JP6299349B2 - 靭性および孔食性に優れた油井管用鋳片の連続鋳造方法 - Google Patents

靭性および孔食性に優れた油井管用鋳片の連続鋳造方法 Download PDF

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Description

本発明は、油井管の製造に好適なオーステナイト系ステンレス鋼を連続鋳造する方法であり、特に靭性および孔食性に優れた油井管用鋳片を連続鋳造する方法に関するものである。
近年、石油や天然ガスの需要は年々増大し、その重要性は益々高まってきている。一方で新たに開発する対象となる石油や天然ガスの貯留層はより深い位置になってきており、より過酷な環境に耐えることができる、高強度で高耐食性を有する油井管が開発されてきている。特に、このような過酷な環境ではCO2 或いはH2S などの腐食性ガスを含んでいることが多く、高耐食性を有する材料の開発が進められている。
油井管には様々な鋼種が存在するが、その選定条件は、主にCO2 やH2S の分圧、および温度によるのが一般的である。
例えば、CO2 腐食を防止するにはCrの添加が有効である。これは、Crの添加によって熱に強いクロム酸化物の保護膜が鋼表面に形成され、FeCO3 を含むスケールが鋼表面を平滑に覆いやすくなるためである。そのため、CO2 分圧の高い環境下では、13質量%クロム鋼や、22質量%クロム・25質量%クロムを含む二相ステンレス鋼が用いられている。
しかしながら、13質量%クロム鋼や二相ステンレス鋼は、高ニッケル合金鋼に比べてH2S に弱いため、CO2 とH2S が共存する最も厳しい環境下ではオーステナイト系高ニッケル合金鋼が適している。
しかしながら、オーステナイト系高ニッケル合金鋼は、特有の応力腐食割れ現象を起こすことが知られている。従って、この応力腐食割れを改善する目的で、Moを添加したMo含有高Cr−高Ni合金(以下、単に「高合金」と言う。)が開発され、原子力発電設備や化学プラント、海上などの塩化物イオン濃度の高い環境で採用されている。
このような過酷な腐食環境下で求められる耐食性は、上述のような合金元素を固溶させた状態で発揮されることが知られている。
しかしながら、本発明で対象とする前記高合金はMo,Cr等の合金元素を多く含有し、脆化相である金属間化合物が発生することが明らかとなっている。金属間化合物であるσ相、およびΧ相は脆化相であることから、靭性の低下を招くだけでなく、高濃度塩化物環境においてはこれら金属間化合物の析出により孔食性が低下することが報告されている。これはσ相、およびΧ相の析出によりその部分の不動態皮膜が不安定化するためである。
ここで、σ相とはFeとCrの金属間化合物で、その中にMo,W ,Si,Nb,Ti等の元素が固溶したものである。また、Χ相とはFe,CrおよびMoで構成される金属間化合物である。
金属間化合物は母相とは全く異なる結晶構造を持ち、特異な性質を示すことが知られており、その析出は化学量論比や相安定性に大きく左右されることから、その他の析出物等とは異なり、単純な拡散による溶質元素だけでは整理できるものではない。
このような問題を回避するための従来技術としては、鋳造以降の工程において、金属間化合物を拡散によって解消する目的で均質化熱処理する方法が一般的であるが、当該方法は当然のことながら生産工期の長期化、およびロスコスト増を招来し好ましくない。さらに、長時間の熱処理は結晶粒の粗大化を招き、加工時の割れの原因となる。以上の問題から、熱処理工程の省略、または少なくとも熱処理時間の短縮化が求められている。
そこで、発明者らは、金属間化合物が形成される凝固過程における制御技術に着目し、研究を進めた。
金属間化合物が形成される凝固過程における制御技術としては、例えば特許文献1〜特許文献3が提案されている。
