JPWO2006051610A1 - タンタル酸リチウム結晶の製造方法 - Google Patents

タンタル酸リチウム結晶の製造方法 Download PDF

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Abstract

温度T1で還元処理された物質に処理すべきタンタル酸リチウム結晶を非接触状態で近接配置し、このタンタル酸リチウム結晶を上記温度T1より低い温度T2で還元雰囲気中にさらすことを特徴とする導電率が増加したタンタル酸リチウム結晶の製造方法。

Description

本発明は、弾性表面波素子などのウェハ上に金属電極でパターンを形成して電気信号を処理する用途等に使用されるタンタル酸リチウム結晶の製造方法に関する。
タンタル酸リチウムは、弾性表面波(SAW)の信号処理といった電気的特性を利用する用途に使用されている。この用途に適したタンタル酸リチウム結晶は、その結晶構造に起因するSAWデバイスに必要とされる圧電気応答(圧電性)を示すが、通常の方法で入手できるタンタル酸リチウム結晶は圧電性に加えて焦電気応答(焦電性)を生じる。
タンタル酸リチウム結晶の圧電性は、タンタル酸リチウム結晶をSAWデバイスとして利用する時に、不可欠となる特性であるが、一方、焦電性はタンタル酸リチウム結晶に温度変化を与えることで結晶の外側表面に発生する表面電荷として観察され、結晶を帯電させるものである。この表面電荷は、タンタル酸リチウム結晶をSAWデバイスとして使用するときに、タンタル酸リチウム結晶からなるウェハ上に形成された金属電極間で火花放電を起こし、SAWデバイスの著しい性能の欠陥を引き起こすとされている。このため、タンタル酸リチウム結晶を用いるSAWデバイスの設計では、表面電荷を発生させない工夫、発生した表面電荷を逃がす工夫、あるいは金属電極同士の間隔を広くするなどの工夫が必要とされ、これら工夫を取り入れるために、SAWデバイス自体の設計に制約が加わるといった不利益があった。
また、タンタル酸リチウム結晶を用いたSAWデバイスの製造工程では、金属膜の蒸着、レジスト層の除去といった工程でタンタル酸リチウム結晶に熱が加わる工程があり、これら工程で加熱あるいは降温といった温度変化がタンタル酸リチウム結晶に与えられると、タンタル酸リチウム結晶の焦電性により外側表面に電荷が発生する。この表面電荷により、金属電極間に火花放電が生じ、電極パターンの破壊となるため、SAWデバイスの製造工程ではできるだけ温度変化を与えないように工夫をしたり、温度変化を緩やかにするといった工夫をしており、これら工夫のために製造工程のスループットが低下したり、あるいはSAWデバイスの性能を保証するマージンが狭くなるといった不利益が生じている。
通常の方法で製造されたタンタル酸リチウム結晶では、焦電性により発生した外側表面の電荷は周囲環境からの遊離電荷により中和され、時間の経過とともに消失するが、この消失時間は数時間以上と長く、SAWデバイスの製造工程では、この自発的な焦電性の消失を期待できない。
弾性表面波(SAW)デバイスのような用途に対しては、デバイス特性を発揮するために必要とされる圧電性を維持した上で、上記背景により、結晶外側表面に電荷の発生が見られない圧電性結晶の要求が増大しており、このような用途に対して表面電荷の蓄積が見られないタンタル酸リチウム結晶が必要とされている。
この導電率を向上させたタンタル酸リチウム結晶の製造方法としては、特開平11−92147号公報(特許文献1)があるが、ここでは、タンタル酸リチウム結晶を500℃以上の還元雰囲気にさらすという方法が開示されている。しかし、特開平11−92147号公報(特許文献1)で開示された方法でタンタル酸リチウム結晶を還元処理すると、還元雰囲気での処理温度がキュリー点である610℃以上ではSAWデバイス用途で必要とされる単分域化構造が失われ、また、キュリー点である610℃以下の温度では還元処理の速度が極めて遅くなり、結果として特開平11−92147号公報(特許文献1)で開示された方法では工業的にタンタル酸リチウム結晶の導電率の向上はできないことが分かった。
