JPWO2009011187A1 - ビニル系樹脂の製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いたビニル系化合物の懸濁重合に際し、得られるビニル系重合体粒子が均一であり、重合の中期〜後期に発生するドライフォームに対する消泡性に優れるビニル系樹脂の製造方法を提供する。本発明は、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いて、懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル系化合物の懸濁重合を行うに際し、重合転化率10%以上の時点で、該ビニル系化合物100重量部に対して、側鎖に、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するビニルアルコール系重合体(A)を0.001〜5重量部添加することを特徴とするビニル系樹脂の製造方法である。

Description

本発明は、生産性に優れたリフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いたビニル系化合物の懸濁重合によるビニル系樹脂の製造方法に関する。更に詳しくは、得られる塩化ビニル系重合体粒子が均一であり、重合槽内における重合の中期〜後期に発生するドライフォームに対する消泡性に優れるビニル系樹脂の製造方法に関する。
最近では、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂の生産において、生産性を向上させるために重合1バッチに要する時間を短縮することが求められており、重合反応熱の除去速度を増加させるためにリフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いる方法や、昇温時間を短縮するために予め加熱した水性媒体を仕込む方法(ホットチャージ法)が提案されている。しかしながら、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いる場合には、ビニル系化合物(モノマー)の気体が凝縮するのに伴ってリフラックスコンデンサー付近の圧力が低下することから、ウェットフォームやドライフォームの発生が激しくなるという問題点があった。ウェットフォームとは、主としてポリビニルアルコールに起因する水を主成分とする発泡である。一方、ドライフォームとは、ポリ塩化ビニル(PVC)や塩化ビニルモノマー(VCM)を主成分とする発泡であり、主として重合の中期〜後期に発生する。発生したドライフォームは、仕込み混合物の液層部表面を覆って浮遊する。この泡は攪拌によってもなかなか消えないため、泡状のまま重合に供される。このため、(1)重合槽内において、泡が付着する気相部と液相部との界面部分にスケールが付着して、生産性の低下を招く、(2)スケール付着により重合槽の温度コントロールができなくなる、(3)泡状の重合体が発生して収率の低下を招く、(4)フィッシュアイが生成して製品の品質の低下を招く、(5)泡状重合体に由来する異型粒子の混入により均一な粒子が得られない、などの問題があり、これはリフラックスコンデンサーの大型化に伴い増大する傾向がある。尚、リフラックスコンデンサーを使用しない場合には、ドライフォームは発生しないが、重合時間が長くなり生産性が低いという問題があった。
これらの対策として、特許文献1(特開平2−180908号公報)には、リフラックスコンデンサーにおける重合反応熱の除去量が全重合反応熱量の10%以下の時点で、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン、低けん化度ポリビニルアルコール等を添加する方法が開示されている。
特許文献2(特開平3−212409号公報)には、リフラックスコンデンサーにおける重合反応熱の除去量が全重合反応熱の10%を超えない時点で、塩化ビニルモノマー100重量部に対してけん化度20〜50モル%および重合度200〜400の水不溶性の部分けん化ポリビニルアルコール0.002〜0.007重量部およびジメチルポリシロキサン等の消泡剤0.001〜0.01重量部を添加する方法が開示されている。
特許文献3(特開昭55−137105号公報)には、重合開始前に、けん化度60〜80%のイオン変性ポリビニルアルコールを添加することが開示されている。
特許文献4(特開平7−179507号公報)には、重合転化率5〜50%の時点で、けん化度70〜85モル%および重合度700〜3000の水溶性ポリビニルアルコールを添加し、かつ重合を58〜70℃の温度範囲で行う方法が開示されている。
また、特許文献5(特開平7−53607号公報)には、重合開始から重合転化率5〜50%の時点まで、けん化度70〜85モル%および重合度700〜3000の水溶性ポリビニルアルコールを連続的または逐次的に添加する方法が開示されている。
特許文献6(特開平7−18007号公報)には、重合転化率30〜60%の間に、けん化度75〜85モル%および重合度1500〜2700の水溶性ポリビニルアルコールを添加する方法が開示されている。
特許文献7(特開平8−73512号公報)には、重合率転化率20〜60%の間に、けん化度20〜55モル%、平均重合度150〜600の部分けん化ポリビニルアルコールを添加する方法が開示されている。
特許文献8(特開平10−1503号公報)には、重合転化率30〜90%の時点で、けん化度85モル%以下のビニルアルコール系重合体を添加する方法が開示されている。
特許文献9(特開平11−116630号公報)には、重合転化率30〜90%の時点で、けん化度85モル%以下のビニルアルコール系重合体を連続的または2回以上に分けて添加する方法が開示されている。
特許文献10(特開2001−122910号公報)には、重合転化率が30%以上の時点で、けん化度が65モル%以上、重合度が700以上でかつ、0.0300≦(3−Y)/X≦0.0330を満足するポリビニルアルコール系樹脂を添加する方法が開示されている。(X:けん化度、Y:ヨード呈色度)
