本発明は単結晶育成装置に関し、詳しくは、赤外線集中加熱方式のフローティングゾーン法により単結晶を育成する装置を、回転楕円面鏡の温度過昇を防止するようにして小型化した単結晶育成装置に関するものである。
単結晶を育成する場合、フローティングゾーン式の単結晶育成装置を用いることは公知である(特許文献1参照)。
このフローティングゾーン式の単結晶育成装置の一例を、図15に示す。図15は、熱源にハロゲンランプを用いた双楕円型の単結晶育成装置60の縦断正面図で、図16は図15のA−A線に沿う横断面図を示し、図17は被加熱部の拡大正面図を示す。
単結晶育成装置60は、対称形の2つの回転楕円面鏡61,62を有し、各々の一方の焦点F0,F0が一致するように対向結合させて加熱炉を構成する。この回転楕円面鏡61,62の内面、すなわち反射面は、赤外線を高反射率で反射させるために金めっき処理が施されている。各回転楕円面鏡61,62の他方の焦点F1,F2付近には、加熱源、例えば、ハロゲンランプ等の赤外線ランプ63,64が固定配置してある。各回転楕円面鏡61,62の一致した焦点F0には被加熱部65が位置し、上方から鉛直方向に延びる上結晶駆動軸66の下端に固定した原料棒67と、下方から鉛直方向に延びる下結晶駆動軸68の上端に固定された種結晶棒69とを突き合わせてある。前記上結晶駆動軸66および下結晶駆動軸68は、図示するように、保持部材70,71によって気密に保持され、図示しないサーボモータ等の駆動モータで回転自在、かつ、同期または相対速度を有して昇降自在に保持されている。
前記原料棒67および種結晶棒69が配置された空間m1を、赤外線ランプ63,64が配置された空間m2と区画して、単結晶育成室72を形成する透明な石英管73を設けて、上記単結晶育成室72に結晶育成に対して好適な不活性ガス等を充満させ、一方、赤外線ランプ63,64を安全に点灯させるために、赤外線ランプ63,64を空冷する。
このように、回転楕円面鏡61,62内において、石英管73によって限定された空間m1を単結晶育成室72とすることにより、石英管73を設けないで回転楕円面鏡61,62からなる加熱炉全体を単結晶育成室とする場合に比較して、単結晶育成室72の容積が格段に小さくなり、したがって、この単結晶育成室72を短時間で所定の単結晶育成雰囲気に置換でき、かつ、その雰囲気状態を容易に維持できる。
前記の単結晶育成装置60によれば、回転楕円面鏡61,62の第1,第2の焦点F1,F2に配置された赤外線ランプ63,64から照射される赤外線を、上記回転楕円面鏡61,62で反射させ、共通の焦点F0に位置する被加熱部65に集光させて赤外線加熱する。この赤外線加熱による輻射エネルギーにより、被加熱部65の原料棒67の下端および種結晶棒69の上端を加熱溶融させながら、円滑に接触させることにより、図17に示すように、原料棒67と種結晶棒69間の被加熱部65にフローティングゾーン74を形成させる。
そして、下端に原料棒67を固定した上結晶駆動軸66と上端に種結晶棒69を固定した下結晶駆動軸68とを共に回転させ、かつ、同期または相対速度を有してゆっくり下方に向かって移動させることによって、原料棒67と種結晶棒69間のフローティングゾーン74が次第に原料棒67側に移動していって、結晶が成長していき単結晶が育成される。なお、図17における67aは原料棒67側の固液界面を示し、69aは種結晶棒69側の固液界面を示している。
このようなフローティングゾーン式の単結晶育成装置60を用いれば、ハロゲンランプ等の赤外線ランプ63,64から照射される赤外線を、上記回転楕円面鏡61,62の全面で反射させ、共通の焦点F0に位置する被加熱部65に集光させて赤外線加熱するので、比較的低出力の小型の赤外線ランプ63,64で、被加熱部65を高温度に加熱できるのみならず、赤外線ランプ63,64の入力電力を制御することで、被加熱部65の温度を容易かつ確実に制御できる。
また、原料棒67および種結晶棒69の融液が他の物質に接触しないフローティング状態で単結晶が育成できるので、坩堝式単結晶育成に比較して坩堝から溶出する不純物によって育成される単結晶の純度を低下させることがなく、高純度の単結晶を容易に育成することができる。
特公平5−34317号公報(第2欄第7行〜第3欄第2行、第1図)
従来の単結晶育成装置60においては、一般的に回転楕円面鏡61,62の長径a=117mm、短径b=108mm程度のものを使用しており(短径長径比=0.92、長径aと短径bについては図1参照)、結晶成長量を150mmとすると、装置寸法は幅W=840mm、高さH=2,180mm、奥行D=1,880mm程度となり、価格も高価であった。なお、得られる単結晶の口径はφ3〜15mm程度、長さ150mmが可能であった。
一方、新規な単結晶を開発したり、既知の単結晶を育成して特性調査したりする場合には、必ずしも大きな単結晶は必要でなく、小さな単結晶でも可能である。むしろ、開発費や調査費の低減のためには、簡便に単結晶を育成できる装置の要求が生じてきた。大口径を望まずに、例えば、口径がφ3〜10mm程度の単結晶が育成可能な小型安価で簡便に単結晶育成が行える装置が要求されている。単結晶育成装置の小型化のためには、回転楕円面鏡61,62や、石英管73を小型化すればよいが、実装する赤外線ランプを小型化する必要がある。このような構成であっても、加熱性能を高く維持しなければならない。
装置の小型化のため、上記双楕円型の回転楕円面鏡61,62の2焦点間距離(図1でF1〜F0間距離=2F)を50mmに設定した場合、従来の単結晶を育成する場合と同様の被加熱部の加熱条件を得るためには、赤外線ランプの出力は従来の約1/2で済むことが分かった。
ただし、このようなランプ電力に設定したとしても、回転楕円面鏡61,62の反射面積が約1/4となっており、さらに赤外線ランプ63,64と回転楕円面鏡61,62の距離が接近すること、および回転楕円面鏡61,62内の空間m2の容積減少による滞留熱の上昇および対流によって、回転楕円面鏡61,62の温度が過度に上昇することが判明した。
したがって、効果的な冷却方法を採用しない限り、回転楕円面鏡61,62の材質(例えば、真鍮)と、その内面に被着された金めっき層との熱膨張係数差によって、金めっき層が回転楕円面鏡61,62の内面から剥離しやすくなるという新たな問題が生じることが分かった。
従来の単結晶育成装置60において、回転楕円面鏡61、62の冷却は、回転楕円面鏡のジャケットに冷却水を流す水冷式を採用し、更に、回転楕円面鏡61、62の第1、第2の焦点F1、F2に配置された赤外線ランプ63、64の冷却は、冷却エアーを5〜10リットル/min程度の流量にした空冷方式が行われている。しかし、単結晶育成装置を前述のように2焦点間距離50mm程度に小型化した場合は、このような冷却方式では回転楕円面鏡61,62の金めっき層の剥離を到底阻止できないことも分かった。
すなわち、双楕円型の回転楕円面鏡61、62の2焦点間距離を50mmに設定した場合、最大許容ランプ総電力についてシミュレーションしてみると、(1)回転楕円面鏡61、62のジャケットに冷却エアーを流す空冷方式を採用し、更に、回転楕円面鏡61、62の第1、第2の焦点F1、F2に配置された赤外線ランプ63、64を冷却するために5〜10リットル/min程度の冷却エアーを流した場合、使用可能となる最大許容ランプ総電力は400Wが限度であった。
また、(2)回転楕円面鏡61,62の冷却方式を水冷式とし、更に、回転楕円面鏡61、62の第1、第2の焦点F1、F2に配置された赤外線ランプ63、64を冷却するために5〜10リットル/min程度の冷却エアーを流した場合、使用可能となる最大許容ランプ総電力は1,100Wが限度であった。
これらのランプ電力では、被加熱部65の到達温度が2,000℃未満で、例えば、ルビー(Al2O3:Cr2O31%添加、融点約2,060℃)を溶融させて単結晶を育成することができない。
本発明は、単結晶育成装置を可及的に小型化して可及的に少ない電力で2,000℃以上の加熱性能を達成可能にすることを第1の目的とし、さらに、効果的な冷却方法を採用することで、回転楕円面鏡内面の過熱を防止して金めっき層などの反射層の剥離を防止し、また加熱源表面の過熱を防止してその寿命延長を図ることを第2の目的とする。
本発明の単結晶育成装置は、上記課題を解決するために、回転楕円面鏡と、この回転楕円面鏡の一方の焦点に配置された加熱源と、回転楕円面鏡の他方の焦点に配置された原料棒および種結晶棒と、この原料棒および種結晶棒を囲繞する石英管と、前記原料棒および種結晶棒をそれぞれ支持する結晶駆動軸を回転および昇降させる軸駆動手段とを有し、前記加熱源の赤外線を回転楕円面鏡で反射して他方の焦点に配置された原料棒および種結晶棒に照射して単結晶を育成する単結晶育成装置において、前記一方と他方の2焦点間距離を、41.4〜67.0mmとし、かつ、前記回転楕円面鏡の短径長径比を、0.90〜0.95としたことを特徴とする(請求項1)。
前記2焦点間距離は従来装置のほぼ半分であるが、この結果、同一の加熱性能を発揮するのに必要な赤外線ランプの出力は、従来のほぼ半分で済むことが本発明者により確認された。
また本発明は、このような小型の装置において、前記回転楕円面鏡の長径aを57.7〜80mm、短径bを52〜76mm、加熱源の総電力を1,100〜1,500Wに設定することにより、2,000℃の加熱性能を達成可能にすることを特徴とする(請求項2)。
また本発明は、小型の前記装置において、前記回転楕円面鏡が双楕円型であって、加熱源の総電力を1,100〜1,500Wに設定することにより、2,000℃の加熱性能を達成可能にすることを特徴とする(請求項3)。
また本発明は、前記回転楕円面鏡が水冷ジャケットを内蔵し、前記回転楕円面鏡の長軸方向端部に前記加熱源を回転楕円面鏡の内方空間に挿入するための加熱源挿入孔を形成し、前記加熱源挿入孔の内側の隙間部分から回転楕円面鏡の内方空間に回転楕円面鏡および加熱源冷却用の冷却気体を1.2〜2.3m3/minの流量で導入する空冷部を設けたことを特徴とする(請求項4)。
従来の冷却空気の流量はせいぜい10リットル前後であったから、本発明装置は従来の120倍〜230倍の流量であることになり、これは途方もない流量であることが理解される。従来型の単結晶育成装置では、本発明装置よりも倍以上の電力を消費しながら、冷却空気はせいぜい10リットル前後で間に合っている。本発明装置は従来の半分程度の電力しか必要としないから、通常の考えでいけば、冷却空気もそれ相応に少なくて済むと考えるのが道理である。ところが、本発明装置では、回転楕円面鏡の小型化により、小電力の加熱源を使用しても加熱効率が向上するので、従来装置の加熱性能(目標の2,000℃)を維持できる。しかしながら装置が小型化して従来装置の加熱性能を維持する結果、冷却空気の流量を従来よりも飛躍的に増やさなければならない。このように、装置の小型化と加熱効率アップの関係を見出し、そのような装置を実現する上で必要不可欠な冷却の問題をクリアしたところに本発明の斬新性があるといえる。
また、双楕円型の回転楕円面鏡の両端部に前記加熱源挿入孔が位置することにより、冷却気体がまず最初に加熱源表面を冷却し、次いで反射面に沿って流れて反射面を冷却するとともに、一部の冷却気体が直接石英管に吹付けられ、石英管を左右両側から均等に冷却する。
