本発明は、熱エネルギーと電気エネルギーとを相互に変換することのできる熱電変換材料を用いた熱電変換デバイスと、それを用いた冷却方法および発電方法とに関する。
熱電変換は、物質に温度勾配を付けたときに起電力が生じるゼーベック効果と、物質中に電流を流した際に温度勾配が生じるペルチェ効果とを利用した技術である。
より具体的には、例えばp型半導体とn型半導体といったキャリアの符合が互いに異なる2つの物質を、熱的に並列に、かつ、電気的に直列に接続した構成によって、温度差を印加した場合にはゼーベック効果による熱電発電を、電流を流した場合にはペルチェ効果による熱電冷却を行う技術である。
熱電変換を利用した技術は、現状では他の技術に比べて効率が低いので、僻地用電源、宇宙用電源、電子機器などの局所冷却、ワインクーラーなどの、ごく限られた特殊用途にのみ利用されている。
熱電変換デバイスに用いられる熱電変換材料の性能は、性能指数Z、または、Zに絶対温度Tをかけて無次元化された性能指数ZTで評価される。
ZTは、物質のゼーベック係数S、電気抵抗率ρおよび熱伝導率κ、を用いて、ZT=S2T/ρκで記述される量で、ZTの値が大きい材料ほど熱電変換材料として優れていることになる。
現在、特殊用途ながらも実用として主に用いられている熱電変換材料は、半導体のBi2Te3である。
しかしながら、Bi2Te3には、高温での不安定性、毒性、元素が豊富には存在しないこと、などの問題がある。
層状酸化物のNaxCoO2が良い熱電変換性能を示す物質であることが発見されて以来(特開平9−321346号公報(文献1)および国際公開第03/085748号パンフレット(文献2)参照)、より高い熱電変換性能を持つ層状酸化物の発見を目指し、鋭意、物質を探索することが行われている。
層状酸化物は、高温空気中でも安定であるなどの利点を持つ。
また、層状酸化物の大きな特徴として、次元異方性が強いこと、多くの物質は電気伝導を担う2次元の電気伝導層と電気絶縁層とからなる層状の結晶構造(以下、層状構造という場合がある。)を持つこと、が挙げられる。
図1に、CoO2からなる電気伝導層と、Naからなる電気絶縁層とが、1モノレイヤーごとにc軸方向に積層した、NaxCoO2の結晶構造を示す。
NaxCoO2の熱電特性は異方性が強く、S⊥c/S‖c〜2、ρ⊥c/ρ‖c〜0.025程度である。
ここで、c軸に対して垂直方向、すなわち層状構造に対して(各層に対して)平行方向のゼーベック係数と電気抵抗率とをそれぞれS⊥cとρ⊥cと表し、c軸に対して平行方向、すなわち層状構造に対して(各層に対して)垂直方向のゼーベック係数と電気抵抗率とをそれぞれS‖cとρ‖cと表している。
すなわち、NaxCoO2については、ZTで比較した場合、c軸に対して垂直方向の方がc軸方向よりも特性が良いと考えられている。
したがって、従来においては、層状酸化物のc軸に対して垂直方向、すなわち層構造に対して平行方向にキャリアまたは熱が流れるように熱電変換デバイスを構成することが、効率の面から有利であるとされてきた。
一方、通常の方法で作製される熱電変換材料は、結晶配向性を持たない多結晶である。したがって、このような多結晶材料を用いて、c軸に対して垂直方向にのみキャリアまたは熱が流れるような構成にすることは、事実上不可能である。
また、多結晶材料中に多数存在する結晶粒界においてキャリアが散乱され電気抵抗が増大することも、性能悪化の要因になる。
このような理由から、熱電変換材料としては、結晶方位の揃った状態のものを作製する必要がある。結晶方位の揃った熱電変換材料を作製する方法として、例えば薄膜の場合は、Al2O3の単結晶C面基板をテンプレートとして用いるなどして結晶配向を制御する方法が挙げられる。
現状では、Bi2Te3や層状酸化物をもってしても、通常のデバイス構成では性能が不十分であり、民生用途での本格的な実用化のためにはさらなる性能の向上が必要である。
一方、材料自体のZTを向上させる試みとは別に、デバイス構成の改善による効率向上を目指した試みもある。
Shakouriらは、放熱側の電極に比べて小面積の冷却側電極を配置した熱電冷却デバイスを提案している(Applied Physics Letters Vol.85,pp.2977−2979(2004)(文献3)参照)。
しかし、この熱電冷却デバイスに用いられているのは等方的な熱電特性を有する材料であるため、上記の構成では、材料内での電流の拡散を促進し、ジュール熱の戻りを抑制する以外の効果は無かった。したがって、高々数倍程度効率が向上するのみであり、十分な効率を有するデバイスの実現には至っていない。
前述の通り、従来の熱電変換デバイスは性能が十分ではなく、民生用途で一般的に用いられるに足るだけの十分な効率を得ることができなかった。
そこで、本発明は、高効率の熱電変換デバイスと、それを用いた冷却方法および発電方法とを提供することを目的とする。
本発明者らは、実用的な性能を持つ熱電変換デバイス実現のため、層状酸化物の熱電変換材料を用いたデバイス構成に関して鋭意研究を重ねてきた結果、層状酸化物の層状構造を挟み込むように、面積の異なる電極を配置した熱電変換デバイスにおいて、熱電特性が従来と比較して大幅に向上するという意外な知見を見出し、この知見に基づいて、この熱電効果性能を有効に発揮することが可能な本発明の熱電変換デバイスの発明に至った。
本発明の熱電変換デバイスは、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極との間に挟まれた層状酸化物と、を有し、前記第1電極、前記層状酸化物および前記第2電極がこの順に配置されて多層体を形成しており、前記層状酸化物は、電気伝導層と電気絶縁層とが交互に配置されてなり、前記層状酸化物のc軸は、前記第1電極と前記層状酸化物との間の界面に対して垂直であり、前記第2電極の面積が、前記第1電極の面積よりも小さくなるように構成されている。
なお、本発明において、「電極の面積」とは、特に説明がない限り、電極と層状酸化物とが形成する界面の面積、すなわち電極と層状酸化物との接合面積のことである。また、本発明において、層状酸化物のc軸が第1電極と層状酸化物との間の界面に対して「垂直」とは、層状酸化物のc軸と前記界面とのなす角度が、後述する本発明の特異な効果が得られる程度の角度範囲内にある場合も含む意味である。すなわち、本発明においては、本発明の特異な効果が得られる場合であれば、それも「垂直」に含むものであり、例えば、0°〜15°の範囲内と考えられる。
本発明の熱電変換デバイスによれば、異方的な電気伝導度を有する層状酸化物と、前記層状酸化物を挟み込むように配置された面積の異なる電極(第1電極および第2電極)と、の間における特異な効果により、高い熱電変換特性が得られる。これにより、従来の性能を超える高効率の熱電変換が可能となり、実用的な熱電変換デバイスを実現できる。
また、本発明の熱電変換デバイスには、フォトリソグラフィーなどの従来の薄膜素子形成のプロセスが適用できるので、微細な素子設計および製造が容易となる。すなわち、熱と電気とのエネルギー変換の応用を促進させることができるため、本発明の工業的価値は高い。
本発明の冷却方法は、上記した本発明の熱電変換デバイスを用いる方法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加して電流を流すことによって前記第1電極と前記第2電極との間に温度差を生じさせ、前記第1電極および前記第2電極の何れか一方を低温部とする方法である。
本発明の発電方法は、上記した本発明の熱電変換デバイスを用いる方法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に温度差を印加することによって、前記第1電極と前記第2電極との間に電位差を生じさせる方法である。
図1は、本発明の熱電変換デバイスの実施の形態において用いられる層状酸化物の一例であって、電気伝導層と電気絶縁層とが1モノレイヤー毎に積層してなる層状酸化物の結晶構造を示した図である。
図2は、実施の形態1における熱電変換デバイスの断面構成を示した図である。
図3は、本発明の熱電変換デバイスの実施の形態において用いられる層状酸化物の他の例であって、電気絶縁層が4原子層からなる層状酸化物の結晶構造を示した図である。
図4Aは、実施の形態2における熱電変換デバイスの断面構成を示した図であり、図4Bは、図4AのI−I線断面図である。
図5A〜図5Dは、実施の形態2における熱電変換デバイスにおいて、コンタクトホールの形状が異なる熱電変換デバイスの各構成例を示した断面図である。
図6は、実施例1における熱電変換デバイスに用いられたBi2Sr2Co2Oy薄膜のX線回折パターンを示すグラフである。
図7は、実施例1における熱電変換デバイスにおいて、キャリアの流れと熱の流れを模式的に表した図である。
図8A〜図8Dは、実施例4における熱電変換デバイスの製造工程を示した断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1における熱電変換デバイスの構成を示した断面図である。
図2に示す本実施の形態の熱電変換デバイスは、第1電極21、材料層22、第2電極23がこの順に配置された多層体(積層体)によって形成されている。材料層22は層状の結晶構造を有する層状酸化物によって形成されており、その層状構造を挟むように(その層状構造を層に平行な面で挟むように)第1電極21および第2電極23が配置されている。
以降、特に説明が無い限り、「電極の面積」と記載した場合、電極と材料層22とが形成する界面の面積、すなわち電極と材料層22との接合面積を表すこととする。
本実施の形態の熱電変換デバイスでは、第1電極21の面積に比較して第2電極23の面積が小さいことを特徴とする。
大きな熱電変換効果を得るためには、第1電極21の面積が第2電極23の面積の20倍以上であることが好ましい。言い換えると、第1電極21と第2電極23の面積比((第2電極の面積)/(第1電極の面積))は、0.05以下であることが好ましい。より好ましい面積比は、2.0×10−3以下であり、5.0×10−4以下であることがさらにより好ましい。また、第1電極21と第2電極23の面積比は、1.0×10−5以上が好ましい。
層状の結晶構造を持つ熱電変換材料には層状酸化物などがあるが、結晶学的にはこれらの物質の結晶の層間方向、すなわち層に対してほぼ垂直な方向をc軸方向と呼んでいる。
本実施の形態の熱電変換デバイスでは、材料層22は、薄膜または単結晶で形成されている。薄膜の場合は、c軸配向した薄膜または単結晶エピタキシャル薄膜である。
前述のいずれの場合も、結晶のc軸が、第2電極23が配置される材料層22の端面に対してほぼ垂直になるような結晶配向をとる。
図2に示したように、第1電極21および第2電極23は、材料層22の層状構造を挟むように形成され、第1電極21と第2電極23との間に電圧を印加した際、材料層22の結晶のc軸方向に平行、すなわち層構造に対して垂直方向に電流が流れるようになっている。
この構成は、c軸に対して垂直方向に電流を流す方が効率が良いと考えられてきた通常の概念とは異なる。
第1電極21は電気伝導の良い材料であれば特に限定されるものでないが、材料層22が薄膜の場合は、材料層22がc軸配向成長もしくは単結晶状にエピタキシャル成長する基点となるような材料を用いるのが好ましい。
