JP3905815B2 - ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に関する。さらに詳しくは重合安定性に優れ、かさ比重の高い樹脂を製造することができるとともに、重合廃水の白濁化の問題を生じることがないビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニル系樹脂などのビニル系重合体の製造は、工業的には、水性媒体中で分散安定剤の存在下で塩化ビニルなどのビニル系化合物を分散させ、油溶性開始剤を用いて重合を行う懸濁重合により広く行われている。一般に、ビニル系重合体の品質を支配する因子としては、重合率、水−モノマー比、重合温度、開始剤の種類および量、重合槽の型式、撹拌速度ならびに分散安定剤の種類などが挙げられるが、この中でも分散安定剤の種類による影響が非常に大きい。
材料としての塩化ビニル系樹脂は安価なことが必須条件とされる汎用樹脂であるが、性能面でも種々の特性が要求され、加工時の生産性の面ではとくに高吐出量を要求されることから、かさ比重が高く、加工性に優れる樹脂が求められる。
【0003】
かさ比重が高く、加工性に優れる樹脂を得る方法に関して、特許文献1(特開平8−259609号公報)には、分散安定剤としてエチレン単位の含有量が1〜24モル%およびけん化度が80モル%よりも大きい変性ポリビニルアルコールを用いる方法が開示されている。また、特許文献2(特開平9−241308号公報)および特許文献3(特開平10−251311号公報)には、分散安定剤としてけん化度が85モル%以上の部分けん化ポリ酢酸ビニルを少なくとも一種以上併用する方法が開示されている。しかしながらこのような方法では、得られる樹脂のかさ比重は高くなるものの、重合廃水が白濁してその化学的酸素要求量(COD)が高くなるという問題点がある。また、特許文献4(特開2000−309602号公報)で提案されたビニルアルコール系重合体とアルカリ金属類の塩からなる分散安定剤を用いる製造方法では、得られる樹脂のかさ比重および粒子径分布のシャープさが必ずしも十分に満足できるレベルには達していない。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−259609号公報
【特許文献2】
特開平9−241308号公報
【特許文献3】
特開平10−251311号公報
【特許文献4】
特開2000−309602号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような事情の下で、ビニル系化合物の懸濁重合に際して重合安定性に優れ、かさ比重の高い樹脂が得られるとともに、重合廃水の白濁化の問題を生じることがないビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、エチレン単位の含有量1〜20モル%、けん化度90モル%以上および重合度100〜3000の変性ビニルアルコール系重合体(A)、けん化度60〜90モル%および重合度600〜4000のビニルアルコール系重合体(B)ならびにけん化度30〜60モル%および重合度100〜600のビニルアルコール系重合体(C)からなり、(A)成分/((B)成分+(C)成分)が重量比で5/95〜40/60であるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が上記課題を達成するのに有効であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の懸濁重合用分散安定剤において、変性ビニルアルコール系重合体(A)のエチレン単位の含有量は1〜20モル%であり、好ましくは1〜18モル%であり、さらに好ましくは1〜15モル%であり、最も好ましくは2〜10モル%である。1モル%未満の場合には重合槽に付着するスケールが多くなり、20モル%を越える場合には水溶性が低下して取り扱い性が悪化する。
変性ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度は90モル%以上であり、好ましくは91モル%以上であり、さらに好ましくは92モル%以上である。けん化度が90モル%未満の場合はかさ比重の高い樹脂を得ることができない。
変性ビニルアルコール系重合体(A)の重合度は100〜3000であり、好ましくは150〜2800、さらに好ましくは200〜2600であり、最も好ましくは250〜2200である。重合度が3000を越えると重合廃水が白濁化し、重合度が100未満の場合にはかさ比重の高い樹脂を得ることができない。
【0008】
本発明におけるビニルアルコール系重合体(B)のけん化度は60〜90モル%であり、好ましくは60〜88モル%であり、さらに好ましくは60〜85モル%である。けん化度が90モル%を越えると重合安定性が悪くなる場合がある。
ビニルアルコール系重合体(B)の重合度は600〜4000であり、好ましくは600〜3800、さらに好ましくは600〜3500である。重合度が600未満の場合には重合安定性が悪くなるおそれがある。
【0009】
本発明におけるビニルアルコール系重合体(C)のけん化度は30〜60モル%であり、好ましくは32〜59モル%であり、さらに好ましくは35〜58モル%である。けん化度が60モル%を越えると得られる樹脂の可塑剤吸収性が悪くなる場合があり、30モル%未満では水溶性が低下して取り扱い性が悪くなる場合がある。
ビニルアルコール系重合体(C)の重合度は100〜600であり、好ましくは120〜580、さらに好ましくは150〜550である。重合度が100未満の場合にはかさ比重の高い樹脂を得ることができない。
【0010】
