本発明はクライオポンプに係り、特に再生効率の向上を図りうるクライオポンプに関する。
例えば、半導体製造設備においては高真空を実現する必要があり、この高真空を実現しうる真空ポンプとしてクライオポンプが多用されている。このクライオポンプは、真空生成の原理上冷凍機が必要となる。このクライオポンプに用いられる冷凍機としては、ギフォード・マクマホンサイクル型冷凍機(以下GM型冷凍機という)が知られている。そして、GM型冷凍機と真空容器内に配設されたクライオパネル及びシールドを熱的に接続しておき、冷却過程において真空容器内の気体(例えば、アルゴンガス等)をクライオパネル等に凝固又は吸着させることにより高真空を実現する。
このようなクライオポンプは、その構造上、再生が必要となる。この再生とは、クライオパネル等に冷却過程で凝固又は吸着された分子に熱を加え、昇温させることにより当該分子を液化及び気化させてポンプ容器の外に放出する処理をいう。
クライオポンプの再生時には、クライオパネル及びシールドがヒータ等の昇温装置により昇温され、また窒素ガス等のパージガスが真空容器内に導入される。これにより、クライオパネル及びシールドに凝固された分子は液化して自然落下し、シールドの内部に液体が溜まった状態となる。この状態で全ての液体を気化して排出しようとした場合、シールドは内部に残留する液体により冷却されるため、この残留液体が気化するのに長時間を要し、よって再生効率が低下してしまうという問題点がある。
そこで、特許文献1に開示されているように、シールドに孔部を形成し、この孔部を介して液体分子を真空容器内に流入する構成としたクライオポンプが提案されている。この構成のクライオポンプでは、常温である真空容器の熱を液体分子の気化に利用することが可能となり、シールドに孔を形成しないクライオポンプに比べて再生効率の向上を図ることができる。
特開平05−033766号公報
しかしながら、クライオポンプが接続される半導体製造設備によっては、クライオポンプは真空生成時において、アルゴン等のガスと共に水分子が凝固する場合がある。このように水以外の分子と共に水分子が凝固されたクライオポンプに対して再生処理を行った場合、シールドには先ず上記した水以外の液体が溜まり、その後に水が溜まることとなる。そして、この水以外の液体及び水は、シールドに形成された孔を通り真空容器内に流入する。
アルゴン等のガスは一般に沸点が低く(アルゴンの沸点:−185.9℃)、水の沸点(99.974℃)と大きく相違している。このため、液化したアルゴン分子等が真空容器から気化して真空容器から除去されたとしても、水は真空容器内に残留する。
一般にクライオポンプの真空容器には、ヒータ等の加熱手段は設けられておらず、よって真空容器の温度は室温までしか上がらない。しかしながら、沸点の低いアルゴン等は、室温程度の温度でもすべて気化して短時間で真空容器内から除去することができる。
これに対して沸点が室温よりも高い水が真空容器内に残留した場合には、これが気化してクライオポンプから除去されるには長い時間を要し、この影響により結局は再生に長い時間を必要とし、再生効率が低下してしまうという問題点があった。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、真空生成時に水以外の分子と共に水分子が凝固するものであっても再生時間の短縮を図りうるクライオポンプを提供することを目的とする。
本発明の一局面のクライオポンプは、シリンダ内でディスプレーサが往復動することにより膨張室で寒冷を発生させる冷凍機と、真空容器と、前記真空容器内に収容され、前記膨張室で発生した寒冷により冷却されるクライオパネルと、前記真空容器内に収容されて前記膨張室で発生した寒冷により冷却されるとともに、前記クライオパネルを当該真空容器の輻射熱から保護するカップ形状のシールドと、前記シールドの前記カップ形状の上部開口部に配設されるルーバと、再生時に前記クライオパネル及びシールドを昇温する昇温装置とを含み、前記クライオパネル及び前記シールドに前記真空容器内の分子を凝固又は吸着させるクライオポンプにおいて、前記シールドは、前記カップ形状の底部又は側部に形成される孔部と、前記孔部の位置により前記カップ形状の底部に規定される貯留容量であって、再生時に前記ルーバ、前記シールド、又は前記クライオパネルから脱離して液化される水分子を貯留可能な貯留容量を有する水溜部とを備える。
また、前記孔部には、前記シールドの内側に向け突出し、当該孔部を囲繞する堰堤部が形成されてもよい。
また、前記シールドの底面は傾斜しており、かつ、前記孔部は当該傾斜した底面に形成されており、前記水溜部は、当該傾斜面における前記孔部よりも低い領域に形成されてもよい。
また、前記昇温装置は、前記ディスプレーサを正方向回転及び逆方向回転を行いうる可逆モータを含み、該可逆モータを逆転方向に回転させ、冷凍サイクルを反転させることにより前記シールドを昇温させてもよい。
本発明によれば、液化した水以外の分子を真空容器に流出するための流出孔をシールドに設けたことにより、液化した水以外の分子は常温である真空容器の熱を利用して気化し排出されるため、短時間で効率よくクライオポンプから排出を行うことができる。
また、液化した状態の水分子は、シールドに設けた水溜部により流出孔から真空容器に流出するのが防止され、この水溜部(シールド)に残留する。シールドは昇温装置により常温以上に昇温することが可能であり、よってシールドに形成された水溜部に水が残留したとしても、これを短時間で気化してクライオポンプから排出することができる。よって、液化した水以外の分子及び水分子のいずれであっても、クライオポンプから短時間で排出することができ、再生時間の短縮を図ることができる。