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法ではドライフォームの発生が激しくなり、塩化ビニル系樹脂の充填比重が低下しやすいという問題があった。また、特許文献3、4、5、6、7に記載の方法では、リフラックスコンデンサーを使用していないことから、重合時間が長くなり生産性が低いという問題があった。さらに、特許文献8、9、10に記載の方法では、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を使用しており、生産性の高いものであるが、ドライフォームを抑制する消泡性に関してはまだまだ満足のいくものではなく、スケールが付着する等の問題が残るものであり、更なる改良が望まれている。
本発明は、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いたビニル系化合物の懸濁重合に際し、得られるビニル系重合体粒子が均一であり、重合の中期〜後期に発生するドライフォームに対する消泡性に優れるビニル系樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いて、懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル系化合物の懸濁重合を行うに際し、重合転化率10%以上の時点で、該ビニル系化合物100重量部に対して、側鎖に、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するビニルアルコール系重合体(A)を0.001〜5重量部添加することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明のビニル系樹脂の製造方法によれば、重合の中期〜後期に発生するドライフォームに対する消泡性に優れることから、ビニル系樹脂の生産性を高めることができる。また、均一な粒子径を持つビニル系重合体粒子が得られることから、高品質のビニル系樹脂を提供できる。
以下に本発明を詳細に説明する。本発明において、リフラックスコンデンサーは、ビニル系化合物の懸濁重合により生じる重合反応熱を効率よく除去するために使用される。重合槽中の懸濁液から発生する未反応のビニル系化合物(モノマー)の気体は、リフラックスコンデンサーにより液化され、重合槽に返されることにより、重合熱が除去される。リフラックスコンデンサーの冷却水の温度は、通常10〜50℃程度である。通常は、重合槽の温度制御は、リフラックスコンデンサーによる除熱のほかに、重合槽のジャケットまたはコイルによる温度制御が併用される。リフラックスコンデンサーにおける重合反応熱の除去量については特に制限はないが、全重合反応熱量の10〜80%が好ましく、20〜60%がより好ましい。
ビニル系化合物の懸濁重合は、懸濁重合用分散安定剤の存在下で行われる。懸濁重合用分散安定剤としては特に制限はないが、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子等が挙げられる。中でも、けん化度が60〜95モル%、好ましくは68〜93モル%で、重合度が200〜3500、好ましくは500〜2500のポリビニルアルコールが好適に用いられる。
本発明において、懸濁重合用分散安定剤の使用量については特に制限はないが、ビニル系化合物100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、0.02〜2重量部がより好ましく、0.02〜1重量部が更に好ましい。0.01重量部未満の場合には、ビニル系化合物を懸濁重合する際に重合安定性が低下する場合があり、5重量部を超える場合には、懸濁重合後の廃液が白濁し、化学的酸素要求量(COD)が高くなる場合がある。
本発明においては、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いて、懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル系化合物を懸濁重合するに際し、重合転化率が10%以上の時点で、側鎖に、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するビニルアルコール系重合体(A)(以下、PVA(A)と略記することがある)が添加される。従来用いられていた部分けん化ポリビニルアルコールとは異なり、このような官能基を側鎖に有するPVA(A)を用いることにより、ドライフォームを抑制する消泡性が向上し、スケール付着が抑制され、得られるビニル系重合体粒子の均一性が向上する。
当該PVA(A)は、一分子中に、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、および炭素数11以上の飽和脂肪族基から選ばれる官能基を2種以上有していてもよい。PVA(A)は、側鎖に、不飽和二重結合、カルボキシル基を有する芳香族基、またはカルボキシル基を有する飽和脂肪族基、を有することが好ましい。
PVA(A)の側鎖が有する上記の官能基の量としては、PVA(A)のモノマーユニットあたり0.01〜50モル%が好ましく、0.01〜25モル%がより好ましく、0.02〜20モル%がさらに好ましく、0.05〜15モル%が最も好ましい。
PVA(A)の重合度は、200以上が好ましく、より好ましくは200〜3000であり、さらに好ましくは300〜2500である。重合度が200未満ではドライフォームの抑制効果が不足し、逆にウェットフォームが激しくなる場合があり、3000を超えると得られるビニル系樹脂の可塑剤吸収性が低下する場合がある。
本発明において、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基が、ポリマー側鎖に含まれている限り、PVA(A)の具体的な構造には特に制限はない。これらの官能基は、PVA(A)の主鎖に、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合等を介して結合していてもよい。また、これらの官能基は、ヒドロキシル基等によって置換されていてもよい。PVA(A)は、製造の容易さの観点から、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するカルボン酸化合物によりビニルアルコール系重合体(B)をエステル化して得られる構造を有することが好ましい。
