JPWO2010038680A1 - Ni基合金の製造方法及びNi基合金 - Google Patents
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Abstract
Description
その蒸気温度は600〜630℃に達しており、現在12Cr系のフェライト系耐熱鋼が使用されている。今後更なる高効率化を目指し、700℃以上の高温化が検討されている。しかしながら、現用の12Cr系のフェライト系耐熱鋼では700℃での高温強度が不足するため、高温強度に優れるオーステナイト系のγ’析出強化型Ni基超合金の使用が検討されている。
しかし、Ni基超合金はクリープ破断強度は十分であるが、フェライト系耐熱鋼と比較して熱膨張係数が大きいこと、クリープ破断延性が小さいこと、偏析を生じやすいこと、価格が高いことなどの難点がある。
そのため、これらの問題を解決し700℃級超々臨界圧火力発電プラントへの実用化に向けてさまざまな検討が行われている。
そのため、特許文献1或いは特許文献2で提案した合金は、蒸気タービンブレードやボルトのような中小型鍛造材や、蒸気タービンロータやボイラ菅のような大型の製品に用いると、高温強度と熱間加工性の両立可能な合金として注目されている。
Ni基合金では、オーステナイト組織を基地組織とするため、合金元素を多量に固溶できる利点がある。この利点を活かし、優れた高温強度、耐酸化性、耐食性を得ることができる一方で、合金元素を多量に含有すると偏析が生じやすく製造性、鍛造性が劣化する傾向にある。
そこで、本発明者等は特許文献1或いは特許文献2で提案したNi基合金を、より確実に700℃級の超々臨界圧火力発電プラントに用いられる蒸気タービン、ボイラ等の中・大型製品へ適用できるようにすべく詳細な検討を行なった。その結果、溶解プロセス中に凝固前面に濃化しやすいMo、Al、Tiの成分をバランスよく配合することで、確かに、非特許文献1で紹介されるようにマクロ偏析を抑制し、大型インゴットの製造性、鍛造性の向上を確認した。
そこで、ミクロ偏析を解消させるべく、化学成分を再度調整することを検討したが、成分調整のみではミクロ偏析を十分に解消するには至らなかった。
ミクロ偏析の存在は、強度、延性等の機械的特性の低下を生じさせ、蒸気タービン、ボイラ等の中・大型製品を実用化する上で大きな問題となる可能性がある。
ここで、マクロ偏析とは、凝固開始後の固液共存温度域における母液相と濃化液相の濃度差による溶湯密度差に起因するインゴットの内部でおこる偏析を指し、ミクロ偏析とは、凝固時の樹枝状結晶とその隙間の最終凝固部の濃度差に起因する偏析を指す。
本発明の目的は、ミクロ偏析を解決し強度、延性等の性質が安定したより良好な機械的特性を有するNi基合金を提供することである。
即ち本発明は、質量%でC:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:10〜24%、Mo単独或いはMoは必須としてMo+(1/2)×W:5〜17%、Al:0.5〜1.8%、Ti:1〜2.5%、Mg:0.02%以下、及び、(B:0.02%以下、Zr:0.2%以下)の何れかまたは両方を含有し、更にAl/(Al+0.56Ti)で表される値が0.45〜0.70であり、残部Niと不純物からなるNi基合金の製造方法において、真空溶解で得た前記組成を有するNi基合金素材を、1160〜1220℃にて1〜100時間の均質化熱処理を少なくとも1回以上行うNi基合金の製造方法である。
また、本発明は、上記の均質化熱処理により、Moの偏析比を1〜1.17とするNi基合金の製造方法である。
好ましくはMoの偏析比を1〜1.10とするNi基合金の製造方法である。
本発明においては、前記の化学成分に加えて、Fe:5%以下を含有しても良い。
また、本発明の好ましい組成範囲は、質量%でC:0.015%〜0.040、Si:0.1%未満、Mn:0.1%未満、Cr:19〜22%、Mo単独或いはMoは必須としてMo+(1/2)×W:9〜12%、Al:1.0〜1.7%、Ti:1.4〜1.8%、Mg:0.0005〜0.0030%、B:0.0005〜0.010%、Zr:0.005〜0.07%、Fe:2%以下を含有し、更にAl/(Al+0.56Ti)で表される値が0.50〜0.70であり、この範囲は700℃以上での使用環境に最適である。