具体的には、結晶配向したPt、Ti、Au、Cr、Ni、Ir、Ruなどの金属、TiN、IrO2、RuO2、SrRuO3、ITO(スズ添加酸化インジウム)などの窒化物または酸化物が好適に用いられる。
第2電極23は電気伝導の良い材料であれば特に限定されない。具体的には、Pt、Au、Ag、Cu、Al、Ti、Cr、Wなどの金属またはTiN、IrO2、RuO2、SrRuO3、ITOなどの窒化物または酸化物が好適に用いられる。
材料層22は、層状の結晶構造を持ち、かつ、結晶中の方位によって電気伝導度が異なる層状酸化物である。この層状酸化物は、空気中で安定である点で、半導体などの他の熱電変換材料と比較して有利である。
この中で熱電変換特性に優れている材料は、例えば図1に示したような層状酸化物である。この層状酸化物は、電気伝導層11と電気絶縁層12とが交互に積層し、電気伝導層11がCoO2八面体によって構成される結晶構造であり、ペロブスカイト型の他に特に良く知られている結晶構造は、CoO2八面体が互いに稜を共有しながら層を形成する、いわゆるCdI2型構造から成る結晶構造である。
NaxCoO2をはじめとするCdI2型構造を有する層状酸化物は、他の酸化物と比較して熱電変換特性が高く、本実施の形態の熱電変換デバイスを構成するのに適している。
ここで、電気絶縁層12の各層は、1層以上の原子層または酸化物の層によって、互いに隔てられている。
より具体的には、電気絶縁層12として図3に示したような4層の岩塩構造(4原子層の岩塩型絶縁層)であるSr2Bi2O4が挿入されたBi2Sr2Co2Oyや、結晶の安定性を強化するためにBiの一部をPbで置き換えたBi2−xPbxSr2Co2Oyなどを挙げることができる。
ここで、xは材料が安定に作製できる範囲であれば良く、具体的には0≦x≦0.5である。
酸素の組成は化学量論比ではy=8となるが、作製条件などにより不定比性が存在することが考えられることと、酸素量の測定が困難であること、などから、yは7.5≦y≦8.5の範囲にあると考えられる。
この電気絶縁層12は、3層の岩塩構造(3原子層の岩塩型絶縁層)をとることも可能である。その場合の層状酸化物の組成式は、((Ca1−x1Srx1)1−x2Bix2)3Co4Oy(0≦x1≦1、0≦x2≦0.3、8.5≦y≦9.5)となる。
x1、x2およびyの範囲は、前述のBi2−xPbxSr2Co2Oyと同様の理由から規定される。
さらに、電気絶縁層12は、図1のように1層(1原子層)であることも可能である。このときの材料層22の化学式は、AxCoO2と表される。
ここで、A元素は、Na、K、Liなどのアルカリ金属、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属のうち少なくとも1種類の元素からなる。
なお、A元素の一部を、Hg、Tl、Pb、Biに置換してもよい。
電気絶縁層12は、A元素によって構成される。A元素はアルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属元素からなるが、これらの元素は結晶中の各サイトを100x%の割合でランダムに占有しているためにキャリアの散乱が頻繁に起こり、たとえ単体で金属であるものを用いても電気絶縁的な性質を持つ。
なお、xについては、0.1≦x≦0.8の範囲で、ある程度人為的に調整可能である。
電気絶縁層12にO(酸素)が含まれる場合、このO(酸素)に代えて、S(イオウ)やSe(セレン)を用いることも考えられる。
上記の層状酸化物において、Coの一部をNi、Ti、Mn、Fe、Rhのうち少なくとも1種類の元素で置換してもよい。
なお、層状酸化物における酸素の量は、化学式通りであることが好ましい。しかし、以下各々の化学式を参照して説明するが、実際に本実施の形態に係る熱電変換デバイスを作製する際の作製方法、作製条件などにより、厳密に層状酸化物における酸素の量を化学式通りにすることは困難であり、実際には±0.5程度の酸素不定比性が存在することが想定される。
この層状酸化物は、一層が1ないし3モノレイヤーのMO2からなる(Mは金属であり、例えば、Mn、Coなどを含む遷移金属が挙げられる。)電気伝導層11と、一層が1ないし4モノレイヤーからなる電気絶縁層12との交互積層からなる。
4モノレイヤー以上の厚みの電気伝導層11を有する材料層22や、5モノレイヤー以上の厚みの電気絶縁層12を有する材料層22を作製することは、技術的に困難である。
この構成によれば、キャリアがホールである場合、図2に示す熱電変換デバイスにおいて第2電極23から第1電極21へ電流を流すことで、材料層22の内部に電流が流れ、それに付随して熱が運ばれることにより、第2電極23の側で吸熱、第1電極21の側で発熱現象が起こる。
言うまでもないが、電流の流す向きを逆にすれば、第2電極23の側で発熱、第1電極21の側で吸熱現象が起こる。
一方、キャリアが電子である場合、図2に示す熱電変換デバイスにおいて第2電極23から第1電極21へ電流を流すことで、第2電極23の側で発熱、第1電極21の側で吸熱現象が起こる。
電流の流す向きを逆にすれば第2電極23の側で吸熱、第1電極21の側で発熱現象が起こる。
上記それぞれの場合において、吸熱側の電極が低温部となる。
従来、材料層22のc軸方向の電気抵抗は大きく、またゼーベック係数は小さいので、熱電変換性能ZTは小さくて使用に足るものではないと考えられていた。
詳細は後述する実施例で述べるが、本発明者らは様々な条件を検討し最適化することにより、層状構造および異方的な熱電特性を有する様々な種類の材料層22と電極界面との関係、電極の大きさ、および印加する外場の大きさと熱電変換性能の関係を詳細に調べていく過程で、第1電極21の面積を第2電極22の面積よりも大きくすることにより、本発明の熱電変換デバイスにおいて予想外に大きな熱電変換性能が得られることを見出した。
この理由として、一つは文献3に開示されたデバイスと同様の電流の拡散現象によるジュール熱の戻りの抑制によるものが考えられる。しかし、本発明の熱電変換デバイスが実現する熱電変換性能は桁違いに大きく、また文献3に開示されたデバイスとは異なる振る舞いを示していたので、単なるジュール熱の戻りが抑制されているという解釈だけでは理解できないものであった。
材料層22の層方向に平行な1対の端面に面積が互いに異なる第1電極21および第2電極23を配置し、これら第1電極21と第2電極23とで材料層22を挟み込むようにして熱電変換デバイスを作製し、これらの第1電極21および第2電極23との間に電流のような外場を加えた場合、第1電極21の面積と第2電極23の面積とが同じである場合と比較して、大きな熱電変換性能が確認された。この効果を利用して、本実施の形態の熱電変換デバイスを冷却素子として機能させることが可能である。すなわち、第1電極21と第2電極23との間に電圧を印加して電流を流して、第1電極21および第2電極23の何れか一方を低温部とすることによって、本実施の形態の熱電変換デバイスを用いた高効率の冷却方法を実現できる。
また、同様の構成において、第1電極21と第2電極23との間に温度差を設けることにより、材料層22内で熱エネルギーを持ったキャリアがその温度差を打ち消すように第1電極21および第2電極23の間を移動することから、結果として電流が流れる。すなわち、第1電極21および第2電極23間に温度差が印加されることによって、本実施の形態の熱電変換デバイスが電力発生素子として機能する。
この効果を利用し、本デバイスから第1電極21および第2電極23を介して電力を取り出すことが可能である。すなわち、第1電極21と第2電極23との間に温度差を印加することによって、本実施の形態の熱電変換デバイスを用いた高効率の発電方法を実現できる。
以上のように、本発明によれば、熱電発電デバイスとしての高い効果を得ることができる。
本実施の形態の熱電変換デバイスにおける材料層22は、結晶の層の向き、すなわち結晶のc軸の向きが揃った形態であることが要求される。
より具体的には、単結晶やエピタキシャル薄膜であることが望ましい。層状物質の単結晶は、フローティングゾーン法やフラックス法など、単結晶作製に一般的に用いられる手法によって合成される。
本発明の熱電変換デバイスを、スパッタ法などの薄膜プロセスを利用して作製する場合、デバイスの構造を支持するための基体を使用することによってプロセスが容易になる。
この場合、まず基体上に第1電極21を形成し、その後材料層22、第2電極23の順に成膜を行う。
小面積の第2電極23のパターン作製には、メタルマスクを介した電極材料の気相成長またはクリームはんだ塗布や、フォトレジストを用いたリフトオフ、イオンビームエッチングまたは電解めっきなどの様々な方法が用いられる。
第1電極21の作製時には、結晶成長を促すために使用する基体の材料を適切に選択することが好ましい。また、材料層22においては、成膜時の加熱温度が重要である。
スパッタ法を用いる場合の基板温度は、層状酸化物では650℃から800℃の範囲であることが好ましい。
これらの条件を満たしていれば、作製方法は特に限定されないので、スパッタ法、蒸着法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法などの気相成長によるもの、あるいは電着などの液相や固相からの成長など、種々の薄膜形成方法が使用可能である。
基体の材料としては、Al2O3、MgO、SrTiO3、LaAlO3、NdGaO3、YAlO3、LaSrGaO4、LaSrAlO4、MgAl2O4、ZnO、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、ZrO2、TiO2(ルチルもしくはアナターゼ)、Fe2O3、Cr2O3、Si、GaAsなどの単結晶材料が好ましい。
液相エピタキシャルプロセスなどで材料層22の厚膜を作製する場合、単結晶材料の基体表面から直接成長を行うこともできるが、より結晶性の良い厚膜を得るためには、結晶性薄膜の初期成長層をスパッタなどの方法であらかじめ形成した後に、厚膜形成を行うのが好ましい。液相プロセスとしては、例えばNa0.5CoO2薄膜の場合には、NaClをフラックスとしてCo3O4およびNa2CO3の粉体を混ぜて1000℃で溶かした融液中に薄膜を基体ごと浸し、900℃にまで徐々に冷却することにより、1mm程度のNa0.5CoO2厚膜を構成することが可能である。
本実施の形態における熱電変換デバイスを冷却用途に用いる場合に流す電流は、実効的な熱の移動を伴わずにジュール熱の発生による損失だけに寄与する交流ではなく、直流であることが好ましい。また、定電流だけではなく、直流のパルス電流も組み合わせることで、所望の冷却性能に応じた効率の良い駆動を行うことができる。
材料層22は、基板面(すなわち、第1電極21の上面)と平行な面で材料層22を切断した際に現れる断面の面積(以下、「断面積」という。)が、材料層22の高さ(すなわち、厚み)に拘わらず、一定であることが好ましい。
材料層22の厚みは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲で設定することができ、好ましくは50μm〜200μmの範囲である。
(実施の形態2)
図4Aは、本発明の実施の形態2における熱電変換デバイスの構成を示した断面図である。図4Bは、図4Aで指示した箇所での切断面(I−I線断面)を示した図である。なお、図4Bにおいて、第2電極23のハッチングを省略する。