実施の形態のクライオポンプの構成図である。
実施の形態のクライオポンプの構成図であり、シールドやクライオパネルに固体状ガスが凝固又は吸着した状態を示す図である。
実施の形態のクライオポンプの構成図であり、再生処理を説明するための図である(その1)。
実施の形態のクライオポンプの構成図であり、再生処理を説明するための図である(その2)。
排出時間特性を従来と比較して示す図である。
実施の形態の変形例のクライオポンプの構成図である。
実施の形態の変形例のクライオポンプの構成図である。
実施の形態の変形例のクライオポンプの構成図である。
符号の説明
1、30 クライオポンプ
3 圧縮機
4 真空容器
5 冷凍機
7 第1段冷凍ステージ
8 第2段冷凍ステージ
9 シールド
10 クライオパネル
11 活性炭
12 ルーバ
13 粗引きポンプ
14 第1段シリンダ
14A 第1段ディスプレーサ
15 第2段シリンダ
15A 第2段ディスプレーサ
16 可逆モータ
17 パージ配管
18 流出孔
19 堰堤部
20、32 水溜部
21 捕捉分子
21A 水分子(凝固状態)
22 液体分子
23 水分子
31 傾斜面
以下、本発明のクライオポンプを適用した実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態のクライオポンプを示す。クライオポンプ1は、図示しない処理チャンバ(例えば、半導体製造装置の処理チャンバ)に取り付けられ、この処理チャンバ内を真空とするものである。このクライオポンプ1は、大略すると圧縮機3、真空容器4、冷凍機5、シールド9、クライオパネル10等により構成されている。また、再生時におけるシールド9及びクライオパネル10の昇温は、冷凍機5の冷却サイクルを反転させることにより行う、いわゆる逆転昇温を用いている。
圧縮機3は、ヘリウムガス等の冷媒ガスを昇圧して冷凍機5に送り、また冷凍機5で断熱膨張した冷媒ガスを回収して再び昇圧する機能を奏する。真空容器4は、前記した処理チャンバに取り付けられるものであり、この内部に冷凍機5のシリンダ14、15、シールド9、及びクライオパネル10等が配設される。
真空容器4には粗引き配管13A及びパージ配管17が接続されている。粗引き配管13Aは粗引きポンプ13(真空ポンプ)に接続されており、真空処理開始時において真空容器4内のガスを粗引きする。また、パージ配管17は、例えば窒素ガス供給手段に接続されており、後述する再生時において真空容器4内にパージガス(窒素ガス)を供給する。尚、真空容器4と処理チャンバとの間には図示しないゲートバルブが配設されており、ゲートバルブを閉じることにより真空容器4は処理チャンバに対して気密に隔離された状態となる。
冷凍機5はGM型冷凍機であり、第1段シリンダ14、第2段シリンダ15、及び可逆モータ16等により構成されている。第1段シリンダ14の内部には第1段ディスプレーサ14Aが図中左右方向に往復動可能に配設されており、また第2段シリンダ15には第2段ディスプレーサ15Aが図中左右方向に往復動可能に配設されている。この第1段ディスプレーサ14Aと第2段ディスプレーサ15Aは連結されており、可逆モータ16を駆動源として上記のように各シリンダ14、15内で往復動を行う。
第1段シリンダ14と第1段ディスプレーサ14Aとの間には第1段膨張室が形成され、また第2段シリンダ15と第2段ディスプレーサ15Aとの間には第2段膨張室が形成される。この第1及び第2段膨張室は、各ディスプレーサ14A、15Aの往復動によりその体積が変化する構成となっている。
可逆モータ16は、正方向回転及び逆方向回転が可能なモータである。この可逆モータ16は図示しないコントローラ17に接続され、このコントローラ17の指示に従い真空処理時には正方向回転を行い、再生時において逆方向回転を行う。
第1段シリンダ14の外周には、第1段冷凍ステージ7が配設されている。また、この第1段冷凍ステージ7にはシールド9が配設されている。
このシールド9は、真空容器4の輻射熱からクライオパネル10を保護するための部材であり、上部が開口されたカップ形状の部材である。また、シールド9の上部開口部にはルーバ12が配設される。このルーバ12は、真空容器4の上部開口に近接して配設される。
シールド9の底面には、流出孔18(孔部)が形成されている。本実施の形態では、シールド9の底面は水平面とされており、流出孔18はその中央位置に形成されている。また、この流出孔18は、シールド9の内部に向けて(図中上方に向けて)突出した堰堤部19を有する。
堰堤部19は、流出孔18を囲繞するように形成される。この堰堤部19は、例えばシールド9の底面をプレス打ち抜き加工することにより、流出孔18と共に同時形成することが可能である。また、流出孔18の開口部に、筒状の部材を溶接等により接合して形成することも可能である。
このように、シールド9の底面に流出孔18を囲繞するように堰堤部19を形成することにより、シールド9の底部には水溜部20が形成される。このように、水溜部20が形成されることにより、後述する昇温工程の初期段階においてシールド9の底部に液化した水以外の分子が滴下しても、直ちにこれが流出孔18から真空容器4内に流出することはなく、一旦シールド9の底部に溜まる。そして、液化した水以外の分子の液面がこの堰堤部19の高さを超えた時点で、液化した水以外の分子は流出孔18を介して真空容器4内に流出する。また、液化した水以外の分子を排出した後、昇温工程の後期段階において生じる水(液化した水分子)がシールド9の底部に滴下するが、この水は水溜部20に溜まり、真空容器4に流出しないように構成されている。尚、水溜部20の詳細な機能については、説明の便宜上、後述する。