また、ビニルアルコール系重合体(B)とビニルアルコール系重合体(C)は、そのけん化度の差が10モル%以上および/またはその重合度の差が200以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の懸濁重合用分散安定剤において、変性ビニルアルコール系重合体(A)、ビニルアルコール系重合体(B)およびビニルアルコール系重合体(C)の使用比率は、(A)成分/((B)成分+(C)成分)が重量比で5/95〜40/60である。該重量比の下限については6/94以上がより好ましく、7/93以上がさらに好ましい。また、上限については38/62以下が好ましく、35/65以下がさらに好ましい。(A)成分/((B)成分+(C)成分)が重量比で5/95未満の場合にはかさ比重の高い樹脂を得ることができないおそれがあり、40/60を越える場合には得られる樹脂の可塑剤吸収性能が悪化するおそれがある。
【0012】
本発明の懸濁重合用分散安定剤において、ビニルアルコール系重合体(B)およびビニルアルコール系重合体(C)の使用比率は特に制限されないが、通常(B)成分/(C)成分が重量比で20/80〜90/10であることが好適である。該重量比の下限については25/75以上がより好ましく、30/70以上がさらに好ましい。また、上限については85/15以下が好ましく、80/20以下がさらに好ましい。(B)成分/(C)成分が重量比で20/80未満の場合にはかさ比重の高い樹脂を得ることができないおそれがあり、90/10を越える場合には得られる樹脂の可塑剤吸収性能が悪化するおそれがある。
【0013】
本発明において、変性ビニルアルコール系重合体(A)、ビニルアルコール系重合体(B)およびビニルアルコール系重合体(C)の使用量は特に制限されないが、ビニル系化合物100重量部当たり0.01〜5重量部が好ましく、0.02〜2重量部がより好ましく、0.02〜1重量部がさらに好ましい。0.01重量部未満の場合には重合安定性が低下し、5重量部を越える場合には懸濁重合後の廃液が白濁してその化学的酸素要求量(COD)が高くなるおそれがある。
【0014】
本発明において、変性ビニルアルコール系重合体(A)は、従来公知の方法、例えば、特許文献1(特開平8−259609号公報)に記載される方法に従いビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、得られた共重合体を定法によりけん化することにより得られる。同様にビニルアルコール系重合体(B)およびビニルアルコール系重合体(C)もまた、従来公知の方法に従いビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体を定法によりけん化することにより得られる。上記単量体の重合法としては溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など従来公知の方法が適用できる。
【0015】
上記重合に用いられる重合開始剤としては、重合方法に応じて、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)および2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられ、過酸化物系開始剤としてはジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートおよびジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネートおよびt−ブチルパーオキシデカネートなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、ならびに2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。さらには上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを組み合わせたものも開始剤として使用できる。また、レドックス系開始剤としては上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸およびロンガリットなどの還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0016】
けん化反応としては、従来公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いる加アルコール分解、加水分解反応などが適用できる。アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属化合物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの水酸化アルカリ土類金属化合物;アンモニア、トリエチルアミン、エチレンジアミンなどのアミン化合物が挙げられ、酸触媒としては塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸などが挙げられる。中でもメタノールを溶剤としNaOH触媒を用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
【0017】
ビニルエステル系単量体としては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられるが、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0018】
本発明において変性ビニルアルコール系重合体(A)、ビニルアルコール系重合体(B)およびビニルアルコール系重合体(C)は、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アンモニウム基などのイオン性基を導入することにより水溶性を高めても良く、ノニオン基または炭素数2〜16のアルキル基などを導入しても良い。中でも、上記の重合体にカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アンモニウム基などのイオン性基を導入して水溶性を高めることが好ましく、本発明の懸濁重合用分散安定剤は、5〜100℃の水、好ましくは10〜90℃の水に対して水溶性あるいは水分散性であることが好ましい。