単結晶育成装置の小型化により石英管の内径が小さくなると、加熱されている融液からの2次輻射や、石英管に付着した蒸発物が光を吸収する事により、石英管の温度は上昇しやすくなる。石英管は600〜700℃の高温になると白濁化する性質があるので、必ず500℃以下に冷却する必要がある。この白濁化がいったん発生すると、白濁部が光を吸収するため材料への光の到達を妨げられ、石英管内部の溶融部の温度が思うように上がらず、また溶融部が周方向に均等に加熱されなくなって、良好な単結晶育成が阻害される。また、白濁した石英管は再使用することが不可能となる。本発明によれば石英管の両側が対称に冷却されるので、局部高温領域が発生せず、装置を小型化した場合でも石英管の白濁化を確実に防止することができる。なお、実験によれば、本発明のように双楕円型の回転楕円面鏡の両端部に形成した加熱源挿入孔から冷却気体を吹き込まない場合、すなわち、加熱源挿入孔以外の部分から冷却気体を吹き込むと、本発明と同じ流量だけ冷却気体を吹き込んでも、石英管の一部に白濁化が観察された。
次に、前記加熱源を含む電気系統の総消費電力を1,500W以下になるように構成することにより、以下の利点が生まれる。すなわち、わが国においては100V,15A電源で使用可能であり、200V電源や15Aを超える大口需要契約がない研究施設を始め、教育施設などにおいても、容易に単結晶育成装置の設置が可能である。同様に、外国においても、商用電源電圧および一般家庭用電流容量範囲内で使用することができる。例えば、米国では208V、20Aの範囲内で、フランスでは200V、20Aの範囲内でトランスにより入力電源を208Vおよび200Vを100Vに変換することで日本国内仕様を容易に使用することができる。
また、本発明の単結晶育成装置は、前記空冷部から回転楕円面鏡内に導入された冷却気体が回転楕円面鏡の内方空間で乱流となって、回転楕円面鏡の内面および回転楕円面鏡の内方空間に配置された加熱源を冷却するように構成したことを特徴とするものである(請求項6)。
このように構成すると、回転楕円面鏡内空間に滞留および対流する温度上昇したエアーを強制排気して、回転楕円面鏡および加熱源を効率的に冷却することができる。
また、本発明の単結晶育成装置は、前記回転楕円面鏡の水冷ジャケットに供給された冷却水がラジエータを介して循環する経路を有し、ラジエータに冷却エアーを供給することにより冷却水の温度を放熱させる、冷却水自己循環式排熱機構を装置内に備えていることを特徴とする(請求項7)。
本発明の単結晶育成装置は加熱源の省電力化を可能としたため、この簡易な循環排熱機構のみで回転楕円面鏡の冷却を可能とした。すなわち、従来の装置では装置外に高価なサーキュレーターを設置していたが、本発明では冷却水の供給配管や排水管が不要になり、設置が容易になるばかりでなく、点検時やメンテナンス時に冷却水の供給配管や排水管が邪魔になることがないし、一旦設置後のレイアウト変更などに伴う移動も容易である。
なお、前記回転楕円面鏡の2焦点間距離が41.4mm未満では、回転楕円面鏡が小さくなり過ぎて、標準的な加熱源としてのハロゲンランプ及び単結晶育成室となる石英管の配設が困難となり単結晶の育成が出来なくなる。回転楕円面鏡の2焦点間距離が67.0mmを超えると、装置の小型化および低価格化が困難になる。また、2焦点間距離が67.0mm以上であっても加熱性能はほとんど向上しない。したがって、回転楕円面鏡の2焦点間距離は41.4〜67.0mmの範囲内が望ましい。2焦点間距離がこの範囲で、短径長径比が0.90〜0.95であると、回転楕円面鏡の長径aは57.7〜80mm、短径bは52〜76mmとなる。
また、短径長径比が0.90未満では、第1,第2の焦点と共通焦点とが離れすぎて、回転楕円面鏡の形状がラグビーボール状になって、双楕円型回転楕円面鏡の光軸方向の集光性が高まる一方で、光軸を含む平面加熱試料の水平面内での不均一を招く。短径長径比が0.95を超えると、回転楕円面鏡が球形に近くなり、第1,第2の焦点と共通焦点とが近くなり過ぎて、小型の回転楕円面鏡では加熱源であるハロゲンランプおよび単結晶育成室となる石英管の配設が困難となり単結晶の育成が出来なくなる。したがって、短径長径比は0.90〜0.95の範囲内が望ましい。
以上の数値の妥当性について、図1に示すような双楕円型回転楕円面鏡61,62を想定してシミュレーションを行なった。図1で、63,64はハロゲンランプ等の赤外線ランプである。ここで、2焦点間距離F1〜F0、F2〜F0を50mmに固定し、短径長径が異なる8種類の回転楕円面鏡について、ランプ63,64にフィラメントが平板状で650Wのランプ2個と、フィラメントが円筒状で650Wのランプ2個を使用した場合に、得られる照射電力密度と照射電力を、シミュレーションで確認した。図2は、ともに直径4mmの原料棒67と種結晶棒69を示す。照射電力密度は、これら上下2つの棒67,69の間の被加熱部Mの縦方向4mmの範囲に照射される電力密度(W/mm2)である。また、照射電力は、この4mmの被加熱部Mを含む上下各25mmの範囲に照射される電力(W)である。
図3〜図5は、この短径長径比0.90〜0.95の妥当性を光学ソフトウェアを使用したシミュレーションにより検証した結果を示す。8種類の回転楕円面鏡(ミラー)61,62は、図3の左側から右側に並ぶ、S11,S2,S3,S8,S12,S13,S14,S15の順に、短径長径比が0.01ずつ大きくなっている。図4と図5において、平板650Wランプが■で、円筒650Wランプが●でプロットされる。図4では、平板ランプ、円筒ランプとも、短径長径比が大きくなるにつれて電力密度も漸増するが、S8(短径長径比0.92)から右側では変化がない。これに対して、図5では、平板ランプでS12(短径長径比0.93)をピークとし、円筒ランプでS8(短径長径比0.92)をピークとして、その両側では照射電力が漸減する。
図4から、4mmの被加熱部Mにおける照射電力密度は、短径長径比が0.92以上では変化しないことが分かる。しかし、図5から、この4mmの範囲の上下25mmの範囲では、照射電力のピークが短径長径比0.92ないし0.93である。この範囲の照射電力が多いほど、4mmの被加熱部Mの到達温度が高くなることは勿論であるから、結局、平板ランプではS12(短径長径比0.93)が最も高い加熱性能を発揮し、円筒ランプではS8(短径長径比0.92)が最も高い加熱性能を発揮することが分かる。短径長径比がこれら数値よりも大きくても小さくても加熱性能は低下する。
本発明は、2,000℃以上の加熱性能を達成可能にすることを目的とするが、さらに具体的には、ルビー(Al2O3:Cr2O31%添加、融点約2,060℃)を溶融させてルビーの単結晶を育成可能にするため、その融点である2,060℃以上の加熱性能を達成可能にすることを目的とする。そこで、図6に示すように、短径長径比がほぼ理想的な0.92であるS6〜S10、S16の回転楕円面鏡と平板650Wランプを使用して、加熱性能(照射電力密度と照射電力)のシミュレーションを行なった。回転楕円面鏡はS6からS10、S16にいくに従い、焦点距離が次第に長くなるようにしてある。このシミュレーションの結果、図7より、S8よりも右側の回転楕円面鏡で照射電力密度が2.371を上回り、S10、S16で照射電力密度に変化が無いことが確認された。照射電力密度2.371と照射電力404.5の値は、ルビーを実機で溶融させた時に実測した値である。すなわち、図6のシミュレーションによって、S8〜S10、S16の回転楕円面鏡を使用すれば、2,060℃以上の加熱性能を達成可能なことが分かった。一般的には2焦点間距離と短径長径比が加熱性能に与える影響を考慮した上で装置を小型化すれば小さな電力で高い加熱効率が得られるのであるが、焦点距離Fが33.5mm以上では加熱性能には変化が無く、焦点距離Fが33.5mm以下になると加熱性能が漸減し、S7の回転楕円面鏡(焦点距離20.67)よりも焦点距離Fが短くなると、加熱性能は急減する。従って、平板650Wランプを使用して加熱性能2,060℃を達成可能にしつつ、可及的に装置を小型化できる回転楕円面鏡は、S8〜S10であるということになる。
次に、加熱源電力(ランプ出力)の最適値について図9および図10のシミュレーションに基づき考察する。これらの図は、S8の回転楕円面鏡を使用し、フィラメントが平板状のランプの定格を350W〜950Wまで50W刻みで変化させた時の、溶融帯電力密度と到達温度の変化をシミュレーションしたものである。同図より分かるように、ランプ定格650Wと950Wを比較すると、電力は約46%増大しているのに、温度はせいぜい2.6%の上昇に過ぎない。回転楕円面鏡は金めっきを施しているので、このめっき層を剥離させないためには、冷却能力を一定とすれば、鏡の面積を増大させるか、使用電力を抑制するしかない。本発明は装置の小型化を必須とするため、目標温度を達成可能であって、かつ、定格が極力小さなランプを選択しなければならない。また、ランプ寿命を考慮した場合、定格の90%以下で使用すると平均寿命が飛躍的に延びることが知られている。したがって、目標温度をルビーが溶融する2,060℃とした場合、このようなランプ定格は550W以上必要であって、上限はせいぜい750Wで十分ということになる。750W以上のランプでは定格を増やす割には到達温度の上がり方が少なく、さらに冷却気体の流量アップが必要になるから尚更効率が悪い。また定格550W以下ではルビーを溶融する目標温度2,060℃に到達しない。ただし、550W以下でも溶融温度が1000℃程度の材料の結晶を成長させることは十分可能である。
上記の単結晶育成装置によれば、回転楕円面鏡の一方と他方の2焦点間距離を、従来のほぼ半分となる41.4〜67.0mmとし、かつ、回転楕円面鏡の短径長径比を、0.90〜0.95としたので、同一の加熱性能を発揮するのに必要な赤外線ランプの出力は、従来のほぼ半分で済むこととなった。
また本発明は、回転楕円面鏡が水冷ジャケットを内蔵し、前記回転楕円面鏡の長軸方向端部に加熱源を回転楕円面鏡の内方空間に挿入するための加熱源挿入孔を形成し、前記加熱源挿入孔の内側の隙間部分から回転楕円面鏡の内方空間に回転楕円面鏡および加熱源冷却用の冷却気体を1.2〜2.3m3/minの流量で導入する空冷部を設けたので、水冷ジャケットによる回転楕円面鏡の水冷と、空冷部によって回転楕円面鏡の反射面の空冷との協働作用によって、回転楕円面鏡を十分冷却することができ、回転楕円面鏡反射面の過度の温度上昇を防止して、回転楕円面鏡の内面から金めっき層が剥離することを防止できる。また、冷却気体で加熱源を冷却して加熱源の過度の温度上昇を防止することができるため、例えば、ハロゲンランプのハロゲンサイクルを適正に維持して、ハロゲンランプによる安定した加熱が行われるとともに、ハロゲンランプの電流導入部に存在するモリブデン箔と石英との封止部の過度の温度上昇を防止して、両者の熱膨張係数差に起因する剥離を防止し、電流導入部の気密漏れを防止することができる。
以下、本発明における単結晶育成装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。図11―1から図11−4は、加熱源に赤外線ランプを用いた双楕円型の単結晶育成装置1の全体正面図、側面図、平面図および背面図である。図12−1から図12−3は、図11−1の単結晶育成装置1における加熱炉部分の拡大縦断正面図、拡大側面図および拡大平面図、図13は図11−1の単結晶育成装置1における被加熱部の拡大縦断正面図を示す。
単結晶育成装置1は、架台部2と、加熱炉部3と、軸駆動部4とに大別される。前記架台部2は、天板部2aと、底枠部2bと、複数の脚部2cとによって枠状に形成されており、天板部2aの左右に運搬用の取手2dを備えている。