また、第2段シリンダ15の外周には、第2段冷凍ステージ8が配設されている。この第2段冷凍ステージ8には、クライオパネル10が配設されている。このクライオパネル10は、その内周面に活性炭11が配設されている。
上記構成とされたクライオポンプ1において真空処理を行う場合には、先ず粗引きポンプ13を駆動して処理チャンバ及び真空容器4内のガスを粗引きし、例えば10-2Torr程度まで減圧処理を行う。この粗引き処理が終了すると、粗引きポンプ13を停止させた上で、可逆モータ16を正方向に回転させる。
これにより冷凍機5は冷却モードとなり、圧縮機3から第1段膨張室及び第2段膨張室に供給された冷媒ガスは、各ディスプレーサ14A、15Aの移動に伴い断熱膨張し寒冷を発生させる。これにより、第1段冷凍ステージ7は例えば30〜100Kに冷却され、この結果、シールド9及びルーバ12は、30〜100Kに冷却される。また、第2段冷凍ステージ8は、例えば4〜20Kに冷却される。この結果、クライオパネル10は、4〜20Kに冷却される。
処理チャンバ内の気体は、上部開口より真空容器4内に進入し、水分子は主にシールド9(中でも特にルーバ12)で凝固され、水分子以外のアルゴンや窒素は主にクライオパネル10で凝固され、更に水素、ネオン、ヘリウム等は主に活性炭11に吸着される。これにより、処理チャンバは排気されて高真空を実現できる。
ところで、上記のように処理チャンバ内から排気される水分子以外の気体分子は、シールド9、クライオパネル10、活性炭11等に凝固又は吸着される。また、水分子もシールド9及びクライオパネル10に凝固した状態となる。尚、以下の説明において、シールド9及びクライオパネル10に凝固又は吸着された水分子以外の気体分子と、凝固した水分子とをまとめて捕捉分子21と称す。
図2は、捕捉分子21がシールド9及びクライオパネル10に凝固又は吸着された状態を示す。このシールド9及びクライオパネル10に凝固又は吸着された捕捉分子21の量が増えてくると、クライオポンプ1の排気性能が低下する。このため、クライオポンプ1に凝固又は吸着された捕捉分子21を排出する再生処理が必要となることは前述した通りである。
次に、クライオポンプ1の再生処理について説明する。
再生処理が開始されると、先ずゲートバルブを閉じて真空容器4と処理チャンバとを気密に隔離した状態とする。続いて、パージ配管17から真空容器4内にパージガスを導入すると共に図示しないドレイン弁を開弁し、更に可逆モータ16を逆方向回転させる。
パージガスは常温のガスであるため、このパージガスの熱により捕捉分子21は昇温されて液化する。また、可逆モータ16が逆方向回転を行うことにより、冷凍機5の冷却サイクルは反転し、第1及び第2段膨張室で冷媒ガスは断熱圧縮されて断熱圧縮熱を発生する(以下、この昇温を逆転昇温という)。この断熱圧縮熱は各シリンダ14、15及び冷凍ステージ7、8を介してシールド9及びクライオパネル10を昇温し、これによっても捕捉分子21は昇温されて液化する。
上記のようにパージガス及びシールド9及びクライオパネル10の昇温により、捕捉分子21に含まれる分子のうち、水よりも沸点の低い分子(アルゴン、窒素、水素、ネオン、ヘリウム等)が先ず液化し、液体分子22が発生する。以下、液体分子22とは、水分子以外のアルゴン、窒素、水素、ネオン、ヘリウム等が液化した分子を称す。
この液体分子22は、カップ形状のシールド9の底部に重力により落下する。前述したように、シールド9には堰堤部19が設けられることにより水溜部20が形成されているため、落下した液体分子22は直ちに流出孔18から真空容器4に流出することはなく、一旦水溜部20内に溜められる。
再生処理が進み液体分子22の発生量が増大すると、液体分子22は水溜部20から溢れ出し、流出孔18を介して真空容器4内に流入する。図3は、略全ての液体分子22が真空容器4に流出した状態を示す。この状態では、沸点の低い水は、ルーバ12等に凝固したままの状態となっている(この状態の水分子を図3に符号21Aで示す)。尚、前述のようにシールド9は冷凍機5により逆転昇温により昇温されており、かつ水溜部20に溜められた液体分子22は少ないため、図3ではシールド9に溜められた液体分子22が既に気化した状態を示す。
真空容器4に流入した液体分子22は、水分子以外のアルゴン、窒素等の分子であるため、常温に保持される真空容器4の熱で容易に気化する。よって、シールド9に流出孔18を形成し、液体分子22をシールド9から真空容器4に流出可能に構成することにより、液体分子22を短時間でクライオポンプ1から排出することができ、再生効率の向上を図ることができる。
液体分子22のクライオポンプ1からの排出が終了後、更にパージガスの導入及び冷凍機5の逆転昇温を続けると、凝固していた水分子(図3中の符号21)が液化し、発生した水分子23がシールド9の底部に落下するようになる(図4参照)。
1回の再生処理における水分子23の発生量は、液体分子22の発生量に比べると少なく、またこの1回の再生処理で発生する水分子23の量は経験的に知ることができる。本実施の形態では、水溜部20の容積を、この1回の再生処理において発生する水分子23の量に基づき設定している。即ち、水溜部20の容積は、1回の再生処理において発生する水分子23の量と略等しい容積に設定されている。
ここで、水溜部20の容積は、シールド9の底面の形状と堰堤部19の位置及び高さによって決まる。例えば、図1乃至4に示すように、底面が平面のカップ形状のシールド9において、堰堤部19が底面の中心に配設される場合は、堰堤部19の高さは、約3〜12mmであることが好ましい。