また、前記のAl含有量の範囲として、1.0〜1.3%の範囲はクリープ特性に優れ、1.3を超えて1.7%の範囲では引張強度に優れた合金を得ることができる。
更に好ましくは、真空溶解後と均質化熱処理の間に、真空アーク再溶解またはエレクトロスラグ再溶解を行うNi基合金の製造方法である。
また本発明は、均質化熱処理後に、熱間鍛造を行い、熱間鍛造後のMo偏析比が1〜1.17であり、更に好ましくは、Moの偏析比を1〜1.10とするNi基合金の製造方法である。
好ましくはMoの偏析比を1〜1.10とするNi基合金である。
本発明においては前記の化学成分に加えて、Fe:10%以下を含有しても良い。
また本発明は、上記のNi基合金が鍛造品であるNi基合金である。
また、本発明においては、前記の化学成分に加えて、Fe:5%以下を含有しても良い。
また、本発明の好ましい組成範囲は、質量%でC:0.015%〜0.040、Si:0.1%未満、Mn:0.1%未満、Cr:19〜22%、Mo単独或いはMoは必須としてMo+(1/2)×W:9〜12%、Al:1.0〜1.7%、Ti:1.4〜1.8%、Mg:0.0005〜0.0030%、B:0.0005〜0.010%、Zr:0.005〜0.07%、Fe:2%以下を含有し、更にAl/(Al+0.56Ti)で表される値が0.50〜0.70である。
また、前記のAl含有量の範囲として、1.0〜1.3%の範囲はクリープ特性に優れ、1.3を超えて1.7%の範囲では引張強度に優れたNi基合金となる。
また、好ましくは、3μm以上のMo系炭化物が、10μm以下の間隔で10個以上連なる領域が存在しない金属組織とするNi基合金である。
また、本発明のNi基合金は鍛造品であっても良い。
Cは、合金元素と結合することで炭化物を形成する。溶解後に生成される炭化物を固溶化熱処理で基地のγ相中に固溶させ、その後の安定化熱処理では基地のγ相にほとんど固溶しないためわずかな量でも結晶粒界及び粒内に形成し析出強化として寄与する。特に粒界析出により高温での粒界すべりを抑制し高温での強度、延性を高める効果がある。
しかし、C量が多すぎると、炭化物がストリンガー状に析出しやすくなり、加工方向に対する直角方向の延性が低下する。更にTiと結合して炭化物を形成すると、本来Niと化合して重要な析出強化相となるγ’を形成するTi量が確保できなくなるため、Cは0.15%以下に限定する。好ましいCの範囲は0.01〜0.080%であり、使用環境が700℃以上となると、更に好ましくは、0.015〜0.040%である。
Mnは、合金溶製時に脱酸剤や脱硫剤として用いられる。不可避的不純物としてOやSが含有していると粒界に偏析して低融点化することにより熱間加工時に粒界が局部溶融する熱間脆性を引き起こすため、Mnを用いて脱酸、脱硫を行う。また、Mnは緻密で強固な酸化被膜を形成し粒界酸化を抑制する効果がある。しかし、過度に含有すると延性が低下するため、1%以下に限定する。好ましいMnの上限は0.5%以下であり、更に好ましくは0.2%以下であり、使用環境が700℃以上となると、Mnの好ましい上限は0.1%未満である。
Mo及びWは、基地に固溶して基地を強化するとともに合金の熱膨張係数を下げる効果がある。Ni基合金は熱膨張係数が大きいため、高温で安定して使用するには熱疲労を起こしやすく信頼性が欠ける難点がある。Moは熱膨張係数を下げるのに最も有効な元素であるため、Moを必須としてMo単独あるいはMoとWの2種を添加する。Mo+1/2W量で5%未満では上記効果が得られず、17%を超えると合金の製造性や加工性が困難となるため、Moを必須としてMo+1/2W量を5〜17%に限定する。また、マクロ偏析を極力抑制するために好ましいMo+1/2W量は7〜13%であり、使用環境が700℃以上となると更に好ましくは9〜12%の範囲であり、更に好ましくは9〜11%の範囲である。
また、Alについては、700℃以上でのクリープ特性を重要視すると、Alの範囲は1.0〜1.3%の範囲が好適であり、700℃での高温強度を重要視する場合は、Alの範囲は1.3%を超えて1.7%の範囲が良い。