前記加熱炉部3は、フレームカバー部5と、このフレームカバー部5内に配置されている加熱炉支持部6と、加熱炉10とを備えている。フレームカバー部5は、天板部5aと、左右に開閉自在の前扉5b,5cと、この前扉5b,5cと一体になって左右の側面部の手前側を覆う側板部5d,5eと、側板部5d,5eによって覆われていない左右の側面部の残部である後方側を覆う側板部5f,5gと、背板部5hとを備えている。前記天板部5aには、後述する上軸駆動部(7)が突出する開口5iを備えている。前記左側の前扉5bは、右側の前扉5cよりも大きく、この前扉5bには、加熱炉10の被加熱部を拡大して映し出す覗き窓5jを備えている。また、左右の後方側の側板部5f,5gには、後述する空冷用の冷却エアーを取り入れる空気取入口5k,5mが設けられている。前記背板部5hには、後述するラジエータを通った使用済みエアーを排出する排出口5nが設けられている。また、加熱炉支持部6は、天板部6aと底板部6bとを複数の脚部6cによって所定間隔で支持した構成を有する。
前記軸駆動部4は、上軸駆動部7と下軸駆動部8とを備えている。上駆動部7と下駆動部8の詳細な構成については後で説明する。
加熱炉10は、真鍮などの対称形の2つの回転楕円面鏡11,12を有する。各回転楕円面鏡11,12は一方の焦点F1,F2と他方の焦点F0とを有し、各々の他方の焦点F0(図12−1参照)が一致するように対向結合させて双楕円型の加熱炉を構成している。この回転楕円面鏡11,12の内面,すなわち反射面は、赤外線を高反射率で反射させるために金めっき処理が施されている。
各回転楕円面鏡11,12の一方の焦点F1,F2付近には、加熱源の一例として、例えば、ハロゲンランプ等の赤外線ランプ13,14が固定配置してある。各回転楕円面鏡11,12の一致した他方の焦点F0には被加熱部15が位置し、この被加熱部15を囲繞するように石英管16が鉛直方向に設置されている。なお、この赤外線ランプ13,14は、電球状の石英管内にコイル状のフィラメントが2つの支持部材の間に略円筒状に張設された電球型のものでもよいし、略円筒状の石英管内にコイル状のフィラメントが2つの支持部材の間に略矩形板状に張設されたものでもよい。
この石英管16は、石英管16の内方空間m1をそれ以外の回転楕円面鏡11,12の内方空間m2と区分することによって、石英管16の内方空間m1を単結晶育成に適する雰囲気に置換し、かつ、その雰囲気状態を維持し易くするものである。一方で、各回転楕円面鏡11,12内の内方空間m2の赤外線ランプ13,14を、後述する空冷部によって石英管16の内方空間m1内の被加熱部15に影響を与えることなく冷却するのに役立つ。
各回転楕円面鏡11,12の一致した焦点F0に位置する被加熱部15では、上方から鉛直方向に延びる上結晶駆動軸17の下端に固定した原料棒18と、下方から鉛直方向に延びる下結晶駆動軸19の上端に固定された種結晶棒20とを突き合わせている。前記上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19は、それぞれ保持部材21,22に、軸受によって気密に保持され、上軸駆動部7および下軸駆動部8によって駆動される。
上軸駆動部7は、保持部材21の昇降動作をガイドする一対のガイド部材23,主軸回転モータ24,ベルト25,主軸送りモータ26,送りネジ27とを備え、前記上結晶駆動軸17を主軸回転モータ24およびベルト25によって正逆回転可能に、かつ主軸送りモータ26,送りネジ27および保持部材21によって昇降自在に支持している。また、下軸駆動部8は、保持部材22の昇降動作をガイドする一対のガイド部材28,主軸回転モータ29(図では表われていない),ベルト30,主軸送りモータ31,送りネジ32とを備え、前記下結晶駆動軸18を主軸回転モータ29およびベルト30によって正逆回転可能に、かつ主軸送りモータ31,送りネジ32および保持部材22によって昇降自在に支持している。前記上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19は、主軸送りモータ26,31の回転数によって、同期してまたは相対速度を有して昇降自在に保持されている。
また、上軸駆動部7および下軸駆動部8は、それぞれ原料棒18および種結晶棒20を支持する上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19の高さ位置をマニュアル調整する高さ位置調整手段を備えている。図示例の高さ位置調整手段は、それぞれ送りネジ27,32に螺合するローレットノブ33,34を備えており、ローレットノブ33,34によって、マニュアルで保持部材21,22の高さ位置,すなわち、上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19の高さ位置が粗動調整できるようになっている。さらに、上軸駆動部7および下軸駆動部8は、それぞれ保持部材21,22の移動経路近傍位置にリミットスイッチ35,36および37,38を備えており、それぞれ上方のリミットスイッチ35,37によって、保持部材21,22の上方限界点を検出し、それぞれ下方のリミットスイッチ36,38で保持部材21,22の下方限界点を検出して、保持部材21,22がそれ以上に上昇または下降しないようにしている。
前記回転楕円面鏡11,12には、環状の水冷ジャケット39,40が設けられており、冷却水を供給して水冷されるようになっている。この水冷ジャケット39,40に供給される冷却水は、従来の冷却水を例えば水道から供給し、水冷ジャケット39,40を出た温度上昇した冷却水を排水する使い捨て構成のものとは異なり、後述する単結晶育成装置1内を閉配管で循環させる冷却システムを構成している。
また、回転楕円面鏡11,12の長軸方向端部には、赤外線ランプ13,14を回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に挿入するための赤外線ランプ挿入孔41,42が設けられている。赤外線ランプ13,14は、この赤外線ランプ挿入孔(以下、挿入孔という)41,42から、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に挿入されており、挿入孔41,42の内縁と赤外線ランプ13,14の口金部13A,14A間には、逆凹形の隙間43,44が存在している。この隙間43,44を利用して、回転楕円面鏡11,12の内面および赤外線ランプ13,14を冷却する冷却エアーを供給する空冷部45,46が設けられている。この空冷部45,46には、カバーフレーム部5の空気取入口5mから取り入れた冷却エアーを、冷却エアー供給手段、例えばブロア47(図11−4参照)によって供給しており、空冷部45,46から前記隙間に冷却エアーが吹き付けられる。
この空冷部45,46は、図12−2、図12−3および図14Aに示すように、逆凹形の隙間43,44に対して赤外線ランプ13,14の両側の隙間43,44から分岐型の空冷部45a,45b,46a,46bにより、冷却気体、例えば冷却エアーを供給するように構成してもよいし、図14Bに示すように、逆凹形の隙間43,44に沿って一体型の空冷部45c,46cにより、冷却気体、例えば冷却エアーを供給するように構成してもよい。
また、回転楕円面鏡11,12の短軸方向中央上下端部には、石英管16の導入孔48が設けられており、導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との間に隙間が形成されている。空冷部45,46によって回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に供給された冷却エアーは、回転楕円面鏡11,12内で乱流となって、回転楕円面鏡11,12および赤外線ランプ13,14を空冷して、回転楕円面鏡11,12の導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から排出されるように構成されている。
また、前述のように、回転楕円面鏡11,12の水冷ジャケット39,40に供給された冷却水は、回転楕円面鏡11,12の熱を吸熱した後、ラジエータ49内を通って単結晶育成装置1内をクローズドシステムで循環しており、このラジエータ49には、冷却エアーが吹き付けられている。したがって、ラジエータ49を通った冷却水は、ラジエータ49で放熱され温度降下した状態で、再び、水冷ジャケット39,40に供給される。このため、冷却水は、単結晶育成装置1内をクローズドシステムで循環供給される構成であっても、回転楕円面鏡11,12を所定温度に水冷することが可能になっている。
次に、上記の単結晶育成装置1の動作について説明する。まず、回転楕円面鏡11,12の水冷ジャケット39,40に冷却水を単結晶育成装置1内のクローズドシステムで供給循環させて、ラジエータ49で放熱させることによって、回転楕円面鏡11,12を内部から水冷するとともに、ブロア47により空冷部45,46によって回転楕円面鏡11,12の隙間43,44から回転楕円面鏡11,12の内側に向かって冷却エアーを1.2〜2.3m3/minの流量でジェット状に吹き付ける。すると、この冷却エアーの吹き付けによって、赤外線ランプ13,14およびその口金部13A,14Aが冷却されるとともに、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に供給された冷却エアーが、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2で乱流となって、回転楕円面鏡11,12の内面と赤外線ランプ13,14を空冷し、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に滞留しているエアーを、回転楕円面鏡11,12の上下に設けられている石英管16の導入孔48から排出する。
そして、石英管16の内方空間m1を不活性ガス等適切な雰囲気ガスで置換した後、回転楕円面鏡11,12の一方の焦点F1,F2近傍に配置された赤外線ランプ13,14に通電して、赤外線ランプ13,14から照射される赤外線を、上記回転楕円面鏡11,12で反射させ、共通の他方の焦点F0に位置する被加熱部15に集光させて赤外線加熱する。この赤外線加熱により、被加熱部15の原料棒18の下端および種結晶棒20の上端を加熱溶融させながら、円滑に接触させることにより、図17と同様に、原料棒18と種結晶棒20間の被加熱部15に、小口径のフローティングゾーン(以下、FZという)50(図示省略)を形成させる。
そして、下端に原料棒18を固定した上結晶駆動軸17と、上端に種結晶棒20を固定した下結晶駆動軸19とを共に主軸回転モータ24,29によって回転させ(例えば、20〜30rpm)、かつ、主軸送りモータ26,31で同期してゆっくり下方に向かって移動させることによって、原料棒18と種結晶棒20間の被加熱部15に形成されたFZ50が次第に原料棒18側に移動していって、単結晶が育成される。このときのFZ50部分は、従来の単結晶育成装置の説明に用いた図17と同様である。ただし、本発明装置においては、従来の単結晶育成装置の説明に用いた図17における被加熱部65は被加熱部15に、原料棒67は原料棒18に、原料棒67側の固液界面67aは原料棒18側の固液界面18aに、種結晶棒69は種結晶棒20に、種結晶棒69側の固液界面69aは種結晶棒20側の固液界面20aに、FZ74はFZ50にそれぞれ読み替えるものとする。