シールド9は、真空容器4の輻射熱からクライオパネル10を保護するために設けられている。このため、真空容器4の口径が大きくても、流出孔18の口径は、ある一定の値に設定されることが好ましい。
クライオポンプは、使用される環境により、内部に貯蔵される水分子の量を概算することができる。水溜部20の容量は、このようにクライオポンプ内に貯蔵可能な水分子の量に合わせて設定すればよく、そのために必要な堰堤部19の高さは、約3〜12mmであることが好ましい。
このように堰堤部19の高さと水溜部20の容量とが設定されることにより、水溜部20に溜められた水分子23は、流出孔18を介して真空容器4に流出しないようにすることができる。
上記のように水溜部20に溜められた水分子23は、沸点が液体分子22に比べて高いものの、シールド9は逆転昇温により常温以上に昇温される(真空容器4よりも高い温度に昇温されている)。よって、液体分子22に比べて高い沸点を有する水分子23であっても、シールド9の水溜部20において短時間で気化させ、クライオポンプ1から排出することができる。
よって、本実施の形態のクライオポンプ1によれば、真空容器4に流入した液体分子22と、水溜部20に残留した水分子23のいずれについても短時間で気化し排出することができ、よってクライオポンプ1の再生時間の短縮を図ることができる。
図5は、本実施の形態のクライオポンプ1における水分子23の排出時間を従来のクライオポンプで要する排出時間と比較して示す図である。同図では、横軸に時間を取り、縦軸に温度を取っている。また、同図において矢印TA1で示すのは、本実施の形態のクライオポンプ1における第1段冷凍ステージ7の温度変化であり、矢印TA2で示すのは本実施の形態のクライオポンプ1における第2段冷凍ステージ8の温度変化である。
また、比較例として掲げたのは、堰堤部19(水溜部20)が設けられていないクライオポンプの温度特性である。この比較例のクライオポンプは、堰堤部19(水溜部20)が設けられていない以外は、クライオポンプ1と略等しい構成とされている。図中、矢印TB1で示すのは、比較例に係るクライオポンプ1における第1段冷凍ステージの温度変化であり、矢印TB2で示すのは比較例に係るクライオポンプにおける第2段冷凍ステージの温度変化である。
そして、本実施の形態のクライオポンプ1では水溜部20に20グラムの水を入れた状態で逆転昇温処理を行い、比較例に係るクライオポンプでは真空容器内に20グラムの水を入れた状態で逆転昇温処理を行い、それぞれの温度TA1、TA2、TB12、TB2を測定した。この実験結果が、図4に示される温度特性である。
ここで排出時間とは、第1段冷凍ステージが目標温度T1となると共に第2段冷凍ステージが目標温度T2となった時刻t1から、水が全て排出されることにより真空容器の内部圧力が所定圧力以下となった時刻(即ち、クールダウンを開始する時刻。実施の形態ではt2、比較例ではt3)までの時間をいう。
この実験の結果、本実施の形態のクライオポンプ1では水を排気するのに54分であったのに対し、比較例のクライオポンプでは77分も必要であった。これにより、本実施の形態のクライオポンプ1によれば、従来構成のクライオポンプに比べて再生時間を大幅に短縮することができることが実証された。
尚、実際の再生時においては、水分子23ばかりでなく液体分子22の排出処理が行われるが、沸点の低い液体分子22の排出は、液体分子22に比べて沸点の高い水分子23の排出よりも早く終了し、よって再生時間は水分子23の排出時間に依存することとなる。このため、本実験結果は、水分子23と共に液体分子22を排出する実際の再生処理を反映しているといえる。
図6は、図1乃至図4に示したクライオポンプ1の変形例であるクライオポンプ30を示す。図1乃至図4に示したクライオポンプ1では、水分子23が真空容器4に流出孔18を介して流出するのを防止するために堰堤部19を設け、これによりシールド9の底部に水溜部20を形成する構成としていた。
これに対して本変形例に係るクライオポンプ30では、シールド9の底部を傾斜面31とし、この傾斜面31の傾斜方向の上方位置に流出孔18を形成したものである。このような構成とすることによっても、図6に示すように、シールド9の底部に水分子23を残留させる水溜部32を形成することができ、図1乃至図4に示したクライオポンプ1と同様の作用効果を奏するクライオポンプを実現することができる。
また、図7に示すように、流出孔18は、シールド9の側面において、水溜部20の容量を所定容量に設定可能な高さに形成されていてもよい。この場合、堰堤部は必ずしも必要ない。
また、以上では、冷凍機5が真空容器4の側方から挿入される横型クライオポンプの形態について説明したが、図8に示すように、冷凍機5真空容器4の下側から挿入される縦型のクライオポンプにおいても流出孔18及び堰堤部19を形成することができる。縦型のクライオポンプでは、真空容器4及びシールド9の底部中央から鉛直上向きに冷凍機5が挿入されるため、シールド9の底部の中央からオフセットした位置に流出孔18及び堰堤部19を形成すればよい。なお、シールド9の底面が径方向外側から中心に向かって深くなっている場合は、その底面の形状に応じて、所望の水溜部20の容量が確保されるように、堰堤部19の高さを設定すればよい。
また、以上の説明では、昇温装置として可逆モータ16を備える形態について説明したが、可逆モータ16に加えて、又は、これに代えて、昇温を行うためのヒータを備えてもよい。
以上、本発明の例示的な実施の形態のクライオポンプについて説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