本実施の形態の熱電変換デバイスでは、材料層22と第2電極23とが複数領域で接している。言い換えれば、材料層22上に複数の第2電極23が配置されており、かつ、各々の第2電極23が互いに電気的に接続されて形成されている。このような構成によって、本実施の形態の熱電変換デバイスは、高い熱電特性を維持しながら、実効的な面積を大きくすることができる。なお、説明の便宜上、電気的に互いに接続された複数の第2電極23を、まとめて第2電極23ということがある。
上記のような構成は、まず材料層22上に小面積のコンタクトホールパターンを複数有する層間絶縁層41を形成し、その上に第2電極23を作製することによって実現できる。第2電極23は、層間絶縁層41に形成されたコンタクトホールを介して、材料層22と接している。これにより、高い熱電特性と広い実効面積を有するデバイスが実現可能である。
本実施の形態における第1電極21、材料層22および第2電極23の作製には、実施の形態1に記載した材料や作製方法が適用可能である。また、第2電極23の面積(材料層23と1つの第2電極23との接触面積)と第1電極21の面積との関係(面積比など)についても、実施の形態1の場合と同様の関係を適用できる。
さらに、第2電極23の作製には、スパッタ法や蒸着法などの気相成長による方法の他に、めっきやクリームはんだ塗布などの簡便な方法を用いることができる。
層間絶縁層41としては、電気的な絶縁性を持つ材料であれば特に限定されるものでないが、熱伝導率が低い材料を用いることが好ましい。このような材料で層間絶縁層41を形成することによって、材料層22と第2電極23との接点近傍においてのみ効率的に温度差が生じるので、有利である。
熱伝導率が低い絶縁材料としては、例えば、多孔質シリカなどの無機多孔体や有機樹脂が使用可能である。
有機樹脂のうち、特にフォトレジストや感光性ポリイミドを用いると、一般的なフォトリソグラフィーの手法で簡便にパターン形成ができるので有利である。
多くのネガ型フォトレジストや感光性ポリイミドのような耐溶剤性の材料を用いた場合、後で溶剤を使用するプロセスを経ても構造を維持できるので好ましい。
第2電極23の作製に、蒸着など飛来粒子の直進性が高いプロセスを用いた場合、コンタクトホールの側壁における第2電極23の膜のカバレッジが良くない場合がある。この場合、図5Aに示すようにコンタクトホール51の側壁が切り立っていると、良好な導電性が得られない可能性がある。
したがって、直進性が高いプロセスを用いる場合は、図5Bに示すように、側壁が緩やかなテーパー形状を有するコンタクトホール52を形成することが好ましい。
図5Bに示すようなテーパー形状を有するコンタクトホール52を作製する方法は様々なものがあるが、例えば層間絶縁層41にネガ型感光性ポリイミドを用いる場合、前述のようなプロセスでコンタクトホールパターンを形成した後、ArやN2など不活性ガス雰囲気下において200〜350℃で30〜60分程度ベークすることで、側壁がテーパー形状のコンタクトホール52を形成することができる。
第2電極23は、図5Aや図5Bに示したように、層間絶縁層41の表面上に薄膜状に形成される構成の他に、図5Cや図5Dのような厚膜とすることもできる。この場合、表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)などの方法で平滑化することによって、本デバイスの上にさらにセンサーなどの別の機能素子を形成し、全体としてモノリシックなデバイスを作製することができる。
本発明について、実施例を用いてより具体的に説明する。
(実施例1)
RFマグネトロンスパッタにより、4層の岩塩構造からなる絶縁層を有するBi2Sr2Co2Oy(以下、「BSCO」と表記する。)を用いて、本実施例の熱電変換デバイスを作製した。なお、本実施例では、図2に示した構成の熱電変換デバイスを作製した。
BSCOは、層状酸化物の中でも比較的異方性が大きく、層間方向(c軸方向)に比べて層内方向の電気伝導度は約10000倍である。
第1電極21となる下部電極に厚さ200nmのPt、材料層22に厚さ5μmのBSCO、第2電極23となる上部電極に厚さ1000nmのAuを用いた。
BSCOにおけるyの値は、理想的にはy=8である。しかし、作製条件によっては±0.5程度の酸素不定比性を生じるため、yは、7.5≦y≦8.5の範囲内にあると考えられる。
基板には、10mm角、厚さ500μmのサファイアAl2O3のC面基板を使用した。
第1電極21(Pt)は基板の表面全体(面積1.0×108μm2)に作製した。第1電極21の作製条件は、基板温度を650℃、成長時のガス圧を1Paとし、雰囲気ガスはArのみを使用し、投入電力を80Wとした。X線回折の測定結果から、Ptは(111)配向でエピタキシャル成長していることがわかった。
BSCOからなる材料層22の作製では、基板温度を650℃、成長時のガス圧を5Paとし、分圧比でArが80%、O2が20%の混合ガス雰囲気下で投入電力を60Wとした。
成膜完了後、スパッタ装置内を81kPa(0.8atm)の純酸素雰囲気にし、5時間かけて試料を室温に冷やした。
図6に示したX線回折の測定結果から、BSCOは(001)配向でエピタキシャル成長した単結晶薄膜であることがわかった。すなわち、基板面に対してBSCOの層状構造が平行(BSCOの各層の面内方向が基板面に対して平行)になっていた。
第2電極23(Au)の作製では、基板温度を室温、成長時のガス圧を1Paとし、雰囲気ガスはArのみを使用し、投入電圧を80Wとした。
この際、円形の穴が一つ開いたメタルマスクを介して成膜を行い、電極の直径がそれぞれ30μm、50μm、100μm、500μm、面積に換算するとそれぞれ7.1×102μm2、2.0×103μm2、7.9×103μm2、2.0×105μm2となるような試料を合計4種類作製した(実施例1−1〜1−4)。
比較例として、メタルマスクを使わずに第2電極23であるAuをBSCOの表面全面(面積1.0×108μm2)に成膜した試料を作製した(比較例1−1)。
さらに別の比較例として、Al2O3のA面基板上にPt(100)配向薄膜を形成し、その上にBSCO薄膜を成長させた。
X線回折の測定結果より、BSCOは(100)配向薄膜であることがわかった。
すなわち、基板面に対してBSCOの層状構造が垂直(BSCOの各層の面内方向が基板面に対して垂直)になっていた(国際公開第05/083808号パンフレットも参照)。
上部電極(第2電極23)のAuは、実施例1−1〜1−4と同様に、直径が30μm、50μm、100μm、500μm、面積に換算するとそれぞれ7.1×102μm2、2.0×103μm2、7.9×103μm2、2.0×105μm2のものを作製した(比較例1−2〜1−5)。
こうして作製した実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−5の試料について、第1電極21と第2電極23との間に0.01mA〜100mAの範囲で定電流を流し、第2電極23を冷却した際の冷却温度の測定を行った。
結果を表1に示した。
表1には、異なる直径の第2電極23を有する各々の試料に対して電流を流して第2電極23を冷却した際の最大の冷却温度ΔTobs、材料本来の性能指数Z0を用いてΔTmax=Z0T2/2の式から算出される冷却温度の上限ΔTmaxとの比ΔTobs/ΔTmax、ΔTobsから換算される実効的なゼーベック係数Sobsも示した。
表1から、第2電極23の大きさが小さいほどΔTobsの値が大きく、それに伴いゼーベック係数Sobsの値も大きくなる傾向にあることがわかった。
しかし、第2電極23のサイズを本実施例よりもさらに小さくしていくと、電極間の抵抗が大きくなるために、あるサイズを境にして生じる温度差が減少していくと思われる。
すなわち、第2電極23のサイズには効率が最大となる最適値が存在すると推察される。
第2電極23の最適なサイズは、材料層22の膜厚、電気抵抗率や熱伝導率などに依存するので一概には言えないが、本実施例で材料層22として用いたBSCOにおいてはc軸方向の電気抵抗率が大きいので、少なくともその直径が1μm以上である場合が最適であると考えられる。
定常法、すなわち試料にわずかな温度差をつけることにより生じる起電力の大きさからゼーベック係数を算出する方法でBSCOのゼーベック係数Ssを見積もると、室温においてはおよそ140μV/Kであった。
本実施例のSobsは、Ssに比べて最大で約15.6倍向上していた(実施例1−1)。
一般的に、熱電変換性能指数ZTはゼーベック係数の2乗の項を持つので、本実施例においては、ZTに換算すると、最大でおよそ240倍特性が向上していることになる。
一方、比較例1−1〜1−5におけるSobsは140〜168μV/Kであり、定常法での値Ssとほぼ同様の値であった。
これらの結果から、BSCOに代表される材料層22(層状酸化物)のc軸は、第1電極21と層状酸化物との間の界面に対して垂直であり(実施例1−1〜1−4と比較例1−2〜1−5との間の比較)、かつ、第1電極21と材料層22との界面の面積と、第2電極23と材料層22との界面の面積とが異なる時のみ(実施例1−1〜1−4と比較例1−1との間の比較)に、非常に高い熱電変換特性が実現することがわかった。
また、文献3で議論されているような電流の拡散による効果だけを勘案した場合のSobsは、比較例(比較例1−2〜1−5)で観測された程度か、高々数倍程度であると考えられ、本実施例(実施例1−1〜1−4)のSobsには及ばなかった。
さらに、本実施例の熱電変換デバイスを用いて冷却を行った際に発生した温度差ΔTobsが、時間の経過によってどのように変化していくかを調べた。
実施例1−1の試料に定電流を流して駆動した場合には、発生した温度差ΔTobsが時間とともに徐々に緩和していき、1分経過した後にはΔTobsの最大値と比較して半分程度になっていた。
これに対し、定電流で駆動した時の1.5倍の大きさの直流パルスを印加して冷却を行うと、ΔTobsは定電流で駆動した時と同程度になり、しかも生じた温度差ΔTobsは1分経過した後もΔTobsの最大値と比べて70%程度に保たれていた。
この際入力した直流パルスは、幅1msecの矩形形状で、10msecの間隔で繰り返すパルスであった。
さらに、直流パルスの形状を、立ち上がりのみが急峻な鋸型にすると、1分経過した後のΔTobsは最大値と比べて80%程度にまで向上した。
直流パルスによってΔTobsの緩和が抑えられていたのは、定電流で駆動した場合よりも発生するジュール熱の総量が少ないからだと考えられる。
(実施例2)
材料層22にCa3Co4Oy(y=8.5〜9.5、以下「CCO」と表記する。)の組成式で記載される層状酸化物の単結晶を用いて、本実施例の熱電変換デバイスを作製した。なお、本実施例では、図2に示した構成の熱電変換デバイスを作製した。
CCOは、3層の岩塩構造からなる絶縁層を有する層状酸化物で、層間方向に比べて層内方向の電気伝導度は約100倍である。
CCOの単結晶はフローティングゾーン法で作製した。CaOとCo3O4を前記組成通りに秤量した後に混合し、1000℃で24時間大気中において焼結して再び紛体状にした。出来た粉末をプレスし、1150℃で15時間保ち焼結した後に3気圧の酸素雰囲気中で結晶成長させると、黒い光沢をもつ長さ7〜8mm、半径7mmの単結晶が得られた。
出来た物質の結晶構造はX線回折で確認した。