Tiは、Ni、Alと同様γ’相(Ni3(Ti、Al))を形成し合金の高温強度を高める効果がある。Tiの原子径はNiのそれよりも大きく基地に弾性歪を与えるため、Ni3Alよりも強化に寄与する。1%未満では上記効果が得られず、過度に添加すると合金の製造性や加工性が劣化するためTiは1〜2.5%に限定する。また、マクロ偏析を極力抑制するために好ましいTiの範囲は1.2〜2.5%であり、使用環境が700℃以上となると更に好ましくは1.4〜1.8%である。
Ni3TiはNi3Alよりも高温強度向上の効果が大きいが、高温での相安定性がNi3Alよりも悪く高温で脆弱なイータ相となりやすい。そのため、Alとともに添加することでγ’相はAlとTiが一部置換した(Ni3(Al,Ti))の形で析出させる。(Ni3(Al,Ti))はNi3Alよりも高い高温強度が得られるが延性は劣り、Alの割合が多くなるほど、延性は向上するが逆に強度は低下するため、AlとTiのバランスは重要である。本発明合金においは、十分な延性を確保することは重要であり、γ’相中のAlの割合を原子量の比として表すため、Al/(Al+0.56Ti)なる数値を設定した。この値が0.45より低いと十分な延性が得られない。逆に0.70を超えると強度が不足するため、Al/(Al+0.56Ti)値は0.45〜0.70に限定する。使用環境が700℃以上となると更に好ましくは0.50〜0.70である。
B、Zrは結晶粒界強化のために用いられ、1種または2種添加する必要がある。B、Zrは基地を構成する原子であるNiより原子の大きさが著しく小さいため、結晶粒界に偏析して高温での粒界すべりを抑制する効果がある。特に切り欠きラプチャー感受性を大幅に緩和させる効果を有する。そのため、クリープ破断強度やクリープ破断延性が向上する効果が得られるが、過度に添加すると耐酸化性が劣化するためB、Zrはそれぞれ0.02%以下、0.2%以下に限定する。好ましい上限はそれぞれ0.01%以下、0.1%以下である。使用環境が700℃以上となると更に好ましくは、B及びZrを共に添加し、その含有量がBは0.0005〜0.010%、Zrは0.005〜0.07%の範囲である。
Feは、必ずしも添加する必要はないが、合金の熱間加工性を改善する効果があるため、必要に応じて添加することができる。5%を超えると、合金の熱膨張係数が大きくなり高温使用時に割れが発生する問題が生じる。また耐酸化性が劣化するため5%以下に限定する。使用環境が700℃以上となると更に好ましくは2.0%以下である。
本発明においては、上述した化学成分に調整することにより、マクロ偏析を軽減することができる。
本発明では、真空溶解によって、上述の化学成分に調整した、インゴット、真空アーク再溶解(以下、VARと記す)用電極、エレクトロスラグ再溶解(以下、ESRと記す)用電極を製造する。
真空溶解する理由は次の通りである。
本発明で規定するNi基合金は、高温高強度を得るためγ’相の構成元素であるAl及びTiを必須で添加する。AlやTiは活性元素であるため、大気溶解では有害な酸化物や窒化物を生成しやすい。そのため、有害な酸化物や窒化物等の非金属介在物の析出を防ぐため、脱ガス効果のある真空溶解を行う必要がある。
また、Al、Tiが酸化物や窒化物を多く形成すると、その分、固溶しているAl、Ti量が減少するため、時効処理によって析出して強化に寄与するγ’相が減少して強度が低下するおそれがあるので、酸化物や窒化物の生成を極力抑えられる真空溶解を実施する必要がある。
その他、真空精錬効果として有害元素を除去することができる。このように、真空溶解は非金属介在物の析出防止、不純物元素の除去効果として品質向上のため必要不可欠な手段である。
本発明合金のように高い信頼性を要する耐熱合金において、真空溶解で得た前記組成を有するNi基合金素材(インゴット)を電極として、これをVARまたはESRで再溶解することで、より一層のマクロ偏析の低減と精錬効果が得られる。
本発明において、上述した範囲で均質化熱処理温度を規定した理由は以下の通りである。
均質化熱処理温度の下限を1160℃としたのは、1160℃未満であると、ミクロ偏析が解消されないためである。1160℃未満の温度範囲であると、構成元素の成分値にミクロ的なばらつき(偏析)が残存し、同一のインゴットまたは電極内で局所的な機械的性質の低下が生じる。