特許文献1では、耐すきま腐食性を向上させるCr,MoおよびN の含有量の総含有量が51質量%以上となるように増加する一方、金属間化合物の析出を助長するSi,Mnの含有量を通常のレベルよりも極力低減させることで、耐すきま腐食性および熱間加工性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法が提案されている。
しかしながら、N 含有量を増加した場合は、熱間での変形抵抗が上昇して製管圧延が困難になる可能性がある。また、Si含有量の低減は高温における耐酸化性の問題が生じるため、Si含有量の低減には限界がある。
また、特許文献2では、特許文献1と同様、オーステナイト系ステンレス鋼のCr,MoおよびN の含有量を増加し、これを粉末プロセスにより固化成形することで、マクロ偏析、およびσ相やμ相などの金属間化合物の析出を抑制する技術が開示されている。
しかしながら、粉末プロセスには特殊な設備が必要となり、さらに生産性が低いという課題が残る。
また、特許文献3では、MM(ミッシュメタル)と呼ばれる原子番号57〜71までの希土類金属の混合物やY を添加することにより、溶鋼中の溶解度積を特定範囲に制御して意図的に生成させた希土類金属複合化合物を核として凝固組織を微細化、緻密化して偏析を制御し、σ相を含む金属間化合物の形成を抑制する手法が提案されている。
この特許文献3で提案された技術は、凝固組織微細化による偏析の制御、金属間化合物の制御の観点において非常に有用な手段であると考えられる。しかしながら、特許文献3で提案された微細化技術は、初晶がフェライト相の時にのみ有効な手段であり、本発明で対象とするγ単相凝固であるオーステナイト系ステンレス鋼には適用することができない。また、MMやY はレアメタルであることから市場価格が急激に変動するリスクがあり、安定供給が困難となる可能性がある。
特開平10−60603号公報 特開平6−306553号公報 特開2011−174183号公報
上記したように油井管用に鋳造される鋼片は、プロセスやコスト低減の観点から、長時間の熱処理工程の省略、または熱処理時間の低減が求められている。しかしながら、γ単相凝固する高合金の鋳造後の鋼片にはCrやMo等の合金元素を多量に含有するため脆化相である金属間化合物(σ相およびΧ相)が発生しやすく、加工性が低いだけでなく、海水など高濃度塩化物環境において孔食性の低下が問題である。
これに対し、従来技術は合金含有量の変更、または鋳造以降の過程における抑制技術が用いられてきた。しかしながら、合金含有量の変更による手法は本来の材料特性を劣化させる可能性があり、特定鋼種にしか用いることができず、汎用性が低い。従って、多くの鋼種は、鋳造後、長時間の熱処理を必要とすることから、当然のことながら生産工期の長期化、ロスコスト増を招来し、さらに結晶粒粗大化を原因とする加工性低下を招くことになる。
本発明は、上記の従来技術にあった問題に鑑みてなされたものであり、脆化相である金属間化合物を抑制し、高濃度塩化物環境で使用する油井管に好適な、靭性および孔食性に優れた、γ単層凝固の油井管用オーステナイト系ステンレス鋼鋳片の製造方法を提供することを目的としている。
すなわち、本発明は、
質量%で、C :0.01〜0.05%、Si:0.05〜0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P :0.05%以下、S :0.005%以下、Cr:15〜30%、Mo:1〜10%、Ni:30〜50%に加えて、さらにSnを0.05〜2%含有し、残部がFeおよび不純物からなる合金を連続鋳造して靭性および孔食性に優れた油井管製造用の素材となる鋳片を製造する方法において、
前記合金中にSnを含有させない場合の連続鋳造鋳片の横断面中心より採取した試験片を、画像解析装置で1視野あたり0.64×0.46mmの被顕面積の画像を30視野観察して得られる、当該30視野における金属間化合物の面積率の平均値I0と、Snを含有させた前記合金の連続鋳造鋳片の横断面中心より採取した試験片を、画像解析装置で1視野あたり0.64×0.46mmの被顕面積の画像を30視野観察して得られる、当該30視野における金属間化合物の面積率の平均値I との比I /I0 を求め、当該各30視野において下記式で定義される前記合金の平均Md値との関係を求めることによって、前記合金の平均Md値が0.92以下で、前記の比I /I0が0.8以下となるSn含有量とすることを最も主要な特徴としている。