得られた単結晶の組成は、ICP(Inductively Coupled Plasma)とEDX(Energy Dispersive X−ray)による分析を用いて確認した。
実際の単結晶における酸素の量は組成式上の理想どおり出来ていればy=9となるところであるが、酸素の量はICPやEDXでも同定が困難であるため、yを8.5以上9.5以下としている。
以上のようにして作製した単結晶を劈開して2.0mm×2.0mm×0.2mmのサイズの直方体状の材料層22を得た。
このとき2.0mm×2.0mmの面の表面は、ラウエ回折によりCCOの結晶構造の層に対して平行な(001)面を有していることを確認した。
2.0mm×2.0mmの一対の表面を平坦化した後、一方の面の全体(面積4.0×106μm2)に第1電極21であるAgをマグネトロンスパッタ法により形成した。
他方の面には第2電極23であるAlを蒸着した。
この時、実施例1と同様に円形の穴が一つ開いたメタルマスクを介して直径が30μm(面積7.1×102μm2)、50μm(面積2.0×103μm2)、100μm(面積7.9×103μm2)、500μm(面積2.0×105μm2)となるようにした(実施例2−1〜2−4)。
比較例として、メタルマスクを使わずに第2電極23のAlを材料層22の表面全面(面積4.0×106μm2)に成膜した試料を作製した(比較例2−1)。
さらに別の比較例として、CCOの単結晶を2.0mm×2.0mm×0.2mmの直方体に切り出したもののうち、2.0mm×2.0mmの面がCCOの(100)面となっているような試料を用い、それ以外は実施例2−1〜2−4と同様の構成となるような比較例2−2〜2−5を作製した。
こうして作製した実施例2−1〜2−4および比較例2−1〜2−5の試料について、第1電極21と第2電極23との間に0.01mA〜100mAの範囲で電流を流し、発生する温度差の測定を行った。
結果を表2に示す。
表2には、異なる直径の上部電極を有する各々の試料に対して電流を流して上部電極を冷却した際の最大の冷却温度ΔTobs、材料本来の性能指数Z0を用いてΔTmax=Z0T2/2の式から算出される冷却温度の上限ΔTmaxとの比ΔTobs/ΔTmax、ΔTobsから換算される実効的なゼーベック係数Sobsも示している。
定常法でCCOのゼーベック係数Ssを測定すると、室温においてはおよそ120μV/Kであった。本実施例のSobsはSsに比べて約6.8倍向上していた。
一方、比較例2−1〜2−5におけるSobsは120〜154μV/Kであり、定常法での値Ssとほぼ同様の値であった。
CCOとほぼ同一の結晶構造を持つSr3Co4O9、CCOとSr3Co4O9についてそれぞれBiを置換したCa2.7Bi0.3Co4O9とSr2.7Bi0.3Co4O9、そしてCa2Sr0.7Bi0.3Co4O9についても試料を作製し、測定を行ったところ、いずれもCCOと同様の傾向を示した。
(実施例3)
RFマグネトロンスパッタと液相エピタキシーにより、本実施例の熱電変換デバイスを作製した。なお、本実施例では、図2に示した構成の熱電変換デバイスを作製した。
第1電極21となる下部電極に厚さ200nmのSrRuO3、材料層22に厚さ200μmのSrxCoOy(以下、SCOと表記する。)、第2電極23となる上部電極に厚さ1000nmのTiを用いた熱電変換デバイスを作製した。
SCOはSr原子のモノレイヤーからなる絶縁層を有する層状酸化物で、層間方向に比べて層内方向の電気伝導度は約40倍である。
SCOの酸素の量は理想的にはy=2であるところ、作製条件によっては±0.5程度の酸素不定比性を生じるため、yは1.5≦y≦2.5の範囲内にあると考えられる。
xは、原料の秤量によって0.1〜0.8の範囲内で調整可能である。
本実施例では、xがおよそ0.3のSCOを作製した。
基板には、10mm角、厚さ500μmのSrTiO3の(111)面基板を使用した。
第1電極21(SrRuO3)は、基板の表面全体(面積1.0×108μm2)に作製した。
第1電極21の作製条件は基板温度を750℃、成長時のガス圧を3Paとし、雰囲気ガスは、分圧比でArが70%、酸素が30%の混合ガスを使用し、投入電力を100Wとした。
X線回折の測定結果から、SrRuO3は(111)配向でエピタキシャル成長していることがわかった。
SCOから成る材料層22は、まずRFマグネトロンスパッタを用いて厚さ100nmのテンプレート層を堆積した後に、液相エピタキシーにより厚さ200μmのSCO厚膜を成膜することによって作製した。
RFマグネトロンスパッタの条件は、基板温度を650℃、成長時のガス圧を5Paとし、Arが80%、酸素が20%の混合ガス雰囲気下で投入電力を60Wとした。
成膜完了後、スパッタ装置内を81kPa(0.8atm)の純酸素雰囲気にし、5時間かけて試料を室温に冷やした。
X線回折の測定結果から、SCOは(001)配向でエピタキシャル成長した単結晶薄膜であることがわかった。
この後に、SrO2とCo3O4の原料粉末をKClからなるフラックス中に溶かした融液中に試料を浸積し、これを回転させながら徐冷することによって、厚さ200μmのSCO厚膜を得た。
X線回折により、得られたSCO厚膜は(001)配向していることがわかった。すなわち、基板面に対してSCOの層状構造は平行(SCOの各層の面内方向が基板面に対して平行)になっていた。
第2電極23(Ti)の作製では、基板温度を室温、成長時のガス圧を1Paとし、雰囲気ガスはArのみを使用し、投入電圧を80Wとした。
この際、円形の穴が一つ空いたメタルマスクを介して成膜を行い、電極の直径がそれぞれ3μm、10μm、50μm、200μm(面積7.1μm2、7.9×101μm2、2.0×103μm2、3.1×104μm2)であるような試料を合計4種類作製した(実施例3−1〜3−4)。
また、比較例として、メタルマスクを使わずに第2電極23のTiをCCOの表面全面(面積1.0×108μm2)に成膜した試料を作製した(比較例3−1)。
さらに別の比較例として、SrTiO3(100)基板上にSrRuO3(100)配向薄膜を形成し、その上に実施例3−1〜3−4と同様の条件でSCOの作製を行った。
X線回折の測定により、SCO薄膜は配向性を持たない多結晶薄膜であることがわかった。
上部電極のTiは実施例3−1〜3−4と同様に直径が3μm、10μm、50μm、200μm(面積7.1μm2、7.9×101μm2、2.0×103μm2、3.1×104μm2)のものを作製した(比較例3−2〜3−5)。
こうして作製した実施例3−1〜3−4および比較例3−1〜3−5の試料について、第1電極21と第2電極23との間に0.01mA〜100mAの範囲で電流を流し、発生する温度差の測定を行った。
結果を表3に示す。
表3には、異なる直径の上部電極を有する各々の試料に対して電流を流して上部電極を冷却した際の最大の冷却温度ΔTobs、材料本来の性能指数Z0を用いてΔTmax=Z0T2/2の式から算出される冷却温度の上限ΔTmaxとの比ΔTobs/ΔTmax、ΔTobsから換算される実効的なゼーベック係数Sobsも示している。
定常法によりSCOのゼーベック係数Ssを測定すると室温においては82μV/Kであった。本実施例のSobsはSsに比べて約8倍向上していた。
一方、比較例3−1〜3−4におけるSobsは82〜120μV/Kであり、定常法での値Ssとほぼ同程度の値であった。
また、SCOとほぼ同一の結晶構造を持つCa0.3CoO2についても試料を作製し、測定を行ったところ、SCOと同様の傾向を示した。
(実施例4)
実施例4では、実効面積をより大きくするために、図4に示したような材料層22と第2電極23との接点が複数となる構成の熱電変換デバイスを作製した。
本実施例の熱電変換デバイスの作製工程を図8A〜図8Dに示す。
基板には、10mm角、厚さ500μmのSrTiO3の(111)面基板を使用した。
第1電極21にSrRuO3、材料層22にSrxCoOy(以下、「SCO」と表記する)、第2電極23にTi、層間絶縁層41にネガ型の感光性ポリイミドを用いた。
xがおよそ0.3となるように、SCOを作製した。
まず、図8Aのように、基板81の上に第1電極21と材料層22を、基板81の全面(面積1.0×108μm2)に、実施例3に記載の条件と同様の条件にて作製した。
第1電極21の厚さは200nm、材料層22の厚さは200μmとした。
層間絶縁層41に感光性ポリイミドを使用する場合は、一般的なフォトレジストのパターニング手法と同様のプロセスが適用可能である。
まず、ネガ型感光性ポリイミドの原料溶液をスピンコートし、ホットプレートにて70℃で3分、その後90℃で3分プリベークして溶媒を揮発させ、厚さ10μmの膜を得た。
こうしてできた試料に対して、フォトマスクを介して水銀ランプの紫外線による露光を行い、その後γ−ブチロラクトンとシクロヘキサノンとの混合液による現像工程、酢酸ブチルとシクロヘキサノンとの混合液によるリンス工程を経て、図8Bのようにコンタクトホール51を有する層間絶縁層41のパターン形状を得た。
さらに、コンタクトホール51の側壁をテーパー形状にするために、N2ガス雰囲気下で、200℃で30分、350℃で30分保持するベーク工程を設け、図8Cに示したようなテーパー形状を作製した。
ベーク後の層間絶縁層41の厚さは6μmであった。
コンタクトホール51の大きさと配列は、使用するフォトマスクのパターンによって自由に設定可能であるが、本実施例では図4Bに示すように円形のコンタクトホールパターンが互いに等間隔の距離を保ちながら配列したものを作製した。
具体的には、コンタクトホール51として、材料層22と第2電極23との界面における直径が3μm、面積に換算すると7.1μm2のコンタクトホールを、合計1000個配置した。
次に、第2電極23(Ti)を実施例3と同様の条件にて作製し、図8Dに示すような熱電変換デバイスを得た(実施例4)。
こうして作製した実施例4の熱電変換デバイスについて、第1電極21と第2電極23との間に3Aの電流を流し、冷却を行った。
この際、冷却側となる第2電極23にシートヒーターを配置し、所定の温度差が保たれるようにし、この時のシートヒーターの消費電力から本実施例の熱電変換デバイスの冷却能力(単位時間当たりの吸熱量)の算出を行った。
結果を表4に示す。
表4は、冷却時の温度差を変化させた時の実施例4における冷却能力の違いを示している。
例えば5℃の冷却を行う際、本実施例のデバイス1つにつき冷却対象物から最大30mWの熱を吸熱することができる。
このような結果から、熱容量の大きい冷却対象物に対しても、本実施例の熱電変換デバイスを複数用いることで、温度制御が可能になることがわかった。
本実施例の熱電変換デバイスに対して、第1電極21と第2電極23との間に温度差を印加することによって、電極間から電力を取り出すことが可能である。
本実施例の熱電変換デバイスにおいて、第1電極21の側には温度を室温に保つ熱浴を、第2電極23の側にはシートヒーターを取り付け、5℃の温度差を与えた時の発電能力は、約1mWであった。
本発明にかかる熱電変換デバイスは、熱伝導による損失を軽減する高効率のデバイスを実現することができる。また従来の薄膜素子設計および製造のプロセスが適用できるため、デバイスの薄型化、微細化が容易となり、従来にない薄型の冷却機又は発電機として利用可能である。
また、電子デバイス中に回路の一部として組み込むことができるので、従来よりも効率よく回路内の発熱部位を冷却することができる。