このような点から、本発明者は、先に、温度T1で還元処理した物質を、温度T1より低い温度で、かつ還元雰囲気中でタンタル酸リチウム結晶に接触することにより、タンタル酸リチウムの導電性を向上させてタンタル酸リチウム結晶に発生した表面電荷を蓄積させることなく消失させる方法を提案した(特許文献2,3:特開2004−269300号公報、国際公開第2004/079061号パンフレット参照)が、タンタル酸リチウム結晶の導電率を向上させるための更なる方法の開発が望まれる。
特開平11−92147号公報 特開2004−269300号公報 国際公開第2004/079061号パンフレット
本発明は上記要望に応えたもので、均一な導電性向上処理を行うことができ、均一で高い導電性を有し、表面電荷の蓄積が防止されたタンタル酸リチウム結晶の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特開2004−269300号公報、国際公開第2004/079061号パンフレットに示されたような、温度T1で還元処理された物質に処理すべきタンタル酸リチウム結晶を接触させた状態で還元処理を行う方法(以下、接触法という)ではなく、温度T1で還元処理された物質にタンタル酸リチウム結晶を非接触状態で近接配置するだけでも十分な還元処理が可能である上、むしろこのように非接触状態で還元熱処理することにより、上記接触法と比較し、タンタル酸リチウム結晶に対する温度T1で還元処理された物質の接触度合いのばらつきに依存することがなく、かえって還元性ガスが処理すべきタンタル酸リチウム結晶表面に均一にいきわたるため、均一な還元が行われると同時に、高い還元能力を維持することができ、これによって均一で高い導電性を有し、表面電荷の蓄積が確実に防止されたタンタル酸リチウム結晶が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
従って、本発明は、温度T1で還元処理された物質に処理すべきタンタル酸リチウム結晶を非接触状態で近接配置し、このタンタル酸リチウム結晶を上記温度T1より低い温度T2で還元雰囲気中にさらすことを特徴とする導電率が増加したタンタル酸リチウム結晶の製造方法を提供する。
この場合、還元処理された物質と処理すべきタンタル酸リチウム結晶とを距離(d)0.1〜20mmを隔てて配置することが好ましい。また、温度T1は700℃以上であることが好ましく、温度T1での還元処理を、水素、一酸化炭素、一酸化二窒素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含む還元性ガス中で行うことが好ましく、この場合、この還元ガスは、更に希ガス、窒素、二酸化炭素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含んだものであってもよい。温度T1で還元処理された物質としては、無機物結晶、セラミックス、金属のいずれか、特には、非化学量論組成をもつ複合酸化物、とりわけタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムや水素貯蔵合金を用いることが好ましい。
また、処理すべきタンタル酸リチウム結晶としては、単一分極化された結晶、特に単一分極化された結晶としてスライス処理及び/又はラップ処理が行われたウェハやスライス前段階の結晶を用いることが好ましい。更に、温度T2は400〜600℃の範囲であることが好ましく、温度T2で処理した後に、温度が250℃以下で大気を導入することが好ましい。温度T2での還元処理は、水素、一酸化炭素、一酸化二窒素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含む還元性ガス中で行うことが好ましく、この場合、この還元性ガスは、更に希ガス、窒素、二酸化炭素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含むことができる。
本発明によれば、均一に還元熱処理してむらのない高導電性のタンタル酸リチウム結晶を簡単かつ確実に製造することができる。
温度T1で処理された物質と処理すべきタンタル酸リチウム結晶を横置きに配列させた状態の側面図である。 温度T1で処理された物質と処理すべきタンタル酸リチウム結晶を縦置きに配列させた状態の側面図である。 実施例1で用いた炉の概要図である。 温度T1で処理された物質と処理すべきタンタル酸リチウム結晶を距離dmmで近接配置して還元熱処理した場合のタンタル酸リチウム結晶の導電率(Ω-1・cm-1)の結果を示すグラフである。