平均Md値=ΣΧi・(Md)i [eV]
ここで、Χi:合金成分iの原子分率 [-]
(Md)i:合金成分iのMd値 [eV]
上記本発明方法によって鋳造された鋳片は、デンドライト組織が微細化しているので、脆化相である金属間化合物の析出が抑制されており、さらに初期凝固γ粒も従来の鋳片に比べて微細化している。
本発明では、脆化相である金属間化合物(σ相およびΧ相)の析出が抑制されており、さらに初期凝固γ粒も従来に比べて微細化しているので、従来必要であった長時間の熱処理工程を短縮できるのと共に、製管時に再加熱した場合にもオーステナイト粒の成長が抑制される。従って、靭性および孔食性に優れた性質を有する油井管用の鋳片を得ることができる。
Sn濃度と、一次デンドライトアーム間隔比d/d0、および金属間化合物の発生指標である平均Md値との関係を示す図である。 Sn濃度に対する平均Md値を示す図である。 平均Md値と金属間化合物の面積率比I/I0との関係を示す図である。
発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、連続鋳造の過程で溶鋼に界面活性元素であるSnを所定量含有させれば、Snを含有させない場合に比べ、金属間化合物の析出が抑制され、高濃度塩化物環境で使用する油井管に好適な、靭性および孔食性に優れたγ単層凝固のオーステナイト系ステンレス鋼の鋳片を得られることを知見し、本発明を完成させた。
以下、本知見について詳細に説明する。
A)金属間化合物への影響について
通常、連続鋳造鋳片の凝固組織はデンドライト形態を呈している。このデンドライトは、凝固過程における溶質元素の拡散に起因して形成され、溶質元素はその平衡分配係数に依存して、デンドライトの樹間部において濃化する。高合金鋼に含有されるCrやMoの平衡分配係数は1.0 より小さいことから樹間部において濃化し、樹間部にこれらの元素によって構成される金属間化合物(σ相、Χ相)が発生しやすいという特徴を有している。
金属間化合物は、上述した通り母相とは全く異なる結晶構造を持ち、その析出は化学量論比に大きく左右される。例えばΧ相はFe18Cr6Mo5といった複雑な構造を有している。このような構造を有する金属間化合物の析出は樹間部への溶質元素の濃化に起因するため、発明者らは後述の一方向凝固試験を実施し、凝固組織を観察することでSnを所定量添加した場合の影響を調査した。
顕微鏡およびSEM-EDX(走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;以下、SEM と略す。)と、それに付属するエネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Detector;以下、EDX と略す。))による観察の結果、発明者らは、Sn添加によりデンドライト樹間が低減し、Χ相やσ相の金属間化合物の析出が抑制されることを確認した。
前記高合金にSnを所定量添加することで、金属間化合物の析出が抑制される理由として以下の二つの効果が考えられる。
第一の点は、デンドライト樹間における溶質元素の濃化低減である。
溶質元素の濃化はデンドライト樹間に依存することが知られており、これが低減したことにより溶質元素の濃化自体が抑制され、金属間化合物の析出が抑制される。
第二の点は、金属間化合物の相安定性の変化である。
金属間化合物の析出は局所的な相安定性に大きく影響を受けることが報告されており、多元系の相安定性の指標の一つとして合金の各成分のd軌道にある電子軌道エネルギーを意味するMd値[eV]を用いて析出傾向を予測するPHACOMP(Phase Computation)法が確立されている。