本発明は、熱エネルギーと電気エネルギーとを相互に変換することのできる熱電変換材料を用いた熱電変換デバイスと、それを用いた冷却方法および発電方法とに関する。
熱電変換は、物質に温度勾配を付けたときに起電力が生じるゼーベック効果と、物質中に電流を流した際に温度勾配が生じるペルチェ効果とを利用した技術である。
より具体的には、例えばp型半導体とn型半導体といったキャリアの符合が互いに異なる2つの物質を、熱的に並列に、かつ、電気的に直列に接続した構成によって、温度差を印加した場合にはゼーベック効果による熱電発電を、電流を流した場合にはペルチェ効果による熱電冷却を行う技術である。
熱電変換を利用した技術は、現状では他の技術に比べて効率が低いので、僻地用電源、宇宙用電源、電子機器などの局所冷却、ワインクーラーなどの、ごく限られた特殊用途にのみ利用されている。
熱電変換デバイスに用いられる熱電変換材料の性能は、性能指数Z、または、Zに絶対温度Tをかけて無次元化された性能指数ZTで評価される。
ZTは、物質のゼーベック係数S、電気抵抗率ρおよび熱伝導率κ、を用いて、ZT=S2T/ρκで記述される量で、ZTの値が大きい材料ほど熱電変換材料として優れていることになる。
現在、特殊用途ながらも実用として主に用いられている熱電変換材料は、半導体のBi2Te3である。
しかしながら、Bi2Te3には、高温での不安定性、毒性、元素が豊富には存在しないこと、などの問題がある。
層状酸化物のNaxCoO2が良い熱電変換性能を示す物質であることが発見されて以来(特開平9−321346号公報(文献1)および国際公開第03/085748号パンフレット(文献2)参照)、より高い熱電変換性能を持つ層状酸化物の発見を目指し、鋭意、物質を探索することが行われている。
層状酸化物は、高温空気中でも安定であるなどの利点を持つ。
また、層状酸化物の大きな特徴として、次元異方性が強いこと、多くの物質は電気伝導を担う2次元の電気伝導層と電気絶縁層とからなる層状の結晶構造(以下、層状構造という場合がある。)を持つこと、が挙げられる。
図1に、CoO2からなる電気伝導層と、Naからなる電気絶縁層とが、1モノレイヤーごとにc軸方向に積層した、NaxCoO2の結晶構造を示す。
NaxCoO2の熱電特性は異方性が強く、S⊥c/S‖c〜2、ρ⊥c/ρ‖c〜0.025程度である。
ここで、c軸に対して垂直方向、すなわち層状構造に対して(各層に対して)平行方向のゼーベック係数と電気抵抗率とをそれぞれS⊥cとρ⊥cと表し、c軸に対して平行方向、すなわち層状構造に対して(各層に対して)垂直方向のゼーベック係数と電気抵抗率とをそれぞれS‖cとρ‖cと表している。
すなわち、NaxCoO2については、ZTで比較した場合、c軸に対して垂直方向の方がc軸方向よりも特性が良いと考えられている。
したがって、従来においては、層状酸化物のc軸に対して垂直方向、すなわち層構造に対して平行方向にキャリアまたは熱が流れるように熱電変換デバイスを構成することが、効率の面から有利であるとされてきた。
一方、通常の方法で作製される熱電変換材料は、結晶配向性を持たない多結晶である。したがって、このような多結晶材料を用いて、c軸に対して垂直方向にのみキャリアまたは熱が流れるような構成にすることは、事実上不可能である。
また、多結晶材料中に多数存在する結晶粒界においてキャリアが散乱され電気抵抗が増大することも、性能悪化の要因になる。
このような理由から、熱電変換材料としては、結晶方位の揃った状態のものを作製する必要がある。結晶方位の揃った熱電変換材料を作製する方法として、例えば薄膜の場合は、Al2O3の単結晶C面基板をテンプレートとして用いるなどして結晶配向を制御する方法が挙げられる。
現状では、Bi2Te3や層状酸化物をもってしても、通常のデバイス構成では性能が不十分であり、民生用途での本格的な実用化のためにはさらなる性能の向上が必要である。
一方、材料自体のZTを向上させる試みとは別に、デバイス構成の改善による効率向上を目指した試みもある。
Shakouriらは、放熱側の電極に比べて小面積の冷却側電極を配置した熱電冷却デバイスを提案している(Applied Physics Letters Vol.85,pp.2977−2979 (2004)(文献3)参照)。
しかし、この熱電冷却デバイスに用いられているのは等方的な熱電特性を有する材料であるため、上記の構成では、材料内での電流の拡散を促進し、ジュール熱の戻りを抑制する以外の効果は無かった。したがって、高々数倍程度効率が向上するのみであり、十分な効率を有するデバイスの実現には至っていない。
前述の通り、従来の熱電変換デバイスは性能が十分ではなく、民生用途で一般的に用いられるに足るだけの十分な効率を得ることができなかった。
そこで、本発明は、高効率の熱電変換デバイスと、それを用いた冷却方法および発電方法とを提供することを目的とする。
本発明者らは、実用的な性能を持つ熱電変換デバイス実現のため、層状酸化物の熱電変換材料を用いたデバイス構成に関して鋭意研究を重ねてきた結果、層状酸化物の層状構造を挟み込むように、面積の異なる電極を配置した熱電変換デバイスにおいて、熱電特性が従来と比較して大幅に向上するという意外な知見を見出し、この知見に基づいて、この熱電効果性能を有効に発揮することが可能な本発明の熱電変換デバイスの発明に至った。
本発明の熱電変換デバイスは、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極との間に挟まれた層状酸化物と、を有し、前記第1電極、前記層状酸化物および前記第2電極がこの順に配置されて多層体を形成しており、前記層状酸化物は、電気伝導層と電気絶縁層とが交互に配置されてなり、前記層状酸化物のc軸は、前記第1電極と前記層状酸化物との間の界面に対して垂直であり、前記第2電極の面積が、前記第1電極の面積よりも小さくなるように構成されている。
なお、本発明において、「電極の面積」とは、特に説明がない限り、電極と層状酸化物とが形成する界面の面積、すなわち電極と層状酸化物との接合面積のことである。また、本発明において、層状酸化物のc軸が第1電極と層状酸化物との間の界面に対して「垂直」とは、層状酸化物のc軸と前記界面とのなす角度が、後述する本発明の特異な効果が得られる程度の角度範囲内にある場合も含む意味である。すなわち、本発明においては、本発明の特異な効果が得られる場合であれば、それも「垂直」に含むものであり、例えば、0°〜15°の範囲内と考えられる。
本発明の熱電変換デバイスによれば、異方的な電気伝導度を有する層状酸化物と、前記層状酸化物を挟み込むように配置された面積の異なる電極(第1電極および第2電極)と、の間における特異な効果により、高い熱電変換特性が得られる。これにより、従来の性能を超える高効率の熱電変換が可能となり、実用的な熱電変換デバイスを実現できる。
また、本発明の熱電変換デバイスには、フォトリソグラフィーなどの従来の薄膜素子形成のプロセスが適用できるので、微細な素子設計および製造が容易となる。すなわち、熱と電気とのエネルギー変換の応用を促進させることができるため、本発明の工業的価値は高い。
本発明の冷却方法は、上記した本発明の熱電変換デバイスを用いる方法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加して電流を流すことによって前記第1電極と前記第2電極との間に温度差を生じさせ、前記第1電極および前記第2電極の何れか一方を低温部とする方法である。
本発明の発電方法は、上記した本発明の熱電変換デバイスを用いる方法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に温度差を印加することによって、前記第1電極と前記第2電極との間に電位差を生じさせる方法である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1における熱電変換デバイスの構成を示した断面図である。
図2に示す本実施の形態の熱電変換デバイスは、第1電極21、材料層22、第2電極23がこの順に配置された多層体(積層体)によって形成されている。材料層22は層状の結晶構造を有する層状酸化物によって形成されており、その層状構造を挟むように(その層状構造を層に平行な面で挟むように)第1電極21および第2電極23が配置されている。
以降、特に説明が無い限り、「電極の面積」と記載した場合、電極と材料層22とが形成する界面の面積、すなわち電極と材料層22との接合面積を表すこととする。
本実施の形態の熱電変換デバイスでは、第1電極21の面積に比較して第2電極23の面積が小さいことを特徴とする。
大きな熱電変換効果を得るためには、第1電極21の面積が第2電極23の面積の20倍以上であることが好ましい。言い換えると、第1電極21と第2電極23の面積比((第2電極の面積)/(第1電極の面積))は、0.05以下であることが好ましい。より好ましい面積比は、2.0×10-3以下であり、5.0×10-4以下であることがさらにより好ましい。また、第1電極21と第2電極23の面積比は、1.0×10-5以上が好ましい。
層状の結晶構造を持つ熱電変換材料には層状酸化物などがあるが、結晶学的にはこれらの物質の結晶の層間方向、すなわち層に対してほぼ垂直な方向をc軸方向と呼んでいる。
本実施の形態の熱電変換デバイスでは、材料層22は、薄膜または単結晶で形成されている。薄膜の場合は、c軸配向した薄膜または単結晶エピタキシャル薄膜である。
前述のいずれの場合も、結晶のc軸が、第2電極23が配置される材料層22の端面に対してほぼ垂直になるような結晶配向をとる。
図2に示したように、第1電極21および第2電極23は、材料層22の層状構造を挟むように形成され、第1電極21と第2電極23との間に電圧を印加した際、材料層22の結晶のc軸方向に平行、すなわち層構造に対して垂直方向に電流が流れるようになっている。
この構成は、c軸に対して垂直方向に電流を流す方が効率が良いと考えられてきた通常の概念とは異なる。
第1電極21は電気伝導の良い材料であれば特に限定されるものでないが、材料層22が薄膜の場合は、材料層22がc軸配向成長もしくは単結晶状にエピタキシャル成長する基点となるような材料を用いるのが好ましい。
具体的には、結晶配向したPt、Ti、Au、Cr、Ni、Ir、Ruなどの金属、TiN、IrO2、RuO2、SrRuO3、ITO(スズ添加酸化インジウム)などの窒化物または酸化物が好適に用いられる。
第2電極23は電気伝導の良い材料であれば特に限定されない。具体的には、Pt、Au、Ag、Cu、Al、Ti、Cr、Wなどの金属またはTiN、IrO2、RuO2、SrRuO3、ITOなどの窒化物または酸化物が好適に用いられる。
材料層22は、層状の結晶構造を持ち、かつ、結晶中の方位によって電気伝導度が異なる層状酸化物である。この層状酸化物は、空気中で安定である点で、半導体などの他の熱電変換材料と比較して有利である。
この中で熱電変換特性に優れている材料は、例えば図1に示したような層状酸化物である。この層状酸化物は、電気伝導層11と電気絶縁層12とが交互に積層し、電気伝導層11がCoO2八面体によって構成される結晶構造であり、ペロブスカイト型の他に特に良く知られている結晶構造は、CoO2八面体が互いに稜を共有しながら層を形成する、いわゆるCdI2型構造から成る結晶構造である。
NaxCoO2をはじめとするCdI2型構造を有する層状酸化物は、他の酸化物と比較して熱電変換特性が高く、本実施の形態の熱電変換デバイスを構成するのに適している。