本発明はクライオポンプに係り、特に再生効率の向上を図りうるクライオポンプに関する。
例えば、半導体製造設備においては高真空を実現する必要があり、この高真空を実現しうる真空ポンプとしてクライオポンプが多用されている。このクライオポンプは、真空生成の原理上冷凍機が必要となる。このクライオポンプに用いられる冷凍機としては、ギフォード・マクマホンサイクル型冷凍機(以下GM型冷凍機という)が知られている。そして、GM型冷凍機と真空容器内に配設されたクライオパネル及びシールドを熱的に接続しておき、冷却過程において真空容器内の気体(例えば、アルゴンガス等)をクライオパネル等に凝固又は吸着させることにより高真空を実現する。
このようなクライオポンプは、その構造上、再生が必要となる。この再生とは、クライオパネル等に冷却過程で凝固又は吸着された分子に熱を加え、昇温させることにより当該分子を液化及び気化させてポンプ容器の外に放出する処理をいう。
クライオポンプの再生時には、クライオパネル及びシールドがヒータ等の昇温装置により昇温され、また窒素ガス等のパージガスが真空容器内に導入される。これにより、クライオパネル及びシールドに凝固された分子は液化して自然落下し、シールドの内部に液体が溜まった状態となる。この状態で全ての液体を気化して排出しようとした場合、シールドは内部に残留する液体により冷却されるため、この残留液体が気化するのに長時間を要し、よって再生効率が低下してしまうという問題点がある。
そこで、特許文献1に開示されているように、シールドに孔部を形成し、この孔部を介して液体分子を真空容器内に流入する構成としたクライオポンプが提案されている。この構成のクライオポンプでは、常温である真空容器の熱を液体分子の気化に利用することが可能となり、シールドに孔を形成しないクライオポンプに比べて再生効率の向上を図ることができる。
特開平05−033766号公報
しかしながら、クライオポンプが接続される半導体製造設備によっては、クライオポンプは真空生成時において、アルゴン等のガスと共に水分子が凝固する場合がある。このように水以外の分子と共に水分子が凝固されたクライオポンプに対して再生処理を行った場合、シールドには先ず上記した水以外の液体が溜まり、その後に水が溜まることとなる。そして、この水以外の液体及び水は、シールドに形成された孔を通り真空容器内に流入する。
アルゴン等のガスは一般に沸点が低く(アルゴンの沸点:−185.9℃)、水の沸点(99.974℃)と大きく相違している。このため、液化したアルゴン分子等が真空容器から気化して真空容器から除去されたとしても、水は真空容器内に残留する。
一般にクライオポンプの真空容器には、ヒータ等の加熱手段は設けられておらず、よって真空容器の温度は室温までしか上がらない。しかしながら、沸点の低いアルゴン等は、室温程度の温度でもすべて気化して短時間で真空容器内から除去することができる。
これに対して沸点が室温よりも高い水が真空容器内に残留した場合には、これが気化してクライオポンプから除去されるには長い時間を要し、この影響により結局は再生に長い時間を必要とし、再生効率が低下してしまうという問題点があった。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、真空生成時に水以外の分子と共に水分子が凝固するものであっても再生時間の短縮を図りうるクライオポンプを提供することを目的とする。
本発明の一局面のクライオポンプは、シリンダ内でディスプレーサが往復動することにより膨張室で寒冷を発生させる冷凍機と、真空容器と、前記真空容器内に収容され、前記膨張室で発生した寒冷により冷却されるクライオパネルと、前記真空容器内に収容されて前記膨張室で発生した寒冷により冷却されるとともに、前記クライオパネルを当該真空容器の輻射熱から保護するカップ形状のシールドと、前記シールドの前記カップ形状の上部開口部に配設されるルーバと、再生時に前記クライオパネル及びシールドを昇温する昇温装置とを含み、前記クライオパネル及び前記シールドに前記真空容器内の分子を凝固又は吸着させるクライオポンプにおいて、前記シールドは、前記カップ形状の底部又は側部に形成される孔部と、前記孔部の位置により前記カップ形状の底部に規定される貯留容量であって、再生時に前記ルーバ、前記シールド、又は前記クライオパネルから脱離して液化される水分子を貯留可能な貯留容量を有する水溜部とを備える。
また、前記孔部には、前記シールドの内側に向け突出し、当該孔部を囲繞する堰堤部が形成されてもよい。
また、前記シールドの底面は傾斜しており、かつ、前記孔部は当該傾斜した底面に形成されており、前記水溜部は、当該傾斜面における前記孔部よりも低い領域に形成されてもよい。
また、前記昇温装置は、前記ディスプレーサを正方向回転及び逆方向回転を行いうる可逆モータを含み、該可逆モータを逆転方向に回転させ、冷凍サイクルを反転させることにより前記シールドを昇温させてもよい。
本発明によれば、液化した水以外の分子を真空容器に流出するための流出孔をシールドに設けたことにより、液化した水以外の分子は常温である真空容器の熱を利用して気化し排出されるため、短時間で効率よくクライオポンプから排出を行うことができる。
また、液化した状態の水分子は、シールドに設けた水溜部により流出孔から真空容器に流出するのが防止され、この水溜部(シールド)に残留する。シールドは昇温装置により常温以上に昇温することが可能であり、よってシールドに形成された水溜部に水が残留したとしても、これを短時間で気化してクライオポンプから排出することができる。よって、液化した水以外の分子及び水分子のいずれであっても、クライオポンプから短時間で排出することができ、再生時間の短縮を図ることができる。