一方、均質化熱処理温度の上限が1220℃を超えると、上述した本発明で規定する化学成分の合金の融点直下であるため、ミクロ偏析に起因した溶質成分の濃化部分において局部溶融が起こり、溶融した箇所で凝固収縮による欠陥が生じる。また、局部溶融が起こるとミクロ偏析が解消されないだけでなく、かえってミクロ偏析が大きくなってしまい、均質化熱処理の効果が失われるため、機械的性質の低下やばらつきが生じる可能性がある。そのため、本発明では均質化熱処理の温度範囲を1160〜1220℃の極めて限られた範囲内で行う必要がある。
好ましい均質化熱処理の下限は1170℃であり、好ましい上限は1210℃である。
均質化熱処理によるミクロ偏析軽減の効果は、均質化熱処理の時間よりも温度の方が大きいため、高温では短時間の均質化熱処理でよいが、低温ではより長時間の均質化熱処理が必要となるため、上述した範囲で均質化熱処理時間を規定した。均質化熱処理時間が1時間未満であると、適正な均質化熱処理温度としてもミクロ偏析解消の効果は得られない。そのため、均質化熱処理時間の下限を1時間とした。好ましい均質化熱処理時間の下限は5時間であり、更に好ましくは8時間であり、より好ましくは18時間である。
一方、上記の温度範囲内で100時間を超えて均質化熱処理を行なっても、より一層のミクロ偏析軽減の効果が得られないため、均質化熱処理時間の上限を100時間とした。好ましい均質化熱処理時間の上限は40時間であり、更に好ましくは30時間である。
例えば、2回以上の均質化熱処理を行なう場合は、真空溶解後に1回行い、熱間プレスや熱間鍛造後または再溶解後に、1回以上行なうと効果的である。
本発明の場合、溶解プロセス中の凝固過程において、浮上型の偏析が生じるAl、Ti量と、沈降型の偏析が生じるMo量の成分バランスを調整しているため、インゴット、VAR用電極、ESR用電極中のマクロ偏析を軽減することが可能である。
しかし、例えば、マクロ偏析が残存していると、熱間プレスや熱間鍛造中に割れを生じる可能性がある。また、例えば、VARを行なう場合、マクロ偏析に起因して、電極へのアークが不安定となって、十分な溶解ができない場合がある。
そのため、真空溶解後のインゴット、VAR用電極、ESR用電極に対して、上記の温度範囲及び時間にて、均質化熱処理を行なっても差し支えない。真空溶解後のインゴット、VAR用電極、ESR用電極に対して、上記の温度範囲及び時間にて、均質化熱処理を行なうと、マクロ偏析とミクロ偏析の両方を軽減する効果を得ることができる。
なお、真空溶解後、VARやESR等の再溶解を適用する場合、上述の条件での均質化熱処理のミクロ偏析防止効果は、再溶解後の方が効果的である。
また、例えば、VARやESR等の再溶解を適用する場合において、真空溶解後に行う均質化熱処理条件を、単にマクロ偏析のみを更に低減させたり、また、金属間化合物等の固溶を目的とするならば、均質化熱処理温度の下限を1100℃としても十分であるが、1160℃未満の均質化熱処理条件は、ミクロ偏析の解消には不適である。
理由は以下の通りである。
VAR及びESR共に、機械的特性を劣化させる非金属介在物を低減して、合金の清浄度を高め、製品の品質を向上させる効果の他、偏析を軽減する効果がある。そのため、一旦、VARやESRを行なってNi基合金のマクロ偏析を十分に軽減させることで、後に行なう均質化熱処理のミクロ偏析の解消効果を確実なものとすることができる。
この偏析軽減効果のあるVARやESRは2回行っても良い。2回行なうと、後の均質化熱処理にてミクロ偏析の解消効果がより一層確実なものとなる。
また、例えば、真空溶解で製造したインゴットでも、必要とされる製品重量に満たない場合、インゴットを複数製造し、これらを溶接により継ぎ足して大型電極とし、1回目のESRを適用して溶接付近のマクロ偏析を軽減し、更に2回目のESRでマクロ偏析を十分に解消した均一な大型インゴットを得ることができる。
なお、VARを適用すると、特に真空雰囲気であるため活性元素のAlやTiの酸化あるいは窒化による減量が抑制され、特に真空雰囲気では脱ガス効果や酸化物浮上分離による脱酸効果にも優れる。ESRを適用すると、脱ガス効果がないため、活性元素のAlやTiの減量が促進され、若干の機械的特性の劣化につながるものの、一方で、特に硫化物の除去と大きな介在物の除去効果に優れる。また、必ずしも真空排気装置を必要としないため比較的簡単な設備で済む利点もある。そのため、必要とされる製品の特性や、製造コストを勘案して使い分けるのが良く、勿論、VARとESRとを組合わせても良い。
