以下、本発明に係る装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具を示した分解斜視図である。同図でわかるように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10は、未硬化のバイト材1を咬合可能な状態で保持するバイト材保持部2と、該バイト材保持部が一端に設けられた接続部材3と、該接続部材の他端に設けられた瞳孔線設定用ロッド4と、該瞳孔線設定用ロッドに直角にかつ該瞳孔線設定用ロッドの材軸廻りに任意の角度位置で取付け自在な正中線設定用ロッド5とから構成してある。
ここで、接続部材3の他端には、断面が円形の差込穴6を形成してあるとともに、該差込穴に嵌合される差込部7を断面が円形になるように瞳孔線設定用ロッド4の中央近傍に突設してあり、差込部7を差込穴6に差し込むことによって、瞳孔線設定用ロッド4を接続部材3の材軸に対して直角にかつ該材軸廻りに揺動自在又は回動自在となるように構成してある。
さらに、差込部7が差込穴6の軸線に対して任意の角度で該差込穴内に固定されるように接続部材3に差込部固定機構13を設けてある。
差込部固定機構13は、接続部材3の周面に差込穴6と直交するように形成された第1の雌ネジ孔9と該第1の雌ネジ孔に螺合される第1の雄ネジ8とから構成してある。
ここで、瞳孔線設定用ロッド4を断面が円形となるように形成してあるとともに、正中線設定用ロッド5の周面には、該瞳孔線設定用ロッドに嵌着可能な嵌着部11を取り付けてあり、嵌着状態にて正中線設定用ロッド5を瞳孔線設定用ロッド4に対して摺動自在にかつ該瞳孔線設定用ロッドの材軸廻りに揺動自在又は回動自在となるように構成してある。
さらに、嵌着部11が瞳孔線設定用ロッド4に嵌着された状態にて正中線設定用ロッド5が瞳孔線設定用ロッド4の材軸廻りに所望の角度位置で固定されるように嵌着部11に嵌着部固定機構14を設けてある。
嵌着部固定機構14は、嵌着部11の背面側に正中線設定用ロッド5と直交するように形成された第2の雌ネジ孔15と該第2の雌ネジ孔に螺合される第2の雄ネジ12とで構成してある。
本実施形態では患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合について説明する。
本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10を用いて患者の咬合面を記録するにあたっては、まず、歯科医師が患者の上歯をタービン等で削り、差し歯を支えるための支柱を形成する。
なお、自歯の利用が困難な場合には、自歯を抜き、それに代えてインプラントを上顎の骨の中に植え込み該インプラントを支柱とする。
次に、上述した支柱形成工程と相前後して又は同時に、必要に応じてレーザーで歯茎のラインを唇のラインに揃える。
図2は、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10を用いて患者の咬合型を採取するとき正面図を示す。また、図3は、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10を患者に装着した場合の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図をそれぞれ示す。
図2(a)でわかるように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10を用いて患者の咬合型を採取するには、まず、上顎歯列28のうち、左臼歯の支柱21に仮歯22を差し込み、かかる状態にて右上顎歯列臼歯の支柱23と右下顎歯列臼歯24とで未硬化の側方バイト材25を咬ませ右側の上下臼歯23,24の咬合型取りを行う。
このようにすると、例えば左側で仮歯22と左下顎歯列臼歯26とを噛合させる、言い換えれば、上顎歯列28及び下顎歯列29を左側で正常に噛み合わされた状態で、他方である右側の上下臼歯23,24の咬合型取りを行うことができる。
次に、図2(b)でわかるように、右側の上下臼歯に咬ませた側方バイト材25の硬化後、仮歯22が被せられた左臼歯の支柱21から該仮歯を外すとともに、右側の上下臼歯23,24の咬合型が圧痕された側方バイト材25’をその咬合型に合わせて再び右側の上下臼歯23,24に咬ませ、かかる状態で、左臼歯の支柱21と左下顎歯列臼歯26に未硬化の側方バイト材27を咬ませて左側の上下臼歯の咬合型取りを行う。
なお、右側の上下臼歯23,24に咬ませた側方バイト材25’は硬化しているため、左臼歯の支柱21に被せた仮歯22を該支柱から外しても、上顎歯列28と下顎歯列29との正常な噛み合わさ状態が阻害されることはない。
次に、図2(c)でわかるように、左側の上下臼歯21,26に咬ませた側方バイト材27の硬化後、右側の上下臼歯23,24の咬合型が圧痕された側方バイト材25’を該咬合型に合わせて右側の上下臼歯23,24に咬ませるとともに、左側の上下臼歯21,26の咬合型が圧痕された側方バイト材27’を該咬合型に合わせて左側の上下臼歯23,24に咬ませ、かかる状態にて未硬化のバイト材1を上顎前歯31と下顎前歯32とで咬ませる。かかる未硬化のバイト材1は、咬合面トランスファー器具10を構成する接続部材3の一端に設けられたバイト材保持部2に例えば貫入等によって予め保持してある。
なお、バイト材1を咬ませるにあたっては、咬合面トランスファー器具10を構成する瞳孔線設定用ロッド4が患者の顔面に対して平行となるように該バイト材を患者の上顎前歯31及び下顎前歯32に咬ませるようにする。
次に、図3でわかるように、上顎前歯31と下顎前歯32とで咬ませたバイト材1が硬化した後、接続部材3の差込穴6に差込部7を嵌合することで該接続部材に取付けられた瞳孔線設定用ロッド4を該接続部材の材軸回りに揺動又は回動させることで、瞳孔線設定用ロッド4を患者の瞳孔線41に対して平行に位置決めし、かかる位置にて第1の雄ネジ8を第1の雌ネジ穴9に螺合することによって瞳孔線設定用ロッド4を接続部材3に固定する。
なお、バイト材1が完全に硬化せずとも瞳孔線設定用ロッド4の揺動又は回転による位置決めが変化しないのであれば、完全硬化を待つ必要はない。
ここで、審美的な歯列とは、その歯列弓が両瞳孔を結ぶ線である瞳孔線41と平行であるとともに歯茎からの生え方が額と顎を結ぶ線42に平行であり、かつ上顎両切歯間が瞳孔線41とその中点にて直角に交わる正中線43上に位置することである。
したがって、上述したように瞳孔線設定用ロッド4を位置決めすると、瞳孔線41と平行な線が瞳孔線設定用ロッド4に記録され、患者の審美的な咬合面の決定条件のうちの一つが定まることになる。
次に、上顎前歯31及び下顎前歯32にバイト材保持部2に保持され硬化したバイト材1’を咬ませた状態を保ったまま、咬合面トランスファー器具10を構成する正中線設定用ロッド5を患者の正中線43に沿うように瞳孔線設定用ロッド4に直角にかつ、正中線設定用ロッド5が額と顎とを結ぶ線42に対して平行になるように正中線設定用ロッド5の周面に取り付けられた嵌着部11を瞳孔線設定用ロッド4に嵌着し、かかる状態にて第2の雄ネジ12を第2の雌ネジに螺合することで正中線設定用ロッド5を瞳孔線設定用ロッド4に固定する。
このようにすると、患者の審美的な咬合面の決定条件のうち、もう一つの条件が定まる、すなわち、正中線43に沿うとともに額と顎とを結ぶ線42に平行な線が正中線設定用ロッド5に記録されることができる。
なお、適当な時期、例えば支柱が形成された後に、未硬化状態の印象材、例えばシリコンラバー印象材や歯科用寒天印象材を上顎歯列28(図2参照)及び下顎歯列29(図2参照)にそれぞれあてがって、該上顎歯列及び該下顎歯列の型取りをそれぞれ行い、従来の方法により上顎歯列模型71(図5参照)及び下顎歯列模型72(図5参照)をそれぞれ製作しておく。
以上説明したように本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10によれば、未硬化のバイト材1を咬合可能な状態で保持するバイト材保持部2と、該バイト材保持部が一端に設けられた接続部材3と、該接続部材の他端に設けられた瞳孔線設定用ロッド4と、該瞳孔線設定用ロッドに直角にかつ該瞳孔線設定用ロッドの材軸廻りに任意の角度位置で取付け自在な正中線設定用ロッド5とからなり、接続部材3の他端に断面が円形の差込穴6を形成してあるとともに、該差込穴に嵌合される差込部7を断面が円形になるように瞳孔線設定用ロッド4の中央近傍に突設し、加えて、差込部7が差込穴6の軸線に対して任意の角度で該差込穴内に固定されるように接続部材3に差込部固定機構を設けるようにしたので、患者の上顎前歯31と下顎前歯32とで咬ませたバイト材1が硬化した後、接続部材3に取付けられた瞳孔線設定用ロッド4を該接続部材の材軸回りに揺動又は回動させることで、瞳孔線設定用ロッド4を患者の瞳孔線41に対して平行に位置決めし、かかる位置にて瞳孔線設定用ロッド4を接続部材3に固定することが可能となる。
そのため、患者の瞳孔線41と平行な線が瞳孔線設定用ロッド4に記録され、患者の審美的な咬合面の決定条件のうちの一つが定まることになる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10によれば、瞳孔線設定用ロッド4を断面が円形となるように形成してあるとともに、該瞳孔線設定用ロッドに嵌着可能な嵌着部11を正中線設定用ロッド5の周面に取り付けてあり、嵌着状態にて正中線設定用ロッド5を瞳孔線設定用ロッド4に対して摺動自在にかつ該瞳孔線設定用ロッドの材軸廻りに揺動自在又は回動自在となるように構成し、嵌着部11が瞳孔線設定用ロッド4に嵌着された状態にて正中線設定用ロッド5が瞳孔線設定用ロッド4の材軸廻りに所望の角度位置で固定されるように嵌着部11に嵌着部固定機構を設けるようにしたので、上顎前歯31及び下顎前歯32にバイト材保持部2に保持され硬化したバイト材1’を咬ませた状態を保ったまま、正中線設定用ロッド5を患者の正中線43に沿うように瞳孔線設定用ロッド4に直角にかつ、正中線設定用ロッド5が額と顎とを結ぶ線42に対して平行になるように正中線設定用ロッド5の周面に取り付けられた嵌着部11を瞳孔線設定用ロッド4に嵌着し、かかる状態にて正中線設定用ロッド5を瞳孔線設定用ロッド4に固定することが可能となる。
そのため、患者の審美的な咬合面の決定条件のうち、もう一つの条件が定まる、すなわち、正中線43に沿うとともに額と顎とを結ぶ線42に平行な線が正中線設定用ロッド5に記録されることとなり、かくして、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10によって、患者の審美的な咬合面を記録することが可能となり、患者に適応した咬合面を再現することができる。
本実施形態では、接続部材3の周面に差込穴6と直交するように第1の雌ネジ孔9を形成し、第1の雄ネジ8を該第1の雌ネジ孔に螺合するようにしたが、瞳孔線設定用ロッド4の差込部7が接続部材3の差込穴6の軸線に対して任意の角度で該差込穴内に固定されればどのようにしてもよく、例えば、差込穴6内に接着剤を注入して該差込穴に差込部7を嵌合するようにしてもよい。
また、本実施形態では、嵌着部11の背面側に正中線設定用ロッド5と直交するように第2の雌ネジ孔(図示せず)を形成し、第2の雄ネジ12を該第2の雌ネジ孔に螺合するようにしたが、嵌着部11が瞳孔線設定用ロッド4の任意位置にて固定されればどのようにしてもよく、例えば、接着剤によって嵌着部11を瞳孔線設定用ロッド4に固定するようにしてもよい。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。まず、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図4は本実施形態に係る咬合器50の斜視図を示したものである。また、図5、図6は、同じく咬合器50の正面図、側面図をそれぞれ示したものである。
同図でわかるように、本実施形態に係る咬合器50は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版51と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版54とから構成してあり、頂版54は、前方に向けて高さ調整ロッド56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版51及び頂版54は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版51に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版51の上面には下顎歯列模型72を、頂版54の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版51及び頂版54は、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版51の上面と頂版54の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版51の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56を立設してあり、頂版54は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ(図示せず)を介して連結された頂版本体52とから構成してある。かかる構成により、頂版54全体を高さ調整ロッド56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体52を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版54は、上述したようにその頂版本体52を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体52の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体52の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版51に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
頂版基部53の長手方向両端面には、第3の雌ネジ孔92,92と該第3の雌ネジ孔に螺合される第3の雄ネジ57,57とからなる固定機構93を設けてあり、頂版基部53、ひいては頂版54全体を高さ調整ロッド56,56の所望位置に固定することができるようになっている。
このように、頂版本体52が水平前方に向いた位置で回転拘束されるとともに、頂版54全体を高さ調整ロッド56,56の所望位置に固定することができるようになっていることにより、固着後においてバイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’を撤去する際、該撤去の前後で底版51と頂版本体52との相対位置関係を保持することができるとともに、反転の前後で底版51と頂版本体52との相対位置関係を保持することができる。
加えて、底版51及び頂版本体52の前方側端面には、正中線設定用ロッド5が嵌合される正中線設定用ロッド溝58a,58bをそれぞれ形成してあるとともに、正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝58a,58bにそれぞれ嵌合したとき、正中線設定用ロッド5が垂直となるように正中線設定用ロッド溝58a,58bを同じ深さにしてある。
また、正中線設定用ロッド溝58a,58bの内面には、底版51と垂直な正中線基準ライン60a,60bをそれぞれ設けてあるとともに、頂版本体52及び底版51の前方側端面には、正中線基準ライン60a,60bと直角な瞳孔線基準ライン59a,59bをそれぞれ設けてある。
本実施形態に係る咬合器50においては、咬合面トランスファー器具10を構成するバイト材保持部2に保持された硬化済みのバイト材1’を該バイト材に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71の前歯73と下顎歯列模型72の前歯74とで咬ませるとともに、右側の上下臼歯75,76の咬合型が圧痕された側方バイト材25’及び左側の上下臼歯77,78の咬合型が圧痕された側方バイト材27’を各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の両側方にそれぞれ咬ませ、かかる状態で咬合面トランスファー器具10を構成する正中線設定用ロッド5を底版51及び頂版本体52の両前方側端面にて該底版に垂直にそれぞれ形成された正中線設定用ロッド溝58a,58bにそれぞれ嵌合して下顎歯列模型を底版の上面に、上顎歯列模型を頂版の下面にそれぞれ固着する。
このようにすると、正中線設定用ロッド5は底版51に対して垂直となり、かつ、咬合面トランスファー器具10を構成する瞳孔線設定用ロッド4は、正中線設定用ロッド5に直角であるため、おのずと底版51に対して水平となる。加えて、患者の正面、すなわち額と顎からの距離が同一の仮想面を底版に対する垂直面として咬合器に移すことができる。
次に、かかる位置にて頂版基部53に形成された一対の第3の雌ネジ孔92,92に第3の雄ネジ57,57をそれぞれ螺合し、頂版基部53を高さ調整ロッド56,56にそれぞれ固定する。
次に、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72で咬まされたバイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’をそれぞれ撤去する。
以降、第3実施形態で述べる咬合面トランスファー器具10及び咬合器50を用いた差し歯の製作方法に従って差し歯を製作するが、かかる差し歯の製作にあたっては、正中線基準ライン60a,60bを用いることによって、切歯79a,79bの間がちょうど正中線に一致するように該切歯を製作する。
また、咬合面が瞳孔線基準ライン59a,59bに平行になるように差し歯を製作する。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合器50によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72にバイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’を咬ませた状態で正中線設定用ロッド5を頂版本体52及び底版51の前方側端面にそれぞれ形成された正中線設定用ロッド溝58a,58bにそれぞれ嵌合し、下顎歯列模型72を底版51の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体52の下面にそれぞれ固着するようにしたので、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を患者の口腔内における歯列と同じ三次元上の絶対座標位置に据え付けることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器50によれば、固着後においてバイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’を撤去する際、該撤去の前後で底版51と頂版54との相対位置関係が保持されるように、かつ反転の前後で底版51と頂版54との相対位置関係が保持されるように頂版54及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’を取り去った後も、下顎歯列模型72と上顎歯列模型71との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において差し歯を製作することが可能となるとともに、差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版54を構成する頂版本体52を頂版基部53に対して元通り回転させても、下顎歯列模型72と上顎歯列模型71との相対位置関係は何ら変化しないため、差し歯の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器50によれば、底版51及び頂版本体52の前方側端面に所定の瞳孔線基準ライン59a,59bを底版51に対して平行に設けるようにしたので、差し歯を製作する際、咬合面を瞳孔線基準ライン59a,59bに合わせることで、精度の高い差し歯を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器50によれば、底版51及び頂版本体52の両前方側端面にてそれぞれ形成された正中線設定用ロッド溝58a,58bの内面に底版51と垂直に正中線基準ライン60a,60bをそれぞれ設けるようにしたので、切歯79a,79bの間にちょうど正中線基準ライン60a,60bがくるように該切歯を製作することにより、より整った歯列、言い換えれば審美的な歯列となるように差し歯を製作することが可能となる。
本実施形態では、底版51及び頂版本体52の両前方側端面に所定の瞳孔線基準ライン59a,59bを底版51に対して平行に設けるとともに、底版51及び頂版本体52の両前方側端面にてそれぞれ形成された正中線設定用ロッド溝58a,58bの内面に底版51と垂直に正中線基準ライン60a,60bをそれぞれ設けるようにしたが、これを省略し、咬合面を底版51に合わせるとともに、切歯79a,79bの間を正中線設定用ロッド溝58a,58bの中心に合わせるようにしてもよい。
また、本実施形態では、底版51及び頂版本体52の両前方側端面に正中線設定用ロッド溝58a,58bをそれぞれ形成するようにしたが、図7に示す咬合器80の斜視図でわかるように、これを省略し、正中線設定用ロッド5が底版51に垂直になるように下顎歯列模型72及び上顎歯列模型71を底版51の上面と頂版本体52の下面にそれぞれ固着するようにしてもよい。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。まず、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
第1実施形態に係る咬合面トランスファー器具10及び第2実施形態に係る咬合器50を用いて上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、まず、患者の瞳孔線及び正中線が記録された咬合面トランスファー器具10のバイト材保持部2に保持された硬化済みのバイト材1’を該バイト材に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71の前歯73と下顎歯列模型72の前歯74とで咬ませる(ステップ101)。
次に、かかる作業と相前後して又は同時に、両側方における上下臼歯75,76,77,78の咬合型が圧痕された2つの側方バイト材25’,27’を該咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の両側方にそれぞれ咬ませる(ステップ102)。
かかる状態で咬合面トランスファー器具10を構成する正中線設定用ロッド5を底版51及び頂版本体52の両前方側端面にて該底版に垂直にそれぞれ形成された正中線設定用ロッド溝58a,58bにそれぞれ嵌合して下顎歯列模型を底版の上面に、上顎歯列模型を頂版の下面にそれぞれ固着する(ステップ103)。
このようにすると、正中線設定用ロッド5は底版51に対して垂直となり、かつ、咬合面トランスファー器具10を構成する瞳孔線設定用ロッド4は、正中線設定用ロッド5に直角であるため、おのずと底版51に対して水平となる。加えて、患者の正面、すなわち額と顎からの距離が同一の仮想面を底版に対する垂直面として咬合器に移すことができる。
次に、かかる位置にて頂版基部53に形成された一対の第3の雌ネジ孔92,92に第3の雄ネジ57,57をそれぞれ螺合し、頂版基部53を高さ調整ロッド56,56にそれぞれ固定する(ステップ104)。
次に、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72で咬まされたバイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’をそれぞれ撤去する(ステップ105)。
次に、頂版本体52を頂版基部53に対して該頂版基部廻りに上面が該頂版基部の上面に当接するまで反転させる(ステップ106)。
かかる状態にて、咬合面が瞳孔線基準ライン59a,59bに平行になるように、かつ、切歯79a,79bの間がちょうど正中線基準ライン60a,60bに一致するように該切歯を製作する(ステップ107)。
ここで、上述した方法を用いて上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、従来の手法を用いればよいが、人に自然な笑顔を作り出す上で最も重要な要因は上顎歯列28であるため、特に下顎歯列模型72との噛み合わせは見ず、あくまで見た目的に患者に合った審美的な上顎歯列用差し歯を形成する。
以上説明したように、本実施形態に係る上顎歯列用差し歯製作方法によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72にバイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’を咬ませた状態で正中線設定用ロッド5を頂版本体52及び底版51の前方側端面にそれぞれ形成された正中線設定用ロッド溝58a,58bにそれぞれ嵌合し、下顎歯列模型72を底版51の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体52の下面にそれぞれ固着するようにしたので、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を患者の口腔内における歯列と同じ三次元上の絶対座標位置に据え付けることが可能となる。
また、本実施形態に係る上顎歯列用差し歯製作方法によれば、固着後においてバイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’を撤去する際、該撤去の前後で底版51と頂版54との相対位置関係が保持されるように、かつ反転の前後で底版51と頂版54との相対位置関係が保持されるように咬合器50の頂版54及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1’及び2つの側方バイト材25’,27’を取り去った後も、下顎歯列模型72と上顎歯列模型71との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯を製作することが可能となるとともに、上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版54を構成する頂版本体52を頂版基部53に対して元通り回転させても、下顎歯列模型72と上顎歯列模型71との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る上顎歯列用差し歯製作方法によれば、咬合器50の底版51及び頂版本体52の前方側端面に所定の瞳孔線基準ライン59a,59bを底版51に対して平行に設けるようにしたので、上顎歯列用差し歯を製作する際、咬合面を瞳孔線基準ライン59a,59bに合わせることで、精度の高い差し歯を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る上顎歯列用差し歯製作方法によれば、咬合器50の底版51及び頂版本体52の両前方側端面にてそれぞれ形成された正中線設定用ロッド溝58a,58bの内面に底版51と垂直に正中線基準ライン60a,60bをそれぞれ設けるようにしたので、切歯79a,79bの間にちょうど正中線基準ライン60a,60bがくるように該切歯を製作することにより、より整った歯列、言い換えれば審美的な歯列となるように上顎歯列用差し歯を製作することが可能となる。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図9は、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具を示した図であり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具120は、未硬化のバイト材1を咬合可能な状態で保持するバイト材保持部2と、該バイト材保持部が一端に取り付けられた接続部材3と、該接続部材の他端に設けられた瞳孔線設定用ロッド4と、該瞳孔線設定用ロッドに直角にかつ該瞳孔線設定用ロッドの材軸廻りに任意の角度位置で取付け自在な正中線設定用ロッド125とからなり、瞳孔線設定用ロッド4は、接続部材3の材軸に対して直角にかつ該材軸廻りに揺動自在又は回動自在となるようにその中央近傍で接続部材3に取り付けられるように構成してある。
なお、接続部材3及び瞳孔線設定用ロッド4の構成については、第1実施形態ですでに述べたので、ここではその説明を省略する。
ここで、正中線設定用ロッド125は、断面が円形で径が3mm程度のロッド本体135と該ロッド本体の周面であってその材軸に沿って突設された断面が矩形状の突条体136から構成してあり、いずれもプラスチックで構成してある。
正中線設定用ロッド125は、その中央近傍に瞳孔線設定用ロッド4に嵌着可能な嵌着部131を取り付けてあり、該嵌着部を介して瞳孔線設定用ロッド4に着脱自在に取り付けることができるようになっている。
嵌着部131及び瞳孔線設定用ロッド4は、瞳孔線設定用ロッド4に正中線設定用ロッド125が取り付けられたとき、正中線設定用ロッド125が瞳孔線設定用ロッド4に沿って摺動自在かつその材軸廻りに回動自在となるように構成してある。
ここで、正中線設定用ロッド125及び嵌着部131は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたときに突条体136の突設方向が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。換言すれば、瞳孔線設定用ロッド4の材軸が正中線設定用ロッド125の突条体を含む突条平面と直交するように正中線設定用ロッド125及び嵌着部131を構成してある。
嵌着部131には、該嵌着部が瞳孔線設定用ロッド4に嵌着された状態にて正中線設定用ロッド125が瞳孔線設定用ロッド4の材軸廻りに所望の角度位置で固定されるように嵌着部固定機構134を設けてある。
嵌着部固定機構134は、嵌着部131の背面側に正中線設定用ロッド125と直交するように形成された第2の雌ネジ孔133と該第2の雌ネジ孔に螺合される第2の雄ネジ132とで構成してある。
図10は本実施形態に係る咬合器を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は咬合器の前方側周辺の詳細断面図である。図11は、本実施形態に係る咬合器の側面図を示す。これらの図でわかるように、本実施形態に係る咬合器140は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版141と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版144とから構成してあり、頂版144は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版141及び頂版144は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版141に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版141の上面には下顎歯列模型72を、頂版144の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版141及び頂版144は、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版141の上面と頂版144の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版141の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56,56を立設してあり、頂版144は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体142とから構成してある。かかる構成により、頂版144全体を高さ調整ロッド56,56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体142を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版144は、上述したようにその頂版本体142を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体142の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体142の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版141に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
このように、頂版本体142が水平前方に向いた位置で回転拘束されるようになっていることにより、頂版本体142の上面及び下面の反転の前後で底版141と頂版144との相対位置関係を保持することができる。
また、頂版基部53の長手方向両端面には、固定機構93,93を設けてあり、頂版基部53、ひいては頂版144全体を高さ調整ロッド56,56の所望位置に固定することができるようになっているが、かかる構成については第2実施形態ですでに述べたので省略する。