【0019】
イオン性基、ノニオン基または炭素数2〜16のアルキル基などが導入された変性ビニルアルコール系重合体は、従来公知の方法に従い、イオン性基、ノニオン基または炭素数2〜16のアルキル基などの置換基を有する単量体、ビニルエステル系単量体およびエチレンを共重合し、得られた変性ビニルエステル系重合体をけん化することにより得られる。また、従来公知の方法に従い、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下でビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、得られた変性ビニルエステル系重合体をけん化することにより得られる末端変性物も用いることができる。
同様に、イオン性基、ノニオン基または炭素数2〜16のアルキル基などが導入されたビニルアルコール系重合体は、従来公知の方法に従い、イオン性基、ノニオン基または炭素数2〜16のアルキル基などの置換基を有する単量体とビニルエステル系単量体を共重合し、得られたビニルエステル系重合体をけん化することにより得られる。また、従来公知の方法に従い、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下でビニルエステル系単量体を重合し、得られたビニルエステル系重合体をけん化することにより得られる末端変性物も用いることができる。
上記重合体のけん化度はビニルエステル基とビニルアルコール基の比から求められ、導入されたイオン性基、ノニオン基またはアルキル基などのけん化度は含まれない。
【0020】
上記のイオン性基を有する単量体としては特に制限はないが、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有単量体およびそれらの塩;エチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホアルキルマレート、スルホアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸含有単量体およびそれらの塩;N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノブチル)(メタ)アクリルアミド、N−ビニルイミダゾール、2−メチル−N−ビニルイミダゾール、ビニル−3−ジメチルアミノプロピルエーテル、ビニル−2−ジメチルアミノエチルエーテル、アリル−3−ジメチルアミノプロピルエーテル、アリルジメチルアミン、メタアリルジメチルアミンなどのアミノ基含有単量体またはアンモニウム基含有単量体などが挙げられる。
【0021】
本発明における変性ビニルアルコール系重合体(A)、ビニルアルコール系重合体(B)およびビニルアルコール系重合体(C)は、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合したものであっても差し支えない。そのような単量体としては例えば、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸のエステル誘導体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0022】
次に本発明の懸濁重合用分散安定剤を用いたビニル系化合物の懸濁重合によるビニル系重合体の製造方法について説明する。
【0023】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を用いてビニル系化合物を水性媒体中で懸濁重合するに際し、水性媒体の温度には特に制限はなく、20℃程度の冷水はもとより、90℃以上の温水も好適に用いられる。この水性媒体としては、純粋な水のほかに、各種の添加成分を含有する水溶液あるいは他の有機溶剤を含む水性媒体を挙げることができる。また、除熱効率を高めるためにリフラックスコンデンサー付重合器も好適に用いられる。
【0024】
本発明の分散安定剤は、塩化ビニルなどのビニル系化合物を水性媒体中で懸濁重合する際に通常使用されるメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル、ポリビニルアルコールならびにゼラチンなどの水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレートおよびエチレンオキシドプロピレンオキシドブロックコポリマーなどの油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレートおよびラウリン酸ナトリウムなどの水溶性乳化剤などを併用しても良い。その添加量については特に制限はないが、塩化ビニルなどのビニル系化合物100重量部当たり0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0025】
本発明の分散安定剤を用いた懸濁重合において、重合開始剤としては従来塩化ビニルなどのビニル系化合物の重合に使用されているものを使用することができ、具体的には上記ビニルエステル系単量体の重合法において例示したものと同様の開始剤が使用できる。また、その他の各種添加剤も必要に応じて使用することができ、各種添加剤としては、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、トリクロロエチレン、パークロロエチレンおよびメルカプタン類などの重合度調節剤;フェノール化合物、イオウ化合物およびN−オキシド化合物などの重合禁止剤などが挙げられる。さらに、pH調整剤、スケール防止剤、架橋剤などを加えることも任意であり、上記の添加剤を複数併用しても差し支えない。
【0026】