なお、本発明で言う偏析比とは、エックス線マイクロアナライザ(以下、EPMA)ライン分析による特性X線強度の最大値と最小値の比を指す。そのため、Moの偏析が全く見られない場合は、Mo偏析比は1となる。Moのミクロ偏析が残存すればMo偏析比は高くなる。
Mo偏析比の上限は実験からの経験上規定したものであり、Mo偏析比が1.17以下の範囲であればミクロ偏析がほぼ解消したと判断できる範囲であるためである。
後述の実施例で詳細に述べるが、Mo偏析比が1.17以下であると、最終製品の機械的特性を安定して改善することができる。一方、Mo偏析比が1.17を超える範囲であると、ミクロ偏析に起因した特性の低下が生じるため、最終製品にミクロ偏析に起因した強度や延性の低下が起こる。
そのため、本発明ではMo偏析比の上限を1.17と規定した。より好ましくは1.10以下の範囲である。
なお、Moのミクロ偏析比を測定するには、インゴットの場合はどの方向でもかまわないが、デンドライトを横切るような方向に、また、鍛造材では長手方向に対して直角方向にMoをEPMAを用いてライン分析できれば良い。なぜなら上記の方向が偏析によるMoの濃度変化に対して平行な方向となるため、より短い距離でのライン分析によって偏析を検出可能だからである。その分析する距離は長ければ長いほど正確に測定できるが、過度に長い距離を測定するのは現実的ではない。本発明者の検討によれば、3mmのライン分析で十分に分析でき、ミクロ偏析の偏析比を測定できることから、分析する長さは3mmで十分である。
本発明では、上述のように、均質化熱処理によって、Moの偏析比を1〜1.17の範囲に調整しているため、熱間鍛造によってMo偏析比が大きくなるおそれもないことから、熱間鍛造後のNi基合金の特性も低下することなく良好な機械的特性を得ることが出来る。
本発明では、マクロ偏析及びミクロ偏析を抑制したことで、3μm以上のMo系炭化物が、10μm以下の間隔で10個以上連なる領域が存在しない金属組織を呈することができる。このMo系炭化物が局所的に分布する領域が見られないか、或いは、極めて少なければ、等方的に良好な機械的特性を得ることが可能となる。
なお、Mo系炭化物が存在する領域にMoは偏析しているため、Mo系炭化物の分布状況を観察することによって、Moの偏析の痕跡を簡易的に確認することができる。また、Mo系炭化物の局所的な分布は、再結晶挙動に影響を与え、混粒組織をもたらす可能性があるため、Mo系炭化物の局所的な分布を抑制することによって均一な結晶粒組織を得ることができ、その結果、強度、硬さ等の機械的性質の不均一を抑制することができる。
例えば図1は、1180℃で均質化熱処理を施し、その後、固溶化処理、時効処理を行なったNi基合金の断面光学顕微鏡写真であり、図2はその模式図である。図3は1200℃で均質化熱処理を施し、その後、固溶化処理、時効処理を行なったNi基合金の断面光学顕微鏡写真であり、図4はその模式図である。
1180℃の均質化熱処理を行なった本発明のNi基合金では、最大5μmのMo系炭化物(M6C)が僅かに残存しているのが分る。そして、1200℃の均質化熱処理を行ったNi基合金では、Mo系炭化物が殆ど見られない。これは、高温の均質化熱処理により、インゴット中の偏析が解消したか、或いは、軽微なものとなった結果である。
なお、前述の金属組織観察は、光学顕微鏡を用いて、炭化物が凝集している個所を400倍で5〜10視野観察し、炭化物の大きさ、分布を測定することで十分である。
上述した用途に適用する場合、例えば、固溶化処理と時効処理を組合わせて製品として用いるものや、固溶化処理のみで製品として用いるものがある。均質化熱処理によるミクロ偏析の解消の効果は、固溶化処理や時効処理で損なわれるものでなく、いずれの熱処理を適用しても安定した機械的特性を得ることができる。
真空誘導溶解を行い10kgインゴットを作製し、表1に化学組成を示す本発明で規定する成分範囲内のNi基合金素材を得た。なお、残部は、Niと不純物である。