ここで、本実施形態に係る咬合器140は、底版141と頂版144の前方側端面に正中線設定用ロッド125の突条体136が着脱自在に嵌合される嵌合溝150a、嵌合溝150bをそれぞれ形成してあるとともに、該2つの嵌合溝を底版141に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成してあり、突条体136を嵌合溝150a,150bに嵌合したとき、正中線設定用ロッド125が底版141に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド125が底版141に対して垂直な軸線廻りに対し特定の角度に位置決めされた状態で仮固定されるように嵌合溝150a,150bを構成してある。
一方、上述したように正中線設定用ロッド125及び嵌着部131は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたときに突条体136の突設方向が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。
したがって、かかる突条体136を嵌合溝150a,150bに嵌合することにより、正中線設定用ロッド125及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版141及び頂版144の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器140の正面と平行になるように取り付けられることとなり、後述する咬合面設定用器具160との併用によって、差し歯の製作を高精度に行うことができることとなる。
なお、嵌合溝150a,150bへの正中線設定用ロッド125の着脱を行うにあたって、取付け時には所定の強度で仮固定されるように、かつ取外し時には例えば手で手前に引く程度の力で外れるように、突条体136の外寸と嵌合溝150a,150bの内寸とを適宜調整しておく。
図12は、本実施形態に係る咬合面設定用器具160を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。図13は、咬合面設定用器具160と咬合面トランスファー器具120との関係を示した図であり、(a)は咬合面設定用器具160の断面図、(b)は咬合面トランスファー器具120の断面図である。
これらの図からわかるように、本実施形態に係る咬合面設定用器具160は、所定の正中線ガイド部材163と、該正中線ガイド部材に沿って昇降自在に取り付けられた昇降部材164と、該昇降部材に正中線ガイド部材163と直角になるように突設された切歯ガイド部材165と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材163の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してある。
昇降部材164を正中線ガイド部材163の所望の高さに固定する手段は公知の技術を適宜選択すればよい。
ここで、正中線ガイド部材163は、断面が円形の正中線ガイド用ロッド本体161と、該正中線ガイド用ロッド本体の周面であってその材軸に沿って突設されかつ断面形状が咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125の突条体136の断面形状と同一となるように形成された正中線ガイド用突条体162とから構成してあり、いずれもプラスチックで形成してある。
また、瞳孔線ガイド部材166は図13でよくわかるように、正中線ガイド用突条体162の突設方向に対する該瞳孔線ガイド部材の配置角度α1が突条体136の突設方向に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度と同じ角度α1となるように正中線ガイド部材163に対して位置決めしてある。つまり、本実施形態に係る咬合面設定用器具160は、かかる配置角度になるように切歯ガイド部材165を昇降部材164の周面に突設して構成してある。ちなみに、本実施形態では、α1は90°に設定してある。
次に、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具120、咬合器140及び咬合面設定用器具160を用いて差し歯を製作する手順を、患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合を例として説明する。
上述した手順で患者の上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、まず、患者の口腔内における咬合面を患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42という形で咬合面トランスファー器具120に記録し、次いで、これら瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42が記録された咬合面トランスファー器具120を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器140に固着し、しかる後、咬合面設定用器具160を咬合器140に取り付け、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を用いて上顎歯列用差し歯を製作する。
以下、その具体的手順を詳細に説明する。
咬合面トランスファー器具120を用いて患者の咬合面を記録するにあたっては、まず、歯科医師が患者の上歯をタービン等で削り、差し歯を支えるための支柱を形成する。なお、自歯の利用が困難な場合には、自歯を抜き、それに代えてインプラントを上顎の骨の中に植え込み該インプラントを支柱とする。
次に、第1実施形態で述べたように、2つの未硬化の側方バイト材25,27によって患者の右側の上下臼歯23,24及び左側の上下臼歯21,26の咬合型取りを行い、次いで、硬化後の側方バイト材25′,27′を用いて上顎前歯31と下顎前歯32との咬合型取りを未硬化のバイト材1で行う。
側方バイト材25,27は、例えば即時重合レジンを用いればよく、バイト材1は、歯科用ゴム質弾性印象材(パテタイプ)を用いるのがよい。
次に、バイト材1がバイト材1′として硬化した後、図14に示すようにバイト材1′に貫入されたバイト材保持部2(図9参照)に接続部材3を介して取付けられた瞳孔線設定用ロッド4を該接続部材の材軸回りに回動させることで、瞳孔線設定用ロッド4を患者の瞳孔線41に対して平行に位置決めする。
次に、第1実施形態と同様、差込部固定機構13を構成する第1の雄ネジ8を回すことにより、接続部材3の差込穴6に差し込まれた瞳孔線設定用ロッド4の差込部7を上述した位置にて固定する(図9参照)。
なお、バイト材1が完全に硬化せずとも瞳孔線設定用ロッド4の揺動又は回転による位置決めが変化しないのであれば、完全硬化を待つ必要はない。
審美的な歯列の一つの条件は、その歯列弓、すなわち咬合面が両瞳孔を結ぶ線である瞳孔線41と平行であることである。
したがって、上述したように瞳孔線設定用ロッド4を位置決めすると、第1実施形態で述べたように、上顎歯列28と下顎歯列29との咬合面に対する相対位置関係として瞳孔線41が瞳孔線設定用ロッド4に記録され、患者の審美的な咬合面の決定条件のうちの一つが定まることになる。
次に、図15に示すように第1実施形態と同様、上顎前歯31及び下顎前歯32に硬化したバイト材1′を咬ませた状態を保ったまま、患者の顔面を正面から見たときに正中線設定用ロッド125が正中線43に一致するように、かつ特定正中線42に平行になるように、つまり正中線設定用ロッド125と額との距離D3及び正中線設定用ロッド125と顎との距離D4が同じになるように、嵌着部131を介して正中線設定用ロッド125を瞳孔線設定用ロッド4に取り付け、しかる後、取り付けられた正中線設定用ロッド125を瞳孔線設定用ロッド4に沿って適宜移動させ、あるいは適宜その材軸廻りに回転させることで位置決めを行う。
次に、かかる状態にて第2の雄ネジ132を第2の雌ネジ孔133(図9参照)に螺合することで正中線設定用ロッド125を瞳孔線設定用ロッド4に固定する。
ここで、審美的な歯列の二つ目の条件は、患者の顔面を正面から見たとき、図15に示すように瞳孔線41とその中点にて直角に交わる正中線43上に上顎両切歯間が位置することであるとともに、それらに加えて、額と顎とを結ぶ線、すなわち特定正中線42に歯茎からの生え方が平行であることであるが、上述したように、正中線設定用ロッド125を瞳孔線設定用ロッド4に固定すると、正中線43が正中線設定用ロッド125に記録されるとともに、特定正中線42が正中線43と同様に瞳孔線設定用ロッド4に対する相対位置関係として正中線設定用ロッド125に記録されることとなるため、患者の審美的な咬合面の決定条件のうちの二つ目が定まることになる。
なお、上顎前歯31及び下顎前歯32でバイト材1を咬ませる際、当然ながら該バイト材のどの箇所を咬むかという意味で前後左右にばらつきが生じるが、かかるばらつきは何ら問題とはならないし、むしろ、口腔内の歯列状態とは関係なく、正中線43や特定正中線42を正中線設定用ロッド125に記録し、これを咬合器140に移すことによって、審美的に優れた差し歯を製作することができる。
次に、適当な時期、例えば支柱が形成された後に、未硬化状態の印象材、例えばシリコンラバー印象材や歯科用寒天印象材を上顎歯列28及び下顎歯列29にそれぞれあてがって、該上顎歯列及び該下顎歯列の型取りをそれぞれ行い、従来の方法により上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72をそれぞれ製作する。
次に、咬合面トランスファー器具120を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器140に固着する。
図16及び図17は、本実施形態に係る咬合器140に咬合面トランスファー器具120を装着した場合を示した正面図及び側面図である。
これらの図からわかるように、咬合面トランスファー器具120を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器140に固着するには、まず、咬合面トランスファー器具120のバイト材保持部2に保持された硬化済みのバイト材1′を該バイト材に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71の前歯73と下顎歯列模型72の前歯7とで咬ませるとともに、右側の上下臼歯23,24(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材25′及び左側の上下臼歯21,26(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材27′を各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の右上下臼歯75,76と左上下臼歯77,78にそれぞれ咬ませ、かかる状態で咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125の突条体136を底版141と頂版本体142の前方側端面にて形成された嵌合溝150a,150bにそれぞれ嵌合し、しかる後、石膏等を用いて下顎歯列模型72を底版141の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体142の下面にそれぞれ固着する。
このように正中線設定用ロッド125の突条体136を嵌合溝150a,150bに嵌合することにより、患者の瞳孔線41は、咬合器140を構成する底版141と平行な関係として該咬合器に記録が移されるとともに、正中線42及び特定正中線42は、咬合器140を構成する底版141と垂直な関係として該咬合器に記録が移される。
特に、咬合器140は、嵌合溝150a,150bが底版141及び頂版144の前方側縁部に対して垂直になるように形成してあるので、正中線設定用ロッド125及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版141及び頂版144の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器140の正面と平行になるように取り付けられることとなる。
下顎歯列模型72及び上顎歯列模型71を底版141の上面及び頂版本体142の下面にそれぞれ固着するにあたっては、高さ調整ロッド56,56に沿って頂版144を昇降させ、次いで、第3の雄ネジ57,57を操作することにより頂版144を所望の位置で固定した後、正中線設定用ロッド125の突条体136を嵌合溝150a,150bに嵌合し、かかる状態で下顎歯列模型72を底版141の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体142の下面にそれぞれ石膏等で固着すればよい。
なお、石膏が固まるまでは、必要に応じて、所定の支保部材(図示せず)を底版141の上面に立設し、該支保部材で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の重量を支えるようにするのがよい。かかる場合には、支保部材は、底版141と下顎歯列模型72との間の石膏に埋設されることになる。
ここで、上述したように側方バイト材25,27の材料を即時重合レジン、バイト材1の材料を歯科用ゴム質弾性印象材(パテタイプ)とするならば、該歯科用ゴム質弾性印象材(パテタイプ)は硬化後においても適度な弾性を有するため、バイト材1′に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の前歯73,74でバイト材1′を咬ませる際に支柱である上顎歯列模型71の前歯73が欠損する恐れがない。
また、即時重合レジンは硬化後かなり硬くなるため、側方バイト材25′,27′を該側方バイト材に圧痕された各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の上下臼歯75,76及び上下臼歯77,78にそれぞれ咬ませることによって、バイト材1′が弾性を有していても上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の咬合位置がずれる心配はない。
下顎歯列模型72が底版141の上面に、上顎歯列模型71が頂版本体142の下面にそれぞれ固着されたならば、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72とで咬まされたバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を咬合面トランスファー器具120とともに、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72からそれぞれ撤去する。
ここで、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する前後で底版141と頂版144との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版本体142の反転の前後で底版141と頂版144との相対位置関係が保持されるように構成してあるので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しない。
次に、咬合器140に咬合面設定用器具160を取り付ける。
図18は、咬合器140に咬合面設定用器具160を取り付けた状態を示した正面図、図19は、図18における頂版本体142周辺を示した詳細正面図、図20は、咬合器140に咬合面設定用器具160を取り付けた状態を示した側面図である。
また、図21は咬合器140を構成する頂版本体142に上顎歯列模型71が固着された状態を示す図であり、(a)は図17におけるA−A線に沿う矢視図、(b)は図20におけるB−B線に沿う矢視図である。
これらの図からわかるように、咬合面トランスファー器具120を撤去した後、それに代えて咬合面設定用器具160を咬合器140に取り付けるには、頂版本体142の前方側端面に形成された嵌合溝150bに正中線ガイド部材163を構成する正中線ガイド用突条体162を嵌合する。
ここで、図21でよくわかるように、咬合面設定用器具160は、正中線ガイド用突条体162の断面形状が咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125の突条体136の断面形状と同一となるように形成してあるとともに、正中線ガイド用突条体162の突設方向に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が突条体136の突設方向に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度と同一になるように、瞳孔線ガイド部材166を正中線ガイド部材163に対して位置決めしてある。
一方、瞳孔線設定用ロッド4は、接続部材3を介してバイト材保持部2に取り付けてあるため、咬合面トランスファー器具120を用いて咬合器140に固着された上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の向きは、咬合面トランスファー器具120の突条体136の突設方向(咬合器140の嵌合溝150bの方向)に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度で決定される。
したがって、正中線ガイド用突条体162の突設方向に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が突条体136の突設方向に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度と同一になるように瞳孔線ガイド部材166を正中線ガイド部材163に対して位置決めしておけば、瞳孔線ガイド部材166の向きは、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を取り付けたときの瞳孔線設定用ロッド4の向きが再現され、その向きと同じになる。
すなわち、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器140にどのような向きで取り付けようと、上述したように咬合面設定用器具160を構成しておけば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72に対する瞳孔線ガイド部材166の向きは、取付け時における瞳孔線設定用ロッド4の向きと同じになる。
かくして、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材163と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器140上で正確に再現されることとなる。
次に、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材163を基準として差し歯を製作する。
具体的には、図19に示すように瞳孔線ガイド部材166を基準として上顎歯列が左右対称となるように差し歯を製作することが可能となる。すなわち、咬合器140の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作することができる。
なお、咬合面は、特定正中線42を基準にした場合、前歯である切歯73から大臼歯と口腔内の奥に向かうにつれて徐々に高くなっていくが、図19でわかるように昇降部材164を正中線ガイド部材163に沿って昇降させることができるため、上顎歯列用差し歯147の種類に応じて昇降部材164を正中線ガイド部材163に沿って適宜昇降させながら、上顎歯列模型71で咬合面を正確に再現することができる。
また、図19及び図21でよくわかるように咬合器140の正面から見て切歯ガイド部材165の材軸延長線上に上顎歯列用差し歯147のうち、切歯145a,145bの間が来るように上顎歯列用差し歯147を製作する。かかる場合にも、昇降部材164を適宜昇降させることにより、切歯ガイド部材165の高さを切歯73の位置に合わせるようにすればよい。
なお、作業の便宜上、咬合器140を構成する頂版本体142を頂版基部53に対して該頂版基部廻りに上面が該頂版基部の上面に当接するまで反転させて上顎歯列用差し歯147を製作し、上顎歯列模型71に該上顎歯列用差し歯を取り付けては頂版本体142を頂版基部53に対して元通りに回転させ、下顎歯列模型72との咬合状態を確認する。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具120によれば、患者の上顎前歯31と下顎前歯32とで咬ませたバイト材1が硬化した後、接続部材3に取付けられた瞳孔線設定用ロッド4を該接続部材の材軸回りに揺動又は回動させることで、瞳孔線設定用ロッド4を患者の瞳孔線41に対して平行に位置決めし、かかる位置にて瞳孔線設定用ロッド4を接続部材3に固定することが可能となる。
したがって、患者の瞳孔線41を上顎歯列28と下顎歯列29との咬合面に対する相対位置関係として瞳孔線設定用ロッド4に記録することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具120によれば、上顎前歯31及び下顎前歯32にバイト材保持部2に保持され硬化したバイト材1′を咬ませた状態を保ったまま、正中線設定用ロッド125を患者の正中線43に沿うように瞳孔線設定用ロッド4に直角にかつ、正中線設定用ロッド125が特定正中線42に対して平行になるように正中線設定用ロッド125の周面に取り付けられた嵌着部131を瞳孔線設定用ロッド4に嵌着し、かかる状態にて正中線設定用ロッド125を瞳孔線設定用ロッド4に固定することが可能となる。
したがって、患者の正中線43及び特定正中線42を瞳孔線設定用ロッド4に対する相対位置関係として正中線設定用ロッド125に記録することが可能となる。
そして、患者の口腔内の咬合面と、瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42からなる一群の審美情報とが互いに関連付けられた状態で瞳孔線設定用ロッド4及び正中線設定用ロッド125に記録することができるので、審美的な歯列となる差し歯を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具120及び咬合器140によれば、瞳孔線設定用ロッド4を介して患者の瞳孔線41を咬合器140の底版141と平行な関係として該咬合器に移すことができるとともに、正中線設定用ロッド125を介して正中線43及び特定正中線42を咬合器140の底版141と垂直な関係として該咬合器に記録が移すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、その咬合面が患者の口腔内における咬合面と三次元座標上で同一となるように咬合器140に固着することが可能となり、それゆえ、かかる口腔内における咬合面が咬合器140に再現された状態で審美的に優れた差し歯を製作することができる。
加えて、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具120及び咬合器140によれば、突条体136の突設方向が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように咬合面トランスファー器具120を構成してあるとともに、嵌合溝150a,150bが頂版本体142及び底版141の前方側端面に対して垂直になるように咬合器140を構成したので、突条体136を嵌合溝150a,150bに嵌合したとき、正中線設定用ロッド125は、底版141及び頂版本体142に対しておのずと垂直になるとともに、瞳孔線設定用ロッド4は底版141及び頂版本体142の前方側端部に対して平行になる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、それらの正面が咬合器140の正面と一致する状態にて咬合器140に据え付けることが可能となり、咬合器140の正面から上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を見ることで、患者の口腔内における歯列を患者の正面から見た場合と同じ状況を再現することが可能となり、かくして差し歯の製作をより正確に行うことが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具120及び咬合器140によれば、正中線設定用ロッド125の突条体136を断面が矩形状のプラスチックロッドで構成するとともに、嵌合溝150a,150bの幅を突条体136の幅よりも若干小さく構成してあるため、突条体136を嵌合溝150a,150bにそれぞれ嵌合することで咬合面トランスファー器具120を咬合器140に着脱自在することが可能となり、取付け時には咬合面トランスファー器具120を咬合器140に仮固定することができるとともに、取外し時には咬合器140から容易に取り外すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を頂版本体142の下面及び底版141の上面にそれぞれ取り付ける作業が容易になる。
また、本実施形態に係る咬合器140によれば、固着後においてバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する際、該撤去の前後で底版141と頂版144との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版144の反転の前後で底版141と頂版144との相対位置関係が保持されるように頂版144及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となるとともに、該上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版144を構成する頂版本体142を頂版基部53に対して元通り回転させても、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯147の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具160によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72に対する正中線ガイド部材163及び瞳孔線ガイド部材166の相対位置は、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72に対する正中線設定用ロッド125及び瞳孔線設定用ロッド4の向きと同一となる。
そのため、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材163と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器140上で正確に再現される。
したがって、正中線ガイド部材163及び瞳孔線ガイド部材166を基準として高精度に上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具160によれば、正中線ガイド用突条体162を咬合器140の嵌合溝150bに嵌合することによって、正中線設定用ロッド125と同様、正中線ガイド部材163を頂版本体142に対して垂直姿勢にて該頂版本体に着脱自在に仮固定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147を製作する作業性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具160によれば、昇降部材164を正中線ガイド部材163に沿って昇降自在に取り付けるようにしたので、昇降部材164に取り付けられた瞳孔線ガイド部材166を上顎歯列模型71の歯列に合わせて所望の高さに設定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147の製作精度が向上する。
加えて、本実施形態に係る咬合面設定用器具160によれば、切歯ガイド部材165を正中線ガイド用突条体162の突設方向延長上にくるように構成したので、切歯ガイド部材165の軸線方向延長線上に切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となり、かかる点においても、上顎歯列用差し歯の製作における精度と作業性が大幅に向上する。
本実施形態では特に言及しなかったが、バイト材保持部は未硬化のバイト材1が保持されればその形状はどのようなものでもよい。図22は、変形例に係る咬合面トランスファー器具を示した図であり、(a)は斜視図、(b)及び(c)はバイト材保持部近傍を示した詳細平面図及び側面図である。
同図に示すように、変形例に係る咬合面トランスファー器具170は、咬合面トランスファー器具120のバイト材保持部2に代えて、バイト材保持部102を接続部材3に取り付けてある。
かかるバイト材保持部102は、患者の上顎歯列28及び下顎歯列29の両前歯31,32のアーチに合うような弓状の形状としてあり、かかる構成により、より安定した状態にて上顎歯列28の前歯31と下顎歯列29の前歯32との咬合型を採取することが可能となる。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具120を構成する接続部材3の周面に差込穴6と直交するように第1の雌ネジ孔9を形成し、第1の雄ネジ8を該第1の雌ネジ孔に螺合するようにしたが、瞳孔線設定用ロッド4の差込部7が接続部材3の差込穴6の軸線廻りに任意の角度で該差込穴内に固定されればどのように構成してもよく、例えば、差込穴6内に接着剤を注入して該差込穴に差込部7を嵌合するようにしてもよい。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具120の嵌着部131に正中線設定用ロッド125と直交するように第2の雌ネジ孔133を形成し、第2の雄ネジ132を該第2の雌ネジ孔に螺合するようにしたが、嵌着部131が瞳孔線設定用ロッド4の任意位置でかつ任意の角度で固定されればどのように構成してもよく、例えば、接着剤によって嵌着部131を瞳孔線設定用ロッド4に固定するようにしてもよい。
また、本実施形態では、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版142が昇降自在となるように構成したが、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はない。
図23は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器180は、底版141と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版184とからなり、該頂版は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体142とから構成してある。
かかる構成により、頂版本体142を頂版基部113の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるとともに、頂版本体142の後方端面と頂版基部113とが当接することで頂版本体142の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版141に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。なお、咬合器180を構成する底版141、頂版本体142及び嵌合溝150a,150bの構成については、本実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面設定用器具160を用いて差し歯の製作を行うようにしたが、これに代えて咬合面設定用器具160を省略し、咬合器140の底版141又は頂版144を基準として左右対称になるように上顎歯列用差し歯147を製作するとともに、底版141及び頂版本体142の前方側端面に形成された嵌合溝150a,150bを基準として上顎歯列用差し歯147のうち、切歯145a,145bの間を設定するようにしてもかまわない。
かかる構成においては、差し歯の製作精度や作業性が若干低下するが、フェイスボウが不要になるなど、上述したと同様の顕著な作用効果を奏することに何ら変わりはない。
また、本実施形態では、咬合面設定用器具160を用いて差し歯の製作を行うようにしたが、図24に示す咬合器を使用することによって、咬合面設定用器具160を省略することができる。
図24は、変形例に係る咬合器190を示した斜視図である。
同図に示すように、変形例に係る咬合器190は、本実施形態に係る咬合器140と同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版141と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版144とから構成してあり、頂版144は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてあるが、本変形例では、底版141及び頂版本体142の前方側端面にて該底版と平行に瞳孔線基準ライン203a,203bを設けてある。
かかる構成によれば、瞳孔線基準ライン203a,203bを基準として左右対称に上顎歯列用差し歯147を製作するとともに、底版141及び頂版本体142の前方側端面に形成された嵌合溝150a,150bを基準として上顎歯列用差し歯147のうち、切歯145a,145bの間を設定することができる。なお、高さ調整ロッド56,56、頂版基部53及び嵌合溝150a,150bに関する構成については本実施形態と同じであるので、ここではその説明は省略する。
また、本実施形態では、咬合器140を構成する頂版144及び底版141を所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成したが、特に矩形状に限る必要はない。
図25は、変形例に係る咬合器195を示した斜視図である。