ここで、電気絶縁層12の各層は、1層以上の原子層または酸化物の層によって、互いに隔てられている。
より具体的には、電気絶縁層12として図3に示したような4層の岩塩構造(4原子層の岩塩型絶縁層)であるSr2Bi2O4が挿入されたBi2Sr2Co2Oyや、結晶の安定性を強化するためにBiの一部をPbで置き換えたBi2-xPbxSr2Co2Oyなどを挙げることができる。
ここで、xは材料が安定に作製できる範囲であれば良く、具体的には0≦x≦0.5である。
酸素の組成は化学量論比ではy=8となるが、作製条件などにより不定比性が存在することが考えられることと、酸素量の測定が困難であること、などから、yは7.5≦y≦8.5の範囲にあると考えられる。
この電気絶縁層12は、3層の岩塩構造(3原子層の岩塩型絶縁層)をとることも可能である。その場合の層状酸化物の組成式は、((Ca1-x1Srx1)1-x2Bix2)3Co4Oy(0≦x1≦1、0≦x2≦0.3、8.5≦y≦9.5)となる。
x1、x2およびyの範囲は、前述のBi2-xPbxSr2Co2Oyと同様の理由から規定される。
さらに、電気絶縁層12は、図1のように1層(1原子層)であることも可能である。このときの材料層22の化学式は、AxCoO2と表される。
ここで、A元素は、Na、K、Liなどのアルカリ金属、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属のうち少なくとも1種類の元素からなる。
なお、A元素の一部を、Hg、Tl、Pb、Biに置換してもよい。
電気絶縁層12は、A元素によって構成される。A元素はアルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属元素からなるが、これらの元素は結晶中の各サイトを100x%の割合でランダムに占有しているためにキャリアの散乱が頻繁に起こり、たとえ単体で金属であるものを用いても電気絶縁的な性質を持つ。
なお、xについては、0.1≦x≦0.8の範囲で、ある程度人為的に調整可能である。
電気絶縁層12にO(酸素)が含まれる場合、このO(酸素)に代えて、S(イオウ)やSe(セレン)を用いることも考えられる。
上記の層状酸化物において、Coの一部をNi、Ti、Mn、Fe、Rhのうち少なくとも1種類の元素で置換してもよい。
なお、層状酸化物における酸素の量は、化学式通りであることが好ましい。しかし、以下各々の化学式を参照して説明するが、実際に本実施の形態に係る熱電変換デバイスを作製する際の作製方法、作製条件などにより、厳密に層状酸化物における酸素の量を化学式通りにすることは困難であり、実際には±0.5程度の酸素不定比性が存在することが想定される。
この層状酸化物は、一層が1ないし3モノレイヤーのMO2からなる(Mは金属であり、例えば、Mn、Coなどを含む遷移金属が挙げられる。)電気伝導層11と、一層が1ないし4モノレイヤーからなる電気絶縁層12との交互積層からなる。
4モノレイヤー以上の厚みの電気伝導層11を有する材料層22や、5モノレイヤー以上の厚みの電気絶縁層12を有する材料層22を作製することは、技術的に困難である。
この構成によれば、キャリアがホールである場合、図2に示す熱電変換デバイスにおいて第2電極23から第1電極21へ電流を流すことで、材料層22の内部に電流が流れ、それに付随して熱が運ばれることにより、第2電極23の側で吸熱、第1電極21の側で発熱現象が起こる。
言うまでもないが、電流の流す向きを逆にすれば、第2電極23の側で発熱、第1電極21の側で吸熱現象が起こる。
一方、キャリアが電子である場合、図2に示す熱電変換デバイスにおいて第2電極23から第1電極21へ電流を流すことで、第2電極23の側で発熱、第1電極21の側で吸熱現象が起こる。
電流の流す向きを逆にすれば第2電極23の側で吸熱、第1電極21の側で発熱現象が起こる。
上記それぞれの場合において、吸熱側の電極が低温部となる。
従来、材料層22のc軸方向の電気抵抗は大きく、またゼーベック係数は小さいので、熱電変換性能ZTは小さくて使用に足るものではないと考えられていた。
詳細は後述する実施例で述べるが、本発明者らは様々な条件を検討し最適化することにより、層状構造および異方的な熱電特性を有する様々な種類の材料層22と電極界面との関係、電極の大きさ、および印加する外場の大きさと熱電変換性能の関係を詳細に調べていく過程で、第1電極21の面積を第2電極22の面積よりも大きくすることにより、本発明の熱電変換デバイスにおいて予想外に大きな熱電変換性能が得られることを見出した。
この理由として、一つは文献3に開示されたデバイスと同様の電流の拡散現象によるジュール熱の戻りの抑制によるものが考えられる。しかし、本発明の熱電変換デバイスが実現する熱電変換性能は桁違いに大きく、また文献3に開示されたデバイスとは異なる振る舞いを示していたので、単なるジュール熱の戻りが抑制されているという解釈だけでは理解できないものであった。
材料層22の層方向に平行な1対の端面に面積が互いに異なる第1電極21および第2電極23を配置し、これら第1電極21と第2電極23とで材料層22を挟み込むようにして熱電変換デバイスを作製し、これらの第1電極21および第2電極23との間に電流のような外場を加えた場合、第1電極21の面積と第2電極23の面積とが同じである場合と比較して、大きな熱電変換性能が確認された。この効果を利用して、本実施の形態の熱電変換デバイスを冷却素子として機能させることが可能である。すなわち、第1電極21と第2電極23との間に電圧を印加して電流を流して、第1電極21および第2電極23の何れか一方を低温部とすることによって、本実施の形態の熱電変換デバイスを用いた高効率の冷却方法を実現できる。
また、同様の構成において、第1電極21と第2電極23との間に温度差を設けることにより、材料層22内で熱エネルギーを持ったキャリアがその温度差を打ち消すように第1電極21および第2電極23の間を移動することから、結果として電流が流れる。すなわち、第1電極21および第2電極23間に温度差が印加されることによって、本実施の形態の熱電変換デバイスが電力発生素子として機能する。
この効果を利用し、本デバイスから第1電極21および第2電極23を介して電力を取り出すことが可能である。すなわち、第1電極21と第2電極23との間に温度差を印加することによって、本実施の形態の熱電変換デバイスを用いた高効率の発電方法を実現できる。
以上のように、本発明によれば、熱電発電デバイスとしての高い効果を得ることができる。
本実施の形態の熱電変換デバイスにおける材料層22は、結晶の層の向き、すなわち結晶のc軸の向きが揃った形態であることが要求される。
より具体的には、単結晶やエピタキシャル薄膜であることが望ましい。層状物質の単結晶は、フローティングゾーン法やフラックス法など、単結晶作製に一般的に用いられる手法によって合成される。
本発明の熱電変換デバイスを、スパッタ法などの薄膜プロセスを利用して作製する場合、デバイスの構造を支持するための基体を使用することによってプロセスが容易になる。
この場合、まず基体上に第1電極21を形成し、その後材料層22、第2電極23の順に成膜を行う。
小面積の第2電極23のパターン作製には、メタルマスクを介した電極材料の気相成長またはクリームはんだ塗布や、フォトレジストを用いたリフトオフ、イオンビームエッチングまたは電解めっきなどの様々な方法が用いられる。
第1電極21の作製時には、結晶成長を促すために使用する基体の材料を適切に選択することが好ましい。また、材料層22においては、成膜時の加熱温度が重要である。
スパッタ法を用いる場合の基板温度は、層状酸化物では650℃から800℃の範囲であることが好ましい。
これらの条件を満たしていれば、作製方法は特に限定されないので、スパッタ法、蒸着法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法などの気相成長によるもの、あるいは電着などの液相や固相からの成長など、種々の薄膜形成方法が使用可能である。
基体の材料としては、Al2O3、MgO、SrTiO3、LaAlO3、NdGaO3、YAlO3、LaSrGaO4、LaSrAlO4、MgAl2O4、ZnO、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、ZrO2、TiO2(ルチルもしくはアナターゼ)、Fe2O3、Cr2O3、Si、GaAsなどの単結晶材料が好ましい。
液相エピタキシャルプロセスなどで材料層22の厚膜を作製する場合、単結晶材料の基体表面から直接成長を行うこともできるが、より結晶性の良い厚膜を得るためには、結晶性薄膜の初期成長層をスパッタなどの方法であらかじめ形成した後に、厚膜形成を行うのが好ましい。液相プロセスとしては、例えばNa0.5CoO2薄膜の場合には、NaClをフラックスとしてCo3O4およびNa2CO3の粉体を混ぜて1000℃で溶かした融液中に薄膜を基体ごと浸し、900℃にまで徐々に冷却することにより、1mm程度のNa0.5CoO2厚膜を構成することが可能である。
本実施の形態における熱電変換デバイスを冷却用途に用いる場合に流す電流は、実効的な熱の移動を伴わずにジュール熱の発生による損失だけに寄与する交流ではなく、直流であることが好ましい。また、定電流だけではなく、直流のパルス電流も組み合わせることで、所望の冷却性能に応じた効率の良い駆動を行うことができる。
材料層22は、基板面(すなわち、第1電極21の上面)と平行な面で材料層22を切断した際に現れる断面の面積(以下、「断面積」という。)が、材料層22の高さ(すなわち、厚み)に拘わらず、一定であることが好ましい。
材料層22の厚みは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲で設定することができ、好ましくは50μm〜200μmの範囲である。
(実施の形態2)
図4Aは、本発明の実施の形態2における熱電変換デバイスの構成を示した断面図である。図4Bは、図4Aで指示した箇所での切断面(I−I線断面)を示した図である。なお、図4Bにおいて、第2電極23のハッチングを省略する。
本実施の形態の熱電変換デバイスでは、材料層22と第2電極23とが複数領域で接している。言い換えれば、材料層22上に複数の第2電極23が配置されており、かつ、各々の第2電極23が互いに電気的に接続されて形成されている。このような構成によって、本実施の形態の熱電変換デバイスは、高い熱電特性を維持しながら、実効的な面積を大きくすることができる。なお、説明の便宜上、電気的に互いに接続された複数の第2電極23を、まとめて第2電極23ということがある。
上記のような構成は、まず材料層22上に小面積のコンタクトホールパターンを複数有する層間絶縁層41を形成し、その上に第2電極23を作製することによって実現できる。第2電極23は、層間絶縁層41に形成されたコンタクトホールを介して、材料層22と接している。これにより、高い熱電特性と広い実効面積を有するデバイスが実現可能である。
本実施の形態における第1電極21、材料層22および第2電極23の作製には、実施の形態1に記載した材料や作製方法が適用可能である。また、第2電極23の面積(材料層23と1つの第2電極23との接触面積)と第1電極21の面積との関係(面積比など)についても、実施の形態1の場合と同様の関係を適用できる。