このとき、赤外線ランプ13,14およびFZ50からの輻射熱および回転楕円面鏡11,12内に滞留および対流するエアーの熱伝導により回転楕円面鏡11,12および赤外線ランプ13,14の温度が上昇しようとするが、前述のように、水冷ジャケット39,40を通る冷却水による回転楕円面鏡11,12の水冷と、ブロア47により空冷部45,46から供給される冷却エアーによる空冷とによって、回転楕円面鏡11,12が冷却されるので、回転楕円面鏡11,12の温度が過度に上昇することがなく、したがって、回転楕円面鏡11,12を構成する材質(例えば、真鍮)とその内面の金めっき層との熱膨張係数差に起因して金めっき層が剥離することがない。また、空冷部45,46から供給される冷却エアーおよび回転楕円面鏡11,12の内側で生じる冷却エアーの乱流によって、赤外線ランプ13,14およびその口金部13A,14Aが冷却されるので、赤外線ランプ13,14が適当な温度、したがって、適正なハロゲンサイクルを維持して効率良く安定した赤外線を放射することができるとともに、電流導入部のモリブデン箔と石英との封止部の温度が350℃以下に保持されて、モリブデン箔と石英との熱膨張係数差に起因してこの電流導入部で気密漏れを生じることがない。
なお、万一、ブロア47や冷却水循環系の故障などに起因して、水冷および空冷に支障をきたした場合は、回転楕円面鏡11,12の水冷ジャケット39,40による水冷および空冷部45,46による空冷を行っても、回転楕円面鏡11,12や赤外線ランプ13,14およびその口金部13A,14Aを適正に冷却することができないため、回転楕円面鏡11,12の温度が上昇するが、回転楕円面鏡11,12の上部に温度過昇検出手段、例えばサーモスタット51,51を配置しておけば、回転楕円面鏡11,12の過熱状態でサーモスタット51,51が働き、赤外線ランプ13,14への供給電流をオフして、加熱を停止することができる。
なお、上記実施形態は、本発明の特定の実施形態について説明したもので、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能である。
例えば、上記の実施形態では、空冷部45,46を、回転楕円面鏡11,12の挿入孔41,42と赤外線ランプ13,14との隙間43,44から回転楕円面鏡11,12の内側に冷却エアーを導入して、石英管導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から外部に排出する場合について説明したが、上記と逆に、石英管導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から回転楕円面鏡11,12の内側に冷却エアーを導入して、回転楕円面鏡11,12の挿入孔41,42と赤外線ランプ13,14との隙間43,44から外部に排出するようにしてもよい。あるいは、回転楕円面鏡11,12の反射面に冷却エアーの吹き出し孔を設けて、この吹き出し孔から回転楕円面鏡11,12の内側に冷却エアーを導入し、挿入孔41,42部における回転楕円面鏡11,12と赤外線ランプ13,14との隙間43,44および/または石英管導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から外部に排出するようにしてもよい。
また、上記の実施形態に示したように、上結晶駆動棒17と下結晶駆動棒19との高さ位置を微調整する駆動手段を、従来装置におけるモータによる駆動系からローレットノブなどによるマニュアル調整手段とすることによって、装置の価格をさらに低減することができる利点があるが、モータによる駆動系に変更してもよい。
また、本発明は、実施形態に示した2つの回転楕円面鏡11,12を組み合わせた、所謂、双楕円型の加熱炉を備えた単結晶育成装置において、特に著しい効果を発揮するものであるが、4楕円型単結晶育成装置において実施されてもよい。
また、水冷ジャケット39,40に循環供給する冷却水は、電子冷却素子などを利用して、冷却することができる。そのような場合、水冷ジャケット39,40による冷却効果をさらに向上することができる。
次に、本発明の実施例について説明する。
(単結晶育成装置の構成)
回転楕円面鏡11,12:材質=真鍮、焦点距離F=25mm、長径a=65mm、短径b=60mm、短径長径比b/a=0.92、内面金めっき層
加熱源13,14:ハロゲンランプ、650W
石英管16:外径φ35mm、内径31mmφ、長さ185mm
原料棒18:φ4〜6mm
種結晶棒20:φ4〜6mm
主軸回転モータ24,29:速度可変モータ
主軸送りモータ26,31:速度可変モータ
ローレットノブ33,34:粗動調整範囲±15mm
水冷ジャケット39,40:冷却水流量=3〜5リットル/min
加熱源挿入孔41,42:横55mm×縦35mm
隙間43,44:幅10mm×長さ11.5mm(幅の中心位置)
空冷部45,46:加熱源の両側の隙間から冷却エアー導入、
冷却エアー流量=1.3〜2.3m3/min
ブロア47 単相、100V、0.8A
FZ50:中心部直径φ5mm、高さ6mm(原料棒、結晶口径φ6mmのとき)
装置全体(取手部分を除く)寸法:
結晶育成長50mmの場合 幅650mm×高さ915mm×奥行620mm
結晶育成長150mmの場合 幅650mm×高さ1400mm×奥行620mm
電源容量:100V、15A
以上の構成の単結晶育成装置を用いて、回転楕円面鏡11,12を水冷および空冷、赤外線ランプ13,14を空冷しながら、赤外線ランプ13,14で加熱したところ、被加熱部15に良好なFZ50が形成され、酸化アルミニウム、マンガン酸ランタン(ストロンチウム)などの巨大磁気抵抗マンガン酸化物、銅酸化物高温超伝導体、ニッケル酸ランタン、酸化ニッケル、バナジウム酸ストロンチウム、ボロカーバイド、コバルト酸ナトリウム、アクアマリン、ペリドット、スピネル、ルビー、パイロクロア、鉄酸イットリウム、チタン酸ストロンチウム、アルミ酸ランタン、ニオブ酸リチウム、フッ化カルシウム、ガリウム酸ランタン(ストロンチウム)、酸化珪素、水晶、ルテニウム酸ストロンチウム、クロム酸鉛等の単結晶を育成することができた。すべての試料は、粉末X線回折実験により、単層であり、所望の組成が得られていること、単結晶X線回折により、単結晶であることが確認された。銅酸化物高温超伝導体やボロカーバイド、ルテニウム酸ストロンチウム超伝導体は、報告通りの超伝導転移温度を示した。他の絶縁体材料も報告通りの色を示し、本発明の単結晶育成装置がこれまでのフローティングゾーン式単結晶育成装置と同等の機能を有することが実証された。
次に、本発明の単結晶育成装置を用いた、単結晶育成方法の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)酸化アルミニウム(Al2O3:Cr1%):ルビー
純度99.9%のAl2O3とCr2O3粉末を所望の組成比になるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、その混合粉末をゴム製チューブに入れ、3,000気圧の静水圧で直径φ4mmの棒状にプレス・整形した試料棒を、空気中1,300℃で6時間焼結した。焼結した試料棒を、本発明の単結晶育成装置に取り付け、ハロゲンランプ(650W×2灯)の電圧を上げていき、空気中で原料棒の温度を上昇させる。ハロゲンランプが94Vのとき、原料が溶け始め、98V、原料棒移動速度を10mm/hrで育成を行った。このようにして、ルビーの単結晶を育成することができた。ルビーの融点が2,060℃であることを考えると、本発明の単結晶育成装置で2,000℃まで温度を上昇させることが可能であることが確認できた。
(実施例2)マンガン酸ランタン(ストロンチウム)La0.85Sr0.15MnO3
純度99.9%のLa2O3、SrCO3、MnO粉末を、所望の組成比になるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、空気中900℃で12時間仮焼き後、得られた材料を粉砕し再度混合し、空気中1,400℃で焼結した。焼結したLa0.85Sr0.15MnO3粉末を、ゴム製チューブに入れ、3,000気圧の静水圧で直径φ4mmの棒状にプレス・整形する。整形した試料棒を、空気中1,400℃で6時間焼成した。焼結した原料棒を本発明の単結晶育成装置に取り付け、ハロゲンランプ(650W×2灯)の電圧を上げていき、空気中で原料棒の温度を上昇させる。ハロゲンランプが74Vのとき、原料が溶け始め、78Vで育成を行った。原料棒移動速度を8mm/hrとした。得られた単結晶は、粉末X線回折、単結晶X線回折実験で単層の単結晶であることが確認できた。SQUID磁束計を用いて、強磁性転移もこれまでの報告と同じ温度で確認することができた。このようにして、マンガン酸ランタン(ストロンチウム)La0.85Sr0.15MnO3の単結晶を育成することができた。
(実施例3)ルテニウム酸ストロンチウムSr2RuO4
純度99.9%の炭酸ストロンチウム粉末と二酸化ルテニウム粉末を所望の組成比で混合し、空気中900℃で仮焼きし、その粉末をゴム製チューブに入れ、3,000気圧の静水圧で直径φ4mmの棒状にプレス・整形し、整形した試料棒を、空気中1,200℃で6時間焼結した。焼結した原料棒を本発明の単結晶育成装置に取り付け、ハロゲンランプ(650W×2灯)の電圧を上げていき、空気中で原料棒の温度を上昇させる。ハロゲンランプが93Vのとき、原料棒が溶け始め、95Vで育成を行った。原料棒移動速度を30mm/hrとした。得られた単結晶は、粉末X線回折、単結晶X線回折実験で単層の単結晶であることが確認できた。
以上のいずれの実施例においても、回転楕円面鏡11,12の金めっき層の剥離や剥離の前兆となる膨らみは認められなかった。また、赤外線ランプ13,14の電流導入部は350℃以下に保持され、石英とモリブデン箔との封止部において石英とモリブデン箔との剥離に起因する気密漏れは認められなかった。これに対して、冷却エアーを1.2〜2.3m3/minの流量で回転楕円面鏡の内側に供給する空冷部45,46を設けないで、従来のように回転楕円面鏡は水冷し、ハロゲンランプの冷却のために回転楕円面鏡内に冷却エアーの流量を5〜10リットル/minに設定した比較例の場合は、回転楕円面鏡11,12の内面温度は100℃を越え、金めっき層の剥離ないしふくらみが生じて剥離の危惧があった。また、赤外線ランプ13,14の電流導入部の温度は350℃以上に上昇し、モリブデン箔と石英との封止部からの気密漏れが生じ、赤外線ランプは破損した。
本発明に係る単結晶育成装置に使用する双楕円型回転楕円面鏡の断面図である。
原料棒と種結晶棒の側面図である。
短径長径比の妥当性を検証するシミュレーションの結果を示す表。
短径長径比の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
短径長径比の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
焦点距離の妥当性を検証するシミュレーションの結果を示す表。
焦点距離の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
焦点距離の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
加熱源電力の妥当性を検証するシミュレーションの結果を示す表。
加熱源電力の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
本発明の実施形態の単結晶育成装置の正面図である。
図11−1の単結晶育成装置の右側面図である。
図11−1の単結晶育成装置の平面図である。
図11−1の単結晶育成装置の背面図である。
図11−1に示す本発明の単結晶育成装置のにおける加熱炉の縦断正面図である。
図12−1に示す加熱炉の左側面図である。
図12−1に示す加熱炉の平面図である。
図11−1の単結晶育成装置における被加熱部の拡大縦断正面図である。
本発明の単結晶育成装置における空冷部の冷却エアー吹き付け状態の側面図である。
本発明の単結晶育成装置における空冷部の冷却エアー吹き付け状態の異なる例の側面図である。