以下、本発明のクライオポンプを適用した実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態のクライオポンプを示す。クライオポンプ1は、図示しない処理チャンバ(例えば、半導体製造装置の処理チャンバ)に取り付けられ、この処理チャンバ内を真空とするものである。このクライオポンプ1は、大略すると圧縮機3、真空容器4、冷凍機5、シールド9、クライオパネル10等により構成されている。また、再生時におけるシールド9及びクライオパネル10の昇温は、冷凍機5の冷却サイクルを反転させることにより行う、いわゆる逆転昇温を用いている。
圧縮機3は、ヘリウムガス等の冷媒ガスを昇圧して冷凍機5に送り、また冷凍機5で断熱膨張した冷媒ガスを回収して再び昇圧する機能を奏する。真空容器4は、前記した処理チャンバに取り付けられるものであり、この内部に冷凍機5のシリンダ14、15、シールド9、及びクライオパネル10等が配設される。
真空容器4には粗引き配管13A及びパージ配管17が接続されている。粗引き配管13Aは粗引きポンプ13(真空ポンプ)に接続されており、真空処理開始時において真空容器4内のガスを粗引きする。また、パージ配管17は、例えば窒素ガス供給手段に接続されており、後述する再生時において真空容器4内にパージガス(窒素ガス)を供給する。尚、真空容器4と処理チャンバとの間には図示しないゲートバルブが配設されており、ゲートバルブを閉じることにより真空容器4は処理チャンバに対して気密に隔離された状態となる。
冷凍機5はGM型冷凍機であり、第1段シリンダ14、第2段シリンダ15、及び可逆モータ16等により構成されている。第1段シリンダ14の内部には第1段ディスプレーサ14Aが図中左右方向に往復動可能に配設されており、また第2段シリンダ15には第2段ディスプレーサ15Aが図中左右方向に往復動可能に配設されている。この第1段ディスプレーサ14Aと第2段ディスプレーサ15Aは連結されており、可逆モータ16を駆動源として上記のように各シリンダ14、15内で往復動を行う。
第1段シリンダ14と第1段ディスプレーサ14Aとの間には第1段膨張室が形成され、また第2段シリンダ15と第2段ディスプレーサ15Aとの間には第2段膨張室が形成される。この第1及び第2段膨張室は、各ディスプレーサ14A、15Aの往復動によりその体積が変化する構成となっている。
可逆モータ16は、正方向回転及び逆方向回転が可能なモータである。この可逆モータ16は図示しないコントローラに接続され、このコントローラの指示に従い真空処理時には正方向回転を行い、再生時において逆方向回転を行う。
第1段シリンダ14の外周には、第1段冷凍ステージ7が配設されている。また、この第1段冷凍ステージ7にはシールド9が配設されている。
このシールド9は、真空容器4の輻射熱からクライオパネル10を保護するための部材であり、上部が開口されたカップ形状の部材である。また、シールド9の上部開口部にはルーバ12が配設される。このルーバ12は、真空容器4の上部開口に近接して配設される。
シールド9の底面には、流出孔18(孔部)が形成されている。本実施の形態では、シールド9の底面は水平面とされており、流出孔18はその中央位置に形成されている。また、この流出孔18は、シールド9の内部に向けて(図中上方に向けて)突出した堰堤部19を有する。
堰堤部19は、流出孔18を囲繞するように形成される。この堰堤部19は、例えばシールド9の底面をプレス打ち抜き加工することにより、流出孔18と共に同時形成することが可能である。また、流出孔18の開口部に、筒状の部材を溶接等により接合して形成することも可能である。
このように、シールド9の底面に流出孔18を囲繞するように堰堤部19を形成することにより、シールド9の底部には水溜部20が形成される。このように、水溜部20が形成されることにより、後述する昇温工程の初期段階においてシールド9の底部に液化した水以外の分子が滴下しても、直ちにこれが流出孔18から真空容器4内に流出することはなく、一旦シールド9の底部に溜まる。そして、液化した水以外の分子の液面がこの堰堤部19の高さを超えた時点で、液化した水以外の分子は流出孔18を介して真空容器4内に流出する。また、液化した水以外の分子を排出した後、昇温工程の後期段階において生じる水(液化した水分子)がシールド9の底部に滴下するが、この水は水溜部20に溜まり、真空容器4に流出しないように構成されている。尚、水溜部20の詳細な機能については、説明の便宜上、後述する。
また、第2段シリンダ15の外周には、第2段冷凍ステージ8が配設されている。この第2段冷凍ステージ8には、クライオパネル10が配設されている。このクライオパネル10は、その内周面に活性炭11が配設されている。
上記構成とされたクライオポンプ1において真空処理を行う場合には、先ず粗引きポンプ13を駆動して処理チャンバ及び真空容器4内のガスを粗引きし、例えば10-2Torr程度まで減圧処理を行う。この粗引き処理が終了すると、粗引きポンプ13を停止させた上で、可逆モータ16を正方向に回転させる。
これにより冷凍機5は冷却モードとなり、圧縮機3から第1段膨張室及び第2段膨張室に供給された冷媒ガスは、各ディスプレーサ14A、15Aの移動に伴い断熱膨張し寒冷を発生させる。これにより、第1段冷凍ステージ7は例えば30〜100Kに冷却され、この結果、シールド9及びルーバ12は、30〜100Kに冷却される。また、第2段冷凍ステージ8は、例えば4〜20Kに冷却される。この結果、クライオパネル10は、4〜20Kに冷却される。