表1に示すNo.1合金のNi基合金素材(インゴット)に対して、1140〜1220℃の範囲で20時間の均質化熱処理を行った。その後、ミクロ偏析の有無を確認するため、得られたインゴットから10mm角の試料を採取し、EPMAライン分析を行った。EPMAライン分析は、加速電圧15kV、プローブ電流3.0×10−7A、プローブ径7.5μm、長さ3mm間を7.5μmステップで行い、エックス線強度の最大値と最小値の比からなる偏析比を算出した。
なお、EPMAライン分析の方向は、デンドライトを横切るような方向で行なった。
No.2〜No.10のNi基合金素材については、熱間鍛造後、ミクロ偏析の有無を確認するため、得られた鍛造後のNi基合金から10mm角の試料を採取し、EPMAライン分析を行った。EPMAライン分析は、加速電圧15kV、プローブ電流3.0×10−7A、プローブ径7.5μm、長さ3mm間を7.5μmステップで行い、エックス線強度の最大値と最小値の比からなる偏析比を算出した。表2にMoの偏析比を示す。なお、EPMAライン分析の方向は、鍛造材の長手方向に対して直角方向となる方向で行なった。
マクロ偏析は、マクロ試験を行なって偏析の有無を目視で確認した。エッチングのむらが見られたものは×印を、エッチングむらが見られなかったものには○印で示す。表2に偏析の結果を合わせて示す。
一方、均質化熱処理温度を行わなかった比較例では、熱間鍛造後のMo偏析比が1.17より大きくなっており、ミクロ偏析が多く残っていることが示唆される。
固溶化熱処理は1066℃で4時間加熱後空冷した。時効処理は、第1段時効処理として、850℃で4時間加熱後空冷し、第2段時効として、760℃で16時間加熱後空冷した。
これらの熱処理材の機械的性質を評価するために、常温及び700℃での引張試験、及び700℃でのクリープ破断試験を行った。常温及び700℃での引張試験結果を表3に示す。また、試験温度700℃、応力490N/mm2及び385N/mm2の条件で行ったクリープ破断試験結果を表4に示す。
また、表4より、均質化熱処理を行なった本発明のNi基合金No.3、4、6、10は何れも、均質化熱処理を行なわなかった比較例のNi基合金No.2に比べて、700℃でのクリープ破断寿命が長く、破断絞りも同等か大きい値を示しており、均質化熱処理を行なうことによって、クリープ破断特性を安定して良好にすることができている。また、本発明の合金No.6、10は試験温度700℃、応力385N/mm2のクリープ破断試験が未実施であるが、合金No.2、3、4の応力490N/mm2と385N/mm2のクリープ破断寿命の関係を見ると、応力490N/mm2で良好な破断寿命が得られているものは385N/mm2においても良好な破断寿命が得られるという相関関係が見られることから、本発明の合金No.6、10においても本発明の合金No.3、4と同様に試験温度700℃、応力385N/mm2のクリープ破断特性も良好であるものと推定される。
表5から、本発明のNi基合金No.3、4及び比較例のNi基合金No.2の30℃から各温度までの平均熱膨張係数は差が認められなかったため、今回の試験片レベルでの熱膨張係数にはミクロ偏析の影響は殆ど無いものと考えられる。
なお、本発明の時効処理後のNi基合金No.3、4について、断面金属組織観察を行ない、炭化物の分布及び大きさについて調査した。調査は、光学顕微鏡を用いて、炭化物が凝集している個所を400倍で10視野観察した。代表的な金属組織の顕微鏡写真とその模式図を図1〜図4に示す。
図1および図2に示す1180℃の均質化熱処理を行なった本発明のNi基合金No.3では、最大5μmのMo系炭化物(M6C)が僅かに残存し、Mo系炭化物が凝集している個所においても、3μm以上のMo系炭化物が2〜10μm程度の間隔で5個程度観察された。図3および図4に示す1200℃の均質化熱処理を行ったNi基合金では、Mo系炭化物自体が殆ど見られなかった。なお、Mo系炭化物は、写真上で白色に見えるものであり、模式図上ではその形状を書き写したものである。
次に、再溶解を適用した実施例を示す。なお、今回は硫化物の除去と大きな介在物の除去効果の大きなESRを適用した。
真空誘導溶解でESR用電極を製造した。この合金のNi基合金素材No.11の化学成分を表6に示す。ここで、ESR再溶解後のP、S等の不純物のレベルは、Pが0.002%、Sが0.0002%であった。Ni基合金素材No.11は、真空誘導溶解の後、ESR用電極を1180℃で20時間均質化熱処理し、その後、ESRによる再溶解を行い、3トン規模の大型インゴットを得た。次に、大型インゴットに1180℃で20時間均質化熱処理を施し、1150℃で分塊を行い、さらに1000℃で熱間鍛造を行った。分塊および熱間鍛造時には、鍛造割れ等は発生せず、鍛造性は良好であった。