従来の単結晶育成装置における縦断正面図である。
図15の単結晶育成装置におけるA−A線に沿った横断面図である。
図15の単結晶育成装置における被加熱部の拡大正面図である。
本発明は単結晶育成装置に関し、詳しくは、赤外線集中加熱方式のフローティングゾーン法により単結晶を育成する装置を、回転楕円面鏡の温度過昇を防止するようにして小型化した単結晶育成装置に関するものである。
単結晶を育成する場合、フローティングゾーン式の単結晶育成装置を用いることは公知である(特許文献1参照)。
このフローティングゾーン式の単結晶育成装置の一例を、図15に示す。図15は、熱源にハロゲンランプを用いた双楕円型の単結晶育成装置60の縦断正面図で、図16は図15のA−A線に沿う横断面図を示し、図17は被加熱部の拡大正面図を示す。
単結晶育成装置60は、対称形の2つの回転楕円面鏡61,62を有し、各々の一方の焦点F0,F0が一致するように対向結合させて加熱炉を構成する。この回転楕円面鏡61,62の内面、すなわち反射面は、赤外線を高反射率で反射させるために金めっき処理が施されている。各回転楕円面鏡61,62の他方の焦点F1,F2付近には、加熱源、例えば、ハロゲンランプ等の赤外線ランプ63,64が固定配置してある。各回転楕円面鏡61,62の一致した焦点F0には被加熱部65が位置し、上方から鉛直方向に延びる上結晶駆動軸66の下端に固定した原料棒67と、下方から鉛直方向に延びる下結晶駆動軸68の上端に固定された種結晶棒69とを突き合わせてある。前記上結晶駆動軸66および下結晶駆動軸68は、図示するように、保持部材70,71によって気密に保持され、図示しないサーボモータ等の駆動モータで回転自在、かつ、同期または相対速度を有して昇降自在に保持されている。
前記原料棒67および種結晶棒69が配置された空間m1を、赤外線ランプ63,64が配置された空間m2と区画して、単結晶育成室72を形成する透明な石英管73を設けて、上記単結晶育成室72に結晶育成に対して好適な不活性ガス等を充満させ、一方、赤外線ランプ63,64を安全に点灯させるために、赤外線ランプ63,64を空冷する。
このように、回転楕円面鏡61,62内において、石英管73によって限定された空間m1を単結晶育成室72とすることにより、石英管73を設けないで回転楕円面鏡61,62からなる加熱炉全体を単結晶育成室とする場合に比較して、単結晶育成室72の容積が格段に小さくなり、したがって、この単結晶育成室72を短時間で所定の単結晶育成雰囲気に置換でき、かつ、その雰囲気状態を容易に維持できる。
前記の単結晶育成装置60によれば、回転楕円面鏡61,62の第1,第2の焦点F1,F2に配置された赤外線ランプ63,64から照射される赤外線を、上記回転楕円面鏡61,62で反射させ、共通の焦点F0に位置する被加熱部65に集光させて赤外線加熱する。この赤外線加熱による輻射エネルギーにより、被加熱部65の原料棒67の下端および種結晶棒69の上端を加熱溶融させながら、円滑に接触させることにより、図17に示すように、原料棒67と種結晶棒69間の被加熱部65にフローティングゾーン74を形成させる。
そして、下端に原料棒67を固定した上結晶駆動軸66と上端に種結晶棒69を固定した下結晶駆動軸68とを共に回転させ、かつ、同期または相対速度を有してゆっくり下方に向かって移動させることによって、原料棒67と種結晶棒69間のフローティングゾーン74が次第に原料棒67側に移動していって、結晶が成長していき単結晶が育成される。なお、図17における67aは原料棒67側の固液界面を示し、69aは種結晶棒69側の固液界面を示している。
このようなフローティングゾーン式の単結晶育成装置60を用いれば、ハロゲンランプ等の赤外線ランプ63,64から照射される赤外線を、上記回転楕円面鏡61,62の全面で反射させ、共通の焦点F0に位置する被加熱部65に集光させて赤外線加熱するので、比較的低出力の小型の赤外線ランプ63,64で、被加熱部65を高温度に加熱できるのみならず、赤外線ランプ63,64の入力電力を制御することで、被加熱部65の温度を容易かつ確実に制御できる。
また、原料棒67および種結晶棒69の融液が他の物質に接触しないフローティング状態で単結晶が育成できるので、坩堝式単結晶育成に比較して坩堝から溶出する不純物によって育成される単結晶の純度を低下させることがなく、高純度の単結晶を容易に育成することができる。
特公平5−34317号公報(第2欄第7行〜第3欄第2行、第1図)
従来の単結晶育成装置60においては、一般的に回転楕円面鏡61,62の長径a=117mm、短径b=108mm程度のものを使用しており(短径長径比=0.92、長径aと短径bについては図1参照)、結晶成長量を150mmとすると、装置寸法は幅W=840mm、高さH=2,180mm、奥行D=1,880mm程度となり、価格も高価であった。なお、得られる単結晶の口径はφ3〜15mm程度、長さ150mmが可能であった。
一方、新規な単結晶を開発したり、既知の単結晶を育成して特性調査したりする場合には、必ずしも大きな単結晶は必要でなく、小さな単結晶でも可能である。むしろ、開発費や調査費の低減のためには、簡便に単結晶を育成できる装置の要求が生じてきた。大口径を望まずに、例えば、口径がφ3〜10mm程度の単結晶が育成可能な小型安価で簡便に単結晶育成が行える装置が要求されている。単結晶育成装置の小型化のためには、回転楕円面鏡61,62や、石英管73を小型化すればよいが、実装する赤外線ランプを小型化する必要がある。このような構成であっても、加熱性能を高く維持しなければならない。
装置の小型化のため、上記双楕円型の回転楕円面鏡61,62の2焦点間距離(図1でF1〜F0間距離=2F)を50mmに設定した場合、従来の単結晶を育成する場合と同様の被加熱部の加熱条件を得るためには、赤外線ランプの出力は従来の約1/2で済むことが分かった。
ただし、このようなランプ電力に設定したとしても、回転楕円面鏡61,62の反射面積が約1/4となっており、さらに赤外線ランプ63,64と回転楕円面鏡61,62の距離が接近すること、および回転楕円面鏡61,62内の空間m2の容積減少による滞留熱の上昇および対流によって、回転楕円面鏡61,62の温度が過度に上昇することが判明した。
したがって、効果的な冷却方法を採用しない限り、回転楕円面鏡61,62の材質(例えば、真鍮)と、その内面に被着された金めっき層との熱膨張係数差によって、金めっき層が回転楕円面鏡61,62の内面から剥離しやすくなるという新たな問題が生じることが分かった。
従来の単結晶育成装置60において、回転楕円面鏡61、62の冷却は、回転楕円面鏡のジャケットに冷却水を流す水冷式を採用し、更に、回転楕円面鏡61、62の第1、第2の焦点F1、F2に配置された赤外線ランプ63、64の冷却は、冷却エアーを5〜10リットル/min程度の流量にした空冷方式が行われている。しかし、単結晶育成装置を前述のように2焦点間距離50mm程度に小型化した場合は、このような冷却方式では回転楕円面鏡61,62の金めっき層の剥離を到底阻止できないことも分かった。
すなわち、双楕円型の回転楕円面鏡61、62の2焦点間距離を50mmに設定した場合、最大許容ランプ総電力についてシミュレーションしてみると、(1)回転楕円面鏡61、62のジャケットに冷却エアーを流す空冷方式を採用し、更に、回転楕円面鏡61、62の第1、第2の焦点F1、F2に配置された赤外線ランプ63、64を冷却するために5〜10リットル/min程度の冷却エアーを流した場合、使用可能となる最大許容ランプ総電力は400Wが限度であった。
また、(2)回転楕円面鏡61,62の冷却方式を水冷式とし、更に、回転楕円面鏡61、62の第1、第2の焦点F1、F2に配置された赤外線ランプ63、64を冷却するために5〜10リットル/min程度の冷却エアーを流した場合、使用可能となる最大許容ランプ総電力は1,100Wが限度であった。
これらのランプ電力では、被加熱部65の到達温度が2,000℃未満で、例えば、ルビー(Al2O3:Cr2O31%添加、融点約2,060℃)を溶融させて単結晶を育成することができない。
本発明は、単結晶育成装置を可及的に小型化して可及的に少ない電力で2,000℃以上の加熱性能を達成可能にすることを第1の目的とし、さらに、効果的な冷却方法を採用することで、回転楕円面鏡内面の過熱を防止して金めっき層などの反射層の剥離を防止し、また加熱源表面の過熱を防止してその寿命延長を図ることを第2の目的とする。
本発明の単結晶育成装置は、上記課題を解決するために、回転楕円面鏡と、この回転楕円面鏡の一方の焦点に配置された加熱源と、回転楕円面鏡の他方の焦点に配置された原料棒および種結晶棒と、この原料棒および種結晶棒を囲繞する石英管と、前記原料棒および種結晶棒をそれぞれ支持する結晶駆動軸を回転および昇降させる軸駆動手段とを有し、前記加熱源の赤外線を回転楕円面鏡で反射して他方の焦点に配置された原料棒および種結晶棒に照射して単結晶を育成する単結晶育成装置において、前記一方と他方の2焦点間距離を、41.4〜67.0mmとし、かつ、前記回転楕円面鏡の短径長径比を、0.90〜0.95としたことを特徴とする(請求項1)。
前記2焦点間距離は従来装置のほぼ半分であるが、この結果、同一の加熱性能を発揮するのに必要な赤外線ランプの出力は、従来のほぼ半分で済むことが本発明者により確認された。
また本発明は、このような小型の装置において、前記回転楕円面鏡の長径aを57.7〜80mm、短径bを52〜76mm、加熱源の総電力を1,100〜1,500Wに設定することにより、2,000℃の加熱性能を達成可能にすることを特徴とする(請求項2)。
また本発明は、小型の前記装置において、前記回転楕円面鏡が双楕円型であって、加熱源の総電力を1,100〜1,500Wに設定することにより、2,000℃の加熱性能を達成可能にすることを特徴とする(請求項3)。
また本発明は、前記回転楕円面鏡が水冷ジャケットを内蔵し、前記回転楕円面鏡の長軸方向端部に前記加熱源を回転楕円面鏡の内方空間に挿入するための加熱源挿入孔を形成し、前記加熱源挿入孔の内側の隙間部分から回転楕円面鏡の内方空間に回転楕円面鏡および加熱源冷却用の冷却気体を1.2〜2.3m3/minの流量で導入する空冷部を設けたことを特徴とする(請求項4)。
従来の冷却空気の流量はせいぜい10リットル/分であったから、本発明装置は従来の120倍〜230倍の流量であることになり、これは途方もない流量であることが理解される。従来型の単結晶育成装置では、本発明装置よりも倍以上の電力を消費しながら、冷却空気はせいぜい10リットル前後で間に合っている。本発明装置は従来の半分程度の電力しか必要としないから、通常の考えでいけば、冷却空気もそれ相応に少なくて済むと考えるのが道理である。ところが、本発明装置では、回転楕円面鏡の小型化により、小電力の加熱源を使用しても加熱効率が向上するので、従来装置の加熱性能(目標の2,000℃)を維持できる。しかしながら装置が小型化して従来装置の加熱性能を維持する結果、冷却空気の流量を従来よりも飛躍的に増やさなければならない。このように、装置の小型化と加熱効率アップの関係を見出し、そのような装置を実現する上で必要不可欠な冷却の問題をクリアしたところに本発明の斬新性があるといえる。
また、双楕円型の回転楕円面鏡の両端部に前記加熱源挿入孔が位置することにより、冷却気体がまず最初に加熱源表面を冷却し、次いで反射面に沿って流れて反射面を冷却するとともに、一部の冷却気体が直接石英管に吹付けられ、石英管を左右両側から均等に冷却する。