合金の前記Md値は下記(1) 式の平均Md値で定義されている(森永ら、鉄と鋼、71(1985)、p.1441〜1451。以下、非特許文献1という。)。
平均Md値=ΣΧi・(Md)i [eV] …(1)
ここで、Χi:合金成分iの原子分率 [-]
(Md)i:合金成分iのMd値[eV]
合金の平均Md値は、初期組成と偏析比より求められるデンドライト樹間の組成を原子分率に換算してΧiを算出することで、金属間化合物の析出を整理可能である。
発明者らは、前記非特許文献1で、Snを所定量含有する合金鋼では、金属間化合物が析出すると報告されている臨界値を超えないことを、後述する一方向凝固試験により知見した。
これはデンドライト樹間における溶質元素の濃化バランスが変化したことを示しており、その理由としてデンドライト樹間を変化させたことにより、デンドライト軸芯からの溶質の拡散量、およびデンドライト樹間からデンドライト軸芯への逆拡散量が変化したことが推測される。
これにより最終的にデンドライト樹間の溶質元素の濃化バランスが変化し、金属間化合物の析出が抑制されたと考えられる。
B)孔食性への影響について
金属間化合物であるσ相やΧ相は、その部分の不動態皮膜が不安定化するため高濃度塩化物環境において孔食性が低下する。そのため、上記のように所定量のSnを含有させることでσ相やΧ相の生成を抑制されて孔食性が著しく向上する。さらに、Snは耐候性を向上させる元素であることから、鋼材に含有させることで、例えば採掘設備の建設時に偶発的に不動態皮膜の剥離が生じたとしても、Snイオンがインヒビター効果を発揮してアノード溶解反応速度を著しく低減することから、鋼材自体も極めて高い孔食性を有することになる。
C)結晶粒への影響について
結晶粒の成長は初期γ粒径に大きく依存することから、初期γ粒の微細化は再加熱による結晶粒粗大化を抑制する効果がある。
本発明は、前述の知見に基づいて完成されたものであり、下記のγ単相凝固の、高合金の油井管用鋳片を連続鋳造する方法である。なお、以下の説明では、鋼の成分組成については、特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
本発明において、「γ単相凝固」とは、初晶γ凝固、かつγ単相で凝固が完了し、その後変態を起こさず、ほぼ凝固組織のまま室温に至ることを意味し、デンドライト樹間にσ相やΧ相といった金属間化合物の晶出又は析出が生じる凝固を含む相変化の形態を意味する。
すなわち、本発明は、
C :0.01〜0.05%、Si:0.05〜0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P :0.05%以下、S :0.005%以下、Cr:15〜30%、Mo:1〜10%、Ni:30〜50%に加えて、さらにSnを0.05〜2%含有し、残部がFeおよび不純物からなる合金を連続鋳造して靭性および孔食性に優れた油井管製造用の素材となる鋳片を製造する方法において、
前記合金中にSnを含有させない場合の連続鋳造鋳片の横断面中心より採取した試験片を、画像解析装置で1視野あたり0.64×0.46mmの被顕面積の画像を30視野観察して得られる、当該30視野における金属間化合物の面積率の平均値I0と、Snを含有させた前記合金の連続鋳造鋳片の横断面中心より採取した試験片を、画像解析装置で1視野あたり0.64×0.46mmの被顕面積の画像を30視野観察して得られる、当該30視野における金属間化合物の面積率の平均値I との比I /I0 を求め、当該各30視野において下記式で定義される前記合金の平均Md値との関係を求めることによって、前記合金の平均Md値が0.92以下で、前記の比I /I0が0.8以下となるSn含有量とするものである。
本発明における高合金の成分組成及びその限定理由を以下に説明する。
C :0.01〜0.05%
C は炭化物を形成して高Cr、高Ni合金として必要な高温引張強さ、高温クリープ強度を確保する上で必要な成分であり、0.01%以上含有させることが必要である。しかしながら、その含有量が0.05%を超えると、Crの炭化物が増えて高Cr、高Ni合金の靭性に悪い影響を及ぼすおそれがあるので、上限を0.05%とした。