符号の説明
1 温度T1で処理された物質
2 処理すべきタンタル酸リチウム結晶
11 アルミナ処理管
12 ガス供給口
13 ガス排出口
14 キャップ
15 アルミナ担体
16 LTラップウェハ
本発明の導電率が増加したタンタル酸リチウム結晶の製造方法は、温度T1で還元処理された物質に処理すべきタンタル酸リチウム結晶を非接触状態で近接配置し、この状態でこの処理すべきタンタル酸リチウム結晶を還元雰囲気中において上記温度T1より低い温度T2にて熱処理するもので、これにより該タンタル酸リチウム結晶の導電率を高くでき、この結果、タンタル酸リチウム結晶に温度変化を与えた時に発生する焦電気を抑えることができる。
このように、タンタル酸リチウム結晶に温度変化を与えることで発生する表面電荷を、タンタル酸リチウム結晶の導電性を向上することにより、上記発生した表面電荷を蓄積させることなく消失させることができるものである。
ここで、温度T1で還元処理される物質としては、無機物結晶、セラミックス、金属が挙げられる。この場合、該結晶としては、タンタル酸リチウム結晶、ニオブ酸リチウム結晶等が挙げられ、セラミックスとしては、非結晶のタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等が挙げられるが、特に、非化学量論組成をもつ複合酸化物からなるセラミックスを用いることが好ましい。この非化学量論組成をもつ複合酸化物では陽イオンの欠損があり、この欠損が還元処理と深く関係していると考えられる。この非化学量論組成をもつ複合酸化物としては、タンタル酸リチウムからなるセラミックスあるいはニオブ酸リチウムからなるセラミックスが例示される。更には、タンタル酸リチウム結晶あるいはニオブ酸リチウム結晶を用いることもでき、この場合、タンタル酸リチウム結晶あるいはニオブ酸リチウム結晶を用いる時は、陽イオンの欠損が少ない化学量論組成の結晶よりは例えばコングルーエント組成といわれているような化学量論組成から外れている組成の結晶を用いることが好ましい。
また、温度T1で処理される金属としては、水素貯蔵(吸蔵)合金が好ましい。
上記物質を還元処理する温度T1は、還元反応を速やかに行うために700℃以上、特に800℃以上とすることが好ましい。その上限温度は適宜選定されるが、1,200℃以下、特に1,150℃以下が好ましい。
また、上記物質を温度T1で還元処理する雰囲気としては、通常知られている還元性のガス雰囲気とすればよく、例えば、水素、一酸化炭素、一酸化二窒素、あるいはこれらの混合ガスからなる還元性のガス中で行うことで還元処理された物質を得ることができる。この場合、この還元性ガス中に、He,Ne,Arなどの希ガス、窒素、二酸化炭素、あるいはこれらの混合ガスからなる不活性ガスを添加した雰囲気中で還元処理を行うことができる。なお、これら不活性ガスは、上記物質を還元処理する還元性ガス中、0〜95容量%、特に20〜80容量%の含有量とすることが好ましい。
上記物質を還元処理する時間は、適宜選定されるが、通常0.5〜40時間、より好ましくは0.5〜20時間であり、処理される物質が還元され、処理される物質の面内が均一に黒色の状態になった場合、還元処理を終了することができる。
なお、還元ガス雰囲気としてはできるだけ還元処理の対象となる物質を短時間で処理できるものが好ましく、例えば水素を用いることが好ましい。
ここで、本発明において、温度T1で還元処理された物質の例として、タンタル酸リチウムからなるセラミックスが挙げられるが、このものは、炭酸リチウムと五酸化タンタルとを秤量し、混合し、電気炉で1,000℃以上に加熱することで得られる。また、ニオブ酸リチウムからなるセラミックスについては、五酸化タンタルの代わりに五酸化ニオブを使うことで得られる。このようにして得られたセラミックスをステンレススチール、石英等の容器中に入れ、封止された炉内に置き、上記還元性ガスを毎分0.1〜20リットル、特に0.1〜10リットルの速度で封止炉に流通させ、炉温を室温から上記処理温度(700℃以上)まで昇温し、0.5〜40時間、特に0.5〜20時間保持後、炉を毎分1〜20℃、特に1〜10℃の速度で降温し、容器を炉から取り出すことで還元処理された物質として得ることができる。