単結晶育成装置の小型化により石英管の内径が小さくなると、加熱されている融液からの2次輻射や、石英管に付着した蒸発物が光を吸収する事により、石英管の温度は上昇しやすくなる。石英管は600〜700℃の高温になると白濁化する性質があるので、必ず500℃以下に冷却する必要がある。この白濁化がいったん発生すると、白濁部が光を吸収するため材料への光の到達を妨げられ、石英管内部の溶融部の温度が思うように上がらず、また溶融部が周方向に均等に加熱されなくなって、良好な単結晶育成が阻害される。また、白濁した石英管は再使用することが不可能となる。本発明によれば石英管の両側が対称に冷却されるので、局部高温領域が発生せず、装置を小型化した場合でも石英管の白濁化を確実に防止することができる。なお、実験によれば、本発明のように双楕円型の回転楕円面鏡の両端部に形成した加熱源挿入孔から冷却気体を吹き込まない場合、すなわち、加熱源挿入孔以外の部分から冷却気体を吹き込むと、本発明と同じ流量だけ冷却気体を吹き込んでも、石英管の一部に白濁化が観察された。
次に、前記加熱源を含む電気系統の総消費電力を1,500W以下になるように構成することにより、以下の利点が生まれる。すなわち、わが国においては100V,15A電源で使用可能であり、200V電源や15Aを超える大口需要契約がない研究施設を始め、教育施設などにおいても、容易に単結晶育成装置の設置が可能である。同様に、外国においても、商用電源電圧および一般家庭用電流容量範囲内で使用することができる。例えば、米国では208V、20Aの範囲内で、フランスでは200V、20Aの範囲内でトランスにより入力電源を208Vおよび200Vを100Vに変換することで日本国内仕様を容易に使用することができる。
また、本発明の単結晶育成装置は、前記空冷部から回転楕円面鏡内に導入された冷却気体が回転楕円面鏡の内方空間で乱流となって、回転楕円面鏡の内面および回転楕円面鏡の内方空間に配置された加熱源を冷却するように構成したことを特徴とするものである(請求項6)。
このように構成すると、回転楕円面鏡内空間に滞留および対流する温度上昇したエアーを強制排気して、回転楕円面鏡および加熱源を効率的に冷却することができる。
また、本発明の単結晶育成装置は、前記回転楕円面鏡の水冷ジャケットに供給された冷却水がラジエータを介して循環する経路を有し、ラジエータに冷却エアーを供給することにより冷却水の温度を放熱させる、冷却水自己循環式排熱機構を装置内に備えていることを特徴とする(請求項7)。
本発明の単結晶育成装置は加熱源の省電力化を可能としたため、この簡易な循環排熱機構のみで回転楕円面鏡の冷却を可能とした。すなわち、従来の装置では装置外に高価なサーキュレーターを設置していたが、本発明では冷却水の供給配管や排水管が不要になり、設置が容易になるばかりでなく、点検時やメンテナンス時に冷却水の供給配管や排水管が邪魔になることがないし、一旦設置後のレイアウト変更などに伴う移動も容易である。
なお、前記回転楕円面鏡の2焦点間距離が41.4mm未満では、回転楕円面鏡が小さくなり過ぎて、標準的な加熱源としてのハロゲンランプ及び単結晶育成室となる石英管の配設が困難となり単結晶の育成が出来なくなる。回転楕円面鏡の2焦点間距離が67.0mmを超えると、装置の小型化および低価格化が困難になる。また、2焦点間距離が67.0mm以上であっても加熱性能はほとんど向上しない。したがって、回転楕円面鏡の2焦点間距離は41.4〜67.0mmの範囲内が望ましい。2焦点間距離がこの範囲で、短径長径比が0.90〜0.95であると、回転楕円面鏡の長径aは57.7〜80mm、短径bは52〜76mmとなる。
また、短径長径比が0.90未満では、第1,第2の焦点と共通焦点とが離れすぎて、回転楕円面鏡の形状がラグビーボール状になって、双楕円型回転楕円面鏡の光軸方向の集光性が高まる一方で、光軸を含む
水平面内での加熱試料の不均一を招く。短径長径比が0.95を超えると、回転楕円面鏡が球形に近くなり、第1,第2の焦点と共通焦点とが近くなり過ぎて、小型の回転楕円面鏡では加熱源であるハロゲンランプおよび単結晶育成室となる石英管の配設が困難となり単結晶の育成が出来なくなる。したがって、短径長径比は0.90〜0.95の範囲内が望ましい。
以上の数値の妥当性について、図1に示すような双楕円型回転楕円面鏡61,62を想定してシミュレーションを行なった。図1で、63,64はハロゲンランプ等の赤外線ランプである。ここで、2焦点間距離F1〜F0、F2〜F0を50mmに固定し、短径長径が異なる8種類の回転楕円面鏡について、ランプ63,64にフィラメントが平板状で650Wのランプ2個と、フィラメントが円筒状で650Wのランプ2個を使用した場合に、得られる照射電力密度と照射電力を、シミュレーションで確認した。図2は、ともに直径4mmの原料棒67と種結晶棒69を示す。照射電力密度は、これら上下2つの棒67,69の間の被加熱部Mの縦方向4mmの範囲に照射される電力密度(W/mm2)である。また、照射電力は、この4mmの被加熱部Mを含む上下各25mmの範囲に照射される電力(W)である。
図3〜図5は、この短径長径比0.90〜0.95の妥当性を光学ソフトウェアを使用したシミュレーションにより検証した結果を示す。8種類の回転楕円面鏡(ミラー)61,62は、図3の左側から右側に並ぶ、S11,S2,S3,S8,S12,S13,S14,S15の順に、短径長径比が0.01ずつ大きくなっている。図4と図5において、平板650Wランプが■で、円筒650Wランプが●でプロットされる。図4では、平板ランプ、円筒ランプとも、短径長径比が大きくなるにつれて電力密度も漸増するが、S8(短径長径比0.92)から右側では変化がない。これに対して、図5では、平板ランプでS12(短径長径比0.93)をピークとし、円筒ランプでS8(短径長径比0.92)をピークとして、その両側では照射電力が漸減する。
図4から、4mmの被加熱部Mにおける照射電力密度は、短径長径比が0.92以上では変化しないことが分かる。しかし、図5から、この4mmの範囲の上下25mmの範囲では、照射電力のピークが短径長径比0.92ないし0.93である。この範囲の照射電力が多いほど、4mmの被加熱部Mの到達温度が高くなることは勿論であるから、結局、平板ランプではS12(短径長径比0.93)が最も高い加熱性能を発揮し、円筒ランプではS8(短径長径比0.92)が最も高い加熱性能を発揮することが分かる。短径長径比がこれら数値よりも大きくても小さくても加熱性能は低下する。
本発明は、2,000℃以上の加熱性能を達成可能にすることを目的とするが、さらに具体的には、ルビー(Al2O3:Cr2O31%添加、融点約2,060℃)を溶融させてルビーの単結晶を育成可能にするため、その融点である2,060℃以上の加熱性能を達成可能にすることを目的とする。そこで、図6に示すように、短径長径比がほぼ理想的な0.92であるS6〜S10、S16の回転楕円面鏡と平板650Wランプを使用して、加熱性能(照射電力密度と照射電力)のシミュレーションを行なった。回転楕円面鏡はS6からS10、S16にいくに従い、焦点距離が次第に長くなるようにしてある。このシミュレーションの結果、図7より、S8よりも右側の回転楕円面鏡で照射電力密度が2.371を上回り、S10、S16で照射電力密度に変化が無いことが確認された。照射電力密度2.371と照射電力404.5の値は、ルビーを実機で溶融させた時に実測した値である。すなわち、図6のシミュレーションによって、S8〜S10、S16の回転楕円面鏡を使用すれば、2,060℃以上の加熱性能を達成可能なことが分かった。一般的には2焦点間距離と短径長径比が加熱性能に与える影響を考慮した上で装置を小型化すれば小さな電力で高い加熱効率が得られるのであるが、焦点距離Fが33.5mm以上では加熱性能には変化が無く、焦点距離Fが33.5mm以下になると加熱性能が漸減し、S7の回転楕円面鏡(焦点距離20.67)よりも焦点距離Fが短くなると、加熱性能は急減する。従って、平板650Wランプを使用して加熱性能2,060℃を達成可能にしつつ、可及的に装置を小型化できる回転楕円面鏡は、S8〜S10であるということになる。
次に、加熱源電力(ランプ出力)の最適値について図9および図10のシミュレーションに基づき考察する。これらの図は、S8の回転楕円面鏡を使用し、フィラメントが平板状のランプの定格を350W〜950Wまで50W刻みで変化させた時の、溶融帯電力密度と到達温度の変化をシミュレーションしたものである。同図より分かるように、ランプ定格650Wと950Wを比較すると、電力は約46%増大しているのに、温度はせいぜい2.6%の上昇に過ぎない。回転楕円面鏡は金めっきを施しているので、このめっき層を剥離させないためには、冷却能力を一定とすれば、鏡の面積を増大させるか、使用電力を抑制するしかない。本発明は装置の小型化を必須とするため、目標温度を達成可能であって、かつ、定格が極力小さなランプを選択しなければならない。また、ランプ寿命を考慮した場合、定格の90%以下で使用すると平均寿命が飛躍的に延びることが知られている。したがって、目標温度をルビーが溶融する2,060℃とした場合、このようなランプ定格は550W以上必要であって、上限はせいぜい750Wで十分ということになる。750W以上のランプでは定格を増やす割には到達温度の上がり方が少なく、さらに冷却気体の流量アップが必要になるから尚更効率が悪い。また定格550W以下ではルビーを溶融する目標温度2,060℃に到達しない。ただし、550W以下でも溶融温度が1000℃程度の材料の結晶を成長させることは十分可能である。
上記の単結晶育成装置によれば、回転楕円面鏡の一方と他方の2焦点間距離を、従来のほぼ半分となる41.4〜67.0mmとし、かつ、回転楕円面鏡の短径長径比を、0.90〜0.95としたので、同一の加熱性能を発揮するのに必要な赤外線ランプの出力は、従来のほぼ半分で済むこととなった。
また本発明は、回転楕円面鏡が水冷ジャケットを内蔵し、前記回転楕円面鏡の長軸方向端部に加熱源を回転楕円面鏡の内方空間に挿入するための加熱源挿入孔を形成し、前記加熱源挿入孔の内側の隙間部分から回転楕円面鏡の内方空間に回転楕円面鏡および加熱源冷却用の冷却気体を1.2〜2.3m3/minの流量で導入する空冷部を設けたので、水冷ジャケットによる回転楕円面鏡の水冷と、空冷部によって回転楕円面鏡の反射面の空冷との協働作用によって、回転楕円面鏡を十分冷却することができ、回転楕円面鏡反射面の過度の温度上昇を防止して、回転楕円面鏡の内面から金めっき層が剥離することを防止できる。また、冷却気体で加熱源を冷却して加熱源の過度の温度上昇を防止することができるため、例えば、ハロゲンランプのハロゲンサイクルを適正に維持して、ハロゲンランプによる安定した加熱が行われるとともに、ハロゲンランプの電流導入部に存在するモリブデン箔と石英との封止部の過度の温度上昇を防止して、両者の熱膨張係数差に起因する剥離を防止し、電流導入部の気密漏れを防止することができる。
以下、本発明における単結晶育成装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。図11ッ1から図11−4は、加熱源に赤外線ランプを用いた双楕円型の単結晶育成装置1の全体正面図、側面図、平面図および背面図である。図12−1から図12−3は、図11−1の単結晶育成装置1における加熱炉部分の拡大縦断正面図、拡大側面図および拡大平面図、図13は図11−1の単結晶育成装置1における被加熱部の拡大縦断正面図を示す。
単結晶育成装置1は、架台部2と、加熱炉部3と、軸駆動部4とに大別される。前記架台部2は、天板部2aと、底枠部2bと、複数の脚部2cとによって枠状に形成されており、天板部2aの左右に運搬用の取手2dを備えている。