本発明の分散安定剤を用いて懸濁重合することのできるビニル系化合物としては、具体的には塩化ビニル単独のほか、塩化ビニルを主体とする単量体混合物(塩化ビニル50重量%以上)が包含され、この塩化ビニルと共重合されるコモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル、その他塩化ビニルと共重合可能な単量体が例示される。さらには、塩化ビニルを含まない上記ビニル系化合物を単独で重合もしくは共重合する場合においても、本発明の分散安定剤を用いることができる。
【0027】
本発明の分散安定剤を用いて懸濁重合するに当たって、各成分の仕込み割合、重合温度などは、従来塩化ビニルなどのビニル系化合物の懸濁重合で採用されている条件に準じて定めればよい。また、ビニル系化合物、重合開始剤、分散安定剤、水性媒体およびその他添加物の仕込み順序や比率については、なんら制限されない。また、温水を用いると同時に、ビニル系化合物を重合器に仕込む前にビニル系化合物を加熱しておく方法も好適に用いられる。
【0028】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」および「部」は特に断りのない限り、「重量%」および「重量部」を意味する。また、以下においてポリビニルアルコールをPVA、ポリ酢酸ビニルをPVAcと略記することがある。
【0029】
(変性PVA系重合体およびPVA系重合体の分析)
(1)重合度
JIS K6726に従って測定した。
(2)けん化度
JIS K6726に従って測定した。
【0030】
(塩化ビニル系単量体の重合性および得られた塩化ビニル系重合体の特性評価)
(1)かさ比重
JIS K6721に従って測定した。
(2)スケール付着性
重合体スラリーを重合槽外に取り出した後、重合槽内におけるスケール付着の状態を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:重合体スケールの付着がほとんどない
△:重合槽内壁に白色の重合体スケールが確認できる
×:重合槽内壁に白色の重合体スケールが多く確認できる
(3)重合廃水透明性評価
重合終了時に廃水の透明性について目視観察および透過度測定を行い、以下の基準により評価した。
◎:廃水が完全に透明(透過度85%以上)
○:廃水がほぼ透明(透過度70%以上85%未満)
△:廃水がやや白い(透過度50%以上70%未満)
×:廃水が極めて白濁(透過度50%未満)
ここで、重合廃水の透過度は、UV分光光度計(島津製作所製UV2100)を用いて波長500nm、温度20℃、測定試料の光路長1cmで測定した。
【0031】
製造例1(変性PVA系重合体の製造)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に酢酸ビニル76.6kg、メタノール73.3kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が0.65MPaとなるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液32mLを注入し、重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を0.65MPaに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を0.552L/hrで連続添加した。3時間後に重合率が20%に達したところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニル単量体を除去し、変性PVAcのメタノール溶液を得た。30%に調整した該溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/変性PVAc中のビニルエステル単位のモル数)が0.02となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVAのけん化度は98モル%であった。
重合後に未反応酢酸ビニル単量体を除去して得られた変性PVAcのメタノール溶液をn−ヘキサンに投入して変性PVAcを沈殿させ、回収した変性PVAcをアセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、60℃で減圧乾燥して変性PVAcの精製物を得た。該変性PVAcのプロトンNMR測定から求めたエチレン単位の含有量は10モル%であった。上記の変性PVAcのメタノール溶液をアルカリモル比0.2でけん化した後、メタノールによるソックスレー抽出を3日間実施し、次いで乾燥して変性PVAの精製物を得た。該変性PVAの平均重合度を定法のJIS K6726に準じて測定したところ500であった。
上記操作により重合度500、けん化度98モル%、エチレン含有量10モル%の変性PVA系重合体(P−1)を得た。
【0032】
製造例2〜6(変性PVA系重合体の製造)
酢酸ビニル単量体、メタノール、エチレン圧、開始剤などの仕込量、およびけん化時の水酸化ナトリウムのアルカリモル比を変更した以外は製造例1と同様に重合、けん化操作を行い、乾燥して脱溶剤することにより目的とする変性PVA系重合体(P−2〜P−6)を得た。分析結果を表1に示す。
【0033】
製造例7〜11(PVA系重合体の製造)
エチレンを使用せず、酢酸ビニル単量体、メタノール、開始剤などの仕込量、およびけん化時の水酸化ナトリウムのアルカリモル比を変更した以外は製造例1に準じて重合、けん化操作を行い、乾燥して脱溶剤することにより目的とするPVA系重合体(P−7〜P−11)を得た。分析結果を表1に示す。
【0034】