また、本発明において、温度T1で還元処理された物質の例として、タンタル酸リチウム結晶が挙げられるが、このものは、上記した還元処理前のタンタル酸リチウムからなるセラミックスを貴金属製のルツボに入れ、加熱、溶融後に種結晶を用いて回転引上げ(いわゆるチョクラルスキー法)を行うことにより、タンタル酸リチウム結晶を育成することができる。
このようにして得られたタンタル酸リチウム結晶を石英台に載せ、封止された炉内に置いて上記と同様の条件で還元熱処理を行った後、降温することで、還元処理された物質として得ることができる。なお、この降温の際、250℃以下で炉内に大気を導入し、30℃以下となったところで処理された物質を取り出すことができる。
ここで、上記チョクラルスキー法で得られた還元処理前の例えば直径4インチのタンタル酸リチウム結晶に貴金属電極を設置し、キュリー点以上の温度、例えば650℃にて電圧を印加することで単分域化処理ができ、この単分域化処理がなされた結晶を、例えばワイヤソーを用いてスライスすることで直径4インチ、厚さ0.5mmのスライス処理が行われたウェハが得られ、更にこのウェハをラップ機で処理することで直径4インチ、厚さ0.4mmラップウェハが得られる。
本発明において、温度T1で還元処理された物質の例として、タンタル酸リチウム結晶からなるラップウェハが挙げられるが、このものは、上記の工程で得られたタンタル酸リチウム結晶ラップウェハを上記した条件で還元熱処理し、降温し、必要により大気を導入し、30℃以下となったところでウェハを炉から取り出すことで得られる。この処理によりタンタル酸リチウムウェハの色は処理前の白色から黒く変色し、光吸収能を持つようになる。しかし、温度T1はタンタル酸リチウム結晶のキュリー点より高いため、この処理で得られるタンタル酸リチウムはSAWデバイス用としては不適な多分域構造をもつものである。
次に、本発明においては、処理すべきタンタル酸リチウム結晶を上記温度T1で処理された物質に非接触状態で近接配置し、上記温度T1よりも低い温度T2、好ましくは400〜600℃、特に500〜600℃にて還元熱処理を行うものである。
ここで、温度T2で処理されるべきタンタル酸リチウム結晶としては、上記したようにして得られる単一分極化された結晶を用いることができ、このように単一分極化されたタンタル酸リチウム結晶を用いる場合、本発明で得られるタンタル酸リチウム結晶は、温度T2での還元処理の後、単分域化処理を必要としない。この場合、単一分極化された結晶の形態としては、スライス前段階の結晶、あるいはスライス処理が行われたウェハもしくはラップ処理が行われたウェハを用いることができる。
なお、通常の単分域化処理は、タンタル酸リチウム結晶のキュリー点(約610℃)以上の高温でかつ、大気中で行う。一方、本発明で得られた導電率を向上させたタンタル酸リチウム結晶は、大気中で400℃以上の温度にすることで、向上した導電率が失われてしまい、この結果、本発明による処理を行ったタンタル酸リチウム結晶は、その後に単分域化処理を行うと、還元熱処理前の状態に戻るという性質がある。しかし、本発明では、タンタル酸リチウムを還元熱処理する温度T2をタンタル酸リチウム結晶のキュリー点(610℃)より低い温度とすることにより、また処理雰囲気が還元雰囲気中であるため、導電率が失われるといった問題は生じない。
また、この場合、処理すべきタンタル酸リチウム結晶を上記温度T1で処理された物質に対して非接触で近接させる距離d(図1,2参照)は0.1〜20mm、特に0.2〜3mm程度とすることが好ましい。なお、図1,2は、温度T1で処理された物質1と処理すべきタンタル酸リチウム結晶2との配置状態を示すもので、図1はタンタル酸リチウム結晶2からなるウェハを横置きした例、図2は縦置きした例であり、温度T1で処理された物質1と処理すべきタンタル酸リチウム結晶2をそれぞれ距離dを隔てて交互に配列させたものである。