マクロ偏析は、マクロ試験を行なって偏析の有無を目視で確認した。エッチングのむらが見られたものは×印を、エッチングむらが見られなかったものには○印で示す。
次に合金No.11について、実際の製品に適用される代表的な条件にて固溶化処理と時効処理を施し、機械的特性を調査した。試料は鍛造材の長手方向に沿って採取した。
固溶化熱処理は1066℃で4時間加熱後空冷した。時効処理は、第1段時効処理として、850℃で4時間加熱後空冷し、第2段時効として、760℃で16時間加熱後空冷した。
これらの熱処理材の機械的性質を評価するために、常温及び700℃での引張試験、及び700℃でのクリープ破断試験を行った。常温及び700℃での引張試験結果を表8に示す。また、試験温度700℃、応力490N/mm2及び385N/mm2の条件で行ったクリープ破断試験結果を表9に示す。
また、表9より、1180℃の均質化熱処理を行なった再溶解プロセスを経た本発明のNi基合金No.11は、700℃でのクリープ破断寿命が長く、破断絞りも大きい値を示しており、安定した良好なクリープ破断特性を示している。
次に、VARを適用した実施例を示す。
真空誘導溶解でVAR用電極を製造した。この合金のNi基合金素材No.12の化学成分を表10に示す。Ni基合金素材No.12は、真空溶解の後、VAR用電極を1200℃で20時間均質化熱処理し、その後、VARによる再溶解を行い、1トン規模の大型インゴットを得た。次に、大型インゴットに1180℃で20時間均質化熱処理を施し、1150℃で分塊を行い、さらに1000℃で熱間鍛造を行った。分塊および熱間鍛造時には、鍛造割れ等は発生せず、鍛造性は良好であった。
マクロ偏析は、マクロ試験を行なって偏析の有無を目視で確認した。エッチングのむらが見られたものは×印を、エッチングむらが見られなかったものには○印で示す。
次にNi基合金No.12について、実際の製品に適用される代表的な条件にて固溶化処理と時効処理を施し、機械的特性を調査した。試料は鍛造材の長手方向に沿って採取した。
固溶化熱処理は1066℃で4時間加熱後空冷した。時効処理は、第1段時効処理として、850℃で4時間加熱後空冷し、第2段時効として、760℃で16時間加熱後空冷した。
これらの熱処理材の機械的性質を評価するために、700℃でのクリープ破断試験を行った。試験温度700℃、応力490N/mm2及び385N/mm2の条件で行ったクリープ破断試験結果を表12に示す。
次に鍛造材の長手方向に対して直角方向のミクロ偏析の影響を調査した実施例を示す。
真空誘導溶解で10kgインゴットを作製した。表13に化学成分を示す。合金No.13のインゴットは均質化熱処理を行わずに1100℃に加熱して熱間鍛造を行なった。合金No.14、15のインゴットはそれぞれ1140℃、1200℃で20時間均質化熱処理を行なった後、1100℃で熱間鍛造した。合金No.13〜15において鍛造割れ等は発生せず、鍛造性は良好であった。
マクロ偏析は、マクロ試験を行なって偏析の有無を目視で確認した。エッチングのむらが見られたものは×印を、エッチングむらが見られなかったものには○印で示す。
固溶化熱処理は1066℃で4時間加熱後空冷した。時効処理は、第1段時効処理として、850℃で4時間加熱後空冷し、第2段時効として、760℃で16時間加熱後空冷した。
これらの熱処理材の機械的性質を評価するために、700℃でのクリープ破断試験を実施した。クリープ破断試験は合金No.13〜15に対し各2本ずつ行なった。試験温度700℃、応力490N/mm2及び385N/mm2の条件で行ったクリープ破断試験結果を表15に示す。また、念のため、主にミクロ偏析の影響を簡易的に検出するために23℃での2mmVノッチのシャルピー衝撃試験を行った。シャルピー衝撃試験は合金No.13〜15に対し各3本ずつ行った。試験温度23℃でのシャルピー衝撃試験結果を表16に示す。