さらに、第2電極23の作製には、スパッタ法や蒸着法などの気相成長による方法の他に、めっきやクリームはんだ塗布などの簡便な方法を用いることができる。
層間絶縁層41としては、電気的な絶縁性を持つ材料であれば特に限定されるものでないが、熱伝導率が低い材料を用いることが好ましい。このような材料で層間絶縁層41を形成することによって、材料層22と第2電極23との接点近傍においてのみ効率的に温度差が生じるので、有利である。
熱伝導率が低い絶縁材料としては、例えば、多孔質シリカなどの無機多孔体や有機樹脂が使用可能である。
有機樹脂のうち、特にフォトレジストや感光性ポリイミドを用いると、一般的なフォトリソグラフィーの手法で簡便にパターン形成ができるので有利である。
多くのネガ型フォトレジストや感光性ポリイミドのような耐溶剤性の材料を用いた場合、後で溶剤を使用するプロセスを経ても構造を維持できるので好ましい。
第2電極23の作製に、蒸着など飛来粒子の直進性が高いプロセスを用いた場合、コンタクトホールの側壁における第2電極23の膜のカバレッジが良くない場合がある。この場合、図5Aに示すようにコンタクトホール51の側壁が切り立っていると、良好な導電性が得られない可能性がある。
したがって、直進性が高いプロセスを用いる場合は、図5Bに示すように、側壁が緩やかなテーパー形状を有するコンタクトホール51を形成することが好ましい。
図5Bに示すようなテーパー形状を有するコンタクトホール51を作製する方法は様々なものがあるが、例えば層間絶縁層41にネガ型感光性ポリイミドを用いる場合、前述のようなプロセスでコンタクトホールパターンを形成した後、ArやN2など不活性ガス雰囲気下において200〜350℃で30〜60分程度ベークすることで、側壁がテーパー形状のコンタクトホール51を形成することができる。
第2電極23は、図5Aや図5Bに示したように、層間絶縁層41の表面上に薄膜状に形成される構成の他に、図5Cや図5Dのような厚膜とすることもできる。この場合、表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)などの方法で平滑化することによって、本デバイスの上にさらにセンサーなどの別の機能素子を形成し、全体としてモノリシックなデバイスを作製することができる。
本発明について、実施例を用いてより具体的に説明する。
(実施例1)
RFマグネトロンスパッタにより、4層の岩塩構造からなる絶縁層を有するBi2Sr2Co2Oy(以下、「BSCO」と表記する。)を用いて、本実施例の熱電変換デバイスを作製した。なお、本実施例では、図2に示した構成の熱電変換デバイスを作製した。
BSCOは、層状酸化物の中でも比較的異方性が大きく、層間方向(c軸方向)に比べて層内方向の電気伝導度は約10000倍である。
第1電極21となる下部電極に厚さ200nmのPt、材料層22に厚さ5μmのBSCO、第2電極23となる上部電極に厚さ1000nmのAuを用いた。
BSCOにおけるyの値は、理想的にはy=8である。しかし、作製条件によっては±0.5程度の酸素不定比性を生じるため、yは、7.5≦y≦8.5の範囲内にあると考えられる。
基板には、10mm角、厚さ500μmのサファイアAl2O3のC面基板を使用した。
第1電極21(Pt)は基板の表面全体(面積1.0×108μm2)に作製した。第1電極21の作製条件は、基板温度を650℃、成長時のガス圧を1Paとし、雰囲気ガスはArのみを使用し、投入電力を80Wとした。X線回折の測定結果から、Ptは(111)配向でエピタキシャル成長していることがわかった。
BSCOからなる材料層22の作製では、基板温度を650℃、成長時のガス圧を5Paとし、分圧比でArが80%、O2が20%の混合ガス雰囲気下で投入電力を60Wとした。
成膜完了後、スパッタ装置内を81kPa(0.8atm)の純酸素雰囲気にし、5時間かけて試料を室温に冷やした。
図6に示したX線回折の測定結果から、BSCOは(001)配向でエピタキシャル成長した単結晶薄膜であることがわかった。すなわち、基板面に対してBSCOの層状構造が平行(BSCOの各層の面内方向が基板面に対して平行)になっていた。
第2電極23(Au)の作製では、基板温度を室温、成長時のガス圧を1Paとし、雰囲気ガスはArのみを使用し、投入電圧を80Wとした。
この際、円形の穴が一つ開いたメタルマスクを介して成膜を行い、電極の直径がそれぞれ30μm、50μm、100μm、500μm、面積に換算するとそれぞれ7.1×102μm2、2.0×103μm2、7.9×103μm2、2.0×105μm2となるような試料を合計4種類作製した(実施例1−1〜1−4)。
比較例として、メタルマスクを使わずに第2電極23であるAuをBSCOの表面全面(面積1.0×108μm2)に成膜した試料を作製した(比較例1−1)。
さらに別の比較例として、Al2O3のA面基板上にPt(100)配向薄膜を形成し、その上にBSCO薄膜を成長させた。
X線回折の測定結果より、BSCOは(100)配向薄膜であることがわかった。
すなわち、基板面に対してBSCOの層状構造が垂直(BSCOの各層の面内方向が基板面に対して垂直)になっていた(国際公開第05/083808号パンフレットも参照)。
上部電極(第2電極23)のAuは、実施例1−1〜1−4と同様に、直径が30μm、50μm、100μm、500μm、面積に換算するとそれぞれ7.1×102μm2、2.0×103μm2、7.9×103μm2、2.0×105μm2のものを作製した(比較例1−2〜1−5)。
こうして作製した実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−5の試料について、第1電極21と第2電極23との間に0.01mA〜100mAの範囲で定電流を流し、第2電極23を冷却した際の冷却温度の測定を行った。
結果を表1に示した。
表1には、異なる直径の第2電極23を有する各々の試料に対して電流を流して第2電極23を冷却した際の最大の冷却温度ΔTobs、材料本来の性能指数Z0を用いてΔTmax=Z0T2/2の式から算出される冷却温度の上限ΔTmaxとの比ΔTobs/ΔTmax、ΔTobsから換算される実効的なゼーベック係数Sobsも示した。
表1から、第2電極23の大きさが小さいほどΔTobsの値が大きく、それに伴いゼーベック係数Sobsの値も大きくなる傾向にあることがわかった。
しかし、第2電極23のサイズを本実施例よりもさらに小さくしていくと、電極間の抵抗が大きくなるために、あるサイズを境にして生じる温度差が減少していくと思われる。
すなわち、第2電極23のサイズには効率が最大となる最適値が存在すると推察される。
第2電極23の最適なサイズは、材料層22の膜厚、電気抵抗率や熱伝導率などに依存するので一概には言えないが、本実施例で材料層22として用いたBSCOにおいてはc軸方向の電気抵抗率が大きいので、少なくともその直径が1μm以上である場合が最適であると考えられる。
定常法、すなわち試料にわずかな温度差をつけることにより生じる起電力の大きさからゼーベック係数を算出する方法でBSCOのゼーベック係数Ssを見積もると、室温においてはおよそ140μV/Kであった。
本実施例のSobsは、Ssに比べて最大で約15.6倍向上していた(実施例1−1)。
一般的に、熱電変換性能指数ZTはゼーベック係数の2乗の項を持つので、本実施例においては、ZTに換算すると、最大でおよそ240倍特性が向上していることになる。
一方、比較例1−1〜1−5におけるSobsは140〜168μV/Kであり、定常法での値Ssとほぼ同様の値であった。
これらの結果から、BSCOに代表される材料層22(層状酸化物)のc軸は、第1電極21と層状酸化物との間の界面に対して垂直であり(実施例1−1〜1−4と比較例1−2〜1−5との間の比較)、かつ、第1電極21と材料層22との界面の面積と、第2電極23と材料層22との界面の面積とが異なる時のみ(実施例1−1〜1−4と比較例1−1との間の比較)に、非常に高い熱電変換特性が実現することがわかった。
また、文献3で議論されているような電流の拡散による効果だけを勘案した場合のSobsは、比較例(比較例1−2〜1−5)で観測された程度か、高々数倍程度であると考えられ、本実施例(実施例1−1〜1−4)のSobsには及ばなかった。
さらに、本実施例の熱電変換デバイスを用いて冷却を行った際に発生した温度差ΔTobsが、時間の経過によってどのように変化していくかを調べた。
実施例1−1の試料に定電流を流して駆動した場合には、発生した温度差ΔTobsが時間とともに徐々に緩和していき、1分経過した後にはΔTobsの最大値と比較して半分程度になっていた。
これに対し、定電流で駆動した時の1.5倍の大きさの直流パルスを印加して冷却を行うと、ΔTobsは定電流で駆動した時と同程度になり、しかも生じた温度差ΔTobsは1分経過した後もΔTobsの最大値と比べて70%程度に保たれていた。
この際入力した直流パルスは、幅1msecの矩形形状で、10msecの間隔で繰り返すパルスであった。
さらに、直流パルスの形状を、立ち上がりのみが急峻な鋸型にすると、1分経過した後のΔTobsは最大値と比べて80%程度にまで向上した。
直流パルスによってΔTobsの緩和が抑えられていたのは、定電流で駆動した場合よりも発生するジュール熱の総量が少ないからだと考えられる。
(実施例2)
材料層22にCa3Co4Oy(y=8.5〜9.5、以下「CCO」と表記する。)の組成式で記載される層状酸化物の単結晶を用いて、本実施例の熱電変換デバイスを作製した。なお、本実施例では、図2に示した構成の熱電変換デバイスを作製した。
CCOは、3層の岩塩構造からなる絶縁層を有する層状酸化物で、層間方向に比べて層内方向の電気伝導度は約100倍である。
CCOの単結晶はフローティングゾーン法で作製した。CaOとCo3O4を前記組成通りに秤量した後に混合し、1000℃で24時間大気中において焼結して再び紛体状にした。出来た粉末をプレスし、1150℃で15時間保ち焼結した後に3気圧の酸素雰囲気中で結晶成長させると、黒い光沢をもつ長さ7〜8mm、半径7mmの単結晶が得られた。
出来た物質の結晶構造はX線回折で確認した。
得られた単結晶の組成は、ICP(Inductively Coupled Plasma)とEDX(Energy Dispersive X−ray)による分析を用いて確認した。
実際の単結晶における酸素の量は組成式上の理想どおり出来ていればy=9となるところであるが、酸素の量はICPやEDXでも同定が困難であるため、yを8.5以上9.5以下としている。
以上のようにして作製した単結晶を劈開して2.0mm×2.0mm×0.2mmのサイズの直方体状の材料層22を得た。
このとき2.0mm×2.0mmの面の表面は、ラウエ回折によりCCOの結晶構造の層に対して平行な(001)面を有していることを確認した。
2.0mm×2.0mmの一対の表面を平坦化した後、一方の面の全体(面積4.0×106μm2)に第1電極21であるAgをマグネトロンスパッタ法により形成した。
他方の面には第2電極23であるAlを蒸着した。
この時、実施例1と同様に円形の穴が一つ開いたメタルマスクを介して直径が30μm(面積7.1×102μm2)、50μm(面積2.0×103μm2)、100μm(面積7.9×103μm2)、500μm(面積2.0×105μm2)となるようにした(実施例2−1〜2−4)。