Si:0.05〜0.5 %以下
Siは製錬時の溶鋼の脱酸に必要な元素であり、最低でも0.05%含有させることが必要である。しかしながら、含有量が過剰になると当該合金の加工性が低下するので、上限を0.5 %とした。
Mn:0.1 〜1.5 %
Mnは、Siと同様に、溶鋼の脱酸に必要な元素である。脱酸効果を得るためには0.1 %以上の含有量が必要である。しかしながら、Mn含有量が1.5 %を超えると、熱間加工性が悪くなる。従って、本発明では、Mn含有量を0.1 〜1.5 %とした。より好ましい範囲は0.5 〜1.0 %である。
P :0.05%以下
P は不純物として不可避的に混入する。過剰なP は加工性を害するので、本発明では、上限を0.05%とした。望ましい上限は0.025 %である。
S :0.005%以下
S もP と同様に不純物として不可避的に混入する。過剰なS は加工性を害するので、本発明では、上限を0.005 %とした。望ましい上限は0.001 %である。
Cr:15〜30%
Crは、Niとの共存下において、耐応力腐食割れ性に代表される耐硫化水素腐食性を向上させるのに有効な元素である。しかしながら、その含有量が15%未満では、その効果が得られない。一方、その含有量が30%を超えると、上記の効果は飽和し、熱間加工性の観点からも好ましくない。そこで、本発明では、Cr含有量の適正範囲を15〜30%とした。
Mo:1 〜10%
Moは耐孔食性を改善する作用を有する元素である。しかしながら、その含有量が1 %未満では、その効果が得られない。一方、10%を超えるMoを含有させてもその効果は飽和するため、本発明では、上限を10%とした。
Ni:30〜50%
Niは、耐硫化水素腐食性を向上させる作用を有する元素である。しかしながら、その含有量が30%未満では、合金の外表面にNi硫化物皮膜が十分に生成されないため、Niを含有する効果が得られない。一方、50%を超えるNiを含有させてもその効果は飽和するため、合金コストに見合った効果が得られずに経済性を損なう。そこで、本発明では、Ni含有量の適正範囲を30〜50%とした。
Sn:0.05〜2 %
Snは、本発明において重要な役割を果たす。当該合金がSnを含有することによって、鋳片の凝固組織が微細化し、ミクロ偏析を生じやすい当該合金においても鋳片の組織が均一となり、所望のσ相発生の抑制、結晶粒微細化、および耐孔食性向上効果が得られる。当該効果を得るためには0.05%以上のSn含有量が必要である。しかしながら、Sn含有量が2 %を超えると、鋳片の熱間加工での脆化が問題となるため、Sn含有量は2 %以下とするのが望ましい。
ところで、Snは低融点金属として知られているが、純Snの融点は232 ℃、沸点は2602℃であり、溶鋼の出鋼温度よりも高いことから、純Snとしてタンディッシュ内に塊状、または粒状で投入することが可能である。しかしながら、溶鋼中のSn濃度のばらつきを低減させる目的で下記の一方向凝固試験の際はSnNiワイヤーを75%Sn-25%Niとして製造し、鋳造時にタンディッシュ内の溶鋼に挿入することで添加した。
発明者らは、上記方法で連続鋳造の過程で溶鋼にSnを添加し、鋼塊に所定量のSnを含有させることにより、デンドライト組織が微細化し、脆化相である金属間化合物の析出を低減可能であることを、以下の一方向凝固試験により見出した。
(一方向凝固試験の試験条件)
直径が15mm、高さが50mmの円柱形で、Sn含有量が0 %、0.07%、0.15%、0.34%、および0.76%である鋳塊と、Snを含有しない鋳塊について一方向凝固試験を行った。冷却は円柱の底面からのみ行い、冷却速度は丸ビレット連続鋳造の冷却速度に合わせて 5〜15℃/min とした。
得られた鋳塊は、下記条件によりエッチングを実施し、凝固組織の観察を行った。観察の際は、円柱の軸中心を通る縦断面において軸方向にほぼ平行に延びる約10本の一次デンドライトアーム間隔を測定し、算術平均した値を各鋳塊の一次デンドライトアーム間隔とした。