製造例12(側鎖にカルボキシル基を含有する変性PVA系重合体の製造)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、添加剤導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル26.5kg、メタノール33.5kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が0.22MPaとなるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調製し、コモノマーとしてイタコン酸をメタノールに溶解した濃度10%溶液を調製し、それぞれ窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整し、イタコン酸11.8gを添加した後に、上記の開始剤溶液95mLを注入し、重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を0.22MPaに、重合温度を60℃に維持し、イタコン酸の10%メタノール溶液を600mL/hr、上記の開始剤溶液を298mL/hrでそれぞれ連続添加した。5時間後に重合率が60%に達したところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニル単量体を除去し、変性PVAcのメタノール溶液を得た。30%に調整した該溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/変性PVAc中のビニルエステル単位のモル数)が0.02となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVAのけん化度は98モル%であった。
重合後に未反応酢酸ビニル単量体を除去して得られた変性PVAcのメタノール溶液をn−ヘキサンに投入して沈殿させ、回収した変性PVAcをアセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、60℃で減圧乾燥して変性PVAcの精製物を得た。該変性PVAcのプロトンNMR測定から求めたエチレン単位の含有量は5モル%、イタコン酸単位の含有量は1モル%であった。上記の変性PVAcのメタノール溶液をアルカリモル比0.2でけん化した後、メタノールによるソックスレー抽出を3日間実施し、次いで乾燥して変性PVAの精製物を得た。該変性PVAの平均重合度を定法のJIS K6726に準じて測定したところ400であった。
上記操作により重合度400、けん化度98モル%、エチレン含有量5モル%で、側鎖にイオン性基としてカルボキシル基を含有する変性PVA系重合体(P−12)を得た。分析結果を表1に示す。
【0035】
製造例13(側鎖にカルボキシル基を含有するPVA系重合体の製造)
エチレンを使用せず、酢酸ビニル単量体、メタノール、開始剤などの仕込量、およびけん化時の水酸化ナトリウムのアルカリモル比を変更した以外は製造例12に準じて重合、けん化操作を行い、乾燥して脱溶剤することにより、側鎖にイオン性基としてカルボキシル基を含有するPVA系重合体(P−13)を得た。分析結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例1〜8および比較例1〜5(塩化ビニルの重合)
グラスライニング製オートクレーブに、表2に示した分散安定剤を溶かした脱イオン水40部およびジイソプロピルパーオキシジカーボネートの70%トルエン溶液0.04部を仕込み、オートクレーブ内を0.0067MPaとなるまで脱気して酸素を除いた後、塩化ビニル単量体30部を仕込み、撹拌下に57℃に昇温して重合を行った。重合開始時、オートクレーブ内の圧力は0.83MPaであったが、重合開始7時間後に0.44MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニル単量体をパージし、内容物を取り出し脱水乾燥した。塩化ビニル重合体の重合収率は85%であり、平均重合度は1050であった。塩化ビニルの重合性、得られた塩化ビニル重合体の特性および重合廃水を評価した結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
【発明の効果】
本発明のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤は、ビニル系化合物を懸濁重合する際の重合安定性に優れており、かさ比重の高い樹脂が得られる。さらに、重合廃水の白濁化の問題が生じず、廃水の化学的酸素要求量(COD)が低いことから環境に及ぼす影響が顕著に軽減され、その工業的評価は極めて高い。
Claims (4)
- エチレン単位の含有量1〜20モル%、けん化度90モル%以上および重合度100〜3000の変性ビニルアルコール系重合体(A)、けん化度60〜90モル%および重合度600〜4000のビニルアルコール系重合体(B)ならびにけん化度30〜60モル%および重合度100〜600のビニルアルコール系重合体(C)からなり、(A)成分/((B)成分+(C)成分)が重量比で5/95〜40/60であるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
- ビニルアルコール系重合体(B)とビニルアルコール系重合体(C)とのけん化度の差が10モル%以上および/または重合度の差が200以上である請求項1に記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
- 変性ビニルアルコール系重合体(A)がカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アンモニウム基またはカチオン基を有する変性ビニルアルコール系重合体であることを特徴とする、水溶性もしくは水分散性である請求項1または2に記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
- ビニル系化合物が塩化ビニルを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
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