比較例として、メタルマスクを使わずに第2電極23のAlを材料層22の表面全面(面積4.0×106μm2)に成膜した試料を作製した(比較例2−1)。
さらに別の比較例として、CCOの単結晶を2.0mm×2.0mm×0.2mmの直方体に切り出したもののうち、2.0mm×2.0mmの面がCCOの(100)面となっているような試料を用い、それ以外は実施例2−1〜2−4と同様の構成となるような比較例2−2〜2−5を作製した。
こうして作製した実施例2−1〜2−4および比較例2−1〜2−5の試料について、第1電極21と第2電極23との間に0.01mA〜100mAの範囲で電流を流し、発生する温度差の測定を行った。
結果を表2に示す。
表2には、異なる直径の上部電極を有する各々の試料に対して電流を流して上部電極を冷却した際の最大の冷却温度ΔTobs、材料本来の性能指数Z0を用いてΔTmax=Z0T2/2の式から算出される冷却温度の上限ΔTmaxとの比ΔTobs/ΔTmax、ΔTobsから換算される実効的なゼーベック係数Sobsも示している。
定常法でCCOのゼーベック係数Ssを測定すると、室温においてはおよそ120μV/Kであった。本実施例のSobsはSsに比べて約6.8倍向上していた。
一方、比較例2−1〜2−5におけるSobsは120〜154μV/Kであり、定常法での値Ssとほぼ同様の値であった。
CCOとほぼ同一の結晶構造を持つSr3Co4O9、CCOとSr3Co4O9についてそれぞれBiを置換したCa2.7Bi0.3Co4O9とSr2.7Bi0.3Co4O9、そしてCa2Sr0.7Bi0.3Co4O9についても試料を作製し、測定を行ったところ、いずれもCCOと同様の傾向を示した。
(実施例3)
RFマグネトロンスパッタと液相エピタキシーにより、本実施例の熱電変換デバイスを作製した。なお、本実施例では、図2に示した構成の熱電変換デバイスを作製した。
第1電極21となる下部電極に厚さ200nmのSrRuO3、材料層22に厚さ200μmのSrxCoOy(以下、SCOと表記する。)、第2電極23となる上部電極に厚さ1000nmのTiを用いた熱電変換デバイスを作製した。
SCOはSr原子のモノレイヤーからなる絶縁層を有する層状酸化物で、層間方向に比べて層内方向の電気伝導度は約40倍である。
SCOの酸素の量は理想的にはy=2であるところ、作製条件によっては±0.5程度の酸素不定比性を生じるため、yは1.5≦y≦2.5の範囲内にあると考えられる。
xは、原料の秤量によって0.1〜0.8の範囲内で調整可能である。
本実施例では、xがおよそ0.3のSCOを作製した。
基板には、10mm角、厚さ500μmのSrTiO3の(111)面基板を使用した。
第1電極21(SrRuO3)は、基板の表面全体(面積1.0×108μm2)に作製した。
第1電極21の作製条件は基板温度を750℃、成長時のガス圧を3Paとし、雰囲気ガスは、分圧比でArが70%、酸素が30%の混合ガスを使用し、投入電力を100Wとした。
X線回折の測定結果から、SrRuO3は(111)配向でエピタキシャル成長していることがわかった。
SCOから成る材料層22は、まずRFマグネトロンスパッタを用いて厚さ100nmのテンプレート層を堆積した後に、液相エピタキシーにより厚さ200μmのSCO厚膜を成膜することによって作製した。
RFマグネトロンスパッタの条件は、基板温度を650℃、成長時のガス圧を5Paとし、Arが80%、酸素が20%の混合ガス雰囲気下で投入電力を60Wとした。
成膜完了後、スパッタ装置内を81kPa(0.8atm)の純酸素雰囲気にし、5時間かけて試料を室温に冷やした。
X線回折の測定結果から、SCOは(001)配向でエピタキシャル成長した単結晶薄膜であることがわかった。
この後に、SrO2とCo3O4の原料粉末をKClからなるフラックス中に溶かした融液中に試料を浸積し、これを回転させながら徐冷することによって、厚さ200μmのSCO厚膜を得た。
X線回折により、得られたSCO厚膜は(001)配向していることがわかった。すなわち、基板面に対してSCOの層状構造は平行(SCOの各層の面内方向が基板面に対して平行)になっていた。
第2電極23(Ti)の作製では、基板温度を室温、成長時のガス圧を1Paとし、雰囲気ガスはArのみを使用し、投入電圧を80Wとした。
この際、円形の穴が一つ空いたメタルマスクを介して成膜を行い、電極の直径がそれぞれ3μm、10μm、50μm、200μm(面積7.1μm2、7.9×101μm2、2.0×103μm2、3.1×104μm2)であるような試料を合計4種類作製した(実施例3−1〜3−4)。
また、比較例として、メタルマスクを使わずに第2電極23のTiをCCOの表面全面(面積1.0×108μm2)に成膜した試料を作製した(比較例3−1)。
さらに別の比較例として、SrTiO3(100)基板上にSrRuO3(100)配向薄膜を形成し、その上に実施例3−1〜3−4と同様の条件でSCOの作製を行った。
X線回折の測定により、SCO薄膜は配向性を持たない多結晶薄膜であることがわかった。
上部電極のTiは実施例3−1〜3−4と同様に直径が3μm、10μm、50μm、200μm(面積7.1μm2、7.9×101μm2、2.0×103μm2、3.1×104μm2)のものを作製した(比較例3−2〜3−5)。
こうして作製した実施例3−1〜3−4および比較例3−1〜3−5の試料について、第1電極21と第2電極23との間に0.01mA〜100mAの範囲で電流を流し、発生する温度差の測定を行った。
結果を表3に示す。
表3には、異なる直径の上部電極を有する各々の試料に対して電流を流して上部電極を冷却した際の最大の冷却温度ΔTobs、材料本来の性能指数Z0を用いてΔTmax=Z0T2/2の式から算出される冷却温度の上限ΔTmaxとの比ΔTobs/ΔTmax、ΔTobsから換算される実効的なゼーベック係数Sobsも示している。
定常法によりSCOのゼーベック係数Ssを測定すると室温においては82μV/Kであった。本実施例のSobsはSsに比べて約8倍向上していた。
一方、比較例3−1〜3−4におけるSobsは82〜120μV/Kであり、定常法での値Ssとほぼ同程度の値であった。
また、SCOとほぼ同一の結晶構造を持つCa0.3CoO2についても試料を作製し、測定を行ったところ、SCOと同様の傾向を示した。
(実施例4)
実施例4では、実効面積をより大きくするために、図4に示したような材料層22と第2電極23との接点が複数となる構成の熱電変換デバイスを作製した。
本実施例の熱電変換デバイスの作製工程を図8A〜図8Dに示す。
基板には、10mm角、厚さ500μmのSrTiO3の(111)面基板を使用した。
第1電極21にSrRuO3、材料層22にSrxCoOy(以下、「SCO」と表記する)、第2電極23にTi、層間絶縁層41にネガ型の感光性ポリイミドを用いた。
xがおよそ0.3となるように、SCOを作製した。
まず、図8Aのように、基板81の上に第1電極21と材料層22を、基板81の全面(面積1.0×108μm2)に、実施例3に記載の条件と同様の条件にて作製した。
第1電極21の厚さは200nm、材料層22の厚さは200μmとした。
層間絶縁層41に感光性ポリイミドを使用する場合は、一般的なフォトレジストのパターニング手法と同様のプロセスが適用可能である。
まず、ネガ型感光性ポリイミドの原料溶液をスピンコートし、ホットプレートにて70℃で3分、その後90℃で3分プリベークして溶媒を揮発させ、厚さ10μmの膜を得た。
こうしてできた試料に対して、フォトマスクを介して水銀ランプの紫外線による露光を行い、その後γ−ブチロラクトンとシクロヘキサノンとの混合液による現像工程、酢酸ブチルとシクロヘキサノンとの混合液によるリンス工程を経て、図8Bのようにコンタクトホール51を有する層間絶縁層41のパターン形状を得た。
さらに、コンタクトホール51の側壁をテーパー形状にするために、N2ガス雰囲気下で、200℃で30分、350℃で30分保持するベーク工程を設け、図8Cに示したようなテーパー形状を作製した。
ベーク後の層間絶縁層41の厚さは6μmであった。
コンタクトホール51の大きさと配列は、使用するフォトマスクのパターンによって自由に設定可能であるが、本実施例では図4Bに示すように円形のコンタクトホールパターンが互いに等間隔の距離を保ちながら配列したものを作製した。
具体的には、コンタクトホール51として、材料層22と第2電極23との界面における直径が3μm、面積に換算すると7.1μm2のコンタクトホールを、合計1000個配置した。
次に、第2電極23(Ti)を実施例3と同様の条件にて作製し、図8Dに示すような熱電変換デバイスを得た(実施例4)。
こうして作製した実施例4の熱電変換デバイスについて、第1電極21と第2電極23との間に3Aの電流を流し、冷却を行った。
この際、冷却側となる第2電極23にシートヒーターを配置し、所定の温度差が保たれるようにし、この時のシートヒーターの消費電力から本実施例の熱電変換デバイスの冷却能力(単位時間当たりの吸熱量)の算出を行った。
結果を表4に示す。
表4は、冷却時の温度差を変化させた時の実施例4における冷却能力の違いを示している。
例えば5℃の冷却を行う際、本実施例のデバイス1つにつき冷却対象物から最大30mWの熱を吸熱することができる。
このような結果から、熱容量の大きい冷却対象物に対しても、本実施例の熱電変換デバイスを複数用いることで、温度制御が可能になることがわかった。
本実施例の熱電変換デバイスに対して、第1電極21と第2電極23との間に温度差を印加することによって、電極間から電力を取り出すことが可能である。
本実施例の熱電変換デバイスにおいて、第1電極21の側には温度を室温に保つ熱浴を、第2電極23の側にはシートヒーターを取り付け、5℃の温度差を与えた時の発電能力は、約1mWであった。
本発明にかかる熱電変換デバイスは、熱伝導による損失を軽減する高効率のデバイスを実現することができる。また従来の薄膜素子設計および製造のプロセスが適用できるため、デバイスの薄型化、微細化が容易となり、従来にない薄型の冷却機又は発電機として利用可能である。
また、電子デバイス中に回路の一部として組み込むことができるので、従来よりも効率よく回路内の発熱部位を冷却することができる。
図1は、本発明の熱電変換デバイスの実施の形態において用いられる層状酸化物の一例であって、電気伝導層と電気絶縁層とが1モノレイヤー毎に積層してなる層状酸化物の結晶構造を示した図である。
図2は、実施の形態1における熱電変換デバイスの断面構成を示した図である。
図3は、本発明の熱電変換デバイスの実施の形態において用いられる層状酸化物の他の例であって、電気絶縁層が4原子層からなる層状酸化物の結晶構造を示した図である。
図4Aは、実施の形態2における熱電変換デバイスの断面構成を示した図であり、図4Bは、図4AのI−I線断面図である。
図5A〜図5Dは、実施の形態2における熱電変換デバイスにおいて、コンタクトホールの形状が異なる熱電変換デバイスの各構成例を示した断面図である。
図6は、実施例1における熱電変換デバイスに用いられたBi2Sr2Co2Oy薄膜のX線回折パターンを示すグラフである。
図7は、実施例1における熱電変換デバイスにおいて、キャリアの流れと熱の流れを模式的に表した図である。
図8A〜図8Dは、実施例4における熱電変換デバイスの製造工程を示した断面図である。