同図でわかるように、変形例に係る咬合器195は、咬合器140とほぼ同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版196と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版198とから構成してあり、頂版198は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
頂版198は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体197とから構成してある。
また、底版196及び頂版198は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版196に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版196の上面には下顎歯列模型72を、頂版198の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
ここで、底版196及び頂版本体197は咬合器140とは異なり、半楕円状で所定の厚みを有する鋼板で形成してあり、底版196の上面と頂版本体197の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
底版196及び頂版本体197の前方側端面には咬合器140と同様、嵌合溝150a,150bを形成してある。
以下、本変形例に係る咬合器195は、底版及び頂版の形状が異なる点を除き、咬合器140と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では図19及び図20でよくわかるように、上顎歯列模型71を用いて上顎歯列用差し歯を製作することを前提に、咬合面設定用器具160を頂版144の嵌合溝150bにのみ着脱するようにしたが、底版141の嵌合溝150aにも着脱するようにしてもかまわないし、下顎歯列模型72を使って下顎歯列用差し歯を製作する際には、底版141の嵌合溝150aにのみ着脱するようにしてもかまわない。
さらに言えば、咬合面設定用器具160の正中線ガイド部材163を、断面が円形の正中線ガイド用ロッド本体161と、該正中線ガイド用ロッド本体の周面であってその材軸に沿って突設されかつ断面形状が咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125の突条体136の断面形状と同一となるように形成された正中線ガイド用突条体162とから構成したが、かかる正中線ガイド用突条体162は、正中線ガイド用ロッド本体161の全長にわたって設ける必要はなく、嵌合溝150a,150bに嵌合する範囲にわたって突設されていれば足りる。
また、本実施形態では、昇降部材164を正中線ガイド部材163に沿って昇降させることにより、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることができるようにしたが、かかる昇降部材164を省略してもかまわない。
図26は、変形例に係る咬合面設定用器具200の斜視図及び断面図であり、同図に示す咬合面設定用器具200は、正中線ガイド部材163と、該正中線ガイド部材と直角になるように突設された切歯ガイド部材165と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材163の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してあり、正中線ガイド用突条体162の各端を嵌合溝150a,150bにそれぞれ着脱自在に嵌め込むようになっている。
かかる構成においては、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることができないため、差し歯の製作精度が若干低下するとともに、差し歯の製作中、着脱の頻度が増えるために作業性が若干低下するが、フェイスボウが不要になるなど、上述したと同様の顕著な作用効果を奏することに何ら変わりはない。
一方、正中線ガイド用突条体162を嵌合溝150a,150bのいずれかのみに着脱自在に嵌め込むようにすれば、正中線ガイド部材163を随時着脱することによって該正中線ガイド部材の取付け高さを変更することができる。
そのため、かかる構成においては、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることが可能になるとともに、差し歯の製作中、着脱の頻度が増えることもないため、作業性が低下することもない。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切歯ガイド部材165を伸縮自在に構成してもよい。
図27は、変形例に係る咬合面設定用器具210を示した斜視図及び断面図である。同図に示す咬合面設定用器具210は、正中線ガイド部材163と、該正中線ガイド部材に沿って昇降自在に取り付けられた昇降部材164と、該昇降部材に正中線ガイド部材163と直角になるように突設された切歯ガイド部材193と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材163の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してあるが、本変形例では、切歯ガイド部材193は、昇降部材164に取り付けられた切歯ガイド本体192と、その先端に取り付けられ先鋭に形成された伸縮ガイド191とからなり、該伸縮ガイド191は、切歯ガイド本体192に対して伸縮自在に構成してある。
伸縮自在とするには、切歯ガイド191を切歯ガイド本体192に螺合する構成や、ロッドアンテナ状に切歯ガイド191を伸縮させる構成などがあるが、かかる構成については、公知の構成から適宜選択すればよい。
かかる構成においては、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の固着位置と咬合面設定用器具210が設けられた位置との離間長さ(底版141と平行な線上における長さ)に関わらず、切歯ガイド部材193を適宜伸縮させてその先端を上顎歯列模型71の前歯73に近づけるとともに、図27(b)に示すように、その先鋭な先端にちょうど両切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯を製作することが可能となり、該上顎歯列用差し歯の製作精度がより向上する。
換言すれば、咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125とバイト材保持部2との水平長さを咬合器140上で再現せずとも、切歯145a,145b間の位置を正中線43あるいは特定正中線42上に正確に一致させることが可能となるとともに、バイト材1を咬んだときの咬合位置のばらつきについても、切歯ガイド部材193を伸縮させることによって、そのばらつきを吸収することが可能となる。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、本発明においては、咬合面設定用器具を構成する正中線ガイド用突条体の突設方向に対する瞳孔線ガイド部材の配置角度が、咬合面トランスファー器具を構成する突条体の突設方向に対する瞳孔線設定用ロッドの配置角度と同一になるように瞳孔線ガイド部材を正中線ガイド部材に対して位置決めしてある限り、その配置角度は任意であり、本実施形態のように90°である必要はない。
図28は、咬合器140を構成する頂版本体142の見上げ図(上方を見上げた図)であり、(a)は、上述した配置角度が90°でない任意の角度θ1の場合において、咬合面トランスファー器具120aと上顎歯列模型71あるいは咬合器140との相対位置関係を示した図、(b)は、咬合面設定用器具160aと上顎歯列模型71あるいは咬合器140との相対位置関係を示したものである。
かかる場合には、同図で明らかなように、上顎歯列模型71の正面と咬合器140の正面とは一致せず、角度θ1だけずれることになるが、咬合面トランスファー器具120aを用いて上顎歯列模型71を取り付けたときの角度ずれを咬合面設定用器具160aによって再現することができるため、差し歯の製作上、何らの問題も生じないし、上述したと同様、高精度の差し歯を製作することができる。
なお、咬合面トランスファー器具120aは、突条体136の突設方向に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度が90°でなく角度θ1である点を除き、咬合面トランスファー器具120と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
同様に、咬合面設定用器具160aは、正中線ガイド用突条体162の突設方向に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が90°でなく角度θ1である点を除き、咬合面設定用器具160と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具120、咬合器140及び咬合面設定用器具160を用いて上顎歯列用差し歯147を製作する際のプロセスを記述したが、下顎歯列用差し歯を製作する場合についても上述したと同様であり、まず、下顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、上述した手順により2つの側方バイト材25,27及びバイト材1を患者に咬ませ、かかる状態にて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド125にそれぞれ記録し、次いで、咬合面トランスファー器具120を用いて下顎歯列模型および上顎歯列模型を咬合器140に据え付けた上、咬合面設定用器具160を用いて下顎歯列用差し歯を製作すればよい。
かかる場合、上述したように、正中線ガイド部材163の正中線ガイド用突条体162を底版141に形成された嵌合溝150aに嵌合するようにすれば、噛み合わせを確認するために頂版本体142を反転させながら下顎歯列用差し歯を製作するにあたり、その都度、咬合面設定用器具160を咬合器140から取り外す必要がなくなる。
また、下顎歯列用差し歯を製作する際には、上顎歯列用差し歯147の製作プロセスとは異なり、既に完成した上顎歯列用差し歯147に対応する上顎歯列模型との間で該上顎歯列模型の歯列とそれに対向する下顎歯列模型の歯列との咬合状態を一つ一つ確認するようにする。
なお、本実施形態では特に言及しなかったが、バイト材1及び側方バイト材25,27の材料に関しては第1実施形態に係る咬合面トランスファー器具10についても同様であることは言うまでもない。
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図29は、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具を示した図であり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具220は、未硬化のバイト材1を咬合可能な状態で保持するバイト材保持部2と、該バイト材保持部が一端に取り付けられた接続部材3と、該接続部材の他端に設けられた瞳孔線設定用ロッド4と、該瞳孔線設定用ロッドに直角にかつ該瞳孔線設定用ロッドの材軸廻りに任意の角度位置で着脱自在に取付け自在な正中線設定用ロッド225とからなり、瞳孔線設定用ロッド4は、接続部材3の材軸に対して直角にかつ該材軸廻りに回動自在となるようにその中央近傍で接続部材3に取り付けられるように構成してある。
ここで、正中線設定用ロッド225は、断面が非円形である矩形状のプラスチックロッドで構成してあるとともに、その中央近傍に瞳孔線設定用ロッド4に嵌着可能な嵌着部131を取り付けてあり、該嵌着部を介して瞳孔線設定用ロッド4に着脱自在に取り付けることができるようになっている。
嵌着部131及び瞳孔線設定用ロッド4は、瞳孔線設定用ロッド4に正中線設定用ロッド225が取り付けられたとき、正中線設定用ロッド225が瞳孔線設定用ロッド4に沿って摺動自在かつその材軸廻りに回動自在となるように構成してある。
ここで、正中線設定用ロッド225及び嵌着部131は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたとき、正中線設定用ロッド225の断面二軸のうち、接続部材3の材軸と平行な断面軸245が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。
嵌着部131には、該嵌着部が瞳孔線設定用ロッド4に嵌着された状態にて正中線設定用ロッド225が瞳孔線設定用ロッド4の材軸廻りに所望の角度位置で固定されるように嵌着部固定機構134を設けてある。
以下、接続部材3、瞳孔線設定用ロッド4、嵌着部131及び嵌着部固定機構134の構成については、第1実施形態又は第4実施形態ですでに述べたので、ここではその説明を省略する。
図30は本実施形態に係る咬合器を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は咬合器の前方側周辺の詳細断面図である。図31は、本実施形態に係る咬合器の側面図を示す。これらの図でわかるように、本実施形態に係る咬合器240は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版241と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版244とから構成してあり、頂版244は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版241及び頂版244は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版241に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版241の上面には下顎歯列模型72を、頂版244の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版241及び頂版244は、底版141及び頂版144と同様、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版241の上面と頂版244の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版241の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56,56を立設してあり、頂版244は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体242とから構成してある。かかる構成により、頂版244全体を高さ調整ロッド56,56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体242を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版244は、上述したようにその頂版本体242を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体242の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体242の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版241に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
このように、頂版本体242が水平前方に向いた位置で回転拘束されるようになっていることにより、頂版本体242の上面及び下面の反転の前後で底版241と頂版244との相対位置関係を保持することができる。
また、頂版基部53の長手方向両端面には、固定機構93,93を設けてあるが、かかる固定機構については第4実施形態で既に述べたので、ここではその説明を省略する。
ここで、本実施形態に係る咬合器240は、咬合面トランスファー器具220の正中線設定用ロッド225が着脱自在に嵌合されるようにロッド嵌合凹部250a,250bを底版241と頂版本体242の前方側端面にそれぞれ形成するとともに該2つのロッド嵌合凹部を底版241に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成してあり、ロッド嵌合凹部250a,250bに正中線設定用ロッド225が嵌合されたときに該正中線設定用ロッドが底版241に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド225が底版241に対して垂直な軸線廻りに対し特定の角度に位置決めされた状態で仮固定できるようにロッド嵌合凹部250a,250bを構成してある。
ここで、特定の角度に位置決めするとは、正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bを嵌合したときに、正中線設定用ロッド225の断面二軸のうち、接続部材3の材軸と平行な断面軸245が底版241及び頂版244の前方側縁部と直角になるように位置決めすることを意味する。
一方、上述したように正中線設定用ロッド225及び嵌着部131は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたときに正中線設定用ロッド225の断面二軸のうち、接続部材3の材軸と平行な断面軸245が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。
したがって、かかる正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bに嵌合することにより、正中線設定用ロッド225及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版241及び頂版244の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器240の正面と平行になるように取り付けられることとなり、後述する咬合面設定用器具260との併用によって、差し歯の製作を高精度に行うことができることとなる。
なお、ロッド嵌合凹部250a,250bへの正中線設定用ロッド225の着脱を行うにあたって、取付け時には所定の強度で仮固定されるように、かつ取外し時には例えば手で手前に引く程度の力で外れるように、正中線設定用ロッド225の外寸とロッド嵌合凹部250a,250bの内寸とを適宜調整しておく。
図32は、本実施形態に係る咬合面設定用器具260を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。図33は、咬合面設定用器具260と咬合面トランスファー器具220との関係を示した図であり、(a)は咬合面設定用器具260の断面図、(b)は咬合面トランスファー器具220の断面図である。
これらの図からわかるように、本実施形態に係る咬合面設定用器具260は、断面が矩形形の正中線ガイド部材263と、該正中線ガイド部材に沿って昇降自在に取り付けられた昇降部材264と、該昇降部材に正中線ガイド部材263と直角になるように突設された切歯ガイド部材165と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材263の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してある。
昇降部材264を正中線ガイド部材263の所望の高さに固定する手段は公知の技術を適宜選択すればよい。
ここで、正中線ガイド部材263は、その断面形状が咬合面トランスファー器具220を構成する正中線設定用ロッド225の断面形状と同一となるように構成してあるとともにプラスチックで形成してある。
また、瞳孔線ガイド部材166は図33でよくわかるように、正中線ガイド部材263に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が正中線設定用ロッド225に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度と同一になるように正中線ガイド部材263に対して位置決めしてある。つまり、咬合面設定用器具260は、かかる配置角度になるように切歯ガイド部材165を昇降部材264の周面に突設してある。ちなみに、本実施形態では、上述した配置角度を90°に設定してある。
次に、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具220、咬合器240及び咬合面設定用器具260を用いて差し歯を製作する手順を、患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合を例として説明する。
上述した手順で患者の上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、第4実施形態と同様、まず、患者の口腔内における咬合面を患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42という形で咬合面トランスファー器具220に記録し、次いで、これら瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42が記録された咬合面トランスファー器具220を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器240に固着し、しかる後、咬合面設定用器具260を咬合器240に取り付け、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を用いて上顎歯列用差し歯を製作する。
ここで、かかる差し歯を製作するにあたっては、咬合面トランスファー器具220の正中線設定用ロッド225を底版241及び頂版本体242の前方側端面にて形成されたロッド嵌合凹部250a,250bにそれぞれ嵌合して下顎歯列模型72を底版241の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体242の下面にそれぞれ固着するとともに、咬合器240の頂版本体242の前方側端面に形成されたロッド嵌合凹部250bに正中線ガイド部材263を嵌合して差し歯を製作するが、その具体的手順については第4実施形態と概ね同様であるので、ここではその説明を省略し、特記すべき内容だけ以下に述べる。
第1に、咬合器240は、正中線設定用ロッド225が底版241に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド225の断面二軸のうち、接続部材3の材軸と平行な断面軸245が底版241の前方縁部に対して90°に位置決めされた状態で仮固定されるようにロッド嵌合凹部250a,250bを構成してある。
そのため、咬合面トランスファー器具220の正中線設定用ロッド225を咬合器240のロッド嵌合凹部250a,250bに嵌合したとき、正中線設定用ロッド225及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版241及び頂版244の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器240の正面と平行になるように取り付けられることとなる。
第2に、咬合面設定用器具260は、正中線ガイド部材263に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が正中線設定用ロッド225に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度と同一になるように構成してある。
一方、瞳孔線設定用ロッド4は、接続部材3を介してバイト材保持部2に取り付けてあるため、咬合面トランスファー器具220を用いて咬合器240に固着された上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の向きは、咬合面トランスファー器具220の正中線設定用ロッド225に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度で決定される。
したがって、瞳孔線ガイド部材166の向きは、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を取り付けたときの瞳孔線設定用ロッド4の向きが再現され、その向きと同じになり、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材263と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器240上で正確に再現されることとなり、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材263を基準として高精度に差し歯を製作することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具220によれば、患者の上顎前歯31と下顎前歯32とで咬ませたバイト材1が硬化した後、接続部材3に取付けられた瞳孔線設定用ロッド4を該接続部材の材軸回りに揺動又は回動させることで、瞳孔線設定用ロッド4を患者の瞳孔線41に対して平行に位置決めし、かかる位置にて瞳孔線設定用ロッド4を接続部材3に固定することが可能となる。
したがって、患者の瞳孔線41を上顎歯列28と下顎歯列29との咬合面に対する相対位置関係として瞳孔線設定用ロッド4に記録することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具220によれば、上顎前歯31及び下顎前歯32にバイト材保持部2に保持され硬化したバイト材1′を咬ませた状態を保ったまま、正中線設定用ロッド225を患者の正中線43に沿うように瞳孔線設定用ロッド4に直角にかつ、正中線設定用ロッド225が特定正中線42に対して平行になるように正中線設定用ロッド225の周面に取り付けられた嵌着部131を瞳孔線設定用ロッド4に嵌着し、かかる状態にて正中線設定用ロッド225を瞳孔線設定用ロッド4に固定することが可能となる。
したがって、患者の正中線43及び特定正中線42を瞳孔線設定用ロッド4に対する相対位置関係として正中線設定用ロッド225に記録することが可能となる。
そして、患者の口腔内の咬合面と、瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42からなる一群の審美情報とが互いに関連付けられた状態で瞳孔線設定用ロッド4及び正中線設定用ロッド225に記録することができるので、審美的な歯列となる差し歯を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具220及び咬合器240によれば、瞳孔線設定用ロッド4を介して患者の瞳孔線41を咬合器240の底版241と平行な関係として該咬合器に移すことができるとともに、正中線設定用ロッド225を介して正中線43及び特定正中線42を咬合器240の底版241と垂直な関係として該咬合器に記録が移すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、その咬合面が患者の口腔内における咬合面と三次元座標上で同一となるように咬合器240に固着することが可能となり、それゆえ、かかる口腔内における咬合面が咬合器240に再現された状態で審美的に優れた差し歯を製作することができる。
加えて、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具220及び咬合器240によれば、正中線設定用ロッド225が底版241に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド225の断面二軸のうち、接続部材3の材軸と平行な断面軸245が底版241の前方縁部に対して90°に位置決めされた状態で仮固定されるようにロッド嵌合凹部250a,250bを構成したので、咬合面トランスファー器具220の正中線設定用ロッド225を咬合器240のロッド嵌合凹部250a,250bに嵌合したとき、正中線設定用ロッド225は、底版241及び頂版本体242に対しておのずと垂直になるとともに、瞳孔線設定用ロッド4は底版241及び頂版本体242の前方側端部に対して平行になる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、それらの正面が咬合器240の正面と一致する状態にて咬合器240に据え付けることが可能となり、咬合器240の正面から上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を見ることで、患者の口腔内における歯列を患者の正面から見た場合と同じ状況を再現することが可能となり、かくして差し歯の製作をより正確に行うことが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具220及び咬合器240によれば、咬合面トランスファー器具220を咬合器240に着脱自在に取り付けることが可能となり、取付け時には咬合面トランスファー器具220を咬合器240に仮固定することができるとともに、取外し時には咬合器240から容易に取り外すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を頂版本体242の下面及び底版241の上面にそれぞれ取り付ける作業が容易になる。
また、本実施形態に係る咬合器240によれば、固着後においてバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する際、該撤去の前後で底版241と頂版244との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版244の反転の前後で底版241と頂版244との相対位置関係が保持されるように頂版244及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となるとともに、該上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版244を構成する頂版本体242を頂版基部53に対して元通り回転させても、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯147の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具260によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72に対する正中線ガイド部材263及び瞳孔線ガイド部材166の相対位置は、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72に対する正中線設定用ロッド225及び瞳孔線設定用ロッド4の向きと同一となる。
そのため、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材263と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器240上で正確に再現される。
したがって、正中線ガイド部材263及び瞳孔線ガイド部材166を基準として高精度に上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具260によれば、正中線設定用ロッド225と同様、正中線ガイド部材263を頂版本体242に対して垂直姿勢にて該頂版本体に着脱自在に仮固定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147を製作する作業性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具260によれば、昇降部材264を正中線ガイド部材263に沿って昇降自在に取り付けるようにしたので、昇降部材264に取り付けられた瞳孔線ガイド部材166を上顎歯列模型71の歯列に合わせて所望の高さに設定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147の製作精度が向上する。
加えて、本実施形態に係る咬合面設定用器具260によれば、切歯ガイド部材165を正中線ガイド部材263の断面二軸のうち、瞳孔線ガイド部材166と直角な断面軸延長上にくるように構成したので、切歯ガイド部材165の軸線方向延長線上に切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となり、かかる点においても、上顎歯列用差し歯の製作における精度と作業性が大幅に向上する。
本実施形態では特に言及しなかったが、バイト材保持部は未硬化のバイト材1が保持されればその形状はどのようなものでもよい。すなわち、図22と同様、咬合面トランスファー器具220のバイト材保持部2に代えて、バイト材保持部102を接続部材3に取り付けることができる。
なお、バイト材保持部102に関する構成やその作用効果については、第4実施形態で既に述べたので、ここではその説明を省略する。
また、本発明においても、差込穴6内に接着剤を注入して該差込穴に差込部7を嵌合するようにしてもよい点、接着剤によって嵌着部131を瞳孔線設定用ロッド4に固定するようにしてもよい点、咬合面設定用器具260を省略することができる点は、第4実施形態と同様であるが、その説明については第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版242が昇降自在となるように構成したが、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はない。
図34は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器280は、底版241と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版284とからなり、該頂版は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体242とから構成してある。以下、本変形例については、第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面設定用器具260を用いて差し歯の製作を行うようにしたが、図35に示す咬合器を使用することによって、咬合面設定用器具260を省略することができる。