本発明において、上記タンタル酸リチウム結晶を温度T2で還元熱処理する場合の雰囲気としては、通常知られている還元性のガス雰囲気とすればよく、例えば、水素、一酸化炭素、一酸化二窒素、あるいはこれらの混合ガスからなる還元性のガス中で行うことで還元処理された物質を得ることができる。この場合、還元性ガス中に、He,Ne,Arなどの希ガス、窒素、二酸化炭素、あるいはこれらの混合ガスからなる不活性ガスを添加した雰囲気中で還元処理を行うことができる。なお、これら不活性ガスは、上記物質を還元処理する還元性ガス中、0〜95容量%、特に20〜80容量%の含有量とすることが好ましい。
上記タンタル酸リチウム結晶を処理する温度は上述した通り400〜600℃が好ましく、還元処理する時間は、適宜選定されるが、通常0.5〜20時間、より好ましくは0.5〜10時間であり、処理されるタンタル酸リチウム結晶が面内均一に黒色もしくは薄黒色を示す状態になった場合、還元処理を終了することができる。
このように、還元熱処理した後は、降温すればよいが、この場合、温度が250℃以下に下った場合に大気を導入することが取り出し時の熱収縮等による割れを予防、又は大気中の成分との反応を防ぐという点から推奨される。
本発明で目的とする単分域化構造をもち、かつ、導電率を向上させたタンタル酸リチウム結晶を得る好適な方法としては、例えば、本発明の温度T2で還元熱処理すべき単分域化処理が行われたタンタル酸リチウム結晶ラップウェハと温度T1で処理を行うことにより黒く変色したタンタル酸リチウムウェハを非接触状態で近接(0.1〜20mm)させて交互に配置し、炉中に設置し、水素ガス等の還元性ガスを毎分0.1〜20リットル、特に0.1〜10リットルの速度で流し、炉の温度を室温から毎分1〜20℃、特に1〜10℃の速度で昇温させ、所用の温度T2に0.5〜20時間、特に0.5〜10時間保持後、炉を毎分400〜600℃、特に500〜600℃の速度で降温し、250℃以下で炉内に大気を導入し、30℃以下となったところでウェハを炉から取り出すことが好ましい。
ここで、処理すべきタンタル酸リチウム結晶を温度T1で処理された物質と接触させないことで、還元性ガスをタンタル酸リチウム結晶全面に行き渡らせ、均一な面内分布を達成することができ、温度T1で還元処理された物質の処理すべきタンタル酸リチウム結晶に対する影響を最大限に生かすことが可能になる。
本発明で得られたタンタル酸リチウム結晶は、結晶の導電率が向上していることにより、温度変化で生じる表面電荷の蓄積が実質的に見られないという特徴を持っている。このことにより、本発明で得られるタンタル酸リチウム結晶は圧電性を維持した上で結晶外表面に電荷の蓄積が見られないものとなっており、SAWデバイス製造上極めて有利な材料である。また、本発明の方法では上記したタンタル酸リチウム結晶は極めて短時間の処理で得ることができ、工業的に有利な製造方法となっている。
ここで、タンタル酸リチウム結晶に対する導電率の測定は、実施例に記載の通りであるが、本発明による還元熱処理前のタンタル酸リチウム結晶の導電率が通常10-14〜10-15Ω-1・cm-1であるのに対し、本発明の還元熱処理を行った後のタンタル酸リチウム結晶の導電率は、通常10-9〜10-13Ω-1・cm-1、特に10-10〜10-12Ω-1・cm-1となる。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[LTウェハの作製例]
LTウェハ作製を次の通り行った。表面法線に対してy方向に36゜回転して配向された直径100mm、長さ50mmのタンタル酸リチウム結晶を、チョクラルスキー法及び常用の二次加工法を使用することにより得た(以後、LT結晶と記す)。このLT結晶を切断し、ラップ加工を行い、厚さ0.4mmの両面ラップウェハを得た(以後、このウェハをLTラップウェハと記す)。LTラップウェハの片面を研磨し、厚さ0.35mmのウェハを得た(以後、このウェハをLTポリッシュウェハと記す)。このウェハは、無色で半透明であった。
[実施例1]
上記LTラップウェハを、表1の各ガスが毎分約1.5リットルの速度で流通する封止された炉中に置いた。炉の概要を図3に示す。