不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、2−ペンテン酸、4−ペンテン酸、2−ヘプテン酸、2−オクテン酸、ケイ皮酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、ソルビン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物は、二種以上であってもよい。不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物は、PVA(A)を製造する際には、例えば、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等の不飽和ジカルボン酸モノエステル;マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル等の、無水物やエステルとして用いることもできる。これらのカルボン酸化合物は塩として用いることもできる。
カルボキシル基を有していてもよい芳香族基を有するカルボン酸化合物(オレフィン性不飽和結合を含まない)の例としては、カルボキシル基を有していないものとして、フェニル酢酸、安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トルイル酸、サリチル酸等の芳香族モノカルボン酸が;カルボキシル基を有するものとして、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
カルボキシル基を有する飽和脂肪族基を有するカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、酒石酸、リンゴ酸等の脂肪族ジカルボン酸;クエン酸等の脂肪族トリカルボン酸などが挙げられる。
炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するカルボン酸化合物(カルボキシル基を有しない)としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられ、当該カルボン酸化合物の有する飽和脂肪族基の炭素数は11〜20であることが好ましい。
これらの芳香族カルボン酸化合物および飽和脂肪族基を有するカルボン酸化合物は、PVA(A)を製造する際には、塩として用いることもできる。
上記カルボン酸化合物(特に、芳香族カルボン酸化合物および飽和脂肪族基を有するカルボン酸化合物)は、2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸(すなわち、ジカルボン酸、トリカルボン酸等)であることが好ましい。
ビニルアルコール系重合体(B)(以下、PVA(B)と略記することがある)のけん化度は50〜99モル%が好ましく、より好ましくは60〜98モル%であり、さらに好ましくは70〜95モル%である。けん化度が50モル%未満ではドライフォームの抑制効果が得られず発泡する場合があり、99%を超えると、得られるビニル系樹脂の可塑剤吸収性が低下する場合がある。けん化度が100%未満のPVA(B)を用いる場合には、カルボン酸化合物とのエステル化によって、PVA(B)が元々有するビニルエステルユニットとは異なるビニルエステルユニットが導入されるよう、カルボン酸化合物を選択することが好ましい。PVA(B)が有するビニルエステルユニットとは異なるビニルエステルユニットが導入されることによって、PVA(A)をより高機能化することができる。
PVB(B)の重合度は、200以上が好ましく、より好ましくは200〜3000であり、さらに好ましくは300〜2500である。重合度が200未満ではドライフォームの抑制効果が不足し、逆にウェットフォームが激しくなる場合があり、3000を超えると得られるビニル系樹脂の可塑剤吸収性が低下する場合がある。
本発明において、PVA(B)は単独で使用しても、あるいは特性の異なる2種以上を混合して使用してもよい。
本発明において、PVA(B)は、ビニルエステル系単量体を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の従来公知の重合方法を採用して重合させ、得られたビニルエステル系重合体をけん化することにより、製造することができる。工業的観点から好ましい重合方法は、溶液重合法、乳化重合法および分散重合法である。重合操作にあたっては、回分法、半回分法および連続法のいずれの重合方式を採用することも可能である。
重合に用いることができるビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどを挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
ビニルエステル系単量体の重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲であればビニルエステル系単量体を他の単量体と共重合させても差し支えない。使用しうる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその酸塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその酸塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテルなどのオキシアルキレン基含有単量体;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
また、ビニルエステル系単量体の重合に際して、得られるビニルエステル系重合体の重合度を調節することなどを目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10重量%が望ましい。
本発明においては、ビニルエステル系単量体を通常よりも高い温度条件で重合して得られる、1,2−グリコール結合の含有量の多いPVAを用いることもできる。この場合の1,2−グリコール結合の含有量は、好ましくは1.9モル%以上、より好ましくは2.0モル%以上、さらに好ましくは2.1モル%以上である。
ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどの塩基性触媒、またはp−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。中でも、メタノール、またはメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
PVA(B)は、末端にイオン性官能基を有していてもよい。イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基などが挙げられ、その中でもカルボキシル基が好ましい。イオン性官能基にはその塩も含まれ、PVA(B)は水分散性であることが好ましいという観点から、アルカリ金属塩が好ましい。PVAの末端部にイオン性官能基を導入する手法としては、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合させ、得られる重合体をけん化する等の方法を用いることができる。
本発明において、PVA(A)は、例えば、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するカルボン酸によりビニルアルコール系重合体(B)をエステル化することにより得ることができる。
PVA(B)を、前記カルボン酸化合物でエステル化させる方法については特に制限はない。その方法として、例えば、(i)PVA(B)を無水溶媒中、懸濁状態で前記カルボン酸化合物と反応させる方法;(ii)前記カルボン酸化合物を粉末状で、あるいはメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールもしくは酢酸メチル、酢酸エチルもしくは水に溶解または分散させた後、スラリー状または粉末状のPVA(B)と混合し、窒素または空気雰囲気下で加熱処理して反応させる方法;(iii)ペースト状のポリ酢酸ビニルに前記カルボン酸化合物を添加し、けん化して得られるPVA(B)を加熱処理する方法;(iv)PVA(B)と前記カルボン酸化合物をリボンブラベンダー、Vブラベンダー、ヘンシェルミキサーなどでドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または二軸の押出し機およびニーダーなどを用いて溶融混練する方法などが挙げられる。中でも、(ii)のPVA(B)と前記カルボン酸化合物を混合した後、窒素雰囲気下で加熱処理して反応させる方法、および(iv)のPVA(B)と前記カルボン酸化合物を溶融混練する方法が好ましい。
前記(ii)の方法において、PVA(B)と前記カルボン酸化合物の混合物を加熱処理する際の条件は、特に制限されないが、加熱処理時の温度は60〜190℃が好ましく、65〜185℃がより好ましく、70〜180℃がさらに好ましい。また加熱処理の時間は0.5〜20時間が好ましく、1〜18時間がより好ましく、1〜16時間がさらに好ましい。
前記(iv)の方法において、PVA(B)と前記カルボン酸化合物を溶融混練する際の温度は、130〜250℃が好ましく、140〜220℃がより好ましい。溶融混練に用いられる装置内にPVA(B)および不飽和二重結合を有するカルボン酸を滞留させる時間は1〜15分が好ましく、2〜10分がより好ましい。
PVA(B)および前記カルボン酸化合物を加熱処理する際にPVAが分解するのを防止する目的で、またPVAの主鎖中にポリエンが形成されることによって生じる着色を防止する目的で、PVAに通常用いられる可塑剤を配合し、これにより加熱処理時の温度を下げることも可能である。可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ソルビトールなどの多価アルコール;これらのアルコールにエチレンオキサイドを付加した化合物;水;糖類;ポリエーテル類;アミド化合物などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。これら可塑剤の使用量は、通常PVA(B)100重量部に対し1〜300重量部であり、1〜200重量部がより好ましく、1〜100重量部がさらに好ましい。
PVA(B)および前記カルボン酸化合物を加熱処理する際に、PVA(B)100重量部に対してアルカリ金属イオンを0.003〜3重量部の割合で含有させると、PVA(B)の熱劣化、熱分解、ゲル化、着色などを抑制することができるため好ましい。アルカリ金属イオンとしては、例えば、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンなどが挙げられ、これらは主に酢酸、プロピオン酸などの低級脂肪酸の塩として存在し、またPVA(B)がカルボキシル基やスルホン酸基を有している場合には、これらの官能基の塩として存在する。なお、PVA中のアルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法により測定することができる。
前記カルボン酸化合物によるPVA(B)のエステル化を促進するために、触媒として作用する酸性物質または塩基性物質を配合した状態で、PVA(B)および前記カルボン酸化合物を加熱処理することも可能である。酸性物質としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸;p−トルエンスルホン酸ピリジニウム、塩化アンモニウムなどの塩;塩化亜鉛、塩化アルミニウム、三塩化鉄、二塩化錫、四塩化錫、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体などのルイス酸などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。また、塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;酸化バリウム、酸化銀などの金属酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;ナトリウムアミド、カリウムアミドなどのアルカリ金属アミドなどを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。これらの酸性物質および塩基性物質の配合量は、通常、PVA(B)100重量部に対して0.0001〜5重量部が好ましい。