図35は、変形例に係る咬合器290を示した斜視図である。
同図に示すように、変形例に係る咬合器290は、本実施形態に係る咬合器240と同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版241と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版244とから構成してあり、頂版244は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてあるが、本変形例では、底版241及び頂版本体242の前方側端面にて該底版と平行に瞳孔線基準ライン203a,203bを設けてある。
なお、かかる構成による作用効果については、第4実施形態で既に述べたので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合器240を構成する頂版244及び底版241を所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成したが、特に矩形状に限る必要はない。
図36は、変形例に係る咬合器300を示した斜視図である。
同図でわかるように、変形例に係る咬合器300は、咬合器240とほぼ同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版301と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版303とから構成してあり、頂版303は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
また、底版301及び頂版303は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版301に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版301の上面には下顎歯列模型72を、頂版303の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
頂版303は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体302とから構成してある。
ここで、底版301及び頂版本体302は咬合器240とは異なり、半楕円状で所定の厚みを有する鋼板で形成してあり、底版301の上面と頂版本体302の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
底版301及び頂版本体302の前方側端面には咬合器240と同様、ロッド嵌合凹部250a,250bを形成してある。
以下、本変形例に係る咬合器300は、底版及び頂版の形状が異なる点を除き、咬合器240と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では、第4実施形態に係る図19及び図20と同様、上顎歯列模型71を用いて上顎歯列用差し歯を製作することを前提に、咬合面設定用器具260を頂版244の嵌合溝250bにのみ着脱するようにしたが、底版241の嵌合溝250aにも着脱するようにしてもかまわないし、下顎歯列模型72を使って下顎歯列用差し歯を製作する際には、底版241の嵌合溝250aにのみ着脱するようにしてもかまわない。
さらに言えば、咬合面設定用器具260の正中線ガイド部材263を、断面が矩形状となるように形成したが、かかる断面形状は、正中線ガイド部材263の全長にわたって同一である必要はなく、ロッド嵌合凹部250a,250bに嵌合する範囲にわたって矩形断面であれば足りる。
また、本実施形態では、昇降部材264を正中線ガイド部材263に沿って昇降させることにより、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることができるようにしたが、かかる昇降部材264を省略してもかまわない。
図37は、変形例に係る咬合面設定用器具305の斜視図及び断面図であり、同図に示す咬合面設定用器具305は、正中線ガイド部材263と、該正中線ガイド部材と直角になるように突設された切歯ガイド部材165と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材263の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してあり、正中線ガイド部材263の各端をロッド嵌合凹部250a,250bにそれぞれ着脱自在に嵌め込むようになっている。
かかる構成においては、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることができないため、差し歯の製作精度が若干低下するとともに、差し歯の製作中、着脱の頻度が増えるために作業性が若干低下するが、フェイスボウが不要になるなど、上述したと同様の顕著な作用効果を奏することに何ら変わりはない。
一方、正中線ガイド部材263をロッド嵌合凹部250a,250bのいずれかのみに着脱自在に嵌め込むようにすれば、正中線ガイド部材263を随時着脱することによって該正中線ガイド部材の取付け高さを変更することができる。
そのため、かかる構成においては、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることが可能になるとともに、差し歯の製作中、着脱の頻度が増えることもないため、作業性が低下することもない。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切歯ガイド部材165を伸縮自在に構成してもよい。
図38は、変形例に係る咬合面設定用器具306を示した斜視図及び断面図である。同図に示す咬合面設定用器具306は、正中線ガイド部材263と、該正中線ガイド部材に沿って昇降自在に取り付けられた昇降部材264と、該昇降部材に正中線ガイド部材263と直角になるように突設された切歯ガイド部材193と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材263の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してあるが、本変形例では、切歯ガイド部材193は、昇降部材264に取り付けられた切歯ガイド本体192と、その先端に取り付けられ先鋭に形成された伸縮ガイド191とからなり、該伸縮ガイド191は、切歯ガイド本体192に対して伸縮自在に構成してある。
以下、伸縮ガイド191については、第4実施形態の変形例に詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、本発明においては、咬合面設定用器具を構成する正中線ガイド部材に対する瞳孔線ガイド部材の配置角度が正中線設定用ロッドに対する瞳孔線設定用ロッドの配置角度と同一になるように構成してある限り、その配置角度は任意であり、本実施形態のように90°である必要はない。
図39は、咬合器240を構成する頂版本体242の見上げ図(上方を見上げた図)であり、(a)は、上述した配置角度が90°でない任意の角度θ2の場合において、咬合面トランスファー器具220aと上顎歯列模型71あるいは咬合器240との相対位置関係を示した図、(b)は、咬合面設定用器具260aと上顎歯列模型71あるいは咬合器240との相対位置関係を示したものである。
かかる場合には、同図で明らかなように、上顎歯列模型71の正面と咬合器240の正面とは一致せず、角度θ2だけずれることになるが、咬合面トランスファー器具220aを用いて上顎歯列模型71を取り付けたときの角度ずれを咬合面設定用器具260aによって再現することができるため、差し歯の製作上、何らの問題も生じないし、上述したと同様、高精度の差し歯を製作することができる。
なお、咬合面トランスファー器具220aは、正中線設定用ロッド225に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度が90°でなく角度θ2である点を除き、咬合面トランスファー器具220と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
同様に、咬合面設定用器具260aは、正中線ガイド部材263に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が90°でなく角度θ2である点を除き、咬合面設定用器具260と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具220、咬合器240及び咬合面設定用器具260を用いて上顎歯列用差し歯147を製作する際のプロセスを記述したが、下顎歯列用差し歯を製作する場合についても上述したと同様であり、まず、下顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、上述した手順により2つの側方バイト材25,27及びバイト材1を患者に咬ませ、かかる状態にて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド225にそれぞれ記録し、次いで、咬合面トランスファー器具220を用いて下顎歯列模型および上顎歯列模型を咬合器240に据え付けた上、咬合面設定用器具260を用いて下顎歯列用差し歯を製作すればよい。
かかる場合、上述したように、正中線ガイド部材263を底版241に形成された嵌合溝250aに嵌合するようにすれば、噛み合わせを確認するために頂版本体242を反転させながら下顎歯列用差し歯を製作するにあたり、その都度、咬合面設定用器具260を咬合器240から取り外す必要がなくなる。
また、下顎歯列用差し歯を製作する際には、上顎歯列用差し歯147の製作プロセスとは異なり、既に完成した上顎歯列用差し歯147に対応する上顎歯列模型との間で該上顎歯列模型の歯列とそれに対向する下顎歯列模型の歯列との咬合状態を一つ一つ確認するようにする。
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図40は、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具を示した図であり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具320は、未硬化のバイト材1を咬合可能な状態で保持するバイト材保持部2と、該バイト材保持部が一端に取り付けられた接続部材3と、該接続部材の他端に設けられた瞳孔線設定用ロッド4と、該瞳孔線設定用ロッドに直角にかつ該瞳孔線設定用ロッドの材軸廻りに任意の角度位置で着脱自在に取付け自在な正中線設定用ロッド325とからなり、瞳孔線設定用ロッド4は、接続部材3の材軸に対して直角にかつ該材軸廻りに回動自在となるようにその中央近傍で接続部材3に取り付けられるように構成してある。
ここで、正中線設定用ロッド325は、断面が非円形である三角状のロッド本体335と該ロッド本体の周面であってそのひとつの稜に沿って突設された断面が矩形状の突条体336から構成してあり、いずれもプラスチックで形成してあるとともに、その中央近傍に瞳孔線設定用ロッド4に嵌着可能な嵌着部131を取り付けてあり、該嵌着部を介して瞳孔線設定用ロッド4に着脱自在に取り付けることができるようになっている。
嵌着部131及び瞳孔線設定用ロッド4は、瞳孔線設定用ロッド4に正中線設定用ロッド325が取り付けられたとき、正中線設定用ロッド325が瞳孔線設定用ロッド4に沿って摺動自在かつその材軸廻りに回動自在となるように構成してある。
ここで、正中線設定用ロッド325及び嵌着部131は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたときに突条体336の突設方向が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。換言すれば、瞳孔線設定用ロッド4の材軸が正中線設定用ロッド325の突条体を含む突条平面と直交するように正中線設定用ロッド325及び嵌着部131を構成してある。
嵌着部131には、該嵌着部が瞳孔線設定用ロッド4に嵌着された状態にて正中線設定用ロッド325が瞳孔線設定用ロッド4の材軸廻りに所望の角度位置で固定されるように嵌着部固定機構134を設けてある。
以下、接続部材3、瞳孔線設定用ロッド4、嵌着部131及び嵌着部固定機構134の構成については、第1実施形態又は第4実施形態ですでに述べたので、ここではその説明を省略する。
図41は本実施形態に係る咬合器を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は咬合器の前方側周辺の詳細断面図である。図42は、本実施形態に係る咬合器の側面図を示す。これらの図でわかるように、本実施形態に係る咬合器340は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版341と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版344とから構成してあり、頂版344は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版341及び頂版344は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版341に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版341の上面には下顎歯列模型72を、頂版344の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版341及び頂版344は、底版141及び頂版144と同様、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版341の上面と頂版344の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版341の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56,56を立設してあり、頂版344は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体342とから構成してある。かかる構成により、頂版344全体を高さ調整ロッド56,56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体342を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版344は、上述したようにその頂版本体342を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体342の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体342の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版341に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
このように、頂版本体342が水平前方に向いた位置で回転拘束されるようになっていることにより、頂版本体342の上面及び下面の反転の前後で底版341と頂版本体342との相対位置関係を保持することができる。
また、頂版基部53の長手方向両端面には、固定機構93,93を設けてあるが、かかる固定機構については第4実施形態で既に述べたので、ここではその説明を省略する。
ここで、本実施形態に係る咬合器340は、頂版344及び底版341の前方側端面に正中線設定用ロッド325のロッド本体335が着脱自在に嵌合されるようにロッド嵌合凹部350a,350bを形成してあるとともに、正中線設定用ロッド325の突条体336が着脱自在に嵌合されるように嵌合溝351a,351bをロッド嵌合凹部350a,350bの内面に形成してあり、ロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合したとき、正中線設定用ロッド325が底版341に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド325が底版341に対して垂直な軸線廻りに対し特定の角度に位置決めされた状態で仮固定されるようにロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bを構成してある。
一方、上述したように正中線設定用ロッド325及び嵌着部331は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたときに突条体336の突設方向が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。
したがって、かかる突条体336を嵌合溝350a,350bに嵌合することにより、正中線設定用ロッド325及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版341及び頂版344の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器340の正面と平行になるように取り付けられることとなり、後述する咬合面設定用器具360との併用によって、差し歯の製作を高精度に行うことができることとなる。
なお、嵌合溝350a,350bへの正中線設定用ロッド325の着脱を行うにあたって、取付け時には所定の強度で仮固定されるように、かつ取外し時には例えば手で手前に引く程度の力で外れるように、突条体336の外寸と嵌合溝350a,350bの内寸とを適宜調整しておく。
図43は、本実施形態に係る咬合面設定用器具360を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。図44は、咬合面設定用器具360と咬合面トランスファー器具320との関係を示した図であり、(a)は咬合面設定用器具360の断面図、(b)は咬合面トランスファー器具320の断面図である。
これらの図からわかるように、本実施形態に係る咬合面設定用器具360は、所定の正中線ガイド部材363と、該正中線ガイド部材に沿って昇降自在に取り付けられた昇降部材364と、該昇降部材に正中線ガイド部材363と直角になるように突設された切歯ガイド部材165と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材363の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してある。
昇降部材364を正中線ガイド部材363の所望の高さに固定する手段は公知の技術を適宜選択すればよい。
ここで、正中線ガイド部材363は、断面が三角形状の正中線ガイド用ロッド本体361と該正中線ガイド用ロッド本体の周面であってその材軸に沿って突設された正中線ガイド用突条体362とからなり、いずれもプラスチックで形成してある。
正中線ガイド部材363は、その断面形状が咬合面トランスファー器具320を構成する正中線設定用ロッド325の断面形状と同一となるように形成してある。
また、瞳孔線ガイド部材166は図44でよくわかるように、正中線ガイド用突条体362の突設方向に対する該瞳孔線ガイド部材の配置角度α2が突条体336の突設方向に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度と同じ角度α2となるように正中線ガイド部材363に対して位置決めしてある。つまり、本実施形態に係る咬合面設定用器具360は、かかる配置角度になるように切歯ガイド部材165を昇降部材364の周面に突設して構成してある。ちなみに、本実施形態では、α2は90°に設定してある。
次に、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具320、咬合器340及び咬合面設定用器具360を用いて差し歯を製作する手順を、患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合を例として説明する。
上述した手順で患者の上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、第4実施形態と同様、まず、患者の口腔内における咬合面を患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42という形で咬合面トランスファー器具320に記録し、次いで、これら瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42が記録された咬合面トランスファー器具320を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器340に固着し、しかる後、咬合面設定用器具360を咬合器340に取り付け、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を用いて上顎歯列用差し歯を製作する。
ここで、かかる差し歯を製作するにあたっては、咬合面トランスファー器具320の正中線設定用ロッド325を構成するロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合して下顎歯列模型72を底版341の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体342の下面にそれぞれ固着するとともに、咬合面設定用器具360の正中線ガイド用ロッド本体361と該正中線ガイド用ロッド本体に突設された正中線ガイド用突条体362をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合して差し歯を製作するが、その具体的手順については第4実施形態と概ね同様であるので、ここではその説明を省略し、特記すべき内容だけ以下に述べる。
第1に、咬合器340は、正中線設定用ロッド325が底版341に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド325が底版341に対して垂直な軸線廻りに対し特定の角度に位置決めされた状態で仮固定されるようにロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bを構成してある。
そのため、咬合面トランスファー器具320の正中線設定用ロッド325を咬合器340のロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bに嵌合したとき、正中線設定用ロッド325及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版341及び頂版344の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器340の正面と平行になるように取り付けられることとなる。
第2に、咬合面設定用器具360は、正中線ガイド部材363に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が正中線設定用ロッド325に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度と同一になるように構成してある。
一方、瞳孔線設定用ロッド4は、接続部材3を介してバイト材保持部2に取り付けてあるため、咬合面トランスファー器具320を用いて咬合器340に固着された上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の向きは、咬合面トランスファー器具320の正中線設定用ロッド325に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度で決定される。
したがって、瞳孔線ガイド部材166の向きは、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を取り付けたときの瞳孔線設定用ロッド4の向きが再現され、その向きと同じになり、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材363と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器340上で正確に再現されることとなり、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材363を基準として高精度に差し歯を製作することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具320によれば、患者の上顎前歯31と下顎前歯32とで咬ませたバイト材1が硬化した後、接続部材3に取付けられた瞳孔線設定用ロッド4を該接続部材の材軸回りに揺動又は回動させることで、瞳孔線設定用ロッド4を患者の瞳孔線41に対して平行に位置決めし、かかる位置にて瞳孔線設定用ロッド4を接続部材3に固定することが可能となる。
したがって、患者の瞳孔線41を上顎歯列28と下顎歯列29との咬合面に対する相対位置関係として瞳孔線設定用ロッド4に記録することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具320によれば、上顎前歯31及び下顎前歯32にバイト材保持部2に保持され硬化したバイト材1′を咬ませた状態を保ったまま、正中線設定用ロッド325を患者の正中線43に沿うように瞳孔線設定用ロッド4に直角にかつ、正中線設定用ロッド325が特定正中線42に対して平行になるように正中線設定用ロッド325の周面に取り付けられた嵌着部131を瞳孔線設定用ロッド4に嵌着し、かかる状態にて正中線設定用ロッド325を瞳孔線設定用ロッド4に固定することが可能となる。
したがって、患者の正中線43及び特定正中線42を瞳孔線設定用ロッド4に対する相対位置関係として正中線設定用ロッド325に記録することが可能となる。
そして、患者の口腔内の咬合面と、瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42からなる一群の審美情報とが互いに関連付けられた状態で瞳孔線設定用ロッド4及び正中線設定用ロッド325に記録することができるので、審美的な歯列となる差し歯を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具320及び咬合器340によれば、瞳孔線設定用ロッド4を介して患者の瞳孔線41を咬合器340の底版341と平行な関係として該咬合器に移すことができるとともに、正中線設定用ロッド325を介して正中線43及び特定正中線42を咬合器340の底版341と垂直な関係として該咬合器に記録が移すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、その咬合面が患者の口腔内における咬合面と三次元座標上で同一となるように咬合器340に固着することが可能となり、それゆえ、かかる口腔内における咬合面が咬合器340に再現された状態で審美的に優れた差し歯を製作することができる。
加えて、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具320及び咬合器340によれば、突条体336の突設方向が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように咬合面トランスファー器具320を構成してあるとともに、嵌合溝351a,351bが頂版本体342及び底版341の前方側端面に対して垂直になるように咬合器340を構成したので、突条体336を嵌合溝351a,351bに嵌合したとき、正中線設定用ロッド325は、底版341及び頂版本体342に対しておのずと垂直になるとともに、瞳孔線設定用ロッド4は底版341及び頂版本体342の前方側端部に対して平行になる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、それらの正面が咬合器340の正面と一致する状態にて咬合器340に据え付けることが可能となり、咬合器340の正面から上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を見ることで、患者の口腔内における歯列を患者の正面から見た場合と同じ状況を再現することが可能となり、かくして差し歯の製作をより正確に行うことが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具320及び咬合器340によれば、咬合面トランスファー器具320を咬合器340に着脱自在に取り付けることが可能となり、取付け時には咬合面トランスファー器具320を咬合器340に仮固定することができるとともに、取外し時には咬合器340から容易に取り外すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を頂版本体342の下面及び底版341の上面にそれぞれ取り付ける作業が容易になる。
また、本実施形態に係る咬合器340によれば、固着後においてバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する際、該撤去の前後で底版341と頂版344との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版344の反転の前後で底版341と頂版344との相対位置関係が保持されるように頂版344及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となるとともに、該上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版344を構成する頂版本体342を頂版基部53に対して元通り回転させても、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯147の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具360によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72に対する正中線ガイド部材363及び瞳孔線ガイド部材166の相対位置は、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72に対する正中線設定用ロッド325及び瞳孔線設定用ロッド4の向きと同一となる。
そのため、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材166及び正中線ガイド部材363と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器340上で正確に再現される。
したがって、正中線ガイド部材363及び瞳孔線ガイド部材166を基準として高精度に上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具360によれば、正中線設定用ロッド325と同様、正中線ガイド部材363を頂版本体342に対して垂直姿勢にて該頂版本体に着脱自在に仮固定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147を製作する作業性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る咬合面設定用器具360によれば、昇降部材364を正中線ガイド部材363に沿って昇降自在に取り付けるようにしたので、昇降部材364に取り付けられた瞳孔線ガイド部材166を上顎歯列模型71の歯列に合わせて所望の高さに設定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147の製作精度が向上する。
加えて、本実施形態に係る咬合面設定用器具360によれば、切歯ガイド部材165を正中線ガイド用突条体362の突設方向延長上にくるように構成したので、切歯ガイド部材165の軸線方向延長線上に切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となり、かかる点においても、上顎歯列用差し歯の製作における精度と作業性が大幅に向上する。
本実施形態では特に言及しなかったが、バイト材保持部は未硬化のバイト材1が保持されればその形状はどのようなものでもよい。すなわち、図22と同様、咬合面トランスファー器具320のバイト材保持部2に代えて、バイト材保持部102を接続部材3に取り付けることができる。
なお、バイト材保持部102に関する構成やその作用効果については、第4実施形態で既に述べたので、ここではその説明を省略する。
また、本発明においても、差込穴6内に接着剤を注入して該差込穴に差込部7を嵌合するようにしてもよい点、接着剤によって嵌着部131を瞳孔線設定用ロッド4に固定するようにしてもよい点、咬合面設定用器具360を省略することができる点は、第4実施形態と同様であるが、その説明については第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版344が昇降自在となるように構成したが、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はない。
図45は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器380は、底版341と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版384とからなり、該頂版は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体342とから構成してある。以下、本変形例については、第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面設定用器具360を用いて差し歯の製作を行うようにしたが、図46に示す咬合器を使用することによって、咬合面設定用器具360を省略することができる。