また、表16より、1200℃で均質化熱処理を行った本発明の合金No.15は比較例の合金No.13、14よりも安定して高い衝撃値が得られており、靭性が安定して良好であることから、本発明に規定した均質化熱処理を実施することによってミクロ偏析が解消されていることが確認できる。
このことから、本発明のNi基合金は、常温から高温での強度、延性等の良好な機械的特性を有することが明らかである。
Claims (18)
- 質量%でC:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:10〜24%、Mo単独或いはMoは必須としてMo+(1/2)×W:5〜17%、Al:0.5〜1.8%、Ti:1〜2.5%、Mg:0.02%以下、及び、(B:0.02%以下、Zr:0.2%以下)の何れかまたは両方を含有し、更にAl/(Al+0.56Ti)で表される値が0.45〜0.70であり、残部Niと不純物からなるNi基合金の製造方法において、真空溶解で得た前記組成を有するNi基合金素材を、1160〜1220℃にて1〜100時間の均質化熱処理を少なくとも1回以上行うNi基合金の製造方法。
- 均質化熱処理により、Moの偏析比を1〜1.17とする請求項1に記載のNi基合金の製造方法。
- 均質化熱処理により、Moの偏析比を1〜1.10とする請求項1に記載のNi基合金の製造方法。
- 質量%でFe:5%以下を含む請求項1乃至3の何れかに記載のNi基合金の製造方法。
- 質量%でC:0.015%〜0.040、Si:0.1%未満、Mn:0.1%未満、Cr:19〜22%、Mo単独或いはMoは必須としてMo+(1/2)×W:9〜12%、Al:1.0〜1.7%、Ti:1.4〜1.8%、Mg:0.0005〜0.0030%、B:0.0005〜0.010%、Zr:0.005〜0.07%、Fe:2%以下を含有し、更にAl/(Al+0.56Ti)で表される値が0.50〜0.70の組成を有する請求項1乃至4の何れかに記載のNi基合金の製造方法。
- Alが1.0〜1.3質量%である請求項5に記載のNi基合金の製造方法。
- Alが1.3を超えて1.7質量%である請求項5に記載のNi基合金の製造方法。
- 真空溶解後と均質化熱処理の間に、真空アーク再溶解またはエレクトロスラグ再溶解を行う請求項1乃至7の何れかに記載のNi基合金の製造方法。
- 均質化熱処理後に、熱間鍛造を行い、熱間鍛造後のMo偏析比が1〜1.17である請求項1乃至8の何れかに記載のNi基合金の製造方法。
- Moの偏析比を1〜1.10とする請求項9に記載のNi基合金の製造方法。
- 質量%でC:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:10〜24%、Mo単独あるいはMoは必須としてMo+(1/2)×W:5〜17%、Al:0.5〜1.8%、Ti:1〜2.5%、Mg:0.02%以下、及び、(B:0.02%以下、Zr:0.2%以下)の何れかまたは両方を含有し、更にAl/(Al+0.56Ti)で表される値が0.45〜0.70であり、残部はNi及び不純物からなるNi基合金において、Moの偏析比が1〜1.17であるNi基合金。
- Moの偏析比を1〜1.10とする請求項11に記載のNi基合金。
- 質量%でFe:5%以下を含む請求項11または12に記載のNi基合金。
- 質量%でC:0.015%〜0.040、Si:0.1%未満、Mn:0.1%未満、Cr:19〜22%、Mo単独或いはMoは必須としてMo+(1/2)×W:9〜12%、Al:1.0〜1.7%、Ti:1.4〜1.8%、Mg:0.0005〜0.0030%、B:0.0005〜0.010%、Zr:0.005〜0.07%、Fe:2%以下を含有し、更にAl/(Al+0.56Ti)で表される値が0.50〜0.70の組成を有する請求項11乃至13の何れかに記載のNi基合金。
- Alが1.0〜1.3質量%である請求項14に記載のNi基合金。
- Alが1.3を超えて1.7質量%である請求項14に記載のNi基合金。
- 3μm以上のMo系炭化物が、10μm以下の間隔で10個以上連なる領域が存在しない請求項11乃至16の何れかに記載のNi基合金。
- Ni基合金が鍛造品である請求項11乃至17の何れかに記載のNi基合金。
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