前記カルボン酸化合物として、不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物を用いる場合には、PVA(B)および不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物を加熱処理する際に、当該カルボン酸化合物またはPVA(B)が熱重合してゲルが生成するのを防ぐため、重合禁止剤を配合することも可能である。重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルなどのフェノール系重合禁止剤、フェノチアジン、N,N−ジフェニルパラフェニレンジアミンなどを挙げることができる。重合禁止剤の配合量は、PVA(B)100重量部に対して0.00001〜10重量部が好ましく、0.0001〜1重量部がより好ましい。
PVA(B)を、前記カルボン酸化合物によりエステル化することにより、PVA(A)が得られる。前記カルボン酸化合物による変性量は、例えば、液体クロマトグラフィーにより未反応のカルボン酸化合物を測定する方法などによって測定できる。また、前記カルボン酸として、不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物を用いた場合には、PVA(A)をDMSO−d6溶媒に溶解させ、これを1H−NMRにより測定し、二重結合に由来するシグナルを解析する方法によっても測定できる。
PVA(A)は、エステル化により導入された前記カルボン酸化合物による変性量が、PVA(B)のモノマーユニットあたり0.01〜50モル%であることが好ましく、0.01〜25モル%が好ましく、0.02〜20モル%がより好ましく、0.05〜15モル%がさらに好ましい。
PVA(A)が、PVA(B)を2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物でエステル化したPVAである場合、その水溶性を高めるために、エステル結合に関与していない方のカルボキシル基を、1〜3価の金属の水酸化物、塩類、アルコキシド、アンモニア、アンモニウム塩、アミン塩、アミン塩類のうちのいずれかと反応させることも好適に行われる。
ビニル系化合物の懸濁重合において、PVA(A)の添加時期は、ビニル系化合物の重合転化率が10%以上の時点である。PVA(A)は、懸濁重合中に添加されるものであるから、遅くとも重合反応の完結前に添加されるものであることは言うまでもない。なお、重合反応完結時の重合転化率は、重合させるビニル系化合物と使用する重合開始剤の種類、反応条件等に依存するが、PVA(A)は、重合転化率が95%の時点までに添加されるとよい。PVA(A)の添加時期は、15%〜90%が好ましく、18%〜87%がより好ましく、20%〜85%が特に好ましい。また、重合槽の内圧が低下し始める直前あるいは重合槽の内圧が低下し始めた直後に、ドライフォームによる発泡が生じる場合には、この時点で添加するのも好ましい。PVA(A)の添加方法には特に制限は無いが、水溶液、水性分散液、メタノールなどの有機溶剤溶液、メタノール・水混合溶液などの形態で添加する方法が挙げられる。PVA(A)の溶液の濃度は、通常0.01〜30重量%である。PVA(A)の溶液の温度は、特に制限はなく、室温または重合温度まで昇温したものでも良い。PVA(A)の添加量は、懸濁重合に供されるビニル系化合物100重量部に対して0.001〜5重量部であり、0.001〜0.5重量部が好ましく、0.01〜0.1重量部がより好ましい。PVA(A)の添加量が0.001重量部未満の場合は、ドライフォームの抑制効果が十分でなく、PVA(A)の添加量が5重量部を超えると、得られる塩化ビニル樹脂のかさ比重が高くなりすぎるという点で好ましくない。
本発明において、PVA(A)は単独で使用しても、あるいは特性の異なる2種以上を混合して使用してもよい。
懸濁重合に供するビニル系化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステルおよび塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステルおよび無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらのうち、特に好適には塩化ビニルである。塩化ビニルの懸濁重合は単独重合であっても、共重合であってもよい。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
ビニル系化合物の懸濁重合に使用することができる重合開始剤としては、従来より塩化ビニル単量体等の重合に使用されているいずれの油溶性触媒または水溶性触媒を用いることもできる。油溶性触媒としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、α−クミルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。水溶性触媒としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの油溶性触媒または水溶性触媒は単独で、または2種類以上を組合せて用いることもできる。
ビニル系化合物の懸濁重合に際し、必要に応じて、重合反応系にその他の各種添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合調節剤、フェノール化合物、イオウ化合物、N−オキサイド化合物などの重合禁止剤などが挙げられる。また、pH調整剤、架橋剤などを加えることも任意であり、上記の添加剤を複数併用しても差し支えない。
ビニル系化合物の懸濁重合に際し、けん化度60モル%以下の部分けん化ビニルアルコール系重合体を分散安定助剤として用いてもよい。その添加量は懸濁重合用分散安定剤100重量部に対して、0.1〜120重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜110重量部、特に好ましくは1〜100重量部である。分散安定助剤として用いる部分けん化ビニルアルコール系重合体としては、無変性の部分けん化ビニルアルコール系重合体のほかに、側鎖または末端にカルボキシル基等のイオン性基やオキシアルキレン基を10モル%以下含有する部分けん化ビニルアルコール系重合体等が挙げられる。