図46は、変形例に係る咬合器390を示した斜視図である。
同図に示すように、変形例に係る咬合器390は、本実施形態に係る咬合器340と同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版341と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版344とから構成してあり、頂版344は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてあるが、本変形例では、底版341及び頂版本体342の前方側端面にて該底版と平行に瞳孔線基準ライン203a,203bを設けてある。
なお、かかる構成による作用効果については、第4実施形態で既に述べたので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合器340を構成する頂版344及び底版341を所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成したが、特に矩形状に限る必要はない。
図47は、変形例に係る咬合器400を示した斜視図である。
同図でわかるように、変形例に係る咬合器400は、咬合器340とほぼ同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版441と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版444とから構成してあり、頂版444は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
また、底版441及び頂版444は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版441に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版441の上面には下顎歯列模型72を、頂版444の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
頂版444は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体442とから構成してある。
ここで、底版441及び頂版本体442は咬合器340とは異なり、半楕円状で所定の厚みを有する鋼板で形成してあり、底版441の上面と頂版本体442の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
底版441及び頂版本体442の前方側端面には咬合器340と同様、正中線設定用ロッド325のロッド本体335が着脱自在に嵌合されるようにロッド嵌合凹部350a,350bを形成してあるとともに、正中線設定用ロッド325の突条体336が着脱自在に嵌合されるように嵌合溝351a,351bをロッド嵌合凹部350a,350bの内面に形成してある。
以下、本変形例に係る咬合器400は、底版及び頂版の形状が異なる点を除き、咬合器340と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では、第4実施形態に係る図19及び図20と同様、上顎歯列模型71を用いて上顎歯列用差し歯を製作することを前提に、咬合面設定用器具360を頂版344の嵌合溝351b及びロッド嵌合凹部350bにのみ着脱するようにしたが、底版341の嵌合溝351a及びロッド嵌合凹部350aにも着脱するようにしてもかまわないし、下顎歯列模型72を使って下顎歯列用差し歯を製作する際には、底版341の嵌合溝351a及びロッド嵌合凹部350aにのみ着脱するようにしてもかまわない。
さらに言えば、咬合面設定用器具360の正中線ガイド部材363を、断面が三角状のロッド本体の一つの稜にその材軸に沿って断面が矩形状の突条体を突設して構成したが、かかる断面形状は、正中線ガイド部材363の全長にわたって同一である必要はなく、嵌合溝351a及びロッド嵌合凹部350aあるいは嵌合溝351b及びロッド嵌合凹部350bに嵌合する範囲にわたって上述した断面であれば足りる。
また、本実施形態では、昇降部材364を正中線ガイド部材363に沿って昇降させることにより、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることができるようにしたが、かかる昇降部材364を省略してもかまわない。
図48は、変形例に係る咬合面設定用器具500の斜視図及び断面図であり、同図に示す咬合面設定用器具500は、正中線ガイド部材363と、該正中線ガイド部材と直角になるように突設された切歯ガイド部材165と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材363の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してあり、正中線ガイド部材363の各端を嵌合溝351a及びロッド嵌合凹部350a、嵌合溝351b及びロッド嵌合凹部350bにそれぞれ着脱自在に嵌め込むようになっている。
かかる構成においては、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることができないため、差し歯の製作精度が若干低下するとともに、差し歯の製作中、着脱の頻度が増えるために作業性が若干低下するが、フェイスボウが不要になるなど、上述したと同様の顕著な作用効果を奏することに何ら変わりはない。
一方、正中線ガイド部材363を嵌合溝351a及びロッド嵌合凹部350aか、又は嵌合溝351b及びロッド嵌合凹部350bのいずれかのみに着脱自在に嵌め込むようにすれば、正中線ガイド部材363を随時着脱することによって該正中線ガイド部材の取付け高さを変更することができる。
そのため、かかる構成においては、切歯ガイド部材165及び瞳孔線ガイド部材166の高さを変化させることが可能になるとともに、差し歯の製作中、着脱の頻度が増えることもないため、作業性が低下することもない。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切歯ガイド部材165を伸縮自在に構成してもよい。
図49は、変形例に係る咬合面設定用器具550を示した斜視図及び断面図である。同図に示す咬合面設定用器具550は、正中線ガイド部材363と、該正中線ガイド部材に沿って昇降自在に取り付けられた昇降部材364と、該昇降部材に正中線ガイド部材363と直角になるように突設された切歯ガイド部材193と、該切歯ガイド部材にその材軸及び正中線ガイド部材363の材軸に直角に中央近傍が取り付けられた瞳孔線ガイド部材166とから構成してあるが、本変形例では、切歯ガイド部材193は、昇降部材364に取り付けられた切歯ガイド本体192と、その先端に取り付けられ先鋭に形成された伸縮ガイド191とからなり、該伸縮ガイド191は、切歯ガイド本体192に対して伸縮自在に構成してある。
以下、伸縮ガイド191については、第4実施形態の変形例に詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、本発明においては、咬合面設定用器具を構成する正中線ガイド部材に対する瞳孔線ガイド部材の配置角度が正中線設定用ロッドに対する瞳孔線設定用ロッドの配置角度と同一になるように構成してある限り、その配置角度は任意であり、本実施形態のように90°である必要はない。
図50は、咬合器340を構成する頂版本体342の見上げ図(上方を見上げた図)であり、(a)は、上述した配置角度が90°でない任意の角度θ3の場合において、咬合面トランスファー器具320aと上顎歯列模型71あるいは咬合器340との相対位置関係を示した図、(b)は、咬合面設定用器具360aと上顎歯列模型71あるいは咬合器140との相対位置関係を示したものである。
かかる場合には、同図で明らかなように、上顎歯列模型71の正面と咬合器340の正面とは一致せず、角度θ3だけずれることになるが、咬合面トランスファー器具320aを用いて上顎歯列模型71を取り付けたときの角度ずれを咬合面設定用器具360aによって再現することができるため、差し歯の製作上、何らの問題も生じないし、上述したと同様、高精度の差し歯を製作することができる。
なお、咬合面トランスファー器具320aは、正中線設定用ロッド325に対する瞳孔線設定用ロッド4の配置角度が90°でなく角度θ3である点を除き、咬合面トランスファー器具320と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
同様に、咬合面設定用器具360aは、正中線ガイド部材363に対する瞳孔線ガイド部材166の配置角度が90°でなく角度θ3である点を除き、咬合面設定用器具360と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具320、咬合器340及び咬合面設定用器具360を用いて上顎歯列用差し歯147を製作する際のプロセスを記述したが、下顎歯列用差し歯を製作する場合についても上述したと同様であり、まず、下顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、上述した手順により2つの側方バイト材25,27及びバイト材1を患者に咬ませ、かかる状態にて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド125にそれぞれ記録し、次いで、咬合面トランスファー器具320を用いて下顎歯列模型および上顎歯列模型を咬合器340に据え付けた上、咬合面設定用器具360を用いて下顎歯列用差し歯を製作すればよい。
かかる場合、上述したように、正中線ガイド部材363を底版341に形成された嵌合溝351a及びロッド嵌合凹部350aに嵌合するようにすれば、噛み合わせを確認するために頂版本体342を反転させながら下顎歯列用差し歯を製作するにあたり、その都度、咬合面設定用器具360を咬合器340から取り外す必要がなくなる。
また、下顎歯列用差し歯を製作する際には、上顎歯列用差し歯147の製作プロセスとは異なり、既に完成した上顎歯列用差し歯147に対応する上顎歯列模型との間で該上顎歯列模型の歯列とそれに対向する下顎歯列模型の歯列との咬合状態を一つ一つ確認するようにする。
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図51は、本実施形態に係る咬合器を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は咬合器の前方側周辺の詳細断面図である。図52は、本実施形態に係る咬合器の側面図を示す。これらの図でわかるように、本実施形態に係る咬合器600は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版601と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版604と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、頂版604は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版601及び頂版604は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版601に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版601の上面には下顎歯列模型72を、頂版604の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版601及び頂版604は、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版601の上面と頂版604の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版601の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56,56を立設してあり、頂版604は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体602とから構成してある。かかる構成により、頂版604全体を高さ調整ロッド56,56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体602を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版604は、上述したようにその頂版本体602を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体602の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体602の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版601に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
このように、頂版本体602が水平前方に向いた位置で回転拘束されるようになっていることにより、頂版本体602の上面及び下面の反転の前後で底版601と頂版604との相対位置関係を保持することができる。
また、頂版基部53の長手方向両端面には、固定機構93,93を設けてあり、頂版基部53、ひいては頂版604全体を高さ調整ロッド56,56の所望位置に固定することができるようになっているが、かかる構成については第2実施形態ですでに述べたので省略する。
ここで、咬合面設定用機構620は、頂版本体602に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版604及び底版601の前方側縁部に対して直交するように底版601の後方側に突設された切歯ガイド部材614と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材614に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してあり、昇降ロッド612は、頂版本体602に対して垂直に昇降自在となるように貫通孔615を形成してある。
なお、切歯ガイド部材614は、上述したように頂版604及び底版601の前方側縁部に対して直交するように底版601の後方側に突設してあるため、瞳孔線ガイド部材613は頂版604及び底版601の前方側縁部と平行に位置決めされることとなる。
昇降ロッド612の背面にはラック616を設けてあるとともに該ラックに噛合するピニオン617を頂版604の上面に設けてあり、該ピニオンの回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回すことによって、昇降ロッド612を昇降自在にかつ所望の位置にて固定できるように構成してある。
一方、本実施形態に係る咬合器600は、底版601と頂版604の前方側端面に咬合面トランスファー器具10の正中線設定用ロッド5が着脱自在に嵌合される正中線設定用ロッド溝610a、正中線設定用ロッド溝610bをそれぞれ形成してあるとともに、該2つの正中線設定用ロッド溝を底版601に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成してあり、正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bに嵌合したとき、正中線設定用ロッド5が底版601に対して垂直になり、かつその材軸と切歯ガイド部材614の材軸が同一面内に含まれるように正中線設定用ロッド溝610a,610bを形成してある。
したがって、瞳孔線設定用ロッド4が咬合面設定用機構620を構成する瞳孔線ガイド部材613に平行になるように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bに嵌合することにより、正中線設定用ロッド5及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版601及び頂版604の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器600の正面と平行になるように取り付けられることとなる。
なお、正中線設定用ロッド溝610a,610bへの正中線設定用ロッド5の着脱を行うにあたって、取付け時には所定の強度で仮固定されるように、かつ取外し時には例えば手で手前に引く程度の力で外れるように、正中線設定用ロッド5の外径と正中線設定用ロッド溝610a,610bの内径とを適宜調整しておく。
次に、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10及び咬合器600を用いて差し歯を製作する手順を、患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合を例として説明する。
上述した手順で患者の上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、まず、患者の口腔内における咬合面を患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42という形で咬合面トランスファー器具10に記録し、次いで、これら瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42が記録された咬合面トランスファー器具10を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器600に固着し、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を用いて上顎歯列用差し歯を製作する。
以下、その具体的手順を詳細に説明する。
なお、上顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、2つの側方バイト材25,27及びバイト材1を患者に咬ませ、かかる状態にて咬合面トランスファー器具10を用いて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド5にそれぞれ記録する手順については第1実施形態ですでに述べたので、ここではその説明を省略する。
まず、咬合面トランスファー器具10を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器600に固着する。
図53及び図54は、本実施形態に係る咬合器600に咬合面トランスファー器具10を装着した場合を示した正面図及び側面図である。
これらの図からわかるように、咬合面トランスファー器具10を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器600に固着するには、まず、咬合面トランスファー器具10のバイト材保持部2に保持された硬化済みのバイト材1′を該バイト材に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71の前歯73と下顎歯列模型72の前歯74とで咬ませるとともに、右側の上下臼歯23,24(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材25′及び左側の上下臼歯21,26(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材27′を各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の右上下臼歯75,76と左上下臼歯77,78にそれぞれ咬ませ、かかる状態で咬合面トランスファー器具10を構成する正中線設定用ロッド5を底版601と頂版本体602の前方側端面にて形成された正中線設定用ロッド溝610a,610bにそれぞれ嵌合し、しかる後、石膏等を用いて下顎歯列模型72を底版601の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体602の下面にそれぞれ固着する。
このように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bに嵌合することにより、患者の瞳孔線41は、咬合器600を構成する底版601と平行な関係として該咬合器に記録が移されるとともに、正中線42及び特定正中線42は、咬合器600を構成する底版601と垂直な関係として該咬合器に記録が移される。
ここで、正中線設定用ロッド5を底版601と頂版本体602の前方側端面にて形成された正中線設定用ロッド溝610a,610bにそれぞれ嵌合する際、瞳孔線設定用ロッド4が咬合面設定用機構620の瞳孔線ガイド部材613に平行になるように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bに嵌合するようにする。
なお、瞳孔線設定用ロッド4が瞳孔線ガイド部材613に平行になるように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bにそれぞれ嵌合する際、昇降ロッド612を適宜昇降させることによって、瞳孔線設定用ロッド4と瞳孔線ガイド部材613とを近接させればよい。
このようにすると、瞳孔線ガイド部材613に対する瞳孔線設定用ロッド4の位置決めをより正確に行うことが可能となる。上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器600内に挿入する際や石膏を盛る際には、必要に応じて昇降ロッド612を引き上げ、上述した作業の効率を高めるのが望ましい。
正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bにそれぞれ嵌合する際、正中線設定用ロッド5を断面が円状のプラスチックロッドで構成してあるとともに正中線設定用ロッド溝610a,610bの内径を正中線設定用ロッド5の外径よりも若干小さく形成してあるため、取付け時には咬合面トランスファー器具10を咬合器600に仮固定することができるとともに、取外し時には咬合器600から容易に取り外すことが可能となる。
咬合面設定用機構620は、昇降ロッド612を頂版本体602に対して垂直に昇降自在となるように構成してあるとともに切歯ガイド部材614を頂版604及び底版601の前方側縁部に対して直交するように底版601の後方側に突設して構成してあるため、瞳孔線ガイド部材613は、頂版604及び底版601の前方側縁部と平行に位置決めされる。
一方、咬合面トランスファー器具10は、患者の口腔内の咬合面との相対位置関係として瞳孔線41が瞳孔線設定用ロッド4に、正中線43及び特定正中線42が正中線設定用ロッド5にそれぞれ記録されてある。
そのため、瞳孔線設定用ロッド4が瞳孔線ガイド部材613に平行になるように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bにそれぞれ嵌合すれば、瞳孔線41は瞳孔線ガイド部材613に、正中線43及び特定正中線42は昇降ロッド612にそれぞれ記録が移されることとなる。
加えて、瞳孔線ガイド部材613は、頂版604及び底版601の前方側縁部に平行に位置決めしてあるため、瞳孔線設定用ロッド4が瞳孔線ガイド部材613に平行になるように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bに嵌合したならば、正中線設定用ロッド5及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版601及び頂版604の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器600の正面と平行になるように取り付けられることとなり、かくして上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72はそれらの正面が咬合器600の正面と一致するように該咬合器に据え付けられることとなる。
下顎歯列模型72及び上顎歯列模型71を底版601の上面及び頂版本体602の下面にそれぞれ固着するにあたっては、高さ調整ロッド56,56に沿って頂版604を昇降させ、次いで、第3の雄ネジ57,57を操作することにより頂版604を所望の位置で固定した後、正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bに嵌合し、かかる状態で下顎歯列模型72を底版601の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体602の下面にそれぞれ石膏等で固着すればよい。
なお、石膏が固まるまでは、必要に応じて所定の支保部材(図示せず)を底版601の上面に立設し、該支保部材で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の重量を支えるようにするのがよい。かかる場合には、支保部材は、底版601と下顎歯列模型72との間の石膏に埋設されることになる。
ここで、上述したように側方バイト材25,27の材料を即時重合レジン、バイト材1の材料を歯科用ゴム質弾性印象材(パテタイプ)とするならば、該歯科用ゴム質弾性印象材(パテタイプ)は硬化後においても適度な弾性を有するため、バイト材1′に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の前歯73,74でバイト材1′を咬ませる際に支柱である上顎歯列模型71の前歯73が欠損する恐れがない。
また、即時重合レジンは硬化後かなり硬くなるため、側方バイト材25′,27′を該側方バイト材に圧痕された各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の上下臼歯75,76及び上下臼歯77,78にそれぞれ咬ませることによって、バイト材1′が弾性を有していても上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の咬合位置がずれる心配はない。
下顎歯列模型72が底版601の上面に、上顎歯列模型71が頂版本体602の下面にそれぞれ固着されたならば、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72とで咬まされたバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を咬合面トランスファー器具10とともに、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72からそれぞれ撤去する。
ここで、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する前後で底版601と頂版604との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版本体602の反転の前後で底版601と頂版604との相対位置関係が保持されるように構成してあるので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しない。
次に、瞳孔線ガイド部材613及び正中線ガイド部材614を基準として差し歯を製作する。
図55は、咬合器600に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した正面図、図56は、図55における頂版本体602周辺を示した詳細正面図、図57は、咬合器600に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した側面図である。
また、図58は咬合器600を構成する頂版本体602に上顎歯列模型71が固着された状態を示す図であり、(a)は図54におけるC−C線に沿う矢視図、(b)は図57におけるD−D線に沿う矢視図である。
これらの図からわかるように、咬合器600に固着された上顎歯列模型71を用いて差し歯を製作するにあたっては、ピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回して咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を上顎歯列模型71に合わせて所望の位置に昇降させながら、差し歯を製作する。
具体的には、図56に示すように瞳孔線ガイド部材613を基準として上顎歯列が左右対称となるように差し歯を製作することが可能となる。すなわち、咬合器600の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作することができる。
なお、咬合面は、特定正中線42を基準にした場合、前歯である切歯73から大臼歯と口腔内の奥に向かうにつれて徐々に高くなっていくが、図56でわかるようにピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回すことによって、昇降ロッド612を頂版本体602に対して昇降させることができるため、上顎歯列用差し歯147の種類に応じて昇降ロッド612を適宜昇降させながら、上顎歯列模型71で咬合面を正確に再現することができる。
また、図56及び図58でよくわかるように咬合器600の正面から見て切歯ガイド部材614の材軸延長線上に上顎歯列用差し歯147のうち、切歯145a,145bの間が来るように上顎歯列用差し歯147を製作する。かかる場合にも、昇降ロッド612を適宜昇降させることにより、切歯ガイド部材614の高さを切歯73の位置に合わせるようにすればよい。
なお、作業の便宜上、頂版本体602を頂版基部53に対して該頂版基部廻りに上面が該頂版基部の上面に当接するまで反転させて上顎歯列用差し歯147を製作し、上顎歯列模型71に該上顎歯列用差し歯を取り付けては頂版本体602を頂版基部53に対して元通りに回転させ、下顎歯列模型72との咬合状態を確認する。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10及び咬合器600によれば、瞳孔線設定用ロッド4を介して患者の瞳孔線41を咬合器600の底版601と平行な関係として該咬合器に移すことができるとともに、正中線設定用ロッド5を介して正中線43及び特定正中線42を咬合器600の底版601と垂直な関係として該咬合器に記録が移すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、その咬合面が患者の口腔内における咬合面と三次元座標上で同一となるように咬合器600に固着することが可能となり、それゆえ、かかる口腔内における咬合面が咬合器600に再現された状態で審美的に優れた差し歯を製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器600によれば、昇降ロッド612が頂版本体602に対して垂直に昇降自在となるように、かつ瞳孔線ガイド部材613が頂版604及び底版601の前方側縁部と平行に位置決めされるように咬合面設定用機構620及び貫通孔615を構成するとともに、正中線設定用ロッド溝610a,610bを正中線設定用ロッド5が該正中線設定用ロッド溝に嵌合されたときにその材軸と切歯ガイド部材614の材軸が同一面内に含まれるように底版601と頂版604の前方側端面にて形成し、瞳孔線設定用ロッド4が瞳孔線ガイド部材613に平行になるように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bに嵌合するようにしたので、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器600上で正確に再現される。
加えて、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、それらの正面が咬合器600の正面と一致する状態にて咬合器600に据え付けることが可能となるため、咬合器600の正面から上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を見ることで、患者の口腔内における歯列を患者の正面から見た場合と同じ状況を再現することが可能となる。
したがって、昇降ロッド612及び瞳孔線ガイド部材613を基準として高精度に上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合面トランスファー器具10及び咬合器600によれば、正中線設定用ロッド5を断面が円状のプラスチックロッドで構成するとともに、正中線設定用ロッド溝610a,610bの内径を正中線設定用ロッド5の外径よりも若干小さく構成してあるため、該正中線設定用ロッドを正中線設定用ロッド溝610a,610bにそれぞれ嵌合することで咬合面トランスファー器具10を咬合器600に着脱自在することが可能となり、取付け時には咬合面トランスファー器具10を咬合器600に仮固定することができるとともに、ひいては上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の仮保持及び位置決めが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を頂版本体602の下面及び底版601の上面にそれぞれ取り付ける作業が容易になる。