さらにエッチング後の試料の上記縦断面の表面よりデンドライト樹間部を10箇所無作為に選定し、SEM-EDAXにより原子数分率を測定して平均Md値を算出した。本発明で対象とするγ単相であるオーステナイト系ステンレス鋼における金属間化合物の析出臨界値として公知であるのはσ相のみであったため、本発明ではσ相について評価を行った。
(エッチング条件)
エッチング液:10体積%シュウ酸水溶液
エッチング方法:電解エッチング
エッチング液の温度:室温
エッチング時間:60〜180秒
図1はSn濃度と一次デンドライトアーム間隔比、および金属間化合物の発生指標である平均Md値との関係を示す図である。図1では縦軸のうち主軸、一次デンドライトアーム間隔d を、Snを含有しない鋳塊の一次デンドライトアーム間隔d0に対する比d /d0 示し、第2軸に平均Md値を示した。また、図1においては、一次デンドライトアーム間隔比を黒丸で示し、平均Md値を白丸で示した。
図1から、Sn濃度が高いほど高合金の一次デンドライトアーム間隔比が小さくなり、デンドライト組織が微細となることが分かる。これは、Snが高合金の固液界面エネルギーを下げる効果を有する元素であり、所定濃度含有させることにより一次デンドライトアーム間隔の微細化に効果を示すことによるものと考えられる。
さらに、図1よりSnを含有しない試料では、金属間化合物の発生臨界値として報告されている平均Md値の0.92を超えるのに対し、Snを所定濃度含有させた試料の平均Md値は0.92未満であり、Snの添加は金属間化合物の析出抑制に効果があるといえる。
図1において、平均Md値とSn濃度の間には線形関係が認められ、平均Md値とSn濃度の関係を求めると、下記 (2)式を得た。
平均Md値=[Sn%]×(-0.1768)+0.9335 …(2)
これを後述の連続鋳造試験に利用した。
本発明の油井管用鋳片の連続鋳造方法の効果を確認するため、下記鋳造条件によりγ単相凝固の高合金鋼の連続鋳造試験を実施して、その結果を評価した。
(鋳造条件)
鋳造速度:0.5 m/分
鋳型の内径:φ360mm
添加したSn合金:NiSn(75%Sn−Niの外径がφ10mmのワイヤーを使用)
Sn合金の添加位置:タンディッシュ内
下記表1に、本発明で規定する条件で連続鋳造した実施例1〜5と、本発明で規定する条件を外れた比較例1の鋼の成分組成を示した。また、下記表2に連続鋳造後の鋳片中のSn濃度、デンドライトアーム間隔比、金属間化合物の面積率比、前記(2) 式を用いて求めた平均Md値を示す。さらに、鋳片の横断面中心部近傍より外径が8 mmの引張試験片を採取し、1300℃で引張試験を行った結果(絞り値)、および腐食指数を併せて示す。
Figure 0006299349
Figure 0006299349
表2におけるデンドライトアーム間隔比d/d0は、鋳片の横断面中心から外径表層側に50mmの位置を鋳込み方向に垂直な面より採取した試験片を用いて、以下のようにして求めた。まず、前記試験片に上述のエッチングを行った後、一次デンドライトアーム間隔を測定する。そして、測定値を用いて算術平均した値を鋳片の一次デンドライトアーム間隔d とし、Snを添加しない鋼(比較例1)の一次デンドライトアーム間隔d0との比d/d0(低減率)を算出する。
また、金属間化合物の観察は以下のようにして行った。
まず、鋳片の横断面中心位置を鋳込み方向に垂直な面より採取した試験片を鏡面まで再研磨した後、金属間化合物を着色する目的で村上試薬(10%KOH+10%K3[Fe(CN)6]+残部H2O)によりエッチングを施した。その後、鋳片断面の金属組織観察を実施し、Snを添加しない鋼(比較例1)の金属間化合物(Χ相およびσ相)の面積率I0を基準とし、Snを添加した時の金属間化合物(Χ相およびσ相)の面積率I の比を取った金属間化合物の発生指数を面積率比I/I0(低減率)として評価した。この際、画像解析装置で1視野あたり0.64×0.46mmの被顕面積の画像を30視野観察し、金属間化合物(Χ相およびσ相)の平均面積率を各試験条件の代表面積率とした。