また、本発明において、ビニル系化合物の懸濁重合に際し、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロックコポリマーなどの油溶性乳化剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウムなどの水溶性乳化剤などを用いてもよい。その添加量については特に制限は無いが、ビニル系化合物100重量部あたり0.01〜1.0重量部が好ましい。
本発明のビニル系樹脂の製造方法によれば、重合の中期〜後期に発生するドライフォームに対する消泡性に優れることから、ビニル系樹脂の生産性を高めることができる。また、均一な粒子径を持つビニル系重合体粒子が得られることから、高品質のビニル系樹脂を提供できる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例および比較例において、特に断りがない場合、「部」および「%」はそれぞれ「重量部」および「重量%」を示す。
PVA、塩化ビニル重合体粒子およびドライフォーム発生状態の評価は以下のようにして行った。
(PVAの分析)
(1)カルボン酸変性量の測定
PVA1gをイオン交換水100gに溶解し、ODSカラムを用い、0.1Mリン酸二水素アンモニウム水溶液を移動相に用いて、30℃でHPLC測定を行った。未反応カルボン酸の定量結果から、カルボン酸変性量を求めた。
(塩化ビニル重合体粒子の評価)
塩化ビニル重合体粒子について、粒度分布および充填比重を以下の方法にしたがって測定した。
(1)粒度分布
JIS標準篩い42メッシュオンおよび200メッシュパスの粒子の含有量を重量%で表示した。「42メッシュオン」とは、粒子が42メッシュのJIS標準篩いの網目を通過せずに網目上に残ることを意味し、「42メッシュオン」の粒子の含有量が少ないほど粗大粒子が少ない。「200メッシュパス」とは、粒子が200メッシュのJIS標準篩いの網目を通過することを意味し、「200メッシュパス」の粒子の含有量が少ないほど微粉が少ない。従って、これらの含有量が少ないほど均一な粒子が得られていることを示している。
A : 0.5%未満
B : 0.5%以上1%未満
C : 1%以上
(2)充填比重
JIS K6721に準拠して測定した。
(ドライフォーム発生状態の評価)
重合槽内のドライフォーム発生状態を下記の方法で評価した。
(1)泡立ち
重合終了後、未反応の塩化ビニルモノマーをパージする前に、オートクレーブ側面の覗き窓より、重合槽内の泡立ち状態を観察した。評価基準は下記の通りである。
A : 泡立ちがほとんどない。
B : 泡立ちがある。
C : 泡立ちが著しい。
(2)スケール付着量
重合体スラリーを重合槽から取り出した後の重合槽の内壁におけるスケールの付着状態を目視観察することで評価した。評価基準は下記の通りである。
A : スケールの付着がほとんどない。
B : スケールの付着がある。
C : スケール付着が著しい。
実施例1
(PVA(A)の合成−加熱処理法)
重合度400、けん化度80モル%のPVA(B)の粉末100部を、フマル酸4部をメタノール200部に溶解させた溶液に加えて膨潤させた後、減圧下40℃の温度で24時間乾燥を行った。次いで、窒素雰囲気下にて125℃で2時間、加熱処理を行い、PVA(A)を得た。カルボン酸変性量は0.36モル%であった。
(塩化ビニルの懸濁重合)
重合度2000、けん化度80モル%のPVAを0.1部、脱イオン水(90L)に溶解させ、分散安定剤を調製し、容量200Lのリフラックスコンデンサー付重合槽に仕込んだ。次いで、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート0.1部を仕込み、重合槽内の圧力が0.0067MPaとなるまで脱気して酸素を除いた後、塩化ビニル100部を仕込み、攪拌しながら、ジャケットに熱水を通して63℃まで昇温し、重合を開始した。重合開始時の重合槽内の圧力は、1.02MPaであった。引き続き重合を継続し、重合転化率が70%になった時点で、上記で合成したフマル酸で変性したPVA(A)の水溶液10L(PVA(A)として0.02部)を添加した。重合槽内の圧力が0.5MPaとなった時点で重合を停止し、未反応モノマーを回収し、重合体スラリーを取り出し、65℃にて一晩乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。得られた塩化ビニル重合体粒子およびドライフォームの発生状態について、評価結果を表1に示す。
実施例2〜7
表1に示すPVA(B)および不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物を用い、さらに表1に示す条件で加熱処理を行った以外は実施例1と同様にして合成されたPVA(A)を用い、PVA(A)を表1に示す重合転化率の時点で添加した以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表1に示す。
比較例1
PVA(A)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表1に示す。粗大粒子が多くて均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちが多く、重合槽内壁面へのスケール付着が多かった。
比較例2
カルボン酸化合物を用いずにPVA(B)の粉末に表1に示す条件で加熱処理を行った以外は実施例1と同様にして得られたPVAを用い、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表1に示す。粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちがあり、重合槽内壁面へのスケール付着があった。
比較例3