処理チャンバ内の気体は、上部開口より真空容器4内に進入し、水分子は主にシールド9(中でも特にルーバ12)で凝固され、水分子以外のアルゴンや窒素は主にクライオパネル10で凝固され、更に水素、ネオン、ヘリウム等は主に活性炭11に吸着される。これにより、処理チャンバは排気されて高真空を実現できる。
ところで、上記のように処理チャンバ内から排気される水分子以外の気体分子は、シールド9、クライオパネル10、活性炭11等に凝固又は吸着される。また、水分子もシールド9及びクライオパネル10に凝固した状態となる。尚、以下の説明において、シールド9及びクライオパネル10に凝固又は吸着された水分子以外の気体分子と、凝固した水分子とをまとめて捕捉分子21と称す。
図2は、捕捉分子21がシールド9及びクライオパネル10に凝固又は吸着された状態を示す。このシールド9及びクライオパネル10に凝固又は吸着された捕捉分子21の量が増えてくると、クライオポンプ1の排気性能が低下する。このため、クライオポンプ1に凝固又は吸着された捕捉分子21を排出する再生処理が必要となることは前述した通りである。
次に、クライオポンプ1の再生処理について説明する。
再生処理が開始されると、先ずゲートバルブを閉じて真空容器4と処理チャンバとを気密に隔離した状態とする。続いて、パージ配管17から真空容器4内にパージガスを導入すると共に図示しないドレイン弁を開弁し、更に可逆モータ16を逆方向回転させる。
パージガスは常温のガスであるため、このパージガスの熱により捕捉分子21は昇温されて液化する。また、可逆モータ16が逆方向回転を行うことにより、冷凍機5の冷却サイクルは反転し、第1及び第2段膨張室で冷媒ガスは断熱圧縮されて断熱圧縮熱を発生する(以下、この昇温を逆転昇温という)。この断熱圧縮熱は各シリンダ14、15及び冷凍ステージ7、8を介してシールド9及びクライオパネル10を昇温し、これによっても捕捉分子21は昇温されて液化する。
上記のようにパージガス及びシールド9及びクライオパネル10の昇温により、捕捉分子21に含まれる分子のうち、水よりも沸点の低い分子(アルゴン、窒素、水素、ネオン、ヘリウム等)が先ず液化し、液体分子22が発生する。以下、液体分子22とは、水分子以外のアルゴン、窒素、水素、ネオン、ヘリウム等が液化した分子を称す。
この液体分子22は、カップ形状のシールド9の底部に重力により落下する。前述したように、シールド9には堰堤部19が設けられることにより水溜部20が形成されているため、落下した液体分子22は直ちに流出孔18から真空容器4に流出することはなく、一旦水溜部20内に溜められる。
再生処理が進み液体分子22の発生量が増大すると、液体分子22は水溜部20から溢れ出し、流出孔18を介して真空容器4内に流入する。図3は、略全ての液体分子22が真空容器4に流出した状態を示す。この状態では、沸点の高い水は、ルーバ12等に凝固したままの状態となっている(この状態の水分子を図3に符号21Aで示す)。尚、前述のようにシールド9は冷凍機5により逆転昇温により昇温されており、かつ水溜部20に溜められた液体分子22は少ないため、図3ではシールド9に溜められた液体分子22が既に気化した状態を示す。
真空容器4に流入した液体分子22は、水分子以外のアルゴン、窒素等の分子であるため、常温に保持される真空容器4の熱で容易に気化する。よって、シールド9に流出孔18を形成し、液体分子22をシールド9から真空容器4に流出可能に構成することにより、液体分子22を短時間でクライオポンプ1から排出することができ、再生効率の向上を図ることができる。
液体分子22のクライオポンプ1からの排出が終了後、更にパージガスの導入及び冷凍機5の逆転昇温を続けると、凝固していた水分子(図3中の符号21)が液化し、発生した水分子23がシールド9の底部に落下するようになる(図4参照)。
1回の再生処理における水分子23の発生量は、液体分子22の発生量に比べると少なく、またこの1回の再生処理で発生する水分子23の量は経験的に知ることができる。本実施の形態では、水溜部20の容積を、この1回の再生処理において発生する水分子23の量に基づき設定している。即ち、水溜部20の容積は、1回の再生処理において発生する水分子23の量と略等しい容積に設定されている。
ここで、水溜部20の容積は、シールド9の底面の形状と堰堤部19の位置及び高さによって決まる。例えば、図1乃至4に示すように、底面が平面のカップ形状のシールド9において、堰堤部19が底面の中心に配設される場合は、堰堤部19の高さは、約3〜12mmであることが好ましい。
シールド9は、真空容器4の輻射熱からクライオパネル10を保護するために設けられている。このため、真空容器4の口径が大きくても、流出孔18の口径は、ある一定の値に設定されることが好ましい。
クライオポンプは、使用される環境により、内部に貯蔵される水分子の量を概算することができる。水溜部20の容量は、このようにクライオポンプ内に貯蔵可能な水分子の量に合わせて設定すればよく、そのために必要な堰堤部19の高さは、約3〜12mmであることが好ましい。
このように堰堤部19の高さと水溜部20の容量とが設定されることにより、水溜部20に溜められた水分子23は、流出孔18を介して真空容器4に流出しないようにすることができる。
上記のように水溜部20に溜められた水分子23は、沸点が液体分子22に比べて高いものの、シールド9は逆転昇温により常温以上に昇温される(真空容器4よりも高い温度に昇温されている)。よって、液体分子22に比べて高い沸点を有する水分子23であっても、シールド9の水溜部20において短時間で気化させ、クライオポンプ1から排出することができる。