また、本実施形態に係る咬合器600によれば、固着後においてバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する際、該撤去の前後で底版601と頂版604との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版本体602の反転の前後で底版601と頂版604との相対位置関係が保持されるように頂版604及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となるとともに、該上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版604を構成する頂版本体602を頂版基部53に対して元通り回転させても、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯147の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器600によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72をそれらの正面が咬合器600の正面と一致するように該咬合器に据え付けるように構成したので、咬合器600の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器600によれば、咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を頂版本体602に対して昇降自在に取り付けるようにしたので、昇降ロッド612に取り付けられた瞳孔線ガイド部材613を上顎歯列模型71の歯列に合わせて所望の高さに設定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147の製作精度が向上する。
加えて、本実施形態に係る咬合器600によれば、咬合面設定用機構620を構成する切歯ガイド部材614を昇降ロッド612にその材軸と直交するように底版601の後方側に突設して構成したので、切歯ガイド部材614の軸線方向延長線上に切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となり、かかる点においても、上顎歯列用差し歯の製作における精度と作業性が大幅に向上する。
本実施形態では特に言及しなかったが、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版602が昇降自在となるように構成したが、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はない。
図59は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器630は、底版601と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版634と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とからからなり、頂版634は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体602とから構成してある。以下、本変形例については、第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、本発明の咬合器を頂版及び底版の前方側端面にて咬合面トランスファー器具10の正中線設定用ロッド5が嵌合される正中線設定用ロッド溝を形成するように構成したが、瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612を基準として上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器に固着することが可能であれば頂版及び底版に正中線設定用ロッド溝を形成する必要はない。
図60は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器640は、底版641と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版644と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とからからなり、頂版634は、高さ調整ロッド56,56の上端にて固定された頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体642とから構成してある。
また、底版641及び頂版644は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版641に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版641の上面には下顎歯列模型72を、頂版644の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
かかる構成においては、咬合面トランスファー器具10の瞳孔線設定用ロッド4が咬合面設定用機構620の瞳孔線ガイド部材613に平行になるように、かつ正中線設定用ロッド5がその材軸と切歯ガイド部材614の材軸とが同一面内に含まれるように、正中線設定用ロッド5を底版641及び頂版本体642の前方側端面にあてがい、下顎歯列模型72を底版641の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体642の下面にそれぞれ固着するようにすればよい。
また、本実施形態では、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版604が昇降自在となるように構成するとともに、頂版604及び底版601の前方側端面にて咬合面トランスファー器具10の正中線設定用ロッド5が嵌合される正中線設定用ロッド溝610a,610bを形成するように構成したが、上述したように上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はなく、かつ瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612を基準として上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器に固着することが可能であれば頂版及び底版に正中線設定用ロッド溝を形成する必要はない。
図61は変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器650は、底版641と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版654と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とからからなり、該頂版は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体642とから構成してある。
かかる構成においても、上述したように瞳孔線設定用ロッド4が瞳孔線ガイド部材613に平行になるように、かつ正中線設定用ロッド5がその材軸と切歯ガイド部材614の材軸とが同一面内に含まれるように、正中線設定用ロッド5を底版641及び頂版本体642の前方側端面にあてがい、下顎歯列模型72を底版641の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体642の下面にそれぞれ固着するようにすればよい。
また、本実施形態では、咬合器600を構成する頂版604及び底版601を所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成したが、特に矩形状に限る必要はない。
図62は、変形例に係る咬合器660を示した斜視図である。
同図でわかるように、変形例に係る咬合器660は、咬合器600とほぼ同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版661と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版663と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、頂版663は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
また、底版661及び頂版663は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版661に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版661の上面には下顎歯列模型72を、頂版663の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
頂版663は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体662とから構成してある。
ここで、底版661及び頂版本体662は咬合器600とは異なり、半楕円状で所定の厚みを有する鋼板で形成してあり、底版661の上面と頂版本体662の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
底版661及び頂版本体662の前方側端面には咬合器600と同様、咬合面トランスファー器具10を構成する正中線設定用ロッド5が嵌合される正中線設定用ロッド溝610a,610bを形成してある。
以下、本変形例に係る咬合器660は、底版及び頂版の形状が異なる点を除き、咬合器600と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切歯ガイド部材614を伸縮自在に構成してもよい。
図63は、変形例に係る咬合器670を示した斜視図及び咬合面設定用機構674の断面図である。
同図に示す咬合器670は咬合器600とほぼ同様、底版601と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にて取り付けられた頂版604と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構674とから構成してあるとともに、頂版604は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
咬合面設定用機構674は、頂版本体602に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版604及び底版601の前方側縁部に対して直交するように底版601と平行に後方側に向けて突設された切歯ガイド部材673と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材673に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してある。
ここで、切歯ガイド部材673は、昇降ロッド612に取り付けられた切歯ガイド本体672と、その先端に取り付けられ先鋭に形成された伸縮ガイド671とからなり、該伸縮ガイド671は、切歯ガイド本体672に対して伸縮自在に構成してある。
伸縮自在とするには、切歯ガイド671を切歯ガイド本体672に螺合する構成や、ロッドアンテナ状に切歯ガイド671を伸縮させる構成などがあるが、かかる構成については、公知の構成から適宜選択すればよい。
かかる構成においては、切歯ガイド部材673を適宜伸縮させてその先端を上顎歯列模型71の前歯に近づけるとともに、図63(b)に示すように、その先鋭な先端にちょうど両切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯を製作することが可能となり、該上顎歯列用差し歯の製作精度がより向上する。
換言すれば、咬合面トランスファー器具10を構成する正中線設定用ロッド5とバイト材保持部2との水平長さを咬合器670上で再現せずとも、切歯145a,145b間の位置を正中線43あるいは特定正中線42上に正確に一致させることが可能となるとともに、バイト材1を咬んだときの咬合位置のばらつきについても、切歯ガイド部材673を伸縮させることによって、そのばらつきを吸収することが可能となる。
以下、本変形例に係る咬合器670は、咬合面設定用機構が異なる点を除き、咬合器600と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、本発明に係る咬合器は、咬合面トランスファー器具を構成する正中線設定用ロッドを正中線設定用ロッド溝に嵌合したとき、正中線設定用ロッドが底版に対して垂直になり、かつその材軸と咬合面設定用機構の切歯ガイド部材の材軸が同一面内に含まれるように正中線設定用ロッド溝を形成してあれば、底版及び頂版の前方側縁部に対する咬合面設定用機構の瞳孔線ガイド部材の配置角度は任意であり、本実施形態のように平行である必要はない。
図64は、変形例に係る頂版本体682の見上げ図(上方を見上げた図)であり、(a)は、上述した配置角度が90°でない任意の角度θ4の場合における頂版本体682を示した図、(b)は、咬合面トランスファー器具10と上顎歯列模型71あるいは頂版本体682との相対位置関係を示したものである。
かかる場合には、同図でわかるように、瞳孔線設定用ロッド4が瞳孔線ガイド部材613に平行になる状態にて上顎歯列模型71が頂版本体682に固着されてあり、上顎歯列模型71の正面と該頂版本体の正面とは一致せず、角度θ4だけずれることになるが、差し歯の製作上、何らの問題も生じないし、上述したと同様、高精度の差し歯を製作することができる。
なお、咬合面設定用機構620aは、瞳孔線ガイド部材613が頂版本体682の前方側縁部に平行ではなく角度θ4である点を除き、咬合面設定用機構620と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具10及び咬合器600を用いて上顎歯列用差し歯147を製作する際のプロセスを記述したが、下顎歯列用差し歯を製作する場合についても上述したと同様であり、まず、下顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、上述した手順により2つの側方バイト材及びバイト材を患者に咬ませ、かかる状態にて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド5にそれぞれ記録し、次いで、咬合面トランスファー器具10の瞳孔線設定用ロッド4が瞳孔線ガイド部材613に平行になるように正中線設定用ロッド5を正中線設定用ロッド溝610a,610bにそれぞれ嵌合し、下顎歯列模型72および上顎歯列模型71を咬合器600に据え付けた上、瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612並びに切歯ガイド部材614を基準として下顎歯列用差し歯を製作すればよい。
また、下顎歯列用差し歯を製作する際には、上顎歯列用差し歯147の製作プロセスとは異なり、既に完成した上顎歯列用差し歯147に対応する上顎歯列模型との間で該上顎歯列模型の歯列とそれに対向する下顎歯列模型の歯列との咬合状態を一つ一つ確認するようにする。
(第8実施形態)
次に、第8実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図65は、本実施形態に係る咬合器を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は咬合器の前方側周辺の詳細断面図である。図66は、本実施形態に係る咬合器の側面図を示す。これらの図でわかるように、本実施形態に係る咬合器700は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版141と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版702と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、頂版702は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版141及び頂版702は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版141に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版141の上面には下顎歯列模型72を、頂版702の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版141及び頂版702は、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版141の上面と頂版702の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版141の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56,56を立設してあり、頂版702は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体701とから構成してある。かかる構成により、頂版702全体を高さ調整ロッド56,56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体701を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版702は、上述したようにその頂版本体701を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体701の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体701の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版141に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
このように、頂版本体701が水平前方に向いた位置で回転拘束されるようになっていることにより、頂版本体701の上面及び下面の反転の前後で底版141と頂版本体701との相対位置関係を保持することができる。
また、頂版基部53の長手方向両端面には、固定機構93,93を設けてあり、頂版基部53、ひいては頂版702全体を高さ調整ロッド56,56の所望位置に固定することができるようになっているが、かかる構成については第2実施形態ですでに述べたので省略する。
ここで、咬合面設定用機構620は、頂版本体701に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版702及び底版141の前方側縁部に対して直交するように底版141と平行に後方へ向けて突設された切歯ガイド部材614と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材614に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してあり、昇降ロッド612は、頂版本体701に対して垂直に昇降自在となるように貫通孔615を形成してある。
以下、咬合面設定用機構620については第7実施形態で詳述したので、その説明を省略する。
ここで、底版141と頂版702の前方側端面には、咬合面トランスファー器具120の正中線設定用ロッド125の突条体136が着脱自在に嵌合される嵌合溝150a、嵌合溝150bをそれぞれ形成してある。
かかる嵌合溝150a,150bは、底版141に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成してあるとともに、正中線設定用ロッド125の突条体136を嵌合したとき、該正中線設定用ロッドが底版141に対して垂直となる状態で仮固定され、かつ咬合面トランスファー器具120の瞳孔線設定用ロッド4が底版141及び頂版702の前方側縁部に平行になるように、換言すれば咬合器700の正面と平行になるように形成してある。
なお、嵌合溝150a,150bへの正中線設定用ロッド125の着脱を行うにあたって、取付け時には所定の強度で仮固定されるように、かつ取外し時には例えば手で手前に引く程度の力で外れるように、突条体136の外寸と嵌合溝150a,150bの内寸とを適宜調整しておく。
次に、咬合面トランスファー器具120及び咬合器700を用いて差し歯を製作する手順を、患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合を例として説明する。
上述した手順で患者の上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、まず、患者の口腔内における咬合面を患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42という形で咬合面トランスファー器具120に記録し、次いで、これら瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42が記録された咬合面トランスファー器具120を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器700に固着し、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を用いて上顎歯列用差し歯を製作する。
以下、その具体的手順を詳細に説明する。
なお、上顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、2つの側方バイト材25,27及びバイト材1を患者に咬ませ、かかる状態にて咬合面トランスファー器具120を用いて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド125にそれぞれ記録する手順については第4実施形態ですでに述べたので、ここではその説明を省略する。
まず、咬合面トランスファー器具120を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器700に固着する。
図67及び図68は、本実施形態に係る咬合器700に咬合面トランスファー器具120を装着した場合を示した正面図及び側面図である。
これらの図からわかるように、咬合面トランスファー器具120を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器700に固着するには、まず、昇降ロッド612を頂版本体701に形成された貫通孔615から予め引き抜いておき、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の固着作業が効率的に行われるように準備する。
次に、咬合面トランスファー器具120のバイト材保持部2に保持された硬化済みのバイト材1′を該バイト材に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71の前歯73と下顎歯列模型72の前歯74とで咬ませるとともに、右側の上下臼歯23,24(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材25′及び左側の上下臼歯21,26(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材27′を各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の右上下臼歯75,76と左上下臼歯77,78にそれぞれ咬ませ、かかる状態で咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125の突条体136を底版141と頂版本体701の前方側端面にて形成された嵌合溝150a、嵌合溝150bにそれぞれ嵌合し、しかる後、石膏等を用いて下顎歯列模型72を底版141の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体701の下面にそれぞれ固着する。
ここで、正中線設定用ロッド125の突条体136を底版141と頂版本体701の前方側端面にて形成された嵌合溝150a、嵌合溝150bにそれぞれ嵌合することにより、患者の瞳孔線41は、底版141と平行でかつ底版141及び頂版702の前方側縁部と平行な関係として該咬合器に記録が移されるとともに、正中線43及び特定正中線42は、底版141と垂直な関係として該咬合器に記録が移される。
一方、咬合面トランスファー器具120は、患者の口腔内の咬合面との相対位置関係として瞳孔線41が瞳孔線設定用ロッド4に、正中線43及び特定正中線42が正中線設定用ロッド125にそれぞれ記録してある。
そのため、正中線設定用ロッド125の突条体136を嵌合溝150a、嵌合溝150bにそれぞれ嵌合し、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器700に取り付けるだけで、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72は、それらの正面が咬合器700の正面と一致するように該咬合器に据え付けられることとなる。
下顎歯列模型72及び上顎歯列模型71を底版141の上面及び頂版本体701の下面にそれぞれ固着するにあたっては、高さ調整ロッド56,56に沿って頂版702を昇降させ、次いで、第3の雄ネジ57,57を操作することにより頂版702を所望の位置で固定した後、正中線設定用ロッド125の突条体136を嵌合溝150a,150bに嵌合し、かかる状態で下顎歯列模型72を底版141の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体701の下面にそれぞれ石膏等で固着すればよい。
なお、石膏が固まるまでは、必要に応じて所定の支保部材(図示せず)を底版141の上面に立設し、該支保部材で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の重量を支えるようにするのがよい。かかる場合には、支保部材は、底版141と下顎歯列模型72との間の石膏に埋設されることになる。
なお、側方バイト材及びバイト材に関しては、既に上述した実施形態で述べたので、ここではその説明を省略する。
下顎歯列模型72が底版141の上面に、上顎歯列模型71が頂版本体701の下面にそれぞれ固着されたならば、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72とで咬まされたバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を咬合面トランスファー器具120とともに、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72からそれぞれ撤去する。
ここで、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する前後で底版141と頂版702との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版本体701の反転の前後で底版141と頂版702との相対位置関係が保持されるように構成してあるので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しない。
次に、昇降ロッド612を貫通孔615に差し込み、その後、昇降ロッド612に取り付けられた瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612を基準として差し歯を製作する。
図69は、咬合器700に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した正面図、図70は、図69における頂版本体701周辺を示した詳細正面図、図71は、咬合器700に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した側面図である。
また、図72は咬合器700を構成する頂版本体701に上顎歯列模型71が固着された状態を示す図であり、(a)は図68におけるE−E線に沿う矢視図、(b)は図71におけるF−F線に沿う矢視図である。
これらの図からわかるように、咬合器700に固着された上顎歯列模型71を用いて差し歯を製作するにあたっては、ピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回して咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を上顎歯列模型71に合わせて所望の位置に昇降させながら、差し歯を製作する。
具体的には、図70に示すように瞳孔線ガイド部材613を基準として上顎歯列が左右対称となるように差し歯を製作する。すなわち、咬合器700の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作する。
なお、咬合面は、特定正中線42を基準にした場合、前歯である切歯73から大臼歯と口腔内の奥に向かうにつれて徐々に高くなっていくが、図70でわかるようにピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回すことによって、昇降ロッド612を頂版本体701に対して昇降させることができるため、上顎歯列用差し歯147の種類に応じて昇降ロッド612を適宜昇降させながら、上顎歯列模型71で咬合面を正確に再現することができる。
また、図70でよくわかるように咬合器700の正面から見て切歯ガイド部材614の材軸延長線上に上顎歯列用差し歯147のうち、切歯145a,145bの間が来るように上顎歯列用差し歯147を製作する。かかる場合にも、昇降ロッド612を適宜昇降させることにより、切歯ガイド部材614の高さを切歯73の位置に合わせるようにすればよい。
なお、作業の便宜上、頂版本体701を頂版基部53に対して該頂版基部廻りに上面が該頂版基部の上面に当接するまで反転させて上顎歯列用差し歯147を製作し、上顎歯列模型71に該上顎歯列用差し歯を取り付けては頂版本体701を頂版基部53に対して元通りに回転させ、下顎歯列模型72との咬合状態を確認する。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合器700によれば、咬合面トランスファー器具120の瞳孔線設定用ロッド4を介して患者の瞳孔線41を咬合器700の底版141と平行な関係として該咬合器に移すことができるとともに、正中線設定用ロッド125を介して正中線43及び特定正中線42を咬合器700の底版141と垂直な関係として該咬合器に記録が移すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、その咬合面が患者の口腔内における咬合面と三次元座標上で同一となるように咬合器700に固着することが可能となり、それゆえ、かかる口腔内における咬合面が咬合器700に再現された状態で審美的に優れた差し歯を製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器700によれば、嵌合溝150a,150bを、底版141に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成するとともに、正中線設定用ロッド125の突条体136が嵌合されたとき、該正中線設定用ロッドが底版141に対して垂直となる状態で仮固定され、かつ咬合面トランスファー器具120の瞳孔線設定用ロッド4が底版141及び頂版702の前方側縁部に平行になるように形成したので、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器700上で正確に再現される。
加えて、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、それらの正面が咬合器700の正面と一致する状態にて咬合器700に据え付けることが可能となるため、咬合器700の正面から上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を見ることで、患者の口腔内における歯列を患者の正面から見た場合と同じ状況を再現することが可能となる。
したがって、昇降ロッド612及び瞳孔線ガイド部材613を基準として高精度に上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器700によれば、正中線設定用ロッド125の突条体136を嵌合溝150a,150bにそれぞれ嵌合することで咬合面トランスファー器具120を咬合器700に着脱自在することが可能となり、取付け時には咬合面トランスファー器具120を咬合器700に仮固定することができるとともに、ひいては上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の仮保持及び位置決めが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を頂版本体701の下面及び底版141の上面にそれぞれ取り付ける作業が容易になる。
また、本実施形態に係る咬合器700によれば、固着後においてバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する際、該撤去の前後で底版141と頂版702との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版702の反転の前後で底版141と頂版702との相対位置関係が保持されるように頂版702及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となるとともに、該上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版702を構成する頂版本体701を頂版基部53に対して元通り回転させても、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯147の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器700によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72をそれらの正面が咬合器700の正面と一致するように該咬合器に据え付けるように構成したので、咬合器700の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器700によれば、咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を頂版本体701に対して昇降自在に取り付けるようにしたので、昇降ロッド612に取り付けられた瞳孔線ガイド部材613を上顎歯列模型71の歯列に合わせて所望の高さに設定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147の製作精度が向上する。