また、熱間絞り試験では、製管温度である1300℃の引張試験において、試験前の外径と試験後の破断面の径から絞り値を算出し、Snを添加しない鋼(比較例1)の絞り値Ra0を基準とし、Snを添加した鋼の絞り値Raの比Ra/Ra0(変化率)として評価した。
また、耐孔食性の評価は、JIS G0578に規定されているステンレス鋼の塩化第二鉄腐食試験方法に準拠し、50℃の6体積%FeCl2+0.05NHCl水溶液中に48時間浸漬し、試験前後の重量の減少量から腐食度を求めた。この際、Snを添加しない鋼(比較例1)の重量減少量P0を基準とし、Snを添加した鋼の重量減少量Pの比P/P0(変化率)を腐食指数として評価した。
また、鋳片中のSn濃度は、連続鋳造試験で得た鋳片より作成した切粉よりガス分析を実施し、鋳片に含有されるSn濃度を調査した結果得られた値である。
また、平均Md値は、上記(2)式で連続鋳造試験のSn濃度に対するMd値を求めた値である。
表2より、本発明の実施例1〜5では、比較例1に比べて、デンドライトアーム間隔、金属間化合物であるσ相の面積率の低減が確認でき、熱間絞り試験の値からも加工性改善効果が得られた。さらに、塩化第二鉄腐食試験より耐孔食性向上効果も確認できた。
さらに、表2の平均Md値と金属間化合物の面積率比I/I0との関係をプロットした結果を図3に示す。
図3に示すように、金属間化合物の発生臨界値として報告されている平均Md値が0.92の場合、金属間化合物の面積率比I/I0が0.76となって、それなりの金属間化合物の低減効果あった。
さらに、発明者らは、金属間化合物の面積率比I/I0が0.30以下、すなわち、金属間化合物を比較例の1/3以下に大幅に低減でき、かつ、35%以上の腐食性改善効果を示す値として、平均Md値を0.72以下とするような1.2%以上のSn添加量が望ましいことを見出した(図2参照)。但し、前述したように、Sn添加量の上限は鋳片の熱間加工での脆化の問題で2%が望ましい。

Claims (2)

  1. 質量%で、C :0.01〜0.05%、Si:0.05〜0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P :0.05%以下、S :0.005%以下、Cr:15〜30%、Mo:1〜10%、Ni:30〜50%に加えて、さらにSnを0.05〜2%含有し、残部がFeおよび不純物からなる合金を連続鋳造して靭性および孔食性に優れた油井管製造用の素材となる鋳片を製造する方法において、
    前記合金中にSnを含有させない場合の連続鋳造鋳片の横断面中心より採取した試験片を、画像解析装置で1視野あたり0.64×0.46mmの被顕面積の画像を30視野観察して得られる、当該30視野における金属間化合物の面積率の平均値I0と、Snを含有させた前記合金の連続鋳造鋳片の横断面中心より採取した試験片を、画像解析装置で1視野あたり0.64×0.46mmの被顕面積の画像を30視野観察して得られる、当該30視野における金属間化合物の面積率の平均値I との比I /I0 を求め、当該各30視野において下記式で定義される前記合金の平均Md値との関係を求めることによって、前記合金の平均Md値が0.92以下で、前記の比I /I0が0.8以下となるSn含有量とすることを特徴とする油井管用鋳片の連続鋳造方法。
    平均Md値=ΣΧi・(Md)i [eV]
    ここで、Χi:合金成分iの原子分率 [-]
    (Md)i:合金成分iのMd値 [eV]
  2. 前記Snを1.2質量%以上含有させる場合、
    前記合金の平均Md値が0.72以下で、前記の比I /I0が0.30以下となるSn濃度とすることを特徴とする請求項1に記載の油井管用鋳片の連続鋳造方法。
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