前記加熱炉部3は、フレームカバー部5と、このフレームカバー部5内に配置されている加熱炉支持部6と、加熱炉10とを備えている。フレームカバー部5は、天板部5aと、左右に開閉自在の前扉5b,5cと、この前扉5b,5cと一体になって左右の側面部の手前側を覆う側板部5d,5eと、側板部5d,5eによって覆われていない左右の側面部の残部である後方側を覆う側板部5f,5gと、背板部5hとを備えている。前記天板部5aには、後述する上軸駆動部(7)が突出する開口5iを備えている。前記左側の前扉5bは、右側の前扉5cよりも大きく、この前扉5bには、加熱炉10の被加熱部を拡大して映し出す覗き窓5jを備えている。また、左右の後方側の側板部5f,5gには、後述する空冷用の冷却エアーを取り入れる空気取入口5k,5mが設けられている。前記背板部5hには、後述するラジエータを通った使用済みエアーを排出する排出口5nが設けられている。また、加熱炉支持部6は、天板部6aと底板部6bとを複数の脚部6cによって所定間隔で支持した構成を有する。
前記軸駆動部4は、上軸駆動部7と下軸駆動部8とを備えている。上駆動部7と下駆動部8の詳細な構成については後で説明する。
加熱炉10は、真鍮などの対称形の2つの回転楕円面鏡11,12を有する。各回転楕円面鏡11,12は一方の焦点F1,F2と他方の焦点F0とを有し、各々の他方の焦点F0(図12−1参照)が一致するように対向結合させて双楕円型の加熱炉を構成している。この回転楕円面鏡11,12の内面,すなわち反射面は、赤外線を高反射率で反射させるために金めっき処理が施されている。
各回転楕円面鏡11,12の一方の焦点F1,F2付近には、加熱源の一例として、例えば、ハロゲンランプ等の赤外線ランプ13,14が固定配置してある。各回転楕円面鏡11,12の一致した他方の焦点F0には被加熱部15が位置し、この被加熱部15を囲繞するように石英管16が鉛直方向に設置されている。なお、この赤外線ランプ13,14は、電球状の石英管内にコイル状のフィラメントが2つの支持部材の間に略円筒状に張設された電球型のものでもよいし、略円筒状の石英管内にコイル状のフィラメントが2つの支持部材の間に略矩形板状に張設されたものでもよい。
この石英管16は、石英管16の内方空間m1をそれ以外の回転楕円面鏡11,12の内方空間m2と区分することによって、石英管16の内方空間m1を単結晶育成に適する雰囲気に置換し、かつ、その雰囲気状態を維持し易くするものである。一方で、各回転楕円面鏡11,12内の内方空間m2の赤外線ランプ13,14を、後述する空冷部によって石英管16の内方空間m1内の被加熱部15に影響を与えることなく冷却するのに役立つ。
各回転楕円面鏡11,12の一致した焦点F0に位置する被加熱部15では、上方から鉛直方向に延びる上結晶駆動軸17の下端に固定した原料棒18と、下方から鉛直方向に延びる下結晶駆動軸19の上端に固定された種結晶棒20とを突き合わせている。前記上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19は、それぞれ保持部材21,22に、軸受によって気密に保持され、上軸駆動部7および下軸駆動部8によって駆動される。
上軸駆動部7は、保持部材21の昇降動作をガイドする一対のガイド部材23,主軸回転モータ24,ベルト25,主軸送りモータ26,送りネジ27とを備え、前記上結晶駆動軸17を主軸回転モータ24およびベルト25によって正逆回転可能に、かつ主軸送りモータ26,送りネジ27および保持部材21によって昇降自在に支持している。また、下軸駆動部8は、保持部材22の昇降動作をガイドする一対のガイド部材28,主軸回転モータ29(図では表われていない),ベルト30,主軸送りモータ31,送りネジ32とを備え、前記下結晶駆動軸18を主軸回転モータ29およびベルト30によって正逆回転可能に、かつ主軸送りモータ31,送りネジ32および保持部材22によって昇降自在に支持している。前記上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19は、主軸送りモータ26,31の回転数によって、同期してまたは相対速度を有して昇降自在に保持されている。
また、上軸駆動部7および下軸駆動部8は、それぞれ原料棒18および種結晶棒20を支持する上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19の高さ位置をマニュアル調整する高さ位置調整手段を備えている。図示例の高さ位置調整手段は、それぞれ送りネジ27,32に螺合するローレットノブ33,34を備えており、ローレットノブ33,34によって、マニュアルで保持部材21,22の高さ位置,すなわち、上結晶駆動軸17および下結晶駆動軸19の高さ位置が粗動調整できるようになっている。さらに、上軸駆動部7および下軸駆動部8は、それぞれ保持部材21,22の移動経路近傍位置にリミットスイッチ35,36および37,38を備えており、それぞれ上方のリミットスイッチ35,37によって、保持部材21,22の上方限界点を検出し、それぞれ下方のリミットスイッチ36,38で保持部材21,22の下方限界点を検出して、保持部材21,22がそれ以上に上昇または下降しないようにしている。
前記回転楕円面鏡11,12には、環状の水冷ジャケット39,40が設けられており、冷却水を供給して水冷されるようになっている。この水冷ジャケット39,40に供給される冷却水は、従来の冷却水を例えば水道から供給し、水冷ジャケット39,40を出た温度上昇した冷却水を排水する使い捨て構成のものとは異なり、後述する単結晶育成装置1内を閉配管で循環させる冷却システムを構成している。
また、回転楕円面鏡11,12の長軸方向端部には、赤外線ランプ13,14を回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に挿入するための赤外線ランプ挿入孔41,42が設けられている。赤外線ランプ13,14は、この赤外線ランプ挿入孔(以下、挿入孔という)41,42から、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に挿入されており、挿入孔41,42の内縁と赤外線ランプ13,14の口金部13A,14A間には、逆凹形の隙間43,44が存在している。この隙間43,44を利用して、回転楕円面鏡11,12の内面および赤外線ランプ13,14を冷却する冷却エアーを供給する空冷部45,46が設けられている。この空冷部45,46には、カバーフレーム部5の空気取入口5mから取り入れた冷却エアーを、冷却エアー供給手段、例えばブロア47(図11−4参照)によって供給しており、空冷部45,46から前記隙間に冷却エアーが吹き付けられる。
この空冷部45,46は、図12−2、図12−3および図14Aに示すように、逆凹形の隙間43,44に対して赤外線ランプ13,14の両側の隙間43,44から分岐型の空冷部45a,45b,46a,46bにより、冷却気体、例えば冷却エアーを供給するように構成してもよいし、図14Bに示すように、逆凹形の隙間43,44に沿って一体型の空冷部45c,46cにより、冷却気体、例えば冷却エアーを供給するように構成してもよい。
また、回転楕円面鏡11,12の短軸方向中央上下端部には、石英管16の導入孔48が設けられており、導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との間に隙間が形成されている。空冷部45,46によって回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に供給された冷却エアーは、回転楕円面鏡11,12内で乱流となって、回転楕円面鏡11,12および赤外線ランプ13,14を空冷して、回転楕円面鏡11,12の導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から排出されるように構成されている。
また、前述のように、回転楕円面鏡11,12の水冷ジャケット39,40に供給された冷却水は、回転楕円面鏡11,12の熱を吸熱した後、ラジエータ49内を通って単結晶育成装置1内をクローズドシステムで循環しており、このラジエータ49には、冷却エアーが吹き付けられている。したがって、ラジエータ49を通った冷却水は、ラジエータ49で放熱され温度降下した状態で、再び、水冷ジャケット39,40に供給される。このため、冷却水は、単結晶育成装置1内をクローズドシステムで循環供給される構成であっても、回転楕円面鏡11,12を所定温度に水冷することが可能になっている。
次に、上記の単結晶育成装置1の動作について説明する。まず、回転楕円面鏡11,12の水冷ジャケット39,40に冷却水を単結晶育成装置1内のクローズドシステムで供給循環させて、ラジエータ49で放熱させることによって、回転楕円面鏡11,12を内部から水冷するとともに、ブロア47により空冷部45,46によって回転楕円面鏡11,12の隙間43,44から回転楕円面鏡11,12の内側に向かって冷却エアーを1.2〜2.3m3/minの流量でジェット状に吹き付ける。すると、この冷却エアーの吹き付けによって、赤外線ランプ13,14およびその口金部13A,14Aが冷却されるとともに、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に供給された冷却エアーが、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2で乱流となって、回転楕円面鏡11,12の内面と赤外線ランプ13,14を空冷し、回転楕円面鏡11,12の内方空間m2に滞留しているエアーを、回転楕円面鏡11,12の上下に設けられている石英管16の導入孔48から排出する。
そして、石英管16の内方空間m1を不活性ガス等適切な雰囲気ガスで置換した後、回転楕円面鏡11,12の一方の焦点F1,F2近傍に配置された赤外線ランプ13,14に通電して、赤外線ランプ13,14から照射される赤外線を、上記回転楕円面鏡11,12で反射させ、共通の他方の焦点F0に位置する被加熱部15に集光させて赤外線加熱する。この赤外線加熱により、被加熱部15の原料棒18の下端および種結晶棒20の上端を加熱溶融させながら、円滑に接触させることにより、図17と同様に、原料棒18と種結晶棒20間の被加熱部15に、小口径のフローティングゾーン(以下、FZという)50(図示省略)を形成させる。
そして、下端に原料棒18を固定した上結晶駆動軸17と、上端に種結晶棒20を固定した下結晶駆動軸19とを共に主軸回転モータ24,29によって回転させ(例えば、20〜30rpm)、かつ、主軸送りモータ26,31で同期してゆっくり下方に向かって移動させることによって、原料棒18と種結晶棒20間の被加熱部15に形成されたFZ50が次第に原料棒18側に移動していって、単結晶が育成される。このときのFZ50部分は、従来の単結晶育成装置の説明に用いた図17と同様である。ただし、本発明装置においては、従来の単結晶育成装置の説明に用いた図17における被加熱部65は被加熱部15に、原料棒67は原料棒18に、原料棒67側の固液界面67aは原料棒18側の固液界面18aに、種結晶棒69は種結晶棒20に、種結晶棒69側の固液界面69aは種結晶棒20側の固液界面20aに、FZ74はFZ50にそれぞれ読み替えるものとする。