加えて、本実施形態に係る咬合器700によれば、咬合面設定用機構620を構成する切歯ガイド部材614を昇降ロッド612にその材軸と直交するように底版141の後方側に突設して構成したので、切歯ガイド部材614の軸線方向延長線上に切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となり、かかる点においても、上顎歯列用差し歯の製作における精度と作業性が大幅に向上する。
本実施形態では特に言及しなかったが、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版702が昇降自在となるように構成したが、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はない。
図73は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器710は、底版141と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版711と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とからからなり、頂版711は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体701とから構成してある。以下、本変形例については、第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合器700を構成する頂版702及び底版141を所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成したが、特に矩形状に限る必要はない。
図74は、変形例に係る咬合器720を示した斜視図である。
同図でわかるように、変形例に係る咬合器720は、咬合器700とほぼ同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版721と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版723と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、該頂版は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
また、底版721及び頂版723は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版721に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版721の上面には下顎歯列模型72を、頂版723の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
頂版723は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体722とから構成してある。
ここで、底版721及び頂版723は咬合器700とは異なり、半楕円状で所定の厚みを有する鋼板で形成してあり、底版721の上面と頂版本体722の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
底版721及び頂版本体722の前方側端面には咬合器700と同様、咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125の突条体136が着脱自在に嵌合される嵌合溝150a、嵌合溝150bを形成してある。
以下、本変形例に係る咬合器720は、底版及び頂版の形状が異なる点を除き、咬合器700と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切歯ガイド部材614を伸縮自在に構成してもよい。
図75は、変形例に係る咬合器730を示した斜視図及び断面図である。同図に示す咬合器730は咬合器700とほぼ同様、底版141と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にて取り付けられた頂版702と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構674とから構成してあるとともに、頂版702は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
咬合面設定用機構674は、頂版本体701に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版702及び底版141の前方側縁部に対して直交するように底版141と平行に後方側に向けて突設された切歯ガイド部材673と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材673に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してある。
ここで、切歯ガイド部材673は、昇降ロッド612に取り付けられた切歯ガイド本体672と、その先端に取り付けられ先鋭に形成された伸縮ガイド671とからなり、該伸縮ガイド671は、切歯ガイド本体672に対して伸縮自在に構成してある。
伸縮自在とするには、切歯ガイド671を切歯ガイド本体672に螺合する構成や、ロッドアンテナ状に切歯ガイド671を伸縮させる構成などがあるが、かかる構成については、公知の構成から適宜選択すればよい。
かかる構成においては、切歯ガイド部材673を適宜伸縮させてその先端を上顎歯列模型71の前歯に近づけるとともに、図75(b)に示すように、その先鋭な先端にちょうど両切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯を製作することが可能となり、該上顎歯列用差し歯の製作精度がより向上する。
換言すれば、咬合面トランスファー器具120を構成する正中線設定用ロッド125とバイト材保持部2との水平長さを咬合器730上で再現せずとも、切歯145a,145b間の位置を正中線43あるいは特定正中線42上に正確に一致させることが可能となるとともに、バイト材1を咬んだときの咬合位置のばらつきについても、切歯ガイド部材673を伸縮させることによって、そのばらつきを吸収することが可能となる。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、本発明に係る咬合器は、咬合面トランスファー器具を構成する正中線設定用ロッドの突条体を嵌合溝に嵌合したとき、該咬合面トランスファー器具の瞳孔線設定用ロッドが瞳孔線ガイド部材に平行になり、かつ正中線設定用ロッドが底版に対して垂直になるとともにその材軸と切歯ガイド部材の材軸が同一面内に含まれる状態で仮固定されるように嵌合溝を形成してあれば、その形状や方向は任意であり、本実施形態のように正中線設定用ロッド125の突条体136を嵌合したとき、咬合面トランスファー器具120の瞳孔線設定用ロッド4が底版141及び頂版702の前方側縁部に平行になるようにする必要はなく、瞳孔線設定用ロッド4や瞳孔線ガイド部材613が底版141及び頂版702の前方側縁部に対して所定の角度をなすように構成してもかまわない。
図76は、変形例に係る頂版本体709の見上げ図(上方を見上げた図)であり、(a)は、上述した配置角度が90°でない任意の角度θ5の場合において、咬合面トランスファー器具120と上顎歯列模型71あるいは頂版本体709との相対位置関係を示した図、(b)は、咬合面設定用機構620aと上顎歯列模型71あるいは頂版本体709との相対位置関係を示したものである。
かかる場合には、同図で明らかなように、上顎歯列模型71の正面と頂版本体709の正面とは一致せず、角度θ5だけずれることになるが、差し歯の製作上、何らの間題も生じないし、上述したと同様、高精度の差し歯を製作することができる。
なお、咬合面設定用機構620aは、瞳孔線ガイド部材613が頂版本体709の前方側端面に平行ではなく角度θ5である点を除き、咬合面設定用機構620と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具120及び咬合器700を用いて上顎歯列用差し歯147を製作する際のプロセスを記述したが、下顎歯列用差し歯を製作する場合についても上述したと同様であり、まず、下顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、上述した手順により2つの側方バイト材及びバイト材を患者に咬ませ、かかる状態にて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド125にそれぞれ記録し、次いで、咬合面トランスファー器具120を用いて下顎歯列模型および上顎歯列模型を咬合器700に据え付けた上、咬合面設定用機構620を用いて下顎歯列用差し歯を製作すればよい。
また、下顎歯列用差し歯を製作する際には、上顎歯列用差し歯147の製作プロセスとは異なり、既に完成した上顎歯列用差し歯147に対応する上顎歯列模型との間で該上顎歯列模型の歯列とそれに対向する下顎歯列模型の歯列との咬合状態を一つ一つ確認するようにする。
(第9実施形態)
次に、第9実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図77は、本実施形態に係る咬合器を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は咬合器の前方側周辺の詳細断面図である。図78は、本実施形態に係る咬合器の側面図を示す。これらの図でわかるように、本実施形態に係る咬合器740は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版241と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版743と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、頂版743は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版241及び頂版743は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版241に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版241の上面には下顎歯列模型72を、頂版743の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版241及び頂版743は、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版241の上面と頂版743の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版241の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56,56を立設してあり、頂版743は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体742とから構成してある。かかる構成により、頂版743全体を高さ調整ロッド56,56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体742を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版743は、上述したようにその頂版本体742を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体742の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体742の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版241に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
このように、頂版本体742が水平前方に向いた位置で回転拘束されるようになっていることにより、頂版本体742の上面及び下面の反転の前後で底版241と頂版本体742との相対位置関係を保持することができる。
また、頂版基部53の長手方向両端面には、固定機構93,93を設けてあり、頂版基部53、ひいては頂版743全体を高さ調整ロッド56,56の所望位置に固定することができるようになっているが、かかる構成については第2実施形態ですでに述べたので省略する。
ここで、咬合面設定用機構620は、頂版本体742に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版743及び底版241の前方側縁部に対して直交するように底版241と平行に後方へ向けて突設された切歯ガイド部材614と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材614に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してあり、昇降ロッド612は、頂版本体742に対して垂直に昇降自在となるように貫通孔615を形成してある。
以下、咬合面設定用機構620については第7実施形態で詳述したので、その説明を省略する。
ここで、底版241と頂版743の前方側端面には、咬合面トランスファー器具220の正中線設定用ロッド225が着脱自在に嵌合されるロッド嵌合凹部250a、ロッド嵌合凹部250bをそれぞれ形成してある。
2つのロッド嵌合凹部250a,250bは、底版241に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成してあり、ロッド嵌合凹部250a,250bに正中線設定用ロッド225が嵌合されたときに該正中線設定用ロッドが底版241に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド225が底版241に対して垂直な軸線廻りに対し特定の角度に位置決めされた状態で仮固定できるように構成してある。
ここで、特定の角度に位置決めするとは、正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bを嵌合したときに、正中線設定用ロッド225の断面二軸のうち、接続部材3の材軸と平行な断面軸245が底版241及び頂版244の前方側縁部と直角になるように位置決めすることを意味する。
一方、咬合面トランスファー器具220の正中線設定用ロッド225及び嵌着部131は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたときに正中線設定用ロッド225の断面二軸のうち、接続部材3の材軸と平行な断面軸245が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。
したがって、かかる正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bに嵌合することにより、正中線設定用ロッド225及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版241及び頂版244の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器740の正面と平行になるように取り付けられることとなる。
なお、ロッド嵌合凹部250a,250bへの正中線設定用ロッド225の着脱を行うにあたって、取付け時には所定の強度で仮固定されるように、かつ取外し時には例えば手で手前に引く程度の力で外れるように、正中線設定用ロッド225の外寸とロッド嵌合凹部250a,250bの内寸とを適宜調整しておく。次に、咬合面トランスファー器具220及び咬合器740を用いて差し歯を製作する手順を、患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合を例として説明する。
上述した手順で患者の上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、まず、患者の口腔内における咬合面を患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42という形で咬合面トランスファー器具220に記録し、次いで、これら瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42が記録された咬合面トランスファー器具220を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器740に固着し、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を用いて上顎歯列用差し歯を製作する。
以下、その具体的手順を詳細に説明する。
なお、上顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、2つの側方バイト材25,27及びバイト材1を患者に咬ませ、かかる状態にて咬合面トランスファー器具220を用いて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド225にそれぞれ記録する手順については第4実施形態ですでに述べたので、ここではその説明を省略する。
まず、咬合面トランスファー器具220を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器740に固着する。
図79及び図80は、本実施形態に係る咬合器740に咬合面トランスファー器具220を装着した場合を示した正面図及び側面図である。
これらの図からわかるように、咬合面トランスファー器具220を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器740に固着するには、まず、昇降ロッド612を頂版本体742に形成された貫通孔615から予め引き抜いておき、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の固着作業が効率的に行われるように準備する。
次に、咬合面トランスファー器具220のバイト材保持部2に保持された硬化済みのバイト材1′を該バイト材に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71の前歯73と下顎歯列模型72の前歯74とで咬ませるとともに、右側の上下臼歯23,24(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材25′及び左側の上下臼歯21,26(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材27′を各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の右上下臼歯75,76と左上下臼歯77,78にそれぞれ咬ませ、かかる状態で咬合面トランスファー器具220を構成する正中線設定用ロッド225を底版241と頂版本体742の前方側端面にて形成されたロッド嵌合凹部250a,250bにそれぞれ嵌合し、しかる後、石膏等を用いて下顎歯列模型72を底版241の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体742の下面にそれぞれ固着する。
ここで、正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bに嵌合することにより、患者の瞳孔線41は、底版241と平行でかつ底版241及び頂版743の前方側縁部と平行な関係として該咬合器に記録が移されるとともに、正中線43及び特定正中線42は、底版241と垂直な関係として該咬合器に記録が移される。
一方、咬合面トランスファー器具220は、患者の口腔内の咬合面との相対位置関係として瞳孔線41が瞳孔線設定用ロッド4に、正中線43及び特定正中線42が正中線設定用ロッド225にそれぞれ記録してある。
そのため、正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bにそれぞれ嵌合し、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器740に取り付けるだけで、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72は、それらの正面が咬合器740の正面と一致するように該咬合器に据え付けられることとなる。
下顎歯列模型72及び上顎歯列模型71を底版241の上面及び頂版本体742の下面にそれぞれ固着するにあたっては、高さ調整ロッド56,56に沿って頂版743を昇降させ、次いで、第3の雄ネジ57,57を操作することにより頂版743を所望の位置で固定した後、正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bに嵌合し、かかる状態で下顎歯列模型72を底版241の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体742の下面にそれぞれ石膏等で固着すればよい。
なお、石膏が固まるまでは、必要に応じて所定の支保部材(図示せず)を底版241の上面に立設し、該支保部材で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の重量を支えるようにするのがよい。かかる場合には、支保部材は、底版241と下顎歯列模型72との間の石膏に埋設されることになる。
なお、側方バイト材25,27及びバイト材1に関しては、既に上述した実施形態で述べたので、ここではその説明を省略する。
下顎歯列模型72が底版241の上面に、上顎歯列模型71が頂版本体742の下面にそれぞれ固着されたならば、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72とで咬まされたバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を咬合面トランスファー器具220とともに、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72からそれぞれ撤去する。
ここで、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する前後で底版241と頂版743との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版本体742の反転の前後で底版241と頂版743との相対位置関係が保持されるように構成してあるので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しない。
次に、昇降ロッド612を貫通孔615に差し込み、その後、昇降ロッド612に取り付けられた瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612を基準として差し歯を製作する。
図81は、咬合器740に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した正面図、図82は、図81における頂版本体742周辺を示した詳細正面図、図83は、咬合器740に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した側面図である。
また、図84は咬合器740を構成する頂版本体742に上顎歯列模型71が固着された状態を示す図であり、(a)は図80におけるG−G線に沿う矢視図、(b)は図83におけるH−H線に沿う矢視図である。
これらの図からわかるように、咬合器740に固着された上顎歯列模型71を用いて差し歯を製作するにあたっては、ピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回して咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を上顎歯列模型71に合わせて所望の位置に昇降させながら、差し歯を製作する。
具体的には、図82に示すように瞳孔線ガイド部材613を基準として上顎歯列が左右対称となるように差し歯を製作する。すなわち、咬合器740の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作する。
なお、咬合面は、特定正中線42を基準にした場合、前歯である切歯73から大臼歯と口腔内の奥に向かうにつれて徐々に高くなっていくが、図82でわかるようにピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回すことによって、昇降ロッド612を頂版本体742に対して昇降させることができるため、上顎歯列用差し歯147の種類に応じて昇降ロッド612を適宜昇降させながら、上顎歯列模型71で咬合面を正確に再現することができる。
また、図82でよくわかるように咬合器740の正面から見て切歯ガイド部材614の材軸延長線上に上顎歯列用差し歯147のうち、切歯145a,145bの間が来るように上顎歯列用差し歯147を製作する。かかる場合にも、昇降ロッド612を適宜昇降させることにより、切歯ガイド部材614の高さを切歯73の位置に合わせるようにすればよい。
なお、作業の便宜上、頂版本体742を頂版基部53に対して該頂版基部廻りに上面が該頂版基部の上面に当接するまで反転させて上顎歯列用差し歯147を製作し、上顎歯列模型71に該上顎歯列用差し歯を取り付けては頂版本体742を頂版基部53に対して元通りに回転させ、下顎歯列模型72との咬合状態を確認する。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合器740によれば、咬合面トランスファー器具220の瞳孔線設定用ロッド4を介して患者の瞳孔線41を咬合器740の底版241と平行な関係として該咬合器に移すことができるとともに、正中線設定用ロッド225を介して正中線43及び特定正中線42を咬合器740の底版241と垂直な関係として該咬合器に記録が移すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、その咬合面が患者の口腔内における咬合面と三次元座標上で同一となるように咬合器740に固着することが可能となり、それゆえ、かかる口腔内における咬合面が咬合器740に再現された状態で審美的に優れた差し歯を製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器740によれば、ロッド嵌合凹部250a,250bを、底版241に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成するとともに、正中線設定用ロッド225が嵌合されたとき、該正中線設定用ロッドが底版241に対して垂直となる状態で仮固定され、かつ咬合面トランスファー器具220の瞳孔線設定用ロッド4が底版241及び頂版743の前方側縁部に平行になるように形成したので、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器740上で正確に再現される。
加えて、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、それらの正面が咬合器740の正面と一致する状態にて咬合器740に据え付けることが可能となるため、咬合器740の正面から上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を見ることで、患者の口腔内における歯列を患者の正面から見た場合と同じ状況を再現することが可能となる。
したがって、昇降ロッド612及び瞳孔線ガイド部材613を基準として高精度に上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器740によれば、正中線設定用ロッド225をロッド嵌合凹部250a,250bにそれぞれ嵌合することで咬合面トランスファー器具220を咬合器740に着脱自在することが可能となり、取付け時には咬合面トランスファー器具220を咬合器740に仮固定することができるとともに、ひいては上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の仮保持及び位置決めが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を頂版本体742の下面及び底版241の上面にそれぞれ取り付ける作業が容易になる。
また、本実施形態に係る咬合器740によれば、固着後においてバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する際、該撤去の前後で底版241と頂版743との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版743の反転の前後で底版241と頂版743との相対位置関係が保持されるように頂版743及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となるとともに、該上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版743を構成する頂版本体742を頂版基部53に対して元通り回転させても、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯147の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器740によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72をそれらの正面が咬合器740の正面と一致するように該咬合器に据え付けるように構成したので、咬合器740の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器740によれば、咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を頂版本体742に対して昇降自在に取り付けるようにしたので、昇降ロッド612に取り付けられた瞳孔線ガイド部材613を上顎歯列模型71の歯列に合わせて所望の高さに設定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147の製作精度が向上する。
加えて、本実施形態に係る咬合器740によれば、咬合面設定用機構620を構成する切歯ガイド部材614を昇降ロッド612にその材軸と直交するように底版241の後方側に突設して構成したので、切歯ガイド部材614の軸線方向延長線上に切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となり、かかる点においても、上顎歯列用差し歯の製作における精度と作業性が大幅に向上する。
本実施形態では特に言及しなかったが、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版743が昇降自在となるように構成したが、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はない。
図85は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器750は、底版241と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版751と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とからからなり、頂版751は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体742とから構成してある。以下、本変形例については、第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合器740を構成する頂版743及び底版241を所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成したが、特に矩形状に限る必要はない。
図86は、変形例に係る咬合器760を示した斜視図である。
同図でわかるように、変形例に係る咬合器760は、咬合器740とほぼ同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版761と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版763と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、該頂版は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
また、底版761及び頂版763は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版761に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版761の上面には下顎歯列模型72を、頂版763の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
