度で処理した場合(区分l)では、十分なガイドとなる溝が形成されず、本来の打撃処理において引っ掛かりが生じ、打ち残しが生じた。
以上から、手棒による溶接などで溶接止端部の形状が悪く、波うちが相対的に大きい場合は、実施例1、2で得られた処理条件によって処理しても、打撃ピンの引っ掛かりが生じて処理できないことが多く、また、処理ができても打ち残しが存在する。従って、打撃ピンの引っ掛かりやずれを生じることなく、円滑に打撃処理を行い、打ち残しを少なくするためには、予備の打撃処理を行うことが好ましいことがわかる。
なお、図14で溶接止端部93’の部分は局所的なφは120.4〜158.4°であり、φ/2は60.2〜79.2°となっており、Vd=80°に対して、Vc−Vdが−20°以内であり、この領域では引っかかりや打ち残しがなく処理できた。
このことからVc=70°に対応する溶接止端部開き角φが140°でVc−Vdの偏差角度θ’が大きく変化するものと考えられる。そこで、φが140°未満ではVc−Vdを−20°以内、140°以上ではVc−Vdを−10°以内とした。
以上のことから、手棒による溶接などで、溶接止端部の形状が悪く、波うちが相対的に大きい場合の対策、または、予想外の溶接止端部の形状の急変により打撃ピンが引っ掛かり処理が停止することがないように予防対策として、以下のように処理を行うことが好ましい。
(1)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、該打撃処理装置1には、
前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、該支持押圧機構部5を搭載し、打撃処理機構部2を基台12に載置された被処理材7の溶接止端部9に沿って溶接線方向に移動させる移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記被処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を45°以上80°以下に調整する角度調整機構10が配設され、さらに、前記打撃処理機構部2の、溶接方向と直角な断面での金属材料面または溶接金属面に沿う方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置。
(2)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動してハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置であって、該打撃処理装置1には、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す打撃処理機構部2と、該打撃処理機構部2を支持するとともに、該打撃処理機構部2の打撃ピン3を被処理材7である前記溶接継手の溶接止端部9に押し付ける支持押圧機構部5と、支持押圧機構部5が配設される装置基部11と、被処理材7を搭載し、被処理材7の溶接止端部9が打撃処理機構部2に沿うように、溶接線方向に移動する移動機構部6とが配設され、かつ、前記支持押圧機構部5内又は前記支持押圧機構部5と前記移動機構部6との間に、溶接線方向に直交する断面において前記披処理材7の金属材料表面に対して前記打撃ピン3の軸方向中心線がなす角度を45°以上80°以下に調整する角度調整機構10が配設され
さらに、前記打撃処理機構部2の、溶接方向と直角な断面での金属材料面または溶接金属面に沿う方向への動きに自由度を与える遊動機構部4が、前記打撃処理機構部2と前記支持押圧機構部5との間、前記支持押圧機構部5内、前記支持押圧機構部5と装置基部11との間のいずれか1箇所または2箇所以上に配設されていることを特徴とする、溶接継手の疲労特性改善打撃処理装置。
(3)金属材料面に対して溶接ビードが外に凸である溶接継手の溶接止端部に、溶接方向と直角な断面での金属材料面または溶接金属面に沿う方向への動きに自由度を持たせつつ、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対移動させてハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す、溶接継手の疲労特性改善方法であって、溶接継手の溶接止端部の所望とする曲率半径に基づいて打撃ピンの曲率半径を選定し、前記打撃ピン3が金属材料73と溶接金属8の両方に接した状態で溶接止端部9へ対向する場合に、前記溶接継手の溶接線と直交する断面内において、溶接止端91から打撃ピン3と金属材料73との接点31までを結ぶ直線Aと、溶接止端91から打撃ピン3と溶接金属8との接点32までを結ぶ直線Bとを想定し、これら2つの直線AおよびBがなす角度を溶接止端部開き角度φとするとき、溶接継手の溶接線方向に溶接止端部開き角度φを測定し、その最小値と最大値が90°以上160°以下である溶接継手に対して、前記打撃ピン3の中心線Dが金属材料表面に対してなす角度Vdを、前記溶接止端部開き角度φの最小値と最大値の平均値の1/2である中心線Cが金属材料表面に対してなす角度Vcと同じとなるように設定して、打撃ピンを溶接止端部に対向させ、溶接方向と直角な断面での金属材料面または溶接金属面に沿う方向への動きに自由度を持たせつつ、前記ハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を少なくとも1回施すことを特徴とする溶接継手の疲労特性改善方法。
図9に示すように、溶接止端部開き角度φは、それぞれの溶接止端部92〜95で溶接線方向に連続的に変化しており、約72°〜139°の間でばらついていた。図9中に示した黒のプロットは、打撃処理において打ち残しがあった部分であり、溶接止端部開き角度φが90°より小さい角度の部位では、Vdの角度にかかわらず、集中してみられた。このことから、本発明で処理対象とする溶接継手の溶接止端部開き角度φの最小値は90°とする必要がある。なお、打撃処理の打ち残しとは、溶接止端部の線が目視で確認できる程度に残っている状態を指している。
図12から判るように、溶接止端部開き角度φが160°超の箇所については、Vdをいかなる角度としても打ち残しを排除することが困難である。従って、本発明で処理対象とする溶接継手の溶接止端部開き角度φの最大値は160°とするものである。
なお、図14で溶接止端部93’のVd=80°で処理したk)の部分は局所的なφは120.4〜158.4°であり、φ/2は60.2〜79.2°となっており、Vd=80°に対して、Vc−Vdが−20°以内であり、この領域では引っかかりや打ち残しがなく処理できた。
一方、Vd=89°で処理したl)の部分に対しては、Vc−Vdが−28.8〜−9.8°であり、局所的にみると問題なく処理ができた部位はVc−Vdが−9.8°であった一点のみであり、他はVc−Vdが−20°以下でも本来の処理での引っかかりや打ち残しがみられた。