このとき、赤外線ランプ13,14およびFZ50からの輻射熱および回転楕円面鏡11,12内に滞留および対流するエアーの熱伝導により回転楕円面鏡11,12および赤外線ランプ13,14の温度が上昇しようとするが、前述のように、水冷ジャケット39,40を通る冷却水による回転楕円面鏡11,12の水冷と、ブロア47により空冷部45,46から供給される冷却エアーによる空冷とによって、回転楕円面鏡11,12が冷却されるので、回転楕円面鏡11,12の温度が過度に上昇することがなく、したがって、回転楕円面鏡11,12を構成する材質(例えば、真鍮)とその内面の金めっき層との熱膨張係数差に起因して金めっき層が剥離することがない。また、空冷部45,46から供給される冷却エアーおよび回転楕円面鏡11,12の内側で生じる冷却エアーの乱流によって、赤外線ランプ13,14およびその口金部13A,14Aが冷却されるので、赤外線ランプ13,14が適当な温度、したがって、適正なハロゲンサイクルを維持して効率良く安定した赤外線を放射することができるとともに、電流導入部のモリブデン箔と石英との封止部の温度が350℃以下に保持されて、モリブデン箔と石英との熱膨張係数差に起因してこの電流導入部で気密漏れを生じることがない。
なお、万一、ブロア47や冷却水循環系の故障などに起因して、水冷および空冷に支障をきたした場合は、回転楕円面鏡11,12の水冷ジャケット39,40による水冷および空冷部45,46による空冷を行っても、回転楕円面鏡11,12や赤外線ランプ13,14およびその口金部13A,14Aを適正に冷却することができないため、回転楕円面鏡11,12の温度が上昇するが、回転楕円面鏡11,12の上部に温度過昇検出手段、例えばサーモスタット51,51を配置しておけば、回転楕円面鏡11,12の過熱状態でサーモスタット51,51が働き、赤外線ランプ13,14への供給電流をオフして、加熱を停止することができる。
なお、上記実施形態は、本発明の特定の実施形態について説明したもので、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能である。
例えば、上記の実施形態では、空冷部45,46を、回転楕円面鏡11,12の挿入孔41,42と赤外線ランプ13,14との隙間43,44から回転楕円面鏡11,12の内側に冷却エアーを導入して、石英管導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から外部に排出する場合について説明したが、上記と逆に、石英管導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から回転楕円面鏡11,12の内側に冷却エアーを導入して、回転楕円面鏡11,12の挿入孔41,42と赤外線ランプ13,14との隙間43,44から外部に排出するようにしてもよい。あるいは、回転楕円面鏡11,12の反射面に冷却エアーの吹き出し孔を設けて、この吹き出し孔から回転楕円面鏡11,12の内側に冷却エアーを導入し、挿入孔41,42部における回転楕円面鏡11,12と赤外線ランプ13,14との隙間43,44および/または石英管導入孔48部における回転楕円面鏡11,12と石英管16との隙間から外部に排出するようにしてもよい。
また、上記の実施形態に示したように、上結晶駆動棒17と下結晶駆動棒19との高さ位置を微調整する駆動手段を、従来装置におけるモータによる駆動系からローレットノブなどによるマニュアル調整手段とすることによって、装置の価格をさらに低減することができる利点があるが、モータによる駆動系に変更してもよい。
また、本発明は、実施形態に示した2つの回転楕円面鏡11,12を組み合わせた、所謂、双楕円型の加熱炉を備えた単結晶育成装置において、特に著しい効果を発揮するものであるが、4楕円型単結晶育成装置において実施されてもよい。
また、水冷ジャケット39,40に循環供給する冷却水は、電子冷却素子などを利用して、冷却することができる。そのような場合、水冷ジャケット39,40による冷却効果をさらに向上することができる。
次に、本発明の実施例について説明する。
(単結晶育成装置の構成)
回転楕円面鏡11,12:材質=真鍮、焦点距離F=25mm、長径a=65mm、短径b=60mm、短径長径比b/a=0.92、内面金めっき層
加熱源13,14:ハロゲンランプ、650W
石英管16:外径φ35mm、内径31mmφ、長さ185mm
原料棒18:φ4〜6mm
種結晶棒20:φ4〜6mm
主軸回転モータ24,29:速度可変モータ
主軸送りモータ26,31:速度可変モータ
ローレットノブ33,34:粗動調整範囲・15mm
水冷ジャケット39,40:冷却水流量=3〜5リットル/min
加熱源挿入孔41,42:横55mm・縦35mm
隙間43,44:幅10mm・長さ11.5mm(幅の中心位置)
空冷部45,46:加熱源の両側の隙間から冷却エアー導入、
冷却エアー流量=1.3〜2.3m3/min
ブロア47 単相、100V、0.8A
FZ50:中心部直径φ5mm、高さ6mm(原料棒、結晶口径φ6mmのとき)
装置全体(取手部分を除く)寸法:
結晶育成長50mmの場合 幅650mm・高さ915mm・奥行620mm
結晶育成長150mmの場合 幅650mm・高さ1400mm・奥行620mm
電源容量:100V、15A
以上の構成の単結晶育成装置を用いて、回転楕円面鏡11,12を水冷および空冷、赤外線ランプ13,14を空冷しながら、赤外線ランプ13,14で加熱したところ、被加熱部15に良好なFZ50が形成され、酸化アルミニウム、マンガン酸ランタン(ストロンチウム)などの巨大磁気抵抗マンガン酸化物、銅酸化物高温超伝導体、ニッケル酸ランタン、酸化ニッケル、バナジウム酸ストロンチウム、コバルト酸ナトリウム、スピネル、ルビー、パイロクロア、鉄酸イットリウム、チタン酸ストロンチウム、ルテニウム酸ストロンチウム、クロム酸鉛等の単結晶を育成することができた。すべての試料は、粉末X線回折実験により、単相であり、所望の組成が得られていること、単結晶X線回折により、単結晶であることが確認された。銅酸化物高温超伝導体や、ルテニウム酸ストロンチウム超伝導体は、報告通りの超伝導転移温度を示した。他の絶縁体材料も報告通りの色を示し、本発明の単結晶育成装置がこれまでのフローティングゾーン式単結晶育成装置と同等の機能を有することが実証された。
次に、本発明の単結晶育成装置を用いた、単結晶育成方法の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)酸化アルミニウム(Al2O3:Cr1%):ルビー
純度99.9%のAl2O3とCr2O3粉末を所望の組成比になるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、その混合粉末をゴム製チューブに入れ、3,000気圧の静水圧で直径φ4mmの棒状にプレス・整形した試料棒を、空気中1,300℃で6時間焼結した。焼結した試料棒を、本発明の単結晶育成装置に取り付け、ハロゲンランプ(650W・2灯)の電圧を上げていき、空気中で原料棒の温度を上昇させる。ハロゲンランプが94Vのとき、原料が溶け始め、98V、原料棒移動速度を10mm/hrで育成を行った。このようにして、ルビーの単結晶を育成することができた。ルビーの融点が2,060℃であることを考えると、本発明の単結晶育成装置で2,000℃まで温度を上昇させることが可能であることが確認できた。
(実施例2)マンガン酸ランタン(ストロンチウム)La0.85Sr0.15MnO3
純度99.9%のLa2O3、SrCO3、MnO粉末を、所望の組成比になるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、空気中900℃で12時間仮焼き後、得られた材料を粉砕し再度混合し、空気中1,400℃で焼結した。焼結したLa0.85Sr0.15MnO3粉末を、ゴム製チューブに入れ、3,000気圧の静水圧で直径φ4mmの棒状にプレス・整形する。整形した試料棒を、空気中1,400℃で6時間焼成した。焼結した原料棒を本発明の単結晶育成装置に取り付け、ハロゲンランプ(650W・2灯)の電圧を上げていき、空気中で原料棒の温度を上昇させる。ハロゲンランプが74Vのとき、原料が溶け始め、78Vで育成を行った。原料棒移動速度を8mm/hrとした。得られた単結晶は、粉末X線回折、単結晶X線回折実験で単相の単結晶であることが確認できた。SQUID磁束計を用いて、強磁性転移もこれまでの報告と同じ温度で確認することができた。このようにして、マンガン酸ランタン(ストロンチウム)La0.85Sr0.15MnO3の単結晶を育成することができた。
(実施例3)ルテニウム酸ストロンチウムSr2RuO4
純度99.9%の炭酸ストロンチウム粉末と二酸化ルテニウム粉末を所望の組成比で混合し、空気中900℃で仮焼きし、その粉末をゴム製チューブに入れ、3,000気圧の静水圧で直径φ4mmの棒状にプレス・整形し、整形した試料棒を、空気中1,200℃で6時間焼結した。焼結した原料棒を本発明の単結晶育成装置に取り付け、ハロゲンランプ(650W・2灯)の電圧を上げていき、空気中で原料棒の温度を上昇させる。ハロゲンランプが93Vのとき、原料棒が溶け始め、95Vで育成を行った。原料棒移動速度を30mm/hrとした。得られた単結晶は、粉末X線回折、単結晶X線回折実験で単相の単結晶であることが確認できた。
以上のいずれの実施例においても、回転楕円面鏡11,12の金めっき層の剥離や剥離の前兆となる膨らみは認められなかった。また、赤外線ランプ13,14の電流導入部は350℃以下に保持され、石英とモリブデン箔との封止部において石英とモリブデン箔との剥離に起因する気密漏れは認められなかった。これに対して、冷却エアーを1.2〜2.3m3/minの流量で回転楕円面鏡の内側に供給する空冷部45,46を設けないで、従来のように回転楕円面鏡は水冷し、ハロゲンランプの冷却のために回転楕円面鏡内に冷却エアーの流量を5〜10リットル/minに設定した比較例の場合は、回転楕円面鏡11,12の内面温度は100℃を越え、金めっき層の剥離ないしふくらみが生じて剥離の危惧があった。また、赤外線ランプ13,14の電流導入部の温度は350℃以上に上昇し、モリブデン箔と石英との封止部からの気密漏れが生じ、赤外線ランプは破損した。
本発明に係る単結晶育成装置に使用する双楕円型回転楕円面鏡の断面図である。
原料棒と種結晶棒の側面図である。
短径長径比の妥当性を検証するシミュレーションの結果を示す表。
短径長径比の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
短径長径比の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
焦点距離の妥当性を検証するシミュレーションの結果を示す表。
焦点距離の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
焦点距離の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
加熱源電力の妥当性を検証するシミュレーションの結果を示す表。
加熱源電力の妥当性を検証するシミュレーションの結果をプロットしたグラフ図。
本発明の実施形態の単結晶育成装置の正面図である。
図11−1の単結晶育成装置の右側面図である。
図11−1の単結晶育成装置の平面図である。
図11−1の単結晶育成装置の背面図である。
図11−1に示す本発明の単結晶育成装置のにおける加熱炉の縦断正面図である。
図12−1に示す加熱炉の左側面図である。
図12−1に示す加熱炉の平面図である。
図11−1の単結晶育成装置における被加熱部の拡大縦断正面図である。
本発明の単結晶育成装置における空冷部の冷却エアー吹き付け状態の側面図である。
本発明の単結晶育成装置における空冷部の冷却エアー吹き付け状態の異なる例の側面図である。
従来の単結晶育成装置における縦断正面図である。
図15の単結晶育成装置におけるA−A線に沿った横断面図である。
図15の単結晶育成装置における被加熱部の拡大正面図である。