頂版763は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体762とから構成してある。
ここで、底版761及び頂版763は咬合器740とは異なり、半楕円状で所定の厚みを有する鋼板で形成してあり、底版761の上面と頂版763の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
底版761及び頂版本体763の前方側端面には咬合器740と同様、咬合面トランスファー器具220を構成する正中線設定用ロッド225が着脱自在に嵌合されるロッド嵌合凹部250a、250bを形成してある。
以下、本変形例に係る咬合器760は、底版及び頂版の形状が異なる点を除き、咬合器740と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切歯ガイド部材614を伸縮自在に構成してもよい。
図87は、変形例に係る咬合器770を示した斜視図及び断面図である。同図に示す咬合器770は咬合器740とほぼ同様、底版241と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にて取り付けられた頂版743と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構674とから構成してあるとともに、頂版743は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
咬合面設定用機構674は、頂版本体742に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版743及び底版241の前方側縁部に対して直交するように底版241と平行に後方側に向けて突設された切歯ガイド部材673と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材673に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してある。
ここで、切歯ガイド部材673は、昇降ロッド612に取り付けられた切歯ガイド本体672と、その先端に取り付けられ先鋭に形成された伸縮ガイド671とからなり、該伸縮ガイド671は、切歯ガイド本体672に対して伸縮自在に構成してある。
なお、切歯ガイド部材673については、既に詳細に説明したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、本発明に係る咬合器は、咬合面トランスファー器具を構成する正中線設定用ロッドをロッド嵌合凹部に嵌合したとき、該咬合面トランスファー器具の瞳孔線設定用ロッドが瞳孔線ガイド部材に平行になり、かつ正中線設定用ロッドが底版に対して垂直になるとともにその材軸と切歯ガイド部材の材軸が同一面内に含まれる状態で仮固定されるように嵌合溝を形成してあれば、その形状や方向は任意であり、本実施形態のように正中線設定用ロッド225を嵌合したとき、咬合面トランスファー器具220の瞳孔線設定用ロッド4が底版241及び頂版743の前方側縁部に平行になるようにする必要はなく、瞳孔線設定用ロッド4や瞳孔線ガイド部材613が底版241及び頂版743の前方側縁部に対して所定の角度をなすように構成してもかまわない。
図88は、変形例に係る頂版本体749の見上げ図(上方を見上げた図)であり、(a)は、上述した配置角度が90°でない任意の角度θ6の場合において、咬合面トランスファー器具220と上顎歯列模型71あるいは頂版本体749との相対位置関係を示した図、(b)は、咬合面設定用機構620aと上顎歯列模型71あるいは頂版本体749との相対位置関係を示したものである。
かかる場合には、同図で明らかなように、上顎歯列模型71の正面と頂版本体749の正面とは一致せず、角度θ6だけずれることになるが、差し歯の製作上、何らの間題も生じないし、上述したと同様、高精度の差し歯を製作することができる。
なお、咬合面設定用機構620aは、瞳孔線ガイド部材613が頂版本体749の前方側端面に平行ではなく角度θ6である点を除き、咬合面設定用機構620と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具220及び咬合器740を用いて上顎歯列用差し歯147を製作する際のプロセスを記述したが、下顎歯列用差し歯を製作する場合についても上述したと同様であり、まず、下顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、上述した手順により2つの側方バイト材及びバイト材を患者に咬ませ、かかる状態にて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド225にそれぞれ記録し、次いで、咬合面トランスファー器具220を用いて下顎歯列模型および上顎歯列模型を咬合器740に据え付けた上、咬合面設定用機構620を用いて下顎歯列用差し歯を製作すればよい。
また、下顎歯列用差し歯を製作する際には、上顎歯列用差し歯147の製作プロセスとは異なり、既に完成した上顎歯列用差し歯147に対応する上顎歯列模型との間で該上顎歯列模型の歯列とそれに対向する下顎歯列模型の歯列との咬合状態を一つ一つ確認するようにする。
(第10実施形態)
次に、第10実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図89は、本実施形態に係る咬合器を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は咬合器の前方側周辺の詳細断面図である。図90は、本実施形態に係る咬合器の側面図を示す。これらの図でわかるように、本実施形態に係る咬合器780は、上面に下顎歯列模型72が固着される底版341と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版782と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、頂版782は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
ここで、底版341及び頂版782は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版341に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版341の上面には下顎歯列模型72を、頂版782の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
底版341及び頂版782は、例えば所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成することが可能であり、底版341の上面と頂版782の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
また、底版341の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で一対の高さ調整ロッド56,56を立設してあり、頂版782は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体781とから構成してある。かかる構成により、頂版782全体を高さ調整ロッド56,56に沿って昇降させることができるとともに、頂版本体781を頂版基部53の廻りに回転させて該頂版本体の上面及び下面を反転させることができるようになっている。
また、頂版782は、上述したようにその頂版本体781を頂版基部53の廻りに回転させることができるようになっているが、頂版本体781の後方端面と頂版基部53とが当接することで頂版本体781の回転が制限され、かかる状態において、該頂版本体は、底版341に対して水平前方に向けて片持ち状になるように構成してある。
このように、頂版本体781が水平前方に向いた位置で回転拘束されるようになっていることにより、頂版本体781の上面及び下面の反転の前後で底版341と頂版本体781との相対位置関係を保持することができる。
また、頂版基部53の長手方向両端面には、固定機構93,93を設けてあり、頂版基部53、ひいては頂版782全体を高さ調整ロッド56,56の所望位置に固定することができるようになっているが、かかる構成については第2実施形態ですでに述べたので省略する。
咬合面設定用機構620は、頂版本体781に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版782及び底版341の前方側縁部に対して直交するように底版341と平行に後方へ向けて突設された切歯ガイド部材614と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材614に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してあり、昇降ロッド612は、頂版本体781に対して垂直に昇降自在となるように貫通孔615を形成してある。
以下、咬合面設定用機構620については第7実施形態で詳述したので、その説明を省略する。
ここで、頂版782及び底版341の前方側端面には、咬合面トランスファー器具320の正中線設定用ロッド325のロッド本体335が着脱自在に嵌合されるようにロッド嵌合凹部350a,350bを形成してあるとともに、正中線設定用ロッド325の突条体336が着脱自在に嵌合されるように嵌合溝351a,351bをロッド嵌合凹部350a,350bの内面に形成してあり、ロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合したとき、正中線設定用ロッド325が底版341に対して垂直になり、かつ正中線設定用ロッド325が底版341に対して垂直な軸線廻りに対し特定の角度に位置決めされた状態で仮固定されるようにロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bを構成してある。
一方、第6実施形態で述べたように、咬合面トランスファー器具320の正中線設定用ロッド325及び嵌着部331は、該正中線設定用ロッドを瞳孔線設定用ロッド4に取り付けたときに突条体336の突設方向が瞳孔線設定用ロッド4の材軸に対して直角になるように構成してある。
したがって、かかる突条体336を嵌合溝351a,351bに嵌合することにより、正中線設定用ロッド325及び瞳孔線設定用ロッド4は、底版341及び頂版782の前方側縁部で構成される平面、換言すれば咬合器780の正面と平行になるように取り付けられることとなる。
なお、嵌合溝351a,351bへの正中線設定用ロッド325の着脱を行うにあたって、取付け時には所定の強度で仮固定されるように、かつ取外し時には例えば手で手前に引く程度の力で外れるように、突条体336の外寸と嵌合溝350a,350bの内寸とを適宜調整しておく。
次に、咬合面トランスファー器具320及び咬合器780を用いて差し歯を製作する手順を、患者の上顎歯列用差し歯を製作する場合を例として説明する。
上述した手順で患者の上顎歯列用差し歯を製作するにあたっては、まず、患者の口腔内における咬合面を患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42という形で咬合面トランスファー器具320に記録し、次いで、これら瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42が記録された咬合面トランスファー器具320を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器780に固着し、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を用いて上顎歯列用差し歯を製作する。
以下、その具体的手順を詳細に説明する。
なお、上顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、2つの側方バイト材25,27及びバイト材1を患者に咬ませ、かかる状態にて咬合面トランスファー器具320を用いて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド125にそれぞれ記録する手順については第4実施形態ですでに述べたので、ここではその説明を省略する。
まず、咬合面トランスファー器具320を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器780に固着する。
図91及び図92は、本実施形態に係る咬合器780に咬合面トランスファー器具320を装着した場合を示した正面図及び側面図である。
これらの図からわかるように、咬合面トランスファー器具320を用いて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器780に固着するには、まず、昇降ロッド612を頂版本体781に形成された貫通孔615から予め引き抜いておき、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の固着作業が効率的に行われるように準備する。
次に、咬合面トランスファー器具320のバイト材保持部2に保持された硬化済みのバイト材1′を該バイト材に圧痕された咬合型に合わせて上顎歯列模型71の前歯73と下顎歯列模型72の前歯74とで咬ませるとともに、右側の上下臼歯23,24(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材25′及び左側の上下臼歯21,26(図2参照)の咬合型が圧痕された側方バイト材27′を各咬合型に合わせて上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の右上下臼歯75,76と左上下臼歯77,78にそれぞれ咬ませ、かかる状態で咬合面トランスファー器具320の正中線設定用ロッド325を構成するロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合し、しかる後、石膏等を用いて下顎歯列模型72を底版341の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体781の下面にそれぞれ固着する。
ここで、正中線設定用ロッド325のロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合することにより、患者の瞳孔線41は、底版341と平行でかつ底版341及び頂版782の前方側縁部と平行な関係として該咬合器に記録が移されるとともに、正中線43及び特定正中線42は、底版341と垂直な関係として該咬合器に記録が移される。
一方、咬合面トランスファー器具320は、患者の口腔内の咬合面との相対位置関係として瞳孔線41が瞳孔線設定用ロッド4に、正中線43及び特定正中線42が正中線設定用ロッド325にそれぞれ記録してある。
そのため、正中線設定用ロッド325のロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合し、かかる状態で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を咬合器780に取り付けるだけで、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72は、それらの正面が咬合器780の正面と一致するように該咬合器に据え付けられることとなる。
下顎歯列模型72及び上顎歯列模型71を底版341の上面及び頂版本体781の下面にそれぞれ固着するにあたっては、高さ調整ロッド56,56に沿って頂版782を昇降させ、次いで、第3の雄ネジ57,57を操作することにより頂版782を所望の位置で固定した後、正中線設定用ロッド325をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合し、かかる状態で下顎歯列模型72を底版341の上面に、上顎歯列模型71を頂版本体781の下面にそれぞれ石膏等で固着すればよい。
なお、石膏が固まるまでは、必要に応じて所定の支保部材(図示せず)を底版341の上面に立設し、該支保部材で上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の重量を支えるようにするのがよい。かかる場合には、支保部材は、底版341と下顎歯列模型72との間の石膏に埋設されることになる。
なお、側方バイト材及びバイト材に関しては、既に上述した実施形態で述べたので、ここではその説明を省略する。
下顎歯列模型72が底版341の上面に、上顎歯列模型71が頂版本体781の下面にそれぞれ固着されたならば、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72とで咬まされたバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を咬合面トランスファー器具320とともに、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72からそれぞれ撤去する。
ここで、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する前後で底版341と頂版782との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版本体781の反転の前後で底版341と頂版782との相対位置関係が保持されるように構成してあるので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しない。
次に、昇降ロッド612を貫通孔615に差し込み、その後、昇降ロッド612に取り付けられた瞳孔線ガイド部材613及び正中線ガイド部材614を基準として差し歯を製作する。
図93は、咬合器780に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した正面図、図94は、図93における頂版本体781周辺を示した詳細正面図、図95は、咬合器780に上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72が固着された状態を示した側面図である。
また、図96は咬合器780を構成する頂版本体781に上顎歯列模型71が固着された状態を示す図であり、(a)は図92におけるI−I線に沿う矢視図、(b)は図95におけるJ−J線に沿う矢視図である。
これらの図からわかるように、咬合器780に固着された上顎歯列模型71を用いて差し歯を製作するにあたっては、ピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回して咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を上顎歯列模型71に合わせて所望の位置に昇降させながら、差し歯を製作する。
具体的には、図94に示すように瞳孔線ガイド部材613を基準として上顎歯列が左右対称となるように差し歯を製作する。すなわち、咬合器780の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作する。
なお、咬合面は、特定正中線42を基準にした場合、前歯である切歯73から大臼歯と口腔内の奥に向かうにつれて徐々に高くなっていくが、図94でわかるようにピニオン617の回転軸に連結された高さ調整つまみ618を回すことによって、昇降ロッド612を頂版本体781に対して昇降させることができるため、上顎歯列用差し歯147の種類に応じて昇降ロッド612を適宜昇降させながら、上顎歯列模型71で咬合面を正確に再現することができる。
また、図94でよくわかるように咬合器780の正面から見て切歯ガイド部材614の材軸延長線上に上顎歯列用差し歯147のうち、切歯145a,145bの間が来るように上顎歯列用差し歯147を製作する。かかる場合にも、昇降ロッド612を適宜昇降させることにより、切歯ガイド部材614の高さを切歯73の位置に合わせるようにすればよい。
なお、作業の便宜上、頂版本体781を頂版基部53に対して該頂版基部廻りに上面が該頂版基部の上面に当接するまで反転させて上顎歯列用差し歯147を製作し、上顎歯列模型71に該上顎歯列用差し歯を取り付けては頂版本体781を頂版基部53に対して元通りに回転させ、下顎歯列模型72との咬合状態を確認する。
以上説明したように、本実施形態に係る咬合器780によれば、咬合面トランスファー器具320の瞳孔線設定用ロッド4を介して患者の瞳孔線41を咬合器780の底版341と平行な関係として該咬合器に移すことができるとともに、正中線設定用ロッド325を介して正中線43及び特定正中線42を咬合器780の底版341と垂直な関係として該咬合器に記録が移すことが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、その咬合面が患者の口腔内における咬合面と三次元座標上で同一となるように咬合器780に固着することが可能となり、それゆえ、かかる口腔内における咬合面が咬合器780に再現された状態で審美的に優れた差し歯を製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器780によれば、正中線設定用ロッド325のロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合したとき、ロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bを、底版341に対する同一の垂直線上にそれぞれ形成するとともに、正中線設定用ロッド325が底版341に対して垂直となる状態で仮固定され、かつ咬合面トランスファー器具320の瞳孔線設定用ロッド4が底版341及び頂版782の前方側縁部に平行になるように形成したので、患者の瞳孔線41、正中線43及び特定正中線42と口腔内の咬合面との相対位置関係は、瞳孔線ガイド部材613及び昇降ロッド612と上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72との相対位置関係として咬合器780上で正確に再現される。
加えて、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を、それらの正面が咬合器780の正面と一致する状態にて咬合器780に据え付けることが可能となるため、咬合器780の正面から上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を見ることで、患者の口腔内における歯列を患者の正面から見た場合と同じ状況を再現することが可能となる。
したがって、昇降ロッド612及び瞳孔線ガイド部材613を基準として高精度に上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器780によれば、正中線設定用ロッド325のロッド本体335及び突条体336をロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bにそれぞれ嵌合することで咬合面トランスファー器具320を咬合器780に着脱自在することが可能となり、取付け時には咬合面トランスファー器具320を咬合器780に仮固定することができるとともに、ひいては上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の仮保持及び位置決めが可能となる。
したがって、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72を頂版本体781の下面及び底版341の上面にそれぞれ取り付ける作業が容易になる。
また、本実施形態に係る咬合器780によれば、固着後においてバイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を撤去する際、該撤去の前後で底版341と頂版782との相対位置関係が保持されるように、かつ頂版本体781の反転の前後で底版341と頂版782との相対位置関係が保持されるように頂版782及び高さ調整ロッド56,56を構成したので、バイト材1′及び2つの側方バイト材25′,27′を取り去った後も、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との間隔は何ら変化しない。
したがって、正常な咬合が行われる相対位置関係において上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となるとともに、該上顎歯列用差し歯の製作中、咬合状態を随時チェックすべく、頂版782を構成する頂版本体781を頂版基部53に対して元通り回転させても、上顎歯列模型71と下顎歯列模型72との相対位置関係は何ら変化しないため、上顎歯列用差し歯147の製作中において正常な咬合が行われているかどうかを随時チェックすることが可能となる。
また、本実施形態に係る咬合器780によれば、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72をそれらの正面が咬合器780の正面と一致するように該咬合器に据え付けるように構成したので、咬合器780の正面から見て、上顎歯列用差し歯147を上顎歯列模型71の支柱143に被せたときに形成される上顎歯列が、あらたに切歯となる差し歯145a,145bからあらたに臼歯となる差し歯146a,146bに向かって徐々に高くなるように左右対称に製作することができる。
また、本実施形態に係る咬合器780によれば、咬合面設定用機構620を構成する昇降ロッド612を頂版本体781に対して昇降自在に取り付けるようにしたので、昇降ロッド612に取り付けられた瞳孔線ガイド部材613を上顎歯列模型71の歯列に合わせて所望の高さに設定することが可能となり、上顎歯列用差し歯147の製作精度が向上する。
加えて、本実施形態に係る咬合器780によれば、咬合面設定用機構620を構成する切歯ガイド部材614を昇降ロッド612にその材軸と直交するように底版341の後方側に突設して構成したので、切歯ガイド部材614の軸線方向延長線上に切歯145a,145bの間がくるように上顎歯列用差し歯147を製作することが可能となり、かかる点においても、上顎歯列用差し歯の製作における精度と作業性が大幅に向上する。
本実施形態では特に言及しなかったが、本発明の咬合器を高さ調整ロッド56,56に沿って頂版782が昇降自在となるように構成したが、上顎歯列模型71及び下顎歯列模型72の取付けに支障がなく頂版を昇降自在に構成する必要がないのであれば、頂版を昇降自在とする必要はない。
図97は、変形例に係る咬合器を示した斜視図である。
同図からわかるように、変形例に係る咬合器790は、底版341と、該底版の後方側縁部に沿って互いに離間させた状態で立設された一対の支持ロッド115,115と、該支持ロッドの上端に固定された頂版792と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とからからなり、頂版792は、支持ロッド115,115の上端にて固定された頂版基部113と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体791とから構成してある。以下、本変形例については、第4実施形態で詳述したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合器780を構成する頂版782及び底版341を所定の厚みを有する矩形状の鋼板で構成したが、特に矩形状に限る必要はない。
図98は、変形例に係る咬合器800を示した斜視図である。
同図でわかるように、変形例に係る咬合器800は、咬合器780とほぼ同様、上面に下顎歯列模型72が固着される底版801と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にてその上面及び下面が反転するように回動自在に取り付けられ下面に上顎歯列模型71が固着される頂版803と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構620とから構成してあり、該頂版は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
また、底版801及び頂版803は、互いに平行に対向させてあるとともに両前方側端面が底版801に対する垂直面上に位置するように構成してあり、底版801の上面には下顎歯列模型72を、頂版803の下面には上顎歯列模型71をそれぞれ固着することができるようになっている。
頂版803は、高さ調整ロッド56,56が挿通される2つのロッド孔91,91が両端部に形成されてなる頂版基部53と該頂版基部にヒンジ99,99を介して連結された頂版本体802とから構成してある。
ここで、底版801及び頂版本体802は咬合器780とは異なり、半楕円状で所定の厚みを有する鋼板で形成してあり、底版801の上面と頂版本体802の下面には、所定の固着材、例えば石膏を介して下顎歯列模型72や上顎歯列模型71をそれぞれ固着できるよう、公知の技術、例えば粗面加工あるいはエンボス加工を施しておけばよい。
底版801及び頂版本体802の前方側端面には咬合器780と同様、咬合面トランスファー器具320を構成する正中線設定用ロッド325のロッド本体335及び突条体336が着脱自在に嵌合されるロッド嵌合凹部350a,350b及び嵌合溝351a,351bを形成してある。
以下、本変形例に係る咬合器800は、底版及び頂版の形状が異なる点を除き、咬合器780と同様であるので、その他の構成及び作用効果についてはその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切歯ガイド部材614を伸縮自在に構成してもよい。
図99は、変形例に係る咬合器810を示した斜視図及び断面図である。同図に示す咬合器810は咬合器780とほぼ同様、底版341と、該底版の後方側縁部近傍に立設された支持機構としての高さ調整ロッド56,56と、該高さ調整ロッドに後方側縁部にて取り付けられた頂版782と、該頂版の前方側近傍に該頂版を貫通する形で設けられた咬合面設定用機構674とから構成してあるとともに、頂版782は、前方に向けて高さ調整ロッド56,56に片持ち状に取り付けてある。
咬合面設定用機構674は、頂版本体781に形成された貫通孔615に材軸廻りに非回転となるように挿通され断面が矩形状の昇降ロッド612と、該昇降ロッドの下端近傍にてその材軸に直角になるようにかつ頂版782及び底版341の前方側縁部に対して直交するように底版341と平行に後方側に向けて突設された切歯ガイド部材673と、昇降ロッド612の下端近傍にてその材軸及び切歯ガイド部材673に直角になるように設けられた瞳孔線ガイド部材613とから構成してある。
ここで、切歯ガイド部材673は、昇降ロッド612に取り付けられた切歯ガイド本体672と、その先端に取り付けられ先鋭に形成された伸縮ガイド671とからなり、該伸縮ガイド671は、切歯ガイド本体672に対して伸縮自在に構成してある。
なお、切歯ガイド部材673については、既に詳細に説明したので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では特に言及しなかったが、本発明に係る咬合器は、ロッド嵌合凹部及び該嵌合溝に咬合面トランスファー器具のロッド本体及び突条体がそれぞれ嵌合されたとき、瞳孔線設定用ロッドが瞳孔線ガイド部材に平行になり、かつ正中線設定用ロッドが底版に対して垂直になるとともにその材軸と切歯ガイド部材の材軸が同一面内に含まれる状態で仮固定されるように構成してあれば、その形状や方向は任意であり、本実施形態のように正中線設定用ロッド325の突条体336を嵌合したとき、咬合面トランスファー器具320の瞳孔線設定用ロッド4が底版341及び頂版782の前方側縁部に平行になるようにする必要はなく、瞳孔線設定用ロッド4や瞳孔線ガイド部材613が底版341及び頂版782の前方側縁部に対して所定の角度をなすように構成してもかまわない。
図100は、変形例に係る頂版本体789の見上げ図(上方を見上げた図)であり、(a)は、上述した配置角度が90°でない任意の角度θ7の場合において、咬合面トランスファー器具320と上顎歯列模型71あるいは頂版本体789との相対位置関係を示した図、(b)は、咬合面設定用機構620aと上顎歯列模型71あるいは頂版本体789との相対位置関係を示したものである。
かかる場合には、同図で明らかなように、上顎歯列模型71の正面と頂版本体789の正面とは一致せず、角度θ7だけずれることになるが、差し歯の製作上、何らの間題も生じないし、上述したと同様、高精度の差し歯を製作することができる。
なお、咬合面設定用機構620aは、瞳孔線ガイド部材613が頂版本体789の前方側端面に平行ではなく角度θ7である点を除き、咬合面設定用機構620と全く同一であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、咬合面トランスファー器具320及び咬合器780を用いて上顎歯列用差し歯147を製作する際のプロセスを記述したが、下顎歯列用差し歯を製作する場合についても上述したと同様であり、まず、下顎歯列をタービン等で削り差し歯を支えるための支柱を形成し、上述した手順により2つの側方バイト材及びバイト材を患者に咬ませ、かかる状態にて患者の瞳孔線41を瞳孔線設定用ロッド4に、患者の正中線43及び特定正中線42を正中線設定用ロッド325にそれぞれ記録し、次いで、咬合面トランスファー器具320を用いて下顎歯列模型および上顎歯列模型を咬合器780に据え付けた上、咬合面設定用機構620を用いて下顎歯列用差し歯を製作すればよい。
また、下顎歯列用差し歯を製作する際には、上顎歯列用差し歯147の製作プロセスとは異なり、既に完成した上顎歯列用差し歯147に対応する上顎歯列模型との間で該上顎歯列模型の歯列とそれに対向する下顎歯列模型の歯列との咬合状態を一つ一つ確認するようにする。