表1に示す不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物を用い、これの加熱処理をしなかった以外は実施例1と同様にして得られたPVAを用い、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表1に示す。粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちがあり、重合槽内壁面へのスケール付着があった。
比較例4
実施例2と同様にして合成されたPVA(A)を重合転化率が5%の時点で添加した以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表1に示す。粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちが多く、重合槽内壁面へのスケール付着が多かった。
比較例5
(イタコン酸変性PVA系重合体(イタコン酸−ビニルアルコール共重合体)の合成)
撹拌機、窒素導入口、還流冷却器および添加剤導入口を備えた6L反応槽に酢酸ビニル1050g、メタノール1950gを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。コモノマーとしてイタコン酸をメタノールに溶解した濃度20%溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整し、イタコン酸の20%メタノール溶液2.8mlを添加した後に、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)2.0gを加えて重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持し、イタコン酸の20%メタノール溶液を10mL/hrで連続添加し、4.5時間後に重合率が50%に達したところで冷却して重合を停止した。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去し、変性PVAcのメタノール溶液を得た。40%に調整した該メタノール溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/変性PVAc中のビニルエステル単位のモル数)が0.02となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVAのけん化度は68モル%であった。
重合後に未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られた変性PVAcのメタノール溶液をn−ヘキサンに投入して変性PVAcを沈殿させ、回収した変性PVAcをアセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、60℃で減圧乾燥して変性PVAcの精製物を得た。該変性PVAcのプロトンNMR測定から求めた変性量は1モル%であった。上記の変性PVAcのメタノール溶液をアルカリモル比0.2でけん化した後、メタノールによるソックスレー抽出を3日間実施し、次いで乾燥して変性PVAの精製物を得た。該変性PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ520であった。
上記操作により重合度520、けん化度68モル%、変性量1.0モル%のイタコン酸変性PVA系重合体を得た。このイタコン酸変性PVA系重合体を用いて、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表1に示す。粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちがあり、重合槽内壁面へのスケール付着があった。
Figure 2009011187
実施例8
(PVA(A)の合成−溶融混練法)
重合度600、けん化度70モル%のPVA(B)の粉末100部に対して、フマル酸1部をドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて200℃の温度で3分間溶融混練し、PVA(A)を得た。カルボン酸変性量は、0.41モル%であった。
(塩化ビニルの懸濁重合)
PVA(A)の添加量と添加時期を表2に示す値とした以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表2に示す。
実施例9
表2に示すカルボン酸化合物を用い、さらに表2に示す条件で溶融混練を行った以外は実施例8と同様にして合成されたPVA(A)を用い、実施例8と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表2に示す。
比較例6
フマル酸をドライブレンドしないで溶融混練を行った以外は実施例8と同様にして得られたPVAを用い、実施例8と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行った。粗大粒子が多くて、均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちがあり、重合槽内壁面へのスケール付着があった。
Figure 2009011187
実施例10
(PVA(A)の合成−加熱処理法)
重合度500、けん化度80モル%のPVA(B)の粉末100部を、アジピン酸3部をメタノール200部に溶解させた溶液に加えて膨潤させた後、減圧下40℃の温度で24時間乾燥を行った。次いで、窒素雰囲気下にて120℃で5時間、加熱処理を行い、PVA(A)を得た。カルボン酸変性量は0.32モル%であった。
(塩化ビニルの懸濁重合)
重合度2400、けん化度80モル%のPVAを0.1部、脱イオン水(90L)に溶解させ、分散安定剤を調製し、容量200Lのリフラックスコンデンサー付重合槽に仕込んだ。次いで、t−ブチルパーオキシネオへプタノエート0.1部を仕込み、重合槽内の圧力が0.0067MPaとなるまで脱気して酸素を除いた後、塩化ビニル100部を仕込み、攪拌しながら、ジャケットに熱水を通して63℃まで昇温し、重合を開始した。重合開始時の重合槽内の圧力は、1.02MPaであった。引き続き重合を継続し、重合転化率が75%になった時点で、上記で合成したアジピン酸で変性したPVA(A)の水溶液10L(PVA(A)として0.02部)を添加した。重合槽内の圧力が0.5MPaとなった時点で重合を停止し、未反応モノマーを回収し、重合体スラリーを取り出し、65℃にて一晩乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。得られた塩化ビニル重合体粒子およびドライフォームの発生状態について、評価結果を表3に示す。