この炉10には、直径200mmのアルミナ処理管11が水平方向に沿って配置され、この処理管11内に3つの帯域A,B,Cが形成されていると共に、処理管11には、これら帯域A,B,Cに対応して熱電対a,b,cが設けられている。上記アルミナ処理管11の両端部はそれぞれ炉10から外部に延出されており、一方の延出端面は気密に閉塞されていると共に、この閉塞面にガス供給口12が形成され、他方の延出端面にはキャップ14が着脱可能に取り付けられていると共に、この他方の延出端面近傍には、ガス排出口13が形成されている。なお、図示していないが、上記アルミナ処理管11のウェハ取り出し口となる片側両延出基端部はOリングにより気密にシールされている。また炉内を加熱する手段は、抵抗加熱によるものとされている。
まず、キャップ14を取り外し、アルミナ担体15に上記LTラップウェハ16を支持させたものをアルミナ処理管11内に置き、ガス供給口12からガス流をアルミナ処理管11内に導入すると共に、ガス排出口13から排出させた状態で炉の加熱を開始した。炉の温度を室温から毎分約6.7℃の速度で表1の温度T1まで昇温した。温度T1にて1時間保持後、炉を毎分約6.7℃の速度で降温した。250℃以下で炉内に大気を導入し、30℃以下となったところでウェハを炉から取り出した(以後、T1処理LTウェハと記す)。
次に、LTラップウェハとT1処理LTウェハを図1に示すように互いに近接して交互に配置し、LTラップウェハとT1処理LTウェハとの間隔(d)が0.25mmとなるようにし、水素ガス等の還元性ガスが毎分約1.5リットルの速度で流通する封止された炉中に置いた。本実施例では、この炉は、温度T1還元処理と同一のものである。炉の温度を室温から毎分約6.7℃の速度で昇温した。表1の温度T2に1時間保持後、炉を毎分約6.7℃の速度で降温した。250℃以下で炉内に大気を導入し、30℃以下となったところでウェハを炉から取り出した(以後、T2処理LTウェハと記す)。
導電率は次のように測定した。導電率は体積抵抗率の逆数であり、体積抵抗率はHewlett Packard社製、4329A High Resistance Meter及び16008A Resistivityを用いて測定した。体積抵抗率は下記式により得ることができる。
ρ=(πd2/4t)・R
ρ:体積抵抗率(Ω・cm)
π:円周率
d:中心電極直径(cm)
t:T2処理LTウェハ厚さ(cm)
R:抵抗値(Ω)
抵抗値は、試料に500ボルトの電圧を印加し、電圧を印加してから1分後の抵抗値を測定した。
表面電位は次のように測定した。焦電気は温度差が発生したときに表面に蓄積される電荷量である。これは静電気と同様であり、定量的な測定として表面電位測定が知られている。T2処理LTウェハをホットプレート上で30℃〜70℃まで1分で昇温し、Ion Systems社製、SFM775を使用することにより、その間に変化する表面電位の差を測定値とした。
導電率、表面電位を表1に示す。なお、すべての表及び図面において、導電率の、例えば「9.3E−14」というような記載は、「9.3×10-14」という意味である。
Figure 2006051610
[実施例2]
温度T2還元処理−タンタル酸リチウム結晶
LTラップウェハを、水素ガスが毎分約1.5リットルの速度で流通する封止された炉中に置いた。温度T1(1,100℃)に1時間保持してT1処理LTウェハを得た。図1のように、LTラップウェハとT1処理LTウェハを非接触状態に近接(d=0.1−50mm)して交互に配置し、90vol%N2+10vol%H2の混合ガスが毎分約1.5リットルの速度で流通する封止された炉中に置いた。ここで、ウェハ間の間隔を0.1mm以上としたのは、これより短いとウェハの充填が困難であるためである。温度T2(600℃)に1時間保持後、炉を毎分約6.7℃の速度で降温した。250℃以下で炉内に大気を導入し、30℃以下となったところでウェハを炉から取り出し、T2処理LTウェハを得た。導電率の間隔dへの依存性を図4に示す。導電率は間隔dが少ないほど増加し、20mm以上ではほとんど効果がないことがわかる。また、ウェハ充填に支障をきたさず、導電率増加という観点から好ましい間隔は0.2〜3.0mm程度の範囲内といえる。
また、接触法(特開2004−269300号公報)で得られたウェハと本実施例で得られたウェハを目視検査したところ、本実施例で作製されたウェハはいずれも、接触法で得られたものよりも、ウェハ面内均一に変色していることが確認できた。

Claims (16)