よって、本実施の形態のクライオポンプ1によれば、真空容器4に流入した液体分子22と、水溜部20に残留した水分子23のいずれについても短時間で気化し排出することができ、よってクライオポンプ1の再生時間の短縮を図ることができる。
図5は、本実施の形態のクライオポンプ1における水分子23の排出時間を従来のクライオポンプで要する排出時間と比較して示す図である。同図では、横軸に時間を取り、縦軸に温度を取っている。また、同図において矢印TA1で示すのは、本実施の形態のクライオポンプ1における第1段冷凍ステージ7の温度変化であり、矢印TA2で示すのは本実施の形態のクライオポンプ1における第2段冷凍ステージ8の温度変化である。
また、比較例として掲げたのは、堰堤部19(水溜部20)が設けられていないクライオポンプの温度特性である。この比較例のクライオポンプは、堰堤部19(水溜部20)が設けられていない以外は、クライオポンプ1と略等しい構成とされている。図中、矢印TB1で示すのは、比較例に係るクライオポンプ1における第1段冷凍ステージの温度変化であり、矢印TB2で示すのは比較例に係るクライオポンプにおける第2段冷凍ステージの温度変化である。
そして、本実施の形態のクライオポンプ1では水溜部20に20グラムの水を入れた状態で逆転昇温処理を行い、比較例に係るクライオポンプでは真空容器内に20グラムの水を入れた状態で逆転昇温処理を行い、それぞれの温度TA1、TA2、TB1、TB2を測定した。この実験結果が、図5に示される温度特性である。
ここで排出時間とは、第1段冷凍ステージが目標温度T1となると共に第2段冷凍ステージが目標温度T2となった時刻t1から、水が全て排出されることにより真空容器の内部圧力が所定圧力以下となった時刻(即ち、クールダウンを開始する時刻。実施の形態ではt2、比較例ではt3)までの時間をいう。
この実験の結果、本実施の形態のクライオポンプ1では水を排気するのに54分であったのに対し、比較例のクライオポンプでは77分も必要であった。これにより、本実施の形態のクライオポンプ1によれば、従来構成のクライオポンプに比べて再生時間を大幅に短縮することができることが実証された。
尚、実際の再生時においては、水分子23ばかりでなく液体分子22の排出処理が行われるが、沸点の低い液体分子22の排出は、液体分子22に比べて沸点の高い水分子23の排出よりも早く終了し、よって再生時間は水分子23の排出時間に依存することとなる。このため、本実験結果は、水分子23と共に液体分子22を排出する実際の再生処理を反映しているといえる。
図6は、図1乃至図4に示したクライオポンプ1の変形例であるクライオポンプ30を示す。図1乃至図4に示したクライオポンプ1では、水分子23が真空容器4に流出孔18を介して流出するのを防止するために堰堤部19を設け、これによりシールド9の底部に水溜部20を形成する構成としていた。
これに対して本変形例に係るクライオポンプ30では、シールド9の底部を傾斜面31とし、この傾斜面31の傾斜方向の上方位置に流出孔18を形成したものである。このような構成とすることによっても、図6に示すように、シールド9の底部に水分子23を残留させる水溜部32を形成することができ、図1乃至図4に示したクライオポンプ1と同様の作用効果を奏するクライオポンプを実現することができる。
また、図7に示すように、流出孔18は、シールド9の側面において、水溜部20の容量を所定容量に設定可能な高さに形成されていてもよい。この場合、堰堤部は必ずしも必要ない。
また、以上では、冷凍機5が真空容器4の側方から挿入される横型クライオポンプの形態について説明したが、図8に示すように、冷凍機5が真空容器4の下側から挿入される縦型のクライオポンプにおいても流出孔18及び堰堤部19を形成することができる。縦型のクライオポンプでは、真空容器4及びシールド9の底部中央から鉛直上向きに冷凍機5が挿入されるため、シールド9の底部の中央からオフセットした位置に流出孔18及び堰堤部19を形成すればよい。なお、シールド9の底面が径方向外側から中心に向かって深くなっている場合は、その底面の形状に応じて、所望の水溜部20の容量が確保されるように、堰堤部19の高さを設定すればよい。
また、以上の説明では、昇温装置として可逆モータ16を備える形態について説明したが、可逆モータ16に加えて、又は、これに代えて、昇温を行うためのヒータを備えてもよい。
以上、本発明の例示的な実施の形態のクライオポンプについて説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
実施の形態のクライオポンプの構成図である。
実施の形態のクライオポンプの構成図であり、シールドやクライオパネルに固体状ガスが凝固又は吸着した状態を示す図である。
実施の形態のクライオポンプの構成図であり、再生処理を説明するための図である(その1)。
実施の形態のクライオポンプの構成図であり、再生処理を説明するための図である(その2)。
排出時間特性を従来と比較して示す図である。
実施の形態の変形例のクライオポンプの構成図である。
実施の形態の変形例のクライオポンプの構成図である。
実施の形態の変形例のクライオポンプの構成図である。
1、30 クライオポンプ
3 圧縮機
4 真空容器
5 冷凍機
7 第1段冷凍ステージ
8 第2段冷凍ステージ
9 シールド
10 クライオパネル
11 活性炭
12 ルーバ
13 粗引きポンプ
14 第1段シリンダ
14A 第1段ディスプレーサ
15 第2段シリンダ
15A 第2段ディスプレーサ
16 可逆モータ
17 パージ配管
18 流出孔
19 堰堤部
20、32 水溜部
21 捕捉分子
21A 水分子(凝固状態)
22 液体分子
23 水分子
31 傾斜面