実施例11〜13
表3に示すPVA(B)およびカルボン酸化合物を用い、さらに表3に示す条件で加熱処理を行った以外は実施例10と同様にして合成されたPVA(A)を用い、PVA(A)を表3に示す重合転化率の時点で添加した以外は実施例10と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表3に示す。
比較例7
PVA(A)を添加しなかったこと以外は、実施例10と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表3に示す。粗大粒子が多くて均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちが多く、重合槽内壁面へのスケール付着が多かった。
比較例8
カルボン酸化合物を用いずにPVA(B)の粉末に表3に示す条件で加熱処理を行った以外は実施例10と同様にして得られたPVAを用い、実施例10と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表3に示す。粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちがあり、重合槽内壁面へのスケール付着があった。
比較例9
窒素雰囲気下での加熱処理をしなかった以外は実施例10と同様にして得られたPVAを用い、実施例10と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表3に示す。粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちがあり、重合槽内壁面へのスケール付着があった。
比較例10
実施例10と同様にして合成されたPVA(A)を重合転化率が5%の時点で添加した以外は実施例10と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表3に示す。粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちが多く、重合槽内壁面へのスケール付着が多かった。
Figure 2009011187
実施例14
(PVA(A)の合成−溶融混練法)
重合度550、けん化度70モル%のPVA(B)の粉末100部に対して、アジピン酸1部をドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて198℃の温度で3分間溶融混練し、PVA(A)を得た。カルボン酸変性量は、0.31モル%であった。
(塩化ビニルの懸濁重合)
PVA(A)の添加量と添加時期を表4に示す値とした以外は実施例10と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表4に示す。
実施例15
表4に示すカルボン酸化合物を用い、さらに表4に示す条件で溶融混練を行った以外は実施例14と同様にして合成されたPVA(A)を用い、実施例14と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表4に示す。
比較例11
アジピン酸をドライブレンドしないで溶融混練を行った以外は実施例14と同様にして得られたPVAを用い、実施例14と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行った。粗大粒子が多くて、均一な重合体粒子が得られず、かつ重合後の泡立ちがあり、重合槽内壁面へのスケール付着があった。
Figure 2009011187
リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いたビニル系化合物の懸濁重合によるビニル系樹脂の製造の際に、上述のPVAを添加した場合、均一な塩化ビニル系重合体粒子が得られ、重合槽内において重合の中期〜後期に発生するドライフォームに対する消泡性に優れるなど、その工業的な評価はきわめて高い。

Claims (6)

  1. リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いて、懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル系化合物の懸濁重合を行うに際し、重合転化率10%以上の時点で、該ビニル系化合物100重量部に対して、側鎖に、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するビニルアルコール系重合体(A)を0.001〜5重量部添加することを特徴とするビニル系樹脂の製造方法。
  2. 前記ビニルアルコール系重合体(A)が、側鎖に、不飽和二重結合、カルボキシル基を有する芳香族基、またはカルボキシル基を有する飽和脂肪族基、を有する請求項1に記載のビニル系樹脂の製造方法。
  3. 前記ビニルアルコール系重合体(A)が、不飽和二重結合、カルボキシル基を有していてもよい芳香族基、カルボキシル基を有する飽和脂肪族基、または炭素数11以上の飽和脂肪族基を有するカルボン酸化合物によりビニルアルコール系重合体(B)をエステル化して得られるビニルアルコール系重合体である請求項1に記載のビニル系樹脂の製造方法。
  4. 前記ビニルアルコール系重合体(B)のけん化度が50〜99モル%である請求項3に記載のビニル系樹脂の製造方法。
  5. 前記カルボン酸化合物が、2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸である請求項3に記載のビニル系樹脂の製造方法。
  6. 前記ビニルアルコール系重合体(A)の、前記カルボン酸化合物による変性量が、前記ビニルアルコール系重合体(B)のモノマーユニットあたり0.01〜50モル%である請求項3に記載のビニル系樹脂の製造方法。
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