  1. 温度T1で還元処理された物質に処理すべきタンタル酸リチウム結晶を非接触状態で近接配置し、このタンタル酸リチウム結晶を上記温度T1より低い温度T2で還元雰囲気中にさらすことを特徴とする導電率が増加したタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  2. 還元処理された物質と処理すべきタンタル酸リチウム結晶とを距離(d)0.1〜20mmを隔てて配置した請求項1記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  3. 温度T1が700℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  4. 温度T1での還元処理を、水素、一酸化炭素、一酸化二窒素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含む還元性ガス中で行うことを特徴とする請求項1,2又は3記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  5. 前記還元性ガスが、更に希ガス、窒素、二酸化炭素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含む請求項4記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  6. 温度T1で還元処理された物質として、無機物結晶、セラミックス、金属のいずれかを用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  7. 前記無機物結晶又は前記セラミックスとして、非化学量論組成をもつ複合酸化物からなるものを用いることを特徴とする請求項6記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  8. 前記無機物結晶又は前記セラミックスとして、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムを用いることを特徴とする請求項6又は7記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  9. 前記金属として水素貯蔵合金を用いることを特徴とする請求項6記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  10. 処理すべきタンタル酸リチウム結晶として、単一分極化された結晶を用いることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  11. 前記単一分極化された結晶として、スライス処理及び/又はラップ処理が行われたウェハを用いることを特徴とする請求項10記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  12. 前記単一分極化された結晶として、スライス前段階の結晶を用いることを特徴とする請求項10記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  13. 温度T2が400〜600℃の範囲であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  14. 温度T2で処理した後に、温度が250℃以下で大気を導入することを特徴とする請求項13記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  15. 温度T2での還元処理を、水素、一酸化炭素、一酸化二窒素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含む還元性のガス中で行うことを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。
  16. 前記還元性ガスが、更に希ガス、窒素、二酸化炭素から選ばれる1種又は2種以上の混合ガスを含む請求項15記載のタンタル酸リチウム結晶の製造方法。

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